2013年3月
(戦略プロポーザル)再生可能エネルギーの輸送・貯蔵・利用に向けたエネルギーキャリアの基盤技術/CRDS-FY2012-SP-08
エグゼクティブサマリー

本戦略プロポーザルは、太陽エネルギーをはじめとする様々な再生可能エネルギーを大量に蓄えるエネルギー媒体としての化学物質、すなわちエネルギーキャリアの基盤技術の研究開発を、我が国において戦略的に推進することを提案するものである。
化石燃料の枯渇、気候変動といった諸問題を克服するためには、今後再生可能エネルギーを大規模に導入する必要がある。現在、有力視されている風力、太陽光、太陽熱、水力などの再生可能エネルギーは地球規模では十分な賦存量を有し、世界の基幹エネルギーとなることが期待されている。しかし、我が国は国土が狭く、太陽あるいは風力エネルギー資源が決して豊富な国ではない。大量に再生可能エネルギーを導入するためには、将来、これらの資源の豊富な国から輸入する必要もある。このような再生可能エネルギーは本質的に、以下の2つの大きな問題点をはらむ。
再生可能エネルギーは、地球規模もしくは国内において偏在している。例えば、太陽光、太陽熱であれば赤道に近い砂漠地帯の賦存量が多く、風力は高緯度地域の風況が良好であり国内であれば北海道・東北に風況が良好な地域がある。逆に、エネルギーの消費地である都市部には再生可能エネルギーの賦存量は少ない。
日ごとあるいは季節ごとの時間的変動が伴う再生可能エネルギーは、需要側の変動と調和させることは難しく、基幹エネルギーとして用いるためには平準化が必須である。風力や太陽光など気象の影響を受けるものでは、短周期に加えて数日-数週間の長周期の変動が顕著であり、電力の昼夜平準化以上の長い時間スケールでの平準化が必要である。

上記の問題を克服して再生可能エネルギーを大量に利用する社会を実現するためには、これらのエネルギーの輸送や貯蔵を可能にする必要がある。再生可能エネルギーは電力として既に利用が進められているが、電力は長距離の輸送や、大規模な貯蔵が困難である。このため、再生可能エネルギーから得られた電力から、もしくは再生可能エネルギーから直接、水素、アンモニア、有機ハイドライド、金属・金属酸化物などに代表されるキャリアを生産し、輸送、貯蔵した後に、必要な時に電力、動力、熱に変換して利用するシステムが必要である。

現在の科学技術で再生可能エネルギーまたはそれを基とした電力から、これらのキャリアを生産する手法は限られている。さらに、これらのキャリアから電力、動力、熱を取り出す手法も限られている。例えば、電力によって水と窒素からアンモニアを合成する技術や、有機ハイドライドの前駆体を電力と水によって水素化する技術などはいまだ基礎レベルにある。またキャリアを直接燃料とする燃料電池や熱機関も基礎研究からの研究開発が必要である。安定した再生可能エネルギーの利用を目指す我が国が、これらの科学技術を世界に先駆け確立するために、キャリアの生産・貯蔵技術の拡充と効率向上をめざし、基礎から応用開発にわたる研究を戦略的に推進する必要があるものと考えられる。

また、各種エネルギーキャリアはエネルギー密度、利用法、安定性、安全性、コストなど様々な特徴をもち、用途によって使い分ける必要もあり、どれか一つのキャリアのみが将来有望ということではない。例えば、燃料電池自動車には水素を用いることが想定されているが、気体水素は大規模、長期間の貯蔵には適していない。大規模、長期間の貯蔵にはアンモニア、有機ハイドライドなどの液化ガス、液体が好ましい。また、水素やアンモニアは内燃機関に燃料として直接用いる可能性があるが、有機ハイドライドは循環型システムとしては燃焼させられない。これら様々な有望なキャリアの各変換技術の能力を研究するとともに、どのキャリア、どのプロセスが、将来の再生可能エネルギーによる社会を支えられるのか、キャリアの性質に応じた効率的なエネルギーシステムを判断するに資する科学的知見を得ることが重要である。これまでの日本のエネルギー技術開発において、電力は利便性の高い最終エネルギー源として位置付けられ、電力を用いてエネルギーキャリアを生産するという視点は注目されず、この分野の科学技術のレベルも未熟といわざるを得ない。しかしながら、再生可能エネルギーが社会に導入される今後は、電力はエネルギーの入り口でもあり、電力からのキャリア生産技術は再生可能エネルギー利用の鍵である。また、究極的には、太陽光や太陽熱などの再生可能エネルギーから電力を介さず直接エネルギーキャリアを効率的に生産することができれば、真に持続可能な社会の実現が可能となる。電解技術や触媒技術、内燃機関など、我が国は卓越した技術を有し、これらを基としてエネルギーキャリア技術を確立し、再生可能エネルギーの大規模導入に備えることが重要である。また、エネルギー産業は経済の基盤であることは言うまでもなく、再生可能エネルギーを中心とした社会に移行するためには、現在の石油化学プラントや天然ガスプラントを、次第に再生可能エネルギーもしくはそれに基づいた電力によるキャリア生産プラントに置き換えていくということである。このためには技術開発のみならず、社会的受容性や既存インフラとの適合性、環境適合性や安全性など広い視点に立った検討が必要である。世界に先駆け技術を確立し、その技術を世界に提供し、世界の再生可能エネルギー導入を促進することが、科学技術創造立国である我が国の目指すところといえる。

エネルギーキャリアにかかわる科学技術においては、化学、化学工学、機械工学、システム工学などの幅広い学術の融合が必要である。また、原子レベルでの電気化学、触媒化学の反応メカニズムの理解から、反応器設計、システム構築や、環境適応性評価など広いスケールにわたる研究が必要であり、異分野研究者の連携、協力による研究推進が必須である。これらの分野間の融合は、エネルギー工学の視野をもった化学者、化学工学者、機械工学者、システム工学者を育成し、社会のエネルギー問題という高い視点から研究課題を俯瞰できる、視野の広い人材を育成することになると期待される。

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