2013年8月
(戦略プロポーザル)共通利用可能な分野横断型リスク知識プラットフォームと運用体制 ~リスク社会に対応する知識の構造化を目指して~/CRDS-FY2013-SP-02
エグゼクティブサマリー

本プロポーザルは、社会全般に影響を与えるような潜在的・複合的なリスクを効率的かつ的確に把握するための、分野横断的な共通フォーマットを開発し、リスク知識を俯瞰し、リスクに関する議論を深化させるための知識プラットフォームとその運用管理体制の構築を目的とする。

自然災害、事故、感染症の流行、金融危機、サイバーテロなど現代人はさまざまなリスクにさらされている。このような個々のリスクについては、その可能性、発生原因、それが引き起こす影響、それを防止する手立てが、それぞれの分野で研究されている。しかし、実際に、自然災害や交通インフラでの事故が起きる度に、災害、事故等から連鎖する様々なリスクが後追いで認識され、リスクへの対応策が事前予防ではなく事後的に施される事態が繰り返されている。2011年度に策定された第4期科学技術基本計画では、我が国のリスクマネジメントと危機管理の不備が指摘された。それにもかかわらず、欧米各国ではすでに設置されているようなリスク管理のための統一的な組織は我が国には存在しない。
さまざまなリスクの間には互いに密接な関係が存在している。その中から共通の構造を抽出し、リスクに対処する共通の方法論を得ることができれば、それによって潜在的なリスクにも対応できる。そのためには、個別のリスク研究を要素としてとらえ、複合リスクの構造をシステム化した上で、統一知識ベース化し、分野を超えて利用できるような仕掛けと体制を構築しなければならない。
リスクの概念は、一般に、生起する事象の確からしさとそれによって引き起こされる負の結果の組み合わせで定義されるが、社会経済システムに大きな影響を与えるような全体リスクについては、認知バイアスのために「確からしさ」の正確な測定と「負の結果」に対する公平な評価が困難である。このことは、リスク対応への大きなハードルとなっている。また、全体リスクを単独の原理原則で見通すことは不可能であり、分野をまたがる複雑な因果関係を考慮した対策が必要となる。
現状において、自然環境・医療・金融・ネットワークなどさまざまな分野において、我が国では膨大なリスク研究の蓄積がある。しかし、分野ごとに主要概念の意味の違いが存在するため、各分野の成果を分野横断的に整理し、現実社会において発生しうる連鎖的なリスクや複合的なリスクに対応することができていない。これは、各分野間の概念の翻訳やデータ・知識の互換性を保証するシステムが存在せず、また、信頼性工学・リスク学・レジリエンス工学等の最近の研究成果が他の専門分野に波及していないことが原因としてある。

我々は、現在のリスクに関わる研究開発が抱える課題は以下の3点にまとめられると考える。
1)各分野でのリスク研究が互いに関連付けられることがなく、個別的な研究にとどまっていること。
2)リスク研究には、いまだ顕在化していないリスク要因(潜在的リスク)の分析と、その対応策の確立に向けた各種リスクの分野横断的・統合的な検討が必要であるが、そのための方法論がないこと。
3)各種の潜在的リスクに関連する情報を統一的に収集・維持・管理する仕組みが作られていないこと。

そして、各課題に対し、1)については、各分野の専門家が利用できる情報システムが、2)については分野横断的な研究の場が、3)については統合的なリスク管理組織が必要と考える。
この3つの課題解決のため、我々は、「共通利用可能な分野横断型リスク知識プラットフォーム」(図1)を提案する。この構想は、システム構築における次の3つのフェーズを経て実現される。フェーズ1は、情報システムとしてのプラットフォーム構築。フェーズ2は、各専門分野の研究成果のプラットフォームへの投入と知識関連づけ。フェーズ3は、プラットフォームの恒久的な維持・運営・管理。そして、このプラットフォーム上で、リスク概念を管理し、潜在的・複合的リスクに関するシナリオ分析を可能とする運用体制の構築が必要である。なお、上記のシステム構築にかかわる3つのフェーズの詳細については、プログレスレポート(CRDS-FY2013-XR-03)を参照されたい。
本プラットフォームの運営・管理を通じ、以下のような社会的効果がもたらされる。
1)リスクマネジメントや危機管理に関する科学技術政策立案における潜在的・複合的なリスクの関連性の把握、リスク拡大防止のためのシナリオ分析
2)分野横断的なリスクの計測とその波及範囲の予測
3)各専門分野における科学的根拠に基づくリスクアセスメント支援と補助資料の提供
4)市民に対する潜在的・複合的リスクに関するリテラシーの教育と普及
5)リスク管理組織の設置による、我が国のリスクマネジメントの不備の解消

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