2011年3月
(戦略プロポーザル)ホメオダイナミクス(homeodynamics)の高次ネットワーク -恒常性の時間的、空間的ネットワークの理解と制御-/CRDS-FY2010-SP-12
エグゼクティブサマリー

本イニシアティブは、生体の恒常性(homeostasis)を維持する神経、免疫、内分泌、脈管、組織修復等の各システムの機能を、発生、誕生、成長、発達、老化などの個体の生涯の各段階(ライフステージ)において変容する「ホメオダイナミクス(homeodynamics)」として捉え、さらに、各システムに共通して作用するホルモン(内分泌の伝達物質)、神経伝達物質、サイトカイン(免疫系の伝達物質)等のシグナル分子を介したシステム間の「高次ネットワーク(Networks of Networks)」という視点を導入して、恒常性に関する新たな理解と概念の創出を目指した統合研究を提案するものである。

生体は、恒常性を維持するために、神経や脈管のような全身に張り巡らされた構造的ネットワークを用い、血流・体液により、末端に必要な免疫細胞やサイトカイン、ホルモン等のシグナル分子を、適時、適量運んでいる。この働きは、生体の発生・発達、成熟、老化のライフステージによって異なり、ストレスや罹患などの状況に対して生体を健全に保つべく、個々のシステムがダイナミックに変容していく。この恒常性維持機構の動的な変化を、本イニシアティブでは「ホメオダイナミクス」と表現している。
さらに、免疫細胞やシグナル分子は、神経、免疫、内分泌の各系の恒常性システムに共通に作用し、相互に影響を及ぼしあっている。この相互関係を「高次ネットワーク」と呼ぶ。

恒常性の高次ネットワークを構成するホメオダイナミクスの解明、制御を目的として、本イニシアティブにおいて提案する研究開発領域は以下のようにまとめられる。

1.ホメオダイナミクス維持機構の「理解」に向けた研究
恒常性に関わる種々の外的要因・生体反応の定量化研究
定量化された情報をもとにした恒常性維持機構のモデル化研究
モデル化された恒常性維持機構の生体における実証研究
2.ホメオダイナミクス機構の制御に向けた理論化研究
3.医療への応用に向けた橋渡し研究

 このような生体あるいは生体試料を扱う研究者と生物情報を扱う研究者が参画する研究開発では、個々の研究成果から得られる情報の共有化をもとに立てられた仮説を、モデル化と実証研究の両面から検証し、恒常性維持の高次ネットワークについての統合的理解を目指すことが重要である。そのため、研究開発の推進体制としては学際的なチーム型研究が望ましいと考えられる。また、チーム型研究の成果をさらに結集、統制する機能を持つ拠点あるいはプラットフォーム組織を設け、統合モデル化研究に必要なバイオインフォマティクス情報取得の支援や各チームの研究テーマの調整を行う。もっとも重要なのは、効果的に統合研究を進めるための全体調整を担う拠点リーダーのリーダーシップである。

 本イニシアティブが提案する研究開発領域の推進により、基礎生物学と計算生物学の融合が進み、恒常性維持の理解において、欧米の後追いではない新たな研究分野の創出とその主導権を獲得することが期待できる。また、ヒトの疾患の多くは恒常性の破綻としてとらえることが可能だが、ライフステージごとの恒常性の破綻特性に関する経時的変化を追うことにより、発達、成長、老化の各段階に応じ、さらに、「安らかな心」、「健やかな育ち」、「健やかな老い」につながる疾病の発症予防や治療技術の開発や、複数薬物の効果的かつ安全な投与方法の確立にも寄与しうる。このように本イニシアティブが提案する「ホメオダイナミクス」の観点からの研究開発が進めば、新たな生命観を形成していく、という科学技術の発展への効果と、生体現象のダイナミックな変化の理解と制御に基づく健康長寿の実現につなげる成果を得ることができる。

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