2013年3月
(戦略プロポーザル)将来水問題の解決に向けた統合モデリングシステムの研究/CRDS-FY2012-SP-03
エグゼクティブサマリー

 本戦略プロポーザルでは、将来水問題の解決に向け、「持続的な水循環システムの構築に資する統合モデリングシステムの研究」を、わが国として戦略的に推進することを提案する。

人間の生命維持と文化的生活のためには、水の安定供給が不可欠である。しかし、現在においても全世界の約10億人が安全な水へのアクセスが困難な状況にある。加えて、環境悪化や温暖化に伴う水質の低下や渇水地域の拡大、豪雨による洪水・氾濫の頻発など、水に由来する社会・経済への被害の規模や範囲は拡大の一途をたどっている。
まさに世界の緊急の課題である水問題の本質的な解決を図るには、自然、風土、社会・経済環境などを把握し考慮した上で、水資源をいかに有効かつ持続可能に活用するかという、大局的かつ総合的な戦略が必須である。特に社会インフラが未熟で水問題が露呈している新興経済国においては、水の総合的マネジメント戦略を、基本計画から設計、実装、そして運用・保守までのプロセスに明示的に取り込んでかなければならない。
一方、上下水道の高い普及率や優れた水質、および安定供給を誇っているわが国においても、少子高齢化などに伴う需要や税収の減少が予想されている。その中で、老朽化が進む水インフラをどのように維持・保全・管理していくか、さらには現在のエネルギー大量消費型の上下水道システムをどう変革していくかなどの、根本的な見直しが求められている。

持続的な水利用環境を実現するには、これまで以上に水資源の有効活用、環境負荷の抑制、省エネ・省資源化を推進しなければならない。従来は個別に進められてきた、治水、利水、環境という水に関する3つの視点を統合した上で、人々が住む地域それぞれの水循環をシステムとして総合的にとらえ、課題解決のための全体的な最適化、および管理・運用を行う必要がある。しかし現状では、技術、コスト、人材、制度などの制約から、その実現は容易ではない。重大な技術的制約の一つは、空間的/時間的に入り組んだ複雑で大規模な水循環システム全体を表現し、様々なシミュレーションなどに適用できるモデリングシステムが存在しない点にある。ここで言うモデリングシステムとは、個々のモデル自体ではなく、複数の異なるモデルを接続・連携させるためのシステムを意味する。
水循環システムには、ダムや水処理施設などの人工物、河川・湖沼・地下水などの自然環境、各種用水などの水利用、社会・経済などのモデルが関係するが、これらは独自に発展してきた。限られたコストや人材を再配分し、時として既存制度を乗り越えるには、関係者すべてが納得でき、客観的に検証できる提案が大前提となる。しかし、多種多様なモデルの連携を可能とする仕組みがない状況では、地域水循環システムが目指す姿の精密な可視化は容易ではない。
本戦略プロポーザルは、地域水循環システムを総合的に理解するための基礎の確立を目指すものである。統合モデリングシステムをソフトウェアとして実装した統合プラットフォームを介して、多様なモデル群を取りこみ、目的に応じて相互に連携させることで、地域水循環システム全体の表現と分析が可能となる。

水インフラの海外展開は、新興経済圏の支援と国際ビジネス推進の両面から官民をあげて取り組まれている。本戦略プロポーザルの研究領域の成果を活用することで、様々な地域の状況に対応した、持続可能な水循環システムのビジョンを描くことが可能になる。これにより、従来は困難だった、水インフラの全体計画から水処理施設の維持管理までを包括した、より総合的で踏み込んだ計画の立案力と国際競争力の強化が期待される。

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