
事後評価
平成28年4月公開
研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)
【FSステージ】探索タイプ事後評価一覧(平成26年度終了課題)
【FSステージ】探索タイプ事後評価一覧(平成26年度終了課題)
- 1.事後評価の趣旨
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研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)【FSステージ】探索タイプでは、大学等の基礎研究のうち実用化に向けた研究開発へのスムーズな移行を目指す研究成果を対象に、企業化への視点に立脚して技術移転の可能性を探索する研究開発を支援することを目的としています。
本事後評価は、終了した課題毎に研究開発の実施状況、研究開発成果等を明らかにし、今後の成果の展開及び事業運営の改善に資することを目的として、「研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラムの実施に関する規則」に基づき実施したものです。 - 2.評価対象課題
- 【FSステージ】探索タイプ 22課題[平成26年度終了課題]
- 3.評価者(研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム PO、分野別評価委員会委員長)
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澤 源太郎 株式会社NTTデータ 特別参与 横井 秀俊 東京大学 生産技術研究所 機械・生体系部門 教授 浜田 恵美子 名古屋工業大学 産学官連携センター 教授 穴澤 秀治 一般財団法人バイオインダストリー協会 先端技術・開発部長 半田 宏 東京医科大学 産学連携講座 「ナノ粒子先端医学応用講座」 特任教授 松田 譲 協和発酵キリン株式会社 名誉相談役 ※評価者の所属・肩書は評価実施時のものとなります。
- 4.評価結果
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※機関名・役職名は評価実施時のものとなります。【グリーンイノベーション】課題名称 研究責任者 コーディネーター 研究開発の概要 事後評価所見 ソフトバイオマス竹からのバイオリファイナリ技術の開発 東京電機大学
椎葉究東京電機大学
志田忠一竹は、草木科で成長が早いという特徴があり木材と比較してリグニン含量が低くホロセルロースが多いなどの利点がありバイオエタノールを生産するパイロットプラントも建設されている。しかし、前処理と糖化に硫酸を用いるために設備費用が高い点や硫酸回収施設や廃硫酸設備に非常にコストがかかる点から実用化されていない。本研究では、竹を総合的に利用するために、付加価値の高いものを抽出した残渣からエタノールを生産するバイオリファイナリ技術を開発した。その結果、1)竹から付加価値の高い生理活性物質(抗酸化成分、コレステロール上昇抑制成分)の調製技術を確立した。2.付加価値物質抽出後の残渣から硫酸を用いない糖化技術を開発した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、糖化収率の目標を達成し、竹から抽出した生理活性物質(BOS)についてコレステロールの抑制効果があることが確認されたこと、また、BOS抽出残渣から硫酸を用いずに比較的低コストでエタノールができることが確認されたことは、評価できる。一方、生理活性物質の構造解析や竹の種類や部位に関する技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、実用化に向けたパイロットプラントレベルでの技術的課題を明確にされることが望まれる。 電動二輪車の前後輪独立駆動機構の開発とその制御 埼玉大学
境野翔埼玉大学
笠谷昌史本研究課題では、前後輪独立駆動機構を有する電動二輪車を開発し、4つの要素技術を開発した。それぞれ、路面のスリップ状態をリアルタイムに推定する手法、車輪のスリップを低減する制御手法、ペダリングトルクを介して人間の走行時の意志を推定する手法、座標変換技術に基づいた航続距離延長制御則、である。消費電力低減による航続距離延長の実証実験のみ行えなかったが、電力消費を実現する人間の重心推定利用した車輌制御技術も獲得済みであり、あとは航続距離の延長を定量的に示すのみである。一方、当初の計画していなかった電動アシスト自転車をも前後輪独立駆動とし、高度な計測と制御を実装することに成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、電動二輪車の前後輪を独立駆動した機構と人間重心移動の推定を利用した車輌制御則を考案し、安定スリップ率推定・低減ができる仕組みを開発し、研究目標は概ね達成されていることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、座標変換技術による航続距離延長制御則の開発を行っているものの、消費電力が低減できる航続距離延長の実証試験はなされていないので、早急な実施が望まれる。 今後は、電動自転車は、地球環境の保全のため、省エネのためにも利用の拡大が期待されるので、本技術が社会還元につながることが期待される。 高温動作シリコンパワーIC用静電破壊保護素子の開発 九州工業大学
松本聡九州工業大学
白石肇九州工業大学松本研究室では、300℃で動作するnチャンネルとPチャンネルパワーMOSFET開発した。本研究ではこの知見をもとに、300℃で動作するシリコンパワーIC用の静電破壊保護素子の開発を目的として研究を進めた。その結果、熱伝導性と絶縁性に優れたダイヤモンドを埋め込み絶縁層(SOD)とパッシベーション膜とすることにより静電破壊耐量を2倍程度増加できることをシミュレーションにより明らかにした。また、静電破壊保護素子としては横型パワーMOSFETが最も高静電破壊耐量を示した。これらの結果により初期目標を達成した。今後は、特許化するとともにSOD構造の素子を実現する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも高温・高耐圧のパワー半導体の静電破壊保護素子の開発において,破壊耐量を約2倍増加できることをシミュレーションにより明らかにしている点については評価できる。一方、実施された研究はシミュレーションが中心であり,次のステップとして具体的な素子への技術適用による実デバイスの開発と共に技術的検討やデータ確認が必要と思われる。今後具体的技術課題や開発計画をを明確にした上での研究の展開が望まれる。
【ライフイノベーション】課題名称 研究責任者 コーディネーター 研究開発の概要 事後評価所見 運動を模倣し筋力をアップさせる機能性成分含有サプリメントの研究開発 筑波大学
武政徹筑波大学
堀部秀俊運動を模倣し筋力をアップさせる機能性成分含有サプリメントの研究開発を目標とし、発酵茶から抽出した高分子ポリフェノールMAFもしくはこれを高純度で含んでいる分画(E80)を活用することを考え、有用性を検証する実験を行った。ターゲットの一つとして指標にしたのが骨格筋の肥大に抑制的に働く分子ミオスタチンであり、これについては培養骨格筋細胞を使ったin vitro実験でE80の抑制効果が確認できた。次に、マウスを使ったin vivo実験として、代償性過負荷を用いた運動性筋肥大と、後肢懸垂・除神経を用いた廃用性筋萎縮実験を行ったが、どの実験においてもE80に骨格筋を肥大もしくは萎縮を抑制する効果は確認できなかった。今後はin vitro実験で確認したE80のミオスタチン抑制効果を生体でも再現できるよう、投与方法、投与量、投与期間などの詳細な検討を行いたい。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも精力的に実験を遂行しており、着実に研究結果を示されていることについては評価できる。一方、今後の研究開発に向けた計画は必ずしも具体的ではなく、計画に具体性を持たせることや実験系の改良を含めた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、筋肥大を促す、あるいは筋委縮を抑制する効果が認められる投与条件について検討することが望まれる。 南米型トリパノソーマに対する新規治療薬リード化合物の探索 群馬大学
嶋田淳子群馬大学
早川晃一シャーガス病治療薬候補化合物として新規キノン誘導体を合成し、薬効を評価した。南米型トリパノソーマ細胞内型虫体に対する抗原虫作用は、既存薬ベンズニダゾール(BZL)のIC50値が1.75μM、キノン誘導体GTN022が0.55μM、GTN024が0.16μMであった。GTN022、GTN024のLD50値はいずれも100μM以上であり、強い毒性は認められなかった。動物実験では、GTN024の腹腔内投与により血液中の原虫数が有意に減少し、BZLと同等の効果を示した。以上より、既存薬BZLと同等もしくはそれ以上の効果を示すキノン誘導体を得ることに成功した。今後、GTN024をリード化合物として合成を進め、構造活性相関を調べつつ化合物の最適化を行う。また、化合物の安定性、薬物動態、経口投与の可能性、BZLとの併用効果について調べる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、リード化合物がみつかり、特許申請がなされており目標は達成したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、今後どのようにリード化合物から最適化合物を誘導していくかについて、検討が必要と思われる。それには、協力企業を見いだし、現段階から密な連携をとりながらリード化合物から臨床応用可能な化合物の開発を目指すことが期待される。 中枢疾患治療を革新する新規ペプチド型薬剤脳送達キャリアの開発 千葉大学
降幡知巳千葉大学
片桐大輔これまでにCypridina Luciferase (C-Luc)がヒト血液脳関門(blood-brain barrier, BBB)透過能を有することを見出した。そこで本研究では、BBB透過に関与するC-Luc内ペプチド配列を同定し、これを薬剤脳送達キャリアとして確立することを目的とした。本研究の結果、あるC-Luc由来ペプチドが、脳毛細血管内皮細胞の細胞膜を透過して核にまで到達することを見出した。したがって今後、本ペプチドについてその細胞透過(トランスサイトーシス)能や細胞選択性を明らかとし、それら特性に応じて、本ペプチドを新たな脳実質またはBBBへの薬物送達キャリアとして開発していく予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初に企図した結果は得られなかったものの、得られた結果に対し、その機序を追求した点は十分に評価できる。
一方、技術移転の観点からは、解明すべき点が多くあり、もう一度、研究計画を見直すべきである。今後は、期間内に達成できるよう目標達成のための効率的な実験を企図して欲しい。ヒト好酸球特異的抗体の樹立にもとづく好酸球増多性疾患治療法の開発 公益財団法人東京都医学総合研究所
神沼修公益財団法人東京都医学総合研究所
尾形佑美子好酸球増多性疾患の治療に応用しうるモノクローナル抗体の樹立を目指して研究開発を実施した。標的遺伝子のクローニングおよび発現ベクターの構築は順調に進んだが、ほ乳動物細胞に発現させたところ膜配向性が逆転していることが明らかとなった。DNA免疫法を利用することが困難となったため、細胞免疫法を利用すべく方針変更して基礎検討を開始したが、期間内に最終目標を達成することはできなかった。マウスモデルを利用した実験では好酸球特異的かつ直接的な中和活性が認められ、目標開発物のPOCが確認されたことから、今後は所属機関内の研究費を利用して未達成となった研究開発項目を推進する。 当初目標とした成果が得られていない。中でも、好酸球増多性疾患の治療に応用しうるモノクローナル抗体を樹立するという目標は達成されなかった。一方、本研究の目的を達成できなかった中で、本申請に先立ってマウスMfsd10に対するモノクローナル抗体を用いて、抗原誘発性気道内好酸球浸潤モデルにおいて、好酸球の組織内浸潤を抑制するする結果を得た点は、今後の展開に期待できる点である。今後は、目的を達成するため、抗体作成のアプローチにおいて研究者自身の計画によるアプローチに加え、合成ペプチド、あるいは細胞外ドメインの組換えタンパク質の利用など、着実性を高めるための工夫検討が望まれる。 DDS型次世代中性子捕捉療法 東京工業大学
中村浩之
本研究では、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)のためのホウ素高集積化リポソーム製剤を開発した。内封ホウ素薬剤として、BNCTの臨床研究に用いられている陰イオンホウ素クラスターBSH(B12H11SH)およびその類縁体B12H11NH3をスペルミジン塩としたところ、リポソーム間の凝集が抑制され、ホウ素薬剤内封効率を高めることに成功した。皮下腫瘍移植マウスを用いて、腫瘍内集積性および中性子照射による治癒効果を照射後2ヶ月間観察した結果、投与ホウ素量は従来の半分の15 mgB/kgにおいて、腫瘍内ホウ素濃度30 ppm以上を達成し、投与総脂質量を従来の7分の1にまで低減させることが出来た。BNCT抗腫瘍効果では、中性子照射2週間後に腫瘍が消失し、100日 後においても80%以上の延命効果が得られ、当初の目標を達成した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に凝集しない内封リポソーム製剤を調製できていることは優れている。また、企業との連携があることも技術に関しては評価できる。
一方、技術移転の観点からは、リポソーム組成の最適化や腫瘍集積性の問題等解決すべき課題が残っている。さらに、開発した薬剤の生物学的安全性試験は,GLP準拠で行う必要があるなど課題もあるが実用化が望まれる。
今後は、現在の診断技術で腫瘍部位は明確に位置決定ができるので、直接患部に注射投与して効果を判定する動物モデルで検討されることが期待される。骨誘導能および非崩壊性を担保した次世代型ペースト状人工骨の開発 明治大学
相澤守明治大学
下崎光明現在、自家骨が骨の治療に頻用されているが、これは「骨誘導能」という優れた骨形成能を備えているためである。水酸アパタイト(HAp)に代表される人工骨も広く利用されているが、これは骨誘導能を持たないため、確実な骨癒合が得られない場合がある。本研究では、骨形成を促進する生体必須微量元素である「ケイ素」を利用し、自家骨の持つ骨誘導能に匹敵する「骨形成能」および医者と患者が安心して使用できる「非崩壊性」を兼ね備えた「次世代型ペースト状人工骨(ケイ素含有アパタイト(Si-HAp)セメント)」の試作に成功した。この新規なペースト状人工骨をブタ脛骨に埋入したところ、ケイ素を含まないものと比べて、埋入4週で約4倍という有意に高い骨形成能を示した。このことから、このペースト状人工骨は、自家骨に代わりうる新規な人工骨として期待できる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に開発されたケイ素含有アパタイトセメントについて,硬化性能,非崩壊性の検証および実験動物埋植実験を含めたセメントの生物学的評価,いずれも良好な結果が得られた技術に関しては評価できる。
一方、技術移転の観点からは、知的財産権の確立のための技術戦略が報告書からは見出せない。早期の安全性試験を実施することで実用化が望まれる。
今後は、様々な視点から研究開発が進むように、イベント等に限定せず技術公開されることが期待される。自己末梢血造血幹細胞を用いたアルツハイマー病に対する新規細胞治療法の開発を目指した末梢血造血幹細胞の加齢変化の解析 京都薬科大学
高田和幸京都薬科大学
内田逸郎日本は超少子高齢化社会を迎えるが、今後も先進国としての国力を維持・発展するためには、アルツハイマー病(AD)の克服が最重要課題である。本研究では、AD の細胞治療法の開発を目的に、末梢血や骨髄内に存在する造血幹細胞から、AD原因物質Aβの除去に機能するミクログリア様細胞への分化誘導を試みた。その結果、造血幹細胞からミクログリア様Aβ貪食細胞が調製できた。また、加齢によりその増殖機能や貪食機能は低下するものの有用性の高い細胞であることがわかった。今後はより効率的に造血幹細胞を採取するため技術開発が必要であるが、高齢AD患者の自己造血幹細胞を用いた細胞治療法開発への応用が期待できる成果が得られた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも研究計画そのものは概ね計画通り遂行され、マウスの自己末梢血造血幹細胞からAβ貪食能を有するミクログリアの分化に成功したことについては評価できる。
一方、十分な分化細胞数を調整する技術開発が必要である。本技術を用いて作製したAβ貪食能を有する分化細胞が個体レベルでアルツハイマー病モデルの認知機能を改善するかどうかを確認することに向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
今後は、動物試験と平行してヒトの末梢血幹細胞でも同様な技術が応用可能であるかを、出来るだけ早期から検討されることが望まれる。血中タンパク質の翻訳後修飾を指標とした糖尿病合併症早期診断法の開発 名古屋大学
伊藤友子(大矢友子)京都府立医科大学
羽室淳爾激増する糖尿病患者の合併症罹患率は7割を超え、治療満足度は低く、治療に貢献する薬剤も十分でない。現在の診断マーカーであるHbA1cは有効性が示唆されているが、適用できない患者も存在する。糖尿病では高血糖や酸化ストレスによりメチルグリオキサール(MG)がタンパク質特に抗酸化酵素ペルオキシレドキシン6(Prx6)を修飾する。我々は、合併症の発症進展に強く関与するMG修飾Prx6を認識する抗体を保有しており、これを利用して簡便なMG修飾Prx6の測定系の確立を試みた。ヒト赤血球を利用した有用性検証を終え、キット化の最終段階となるELISAを利用したMG修飾Prx6の定量化を図った。MG修飾Prx6の合併症進展における意義について、糖尿病罹病期間や腎症、網膜症の進行度が明瞭な100名強の臨床検体を対象に解析を行った。糖尿病患者の罹病期間(p=0.003)、空腹時血糖(p=0.008)、高血圧(p=0.025)、潰瘍性大腸炎(p=0.007)で、それぞれMG修飾Prx6値との正の相関が認められた。また、高脂血症、心筋梗塞、脳梗塞においてその高値が認められた。Prx6酵素活性や酸化ストレスとの関連も認められた。HbA1cは合併症進展を示す各種パラメーターとの相関は認められなかった。さらに、HbA1cとは異なり、MG修飾Prx6値は一時的な血糖値の変動では変化しないことが判明した。ELISAの再現性試験が終了し、MG修飾Prx6値を半定量分析出来る段階となった。ELISA開発の一方で、血液試料中のMG修飾Prx6を直接検出するため、LC/MS/MSシステムを利用したMG修飾Prx6の定量的フォーカストプロテオミクスを開始した。以上を踏まえ、HbA1cと比較してMG修飾Prx6が優位に糖尿病合併症の早期診断に役立つマーカーであり、これを指標とした診断法の「血液検査で使用した残渣を保存後に繰り返し測定可能な」技術移転につながる可能性が極めて高まった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも糖尿病患者100名強について、合併症の早期診断マーカーとしてHbA1cよりも有用な可能性が示されたことについては評価できる。
一方、赤血球中のMG-Prx6は超微量と推測されており、その検出には困難が予想される。定量法の確立とその企業化に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
今後は、研究代表者の移籍により、今後の展開は期待できない状況と推測される。しかし、研究の継続と研究成果の論文化をされることが望まれる。脂肪酸毒性改善をターゲットとする慢性腎臓病の新規治療薬の開発 独立行政法人国立循環器病研究センター
翁華春独立行政法人国立循環器病研究センター
長谷川周平我々はこれまでに、Pex11aやペルオキシソームが、慢性腎臓病や肥満の発症、肝臓での脂質代謝に関与することを発見している。本研究では、Pex11aに依存するペルオキシソーム生成促進物質である酪酸に注目し、慢性腎臓病に対する有用性を調べた。しかし、酪酸はマウスの腎臓のPex11aやペルオキシソーム増殖を誘導しなかった。そこで、対象疾患を肥満、高脂血症に広げ、同様の検討を行った結果、酪酸菌および食物繊維の投与による酪酸の利用上昇は肝臓のPex11aやペルオキシソーム増殖を誘導し、白色脂肪量や血中の中性脂肪を抑制した。まとめると、酪酸の利用上昇は、腎臓では認められなかった肝臓でのペルオキシソーム増殖を介した肥満・高脂血症の新規治療法となりうる知見が得られ、将来、臨床適用されることを目指す。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、代替案として酪酸投与によって、肝臓におけるペルオキシソーム増殖が確認できた点、酪酸の投与方法に関して、肝臓におけるペルオキシソーム増殖が確認され、肥満、高脂質血症の進展抑制の可能性が見出された点については評価できる。
一方、マウス実験によって酪酸投与は腎臓のペルオキシソーム増殖を誘導しないことが明らかとなり、当初の目標を達成できなかった。今後の研究開発に関しては、マウスにおいて酪酸投与による肥満、高脂血症の抑制メカニズムを明らかにすることが重要である。また、酪酸投与法に関しても、イヌリンよりも、より効率的な投与法がないか検討が必要である。
本研究は最終的な目標が変更されているが、新たに見出された研究結果は興味深いものであり、さらなる酪酸投与による肥満、高脂質血症の進展抑制が他の治療法に対し優位性があるか明らかにする必要がある。
今後は、新たな肥満、高脂質血症の治療法開発のため、さらなる解析を進め技術移転を目指すことが望まれる。
高齢者にも対応可能な移植用培養表皮シートの迅速調製法の開発 愛媛大学
難波大輔愛媛大学
秋丸國廣ヒト表皮角化幹細胞培養系を用いた培養表皮シートの作製および自家移植は、重度熱傷などへの細胞治療や表皮水疱症などの遺伝子治療に用いられているが、高齢者由来の培養表皮シートの作製は困難であり、また移植後の治療成績も悪い。我々はヒト表皮角化幹細胞の研究から、アクチン・ミオシン相互作用阻害活性を持つ低分子化合物を添加することで、角化細胞を迅速かつ大量に増幅する方法を見出した。本研究において、我々は高齢者由来の表皮角化細胞に対しても、この化合物添加によって、角化細胞を迅速かつ大量に増幅することに成功した。またこの化合物は、すでに増殖活性が低下した角化細胞の増殖性を亢進させることはなかった。このことは、この化合物によって角化細胞の不死化や腫瘍化が起こらないことを示唆しており、高齢者に対する移植医療に応用可能であると考えられる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、培養細胞シートの作製期間を短縮できた点、高齢者由来の角化細胞の増殖亢進作用を示せた点、に関する技術に関しては評価できる。
一方、技術移転の観点からは、従来困難であった高齢者由来の培養表皮シートの作製が可能になり実用化されれば、培養細胞シートによる細胞治療の使用範囲が拡大し、社会還元に繋がることが期待できる。染色体異常や腫瘍形成がないことを確認することでの実用化が望まれる。
今後は、高齢者(70歳以上)の細胞でも,50歳代ヒト由来の細胞と同等の処理効果が得られるかを確認されることが期待される。低分子生理活性物質の高感度可視化を可能とするMALDI-MS imaging技術の開発 九州大学
田中充九州大学
伊藤範之本研究では、体内摂取後にその生理活性を発現すると考えられている薬剤成分や食品成分の様な低分子化合物の腸管吸収過程の実際(吸収経路、分布、代謝)を明らかとするための技術基盤の構築を目的とし、腸管組織内での化合物の分布をインタクトに可視化可能なMALDI-MS imaging法の感度向上技術の開発を行った。その結果、MALDI-MS imaging法においてイオン化補助剤として従来使用されるマトリックスに対して、イオン化促進に資する添加剤を加える事で、陽イオンモードでの組織中低分子ペプチドの可視化が可能となった。本研究にて明らかとなった新規マトリックス添加剤は、陽イオンモードでのイオン化促進は達成可能であるが、機能性ポリフェノール類等の陰イオンモードでの検出を強いられる物質に対しての高感度化戦略が今後の解決課題であることが明らかとなった。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも可視化につながる高感度化手法を一つ見出したことについては評価できる。
一方、 低分子化合物の腸管組織内分布の可視化という、申請書に記載したとおりの成果が得られれば、研究成果の社会への還元は大いに期待できる。汎用性のある高感度化手法をみだすことに向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
今後は、新規発明に対しては、積極的に特許出願されることが望まれる。
【ナノテクノロジー・材料】課題名称 研究責任者 コーディネーター 研究開発の概要 事後評価所見 内因性蛍光により動脈硬化を診断するマルチスペクトルイメージング内視鏡 防衛医科大学校
守本祐司
スペクトルアンミキシング機構を組み込んだ蛍光マルチスペクトルイメージング技術を搭載した血管内視鏡を開発した。摘出ヒト冠動脈試料を用いた蛍光分光分析により、動脈における内因性蛍光は正常組織に由来し、動脈硬化部位はネガティブイメージにて描出されることがわかった。すなわち内因性蛍光を指標にすると、「非正常」の判断は可能であるが、「動脈硬化」の判断は難しいことが明らかになった。そこで、開発した内視鏡システムを用いた生体血管イメージングによる動脈硬化の診断可能性を検証するために、LDL受容体ノックアウトマウスによる動脈硬化モデルに対して脂質に集積する蛍光物質を投与し、動脈硬化部位の検知を試みた。その結果、動脈硬化部位を生きたままリアルタイムに可視化することに成功した。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもスペクトルアンミキシングに基づく工学診断システムを搭載した蛍光マルチスペクトルイメージング内視鏡が開発され、蛍光内視鏡イメージングの可能性を示したことについては評価できる。
一方、現時点では、研究の極めて初期段階であるといわざるを得ず、ヒトに安全で、動脈硬化プラークに起因する内因性蛍光物質が現時点で見つけられていないという根本的な問題の解決に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
今後は、動脈硬化プラークに起因する内因性蛍光の発見し、それが不安定プラークのどの物質を示しているかを示されることが望まれる。新規機能性有機材料の探索と環境調和型合成法を目指した触媒的逐次反応の開発 東京農工大学
齊藤亜紀夫東京農工大学
吉本昌央本研究は、抗悪性腫瘍作用などを有する生理活性アルカロイドの基本骨格であり、有機ELの電荷輸送材料としても有望視されている、ピロロインド−ルやピロロキノリンなどのπ-共役系多環性複素環化合物の新規合成法を指向して、アミノクライゼン転位型反応(課題1)やヘテロ−エンインメタセシス反応(課題2)を基盤とする触媒的逐次反応の開発を目的とする。課題2の検討過程において、医・農薬や香料の合成中間体として有用なアルケニルフラン合成法に関する有益な知見が得られた。本知見はピロロキノリン合成法の開発の糸口になるとも考えており、今後、本知見を基にピロロキノリン合成法と併せて、アルケニルフラン合成法の開発を行う。
想定外の副反応への対応を検討したことなどは評価できるものの、当初目標とした成果が得られていない。中でも、確実な研究結果や予備検討に基づく基質と触媒の最適な設計などの技術的検討や評価が必要である。今後は、取扱う化合物の性質の事前の調査を徹底し、起り得る想定外の反応に対する対策を事前に机上検討されることが望まれる。 フェライト被覆ナノ炭素繊維の室温形成とその重金属汚染除去への応用 信州大学
森迫昭光信州大学
中澤達夫重金属等に汚染された水に対してフェライト微粒子と炭素繊維を用いた効率的な汚染除去の提案である。汚染水に対してフェライト形成材料と炭素繊維(カーボンファイバー、カーボンナノチューブ)を混合しフェライト/炭素繊維複合体を形成するという単純な手法で、重金属除去の可能性を明らかにした。例えばSr(ストロンチウム)やCs(セシウム)を含有する水溶液に対して、炭素繊維を用いず純化した場合には重金属が検出されたが、本手法を用いて純化した場合、重金属は未検出であった。
今後は、より定量的な実験が必要であり、特に金属除去能をさらに明確にする必要があるが、本研究の有用性を確認することができた。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもカーボンナノチューブ(CNT)にフェライトを効率良く被覆させSrをX線光電子分光法による検出限界以下まで吸着除去することに成功するとともに、この吸着物の磁気分離の可能性を示したことについては評価できる。
一方、実用化に向けては他の重金属に体する有効性、除去能の定量化などの確認などの技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、本研究成果の有効性を明確にし社会的な課題である放射能汚染土壌や水の浄化に活用されることが望まれる。規則配列ナノ細孔薄膜への酸化物ナノ粒子形成技術とメモリ素子への展開 福岡大学
香野淳福岡大学
大田修明化学溶液堆積法を用いてSi基板および透明石英基板上に直径約2〜5nmの筒状細孔が規則配列したポーラス薄膜を形成するプロセスを確立し、さらに溶液浸透と熱処理を用いて細孔中に酸化物(酸化チタン、チタン酸バリウム)のナノ粒子を形成するプロセスを実現した。さらに、ナノ粒子の光吸収における遷移過程およびバンドギャップを定量的に明らかにし、数nmの酸化物ナノ粒子ではその電子構造がバルク状態から変調を受けていることがわかった。また、薄膜上に電極を作製したMIS型のキャパシタの電気特性において、酸化チタンナノ粒子への電子注入・保持に起因する特徴的なヒステリシスを見出し、酸化物ナノ粒子のメモリ機能を実証した。本研究の成果を基盤技術として、結晶構造がより複雑な酸化物ナノ粒子の合成とナノ物性の研究に発展させることで、消費電力の少ないナノ粒子メモリ、光電変換機能を備えたナノ光学材料などの応用につながると期待できる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも本研究により、シリコン基板及び石英基板上に筒状ナノ細孔が一次元配列したポーラス薄膜を形成でき、さらにこの細孔内に酸化物ナノ粒子を合成するプロセス技術とともに、その評価法を確立したことは評価できる。
一方、実用化に向けては、今回示されたメモリ素子としての可能性を実証すべく、細孔サイズの制御やバンドギャップのサイズ依存性などのさらなる検討と知財権の確保が必要と思われる。 また、今後は企業との共同研究が積極的に進められることが望まれる。
【社会基盤】課題名称 研究責任者 コーディネーター 研究開発の概要 事後評価所見 コアセルベーション法による高浸透圧環境下で安定的なγ‐アミノ酪酸(GABA)包含マイクロカプセルの製造技術とその応用に関する研究 地方独立行政法人青森県産業技術センター
小笠原敦子
高浸透圧耐性を有するγ-アミノ酪酸(GABA)包含マイクロカプセルの開発を目標とした。使用する膜物質の種類、濃度ほかの諸条件について検討を実施し、コアセルベーション法によりマイクロカプセルの試作を行ったところ、GABAを包含した高浸透圧耐性を有するマイクロカプセルの試作に成功した。今後は、本研究で見出された課題を克服するべく検討を実施し、食品をはじめ、その他、様々なものへの実用化に向けて展開する予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、高い浸透圧に耐性をもつGABA包含マイクロカプセルの試作工程を確立したことは評価できる。一方、カプセル化率の向上や味噌以外の食品への適用拡大に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、適用分野の再調査や体内動態も検討されることが望まれる。 食欲旺盛で飼料効率の良いマダイ作出技術の開発 独立行政法人水産総合研究センター増養殖研究所
村下幸司独立行政法人水産総合研究センター
中易千早食欲旺盛で飼料効率の良いマダイ作出へ向けて,レプチン受容体(lepr)を標的としたマダイへのTILLING法導入技術の開発を検討した。まず,マダイに適した凍結精子作成条件を決定し,実施者の安全に配慮した変異導入剤(ENU)投与法を確立した。また,マダイlepr cDNA配列全長とリガンド結合領域上流のゲノム配列を明らかにし,HRMによるlepr有用変異検出系を確立した。ENU投与魚の精子を用いて人工授精を行い,得られた仔魚をHRM解析に供した結果,導入による変異と考えられる解析結果を得ることができた。一方で,変異導入精子による人工授精では,孵化率が低く,ENU投与量に若干の改善が必要と思われた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、マダイのlepr遺伝子の配列を決定したことは評価できる。一方、有用変異の導入技術について他の魚種で得られた知見をマダイに応用するための技術的検討やデータの積み上げなどが改めて必要と思われる。今後は、よく食べる魚が増肉係数が下がるという理論の正当性を証明されることが望まれる。 モモ未熟果実香気成分を用いた果実吸蛾類による果実被害軽減に関する研究 島根大学
泉洋平島根大学
丹生晃隆果実吸蛾類の新規防除技術として未熟果実特異的香気成分を気散させることによる防除法の開発に取り組んだ。忌避効果の確認されていた未熟果実香気成分7種のうち数種類を混合するとより高いEAG反応を示すとともに、選択試験においても高い忌避効果を確認することができた。また、圃場におけるトラップ試験においても無処理区に比べて有意に吸蛾類の捕獲数が減少した。これらの結果から、今後気散方法の改良、デバイスの開発を行うことにより未熟果実香気成分を用いた新規防除技術が可能になると考えられる。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、吸蛾類による被害軽減に有望な香気成分混合物を特定し、その効果を圃場レベルで確認した事は評価できる。一方、技術移転の観点からは、既に進めている特許出願・論文発表や企業・県の研究機関との連携などでの実用化が望まれる。今後は、農家の意見が反映できる開発体制や忌避効果のレベルの有効性(充分さ)と経済性の確認、安全性の検証なども検討されることが期待される。 緑のカーテンを活用した加工用畑ワサビの夏播き超促成栽培法の開発 山口県農林総合技術センター
日高輝雄山口大学
殿岡裕樹ゴーヤとソルゴーによる緑のカーテンと絨毯を施したハウス内で、育苗トレイの下に給水マットを敷いて、片側から給水させ、反対側にかけ流す「底面給水かけ流し法」を適用することにより、夏期においてもワサビ苗の育成が可能となる。目標の80%の生存率に対し、固化培地またはプラスチックセルトレイを用いた場合、90%以上の生存率が得られる。この苗を栽植密度8000株/10aに定植し、冬期は内張りカーテン2重被覆により、ハウス内温度を維持することで、播種から8か月で収穫可能となる。
目標収量4t/10aに対して4割増の6.5t/10aが得られ、売上高の目標120万/10aに対し、2倍以上の250万円 /10aの実績が得られる。
今後は、行政、JA、県農林事務所、企業と連携して、現地適応性試験を実施し、実用化を目指す。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に小規模ではあるが着実に成果を積み上げて目標を上回る収量を得た技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、高品質化・ブランド化などでの実用化の加速が望まれる。今後は、緑のカーテンに利用する植物の選定と定植時の栽植密度など栽培技術の効率性向上も詳細に検討されることが期待される。