国際科学技術コンテスト

科学オリンピックだより 2009 vol.2 雄の“美しさ”は雌しだい!?

INTERVIEW

進化論のいま、これから。

日本における進化論の第一人者である長谷川 眞理子先生に、この分野に興味を持ったきっかけから進化論の今後の展望まで、お話を伺いました。

理学博士 長谷川眞理子

総合研究大学院大学教授
葉山高等研究センター
理学博士 長谷川眞理子氏

“ドリトル先生の世界”を追求する道へ

 私がこの道に進むきっかけとなったのは、大学2年生の時に受けた菅原 浩先生の講義でした。動物学の先生で、定年退職を迎えた最後の講義で動物の行動と進化についてのお話をしてくださったのです。ミツバチの太陽コンパスの話や鳥のヒナの刷り込みの話など、身近な動物の行動に秘められた進化のメカニズムを初めて知り、「絶対にこの研究をしたい!」とすっかり虜になりました。幼い頃に大好きで擦り切れるほど読んだ本『ドリトル先生シリーズ』のように、たくさんの魅力的な動物が登場する世界がそこにはあったのです。

 進化とは、世代を経て生物が変化することです。進化が起こる原因は3通りあり、ひとつは日本人の遺伝学者・木村 資生先生が提唱した中立説。小さな集団において、ある性質がまったくの偶然で世代を経て広がっていく現象をいいます。もうひとつがダーウィンの提唱した自然淘汰の理論。集団において異なる性質が混在する場合、より高い生存率と繁殖率で環境に適応した性質が世代を経て広がっていく現象をいいます。最後のひとつが性淘汰の理論で、こちらもダーウィンが提唱した学説であり、繁殖に有利な性質が世代を経るごとに顕著になる現象をいいます。自然淘汰が地理などの物理的環境によって起こるのに対し、性淘汰は雄と雌の関係という社会的な環境によって起こるのが特徴です。

近年は性淘汰における異性間淘汰の研究が盛んに行われています。コクホウジャクの尾の長さに関する実験をはじめ、グッピーなどはオレンジ色の部分が多い雄ほど雌に好まれ、男性ホルモンも多いという実験結果が報告されています。

図:グッピーの雄

グッピーの雄

見て経験することは、世界を知る原点

1900年以降、遺伝学の急激な進歩によってそれまで推測でしかなかったことが実際に研究できるようになりました。いずれ、ゲノム情報から得た大量のデータによる進化の再現も可能になることでしょう。しかし、ミクロのレベルで研究が進む一方で、マクロのレベルとなる生き物が持つ様々な特徴、いわゆる表現型がどうして現れてくるのか、そのプロセスはまだほとんどわかっていません。さらにひとつの種だったものがどのように2つの種にわかれ、これほどまでに多様な生物が存在するようになったのかも、わからないことばかりです。物理的な隔離以外に、同じ場所でも雌の選り好みによって種の分化が起こり得るかどうかは、いま大いに論争されているテーマのひとつです。

理科離れが叫ばれて久しい現代ですが、理科に限らず勉強は本来、様々なものに驚き、不思議に思い、感動する気持ちから始まるものなのだと思います。だからこそ発見の宝庫である野山の自然の中でこどもが遊ぶ機会が少なくなっていることが残念でなりません。見て、経験することは、世界を知る原点なんです。だから学校の中だけでも、こどもたちが様々なものに自由に触れて遊べる環境をできるだけ整えてあげてほしいと思いますね。

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