2018年12月
(戦略プロポーザル)みんなの量子コンピューター ~情報・数理・電子工学と拓く新しい量子アプリ~/CRDS-FY2018-SP-04
エグゼクティブサマリー

半導体微細加工技術によるコンピューターの飛躍的な性能向上が技術的・経済的な限界に近づき、これまでのようにトランジスタ数の増加による性能向上はもはや望めなくなってきている。一方で、ビッグデータ処理、メディア処理、深層学習、組合せ最適化などの計算要求はいっそう高まると予想され、コンピューターの性能向上には大きな社会的期待が寄せられている。新計算原理、新アルゴリズム、新アーキテクチャ、新デバイスなどにより微細加工技術だけに頼らずに継続的に性能向上を図ることは急務である。

このような背景の中、近年特に注目を集めているのが「量子コンピューター」である。理論通りに動作すれば、現在のコンピューターよりも本質的に高速な計算が可能となるが、現在のところ、量子性に基づく量子コンピューターの高速性を実験実証するには至っておらず、Shorの因数分解やGroverの検索などの典型的な量子アルゴリズムが要求する量子ビット数やエラー率と、今後10数年で登場すると考えられる小規模・高エラー率の「NISQ量子コンピューター(Noisy Intermediate-Scale Quantum:小規模で誤り訂正がない近似的量子コンピューター)」の間には大きな隔たりがある。

このギャップを埋めるには、ソフトウェアとアーキテクチャの研究開発を充実させ、量子アルゴリズムから量子ハードウェアに至る量子コンピューター研究開発全体を強化する必要がある。具体的に取り組むべきものとして、

(1)古典・量子ハイブリッドアルゴリズムの開発・実装・実証
(2)量子ソフトウェア開発環境の整備
(3)量子誤り訂正符号に基づく量子コンピューターアーキテクチャ設計

が挙げられる。とくに、NISQ量子コンピューターについては、どのような問題であれば量子性の恩恵を受けられるのか、新アルゴリズムとキラーアプリケーションの探索・発見が必須課題である。そのためには、新アルゴリズムの開発・実装の試行錯誤と、それを実行可能とするシミュレータやライブラリ、コンパイラ、デバッガなどの各種ツール群がパッケージとなったソフトウェア開発プラットフォームの構築が必要となる。さらに、将来的には誤り耐性量子コンピューターの実現を視野に、誤り訂正符号処理や制御・測定の古典回路まで含めたアーキテクチャ開発、ファームウェアの開発、誤り訂正符号の実装を支援するソフトウェアツールの開発などハードウェア・ソフトウェアに跨る研究課題に取り組むことも重要である。

今後50年の間には、量子コンピューターだけでなく、量子センサーや量子インターネットなどの量子科学技術と組み合わせた「量子ICT」を自由自在に使いこなす時代が確実に訪れるだろう。その中では、本プロポーザルで取り上げた機械学習や量子化学計算の進展だけでなく、新たなサービスや未だ見ぬ産業の創出が行われると同時に、量子ICTを使った科学研究や科学的発見も行われるはずである。量子コンピューター研究開発を強力に加速・推進することでNISQ時代を超えた量子ICT時代へ向けて、スケーラブルなエラー耐性量子コンピューター実現への確固たる一歩を、我が国が世界に先駆けて進めるべきである。

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