2010年3月
(戦略プロポーザル)分子技術 “分子レベルからの新機能創出”~異分野融合による持続可能社会への貢献~/CRDS-FY2009-SP-06
エグゼクティブサマリー

「分子技術」とは、物理学・化学・生物学・数学等の科学的知見を基に、分子を設計・合成・操作・制御・集積することによって、分子の特性を活かして所望の機能を創出し、応用に供するための一連の技術である。それにより、新材料、新デバイス、新プロセス、有用物質等の創出に資することを意図した、分子の自在制御を目的とする技術の総称である。なお、「分子技術」に対比する言葉として「分子科学」があるが、分子科学とは広く分子及び分子集合体の構造や物性を分子のレベルで解明し、化学反応や分子間の相互作用及びその本質を、理論と実験の両面から明らかにすることを目的とする学問である。従って、分子科学が与える知見・理解は、「分子技術」を構築する上で基盤となるものである。

本イニシアティブは、このような「分子技術」を総合的に研究開発することを提案する。従来の分子科学では、自然界を観察し、探索することによって、様々な分子を発見・解析し、天然の分子を人工的に模倣することで、同様の機能を得てきた。しかし近年の新たな流れとして、このように自然界にモデルを求めずとも、目的とする機能を設計し、それに合った物質を得るという研究開発事例が見出されるようになってきた。その背景には、分子設計や反応シミュレーション等に用いるコンピュータの急速な性能向上や、X 線・電子線等により化学反応過程をリアルタイムに測定・解析するin situ のプロセスモニタ技術等の著しい進展がある。

本イニシアティブでは、このような背景のもとで「分子技術」全体を分子の特性から機能創出に至るプロセスを通して分析した結果、「分子の設計・創成技術」、「変換・プロセスの分子技術」、「分子の電子状態制御技術」、「分子の形状・構造制御技術」、「分子集合体・複合体の制御技術」、「分子・イオンの輸送・移動制御技術」から成る6つの横断的技術概念で捉えなおし、研究開発を推進することを提案する。これにより、様々な応用分野、専門分野で各々活動している接点の少ない研究者が、「分子技術」という共通の土台に立って、互いの研究・技術を見つめ直すことができるようになり、新たな展開が期待できる。

これまでの研究投資では、「太陽電池」や「創薬」等といった応用テーマ毎に分かれて課題を解決しようとする施策が主流であった。しかしながら本イニシアティブでは、応用においてボトルネックとなっている技術的課題を、上記6つの横断的技術概念に立脚した考え方で捉え直し、多様な分野の研究者が共通の科学的概念を持って研究に取り組めるよう意図している。これを実行して行くためには、化学・物理学・生物学・数学の研究者が連携するような、学術分野間の融合が必要である。更に、このような研究開発の成果を、各応用方面へ「分子技術」として進展させていくためには、基礎科学者と工学者、更には産業界との協力体制が重要である。

本イニシアティブは、文部科学省、経済産業省等が連携して推進する必要があり、また関連諸学会、すなわち、日本化学会、日本物理学会、応用物理学会、日本薬学会、日本分子生物学会等が連携し、学会間の壁を取り払って異分野融合を促進する活動が求められる。

以上のような「分子技術」の研究開発は、従来の化学や物理学、生物学、数学といった学術分野単独の知見では推進が困難であり、応用課題上のボトルネックを共通的課題として分野融合的に取り上げて、それを克服する体系を構築することが重要である。諸外国ではまだ積極的に意識されていないこのような戦略を、世界に先駆けて推進することで、国際的にリードできる可能性がある。

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