コロナ禍を機にあらためて実感した
科学と社会をつなぐ「サイエンスコミュニケーション」の重要性
そうした科学と一般社会との分断が顕著になったのが新型コロナウイルス感染症の世界的流行だったと桝さん。未知の病気に対する不安やワクチンに関する不確実な情報が社会全体を覆い、テレビ局アナウンサーだった桝さん自身も「非常に難しい問題だった」と吐露しました。大学で合成生物学に関するサークル活動に参加している末松さんも、「遺伝子を変えて新しい生物をつくるといった研究は、誤った方向に進んでしまうと非常に危険です。遺伝子組み換え食品がその典型で、社会に対するインパクトが大きい分、誤解を招かないよう科学リテラシーを高めることは科学者の使命だと感じています」と共感。林さんは「『RNA』『DNA』という用語は高校の生物の授業でも扱うのに、どうしても『科学=勉強』のイメージが先行して感覚的に拒否してしまう、または大学受験後に忘れてしまって日常生活との関連性に気づかない人が多いのかなと思います」と指摘しました。
ただ、「僕たちは、突然何かが生まれるのではなく徐々に洗練されていく科学の過程を見て理解することができる立場だけれど、これだけ科学そのものが高度で複雑化してくると、『わからない』と言ってパニックになる人がいるのも仕方がないのかもしれない。でも、これで良いはずがないとも思います」と齊藤さん。そこで、科学と社会をつなぐ役割に話題が及ぶと、桝さんは「まさにそれこそが私の研究テーマです。単に話がうまいだけではなく、伝える相手に合わせて内容を調整し話せることが特にサイエンスコミュニケーターには求められると思います」として、科学者やメディアが社会に歩み寄りながら発信し続けていくことの重要性を説きました。続けて齊藤さんは、社会全般の科学リテラシーを向上させるためには、科学者やアカデミア、メディアだけでなく、製品を世に出していく企業もその責務をともに担って欲しいと提案しました。