2008年3月
(ワークショップ報告書)科学技術の未来を展望する戦略ワークショップ「適応的な生物の情報処理アルゴリズム」 報告書/CRDS-FY2007-WR-21
エグゼクティブサマリー

 本戦略ワークショップは、予め詳しく状況が予測できないなかでも「適応的」な応答を実現している生物の持つシステムを対象にして、そのからくりを実証する研究領域「適応的な生物の情報処理アルゴリズム」について、専門家による現状と方向性や当該領域で実施すべき具体的研究課題について討議いただくために開催したものである。この議論を基に科学技術振興機構研究開発戦略センターにおいて、更に具体的な戦略を検討するものである。
 これまでも適応的な技術を開発するために生物の活動を対象にした研究が実施されてきた。そこでは、生物の内部システムをブラックボックスとし、その入出力の関連を模倣する工学システムの開発が行われてきた。このような取組は人工知能の研究などに見られ、一定の成果を上げてきたが、生物が示す適応的応答には遠く及ばず、また、そこで実現している工学システムが生物の実現している仕組みとどこまで対応するのかを検証することはできていない。これは、適応的な生物の内部システムに対して計測や操作を行うことがこれまで困難であったためである。近年のライフサイエンス分野での生体の計測・操作技術の急速な発展により、これまでブラックボックスであった対象を取り扱うことが可能となりつつある。
 「適応的な生物の情報処理アルゴリズム」領域では、このような状況をふまえて、組織や個体レベルの適応的応答とその内部システムの解析を通じて、将来的に適応的な人工物の制御技術や生物、生態系に適した操作技術につながる基盤技術の創成を目指すものである。本ワークショップの議論により現状がそうした領域を開始できる段階にきていることが確認され、また、その領域に適した具体的な研究課題例の提案がなされた。例えば数千個の神経からなる昆虫の神経核の個々の神経の特性、神経間の連結を解析し、その枠組みを工学的に再現し、感覚受容から一連の環境に応じた行動を発生する仕組みを実証する研究などがある。このような研究には、個体での遺伝子組換えを行えるツール、ゲノム情報、組織中での神経活動を計測できるイメージング技術や電気生理学的手法、モデルの構築とそれを実証するための小型ロボット、など様々な技術が融合され、直接の成果のみならず、幅広い科学技術への波及効果も想定された。
 技術やシステムの複雑化、大規模化が更に進み、その厳密な設計が困難となるとともに、大規模金融システムのトラブルなどで見られるような設計段階ではどのように機能するか判らない状況が散見されるようになってきている。ワークショップ及び事前調査などで、複雑な物流システムの適応的運用の設計による配送の効率化やトラブルの軽減、生活環境の中で動作できるロボット開発による高齢者や障害者を支援するシステムへの活用、大規模複雑システムの設計論や制御手法につながり生産性やリスク管理を向上させるなど、このような適応的技術の開発が様々な形で波及効果を及ぼす可能性が提示された。

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