2019年7月
(戦略プロポーザル)未来材料開拓イニシアチブ ~多様な安定相のエンジニアリング~/CRDS-FY2019-SP-02
エグゼクティブサマリー

本プロポーザルは、材料創製の探索範囲をこれまで人類が扱ってこなかった未開拓の領域まで大きく拡大することで、高性能・高機能化、複数機能の共存、相反する機能の両立などの材料に対する高度化した要求に応えうる未来材料を創製するための研究開発戦略である。ここでは、材料の多元素化やハイエントロピー化、準安定相などの多種多様な安定相の利用、熱力学的には不安定な構造でもプロセス制御手段を用いて安定化させるなど、新たな材料創製手法に果敢に取り組む。これにより、新たな材料設計・プロセス設計の指針および学理の構築を行い、材料創製の大きなパラダイムシフトを起こすことを目指す。

近年、様々な社会的要請に応えるべく、材料・デバイスの高性能化・高機能化に対する要求や期待がますます高まってきている。これらの機能材料開発に対する高度な要求に対し、それぞれの応用分野における単純な元素構成、実現容易な安定相の利用など従来の材料探索範囲での新材料開発は困難になってきている。このため、未知なる可能性を秘めている複雑な組成や未利用安定相の活用など未開拓の材料群へ対象を広げていくことが必要である。また、材料開発競争の激化から、新材料の探索から実際の材料作製に至る材料設計や作製プロセス設計も含めた開発期間の短縮も求められており、応用分野を越えた新材料創製の新たな指針の構築が必要になってきている。

一方、第一原理計算や、ビッグデータ解析、機械学習、ベイズ推定などのデータ科学を利用して効率的な材料設計を行うマテリアルズ・インフォマティクスや、同時に多様な組成の材料を作製するコンビナトリアル手法、ロボットなどの利用による効率的な実験(ハイスループット実験)が最近発展してきている。このような新たな研究手法を活用することで、従来の実験手法では取り組みが困難だった未開拓の材料に対しても、目的の機能を有する組成・構造の選択や、それを安定な材料として実現する作製プロセスの構築を効率的に行うことが可能になると考えられる。

今後取り組むべき研究開発課題としては、材料探索範囲の拡大、作製プロセス中の反応過程の可視化と反応経路の動的制御、プロセス制御手段の利用による目的安定相の実現がある。材料の基本的な特性・機能に大きな影響を与える構成元素、結合状態などの主要因子の役割、さらには複数の元素間の役割分担、添加元素の補完的役割などの明確化が必要である。目的の安定相を自在に作製するには、反応生成物、雰囲気、相変化などをその場での観測・計測(オペランド計測)で可視化し状況を把握することが重要である。これらの技術および測定データを基に、様々な条件下での反応過程と安定相のダイナミックな変化を科学的に理解し、反応過程と安定相変化を統合して扱う新たな学理として整理していくことが重要である。安定相の中には、他の安定相とのエネルギーバリアが低く、使用環境では不安定になるものも存在するため、目的の安定相をさらに安定化させる手法の構築も必要である。

上記で述べた研究開発を推進していくためには、材料設計から作製プロセス設計(反応経路設計)、オペランド計測、特性評価、データ科学活用などの統合的な研究開発を行う必要がある。このような研究は、関係する研究機関に跨がるネットワーク的な体制でも可能であるが、計測機器や作製プロセス装置などの開発や、多様な分野に跨がる人材の育成、効率的な研究開発を行う観点では、研究拠点の構築が望まれる。

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