2005年7月
(ワークショップ報告書)免疫分野 報告書/CRDS-FY2005-WR-05
エグゼクティブサマリー

 1960年、ノーベル医学生理学賞となったバーネットとメダワーの免疫理論(獲得免疫とクローン選択の理論)は、DNAの構造解明の細胞複製理論への拡張であり、現代細胞生物学の理論的基盤となった。ガン科学の発展もこの一線上にある。この理論的先導性にとどまらず、免疫現象はインプット(抗原刺激)とアウトプット(特異抗体産生)を分子レベルで精密に同定でき、本質とノイズを実験の場で明快により分けることができるという意味で、生物学としては例外的に分子レベルの解析が早く進んだ。たとえば、「細胞表面における受容体とリガンドの解析」、「細胞内におけるシグナル伝達の担当分子と伝達メカニズムの解明」、「遺伝子構造と機能の解明」など、多くの分子メカニズムの解明において先導的知見を提供してきた。一方、医療技術の進展、普及によって多くの難病が医療の俎上に上がるとともに、その原因に免疫機構の破綻が明らかになるケースが増えた。自己免疫疾患やアレルギー、アトピー、免疫不全症などがそれである。また、歴史的に免疫学の出発点となった感染症は、現代文明というあらたな環境条件のもとで新興・再興感染症などとして全人類の一大課題となった。さらに、移植医療をはじめ多くの先端医療技術の適用にあたって免疫制御は医療技術上の大課題である。これらすべての理由は、実は、免疫という現象が動物界の成立と進化の前提となった「細胞の自己識別に基づく多細胞化」、「環境の分子識別とこれへの対応(異物サーベイランス)」、「細胞自体の存続原理」、をそのまま成立の基盤とし、現在もこれを端的に代表しているからである。すなわち、免疫学は決して医学の特定の一領域ではなく、細胞生物学を基礎に置くライフサイエンスの基幹科学なのである。
この免疫学分野の日本の研究レベルは欧米にも勝るとも劣らない。従って、「臨床医療と基礎医科学の乖離の克服」、「トランスレーショナルリサーチの要請」という社会的課題に答える方法を探る上でも適切な分野といえる。科学技術振興機構、研究開発戦略センターが、『医の分野』を取り上げる劈頭に、「これからの免疫学をいかに発展させるか、特に臨床への適用のための課題はなにか」というワークショップを開いた意味はここにある。今回は、免疫学の全体を見渡すことからはじめ、社会的影響が大きく遠からず大きな発展が期待される研究分野および研究遂行上の課題につき議論するため、セッションごとに会場を分けず全体会議方式とした。

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