米国の民間イノベーション投資の構造変化 -STI政策の観点から見た民間研究開発投資のトレンド分析-
エグゼクティブサマリー
本調査報告書は、今後の科学技術・イノベーション(STI)政策立案の参考となる基盤的情報の提供を目的として、米国の民間企業による研究開発投資を含むイノベーション投資に着目し、その構造変化を分析したものである。
米国ではこの10年間で、デジタル分野を中心に民間研究開発投資が倍増し、ベンチャーキャピタル(VC)によるスタートアップ支援も大幅拡大するなど、イノベーションモデルに大きな構造変化が生じている。本調査では、「デジタル」と「スタートアップ」というトレンドに着目し、米国の民間研究開発・イノベーション投資の構造変化を数値とファクトに基づき分析した。
米国の民間研究開発投資の増加要因
〈民間研究開発におけるデジタル(ソフトウェア)開発の重要性の増大〉
- 日本の研究開発投資がこの10年間横ばいであるのに対し、米国では民間研究開発費の急拡大により研究開発投資が増加し、対GDP比でも近年は日本を上回る。
- 米国の民間研究開発投資増分は、IT産業が5割弱、医薬品産業が2割弱、その他サービス産業が約3割を占める。研究開発内容別では、デジタル技術(ソフトウェア)の研究開発が5割強を占めると推計される。
- 米国の民間研究開発費投資の拡大は、IT産業に加え、サービス産業におけるソフトウェア関連研究開発の増大によりけん引されている。
〈ビッグテック企業によるインパクト〉
- 2010年以降、ビッグテック企業の研究開発費は急増し、米国の民間研究開発投資増分への寄与は約4割と推計される。
- 米国民間企業の基礎研究費は増加傾向にあるが、民間研究開発費に占める割合は2010年以降ほぼ横ばい(米国、日本とも約6%)である。また、民間基礎研究費の約4割は引き続き医薬品産業が占め、大学への資金提供割合は約1%で減少傾向にある。これらの結果から、米国民間企業による基礎科学分野への投資という「科学とビジネスの接近」は、マクロ的・量的には必ずしも観察されない。
VC投資の拡大と民間研究開発投資の相互作用
〈VC投資とスタートアップ創出〉
- 世界的にVC投資が増加し、2021年ピーク時は米国の民間研究開発費を上回った。また、VC投資の約半数は米国内向けである。同時にユニコーン企業数も1,400社を超え、その半数以上を米国が占める。
- ユニコーン企業の約8割はAI関連を含むデジタル系企業であり、製造業系企業は2割程度と推測される。近年はVC投資におけるAI関連投資が金額ベースで4割程度に達している。
- ディープテック系企業の割合は非常に小さいものの、宇宙、量子、核融合などのフロンティア領域で重要な役割を担いつつある。
〈VC投資と民間研究開発投資との相互作用〉
- VC投資の増大に対し、米国の民間研究開発における中小企業の割合は増加していない。このことから、大企業による民間研究開発とスタートアップへのVC投資が相互作用しながら発展・拡大していることがうかがえる。
- 2013年以降の米国の民間研究開発費増分の8割は、カリフォルニア州、ワシントン州、マサチューセッツ州、ニューヨーク州の4州に集中しており、各州の研究開発投資増分はユニコーン企業創出数と高い相関を示す。
- 地域の産業基盤を背景とした大企業とスタートアップの地域エコシステムが、研究開発投資とVC投資を呼び込み、その相互作用によってさらなる集積と拡大を生み出している。
今後のSTI政策の検討に当たっては、米国をはじめとする世界の「デジタル」と「スタートアップ」というイノベーションの潮流を踏まえつつ、日本の社会・経済システムや産業構造の特性を考慮することが重要である。日本の強みを活かしながら課題を克服し、日本型イノベーションモデルの構築を目指していくことが期待される。
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