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事後評価 : 【FS】探索タイプ 平成26年7月公開 - 社会基盤 評価結果一覧

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課題名称 研究責任者 コーディネーター 研究開発の概要 事後評価所見
ウシバベシア症に対する遺伝子改変弱毒生ワクチン株の開発 長崎大学
麻田正仁
帯広畜産大学
藤倉雄司
遺伝子ノックアウト法を用いたウシのバベシア症(Babesia bovis感染症)に対する弱毒生ワクチンの開発を目的として、既存のBabesia bovis遺伝子ノックアウト株1株について評価を行うと共に、新たに3つの遺伝子ノックアウト株を作製した。さらに複数遺伝子のノックアウトを行えるよう第二の薬剤選択マーカーとしてbsd/ブラストシジン選択システムを構築した。既存のノックアウト株(Bbtpx-1 KO)については活性窒素種負荷に対する感受性の上昇が見られ原虫の弱毒化が示唆され、新規遺伝子ノックアウト原虫では、TRAPファミリー遺伝子3種についてシングルノックアウト原虫を作製することに成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、3種類の遺伝子ノックアウト原虫を作製し増殖性と安定性を確認したことと、原虫作製のための第二の薬剤選択マーカーとしてbsd/ブラストシジン選択システムを構築したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、ノックアウト原虫株について病原性や増殖能と安定性を評価し、有用性を明確にするなどでの実用化が望まれる。今後は、企業との連携も検討されることが期待される。
日本に蔓延する牛小型ピロプラズマ病のキメラワクチン抗原の作製 帯広畜産大学
横山直明
帯広畜産大学
藤倉雄司
小型ピロプラズマ病はマダニによって媒介される牛の原虫病で、感染牛に消耗性の発熱や貧血を引き起こす。現在のところ、治療薬及びワクチンはない。我々は以前に基礎研究レベルで、その小型ピロプラズマワクチンの開発に成功している。我々の研究成果により、そのワクチン抗原は高度な遺伝子多型を示し、我が国には5種類の抗原性の異なる小型ピロプラズマが存在していることが分かった。そして、その5種類のワクチン抗原遺伝子の分離と遺伝子発現に成功した。しかし、すべてを網羅できる新規の小型ピロプラズマ・キメラワクチン抗原の作製には至らなかった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。マダニによって媒介される牛の原虫病(小型ピロプラズマ病)に係る研究であるが、特に5種類の遺伝子の分離に成功するなど小型ピロプラズマ原虫からのMPSP遺伝子の多形性に関する結果は評価できる。一方、技術移転の観点からは、混合ワクチンなどでの実用化が望まれる。今後は、第2目標であるキメラワクチン抗原の作成に再挑戦されることが期待される。マダニ種を調査して分布するタイレリアの遺伝子型を推定して個別ワクチンを使用していくことも検討されたい。
テラヘルツ波を用いた魚油脂の酸化度計測技術の開発 地方独立行政法人北海道立総合研究機構
宮崎俊之
地方独立行政法人北海道立総合研究機構
鈴木慎一
サンマ、サバ、イワシ、ホッケ、カレイ等を対象に、テラヘルツ(THz)帯計測試験に適した魚油抽出、酸化処理を行った。既存THz帯FT-IRに温度モニタリング機構、温度調整機構を開発し、測定精度の向上を行った。吸光度スペクトル取得項目については、魚種により吸光度に差違がある事を確認すると共に、酸化により吸光度形状が変わること、その変化が化学分析値と相関があることを見いだした。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも基礎研究レベルでは、テラヘルツ波を用いる手法が魚油の酸化を調べるために有用であることを示した点は高く評価できる。一方、今後の具体的な開発計画は十分に定まっているとは言えず、また、試験場などとの応用展開を模索しているが、産業化には魚油の酸化度計測のニーズを見極める必要がある。今後は、魚油の簡便な品質計測法として確立させるためにも、さらなる応用データの積み重ねが必要と考えられる。
部分照射モデルにおける新規細胞遺伝学的線量評価指標の有用性 弘前大学
三浦富智
弘前大学
工藤重光
被ばく線量生物評価の国際的課題の一つとして部分被ばく患者の線量評価がある。これまで、ダイセントリック法におけるQdr法やPCC法におけるQpcc法が部分被ばく評価手法として提唱されている。本研究では、ヒト末梢血部分照射シミュレーションモデルを用いて我々が開発した新規被ばく線量評価指標(CPI)の有用性を検証した。4名のボランティアにおいてCPIとX線照血液混合率の間に非常に強い相関が認められた。さらに、被ばく線量、X線照血液混合率およびCPIの関係を解析した結果、CPIは50%以上の局所被ばくで適用が可能であることが明らかとなった。以上より、CPIは大規模災害時の被ばく線量スクリーニングにおいて有用な指標であることが明らかとなった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、PCC法を利用した新規細胞学的線量評価指標(CPI)を染色体異常などと相関させ、その有用性を証明したことは評価できる。一方、低線量照射時の評価という技術的課題は明確になっており、技術移転はもう少し低線量域での評価体系ができたときに始まるものと考える。局所的放射線被ばくの影響評価は、社会的に需要が多い低・中線量域での評価方法の開発に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、より高感度なCPI解析方法の開発し、早期に特許出願されることが望まれる。
リポ酸の代謝調節作用によって鶏肉の呈味品質を向上させる特殊飼料の開発 秋田県立大学
濱野美夫
秋田県立大学
渡邊雅生
本研究は、鶏肉の鮮度保持効果をもつリポ酸の作用が呈味成分の代謝にまで及ぶ効果の実証を目標に掲げた。リポ酸を添加した飼料をブロイラーに給与し、その鶏肉における呈味性に関わる成分を中心に分析・解析を行った。その結果、リポ酸が呈味に関与する成分代謝を調節し鶏肉品質を向上させる一定の効果をもつことが示された。今後は、その効果を増強させる素材との組合せを検討し、鶏肉の呈味品質が一層向上する特殊飼料の開発を進める。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、旨み成分の増加が認められていることに関しては評価できる。また、ニワトリ胸肉の脂質含量が高まった点は国内の胸肉問題(胸肉消費の低迷)を改善する可能性がある。一方、技術移転の観点からは、リポ酸について飼料添加物としての認可を取得し、ニワトリ飼料などでの実用化が望まれる。国内畜産物の高付加価値化は極めて重要な課題であり特に食肉の呈味の向上は国際競争力の一つとなるので、今後は、ブランド鶏肉の作出も視野に入れた研究に発展させることが期待される。
農作物に蓄積する亜鉛の量を増加させるための葉面散布剤の開発 秋田県立大学
中村進一
秋田県立大学
渡邊雅生
植物(農作物)の可食部分(葉・茎部分)に蓄積する亜鉛の量を増加させるための葉面散布剤としてグルタチオンを用いることの可能性をアブラナを用いた水耕栽培実験によって検証した。
水耕液亜鉛濃度を変化させていったところ、10μMの亜鉛濃度ではグルタチオンの施用効果がなくなった。また、植物へのグルタチオンの施用量を検討したところ、これまで植物に施用してきた20分の1の施用量でも、その効果を確認することができた。
今後は、グルタチオン施用方法の更なる適正化、より高濃度に葉に亜鉛を蓄積させるためのグルタチオン施用方法を確立し、この技術の実用化に結び付けていきたいと考えている。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。グルタチオン施用による亜鉛の蓄積効果はアブラナでの目標値には達しなかったが、他の植物でも同様の効果があることを新たに見出したこと関しては特に評価できる。一方、技術移転の観点からは、新たに企業の支援を得て、グルタチオンの施用方法や亜鉛の植物体内動態の検討などを進めることが計画されており、まずは水耕栽培での実用化が望まれる。今後は、グルタチオンの効果の機構解明も踏まえ、温室での土耕栽培についても検討されることが期待される。
植物工場における酸素溶解水の生成と養液調製に関する技術開発 秋田大学
足立高弘
秋田大学
伊藤慎一
本研究では、植物工場における深さのある栽培ベッドにおいて酸素溶解水を効率的に供給し溶存酸素濃度を増加させ、同時に養液調製を可能とする装置の開発を行うことを目的している。実際の水耕栽培の状況に近い水深に関する条件において溶存酸素濃度の測定実験を行ったところ、水深の深さに伴い酸素の供給能力は低下したが、円筒を導入して円筒の内外に圧力差を生むことで酸素供給能力が回復することを明らかにした。また、ミスト流による養液調整が可能であることもわかり、達成度としては65%程度である。
今後の展開としては、回転数などのさまざまな条件を変更した結果を明らかにし、効率の良い酸素供給装置とする必要がある。また実際に野菜など植物の生育の度合いを調べることが実用化に際して必要となると考えられる。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、2.5Wの消費電力で強い撹拌作用のある回転子と円筒状の付属器具を開発したことについては評価できる。一方、従来技術との比較など改善効果を明確にする技術的検討や周囲に飛散する養液飛沫の影響調査データの積み上げなどが必要と思われる。今後は、企業との共同の研究開発により養液栽培の分野を拡大されることが望まれる。
多様な作業・移動能力を有する6脚ロボットの開発 山形大学
井上健司
山形大学
高橋政幸
複数のモードを切り替えることで多様な作業能力・移動能力を発揮する6脚作業移動ロボットを開発した。このロボットは、直方体のボディを横にした状態の6脚モード、その1脚を腕に転用した5脚1腕モード、2脚を腕に転用した水平4脚2腕モード、ボディを立てた状態の垂直4脚2腕モードを有する。移動法として、6脚モード、5脚1腕モード、水平4脚2腕モードにおける全方向への歩行、垂直4脚2腕モードにおける直立4脚歩行を実現した。腕作業として、水平4脚2腕モードにおける低所での物体把持、垂直4脚2腕モードにおける高所での物体把持を可能にした。対地適応性として、6脚モードでの階段昇降、斜面歩行、凹凸不整地の安定歩行を実現した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、機構と基本的な動作方法を確立し、各種モードの性能限界を見極めたことは評価できる。一方、当初の数値目標で、走行速度、段差、斜度について未達成である。適用製品を決定し、実用化するための不可欠な数値目標が何であるかが明確にして、開発を進めることが必要と思われる。今後は、次ステップに進む前に、何に適用するのか具体的に絞り、合理的な数値目標を設定することが望まれる。
高いセシウム選択性を持つ木質バイオマス由来の高性能セシウム除去材の開発 福島大学
浅田隆志
福島大学
森本進治
高いセシウム選択性を持つ木質バイオマス由来の高性能セシウム除去材を開発した。同モル濃度の5種陽イオン(Na+、 Ca2+、 Mg2+、 K+、 Cs+)混合溶液におけるセシウム除去性能を評価したところ目標の90%を超えるセシウム除去率が得られた。また、生成物の79%が粒子径150μm以上である製造条件が確立でき、目標としていた80%以上と同等の成果が得られた。また、さらなる製造条件の検討により、セシウム除去率は、さらに向上する可能性があることが本研究成果から示唆された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に新しく開発した紺青複合木質バイオマス炭化物が、5種陽イオン(Na+, Ca2+, Mg2+, K+, Cs+)混合溶液におけるセシウム除去性能が目標の90%を超える高いセシウム除去性能が得られたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、特許出願や産官学との共同研究が予定されており、紺青担持量の増加と分散性の向上によるさらなる除去性能の向上によるとともにセシウム汚染水処理材としての実用化が望まれる。
今後、汚染土壌に対する除去効果が実証され、研究成果のさらなる社会還元が期待される。
シンチレーションガスを用いた非破壊検査検査用X線カメラの開発 東京大学
藤原健
大型構造物のX線非破壊検査用に可搬型3.95 MeV XバンドライナックX線源が開発された。しかし、それに対し既存のX線検出器は1 MeVのX線の検出効率が0.1 %以下と非常に低い。そのため散乱X線の影響を受けやすくイメージの高品質化には、高エネルギーにX線に対し十分な感度を持つ検出器が不可欠となる。本研究では検出媒体に金属コンバータとシンチレーションガス、GlassGEMを用組み合わせた放射線耐性の高いX線カメラの開発を行った。本研究で開発したカメラで当初の目的である高精細なX線透過画像(100mm□)の取得に成功した。今後、有感面積200mm□~300mm□の大面積化に取り組む。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に検出効率が高く、かつ放射線耐性の高いX線カメラを実現した技術に関しての成果が顕著である。一方、技術移転の観点からは、高空間分解能を有するX線イメージングなどでの実用化が期待される。今後は、高エネルギーの6 MeV加速器を利用した非破壊検査への応用されることが期待される。
表面テクスチャリングを用いた抗菌表面の開発 独立行政法人産業技術総合研究所
中野美紀
独立行政法人産業技術総合研究所
名川吉信
カビ類の固体表面への接着には、基板表面の様々な特性が影響すると考えられる。抗菌技術を活かした製品の開発にとって、基板表面の微細構造、化学的特性等の表面特性がどのようにカビの接着性に影響するかについて研究することは非常に重要である。本研究では、基板表面にサイズ、形状を変えた微細構造を施した表面を作成し、主要な環境汚染菌である数種のカビ類を用いて表面微細形状とカビ類の接着の影響について検討した。その結果、形状およびサイズによってカビ類の接着に影響があり、微細形状・サイズによっては、約90 %のカビを洗浄により除去できることが示された。今後は、形状やサイズの最適化を行うとともに、実際に水回り資材として用いられている材料についても同様な効果が得られるか検証を行っていく予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、固体表面の微細形状がカビ類の接着と関係するということを明らかにしたことについては評価できる。一方、建築資材や水周り資材を対象に実用化する場合の、微細加工方法や実環境下での表面への付着物など具体的な技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、衛生面などの要請がある日用品へも展開されることが望まれる。
高性能ロボットマニピュレーションのためのハイパービジョンユニットの開発 千葉大学
並木明夫
公益財団法人千葉県産業振興センター
石井輝昭
人間を超える超視覚能力を持つハイパービジョンユニットを開発した。具体的には、 (1) 0.001秒での画像認識が可能な超高速視覚能力、(2)対象の分光情報を用いて人間には見分けることが難しい微細な変化を判別できる超色彩認識機能、(3)高速パターン投影による高速3次元形状認識機能を備えたビジョンユニットを開発した。本技術は、広範囲に動く対象の位置や形状や質感などの高速追跡が可能であり、高度な認識機能が要求される産業用途に適したものである。開発したユニットを双腕マニピュレーションシステムのヘッドとして用いて様々な作業への有効性を検証した。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に高速分光認識システムと高速3次元認識機能の技術に関しての成果が顕著である。一方、技術移転の観点からは、生産ロボットや災害対応ロボット、さらには日本の強みであるアミューズメントなどでの実用化が期待される。今後は、まず高機能・高速ハンドリングのための遠隔操作ロボットシステムを完成させることが期待される。
害獣行動を逆利用する電気さく故障箇所検出技術のフィールド評価 東京大学
小林博樹
本研究計画は害獣行動を逆利用する電気さく故障箇所検出技術のフィールドでの有効性確認を目標とする。従来の電気さくで故障箇所検出は困難とされていた。ここでは、害獣行動を逆利用して故障個所を検出する技術を電気さくに実装することで解決を試みる。本研究開発では、浮遊静電容量特性を応用した野生生物の中近接距離検出・推定センサを搭載した電気さくを用いて、実際に生息する害獣を検出できた。つまり、これらの電気さくシステムを農作地で広域に展開することで、害獣の接近時情報を取得することで害獣が電気さく防御力の弱い箇所を探り特定し、事前通知が可能になる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、単なるセンサの小型化や高度化ではなく、害獣の生態を利用する点で優れている。シカが実際に接近した際、電気さくに搭載したテルミンでの静電容量が明らかに変化した事実を確認したことは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、動物の接近については既に検出可能であることを示していることから、これを用いた電気柵故障箇所検出技術の開発により、実用化に進むことが望まれる。また、センサー感度、感知距離、落雷など放電現象との関連、電気柵に草木が触れて漏電した際の影響など検討すべき点は多いように思われるので、課題解決が望まれる。今後は、産学連携による共同開発に進む段階に達していると思われるので、農場現場での実証試験などを行い、実用化に進むことが期待される。
マイクロスケール実験を用いた化学工学実験教育 中央大学
片山建二
中央大学
武田安弘
微量の試薬を用いて小さな器具で行うマイクロスケール実験は、中高生向けの実験化学方法として注目されている。廃試薬の低減、危険の回避、比較実験の容易さ・必要なスペースの小ささなどの利点があり、各自で実験を行えるため理解度向上が期待されている。しかし、その有効性にもかかわらず、この実験を大学・大学院向けの教育的実験として利用されている例はなかった。A-STEP事業により大学物理化学教育にむけたマイクロスケール実験シリーズの大学への導入に続き、本課題では、企業ニーズの高い化学工学実験をシリーズ化することで、企業現場のエンジニアの再教育・工学系化学専攻の大学教育に適用可能な実験的教育素材を開発した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初計画した6装置の試作とそれらのモニター実験が実施され、改良すべき問題点も抽出されていることは評価できる。また、2装置については大学の工学実験に採用される予定で、当初の目標はほぼ達成されている。 特許については外部との共同開発を積極的に進めるために出願を検討すべきである。 一方、技術移転の観点からは、装置改良による精度の向上、大学教育に必要な残りの課題についての実験装置の試作およびマニュアルの公開などが計画されているが、改良に関してはテーマ数も多く、多岐に亘るので外部の力も取り入れ技術移転を加速するのが望まれる。 今後は、化学工学教育向上のため、本装置の有用性を積極的にアピールするとともに、本申請課題のレベルをさらに高め、緻密な観察と解析の訓練を可能とする実験シリーズとすることで、現在の化学工学関連分野が求める現象に対する深い考察の出来る技術者の育成に貢献することが期待される。
アクセルペダルの微細振動によるドライバへの操作情報提示手法を用いた安全・エコ運転支援装置の有効性実証 東京理科大学
林隆三
東京理科大学
森谷麗子
アクセルペダルの微細振動を用いた情報提示手法が、自動車のエコ運転・安全運転などの運転支援システム用HMIとして有効であることを実証するため、インフラ等から得られる目標速度に車速を誘導する運転支援システムを構築した。目標速度から必要なペダル操作量を算出し、ペダルの微細振動によりドライバに情報を与えて操作させ、車両速度を誘導するというものである。ドライビングシミュレータを用いて高速道路のサグ部での車両速度の維持支援を行った結果、微細振動による情報提示のみにより、意図せぬ速度低下を74%低減できることが実証された。加減速誘導に関しても、標識により目標速度を指示した場合と同等の誘導性能が示された。今後は、加減速誘導における誘導精度の改善を行う予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、本技術は走行安全とドライバ操作とのインターフェイスに寄与する研究であり、当初の目標はほぼ達成されていることは、評価できる。また、速度維持装置の実用化の可能性検討も実施されている。一方、技術移転の観点からは、運転支援が最も効果を発揮する場面への展開をどのようにするかを考えてシステムの構築を目指すことが望まれる。今後は、実用化に向けて運転支援装置の課題である、ドライバの慣れや個人差に対応できるロバストなシステムへのさらなる展開がなされることが期待される。
高い消火能力を有する新規メタロセン系消火剤の開発 横浜国立大学
大谷英雄
横浜国立大学
西川羚二
本研究では、従来の消火剤よりも高い消火能力を有するメタロセン系消火剤を開発することを目標とし、(1)メタロセンを用いた体系的な遷移金属の燃焼抑制効果の直接比較、 (2) フェロセン/水分散系の調製および油火災に対するその消火能力の評価を行った。その結果、多くのメタロセンは気相で燃焼抑制効果を発現し、遷移金属の燃焼抑制効果の順列は概ねその蒸気圧に依存することを見出した。また、ある特定の分散剤を用いることで安価なフェロセン/水分散系の調製に成功し、その消火時間は既存消火剤よりも1桁短く、約 1 秒であることが分かった。今後は、実用化に向けて普通火災への有効性や分散消火液の長期安定性を評価することが望まれる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、遷移金属の異なる多くのメタロセンや分散剤を鋭意検討し、気相で燃焼抑制効果が大きく安価なフェロセン/水分散系の消火剤が開発でき、消火時間が既存のものに比べ1桁短い約 1 秒の消火液を見いだしたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、既に研究成果が特許出願されているため、長期安定性の評価、消防法や労働安全衛生法等に対する課題を明らかにし消火剤として実用化されることが望まれる。
今後は、本研究成果により消火能力の高い消火剤として広く活用されることが期待される。
バッテリー駆動可搬型高精度PCR装置の開発 神奈川大学
山口栄雄
公益財団法人神奈川科学技術アカデミー
唐澤志郎
本申請課題では、研究責任者が開発してきた高速熱応答性を有するペルチェ素子を熱サイクラーとして組み込み、DNAの特異的増幅が可能な可搬型高精度PCR装置の開発を目的とした。ペルチェ素子の専用駆動電源を可搬型に対応させ、放熱手段については、自然空冷方式を採用し、可搬型での特異的DNAの増幅に成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、DNAの特異的増幅が可能な可搬型高精度PCR装置の開発を目的として研究開発を行い、目標性能を達成できる装置を完成させたことは、評価できる。また、新規特許も出願されている。一方、技術移転の観点からは、課題として挙げている熱サイクルを使用しないPCR方法についても、実用化をめざした研究を進めることが望まれる。今後は、具体的に応用開発を進める時期に達していると思われるので、どのような場面で本装置が使用されるかについて検討したうえで、その目的にかなった検討も進めることが期待される。
マイクロ波による鳥類の呼吸・循環モニタ 東海大学
中島功
東海大学
高柳一男
人畜共通感染症は重篤な未解決の課題で、例えば鳥インフルエンザウイルス H5N1感染者の死亡率は60%である。本研究は、家禽の健康状態、ことに呼吸 ・ 循環状態を電波により無拘束で計測する技術確立を目指す。成果としてニワトリの呼吸(気嚢)・心拍状態を体外からモニタに成功した。今後、鳥インフルエンザウイルス感染の吸器・循環の前駆症状を把握できれば、世界110億羽の家禽類に対して、延いては、人類への新種ウィルス感染による危機管理が行え、その経済効果は計り知れない。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に鳥類の呼吸状態の非拘束検査に対して、電波を使った当研究成果の技術で検出可能であるという結果を実証している点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、検査の再現性、信頼性を評価することが必要と思われる。今後は、簡易的で汎用性の高い装置の開発が期待される。
病原性PRRS ウイルスのタンパク質・翻訳後修飾プロファイリングおよび遺伝子変異の一斉分析法の開発 麻布大学
上家潤一
麻布大学
寺本清
本研究ではPRRSウイルスタンパク質Envelope glycoprotein (GP5)の定量および翻訳後修飾解析技術を開発した。大腸菌発現にてGP5タンパク質の安定同位体標識全長タンパク質を作成し、純度98%の精製タンパク質を1mg得ることに成功した。質量分析計を用いて安定同位体標識GP5を内部標準とする、定量限界1fmol、ダイナミックレンジ1×103の高感度定量法を開発した。開発した定量法でPRRSウイルスワクチン株に発現するGP5の定量に成功した。さらに、GP5の翻訳後修飾に関する知見を得た。本研究開発によって開発した定量法のウイルス解析への有効性が示された。本法を用いることで、特異抗体を用いずにウイルスタンパク質の定量が可能となる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、PRRS ウイルス構成蛋白質の1種である GP5 に関して、安定同位体で標識された遺伝子組み換え蛋白質を調製することで、一定の範囲内ではあるが、fmol レベルにおいて定量できる技術を確立し、他の蛋白質にも応用できる手法に一定の目途をつけたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、他6種類の蛋白質でも検証し、弱毒性株および病原性株の比較も検討した上での実用化が望まれる。今後は、構成蛋白質内での標的部位が特定され特異抗体を作成できれば、例えば、簡便なELISAによって検出可能となり得るので、安価で簡便な検出手法への展開も視野に入れることが期待される。
野菜生産用高光量子束密度・低価格オリジナルLED光源の開発 明治大学
伊藤善一
完全人工光型植物工場で実用可能な、低価格で高い光合成有効光量子束密度(PPFD)を得られる野菜生産用オリジナルLED光源の開発を行った。光量、寿命、消費電力、価格等の観点から総合的に評価して、野菜生産に最適な白色LED光源を開発することに成功した。本光源は、白色LEDチップのみを用いたことが最大の特徴であり、栽培実験の結果、ベビーリーフ等の野菜と各種植物苗の生産に最適な光源であることが明らかとなった。
本課題における研究開発において、目標を大きく上回る成果を得られたものと考えている。目標とした野菜生産用LED光源を開発することに成功し、さらには研究期間内に、産学共同の具体的な研究開発を進めることができた。引き続き本テーマの研究と、産学共同の技術開発を進めていく予定である。
期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、LEDの指向性を活用した白色光の高効率照射を実現し、これを実際の植物栽培において実証した成果が顕著である。一方、技術移転の観点からは、電流制御ならびにスペクトル制御などでの更なる栽培効率の向上を図ると共に、LED光源の高性能化に関する技術的根拠を明示するなど、競合する野菜栽培システムに対する優位性を明確にするなどでの実用化が期待される。今後は、マーケティング戦略を踏まえて、競合技術や競合事業への差異化、優位化を図ることが期待される。
粘性物質を用いない新規グルテンフリー米粉パン製造技術の開発 新潟県農業総合研究所
高橋誠
新潟県農業総合研究所
吉井洋一
粘性物質を使用せずグルテンフリー(GF)米粉パンを製造する技術の確立に向け、パンとして望ましい品質を示す素材の選定と、膨張維持メカニズムの解明を目標とした。素材選定では、GF米粉パンの比容積2.74となる素材が選定された。膨張維持メカニズムの解明では、米粉中の成分に対する素材の作用が膨張維持に関係していることが示され、ほぼ目標通りの結果を得ることができた。本技術により、添加物となる増粘多糖類等を使用せずとも既存製品と遜色ない品質を有するGF米粉パンを製造することができる。今後は多くの消費者に好まれる味への改良、製造を短時間かつ安定的にすすめるための技術開発や、GF米粉パンの機能性に関する研究が必要と考えられる。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。
特に、ある程度までではあるが米粉生地のパン加工における特性の改変メカニズムを明らかにした、グルテンフリーの米粉パンを製造する技術に関する成果が顕著である。一方、技術移転の観点からは、1年間の優先権主張やPCT出願も考慮に入れた早期の特許出願と、企業と連携した実用化の加速が期待される。今後は、米粉の詳細な成分特性と素材の関係、ガス産生・フレーバー生成などの検討による素材選択の基準も確立されることが期待される。
バイオ農薬を目指した、酵素法による長鎖キチンオリゴ糖生産技術の開発 新潟大学
渡邉剛志
新潟大学
久間木寧子
キチンオリゴ糖のバイオ農薬への利用を目指して、キチン分解酵素とキチン分解促進蛋白質および前処理したキチンの組み合わせにより、長鎖キチンオリゴ糖を含むオリゴ糖ミクスチャーを効率的に生産するための技術開発を試みた。キチン結合蛋白質CBP21を用いることによって、イネキチナーゼCht-2によるカニ甲殻由来コロイダルキチンの分解効率を2倍以上に向上させることに成功し、4糖以上のキチンオリゴ糖を20%以上含むオリゴ糖ミクスチャーを生産することが出来た。今後、新たなキチン原料の検討と分解条件の改善により、酵素法による長鎖キチンオリゴ糖生産技術の開発を完成し、キチンオリゴ糖ミックスチャーのバイオ農薬としての利用を実現したい。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、イネキチナーゼによる分解効率を改善した点については評価できる。一方、キチンの材料調達、前処理、効果的なキチン分解促進タンパク質の探索、長鎖キチンオリゴ糖のバイオ農薬としての最適化などの技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、前記の課題を直実に解決されることが望まれる。
DNA判別による日本酒原料酒米の保証技術の開発 新潟大学
大坪研一
新潟大学
辰巳政弘
本研究では、既報で報告した原料米判別用で開発したSTS化プライマー6個を用いるPCRを行い、作付面積80%以上の山田錦、五百万石、雄町、八反および夢錦の判別を可能とした。また、本研究において新たに開発した澱粉合成酵素由来プライマー2個、プロラミン由来のプライマー3個、細胞壁分解酵素由来プライマー2個、酵母及び麹由来プライマー7個を用い、市販の10銘柄の酒から上記の方法を用いて抽出・精製したDNAを鋳型とするPCRを行い、これらの原料米の銘柄判別を可能とした。さらにPCRの結果とこれらの酒試料のグルコース含量、グルタミン酸含量および官能検査の結果との相関分析を行い、PCRの結果に基づく酒の味の総合評価および後味の推定式の作成に成功した。また作付面積の約70%を占める山田錦、五百万石、雄町の玄米のタンパク質の二次元電気泳動を行い、プロラミンなどの組成の相違を見いだした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、原料米・コウジ菌・酵母を特定するためのプライマーを設計した技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、酒類総合研究所と連携して酒類の安全性(混入物判定)、品質向上(適正表示、香味改善)や消費の活性化を目的とした実用化が望まれる。今後は、廉価で特殊な機器が不要なキットを開発されることが期待される。
大型構造物の健全性診断のための6自由度多点振動変位診断技術の開発 埼玉大学
塩田達俊
埼玉大学
笠谷昌史
本研究の目的は空間スケールが大きい社会基盤構造物の多数の点で6自由度(並進3自由度+回転3自由度)を同時に非接触計測できる変位計測器を開発することである。具体的には、イメージセンサ(CCD)によるレーザー光重心の変動を変位として観測する。その際、新規なコーナーキューブ(CC)アレイデバイスを開発して、一度に5自由度を計測する。CCアレイは入射レーザー光の一部を4本のビームとして反射する構造を持ち、そのビーム間隔や重心の位置ずれをモニターして健全性診断を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、構造物の多点振動計測に関して、CCD1台で非接触計測を可能とし、6自由度の振動変位を遠隔操作により計測できる新装置を開発しほぼ当初の目標は達成されたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、フィールド実験さらには、具体的構造物を用いた検証についての成果報告が望まれる。今後は、精度の向上、企業との共同研究など実用化に向けたさらなる研究計画の構築により、社会基盤の安全・安心に寄与する構造物の点検、モニタリング技術として、完成されることが期待される。
リサイクル率向上を目指した消費者購買後行動の解明 富山高等専門学校
清水真
富山高等専門学校
古河秀一郎
本申請の目標は対象を衣服として全国レベルでの処分・廃棄行動についてアンケート調査するとともに、消費者の処分・廃棄行動と人口統計学的および心理的特性における因果関係を定量的に評価し、その結果をもとに、性別や年齢、地域などのレンジをクエリ(質問キーワード)として入力することでそれらに対応する処分行動理由や処分方法が出力されるシステムの構築を行うことである。全国地域婦人団体連絡協議会の協力を得て、全国規模で消費者へアンケートを配布・回収することができ、さらに、回収したアンケート結果を基に、処分・廃棄行動に関連付されたデータの抽出を行うシステムの構築を行うことで、目標を達成できた。今後は、家電品、古本等のリサイクルに関する消費者行動の調査へ応用展開する、すなわち衣服以外の商品を対象に同じ結果が抽出できるかを検証する予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも衣服消費者のアンケートを元に処分・廃棄行動と人口統計学的および心理的特性における因果関係を定量的に評価することで処分行動理由や処分方法が出力されるシステムを構築したことについては評価できる。一方、研究内容の充実と領域の拡大、調査方法の検討など検討課題が示されている通り、産学共同等の研究開発ステップには研究内容の充実が必要と思われる。今後は、研究成果を整理し、学会発表を行うなど成果を公表することが望まれる。
操作訓練を大幅に軽減し直感的操作を実現する多人数型音像移動パネルの開発 富山大学
吉澤壽夫
富山大学
永井嘉隆
音の持つ振幅、周波数、時間分解能などのさまざまな表現要素を活用して、複数の人が同時に聴取できる、多彩な表現を可能にする音像移動パネルの試作を行った。特に、視覚障碍者が、日常的に培ってきた音源探索能力を活用し、装置の訓練の必要がなく直感的に使える音像移動に基づく情報提示パネルを開発した。評価実験においては、文字の書き順や、グラフの変化量など、連続的な微細な情報を伝えることができることがわかった。今後は、タブレット端末の小型化や、さらに自然な形で直感的に操作できるシステムに応用することを検討する予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、 アルファベットの識別においては比較的高い精度で認識できることを明らかにしており、移動する音で文字や図形を提示できることを明らかにしていることは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、多人数型は、達成されていないようなので、開発が望まれる。 企業との連携の計画や検討課題は具体的であるので、産学共同等の研究開発ステップでの実用化が望まれる。今後は、この技術があまねく使われるためには、視覚障害者ばかりでなく健常者に対する応用も考えることが期待される。
コンクリート橋を予防保全するための対象部位選定技術と簡易対策法の実用化 金沢工業大学
宮里心一
金沢工業大学
成田武文
海岸沿いに立地するコンクリート橋を対象とし、1)どの部位で劣化速度が速いかを選定し、2)簡易に予防保全できる方法を開発した。そのため、1)では、実橋を模擬した実寸試験体を作製し、冬季の強風な北陸地域で暴露し、どの面にどの程度の海風が当たるかを実験的に測定した。その結果、最も海側に位置する面へ、多くの塩分が飛来・付着するであろうことを明らかにできた。一方2)では、短時間に塗布できるシラン系表面含浸工法を提案して、それが塩分の浸透を抑制し、腐食発生を遅らせる予防保全方法になることを確認した。すなわち、噴霧を用いたスプレー方式や、ガーゼを用いた湿布接着方式により、シラン系表面含浸材を塗布する工法は、一般的な刷毛やローラーで塗布する場合と同等の含浸性能を有することが確認できた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、予防保全対象部位の選定技術として、実験結果を解析によるシミュレーションで検証できた点や簡易な予防保全技術として含浸材の適用方法の効果を確認できた点は、評価できる。一方、技術移転の観点からは、塩害を受ける可能性の高い部位の選定には、もっと多くのデータから決定する方が、より確度が高くなると考えられる。そのための一つの方法として、実橋の塩害被害状況、塩分濃度等の既存データや今後の調査の結果を利用する方法なども考慮して、研究を進めることが望まれる。今後は、実用化検討を進めつつ、今回のような基礎実験や解析を大事にして基礎データの積み重ねを進めることが期待される。
作業手順の人的誤りに対する頑健性の検査: モデル検証のプロセスへの応用 東京工業大学
渡部卓雄
金沢大学
安川直樹
モデル検証を用いて、手順の頑健性に寄与するタスクの有効性を検証することを目的としている。モデル検証では手順を表す振る舞いモデルと手順の目的を表す時相論式を与える。人的誤りに対する頑健性を検証するときには人的誤りの形式化と振る舞いモデルへの埋め込みが必要である。ここでは人的誤りを omission fault、 selection fault、 sequence fault に分類して、その意味をプロセス代数上でそれぞれ形式化した。この形式化を用いて振る舞いモデルに人的誤りを埋め込む。実験的に、システムの操作手順や一般的な採血手順について適用した。その結果、実際に報告されているシステム障害や事故に至る過程をモデル検証により再現することができた。 Timing fault、 qualitative fault の形式化は今後の課題である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも「人的誤りの形式化の有効性」については、採決作業手順の例で確認しており評価できる。一方、6万通りの探索経路を60分前後の時間で実行する性能目標達成のための処理プログラム並列化作業に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、本研究成果を享受できる民間企業と早期提携されることが望まれる。
分解酵素を用いた植物のカビ毒汚染低減化のための基盤技術の開発 金沢大学
西内巧
金沢大学
渡辺奈津子
ムギ類やトウモロコシの穂に赤かび病菌が感染すると、減収に加えて本菌が産生するトリコテセン系カビ毒が食品等にしばしば混入し、人畜に重篤な免疫不全や食中毒等の健康被害を及ぼす。我々は、カビ毒低減化に関わる農薬の作用機序の解析過程で、赤かび病菌由来の酵素がカビ毒分解に関わることを見出した。本研究では、この分解酵素とHAタグとの融合タンパク質の発現・精製を行った。また、分解酵素を導入した形質転換植物は、カビ毒による植物の生育抑制が顕著に緩和されたことから、本酵素が植物細胞においても機能することが示唆された。今後は、さらに解析を進め、作物や食品におけるカビ毒低減化技術の実用化を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、マイコトキシン生産能が低減する株由来の酵素の遺伝子を同定すると共に、シロイヌナズナに導入してマイコトキシン耐性が向上することを示したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、ターゲットとする用途のニーズを踏まえた、マイコトキシンの分解活性や基質特異性など定量的データを取得するなどによる実用化が望まれる。今後は、早急に酵素のマイコトキシン代謝能を解析し、技術移転につながる知見や技術に展開することが期待される。
空気膜式屋根雪処理装置の実証開発と性能評価 福井大学
福原輝幸
福井大学
宮川才治
過疎高齢化が進む積雪地域において、平成18年度豪雪では全国の死者は152人に達し、その約60%が屋根雪処理に関連した事故である。このように屋根雪問題は人命に関わる重要課題であり、安価・安全に滑雪できる屋根雪処理装置のニーズが高まっている。本研究では膜材を利用した軽量かつ安価な"屋根雪処理装置"を提案するとともに、野外落雪試験により本装置の滑雪性能を評価した。その結果、本装置は10~70kg/m2の屋根雪に対して10分以内に迅速に落雪することができた。更なるコストの低減、施工方法の簡略化を図れば、積雪地域における装置実用化および普及が見込める。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、屋根雪処理について膜材を利用した手法が有効であることが示されたことは、評価できる。また、雪の物理的特性や当該積雪地域の除雪に関するランニングコスト等が把握されているため、製品化から社会還元に至るまでの社会的波及効果の見通しがあることは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、市場性とそれに見合った価格設定、価格目標を達成するコストの低減が望まれる。今後は、連携企業と共同し、コスト低減を図るとともに、既存建築物への構造的影響や装置の耐久性の評価を実施し、社会還元につながることが期待される。
斜面土砂災害の危険度診断ツールの開発 福井大学
小林泰三
福井大学
宮川才治
本研究では、近年多発する土砂災害の予測・防災・減災に資する技術として、豪雨などによる斜面崩壊の危険度を事前診断するための地盤調査ツールを開発した。具体的には、斜面等に手動削孔した小口径のボアホール内にて「水平載荷試験」および「せん断摩擦試験」を行う小型地盤調査装置の開発を行った。当該開発期間では、主に開発した装置のせん断摩擦試験機能を室内模型実験によって実証するとともに、現場実用レベルの調査システム(ハードウェア)の開発に成功した。今後は、本手法で取得したデータに基づいて斜面安定解析や危険度判定を行うためのソフトウェアを構築し、同手法を用いた斜面危険度診断の実証データの蓄積を行っていく予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にせん断摩擦試験機能を備えた、小型地盤調査装置を開発し、 プローブの改良まで行ったことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、目標とした透水試験機能については、実施されていない。透水試験に関しては降雨と地下水位の関係が高いため、現地で簡便に実施できる当該システムの開発に不可欠と考えられるため、透水試験に関する研究の進展が望まれる。今後は、 技術移転に向けた課題として、点的なデータ分析結果を面的な評価へつなげる必要があり、この点に関して実際の斜面で当該システムの使用実績を増やしてデータを蓄積し、研究を進展させることが期待される。
救急車内輸送ベッド用免振装置の開発 福井大学
新谷真功
福井大学
青山文夫
救急車での搬送患者数は、全国で約524万人/年(平成24年度)、脳疾患や心疾患などの傷病者は、そのうちの約60万人に上る。救急車用ストレッチャには、路面の凸凹や窪みによる上下方向の振動とカーブでの遠心力や発進・停止時の慣性力等により、前後左右方向の加速度が発生する。このため、本研究では、慣性力を0.1G以下、上下方向加速度を0.2G以下に抑えることを目標低減加速度とした。研究開発の結果、慣性力では最大値0.1G以下、上下方向加速度では最大値0.2G以下に低減でき、達成度90%以上となった。今後は、加速度低減が傷病者の体調変化に与える影響について明らかにするとともに、積載重量が大きく、傷病者に優しい救急車用防振ベッドを開発する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、実救急車からの実測データに基づき検証が行われ効果確認されていることは評価できる。一方、制作された装置のサイズ、重量は、目標値を満足しておらず、加速度性能についても、相対的な表記にとどまっているので、さらなる改善が必要と思われる。今後は、搬送される装置上の人間に対する力学的解析や人体に対する悪影響が無いか検証を加えて、さらなる技術的検討やデータの積み上げを実施することが望まれる。
赤ワイン製造工程におけるフェノレ原因微生物の発生防止法の確立 山梨県工業技術センター
恩田匠
近年、本邦の赤ワイン製造において、品質劣化の原因である「フェノレ」と呼ばれるオフフレーバー(異臭)の発生防止が急務となっている。本研究は、実験室レベルで得られたフェノレ原因菌の増殖阻害条件などを元にして、フェノレのない製造方法の確立を目的としたものである。ワイン製造現場でのフェノレ原因菌の発生源を調べ、それが原料ブドウに由良し、製造工程では樽貯蔵工程中に汚染が蓄積されることが分かった。この樽におけるフェノレ原因菌の除去に有効な澱下げ方法と樽の洗浄方法について明らかにした。さらに赤ワインの仕込みにおいて、酸度管理と亜硫酸の適正利用により、フェノレ発生のない製造を実現できることを実証した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、フェノレ発生の原因酵母の除去法が確立されない赤ワイン製造技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、樽の洗浄方法やメンテナンス方法を見直すことで、高品質な赤ワインの製品製造での実用化が望まれる。今後は、地域の産学官連携体制でこの技術が検討される体制が提案されており、地域の産業支援に貢献でき、社会に広く還元されることが期待される。
食品の苦味制御のためのヒトの感覚に適合した苦味評価システムの開発 山梨大学
斉藤史恵
山梨大学
還田隆
本研究開発では、ヒトの感覚に適合した苦味評価システムの開発を目的に、ワインに含まれるヒドロキシシンナム酸を苦味として知覚させる香気成分の探索を行った。まず、におい嗅ぎGCおよび官能試験により、ワインの香気成分の中から苦味に寄与すると考えられる香気成分を特定した。味認識装置では、香気成分と苦味強度に関係性はみられず、また一部のヒドロキシシンナム酸は苦味として検知されなかった。そこで、ノーズクリップを用いた官能試験を行ったところ、香りを感じる状態では苦味の強度より持続性が上がる傾向がみられた。すなわち、味および香りの経時変化を測定することが重要なカギであると考えられた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、におい識別装置の故障にも関わらず、ワインの各種ヒドロキシシンナム酸とイソアミルアルコール量の呈味強度との相関を求めたことなどについては評価できる。一方、得られた知見をより定量的にするために、におい識別装置を用いた早期の追加実験・評価データの積み上げなどが必要と思われる。今後は、苦味制御という実用目標を見据え、呈味(特に渋み、苦み)に関しては個人差が大きいことも考慮してパネラーを選抜するなど、計画的に研究を遂行されることが望まれる。
音とオブジェクトを同期させる技術を応用した学習支援システムの開発 長野工業高等専門学校
藤澤義範
信州大学
中澤達夫
本研究の目標は、音声とオブジェクトを同期させる技術を使って特別支援学校の生徒のための学習支援を行うことである。本研究では、音声とオブジェクトを同期して再生するシンクロプレイヤーを開発し実際に特別支援学校の生徒に使っていただき、よりよいものに改良する。研究期間において数回にわたり一般の人々や特別支援学校の先生および生徒、作業療法士、理学療法士の方々にシンクロプレイヤーを使っていただき、さまざまな意見をいただいた。今後は、これらの意見を元にシンクロプレイヤーの機能の充実とユーザインターフェースの充実を図る。さらに、学習支援システムとしての充実を図るためにコンテンツの半自動制作化を検討している。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に特別支援学校に向けた学習支援教材として、音声と文字・画像などが同期するシンクロプレイヤーに関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、開発するアプリは社会的な意義も大きく、製品化を進めるための具体的な計画が示されており、企業などとの連携が推進されることが望まれる。今後は、使いやすいアプリを共同で開発するだけでなく、技術の新規性や独自性を明確にしておくことが期待される。
掘削ずり再利用化に向けた反応表面積が異なる材の混合による重金属類溶出抑制 岐阜大学
加藤雅彦
岐阜大学
馬場大輔
廃棄物(資材)を利用し、土木工事から発生し、重金属類等を含む土砂等(掘削ずり)の再利用技術の開発・改良に向けて、粒径の異なる、すなわち反応表面積が異なる掘削ずりと資材との重金属類の溶出抑制反応等を解明、重金属類の溶出が環境基準以下となる掘削ずりへの資材の添加率を明確化することを目的とした。反応後に掘削ずりと資材を分画できる実験装置により、粒径比が異なっても、掘削ずりと資材が物理的に直接接することがなくても、資材を10%添加することで、重金属類の溶出を環境基準以下に抑えることができた。 資材によって掘削ずり自体からの重金属類溶出が抑制されることがわかったが、資材の何が抑制に寄与しているかを解明していく必要がある。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも廃棄物を利用し、土木工事から発生した重金属類等を含む土砂等(掘削ずり)の再利用技術の開発・改良に関し、
使用した掘削ずりが当初想定の酸性でなくアルカリ性であったものの、当該廃棄物を10%添加することでヒ素の溶出を環境基準以下に抑えることができることを見出したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からはヒ素溶出抑制のメカニズムの解明などが必要と思われる。今後、本研究開発の成果が応用されれば、社会的な還元が期待できる。
上空画像とプローブカー情報の信頼度に基づく災害時道路区間自動判別システムの開発 静岡大学
佐治斉
静岡大学
斉藤久男
大規模災害時に、被災地周辺の広域道路情報を詳細に把握することは、消防・救急車両の通行路や被災者の避難経路を確保するために必要不可欠である。本研究は、上空画像とプローブカー情報のデータ統合により、各道路区間の通行可否の状態を自動判別するシステムを開発することを目指すものである。そのため、画像及びプローブカー情報に対する処理手法を考案し、計算機上で判別ソフトウェアを作成した。また、東日本大震災前後に収集された衛星画像とプローブカー情報、及びデジタル地図を活用した実験とその評価を行った。さらに、その成果を学会で発表するとともに、交通管理に関わる組織と共同で、考案手法の実応用への課題について検討した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に衛星などによる上空画像とプローブカー情報を統合して、災害時の道路網の危険や閉塞を自動判定するシステム構築に関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、上空情報の解像度の問題から、道路網の危険、閉塞などの詳細情報の提示とか、自動車メーカーが先導しているプローグカー情報に基づく災害時道路網の状況情報との連携などでの実用化が望まれる。今後は、InSAR解析技術などの利用により上空情報の実質的な解像度の向上につながることが期待される。
ハイスループットな環境リスク評価のための線虫イメージング法の開発 浜松医科大学
木村芳滋
浜松医科大学
小野寺雄一郎
ハイスループットな環境リスク評価法として質量顕微鏡法による線虫のイメージング法の開発を行った。本研究では条件最適化による検出感度の上昇とモデル環境下で変化するマーカーの同定を目標とした。マトリックスの選択と塗布法などの最適化により、脂質(PC)を検出するために十分な感度を得ることができた。また脂質合成の変異体とパラコート処理を用いて得られたイメージを比較することで、特異的に変化する生体分子を多数検出することができた。今後は1)より高解像度で検出できる機器の利用。2)より多検体を検出しハイスループット化する方法の検討。3)毒性の低い薬剤を用いたマーカー同定。などを検討し研究を続行する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にモデル薬物としてパラコートを用い、個体内部の代謝パターンの変化を画像データとして可視化して比較したことに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、特にコンタミの有無を既存手法との比較データで実証するなど、優位性を明確にした上での実用化が望まれる。今後は、鉛などへも適用されることが期待される。
ウナギ仔魚の大量飼育を可能にするマリンスノー状餌料の開発 愛知県水産試験場
岩田友三
NPO法人東海地域生物系先端技術研究会
松井正春
高分子分解能を有するマアナゴ仔魚(ウナギと同じ葉形仔魚)の腸内細菌等を用いて、ウナギ仔魚の摂餌に適したサイズのマリンスノー状餌料を作製することができ、ウナギ仔魚がマリンスノー状餌料を摂餌することを確認することができた。しかし、このマリンスノー状餌料を給餌して飼育を行ったが、生存期間の延長や成長等の摂餌の効果はみられなかった。今後は、仔魚の消化・吸収を促進するために、餌料のさらなる低分子化等ついて検討する必要があると思われる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、開発したマリンスノー状餌料に対してウナギ仔魚が摂餌行動を示すことを確認したことについては評価できる。一方、現在使われているサメ卵餌料とマリンスノー状の餌料との物性や栄養成分などの比較検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、試行錯誤の繰り返しに科学的根拠も加えた工夫を重ねて好適な餌料を開発されることが望まれる。
スケールダウンされた環境水フェノール指標の測定装置の開発 愛知工業大学
手嶋紀雄
公益財団法人名古屋産業科学研究所 中部TLO
大森茂嘉
本研究では、様々な夾雑物や懸濁物が含まれる排水試料に対応可能なフェノール類の小型蒸留装置を製作し、4-アミノアンチピリン法に基づくシーケンシャルインジェクション分析(SIA)法を用いて留出液中のフェノール類を定量する手法を開発した。フェノール標準溶液を本蒸留装置で蒸留後、留出液をSIAにより定量した結果、95~103%の回収率を得た。本蒸留装置による試料体積は最小で35 mLであり、JIS K 0102法の約1/7に低減された。各種の排水試料を本法により分析した結果は、同JIS法による結果と良く一致した。今後、蒸留/化学分析法によって測定されるふっ素化合物、シアン化合物への展開が期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、オンライン化を前提とした前処理装置と、流れ分析法を応用したフェノール類測定装置の開発を行い、従来法と良い相関があることを見出しており、目標をほぼ達成していることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、最終目標の、前処理過程をオンライン化した測定装置の開発には至らなかった。環境分析における前処理過程は、大変手間のかかるものも多い。この過程が省力化できれば、社会的な利益につながるものと思われる。最終目標の前処理過程のオンライン化に至らなかった点を改善するとともにさらなる小型化が望まれる。今後は、他の分析対象物も視野に入れて、現場分析できるシステムへの進化が期待される。
ミジンコ1匹の精密化学計測に基づく次世代型の生体毒性試験法の開発 中部大学
石田康行
まず、ミジンコにおける脂肪酸成分の化学組成を、個体ごとに正確かつ高精度に解析できる化学計測法を新たに開発した。この方法により、化学物質共存下で培養したミジンコ試料の脂肪酸組成を分析し、さらに得られた組成データをケモメトリックス手法により統計処理した。その結果、化学物質の存在がミジンコの栄養状態に及ぼす影響を2次元プロットとして視覚化及び数値化して提示することに成功した。この方法では数十μg程度の極微量のミジンコを試料に用いて、種々の化学物質がミジンコに及ぼす影響を迅速かつ簡便に評価でき、当初の目標を十分に達成できたと評価している。今後、より多様な化学物質の影響を系統的に精査していくことにより、実用的な毒性試験法として本システムを実機化することを展望している。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、目標とした、ミジンコの栄養状態における変化を1匹ごとに2次元プロットとして分かりやすく視覚化する、化学物質の毒性評価方法を開発することに対して評価方法の提案にまで至っていることは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、再現性の向上や他の有害物質についての検証、また、更なる高感度化、分析時間短縮についても継続して検討することが望まれる。今後は、多くの物質について検証すると共に、既存の試験法との比較により、本試験報の位置づけを明確にして、社会還元につなげることが期待される。
制御システム用セキュリティ・プローブの開発 名古屋工業大学
越島一郎
名古屋工業大学
岩間紀男
制御システム(ICS)の運用現場では長年セキュリティ対策がやや軽視されてきた傾向にあるため、一般的なITシステムの運用現場よりもセキュリティ対策に関するノウハウが不足しがちである。このような状況下でStuxnet に代表される高度な標的型攻撃が発生した場合、その発見・対処は極めて困難な状況に陥る事が懸念される。
このため、重要インフラの制御システムに対するネットワークを通したサイバーアタックの兆候を監視・分析・評価するために制御装機器のネットワークI/F、センサーI/Fに挿入する装置(プローブ)とこれを用いた防御網の試作を以下の通り行った。
装置(プローブ): ハードウエアとして、ARMプロセッサを用いた手のひらサイズの市販ワンボードコンピュータを選定し、それに接続するネットワークタップ(LANよりプローブの存在を不可視とする)とワンボード上に搭載するドータカード(制御機器からのアナログ信号を取得する16bitA/Dコンバータ・ボード)を試作することで、プローブとして制御装機器のネットワークI/F、センサーI/Fに接続可能とした。
またソフトウエアとして、プローブで制御システム特有のプロトコル(ModbusTCP)をモニターするプログラム並びにアナログセンサー、I2Cデジタルセンサーからのデータを監視するプログラムを試作した。
防御網: rsyslogを使用したプローブクライアントとSplunkを使用したプローブデータサーバを構築し、複数のプローブが得たモニター情報を集約して異常な挙動を監視するシステムを試作した。
今後は、別途用意したミニプラント並びにロボットにプローブを設置して、正常運転時の制御システムの通信プロファイルを取得するシステムの開発を行い、実機を用いた機能試験に結びつけたい。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にインフラの制御システムに対するネットワークを通したサイバーアタックの兆候を監視・分析・評価するために制御装機器のネットワークI/F、センサーI/Fに挿入する装置(プローブ)とこれを用いた防御網に関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、プローブがモニタリングしている制御機器の挙動から、パターンを学習し、プローブ゛自身がインシデント原因を特定するプログラムの開発継続などによる実用化が望まれる。
今後は、想定される環境の前提や条件を明確に事前把握されることで、より実効のある開発が期待される。
中性子線遮蔽能に優れる高密度ジオポリマー材料の開発研究 名古屋工業大学
橋本忍
名古屋工業大学
岩間紀男
フライアッシュと高濃度アルカリ溶液とを反応させて作製したジオポリマーの、中性子線遮蔽能を評価した。通常養生法で作製したジオポリマーは、若干既存のセメント材料より中性子線遮蔽能が低下した。しかし申請者らが開発した新規緻密ジオポリマー作製技術を投入することで、従来のセメントの性能を越えるまでには至らなかったが、ほぼ同等の中性子線遮蔽能を発現させることに成功した。さらに目標値の2倍の100MPaを超える圧縮強度をもつジオポリマーの開発に成功した。今後は、原子力発電所関連の建屋、石棺から、排出される放射性廃棄物の長期安定貯蔵用材料としての使用を目標に、γ線に対する遮蔽能を評価したい。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも新規作製技術により目標値の2倍の圧縮強度とセメントとほぼ同等の中性子線遮蔽能を有する緻密ジオポリマーが得られたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは本研究成果に基づいて特許出願されており、実用化に向けジオポリマー調整材料や方法の検討による水分保持能力と中性子線遮蔽性能が改善され、放射性廃棄物の長期安定貯蔵用材料として実用化されることが望まれる。
床版蓄熱と断熱塗料を利用した鋼桁の結露抑制技術の開発 名古屋工業大学
永田和寿
名古屋工業大学
太田康仁
本研究の目的は、日中の太陽熱や断熱塗料を利用することで特に冬の早朝に鋼桁のウェブや下フランジで生じる結露を抑制することにより、桁の腐食環境の改善を行うための技術開発を行うことである。そこで、断熱塗料と蓄熱材を用いた鋼桁を模擬した模型(鋼板)の結露に関する数値解析ならびに小型環境試験器を用いた実験を行った。さらに、実際の橋梁への適用を検討するために、実際の橋梁において結露に関する調査と検討を行った。その結果、蓄熱材と断熱塗料を使用することで桁の温度低下が抑えられ、温度低下によって生じる結露を抑制できることができることが明らかになった。このことにより、鋼桁に生ずる結露を抑制するための基本技術を開発することができた。また、実際の桁は上部に比べ下部が冷えやすく結露しやすい構造であることも明らかになった。今後は、本技術を実際の橋梁に適用するために桁の温度低下をさらに抑制し持続させるための断熱塗料や蓄熱材から鋼板への効率的な熱の誘導や桁の温度分布特性を考慮した研究や検討を行う予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、断熱塗料の塗布の有無による鋼板の温度変化に関して室内実験および解析から一定の成果を得ていることは、評価できる。また、 鋼橋における結露の発生原因を解明するために、実橋の橋桁ウエブプレートの上部と下部で温度計測をし、冬季の深夜から早朝にかけて下部が上部より温度が低いことを明らかにしたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、値解析および実験ともに、実構造に近い構造諸元のモデルでの定性的、定量的な検討が望まれる。また、 実際の鋼橋で生じる結露に関する計測データの収集と分析が望まれる。今後は、材料メーカーから研究開発に向けて材料の提供が開始されており、成果の集積により、実際の橋梁の維持管理に役立てることが期待される。
新奇赤果肉リンゴ原因遺伝子の機能解析とDNAマーカによる効率的生産 名古屋大学
松本省吾
名古屋大学
玉井克幸
視覚的にカラフルで健康増進効果の見込まれる赤果肉リンゴから、果肉着色原因候補遺伝子MdMYB110a_JPの単離に成功した。本遺伝子は果肉着色開始期において果肉特異的に高発現しており、35S::MdMYB110a_JP導入リンゴ形質転換体の葉、茎が赤く着色した。また、転換体の葉において果肉と同じアントシアニン成分が同定されたことから、本遺伝子が新奇果肉着色遺伝子であることが示された。
本遺伝子のプロモーター領域を含むゲノム配列を解析し、エキソン1,2を含む構造遺伝子1.2 kb内に5ヶ所、プロモーター領域3.9 kb内に25ヶ所のSNPを見出した。機能性に関わる可能性のある領域内で見られたSNPを基にdCAPSマーカを作製し、赤果肉リンゴ選抜マーカとしての有効性を検証した。
期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、果皮ではなく果肉の赤着色に関わる遺伝子の発現と機能解析を行い、赤果肉形質を持つリンゴを実生段階で早期に選抜できるdCAPSマーカーを開発したことに関する成果が顕著である。一方、技術移転の観点からは、周辺特許を含めた特許群の取得を目指した研究開発も行うことなどでの実用化が期待される。今後は、開発したdCAPSマーカーの実生段階の交雑集団での有効性を確認し、赤果肉リンゴの育種に早期に応用されることが期待される。
超低バックグランド同時計数型放射性セシウム濃度測定装置の開発 名古屋大学
山本誠一
名古屋大学
山本鉱
東京電力福島第一原子力発電所事故により環境中に放出された放射性物質による環境汚染が大きな問題となっている。特に長半減期である放射性セシウムの自然生態系への取り込みは極めて深刻であり、低バックグランドで計測する手法が切望されている。本研究では、Cs-134からの605keVガンマ線と796keVガンマ線が同時に放出されることを利用し、これを同時計数することで超低バックグランド放射性セシウムの検出を実現した。検出器を、放射性セシウム検体を囲むように配置し、その検出器間で、Cs-134から同時に放出される605keVガンマ線及び796keVガンマ線を同時計数することでバックグランド計数を大幅に減少させることに成功した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、検出器のバックグランド計数の割合を低く抑え、感度上昇も果たしていることは評価できる。一方、セシウム濃度の絶対値の定量性的測定の観点からは、さらなる検討が必要と思われる。今後は、開発した装置の実証試験をおこない、有効性を明確にすることが望まれる。
植物免疫誘導剤の開発に向けた新規エリシターの有用性の検証 名古屋大学
川北一人
名古屋大学
武野彰
植物病原菌に対する植物の耐病化に向けて、本技術は植物病原菌由来の活性酸素生成エリシターの構造決定や免疫誘導能の検証等により、植物の新規免疫誘導剤開発に関するものである。ジャガイモ疫病菌から活性物質の分離精製を進め、8種のセラミド系化合物を取得し、4種が新規化合物であった。活性物質は、ジャガイモやタバコ植物に対して活性酸素生成活性および抵抗反応誘導活性(過敏感細胞死誘導能)を示した。また、合成剤bis-aryl-methanone化合物はNO生成活性および抵抗反応誘導活性を示した。これら活性物質を処理したジャガイモ葉において、ジャガイモ疫病菌に対する抵抗性が増大した。今後は、得られた活性物質の免疫誘導剤としての有用性をさらに検証する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、ジャガイモ疫病菌から活性物質を分離精製し、活性酸素の生成活性と抵抗反応の誘導活性を示す新規活性物質を得たことについては評価できる。一方、得た活性物質の効果的な使用条件の確立や、既存の免疫誘導剤との効果の比較などの技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、実用化に向けた多くの技術的課題を整理した上で課題解決に取り組むことが望まれる。
資源循環を指向した微生物活性化剤による有機溶剤含有排水処理技術の開発 名城大学
細田晃文
名城大学
伊藤和男
H24~25年度に実施した本研究では、X. autotrophicus GJ10株によるジクロロメタン分解活性を促進するために、H23年度の研究成果であるBD-1にコーンスティープリカーを添加したBD-Cを添加して連続培養を行った。その結果、HRT 96hの培養条件において、約300 ppmのDCMを80%に分解することができた。しかし、本条件では分解に要する日数が、当初目標の5日間ではなく、10~12日間必要であることが分かった。この結果は、ジクロロメタンから生じるギ酸を蓄積することができず、GJ10株の増殖に使われたため、分解能力を充分に発揮できなかったことが推測された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、原水中のジクロロメタン濃度が83%近くとなるまでに分解できたことに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、ギ酸の蓄積を目的とする資化物質の添加の検討や本技術の効果やコスト、安全性などの見極めた上での実用化が望まれる。今後は、陜雑物がさらに増加する実汚染水での検討と論文投稿や特許出願も検討されることが期待される。
ジオポリマーを結合材とするポーラスコンクリートの新規開発とその応用 三重県工業研究所
前川明弘
三重県工業研究所
米川 徹
本研究では、地球温暖化の一因とされる炭酸ガスの排出量を低減するために、セメント代替材料としての利用が期待できるジオポリマーに着目し、それらを結合材として使用したポーラスコンクリートの各種特性について評価した。その結果、結合材の反応性やコンクリートの長さ変化など、今後、より詳細に検討すべき課題を明らかにするとともに、製品化で最も重要となる強度特性や透水性能などの機能については、セメントを結合材としたポーラスコンクリートと同程度の性能が得られることを確認した。また、実製品の型枠を使用することにより、小型ポーラスコンクリートブロック製品の試作を試み、実用化に期待が持てる製品を製造することができた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもセメントに比べて格段に二酸化炭素の排出量が少ないジオポリマーを用いて、従来のポーラスコンクリートと同等の圧縮強度が得られる可能性を示したことは評価できる。一方、技術移転に関しては製品化の方向性、品質目標の設定、耐久性の確認などの検討や技術データの積み上げなどが必要と思われるとともに研究成果の特許出願が望まれる。今後、本研究開発が進展し二酸化炭素の排出量が少ないポーラスコンクリートが実用化され、低炭素社会実現への貢献が望まれる。
種子繁殖型イチゴ品種育成を効率化するDNAマーカーの開発 三重県農業研究所
橋爪不二夫
NPO法人東海地域生物系先端技術研究会
松井正春
三重県育成イチゴ雑種集団(C系統群)の連鎖地図を用いたQTL解析によって得られた萎黄病罹病性連鎖SSRマーカーFVES3394a、FVES2619から簡易検出マーカーを作成した。このうち、3394(R3394, S3394)は、他系譜の雑種集団においても萎黄病抵抗性・罹病性個体を判定する精度が高かった。本マーカーと、R700由来マーカーを併用することによって、抵抗性ホモとヘテロを識別することが可能となった。これらの萎黄病抵抗性連鎖マーカーを用いて、三重県母本集団(自殖系統)から抵抗性の遺伝子型を示す系統を選抜し、自殖第3代系統を得た。また、C系統群の果実形質、栽培形質を調査し、QTL解析を行った。その結果、糖度、酸度、糖酸比、酸度、赤色度、1果重、1株収量に連鎖する領域、およびその近傍に存在するマーカーを検出できた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、果実の形質に関連するマーカー候補の領域を明らかにしたことと萎黄病抵抗性についてホモとヘテロを識別するマーカーを開発したことは育種の効率化の観点からも重要であり、評価できる。一方、技術移転の観点からは、更に3形質に係る検討、特に炭疽病抵抗性の検討を行い萎黄病抵抗性との連鎖関係を明らかにするなどでの実用化が望まれる。今後は、今回の成果に基づき、耐病性以外の果実形質についてマーカーで選抜できる技術として進展されることが期待される。
転写後ジーンサイレンシングを生じない植物用遺伝子発現ベクターの開発 三重大学
加賀谷安章
株式会社三重ティーエルオー
齋木里文
本研究では、形質転換植物での導入遺伝子発現が抑制される転写後ジーンサイレンシング(PTGS)のメカニズムを調べるために、新規に分離したPTGSが亢進する変異体の原因遺伝子を調べた。原因遺伝子産物は核内でポリAテイルが付加されていないRNA分子種の分解に関わる構成因子の一つであった。したがって、典型的な植物の遺伝子導入ベクターでは潜在的に核内で転写終結反応が不完全であることが強く示唆された。そこで、転写終結反応が効率的に生じるように改変した遺伝子発現ベクターを作製した。改変ベクターをPTGSが亢進する変異体に導入しても、従来の発現ベクターと異なりPTGSが抑制される確認した。したがって、PTGSの発動を強力に防ぐ植物用遺伝子発現ベクターの研究開発に成功したといえる。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、転写後ジーンサイレンシング(PTGS)を指標としてターミネーター領域とその下流域の遺伝子発現に及ぼす効果・意義を明らかにし、PTGSを抑制するターミネーターを有する発現ベクターを開発した成果が顕著である。一方、技術移転の観点からは、本原理を用いたベクター応用として、更に多くの遺伝子についてその安定生産に係る実験を重ねるなどでの実用化が期待される。今後は、実用植物(農作物)での効果確認と、応用範囲が非常に広い技術であるので国際特許の取得を検討されることが期待される。
琵琶湖産真珠復活のためのイケチョウガイ集約的種苗生産手法の開発 滋賀県水産試験場
幡野真隆
滋賀県水産試験場
井出充彦
イケチョウガイの種苗生産から当年秋までの初期育成において、生残率を向上させつつ、集約性を向上させた生産方式の開発を行った。また、採苗初期にイケチョウガイ幼生が寄生するために必要な魚として、ニジマスを用いた場合の好適な寄生条件の検討を行った。
その結果、育成時には湖水を目合0.2mmで簡易ろ過装置によりろ過処理して掛け流し飼育を行い、飼育容器の底砂には粒径0.3から0.5mmの細砂を用いることで生残率が最大40%まで向上した。また、浅い円形容器を飼育槽に用いた多段式の飼育装置を作成し育成試験を行った結果、従来の水槽を用いた育成よりも高密度で高成長が可能な育成が可能であった。ニジマスを用いた採苗では約40gの魚が最も寄生効率が高かった。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、再開されつつある淡水での真珠養殖業に向けた、管理し易く効率的な母貝生産に関する技術は評価できる。一方、技術移転の観点からは、原水のろ過方式を工夫すると共に、安定生産のために餌となるサスペンジョンの質と量を把握して、琵琶湖の湖水利用の無給餌での生産技術としての実用化が望まれる。今後は、養殖業者への技術移転、技術指導、そして現場で生じる新たな問題への解決を通して淡水真珠養殖業の再開に貢献されることが期待される。
微小且つ複雑な形状をしたき裂の定量的評価が可能な非破壊検査システムの開発 滋賀県立大学
福岡克弘
滋賀県立大学
安田昌司
強磁性体を検査対象とし、微小き裂の検査が可能な"磁粉探傷試験"と、き裂形状を定量的に評価するのに有利な"渦電流探傷試験"を組み合わせたハイブリッド電磁非破壊検査システムの構築を目的とした。
「磁粉探傷試験によるき裂の定量的評価」においては、高速度カメラを用いて測定した磁粉量から、き裂の深さを推定できることを確認し、その関係式を構築した。さらに、き裂からの漏洩磁束密度分布の数値解析を実施し、き裂形状と漏洩磁束密度分布の相関を明らかにした。
「渦電流探傷試験によるき裂の定量的評価」においては、丸棒形状の被検査対象物を探傷する貫通コイルプローブと、平板形状の被検査対象物を探傷する一様渦電流プローブおよび各プローブを用いた探傷システムを開発した。開発した探傷システムにより、強磁性体中における深さ50μmの極微小き裂において、S/N比が2以上で探傷できることを確認した。
今後は、メーカとの連携を検討し、"磁粉探傷試験"と"渦電流探傷試験"のそれぞれの長所を生かした高精度電磁非破壊検査システムとして製品化を進めていく。さらに、立体形状の被検査対象物への適用を検討していく。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、「磁粉探傷」ならびに「渦電流探傷」両手法において個別目標が達成され、二つの探傷を併用するハイブリッド非破壊検査システム装置開発への目処が示されたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、探傷に関する各種測定パラメーターに関してのより系統的調査と原理に基づく設定が望まれる。今後は、ユーザーメーカーとの共同研究により、製造ラインに設置し得る装置構成やシステムの構築をも視野に入れた展開が期待される。
大きな機械衝撃耐性と感度をもつマイクロMEMSジャイロスコープの研究 立命館大学
鈴木健一郎
立命館大学
近藤光行
ジャイロスコープは物体の傾きや回転運動を検出するセンサであり、運動制御システムでは必須のデバイスである。近年急速にその応用が拡大している振動型MEMSジャイロスコープは、その低い感度を補うために機械衝撃耐性を低く設計しなければならないことが最大の課題である。本研究は、かかる課題を解決するのに適したばね設計と検出回路の評価を行い、1)ばね構造がジャイロスコープの非線形発生の非常に敏感な原因となること、2)デバイス検出回路の詳細な評価から、ノイズ発生の主要な原因が試作した検出回路に原因があること、を明らかにした。これらの成果は、今後、ジャイロスコープの感度を増大させるのに適したばね設計、および、ノイズが少ない簡略化された小型検出回路の開発に役立つものである。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもマイクロMEMS ジャイロスコープの特性で、ヒステリシスやノイズの影響が大きいことを示した点は評価できる。一方、今回実施できなかった部分について技術課題や研究成果の問題点の検討が必要と思われる。今後は、目標達成のための研究開発計画について、具体的な検討が望まれる。
注意配分特性に基づく運転者ディストラクション検出手法の研究 立命館大学
和田隆広
立命館大学
國友美信
申請者らの先急ぎ運転検出手法を発展させ、漫然運転などの不注意運転へ拡張することを目的とした。本研究開発では注意配分特性を指標の一つである注視対象判定の分解能を向上させ、車線変更のみに適用可能であった注意配分特性解析の、より幅広い交通状況への拡大を狙った。シミュレータ実験の結果、車線変更準備時に、ディストラクション時に特有の視認行動が発現する傾向が見受けられた。また、本手法の車線合流時への拡張を目指し、ドライバの合流動作のモデリングを行った。第一段階として合流位置判断モデルを導出し、合流行動の判別器を構成することに成功した。ディストラクション検出への展開については予定通りの成果を得られなかった反面、シナリオ拡大については予定以上の成果を得た。
引き続き、さまざまなシーンにおける衝突リスクと視線解析結果の間に利用可能なアルゴリズムを見出すためのデータ蓄積をおこない、そのアルゴリズムが明確になった時点で、応用化の検討に移行する。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも注意配分特性を指標の一つである注視対象判定の分解能を向上させ、車線変更のみに適用可能であった注意配分特性解析をより幅広い交通状況への拡大を図っている点については評価できる。一方、自動車の安全運転、自動運転が叫ばれているさなかであり、このような安心安全につながる技術の社会的意義は高いので技術的課題の開発優先度を図る意味で具体的な時期と内容をロードマップのような形で作成しておくことが必要と思われる。今後は、この技術を利用する自動車メーカー、交通当局、ドライバーなどが何を一番望んでいるか(いわゆるニーズ)を整理して、その中から実現可能な分野を選び出して研究を進めることが望まれる。
簡易な動的ヘッドスペース分析法を利用する揮発成分選択的高感度分析法の食品品質管理への応用 京都市産業技術研究所
高阪千尋
公益財団法人京都高度技術研究所
遠藤達弥
食品の安全性の確保や食中毒要因の分析のため、食用魚などの鮮度判定には細菌学的手法を用いるのが一般的であるが、結果の判定に24時間以上を要し鮮魚の品質管理に利用することは困難である。そこで、迅速で簡便な食品の品質管理方法の構築を目的とし、動的ヘッドスペース分析法により食品の周囲の気体を希薄成分濃縮機材にて採取しガスクロマトグラフィー(GC)で分析を行った。魚試料4種類から揮発する微量成分の経時変化をガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS)にて測定した結果、今回の分析条件下では、16種類の推定される化合物において変化を見出した。今後は、今回の候補化合物から鮮度判定に最適な化合物および専用の吸着機材を開発し、実用試験を行うことが課題である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。一方、においなどの客観的指標との照らし合わせで指標化合物を選定した後、「鮮度」の違いを示す指標を抽出し、GC分析による鮮度の数値化を目指すなどの検討が必要と思われる。使用分野も広く社会還元への寄与度は高いと予想されるので、今後は、今回得られた成果を基にして研究開発内容を再検討することが望まれる。
InSAR解析によるダム湖に隣接する地震誘発地すべり地の予測と監視技術の開発 京都大学
齊藤隆志
京都大学
吉川信久
近年、国内外で、大地震の際に地すべりが誘発され甚大な被害を受けている。被害軽減のためには、想定大地震時に誘発される可能性の高い危険な地すべり地を検出し、その活動を監視することが重要である。2007年能登半島地震の際、山地の既往地すべり地やその周辺に大きなInSAR変位量を検出し、対応する変状を現場で確認した。これは中小地震時でも地すべりが誘発されること、そして、このように危険な地すべり地の検出と監視にはInSAR解析が有効であることが示された。本解析調査では、中規模地震を経験した既往地すべり地を対象にして、危険な地すべり地の検出とその活動の監視にInSAR解析を利用できるか検証した。その結果、東日本大震災では変位が検出されず、数日後の内陸直下型地震で変位が検出されたいわき市周辺の例および2008年岩手宮城内陸地震と東日本大震災で検出された変位様式の差が認められる宮城県花山ダム湖周辺でも、特に、変位と地形と間に関連性があることが示され、本手法の有効性が確認できた。今後の技術移転には、解析例を増やすことと、地すべり土塊の位置と地震波の周波数特性および震央との距離の関係を明らかにすることが必要である。また、研究開発の過程で、これまで写真判読によって特定された既往地すべり地の検出方法に、河道縦断形状を利用する方法が有効で検出に脱落がないことが明らかになった。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に危険な地すべり地の検出とその活動の監視にInSAR解析を利用することや、将来の土砂移動が発生する可能性のある地すべり土塊を特定することが可能とする技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、詳細DEMをGIS手法を利用した地形解析に新たに開発された流線に沿う河道断面形状を示す方法を、広範囲な土砂災害のハザードマップを作成するという技術的課題が明確に示されている点、新たな河道縦断形状を考慮する方法が提案されている点などでの実用化が望まれる。今後は、InSAR解析は地震予測でも有効であるが、想定するダム周辺の地下構造を考慮した動きを予測することは難しいので、高精度の地殻活動モニタリングシステムとその評価システムを構築するとか、ローカルな重力異常、微弱電磁波異常の分布を利用することも検討されることが期待される。
位相差分光による小型簡便な同位体比計測装置の開発 京都大学
薮下彰啓
京都大学
荒川弘
半導体レーザーを用いた吸収分光法による小型・低廉な安定炭素同位体比測定装置の開発を行った。開発の第一段階として、Continuous Wave Cavity Ring-Down Spectroscopy (CW-CRDS)法を用いて、2 μm帯での13CO2/12CO2同位体比を測定した。本研究で目的とする食品の燃焼による二酸化炭素を分析するには、現状の装置で十分な感度が得られることがわかった。続いて、より低廉で簡便な測定法として位相差検出を行うPhase-Shift CRDS法を試みた。しかし、現状の装置では安定した出力が得られず、目標とする精度を達成することはできなかった。今後の対策として、出力不安定の原因と考えられる圧電素子の安定化、もしくは圧電素子を用いないoff-axis CRDS法を用いた開発を進めていく。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも簡易タイプの同位体測定の装置が必要とされている中で、位相差分光を利用した点は評価できる。一方、位相差計測法については、出力波形が弱く、大気中の同位体比の変化を定量するには、装置の感度と安定性の向上に向けた技術的検討やデータの積み上げが必要と思われる。今後の方向を定めるためには、同位体の限界濃度や検出限界感度に関して数値で規定することが必要と思われる。
有機リン系毒性農薬を検出する微生物酵素を用いた新規簡便分析システムの開発 京都府立大学
渡部邦彦
京都府立大学
市原謙一
中国ギョーザ事件で問題となった有機リン系毒性農薬を分析する革新的簡便検査システムを開発する。有機リン系農薬の毒性指標として、脳由来酵素アセチルコリンエステラーゼ(AChE)の活性阻害測定がある。しかし脳のAChEは安定性が低く、阻害と失活の判別が難しい上に、活性測定法も複雑である。そこで本申請ではこれらの欠点を克服し、従来と全く異なる原理による有機リン系毒性農薬分析システムを開発する。まず独自に単離した微生物から安定なAChE酵素を得、次に反応阻害に伴う微小な電気信号変化を直接検出できる新規な測定システムISFETに組込み、食品・飲料水・環境中の有機リン系毒性農薬を迅速・簡便かつ微量・コンパクトに分析するシステムを開発する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に有機リン系農薬などの分析が可能であることを示したこと、このシステムで検出できる農薬などの種類を判別できたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、使用酵素の安定性や、活性の向上が望まれる。今後も引き続き酵素の大量かつ安定発現の検討と、関連企業とのマッチングについて、積極的な展開が期待される。
イオン液体処理による難燃性木材の創製 京都府立大学
宮藤久士
京都府立大学
市原謙一
イオン液体を木材中に注入することで、木材に難燃性能を付与する技術開発を行った。イオン液体の分子設計およびイオン液体の木材への浸透性に関する検討を行うことで、コーンカロリーメーターによる発熱試験をクリヤーすることを本研究の目標とした。フォスフォニウム系イオン液体が良好な浸透性を示した。また、熱重量測定および示差熱測定の結果、処理木材は高い難燃性を発現することが明らかとなった。しかしながら、コーンカロリーメーター試験では発熱速度は規定値をクリヤーしたが総発熱量はクリヤーできなかった。今後は、コーンカロリーメーター試験に特化した詳細な試験体調製条件を検討することで、基準値を達成していく。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、木材への浸透性が良く木材に難燃性を付与しうるイオン液体を明らかにしたことについては評価できる。一方、木材の質と種類、含浸方法、難燃性の評価法、難燃化した木材の用途の整理など実用化の促進に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、イオン液体の含浸コストを試算し、用途とバランスの取れた開発目標の見直しをされることが望まれる。
防災教育への動機づけのためのゲーミングによる学習支援システムの開発 関西大学
堀雅洋
ハザードマップは記載される情報量の多さからその内容を理解することは必ずしも容易でない。申請者らは避難施設や危険区域に関する地理データについて大阪府高槻市より提供を受け、状況に応じた説明を提示する地理情報システムを試作した。予備検討の結果、状況に応じた情報提示の有用性は確認されたが、より的確な状況判断には避難行動や災害状況に関する前提知識の習得が不可欠であることが明らかとなった。本課題では、学習への動機づけを高めるために認知心理学における記憶研究の成果を援用し、ゲーム的要素を採り入れた学習支援システムを開発する。防災教育分野での学習支援手法を確立し、ディジタル教材として教育市場への展開を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、状況に応じた説明を提示する地理情報システムをもとにした避難行動や、災害状況に関する前提知識の習得のための防災教育分野での学習支援手法に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、近隣地方自治体と連携して地図アプリ(ハザードマップアプリ)の活用について共同を予定、学習支援システムの活用について、近隣自治体と連携して小学校高学年向けの提供を計画しているなどの進展による実用化が望まれる。今後は、ゲーム的要素を取り入れた、防災教育のための学習支援ソフトは小学校ばかりでなく防災訓練に参加できない(しない)多くの住民に展開されることが期待される。
道路基盤地図情報を用いた走りやすい自転車ルート案内に資する自転車ネットワークデータ生成手法の研究 関西大学
田中成典
関西大学
柴山耕三郎
本研究では、走りやすいルート案内に資する効率的な自転車ネットワークデータ生成手法の実用化を目論み、道路基盤地図情報を用いた自転車走行可能な歩道の判定技術や回避すべき車道の判定技術の確立を目標とした。結果、幾つかの課題があるものの道路基盤地図情報から、道路ネットワークデータのリンクに対応した歩道や路肩の最小幅員を取得できる可能性があることが分かった。本手法が実用化されれば、自転車の運転者向けに路肩の広いルートを案内するなどの走りやすいルート案内サービスの実現に寄与できる。今後は、企業化ニーズを高めるため、さらなる検証や自転車横断帯及び上下線を考慮した自転車ネットワークデータ生成手法の研究をする予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に走りやすいルート案内に資する効率的な自転車ネットワークデータ生成手法において、道路基盤地図情報を用いた自転車走行可能な歩道の判定技術や回避すべき車道を判定する技術を導入する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、道路の傾斜などが明確に示されている3次元自転車用地図や自転車用ナビゲーション・システムシステムとして例えばスマートフォン向けの自転車用ナビゲーション・システム分野や、健康促進システムという観点からの実用化が望まれる。今後は、自転車用3次元地図の作成やナビゲーション・システムの開発および実際の走行実験による評価など有用性の検証が期待される。
高所検査用ヘリコプターシステムの開発 大阪市立大学
今津篤志
大阪市立大学
若林寿夫
高所検査に用いるための、地上局と有線ケーブルで接続されたヘリコプターシステムを提案し、ケーブル給電による長時間飛行を実現した。
ケーブルによる外乱を推定し、ヘリコプターの傾き目標値および推力に補正を加える飛行制御法を提案し、シミュレーションにおいて提案制御によりヘリコプターの目標位置軌道への追従応答性および追従誤差を改善できることを示した。
また、ケーブルの巻取り繰出しによってヘリコプターの飛行に必要な推力を低減する手法を提案し、ケーブルの張力を活用して定常外乱に抗することも可能であることを示した。さらに、ケーブルと地面の接触を考慮してケーブル長さの拘束条件を導き、巻取り機設置の設計法を提案した。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、社会インフラ構造物の高所検査用ヘリコプターシステムとして実現場へ応用しやすいシステムを開発できたことは、評価できる。一方、平面内での定点ホバリング実験において定点に静止できなかった。また、ヘリコプターの位置推定法に関する検討が行われなかったなど、技術移転につながる核心部分の研究は未着手に終わった。3次元空間におけるヘリコプターの位置推定および定点ホバリングに関して集中的に研究を進めることが、必要と思われる。今後は、3次元空間での飛行(定点ホバリングを含む)制御を行うには、その前提として、機体の質量・慣性モーメント、回転体(ロータ・電動機・減速機など)のジャイロ効果を把握し、ヘリコプターの動力学特性を明らかにし、課題を解決していくことが望まれる。
橋梁検査ロボットにおける全領域移動手法の確立 大阪市立大学
高田洋吾
大阪市立大学
若林寿夫
高度経済成長時代に建造された多くの橋梁が老朽化のため適切なメンテナンスを必要としている。現在、橋梁を点検する場合は、足場を設置したり、高所作業車など特殊車両を用いたりして技術者が橋梁下部を点検できるように工面する必要がある。そこで、ロボットが自律的に走り回って点検すれば、メンテナンスコストを大幅に下げることが出来るので、立体的な構造を有する鋼橋下部空間を自由自在に移動でき、目視検査が可能な橋梁検査ロボットの開発を試みた。鋼橋は軟磁性材料で作られているため、磁石が吸着する。その磁石の特徴を活かした磁石吸着型ロボットを試作し、天井(平面)を遠隔操縦で走行させることを可能とした。制御系の問題を払拭するため、コントローラ部を含む全面的な移動機構の改良を経て、運動性能向上を達成し、カメラ画像に基づく遠隔操作も可能とした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に橋梁検査において、複雑形状環境場を自由自在に走行させるた走行できる革新的ロボットが開発できたことは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、実際の橋梁で100%移動を可能にするためには、まだ開発技術要素があると考えられるので、研究支援制度も活用し、実用化に進むことが望まれる。今後は、橋梁等社会インフラの老朽化対策は、安心・安全な社会実現のために喫緊に対応する必要があるので、企業との具体的な研究に発展することが期待される。
監視員支援エキスパートシステムの開発 大阪市立大学
鳥生隆
大阪市立大学
倉田昇
本研究は、安全に安心して生活できる社会を実現すること目指し、監視カメラなどのセンサ情報を基にシステムが異常の有無を推論し、異常の可能性を監視員に知らせることで監視員の労力を軽減して支援するシステムを開発することを目的とした。このシステムは観測部、推論部、知識DB、会話部からなる。推論部はプロダクションシステムとして実現し、観測部ではカメラの振動など悪条件に耐え得る新たな人物検出・行動解析方法を開発した。また、知識DBでは、状況に応じて異常かそうでないかを判断するための知識を200個抽出し、会話部は観測部では認識出来ない部分を監視員に問い合わせる仕組みを開発した。これらの成果は特許3件、論文4件、学会発表8件などで公表している。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に監視カメラなどのセンサ情報を基にシステムが異常の有無を推論し、異常の判定を支援するシステム技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、観測部ではカメラ振動など悪条件に耐え得る人物検出・行動解析方法を開発し、推論部、問い合わせ部、知識DBでも一定の研究成果が得られており、早急な実用化が望まれる。今後は、本研究・技術のニーズは大きいと考えられるため、関連企業との連携が期待される。
宅地の液状化判定のための音を利用した土質分類判定技術の開発 大阪市立大学
山田卓
大阪市立大学
堀部秀雄
宅地の地盤調査で多用されている大型動的コーン貫入試験(SRS試験)を対象として、地盤調査中に土中で発生する土の摩擦音の特性を用いて地盤の土質分類を推定することを目標として、コンデンサマイクを内蔵したSRS試験用貫入コーンを開発し、現場実験および模型実験で土とコーンの摩擦音を計測し、振幅スペクトルと細粒分含有率の相関を検証した。研究開発の結果として、摩擦音特性から定量的に土の細粒分含有率を評価するには至らなかった。しかし、計測音の振幅スペクトルを用いて1000Hz~4000Hzの周波数帯の音圧レベルを指標とすることで細粒分含有率を評価することが可能となる知見を得た。今後は、現場で摩擦音のみを計測する機械的な工夫に加えて室内実験による基礎研究を進め、成果を蓄積した後に技術移転を目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、 コーン貫入試験の貫入コーンにコンデンサマイクを内蔵させて土との摩擦音を計測し、粘土地盤と砂地盤での異なる摩擦音を録音することができたことは、評価できる。一方、細粒分含有率10%の違いを音響特性から定量評価することはできていない。調整された粒度の実験から、現場実験に変更したことに起因する可能性も有り、改めて基礎実験からデータを積み上げることも必要と思われる。今後は、地下水や砂の形状等が摩擦音特性に与える影響を把握する前に、粒径加積曲線が異なる地盤での実験をさらに進め、民間企業との協力関係に発展させることが望まれる。
ノックオフ部材を内蔵した橋梁用低摩擦型支承構造の開発 大阪市立大学
松村政秀
大阪市立大学
堀部秀雄
主要交通を担う橋梁の免震支承を用いる上部構造の免震化は有効な地震時安全性の向上策である。しかし、免震機能は強地震時のみに必要とされ、また周期依存性を示す。
本申請課題では、低摩擦材、作用力あるいは変位があるレベル以上に達すると破断するノックオフ部材、大変形に対する緩衝構造を併用する橋梁用支承構造に着目し、各要素の構造性能を実験的に得るとともに、それらを組み合わせた支承構造の動的挙動を検討した。その結果、提案構造により、強地震にのみ耐震系から周期依存性の少ない断震系への移行を図ることが可能であることがわかった。ただし、緩衝構造の設置位置が断震系への移行後の動的挙動に影響を及ぼし、この定量的な評価には引き続き検討を要する。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、多数の要素実験で全方向型ノックオフ部材の性能を確認し、その評価を数値解析でも確認している点は評価できる。一方、緩衝構造の設置位置による影響がまだ十分解明されていないことを示しており、さらなる検討が必要と思われる。また、低摩擦材料としてローラー支承を提案しているが、具体的な形状とその効果を確認することが必要と思われる。今後は、一旦、想定地震が来た後には、再度支承部をセットすることになるが、取り替える際の手順についても考慮しておくことが望まれる。
次世代遮熱性舗装体によるヒートアイランド対策技術の開発 大阪市立大学
酒井英樹
大阪市立大学
堀部秀雄
ヒートアイランド対策として実施される地表面被覆の高反射化に伴う日射照り返しの増加を軽減する方法として、表面凸凹構造による再帰反射技術の開発を行った。再帰反射技術としては、既にプリズム反射方式と球状レンズ集光方式が実用化されているが、表面凸凹方式は、遮熱性舗装面で現象としては確認されているもののその原理は不明であったこと。そこで、光学シミュレーションにより、表面凸凹によって再帰反射性が発現することを再現した上で、再帰反射性を増強させる表面形状の探索を行った。そして、無作為に作成した舗装面に比べて、再帰反射率を10%増強させる表面形状の条件を明らかにした。また、再帰反射率の測定法の開発を行った。今後、再帰反射の発現の詳細な原理を解明し、表面凸凹方式の再帰反射技術の実用化を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、実際の舗装路面サンプルを元に、再帰性を向上させるために何が必要なのかを明らかにし、現場での再帰反射測定技術の確立をするための技術開発を行ったことは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、現場で応用するための課題は明らかになっているが、路面サンプル数が少ないので、サンプル数を増やして、再帰性を向上させることによる温熱環境改善効果を明らかにすることが望まれる。今後は、関連企業との連携関係を整えることにより、実用化に向けた研究が進展することが、期待される。
核四極共鳴を用いた覚せい剤非接触検知技術の開発 大阪大学
赤羽英夫
大阪大学
宮川勝彦
課題では、体内に隠匿された覚せい剤を非接触で検知できる感度を有する新しい核四極共鳴(NQR)信号取得技術の開発を行った。体内隠匿による覚せい剤の密輸入は、近年急増しており、大きな社会的な問題となっている。しかしながら、実用化においては、NQR信号の検出感度を更に向上し誤検知率を減らすことが求められていた。高感度化技術として、入出力が低インピーダンスである送受信技術(送信アンプ、受信アンプ、送受信切替回路)を新規に開発し、従来に比べ覚せい剤の検出感度を数倍向上することが可能となった。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に覚醒剤の検出感度を数倍向上させる核四極共鳴(NQR)信号取得技術の開発に関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、今後企業と共同開発を行うとしており、またこの問題に対応できる計測方法としては、X線とこの方法が有力であり、今回検出感度が数倍向上したことでの実用化が望まれる。今後は、現在の検出感度で十分かどうかや、できるだけ早く実際に覚醒剤検出の実験を行うことが期待される。
可搬型レーザピーニング装置開発のための レーザピーニング施工条件の効率的検討 近畿大学
崎野良比呂
大阪大学
多田英昭
本研究では、小型QスイッチYAGレーザによる可搬型レーザピーニング装置の開発を見据え、疲労荷重による圧縮残留応力の変化の検討、施工条件が表面残留応力に及ぼす影響の検討および極低出力でのレーザピーニング施工条件の選定を残留応力測定により行った。さらに選定した施工条件でレーザピーニングを施した試験片での疲労試験により、非常に大きな疲労寿命向上効果が確認され、目標としていたパルスエネルギー20mJで疲労寿命が2倍以上とする目標を達成することができた。今後、本研究を基に可搬型のレーザピーニング装置が開発を進め、鋼橋をはじめ様々な構造物の現場の高所・狭隘部等様々な場所と用途に容易に使用可能な疲労寿命向上手法の実現を目指す。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、レーザーピーニング処理材の繰り返し荷重による表面圧縮応力変化の調査と疲労特性(寿命)を把握し、可搬型装置開発のためのピーニング施工条件を見出し、レーザー施工が疲労寿命向上に有効であることが示されたことは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、積み残した課題、圧縮残留応力の疲労寿命に及ぼすメカニズムの解明や試験片形状を実態に合わせたものでの知見の集積を実施することが望まれる。今後は、劣化が進む我が国の鋼橋をはじめ様々な構造物の高所・狭隘部等にコーティング無しで容易に適用できる簡便な本技術により、疲労問題の解決を通して社会インフラの安定維持に貢献することが期待される。
気づきやすいサイン音を搭載した有機ELパネルによる視・聴覚融合型誘導システムの提案 地方独立行政法人大阪府立産業技術総合研究所
片桐真子
大阪府立産業技術総合研究所
出水敬
本研究は、気づきやすいサイン音と光を融合させ、両者の相乗効果や補完作用によって正確な情報提供が可能な誘導パネルシステムの提案を目的とした。想定環境を多目的ホールにおける講演とし、ダミーヘッドを用いて収録・音響分析を行った結果をもとにサイン音をデザインした。このサイン音を搭載した視・聴覚融合型有機EL誘導パネルを試作し、音のみの場合と、音と光を同期させた場合に対する印象を被験者実験から検討した。その結果、サイン音だけでは気づかなかったが光と融合したことで認識可能になる、点滅間隔によって印象が変化する、などの現象を確認できた。今後は、有効な色と音の組み合わせの実証実験を重ね、TPOによって使い分けが可能な「人に寄り添ったシステム」の創製を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、サイン音と光を融合させることで、単独の信号では気づきにくい情報の提供を可能にしたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、有機ELパネルの単体に加えて、誘導システムとしての全体像を検討することが望まれる。今後は、多人数が集う施設内で、非常時における人間の極限状態での行動に対してもこの方法が有効なのかを検証すること含めて検討し、実用化に進むことが期待される。
自然放射線を利用した中性子ラジオグラフィ 大阪府立大学
谷口良一
大阪府立大学
亀井政之
環境中性子を長期間測定した結果、鉄が大量に存在する環境では環境中性子が大幅に増加することが明らかとなった。また環境中性子よりも環境ガンマ線が圧倒的に多いことも明らかとなった。そのためガンマ線感度の高いイメージングプレートは不利である。ガンマ線感度の低いシンチレータを用いた2次元光子計数装置で測定を行った場合、1時間あたり全画面で200個程度の中性子が計数された。n/γ比は0.02 程度であった。この装置を用い600時間の計測を行った結果、画質は不十分であるが中性子透過画像は得られた。今後、さらに積極的なガンマ線の圧縮法を開発する必要がある。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、自然放射線に圧倒的に多く含まれるガンマ線の影響を低減して自然放射線に含まれる環境中性子を長時間測定する目的で、ガンマ線感度の低いシンチレータを用いた2次元光子計数装置を製作し、600時間の計測を行った結果、中性子透過画像は得られたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、画像の精度向上が実現できれば、多くの企業が興味を示しているように大型構造物の経年劣化検査と改修工事における検査装置として今後応用展開が期待できるので、今後の進展が望まれる。今後は、自然中性子線のみによって透過映像を得る方法は、法規制が厳しい放射線非破壊検査のイメージを大きく変えるものであり、産学共同等の研究開発ステップにつながることが期待される。
海洋生態系環境の健全度指標の構築に関する基礎的研究 大阪府立大学
有馬正和
大阪府立大学
東原稔
本研究の最終目標は、自律型水中グライダーによる海棲動物の音響観測技術を確立することに   よって海洋生態系環境の健全度指標を構築することである。海洋生態系における食物連鎖の上位を占める海棲哺乳類は、地球温暖化をはじめとする大気海洋環境の変化に対して敏感であり、その生態を正しく把握することが、私たちの地球環境の変動を予測・理解することに大きく役立つ。本研究課題では、海中音響観測システムを構築して、海洋生態系のピラミッドの頂点に位置する海棲哺乳類のシャチを 対象として、米国・アラスカのプリンス・ウィリアム湾および釧路沖で海中音響観測を行った。データ解析の結果、鳴音を発するシャチの音源方向や頭数の推定が可能であることを明らかにした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、海棲動物のシャチを対象として実海域で海中音響観測を行い、データ解析を通してシャチの音源方向や頭数の推定が可能とした点で本研究課題の目標である音源推定アルゴリズムの開発および海中音響観測システムの確立は所定の目標をほほ達成されたと判断できることは、評価できる。 一方、技術移転の観点からは、自律型水中グライダーに搭載して実験を行うことにより、水中音響観測装置のサイズ等の設計改良点を詰める等のさらなる研究の進展が望まれる。今後は、実用化に向けて、研究開発支援制度の活用や企業との共同研究を通じて、本研究成果が広く社会に還元されると期待される。
寄生雑草に特徴的な希少三糖の代謝を標的とする選択的除草剤の開発 大阪府立大学
岡澤敦司
大阪府立大学
鈍寳宗彦
飢餓人口が 10 億人と言われる中、ハマウツボ科の寄生雑草はアフリカを中心に 3 億人の生活に府の影響を与えており、その防除法の確立が急務の課題である。申請者は寄生雑草の特異な生活環に着目し、寄生雑草に選択的な除草剤の標的を探索してきた。寄生雑草の特徴的な発芽過程で内生量が変動する代謝物をメタボロミクスによって検索したところ、特徴的な三糖を見出した。この三糖の代謝を阻害するノジリマイシンは寄生雑草による被害を低減出来ることを明らかにした。本課題では、より実用性の高い選択的除草剤開発のために、三糖の単離構造決定を行い、これがプラテオースであることを明らかにし、さらに、その代謝経路を同定することに成功した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、希少糖をヤセウツボから初めて単離同定した点は評価できる。一方、ノジリマイシンの作用点を明らかにするスクリーニング系の確立に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、糖合成の研究者との共同研究も検討されることが望まれる。
有色米のアントシアニン発色機構の解析と高度利用化技術の開発 大阪府立大学
今堀義洋
大阪府立大学
野村幸弘
有色米'朝紫'のアントシアニン生成は成熟中の温度の影響を受けるので、良好な生成が得られる適切な栽培温度を明らかにすることを目指した。アントシアニンは成熟初期に急激に増加し、登熟完了まで維持されたが、成熟中のその構成する種類と割合が変化することが明らかとなった。栽培温度を制御することで、アントシアニン量を変化させることができ、構成する種類と割合を変えることが可能であることが示唆された。生成酵素の特性を詳細に検討して、適切な栽培温度帯を見出すまでには至らなかった。しかし、機能性食品や食品色素などの食品素材として、需要にあったアントシアニンの種類と割合の有色米'朝紫'に、栽培温度を制御することで得られることが示唆された。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、有色米「朝紫」のアントシアニン生成に関し、栽培中の色素の種類と含量の変化を捉えたことについては評価できる。一方、適正な温度域の把握とコストを念頭に置き、当初目標に沿った技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、需要とその需要に合う組成や性質のアントシアニンを明確にされることが望まれる。
CubeSat設計開発支援WEBアプリケーションの開発とキャパシティビルディングへの応用 大阪府立大学
南部陽介
大阪府立大学
濱田糾
災害時に迅速な情報収集が可能な社会基盤として超小型衛星に注目が集まっている。本課題では、上流設計を支援するWEBアプリケーションを開発し、超小型衛星の成功率を向上させることを目的としている。開発したアプリケーションは、衛星のシステムモデルを難解な規約を覚えることなく作製でき、また過去の衛星のシステムモデルを閲覧・再利用することを可能とする。模擬衛星を開発する学生に対し、試用版を公開・提供し、フィードバックを収集した。その結果、上流設計において重要な要求分析の質の向上に効果があることが確認できた。今後は、チュートリアル等の充実を図り、ユーザーエクスペリエンスのさらなる洗練を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に災害時に迅速な情報収集が可能な社会基盤としての超小型衛星によるキャパシティビルディングを通じての、超小型衛星のシステム設計ツールの標準化に関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、開発したAPを学生11名が試用実験し、フィードバック情報を得ていることは強化されるが、要求分析の質の向上の根拠が不詳である点や、キーとなる質問群をどの様に利用して、CubeSatを上手く再構築可能としているかを示されるされることが望まれる。今後、より多くのテストデータの習得と、その迅速な開発へのフィードバックが期待される。
生活環境下における背景雑音に頑健なユニバーサル声質変換の研究開発 神戸大学
滝口哲也
神戸大学
高山良一
本研究は、構音障がい者の自立生活を支援する新しいユニバーサルデザインの研究開発を目的としている。構音障がい者の発話スタイルは健常者と全く異なるため、その内容を聞き取る事が困難な場合があり、地域社会から取り残される事がある。本研究責任者らは、これまで構音障がい者の声質変換の研究を進めてきている。しかし実際の生活環境下では様々な雑音が存在するため、障がい者の発話音声には背景雑音が重畳し、声質変換の性能が劣化する。本課題では、音声に重畳する雑音を考慮した声質変換の定式化を提案し、雑音下にて実証実験を行い有効性を示した。本研究成果は、全ての人々が共存したコミュニケーション社会構築に資するものである。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に雑音重畳環境下における構音障がい者の声質変換方式を、その有効性と自然性、話者性の観点から定量評価し、70%を超える良好な結果に関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、騒音環境の中で、構音障がい者が発する音声情報をより正確に受け取る技術の研究であり、実用化の暁には大いに社会貢献が可能な技術であるので学習単語数を低減するとともに新しい方式の声質変換技術も合わせて開発するなどでの実用化が望まれる。今後は、レストランと街路で録音された音声を雑音と定義しているが、構音障がい者の音声自体が健常者音声に比べて「雑音」成分を含むことも考慮した研究も進められることが期待される。
人的要因を考慮した人員配置および生産スケジューリング最適化手法の展開研究 神戸大学
貝原俊也
神戸大学
河口範夫
本研究では、作業者の技能レベルを考慮したセル生産システムにおける人員配置・スケジューリング手法の実用化を目標とした。要求された生産性を確保しながらスキルインデックスを最短期間で向上させる人員配置、および生産スケジューリング手法を提案し、製造企業の製造現場モデルをシミュレーションで定量的評価・検証を実施した。その結果、中期的な視点から作業者の教育を含めて考えると、従業員にとって迅速なスキル獲得が可能となり、従業員のモチベーションを考慮した生産方式が実現できることが分かった。短期的には生産性が低くなるが、中長期的に約20%もの生産性向上が図れ、人材教育と生産性の両立を実現していることが確認された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、「人的要因を示す指標の構築と有効性評価」、「人員配置問題および生産スケジューリング問題における人的要因を考慮した最適化の導出方法の確立とその有効性評価」については、当初の目標はほぼ達成されたとことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、計算機シミュレーションと実際の生産システムとの整合性に対する検証を行い、結果の妥当性の検証を行うことが望まれる。また、人的要因として、習熟率の考え方を導入しているが、他の要因として重要なものが漏れていないのか、その定量化等の課題も検討することが望まれる。今後は、本研究期間の協力企業と連携して進めていく予定をしており、現場に密着した形で進めること、人的要因も含めて現場をよく観察することにより、実際に現場で使える開発になることが期待される。
機能性アミノ酸に着目した「超ストレス耐性パン酵母」の育種と製パンプロセスの高度化 奈良先端科学技術大学院大学
高木博史
本研究では、機能性アミノ酸を高生産する実用パン酵母の育種、優良株の選抜、実製造に即した手法による育種株のストレス耐性評価を行うことで、「超ストレス耐性パン酵母」の育種による製パンプロセスの高度化を目標とした。突然変異処理により、ストレス耐性に関与する機能性アミノ酸を蓄積する実用パン酵母の変異株を多数分離した。これらの変異株のストレス耐性を実験室レベルで評価し、親株よりも高いストレス耐性を示す優良株を選抜した。さらに、製パンプロセスに即した手法で冷凍・高糖生地での発酵力を測定し、親株より有意に発酵力が向上した変異株を複数取得した。これらの結果から、本研究において製パンプロセスの高度化を可能とする超ストレス耐性パン酵母の育種法を確立し、目標を達成することができた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、組換え手法でターゲット遺伝子の候補を抽出すると共に従来手法で一定の性能を持つ製パン酵母の育種に成功したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、より効率的な優良株の育種法を確立するなどでの実用化が望まれる。今後は、他の変異誘発剤、例えばカビなどでは有効な放射線照射や変異体同士の交雑育種なども検討されることが期待される。
アユ冷水病トキソイドワクチンの開発 和歌山県水産試験場
中山仁志
和歌山県水産試験場
小久保友義
本研究では冷水病トキソイドワクチンの開発をめざし、その有効性を検証した。
その結果、約15%の有効率を示したことから、その性能を改善することでワクチンとして利用可能であると考えられる。今後、更に高い有効率を示す冷水病ワクチンとなるよう、動物医薬品メーカーと共同研究を行いたい。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、本成果に基づく特許を出願したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、有効性を検証することなどでの実用化が望まれる。今後は、ワクチンの有効率の向上に注力されることが期待される。
シロアリの水分利用機能を破綻させることによるシロアリ生息制御技術の開発 鳥取大学
東政明
鳥取大学
古川郁夫
シロアリはセルロース分解能が高く、陸上生態系の分解者として、また、ヒトの住環境へは木材家屋害虫として、功罪両面を持つ社会性昆虫である。イエシロアリの職蟻は水を運ぶ能力が高いといわれており、この集団にとって水利用能力を断つ方策をめざす基礎試験を進めた。シロアリの水利用能をコントロールするために、本研究は唾液腺に注目した。職蟻の唾液腺で大量のアクアポリン(水チャネル:水の選択的通過路)が発現していた。このアクアポリンのはたらきをブロックするために、阻害剤やアクアポリンの抗体を職蟻へ吸飲させたところ、高濃度での施用であったが、シロアリのセルロース摂食能が低下した。職蟻はコロニー全体の8~9割を占めるので、それを低減させる有効な方法であると考えられた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、シロアリ職蟻の唾液腺でのアクアポリンの高発現を実証したことについては評価できる。一方、木材内に生息するシロアリへの散布に向けた技術的検討やシロアリアクアポリン遺伝子の各領域のdsRNAの作製データの積み上げなどが必要と思われる。今後は防除効果の実証なども検討されることが望まれる。
毒キノコ含有生理活性物質のライブラリ化とこれを用いた毒きのこ中毒事故への迅速対処法の開発 鳥取大学
会見忠則
鳥取大学
古川郁夫
鳥取大学農学部附属菌類きのこ遺伝資源研究センターで保有しているきのこからいくつかの毒キノコを選抜して、子実体の人工作出技術の開発を行った。これまでに、ツキヨタケ、オオワライタケ、ニガクリタケの人工栽培に成功している。人工栽培により得た子実体と野生のきのこ子実体から抽出物を作製し、きのこ抽出物ライブラリの構築を行った。作成した抽出物ライブラリから、いくつかを選抜して、それらが持つ生理活性を評価した。オオワライタケが産生するジムノピリンに動物細胞のGタンパク結合型受容体に対する活性化作用とニコチン様アセチルコリン受容体に対する抑制作用があることを見いだした。今後、栽培技術の開発、抽出物ライブラリの作成と評価を継続していくことにより、薬などの製品開発に繋がるがることが期待される。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、目的達成のために専門が異なる3つの分野が連携し各々が当初計画した成果を得ていることについては評価できる。一方、栽培部門では生産の量的優位性や他種の毒きのこの人工栽培、評価部門では生化学的解析に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。豊富な遺伝資源を所有している数少ない機関であるので、今後は、その強みを活かして引き続き研究を継続し着実に成果を上げていくことが望まれる。
加速度センサーを用いた和瓦の耐風設計と新防災瓦の開発 島根大学
岡本覚
島根大学
丹生晃隆
本研究では、瓦が風の影響を受けて飛散する前兆現象に現れる振動に着目することにより、振動発生の原因を探求して有効な防災対策に反映させようとするものである。具体的には、振動力を減衰させる形状を持つ瓦を新たに開発して、従来の瓦に比較しても飛散に強いことを検証し、その製品化を目指す。研究の進捗に伴って、防災瓦の開発や施工方法の改善に求められる要因を分析した結果、振動だけではなく現状の瓦近傍の流れを熱線流速計や油膜法の可視化による実験によって詳細に解析する必要性が生じた。その結果、当初目指した瓦形状や施工方法を提案することが出来た。研究期間終了後も研究を継続し、企業と連携して特許出願および製品化を目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも瓦が風の影響を受けて飛散する前兆現象に現れる振動に着目することにより、瓦の飛散メカニズムを明らかにしたことについては評価できる。一方、新防災瓦の開発につながる可能性がある「飛散を抑制する幾つかのアイデア」が箇条書きで示されているが、飛散メカニズムを明らかにすることに時間がかかり、当初目標である「新防災瓦の形状設計、軽重量化、留め具の減数」などに向けた技術的検討やデータの積み上げなどがさらに必要と思われる。今後は、現段階で概念設計を終えたとはいえ、新防災瓦はまだアイデアの段階であり、具体的な製品化およびその性能の検証を進められることが望まれる。
植物工場における果菜類の生産性を向上させる栽培技術の開発 岡山県農林水産総合センター
後藤弘爾
施設園芸の一つである人工光型植物工場において、生産性を向上させ、欠点の一つである光量不足を補うには、1日24時間連続的に照明を行うことが有効である。しかし、その様な条件下では、多くの植物は連続光障害と呼ばれる生理障害を起こし、生育不良に陥る。本研究は、連続光障害を緩和するための栽培技術の開発を目標とした。
栽培トマトのほとんどの品種は連続光障害を発症するが、連続光障害に耐容性を示す品種を見いだした。その品種を用いて調べたところ、16時間明期8時間暗期(16L8D)栽培に比べ、連続光(LL)栽培では成長量が2倍以上になり、連続光栽培の有効性が確認された。
連続光障害を発症するトマト品種に対し、植物の環境応答メカニズムを利用した様々な栽培方法を試験した結果、連続光障害をほぼ解消することができる栽培技術を開発することに成功した。これにより、本研究の主目的は達成することができた。今後は栽培条件等の最適化を行い、技術移転を進める。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、連続光照射により成長量が増加する品種と、連続光障害を起こす品種では障害を緩和する条件を明らかにし、人工光栽培に適した品種の拡大や生産量の増大が期待できる技術は評価できる。一方、技術移転の観点からは、大規模な植物工場などでの実用化が望まれる。今後は、実用化に向けたコスト評価を先ず行い、人工光型植物工場に拘らず、施設園芸の全般、花卉や果物類、薬用植物など多様な農産品目への展開も検討されることが期待される。
スポット溶接内部構造解析用磁気非破壊検査装置の研究開発 岡山大学
塚田啓二
スポット溶接部の信頼性評価方法に用いる装置として磁気を用いた新たな非破壊検査装置の開発をおこなった。また、その応用として鋼板の2層構造のみならず3層鋼板の溶接部の評価もできるかを検証した。検査装置として、1対の磁気プローブでスポット溶接部を挟みこみ、磁場を透過させて計測する透過磁場計測方法と、表面から異なる磁場を照射させて深さ分布を計測する渦電流計測方法からなる2つの計測機能を持ち、平面スキャンニングできる装置を開発した。異なる溶接時間のスポット溶接試料を作成し、その違いを3次元画像化表示することが可能となった。また、接合強度評価用サンプルとして引張り試験とその相関を求めたところ、透過磁場計測法により0.95と高い相関係数を得ることができた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にスポット溶接部の非破壊検査としての可能性を示した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、磁場強度マップとスポット溶接部の断面組織との対応を明らかにするなどの研究が望まれる。今後実用化に向けて、いくつかの課題に直面することが想定されるので、各種部材の組織構造を考慮したモデル化等を構築しておくことが望ましいと思われる。
CMSを用いた農家情報システム構築と情報発信における販売効果と評価 近畿大学
加島智子
近畿大学
江口知之
本研究では、これまで開発してきた都市型農作物直売所におけるトレーサビリティシステム、個人の嗜好に応じた献立推奨システムを応用し、農家が行動を起こすきっかけ、農家の労働力の負担軽減、作付けにおける意思決定に役立てる情報提供を目指し取り組みを行った。使いやすく、必要な機能を備えたシステムを完成することができた。売上データなどの情報より、農業に応じた情報提供を行うことにより農業経営の安定、農作物の信頼性・価値向上の支援に繋がったことを確認できた。今後、実験地を変更して同様の結果が出るか、継続的なデータを獲得し、現場で役立つシステムへと拡張させることを目指す。 当初目標とした成果が得られていない。中でも目標が「ジャストインタイムによる農業経営の安定」とか「情報発信による農産物の信頼性向上」に関しての定量的評価がなく、実際に既存の農家用のWebシステムのマンマシンを変更したり、このシステムで集まったデータを少し分析されているが、効果が明確でなく、また使いやすさの統計的な評価などの点での技術的検討や評価が必要である。今後は、具体的な問題設定を行い、定量的な評価が行えるような目標を掲げて研究されることが望まれる。
発芽誘導を利用した芽胞数の新たな迅速測定技術の開発 広島県立総合技術研究所
重田有仁
広島県立総合技術研究所
坂本宏司
蛍光染色法は、数十分で微生物数を迅速に測定できる分析法であるが、外壁を有し休眠状態にある芽胞については染色できなかった。本課題では、圧力発芽誘導処理によって芽胞の染色性を向上させることで、芽胞を迅速測定可能(1時間以内)にする手法について検討した。その結果、本法は種々の食品由来芽胞を発芽・染色でき、発芽誘導物質(アミノ酸、糖類)に比較して広範囲の属種の芽胞に効果があることが分かった。また、実際の食品中(香辛料、液体調味料等)の芽胞も染色可能で、市販の微生物数の迅速測定装置にも応用できることを確認した。本法と培養法との相関は0.9以上、液体系試料の場合、検出感度は約300 cell/mlであった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、菌数測定が困難であった芽胞性細菌を加圧と蛍光測定装置の応用により、適応範囲が広く迅速な測定技術としたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、液状・固形・ペースト状などの多種多様な食品の前処理法を確立するなどでの実用化が望まれる。今後は、測定の自動化を図ると共にノロウイルスのような菌種についてもDNA解析等により本技術を展開されることが期待される。
連続光下で発生する生育障害の回避技術の開発 広島県立総合技術研究所
蔵尾公紀
広島県立総合技術研究所
水主川桂宮
人工光型植物工場では通常24時間光を照射してレタス等の栽培を行っている。光を強くすると生長が早くなるが、24時間光を照射した場合、品種ごとにある光の強さを超えるとチップバーンや葉やけ等の障害が発生し、商品価値がなくなる。本研究で特殊処理をした培養液を使用することにより、通常ならば障害が発生する光強度でも障害を回避し収量を保ったまま栽培が可能となった。今後は、さらに規模を大きくした栽培装置で、最終産物まで栽培して生育促進を確認し、実用化を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、レタスの水耕栽培で連続光による生育障害を培養液中の水素濃度の制御により軽減できることを検証したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、水素の取扱いに係る安全性の担保や適用品種の拡大、温度との関係を把握した上での実用化が望まれる。今後は、水素付加による障害回避のメカニズムを解明すると共に、特許出願と成果の公表を通した産学連携の取進めを検討されることが期待される。
防じんマスクの高性能化のためのアスベスト吸着フィルターの開発 広島大学
石田丈典
広島大学
伊藤勇喜
アスベストの暴露から身を守るために使用される防じんマスクは、フィルターの細孔を小さくし、複数重ねることで捕集効率を上げているが、通気性が悪く、細孔も詰まりやすいという欠点があった。もしアスベストを吸着することで捕集できれば、通気性などの使用感を損なうことなく安全性を高めることできる。そこで、本研究ではアスベスト結合ペプチドを用いることで、捕集効率95%のアスベスト吸着フィルターの作製を目指した。一般的な家庭用マスクに使われているポリエステル不織布に、改良したアスベスト結合性ペプチドを固定化することでアスベスト吸着フィルターを作製し、アスベストを97%の効率で捕集することに成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に一般的な家庭用マスクに使われているポリエステル不織布に、改良したアスベスト結合性ペプチドを固定化することでアスベスト吸着フィルターを作製し、アスベストを97%の捕集効率を達成したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、アスベストにはアモイサイト以外にクリソタイルが多く用いられており、鉱物種による吸着性能や再放出などの評価を進めるとともに、企業と連携して実用化されることが望まれる。
超音波ガイド波の複雑な伝搬現象の解明と現場への応用に関する研究 広島大学
田中義和
広島大学
伊藤勇喜
パイプラインなどの長大構造物の非破壊検査方法に1つとして、超音波の一種であるガイド波を利用する方法がある。亀裂や減肉といった欠陥が構造物に存在している場合、ガイド波の伝播挙動は非常に複雑になり、検査現場において計測されるガイド波の解釈を高度化することが求められている。そこで、本研究では、圧電フィルムを用いた超音波ガイド波の多点計測に関する研究を行った。まず、アルミ蒸着無し圧電フィルムと導電テープを用いた計測方法を提案し、多点計測が可能であることを確認した。そして、エルボー部を有する配管、直線状配管の計測を行い、傷からの反射波の計測に本提案手法が有効であることを確認した。特に、直線状のスリット傷から、持続的な反射波が発生していることを示した。また、提案手法による傷の簡易評価方法を検討した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、圧電フィルムを用いた多点計測、直線状・円周上の傷を有する直線配管への多点計測、さらにはエルボー部を有する配管の多点計測に関して、実験による出力センサの電圧波形により圧電フィルムの適用性、操作性、配管における損傷確認の精度、現場適用の高度化など、初期の目標達成を概ね達成していることは、評価できる。一方、実験が単発的なものに留まっており、受信波形の定性的特徴を把握するまでの進展には至っていないと考えられ、実用化に向けた定性的、定量的な成果の集積が必要であると思われる。今後は、精度の向上、企業との共同研究など実用化に向けたさらなる研究計画の構築がにより、本課題の優位性を明確に示すことのできる成果の提供が望まれる。
光合成の明反応と暗反応それぞれの機能強化による植物バイオマス増加 広島大学
島田裕士
広島大学
田井潔
二酸化炭素の効率的資源化の実現のための植物光合成機能強化は主要作物の増産や地球温暖化防止の点においても極めて重要と考えられる。光合成は明反応と、暗反応(カルビン回路)の2つの主要経路に分けられ、本申請では光合成における明反応と暗反応それぞれの機能を増強させることでバイオマス10%増加植物(イネおよびシロイヌナズナ)の育種を行なった。光合成明反応の機能強化を目的として、CYO1高発現イネとシロイヌナズナをそれぞれ作出した。これらCYO1高発現植物の光合成活性を測定したところ、光合成の明反応のみでなく暗反応(カルビン回路)両方の効率が上昇を示唆する結果が得られた。また、CYO1高発現イネとシロイヌナズナの乾燥重量(バイオマス)はそれぞれ野生型に対してそれぞれ85%と64%上昇していた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、葉緑体形成因子CYO1の高発現による、イネとシロイヌナズナのバイオマスの60~80%の増量を確認したことについては評価できる。一方、種子の増量には繋がっていないので、穀類作物の育種に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、穀物(種子)生産よりはむしろバイオマス生産量の倍加に着目した開発も検討されることが望まれる。
閉鎖性内湾の河川流出水拡散予測システム 広島大学
金子新
広島大学
榧木高男
沿岸海洋に流出する低塩分の河川水は、沿岸海洋に多量の栄養分を供給するために、沿岸海洋の生態系や環境問題を考える上で極めて重要な要素である。広島大学で開発した沿岸音響トモグラフィー技術を応用することにより、広島湾内に流出する太田川河川水の流動拡散状況を沿岸トモグラフィー法で分布計測することを目指した。2013年8月1日~10月8日の間、広島湾を取り囲むように4台の沿岸音響トモグラフィー装置を設置し、音波の伝搬時間をデータとして、水温と塩分の分布計測をすることに成功した。現在、海面から海底まで深度方向に平均した水温、塩分の水平分布解析を終了したところである。当初予定していた上層と低層に分けた水平分布解析は現在実施中であり、今年中には、結果を報告する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも河口周辺海域を取り囲む護岸や防波堤などを利用して音波送受信局(音響局)を設置し、複数の音響局間の海中音波伝搬時間と受信音圧をデータとしてインバース解析し、湾内の河川流出水分布を表層と深層に分けて再構成する水環境予測システムについては評価できる。一方、音波送受信を利用した河口沿岸域における水環境予測システムを構築する試みは、非常に新規的であるが、河口周辺海域は、河川からの淡水流入により密度成層が強い海域であり、その海域における流動特性や物質輸送特性は表層付近と低層付近で大きく異なるものであり、その違いを正確に把握することや、流速、水温、塩分、濁度の予測の先にある赤潮の発生、発達、消失プロセスを含めた評価システム開発に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、水環境予測システムが技術移転されるためには、水産養殖施設が多数設置されている海域においても適用できる可能性を示すことが望まれる。
ジャパンブランドユリの短期球根生産を実現する球根貯蔵糖の可給態化と休眠打破の関係解明 山口大学
執行正義
山口大学
殿岡裕樹
山口県が育成した小輪系ユリ「プチシリーズ」の短期球根生産を確立するため、早晩性の異なる品種を用い、冷蔵処理や温湯処理がりん片子球の休眠打破に及ぼす影響を明らかにするとともに、貯蔵糖の動態と休眠性の関係を調査した。
りん片子球への5℃冷蔵処理により休眠が打破され、発芽が促進された。休眠打破に必要な冷蔵処理期間には品種間差があり、晩生品種は早生品種に比べて長い期間が必要であった。また、りん片子球における可溶性糖は、5℃冷蔵処理により増加した。このことから、休眠性と可溶性糖の含量には相関があり、5℃冷蔵処理で休眠打破されることにより可溶性糖が増加することが明らかとなった。本結果より、暖地において休眠打破した子球を秋に定植後早期に発芽させることができるため、1作のうちで秋と春の2回の球根肥大期をつくることが可能となり球根肥大率の向上が期待できる。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ユリの球根生産を短期化する技術として、晩生品種でも有効なことを検証すると共に休眠打破と糖蓄積との関連を把握したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、温度処理の効果などより科学的な検討も加えるなどで、ユリ科の球根栽培での広い実用化が望まれる。今後は、種苗会社との連携により、研究開発のステップアップと応用展開を加速されることが期待される。
リアルタイムカメラを用いた簡易粉じん濃度定点観測システムの開発 山口大学
進士正人
山口大学
田口岳志
トンネル建設現場で発生する浮遊粉じんは、作業員の肺機能障害を引き起こす原因物質であり、近年、わが国において社会問題となっている。汎用的に正確な粉じん濃度変化を把握するには、より安価に粉じん濃度を測定するシステムが必要である。そこで本申請課題では、市販されているWEB カメラにLED ライトを組み合わせ、浮遊粉じんの光散乱から粉じん濃度を測定できる安価なリアルタイム定点粉じん測定システムの開発を目標とした。その結果、粉じん濃度の変化に対応して、粉じん散乱光部分面積および粉じん散乱光個数が変化することを証明し、本システムの有効性を示すことができた。
今後は連携企業と協働して、さらなる検出精度の向上に努めるとともに、製品化を視野に入れた技術移転活動に努める予定である。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも浮遊粉じんを撮影した動画に対する静的な画像処理法および手順、WEBカメラの設置方法や測定手順の確立については評価できる。一方、測定精度に関して、相関係数0.95を目指すとしていたが、それに関するする記述がなく、所要の測定精度と測定結果の安定性を確認することや、トンネルなどの広範囲な空間における粉じんの程度を1台のWEBカメラを用いたシステムでの評価に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、現場において、従来のデジタル粉じん計との比較検討を行って、本システムの測定精度、測定結果の安定性を実証されることが望まれる。
移動走行車両を用いた橋梁構造物の損傷モニタリングシステムの開発 山口大学
渡邊学歩
山口大学
浜本俊一
既存の移動走行車両を用いたモニタリングは、構造部材の現状の健全度や危険な状態までの余裕度などの定量的な評価を十分行えないため、橋梁診断への活用につながっていない。
本研究の提案手法は、橋桁の本来保有している性能(耐力および剛性)を的確に把握し、モニタリングより評価される現在の剛性から構造物の健全度を定量的に評価する技術を確立した。既存の橋梁構造物に適用した結果、橋桁梁部の下面から40cmの区間が損傷し、機能性(橋桁の剛性)が35%低下していることが判明した。本研究成果は損傷区間の推定および剛性低下度の判定(閾値の設定)を可能にし、モニタリング技術を活用した点検システムの有効性を飛躍的に向上させた。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、橋梁の損傷度合いを評価する技術の開発を行ったという観点からは、ある程度目標は達成されたと評価できる。一方、研究成果は、計測データから損傷程度を評価するという分析手法の開発であり、まだ十分信頼性が得られていないと判断される。特に、経時変化を調べるには、さらなる技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、地方自治体等で橋梁の点検を簡易に行うためには、当初の目的のようにバス等に設置した装置で異変を見つける手法の開発が望まれる。また、実橋梁のたわみ同定に影響を及ぼすものとして、実構造と設計との相異、損傷の位置や程度の不均一性、支承の機能不全など、種々の影響が考えられるので、データ集積による精度の向上、適用範囲の設定などの検討が望まれる。
精度向上を目指した多回線送電線から発生する低周波磁界解析プログラムの開発 阿南工業高等専門学校
平田均
阿南工業高等専門学校
西岡守
多回線の高圧交流送電線や線路方向が変わる地点や交差する地点における送電線下の地表近傍では、局所的に磁界強度が大きい超低周波磁界のホットスポットがあることが予測される。本研究では実測値を基にした送電線のモデル化を行い磁界計算によって、それら超低周波磁界の分布を明らかにすることができる。また、高圧交流送電線下の超低周波磁界に曝される地域は広大であり、すべての地域を実測によって超低周波磁界を把握することは困難であるが、送電線の弛みの補正を磁界解析プログラムに組み込むことにより、計算精度の向上がはかれ、実際に磁界計測を行わなくても送電線の形態(線間距離・地上高など)を把握することで、発生磁界を予測が可能となる。本研究を発展させることで、超低周波磁界の長期的曝露による人への健康被害の因果関係の解明など、医学的・免疫学分野への波及効果についても十分期待でき、将来的には健康影響評価の指針の一つとして用いることが可能である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、磁界計算に基づく送電線下の地表近傍の磁界分布を等高線カラーマッピング化して「磁界の可視化」を目指すという目的を達成できたことは、評価できる。また、送電線の地上高、線間距離や導体配列、線電流等の各種パラメータを定めれば発生磁界を予測することが可能となり、さらに送電線の弛度を考慮することで磁界計算精度の向上につながることがわかった。一方、磁界測定では地形上の問題や近隣に建物があり測定可能な領域が十分ではなく、それらの影響や測定座標を記録するGPS装置の精度があまり高くなかったので測定位置に若干のずれが生じ、磁界分布に斑が発生している。今後、高精度に測定位置の捕捉できる装置や方法を検討する必要があると思われる。今後は、実用的に必要とされる場面におけるモデル精度を設定し、実測値と比較し、目標以下に持っていけることを実証することが望まれる。
防水型LED連続照射光を用いた海域環境改善技術の開発 徳島大学
山中亮一
徳島大学
大塩誠二
本課題では、尼崎運河にて開発・運用されている生物浄化システムの浄化能向上のため、防水型LED照明による水中藻類の光合成誘起に伴う水質浄化効果(溶存栄養塩除去や曝気)を活用するための技術開発を行うことを目標とした。達成度は、夜間に生じる藻類の連続光障害対策については、日中に許容される被光量を藻類種ごとに明らかにした。また尼崎運河の底質改善効果については、珪藻類休眠期細胞による水質改善効果を室内実験により定量化し、現地適用性を有することを示した。今後は、本課題による成果を基に周辺技術開発を進め、実用化したいと考えている。将来的には、本技術により新興国の水環境改善に寄与したいと考えている。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、基礎研究の段階ではあるが、目標とする研究成果が得られていることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、社会還元までには、費用対効果、長期的運用プランと実機設計、周辺環境への影響等、課題が多くあり、解決が望まれる。今後は、事業化を行うための課題は明確になっているので、それらの課題解決に向けた研究展開および企業との共同研究を進めることが、期待される。
官公庁・消防局間の防災情報共有を容易にする防災3D-GISの開発 愛媛大学
渡部正康
愛媛大学
入野和朗
災害時における被災状況の記録や対応打合せの支援を目的とした対応機関間の情報共有基盤として、防災情報連携3D-GISを開発した。これは地形や建物に衛星写真等の画像を貼付けた俯瞰図の外観とタッチパネルを用いた操作系により構成している。表示されている地形面にペイントや矢印等の機能を用いて災害状況を描き込むと、記入内容は空間データとして登録されると共に、連携した相手方の端末画面にも自動的に反映されるネットワーク共有機能を備えている。
本研究は当初目標通り、GISシステムの開発と防災現場担当者へのヒアリング調査を達成した。今後は災害対応現場における情報連携の改善を企図し、移動体端末環境の開発を進める見込みである。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもタッチパネルを用いた情報端末デバイスを用いて、緊急時の避難情報や防災情報を手軽に伝達し、情報共有するシステムについては評価できる。一方、機器の携帯性の確保と複数の通信ネットワークへの接続を可能であることや、災害時の実用的な価値を向上させるためには、通信キャリアなどの企業との連携が不可欠とみられ、また災害緊急時には、電力や通信のネットワーク破断のような環境下でも、ある一定期間、被災民への情報伝達ツールとして機能するような技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、災害緊急時に、行政と被災民の間で双方向の情報伝達を可能とする技術として通信キャリア会社などと連携して、緊急時の有用性を高められることが望まれる。
水/セラミック電極の原理による有害廃棄物の溶融無害化技術の開発 新居浜工業高等専門学校
出口幹雄
香川高等専門学校
関丈夫
水/セラミック電極による放電の原理によってアスベスト等の有害廃棄物を溶融無害化する技術について、放電電極の寸法や放電条件等を変えて、最も効率よく対象物を溶融できる条件を探り、溶融性能を評価したところ、電極は小型化の観点から許容される範囲で太く、また、電極間隔が広い程溶融領域が広がるがアークが湾曲しやすいため電極間隔を周期的に増減する機構が必要であること等、実機設計上のいくつかの指針が得られた。しかしながら、溶融能力は目標として設定した値に比べて桁違いに小さく、従来技術の代替としてではなく本技術の特長を活かした実用化の途を目指すべきであることが明らかになった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも水/セラミック電極による放電の原理によってアスベスト等の有害廃棄物を溶融無害化する技術の基本的特性を解明できたことは評価できる。 一方実用化の観点からは小型装置によるオンサイト処理が考えられるが、アスベスト等の有害廃棄物が溶融によりどのように変化するかなどの技術的検討やデータの積み上げが必要であると思われる。また、本研究成果や今後の検討に基づいた特許出願が望まれる。
環境汚染物質処理の効果的な手法の開発は社会的にも意義があり、今後の研究の進展が望まれる。
キュウリ黄化えそ病防除にむけた伝染効率の高い弱毒ウイルスの作出 高知県農業技術センター
下元祥史
高知県農業技術センター
竹内繁治
キュウリ黄化えそ病の新たな防除資材として作出した弱毒ウイルス株はキュウリへの感染率が低いことから、強毒株との交雑による新たな弱毒株の作出に取り組んだ。その結果、弱毒株に特有の核酸配列を明らかにし、強毒株との交雑の有無を判別することが可能となった。また、両ウイルス株を混合してキュウリに接種することで得られた交雑系統のうち、純粋な系統まで単離できた2系統を調査した結果、弱毒株のもつMセグメントが弱毒化に影響すること、Lセグメントは感染性への影響は小さいことを明らかにした。しかし、これらの系統は、感染性と症状から実用には不十分と考えられた。今後は、単離途中にある交雑系統について調査を継続していく予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、弱毒株のMセグメントが弱毒化に影響していることとLセグメントは感染性に大きな影響を及ぼしていないことを明らかにした点は評価できる。一方、継続的かつ効率的な弱毒株候補の選抜や病原性・感染性に関する詳細なウイルス遺伝子解析など、キュウリでの実用化に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、引き続き基礎的な知見を蓄積し、実用的な弱毒ウイルスを作出されることが望まれる。
冷却コントロールによる苺を用いた生鮮果実ストック技術の検証 高知工科大学
松本泰典
高知県産業振興センター
田村義之
本事業では、生鮮農産物を計画的に出荷することが可能なストック技術の開発として、イチゴをサンプルに、冷凍、解凍および冷蔵の技術による最適な保存方法を調べた。その結果、冷凍また解凍をイチゴに施した実験では、液体窒素による冷凍やスラリーアイスでの解凍といった方法等を組み合わせて検討を行ったものの、何れの組み合わせも収穫直後と同様の状態を維持することができず、イチゴがゲル状に軟化してしまった。一方、冷蔵保存法の検討では、イチゴに低温環境等の条件を付与すると、通常保存の2倍以上の期間で収穫直後の品質を維持した状態で保存できることが分かった。このことから、本事業で得られた冷蔵法については、他の野菜等でも有効性を検証し、ストック技術、輸送技術の構築を進める。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、冷凍保存の他に、短期保存として低温の恒温保存というカテゴリーにビジネスチャンスを見出した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、低温恒温糟での裏付け実験と氷温技術との融合、或は棲み分けなどによる実用化が望まれる。今後は、特許出願とそれを受けた成果公表を検討されることが期待される。
世界初のアオリイカ人工受精・孵化技術の確立 高知大学
足立亨介
高知大学
吉用武史
アオリイカは高価で、成長が早く、増肉係数も低いことなど養殖に有利な点を持つにもかかわらず、産業としてとして着手されていない。特に人工受精・孵化技術に関しては受精卵の発生に関わる特殊な因子が要求されるなど、独自の発生システムをもつこともあってか、これまでに研究の前例がない。本研究では人工受精卵の孵化を誘発する因子を入手し、人工受精させたアオリイカの卵(100粒以上)を50%の確率で孵化させる手法を確立することを目標とした。その結果、本種の輸卵管を生化学的に粗分画することに成功し、本画分の添加によってアオリイカ人工受精卵では成果を上げるには至らなかったものの、同じ頭足類であるスルメイカ人工受精卵で237卵中、94卵の孵化に成功した(孵化率約40%)。本研究のように生化学的な分画を導入した人工孵化技術は頭足類初であり、得られた結果はアオリイカのみならずイカ類種苗を得るための基盤的な技術になると考えられる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、輸卵管腺より孵化誘発因子を部分的に精製したことについては評価できる。一方、アオリイカの養殖を目指すのであれば、孵化率の向上に加えて飼育環境下で放卵させた卵塊の大量飼育に向けた技術的検討やデータの積み上げなども必要と思われる。今後は、卵膜膨張誘発のメカニズム解明と共にムコ多糖類を消化する酵素を用いて培養液の粘土を下げるなどの具体的な工夫も検討されることが望まれる。
健康食品成分を利用した保存加工食品の害虫防除技術の開発 高知大学
手林慎一
高知大学
吉用武史
貯蔵食品害虫の発生は我々にとって深刻な問題である。申請者らは健康食品成分Xに貯穀害虫の成長抑制活性を見出しため、この化合物X用いた貯穀害虫の加害を受け難い保存加工食品の確立を目標として研究を行った。その結果、化合物Xは主に小麦加工製品を加害する害虫に98-75%の高い成長阻害活性を示した。そこで加熱加工食品(クッキー)を作製すると、化合物Xは高い熱安定性・長期安定性を示し、実用可能であると判断された。さらに化合物X4%にD-プシコース2%を加用することで希少糖の使用量を25%削減しつつ同等以上の効果を示すことも発見した。即ち本品をそのまま実用に供することが出来るものと判断された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、健康食品成分XとD-プシコースとの割合を変化させ貯穀害虫に対する成長阻害活性の基礎データを示した、実用性の高い技術は評価できる。一方、技術移転の観点からは、成虫に対する殺虫作用の有無確認や適用食品・食材の明確化や6か月以上の長期保蔵の試験などを踏まえた実用化が望まれる。今後は、防かび技術との併用により超長期の保存食品の可能性についても検討されることが期待される。
簡便な抗酸化力評価用の電気化学センサー開発に関する研究 高知大学
上田忠治
高知大学
石塚悟史
食品の抗酸化力を、一定の数値として評価することが、近年の健康志向に伴って重要視されてきている。本研究では、食品の抗酸化力を評価するために、煩雑な前処理な等が不必要で、高価な分析機器を使用しない、安価かつ簡便な電気化学センサーの開発に向けた研究を行う。そこで今年度は、プローブとして用いるポリオキソメタレート錯体と抗酸化物質との平衡電位を測定した。その結果、本研究で開発した方法から得られたデータと、既存の抗酸化力評価法であるORAC法やDPPH法から得られたデータとの間に相関関係が得られた。つまり、本研究で開発した新しい抗酸化力評価法は、十分利用できる事が証明された。今後は、一般生産者でも測定が出来るように、測定用の電極を改良して、より簡便な方法へと開発する。加えて、実際の食物・食品の抗酸化力測定を行っていく。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、ポリオキソメタレート錯体を用いて新たな抗酸化評価系を構築したことは、学術的には高く評価できる。一方、実用化に向けては、電極の固定化の方法の改善や、実際の食品系での応用データの蓄積と安定性の確認などが、必要と思われる。今後は、 研究成果が応用展開された際に安価な測定器の供給につながり、測定器としてのニーズも高い事から、さらなる研究によるデータの積み重ねで、実用化につなげることが望まれる。
色覚異常者にやさしいユニバーサルデザイン1灯点滅式信号機の開発 九州産業大学
落合太郎
九州産業大学
新保進介
全国に300万人いるとされる色覚異常者にとって、信号灯が電球からLEDに変わって黄と赤の区別がより難しくなったと指摘されるようになり、有効な解決策が見つからないまま普及している現状がある。この問題に有効な赤信号灯をユニバーサルデザイン化する技術を開発し、既に国内外で特許を取得してCIE(国際照明委員会)やISOの国際基準となるべく、研究発表を戦略的に継続してきた。今回、新たに黄信号灯にもユニバーサルデザイン化する技術を開発し、並び位置で判別できない1灯点滅式信号機に対処できるように工夫した。これによって色覚異常者にとって最優先課題とされる1灯点滅信号機の実用化が完成した。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、黄信号灯に対しても青色LEDを追加して「-」印を作成することで、目的を達成し技術移転につながる成果が得られたと評価できる。一方、技術移転の観点からは、行政の法整備や公安当局の適切な対応と、信号機メーカーの姿勢如何に依存する部分も大きいので、色盲・色弱者団体との連携も含め、社会への広報活動を強めることにより実用化に進むことが望まれる。今後は、日本のみならず世界中の色覚異常者に有用と考えられるので、国際基準となるための条件と手続きを検討し、より強力な実用化のための方策を実施することが期待される。
解凍精液から元気な精子だけをオンサイトで簡便に得るための技術開発 独立行政法人産業技術総合研究所
山下健一
独立行政法人産業技術総合研究所
犬養吉成
精子や卵子、受精卵などについて、質の良いものを選別することは、不妊治療や動物繁殖の成否に直結する。このような問題の解決のため、本研究では特に牛を対象とし、精子が自力で運動することに着目した選別手法の研究を行い、精子の運動の理解と適切なマイクロ流路設計によって、従来法の百万倍の処理効率を実現し、人工授精にも使える処理量で、高い運動能力の精子を回収する技術を確立した。さらに運動能力別に捕集できるという性能を活かし、性別特異的な既知の生化学的性質を融合することで、精子にダメージを与えず、性比に偏りのある精液調製技術とすることにも成功した。この成果は、外国の特許に左右されず、任意の種牛の精液を処理できる国産の性選別技術に道を拓いた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、運動性の弱い精子や死滅精子を取り除き運動性の高い精子を濃縮する技術は、特許出願も終えており高く評価できる。一方、技術移転の観点からは、具体的な器具の設計と獣医師等と協同した使用現場での授精率向上の実証などを経た早期の実用化が望まれる。今後は、雌雄の産み分けに関して、発情や排卵日の推定手法など他法との組合せも検討されることが期待される。
プルトニウム等のアクチニド元素に対する選択分離吸着剤の開発 長崎大学
中山守雄
長崎大学
石橋由香
放射線医学総合研究所と共同で、液体シンチレーションシステムを用いたウラン定量法を考案した。この方法を用いて、長崎大学で合成したアミドキシム型樹脂ならびに市販のキレート樹脂のウラニルイオン吸着性能を評価した。長崎大学で合成したアミドキシム型樹脂については、2種のアミドキシム型樹脂(RG-EG-NHとRNH)の吸着性能を比較した。その結果、RNHの方が、迅速にウラニルイオンを吸着することが確認できた。今回得られた結果を基に、今後は、架橋したポリアクリロニトリルを高分子基体とするアミドキシム型樹脂を合成、改良し、プルトニウム吸着性能評価を進めることとした。 当初目標とした成果が得られていない。中でも当初目標のプルトニウムに対する吸着能が確認できなかった。アミドキシム型樹脂ならびにウランに対する吸着性能から判断する限りでは、既存のアミドキシム型樹脂の性能を超えることは無かったが、アミドキシム型樹脂のうちのRNHの方がRG-EG-NHよりも迅速にウラニルイオンを吸着することが確認できた。
今後は今回構築できた実験系と医学部門との共同研究体制を活かしプルトニウムを用いての研究が安全に遂行されるよう、研究開発計画を練り直し取組まれることが望まれる。
摂食行動を制御する新しい害虫防除剤開発に向けたドーパミン受容体遮断薬の効率的スクリーニング 熊本大学
太田広人
(目標)
 摂食行動を制御する新しい害虫防除剤開発に向け、昆虫ドーパミン(DA)受容体に作用する遮断薬を効率的にスクリーニングするためのアッセイシステムを構築すること、また哺乳類DA受容体に対する影響も調べながら、昆虫DA受容体選択的に作用するリード遮断薬を探索することを目指した。
(達成度)
・カイコDA受容体の高感度レポーターアッセイシステムを構築することができた。
・ヒトDA受容体でも同様のアッセイシステムを構築することができた。
・構築した昆虫及びヒトDA受容体のレポーターアッセイシステムをもとにした、遮断薬の効率的スクリーニングシステムの開発に成功した。
(今後の展開)
 このシステムを駆使して、哺乳類DA受容体には作用しない、昆虫DA受容体選択的なリード遮断薬を探索する。
当初目標とした成果が得られていない。中でも、モデル化合物を用いる評価系の堅牢性に係る技術的検討やスクリーニングに用いる化合物数を増やした評価が必要である。今後は、評価系の効率性と信頼性を重視した研究計画を検討をされることが望まれる。
グローバル・ロジスティクス構築における高速度・高精度最適化手法の開発 熊本大学
内村圭一
熊本大学
東英男
国内は元より国際的な物流システムを構築するための大規模な配車配送計画問題における高速度・高精度最適化手法の開発を目的とする。国内における宅配便の利用増大、世界的な国際貨物流動の飛躍的増加の中で、大規模な顧客に対する効率的な配車配送が求められている。本研究では、1000顧客の大規模な顧客において、時間枠、積載容量の制約条件が有る場合にベンチマークと比べて、総走行距離は0.01%長くなり、計算時間は30.94秒であった。総走行距離はベンチマークと比べて全く遜色なく、むしろ一つの手法による結果のため優れている。計算時間も1分を切った。配車配送計画問題に対する技術的基盤を確立したと云える。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に顧客数1000までを対象に、船舶、航空機、鉄道、車両などの複数の輸送手段を用いる、時間枠や積載容量に制約を有する大規模な配送計画最適化を、計算時間1分以内で行うアルゴリズムの開発において、経路生成にあたり、局所的の選択肢を増加させる工夫を組み込んでおり、これにより高速で精度の高い探索を実現している技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、当初の目標を達成するアルゴリズムを確立し、実際の物流システムにおいて、本研究の成果がどの程度実用的に役立つかを検証する必要があり、物流管理関連企業との連携を推進することにより早急な実用化が望まれる。今後は、配送や経路最適化のアルゴリズムは多数存在するので、基本仕様や機能的な面での比較されることが期待される。
新たな可変剛性型動吸振器を用いた高性能マシニングセンタの開発 大分大学
劉孝宏
大分大学
江隈一郎
本技術は、はりの回転角のみで固有振動数を自動制御できる新たな可変剛性型動吸振器を装着した防振性に優れる高性能マシニングセンタの開発を目的としている。スピンドル回転時を模擬した加振実験の制振性能(振幅1/7)と動吸振器の応答速度(1sec)、エンドミル加工時の振動振幅(振幅1/2)のすべてにおいて目標値をクリアできた。加工時の表面粗さに対しては、振動振幅の劇的低減はなかったが、表面粗さの均一性が向上した。疲労破壊実験では、目標繰り返し回数を十分クリアできた。また、びびり振動に対する解析モデルを構築し、動吸振器の最適設計を提案できた。これらの研究成果から、特許申請1件、学会発表1件を実施した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、可変剛性型動吸振器を用いてマシニングセンタの振動低減とエンドミル加工時の振動低減を試み、振動振幅の低下を示していることは、評価できる。一方、本装置は特定の周波数に対して振動を減衰する効果があるものの、それ以外の周波数では効果が得られない。このことが加工面の表面粗さが低減できなかった一因であると考えられる。マシニングセンター実機における振動のエネルギは極めて大きく、小型の動吸振器では対応できず、振動系へのエネルギ流入の大きさ以上のエネルギ消散能力を有する減衰系を用意することも検討する必要があると思われる。今後は、マシニングセンターでなく、当該動吸振器の減衰能力に適合したより小型な機械システムでの制振も検討することが望まれる。
プロテオミクスを基盤とした次世代型種豚育種バイオマーカー開発 宮崎大学
榊原陽一
宮崎大学
坂東島直人
現在、肉用豚としてハイブリッド系統が市場の大部分を占めている。ハイブリッド系統の維持と、さらなる肉質向上、増体向上、産子数増加などを目的に、DNAマーカーを用いたより種豚育種が行われている。しかしながら、DNAマーカーの多くは既に権利化されており、産業的な利用目的においてはライセンス料など経済的負担が強いられることとなる。そのため、DNAマーカーによらない種豚育種次世代マーカーとしてタンパク質・ペプチドマーカーによる種豚育種技術の開発を目的とした研究を実施した。本研究では、二次元電気泳動と質量分析により豚個体識別可能な育種マーカー候補を複数見いだした。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、個体識別マーカーとして十数個のマーカー候補のペプチドを発見したことと疾病バイオマーカー探索システムの有用性を見出したことについては評価できる。一方、ペプチドやタンパク質断片のアミノ酸配列をマススペクトルから予測する技術的検討や信頼性を担保するデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、よりハイスループットな解析方法を確立されることが望まれる。
クルマエビのワクチンのためのアジュバント開発 宮崎大学
酒井正博
宮崎大学
坂東島直人
小麦胚芽無細胞タンパク質合成系により作成したWSSVのサブユニットワクチンと免疫賦活剤(Imiquimod, poly I:C)を単独または混合接種し、WSSVによる攻撃試験によってその有効性を確認した。さらに、免疫関連遺伝子の発現解析も同時に行った。サブユニットワクチンまたは免疫賦活剤を接種し、1週間後に攻撃試験を行った結果、ともにコントロール区と比べ生残率は有意に高く、WSSVに対する抗病性の向上が認められた。さらに、サブユニットワクチンおよび免疫賦活剤の混合接種では、ワクチン単独接種よりも抗病性が向上することが確認された。免疫関連遺伝子の発現解析では、混合接種後において、コントロールと比べ顕著な発現量の増加が確認された。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、VP28ワクチンのアジュバンドとしてイムキモットおよびPolyI:Cを用いることで、免疫効果の増強を認めたことについては評価できる。一方、ワクチンの実験としての信頼性の担保に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、経済性と実施可能性を考慮しつつ様々な条件でワクチンとアジュバントの投与実験を行い、より効果的な手法として提案されることが望まれる。
半脆弱な電子透かしを用いた2次元コードの不正な複製の検知 鹿児島大学
小野智司
鹿児島大学
中武貞文
本申請課題では、不正な複製を検知することができる電子透かし入り2次元コードの作成において、印刷機ごとに異なる最適な前処理・透かし埋込みパラメータを、最適化により求めるシステムを開発した。本システムの開発にあたり、半脆弱な電子透かしの設計を最適化問題として定式化し、新たに開発した適応型ニッチング差分進化法により複数の有望な準最適解を同時に発見することを可能とした。実験を行い、色数の少ないインクジェットプリンタに適したパラメータを得ることができ、真贋判定可能な透かし入り2次元コードを実現できることを確認した。一方、パラメータの調整のみではカラーレーザプリンタを用いた透かしの実現は困難であることがわかったため、今後、電子透かしの埋込み方法自体を自動設計する技術の実現を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に不正な複製を検知することができる電子透かし入り2次元コードの作成において、印刷機ごとに異なる最適な前処理・透かし埋込みパラメータを、最適化により求める技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、一般的に普及している2次元バーコードに電子透かしの埋め込みを実現することは社会還元につながるものと期待され、さらに高解像度の画像に対しても対応できる新たな電子透かし技術への発展による実用化が望まれる。今後は、プリンタの機種に依存しない汎用性の高いアルゴリズムへ発展されることが期待される。

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