スケーラブル熱輸送科学 ~ミクロスケール領域およびその集合体域の熱輸送から実装スケールへ~
エグゼクティブサマリー
本プロポーザルは、原子・分子のミクロスケール領域で蓄積されてきた熱輸送制御の科学を出発点として、スケールをまたがり実装のマクロスケール領域での熱輸送までつなぐ、新たなスケーラブル熱輸送科学の構築を提案するものである。実材料が有するミクロスケール領域の構造が集積した集合体構造を通しての熱輸送、さらにこのような構造を持つ材料が界面を介して接続されることにより発現する実装のマクロスケール領域での熱輸送、これらを一貫して一つの枠組みの中で扱うことを可能にする科学体系を目指す。
現代社会に不可欠なエネルギーは、資源の採取に始まり、エネルギー形態の変換を経て利用される。このエネルギー変換・利用の多くの過程で熱エネルギーが関与し、構造壁面など熱を伝える媒体を通過しての熱輸送過程が運用上の制約条件となっている。燃焼機器から熱や動力を得る際には、その熱輸送密度が機器の大きさを左右している。近年、再生可能エネルギーの活用と電化が推進され、またデジタル化社会に向けてAI 向けデータセンターが急速に増加している。自動車の電動化や半導体の高密度実装など、電気・電子機器の高発熱化が進んでおり、冷却密度の高い熱輸送技術が必要となっている。
熱輸送はマクロスケールでは材料物質は連続体として記述されるが、熱の担い手は原子・分子の振動や粒子運動などであり、ミクロスケールに立脚した熱輸送制御の研究が進められてきた背景がある。分子動力学や、原子集団振動を準粒子的に捉えるフォノンエンジニアリングなどの理論計算手法により、結晶構造中の振動伝播や散乱機構が明らかにされ、新規高熱伝導材料の設計指針も提示されつつある。カーボンナノチューブやグラフェンなどの新規に見いだされた物質が示す高熱伝導性の理解にも寄与してきた。
一方で、フォノンエンジニアリングをはじめとするこれまでのミクロ熱輸送理論は、理想的な規則性構造を前提とする場合が多く、実材料の集合体におけるミクロスケール領域の構造が集積した構造や内部の不均一構造に起因する熱輸送特性を十分に記述できていない。また実装時における材料と材料の間の界面を一糸乱れのない平坦な原子面同士の接続とみなすことには限界がある。近年、分子動力学や非周期系・界面を含む振動輸送理論など、不規則・非晶系へと適用範囲を拡張する試みも進展しているが、ミクロスケール領域から実装のマクロスケール領域まで一貫して展開可能な熱輸送科学は未だ確立されていない。
本提言は、これらの新たな理論を取り込みつつ、ミクロスケール領域からマクロスケール領域まで有効につながる「スケーラブル熱輸送科学」を確立することを目指す。そのために、以下の3つの研究開発課題の実施を提案する。
- 【研究開発課題1】材料の集合体構造における熱輸送理論の構築
- 【研究開発課題2】材料構造と熱輸送応答を結ぶ高品質データ基盤の構築
- 【研究開発課題3】階層領域を横断する熱輸送設計基盤の構築
これらの研究開発課題の実施には、多くの学問分野からの参画が不可欠であり、分野横断のプロジェクトとして推進する必要がある。また、分野横断的な研究開発を効果的かつ継続的に推進するためには、当該分野に強みをもつ大学や国立研究開発法人(国研)等が連携して中核的な機能を担い、研究全体の統合と方向付けを支える体制を整備することが有効である。このような中核的な機能のもと、産業界からの課題提示を取り込みつつ、各大学や国研等に連携講座や包括提携の枠組みを構築し、学術的価値にとどまらず産業的価値に貢献するターゲット設定をすることが望ましい。その際、固体内・固体間熱輸送、固体・液体・気体間の相変化を伴う熱輸送、輻射熱輸送など、物理機構の異なる熱輸送の形態ごとに強みを持つ機関が核となり、相互に連携することで、分野横断プロジェクトの実施を支えつつ、研究開発を継続的かつ戦略的に推進することが可能となる。
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