取材Note

2024年度採択理化学研究所のプロジェクト

取材日
2025年5月2日
取材場所
理化学研究所 和光キャンパス
若手人材交流コース
コース詳細

ビッグファシリティとマテリアルズインフォマティクスで創出する循環型蓄エネルギー材料

理化学研究所仁科加速器科学研究センター核構造研究部では、マレーシア国民大学(UKM)およびマレーシア科学大学(USM)の若手研究者らとともに、マレーシアのグリーンテクノロジーを発展させる国際連携体制の地盤強化を目指した研究交流プロジェクトを実施中です。日本が誇るビッグファシリティー(大型加速器施設やスーパーコンピューターなど)と、マレーシア側が得意とするマテリアルインフォマティクス*を融合した研究を推進することで、マレーシアの地産資源(パームなどから産出される農業廃棄物など)を有効活用した循環型蓄エネルギー材料を創出し、SDGsに貢献するプロジェクトです。

*マテリアルインフォマティクス
機械学習や生成AIといった情報科学を用いて、有機材料、無機材料、金属材料など、さまざまな材料開発の効率を向上させるアプローチのこと。

2024年12月にキックオフした本プロジェクトは、現在までリモート会議による情報共有を計画的に行うことでお互いの研究について理解を深め、より具体的な共同研究戦略に踏み込んだ検討を加速してきました。2025年4月にはマレーシアの参加研究者10名のうち5名が順次来日。プログラム実施主担当者渡邊功雄上級研究員をはじめ、東北大学金属材料研究所 量子ビーム金属物理学研究部門 谷口貴紀助教、梅本好日古博士研究員ら日本側研究者とともに、国内のスーパーコンピューター、大型加速器施設を訪れ、実際にデータの収集や解析手法を学んだとのことです。

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理研にてディスカッションの様子。
東北大学金属材料研究所 谷口貴紀助教と梅本好日古博士研究員はリモートにて参加

取材日当日は、UKMの研究者3名と直接対面することができました。

初来日となるNurul Asikin Binti Mijan博士は、スーパーコンピューターや最先端材料分析装置等に初めて触れた驚きと、自国への導入を真剣に働きかけたいという希望を興奮ぎみに語りました。また、Lam Su Datt博士は、今回の来日の成果として、マレーシアで大量廃棄されている鶏の羽毛が、蓄熱材料になると確信できる成果を得られたとのこと。今後の展開が大いに期待できる結果を報告しました。

本プロジェクトのマレーシア側の実施担当者Wan Nurfadhilah Binti Zaharim博士は、渡邊上級研究員が自らの研究に関連して以前に注目していた論文から縁が繋がった研究者であり、過去10年にわたり交流を深めています。2023年度・2024年度に理研で実施した「さくらサイエンスプログラム」ではマレーシア側実施担当者として、プログラムに参加する優秀な大学生・大学院生や若手研究者の選抜から引率までを担当。同プログラムに参加した「さくら同窓生」たちが、将来留学生や研究者としての再来日を希望して、さらに意欲的に学業に取り組む帰国後の様子を教えてくれました。そして、日本とASEANとの頭脳循環、持続可能な研究協力関係を強化するためには「若い人材をいかにアカデミックに引き上げていくか」が重要であり、そういった意味で「さくらサイエンスプログラム」と「Y-tec」がそれぞれに重要な役割を担っていることを強調しました。

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マレーシアUKMの研究者たち。
左からLam Su Datt博士、Nurul Asikin Binti Mijan博士、Wan Nurfadhilah Binti Zaharim博士

渡邊上級研究員は、「日本とASEAN諸国では、文化的な側面のほか、教育システムや考え方がとても違っている。日本において容易に行っている論文へのアクセスがASEAN諸国では極めて困難。また、ASEAN諸国では実験実習を学部生時代から積み重ねていないことも大きい。そのため、かなりのギャップに戸惑うことは確かなのだが、それを理解することが重要と教えている。彼らのパッションパワー、これをやりたい!という情熱は大変すばらしく、日本人学生の多くが追いつくことができない。」と語ります。

マレーシアの研究者たちに、自国との環境の違いによる苦労について改めて尋ねると、全員から「日本での研究は、そのスタイルとか、規律や倫理など、マレーシアとはまったく違う部分も多々ある。でも、それは新しい発見であって、決して困難なことではない。」という回答を聞くことができました。彼らが、体験することすべてをポジティブにとらえ、前向きに日本との研究交流を楽しんでいる姿が印象的でした。

取材Note写真3 取材Note写真4

また、本プロジェクトに参加するマレーシアの研究者10名中7名が女性研究者だとのこと。ここ10年ほどで急速に女性の比率が増加し、現在では大学に所属する学生・職員の約7割を占めるという事実は日本側にとって衝撃的ではあるのですが、マレーシア側から見ると、逆に日本では女性研究者が極端に少ないことを不思議に感じているようです。

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5月12日には、日本側の研究者メンバーがマレーシアを訪問する予定とのこと。
グリーンテクノロジーの発展を支える「ユニークな若手研究者集団」を形成することを最終的な目標に掲げた本プロジェクトの今後の進展に心から期待します。

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理研研究室前にて記念撮影。研究室所属のタイ人学生(Y-Tec日本側メンバー)
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