2018年3月
(戦略プロポーザル)複雑社会における意思決定・合意形成を支える情報科学技術/CRDS-FY2017-SP-03
エグゼクティブサマリー

 本プロポーザルでは、個人や集団の意思決定・合意形成の困難化という問題に対して、情報科学技術を活用した解決の必要性を述べ、取り組むべき研究開発課題を示す。本プロポーザルで目指すのは、「複雑社会において、個人・集団が主体性や納得感を持って意思決定できるような、情報科学技術を活用したより良い仕組みの実現」である。

 我々は日々さまざまな場面で意思決定を行っている。そして、クリティカルな場面での意思決定ミスは個人や集団の状況を悪化させ、その存続・生存さえも危うくする。例えば、企業の経営における意思決定ミスは、企業の業績悪化・競争力低下を招き、国の政策決定・制度設計における意思決定ミスは、国の経済停滞や国民の生活悪化にもつながる。また、個人の意思決定における判断スキル・熟慮の不足は、その個人の生活におけるさまざまなリスクを高めるだけでなく、世論形成・投票等における集団浅慮という形で、社会の方向性さえも左右する。
 元来、主体性や納得感を持った意思決定は、個人や集団における熟慮・熟議から生まれるものである。熟慮・熟議からこそ、さまざまな要因・影響の可能性を考慮し、自分の価値観や集団内の多様な価値観も踏まえた、最良の解を見つけ得る。しかし、情報科学技術が発展した今日、人間には熟慮・熟議が困難な事態がたびたび起きるようになった。その原因の一つは、情報爆発や社会のボーダーレス化により、意思決定に関わる要因・影響にさまざまな可能性が生じ、その広がりが人間の頭では考えられないほどになってしまったことである。しかも、激化する競争環境において、意思決定にますますスピードが求められるようになり、要因・影響の可能性を十分に考えきれないまま意思決定をせねばならない状況が頻繁に発生する。また、別な側面から考えられるもう一つの原因は、この状況において、悪意・扇動意図を持って、他者の意思決定に影響を与えるような情報操作が容易になってしまったことである。実際に、ソーシャルメディア上でのフェイクニュースやデジタルゲリマンダーと呼ばれる行為が、世論形成や選挙結果に影響を及ぼし、社会問題化している。

 意思決定・合意形成問題は、主に人文・社会科学分野で古くから取り組まれてきた問題であるが、上記のような原因の解決には情報科学技術によるアプローチが不可欠である。わが国が目指すSociety 5.0の健全な発展や、意思決定力が左右するさまざまな面の国際競争において、この解決のための研究開発に国として早急に施策を講じることが求められる。
 本プロポーザルでは、個人や集団の意思決定・合意形成の困難化の原因を論じ、それを解決するために必要な研究開発課題として、次の3点が重要であることを述べる。また、これらの研究開発を推進する上で留意すべき点についても述べる。

  • (1)人間が取りこぼしてしまう膨大な可能性を調べ上げ、その中から有効な候補を高速に見つける技術
  • (2)悪意・扇動意図を持った情報操作を回避する技術や、そのような情報操作に対する耐性を高める技術
  • (3)多数の関係者間の合意形成、集団の意思決定を扱うための、社会的価値観やさまざまな人間の価値観が混在している状況下での意思決定・合意形成を支援する技術

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