2018年9月
(ワークショップ報告書)俯瞰ワークショップ報告書 環境や社会の変化に伴う水利用リスクの低減と管理/CRDS-FY2018-WR-07
エグゼクティブサマリー

本報告書は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)が開催した俯瞰ワークショップ「環境や社会の変化に伴う水利用リスクの低減と管理」の結果を報告するものである。

話題提供では、技術動向について以下の知見を得ることが出来た。

  • 水中の病原微生物の中ではウイルス(特にノロウイルス)が課題である。ウイルスの検出は極微量かつ夾雑物が存在する点が難しい。そこで、多量の水からのウイルス濃縮法や測定阻害の除去法が研究されている。センサーでは、生体認識分子としてアプタマー(標的分子に結合する機能性の核酸分子やペプチド)を用いたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)によるノロウイルス検出や、磁気微粒子とマーカーを用いることで夾雑物の存在下でも検出可能な外力支援近接場証明バイオセンサー、ATP(アデノシン三リン酸)生物発光法やナノポア(微細孔)を用いた検査法の開発などが行われ、その場観察・迅速化・高感度化が目指されている。PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を含め高感度化は1粒子レベルまで進展しており、今後は感染性のあるウイルスの計測が重要となる。病原微生物の網羅的解析では、12種類の消化器系ウイルスを定量検出するハイスループットqPCR(定量PCR)や、ノロウイルス遺伝子型の網羅的解析手法、消化器性ウイルスに共通するポリA鎖を用いた選択的解析技術が紹介された。
  • 環境中における病原微生物の動態について、ウイルスの種類により汚泥への親和性が異なることでMBR(Membrane BioReactor、膜分離活性汚泥法)での除去率が異なることが解明されつつある。これらの知見を踏まえた表流水中の懸濁物質吸着ウイルスの測定や、下水の生物学的高度処理法によるノロウイルス除去率向上の解明に関する研究も行われている。これらの研究は流域でのリスク管理だけでなく、基礎的なウイルス学の知見向上にも貢献できる。
  • 対策では、消毒技術として紫外発光ダイオード(UV-LED)が注目されている。従来の紫外線ランプと異なり、水銀フリー、ウォームアップ不要、薬剤不使用、超小型、多波長選択性などの長所があり、小規模・分散処理にも期待できる。今後は発光効率向上のほか、病原微生物の不活化やその効率等の知見蓄積が求められる。
  • 定量的リスク評価は水の汚染による被害を数字で表現できリスクマップを作成できる。シナリオを用いてリスクの変化を事前に把握しリスク低減策につなげることができる。例えば、温暖化と地盤沈下を反映したシナリオで、洪水に起因する下痢症の患者数や経済的損失を算出した事例が紹介された。国際的に懸念が高まる薬剤耐性菌による健康影響の定量的評価の研究も行われている。なお、リスクの低減手法の1つとして、下水モニタリングによりノロウイルスや薬剤耐性菌の流行をいち早く把握し、感染拡大防止につなげる取組みが行われている。

総合討論では、(1)研究開発の体制や連携、(2)今後の研究開発の方向性について議論を行った。(1)では、大規模データ取得時や処理性能評価時における大学と企業の連携、都市部や山間過疎地の自治体との連携、実際のフィールドに適用した研究開発の必要性などが議論された。(2)では、中長期の環境・社会の変化を見据えた場合に取り組んでおかなければならないテーマや分野連携として、薬剤耐性菌への対応、下水処理水の利用、リスク情報の提供や影響の動的解析、地下水の活用や流域スケールでのリスク管理、検出における感染性の把握に関する研究開発、微細加工技術分野や社会科学分野との連携、多様化する暮らし方への対応などが挙げられた。

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