取材Note
2024年度採択東京科学大学のプロジェクト
- 取材日
- 2025年5月21日
- 取材場所
- 東京科学大学 大岡山キャンパス
- 若手人材交流コース
- コース詳細
再生可能エネルギーの活用に資するプラズマ・直流電力系統技術の理解と習得
東京科学大学工学院 竹内研究室は、ラオス国立大学工学部の教員4名・大学生8名と、NEXUS若手人材交流プログラム(Y-tec)による意欲的な研究交流プロジェクトを進行中です。
ラオスでは都市部以外では電気が通っていないエリアが多くあり、安定した電力供給のために、水力発電に頼らない「再生可能エネルギーの導入」が推進されています。中でも太陽光発電は莫大な装置を設置することなく、独立したコミュニティーに電力を供給できるため、ラオスの状況とマッチしてその潜在的な発展性が見込まれています。しかし、太陽光発電に必須となる直流電力系統の専門知識を有する国内の技術者が圧倒的に不足しているのが現状です。さらに、産業や農業の発展に伴った河川の汚染も深刻です。太陽光発電で余った電力を、プラズマによる水処理技術へ活かすことへの期待が高まっているものの、プラズマ工学を専門とし、指導することができる国内の研究者がまだ存在していません。
本プロジェクトでは、竹内研究室が得意とするプラズマの応用による高度水処理技術や直流電力系統の専門知識・技術を、ラオス国立大学が進める再生可能エネルギーに関する研究に導入し、その相乗効果としてラオスの社会問題解決に貢献することを目指しています。
実施主担当の竹内希准教授は、2020年からJICAによる「ラオス国立大学における工学教育の体制強化を行う支援プロジェクト」に参画し、プラズマによる水処理のデモンストレーションを行うなど、積極的にラオス国立大学の教員との研究交流を深めてきました。「プラズマを用いた高度水処理技術」は、ラオス国立大学の卒業研究プロジェクトにもなり、同テーマに関心を寄せる多くの学生たちから支持を集めています。
その学生たちの中から、教員によって推薦された、特に優秀な3年生~4年生の学生が、今回のY-tecによるプロジェクトに参加しています。
大学院生ではなく、あえて大学生を参加者としていることについて竹内准教授に尋ねると、「ラオスでは、大学卒業後、大学院に進学することは稀であり、修士号取得を希望する者は、電力会社などの企業に就職して働きながら二足のわらじで努力をするケースが一般的であること」さらに、「ラオスでは学術的な研究が少なく、国内で博士課程を履修することができない」という事情を話してくださいました。そのため、本プロジェクトでは、まだ博士課程が設置されていないラオス国立大学の学術研究のステージをアップさせることも、将来的な目標としているとのことです。
本プロジェクトではラオスの教員・大学生の皆さんを2回に分けて招へいするように計画されています。1回目の招へいは2024年12月。オゾン生成の手法などを実践し、オンラインで適宜連絡をとりながら、帰国後もラオスにて実験を継続してきました。

2回目となる今回の招へい(2025年5月)では、内容をさらに発展させて、プラズマを生成させるための温度コントロールに関する実験などに着手。取材日当日には、ラオスの大学生から、これまでの実験で得られたデータについての発表が行われていました。最終的にとても興味深い結果が導き出されたとのことで、竹内研究室メンバーとのディスカッションも、大いに盛り上がっていました。


また、竹内研究室の大学院生による、直流遮断器を用いた直流遮断実験についての説明や、同フロア内にある千葉・清田研究室にて、藤井勇介助教による省エネルギー、温室効果ガス削減に貢献する革新的モーターの研究開発についての説明を熱心に聴く姿も見られました。



竹内准教授と大学院生らは、来月、ラオスを訪問し、その後ラオスにて継続される研究の進捗を確認する予定です。
ラオスの教員に今後の展望を尋ねると「日本から得た新しい知識や技術によって、研究がより良いものに深化している。この機会を活かして、今後さらに一歩ずつ段階を踏んで、充実した共同研究が行えるように発展させていきたい」という回答を得ました。さらに、大学生からは「大学卒業後、チャンスがあれば日本で学びたい」という前向きな意志を聞くこともできました。
本プロジェクトには、竹内研究室に所属して博士号取得を目指す、ラオス国立大学出身の留学生ソンラター・アヌバーブさん(通称パオさん)も日本側メンバーとして参加しています。2020年当時、同大学の教員で修士号をもつパオさんは、竹内准教授とJICAのプロジェクトを通じて知り合い、東京科学大学の博士課程への進学を決意したとのこと。「プラズマの研究に特に興味があったので、竹内研究室で学びたいと思った」と話すパオさんは、博士号を取得後には、母国にて教員という立場から、日本の大学で修士課程、博士課程を履修することを奨励するキーパーソンになるかもしれません。
竹内准教授は、ラオス国立大学の教員が推進している自国の需要に応じた研究からは、学ぶことが沢山あり、それを、竹内研究室のプラズマ研究と組み合わせることで、何ができるか模索することは、とても楽しいことだとも話してくださいました。
本プロジェクトが日本とラオスの双方にとって価値のある取り組みとなり、頭脳循環の構築に向けた好事例となることが大いに期待できそうです。

前列右から7番目が実施担当の竹内希准教授。同右から5番目がパオさん。