取材Note

2024年度採択東京海洋大学のプロジェクト

取材日
2025年9月9日
取材場所
東京海洋大学 品川キャンパス
若手人材交流コース
コース詳細

ASEANにおける持続的養殖生産に向けた魚病対策共同研究の推進能力向上プログラム

日本側実施主担当者:
佐野 元彦(東京海洋大学水圏生物生産工学研究所 リサーチコーディネーター 教授)
ASEAN側実施主担当者:
Muhamad Gustilatov(ボゴール農科大学(インドネシア) 講師)
Eukote Suwan(カセサート大学(タイ) 講師)
Emelyn Joy Gallego Mameloco(フィリピン大学ビサヤ校 研究員)
Mohamad Tamarin Bin Mohamad Lal(マレーシアサバ大学 准教授)

東京海洋大学水圏生物生産工学研究所の感染症制御部門では、インドネシア、タイ、フィリピン、マレーシアの若手研究者らと日本の若手研究者、大学院生が一丸となって、持続的な養殖産業に欠かせない魚病対策に関する意欲的なプロジェクトを進行中です。

日本では、高度成長期の1955年頃から飛躍的に拡大した養殖産業に伴い、魚病対策に関する研究が発展しました。それはまさに、世界を先導してきたとも言えます。 一方、現在、急速な成長を遂げるASEAN諸国において養殖産業は今や右肩上がりの産業で、魚病対策には多くの研究者から熱視線が注がれています。 日本側実施主担当者の佐野元彦教授は、「日本の養殖産業は、ブリ、タイ、ヒラメ、エビなど多様な魚種にわたっており、それが、サケ類中心の欧米と比較して、研究面でもASEAN側のニーズにマッチしている」と語ります。

本プロジェクトでは、「日本が蓄積してきた魚病対策研究のノウハウを実験や解析の実践によってASEAN側に確実に伝えること」「本プロジェクトによって得られた成果を、日本魚病学会秋季大会(2025年9月11日~9月12日、岡山理科大学今治キャンパスにて開催)で発表すること」を目標としています。そして、さらに大きな目標として掲げているのが、「双方の若手研究者同士が交流を深めることで、世界の養殖産業の持続的な発展に貢献すること」です。そのため日本側からは、若手教員のほか、特に優秀な博士課程の大学院生が推薦され、参加しているとのことです。

具体的な共同研究のテーマは「病原細菌ゲノム解析」と「抗体による白血球解析」の2つ。限られた期間内で成果と展望を見いだし、ASEAN側にとって新たな知見を得られるという観点から、日・ASEAN双方で協議をして選択されました。

ASEAN4カ国の研究者たちは2月下旬から4月中旬にかけて約50日間、日本に滞在して日本側若手教員・大学院生と一緒に実験と解析を実践。4月16日には、その成果が東京海洋大学の教員・大学院生向けに発表されました。(東京海洋大学HP

6月には、日本側の若手教員・大学院生が、それぞれ分担して、ボゴール農科大学(インドネシア)、カセサート大学(タイ)、フィリピン大学ピサヤ校、マレーシアサバ大学を訪問し、さらに実験・解析を継続。7月にはオンラインにて、目標とする学会発表に向けて要旨を固めるための議論を重ねてきたということです。

取材日当日、東京海洋大学の会議室を訪ねると、2回目の来日をしたASEANの若手研究者たちが、いよいよ目前にせまった「日本魚病学会秋季大会」での発表に備えて、一人ずつ予行演習を行っていました。

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熱心な質疑応答が佳境に入るなか、休憩時間に皆さんから、日本とASEAN諸国を行き来して取り組んでいる本プロジェクトによる研究活動について、率直な感想を聴くことができました。

●Muhamad Gustilatov 博士(インドネシア)

私にとって印象的だったのは、先生や研究室のメンバーたちの親切さです。私はここで新しい家族を得たように感じます。彼らから実験分析の方法を学び、素晴らしい議論や提案を受けました。実験で新たに得た知見や洞察については、私の学生たちにも教えています。

●Eukote Suwan博士(タイ)

私は、大学学部生の時に免疫組織化学について学んだことはあるのですが、実際の現場や研究での経験はありませんでした。このプログラムは、実践的な知識と技術を学ぶ機会を与えてくれました。ここで得た技術と知識を私の学生たちに教えるのが楽しみです。

●Emelyn Joy Gallego Mameloco さん(フィリピン)

現在、フィリピン大学にて修士論文の執筆を進めています。私の大学では、日本製の機器が導入され、設備的に大きな違いはないのですが、フローサイトメトリーなど、あまり活用されていないものがあります。それは、扱える人がいないからです。ここで学んだ知識を活かせば、これまで外部の企業に頼っていたサンプルの分析を自分たちで迅速に行えるようになります。

●Mohamad Tamarin Bin Mohamad Lal博士(マレーシア)

2016年にさくらサイエンスプログラムに参加しました。当時の経験はまさしく、私の眼を開かせるものでした。その後、教員となり、何人かの学生たちを同プログラムによって日本に送り出しています。Y-tecはさらに知識を深化させるもので、研究の新しいアプローチを学びました。今回新たに参加する機会が得られたことに感謝しています。

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左からMuhamad Gustilatov 博士(インドネシア)、Eukote Suwan博士(タイ)、Emelyn Joy Gallego Mameloco さん(フィリピン)、Mohamad Tamarin Bin Mohamad Lal博士(マレーシア)

●日本の若手教員・大学院生の皆さんからの声

  • ・学生として留学生の方と交流する機会は今までにもあったのですが、研究者として向かいあったのは今回が初めてのことです。彼らから学ぶこともたくさんあり、良い関係を築くことができたことが嬉しいです。
  • ・海外の研究者と顔を合わせて実験作業を行い、帰国後にはデータ解析などをオンラインで行うという、国をまたいでの研究、国際共同研究のプロセスを、博士課程1年生で経験できたことは、とてもありがたいことだと思います。
  • ・バックグラウンドが異なる海外の研究者の皆さんとの研究にあたって、とにかく対話をすることを意識しました。そして、いいなと思った方法があれば、どんどん試して、取り入れました。良い経験です。
  • ・マレーシアで養殖場を見学させてもらい、その規模の大きさに圧倒されました。今後の研究の方向性が変わるくらい、意識が変わり、大きな出来事でした。
  • ・日本の養殖と海外の養殖では、規模も魚病の種類も違います。本プロジェクトを通じて、課題をどのように解決すべきか、アプローチの方法、ヒントが見えてきたような気がします。
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最後に、佐野教授に、ASEAN諸国の研究者との共同研究に向けた今後の展望を伺うと、
「ASEAN諸国との共同研究を発展していくためには、細く長いネットワークを確実に紡いでいくことが重要。実際に研究室に来て交流し、信頼関係を築いた海外の学生や研究者たちとは、帰国後にもその信頼関係を維持しながらお互いに協力し合うことができる。そして、彼らが母国で教員となれば、その学生たちがまた、留学生として研究室を訪れる。そうした循環を繰り返し、ネットワークを維持していくことで、日本・ASEAN双方の若手研究者が成長し、養殖産業の持続的な発展に貢献することに繋がる。今後は、このネットワークをさらに強化して、本格的な共同研究へ繋げていきたい」
と話してくださいました。

本Y-tecプロジェクトによる若手研究者同士の交流が、世界の持続的な養殖産業を支える確実な第一歩となることが、大いに期待できそうです。

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全員で記念撮影
後列一番右が実施主担当者の佐野元彦 教授
前列左から3番目のCadiz Rowena Estevaさんは、2019年度に実施された「さくらサイエンスプログラム」に参加したことがきっかけとなり、フィリピン大学ピサヤ校から東京海洋大学博士課程に進学。本Y-tecプロジェクトでは、日本側の参加者として活躍しています。

<後日談>

目標としていた「日本魚病学会秋季大会」での発表を、9月11日に無事に終えたことが、眩しい笑顔の写真とともに報告されました。

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