2009年3月
(戦略プロポーザル)生命機能のデザインと構築/CRDS-FY2008-SP-14
エグゼクティブサマリー

ライフサイエンスは、これまで生命を物質とその情報に分解して理解する解析的なアプローチを通じて、遺伝子、タンパク質、糖、脂質など生命を構成する要素についての膨大な情報と知識を蓄積してきた。今日では、それら要素を組み合わせることで生命が示す多様な機能を人工的に合成する研究アプローチが技術的に可能となりつつある。このような合成的アプローチは、生物生産や医療応用に革新をもたらし新しいエンジニアリングを生み出す一方で、科学的には従来の解析的アプローチとは逆の観点から生命の統合的理解を深めると期待できる。したがって本プロポーザルでは、合成的アプローチで生命に特有な機能をデザインし構築することにより、それら機能を最大限活用するための知識と技術の体系確立を目指した研究開発戦略を戦略イニシアティブとして提言する。

生命機能のデザインと構築は先駆的取組みにより成果が出始めており、欧米でも国による研究投資が活発化しつつある。わが国でもiPS細胞を始めとして重要な研究成果が出始めており、研究水準は現時点では欧米と同等以上のものがある。しかし、生命機能をデザインし構築するための新規エンジニアリング研究は世界でも萌芽的段階にあり、現在のところ企業が取り組むには技術と人材の面においてリスクが高い。また組換えDNA技術と同様に、生命倫理や社会的受容性への十分な配慮をしなければ、安全で信頼性の高い科学技術として発展させることができない。かかる状況下では、国がリスクを取り、安全かつ信頼性の高い研究開発を推進していくことが次世代のエンジニアリング基盤を構築するために必要である。

生命機能を利用する産業には発酵、食品、医薬品などがあり、わが国は高い技術力を有している。1970年代に開発された遺伝子組換え技術は生命機能の活用の可能性を拡大し、たとえば医薬品産業において組換えワクチンや抗体医薬など、従来製造できなかったような医薬品を数多く産み出して様々なイノベーションの源泉になった。また社会的には依然多くの課題が残っているものの、遺伝子組換え植物も農業生産の効率化に大きな影響を与えている。ゲノム解析が高速化され、個別の遺伝子やゲノムについての知識が10年前とは比べようもなく容易に手に入る時代にあっては、蓄積された遺伝子やゲノムの知識を幅広く活用することの重要性が高まってきている。

推進に際しては、倫理上の問題に十分に配慮し、大学や公的研究機関が中核となって知識や技術基盤の構築を進めつつ、並行して企業で技術開発を進めるようなオープン・イノベーション的体制で研究開発を効率的に進める必要がある。また、本プロポーザルの推進には異分野、異業種の多様な参画と各プレイヤーが有する知識と技術の融合的な利活用が必要不可欠である。これにより産学の連携を深め、経済界からの投資を喚起し、イノベーション創出につなげられる。

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