2016年3月
(ワークショップ報告書)俯瞰ワークショップ報告書 平成27年度エネルギー科学技術分野 最新研究開発動向/CRDS-FY2015-WR-07
エグゼクティブサマリー

1 - 1.エネルギーと物理
 創エネルギーに関する話題提供としては、電子スピンによる熱エネルギーの創出(スピンゼーベック)や強相関系太陽電池が挙げられた。情報制御によるエネルギーの効率的な取り出しに関する理論の話もあった。省エネルギーへ寄与する研究開発としては、磁気冷凍や電気二重層トランジスタなど材料・デバイスの省エネルギー化(高効率化)によって達成する原理のものがあった。いずれも材料、デバイスの高効率化に向けた、電子、スピン、光(フォトン)、フォノンといった量子レベルでの制御が共通の課題といえる。

1.研究開発動向
● 機能性非平衡の制御
非平衡物理は非常に長い歴史がある。しかし、最近のナノテクや量子物理学の進展によって、理解が深まってきた。これを同じ非平衡と呼ぶのは今の時代にはそぐわないので、暫定的に機能性非平衡と呼ぶ。
 − 相転移と物性(磁気冷凍やモットロニクス(金属- 絶縁体相転移(モット転移)の活用)
 − 磁気を使って非平衡性をコントロールしようという概念
 − 情報と旧来の熱力学がセットになった新しい熱力学
 − フォノンと電子が別の非平衡性を持っているので、それを上手に制御
 − プラズマの電子分子間非平衡性を使って、化学反応を精密制御(プラズマと触媒の複合反応)
● ナノテクを使った物質機能の創生
 − 普通のバルクで考えられているような選択則ではなく、ナノスケールにすることによって、選択則をより緩和することによって、広いスペクトルの光を使う
 − ナノテクノロジーにより低次元系にすることで、熱電効率をよりよくしていく
 − ナノサイズの制御によりフォノンの伝搬を制御
 − 新デバイス構造によって電場とカップルしやすい新しい有機デバイス
● ミクロな熱の制御
 − 相転移などの非平衡性を使って刺激を与えて対称性を破る、もともと隠れていた反転対称性の破れを出す、次元性を落として空間的な対称性の破れを出す
 − 生物物理的な観点、例えば生体分子モーターなどのエネルギー利用効率に学ぶ
● 個別の動向として、超高圧下ではあるが、190ケルビン以上で硫化水素(H2S)が超伝導を示すことが、海外機関より報告され話題になっている。近接場光利用による研磨は、直接エネルギー高効率化に繋がらないがダイヤモンド利用エネルギーデバイスへの展開など応用範囲は広い。ドレストフォトン・フォノン(DPP)の視点から人工光合成、CO2分解など新しいアイデアで化学との一層の連携が期待される。

2.研究開発の進め方
● 物理は、ある現象の一番重要なファクターが何かということを重要視する学問であるが、エネルギーへの応用を考えるシステム的な視点も不可欠。計算科学、ものとして具現化するために化学、デバイスとの連携も重要。
● 有機トランジスタなど化学におけるテーマとの共通点がある。
● ナノの世界をミクロ、さらにはマクロスケールまで持ってくるには、その製造技術も含めて、非常に時間を要し、全体的に基礎研究といえる。社会実装を考える際に、電気や磁気などの相互作用がどれくらいのエネルギースケールで起きているのか考える必要がある。

1 - 2.エネルギーと化学
 二次電池、電極材料、キャパシタ、調光ガラス、触媒、太陽電池、太陽熱、地域分散型エネルギー(バイオマス)などのデバイス・システムに向けた先端の研究開発として、アニオン化合物、メソ多孔体、水素化物(錯体)、レアメタル、クロモジェニック材料、ナノシート、ナノクラスター、CNT、高分子、セラミックスなどの物質・材料の点からの話題提供があった。

1.研究開発動向
● 多くの話題提供は、太陽エネルギーの有効利用に関するテーマが含まれており、下記のような多様な利用形態が提示された。循環的なケミストリーを考えたときに太陽エネルギーの活用は今後ますます重要となる。
 − 太陽電池→電気
 − 太陽電池→電解合成→直接水素キャリア
 − 太陽電池→水電解→水素→水素キャリア
 − 光触媒→水素→水素キャリア
 − 太陽光・熱→直接水素キャリア
 − 太陽光・熱→(光触媒)→新規なあるいは従来反応より低コスト、高選択性の化学反応
 − 太陽光・熱→バイオマス→高付加価値化学品
● 材料がキーテクノロジーとなっている。具体的には、物質・材料の空間制御、表面・界面・欠陥制御、分子制御(分子技術)、ナノシート(二次元薄膜)の制御といった技術が挙げられた。他にも錯体やセラミクスのイオンの制御(イオニクス)や輸送といった技術が挙げられた。
● 個別の動向として、無機材料(セラミックス)はカチオンの多様性を中心に物質探索がなされてきた。さらなる新物質群の探索では、アニオンを中心に考えるなど、視点の変化が求められている。また光触媒をはじめ各種触媒などの反応系の理論、科学的なメカニズムはほとんど解っていない。ナノシートあるいはクラスターのように比較的モデル化しやすいシンプルな構造を持つものを事例として、計算科学を適用することで理論解明につなげることも必要。ナノシートは調製のスケールアップと凝集抑制制御が今後の課題。

2.研究開発の進め方
● ほとんどの物質・材料において、実験と計算科学のコミュニケーションの重要性が主張された。まだまだ計算が適用できない場面も多く、一層の計算科学の進化が求められている。
● 特に材料系の研究者(主に物理系ならびに無機合成化学系)は、物質量や化学工学的な視点は目をつぶってしまうことが多い。デバイスやシステムを考えるのに化学工学との連携が必要。関連して、小規模自立分散型のエネルギーネットワークを考えたときのスケールダウンのエンジニアリングも必要。
● 物理は理論からスタート、化学は実践からスタートする分野との印象。エネルギー関連技術をニーズから捉えて実行するのは化学系が重要。反応を中心に扱っている研究者(主に化学系)は、表面物性や電子状態、理論科学を疎かにしがち。基礎技術を支えるには物理系が重要で、化学と物理の協同が必要。
● ブレークスルーは異分野融合から生まれる可能性が高いが、分野の壁は依然として高い(物理化学、固体化学、電気化学、高分子化学など同じ化学分野の中でさえ)。同じ分野や出口でも扱う材料などによって接点がないことが多い。異なる学会同士が交流する仕組みが必要。また、競争的資金に若手が共同研究提案できるような仕組みがあると良い。
● 欧米では、ムダの多い(投資効率の低い・リスクが大きい)基礎研究はコラボしてオープンで行い、レベルを上げたあとクローズで競争する仕組みが多く見られるようになってきている。
● 触媒や精錬の話において、古典と思い込まれている研究にもまだまだ宝があるとの見解があり、現に海外でそこから近年実用化に結びついているものがある。古くからある研究を地道に深掘して真理追究していくことが欧米やアジアに比べて日本は弱い。

1 - 3.エネルギーと生物
 分子生物学、ゲノム科学の遺伝子操作によって特定の機能を持った微生物や植物をつくり、化成品や高エネルギー産生をねらう話題提供がされた。シークエンサーが出てきて、作物のゲノムが全てシークエンスされるようになったことで、この10年で状況は一変した。ターゲットとしては、セルロース、二酸化炭素、メタンなどに由来する化成品が主であった。

1.研究開発動向
● 糖化と発酵の高効率化が技術的な課題。木質の場合の糖化では、バイオマスをガス化していくか、一旦、糖をつくっていく、いわゆるシュガープラットフォームかの2通り。シュガープラットフォームの場合は前処理で例えば硫酸などを入れて糖に持っていくやり方と、あとはもう少しマイルドに前処理してから酵素とか、バイオロジカルなプロセスで糖に持っていく方法の2通りある。
● 細胞の表層と細胞の中をエンジニアリングする技術を使うことによって、バイオマスを使うのに最も適した機能を持った微生物を開発することができる。
● マルチオミックス技術を利用した取り組みを進めている。例えば、代謝物を網羅的に計測するメタボロミクスや遺伝子発現を網羅的に計測するトランスクリプトミクスを使用し、ボトルネックの部分を代謝物のレベルで見極める。
● 代謝解析システムを築き上げ、解析データを統合していくソフトウエアも開発中である。完成によりビッグデータから代謝状態のモデル構築が可能になる。
● 複数の生体分子、酵素遺伝子を組み合わせ、人工的な代謝経路をつくる。合成代謝経路が合成生物学の領域として研究が進められている。人工遺伝子回路と合成代謝経路が合成生物学を構成する二大要素と考えている。
● 合理的に代謝経路をデザインして遺伝子組換え、発酵生産、培養条件の最適化を行い、さらに出てきたデータを使ってコンピュータシミュレーションをして、ノックアウトの箇所を明らかにする。
● 増殖と生産を分けて菌体をつくることができる。他の生物の仕組みである菌体濃度を感知するセンサを組み込んで菌が自分自身で菌体密度をセンシングして、自分自身が十分増殖したと感じたら、勝手にスイッチが増殖モードから生産モードに切り替わり、生産量を上げることができる。
● プロセスの中でどこまでを植物側で担当し、どこからを酵母で担当するのかというバランスシートの問題がある。セルロースを取り出して糖化するより、初めから植物に糖をつくらせたほうが、コスト的にも、エネルギー的にも有利。
● バイオマスを改変することは、基礎研究の観点からは、木質細胞そのものを改変していく考え方になる。改変する場合に幾つかの方向性があり、細胞の数を増やす、あるいは細胞が持つ二次細胞壁の厚さを変えることがアイデアになる。さらに質を変えることを考える。二次細胞壁のセルロース、ヘミセルロース、リグニン、あるいはリグニンの中でもさらに組成を変えていくことになる。
● 最近は集積されている生物学的データの使用がトレンドである。
● New Breeding Techniques(ゲノム編集)という言葉が盛んに使われるようになってきた。これは従来の遺伝子導入をするGMから一歩進んだ研究手法である。一方でゲノム解析と育種によるGM代替となりうるような技術もかなりのレベルに到達。
● 生物電気化学的なメタン生成で、水の電気分解が起こらないような微小電圧を印加することにより、直接電極からメタン菌が電子を受け取り、メタンを生産する。微生物燃料電池の実用化の段階から、今、アカデミックには物質生産の時代に移行したといっても過言ではない。

2.研究開発の進め方
● エネルギーは、量の大きさが非常に大きな要件になり、また現状コストも安い。大体熱量換算の値段でいうと1メガジュール2円。したがって、付加価値、あるいはバイオプロダクトをうまく使い、コストを下げる方向が考えられる。
● 現状では、ラボでの実験にとどまっており、量的に見て、バイオからエネルギーを確保することは、かなり時間がかかると思われる。コストに見合うかが、まだそれほど検証されていないため、実用化にはハードルが高い可能性もある。マテリアルバランスや生産速度において化学品生産とどの程度の違いがあるかを検討することも必要。
● 非食物系バイオマスは、現状の1/5程度にコストが下がれば、第一世代のバイオエタノールと同程度の値段になると言われている
● CO2 還元や、アンモニアからの水素生成については、基幹的な物質のプロセスをまず押さえて、そこから還元プロセスが高度化してくれば、いろいろなリファイナリー技術について連鎖反応的にダウンストリーミング産業が展開されていく。究極のP2G(Power to Gas)というのは生物電気化学利用やバイオリファイナリー技術と考える。
● バイオの研究者と物理化学、界面化学、コロイドの研究者、有機合成、構造解析の研究者の3 人がグループで研究を進めたことで成功した事例の話題提供があったが、異分野融合が研究を促進する可能性として、生体触媒と固体触媒の組合せ、糖化・発酵だけではなく、後工程の分離・濃縮を含めたプロセス検討、植物化学と微生物化学の連携、化学、電気化学、システム科学との連携などが考えられる。例えば植物科学と化学の融合という観点では、名古屋大学ITbMや理研の環境資源科学研究センターが研究を進めている。
● 近隣の東南アジア諸国での植物エネルギー由来植物の生産に貢献できる研究が必要。東南アジアで遺伝資源も含めてのバイオ資源を有効利用する研究が考えられる。
● DOEがかなりバイオエネルギーに予算を投入している。アメリカの研究はGMについて寛容であり、その中でもGM樹木が活発化してきている。一例として、今春、ブラジルのある企業がGMユーカリの商用化の承認を取って研究を進めている。

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