2013年3月
(ワークショップ報告書)科学技術未来戦略ワークショップ「窒素循環研究戦略ワークショップ」/CRDS-FY2012-WR-12
エグゼクティブサマリー

 人間社会の持続性にとって肝要な窒素循環の実態とメカニズムを解明し、持続的窒素循環を可能とする対策技術を構築するための研究開発をどのように推進すべきかについて、実態解明、対策技術構築、対策の評価にかかわる専門家に集まっていただき、討議した。 持続可能な社会の目標として「低炭素社会」「自然共生社会」とともに「循環型社会」があげられるが、これまで「循環型社会」の話題は人工物のリサイクルに偏りがちであった。しかし自然の元素循環の人間活動による改変も重要な問題である。そのうちで窒素循環については、人口を支える食料生産に不可欠な窒素肥料の利用をしながら環境負荷を低減するという困難な課題がある。
 日本国内について見ると、これまでのところ広域で顕在化した深刻な問題は生じていないようである。しかし、規制のない野菜の硝酸イオンなどによる健康リスクや、窒素飽和が生じた森林から流出する反応性窒素による水域の富栄養化などが、将来顕在化する可能性はある。反面、水域の貧栄養化が問題とされることもある。アジアに目を向ければ、とくに中国やインドなどの新興経済圏で負荷の増加が大きく、深刻な環境問題が生じているところもあり、また大気・海洋の越境汚染や貿易を通じて日本とも関わる。アジアの窒素循環の実態を把握し、過剰な負荷をどう減らすか考えることが重要である。 窒素循環の実態把握には、比較的データがそろっている日本についても、自治体等の現状の環境モニタリングでは不足であり、観測を強化する必要がある。また外国については利用できるデータが乏しい。これには各国のモニタリングやデータ処理の能力、データに関する各国の政策、研究者間の情報交換の不足などさまざまな事情がある。 窒素肥料に由来する環境負荷を減らす対策としては、適度な速さで効く肥料の開発、窒素利用効率の高い作物品種の開発、硝化や脱窒の働きをする微生物の培養・利用、窒素分のリサイクルを重視した生活排水処理技術など、多様なものが必要である。その基礎としては植物や微生物の機能に関する研究も必要となる。また既存の技術を省エネルギー型に改造することも有意義である。窒素循環のプロセス解明にあたっても、対策技術の効果や副作用の評価にあたっても、実験農場、集水域、東アジアなど、複数の空間スケールでの研究を並行して行い、モデリングによってスケール間をつなぐことが重要である。
 アジアの窒素循環の問題解決には、国際的な取り組みが不可欠である。すでに行われている EANET(東アジア酸性雨ネットワーク)、LTER( 長期陸域生態研究)、アジアフラックスなどの拠点間のネットワークを生かし、さらに国際科学技術協力を進めていくことが望ましい。
 窒素循環の課題解決に向けた研究プロジェクトは、従来の専門分野を横断したものになる。科学と政策との関係にも踏み込むことになる。プロジェクトメンバーに限らず関心をもつ人が窒素循環の課題解決をいっしょに考える場が必要である。そのようなプロジェクトおよび場を運営する人の働きが重要となる。また、従来の専門分野を横断した研究開発能力をもつ人材を育て、その活躍の場を作っていく必要がある。

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