2013年2月
(戦略プロポーザル)持続的窒素循環に向けた統合的研究推進/CRDS-FY2012-SP-01
エグゼクティブサマリー

人間社会の持続性を脅かす課題として、気候変動と生物多様性の喪失とともに、物質循環も重要である。とりわけ、化学肥料合成および大気汚染による窒素循環の改変の大きさは、生物による自然の窒素循環と同規模と推定され、持続性の限度を越えていると考えられている。
食料生産と窒素による環境負荷の軽減とを両立できる農・畜産業および廃物・廃水処理の技術や、各地域が窒素循環を把握し制御できる技術を開発し、それらを普及させることが必要である。
窒素による環境負荷は東アジアで大きく特に新興経済圏で増加傾向にある。予防的に環境負荷を減らすために政策的措置が必要である。そうした政策立案に科学的知見を提供するために、東アジア規模の窒素循環と対策技術適用がそれに及ぼす効果とをシミュレートする技術を開発する必要がある。さらに、東アジアの多数の地域社会が負荷軽減対策を発動できるようにするために、経済性にすぐれた環境負荷のモニタリング技術と軽減対策技術の研究開発が必要である。

そこで、持続的窒素循環に向けた統合的研究推進を提案する。次の3つのスケールにそれぞれ焦点をあてたプロジェクトを柱として構成され、それらの共通基盤と研究成果の統合を可能とする体制を含む。
(1) 東アジア域:窒素循環の諸プロセスに基づく東アジア規模の統合モデルを構築し、窒素収支の全貌を把握する。過去・現在の窒素循環とその変化の原因となりうる自然・社会諸要因の時空間データを整備し、再現型実験や感度実験によって、技術や政策が窒素循環に及ぼした効果を明らかにする。さらにモデルを複数の将来シナリオに適用し、対策技術の効果を評価する。
(2) 流域圏:人間活動の影響の大きい数十キロメートル規模の流域圏を一つの窒素循環系として注目し、窒素循環およびそれらを変化させる諸要因についての計測や調査を強化して、一貫性のある窒素収支の基礎データを得る。また、計測を強化された流域内で社会実験を行い、対策技術適用の効果を評価する。
(3) 農場:数百メートル規模の、詳しい計測と保守管理が可能な実験農場で、農地の植物・土壌系の窒素循環の素過程を詳しく観察しモデル化する。また、農業に関する対策技術を構成し、詳しい観察を伴う実験を行うことによって、対策技術の効果や副作用を評価する。計測技術の実地評価も行う。

本研究イニシアティブの内容は以下の諸研究課題を含み、多くの専門学術分野の連携を必要とする。
窒素循環のプロセスとメカニズムの解明・理解のための研究
窒素循環を構成する生物・土壌・水文・地球化学等の諸プロセスの解明
窒素循環の全体像と人間活動による改変の実態把握
窒素循環計測技術の研究開発
計測手段の開発、実態・メカニズム把握の研究への応用、対策技術への導入
窒素循環シミュレーション技術の研究開発
シミュレーションモデルの開発、過去の窒素循環の再現によるモデル較正・検証
対策技術の効果や副作用の評価 (対策技術適用シナリオのもとでの予測型実験)
環境負荷軽減対策技術の研究開発。次のような技術を開発するとともにその実証実験を行い技術適用による窒素循環の変化を観察して技術の改良にフィードバックする。
窒素肥料の利用効率を高める育種、肥料開発、施肥・水管理・耕作技術
人・家畜の排泄物の窒素分をリサイクル(肥料化)あるいは無害化(脱窒)する技術
環境負荷軽減が便益になるようなインセンティブをもたせる税制等の社会技術

本研究開発イニシアティブの実施には府省が連携した推進体制が必要である。そして、その前提として、専門分野を越えて持続的窒素循環という課題を共有する研究コミュニティの形成を促すことが必要である。

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