2019年3月
(戦略プロポーザル)次世代育種・生物生産基盤の創成(第1部)
~核酸、タンパク質、細胞を結ぶ、多階層横断的サイエンス推進による生体分子・生命システム設計ルールの創出~/CRDS-FY2018-SP-07
エグゼクティブサマリー

 本戦略プロポーザルは、微生物・細胞を用いた物質生産を行う上で重要である育種、生産プロセス研究の効率的な推進を目指し、そのために必要な核酸、タンパク質などの生体分子、それらが織り成す代謝経路などの生命システム設計に関する体系的な方法論創出に向けて具体的な研究テーマや研究推進体制などに関する諸方策を提案するものである。

 微生物・細胞などの生物的なプロセスを用いた物質生産は、再生可能性資源を原料とし、有機溶媒や重金属の使用量が少ない低環境負荷なプロセスで化成品、医薬品などの高付加価値な産物を高い選択性、特異性で生産できるという特長がある。このような特長から、生物的な物質生産はSDGs、バイオエコノミーなどの観点からも世界的に高い注目を集めている。関連した主な研究領域として、生物の遺伝的な改良である育種や、培養、栽培、飼育養殖などの生産プロセスに関する研究がある。

 微生物・細胞を育種、培養し目的の物質生産を行うには、適切な生体分子、代謝経路を選択、設計する必要があるが、現在の科学水準では計算力などの制限から、シミュレーションのみでこれらの機能を予測、設計することは困難である。そのためシミュレーションに加え、既存の分子、代謝経路をベースとして大量の改変体を作製、データ取得を行い、得られたデータを統計、機械学習などの手法を用いて解析することで有望なものを選択する、といったことが行われている。しかし、この手法でも新規機能を有する分子をゼロベースで設計することは困難である。またある生物で実際に機能している生体分子・生命システムが他の生物で機能するか、また機能しない場合にその原因や回避方法を予測することも難しい。そのため、既に機能が明らかであるものであっても、それを他の生物で機能させる場合には試行錯誤の検討を要し、本分野進展の大きな障害となっている。

 このような状況を打破する戦略として、本戦略プロポーザルでは核酸、タンパク質、代謝経路などを結ぶ多階層の生命現象のメカニズム解析を通じ、生体内で機能する生体分子・生命システムを設計するために最低限守るべき条件(拘束条件)を明らかにするための研究開発推進を提案する。これにより導き出された拘束条件を既存の設計指針と統合することで設計精度の向上を目指す。また、これらの研究開発課題の遂行には、従来のような核酸、タンパク質、代謝経路などの個別階層に留まらない、多階層横断的な解析を通じたデータ取得と体系的な統合を目的とした研究体制が不可欠である。そのために必要な設備・機材は近年高額化の一途を辿っており、成果の社会実装の大きな障害となっている。研究開発予算が限られる中、わが国において本領域の体系的な研究推進、社会実装を効率的に行うためには、必要な設備機材を集約した橋渡し研究拠点の整備が重要である。

 本戦略プロポーザルの推進を通じた育種・生物生産研究基盤の整備は、生体分子・生命システム設計に関する研究の推進のみならず、全体としての研究費抑制、個々のラボでは不可能な大規模研究のハイスループット化に繋がることが期待される。また、人材育成の観点からも、データ活用、分野横断型研究に適応した人材の育成、輩出の場という点で重要である。

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