2011年3月
(戦略プロポーザル)システム構築による重要課題の解決にむけて~システム科学技術の推進方策に関する戦略提言~/CRDS-FY2010-SP-04
エグゼクティブサマリー

科学技術の恩恵は様々な形のシステムを通して享受されるのが「システムの時代」である現代の特徴である。システムとは機能を実現するために要素を適切に結びつけた複合体であり、最近のシステムは、ますます複雑で大規模なものになる傾向にある。そのため、システムにかかわる科学技術、すなわち「システム科学技術」がシステムを解析、設計、運用する上で重要な役割を演じている。しかし、我が国の科学技術政策ではシステム科学技術が本格的な対象となったことはなく、「忘れられた科学技術」に近い存在であった。そのような状況に置かれた原因や経緯については、本提言を準備する過程で発行した中間報告書「システム科学技術の役割と日本の課題」(CRDS-FY2010-XR-07)において詳しく分析している。
システム科学技術は通常の個別分野における科学技術とは基本的に異なる性格をいくつか持っており、その振興策も他の科学技術とは異なった形が必要である。その特徴は、システム科学技術は分野の個別性を捨象した人工物の論理の普遍性を追求するという点、システム科学技術は様々な機能を持つ要素を統合して一つの全体機能を実現することを目的としている点、システム科学技術の研究は実際のプロジェクト構築と常に接点をもち、そのなかで実効をあげることを通じて鍛えられることが重要であるという点である。
本提言は、以上のシステム科学技術の特徴を踏まえ、現代社会が直面する重要課題を解決するためのシステム科学技術の振興策を提案する。まず何よりも重要なことは、重要課題を解決するために要請されているシステム構築の必要性を抽出し顕在化させることである。もちろんすべての重要課題がシステム構築を必要としているわけではないが、適切なシステム構築が最終解決策となるものは多い。そのような課題やプロジェクトでは、システム構築の視点を常に正面に掲げ、その視点から必要な要素研究を抽出、構造化し、要素研究の課題の合目的性を担保することが必要である。このことは、いわゆる企画力や目標管理のマネージメントだけでは達成されず、最先端の研究が必要である。この目的のために本提言では「システム構築戦略研究」とよばれる新しい研究のカテゴリーを提案する。
「システム構築戦略研究」の提案は、システム科学技術の学問としての性格、すなわち基礎研究と応用研究を兼ね備えた本来的に課題の解決を目指す科学技術であること、を踏まえた振興策であり、「システム構築戦略研究」を通してシステム科学の基礎研究の発展と課題解決型の科学技術としてのシステム科学技術を鍛え上げることの両方が達成される。
より具体的には、本提言では、以下の3点を提案する。
1.新成長戦略に示された重要課題であるグリーンおよびライフの2大イノベーションのなかで、システム構築を課題解決の核とするものに「システム構築戦略研究」を早急に実装し、その有効性を検証する。
2.その延長上に、システム構築がカギとなる我が国の直面する3つの重要課題において、システム構築戦略研究を本格的に実装する。
3.システム科学技術の相乗効果・波及効果を発揮させるため、上記振興策の発展に応じてシステム科学技術の研究拠点を順次創出し、将来的にさらにそれらを統括するシステム科学技術研究の中央組織を設置する。

システム科学技術が日本の科学者コミュニティで大きな存在感を持つことによって、分野別から課題解決型への科学技術政策の転換が加速されることが期待される。また、システム構築の意図を顕在化させた課題の定式化によって、ファンディングを効率化できる。現代の複雑な社会に科学技術を実装するには、技術の世界で閉じたシステムではなく、社会に開かれたオープンなシステムを構築することが必要である。それには、人間の性向、行動パターンなどのしっかりした調査研究の基盤の上に立つ必要がある。したがって、システム構築戦略研究では社会科学、人文科学との協力が不可欠である。また、システム科学技術は経営・経済学やモデリング・社会シミュレーションなどの社会科学と隣接する研究領域を抱えており、その意味でも文理融合を今以上に促進する触媒の役割を果たす。

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