2016年3月
(ワークショップ報告書)俯瞰ワークショップ報告書 ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「材料設計・制御~物質科学の未来戦略(物性物理の観点から)~」/CRDS-FY2015-WR-11
エグゼクティブサマリー

 本報告書は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)が平成27 年12月25日、26日に開催した『俯瞰ワークショップ(WS)ナノテクノロジー・材料分野領域別分科会「材料設計・制御」~物質科学の未来戦略(物性物理の観点から)~』に関するものである。
 ナノテクノロジー・材料分野は物理学、化学、生物学を横断し、原子分子レベルでの観測や構造形成・機能発現などを通して、物質科学や材料技術、デバイス技術などを進展させ、さらには異分野の融合を促進しつつ進化する技術分野である。CRDSでは、ナノテクノロジー・材料分野の俯瞰報告書を2年毎に発行しており、直近では平成27年4月に「研究開発の俯瞰報告書ナノテクノロジー・材料分野(2015年)」を発行している。これに続く2017年版を検討するに当たって、「材料設計・制御」「ELSI/EHS」「社会インフラ材料科学」「ナノエレクトロニクス」「バイオナノテクノロジー」の5つの領域に焦点を当てた活動を行っている。今回、その一環として『「材料設計・制御」~物質科学の未来戦略(物性物理の観点から)~』と題してワークショップを開催した。尚、来年度には「材料設計・制御」領域に関する化学分野のワークショップを開催する予定である。
 「材料設計・制御」領域とは、ナノテクノロジー・材料分野全体に関与するものであり、所望の機能を実現させるための構造の設計・制御手法を用いて、サイエンスの新局面を拓き、我が国の将来社会を支え、産業に貢献しうる技術領域である。
 本ワークショップでは、3つの分科会を設置して、物性物理の観点から「材料設計・制御」領域に関する国内外の研究動向の俯瞰、国として取組むべき物質科学分野における将来の研究目標や方向性等について議論することを目的とした。ワークショップの進め方としては、各分科会から3名および全体俯瞰の観点から4名の計13名の識者による話題提供、分科会形式による集中討論、参加者全員による総合討論を実施した。また、ワークショップ開催に先立ち、招聘の識者には下記3項目に関するアンケートを実施した。
【項目1】
 最近10 年間程度の期間に見られた重要な成果
【項目2】
 今後10 年あるいはもう少し将来において重要となる研究分野あるいは方向性
【項目3】
 我が国の科学技術の発展に資する、かつ、将来に新しい産業を興すようなインパクトのある研究開発プロジェクトの提案

上記の一連の検討・議論の結果得られた3つの研究開発の方向性の概略および物性物理から見た「材料設計・制御」領域の俯瞰図を示す。

1.革新的量子技術を可能にするタフ&スマート量子物質
 堅牢(タフ)かつ先進的(スマート)な量子物質と量子技術の開発を目指し、電子状態の位相や数学におけるトポロジーの概念に立脚した革新的量子技術を創出する研究を対象とする。量子位相やトポロジーの観点から、既知の物質に新たな理解を与えると同時に、新物質設計や積層デバイス開発へと有機的に結合した研究展開を図る。具体的には、電子構造デザイン、物質合成・薄膜合成、量子物性の評価、さらにデバイス物性への展開研究が含まれる。また、トポロジカル物性が既存物質における超伝導や強磁性などと結合した相関現象も含め、トポロジー保護によって温度や不純物などで電子状態が乱されにくい物質や、新しい制御因子で動作するデバイス機能の探索を目指す。

2.動的相転移・散逸構造に基づくスマートエネルギー機能
 電子の「ほぼ均一」かつ「ほぼ平衡」な状態を扱っていたこれまでの物性物理から脱却し、電子の相互作用に由来する空間的に不均一な電子のテクスチャ(超構造)を作り出してそれを外場により制御すること、さらに外場によって動的な電子相変化や過渡応答などの非平衡状態を作り出しそれを制御することを目指す。舞台となる物質開発から始まり、空間的・時間的に不均一な電子の振る舞いの観測、大規模計算等による理論的解明、さらにそのような振る舞いの新規エネルギー変換素子等への応用までをシームレスに行える研究体制の確立が重要である。

3.電子の動きを見る時空間分解スペクトロスコピー
 分光測定・時間分解測定・走査型プローブの最近10年の急速な発展を基に、時間的・空間的な分解能を極限まで向上させた革新的なスペクトルスコピー技術を開発する。それによって、従来計測が困難であった電子の動きやスピン流、もしくはトポロジカル流を物質中で計測することで、新しい理解の枠組みを創出することを目指す。将来的には物質科学分野に留まらず、生体関連分野との融合などへの展開が期待できる。

 これらの活動の結果は、CRDSでさらに検討を加えて、2016年度末に発行を予定している「研究開発の俯瞰報告書ナノテクノロジー・材料分野(2017年)」に反映させるとともに、今後国として重点的に推進すべき研究領域、具体的な研究開発課題の検討に活用していく予定である。

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