2019年3月
(戦略プロポーザル)“ライブセルアトラス”多次元解析で紐解く生命システムのダイナミクス~オミクス×イメージング×データ・モデリングによる基盤技術の創成~/CRDS-FY2018-SP-09
エグゼクティブサマリー

 「ライブセルアトラス」とは、生体分子間あるいは細胞間の相互作用ネットワークの動態に注目した動的な細胞地図、あるいはその作成に係る取組みを指す。ライブセルアトラスの実現は、生命現象の一層の解明や創薬効率化等、基礎から応用まで幅広い活用が期待される。そこで本プロポーザルに基づく研究開発戦略では、このライブセルアトラスを究極の目的として、その実現に向けて必要となる科学技術的基盤の創成を目標とする。具体的には、ゲノム-トランスクリプトーム-プロテオーム-メタボローム等の各階層にある多様な細胞内分子の階層内さらには階層間に及ぶ相互作用ネットワークのダイナミクスと、そのダイナミクスに基づく組織・臓器等の多細胞における生体制御システムのより定量的な解明に資する技術の開発戦略について提言する。

 生体制御システムの定量的な解明を進めるためには、乗り越えるべき技術的障壁がある。一つには、これらのネットワークを構成している各要素(分子および細胞)の時空間的位置とその定量値(分子数等)の経時的変化の解析、つまり“4次元データ(位置×時間)×多数要素(生体分子等)の定量値(絶対量)”という“多次元”データの解析が必要であり、多次元データを測定する技術がなければならないということである。しかしながら、以前はこのような定量的な多次元データの取得は困難であった。しかし、近年急速に進展してきたオミクスやイメージング等の最先端機器を駆使することで、上述の多次元的なデータを定量的に計測・取得・解析することは今や夢ではなくなってきた。

 もう一つの技術的障壁は数理モデル化である。生成される大量の多次元データを処理し、その中から生体分子間の相互作用ネットワークを定量的に記述する数理モデルを見出すための技術開発が必要となる。

 以上を踏まえ、本戦略の下で推進する研究開発では、オミクスとイメージングの組み合わせにより時間発展的に変動する組織・細胞・生体分子間相互作用ネットワークを計測し、ネットワークを構成する複数要素の計測値(多次元データ)をAIや機械学習の活用により解析し、さらにこれらネットワークのダイナミクスを数理科学により定量的に可視化、数理モデル化する。こうした、“オミクス×イメージング×データ・モデリング”を実現するための基盤技術開発課題を以下に示す。

  • 1)組織等細胞集団において1細胞単位で生体分子等を網羅・定量的に解析する技術の開発
  • 2)細胞および生体分子の時空間分布を高分解能で測定する技術の開発
  • 3)生体分子・細胞の動的ネットワークの定量理解に向けた数理モデルの創出

 ライブセルアトラスに関連する動向として、米国では、ヒトの全身細胞の1細胞レベルでの遺伝子発現マップを作成し、各臓器を構成する細胞の種類、状態、系統を分類し、カタログ化・マッピングする目的で“Human Cell Atlas(HCA)”という壮大な国際プロジェクトを推進、また欧州では次期Future and Emerging Technologies Flagshipとして“Life Time initiative”を2019年3月から開始している。

 このような各国動向に対して、本プロポーザルで提案する戦略は日本に強みのあるイメージング関連技術を中核とした我が国独自の研究開発戦略となっている。これを推進することで、ライフサイエンス研究における世界的なプレゼンスを高めることが期待できる。また生命現象の制御システムの解明及びモデル化は、生命を理解するという学術的側面のみならず、創薬の効率化等への貢献も期待できる。

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