研究評価の国際動向
エグゼクティブサマリー
2010年前後から、欧米の研究者コミュニティでは研究評価における定量的指標の偏重が強く批判されるようになった。一つの研究成果を意図的に分割して複数の論文にする戦略的な論文投稿や、研究不正へのインセンティブにつながりかねないという懸念が共有されてきたためである。2013年には「研究評価に関するサンフランシスコ宣言(DORA)」が公表され、従来の研究評価システムの問題点を指摘し改革を求める国際的な枠組みを形成してきた。大学、ファンディング機関、出版社など多様な組織や個人が宣言に署名し、賛同を示してきた。2020年前後を境に、研究評価改革の動きは理念的な訴えにとどまらず、具体的な研究評価手法の開発や新たな仕組みの試行・効果測定へとシフトしている。
同時に、近年では大学などの高等教育・研究機関に対し、教育・研究に加え、社会課題・地域課題へ積極的に取り組むことが求められている。その中で、研究の社会的インパクトをどのように評価するかが課題となり、制度化が模索されている。また、社会的インパクト評価は、研究評価改革と密接に関連した形で推進されてきた。
研究評価改革の議論においては、2013年に公表されたDORAを皮切りにさまざまな組織が、研究評価において既存の定量的指標、特に学術雑誌に基づく指標を利用することに対し警鐘を鳴らす宣言や合意文書を公表してきた。2022年にはサイエンス・ヨーロッパ(ファンディング機関や研究機関の連合)が『研究評価改革についての合意文書』を発表し、署名機関の連合体The Coalition for Advancing Research Assessment(CoARA)が発足した。署名機関へ評価改革に向けた実際の活動を求めつつ、人文学や社会科学の評価枠組みの策定、キャリア初期の研究者に適した評価手法の検討など、実務的な改革に踏み込んだワーキンググループでの活動が進展している。南米では2019年にラテンアメリカ社会科学評議会内に、研究評価を扱うフォーラムFOLEC-CLACSOが立ち上がるなど、研究評価改革の流れは地理的にも広がりを見せている。
近年では、大学等研究機関に対して第三の使命としての社会貢献が強く期待されるようになっていることから、研究機関や研究活動の社会的インパクト評価が改めて注目を集めている。英国の大学評価制度であるResearch Excellence Framework(REF)など、評価制度の中に社会的インパクト調査が導入されている例もある他、研究プログラム、プロジェクトを対象とした評価手法も開発が進んできた。また、評価の利用目的も多様であり、REFのように研究機関の基盤的経費の配分に用いられる場合や、オランダのStrategy Evaluation Protocolのように研究ユニットや研究機関の学習と改善に資する仕組みとして活用されている例もある。
本報告書では、こうした国際動向を踏まえ、さらに具体的な導入や運用状況を把握するために、「研究機関」と「研究課題」を対象とする評価に着目した。また、「実験的ファンディング」や研究課題評価への「AIの活用」といった新しい手法の試行・導入事例についても記述した。
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