気候変動予測に関する研究基盤の国際潮流
~米国、欧州、中国と日本の比較~

エグゼクティブサマリー

気候変動予測を支える国際的な研究開発基盤は、近年、計算アーキテクチャおよびデータ流通の高度化を背景として、大きな転換点を迎えている。特に、物理モデルと人工知能(AI)の統合が進み、その実行基盤としてGPUによる高速計算が急速に普及し、従来の数値シミュレーション中心のアプローチから、データ駆動型の予測技術が浸透している。また、国際的なデータ共有においては、FAIR原則が事実上の標準となり、APIを介してデータを直接扱う「クラウドネイティブ」な解析環境が広がっている。

本調査では、米国・欧州・中国の研究開発基盤について、観測・モデル・計算資源・データ基盤・人材育成等の視点から比較検討を行い、わが国の強みと課題を整理した。米国ではNOAA、NASA、DOE等が連携し、観測・モデル・AI計算環境を統合する体制が整備されている。欧州ではECMWFおよびESAを中心に、気候デジタルツイン構築に向けた大規模プロジェクト「Destination Earth(DestinE)」が進展している。中国では、中国気象局(CMA)が国家観測網と民間クラウド基盤を戦略的に連携させ、AI活用を研究から運用まで広範に展開している。加えて、欧米を中心とする国際研究連携の下では、観測データや気候モデルが共通仕様で接続され、解析結果が共有・再利用される環境が整備されつつある。このような接続性と相互運用性の向上は、科学的知見の創出や検証の高度化を支える基盤となっている。

一方で、わが国は、衛星観測(EarthCARE、GOSAT等)や地上観測網により得られる観測データ、高精度地球システムモデル(NICAM、MIROC、MRI-ESM等)、スーパーコンピュータ「富岳」(NEXT含む)や地球シミュレータ(ES4)に代表される計算資源など、世界でも屈指の研究基盤を有する。これらは、AI予測モデルの信頼性を担保する高品質な学習データの生成源としても重要な価値を有している。しかし、研究(モデル開発)、運用(気象業務)、データ基盤(DIAS)が組織的・物理的に分離して整備されてきた結果、国際的に主流となりつつある「データ接続性」の潮流と比較すると、わが国の研究開発基盤には改善の余地が認められた。具体的には、機械判読性の不足、API連携の限定性、計算・データ基盤の分離に伴う転送負荷、実運用移行(R2O)における課題などが、研究開発基盤のさらなる高度化に向けた論点となっている。さらに、基盤実装を担う専門人材(RSE)の評価体系が十分に整備されていないことも、継続的な基盤高度化を阻む要因となっている。

また、次期の国際比較実験であるCMIP7では、Assessment Fast Track(AFT)と呼ばれる機動的な実験枠組みが導入され、政策判断に資する迅速なデータ提供が重視されている。国際データ基盤であるESGFによるデータ公開強化に加え、機械判読性の高いData Request API等、AI・機械学習の利用を前提とした環境整備も進められている。

本調査で整理した知見は、わが国の研究開発基盤が国際潮流に適応しつつ、次世代の気候変動予測において引き続き高い貢献を果たすための検討に資する基礎情報となる。

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