2016年3月
(ワークショップ報告書)科学技術未来戦略ワークショップ報告書 非定常時を想定した環境科学・技術の体系化とその応用/CRDS-FY2015-WR-08
エグゼクティブサマリー

 災害時等の非定常時には、直接的な人命被害や物的破壊のみならず、有害物質の拡散や災害廃棄物の発生など、中長期的に人命・健康・環境に影響を与える様々な課題が混在して発生し、定常時とは異なる対応が求められる。しかし、現在の環境科学・技術は定常時を前提として構築されており、非定常時に対応した環境科学・技術を準備しなければならない。東日本大震災を契機として、災害時における環境に関する研究の必要性が認識され、各地で研究が実施されているが単発的であり中長期的観点での研究は少ない傾向がある。一部体系だった取組みも始められているが緒についたばかりであり、こうした取組みも含めて分野や組織、災害の種類等を超えた枠組みの構築が求められる。
 本ワークショップ開催の目的は、非定常時において人命・健康・環境への影響を低減するために、環境・防災・健康分野の連携と、観測・予測・評価・対策のサイクルの構築・応用の必要性を確認するとともに、具体的な研究開発課題の抽出とそれによる成果のイメージを共有し、研究開発推進の体制や方法に関する基本要件や留意すべき点を検討することである。なお、ここでは「非定常時」を「何らかのイベント(災害等)を起点として定常時とは異なる状態に移行した時点から、以前の定常時に戻るまで、あるいは新たな定常時に到達するまでの期間」と定義する。
 本ワークショップで確認された共通認識や意見は以下の通りである。得られた知見は今後の研究開発戦略の検討に活用する。

■ 提言の基本コンセプトについて
・非定常時において人命・健康・環境への影響を低減するために、環境・防災・健康分野の連携と、観測・予測・評価・対策のサイクルの構築・応用の必要性が認識された。
・非定常時」について以下のような指摘があった。
 ・非定常時に関する全体像の把握と整理が必要である。非定常時は多様であり(時間軸、空間軸、相関等)、非定常時を引き起こすトリガーも多様である(突発的・長期的、自然災害・人為的要因等)。現象の解明のようなハザードの研究者は多く存在するが、その先の損失や影響といったディザスターの研究者が少ない。本コンセプトはまさにディザスターの研究開発であり、ディザスターのような新たな切り口を突破口に、新たな領域の作成を目指して取り組む。
 ・非定常時には、非連続に起こる低頻度な非定常時と、定常時から連続して起こる高頻度な非定常時の2つの側面がある。特に前者では、定常時の体制では対応できない複合状態となり、様々な分野の知が求められ、コミュニティの連携が非常に重要である。後者では、定常時の理解や定常時に潜在しているリスクの理解が重要である。
 ・個別の要素研究のみならず、全体を把握し他と関連づけて考える視点が必要である。

■取り組むべき具体的な研究開発課題について(主要なものを抽出)
・災害環境マネジメント(強靭化、レジリエント化、知見の体系化、社会実装の方法論検討等)と健康リスク管理の構築
 ・被災地の応急的水循環システム構築
 ・災害廃棄物の量的質的把握と管理、含有有害物質の適正管理、対応業務の体系化
・緊急時の有害物質リスク管理の構築とその実施
 ・時間スケールを考慮した段階的リスク管理戦略の構築
 ・上記戦略に基づく有害物質のリスク評価と基準値の検討、実施体制の構築
・汚染スクリーニング手法の開発と意思決定に資する科学データ提示
 ・汎用機器による迅速・簡易・網羅的分析手法の開発
・OPEM サイクル(観測・予測・評価・対策)による感染症リスク低減マネジメントの構築
 ・ウイルス検出手法の開発(検出効率向上、迅速化)
 ・病原体輸送モデルや感染伝播モデルによる予測
 ・人口・気象・環境情報を統合した感染リスクの評価
 ・感染性胃腸炎監視システム構築と流行抑制策の実施
・火山灰・火山ガスの健康影響研究
 ・シミュレーションによる影響や被害の予測
 ・高感受性者を中心とした健康影響の把握
 ・火山灰やフッ素への対応を中心とした水インフラ対策技術の構築(その他、観測体制や医療体制構築、他のインフラへの対応策の検討)
・非定常時における基準の検討とリスク評価
 ・有害物質の健康影響にとどまらない包括的なリスク評価と費用対効果分析
 ・高頻度非定常イベントにおける基準の設定(再評価や方法論の構築)
 ・避難を要するようなイベントにおける基準の設定(リスク緩和や対策立案)

■研究開発推進の体制や方法に関する基本要件や留意すべき点について
・非定常時には広い分野の知が求められ、コミュニティの連携が非常に重要である。
・過去の経験の蓄積と活用が重要である。
・社会の受容も考慮することが必要である。
・低頻度に起こる非定常時も視野に入れて、高頻度に起こる非定常時を対象とすることで、人材と研究の能力を高めてアプローチする視点もある。

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