国際科学技術コンテスト

科学オリンピックだより 2012 Vol.12女子中高生を対象にした国際科学オリンピック ワークショップ ~環境に優しい有機化学反応~

 さて,国際化学オリンピック第41回イギリス大会の実験問題として出されたこの問題(一部省略してありますが)は,反応時に有機溶剤を使わない,有機合成反応です。反応の種類としては,「炭素-炭素結合生成反応」,反応の名前は「アルドール反応」ですが,その中の「交差型」の属するもので,結構複雑な反応です。また,溶剤を使わないということで,実は溶媒和とか,「物質が物質に溶ける」ということについてもよく知らなければなりません。さらに、この反応がうまく行っても,異性体といって,分子を構成する原子の種類も数も同じだけど,よくみると構造に違いがあるものが複数できてもおかしくなく,どれが(主に)できているかを確かめる必要もあります。

 ということですが,今回は,とにかく有機合成をやってみよう,そのとき,簡略化できる操作は簡略化して進めようという試みです。化学実験はいろいろな操作が必要です。それを正確に,間違いのないように終わらせよう,ということばかり考えるあまりに,肝心の物質の変化を観察することがおろそかになってしまったら元も子もありません。

 さて,実験の最初,1-インダノンと3,4-ジメトキシベンズアルデヒドは固体状態ですり混ぜると,粘度の高い液体になります。ここまでは確かに溶剤を使わなくてすみました。

 次にこの液体に,やはり固体の水酸化ナトリウムを加えます。この段階で「アルドール反応」が進行します。(ここでは本文の最後の注釈に示した反応がおきます。)

 反応が進行すると今度は固体になります。ここが大事で,一生懸命かき混ぜなければいけません。この労力で,どのくらいたくさんきれいなものがとれたか,という有機合成化学の評価に差が出ることになります。元々粘っこい液体が固体に変わるということは,中の分子たちは非常に動きにくくなります。反応で生じた熱がある部分にこもって過熱状態になることもあります。ある部分では未反応の分子が足止めを食らったり,ある部分では高温でさらにいろいろな反応が起きたり,ムラが生じることになります。それと比べると,溶液中の反応は分子と熱の移動(拡散)が容易という利点があるのです。

 カチカチになった固体は,2つの原料物質と水酸化ナトリウムからできたいろいろなものの混合物です。通常の有機合成の操作では,溶液に溶けているものであれば,それと混じらない溶剤で振って洗い,固体が出てくれば濾過で液体部分と分けることを行います。ここでは,固体に塩酸を混ぜてかき混ぜ,混ざり物の中から塩基性成分を塩酸に溶かしだします。固体を細かくすりつぶして丹念に洗ってあげると,残った固体の主な成分が目的物ということになります。これをお茶漉しの不織布で濾して固体を集めます。後は,それを紙で挟んで塩酸とそこに溶けている物質を固体から取り出します。

 ここで得られたものはまだ純度が不十分な粗い物質,粗生成物と呼びます。これは,化学オリンピックの実験試験のように再結晶をすることで,十分に純度の高いものになっているはずです。今回のイベントでは再結晶は行わず,薄層クロマトグラフィーでどの程度の混じり物になっているか,余計なものが検出できない程度にきれいになっているか確認しました。

 酢酸、アセトンなどの簡単な構造の,小さな有機化合物から炭素数の多い複雑な有機化合物を作るには,炭素-炭素結合を新たに作る必要があります。アルドール反応は炭素-炭素結合を作ることができるので,大きな有機化合物を生成する基本的な反応の一つです。

 ここ10数年,「グリーンケミストリー」,「環境に優しい化学」などということば,化学の手法を変革しようという動きが盛んです。

 通常アルドール反応を行うのには適切な有機溶媒を用いますが,使用する溶媒の量を極力減らし環境に配慮しようという点が,今回の実験のポイントです。国際大会で実験結果の順番付けは,有機合成化学の実験における通常の評価点,目的の物質だけ(=純度)を,たくさん合成すること(=収量)ができたか,の2点が審査されました。

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