2010年3月
(戦略プロポーザル)環境適応型作物のゲノム設計技術/CRDS-FY2009-SP-11
エグゼクティブサマリー

本イニシアティブは、フィールドにおける環境変化に適応し、安定的に生育する作物を分子レベルから設計するための技術に関する研究開発戦略である。

資源多消費、環境高負荷型の社会経済活動が一因となり、地球上では将来的に全球レベルでの気温の上昇や、地域レベルでの降雨、乾燥の変則化などが現在よりも進行すると予想されている。このため、世界の多くの地域では、環境変化による作物生産への影響が懸念され、対応策の一つとして環境変化に適応した作物の作出技術に対する社会ニーズが高まっている。

このような社会的要請に対し、世界中の研究者や技術者が、植物科学における最新知見の統合や工学的技術の活用などにより、環境適応型作物の作出を目指した研究開発を実施している。これらは主に、欧米豪の公的研究機関や企業等で実施されており、植物の遺伝情報とフィールドの環境情報を統合的に解析し、その知見に基づき作物の機能を分子レベルから改変することを目的としたものである。
将来的に予想される環境変化はわが国も例外ではない。今後も限られた農地で作物を生産したり、世界的な食料問題に科学技術で貢献するためには、環境に適応し、安定的に生育する作物の作出へ向けた研究開発をこれまで以上に推進する必要がある。
以上を踏まえ、本イニシアティブでは、日本の基礎科学の強みを活かした作物生産技術として「環境適応型作物のゲノム設計技術」を提案する。本技術は、フィールドにおける植物の環境応答機構の包括的な理解に基づき作物を分子レベルから設計する技術である。
これは現在主流となっている「遺伝子組換え技術」を高度に発展させた技術であり、質の高い基礎研究成果を継続的に生み出してきたわが国の植物科学と伝統的に競争力を持つ工学を融合させることによってはじめて可能になると考えられる。本提案では、世界の農耕地において作物生長の阻害要因となっている環境ストレス1 と資源利用効率2 を主な対象として、以下の3 つの課題を推進することにより新しい技術の確立を目指す。

1.植物の環境応答機構に関する包括的定量解析
2.作物の環境応答機構に関するモデルの構築
3.遺伝子群の合成、導入による作物の形質3 評価

課題1 では、主にフィールドで生育する植物を対象にフィールド環境下での遺伝子と表現型との関連性を定量的に解析することを通じて環境応答機構の包括的な解明を目指す。課題2 では、これまでの植物科学における知見の蓄積や課題1 で得られる情報等を活用しながら、遺伝子と表現型との関連性をモデル化することを目指す。課題3 では、課題2 で構築したモデルから予測される環境応答に関する遺伝情報を用いて、遺伝子群の合成や作物への導入を実施し、さらに実験圃場での生育確認を行う。
以上に示した課題の推進にあたっては、3 課題のそれぞれで得られる成果を互いに還元するようなフィードバック・ループの形成が重要である(図1)。これは、フィールド環境は時間的にも空間的にも変動するため、そこから得られる種々の知見の確からしさや再現性に関しては一般的に不確定性が高いと言われるからである。
本イニシアティブの推進によって植物本来の機能を最大限に活用したゲノム設計技術が 確立されると、究極的には地域ごとの環境特性に応じた作物の作出が可能となる。従っ て、石油の多消費や化学肥料の大量投入を低減させ、かつ安定的な収量を確保する資源少 消費型の持続的農業の実現という社会的効果も期待される。
なお本提案の技術が実際に社会に普及するためには社会受容の促進が重要である。このため研究の初期段階から透明性の確保、情報の迅速な公開などに積極的に取り組み、科学的エビデンスに基づいた合理的な判断が社会においてなされるよう働きかけていくことが重要である。

1 環境ストレス:環境要因(温度、乾燥、土壌pH など)が植物の生長に及ぼす負の影響
2 資源利用効率:水や窒素、炭素などの植物の生長に必要な因子の利用効率
3 形質:植物や作物の形態や機能

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