AI時代に向けたコンピューティング技術の革新

エグゼクティブサマリー

本報告書は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の研究開発戦略センター(CRDS)が令和8年3月31日に開催した科学技術未来戦略ワークショップ「AI時代に向けたコンピューティング技術の革新」の内容をまとめたものである。

近年、基盤モデルの発展とそれを用いた生成AIの普及により、「誰もが・いつでも・どこでも」AIを活用する時代の到来が現実のものとなりつつある。生成AIは文章や画像を生成するだけでなく認識・予測も行い、自動車やロボットの制御を高度化するなど、今後さまざまな場面で社会のスマート化を進展させていくことが期待されている。一方、人に代わってAIシステムが複雑かつ膨大な処理を自動的に進めるエージェント型AIが浸透することで、現行のコンピューティング環境では処理が追いつかなくなることも予想される。そして、膨大な処理は、継続的運用が困難となるほどの消費電力増大を伴う。このような状況に対処するために、高速化と省電力化を両立する革新的なコンピューティング技術の研究開発が求められている。

上記の問題認識を踏まえ、今後取り組むべき研究開発課題を、①「計算資源の連続体(データセンターとエッジをまたがる計算基盤)」を想定した分散コンピューティング&ネットワークアーキテクチャの研究開発、②データセンタースケールのコンピューティングシステムの研究開発、③高速性と省電力性をバランスさせたプロセッサの研究開発、④数理や物理を基礎とする計算・通信方式の研究開発、の四つに整理し仮説として示した。また、推進方法については、下記の内容を仮説として示した。

  • 日本の攻め筋として、特性や強みを生かして「実世界における統合システム」に注力すべきである
  • 「助走と横断」の仕組みづくりなど、大きな成果へつなげる仕組みの構築が必要である

本ワークショップでは、8件の話題提供と総合討論を通してこれらの仮説を検証し、内容の深化に向けて議論した。

まず話題提供では、仮説として示した四つの研究開発課題に沿って、「分散コンピューティングとエッジ協調」、「データセンターにおける高速化・省電力化」、「プロセッサにおける高速化・省電力化」、「データセンター/プロセッサを支える数理」について発表していただいた。

続く総合討論では、計算資源の連続体という捉え方を踏まえて「実世界における統合システム」を狙うにあたり、日本の産業で使えるようにAI計算と通信を一体化させたアーキテクチャを構築することが重要であるとの共通認識を得た。そのためには、ハードウェアからAIモデルを含むソフトウェアまでを統合的に扱うアプローチや、要件を定義する上でのワークロードに対する深い理解が不可欠であり、またデータ安全性の観点から、データを計算資源から分離した上で、ゼロトラストセキュリティを基本としたインフラが必要であるとの指摘があった。「助走と横断」の施策についても一定の理解が得られた一方、表層的な横断にならないように留意すべきとの指摘があった。また、アカデミアでの研究開発については、日本の成長に明確に資する実行が重要であるという意見があった。一方で、特定の流行に左右されない普遍的な原理を追求すべきである、あるいは10年後の実用化を目指すという目標設定は相当に保守的であり、チューリング賞を輩出するような歴史に名を刻む成果に結びつくことが期待されるという意見もあった。

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