評価結果
 
評価結果

事後評価 : 【FS】探索タイプ 平成26年7月公開 - ナノテクノロジー・材料 評価結果一覧

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課題名称 研究責任者 コーディネーター 研究開発の概要 事後評価所見
新素材としてのバクテリアセルロースゲルの創製と力学強度および硬度の評価 小樽商科大学
沼田ゆかり
苫小牧工業高等専門学校
土田義之
本研究開発は現在得られているPEGDA重合体で二重網目構造化した―高強度化した―PEGで膨潤したバクテリアセルロースゲル(BC/PEGゲル)の力学強度の改善を目標に実施した。この改善方法として、ゲル表面にPEGDA重合体で二重網目構造を構築する条件を確立した。この手法で得られたゲルは、BC/PEGゲルと同等の圧縮に対する強度を備え、ゲル全体に二重網目構造を構築したゲルと比べ引張に対して延性を有することが明らかになった。さらに、BC/PEGゲルと同等の硬度(軟らかさ)を保持し、表面のべたつきが改善されていることが示された。実用化に向けた具体的な見通しとして、圧縮よりも引張への耐性が必要とされる製品への応用が適しているという見通しが得られた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、バクテリアセルロースの特性をPEG架橋ポリマーと融合させたゲルを作成したことについては評価できる。一方、膨潤の均一性と力学物性との関係や相応しい用途の発掘に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、構造解析などよりも用途の展開に注力されることが望まれる。
水環境の保全を指向したリン酸および硝酸性窒素検出材料の開発 旭川工業高等専門学校
堺井亮介
苫小牧工業高等専門学校
土田義之
赤潮などの環境問題に直結することが懸念される水環境中のリン酸や硝酸性窒素の革新的モニタリング手法を提供するために、リン酸および硝酸イオンに色調応答を示す高分子センサーの開発を目指した。本研究で合成したポリマーは、リン酸イオンや硝酸イオンに対して明瞭な色調変化を示すことが明らかとなった。従って、当該ポリマーを利用することで、リン酸および硝酸イオンを色調から定性および定量分析することが可能であり、目的とした検出材料の開発に成功したと言える。今後さらに、リン酸および硝酸イオンに対する特異性と感度の向上を図ることで、実用化に繋がる可能性を大いに有している。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもπ共役ポリマーを調製し、水環境で問題となるリン酸や硝酸イオンに対する色調変化が生じることを確認し同イオンのセンサーへの応用の可能性を示したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、リン酸・硝酸イオンに対する特異性および検出感度の向上を図るとともに、他の競合技術に対する優位性を明確にし、産学連携企業を探索し実用化に取組む必要がある。
本センサーは赤潮などの環境問題に直結する水環境中のリン酸や硝酸性窒素のモニタリング手法として有効であり、今後実用化されることが望まれる。
高生産性・低コストの新規ダイヤモンド合成法の開発 八戸工業高等専門学校
齊藤貴之
八戸工業高等専門学校
佐藤勝俊
グラファイトを原料としアーク放電によりダイヤモンド合成を行なう高生産性・低コストの新規合成法の開発を行なった。アーク放電により気化した炭素をダイヤモンドとして再結合させる金属触媒の探索を行ない、最適な金属を決定した。合成ダイヤモンドの粒子径は目標には及ばなかったが、20 μmまで拡大することができた。また、合成ダイヤモンドは金属触媒から容易に回収することができ、金属触媒は再利用することが可能であった。さらに、合成ダイヤモンドは金属触媒上に膜状に積層されたことから、本合成法は切削工具などのダイヤモンドコーティングへの応用展開が可能であり、従来法より短時間でコーティングできることから本合成法の優位性は高いと言える。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。特に金属触媒上で黒鉛のアーク放電によって粒径20μmのダイヤモンド生成を確認でき、大粒径化については繰り返しアークなどにより可能との見通しが得られているとともに、触媒の再利用が確認されたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、計画中の特許出願とともに、現在進めている粒子大径化のための装置の改良やダイヤモンド生成条件の絞込みと、生成物の構造、組成、形状などの分析データの積み上げが望まれる。
本技術は生産性の高いプロセスであり、今後は切削工具などへに展開されることが期待される。
一人1台方式で使用できる教育・学習教材としての近赤外分光器キットの開発 一関工業高等専門学校
貝原巳樹雄
一関工業高等専門学校
郷冨夫
個人で利用出来るレベルの比較的低コストで携帯型の近赤外分光器が実現できれば、教育用としての利用拡大が期待できる。そこで、ノイズに隠れそうな微小な信号を抽出できるロックインアンプを、多段フィルターの増設によって改良した。また、試料測定で制約のある光透過方式から、光ファイバーを用いた反射方式とするため、小型の光チョッパーをモノクロメーター内部に設置した反射型分光器を開発した。サンプル測定の結果、定性的な知見の得られるスペクトルを取得する事ができた。装置構成もシンプルであり、教育用装置としての目標は達成できた。電子回路のプラットフォームとしてArduinoを使用し、初学者にとっても優しい教育キットであるが、本体原価は10万円を若干超える程度となった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、 携帯型反射型分光器の本体原価を10万円に近づける見通しができ、装置を完成させたことは評価できる。一方、目標とした13種類のプラスチックの判別に対しては、厚みや色に制限がされるようなので、この条件も明らかにし、より多様な材料にも使えるような設計、改良を続けることが必要と思われる。今後は、実用化という目的に対して、何が必須の要求仕様かという点を、「売れる製品になるかどうか」の観点からもう一度検討し、製品としてどの様に使われどのような価値をユーザーに与えられるのか、コストパフォーマンスも含めてユーザーの立場で考えて、研究開発を進めることが望まれる。
Cs2ZnCl4を用いた高計数率用シンチレータ材料開発 東北大学
越水正典
高速シンチレータとしてのCs2ZnCl4結晶育成技術を開発した。1cm角以上の大きさの結晶育成に成功した。カーボンルツボの使用により、カチオン比率の制御に成功したものの、驚くべきことに、カチオン比率のシンチレーション特性への影響は非常に小さく、大幅に異なるカチオン比率の結晶においても、長寿命成分を5%以下に抑制することができた。一方、結晶育成後のアニール条件の選択では、真空アニールにより長寿命成分が顕著に増大することが明らかとなった。この現象は、原料粉末やCs2ZnCl4粉末中でのアニールにより回避することができ、再現性よく、長寿命成分を5%以下に抑制することに成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に1cm角以上の大型結晶の育成、±5%以内の化合物量論比の制御、10 ns以上の長寿命成分が全発光量の5%以下となることを見出し、さらにカチオン組成比のシンチレーション特性への影響が非常に小さいことを見出したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、共同研究企業とるつぼ全体で結晶性のよい育成方法が確立され高計数率用シンチレータ用材料として実用化されることが望まれる。
本研究によりX線、中性子、イオンの数ナノ秒応答の高計数率の新型シンチレータが開発されることになり、放射光源用センサ、J-PARC等中性子源用センサ、がん治療システムでのオンラインモニタ、橋梁等社会産業インフラその場X線検査用センサ等に広く適用されることが期待される。
太陽電池用のサイズ・多形制御されたフタロシアニンナノ結晶作製法の開発 東北大学
笠井均
光電変換特性が最も良好とされるチタニルフタロシアニン顔料を太陽電池に応用する為には、ナノサイズの制御および多種の結晶多形制御が高水準で要求される。本申請者らは、長年開発してきた再沈法を使用することにより、濃硫酸を使用せず、環境に優しい新規製造工程を開発することに成功した。さらに、チタニルフタロシアニンナノ結晶のサイズ・多形制御を完璧に遂行し、特に100 nm以下のY型チタニルフタロシアニンナノ結晶を初めて作製することができた。太陽電池材料としては、ナノ結晶薄膜を積層して作製するバルクヘテロ型薄膜太陽電池で変換効率2%が達成できる材料となる事を確認しており、本技術は、長寿命の太陽電池材料の開発に繋がると考えられる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にナノサイズ及び結晶形制御を濃硫酸を使用せず、環境に優しい新製法を開発し、本法による100 nm以下のY型チタニルフタロシアニンナノ結晶を用いたバルクヘテロ型薄膜太陽電池で変換効率2%を達成できることを確認したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、本研究成果が特許出願され100nm以下のY型チタニルフタロシアニンナノ結晶を中間層に、P型層やN型層に半導体ナノ結晶を用いる開発目標が示されるとともに企業との共同研究体制も確立されており、産学連携による実用化が期待される。
今後は、太陽電池の効率を支配する因子は半導体の結晶サイズ以外にも、電荷を電極に導く仕組みなども重要でありシステム的な視点から検討が進められ、ブレークスルーされることが期待される。
非破壊検査や核セキュリティー等への応用を目指した中性子イメージング用数十マイクロメートル高空間分解能シンチレータカメラの開発 熊本高等専門学校
二見能資
新規中性子イメージング用シンチレータ素子として、LiF相を含む2種類以上の結晶相からなるフッ化物共晶体シンチレータの開発を行った。この結果、LiF-MgF2-CaF2からなるロット状の微細構造を有する三元共晶体(Eu 0.5%添加)の作製にマイクロ引き下げ法を用いて成功した。この共晶体の発光特性は、発光量8,000 光子/n(目標値:2,000光子/n以上)、蛍光減衰時間0.6マイクロ秒(目標値:1ミリ秒以下)であり、潮解性も無く、目標を達成するものであった。今後は実用化を目指してこの共晶体の大型化等に取り組む。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に共晶体シンチレータとCCDカメラを用いた新しい中性子イメージング法の開発において、1軸方向に結晶軸が並ぶ共晶体結晶の作製に成功したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、材料の大型化や発光量の増大などに加え、結晶育成におよぼす環境因子の影響、材料の信頼性、機能の安定性などの評価も必要と思われる。今後は、発光量の向上のための改善策と、撮像能力の向上について具体的に検討されることが期待される。
ベシクルテンプレート法を利用した中空シリカ粒子のワンポット大量合成およびその形状・構造制御 東北大学
石井治之
東北大学
柿崎慎也
イオン性界面活性剤の集合体構造を利用して、中空シリカ粒子の形態を球状および多面体形状に制御することに成功した。安価で工業的に広く用いられているカチオン性およびアニオン性の合成界面活性剤を使用し、また簡便なワンポット合成法である。中空シリカ粒子の形態は、反応溶液のpHに依存して変化することがわかった。合成した粒子の形態が球状の場合、比表面積が大きくまた高い空隙率を有した。多面体状では、棒状ミセルに由来したシリンダー構造がそのまま粒子形態となっており、細孔が規則的に配列していた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に合成条件を幅広く検討し様々な形状・構造の中空シリカ粒子ができることを明らかにするとともに、大量合成の道を開いたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、産学連携による実用化に向け、従来法で一般的なポリスチレン等により合成したシリカ粒子の物性上の優位点などを明らかにしてゆくことが望まれる。
近年、光学的、熱的、電気的等の特異な性質で工業用材料として注目されている中空シリカ粒子は社会的に有意義な材料であり、本研究の成果による製法が実用化されることが期待される。
微小部応力テンソル実測用負荷ステージの開発 東北大学
田中俊一郎
東北大学
後藤英之
機械的特性のみならず電子的・熱的にも影響が必至の局所応力をテンソルで実測することが可能となった。研究代表者の25年にわたる研究結果をふまえて様々な多結晶材料における最小径50ミクロンの微小領域での実測が出来るため、亀裂先端での集中応力をその方向とともにテンソルとして求め、構造体の安心・安全、外部負荷への信頼性確保に資する。
本課題申請では1992年既出願の方式をベースに、試料ステージ上で曲げ応力負荷ができる治具を開発し、種々の多結晶材料でX線応力定数を求めてセラミックス・金属接合界面、耐熱材料およびセラミックスの人工亀裂先端など局所の集中応力テンソルを実測して寿命予測などに活用する。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、開発目標とした仕様を満たす冶具を製作、測定で性能を確認しており、また知財権に関する手配も完了するなど、当初目標はすべて達成されていることは評価できる。 また、次ステップへの技術的課題も明確に意識されている。一方、技術移転の観点からは 応力集中部の知見が開発された冶具によって深まれば構造体の安全性の評価がより厳密に行えるようになり、社会還元に寄与できる。今後は、企業との連携により、綿密な商品化計画も共有されているようであるので、早期の実用化が期待される。
偏光を保持する光拡散フィルムの開発 東北大学
西澤真裕
東北大学
平塚洋一
本研究により、偏光を保持する光拡散フィルムの開発に成功した。1次元光拡散プロトタイプフィルムの合成手法を基にし、硬化用光源に紫外線LEDを使うことで偏光保持光拡散の2次元化に成功した。また、内部構造観察と光学シミュレーションにより偏光保持光拡散メカニズムも検証した。直交ニコルに本開発フィルムを挟んだ時の全光線透過率は1%以下でありながらも約80%のヘーズ率が得られたことから、偏光を保持したまま拡散していることが確認された。加えて、本開発フィルムをリアプロジェクション透過型スクリーンとして検証し、偏光メガネ方式3D映像の障害となるクロストークの発生が無いことも確認できた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に偏光保持光拡散メカニズムの検証、偏光保持ランダム光拡散フィルムの合成を行った後、偏光保持率、偏光ヘーズ率、偏光拡散光分布の測定をした点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、改良するための技術提案、高性能化のための技術課題を抽出することが望まれる。今後は、学会発表と特許出願を行い、偏光保持フィルムの大面積化が達成されることが期待される。
テラヘルツ分光分析を用いた同族繊維の識別法開発に関する研究 秋田大学
倉林徹
秋田大学
伊藤慎一
本研究はテラヘルツ分光法を用い、衣服等の原料となるセルロース系同族繊維の識別方法を開発し、新規かつ信頼性の高い品質表示の鑑別法を確立することを目的とし研究開発を行った。対象となる繊維種は近年その偽装表示が問題化しつつある植物由来の再生繊維維である。各種繊維のテラヘルツ分光分析を定量的に行うため、まず、セルロース由来繊維を粉体に加工する最適な凍結粉砕条件を実験的に見出した。粉体化した各種繊維を用い、ポリエチレン粉末を基材とし5~7wt%のペレット状試料を作製し、これらをテラヘルツ分光分析することにより各試料の識別が可能となることを確認した。さらに取得したスペクトル情報に対して、多変量解析(主成分分析およびクラスター分析)を試験的に実施し、繊維種識別状態の可視化および定量化を試みた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に繊維試料の作成方法の検討を経て、テラヘルツ分光分析手法の確立および予備実験としての赤外線吸収スペクトルの多変量解析により各種繊維のクラスター分析の目処を得たことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、既に企業への技術移転が進行中であり、現場に於ける実資料を用いて適用性を検証しながら実用化を目指すことが望まれる。今後は、本成果自体の技術波及効果は限定的と言えるが、手法自体の汎用性は高く、より広範な応用展開が期待される。
磁性ソフトマテリアルを用いた省電力可変弾性システムの構築 山形大学
三俣哲
磁性ソフトマテリアルは高分子ゲルやエラストマーに磁性微粒子が分散された材料であり、外部磁界に応答して弾性率が可逆的に変化する。当該研究では、高効率な磁場発生装置の創製、及び磁性エラストマーの高性能化に取り組んだ。磁気回路を最適化することで、重さ100グラム、磁場強度300mT程度のコンパクトな磁場発生装置が得られた。残留磁化を有する磁性粒子を含む磁性エラストマーを合成し、磁場のオンオフで損失正接の値を劇的に変えられることが明らかになった。弾性率変化は従来材料より小さいが、振動のアクティブ制御など、制振材料として極めて有用であることがわかった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、1Aの電流で300mTの磁場を得るという磁場発生装置作製の目的は達成されていないが、装置の軽量化は達成した。また、磁場で損失正接が大きく変化する材料の新しい特性を見出していることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、磁場発生装置については磁場解析による理論的実証は不可欠であり、今後の研究の発展が望まれる。また、磁性エラストマーの開発においてもこれまでの材料とは異なる、損失正接が磁場下で低下する現象を計測しており、今後の発展が望まれる。今後は、企業側において制振材を活用する製品群での使用の期待が示されており、製品イメージやコンセプトの提案も計画されていることから、事業化に向けて戦略的に取り組むことが期待される。
非鉛圧電材料ハイパワー特性計測システムの汎用制御ユニット実用化に向けた研究 山形大学
廣瀬精二
山形大学
金子信弘
非鉛圧電セラミックスの実用化にはハイパワー試験が必須であるが、非線形現象の発生のため測定が困難となる。本研究では、この非線形現象を抑圧して、精密な評価試験を行える制御・計測システムの開発、さらにその高周波化、ならびにダイナミックレンジの拡張、回路の汎用化、ユニット化を目指している。研究開発の結果、以下の成果が得られた。すなわち、(1)非線形現象によるシステムの不安定現象を抑圧して安定なシステム実現をはかるため、回路各部の電圧・電流の波形ならびに周波数依存性を実験的に厳密に調べ、回路の設定条件を明らかにした。(2)制御・計測システムの各部の調整要素とフィードバックループの安定性との関係を求めるプログラムを作成し、これを用いてシミュレーションを行った。この結果、測定のダイナミックレンジや安定制御の範囲などが明確になった。(3)システムの高周波化をはかり、これまで100kHz上限のシステムの稼働範囲を1MHzに拡張できた。(4)計測制御試験の実施を容易にするべく、装置の調整方法を簡略化し、また詳細なマニュアル作成により試験実施を容易にした。(5)また、システムの心臓部である制御回路の汎用化を試み、CADと自動基板作製機との連動による回路のユニット化の見通しも得られた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも制御と計測回路の高周波化を図ることができたことは評価できる。一方、自動化とユニット化が今後の課題であるので、技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、研究を今後も継続するための検討をすることが望まれる。
塗布型電極の高精細パターニング方法の開発 山形大学
水上誠
山形大学
櫻井宏樹
本研究は撥液基板上にガスカーテン方式レーザCVDにより親液層を形成し、続いて導電性ナノインクを塗布しレーザCVDパターンに沿ってインクを自己組織的にパターニングする高精細電極形成技術の開発を目的とした。基板の表面自由エネルギー、レーザCVDにより形成した親液層の表面自由エネルギー、導電性ナノインクの表面張力を適正化することで電極幅3μm、膜厚30nm、表面粗さRq:3.8nmの高精細Ag電極形成に成功した。本塗布技術によりマスクレスでインクジェットでは達成できていない微細配線が可能となる。この技術は有機トランジスタ、RFID等の高機能電子デバイスにおける電極配線技術として貢献が期待できる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ガスカーテン方式のレーザCVDとインクジェットによる塗布のコンビネーション技術を成功させたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、材料および描画位置選択性についての適用範囲と、プロセス条件を確立することが望まれる。今後は、ナノインクをAgに限定しているが、電極材として応用するには、他のインク材料の検討も必要と思われる。
高速遅延測定回路を用いた超微細VLSIのための高品質遅延故障テスト法の開発 鶴岡工業高等専門学校
加藤健太郎
汎用プロセッサ、システムLSIといった高速かつ低消費電力なディジタルLSIは、今日のあらゆる分野において必要不可欠である。今後さらなる市場の要求に対応するためには半導体製造プロセスのさらなるスケーリングが必須となる。しかしながら、半導体製造プロセスのさらなるスケーリングは、製造ばらつき、タイミング不良に起因する深刻な動作不良を引き起こす可能性を有する。
本研究課題では、高速遅延測定回路を用いた網羅的な遅延の実測に基づく遅延解析によるプロセスのばらつきに強い高品質な遅延故障テスト法の開発を行う。プロセスのばらつきに強いテストセットとしてN検出テストセットがある。しかしながらN検出テストセットはデータ量が通常のテストセットと比較して約そのN倍となりデータ量が膨大となる。本研究では、テストセット生成の際、シミュレーションによる遅延解析でなく、実際に製造されたチップによる遅延解析による精度を高める事により。データ量が少なくなおかつ高品質なテストセット生成を行う。本研究では、データ量がN検出テストセットの1/N程度を目標に開発を行った。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、遅延値の実測に基づくテスト手法によってテストの品質を高めるというアプローチは評価できる。一方、期間内の作業が完了できなかった点は、研究の進め方に課題があると思われる。今後は、テストコストの削減やテストタイムも短縮できるように工夫するととともに、試作チップによる実測評価を行うことが望まれる。
薄膜電解質のローカルエピタキシャル成膜とその固体酸化物型燃料電池応用 鶴岡工業高等専門学校
内山潔
仙台高等専門学校
庄司彰
固体酸化物型燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell: SOFC)は高効率の発電方法として注目されているが、動作温度が1,000℃と高温で高価な耐熱材料を用いる必要があることから、装置コストが高くなってしまうという問題があった。そのためSOFCを普及させるためには、中温域(600℃以下)で動作するSOFCの開発が必須とされている。
この問題の解決のため、申請者は多孔質ステンレスにパラジウム(Pd)メッキした基板を用い、その上にプロトン伝導性酸化物薄膜を固体電解質として形成した薄膜SOFCの開発を行っている。本研究では電解質薄膜の高品位形成技術の探索とそれを用いたSOFCセル作成技術の開発を行い、その発電特性を検証することで本提案のSOFC構造の優位性を実証することを目的とした。
本FSステージを通じて、薄膜SOFCに適した材料や工法等の探索を行った結果、多孔質ステンレス上に作製した(La0.6Sr0.4)(Co0.2Fe0.8)O3(空気極)/ Sr(Zr0.8Y0.2)O3(電解質薄膜)/Pdメッキ層(燃料極)/多孔質ステンレス基板の構造において、450℃の低温で0.76Vの解放端電圧(OCV:Open Circuit Voltage)と1.5mW/cm2の最大出力密度を得ることに成功した。また、Pd箔上に作製した同構造のSOFCセルでは650℃で146mW/cm2の最大出力密度が実現できることを確認した。 
これらの結果より、本提案のSOFC構造によれば、中温域で動作するSOFCが実現可能であることを見出した。今後、さらに構造や材料の最適化を行うことでより高い発電効率が得られるものと考えられ、それらが達成されればエネルギー問題解決の一助になるものと期待される。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、独自の発想による金属薄膜の製法を考案し、作製した固体酸化物型燃料電池(SOFC)の性能において、従来型のSOFCと同程度の出力値を、より低い温度(650℃)で得られた点は評価できる。一方、SOFCの目標作動温度を設定し、それにあわせて材料の最適化をすることが必要と思われる。今後は、広範な種類の材料をテストし、最適な選択をする必要があるが、コストと製法についての検討も同時にすることが望まれる。
メタクリレート系ポリマーを応用した歯科用仮着材の開発 奥羽大学
岡田英俊
独立行政法人科学技術振興機構
渡邉博佐
PEMAとアネトール、ユージノールを基材とする試作材は歯科用仮着材として、市販仮着材にはない優れた特性を具備していた。しかし、練和の操作性の改善が必要と考えられた。そこで、練和性を改善するために練和の操作方法を再検討し、さらに粉末粒径を小さくすることから着手することにした。その結果、従来の試作材よりも練和操作が容易になり、練りあがった材料の状態も仮着操作を行いやすい状態となった。また、硬化時間、稠度および接着強さの値は変わらず、被膜厚さに関しては薄くなることが示唆された。以上のことから、目的はある程度達成されたと考えられるが、練和時間が長いことから、これを改善するために今後はさらに粉末粒径をさらに小さくした条件で検討する必要があると考えられた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも試作材は1)支台材料からの除去性に優れる、2)対照材料に比して、装着材料の接着強さへの悪影響が少ない、3)皮膚線維芽細胞への影響が少ない、等の結果を得ている。したがって、目標が達成されつつあると判断できる。
仮着材の所要性質をよく理解し、臨床的に有用な組成物を探索している点については評価できる。
一方、材料構成要素に関する基礎研究に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、問題のブレイクスルーとなる要素を再検討されることが望まれる。
多接合PVの効率向上に向けた広帯域透明導電膜の電圧印加型プラズマ合成 茨城大学
佐藤直幸
茨城大学
宇都木勲
亜鉛-酸素混合プラズマ中で、ニッケル電極付きのパイレックスガラス基板に低いシート抵抗のZnO透明導電膜を合成した。この装置は、ニッケル電極に-200 V ~ +80 Vまでの直流電圧を印加しながら膜を合成できる。その結果、亜鉛と酸素の混合比調整でシート抵抗を低減できる限界を超えられる可能性を検証できる装置を開発した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、基材側にニッケルを蒸着電極を形成し、プラズマ特性の設定とは独立に電位差を制御可能な装置を開発し、イオンエネルギーを変えながら酸化亜鉛膜を合成する装置を考案したことは評価できる。
一方、当初目標の15 Ω/□以下のシート抵抗を有する透明電極が現時点では得られておらず、開発した装置を用い亜鉛と酸素の組成比やバイアス電圧などを検討し当初の目標が達成されることを期待する。
金属ナノ粒子を用いた新光学材料およびデバイスの開発  筑波大学
コールジェームズB.
High accuracy computations of optical properties for metallic nanorod arrays have been carried out. This is to explore the principle of fluorescence enhancement and quenching of molecule, and surface plasmon couplings is examined in a comparison between two finite-difference time-domain (FDTD) analyses. For further computational extensions to three dimensions, the FDTD implementation is parallelized on a supercomputer and its performance is verified. 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも改良されたFDTD法である、auxiliary diffwrential equation (ADE-FDTD)法、及び recursive convolution (RC-FDTD)法を用いて、銀のナノロッドの列の光学特性が計算された点や、銀の表面プラズモン共鳴に関与する散乱ピークが、ナノロッドの列間隔の変化により、可視光領域で移動する様子が計算により示されている内容については評価できる。一方、金属ナノ微粒子配列の光散乱実験の解析における企業との共同研究や、準静的理論によるFDTDシミュレーション結果の解析等が述べられているが、さらに長期的な目標と技術課題を設定しての技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、高性能イメージセンサー分野等、社会への還元が期待されるので、新光学デバイス構造などの提案が望まれる。
高活性・抗菌性・化学的安定性を有する可視光応答型酸化タングステン光触媒の実用化 独立行政法人産業技術総合研究所
小西由也
独立行政法人産業技術総合研究所
小林悟
本課題の目標をほぼ達成し、可視光応答型酸化タングステン光触媒について、様々な金属元素のうちビスマスの添加によって、最も効果的に、実用化に求められるレベルで、耐アルカリ性を向上させつつ、抗菌性・抗かび性・セルフクリーニング性を十分に発現させられることを実証した。ビスマスをその水溶液中で酸化タングステンの表面に常温吸着させるという簡単な方法で効果的に添加できることも確認できた。またビスマスの添加による耐アルカリ性の向上については、その作用機構に関する基本的な知見も得ることができた。本課題の目標達成により製品化の基本条件が満たされた。今後は、最終製品化を実施する企業との連携により個別の製品化に向けた開発を進める段階となる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に酸化タングステン光触媒効果において、ビスマス金属を添加することによって耐アルカリ性および抗菌・抗カビ性の向上を実証したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、基礎的な技術課題はほぼ明らかにされているとともに特許出願の取組みもされており、優れた耐アルカリ性を有する抗菌・抗かび性、セルフクリーニング性を活かした内装建材等の具体的なターゲットを決めた商品化が望まれる。
今後は、前述の商品化とともに酸化タングステンに他の元素の添加により更なる性能の向上や他の分野への応用が期待される。
光応答型CNT分散液を用いた塗布型透明導電膜作製及び微細加工技術の開発 独立行政法人産業技術総合研究所
松澤洋子
独立行政法人産業技術総合研究所
池上敬一
現在、透明導電膜材料として使用されている酸化インジウムスズ(ITO)の抱える問題点(資源の国際的偏在、使用可能基板の制限)を解決するために、カーボンナノチューブ(CNT)を代替材料とした透明導電膜を開発する。特に、CNT導電膜のパターニング技術はレーザー加工、インクジェット、電子線加工など量産に適さない、かつ、基板の損傷を伴う手法によるほかない。申請者は、これまでに、光で分子構造が変化することで、CNT表面物性を制御し、水中で分散性を制御可能な分散剤を開発した。この光応答性分散剤を用いて作製したCNT分散液を用いてCNT薄膜をウエットプロセスにより作成し、マスク露光による簡便で基板を傷めない微細加工技術を確立する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高った。一方、透明導電膜として応用する上で電気抵抗の低減と、光透過率の向上が重要となるので改善方法の検討が必要と思われる。今後は、応用分野の絞り込みと、関連技術課題を明確にして次のステップに進めることが望ましい。
太陽電池用有機半導体の一気通貫合成を目指した高温高圧マイクロリアクターの開発 独立行政法人産業技術総合研究所
竹林良浩
独立行政法人産業技術総合研究所
池上敬一
本研究では、有機半導体色素の合成における多段反応を、一気通貫で進めることが可能な高温高圧マイクロリアクターの開発を目標とした。特に、流通型の反応装置において問題となる、難溶性中間体の送液供給や流路閉塞の問題を解決するため、中間体を高温で溶解したまま複数の反応を連続的に進められるよう、混合部や反応部の流路構造を設計するとともに、運転条件の最適化をおこなった。本装置を、キナクリドン色素の合成における高温環化から酸化反応への連続化に適用した結果、前後段の反応温度を300℃と120℃に設定すると、難溶性のジヒドロ中間体で流路が閉塞することなく、各反応が4分以内に完了し、目的色素が連続的に得られることを実証できた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、難溶性中間体を経たキナクリドン顔料を、高温高圧のマイクロリアクターで合成することに成功した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、キナクリドン以外の低分子半導体の一般合成に拡張できる可能性の検討が望まれる。今後は、従来のバッチプロセスとの優劣を明らかにし、キナクリドン以外の有機半導体合成に展開することが期待される。
金属シェルを有する高導電性ポリマーのフレキシブルパターニング 独立行政法人物質・材料研究機構
川喜多仁
独立行政法人物質・材料研究機構
中野義知
本研究開発では、柔らかい基材上に金属シェルを有する高導電性ポリマーのパターンの最小幅を数百から数十マイクロオーダーで形成することを目標とした。具体的には、上記材料を含むインクを調製し、ジェットディスペンサといった吐出式塗布装置を用い、ポリイミドフィルムなどの基材上に最小幅60マイクロメートル(平均値)までのパターン形成を実現することで目標を達成するとともに、次なる技術課題が安定したインクの吐出であることを明らかにした。今後は、材料や装置のメーカーとの連携を進めることで、技術移転を目指した研究開発のステップを加速し、市場規模の拡大・創出が期待されるフレキシブルエレクトロニクスの早期実現を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に金属シェル/高導電性ポリマーのフレキシブルパターニングを、銀シェルポリピロール粒子を含むインクを作製調製し、ジェットディスペンサーを用いて数百~数十マイクロメーターのパターニングを達成した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、線幅、導電率、速度等で最適化が必要であり、コスト面での更なる検討が望まれる。今後は、共同研究先を探索し、フレキシブルエレクトロニクスの発展に大きく貢献することが期待される。
大口径ガラス基盤の屈折率分布計測・検査装置の開発 宇都宮大学
喜入朋宏
フィルター等の光学ガラス板の製品検査を目的とした屈折率分布計測法を開発した。大サイズの基盤を高速に測定する。生産現場に導入することを考慮し、光源と検出器を近接させた省スペースな計測器を構築した。2次元ロンキー格子を用いた軸外し微分干渉法を考案し、得られたタルボ像にフーリエ変換解析を施すことで、ワンショット、ミリ秒オーダーで屈折率分布を計測できる。球面波を用いて精度確認実験を行った結果、目標の1/4λよりはるかに良い1/30λの精度を実証した。50mm 角のガラス板をサンプルとして計測実験をし、1/100,000 以上の屈折率変化を確認した。今回は、製品化への基礎技術を確立することができた。今後は、実用化に向けた開発を行う。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に反射型で大口径ガラス基盤の透過率分布を計測できる技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、生産現場の環境に耐えられる測定器としての実用化が望まれる。今後は、早急にプロトタイプを開発して、実用試験において評価されることが期待される。
新規光電磁気効果を示す酸化物磁性半導体ナノ粒子の開発 宇都宮大学
佐久間洋志
宇都宮大学
荘司弘樹
独自のガスフロースパッタ法により作製した酸化物磁性半導体ナノ粒子において、光・電気・磁気特性の間で大きな相互作用が観測された。本課題では、これらの特性を入力・出力とするセンサへ応用するために、光照射による磁気特性変化を30%まで増大すること、円偏光照射による磁気モーメントの反転を実現することを目標とした。目標の達成には至らなかったものの、作製条件によりバンドギャップ、飽和磁化、保磁力、結晶性が変化することを明らかにし、さらに性能指数を導入することによりセンサとして総合的に優れた作製条件を明らかにした。 当初目標とした成果が得られていない。中でもキャリア濃度の測定、光照射による磁気特性変化の点に関しては、技術的検討や評価が行われなかった。今後、技術移転へつなげるには、今回得られた成果を基にして研究開発内容を再検討することが必要である。
基板貼り合わせ法による清浄界面を利用した高温超伝導高周波発振素子の開発 宇都宮大学
八巻和宏
宇都宮大学
荘司弘樹
本研究課題では、自己組織化的に成長する高温超伝導体BSCCOウィスカーに着目し、ウィスカーそのものを空洞共振器とする高周波発振素子の開発に取り組んだ。表面劈開技術の改良により、BSCCOウィスカー表面近傍層におけるメサ形成技術を発展させ、微小メサ構造における多重ブランチ構造を確認した。更にメサの大面積化を進め、7 mWを超える電力の発振素子への入力に成功した。今後、性能向上に向けて更なる改良に取り組む。また、ウィスカー素子の参照系として単結晶試料を用いたメサ構造を作製し、低温特性に幾つかの新規知見を得ると共にself-flux法を改良してインターグロースのないウィスカーの成長法を新たに見出した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもデバイス特性の評価を行い、結晶成長、表面清浄化、メサ構造試料の作製技術等の基盤技術を開発した点は評価できる。一方、目標であるテラヘルツ波の発生を早く実現するために、主な問題点は抽出されているので、技術的な検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、特許の取得や、企業との共同研究について検討を進めることが望まれる。
超高電気伝導および熱伝導特性を発現する樹脂結合型Agミクロ粒子ペーストの開発 群馬大学
井上雅博
群馬大学
佐藤和浩
高い電気および熱輸送特性有するとともに低温硬化が可能な導電性ペーストを汎用のAgミクロフィラ(フレーク、不定形粒子など)を用いて開発することを目的とし、バインダ樹脂組成などの化学的因子に着目した配合制御により微細組織のコントロールを試みた。その結果、特定のウレタンとエポキシ樹脂のブレンド系バインダを用いた場合に10μΩcm以下の電気抵抗率を示す樹脂結合型導電性ペーストを作製することに成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に低温焼成型銀ミクロ粒子ペーストをウレタン系バインダーに銀フレークを添加した導電性ペーストで、ナノフィラーを用いることなく、150℃のキュア温度で10μΩcmと良好な低い電気抵抗率を実現することを見出したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、特許出願もされており垂直方向熱伝導率についての改善検討を進め、産学共同で具体的なペースト技術開発による実用化が望まれる。
今後は、ポストナノテク技術による導電性ペーストの新しい材料開発の方法論を提示しており、広範な分野への応用展開が期待される。
近赤外光でもトリガー可能な高効率光重合開始剤の開発 群馬大学
山路稔
群馬大学
小暮広行
紫外光の替わりに可視光や近赤外光など幅広い波長で作動可能な光重合開始剤が求められていたが、現在のところ近赤外光でも作動可能な光重合開始剤は知られていない。本研究では、非共鳴二光子吸収を可能にする光捕集アンテナシステムと、我々が開発した高収率ラジカル発生機構(カルボニル化合物のω解離機構)を一つの分子に組み込んだ光重合開始剤の開発を目標にした。これらの方針に従って化学合成された新規光重合開始剤は、近赤外光を吸収し、高効率でラジカルを発生する事により、効率良く重合を開始することが確認された。本製品を用いる事で、近赤外光を重合開始に用いる事(励起光の広帯域化)と重合の効率化が同時に可能になった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、非共鳴二光子吸収を可能にする光捕集アンテナシステムと高収率ラジカル発生機構とを一つの分子に組み込んだ光重合開始剤に関する技術は評価できる。一方、技術移転の観点からは、企業との連携でマイクロマシン用部品等の極小光造形などでの実用化が望まれる。今後は、非共鳴二光子吸収領域等の問題点を解決されると共に、光学反応の新たな解離反応をセールスポイントとしてニーズを発掘されることが期待される。
超広帯域アクロマティック軸対称波長板の開発 埼玉医科大学
若山俊隆
埼玉医科大学
菅原哲雄
本研究では、可視光からTHzまでの各波長帯域で同一原理からなる超広帯域アクロマティック軸対称波長板の開発を目的に研究開発を行った。今回、石英ガラスを用いて可視光領域で、テフロンを用いてTHz領域でアクロマティックな軸対称波長板を開発し、これらを偏光解析法から評価した。石英製の素子では加工面でわずかな誤差が生じていることが明らかになったが、それぞれの波長帯域でアクロマティックなベクトルビームの生成を確認し、当初の目標は95%以上で達成することができた。また、この軸対称波長板は当初の予想を上回る応用展開の可能性を持つことが明らかになったので、光学材料を変えて、新たな軸対称波長板を作製していく。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、可視からTHz領域において、ばらつき、位相分散があるものの、ほぼ目標とする超広帯域アクロマティック軸対称波長板の開発に成功していることは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、研究成果の応用展開に関しては、試作段階からさらに精度を向上させた製品作成の技術開発が望まれるとともに、現実的応用課題を見つけ素子開発の詳細な課題を見いだして、研究開発を進めることが望まれる。また、新たな特許出願も望まれる。当該製品は重要な光学素子であるため、安価に供給できれば社会還元が期待できるので、実用化を目指して研究開発が進展することが期待される。
新規グラフェン系透明導電膜の開発および剥離・転写技術 埼玉大学
白井肇
埼玉大学
大久保俊彦
現在高性能電子デバイスは主にガラス等の耐熱性基板上に低圧CVD法などにより、600℃以上の高温で形成されている。しかし軽量フレキシブル化の動向から、現在フィルム上の成膜が期待されている。しかしフィルムの耐熱性温度は300℃程度であることから、高性能電子デバイスの直接形成には限界がある。このため簡単なプロセス技術で機能性薄膜・デバイスを耐熱性基板からフィルム上への剥離・転写技術の開発を検討した。具体的には、可用性酸化グラフェンをテンプレートに利用した多結晶Si、透明導電膜ZnO:Al(AZO)薄膜および積層膜のフィルム上への剥離・転写できる技術を確立した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にプラズマCVD法やスパッタ法など比較的簡便な方法で可用性グラフェン(GO)をテンプレートとして利用し、多結晶Si、透明導電膜ZnO:Al(AZO)薄膜、積層膜などをフィルム上に剥離・転写する技術を確立するとともに太陽電池、TFT等の実デバイスでの優位性が確認できたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、残留GOの影響の確認や本成果の特許出願を推進し、今回の実デバイスでの検証結果に基づいて実用化に向けたさらなる検討が望まれる。
電子デバイスのフレキシブル化は先端的課題であり、今後本成果の実用化により成果が社会還元されることが期待される。
高効率シングルナノ粒子分級装置の開発 独立行政法人理化学研究所
折井孝彰
独立行政法人理化学研究所
井門孝治
気相中ナノ粒子の不安定性に起因するサイズ選別の不確実性の問題を解決することが実証されている平行平板型2層式DMAについて、デンドリマーおよびフラーレン等のシングルナノ領域の微小粒子の分級精度が従来型DMAと同等であること、および、分級効率が従来型DMAに比べて改善されることを確認した。また、新たに考案された構造を採用することにより、シングルナノ領域からサブミクロン領域の気相中ナノ粒子を1台の2層式DMAで分級可能とするサイズ選別領域の広帯域化の実現に目途がついた。以上より、平行平板型2層式DMAに想定されていた新しい機能は概ね実証されたと考える。今後は各分析精度の一層の向上を目指し改良を重ねると共に、これまで困難であったナノ粒子の分析実証例を増やし、分析装置としての有用性をアピールしていく。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、計画書に沿った研究が実施され、当初目標をほぼ達成したと認められる。さらに広帯域化など実用上重要な観点での技術が盛り込まれ企業化に向けた可能性も高まったことは評価できる。分級精度の向上という技術的課題とその原因が組み立て精度にあるという認識が得られており、次のステップに進めるための技術的課題が明確にされたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、不安定なナノ粒子への適用性の検討を含めて、より多くの試料での精度の検証を行い、実用化に進むことが望まれる。今後は、産学連携等の研究開発ステップにつながる可能性型か高まったと思われるので、ナノテクノロジーの基盤技術として社会貢献につながることが期待される。
フレキシブル有機デバイスの開発 千葉大学
工藤一浩
公益財団法人千葉県産業振興センター
横山直也
軽量、柔軟性、大面積プロセスといった特長を有する機能性有機材料を基盤とするフレキシブル有機デバイス(有機EL、有機トランジスタを代表とする光・電子素子、および柔軟性を有する圧力・視覚・バイオセンサ、情報タグシステムなど)の開発が今後の安全・安心、持続社会において必要不可欠である。このフレキシブル有機デバイス開発に必要な機能性有機材料の探索、熱プレス法やナノインプリント法を用いた低温・低環境負荷プロセス、有機薄膜トランジスタの構造制御による高性能化とフレキシブル情報タグやバイオセンサ応用へ向けた研究開発を行った。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に熱プレス法で有機トランジスタを作る技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、タグデバイスなどでの実用化が望まれる。今後は、変調率を増加させ、実用化されることが期待される。
金属微粒子分散ガラスの開発と工学的応用 千葉大学
松坂壮太
千葉大学
竹内延夫
本課題では、電圧印加を併用した固体イオン交換法を用いてガラス中に金属ナノ微粒子を添加・分散させることにより、ガラスの強度、光学特性、加工特性等を向上させ、工学的応用を図ることを目的として研究を実施した。まず、添加処理の際にガラスの受ける温度履歴を変化させることで、金属微粒子の存在形態を制御し、使用目的に応じて最適な微粒子分散形態を有するガラス材料の開発を行った。その結果、可視域では透明性を維持しながら、紫外域に大きな吸収を有するガラスの製作が可能となった。また、微粒子添加処理後に逆電圧印加を行うことによって、添加の際に生じるガラス基板の反りの抑制を試みた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもマイクロ流体デバイス基材として樹脂にない特徴を持つガラスに新しい可能性をもたらす技術として期待が大きい。
一方、技術移転の観点からは先ず確実に金属微粒子を制御できる加工条件の決定や可能な加工の種類や限界を明らかにするなど実用化に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、さらなる基礎的な研究の進展により新たな特性をもつガラスの製造・加工方法としての展開が期待される。
界面ナノ構造を用いた透明・黒・鏡状態を可逆的に発現できる省エネ調光窓 千葉大学
小林範久
千葉大学
鈴木明
建物への太陽光の入射強度を制御する調光素子は、防眩や室内空調の効率化の観点から欧米を中心に注目され、近年は年率20~30%の高い市場成長を遂げている。本研究開発では、素子の色を透明から鏡(ミラー)または黒へと可逆的に変化することができる新奇で革新的な光学素子において、素子特性の向上へ向けた材料構成の検討を行った。その結果、透明-ミラー間で4000回以上の繰返し安定性、5cm角素子での安定駆動を実現できた。従来技術より高品質安定性で優れているため実用化を目指した研究へと進展した。さらに、新たな発見としては、電圧駆動方法を工夫することで透明・鏡面・黒色だけではなく赤や青も発現できることを見出した。電着銀粒子の局在表面プラズモン共鳴が重要な役割を持つことを明らかにし、日本経済新聞報道(平24.12.25)やテレビ(めざましテレビ:フジテレビ平25.1.9、地球アステク:BSジャパン平25.1.17)で放映された。また、千葉大学優秀発明賞、国際会議IDW2012にてBest Paper Awardを受賞した。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に建物への太陽光の入射強度を制御する調光素子の特性を向上させる新たな材料の構成や、駆動方法の可能性を示した点は高く評価できる。一方、技術移転の観点からは、「安定駆動」を確実なものにするための技術的課題を解決していくことが望まれる。今後は、研究での成果を企業と協力して、迅速に実用化へ進むことをが期待される。
電気・光物性を利用した高速水素ガスセンシング薄膜材料の開発 東京理科大学
西尾圭史
東京理科大学
金山薫
ゾル-ゲル法により作製したPt/WO3薄膜の「電気・光物性」を利用した水素センサにより、大気中で水素濃度100ppmから爆発域である4%までの定量を可能とした。電気物性を利用したセンシングでは希薄濃度である100ppmの水素濃度で約1ケタの電気抵抗変化を実現し、従来の水素センサと比較して高い精度での定量を可能とした。また、光物性を利用したセンシングでは膜厚と測定温度を変えることで高濃度水素から希薄濃度水素までの定量を可能とすることを明らかにした。今後は電気・光物性を同時に測定することを可能としたシステムを構築することで、高速かつ高性能水素ガス検知センサの実現が期待できる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもセンサー薄膜プロセッシングの簡便性、ホトクロミック材料の電気抵抗と吸光度を複合的にセンシングシグナルとして検出し感応性を達成している点については評価できる。一方、ゾル-ゲル法により触媒金属微粒子分散型のWO3センシング膜製造が物性の再現性良く確立でき、「電気抵抗と吸光度」の複合測定によるセンシングデバイスの提案に繋ぐべく、技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、センサ回路設計やセンサプローブの形状設計などセンサデバイスのプロトタイプによる実証試験を視野に入れた体制の構築が望まれる。
超はっ水性自己修復型耐食性皮膜形成技術の開発 芝浦工業大学
石崎貴裕
芝浦工業大学
岡部健一
本研究では、層状複水酸化物(Layered double hydroxide: LDH)形成技術の確立、LDH層間へのはっ水性を有する分子の導入法、はっ水表面の形成法、はっ水性の自己修復能およびその表面の耐食性の評価に関する研究開発を行った。LDH形成技術では、濃度、pH、温度、処理時間の最適化を図り、LDHを形成するための条件を確立した。分子導入法の開発では、メチル基を有するラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸をLDHの層間に導入するためのイオン交換条件を明らかにした。はっ水表面の作製では、熱CVD法により100°以上の水滴接触角を示す表面を形成する技術を確立した。この表面に凹凸形状を付与することで接触角150°以上の超はっ水性表面を形成することに成功した。また、塩水中における耐食性を評価した結果、未処理の表面に比べて耐食性が大きく向上した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、従来の研究成果を基に、層状複水酸化物(LDH)形成技術の確立、LDH層間への自己修復能を有する撥水性分子の導入、撥水性を高める表面制御について研究し、概ね目標を達成していることは評価できる。一方、自己修復性、表面濡れ性について目標が達成されていないが、目標レベルと達成方法を明確にして、さらなる改善を実施することが必要と思われる。今後は、特許等の取得を考慮しつつ基礎技術を構築するとともに、実用化する企業側の課題絵おを明確にして、ニーズとのマッチングを図っていくことが望まれる。
化学マイクロアクチュエータの探索 芝浦工業大学
前田真吾
芝浦工業大学
片野陽子
本研究の目的は、申請者がこれまで研究を行ってきた周期的に体積振動を生成する自律駆動ゲルをマイクロ・ナノ成形加工技術との融合により、化学マイクロアクチュエータを実現しマイクロ流体素子に応用展開することを研究目的とする。生体システムでは、多段かつ並行的な多数の化学反応の連鎖により、情報処理からアクチュエーションまでが行われている。本研究は、そのような生命の仕組みを模倣したデバイスを目指し、電力を脱却した新原理の分子機械として、化学システムを基礎とした化学マイクロアクチュエータを実現し、その設計指針を確立するものである。
具体的には、化学振動反応であるBZ反応を刺激応答性高分子ゲルに組み込んだ自律駆動ゲルを用いてマイクロポンプとしての性能を検討した。ダイアフラム型ポンプを今回のゲルの仕様に合わせて設計し、流体駆動実験を行った。結果として、マイクロチャネル内の流体を0.02μL/minで往復運動させることが可能となり、流体拍動に成功した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、電力を全く使用しない化学マイクロアクチュエーターを実現するという当初の目的は達成されていることは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、今後は医療デバイスを目指した開発を計画しており、流量制御、同期制御などの具体的計画を立案し、技術確立と基礎データの蓄積を行うことが望まれる。今後は、産学共同研究にはまだ時期が早いと考えられるが、早い段階から薬学系の研究者と連携し、ターゲットを明確にして研究開発を進めることが期待される。
高純度単一カイラリティ半導体型単層カーボンナノチューブを用いた高感度塗布型赤外線受光素子の開発 首都大学東京
柳和宏
高純度半導体型単層カーボンナノチューブは、赤外線受光素子応用が十分に可能な大きな熱抵抗変化率(TCR値=-1.4 % K-1)を示すことを、申請者は近年明らかにした。本課題では、NEC社が開発してきたデバイス構造に、申請者が開発してきた高純度単一カイラリティ半導体型SWCNTを組み込むことで、室温で世界最高性能の感度を備え、且つ、塗布形式によるデバイス構築可能な赤外線受光素子の開発を行った。本研究によって、既存の酸化バナジウム(TCR値=-2.0 % K-1)より良好なTCR値(-2.6 % K-1)を示す高純度単一カイラリティ半導体型SWCNTボロメータの作成に成功した。またイオンゲルによる電気二重層による精密ドーピング制御により、TCR値を制御可能であることを明らかにした。また、ポリイミド上にパリレンによる熱断熱層を形成したプラスチック基板上に同ボロメータを形成した赤外線受光素子は、良好な受光性能を示し、温度分解能が50mKを備え、人間の体温の検出も非冷却の状態で可能であることを明らかにした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、塗布型の低温プロセスによって、既存の素子と同等の性能を示す赤外線受光素子を作製した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、半導体型単層カーボンナノチューブを用いた素子に期待している性能が十分に発揮されるよう、素子プロセス全般を再度見直しと詳細な改善を計る必要がある。今後は、イオンゲルによる精密ドーピング制御は不安定であると思われる。より安定した改善方法の開発と共に、従来素子を大きく上回る性能の素子開発を期待する。
感光波長可変機能を有する配位子型光酸発生剤の開発 中央大学
小玉晋太朗
中央大学
武田安弘
金属配位部位を有する光酸発生剤(配位子型光酸発生剤)の開発に成功した。この光酸発生剤は近紫外光に感光して酸を発生するが可視光にはほとんど感光しない。これに対して、上記光酸発生剤とルテニウム錯体とを錯形成させたところ、可視光吸収能が向上し可視光照射により酸が発生することが明らかとなった。従来の光酸発生剤で可視光に感光するものは未だ数少なく、また、そのような光酸発生剤の効率的な合成法も確立されていない。一方、今回開発した配位子型光酸発生剤は、金属との錯形成のみで可視領域へと感光波長を容易に変更できるため、本研究成果はさまざまな可視光対応型光酸発生剤を開発する新手法として展開できると期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、可視光領域で感光するとともに感光する光の波長を自在に変化できるような新しい光酸発生剤. (Photo Acid Generator PAG)として、中心金属をルテニウムとした新規な錯体を合成し、可視光照射で酸発生が確認できたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、配位子との組合せでルテニウムとパラジウムの2種を中心金属とする錯体が合成されたが、当初の他の金属種での錯形成にも広がれば、有用性はさらに高まると期待される。
今後は今回の基礎研究の成果を実用化すべく、産学連携により具体的な計画や方向性を明確にした取組みが期待される。
高反転磁界特性を持つ高分解能な磁気力顕微鏡探針技術の研究開発 中央大学
二本正昭
中央大学
武田安弘
磁気力顕微鏡(MFM)の高性能化を目的に、 市販MFM探針で得られる分解能の約3倍の高分解能(<7 nm)で1kOe以上の高磁化反転特性を持つMFM磁性探針の形成技術を検討した。
Si探針に高磁気異方性の磁性材料被覆を行って磁性探針を作製する手法を検討した。被覆膜として、(a)多層磁性膜、(b)規則合金薄膜、(c)準安定規則合金薄膜、および(d)従来から磁性探針作製に用いられてきたCo合金などの磁性膜を検討した。準安定規則合金膜のL11-CoPt膜被覆した探針で分解能7.7 nm, 反転磁界1.7 kOeを確認した。一連の磁性材料と探針特性の相関性を検討し、高分解能・高反転磁界特性を持つMFM磁性探針の開発指針を明らかにした。
期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に磁気力顕微鏡(MFM)の分解能を現状の約3倍の7 nm以下に高めるとともに1kOe以上の高磁界中でも安定に動作するMFM磁性探針の形成技術に関しての成果が顕著である。
一方、技術移転の観点からは探針の寿命の改善は必要であるが、作製の歩留まりも検討されており、研究成果の知的財産権化とMFM関連企業との産学連携による実用化が期待される。
磁性薄膜の記録密度は年々増加し、現在のMFMでは観察できない状況になりつつあり、今後本研究成果による磁気力顕微鏡(MFM)の高性能化により、さらなる磁性薄膜の記録密度の向上への貢献が期待される。
磁界励起活性化PVD法による水素透過防止膜の生成 電気通信大学
田村元紀
高温で水素を扱う燃料電池関連部材や核融合炉配管の、水素脆化による劣化を防止するために、水素透過を低減するセラミックス薄膜を提供することを目標とした。高温で化学的安定であり微細緻密構造の窒化膜が有効であり、ステンレス鋼基材の10-5以下の水素透過性能を示した。基材表面に安定に形成するために、磁界励起活性化PVD法の適用が効果的である。皮膜の化学組成・微細構造と水素透過挙動との関連性を体系的に把握し、水素透過防止機能の実用性をさらに明確にするには、基礎データの構築が重要であり、公的な研究開発支援制度を活用して、産学共同に向けた研究開発を継続する。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に高温で水素を扱う配管や装置の水素透過を低減するコーティング材料としてCrN膜とBN膜が高温で安定且つ水素透過率が充分低いことを見出すとともに磁界励起活性化PVD法による形成が効果的であることを見出し、顕著な成果が得られた。
一方、技術移転の観点からは特許も出願されており、皮膜の多層化効果、厚膜化の影響、基材と皮膜の界面層の効果など実用上把握すべき事項を明確にし、産学連携により燃料電池関連部材や核融合炉配管等に実用化されることが期待される。
今後は、本研究のさらなる進展と実用化により水素化社会の実現に貢献することが期待される。
マイクロ波を用いた無機化合物ナノ薄膜形成技術 東京工業大学
和田雄二
マイクロ波照射において金属あるいは金属化合物前駆体を含む反応溶液中の基板の迅速かつ選択的な局所加熱が起こり、その表面上に粒径の揃った無機化合物ナノ粒子を合成することが出来ることを示し、表面修飾技術あるいは薄膜形成技術として高い制御性を持つことを証明した。ポリイミド基板上において、銀析出化合物の粒子形状・薄膜形状や緻密度の制御を可能とする因子を明らかにし、基板上での無機化合物ナノ粒子の発生・成長機構を論じた。高温暴露に弱いプラスティック基板上に、低温で基板損傷なしで無機化合物ナノ薄膜形成する技術を開発した。ナノ薄膜構造の微細精密制御技術として、電子材料、医療材料製造プロセスへと広範囲な応用展開を得た。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、種々の条件で金属ナノ粒子発生を試みることにより、発生化学反応機構に関して、一定の知見が得られていることは評価できる。一方、未実施の研究項目があり、金属種や基板に関する一般性といった基本的情報がまだ得られていない。本研究計画で予定されていた基本項目の確認から地道にデータを積み上げることが必要と思われる。また、生成された微粒子の粒径分布はそれほど狭いわけではないので、粒径を決めている因子とその制御方法の解明が望まれる。今後は、医療分野で、現在連携を持っている企業との実用化開発を進めることと、厳密なサイズ制御を行う手法を開発することにより、光学素子等分野にも応用範囲を広げることが望まれる。
新しいキャリア注入法によるレアアースフリー非鉛高温PTCサーミスタの創製 東京工業大学
武田博明
東京工業大学
金古次雄
加熱検知素子やヒータ素子に使われる高温用PTCサーミスタ用材料は、チタン酸バリウムをベースに有害元素である鉛や希少資源であるレアアースを含むセラミックスである。本研究では、鉛の代わりにビスマス・ナトリウム(カリウム)を用い、レアアースの代りにアルカリ土類金属元素を添加することで、耐疲労特性を有するレアアースフリー非鉛高温PTCサーミスタ材料を創製した。同材料は動作温度が170℃まで到達しており、カーヒータ用途のPTCサーミスタとして有望である。また、ビスマス・カリウムを用いたセラミックスで強誘電特性や焦電特性の温度依存性を調べ、同材料で約300℃まで動作温度の向上が見込めることが分かった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にカルシウム添加によるキャリア発生機構およびキャリア注入プロセスを、詳細に調べている点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、目標である動作温度230℃を達成するための検討が必要と思われる。今後は、特許の出願と、実用化を促進するために企業との共同研究を検討することが望ましいと思われる。
大気圧プラズマによる円管内壁へのダイヤモンド状炭素膜合成 東京工業大学
大竹尚登
東京工業大学
三谷明男
近年、機械部品の耐摩耗保護膜としてDLC膜が注目され、油圧摺動部品などに用いられる金属円管内面へのDLC膜コーティングも需要が高まっている。従来の0.1~50 Paの高真空下で行われるプラズマCVD法では、アスペクト比が高い円管内面にDLC膜を合成することは困難であった。本研究は細径・高アスペクト比の金属管内面へのナノパルスプラズマCVDによるDLC膜成膜を目的として金属円管自身を真空容器とするナノパルスプラズマCVD装置を試作し、準大気圧(13300 Pa:1/10気圧)において内径40mmおよび14 mm、長さ300 mmのSUS304円管内面に、テトラメチルシランを原料とした中間層の上にDLCを成膜できることを明らかにした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初の目標のひとつは、内径20.0mm、長さ100mmのステンレス管およびガラス管内壁へのコーティングであったが、これより困難な内径14.0mm、長さ300mmのステンレス管内壁へのコーティングが実現し、目標を上回る成果が達成されたことは評価できる。具体的な応用を想定した研究開発であり、今後の研究でいくつかの実用上の特性が満たされれば社会還元に導かれるものと期待できる。一方、技術移転の観点からは、内径の小さい管へのコーティングの膜厚・膜質均一化に関する技術開発が望まれる。また、トライボロジー特性に加えて耐腐食性などの検討も行い、薬液配管などへの応用可能性をも見極めていくことが、望まれる。今後は、企業からの要請で、サンプルコートを実施しているようであり、産学共同開発のステージで、社会還元につながる実績にむすびつくことが期待される。
ペックマン色素の新規構造異性体の合成と有機エレクトロニクスへの応用展開 東京大学
坂本良太
東京大学
増位庄一
ペックマン色素は1882年に初めて合成された有機分子であるが、その熱的堅牢性、平面性、強吸収・強発光性は近年の有機エレクトロニクス用途に適しており、再注目を集めている。本研究開発では、合成化学的な追究として (1)未発見異性体の合成、(2)新規異性体の収率改善、(3)各異性体の作り分け、(4)新規誘導体の合成を、また有機エレクトロニクスへの応用に関する問題として、(5)未探索の化合物の半導体特性評価、(6)n型半導体特性の実現とアンバイポーラ特性の追究、(7)ホール移動度の改善を目指した。研究期間において、(2)新規異性体の収率改善(1%から40%へ)を達成し、またペックマン色素母骨格の修飾にも成功した。今後は(5)-(7)の進展に特に注力する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、各種のベックマン色素の合成法を確立したことについては評価できる。一方、有機エレクトロニクス材料としての性能評価に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、サンプル量の多い異性体を用い、ベックマン色素が有機エレクトロニクス材料として本質的に有望か否かを早急に検討されることが望まれる。
近赤外表面プラズモンバイオセンシングに向けた酸化物半導体材料の応用 東京大学
松井裕章
東京大学
増位庄一
本研究開発は、臨床診断や食品検査分野において重要な光学帯である近赤外領域において、酸化物半導体を基盤とした表面プラズモン共鳴による高感度なバイオセンシングを実証した。全反射減衰分光(ATR)計測を用い、血液中の血糖値診断の指標であるグルコース濃度の高感度検出を実施した。屈折率変化に基づく表面プラズモンセンシングの検出限界は、1.1×10-5を示し、この数値は、従来の金薄膜を用いた表面プラズモン共鳴デバイス(SPR)の検出感度に匹敵する数値である。本申請課題において、安価で低環境負荷な酸化物半導体材料に立脚して高感度なバイオセンシング応用を実現させ、酸化物半導体材料の新しい光学応用を実証した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、従来の金薄膜を用いた表面プラズモン共鳴デバイス(SPR)の検出感度に匹敵する感度を今回の酸化物半導体材料で得られることを実証した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは検出性能を向上させ10 mg/dLのグルコース検出濃度を達成すべく、レーザー光源の使用や薄膜の結晶性・電気特性の向上などの技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
今後は実用化に向けて、更なる検出限界の向上が望まれる。
携帯端末におけるタッチパネル用ガラス樹脂積層材の切削工具の開発 東京電機大学
松村隆
東京電機大学
中田英夫
携帯端末のタッチパネルなどに利用されるガラス─樹脂積層材料のエンドミルによる切抜き加工を対象とし、専用工具を開発して、その適用条件を明らかにした。ガラス層のエンドミル切削では、工具のすくい角を-45°にすると良好な仕上げ面が得られ、樹脂層の切削では正値のすくい角を有する切れ刃で回転数を150000rpmにすると溶着のない仕上げ面が得られる。この結果を踏まえ、ガラス層の切れ刃のすくい角を-45°、樹脂層のそれを10°として複合工具を開発し、15000rpmの回転数で送り速度150mm/minの切削条件で、高能率で良好な仕上げ面が得られることを明らかにした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ユニークな工具開発によって切削能率、仕上げ面粗さに関する目標を達成していることは、評価できる。ラミネート材料の同時切削工具は、材料による最適刃先設計値が異なるため、これまで実用化された例はないと思われるが、技術移転につながる研究成果が得られており評価できる。一方、技術移転の観点からは、従来の研削加工との比較によって優位性を明確にすべきである。また、工具寿命も同時に満たされるべきであり、改善するべき課題として、解決することが望まれる。今後は、単純な切削のみならず、種々の加工方法との複合化を考え、より高速度化、高能率化を目指すとことも、方向性の一つとして期待される。
パイ(π)電子不足系芳香族化合物へのトリフルオロメチル基導入反応の開発 東京農工大学
高須賀智子
我々は既に、銅試薬を用いたパイ(π)電子不足系芳香族化合物への簡便かつ効率的トリフルオロメチル(CF3)基導入法を開発している。しかし、環境に及ぼす銅の影響を考慮に入れ、入手および回収がより容易である銀や鉄試薬を用いて、パイ電子不足系芳香族化合物へのCF3基導入法を検討することを、本研究の目的に設定した。鉄試薬を用いた芳香族へのCF3基導入反応は、CF3IとFenton試薬を用いた反応の一例が知られているのみであり、未開拓の分野と言える。種々検討した結果、取扱い容易なRuppert-Prakash試薬(CF3TMS)とフッ化銀から生成できる[CF3Ag]に対して、鉄試薬とラジカル発生剤を作用させてCF3ラジカルを発生させ、ピリジノン骨格への導入を試みたところ、粗収率50%で3-CF3化ピリジノンが得られることが判明した。今後、さらに反応条件を最適化し、基質適用範囲を拡大する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、銅ではなく鉄触媒による反応を可能にした点については評価できる。一方、当初の目標であった、AgFの回避や反応の位置選択性の制御、ピリジン以外の基質への展開に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。重要な化合物群の合成に係る研究であり、今後は、CF3基の位置選択性の向上とピリジン以外の複素環への展開を検討されることが望まれる。
プラズモニック格子による超小型軸対称偏光子とその大規模アレイ化 東京農工大学
岩見健太郎
東京農工大学
松下文夫
ビーム断面内で軸対称の偏光分布を持つ軸対称偏光が注目を集めているが、可視光や紫外光で動作する小型の軸対称偏光子をつくる事は従来できなかった。申請者はこれまで、半導体微細加工技術で大量生産可能な超小型軸対称偏光素子を開発してきた。この偏光素子は貴金属ナノスリットで生じるプラズモン共鳴を利用したもので、大規模配列化に適しているため、MEMS産業に新たな応用をもたらす事が期待される。しかし、偏光素子の透過率が低い事が問題であった。そこで本事業では、スリットに替わる新たな構造を理論・数値計算および実験の面から探索し、より実用化に近い大規模並列軸対称偏光子アレイを製作する事を目的とした。
まず、数値計算的な観点からは、スリット状構造の替わりに高いアスペクト比を持つ金属フィン構造が高い透過率を有することを明らかにした。さらに、材質として従来の金に替えてアルミを用いると紫外域で動作する軸対称偏光子が実現できることがわかった。これらの素子をMEMSプロセスで実際に製作することに成功した。製作した構造体の透過率は計算値の70%程度であり、所定の性能を達成するためにさらなる開発が必要である。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもプラズモニクスを利用した光学素子の基本特性が得られた点は評価できる。一方、必要とするスペックに向けて、個々の問題点を技術的に検討することが必要と思われる。今後は、途中のプロセスを確認しながらデータを蓄積して、分析を進めることが望まれる。
金属ナノ粒子の超高精度液中ハンドリング技術の開発 東京理科大学
元祐昌廣
東京理科大学
平野智
本課題では、申請者が開発したマイクロ流路内微小懸濁物質の濃縮・分別技術を、金属ナノ粒子の高精度ハンドリング技術へ応用するための技術移転可能性について検証を行った。ナノ粒子ハンドリング用に開発したマイクロデバイスを用いることで、液中に分散したナノ粒子の局所濃度を、交流電界が誘起する流体力を駆使して3次元濃縮することができ、また同様に分別することが可能であることを示した。性能試験の結果、数十nmサイズの金属ナノ粒子を100倍以上に濃縮できることが明らかとなり、液中での高精度アライメントやパターニング、バイオセンサーへの応用が可能であることを示した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもナノ粒子のハンドリング技術および濃縮技術に関しては評価できる。一方、濃度の定量化に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、濃度場の可視化による定量化技術を完成されることが望まれる。
MEMS駆動用オンチップバッテリーの開発 法政大学
栗山一男
法政大学
中江博之
本研究は、申請者らが2002年に発表した(Appl.Phys.Lett.81,5066(2002)) 100×200ミクロン平方並列構造リチウム2次電池を単一化しようとするものであり、シリコン基板内の300ミクロン平方、深さ1.6ミクロンの溝に、『ポリシリコン負極 / ポリメタル酸メチル樹脂(PMMA)固体電解質 / LiMnO4正極』構造の単一構造電池を試作した。充電電流3 nA、放電電流10 pAに対し3.70 nAh/cm2の容量を有している。また、新しい正極材料としてLi8SiN4及びLi5SiN3を作成し、電池動作を確認した。本研究結果によってシリコンLSIに微小電池を埋め込むことによりMEMS(微小電気機械システム)駆動用電源の基礎を確立した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に新しい発想のマイクロ二次電池を開発し、ほぼ目標の性能が得られた点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、実用化のためのセルの発熱、寿命、出力などの性能向上を研究する必要がある。今後は、実用化のために必要な特性の向上と、用途の探索とともに、早期に特許を出願をすることが望まれる。
交互吸着膜の膜形成過程における電圧印加効果に関する研究 慶應義塾大学
白鳥世明
慶應義塾大学
竹内正雄
常温・常圧で簡便に機能性薄膜を作製する技術として「電圧印加交互吸着法」を構築した。交互吸着法は異なる電荷をもつ2種の溶液に基板を浸すことにより、クーロン力によって溶液中の物質を積層するウェットプロセスによるナノコーティング技術である。膜厚の制御性に優れた製膜方法であるが、時間がかかることが欠点であった。
そこで、本研究では、基材に電圧を印加する装置の自動化を行い、製膜時間を大幅に短縮した。また、特異的な膜構造の発現機構の解明を試みた。その結果、溶液の水素イオン濃度と印加電圧によって、膜の微細構造の制御可能を見出した。今後は、センサやロール型フィルム製造など実用的な観点での応用展開を目指したい。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも従来の水系ウェットプロセスによる交互吸着法に電圧印加可能な薄膜製造装置を作製し、高分子材料を選択し、pHと電界を変化させて成膜し、その膜厚制御、表面構造評価を行ったことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは基材の制限の克服、材料コスト、耐久性、応用検討など実用化に向けた技術検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
集積化可能な超高速・面発光グラフェン発光素子開発 慶應義塾大学
牧英之
慶應義塾大学
北吹順一
情報通信・処理を高速化しつつ低消費電力化を実現する技術として、本研究では、グラフェンを用いた超高速・面発光グラフェン発光素子を開発することを目的とする。本研究により、グラフェン発光の高速変調機構の解明を理論的・実験的に進めるとともに、素子構造の改善によって1GHz以上の高速化にも成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にグラフェンの発光素子としての研究展開は評価できる。一方、技術移転の観点からは、通信実験、発光素子と光導波路の接続など、周辺技術について研究を発展させる必要がある。今後は、現段階では検討項目が多すぎるように思われるので、全体の性能と共に優先順位を付けて、研究を進めることが望まれる。
正五角形を有する無痛性に優れた中空針の開発 東海大学
槌谷和義
東海大学
加藤博光
近年の健康志向などの高まりから、迅速に採血や薬剤の注入などが可能となる、痛みの少ないマイクロ針に対するニーズが高まっている。研究責任者は、内径25μm、外径50μmの極細管針を開発すると共に、生体適合性、痛み評価など客観的評価手法を進めてきた。本申請課題は痛み評価の視点から着想した五角形断面針に関するものである。本研究では、まず五角形断面針の機械的強度、痛み、生体適合性評価においては満足する結果となった。つぎに、五角形断面針創製の目的のため、 (1)無痛性が及ぶ針の生体接触面積を有し、(2)五角形より剛性は低いが穿刺に耐えられ、かつ創製しやすい四角形に注目し、創製を行った。同結果より、五角形断面針の創製に拡張可能であることが示唆された。今後は、異形状の断面に影響を与える装置形状の最適化を課題とする。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、課題通りの正五角形の中空針を作成することはできなかったが、RFマグネトロンスパッタリングから、ECRスパッタリングに変更して、異形(半分円で半分四角)状の中空針を作成したことは評価できる。一方、研究予定にあった痛みの評価は、試作された針による結果が示されておらず、実際にどの様な結果を得たかが不明となっているので明らかにすることが望まれる。また、スパッタで異形断面を作製することが本研究の肝の技術であることから、その点について製造技術のステップアップにつながる工夫を積み重ねることが必要と思われる。今後は、医学関係者とも共同の体制をとっており、医療側のニーズの取り込みは有利な状況といえるので、積極的な連携により開発を進めることが望まれる。
偏光選択則を利用した近接場チップ増強ラマン分光法の半導体アプリケーション応用 明治大学
小瀬村大亮
明治大学
下崎光明
トランジスタチャネル領域の詳細な物性評価が可能になれば、デバイスパフォーマンスの向上に直結する知見を提供できる。そのためには、評価技術の高空間分解能化が必須である。本課題ではこれを達成するために、光の回折限界を打ち破り、素子サイズを下回る空間分解能を達成可能な近接場チップ増強ラマン分光法(TERS: tip-enhanced Raman spectroscopy)の技術開発を行った。従来TERS技術の場合、半導体のTERS信号がバックグラウンドに埋もれてしまうという問題を包含していた。本研究では、ラマン偏光選択則の適用により所望の領域からの信号を効率的に取得する技術を開発して、TERSの半導体応用の実現化について検討した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、金属の蒸着条件、AFM観察条件の要素技術と理論検討を行い、目標を達成した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、高分解能測定の実施と、特許出願の準備が望まれる。今後は、本技術のユーザーとなる研究開発機関との連携により、技術移転が促進されることが期待される。
低接触熱抵抗材料としての高配向CNT膜の最適設計指針の提案 新潟大学
月山陽介
新潟大学
佐々木教真
電子デバイス分野における低接触熱抵抗材料の開発を行った。通常、固体接触における真実接触面積は非常に小さいため、相手面に追従可能な表面の開発が重要である。そこで、カーボンナノチューブ配向材料を用いて実質熱伝導率100W/mKを実現するような放熱シートの開発を目指した。この材料ではブラシのように相手面の粗さに追従して変形し、熱をより効率的に伝えることが可能となる。本課題では不明であった接触条件(面圧・表面粗さなど)の最適設計指針を定常熱流法により実験的に明らかにした。具体的には、放熱シートを挟む込む面の表面粗さが最も重要であり、鏡面よりも若干の粗さを付与した場合に最大で4倍近く熱を伝えることが可能になった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもカーボンナノチューブ配向材料を用いた本放熱シートでは実接触条件(面圧・表面粗さなど)のうち放熱シートを挟む込む面の表面粗さが最も重要であるとともに、本シートは359MPaの高接触圧力により座屈変形することを明らかにしたことは評価できる。
一方、電子デバイス分野における高放熱材料としては当初の目標の熱伝導率を実現可能な放熱シートの開発に向け両面試験片を用いた評価を進めるとともに、新しい発想でCNTの特長を引き出し高い熱伝導特性を発揮するシートの開発向けた技術検討が必要と思われる。
粒界型応力腐食割れ下限界の加速試験法開発 長岡技術科学大学
武藤睦治
長岡技術科学大学
品田正人
丸型接触片と高応力比により粒界き裂を選択的に形成する技術を確立し、SUS304鋭敏化材の粒界型応力腐食割れ(SCC)進展下限界が従来の10~20程度より低く、2~4程度であり、微小き裂効果を持つことを初めて実験的に示すことができた。粒界き裂は接触部外縁に存在することから、フレッティングによる多軸応力よりも、主応力と腐食によりき裂形成が促進されていることが明らかとなった。粒界型SCCの停留機構は、粒界腐食と応力で形成されたき裂内表面が酸化される事で腐食が抑制されるためであることが示された。本研究開発により、従来困難であった粒界SCCの下限界測定を、フレッティング疲労による粒界き裂形成により大幅に短縮することが可能となった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、SCC進展下限界が従来法で得られた値より、十倍程度低いことが実験的に初めて明らかにされたことは、学術的にきわめて意義が大きく評価に値する。フレッティング疲労の力学条件の精密測定に関して、当初予定していた測定法が困難であることが判明し、直接観察に変更したことが当初以上の成果につながったものと判断される。SCC進展下限界に及ぼす諸条件の影響を系統的に調べ、その機構を解明するという基礎・基盤研究で学術的意義が大きいといえる。一方、技術移転の観点からは、粒界SCC下限界の加速試験法に関して、き裂などの自動計測法の技術確立の検討を関連企業とさらなる連携をして推進し、材料設計や材料開発に結びつけることが望まれる。今後は、得られた研究成果を早期に特許申請につなげるとともに、原子力事故防止の観点からも、早期の対応が求められる課題であり、国内外の規格とも結びついた信頼性のある加速試験法として、早期に完成されることが期待される。
ホモ接合型OLED素子の開発とPM-OLEDディスプレイの高輝度化 長岡工業高等専門学校
皆川正寛
薄型、高コントラストといった特長を持つ有機EL(以下、OLED)素子。屋外での使用を想定した場合、さらなる高輝度化が不可欠である。しかし、OLEDには高電流で駆動すると発光効率が低下する(rolloff特性)といった課題が残されている。本申請課題では、このrolloff特性を改善するために、
 1.素子内部に電荷が蓄積しない(エネルギー準位差のない)素子
 2.素子への電荷注入バランスを制御できる素子
という2つのコンセプトに基づいたホモ接合型OLED素子の検討を行った。
従来素子の1,000mA/cm2時の効率は発光開始時の初期効率に対し76%まで低下した。これに対し、ホモ接合型OLEDでは発光効率の低下はほぼ見られず、rolloff特性は大幅に改善された。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に2インチサイズの有機ELディスプレイ(OLED)ディスプレイにおいて、300nitの輝度が達成され、ロールオフも改善された点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、素子構造の最適化と共に、実用化に向けて、安定性、再現性の評価が望まれる。高輝度、長寿命のOLEDの用途は、今後も広範囲にわたることが予想され、早期の実用化が期待される。
非鉛系新規圧電材料の創生 富山県立大学
唐木智明
富山県立大学
山本 肇
第3成分の添加により菱面晶系と正方晶系の相境界MPBの傾きを調整し、非鉛系圧電材料に温度安定性に優れた垂直なMPBを形成できた。その組成は0.075BaZrO3-0.915x(K,Na,Li)NbO3-0.01(Bi,Na)TiO3であり、キュリー温度が270度である。固相反応で合成した粉末を約200nmに粉砕し、2段階焼結することで密度約4.59g/cm3、粒径約2μmのセラミックス焼結体が得られた。また、1mol%CuOの添加と980度5時間の普通焼結で、試料密度(4.46g/cm3)と緻密化できた。しかしテープキャスティング法での粒子配向セラミックス作製については、水熱合成法で作製した板状NaNbO3テンプレートの融点が低かったため満足な焼結が達成されていない。本研究では、圧電常数d33約300pC/Nで、且つ温度安定性も優れた試料と製法知見が得られた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に第3成分の添加により菱面晶系と正方晶系の垂直な相境界(MPB)の温度安定性に優れた非鉛系圧電材料が得られたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、既に材料系企業との共同研究も進んでいるとともに特許出願されており、着実に実用化できるよう課題を整理抽出し的確な計画立案と推進が望まれる。
今後は、環境性能に優れた本非鉛系圧電材料を用いたデバイスが実用化されることが期待される。
トレハロース表面固定化による落雪促進表面の開発 富山高等専門学校
福田知博
富山高等専門学校
古河秀一郎
本研究は、冬季の湿雪降雪時に顕著な除去効果を発揮する表面を、高保水性かつ非凍結性のトレハロース固定化膜の調製により達成することを目的とした。現在までにモノメリック又はポリメリックな糖固定化表面調製法が確立された一方、確立が遅れたことにより調製膜の表面解析および着落雪挙動の測定解析は、一部のみの実施となった。しかしながら、水滴接触角や転落角の測定及び模擬雪の転落角測定評価から、モノメリックなトレハロース固定化表面で、着落雪挙動に対する一定の効果が確認された。今後は、未だ解析実施していない種々の表面による着落雪挙動評価や冬季屋外曝露実証試験を行い、目的に対して調製表面を最適化することで技術移転が達成できると考えている。 当初目標とした成果が得られていない。中でも、トレハロースの着落雪現象への効果の評価や表面解析データ、グラフト密度の制御などの技術的検討や評価が必要である。今後は、機能性コーティングとしての別の切り口の模索も含め長期的な基礎研究として継続されることが望まれる。
超精密研磨工程におけるオンマシン高精度研磨レート予測法の開発と高性能スラリーの試作 金沢工業大学
畝田道雄
金沢工業大学
成田武文
本課題では申請者による「研磨パッドアスペリティ評価法」と「研磨接触界面のスラリー流れ場評価法」をベースに、低炭素社会を実現するLED用の基板材料であるサファイアに加えて、低コストLEDとして期待されるGaN on Siの基板となるシリコンを対象に、CMP(Chemical Mechanical Polishing)による研磨レートを予測し得る手法を開発するとともに、スラリー組成も含めて高研磨レートが得られる条件の最適化を図った。その結果、現行の研磨レート予測に用いられる研磨速度と圧力の関係に、パッドアスペリティ情報とスラリー流れ場情報を付加することで、高精度研磨レート予測手法を確立することに成功したことから、当初目標をおおよそクリアできたと考えられる。一方、スラリー組成分析からスラリーの試作には至ったものの領域限定的に留まったため、包括的開発への展開が今後の課題として残されており、現在も鋭意検討中である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、研磨のインプロセス評価と予測が困難なシステムを改善し、高効率化に注目されている取り組みは評価できる。一方、スラリーの開発によって得られる研磨アスペリティの最適化と表面精度との関係ならびに精度の経時的変化を明確化して表現されることが必要と思われる。今後は、特許出願、論文発表も実施し、意図している産学連携ステージでの実用化開発に進むことが望まれる。
変調同期型熱プラズマによる医療用金属ドープ酸化物ナノ粒子の革新的大量生成手法の確立 金沢大学
田中康規
金沢大学
安川直樹
本研究の目的・目標は、申請者らが独自開発した「変動制御型誘導熱プラズマ+原料間歇導入手法」を、医療品・化粧品用酸化物ナノ粒子の大量生成への応用可能性を明らかにすることである。同手法は、原料を間歇的(周期断続的)に導入しそれに同期させて変調熱プラズマに電力投入することで高効率的に原料蒸発させ、さらにそれを急冷することで、ナノ粒子を気相中で大量生成する独自手法である。本申請課題研究では、この特長を最大限に活かし、おもに医療用酸化物ナノ粒子として、アルミドープ酸化チタンを対象とし、ナノ粒子の大量生成法を試験した。その結果、アルミドープ酸化チタンを20kWの入力電力に対して400 g/hの極めて高い生成率で生成できることが判明した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に「変動制御型誘導熱プラズマ+原料間歇導入手法」が、医療用AlドープTiO2ナノ粒子の大量製造法として有用であることが確認されたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、基本技術がある程度確立されており、ターゲットを絞りナノ粒子の粉体状・クリーム状など利用形態も考慮した技術検討を進め実用化が望まれる。
今後は、さらなる生成過程のメカニズム解明などをすすめ、機能性材料など他の分野などへの応用が期待される。
LSI標準プロセスによる超高速光検出器の低電圧動作化 金沢大学
丸山武男
金沢大学
奥田光一
次世代ネットワーク用超高速・小型光集積回路の開発が急がれている。これまでに、LSI汎用ラインを用いて波長850nm帯の光検出器を開発し、動作速度3GHz超を達成してきた。しかし、動作電圧は10V程度であり、LSIと集積には電圧が高いという問題があった。 そこで低電圧化のため、MOSトランジスタ(電圧制御素子)によるCMOS集積回路から、バイポーラトランジスタ(電流制御素子)とMOSトランジスタが融合できるBiCMOS集積回路への変更を試みた。しかしBiCMOSプロセスにおける光検出器で、高速動作が出来なかったため、CMOS回路+TIAへの変更を試みた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもチップを試作していることことは評価できる。一方、10GHzの低電圧動作を実現するためには、シリコン光検出器の設計を再度検討することが必要と思われる。今後は、目標の達成に向けたチップ全体の設計と計画を立てて研究されることが望まれる。
急峻勾配を有するナノ構造体の原子・分子分解能を実現するAFM手法の開発 金沢大学
淺川雅
金沢大学
寺本時靖
本研究では、急峻勾配を有するナノ構造体を非破壊観察するために、探針の垂直方向・水平方向に生じる相互作用力を同時に検出する新しい原子間力顕微鏡(AFM)を開発した。まず有限要素(FEM)シミュレーションでカンチレバー形状を最適化する方法を確立し、新規手法に適した力センサを効率的に開発することが可能となった。さらに水平方向に働く相互作用力の距離依存性を定量的に評価するために、高さ20 nmのステップ構造を用いた水平方向のフォースカーブ計測法を確立した。一方で、カンチレバーの高周波数振動モードを安定に励振できないという問題が生じたため、光熱励振に用いる新規カンチレバーを新たに開発することで解決した。これらの成果を基に、既設の自作AFM装置を改良することで新規AFM手法に基づく試作機を製作した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、 探針の垂直方向・水平方向に生じる相互作用力を同時に検出する新しい原子間力顕微鏡(AFM)の開発において、水平方向の最小力検出感度の大幅な向上とサブナノメートル分解能BT-AFM観察を目指すという当初の目標を達成していることは評価できる。特に、Torsional振動を高効率励振する光熱変換層を有するカンチレバーの開発という成果を得ていることは評価できる。 一方、技術移転の観点からは、装置における技術的問題点は確実に克服していっているように見えるが、垂直方向・水平方向、それぞれにモニターした情報をどのように画像的に処理し、それによりどのような情報を得るのかを明瞭にし、本手法の有効性を生かせる対象物、系を明確にして研究開発を進めることが望まれる。今後は計画されている知財権を早期に申請し、実用化に向けた企業との連携に発展すること期待される。
核酸を識別するためのNano-PALDI質量分析(MS)の開発 福井県立大学
平修
北陸先端科学技術大学院大学
松本健
核酸(DNA,RNA)は生命の設計図であり、医薬品にもなり得る材料である。その際、塩基配列、鎖長を簡便に理解することは重要であり必須の分析である。申請者は、ナノ微粒子と質量分析(MS)を組み合わせたNanoparticle-Assisted Laser Desorption/Ionization(Nano-PALDI) MSを用いて、核酸をイオン化すると、核酸内のリン酸基2個に対し、1個のFe2+イオンが付与される核酸特異的な事象を見出している。結果として、スペクトルを見るだけで核酸であること、また、Fe2+の付与数から塩基鎖長を推測することを可能とした。イオン化するナノ微粒子の最適化に成功し、鉄系、及び銀系のナノ微粒子が核酸、核酸塩基をイオン化することに適していることを見いだした。今後、疾病に関わる核酸配列に対して本法が応用できることを示していく。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、鉄のナノ粒子を用いたNano-PALDIによる核酸長鎖の簡便検出を可能とし、MSにより実証している点、また銀微粒子によりチミンや薬剤への応用性を見い出した技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、核酸配列の特定や高分子核酸鎖長のMS検出など克服すべき課題が多いが、応用展開されれば疾病に関する核酸配列情報、医薬の検出などに貢献出来ので実用化が望まれる。今後は、公的な研究支援制度に応募するようなので、企業との連携を見据えた提案が期待される。
高速作動が可能で安価な非破壊検査用テラヘルツ波ラインセンサーの開発 福井大学
谷正彦
福井大学
奥野信男
本課題ではチェレンコフ型位相整合ヘテロダイン検出による電気光学サンプリング(H-EOS)法を用いた非破壊検査用THz波ラインセンサー技術を開発することを目標とした。H-EOS検出において、 THz波の各周波数成分がサンプリングビーム軸に対して角度分解検出されることを利用して、時間遅延走査なしにTHz波スペクトルを分解検出できる手法を発案、実証した。CCDやCMOSカメラを用い、空間水平方向に周波数分布を検出し、空間垂直方向に試料の位置情報をリアルタイムに測定するTHz分光ラインセンサーを実現できる。今後は、周波数分解能の向上、信号対雑音比の改善を行い、薬の錠剤製造ラインなどへの実装を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に 新しいアイデアに基づく簡便な装置によりテラヘルツ波のラインセンサーを実証したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、未達成の目標について再検討をして計画を作成することが望まれる。今後は、大きな市場が期待できることから要素技術の研究を継続することが期待される。
大型リチウムイオン電池セパレータ用高耐熱ナノファイバーマットの開発 福井大学
小形信男
福井大学
奥野信男
エンプラを素材としたナノファイバーマットを作製し、大型リチウムイオン電池用の高耐熱性セパレータ用素材を開発する事が当初の目的であった。そこで、研究グループが自己開発した線状レーザ溶融静電紡糸装置を更に改良し、ナノファイバーの更なる細径化と、連続して幅広いナノファイバーマットを作製することを試みた。具体的には、既存装置の紡糸部分の加熱方法の改良と、新たに移動型捕集部を考案し組み合わせることで課題を解決し、セパレータ素材となる高耐熱性マットの開発することである。その結果、幅広いナノファイバーマットを得ようとした結果、レーザの出力不足に陥り、繊維径は当初の目標値(平均繊維径800nm以下)を達成できなかった。しかし、融点の低いポリ乳酸のナノファイバーマット作製は改良された装置でも十分可能であることが分かった。また、レーザ出力を高く出来れば当初目標を達成できる事が分かった。 当初目標とした成果が得られていない。中でも、第一の課題である繊維径の目標値が未達である点に関しては技術的検討や評価の実施が不十分であった。今後は、ナノファイバー実現のための装置の各種要件について事前に定量的に検討して研究を開始されることが望まれる。
ジャイロトロンの周波数変調と動的核偏極(DNP)によるNMR分光の感度向上 福井大学
出原敏孝
福井大学
青山文夫
本プロジェクトでは、高出力光源「ジャイロトロン」から出力される高出力テラヘルツ波を用いて極低温高磁場中の巨大な電子スピン分極を核スピンに移行する(動的核偏極(DNP))ことにより、固体NMR分光を1000倍以上高感度化する方法(DNP-NMR分光)を実現することを目的とする。このため、光源「ジャイロトロン」に新たな機能として周波数変調及び12時間に及ぶ長時間安定動作を実現し、NMR装置に装備することに成功した。かくして高性能化した「ジャイロトロン」を用いたDNP-NMR分光により、200MHz, 300MHz 及び600MHz プロトンNMR分光の感度をそれぞれ50倍、60倍及び30倍高めることに成功した。今後、世界最高周波数である700MHz DNP-NMR 分光を実現するための460GHzジャイロトロンの開発を進めている。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもジャイロトロンからのテラヘルツ波に周波数変調を加えることで、NMR分光の感度を向上できたことは評価できる。一方、ジャイロトロンの周波数変調と、出力の安定化に向けた具体的な指針が必要と思われる。今後は、課題を解決するために必要な基礎データを蓄積していくことが望まれる。
陽極酸化によるアルミニウムの装飾的表面加工におよぼす処理条件の影響 山梨県工業技術センター
勝又信行
山梨県工業技術センター
小松利安
フォトリソグラフィに陽極酸化と化学エッチングを組み合わせたアルミニウムの表面加工における陽極酸化時の浴温度と合金系が加工後の形状にあたえる影響について検討した。
その結果、浴温度が高くなるにつれ、酸化膜の形成速度は大きくなり、得られる形状にも影響することが明らかになった。また本技術が適用できる合金系について検討したところ、A1050とA5052の陽極酸化条件は、ほぼ同一の処理条件が適用できたが、A6061の陽極酸化条件は、浴電圧を高めに設定する必要があることが明らかになった。また、圧延材と焼なまし材の陽極酸化条件について検討したところ、大きな変更の必要はなかった。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、 アルミニウムの装飾加工に関し、陽極酸化の浴温度、および適合する合金、生産上ではレジスト膜の密着性が重要であることが明らかにされ、研究上の目標が達成されていることは評価できる。一方、新規な装飾加工によって画期的な製品に繋がる可能性はあるが、応用製品が明確でなく、消費者が新規性をどのように認めるのかについて追及が必要と思われる。今後は、デザイナー、クリエーターなどの協力を求め、消費者の反応を確認しつつ、携帯機器、雑貨、化粧品容器などへの展開を考慮することが望まれる。
ナノカーボンハイブリッドを用いた高効率フッ素貯蔵デバイスの研究開発 信州大学
服部義之
信州大学
宮坂秀明
本研究開発では、CNHのフッ素吸蔵・放出に伴う熱エネルギーを制御する要素技術を確立することにより、CNH単位重量あたり50 wt%のフッ素ガスを吸蔵し、純度99%以上で吸蔵フッ素を100%放出する貯蔵デバイスの開発を目指した。熱媒体によるCNHのハイブリッド化により、放出熱エネルギーを制御し、フッ素放出率を最大20%向上することに成功した。またフッ素吸蔵量は48 wt%、放出フッ素の純度は90%以上、放出量は80%を達成した。今後はフッ素ガスの利用分野を液晶・太陽電池パネル製造用エッチングガスに設定し、当該分野の要求仕様を満足するレベルの高純度フッ素であることを精密に解析し検証する。また連携予定企業とともに、実用化段階で要請される100 L/hのフッ素ガス供給が可能なシステムに向け、スケールアップに必要な要素技術を抽出する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に熱媒体によるカーボンナノホーン(CNH)のハイブリッド化により、放出熱エネルギーを制御し、フッ素ガスの貯蔵デバイスとしてフッ素放出率を最大20%向上することに成功したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、フッ素放出率のさらなる向上と放出フッ素ガスの純度の確認とともに、スケールアップのための熱媒体の選定等を行うとともに特許の出願が望まれる。
今後は半導体関連産業において次世代クリーニングガスとして期待されるフッ素ガスの貯蔵デバイスとしての実用化が望まれる。
高品質ゲル化を可能とする化粧品用オイルゲル化剤の新規製造法の確立 信州大学
英謙二
信州大学
小林円
本課題は、化粧品用オイルゲル化剤の安価な製造法を確立することである。申請者はすでにゲル化剤の基本構造を明らかにしたが、最適な分子設計と安価な製造法の確立には至っていなかった。実用化には製造コストを抑えることが必須であるため、最適な原料の選出及び最適な分子設計と安価な製造法の確立を目指した。
具体的には、まず出発原料としての最適アミノ酸を選定した。次にアミノ酸とウンデシレン酸との安価な反応法を模索した。出発原料としての最適アルキルアミンを選定し、安価な反応法を確立した。最適ポリジメチルシロキサンを選定し安価な反応法を確立した。
ゲル化剤は化粧品以外の他分野での利用も多いので、技術分野を広げて技術移転活動を行う努力をし、また低コスト化検討で機能性評価も進め、周辺特許の強化を行い、実用化を進める試みをした。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもオイルゲル化剤の安価な製造法を確立するため、出発原料として安価なD,L-アラニンが最適であること、ならびにウンデシレン酸との反応物とさらにアルキルアミンとの加熱のみによる無溶媒カップリング反応を確立している点は評価できる。
一方、アミノ酸とウンデシレン酸との反応に関しては、安価で安全性の高い材料を用いる反応法を確立し合成経路全体を確立するとともに用途にあわせたオイルゲル化性能評価などオイルゲル化剤の安価な製造法の確立に向けた技術検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
本課題は多くの分野に応用可能な研究開発であり、将来の展開が期待でき、今後早急な製造法の確立が望まれる。
滑水シートを作製するためのCNT複合プラスチック製金型の開発 長野工業高等専門学校
柳澤憲史
信州大学
中澤達夫
本研究は、従来のシリコンウエハ金型で作製していた傾斜角6~7°で水が滑る樹脂シート表面を樹脂製金型で作製することにより金型としての利便性を飛躍的に向上することを目指し、樹脂製金型の転写時の耐熱性の確認と、滑水シートの作製が実現可能であるかを確認することが目標であった。
CNTを複合したPTFE金型に非常に微細な溝を加工することが可能となり、金型としての加工性と利便性は飛躍的に向上した。さらに当初目標より広い幅の凹凸を滑水シートに付与することができ、そのために目標であった傾斜角を大きく上回る傾斜角3°で水が滑り始めるシート表面を作製することができた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にCNT複合プラスチック製金型(PTFE/CNT)を作製し、従来品に比べ傾斜角を半減し、水滴滑り速度が6倍と優れた滑水シートの作製に成功したことは評価できる。※ポリテトラフルオロエチレン (PTFE)
一方、技術移転の観点からは、特許出願を検討し既に共同開発先企業とともに、PTFE金型の耐熱性向上や大型化、シートの量産化、低コスト化等の検討を進め、積雪害防止シートなどでの実用化が望まれる。
今後は、積雪・着氷の防止、省エネルギー化などの社会貢献が期待され、本研究の進展が期待される。
加工と溶着を可能とするハイブリッド・レーザー加工機の開発 岐阜県工業技術研究所
小河廣茂
岐阜県工業技術研究所
戸崎康成
レーザーヘッドを摺動することにより、切断と接合(溶着)の両方の加工を行うハイブリッドレーザー加工機を開発した。具体的には、トレパニング加工において、熱影響層(HAZ)を小さくすることができ、溶着加工においては、素材表面に熱影響を及ぼさない溶着条件を探索し、CFRPとPC及びCFRPとPETの溶着試験を実施したところ、引張試験において接合部で破断すること無く、引張剪断荷重約80kgfを得た。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転に繋がる可能性は一定程度高まった。中でもレーザーヘッドの摺動により切断と接合(溶着)の両方の加工を可能とするハイブリッド・レーザー加工機の開発については評価できる。一方、基礎的な加工条件の検討について、もっと具体的で定量的な目標を定める必要がある。今後は、航空機や自動車関連企業のニーズを把握した上で切断と溶着の両面から実用化に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが望まれる。
ハイアスペクト形状の精密座標測定を可能とする回転振動型ハイアスペクトタッチプローブの開発 岐阜県工業技術研究所
西嶋隆
岐阜県工業技術研究所
戸崎康成
本開発は三次元測定機や機上測定に代表される、精密座標測定に用いるタッチプローブのハイアスペクト化に関する。タッチプローブは細長い形状程、測定可能な領域が増える一方、測定力によるプローブ撓みの影響のため、一般的にハイアスペクト化が困難である。本研究では、タッチプローブ先端にサブミクロン程度の径で円周運動する振動モードを生成し、接触による振動変化により高感度に接触を検出するハイアスペクト形状の超音波タッチプローブを開発した。具体的には、目標形状の先端径1.0mm、プローブ軸径0.7mm、長さ50mmのプローブ形状で、接触検出位置の繰り返し精度(2シグマ)が1.3マイクロメートルの結果を得た。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、回転形で高アスペクト比のタッチプローブを開発し、その繰りかえし精度が1.3μmと優れていることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、製品としての使いやすさ、コスト、センサー(PZT)の耐久性、様々な形状への適用可能性など実用性の観点からの評価が望まれる。また、特許出願の検討も望まれる。今後は、開発したプローブのフィールド試験を行うとともに、商品化を考えて企業と協力して開発を進めることが期待される。
切削一次加工および超音波ショットピーニング二次加工によるマグネシウム合金の高疲労強度化とメカニズム解明 岐阜大学
柿内利文
岐阜大学
安井秀夫
本研究では、構造用マグネシウム(Mg)合金AZ61に、適切な切削加工一次処理および超音波ショットピーニング(USP)二次処理による効率的な表面処理を施すことで、安定的に大きな疲労強度向上が得られる技術を確立し、強度向上メカニズムの解明および処理条件改良の方向性を明らかにすることを目的とした。条件の最適化により、未処理材で約130MPaであった107回寿命強度を、目標とした150MPaまで安定的に改善することに成功した。また、処理後に表面近傍の20~30μmに生成する加工層が疲労強度に悪影響を与えることを明らかにし、追加処理を施すことでさらに180~200MPaまでの安定的な強度向上が見込めることを示した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ショットピーニングの手法や条件を変化させ、組織観察も行うことで、疲労強度向上効果を確認していることは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、疲労強度向上効果は疲労強度の大きなばらつきを勘案すると、それほど大きくないこと、および疲労強度の目標値をクリアするための、加工表面層の研磨加工による除去は、加工コストを大きく向上させるので、工業的には問題があることが課題として挙げられるが、改善の指針も示されているので、さらなる研究の発展が望まれる。今後は、輸送機器製造業企業等を含めた連携によって、さらなる改善と信頼性の確保が期待される。
実金型における潤滑剤被膜厚さの計測技術に関する研究 岐阜大学
土屋能成
岐阜大学
馬場大輔
潤滑剤を均一に成膜するための噴霧条件を検証するために、金型キャビティの内壁に形成された熱間鍛造用潤滑被膜をX線CTスキャナーで計測する技術を探索した。すなわち被膜解像度に及ぼす潤滑剤の種類や型材質、造影剤の効果、金型形状の影響を調べた。その結果鉄やアルミニウム材では解像度が落ちるが、木材では数十μmの膜厚が計測できることを確認した。また3段に内径の異なる形状を持った木型の、円筒内面における潤滑被膜の計測では潤滑剤の不均一付着をとらえることができた。本手法による潤滑剤被膜の厚さ計測の可能性と限界を確認するとともに今後の展開に向けた課題を提示した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。金型における潤滑皮膜の厚みを測定するという相当に挑戦的な研究であり、木型での潤滑剤被膜測定は可能となり、又潤滑剤の噴霧条件、ノズルの改善の可能性が出てきた点は評価できる。一方、金属と木材の表面特性(吸油性、表面張力、流れ)は大きく異なるので、金属でのデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、金型寿命の向上によるコストダウン効果は大きいので、是非金型材料と潤滑剤物質のX線吸収係数の違いを補正する技術の確立が望まれる。
蛍光プローブを指向した新規な近赤外蛍光色素の開発 岐阜大学
窪田裕大
岐阜大学
馬場大輔
近赤外領域において強い蛍光および大きなストークスシフトを示す有機蛍光色素の開発を目指し、ホウ素錯体の合成を行った。これらの溶液中での吸収極大波長は485-537 nmであり、最大蛍光波長は498-687 nmであり、ストークスシフトは13-156 nmであり、量子収率は0.01-0.80であった。またこれらの色素は固体状態においても蛍光を示した。その最大蛍光波長は578-703 nmであり、量子収率は0.08-0.27であった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に最大蛍光波長が687nmかつストークスシフトが156 nmを有する新規の有機蛍光色素ピリミジン二核ホウ素錯体ホウ素錯体の合成に成功したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、色素骨格へ導入する置換基などの検討により、蛍光波長の長波長化や蛍光量子収率の向上と特許出願が望まれる。
今後、研究がさらに進展し医療や電子デバイス分野の進展への貢献が期待される。
加工損傷の定量評価に基づくCFRP高速ドリル穴あけ法の開発 岐阜大学
三宅卓志
岐阜大学
菱田隆行
顕微ラマン分光法を用いてドリルにより穴あけ加工したCFRPの穴周縁の炭素繊維に発生する応力を直接測定し、繊維の軸方向応力分布から加工損傷を定量的に評価する技術を開発した。この技術を用いて、CFRP加工穴周縁の加工損傷は、ドリル刃と繊維の相対角度やドリル入側と抜け側といった位置により異なることを明らかにするとともに、加工条件と加工損傷の関係についても定量的に明らかにすることができた。今後、定量評価した加工損傷と強度の関係を用いて、加工損傷の評価から、強度低下を引き起こさないドリル形状の開発、高速加工条件の設定やドリルの寿命判定などに活用していく予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、宇宙・航空機器ばかりでなく自動車においてもその使用が増大している、CFRP積層材のドリル穴あけ加工において、穴周縁の炭素繊維に発生する応力を直接測定し、繊維の軸方向応力分布から加工損傷を定量的に評価する技術を開発し、加工損傷の位置による違いや残留応力による加工への影響評価、ドリル加工条件と損傷の関係など基礎的データを得た点については評価できる。一方、技術移転の観点からは、詳細な加工影響データの定量的蓄積が可能となったが、技術的困難さも含め検討課題が明らかとなっているので、技術移転先となる企業との連携をもとに事業化を目指すことが望まれる。今後は、炭素繊維メーカ、ドリル業者に協力していただく体制で、事業化を視野に入れた開発を進めることが期待される。
CFRP製造に伴い発生する未利用短繊維の利用技術の開発 岐阜大学
大谷章夫
岐阜大学
菱田隆行
CFRP(炭素繊維強化プラスチック)の製造段階で発生する炭素繊維くずを有効利用するために、50mmを下回る短い繊維について、その有効利用法について検討した。単繊維を開繊し、これを樹脂中に均一分散させることにより、力学特性の向上を図るもので、長さ10mmの繊維とポリプロピレン樹脂の組合せの場合、繊維の開繊度合が高くなるにつれて、引張強度および衝撃強さが向上した。特に、衝撃強さへの寄与が大きいことが判明した。用いる開繊技術として、湿式および乾式の2とおりの開繊技術を開発し、開繊した繊維をプレス用板材と射出成形用材料へ適用する方法について検討を行った。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも開繊短繊維の使用による複合材の力学特性の向上は評価できる。一方、繊維長との関係、ばらつき(開繊・分散の不均一性)の解決が必要と思われる。今後は、今回得られた成果を基にして研究開発内容を再検討することが望まれる。
プラチナ炭素を触媒としたC-F及びC-H結合の効率的活性化 岐阜薬科大学
佐治木弘尚
公益財団法人名古屋産業科学研究所 中部TLO
大森茂嘉
プラチナ炭素(Pt/C)を触媒としてイソプロパノール(i-PrOH)中攪拌するのみで、水素ガスを全く使用せずに、芳香族フッ素化合物の脱フッ素化が進行すること、水と弱塩基の添加で反応の効率が格段に向上する事を見いだした。本研究期間の前半は、C-H結合やC-F結合の穏和で効率的な活性化法の開発を目的として、Pt/Cとi-PrOHを組合せた水(重水)を水素(重水素)源とした「芳香族フッ素化合物の簡便で選択的な脱フッ素化法の確立」と「水素ガスを使用しない重水素標識反応」における反応条件の最適化をそれぞれ詳細に検討し、効率的方法論として確立することができた。後半では、「水素ガスを使用しない重水素標識反応の適用性の検討」と、「芳香核還元反応」を中心に、実用的手法としての確立を目的として研究し、方法論として確立することが可能となりつつある。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に複雑なシステムを必要とせず、プラチナ炭素を触媒としてイソプロパノール中に水と弱塩基を添加し攪拌のみの簡便で環境調和型の反応条件で、水素ガスを全く使用せず効率的に芳香族フッ素化合物の脱フッ素化に成功したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは反応制御因子の解明、触媒効率および耐久性の向上などの技術検討の進展が望まれる。
今後は、産学連携により医薬品、機能性材料分野での実用化が期待される
超短パルスレーザーを用いたレーザーピーンフォーミングの微細部品への適用 静岡県工業技術研究所
鷺坂芳弘
レーザーピーンフォーミング(以下LPF)はパルスレーザーの誘起衝撃波を利用した板材成形法で、これまでにフェムト秒レーザーを用いたLPFによる薄板曲げ加工を開発した。本研究では本法の実用化を目指し、チタン薄板に対して、安価なピコ秒レーザーの適用、曲げ効率の向上および薄板曲げとレーザー切断の複合加工による微細化を試み、薄板微細部品製造の可能性を検証した。ピコ秒でも成形が可能なことを世界で初めて示せたが、成形性はフェムト秒に及ばなかった。ビームプロファイルを成形することで特定の照射条件で曲げ効率の向上が確認された。照射密度を上げて曲率半径をR0.35mmまで縮小化でき、さらに櫛形に切断した薄板を曲げ加工することで微細部品製造の可能性を示した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、超短パルスレーザを用いた積極的な加工法開発を行い、チタン加工への展開を見出したことは評価できる。一方、達成できなかった目標について具体的な解決策について検討するとともに、ナノ秒レーザとの比較においては、これまでの実験結果を反映させたシミュレーションを行って超短パルスレーザ加工の優位性を示す必要があると思われる。今後は、fsやpsレーザでの加工効率を目指すのではなく、これら超短パルスでなければできないことを見出すことに注力することが望まれる。
自己組織化マップを用いた樹脂特性の見える化技術の開発 静岡県工業技術研究所
田村克浩
公益財団法人静岡県産業振興財団
井上尚光
樹脂業界では、多種多様な樹脂材料が存在しており、同一樹脂材料にも多数のグレードが流通し、その統廃合も頻繁に行われている。このためノウハウの少ないユーザは、適切なグレードの選択が困難になっており、その選択のミスにより製品トラブルを生じている。これらを未然に防止するため、自己組織化マップ(SOM)を用い、樹脂グレードの物性を総合的に表示するマップ手法を確立し、このマップを用いることで、生産現場において効率的な樹脂選択ができることを確認した。また、web上での展開を考慮した仕様についてとりまとめた。今後は、本課題で確立した技術を用いてweb上での実用化を推進するとともに、同じ樹脂の異なるグレードを混合して得られる成形品物性とSOMによる推定物性との近似性について成形条件を含め引き続き検討する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも自己組織化マップ(SOM)を用い、樹脂グレードの物性を総合的に表示するマップ作成ソフトウエアを完成させている点は評価できる。
一方、技術移転にあたっては本手法により同種の樹脂の異なるグレードをブレンドすることで希望の物性を持つ樹脂が得られる理論的根拠を明確にするとともに、特許出願などが必要と思われる。
今回の技術成果は樹脂業界のみならず、将来的な先端複合材料の開発にも応用できる可能性があり、理論的な研究による物性予測精度の向上が望まれる。
カプセル分子と凝集剤を組み合わせた硝酸性イオン除去技術 静岡大学
近藤満
静岡大学
吉田典江
硝酸性イオンを含む工場廃水は往々にして汚泥や種々の妨害イオンを含んでいるため、従来の簡便な除去技術で対応できない、という問題があった。本研究プロジェクトでは、これまでにカプセル分子と凝集剤を組み合わせることで、汚泥や妨害イオンを含む廃水から硝酸イオンを優先的に沈殿除去する手法を見出してきた。本研究では、多種多様な廃水(例えば大量の汚泥や高濃度の妨害イオンを含む様な廃水)から、硝酸イオンを沈殿除去させる技術の確立を行った。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に汚泥、妨害イオン含む廃水から硝酸イオンを優先的沈殿除去に関しカプセル分子と凝集剤を組み合わせることで、多種多様の廃水を対象に検討を進めてきた結果、顕著な成果が得られている。
一方、技術移転の観点からは、本成果による特許出願申請なされるとともに、カプセル分子の添加方法等、技術的な課題を明確にし各種廃水からの硝酸性イオン除去技術として実用化が期待される。
本研究成果は、工場廃水や環境水から除去が困難有害な硝酸性イオンを簡便に除去する方法もので、社会還元されることが期待できる。今後は、既存技術と比較して処理性能や経済性の観点からも評価され実用化されることが期待される。
超分子ヒドロゲルを用いた未変性タンパク質の電気泳動 静岡大学
山中正道
静岡大学
吉田典江
本研究では、超分子ヒドロゲルを用いた未変性タンパク質の電気泳動法を開発した。タンパク質の機能解明は新薬開発をはじめ様々な分野における不可欠な課題である。したがって、任意のタンパク質を簡便に単離精製する技術は、新薬開発、疾病診断法等の発展に大きく寄与する。我々は、既に世界に先駆け、超分子ヒドロゲルを用いた変性タンパク質の電気泳動法の開発に成功している。本研究では、タンパク質試料を変性させることなく活性を保持したまま単離精製する技術として、超分子ヒドロゲル電気泳動法の確立を目的とした。
有機合成の手法により12種類の両親媒性分子ライブラリーを構築した。それらのゲル化能を評価した結果、両親媒性トリスウレア分子が、電気泳動に用いるTris-Glycine緩衝液のゲル化能を有することが明らかとなったため、グラムスケールでの大量合成を行った。この超分子ヒドロゲルを用い、未変性タンパク質の電気泳動を行い、タンパク質の等電点に依存し分離されることを明らかとした。また、電気泳動後のゲルを凍結後遠心分離することで、効率的にタンパク質が回収できることを明らかとした。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、超分子ヒドロゲルを見いだし、その効率的な合成反応、開発ゲルにより未変成タンパク質の電気泳動による分離、その分離パターンがタンパク質の等電点に依存することを明らかにした技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、タンパク質を未変成のまま分離分析可能な技術は有用性が高く、その成果は社会へ大きく還元されると考えられる。さらに、電気泳動以外の例えばクロマトグラム等の充填剤としての可能性もあり、実用化が望まれる。今後は、連携先企業を積極的に探し、技術移転や実用化に向けて行動されたい。企業と一緒に目標設定や研究計画策定を進めることで、実用化に向けた研究は一気に進むと期待される。
デバイス製造プロセスのための反応機構自動解析システムの開発と評価 静岡大学
高橋崇宏
静岡大学
橋詰俊彦
化学気相成長法(CVD)を対象とした反応機構自動解析システムの開発を行った。自動解析の高速化を目指して、より優れた最適化アルゴリズムを探索し、システムへの実装を行い、解析能力の評価を行った結果、実数値遺伝的アルゴリズムの分野で複数の有望な候補を見出すことができた。さらに、解析アルゴリズムの見直しと、ベクトル演算および並列演算への対応によって、計算速度を向上することができた。また、解析対象となるプロセスを増加してシステムを汎用化する観点からCFDシミュレーターとの連携を目指した。CFDシミュレーターの計算過程をモデル化することで実用的な計算時間でCFDシミュレーターを利用した解析が可能となった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にCVD装置の自動化に向けた反応機構の自動解析システムの高速化と、汎用化についての目標を達成した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、システムの更なる汎用化を目指して、多くの装置や計算条件に対応した数式モデルの作成が望まれる。今後は、実用化を進めるにあたり、半導体の製造メーカと協力することを検討することが期待される。
広帯域チューナブル中赤外面発光レーザの開発 静岡大学
石田明広
静岡大学
鈴木俊充
中赤外領域でチューナブルシングルモード動作するレーザの開発は、各種気体のppbオーダでの検出・分析、プラントでの化学反応制御、資源探査、環境計測や医療・生体応用上重要である。本研究ではPbSrS系外部共振器型量子井戸面発光レーザの開発をめざして、PbSrS系光励起型チューナブル面発光レーザの作製に取り組んできた。レーザ発光スペクトル測定システムの製作、多層膜凹面ミラーの作製とレーザ構造の作製を行ない、PbSrS/PbS多層膜ミラー上への高品位活性層の成長が行なえることを実証し、レーザのシングルモードチューナブル動作への見通しが立った。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも簡易構造で温度による発振波長の大きな変化が確認されたのは最終目標達成への第一歩を実現したと評価できる。一方、最終目標であるダブルヘテロ構造を実現し、温度や位置による発振波長の変化を確認することが必要である。今後は、ヘテロ構造成長は、難しい技術であるが、結晶技術の基本に立ち返り、格子のミスマッチ、材料の純度、装置の改良、成長条件などを追求することが期待される。
大容量・高速データ通信用低誘電率・高Qガラスセラミックス基板の研究開発 公益財団法人名古屋産業科学研究所
大里齊
名古屋工業大学
岩間紀男
ミリ波通信やプリクラッシュ・セーフティーシステムに求められている低誘電率・高品質係数 Q (Qf)・温度特性TCfのよい誘電体材料の研究開発を行った。コーディエライトの結晶化ガラスを作製したところ、誘電率4.7、Qfが200,000GHz以上、TCf -27 ppm/℃の優れた特性が得られた。しかし、変形やクラックが生じ、良好な結晶化ガラスが得られていない。本申請課題で、これらの変形やクラックを克服して、ミリ波誘電特性の優れた低誘電率(εr =6.0)・高Q (Qf = 100,000 GHz)・温度特性(TCf = ±20 ppm/℃)に優れたガラスセラミックス基板を作製した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にコーディエライト/インディエライトに対するルチル添加により低誘電率・高Qのガラスセラミックス作製に成功しいることは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、予定の特許出願を進めるとともにガラスセラミックスを用いたミリ波デバイス用LTCC基板などを実用化する際に課題となる金属導体との同時焼成などを共同研究を実施しているセラミックス素材企業やセラミックス部品製造企業と連携解決されることが望まれる。
今後、本研究成果の高品質な誘電体ガラスセラミックスはミリ波レーダーを応用したプリクラッシュ・セーフティーシステムや高速CPU用基板など広範な分野に応用されることが期待される。
プリンターを用いたフレキシブル基材上への加熱処理を要しないパターン作製技術の開発 あいち産業科学技術総合センター
吉元昭二
あいち産業科学技術総合センター
加藤和美
本研究は、銀を含む溶液をインクジェットプリンターのノズルから直接噴射することにより、基材上に銀パターンを作製することを目的として行った。銀を含む溶液を噴射できるように、市販の汎用インクジェットプリンターを改良し、その改良したプリンターを用いて実際に反応溶液をPET基材上に噴射し、銀パターンの作製を試みた。その結果、X線回折分析、電子顕微鏡による元素分析などの結果からインクジェットプリンターのノズルからの微小量の噴射反応溶液からでも銀が生成できていることが確認できた。また、改良したプリンターを用いることで、幅数百μm以下のアンテナ形状の銀パターンを作製することが可能であった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にアンテナパターンの試作まで行った点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、安定した導電性が得られるように課題の要因解析をすることが必要と思われる。今後の進め方については、他の方式と比べた優位性を明確にし、研究のアプローチについて検討を行うことが望まれる。
溶剤可溶ポリイミドによる耐熱性繊維の開発 あいち産業科学技術総合センター
金山賢治
あいち産業科学技術総合センター
山本周治
溶剤可溶化ブロック共重合ポリイミド(PI)液の粘度1,000mPa・sec以上、分子量2万以上、濃度10%以上、この液から製糸した繊維の熱分解温度(Td)500℃又はガラス転移温度(Tg)315℃以上、引張強度3.7(cN/dtex)以上を目標値として新規PI繊維の開発を目指した。その結果、粘度約80,000mPa・sec、分子量約19万、濃度10%、Td 425℃及びTg 295℃、引張強度約8cN/dtexであった。PI繊維の耐熱性は目標値に及ばなかったが、PI液と繊維の引張強度は目標値以上であった。実用化に向けた新規PI繊維の課題として、分子組成を見直し耐熱性を更に上げる必要がある。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ポリイミドの合成と紡糸、物性評価をそれなりの規模で行ない、ほぼ目標に近い結果を得たことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、耐熱性と分子量という相反する部分を突破する分子設計により目標をクリアすると共に特許を出願するなどでの実用化が望まれる。今後は、粘度が極めて高い点などの知見を積み重ねることで高性能化を図ることが期待される。
無縫製ニットを用いた立体形状を持つCFRP 製造技術の開発 あいち産業科学技術総合センター
田中利幸
あいち産業科学技術総合センター
池口達治
炭素繊維をナイロンウーリー加工糸でカバリングし、ニット基材CFRPを作成した。カバリング糸の量・編成時のゲージ等を検討することで、これまでに比べて強度の25%向上したニット基材CFRPを作成することができた。
帽子形状の金型のCADデータをもとに、無縫製編み機で使用可能な型紙データを作成し、カバリング炭素繊維を編成した。編成データの調整により、炭素繊維を折損なく立体形状に編成することができた。編成したカバリング炭素繊維の成型試験を行った結果、炭素繊維が破断することなく、立体形状の成型品を作成することができた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、基本技術である炭素繊維の縫製と立体形状への成型に関して具体的な関連企業の協力を得ながら取り組み、概ね期待通りの成果が得られたことは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、3次元形状を持つ製品の成型においては、不可避的に繊維の粗密や編成による繊維方向の複雑化を生じることから、力学的な解析を行いながら最適な成型手法となるよう取り組むことが、望まれる。今後は、協力企業と共同で、様々な複雑形状の製品に応用展開されることが期待される。
リン酸カルシウムによる食品用水中の微生物除去 あいち産業科学技術総合センター
近藤徹弥
あいち産業科学技術総合センター
西村美郎
食品用水中の細菌やウイルス等の微生物の存在は、異臭や異物の原因となるだけでなく感染症を引き起こすこともあるため、迅速かつ簡便で安価な微生物除去法が望まれている。本研究では、微生物 (細菌)を効果的に吸着除去するリン酸カルシウム (CAP)の開発を行った。その結果、CAPの調製法の違いにより、微生物除去能の異なる様々なCAPができることが分かった。微生物除去能と、タンパク質吸着能やCAPの結晶相との関連はみられなかった。微生物の除去原理は吸着であることが示唆された。CAPの微生物除去能は微生物の種類や環境によって変化するが、生理食塩水中に懸濁したEsherichia coli、Pseudomonas putida、Bacillus subtilisなどの細菌を99.9%以上除去するCAPを開発することができた。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、リン酸カルシウム(CAP)による迅速かつ簡便で安価な微生物除去技術を地域企業と連携して開発した成果が顕著である。一方、技術移転の観点からは、CAP表面の物理化学的特性の解明と特許を出願するなどでの実用化が期待される。今後は、吸着剤の再生の可否と共に飲料水の欠乏に悩む国への展開も検討されることが期待される。
不連続パターン切断プリプレグを用いた熱可塑CFRP部品の高精度成形 大同大学
平博仁
連続繊維の熱可塑性樹脂マトリックスCFRPは、強度特性は良いが3次元の成形性はよくない。細かい切り込みを入れたプリプレグを積層した板材を用いて、強度を劣化させることなく成形性の向上を目指す。
達成度
 綾織のプリプレグに対して、繊維の方向に45°繰り返し5mm中に3.5mmの切込を入れた線を2.5mmピッチで描いたプリプレグを積層したものは、3次元成形で大幅に成形性が向上した。強度は切込なしのものに対して低下度は小さい。ほぼ目標を達成したと考える。
今後の展望
 ティピカルな切込パターンに対して研究目標を満足する結果は得られたが、種々の切込パターンとの体系的な関係は得られておらず、最適化はなされていない。また強度は、もっと詳細に評価する必要がある。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に適当に入れた切込パターンに対して賦形性の向上、強度低下の関係を検討した基礎的研究として意義がある。一方、技術移転の観点からは、特性評価として、最終的な強度値だけでなく、応力-ひずみ曲線を示すことや、破断試験片の詳細な観察結果の積み上げ、成形性の向上効果を定性的から定量的にすること、およびその理論的な検討が必要と思われる。今後は、成形性の向上を、定性的だけでなく、定量的な評価(画像解析等)できるようにすることや理論的な検討が期待される。
水銀プローブ電極を用いた光容量分光計測による窒化物半導体ウエハのインラインプロセスでの高感度欠陥準位分析法の開発 中部大学
中野由崇
中部大学
杉山聰
超低損失の高周波パワーデバイス材料として期待される窒化物半導体(GaN)ウエハを対象に、電極形成プロセスが不要な水銀プローブ電極と欠陥準位の高感度分析ツールである光容量分光法を組み合わせて、インラインプロセスで使用可能な非侵襲な欠陥準位分析法を新たに開発することを目的とした。単色分光の照射条件や計測条件の最適化により、ウエハの任意の部位におけるキャリア濃度と欠陥準位の状態密度分布および深さ方向依存性を非侵襲で再現性良く測定できることを確認した。また、得られた欠陥準位情報を元に、特定の欠陥準位密度を短時間で測定できる手法を考案した。今後は、この短時間測定法を検証する予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に水銀プローブ電極を用いた光容量分光計測により、窒化物半導体ウエハ中のキャリア濃度と、欠陥準位密度とを測定できたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、欠陥分布の短時間測定法として、提案しているロングフィルターを用いる方法を早急に検討するが必要である。今後は、ウエハ上のキャリア分布と欠陥分布を、短時間でマッピングする装置として完成させることが望まれる。
スズ添加リン酸塩ガラス系透明伝導体を成膜したガラスの開発 中部大学
後藤英雄
中部大学
中津道憲
一酸化スズとリン酸の混合溶液に無水珪酸ナトリウムの添加により、400℃で90分の焼成条件により最小の抵抗率0.001Ωmを持つ耐湿性のある透明な膜を得た。しかし、この膜の特性は一酸化スズの原料に依存しており、珪酸ナトリウム無添加では一酸化スズの濃度が低いと固化せず濃度が高くなると固化するが抵抗率も大きくなった。異なる一酸化スズ原料では珪酸ナトリウムの添加で膜が固化しないことが確認された。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、透明導電材料の応用として着目したことと、作製プロセスの価格的優位性に対する視点で、基礎物性を明確にしつつあることは評価できる。 一方、実験で取り上げているパラメータに加え、未着手の条件が物性に影響していることも十分考えられる。さらに透明度と抵抗率を左右する因子も特定するための多くの基礎実験が必要であろう。まずは因子を特定したり、構造を明確にすることを優先し、伝導メカニズムとの因果関係を明らかにしていくことが必要と思われる。今後は、応用展開を急がず、先に物性制御を解決課題とすえることも一方策であり、系統的実験を効率よく実施することが望まれる。
高温耐酸化性を有するレアメタルフリー工具用材料の開発 独立行政法人産業技術総合研究所
下島康嗣
独立行政法人産業技術総合研究所
渡村信治
硬度と強度のバランスの良いWC-Co超硬合金は、産業界で広く利用されてきた。ところがその主成分であるタングステンやコバルトは、レアメタルであるため、カントリーリスク等により供給が不安定であり、早期の代替材料への転換が求められている。本開発では、代替材料の有力候補である炭化チタンと金属間化合物である鉄アルミ合金による新規サーメットの開発を目的に、高温耐酸化性であり、スローアウェイチップの利用に耐えうる硬度16GPa以上、抗折力2GPa以上を目標とした。主に混合粉砕条件の最適化を図ることで、硬度16.7GPa、抗折力2.0GPa、破壊靱性値7.0を達成した。また焼結雰囲気を制御することにより、硬度15.3GPa、抗折力1.9GPa、破壊靱性値9.3を達成した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、 当初の目標である、硬度16GPa以上、抗折力2GPa以上を達成し、レアメタルを使わない実用化可能なサーメットの製造方法を確立していることは評価できる。 さらに、破壊靱性値の測定も実施している。各種切削工具や金型分野において、技術移転は十分に可能と考えられる。一方、技術移転の観点からは、積極的に新たな特許出願を検討することが望まれる。また、技術移転を容易にする意味から、資源危機が起きなくても利用したくなる魅力(用途、性能、生産性、コストなど)を研究課題に追加することが望まれる。今後は、企業との連携を深めて、実用化を進めることが期待される。
高周波化に対応した低誘電損失コンポジット基板材料の開発 独立行政法人産業技術総合研究所
今井祐介
独立行政法人産業技術総合研究所
渡村信治
高周波誘電体デバイスとしての活用を意図した低誘電損失コンポジット基板材料の開発を行った。無機フィラーの形状や種類、マトリックス有機ポリマーの選択や複合化手法の最適化により、目標とした高周波誘電特性および力学・熱特性を満たし、一部目標を上回る特性を有するコンポジット材料の開発に成功した。今後、開発材料の適用先としてミリ波デバイスに焦点を定め、デバイス設計を行うことのできる研究機関や企業との連携を模索し、実用化を目指していく。また、材料系メーカ等との連携により、実用化に向けた材料特性の向上を図っていく。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に有機ポリマー/無機誘電体フィラーのコンポジット基板の開発において、誘電特性、力学特性、熱的特性において目標を達成できた点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、特許出願を準備中であり、早期の出願が望まれる。今後は、ミリ波デバイスへの応用を想定しているので、ミリ波帯での誘電特性評価を早急に進める必要がある。
プリンタブル包装樹脂フィルムへの大気圧プラズマ処理 豊橋技術科学大学
田上英人
豊橋技術科学大学
生田始
包装フィルムへの消費期限などの表示には印字が採用されることが多いが、インキの密着度が強くないため、商品流通過程におけるインキの脱落等の問題をかかえている。本研究では、包装フィルムの印字部分を大気圧メゾプラズマの一つであるグライディングアーク(GA)装置を用いて表面改質し、インキの密着度向上を図ることにより、他の製品との差別化をはかることを試みた。
一般的な処理方法であるコロナ放電とGAとで印字密着性を向上できるか確認したところ、GAを用いた処理のほうが印字の密着度が高いことが明らかとなり、樹脂表面処理に好適であることを確認し、印字の脱落が減少できることを明らかにした。今後の開発目標は、実際のラインに組み込んでの実用試験であり、現在試行中である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に一般的な処理方法であるコロナ放電に比べ大気圧メゾプラズマの一つであるグライディングアーク(GA)装置を用いて表面改質することにより印字の密着度が高く脱落が少ないことを明らかにしたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは既に現在企業と共同研究を実施中であり、処理効果を向上させるためのノズルの更なる改良及び、生産ラインへの装置搭載の適用可否検討を行っているが、大気圧メゾプラズマ処理の表面改質効果を表面分析などにより科学的根拠を明確にし進めることが望まれる。
有機蛍光色素-ポリマー多層構造型水分分析チップの開発 豊橋技術科学大学
加藤亮
豊橋技術科学大学
生田始
水分や湿気の混入により重大事故を引き起こしかねない潤滑油や精密機械加工用クーラント、エマルジョン燃料、バイオ燃料など油水混合媒質中の水分量を光学的な応答として測るための水分分析チップを開発した。チップは鎖状ポリマーと有機蛍光色素を含む多層構造の光負荷膜が塗布されたガラス基板にすることで水分に対する蛍光応答と高い耐久性を実現することができた。今後は本研究で開発されたチップを構成要素とした、水分量を現場で簡易に計測可能なモバイル型分光水分分析器の開発に着手する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、油中の水分量を光学的な応答により測定できるデバイスの開発は、新規性があり、評価できる。一方、デバイスの開発には、安定した膜を再現性良く作製する技術の確立や、膜の光応答に関する理論的検討などが重要となるので事前に検討が必要と思われる。今後は、油中の水分の検出をターゲットとするにあたり、競合技術(赤外分光、静電容量など)との比較を行い、適用分野を見極めて研究することが望まれる。
マイクロ流路一体型MEMSファブリペロータンパク質センサの開発 豊橋技術科学大学
高橋一浩
豊橋技術科学大学
冨田充
本研究では、フォトダイオード上にMEMS可動膜を形成し半導体基板とのギャップでファブリペロー干渉計を構成することによって、可動膜上に吸着させたタンパク質をストレス変化として検出するセンサの開発を行った。ファブリペローセンサ上にマクロ流路を一体化したフロー系抗原抗体反応・検出チップの構築を目指し、ファブリペローキャビティを形成する前に流路パターンを完成させ、流路とエッチングホールを分離させた構造を新たに考案した。また、BSA抗体と抗原をそれぞれ含む液の滴下を行い、BSA分子質量10fg程度を吸着させ、可動膜の機械的な損傷がないことを確認するとともに、表面応力の変化を確認した。さらにセンサのアレイ化を目指し、CMOSイメージセンサ回路との集積化を行った。センサへ入射する光強度を受光感度のよい635 nmの波長を用いた実験において、最大1.1 Vの出力電圧の変化が得られた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも流路とエッチングホールを分離させた構造を新たに考案した点は評価できる。一方、マイクロ流路と組み合わせたセンサでのタンパク質の検出を早期に評価することが必要と思われる。今後は、本センサ固有の特徴を理解し、魅力的な市場を提示していくことが望まれる。
超音速氷粒による透明樹脂レーザ溶着のための光吸収表面の創製 名古屋工業大学
早川伸哉
超音速氷粒(アイスブラスト)により透明樹脂板の表面に微細凹凸を形成することでレーザ光吸収率を20%向上させることを目標として、アイスブラスト処理した樹脂材料の表面状態の観察とレーザ光吸収率の測定を行った。数種類の樹脂材料に対して処理を試みたところ、表面に凹凸がわずかに形成されたがレーザ光吸収率の向上はみられなかった。そこで、ポリエステル樹脂の硬化過程を利用して通常よりも硬度が小さい材料に対する処理を行った結果、約10%のレーザ光吸収率の向上が達成された。したがって、通常の樹脂材料のレーザ光吸収率を向上させるには氷粒の硬度の増大が必要であるといえる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもアイスブラストによる表面加工によって透明樹脂のレーザ光吸収率が約20%まで増大させる目標に対して、ポリプロピレンやポリカーボネートでは達成しなかったが、効果途中のポリエステル樹脂では達成したことは評価できる。また、サンドブラスト併用法に関しても、プロセス効率や市場調査など改めて行う必要があると思われる。今後は、樹脂同士のレーザ照射によるラフな界面でのレーザ光吸収による熱溶融接着はバイオチップを始め種々の応用が広がっており、是非本技術されることが望まれる。
難加工材用傾斜機能砥石の長寿命化を目指した固体潤滑物質複合化技術の開発 名古屋工業大学
佐藤尚
名古屋工業大学
岩間紀男
本研究では、Cu-Diamond傾斜機能材料のCu母材中に固体潤滑粒子であるグラファイトを複合化することで、強度と耐摩耗性に優れた難加工材用Cu-Diamond傾斜機能砥石の開発を試みた。まず、基礎知見を得るために、グラファイト粒子体積分率が異なるCu-SiC傾斜機能材料を作製し、強度および耐摩耗性の改善に適したグラファイト粒子体積分率を検討した。その結果、グラファイト粒子を約2vol.%複合化することが傾斜機能材料の強度および耐摩耗性の改善に有効であることを明らかにした。その知見に基づいてCu-Diamond傾斜機能砥石を作製した結果、耐摩耗性が約3倍向上した砥石を製造することに成功した。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、遠心力混合粉末法を利用し、Cu金属母材中にSiC硬質粒子とグラファイト固体潤滑粒子の両方を傾斜分散させる複合化技術を確立し、耐摩耗性が向上し、摩擦係数が低減する効果を確認できたことは、評価できる。また、本研究成果に関する新規特許出願もなされている。一方、技術移転の観点からは、製品形状自由度の拡大により、砥石や軸受以外の製品への適用を目指した実用化が望まれる。今後は、傾斜機能複合材料の特性を活かした製品開発への応用展開が期待される。
竜巻型吸引ノズルの開発 名古屋工業大学
森西洋平
名古屋工業大学
岩間紀男
竜巻状気流を応用して遠隔からの集塵を効果的に行える竜巻型吸引ノズルの研究開発を行った。竜巻型吸引ノズルの実験装置を設計製作した後、ノズルの回転数と吸い込み流量を変化させてドライミストによる竜巻状気流の可視化実験を実施した。その結果として、まず今回実施した条件において最も安定に竜巻状気流が発生する条件を特定した。さらに、ノズル形状の最適化のため、ノズルを先細とした場合およびノズル内壁に粗さを与えた場合の実験を実施した。その結果、先細ノズルの導入は結果に改善を与えない事、ノズル内壁の粗さは竜巻状気流の安定化に効果がある事を確認した。現在、特許化を目指した検討を進めている。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、竜巻流を発生させるためのノズル形状の最適値を求めることを目標にしており、おおむね達成できていることは評価できる。一方、竜巻流の発生の評価としてドライアイスミストを使用しており、技術移転のためには、実際の金属やプラスチックの切り屑の吸引が可能であることを実証する必要と思われる。今後は、装置の改良を検討する前に、現状の装置でどの程度の吸引力が得られるかを、まず把握することが望まれる。
自己組織化を利用した低コストなフレキシブル紫外線センサ作製法の開発 名古屋工業大学
廣芝伸哉
名古屋工業大学
沖原理沙
本研究では、低温プロセスで大面積、高感度なフレキシブルデバイス作製の為に、自己組織化によるナノ構造作製を要素技術としての確立を目標とした。自己組織化材料を用いた、低温プロセスで規則正しいナノ配列構造作製に成功した。基板上に酸化物半導体ナノ結晶を配列させ、その応用例としてUVセンサを作製し評価を行った。その結果、良好なp-n特性を確認しUVセンサとして動作することも実証した。これらの成果報告後、企業側からUVセンサよりもアクチュエータに対する高いニーズが判明し、期間内にアクチュエータへ向けた試作も行った。今後は、企業等と共同で本研究の成果を用いたこれらのデバイス作製の要素技術開発をより進める予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも低温で自己組織化によるナノ構造体を作製できたことに関しては評価できる。
一方、技術移転の観点からは紫外線センサ、アクチュエーター、ガスセンサ、燃料電池等の広範な分野での実用化が想定されているが、必要とされる特性を明確にし、開発した手法が最も特徴が生かすことができる用途に絞った取り組みが望まれる。
安価簡便な手法でナノ構造体の製造法は多くの応用展開が考えら、今後の研究の進展が期待される。
c軸高配向シリコゲルマン酸ランタン多結晶体の作製とSOFC電解質への応用 名古屋工業大学
福田功一郎
名古屋工業大学
沖原理沙
サンドイッチ型のLaSi/La(Si,Ge)O/LaSi拡散対を加熱することで、クラック密度の低いc軸配向La9.33(Si5.22Ge0.78)O26多結晶体を作製した。これを特定成分の結晶混合粉体と共に熱処理することで、Si席の占有率を操作することに成功した。得られた結晶配向電解質に電極を施して、複素インピーダンス法で酸化物イオン伝導度を測定したところ、例えば600℃では熱処理前の約1.4倍の値(4.8×10-2S/cm)を達成した。さらにクラック密度の抑制にも成功し、高品質な円盤状結晶配向電解質を得た。燃料電池セルを作製して発電実験を行った。電極と電解質間の密着性を改善することで、さらなる発電性能の向上が期待できる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に固体酸化物形燃料電池(SOFC)の低温動作のための結晶内の気泡、クラックなどの欠陥の少ない新規電解質材料が得られたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは伝導メカニズム解明による更なる伝導度の向上やさらなる欠陥の低減を進め、SOFC用電解質としての実用化が望まれる。
今後は、SOFC関連の企業や開発研究者との連携により研究成果が実用化されることが期待される。
強誘電体臨界点を利用した高性能チューナブルキャパシタの開発 名古屋工業大学
岩田真
名古屋工業大学
長沼勝義
本研究は、電子回路で利用するチューナブルキャパシタ(以下TC と略す)材料の開発に関するものである。現在、分域壁の移動や超格子構造のような不均一構造に由来する性質が TC材料に利用されているが、経時変化や不安定性が問題となっている。申請者は、今までの研究から誘電体の電場誘起相転移が TC材料として利用できることをPb(Zn1/3Nb2/3)O3-PbTiO3 (PZN-PT) で実験的に見いだした。本研究では、PZN-PT材料特性の再評価及び新材料の探索を行った。PZN-PTの場下での誘電特性を明らかにした。臨界点に利用がチューナブル材料探索に有益な指針であることを示し、特許を申請した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもPb(Mg1/3Nb2/3)O3-PbTiO3 (PMN-PT)系材料によるチューナブルキャパシタの実用化は難しいものの、材料を探索する手法として、臨界点の挙動を調べることが有効であることを明らかにした点は評価できる。一方、多くの酸化物を対象に探索をやり直すための技術的検討やデータの積み上げが必要と思われる。今後は、今回の結果を踏まえて、計画の再検討を行い、より実現性の高い目標の設定が望まれる。
フッ素樹脂に対応した新規ナノフィラー材料の開発 名古屋市工業研究所
山中基資
名古屋市工業研究所
秋田重人
本研究では、フッ素樹脂に添加できるような新規ナノフィラー材料の開発を目指して、含フッ素シリカナノチューブ(F6-Tube)の合成を検討した。含フッ素シリカナノチューブの合成については、分子内にパーフルオロアルキル鎖を有する低分子ゲル化剤(PFG)を用い、ゲルが形成する繊維状構造体を鋳型として、シランカップリング剤をゾル-ゲル反応させることで得られることが分かっている。より高収率にシリカナノチューブを得るには、ゲル化能が高く、繊維径の小さいゲルを形成するPFGを用いることが望ましい。
今回合成したPFGのうち一つが100 nm程度のナノファイバーが絡み合うゲルを形成することを見出し、条件を最適化することでこれらPFGからF6-Tubeが収率良く得られることがわかった。得られたシリカナノチューブをフッ素樹脂と混合し、強度試験を行った。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にさまざまな条件検討を行うことで、当初の目標であるフッ素シリカナノチューブの作製に成功したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、フッ素シリカナノチューブの分散性を改善することにより、強度の向上による実用化が望まれる。
今後、フッ素シリカナノチューブによる基材の強度増加のみにとどまらず、電気絶縁性、熱伝導性、誘電特性などもフィラーの添加により制御やはっ水性、撥油性、などを生かした防汚剤など、さまざまな応用が期待される。
SrTiO3単結晶基板表面へのハーフステップ構造形成技術の開発 名古屋大学
山本剛久
薄膜成長用複合酸化物基板の表面ステップテラス構造において、テラス終端原子面種やステップテラス高さを制御できる技術開発の探索を行った。その結果、SrTiO3をモデル結晶として、Sr、Tiイオンの空孔形成エネルギーを添加物イオンにより調整したところ、 熱処理法により(001)表面にハーフステップ高さを有するステップテラス構造を構築することに成功した。空孔形成エネルギー制御という当初の目的について達成できた。ここで得られた技術は、SrTiO3に代表される各種複合酸化物結晶についても同様に展開できる基本的な技術であると考えている。今後、より再現性の高い技術として確立させるために、添加物の添加量、熱処理時の酸素分圧の最適化に取り組む。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に薄膜成長用基板のモデル結晶となるSrTiO3において、ハーフステップテラスの高さを制御する技術を開発したことに関しては評価できる。
一方、技術移転の観点からは、本方法で構築した表面構造が、平滑な結晶成長基板として有効であることを証明し酸化物ナノ薄膜の成長に実用化されることが望まれる。
薄膜成長用基板の構造制御技術が開発されたことは大きな成果であり、今後、エレクトロニクス分野や太陽光発電など幅広い分野への展開も大いに期待される。
キラルピロリン酸エステル触媒を用いる高選択的炭素―炭素結合形成反応の開発 岡山大学
坂倉彰
公益財団法人名古屋産業科学研究所 中部TLO
大森茂嘉
高活性キラルブレンステッド酸であるキラルBINOLピロリン酸エステルの合成法の検討を行い、塩化ジアリルリン酸を用いてBINOLをビスリン酸エステルへと変換した後、塩化オキサリルを用いて脱水環化させるのが最も効率的であることがわかった。この合成法により、3、3'位に様々な置換基を持つキラルBINOLピロリン酸エステルが合成できた。合成したピロリン酸エステルを用いて、アルジミンとo-クレゾールとのエナンチオ選択的Friedel-Crafts反応の検討を行ったところ、本触媒の活性はかなり高く、わずか1 mol%の触媒を用いるだけで対応する付加体を高収率かつ高エナンチオ選択的に得ることに成功した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、種々の芳香族置換基を導入したキラルなブレンステッド酸を合成し、その有用性を示したことは評価できる。一方、好適な反応条件の検討や反応機構の解明、触媒の構造活性相関に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、適用反応例のの拡張や、固体担持型触媒への展開を検討すると共に特許出願を踏まえた成果の発信に努めることが望まれる。
厚膜化によるらせん転位フリーSiC結晶成長 名古屋大学
原田俊太
名古屋大学
押谷克己
シリコンカーバイト(SiC)は次世代パワーデバイスへの応用が期待されている材料である。電力の変換を担うパワーデバイスの高効率化によってもたらされる省エネ効果は莫大であり、現状のSiをSiCに置き換えることにより、50%以上もの変換ロスを低減できるという試算もある。現在、市販されているSiC単結晶ウエハーは昇華法によって製造されているが、結晶中に転位をはじめとする多くの欠陥を含むため、期待されるパワーデバイス特性を、高い信頼性のもとで発揮できていないのが現状である。本研究課題では、溶液法における転位の変換を応用し、厚膜化により高品質SiC結晶を成長する方法を開発した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、らせん転位のない単結晶が得られたことは、優れた成果である。一方、技術移転の観点からは、結晶の評価とともに、電子デバイスに適した結晶を得るためにの電気的・光学的な評価も行うことが必要と思われる。今後は、電子デバイス用結晶の研究開発には、デバイスの専門家と共同で研究を進めることが望ましいと思われる。
多孔質構造を利用した樹脂/チタン接合界面の開発 名古屋大学
小橋眞
名古屋大学
押谷克己
本研究課題では、Ti基板上でTi粉末とB4C粉末間の燃焼合成反応を利用してオープンセル型多孔質TiB2,TiC粒子分散Ti合金を形成し、樹脂との強力な接合界面を創ることを目的とした。ホットプレスを用いて、Ti基板上で燃焼合成反応を行うと同時に加圧することにより、目標値であった厚さ数百ミクロンの多孔質層を形成し、さらに数mmまでの多孔質表面層を形成することにも成功した。多孔質層は、合成時の反応熱で基板と強固に接合し、界面には欠陥も見られなかった。この多孔質層の空隙部分にエポキシ樹脂を含浸させることにより、エポキシ樹脂との接合体を得ることに成功した。引張試験の結果、目標値であった母材破断が生じるレベルの接合強度を得た。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に燃焼合成反応により多孔質層を設けTiと樹脂を接合する新しい接合技術の可能性を見出したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、さらに接着強度の向上に向け樹脂や金属材料の種類の検討など応用展開の幅を広める検討が期待される。
また、タービンブレードなどへの本成果の適用に際しては、大型の被処理部材の処理方法などを最適化するとともに接合信頼性の確認など実用化への取り組みが必要と思われる。
定量測定可能な駆動機構付き摩擦力顕微鏡用マイクロプローブ 名古屋大学
福澤健二
名古屋大学
押谷克己
走査型プローブ顕微鏡の一種である摩擦力顕微鏡は、ナノメートル分解能で摩擦特性の分布を可視化でき、学術・産業両分野で広く用いられている。しかし、従来のプローブ(力センサ)では、その構造から定量測定が原理的に困難で、定性的な可視化法にとどまっていた。そこで、課題を克服する新しい構造のマイクロプローブを考案し原理確認に成功した。さらに、静電駆動機構を付与することで高速摺動時の動的測定も実現した。しかしながら、これまでのプローブ作製法は、制御性が乏しく実用化の障害となっていた。本研究では、本測定法の実用化をねらいに、制御性に優れかつ量産に適した作製法の確立を目的として、ドライエッチング(深堀り型反応性イオンエッチング(Deep-RIE))と絶縁膜埋め込み型シリコン(SOI: Silicon On Insulator)基板を組み合わせた新規な作製法を試み、構造形成と駆動動作の原理確認に成功した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもナノメートル分解能で定量測定が可能な摩擦力顕微鏡用マイクロプローブをドライエッチングプロセスにより一括形成し、測定の原理確認に成功したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、測定精度の従来法との比較検証やプローブの量産に適した製造法の検討など、実用化に向けた技術的検討やデータの積み上げなどの計画的な取組みが必要と思われる。今後は、これらのさらなる基礎的な研究を進め、成果が学会発表や特許出願され実用化されることが望まれる。
究極的な回折格子の開発 名古屋大学
海老塚昇
名古屋大学
虎澤研示
Birefringence Binary Bragg (3B) 回折格子は厚い矩形格子を構成する2種類の媒質のS偏光(TE波)とP偏光(TM波)の屈折率の差をそれぞれ調節することによって、直線偏光のみならず、自然偏光や円偏光に対しても最大100%の回折効率を達成することができる。本プログラムにおいて3B回折格子を実用化するために液晶の3B回折格子を試作した。設計値はS偏光の効率が0%、P偏光の効率が20~30%に対して、液晶が配向膜とは異なる方向に配向したために、S偏光の回折効率が最大24%、P偏光の回折効率が最大9%であった。また、透明電極に電圧を印可することにより、液晶と矩形格子の樹脂の屈折率がほぼ一致するために素通しの窓になることを確認した。今後も液晶や複屈折性結晶の3B回折格子の実用化研究を継続する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に試作したBirefringence Binary Bragg (3B) 回折格子を用いて、S偏光で24% (490nm)、P偏光で9% (430nm)という効率が得ていることは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、微細なL&Sで高アスペクト比加工などの検討を進め当初の目標を早急に達成するとともに、再現性、信頼性含めてより多くのデータを蓄積することが必要である。
航空機や衛星、天体望遠鏡などに加え光コンピューティングやディスプレーなど幅広い応用展開の可能性があり、今後の研究の進展が期待される。
ナノ粒子スラリー中の粒子分散状態評価技術及び装置の開発 法政大学
森隆昌
名古屋大学
山本鉱
ナノ粒子スラリーの浸透圧測定装置を試作した。ナノ粒子スラリーの浸透圧と動的光散乱で測定した平均粒子径との間には非常に良い相関があり、ナノ粒子スラリーの分散・凝集状態を、スラリーを希釈することなく評価出来ることが示された。測定の再現性は±3%、相関係数R=0.94以上と、いずれも目標値をクリアしており、十分な能力を有する評価装置の試作機を関せさせることが出来た。評価時間はサンプルによって差があるため一概には言えないが、短いものであれば数十分程度で評価可能で有り、装置仕様を工夫することで更なる短縮は可能であると考えられる。本研究で用いたナノ粒子スラリーは、既存のスラリー評価技術ではその分散・凝集状態の違いを識別することが困難であり、比較的濃厚なナノ粒子スラリーの分散・凝集状態を的確に評価できる唯一の技術になり得る可能性が示された。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、浸透圧とナノ粒子の粒径に良い相関が得られていることは評価できる。一方、有機系粒子については評価できなかったので、今後のデータの蓄積が必要である。今後は、分散ナノ粒子の粒径と分散液の浸透圧との関係をより正確に説明できるモデルの構築が望まれる。
平坦化CMPにおける高精度研磨レート分布推定技術の開発 名古屋大学
鈴木教和
名古屋大学
押谷克己
半導体製造における平坦化CMPの量産プロセスに対して、高精度研磨レート分布推定を実現する解析技術の開発を行った。研究責任者がこれまでに開発してきたCMP解析モデルをさらに発展させ、一般に量産工程で用いられるエアーバッグ方式の研磨ヘッド構造を考慮可能な解析モデルを新たに開発した。さらに、研磨機上で高速圧縮動作が可能な機上圧縮試験装置を開発し、その場測定による研磨パッドの非線形粘弾性同定技術を開発した。得られた非線形粘弾性パラメータを用いて高精度な研磨応力解析を行い、研磨レート分布の推定を実現した。さらに、研磨実験との比較により提案手法の検証を実施した。本開発技術により我が国のCMP技術の研究開発力強化に貢献することが期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、(1))機上圧縮試験装置の開発、(2)エアーバッグ方式の加圧ヘッド構造を考慮した解析モデルの開発、(3)研磨実験による解析精度の検証と修正などを主目標に対して、おおむね、目標を達成していることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、解析と実験データとの蓄積、誤差を低減させるための継続した研究が望まれる。今後は、企業との共同研究に進めて、本解析法が実際の研磨精度の向上につながる技術開発として発展することが期待される。
立方晶SiC溶液成長における双晶界面欠陥の完全抑制 名古屋大学
宇治原徹
名古屋大学
虎澤研示
これまでに、溶液法による立方晶SiC結晶成長において転位や積層欠陥の密度を極めて低くすることに成功してきた。本研究では、最後に残された欠陥である双晶界面欠陥の完全抑制技術を確立し、世界最高品質の立方晶SiCバルク結晶を実現することを目的とした。双晶の形成は、二種類の異なる方位をもつバリアントが同時に二次元核形成することよって生じる。我々は、特殊な方向へ優先的に成長させることで、片方のバリアントがもう片方のバリアントを覆うように成長することを見いだし、それを利用することで、双晶欠陥の抑制に成功した。今後は、さらなる高品質化を目指し、積層欠陥の低減を行うと共に、デバイス特性の評価を行う予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にステップフローの方向制御による立方晶の単一バリアントの成長技術の確立は重要である。実現したことは大きな成果として評価できる。
一方、技術移転の観点からは、表面モフォロジーの改善と膜厚方向の成長速度増加や結晶の大型化に向けた技術検討とともに実用化に向け電子デバイス用結晶として相応しい電気的・光学的特性評価が望まれる。
本研究は今後のパワーエレクトロニクスの発展に大いに寄与するものと思われ、応用展開されることが期待される。
実空間構造―電子構造同時観測による非経験的光電子分析システムの開発 名古屋大学
伊藤孝寛
名古屋大学
野崎彰子
本研究は、実空間試料表面形状のモニタリングによる試料位置合わせにより非経験的に本質的なスペクトル得ることを可能にするシステムを構築することを目標とする。本研究開発により、CCDカメラモニタとシンクロトロン光ー光電子分析レンズ集光を同期したシステムを構築し、位置精度<300μm2で実空間構造ー電子構造同時観測を実現した。今後、ビームライン立ち上げの遅延およびユーザー利用の開始に伴い延期を余儀なくされたマイクロスコープ系の導入、分光系の最適化を行うことで、位置精度<100μm2、エネルギー分解能10 meVで先端機能性材料における機能性と電子構造の本質的な関わりを明らかにできる系としてシステムをビルドアップしていく予定である。 概ね期待通りの成果がえられ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、光焦点位置―電子分析レンズ焦点位置―試料位置を正確に合わせる技術を開発したことは評価できる。一方、ビームラインの立ち上げの遅延とユーザ利用の開始を優先したため計画に遅れはある物の、その間を利用して万全の準備がされており、技術移転の観点からは、位置精度の更なる向上が期待される。今後は、粉末試料がチャージアップなしに計測できる技術は、大学のみならず民間企業の研究開発に大いに役立つと期待されており、実用化が期待される。
ランタノイド元素のXANESスペクトルに関する研究 名古屋大学
朝倉博行
名古屋大学
野崎彰子
機能性材料の原料として用いられることがあるランタノイド元素の構造解析手法の確立を目指して、ランタノイド元素のX線吸収スペクトルと局所構造に関する基礎的な検討を行った。ランタノイド元素の例として、ランタンおよびネオジムを含み、ランタンやネオジムの局所構造が異なる様々な複合酸化物を合成し、そのX線吸収スペクトルを測定したところ、特にX線吸収端近傍構造(XANES)と呼ばれる領域において、スペクトルに見られる特徴的なピークと局所構造がよい相関を示していることが明らかになった。 概ね期待通りの成果がえられ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、XANESスペクトルからランタノイド元素の局所構造を明らかできる可能性を示した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、広く実際に活用されるには更なる定量的な評価、どの程度の微少量での測定可能性などを明らかにすることが望まれる。今後は、応用展開され社会還元されることが期待される。
放射光研究拠点における高感度・化学状態選別型XAFS測定の実現 名古屋大学
吉田朋子
名古屋大学
野崎彰子
本研究開発では、X線吸収・励起後に現れる可視紫外発光を利用した軟X線領域高感度XAFS測定法の確立を目的とした。放射光ビームラインにX線励起発光測定システムを構築すると共に、入射X線エネルギーに対する発光強度の変化を測定し、ppmレベルの極微量成分を対象とするXAFS測定が可能となった。更に発光波長を弁別した詳細なXAFS測定を行うと共に、XAFS解析方法を構築することで、従来法で測定されたXAFSから化学状態を選別したスペクトルを抽出することにも成功した。開発したXAFS測定法や解析法を、今後は、触媒・電池・発光材料などの機能性材料や高分子、生体分子等の様々な材料の物性評価へと展開・応用していきたい。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に持ち運び容易な小型チャンバー型分光分析装置の開発、ppmレベルのナノ粒子測定の実現、機能性材料中の複数の構造種の定量的同定に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、シグナル強度、混合物のシグナルの分離、統計的処理などでの実用化が望まれる。今後は、企業と共同研究会等を多く開催し、本技術の優位性の紹介と更なる高度化を図ることにより、技術移転の実現が期待される。
鋳造プロセスによるMg合金への耐摩耗性皮膜のin-situ形成 三重県工業研究所
金森陽一
三重県工業研究所
米川 徹
Mg合金は耐食性や耐摩耗性が悪いことから、これらの機能が必要な部品については、表面処理が必須となっている。これらを低コストで向上させる技術が開発できれば、Mg合金の利用拡大が期待できる。そこで、本研究では、鋳造時に耐摩耗性に優れる皮膜を形成させることを目的とし、Mg合金溶湯とAl合金粉末を溶融・反応させ、皮膜を形成させる技術を検討した。具体的には、種々の条件で皮膜を作製し、組織観察、硬さ測定、EDSによる元素分析等を行い、皮膜形成に及ぼす金型温度、溶湯への加圧、粉末等の影響を明らかにした。また、皮膜の耐摩耗性の評価を行い、耐摩耗性に優れた皮膜を形成させるための最適条件等を明らかにした。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、多くの皮膜形成実験を行い、得られた耐摩耗性皮膜の成分や特性を評価し、役に立つ知見を得ていることは評価できる。一方、膜の均質性の確保のために、均一厚さの粉末層形成・保持技術の確立など、実用化に向けては、多くのデータの蓄積が必要と思われる。今後は、製品化に向けては、コストと特性のバランスが厳しく求められると考えられるので、耐摩耗性皮膜を適用する製品のイメージをより明確にして研究開発を進めることが望まれる。
AlNナノボイドエピタキシーを可能にする自然形成ナノマスクによるナノ凹凸基板の作製 三重大学
平松和政
三重大学
伊藤幸生
本グループでは、サファイア基板上のエピエピタキシー技術を用いてAlGaN系深紫外発光デバイスを開発しているが、光取り出し効率が5%と低いという問題がある。これ解決するためには、基板表面あるいは界面に波長サイズの凹凸構造(表面凹凸、界面ナノボイドなど)の導入が必要である。 本研究では、200nm以下の凹凸構造を有するサファイア基板(及びAlN/サファイア基板)を作製することを第1の目的とし、これにより上記基板上にAlNのエピタキシャル成長を実施し、基板/エピ界面に200nm以下のナノボイドを有する構造を作製すること(ナノボイドエピタキシー)をめざす。 ナノ凹凸基板の作製では、GaNナノ凹凸構造の作製ですでに実現している自然形成ナノマスクの手法を、サファイア基板等に新規に適用する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にサファイア基板にナノボイド構造を作成して成膜を実現した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、ナノボイド構造の基板上にエピタキシャル成長した膜の高品位化を図ることが望まれる。今後は、高品位結晶の実現により、企業の参画を促し、実用化に進むことが期待される。
窒化シリコン薄膜を介したシリコン基板上への単結晶窒化ガリウムの局所形成 滋賀県立大学
柳澤淳一
滋賀県立大学
安田昌司
単結晶窒化ガリウム(GaN)を有機金属気相成長(MOCVD)法で成長させるための基板として、シリコン(111)表面に窒化シリコン(SiNx)を10 nmの薄さで成膜し、Gaイオンを5、2、0.5 keVの順に照射した基板を作製した。MOCVDでGaNを成長させた結果、イオン照射領域に選択的にGaNが成長し、0.5 keV 単独の照射よりも5 keV や2 keV の照射も組み合わせたGaイオン照射部により良くGaNが成長することが確認できた。結晶性の評価は今後の課題として残ったものの、本結果をもとに、窒化物半導体成長用の基板技術として企業と共同で特許申請を行なった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも高機能電子デバイスとして期待される窒化ガリウム(GaN)デバイスを安価なSi 基板上に薄いシリコン窒化膜を形成しこれにガリウムイオンを照射によりGaNを形成するもので、多重イオン照射技術により局所的にGaNを成長させることができたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、新たに開発した多重イオン照射技術を窒化物半導体成長用の基板技術として企業と共同出願するも、本来のSi基板上への単結晶GaN形成に向けた技術検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
イオン液体接点ポテンショメータの研究開発とそのウエアラブル機器への応用 立命館大学
小西聡
立命館大学
近藤光行
ヒューマンインタフェースにおけるモーションキャプチャセンサとして、ポテンショメータは有望なものの1つであり、装着性向上、アレイ化対応等が期待されている。本研究は、従来ポテンショメータの抵抗皮膜部位にイオン液体を導入し、大幅な抵抗力低減、耐久性向上を図った。液体接点の実現に関しては、イオン液体のセンサ内部への導入、封止技術の向上に取り組んだ。MEMS、μTAS技術による接点部周辺の機構の小型化についても取り組んだ。さらに、ポリマー製材料やチューブ形状の採用による柔軟化を進め、装着素地への埋め込み、ワイヤレス化等ウエアラブル化への試行を実施し、センサの小型化を推進し、ウエアラブル機器への展開につなげる成果を挙げた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもセンサーの小型化、低抵抗化の技術に関しては評価できる。一方、センサーの信頼性の向上に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、実用化にはまだ多くの課題を残しているので、目標と課題を検討し研究を続行されることが望まれる。
1Gfpsを目指す撮像素子構造の探索 立命館大学
江藤剛治
立命館大学
近藤光行
現在、世界最高速のビデオカメラは研究責任者が開発した1,600万枚/秒のカメラである。画素数は16万5千画素、開口率は100%である。しかし計測性能に対する要望には上限がない。申請当初、シリコンデバイスで原理的に達成可能な撮影速度は10億枚/秒(時間分解能1ナノ秒)であると予測していた。究極の撮影速度に近づくに従い、実現は加速度的に難しくなる。本研究ではまず、1億枚/秒(時間分解能10ナノ秒)以上を達成することを目標にして、実用可能なコンパクトなシステム構造を探索することにした。
本研究の成果は以下の通りである。
(1) シリコンデバイスで原理的に10ピコ秒(当初の予想の1/100)を達成可能であることを示した。
(2) 当面、1億枚/秒を達成するための具体的な素子構造を示した。現在、設計中である。
期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に超高速度ビデオカメラ用素子への応用を目指して、明確な目標を設定し、具体的な課題解決方法を提案できた点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、ハイフレームレートと感度は相反するパレメーターであるが、両方を高める素子構造が望まれる。今後は、進めている高精細映像機器開発との融合により、医療をはじめ多様な分野に活用されることが期待される。
簡易3次元強化による航空機用CFRP機械接合継手の開発 立命館大学
日下貴之
立命館大学
服部華代
次世代旅客機への適用を目的として、CFRP機械接合継手の開発を行った。開発にあたっては、申請者らが開発した2次元繊維配向継手を基礎とし、申請者らが研究を進めてきた層間強化技術を応用することによって、簡易的な3次元繊維配向継手を実現することを目標とした。その際、申請者らが考案した2次元繊維配向継手の強度予測モデルをベースに、層間補強効果を加味した3次元繊維配向継手の強度予測モデルを構築した。その結果、初期破壊強度と最終破壊強度、および破壊起点と破壊モードを実用的な精度で予測できる強度予測モデルを開発することができた。また、開発した強度予測モデルを用いて、目的とする簡易3次元繊維配向継手を試作・評価し、面圧強度を大幅に改善できることを確認した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、2次元繊維配向CFRP機械接合継手を基礎として、3次元繊維配向継手の開発により継手強度の向上を目標に行った結果は、初期の目的をほぼ達成されていると評価できる。 一方、技術移転の観点からは、疲労強度などさらに信頼性を高める強度評価を実施することが、望まれる。今後は、航空業界への社会還元は難しい面もあるので、本技術の使用想定範囲を広げ、幅広く技術移転の路を模索されることが期待される。
チタン系材料の高機能化を目的としたネットワーク窒化相の創製 立命館大学
菊池将一
立命館大学
服部華代
本研究開発課題では、高硬さの窒化相をネットワーク状に形成させることにより、チタン系材料を高機能化させることを目標としている。そのため、2種類の処理温度(600、 700℃)で窒化プロセスを施した工業用純チタン粉末を種々の温度(800、 1000、 1200℃)で焼結することにより、ネットワーク窒化相の形成挙動について系統的な検討を加えた。その結果、窒化温度・焼結温度の増加に伴い、ネットワーク窒化相の割合が増加することを明らかとした。さらに、作製したサンプルに対して硬さ試験、引張試験、摩擦摩耗試験を実施した結果、700℃窒化材の硬さは著しく上昇したものの、強度特性、摩擦摩耗特性については600℃窒化材が良好な特性を示した。とくに、600℃窒化後に1000℃で焼結したサンプルが最も優れた特性を示し、諸特性改善に最適な処理条件を選定することができた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、窒化相のネットワーク創製を目指し、高硬度、高強度および耐摩耗性向上が達成されたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、学術的・工業的な両観点からネットワーク窒化相の有用性について、体系的にさらに検討することが望まれる。今後は、このプロセスが威力を発揮できる適用用途のさらなる検討や、他材料への適用を図ることが期待される。
画像焼付現象を克服した超高画質有機ELディスプレイの実現 龍谷大学
木村睦
龍谷大学
真部永地
有機ELディスプレイは、高画質・高精細・高速応答・極薄型の究極のディスプレイとして期待を集め、スマートフォンなどに搭載され始めている。しかし、固定パターンを長時間表示すると画像が焼付く致命的課題があるため、有機ELディスプレイの応用範囲が拡がっていない。研究責任者は、この課題を克服できる駆動方式「電流均一化パルス幅変調階調方式」を開発した。本研究では、このシーズを用いて超高精細小型ディスプレイと大型ディスプレイの設計・シミュレーションを行い、外注試作の後、その評価を行った。本実証により、有機ELディスプレイの新市場が大きく拓かれることが期待できる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、試作パネルで、電流の均一化機能と、パルス幅の変調階調機能の正常動作を確認して、有機ELパネルの表示をしている点は評価できる。一方、回路の配線抵抗やトランジスタ特性のばらつきの影響と、画像の焼付現象との関係を定量的に評価する必要があると思われる。今後は、コスト、歩留り、信頼性も含めて競合する他の手法との総合的な比較と検討が望まれる。
光照射による可逆的な結晶成長が誘起する超撥水性表面 龍谷大学
内田欣吾
龍谷大学
筒井長徳
光照射により表面の形状が可逆的に変化し、表面の濡れ性などの物性を可逆的に制御する系を見出している。これは、フォトクロミック化合物と呼ばれる光で可逆的に色の変わる色素の結晶成長と融解を利用するもので、世界初の現象である。今回は、紫外光の照射により表面に並び立つ本化合物の針状結晶のサイズをサブミクロンとし、かつ結晶の成長 方向を揃えることで、優れた 超撥水性や、光を特定の方向に反射しない無反射膜に有用なモスアイ効果を示す表面を得た。また、わずか15分で、ペタル効果を示す超撥水性表面に変化する条件も見出した。
今後の課題として、可視域への光散乱特性等を付与する他、フォトニック結晶作成への可能性を探る必要がある。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも光照射により表面形状が可逆的に変化し、優れた超撥水性やモスアイ効果を示す表面制御に関するプロセスを確立できたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、研究者らが想定するナノインプリント関連のプロセス技術への展開の際に求められる膜としての特性評価や克服すべき課題に向けた研究開発が進展し、実用化されることが望まれる。
フェムト秒レーザーによるナノ格子の大面積形成と微細化技術の開発 京都大学
宮崎健創
関西ティー・エル・オー株式会社
橋本和彦
本研究の目的は、大気中において誘電体の表面に間隔50-200 nmの均一なナノ格子を加工できるレーザープロセッシング法を開発することである。フェムト秒(fs)レーザーの2ビーム干渉で予備加工した表面を、表面プラズモン・ポラリトン(SPP)の周期近接場でダウンサイジングすることによって、格子間隔200 nm以下の完全ナノ格子が製作できることを実証すると共に、独自モデルによりナノ格子形成の物理過程を明らかにし、大断面積ナノ格子創製の基礎技術を開発した。また、この2ステップアブレーション法を用いて格子間隔50 nm以下への微細化を実現し、簡便なナノ格子創製基礎技術を確立した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に新たなナノ格子構造の形成過程や制御法、物理モデルに関する知見は、レーザー加工応用において極めて重要なものであり、高く評価できる。一方、技術移転の観点からは、実用化に向けて産業界の興味を高めるためには、ナノ格子構造形成の高速化、低コスト化の指針を示すことが望まれる。今後は、ナノインプリント応用のために、金型だけでなくインプリント材料も合わせて最適化されることが期待される。
リビングラジカル重合法とラジカルカップリング法を用いた「理想網目」構造ポリマーの合成と物性の解明 京都大学
中村泰之
京都大学
井内浤二
ポリマー鎖と架橋剤からなる網目構造ポリマーは様々な材料化が可能な高分子である。本研究では高度な重合制御法であるTERPと高効率ラジカルカップリング(RC)反応を用い、網目構造が均一で、高度な機能性が期待できる「理想網目」構造ポリマーの合成開発を行った。網目構造ポリマーの原料となるテレケリックポリマーをRC反応により合成する手法を確立し、これを用いた網目構造ポリマー合成を行った。本手法は「理想網目」構造ポリマー合成の基礎となるものである。今後の、網目構造ポリマーの合成法の最適化や得られる網目構造ポリマーの力学特性検討を通して機能性ポリマー材料開発が期待できる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、リビングラジカル重合法とラジカルカップリング反応を組合せて、「理想網目」構造のポリマーの合成法を確立したことについては評価できる。一方、合成した「理想網目」ポリマーの構造解析や特性評価に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、既存ポリマーとの力学特性など物性比較に基づく特許を出願されることが望まれる。
低真空で動作する近紫外域 逆光電子分光用の電子源の開発 京都大学
吉田弘幸
京都大学
荒川弘
安価で操作の容易な近紫外域逆光電子分光装置の市販化を目指して、低真空でも動作する電子源を開発し、その特性評価を行った。カソード材料を吟味し、これに合わせた新たな電子銃を開発することで、低真空でも電流が2 μA以上、エネルギー広がりが0.4 eV以下の極めて安定な電子線を得ることができた。実際のスペクトル観測では、カソードから黒体放射による光が出てバックグラウンドノイズとなる。そこで光検出器を適切に選択したり、遮光に工夫することで、カソードからの迷光の影響を抑え、最終的にスペクトル測定に成功した。全分解能は0.53 eVで、有機エレクトロニクス研究・開発への応用には十分な性能が得られた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に電子源を工夫することにより低真空で稼働する近紫外域の逆光電子分光装置を実現し、これにより簡便な有機半導体の評価装置の実用化の可能性が高まった点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、本装置の市場調査が必要と思われる。今後は、予定をしている特許の出願と、企業との連携による製品化が期待される。
超微細孔をもつ導電性チタニアナノ多孔質モノリス体の開発 京都大学
北田敦
京都大学
荒川弘
高比表面積と導電性を併せ持つチタニア多孔体を作製するために、マクロ・ナノ細孔の階層構造をもつ絶縁性二酸化チタン多孔性モノリス体を、450 ℃という従来の半分以下の低温で還元した。その結果、細孔構造と表面積を保持しての導電化に成功し、また、リチウムイオンの脱挿入が導電助剤を添加せずとも可能であることを示した。 当初目標とした成果が得られていない。中でも低温プロセスにより、マクロ・ナノ細孔の階層構造をもつチタン酸化物モノリス体の焼結を抑制した上で、導電性を付与することができたことは評価できる。しかしながら、電極や触媒担体として用いるためには炭素材料と同等以上の導電性の実現が達成できなかった。
今後は、本研究結果から低温プロセスにより焼結を抑制する技術の他の応用展開の可能性があり新たな研究課題に活用されることが望まれる。
実用的な銀微粒子プラズモン電場増強素子の製造 京都大学
川崎三津夫
京都大学
荒川弘
銀微粒子プラズモン電場増強素子を用いた高感度バイオメディカルセンサーの簡易製法の確立を目的として、既製品の数百倍の増強率の達成とセンサー素子の耐久性の向上を目指した研究開発を実施した。生体細胞・組織の蛍光・ラマン分光分析に本素子を利用するにあたっては、細胞培養などに常用される生理食塩水中、約40℃の温度で数日間以上は素子の機能劣化を抑制しなければならない。銀微粒子プラズモン基板と異方成長シリカ保護膜を組合わせた系は類稀な堅牢性を有するが、そこまでの化学的安定性は本開発前の段階で確保できなかった。この課題を解決するために、様々な観点から増強素子の構造最適化を試み、最終段階で上記実用目標を達成した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に高感度バイオメディカルセンサー素子の簡易製法の設計と、センサー素子の耐久性の向上が図られたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、性能の再現性確保において、素子表面の改質などの検討が望まれる。今後は、社会還元への期待度が高い研究であり、本研究により得られた知見の知財化と、協力企業との連携による素子の製品化が期待される。
共役カルバゾール部位を側鎖に有するポリアセチレンの合成と光電子機能 関西大学
三田文雄
関西大学
木村浩
ポリアセチレンをはじめとする共役高分子は、エレクトロルミネッセンス・フォトルミネッセンスなどの有用な特性を示す機能性材料として広く研究されている。側鎖に光電気機能性官能基を導入したポリアセチレンは、主鎖共役と側鎖機能性基のシナジスティック効果による新たな特性の発現が期待できる。本研究では、カルバゾール構造を有する新規アセチレンモノマーの合成と、ロジウム錯体触媒による重合、フェニルアセチレンとの共重合に成功した。さらに、生成置換ポリアセチレンの一次構造、分子量、分散比、蛍光発光などの基礎物性を明らかにすると共に、密度汎関数法による立体配座解析を実施して、幾何構造との相関について検討した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、カルバゾールを有するアセチレンモノマーを合成し、それを重合させた共役カルバゾール部位を側鎖にもつポリアセチレンのEL効率を明らかにしたことについては評価できる。一方、EL特性が劣る理由の明確化と特性改善に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、計算化学的手法による分子設計の根拠の明示や重合法と重合物の別用途への展開を検討されることが望まれる。
表面光活性化による接着剤を使わない有機-無機異種材料接合 京都大学
杉村博之
京都大学
中川雅之
接着剤を使わずに、プラスチックと無機材料を、プラスチックのガラス転移点以下の低温で接合する、有機-無機異種材料接合技術を開発した。プラスチック表面は、真空紫外光照射による表面改質により親水化し、無機材料表面は有機単分子膜被覆の後、その表面を同じく真空紫外光照射により親水化する。プラスチック表面・無機材料表面に、親水性官能基が高密度に存在する有機性表面を形成し、被接合表面間の化学親和性を高めることによって低温接合を実現した。まず、石英ガラス基板とシクロオレフィンポリマー(COP)薄膜を用いて原理確認実験を行い、さらに COPシートと金属(銅)の接合を行った。表面への接合層が極めて薄く、接合部品の形状・機能を損なうことが無しに接合できることが特徴である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に接着剤を用いずに無機材料と有機材料を接合する技術を当初のガラスに加え、金属材料での接合を開発したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは表面や界面状態の解析を通して、接合のメカニズムを解明するとともに様々な材料を対象としたデータの蓄積や接合の安定性などの検討を進め実用化されることが望まれる。今後は本技術の無機材料と有機材料および金属材料の接合はきわめて広範囲な利用が想定され実用化が大いに期待される。
超細径カメラを用いた冠動脈バイパス術の標的血管性状の評価と患者の予後予測法の確立 京都府立医科大学
夜久均
京都府立医科大学
羽室淳爾
本研究の目的は、超細径カメラ(外径2 mm)を開発・改善・完成させ、CABG手術において標的冠動脈の性状評価を直視下、病理学的に行い、その所見とグラフトの開存性、患者予後との関係を調べ、予後予測法の確立を目指し、またCABG術後のリスク回避のための併用内服治療決定のための指針を示すことである。現時点での達成度としては超細径カメラの開発・改善に留まり、まだ完成の域では無い。ただこの1年の改善はめざましく、今後の展開としては、さらに完成度を高くカメラを改善していくことと、さらに大きなハードルである臨床での使用である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、本研究の当初の目標である超細径カメラ(外径2mm)の開発・改善・完成のうちカメラの開発・改善までは目標どおり遂行された。ただ、本カメラを用いた臨床実験が一切行われておらず臨床応用の可能性が未知である。超細径カメラを完全とは言えないまでも開発した技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、今回開発した超細径カメラをどのようにして臨床応用に結び付けていくかが重要である。今回開発した超細径カメラ自体は優れた性能を有しており、CABG手術への応用を視野に含めた技術移転において有利な要素と成り得る。本研究に関わる新規特許出願の内容を明確に示し、研究成果の公開を十分に行い実用化が望まれる。今後は、臨床実験を行うことにより臨床応用の可能性を明確に示し、さらに技術移転に結びつけていくことが期待される。
ナノ細孔を持つキラルな多孔性配位高分子の創製と光学異性体分離剤への応用 関西大学
田中耕一
ビナフチル骨格を有するキラル有機配位子を合成し、これを銅および亜鉛イオンとの配位結合を利用して三次元細孔構造を有するキラル多孔性配位高分子を合成し、その結晶構造を明らかにした。これらのキラル多孔性配位高分子を充填した高速液体クロマトグラフ用のキラル分離カラムを調製し、スルホキシド誘導体およびβ-ラクタム化合物の光学異性体分離について検討した結果、種々の光学異性体について分離係数(α値)が2以上の効率を達成できた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、キラルな金属-有機構造体をシリカゲル担体へ担持させた、新しい分離剤が良好な分離効率と熱安定性を持つことを確認したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、ブロードピークの要因を解明すると共により多くのスルホキシド誘導体などでの適用も検討し、HPLC(分取用を含む)での実用化が望まれる。今後は、特許出願とガスクロへの展開も検討されることが期待される。
消失模型鋳造法のシミュレーション技術の開発 関西大学
丸山徹
関西大学
柴山耕三郎
鋳鉄の消失模型鋳造における発泡ポリスチレン模型の熱分解生成物とその温度との関係を明らかにするために、鋳鉄及び銅合金の消失模型鋳造の実験を行い、鋳造中に生成する熱分解ガス層の温度の測定と熱分解生成物の採取・分析を行った。その結果、鋳鉄の鋳造時には多量の褐色液化物とガスの発生が認められ、熱分解ガスの発生量は臨界値を超えると急激に増加することが明らかになった。また、その臨界値は2段階存在することが認められた。実験で得られたデータをもとに簡易シミュレーションを行った結果、熱分解ガスの大量発生に伴う溶湯充填速度の低下を再現することが可能となった。今後は熱分解ガス層中の伝熱解析技術の向上及び熱分解生成物の系外への排出機構の解明によってシミュレーションの精度が向上すると期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、実験データを基に簡易シミュレーションを行い、熱分解ガスの大量発生に伴う溶湯充填速度の低下を再現できたことは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、熱分解ガス層内の伝熱解析を実現するための支配因子を明らかにするための研究を行い、シミュレーション技術の実用化に向けた研究開発の発展が望まれる。今後は、シミュレーションの精度を向上し、消失模型用の鋳造ソフトを完成させることにより、鋳鉄の消失模型鋳造法の市場拡大に貢献することが期待される。
光反応性ポリマーを用いるユニバーサルコーティング材料の開発 大阪市立大学
佐藤絵理子
大阪市立大学
田中豪太郎
塗布後に濡れ性の制御が可能なユニバーサルコーティング材料の開発を目的とし、光反応性部位を有するポリマーの合成および光反応による物性制御について検討した。側鎖に光反応性部位を有する種々のビニルポリマーを合成し、ポリマーのガラス転移温度と体積変化率、および光反応性部位の濃度と光反応に伴う濡れ性変化の関係を明らかにした。光反応に伴い体積収縮するポリマー薄膜に光パターニングを行うと効果的な濡れ性制御が可能であること、パターン形状により濡れに異方性が発現することを見出し、当初目標をクリアした。薄膜状態での光反応時間の短縮化により実用化へ大きく前進すると期待される。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に光反応性部位を有するポリマーの合成及び光反応による物性制御を検討しポリアクリル酸エステルを主鎖骨格とし、エチレンオキシスペーサーを有するPAEMCが大きな膜厚変化と濡れ性変化を両立できるポリマーであることを明らかにし、親水性基を導入したポリマーと光反応雰囲気の選択により同一ポリマーの濡れ性変化を制御可能であることや表面の親水・疎水変換あるいは異方的な濡れ性の発現が可能であることを見出した成果が顕著である。
一方、技術移転の観点からは、特許出願や本研究において見出された知見を幅広く適用した実施例の充実を行い、産学連携体制を確立し実用化されることが期待される。
材料の表面改質はあらゆる産業において利用価値が高く、多方面に応用展開されることが期待される。
マイクロ波-スピン直接変換技術を利用した純スピン流論理演算素子の創成 大阪大学
安藤裕一郎
大阪大学
宮川勝彦
本研究ではマイクロ波―スピン流直接変換技術を利用した純スピン流論理演算素子の創成を目指し、(1)高効率スピン注入実現の為の設計指針の構築、(2)静磁場結合を用いた強磁性共鳴条件の変調を行った。その結果、高効率スピンポンピングには均一な磁化特性を実現することが不可欠であることが明らかとなった。また微小強磁性体を複数配置した素子を作製し、スピンポンピングを行った処、静磁場結合に起因した強磁性共鳴の変調を観測することに成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に論理演算素子化のための要素技術の確立について、磁界の大小による電圧信号が得られている点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、表面荒さ、もしくは層間拡散等の要因の分析が望まれる。今後は、基礎的な研究と思われるので、データの蓄積が必要と思われる。
ソフトウェア定義磁気共鳴分光装置の開発と先端磁気共鳴技術の実装 大阪大学
根来誠
大阪大学
宮川勝彦
ハードウェア部分とハードウェア部分を明確に切り分けて、ハードウェア部分に汎用計測器を用いてソフトウェア部分で柔軟性を持たせるソフトウェア定義磁気共鳴分光システムを提案し、オープンソースのコードを利用してソフトウェア部分を開発した。インターフェイス部分を少し改変するだけでさまざまな価格帯の計測器を対応させることが可能であることを示した。具体的には、100万円以下で帯域40 MHzで垂直分解能14bitの電磁波が取扱い可能なローエンドシステムから、帯域2 GHzを可能とする高性能なハイエンドシステムまで幅広いラインナップを実現した。今後の展開としては、ハイエンドシステムのさらなる高性能化と、ローエンドシステムにおいてFPGAベースのハードウェアを用いることでさらなる低コスト化や高性能化を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に磁気共鳴測定装置の専用ハードウエアを既存ハードウエアとソフトウエアで実現することを目指し、電子スピン共鳴 (Electron Spin Resonance)においては、数ナノ秒で位相を切り替えるコンポジットパルスを発生する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、電子スピン共鳴測定でコンポジットパルスを使えるようになれば、核磁気共鳴のような有用な情報を得る測定や3Dイメージングによる非破壊検査などでの実用化が望まれる。今後は、実際の試料を用いて、NMRやESRスペクトルを測定して、どの程度の質のスペクトルが測定できるかを評価されることが期待される。
マルチチャンネルマイクロバイオチップの開発に向けた酸化グラフェン薄膜の機能化 大阪大学
根岸良太
大阪大学
西嶋政樹
本研究課題では、複数種のタンパク質を単一チップ上で検出可能な高感度マルチチャンネルバイオチップ創成に向けて、① 抗原抗体反応場となる酸化グラフェン薄膜の表面改質処理の最適化、② 受容体固定化技術の開拓、③ 単一チップ上に複数の酸化グラフェンチャネル電界効果トランジスタ(GO-FET)の作製及びセンサー動作検証を進めた。その結果、酸化グラフェン薄膜の改質処理をエタノール雰囲気における高温処理で行うことにより、従来の処理条件で得られていた典型的な移動度(0.1-1 cm2/Vs)に対して一桁以上の向上を達成した。また、受容体固定化技術の探査においては、金微粒子をマーカーとした実験により、酸化グラフェンの表面構造修復状態が受容体固定化のためのアンカー分子の吸着に影響していることを見出し、構造最適化への指針を明らかにした。さらに、単一の基板上にアレイ化したGO-FETを作製し、それぞれの素子において同程度の感度でpH変化の検出に成功した。以上の成果から、本研究開発は計画通り達成されたと判断する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に酸化グラフェン薄膜の機能化に関して、表面改質処理の最適化、受容体固定化技術の開拓により、電界効果トランジスタによるセンサーの動作を検証した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、実用化のために、明確になっている課題の解決が必要である。今後は、共同研究を行う企業との連携を深め、実用化が推進することを期待する。
半導体超微細加工を可能とするケイ素含有レジスト材原料の環境調和型合成法の開発 大阪大学
劒隼人
大阪大学
有馬健次
近年の半導体微細加工を支える重要な技術開発として、ナノ加工を支えるレジスト剤の高機能化と安価な供給法の確立がある。超微細加工を達成する手法の一つとして、機能性レジスト材へと変換可能なケイ素含有モノマーの安価かつ、環境調和型合成は非常に重要である。本課題では、ケイ素含有スチレンモノマーの合成法として、安価かつ安定なベンジルアルコール誘導体を原料としてイリジウム錯体触媒による炭素-水素結合活性化を用いたケイ素官能基のスチレン前駆体への導入を達成した。単純なベンジルアルコールのみならず、様々な置換基を有するベンジルアルコール誘導体も利用可能であり、多彩なケイ素含有スチレンモノマー誘導体の有用な合成法を示すことに成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にイミンのキレート誘導を活用して芳香環のC-H結合を活性化してシラン体と直接反応させて芳香族シリル体を触媒的に合成する手法を開発している点が高く評価できる。一方、技術移転の観点からは、基礎研究とともに、企業との情報交換等により、実用化に向けた課題の抽出や計画の検討が望まれる。今後は、基礎的な研究成果の積み上げと同時に、技術移転や実用化に向けた取組みを両立させて、研究を進めることが期待される。
太陽光により再生する高活性合金ナノ粒子触媒の開発 大阪大学
白石康浩
大阪大学
有馬健次
金(Au)と銅(Cu)からなる合金ナノ粒子を担持した固体触媒は、様々な有機化合物の酸素酸化を効率よく進めることができる。ところが、ナノ粒子表面のCuがすぐに酸化され、活性が低下してしまう。本課題では、触媒反応中に太陽光を照射するだけの簡単な操作により、表面Cu酸化物を還元して触媒活性を再生させる新触媒を開発することを目的とした。
Au-Cu合金ナノ粒子を二酸化チタン(TiO2)に担持した固体触媒を開発した。本触媒を可視光(>450 nm)照射下での有機化合物の酸素酸化反応に用いると、酸素分子による表面Cuの酸化が抑えられ、活性を低下させることなく、反応を効率よく進めることを明らかにした。このような活性を維持する効果は、ナノ粒子のサイズ、Cu含有量、ならびに担体に大きく依存する。3-4 nmの合金ナノ粒子、特にCuを20%から30%含有する合金ナノ粒子を、アナターゼおよびルチル結晶の混合物であるP25 TiO2に担持した触媒が、特異的にこのような活性維持効果を発現することを見出した。また、このような活性維持効果を電子スピン共鳴をはじめとする種々の分光分析により明らかにした。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、合金化と可視光による活性の再生化を可能とする金のナノ粒子触媒の新たな技術分野を展望させる成果をもたらした点は評価できる。一方、機能の解明を深めるなど応用展開するための基礎的研究と共に、この機能を発揮させるための産業側や応用面でのニーズの探索が必要と思われる。今後は、触媒コストを下げるための金の使用量を減らす努力は将来の課題であり、当面は、この系の機能と魅力を最高度に発揮させる方向を追求されることが望まれる。
細胞動態制御型ナノダイヤモンドバイオプローブの開発 大阪大学
清野智史
大阪大学
内田国克
近年、臨床MRI装置の高磁場が進み、多様かつ正確な検査・診断が可能になってきており、分子標的療法や細胞治療法での分子・細胞機能評価法が、昨今重要になってきている。一方、これまでのMRI造影剤は、短期的な診断を目的とするものが多く、体外への迅速な排出を前提としており、今後、より長期間の機能評価に耐えうる特定の臓器細胞標的MRI造影剤の開発が急務である。そこで、本課題では、強固なダイヤモンド内部に常磁性金属を内在させ、さらに金ナノ粒子とのハイブリッド化により、臓器特異性を付与することを目指した。合成した金・ダイヤモンド、肝臓内の異なる細胞へ集積させることに成功した。今後は、今回隔離率したND粒子のハイブリッド化により、これまで難しかった長期間の細胞モニタリング技術への展開を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に臓器特異性と長期間の生体内滞留が可能なMRI造影剤として金・常磁性金属(Mn)を内在させたダイヤモンドハイブリッド造影剤(Au-MnND)の製法を確立し、リンパ節等でAu-MnNDの移行と長期間の滞留を実現したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、徐放効率の最適化・さらなる大量合成技術の確立と低価格化、臓器標的特異性の向上を進め、マウスから人への適用試験や特許出願などをすすめ実用化されることが望まれる。
今後、本成果の実用化により長期間の細胞モニタリング技術として医療技術の高度化等の社会貢献が期待される。
超精密切削用ダイヤモンド工具の長寿命化技術の開発 地方独立行政法人大阪府立産業技術総合研究所
本田索郎
超精密切削加工における単結晶ダイヤモンド工具の長寿命化を目的とし、加工前の工具の熱処理、および被削材(鉄系材料)の窒化処理という二つの手法を試みた。前者では、無電解ニッケルめっき層の加工において、真空中で熱処理した工具の摩耗量が非熱処理工具の約半分に減少する結果が得られた。今後の検証実験で再現性が確認できれば、実用性の高い技術になる。一方、被削材(鉄系材料)の窒化処理については、非常に大きな摩耗抑制効果が得られた。今後、どの程度の切削距離まで良好な仕上げ面を維持できるかを検証するとともに、金型鋼の窒化層深さの増大や、成形加工に対する窒化層の耐性が確認できれば、実用的な金型加工技術になる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、ダイヤモンド工具を熱処理する方法と、被削材を窒化処理する方法の2つを検討し、前者については、真空中で熱処理することにより、ほぼ2倍の工具寿命が得られている。後者についても、被削材を窒化処理することにより、工具摩耗を半減以下に減少させていることは、評価できる。一方、実験回数が少ないので、今後再現性の確認と表面粗さなど精度面への影響についての検討が必要と思われる。また、熱処理による強度向上のメカニズム解明は必要不可欠と思われる。今後は、より新しい知見が得られるように基礎研究にも重点を置きより信頼の置ける結果に導かれるようにするとともに、すでに工具メーカとも共同で進められているので、実用化に向けた研究を進めることが望まれる。
熱分解カーボン付着量制御による電着ダイヤモンド砥石の放電ツルーイング 地方独立行政法人大阪府立産業技術総合研究所
渡邊幸司
大阪府立産業技術総合研究所
山口勝己
本開発では、機械的なツルーイングが不可能な電着ダイヤモンド砥石に対して、ダイヤモンド砥粒の先端部のみを放電加工して、砥粒切れ刃高さを均一化する新しいツルーイング法を検討した。
本ツルーイング法の実用上の課題は、ダイヤモンドの放電加工速度が低いことであった。熱分解カーボン(放電加工油が熱分解して生成するダイヤモンド表面の付着物)は、導電性がないダイヤモンドの放電加工に不可欠であるが、付着量が多くなると加工能率を低下させるため、その付着量を必要最小限に制御する必要があった。
そこで、放電検知電圧の制御と超音波振動付与放電加工法について検討した結果、熱分解カーボンの付着量を制御することが可能となり、ダイヤモンドを高能率に放電加工することが出来た。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、放電検知電圧を高く設定することで、パルス幅の長い放電パルスの発生を抑制することができるため、加工速度低下の原因となる熱分解カーボンの付着量を必要最小限に制御することが可能となり、その結果として加工速度が向上したことは評価できる。超音波振動を援用し、加工速度を目標の2倍に対し、2.5倍を達成した。一方、技術移転の観点からは、新たな特許出願を具体的に検討するとともに、単粒実験により見い出された上記技術・知見を、多様な形状の砥粒で構成される電着ダイヤモンド砥石に適用する方法を考案することが望まれる。今後は、共同研究の申し入れをうけている企業と積極的な実用化検討を推進することが期待される。
車両軽量化に資する鉄鋼とアルミニウム合金テーラードブランクの高品位プレス成形技術の開発 地方独立行政法人大阪府立産業技術総合研究所
田中努
大阪府立産業技術総合研究所
水越朋之
素板を置く敷板や接合条件を適正化することによって、摩擦攪拌接合法でアルミニウム母材強度以上の継手強度を持つ鉄鋼とアルミニウムの異板厚異種金属接合材を作製できることがわかった。深絞り試験において、鉄鋼とアルミニウムの接合材では深絞り途中で早期破断したが、アルミニウム同士の異板厚接合材では、同板厚接合材に見られた局所変形や形状不良のない深絞りカップの作製に成功した。異板厚異種金属接合材の深絞り加工では、深絞りカップ端部接合界面の縮みフランジ変形に追従・対応できない場合には、接合界面で素板の面外変形が起こり早期破断を招くため、面外変形を抑制するような加工条件の確立や素板形状の適正化が重要であることがわかった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、材質や板厚の差がある板材のFSW接合について、幅広い知見を得ていることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、摩擦撹拌接合材の接合部に生成された多量の金属間化合物による脆性的接合界面の問題を解決することが重要と考えられ、その次にプレス成形性に関して成形条件の適正化検討を進めるなど、ステップを踏んだ解決が望まれる。今後は、材質や板厚の差がある板材からなるテーラードブランクのプレス加工には、製品の軽量化に関わる多くのニーズがあると思われるので、企業との連携を含めて着実に実用化に進むことが期待される。
環境応用に向けたナノ構造制御による新規層状ハイドロタルサイトの高機能化 大阪府立大学
中平敦
大阪府立大学
阿部敏郎
層状構造を有するユニークなハイドロタルサイトは、イオン交換能(カチオン及びアニオン交換能)を持ち、さらに炭酸イオンを取り込むため、CO2固定材としても有望であるが、水処理などへの実用に向け更なる特性向上が必要である。ハイドロタルサイトのホスト層のMg2+サイトとAl3+サイトに機能性元素を置換した新規ハイドロタルサイトを合成し、それらの構造および諸性質への影響を明らかにし、新規吸着材料などの環境応用に向けた展開の要素技術開発を進めた。特にナノ構造制御を行う事により、環境応用に向けたハイドロタルサイトの高機能化への見通しを得た。これら成果をベースに関係企業と連携を進め事業化を目指して進める。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、ハイドロタルサイトからナノシートが得られた点については評価できる。一方、重金属の吸着剤としての具体的な実用化計画に基づく向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、ハイドロタルサイトの特性に相応しい用途を見出すことに注力されることが望まれる。
分子シミュレーションに基づくナノパターン電子線計測の高精度補正法の構築 大阪府立大学
安田雅昭
大阪府立大学
井上隆
ナノパターン電子線計測においてレジスト変形による測定精度低下を高精度に補正する手法の確立を目標とし、分子シミュレーションを用いたレジストパターンの変形解析を実施した。まず、電子線照射によるレジスト分子の分解反応と生成物がアウトガスとして消失する効果を導入したモデルを開発し、実験に見られるようなレジストパターンの収縮を再現できることを確認した。レジストパターンのサイズ変化をレジスト分子の分解量の関数として定量化し、ナノスケールパターンの電子線計測における変形補正に有効となる関数を導出することが出来た。実用的サイズの半導体デバイスの計測へ応用するため、今後、10ナノメートルスケールに対応した手法を開発する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に半導体リソグラフィ工程におけるレジストパターンの電子顕微鏡による計測精度の向上に関し、電子線照射による高分子の変形機構を分子シミュレーションにより解明するとともに、パターン変形量を定式化できたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、本手法に統計的なばらつきも考慮した測定精度、再現性などを実用上必要な具体的な数値目標を設定し評価するとともに本研究で検討した10nm以下に対し実用的な10nm以上のパターンでシミュレーションが可能な手法の開発に取組み実用化されることが望まれる。
今後、本研究成果の応用展開により半導体の微細加工の進展に貢献することが期待される。
微生物の還元作用(バイオミネラリゼーション)で創出される白金族金属ナノ粒子の工業用触媒としての応用研究 大阪府立大学
小西康裕
大阪府立大学
亀井政之
本研究では、金属イオン還元細菌(Shewanella属細菌)の作用(バイオミネラリゼーション)により常温・常圧下で創出される白金族金属ナノ粒子の工業的利用を図るために、1)燃料電池電極触媒への応用では、シングルナノサイズで、粒子径分布が狭い白金粒子のバイオ調製条件を、また、2)自動車排気ガス触媒への応用では白金族金属ナノ粒子のバイオ調製条件を確立した。さらにバイオ調製した白金族金属ナノ粒子は、モデル反応(色素の液相脱色反応)における不均一触媒として、市販の白金族金属触媒(炭素担持)に比べて数倍から最大で10倍も優れた触媒活性を発揮することを明らかにした。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、微生物細胞を用いて作成した金属ナノ粒子が、通常の炭素担持の白金族金属触媒を大きく凌ぐ触媒活性を示すことを明らかにした予定通りの成果が顕著である。一方、技術移転の観点からは、企業との連携で、大量生産を前提とした微生物の探索、コストや操作性などの最適化検討を経た上での実用化が期待される。今後は、周辺特許を含めた特許網を構築されることが期待される。
永久磁石の特性改善!パルス超強磁場着磁 大阪府立大学
野口悟
大阪府立大学
赤木与志郎
自作のパルス超強磁場を永久磁石の着磁に活用し、その強磁場効果の研究を行った。Nd2Fe14B系磁石についてそれぞれ5Tと30Tのパルス強磁場(パルス幅10ms)を印加し、300Kにおける磁気特性を比較した。その結果、30T着磁の方が5T着磁に比べて残留磁化で4.7%、保磁力で4.1%増大した。これは10%アップを目指した当初の目標値を下回る。また、磁化容易軸方向では着磁の強磁場効果が観測されず、着磁効果は磁化容易軸からずれた方向で観測されたものであることが判明した。但し、磁化容易軸からずれるとなぜ強磁場着磁効果が現れるのかというメカニズムが不明である。今後、「ピンニング型」保磁力発現機構に基づき、強磁場が磁壁を移動させるというモデルを検証する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも超強磁場を発生できるパルス磁場発生システムの応用によりFeNdB永久磁石の着磁をより向上させ、磁石の性能をアップを実証したことは評価できる。
一方、単磁区構造のエネルギーは大きく、残留磁化を高くする手段としてのパルス着磁の因果関係を理論的に示し、これに基づき技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
励起反応還元による金属ナノ粒子へのナノ金属被覆法の開発と機能性劣化抑制に関する研究 大阪府立大学
堀史説
大阪府立大学
東原稔
励起反応を用いた照射励起還元が可能なγ線照射還元法により、機能性金属ナノ粒子の表面に金属極薄膜層を形成し、著しい特性の劣化無しに表面酸化や凝集および触媒などの機能劣化を抑制可能な金属ナノ粒子の作成および被覆法について検討した。その結果、Ag, PtやPdなどをγ線照射還元で作成したコロイド溶液にAuイオンを添加調整してγ線照射する事により表面被覆を行い、それらの触媒特性の機能性が消失しないことを確認した。また、一般に酸化しやすくナノサイズ以下の超微粒子の作成が難しい銅ナノ粒子もγ線照射還元での作成に成功し、現在も継続して表面被覆条件の調整を進めている。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもAg, PtやPdのナノ粒子をγ線照射還元で作成しその表面にAuの薄膜を形成する技術及びその触媒性能を確認したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは本技術に興味をもった企業と共同研究を推進しており、触媒機能の向上や耐久性の確認などの技術的検討やデータの積み上げなどを進める必要がある。
今後は、当初の銅ナノ粒子へのAuの薄膜形成や構造確認などと触媒性能や寿命などの変化を科学的に解明し本技術の特徴付けを行い、実用化を進めてほしい。
低品位廃熱利用を可能にする銅/ゼオライト複合積層材料 大阪府立大学
小野木伯薫
大阪府立大学
濱田糾
ゼオライトバルク体の材料組織を変化させても、理想的なヒートポンプ蓄熱材料に求められる水分吸収・脱離特性は、Y型ゼオライトで得ることは本質的に困難であったため、候補の一つとされているCHA型ゼオライトの合成と金属基板への直接積層を試みた。CHA型ゼオライト合成は比較的順調に行うことが出来た。しかしながら、銅基板への積層時にアモルファス化し、最適条件を見出すことに多くの時間を費やしたが、完全に結晶する直前のCHAゼオライト粉末に対して、HHP時にCu基板へ強固に積層可能な1mol/L以下の希薄KOH水溶液を使用することが必要条件であることが見出された。今後、AlPO4系CHA型ゼオライトバルク体を金属基板に積層を検討し、レーザーフラッシュ法による精密な熱物性測定を行い、水分吸脱特性との関係を調査する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、銅/ゼオライト積層複合体の作成には成功していることは、評価できる。一方、マルチレイヤー化には着手していない。また、目標であった熱効率の最終目標値50%は言うに及ばす、熱効率の測定も実施もできていないので、早急に実施するとともに、基礎的な熱物性データの取得が必要と思われる。 今後は、最適な熱効率が得られるような材料開発をさらに進めることが望まれる。
気相中でのナノ粒子表面改質を可能とする回転式流動層型リアクターの開発 大阪府立大学
仲村英也
大阪府立大学
濱田糾
本申請課題は、気相中でのナノ粒子表面改質を可能とする回転式流動層型リアクターの開発およびその性能評価を行うものである。モデル実験として、高温下で親水性シリカナノ粒子を、疎水化剤を含むガスで流動化し、気相反応により親水性表面を疎水性に改質することを試みた。高温環境下で運転可能な回転式流動層型リアクターを試作し、これを用いて親水性シリカの疎水性改質を行った。得られた粒子の物性を評価したところ、粒子表面に疎水基が導入されており、粒子が疎水化されていることが確認できた。また、疎水化度を評価した結果、従来型の流動層リアクターにおける表面改質率を上回る表面改質率を達成することができた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、多様な分野への応用が可能な技術であり、エンジニアリング面での取り組みと有用性に関する例として実施している反応系で有為な結果を得ており、微粒子の表面改質の可能性を示したことは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、温度、シランカップリング剤の選定、濃度などの操作条件の最適化が望まれる。今後は、対象とする加点流動層は他の分野への応用の可能性を有していため、粒子の流動解析と設計・操作法に関する基盤的な研究にも注力される一方、エンジニアリング面での設計・操作法についても、取り纏めることが期待される。
少量添加するだけで、表面平滑な銅箔への充分な接着性を持つプリント配線板樹脂用添加剤の開発 地方独立行政法人大阪市立工業研究所
平野寛
地方独立行政法人大阪市立工業研究所
高田耕平
本研究は少量添加で現在のアンカー効果を利用した接着に匹敵する銅への接着力を確保できる改質剤を開発することを目的とし、これまでの手法が犠牲にしてきた耐熱性や力学強度などの相反機能を維持できるように改質剤の化学構造を工夫することにより研究を行った。具体的には電気・電子材料や自動車用材料分野に関連する樹脂に対して銅との接着力を高める効果的な改質剤の探索を行った。その結果、2~3phrの添加剤を加えるだけで、相反機能(耐熱性や力学強度など)を維持しながら、エポキシ樹脂やジアリルフタレート樹脂の剥離強度を約5倍に高めることができた。さらに信頼性についても検討し、吸水率や線膨張率を低減できる系も見出した。今後は、実用化に向けて、現実に即した配合や評価法を採用しながら、さらに研究を継続する予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に平滑な銅箔表面と樹脂との化学結合力を約5倍高めた添加剤を開発できるとともにその接着メカニズムも傾斜構造の確認など解明されたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、既に予定された3者の産学連携の研究開発や特許出願が予定されており、電子機器用配線基板として各種機器への実用化されることが期待される
長期安定性に優れた銅系導電性接着剤の開発 地方独立行政法人大阪市立工業研究所
大塚恵子
地方独立行政法人大阪市立工業研究所
高田耕平
銅ナノ粒子を導電性フィラーとして用いて、長期安定性に優れた銅系導電性接着剤を開発することを目的とした。銅ナノ粒子を電解銅粉に配合した場合、電解銅粉単独の場合と比較して抵抗率が低くなることを見出した。電解銅粉と銅ナノ粒子の配合割合やバインダー樹脂の種類、硬化条件が導電性に及ぼす影響について検討し、電解銅粉単独の場合と比較して2オーダー低い抵抗率を示す配合条件・バインダー樹脂の最適化を行った。調製した導電性接着剤は、電解銅粉単独の場合と比較して優れた長期安定性を示し、さらに市販の銀系導電性接着剤に匹敵する導電性と接着性を示した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に電解銅粉のみを導電性フィラ―とした場合に比べ、銅ナノ粒子を加えることにより抵抗率が3桁低い開発目標10-4Ωcmをほぼ達成できたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、銅粒子の粒子径やバインダー樹脂の検討などにより導電性のさらなる向上と長期信頼性の改善などに加え、導電ペースト関連企業から得られた実用化に当たって検討すべき事項を検討し銀系導電性接着剤に替わる導電性接着剤として実用化されることが望まれる。
今後は、コストやマイグレーションなどの信頼性に優れた導電性接着剤として実用化されることが期待される。
環境適合性バイオミネラルマイクロカプセルのワンステップ作製技術の開発 神戸大学
丸山達生
神戸大学
塩野悟
リン酸カルシウムは生体適合性が高く、環境にも優しい材料である。しかし、リン酸カルシウムは成形加工が困難であるという課題がある。本研究では、粒径の揃った微小液滴をワンステップで連続生産可能なエレクトロスプレー法を用いることにより、リン酸カルシウムで構成されるマイクロカプセルのワンステップ連続生産に挑戦した。エレクトロスプレーを用いることにより簡便にリン酸カルシウムマイクロカプセルの作成可能であることが判明した。共存するポリマーの種類や濃度を調整することにより、その形状を様々制御可能であることが示された。さらにカプセル内に小分子から微生物まで、様々な種類・大きさの物質の封入に成功した。微生物を用いた検討から、不安定な物質を、その機能を失うことなくマイクロカプセル内に封入可能であることが判明した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に環境適合性のマイクロカプセルをワンステップで、サイズ、形状をコントロールし、多様な物質を高効率でセル内に封入し、放出方法も確認できたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、研究者の想定する農薬への応用では産学連携先企業とともに自然環境に近い条件で外的刺激によって除放出来る方法について具体的に検討し、実用化されることが望まれる。
今後、本研究成果は農薬への応用だけにとどまらず医薬学分野を初めとする多様な領域での応用展開が期待される。
ガス・溶媒蒸気の成分・量を色で表示するフィルムの開発 神戸大学
持田智行
神戸大学
大内権一郎
研究代表者は、ガス・溶媒蒸気に応じて色変化を起こす機能性液体を開発した。本課題では、この物質系をフィルム化することで、溶媒・蒸気・ガス雰囲気を可視化する技術を開発することを目的する。こうしたフィルムが実現すれば、溶媒・ガス・蒸気の存在を色で表示できる。本課題では、フィルム化手法の開発、およびフィルム状態での応答性の評価を行い、種々の溶媒分子が視覚的に検知可能であることを実証した。今後の改良によって、安定性の向上、検出感度の向上、多成分検知が実現すれば、さらに有用な技術となる。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、ユニークな技術シーズで有り、提案通りの研究が達成されていることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、早期の特許出願とともに、材料として実用化するために、フィルムの安定性、再現性、選択性などの基本物性や簡便は製造方法やコストの検討により、実用化に進むことが望まれる。今後は、新規センサーとして具体的なニーズを見出し、積極的な産学共同研究の実施により、社会還元に導かれることが期待される。
ケイ素官能基を側鎖にもつ高脂溶性π共役系高分子材料の合成法開発 神戸大学
森敦紀
神戸大学
大内権一郎
チオフェン誘導体の側鎖アルキル基にケイ素官能基をもつモノマー分子を設計し、遷移金属触媒を用いた重合反応をおこなうことで、ケイ素官能基をもつπ共役系高分子の合成をおこなった。ケイ素官能基としてシロキサン結合をもつ化合物により得られた高分子は、ヘキサンなどの炭化水素系溶媒に対して溶解することがわかった。チオフェン誘導体として、ベンゾジチオフェン、3置換チオフェン、窒素架橋ビチオフェンを用いポリマ-合成をおこなった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも含チオフェン骨格のπ共役ポリマー合成をめざした3群のうち3位アルキル置換チオフェンに関して効率的なモノマー合成経路を確立するとともに良好な収率で側鎖にシロキサン結合をもつ高規則性のポリチオフェンを合成した。また、ヘキサンに対する溶解度が他のアルキル置換ポリチオフェンでは溶解性を示さないが良好な溶解性を示すことを明らかにしたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、得られたポリマーの利用可能性に関して熱的な安定性や紫外可視吸収特性、電気化学的特性評価を早急に行い、応用に向け今後の研究展開の具体的な指針作りが求められる。
開発されたポリチオフェン合成法は、簡便かつ環境低負荷であり、今後のポリチオフェンの発展に大きく資する可能性があり、今後の研究の進展が期待。
粒子の非定常振動を利用した塗布膜粘度の連続計測手法の基盤構築 神戸大学
菰田悦之
神戸大学
大内権一郎
塗布膜の乾燥挙動の詳細な理解は湿式薄膜製造プロセスの設計に不可欠である。そこで、材料中の磁性粒子に対して磁場を印加し、磁性粒子の位置解析により材料の粘弾性や乾燥時の変化が計測可能になる。本課題では、その基礎的検討として、本手法の装置・解析プログラムの作製ならびに単純材料系での評価を目標とした。その結果、対向する電磁石から交互に磁場を発生させることで粒子に印加される磁力の推算を可能とし、また、良好な精度で粘度を計測できた。また、ステップ状磁場印加時の粒子応答から粘弾性に関連する材料内部のミクロ構造も評価できる可能性が示された。しかしながら、乾燥時には移流や高粘度化に伴って粒子移動解析が困難となるので、これの解決が今後の課題である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも磁性粒子をプローブとし、外部磁場を印加して粘性溶液中で振動させ、その挙動を画像記録するハードウェア、並びに記録した画像から粒子運動を数値化し理論モデルを用いて粘性を定量評価するソフトウェアを開発し、シリコンオイル等のモデル材料を用いて良好な精度で粘度測定を実施できたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、塗布膜乾燥時の対流や移流の影響をどのように解決するかなど実用化に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
目標とする粘弾性と膜厚変化の同時測定および非定常振動解析が実現できれば、液膜のその場評価ができ、今後乾燥条件や材料選択に有益な手法となることが期待される。
反応工学的モデルによる超音波ナノシート剥離分散プロセス開発 神戸大学
堀江孝史
神戸大学
河口範夫
粒子状の無機層状化合物からナノサイズのフラグメントを製造するための超音波プロセス設計手法を取得することが目標である。プロセス設計において不可欠な分散速度式を、液透過率の経時変化に対して完全に相関する形で得ることができた。さらに、式に含まれる分散速度定数が、超音波出力に依存して大きく向上することがわかった。また、ループ型プロセスの実験では音圧分布の影響により、完全混合流れ反応器モデルの予測よりも、大きい分散速度を得ることができた。これまでは、超音波の物理的作用が強い低周波数(20kHz)で実験を行ってきたが、より高効率な超音波プロセス実現を目指して、周波数の影響や粒子濃度の影響を考慮した操作条件の探索が求められる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に有用な機能性材料であるナノシート製造プロセスを超音波による層状化合物の剥離分散プロセスを実験結果に基づき当初予測した式を改良し、超音波分散経時変化を忠実に再現する分散速度式を得たことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、本研究成果を特許出願するとともに、エネルギー密度を高めることが高効率化に寄与することなど有効な知見を検証しより高効率な超音波プロセスが実用化されることが望まれる。
超音波を利用した本プロセスはエネルギーを大量消費する熱や化学反応によらず、省エネルギーが強く求められる今後の生産技術として、さまざまな分野に応用されることが期待される。
1 THz超領域におけるカンチレバーを用いた電子スピン共鳴法の確立 神戸大学
大道英二
神戸大学
河口範夫
本研究では申請者自らが開発したカンチレバー検出電子スピン共鳴(ESR)測定において1 THzを超えるテラヘルツ領域におけるESR信号検出法を確立する。この目標に向け、本開発では光ファイバーを用いたFabry-Perot干渉方式によるカンチレバーの超高感度変位検出技術の開発に成功した。この技術を用いることで従来の方法に比べ3桁程度のスピン検出感度を実現した。研究期間中に目標とする1 THzでの信号検出には至らなかったが、ガン発振器を用いて160 GHzでのESR信号検出に成功した。今後は後進行波管を用いて1 THz超領域においてESR信号の検出を行い、ナノ材料や生体試料の超高分解能ESRスペクトロスコピーを可能にする。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、Fabry-Perot干渉計を導入することにより、3桁程度の高感度化を実現し、160GHzでの信号検出に成功していることは、評価できる。一方、所定量のモデル物質Co Tutton塩の測定を行ったが、1 THzまでの高周波特性を満たすことはできなかった。1 THzESRを生体物質にたいして実現するための具体的技術課題の抽出が必要と思われる。今後は、生物分野への展開を念頭に置いているようなので、生物分野の研究者との共同研究を検討し、本技術の適用範囲拡大に関して知見を得て研究を発展させることが望まれる。
高効率でマルチカラー蛍光を有するアミノベンゾピラノキサンテン系(ABPX)蛍光色素の開発と発光素子への応用展開 独立行政法人理化学研究所
神野伸一郎
独立行政法人理化学研究所
井門孝治
アミノベンゾピラノキサンテン系(ABPX)色素の化学構造と光物性の関連性の解明に関する基礎研究を行い、ABPXが化学刺激に応じ、3つの分子種 (スピロ環型、モノカチオン型、ジカチオン型)へ構造変換し、それぞれが異なった発色や蛍光色を示す1分子多色性を示すことを明らかにした。続いて、ABPXの1分子多色性を、Cu2+との呈色反応に応用することで、色調変化型ケミカルセンサーであるABPX01-ヒドラジドを新規に創製し、Cu2+の目視分析法と吸光光度定量法の開発を行った。続いて、スピロラクトン型分子種が、青色の固体蛍光を有し、その中で、蛍光団のキサンテン環部位に対し、二つのスピロラクトン部位が、同方向を向いたcis体が、青色の発光に加え、近赤外域にも励起錯体に由来する蛍光を有することを初めて明らかにした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、アミノベンゾピラノキサンテン系(ABPX)色素について特徴的な光物性を見出したことについては評価できる。一方、技術移転の観点からは、特許申請を踏まえた成果の公表などでABPXの特異な光物性を活かした用途を見出すことでの実用化が望まれる。スピロラクトン環cis体の分子配向による分子励起錯体の長波長蛍光が興味深いこともあり、今後は、多形の転移現象についても検討されることが期待される。
FIB/MEMS融合技術による単層グラフェンの機械物性定量計測法の開発 公立大学法人兵庫県立大学
生津資大
兵庫県立大学
上月秀徳
単層グラフェンの機械的特性定量計測実現のため、サンプリング技術ならびに引張MEMSデバイス開発を実施した。FIB加工ならびにデポ機能を用いてTEMグリッド上に塗布したグラファイトを試験片化してMEMSデバイス上に貼り付けることで引張試験は実現したが、そのグラフェン化やダメージフリー化は技術的に困難であった。また高精度の荷重・変位計測および機械物性と電気物性の同時計測を実現する新たな引張MEMSデバイスの設計を完了した。本研究期間中の目標達成度は50%程度である。今回得られた知見をもとに、今後、グラフェンシートのダメージフリーサンプリング技術を確立し、新デバイスを用いて単層グラフェンの機械・電気物性の定量計測技術実現に挑む。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、MEMSによる引張り試験などの装置設計とグラファイトによる試験が進んだ点、グラファイトについてのテストが一応完成した点は評価できる。一方、ナノレベルでのグラフェンの機械的測定は意欲的であるが、課題も多いので、さらなる検討が必要と思われる。今後は、本研究開発により十分な成果を得ることができたならば、極めて広い応用が可能であると考えられるので、本課題で得られた情報をベースに、新たな目標を設定して、研究開発を進展させることが、望まれる。
金ナノ粒子間に生じる局在電場増強を利用した光電応答型バイオセンサーの開発 公立大学法人兵庫県立大学
高田忠雄
兵庫県立大学
八束充保
本研究では、DNAを足場として金ナノ粒子を近接させたときに生じるナノギャップを光反応場として着目し、プラズモン共鳴による強い光吸収を利用した金ナノ粒子による光捕集・アンテナ効果、およびナノギャップに生じる局在増強電場によって誘起される光電子移動反応を利用した光電流発生システムを構築し、それを利用した超高感度遺伝子・バイオセンサーの開発を行うことを目的とした。近接場光を感受する色素分子としてペリレンジイミドを選択し、この分子を位置特異的に導入したDNAコンジュゲート(PDI-DNA)を作製した。このPDI-DNAを修飾した電極は光照射によって強い光電流応答を示すことが分かった。次に、PDI-DNAを表面に修飾した金ナノ粒子を作製し、各種分光分析から、目的通り金ナノ粒子表面にDNAが修飾された複合体(AuNP-DNA)の作製に成功した。次いで、このAuNP-DNAを修飾した電極を作製し光照射による光電流応答を調べた。その結果、金ナノ粒子のプラズモン吸収波長領域の光の照射によって光電流が発生することが示され、金ナノ粒子の近接場光による光電応答が得られることを見出した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも新規遺伝子センサーを開発するためのペリレン導入DNAおよび金ナノ粒子への固定化と電極の作製と性能評価を行ったことは評価できる。一方、遺伝子検出のための高感度化には、シグナル増幅について、原因の考察と、解決が望まれる。今後は、光電流が金ナノ粒子のプラズモン励起による光電流を明確に確認できるよう実験を工夫し、研究が推進されることが期待される。
室温ナノインプリントによる高耐熱性光学素子の作製 公立大学法人兵庫県立大学
松井真二
兵庫県立大学
八束充保
熱ナノインプリントと光(UV)ナノインプリントが通常使用されているが、加熱もUV照射も必要としない、プレスのみで高精度・高スループットが可能である、独自開発の室温ナノインプリントを利用して、高耐熱性ガラス光学素子作製研究を行った。PDMSモールドを用いて、液滴HSQの低圧室温ナノインプリントが可能であることを示し、モスアイ構造の作製・評価を行った。はしご型HSQを用いることにより、1000℃高温アニールのガラス化処理後でもアニール前の矩形性を維持し、パターン寸収縮変化差は見られなかった。さらに、HSQのヤング率が600℃アニール処理を行うことにより、急激に10倍程度上昇することを確認した。本研究成果により、室温ナノインプリントにより、高耐熱性ガラス光学素子の作製が可能であることを実証した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いた液滴法にてはしご型水素シルセスキオキサン(HSQ)を用いることによりの低圧・室温でパターンの形成が可能で、600℃のアニール処理でも形状や透過率などの特性が劣化しない高耐熱性光学素子が得られるナノインプリント技術に関しては評価できる。
一方、技術移転の観点からは、本技術は高耐熱性ガラス光学素子を温和な条件で製作が可能な優れた技術であり、成果を特許出願し早急に技術移転に向けた共同研究の推進を進め実用化されることが望まれる。
エポキシ系ポリマーアロイの自己組織化を活用した高効率導電性接着剤 公立大学法人兵庫県立大学
岸肇
兵庫県立大学
八束充保
高接着性・高耐熱性に優れるエポキシ樹脂は電子産業を支える高分子材料である。銀粒子配合により導電性を付与したエポキシ系接着剤は、鉛含有はんだの代替を可能にする環境適合性の高い材料だが、90wt%近い銀粒子配合による高コスト化および粘度増加、接着性低下が課題である。提案者は、先導研究において熱可塑性ポリマーを樹脂に溶解し、硬化反応に伴い微細な連続相構造を形成するポリマーアロイ技術を確立した。本研究では、この自己組織化相構造を銀粒子配列のテンプレートとして用い、従来の2/3(約60wt%, 約15vol%)程度の銀粒子配合量において高導電性(103S/cm以上)を発現するエポキシ系導電性接着剤の開発コンセプトを実験的に証明した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に共連続相構造を形成するポリマーアロイ樹脂をベースポリマーとすることで、少量の銀粒子の配合で効率的に高導電性を発現するエポキシ系接着剤の開発コンセプトを従来の2/3程度の銀粒子配合量において高い導電性が得られるを実証したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、実用化に向け特許出願や実用化に向け重要と思われる構成樹脂と銀粒子表面の親和性制御、樹脂組成自体の硬化反応速度の向上などを産学連携先企業と共同研究により、高性能で低コストの導電性接着剤などでの実用化が望まれる。
今後は、本研究成果の高性能で低コストの導電性接着剤が実用化されることにより、鉛含有ハンダの代替を可能にし、環境保全に寄与することが期待される。
表面強加工と熱処理によるアルミニウム合金の表面厚膜硬化技術の開発 公立大学法人兵庫県立大学
原田泰典
兵庫県立大学
八束充保
アルミニウム合金は、省エネルギーの観点から軽量構造用材料として広く利用されているが、鉄鋼材料と比べると耐摩耗性や耐食性が著しく低いことが問題となっている。そこで、本研究ではショットピーニングによってアルミニウム合金表面に鉄系材料を接合した後、レーザ照射による熱処理を行うことで硬質皮膜を形成し、その最適形成条件を明らかにすることを目標とした。その結果、硬質皮膜形成のための鉄系材料の最適接合条件とレーザによる最適熱処理条件を明らかにし、目標値である皮膜厚さと硬さが得られ、当初の研究開発目標をほぼ達成することが出来た。今後は形成した皮膜の耐摩耗性や耐食性について明らかにする計画である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、添加鉄粉量、レーザー照射条件さらにアルミ箔の利用等の改善策を含めた条件変化により、最終目標硬さの未達を除けば硬化表面皮膜の形成という当初の目標をほぼ達成できたことは評価できる。 一方、技術移転の観点からは、企業化に向けて、硬さ、組織(金属間化合物)の安定化、耐摩耗性の評価等を性能向上とコストの関係について、企業の視点から評価することが望まれる。 また、知的財産権の確保も検討して欲しい。今後は、適用できる製品を明確にして、実用面の使用性を考慮して本研究をより進めることが期待される。
UBMSによる超硬質Cr-N-O-M系薄膜の開発 奈良県産業振興総合センター
福垣内学
公益財団法人奈良県地域産業振興センター
山田裕士
UBMS法を用いて成膜したCr-N系皮膜のCrサイトにAlを、NサイトにOを固溶置換することによって膜の硬質化を目指した結果、Alが固溶置換していないCr-N-O系の皮膜では最大34GPaの高硬度を示し、酸素分圧1~2mPaにて成膜した皮膜では緻密な微細構造を呈していた。超硬基板との密着性向上を図るため、Cr、Al、Siの単層膜もしくはCrの多層膜で形成された中間層の挿入効果について検証した。アルミボール(A5052)による摩擦摩耗試験の結果、中間層を挿入していない皮膜の摩擦係数は0.79であったが、Siで中間層を形成した皮膜の摩擦係数は0.30まで減少し、良好な結果が得られた。衝撃荷重に対する密着性はCrを挿入したものが最も良好であった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもUBMS法を用いて成膜したCr-N-O系の皮膜では最高硬度を示し、他の成膜方法と比較しても高い硬度が得られた点は評価できる。一方、切削工具への適用を考えると、中間層挿入時の硬度低下を防止すること、そのため、中間層成膜後の硬質層初期形成時の成膜条件を見出すことなど技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、新たな用途として、硬さと離型性を生かした樹脂金型やロール材等へのコーティング等へ技術移転などが望まれる。
光情報処理デバイスの高速化に向けた半金属ナノ粒子複合体材料の開発 奈良工業高等専門学校
平井誠
奈良工業高等専門学校
芳野公明
本研究では、Ti-N-O、Cr-N-O、並びにCr-Al-N-Oといった遷移金属酸窒化物薄膜の抵抗率を酸素含有量によって制御できた。特に、Cr-N-O薄膜においては、酸素含有量が0 ~ 20 at. %まで変化することで、表面抵抗率が102 ~ 1011 Ω/cm2の広い範囲で変化することが分かった。これは酸素原子の置換固溶により、遷移金属のd軌道に電子が入り、結合成分の寄与が弱まるために全体の電気抵抗が増加したと言える。そして、SiO2基板やTi-O層上に金属Ag超微粒子を分散させることで、SPR吸収波長が0.42 ~ 0.84 μmの可視から近赤外域において変化した。また、金属Agと半金属Siから構成される超微粒子のUV-Vis測定結果より、超微粒子自体の導電率を制御することによってもSPR吸収波長の制御に繋がることが示唆された。これらは計画している半金属ナノ粒子複合体材料による可視から赤外域におけるSPR吸収波長の制御に対しても有用であり、光情報処理デバイスへの展開に向けても大変意義深い。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に新たに半金属ナノ粒子複合体を開発し、その材料の表面プラズモン共鳴 (SPR)の吸収波長の制御ができたことは高く評価できる。一方、技術移転の観点からは、当該材料のデバイスへの展開と、必要な特性について検討することが望まれる。今後は、大変興味深い研究成果が得られているので、特許の取得を積極的に検討することが期待される。
持続的に高エネルギー吸収を実現するヒステリシス発現型多層円管ばねの開発 奈良工業高等専門学校
榎真一
奈良工業高等専門学校
芳野公明
エネルギーを吸収しても破損に至らない木造建築用継手の開発を目的として金属正方格子のセル内部に低剛性材を充填した複合材を提案し、これまでの研究から、その有効性が確認できた。しかし、大規模な地震へ対応するためにはエネルギー吸収能力をさらに高める必要があることがわかった。そこで、セル自身にもエネルギー吸収能を備えるために正方格子から円管に変更して多層にすることで層間界面での摩擦現象を積極的に利用できる構造を提案して研究を行った。
最も簡単な構成である多層円管として、二層円管を取り上げ、横圧縮荷重が作用した場合にヒステリシスが発生するかどうかという点に着目して、材料力学に基づく理論の構築、有限要素法による解析結果に基づく理論の補正、実験による理論の検証を行った。
計画段階で想定していたような変形特性ではなかったものの、二層円管における円管同士の接触する度合いを予測できる理論が構築でき、また、実験によってヒステリシスが確認できたことから、提案した二層円管に低剛性材を充填し、機械要素をベースとした木造建築継手が持続可能な継手として技術移転の可能性が高くなったと考える。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、木造の継手という部材要素の開発としては独創性もあり、着実に研究を進めていて、十分な成果も得られていることは、評価できる。一方、多層円管バネの力学的な挙動と最終成果物である木造建築用継手の関係を示すとともに、木造建築物の継ぎ手に関して具体的な課題には何があるのか、要求性能を明確にした上で研究開発に取り組む必要があると思われる。今後は、木造建築用継手としての必要性能を明確にしたうえで、専門の研究メーカとの共同研究に進むことが望まれる。
電子回折による短時間計測・高精度三次元逆格子マッピング法の開発 奈良先端科学技術大学院大学
服部賢
奈良先端科学技術大学院大学
藤井清澄
デバイス用ナノ構造体の結晶構造や配向、歪み評価などに威力を発揮する三次元逆格子マップ作成を、電子回折を用いて短時間で精度良く行う手法を開発する。三次元逆格子マップ作成にX線回折では数ヶ月以上必要とする計測時間を、本手法では数十分に短縮することができる。現在、本手法で結晶構造の判別や複雑な配向を明らかにしてきているが、開発前の装置ではその歪み評価精度が約1%と大きかった。本課題では、実用化に向け0.1%の精度を目標とし、装置の改良により0.1%以下の精度を得ることができた。今後、実用化に必要な0.01%以下での精度と同時に、一般ユーザー向けに結晶構造や配向、歪み評価の自動解析プログラムの開発をも目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に微小領域の解析が可能な電子線回折装置の高精度化により、数10nmの領域の結晶構造と配向の解析ができることを示した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、解析の自動化も必要となるため、ソフトウエアの開発が望まれる。今後は、多くのナノデバイス開発の研究手段になると思われるので、早期に有用性を実証されることが期待される。
試料分解処理を必要としない化成品中の金属分析法の開発 和歌山県工業技術センター
大崎秀介
和歌山県工業技センター
中本知伸
本研究では、カドミウムを約5、10、20 ppm含有するポリエステル樹脂をETV-ICP-MSに直接装置導入し、樹脂を熱分解させるためのETV条件の確立と、含まれるカドミウム量に応じた定量結果を得ることを目標に実験を進めた。ETVの昇温プログラムを90℃から2℃/秒の速度で昇温し、190℃にて30秒保持した後にカドミウムを気化させる1000℃に昇温することで、試料を十分に熱分解し、カドミウムを検出可能であることを見いだした。また、ポリエステル樹脂に硝酸溶液を添加することで良好な検出感度が得られることを見いだし、標準溶液を用いた検量線法による定量では、概ね認証値と一致するカドミウムの定量値を得ることができた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、化成品中のカドミウム濃度分析を前処理行程をICP-MS装置内で完結するための加熱気化処理条件を見出し、固体マトリクスに依存しない標準検量線が得られるとともに公定法との比較も良好な結果を得ることができたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、比較的単純で既知の化学構造をもつ化成品中の金属元素の定量でなく実用化に際しては、今後はより複雑で未知の化学構造をもつ量産の化成品で本法の有効性や再現性を確認し実用化されることが望まれる。
製品中の有害金属の検出は、産業上や社会的にも要請が高い技術であり、今後はカドミニウム以外にも鉛など国際的な規制金属の評価に応用できるよう今後の研究の進展が期待される。
パルスアーク放電によるイオン液体中金属ナノ粒子の開発 和歌山県工業技術センター
重本明彦
和歌山県工業技術センター
中本知伸
有機物のカチオンと単純な無機物のアニオンから成るイオン液体は蒸気圧が零に近く、真空環境下でも液体として存在するという特徴を持つ。そこで、真空チャンバー内でパルス化したアーク蒸着によって金属プラズマをイオン液体に打ち込み、イオン液体中での金属ナノ粒子の合成を行った。その後、銀ナノ粒子については紫外可視分光光度計を用いて表面プラズモン共鳴ピークを確認し、鉄ナノ粒子については動的光散乱に加え、透過型電子顕微鏡を用いてナノ粒子の確認とその顕微鏡写真からソフトウェアを使って粒度分布を測定した。また、X線光電子分光測定によって鉄ナノ粒子表面の酸化が抑えられていることを確認した。また、触媒効果を確認するためにグリニア反応に試薬として用いたところ、新たな生成物は確認できなかったものの、ブランクと比べて、試験液の変色は認められた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に真空中でパルスアーク蒸着による金属プラズマイオンをイオン液体に打ち込み、金属ナノ粒子を生成する比較的簡便な手法で銀ナノ粒子や酸化され易い鉄ナノ粒子を生成できたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、粒子径の制御、濃度制御、生成効率などの基礎検討を進めるとともに、プリンテッドエレクトロニクスや触媒材料などの分野への応用研究が望まれる。また、これらの研究成果による特許の出願が期待される。
共役拡張型ベンゾジチオフェン誘導体を用いた広波長吸収領域を有する有機太陽電池用材料の開発 和歌山大学
大須賀秀次
実用的な15%を超える発電効率を目指し、吸収末端が700nmを超える幅広い波長の光を強く吸収する安定な有機太陽電池用材料の開発が求められている。
そこで、アクセプター性の高いキノキサリンにベンゾ[1,2-b:4,3-b']ジチオフェンを縮環させたジチエノ[2,3-a:3',2'-c]フェナジン誘導体、ならびに2,3-ジシアノピラジン誘導体の合成方法を検討した。また、これらの化合物をアクセプターとして用いた有機半導体材料の設計・合成を行い、吸収スペクトルなどの物性を検討した。その結果、吸収末端が700nmを超える高分子が得られたが、これらを素子化した有機太陽電池の発電効率は低いものにとどまった。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に有機薄膜太陽電池用に新規骨格を持つ高分子半導体を合成したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、特許出願を検討するとともにアルキル基の導入により、溶解性をあげて高純度の材料を得ることなど本研究成果の吸収末端が700nmを超える新規材料の特徴を生かす取り組みが望まれる。
今後、研究が進展し、本材料を用いた太陽電池の変換効率が改善されることが期待される。
導電性ラダーポリマーを用いたフレキシブル透明電極の作成 和歌山大学
奥野恒久
関西ティー・エル・オー株式会社
山本裕子
本研究では、既に0.23 Scm-1という高い導電性を示す共役ラダー型ポリジアセチレンを用いて透明薄膜の作成を試みるとともに新規なポリジアセチレンの開拓も行った。物質開拓については、アクセプター性のペンタフルオロフェニル基を有するポリジアセチレンの合成には成功したものの、自己ドープ状態の実現には至らなかった。薄膜作成については、ミクロンレベルのキャスト膜を作成し、可視域の吸光度を1程度には抑えられたが、紫外域では光は通らなかった。これが膜状試料での重合反応を妨げる要因となっており、溶解度や熱安定性の問題があるが、より薄い膜を形成することで、高性能なポリジアセチレンを実現できることが明らかとなった。 当初目標とした成果が得られていない。中でも新しいジアセチレン化合物を合成し、それらのポリマーの結晶構造を明らかにしたことは評価できるが、自己ドープ型共役ラダーポリマーを開発できておらず、導電性の評価まで至っていない。
ポリジアセチレン骨格に導入する官能基(ドナー、アクセプター)は導電性を引き起こすために相応の電荷分離を引き起こすことが必要である。強いドナー・アクセプターの導入など分子設計からの根本的な研究による進展が期待される。
希土類-ゲル複合材を用いた可視光マルチカラーチューニング材料の開発 島根大学
西山桂
島根大学
北村寿宏
界面活性剤と芳香族とが自己組織化しオルガノゲルを合成し、ゲル中に発光希土類錯体を高濃度(800μM)で分散させた。実効的な錯体濃度は溶液中の1万倍に相当するので、励起状態における非線形プロセスを発現する場として有益である。本研究では、同一の配位子を有し、青、緑、橙の3原色で発光する錯体を合成し、加色法による発光カラーチューニングを行った。また、錯体はゲル中に高濃度で局在化しているという構造を活かし、錯体発光減衰をナノ秒分光法により測定した。その結果、「増幅された自然放出」が検出されたので、ゲルを使用した希土類レーザー媒質の開発に目処が付いたと考えられる。可視域希土類レーザーが可能となれば、従来のLD光源では到達できない波長が実現できる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に青色の発光体が実現でき、カラーチューニングが可能であることを確認し、白色発光体の可能性が見えてきたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、基礎研究の継続に加え、RGBをそろえた強みを生かし企業との共同研究を通じ、高機能発光デバイスや照明器具などへの実用化が期待される。
砥粒密度分布を最適制御した単層メタルボンドダイヤモンド砥石の開発 岡山大学
大橋一仁
CFRP部品や機能性新素材等の精密成形研削加工に利用される単層メタルボンドダイヤモンド砥石の砥石形状に伴う研削作業の負担分布に応じた砥粒密度分布を実現するべく、ダイヤモンド砥粒の運動挙動を利用して砥石表面への砥粒の付着現象を制御し、理想的な砥粒密度分布を有する単層メタルボンドダイヤモンド砥石を開発することを目標とし、所定の砥粒密度分布を砥石表面に与えることが確認できたことで、その実現への見通しを立てることができた。今度は、さらに砥粒分布制御の精度を上げるともに砥石形状変化に対応した技術に発展させ、特許化も含めて実用化への展開を進めたい。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、静電場内におけるダイヤモンド砥粒の運動特性の把握等を通じ、メタルボンド砥石の試作を行っており、砥流密度制御の実現性は見いだせたことは、評価できる。一方、この砥石により期待する研削性能が得られるかどうかの確認をするまでには至らなかったので、実際の加工において目標とする性能が得られるかどうかの確認が必要と思われる。今後は、試作砥石の評価実験を通じ、最適砥粒径、密度分布の目標値を明確に定めて研究を推進することが、望まれる。
粉末混入放電加工を利用した金型表面の高機能化技術の開発 岡山大学
岡田晃
岡山大学
梶谷浩一
放電加工仕上げ面と成型樹脂との離型性向上を目的とし、まず、灯油系加工液による放電仕上げ面において加工条件が加工面性状や樹脂との接着力に及ぼす影響を検討した。その結果、放電加工仕上げ面の表面粗さの増加とともに接着力は減少することが明らかとなった。また、従来仕上げ加工に用いられるシリコンおよびアルミニウム粉末混入放電加工では、その表面粗さと樹脂との接着力に明確な相関はなかった。そして、灯油系加工液の場合と比較すると、平均斜度の小さいその特異な表面形状によって樹脂との接着力は大きくなることが判明した。一方、ニッケル粉末混入加工液を用いた放電加工では、樹脂との接着力は小さくなることが明らかとなった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、表面の凹凸を制御することによって、離型力を従来の70%に押さえたことは評価できる。一方、耐食性については十分なデータが提供されておらず、耐食性向上のメカニズムについて解明が進めることが必要と思われる。また、新たな特許出願が望まれる。
今後は、半導体封止金型をターゲットとして、更に高い数値目標を掲げ、様々な方法や条件を検討されることが望まれる。
低吸水性粉液混和型PMMA系義歯床用レジンの開発 岡山大学
田仲持郎
岡山大学
齋藤晃一
現在、義歯床レジンはPMMA粉材とMMA液材を混和した餅状PMMA/MMA系樹脂組成物を成形し、重合することによって製造されている。着色など吸水が原因となる欠点を改善する必要があるが、既存の手法では、組成はPMMAそのものであり、物性改善の余地は殆ど無い。そこで、MMAに換えて我々がPMMA粉材をMMAと同様に膨潤溶解することを明らかにしたビニルエステルモノマーをベースとした液材を用いることによって、調製時の操作性および重合体の機械的性質を損ねることなく飽和吸水率を低下させることを目指した。その結果、液材としてメタクリル酸ビニルと1、4-ペンタジエン-3-オールで構成される混合溶液とすることによって、飽和吸水率を0.93mass%と既存の義歯床レジン(1.72mass%)に較べて半減させることを可能とした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、飽和吸水率を半減すると共に機械的特性も向上させ、義歯床レジンの欠点である脆さと吸水性を同時に改善したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、義歯床レジンとして多面的な評価を加えた実用化の加速が望まれる。今後は、特許出願を踏まえた国内外の企業との共同開発も検討されることが期待される。
超小型混合ガス成分分析センサ 岡山理科大学
秋山宜生
岡山理科大学
安井茂男
病気に関わるアセトンガスなどの特定ガス分析の可能な非接触型病気診断ガスセンサの研究開発を行っている。最近開発した「セレンナノワイヤを用いた単体型ガスセンサ及び混合ガスの成分分析の可能な単一アレイ型ガスセンサ」は、超小型でありながら、ヒーティングなしに室温動作により有機ガスの検出ができる特徴を有する。本研究では、健康チェックや病気診断用センサとしての実用化を目指して、センサ部の形状、基板材料による性能特性、素子への印加電圧および電流特性を調べ、ガスセンサの感度向上及び動作特性の最適化を検討した。この研究成果について特許出願を行い、JST支援によりPCT出願も行った。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特にセンサアレイによる混合ガス分離特性が再現性よく確認できたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、検出感度の下限の確認、混合ガスの分離と高感度検出との両立についても検討が必要と思われる。今後は、製品化に進む段階にあるので、具体的な開発項目を明確にして進められることが期待される。
シリコンナノシートを利用したπ電子系の集積と有機電子材料への応用 広島大学
大下浄治
ケイ素架橋したπ電子系骨格は、最近興味が持たれておりされており、有機電子デバイス・センサーなどの分野で、π電子系との間の軌道間相互作用(σ-π共役)を利用した新しい機能分子設計による材料開発が注目を集めている。本研究では、シリコンナノシートを架橋ユニットとして高濃度で機能性π電子系を導入し、σ-π共役とともにπ電子系間のスタッキング、およびナノシート内でのσ共役を利用することで、これまでにない材料設計を確立することを目的とした。このため、拡張したπ電子系としてナフチル基、ビチエニル基、スチリル基などを導入する手法を確立し、合成したπ電子系修飾シリコンナノシートの電子材料としての応用の可能性を検討したところ、光電変換材料として有機薄膜太陽電池に利用できる可能性が示された。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもシリコンナノシートにフェニル基以外のドナーおよびアクセプター型π電子系ユニットの新規技術に関しては評価できる。
一方、技術移転の観点からは溶解性、再現性や置換基の系統的検討など実用化に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
今後は、本研究成果のシリコンナノシートへのπ電子系の新規導入法を活用し物性評価や応用研究を進め太陽電池等に実用化されることが望まれる。
Plasma windowを用いた大気・真空インターフェースの開発 広島大学
難波愼一
広島大学
伊藤勇喜
高気圧アーク放電を利用したプラズマウィンドウは大気と真空を隔離し、一方で荷電粒子や軟X線に対しては透過率が高い革新的インターフェースに成り得る。本課題ではTPD型放電源(改良型アーク)を開発し、プラズマウィンドウとしての可能性を調べた。特に小型化・低コスト化を意識して有効プラズマ径2 mm、大差動排気系なしで大気圧から10-3 Torrの圧力差を僅か80 mmで実現する装置を開発した。20 A放電条件下でのプラズマは温度2 eV、 密度1015 cm-3であった。現在は冷却水量の問題で困難な放電電流100 Aのプラズマ発生により、目標とする圧力比10-6以上の高性能プラズマウィンドウが実現できるとの確証を得た。今後基礎研究をさらに重ね、数年以内での実用化を目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもプラズマ・ウインドウの原理の実証が行われた点は評価できる。一方、実用化に向けての課題を明確にして、技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、基礎的な研究であるが、具体的計画、コストなども考慮して研究を進めることが望まれる。
ビピリジン系D-π-A蛍光性色素を用いた色素増感太陽電池の開発 広島大学
大山陽介
広島大学
榧木高男
ピリジン環を電子求引性・注入性吸着基として有する新型ビピリジン系D-π-A蛍光性色素NIY1と従来型カルボキシル系D-π-A色素NI2を共吸着させたTiO2電極の開発を目指し、TiO2電極への色素吸着条件の最適化を検討した。両色素のTiO2電極への飽和吸着量(C0)を評価したところ、色素NI2(C0 = 1.8×1017 molecules/cm2)と色素NIY1(C0 = 1.4×1017 molecules/cm2)の飽和吸着量は同程度であった。両色素を共吸着させたTiO2電極を用いたDSSCの光電変換特性を評価したところ、短絡光電流(Jsc) = 5mA/cm2、光電変換効率(η) = 1.94%であった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも色素増感太陽電池に二種の色素を共吸着させたTiO2電極を用いて、光電変換特性を2倍程度向上している点は評価できる。一方、本研究で用いる色素を、さらに長波長で利用できるように改善を行い、変換効率を向上させる必要があると思われる。今後は、効率を大きく改善する材料の探索を含めて研究を進めることが望まれる。
レアアースフリー白色LED用蛍光発光材料の開発 広島大学
荻崇
広島大学
島筒博章
本研究では、レアアースを使用することなく、高輝度での発光が可能な白色蛍光体の開発・実用化を目指すことであり、以下の研究成果を挙げた。(a)GaNの青色LED励起で黄色発光する蛍光体の開発に関しては、励起波長が450nmで黄色発光するBCNO蛍光体の開発に成功した。(b)近紫外LED励起で青色、緑色、赤色発光する蛍光体の高輝度化については、(1)BCNO蛍光体のN源、C源として、窒素含有ポリマーの使用による発光強度の120%向上、 (2) SPring8での軟X線吸収分光測定による電子状態、結合状態の解析、 (3) BCNO蛍光体へのナノ粒子添加による色むら改善ならびに発光強度の増加(添加なしの場合と比較して200%向上)に成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にレアアースフリー材料によるCBNO複合体の高輝度化にとどまらずメカニズムの解明を行っており評価できる。
一方、技術移転の観点からは量子効率の向上、耐候性や発光寿命LED用蛍光体としての応用を視野に入れた研究を継続し、実用化が望まれる。
今後は、白色LEDは市場性や社会的インパクトが大きく、研究の進展が期待される。
真空・大気圧中で使用可能な精密搬すべり送装置用超低摩擦係数薄膜の開発 広島大学
加藤昌彦
広島大学
榧木高男
シリコンウェハ搬送装置において要求される精度は年々厳しくなっており、より高精度の摺動装置が望まれている。使用環境を考慮すると、大気圧下のみならず真空下で低い摩擦係数を発現する材料が必要とされている。本研究では、低摩擦係数であるSiC薄膜を用いた。真空プロセスにより微細構造を形成させ、SiC薄膜の摩擦係数のさらなる改善を試みた。その結果、微細構造形成により、大気圧および真空において摩擦係数が低減可能であることを明らかにした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にシリコンウェハ搬送装置向け高精度摺動装置に使用する真空下で低い摩擦係数を発現するためにSiC薄膜表面に真空プロセスにより微細凹凸構造を導入し摩擦係数が低減できることを明らかにしたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは再現性、信頼性の確認とメカニズムの解明を進め、大気・真空下で低摩擦係数を有する高精度摺動装置の実用化が望まれる。
今後は、半導体製造設備関連だけでなく航空・宇宙機器関連への応用も含め実用化されることが期待される。
新規な多孔質単結晶「スポンジ結晶」による高速イオン伝導体の開発 広島大学
犬丸啓
広島大学
伊藤勇喜
ヘテロポリ酸塩は、結晶内部にスポンジのようにミクロ細孔を生成する全く新しいタイプの多孔質単結晶「sponge crystal(スポンジ結晶)」を形成する。本研究では、ヘテロポリ酸塩スポンジ結晶のプロトン伝導性を調べ、さらにイミダゾールなどの有機分子を吸着させた新規プロトン伝導体を合成した。ヘテロポリ酸塩(NH4)XH1-XSiW12O40の乾燥状態での伝導率はx = 3の場合10-8 (60℃)~10-6 (300℃) S cm-1 であったが、イミダゾールとの複合化により、200℃以上では伝導率の低下が見られるものの、150℃で約2桁の伝導率上昇が実現できた。今後、細孔の連結性の解析と制御が重要であることが分かった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもスポンジ結晶のミクロ細孔へのイミダゾールの内包に成功したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、基礎原理に立ち返り伝導機構に及ぼす細孔構造の再設計などの基礎研究やデータ積み上げなどが必要と思われる。
TiB2基複合材の常圧合成法の開発 宇部工業高等専門学校
吉田政司
宇部工業高等専門学校
黒木良明
二硼化チタン(TiB2)は、軽量で、高硬度、高耐食性、耐熱性を有する材料であるが、難焼結性であるため、緻密で高硬度な材料を作製することが困難であった。申請者は、Al3Ti又は(Al,M)3Ti(MはNi,Cr,Fe,Mo,Cu)を添加し加圧焼結することによって、1000℃という極めて低い温度で、緻密で高硬度な焼結体を作製できることを見出している。Al3Ti、(Al,M)3Tiも軽量で耐熱性、耐食性に優れた材料であることから、これらのTiB2系複合材は、特に高温部材としての応用が期待される。今回は、常圧でTiB2基材料を作製する技術開発と、高温部材としての実用化のための高温強度測定を実施した。常圧焼結については、十分な結果を得るにはいたらなかったが、加圧焼結法で作成した試料で、700℃での引張強度400MPaが得られ、高温部材として有望であることが示された。 当初目標とした成果が得られていない。中でも、当初目標値のビッカース硬度に対して、目標を大きく下回っており、達成できなかったことに対して、当初、考えていた仮説に対して何が違っていたのかの考察をおこなうことが必要である。今後は、セラミックスの常圧焼結は実用上の重要な課題であるため、さらなる創意工夫により、新たなシーズを見出すことが望まれる。
薄板状シリコン単結晶の直接育成技術の研究開発 山口大学
小松隆一
山口大学
森健太郎
太陽電池SiウエハはSiインゴットを切断して作製されるが、その時の切断ロスはインゴット体積の60%を超える状況であり、太陽電池Siの低コスト化の障害になっている。我々が開発したSi融液に濡れない基板に種結晶とその上にSi原料を設置し融解凝固させることで、切断フリーの板状単結晶育成を目標に検討を行った。その結果、40mm角の殆ど単結晶の板状Siが育成出来た。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、初期の目標である単結晶薄板状シリコンを育成出来たことは、優れた成果であり、評価できる。一方、技術移転の観点からは、太陽電池あるいは他のシリコン電子デバイス応用としては、単結晶性はもちろんであるが、電気的・光学的評価など太陽電池としての特性評価を実施することが望まれる。今後は、特性評価を実施し、共同研究企業の探索を進め、研究を発展させることが期待される。
高効率太陽電池のための可変ワイドギャップアモルファスカーボン半導体の開発 山口大学
本多謙介
山口大学
森健太郎
低コストかつ高効率な太陽光発電システムの実現のため、バンドギャップが可変かつ、低コストの半導体材料の開発が急務となっている。本研究課題では、光学ギャップを任意に制御可能なアモルファスカーボン半導体の実現を目標とした開発を行った。本研究課題開始までに、CVD法で作製するアモルファスカーボンに20%シリコン原子を添加することによりアモルファスカーボン中に含まれるsp2炭素の連なりを縮小させ、光学ギャップ1.7eVのアモルファスカーボン半導体の実現に成功している。本課題では、CVD合成法でカソードカップリング法を採用することにより、シリコン添加量を40%まで増加しsp2炭素の連なり最小限とすることで、光学ギャップ2.7eVのアモルファスカーボン半導体の合成に成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に光学ギャップを2.5 eV ~ 1.0 eVの範囲で制御できた点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、P型のキャリヤ密度の目標を達成することが望まれる。今後は、太陽電池としてのPN接合を作製して、電池特性の評価ができるようにするが期待される。
駆動速度により変化するピエゾアクチュエータのヒステリシス特性を補償する新しい制御技術の開発 山口大学
藤井文武
山口大学
浜本俊一
本研究では、駆動速度に依存して変化するピエゾアクチュエータのヒステリシス特性を補償することのできる制御技術の開発を目標とし、ヒステリシス特性を定量的に表現できる数学モデルの一つであるプライザッハモデルを拡張し、ヒステリシスの速度依存変化に適応して入出力特性を変化させることのできる適応プライザッハモデルの構築を試みた。また、著者らの提案手法である「補間により構築した逆ヒステリシスモデル」によるフィードフォワード制御器と、ヒステリシス特性をプラントの摂動ととらえH∞制御を利用して設計したフィードバック制御器の併用による2自由度制御系を構築し、ヒステリシス特性の十分な補償性能が得られることを確認した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、逆モデルによるフィードフォーワード補償器とロバスト制御器を組み合わせた位置決め制御が良好な結果を示せたことは評価できる。一方、拡張プライザッハモデルの適応的重み調整について実現性を示唆する十分な指針が示されておらず、今後のさらなる検討が必要と思われる。今後は、拡張プライザッハモデルの適応的重み調整に挑戦するとともに、現段階でも利用可能な部分があるので、その点の産業応用を考えることが望まれる。
高コントラスト液晶表示を実現する機能性ナノ粒子の開発 山口東京理科大学
白石幸英
地方独立行政法人山口産業技術センター
上村達男
高コントラストの液晶ディスプレイ(LCD)が次世代のディスプレイとして期待を集めている。山口東京理科大学では、以前ゲストホストモードLCDにフラーレン(C60) を添加し、LCDのコントラスト向上を見出したが、C60 のホスト液晶に対する相溶性が良くない問題があった。一方、カリックスアレーン(C[n]A)はフェノールの2,6位がメチレン基を介してn個環状につながったオリゴマーで、C60 を強く包接することが報告されている。本研究では、C[n]Aを保護剤とする新規機能性ナノ粒子を創製し、C60との包接複合体を形成し、これを添加したLCDのコントラスト向上を示すことを見出した。 本研究は、研究計画に沿って、着実に進められ、当初の目標に達成する結果も得られ、特許出願も完了し、概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。実験室レベルでは、申し分ない結果と言える。特に、C[n]Aを保護剤とする新規機能性ナノ粒子を創製し、C60との包摂複合体を形成し、これを添加したLCDのコントラストを向上を見出すことに成功したことは評価できる。技術移転の観点からは液晶関連メーカーでの実用化が望まれる。今後は、スケールアップによる課題が新たに発生する可能性もあり、信頼性の確認、コスト/性能を見極め、企業化に向かい展開されることが期待される。
層状ナノシート光触媒の色素増感太陽電池への応用展開 徳島大学
中川敬三
株式会社テクノネットワーク四国(四国TLO)
辻本和敬
自己組織化プロセスによるラメラ相鋳型法により開発した層状ナノシート光触媒を含むゲルを利用してチタニア電極を作製し、色素増感太陽電池への応用を行った。ナノシート層間に新しい物質粒子層の積層ナノシート構造を形成させ、層状構造の耐久性を向上させることに成功した。しかし、有機色素の光分解実験においては活性が得られ無い等の電極として実用するための今後の研究課題も見つかった。一方、色素増感太陽電池の検討では層状ナノシートのみでは効果的な結果が得られなかったものの、P-25と層状ナノシートを混合したゲルを用いて作製した電極では、重量比を変化させた際にP-25標準電極を上回る変換効率が得られた。今後低温焼成による電極作製法の確立等によりさらなる効率の改善が期待できる。 ?当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも層状ナノシートに新しい物質層を形成させることにより、安定な構造の目的生成物が得られた点は評価できる。一方、チタン層の高性能化を目指した場合、光触媒活性が電池性能に大きく影響する点と、エネルギー変換効率と寿命の点で他の方式に匹敵するエネルギー変換効率の向上、集中した技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、提案された計画により安定構造を保持したナノシート材料が得られたが、新しい物質層が光透過効率を妨げて変換効率の低下に繋がっている可能性についても検討されることが望まれる。
粒界相により絶縁化された高抵抗SiC材料の常圧焼結 香川大学
楠瀬尚史
香川大学
渡辺利光
省エネ効果の大きなSiCパワーデバイス半導体の製造工程で使用される静電チャックには、高熱伝導性且つ107~1012Ωcmの電気抵抗を有するSiC焼結体が必要である。通常、SiCの電気抵抗は104~105Ωcm程度であるため107Ωcm以上の高抵抗を得るために、約70体積%以上の絶縁性第二相粒子を添加する必要があることが予想される。しかし、従来の大量に第二相粒子を複合化する方法では、SiC本来の高熱伝導性を損い且つ、不純物の混入が問題となってしまう。そこで申請では、実用的な常圧焼結法を用い、わずか7.5vol.%の焼結助剤の添加によって、焼結体中を連続して存在している粒界相に絶縁性物質を析出させて、SiCの電気抵抗を107Ωcmまで上昇させることに成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に様々な添加物を試みAl2O3-Y2O3系を見出し、ホットプレス法より簡便な常圧焼結で107Ωcmオーダーの高抵抗SiCを作製したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、二面粒界に液相を残存させる新たな発案による更なる高低効果が望まれる。また、現状達成レベルでの高抵抗化で、静電チャックとしての応用に向け企業と共同研究が進められており実用化が期待される。
脱臭能を有した嵩高紙用填料の創製 愛媛県産業技術研究所
福垣内暁
本研究では、様々な種類の炭酸カルシウムから、マイクロローズの合成を検討した。その結果、常温合成、50℃合成いずれにおいても、本研究の目標値「嵩高度6.5cm3/g」を大きく上回る8.4cm3/gの嵩高度のマイクロローズを得ることができた。更に、マイクロローズのカチオン担持能を活用し、マイクロローズにCuイオンを担持することで、アンモニア除去率96%のカチオン担持マイクロローズを得ることに成功した。加えて、マイクロローズに、Cu、又は、Zn、又は、Agイオンを担持することで、50℃加熱環境下においてアンモニアの脱着が認められないほどの強力な吸着力を有するマイクロローズを得ることに成功した。今後は、吸水消臭紙などへの展開を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に汎用の重質炭酸カルシウムから温和な条件で嵩高いマイクロローズが得られるとともに、これにCu等の金属イオンを担持させることにより除去率96%と高いアンモニア除去性能があることを見出したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、応用分野が明白で産学連携体制も確立されておりアンモニア以外の様々な臭気に対する吸着能を確認するとともに量産に向けた基礎検討などの技術検討や特許出願を進め嵩高紙用填料として実用化されることが望まれる。
今後は将来の高齢化社会のニーズを捉えた大人用おむつや食品包装材用途に本研究成果の嵩高紙用填料が応用されることが期待される。
三次元網目構造プロトン型リン酸ジルコニウムによるリチウム回収用吸着剤の開発 新居浜工業高等専門学校
中山享
Liイオン電池からの希少金属(Co、Mn、Niなど)を回収した後の処理溶液中から、Liを高純度/高収率で回収できるLi回収用吸着剤の開発を目標とした。そのLi回収用吸着剤には、「直接結晶析出法」によって調製したHZr2(PO4)3を用いた。HZr2(PO4)3中のHイオンとLiイオンの置換と同時に僅かに起こるNaイオン置換を抑える技術の開発に取り組んだところ、HZr2(PO4)3へのNa置換を完全に抑えることはできなかったが、(Li+Na)溶液中からLiを高純度/高収率で回収できる可能性が高いことが明らかになった。これにより、Liイオン電池の処理溶液中からのLi回収用吸着剤としてHZr2(PO4)3が有用であり、実用化へ向けた取り組みの展開が期待できる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも特定条件で処理されたリン酸ジルコニウムで、Naの混在はあるものの目標に近いLi選択吸着特性が得られたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、Na混在系でLi濃度を高くするほど、大幅なLiの回収が向上することの再現性を確認するとともに、共同研究企業とLiリサイクルを想定しLiイオン置換・脱離特性の確認、Li回収率や吸着剤のリサイクル性の確認等の技術検討やデータの積み上げが望まれる。また、非常に丁寧に数多くの実験により得られた本研究の知見に関して学会、論文誌等を通じ議論を進めてほしい。
Liイオン電池の需要は自動車やモバイル機器の普及とともに急速に高まっており、同時にLiのリサイクルに対するニーズが高まっており、今後の本研究の進展が強く望まれる
各種ガスの識別機能をもつ水素吸蔵量センサーの開発 九州工業大学
孫勇
九州工業大学
荻原康幸
本研究開発では、当初計画した計測システムとセンサー材料開発の二つのテーマについて十分達成できた。テーマ1の計測システムの開発について、計測装置を完成し表面吸着ガスが分析できる真空装置の組み立てが終了すると同時にH2を始め、O2やN2ガスのセンシング特性も取得している。測定パラメーターとして温度変化と電界強度の変化を実現し、可変範囲は10Kから500Kまで、0dBmから25dBmまで自由に調整できる状態となっている。また、テーマ2のセンサー材料の開発について、数種類の材料を試したが、最終的に超電導材料YBCOが十分なセンシング特性を持っていることを明らかにし、現在製品開発を目指し関係企業と検討している。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に水素吸蔵量センサーと、ガス識別センサーの両方を開発できた点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、特許出願とセンシング反応のメカニズムの解明が必要と思われる。今後は、経時変化とその回復に関しては、定量的なデータの蓄積が望まれる。
気相光重合によるマイクロリアクターへの挑戦 九州工業大学
西田治男
九州工業大学
荻原康幸
本研究は、小さな基板表面に多彩な機能を有するマイクロリアクターを作製する基本技術を開発するものである。光重合性モノマーをガス状で供給しながら、予めデザインされた設計図に基づき、基板表面の集光した地点で光重合を行いながら、X-Yプロッターをコンピュータ制御により動かすことで、異なる化学特性を有するポリマーで表面修飾された流路を基板表面に構築することができることを確認した。さらに、設計図に基づき、疎水性モノマーや親水モノマーなど、モノマーの種類を順次変えることにより、流路の各部位に必要とされる化学的/物理的機能を付与できることを確認した。本研究開発成果に基づく特許出願を至急行うことを予定している。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、小さな基板表面に各部位に多彩な機能を有するマイクロリアクターを作製する基本技術を確立したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、研究成果の特許出願・論文発表・展示会参加等の外部発表に加え、表面の機能化や耐久性の確認など実際のマイクロリアクターへの適応性の検討を進めるとともに、積極的に産学連携体制の構築を進め早期に実用化されることが望まれる。
マイクロリアクターは、医学や生命科学、電子材料の分野への利用が期待されており、今後本研究成果の実用化が期待される
素子ばらつきの影響を受けず超低電圧・超低消費電力動作が可能な完全デジタルSRAM回路の研究開発 九州工業大学
中村和之
九州工業大学
山崎博範
素子の微細化により性能ばらつきや経年変化等の問題が深刻になっており、特に、オンチップメモリに使われるSRAMは、低電圧化によりその動作マージンの確保が危機的状況になっている。本研究では、これらの影響を全く受けずに、超低電圧動作が保証される完全デジタル動作の新しいSRAM回路(レシオレスSRAM)の研究開発を行った。12トランジスタ型のレシオレスSRAMセルと周辺回路を提案し、0.18umCMOSによる性能比較評価チップを開発した。その測定結果より、従来の6トランジスタ型のCMOS SRAMに対して、素子性能が桁違いにばらついても動作に全く支障がなく、さらに半分以下の電源電圧:0.22Vで動作可能であることを実測により確認できた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にSRAMの12トランジスタセルを提案し、実際に試作と評価をすることで、バラツキに強く、低電圧動作が可能なことを実証した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、航空宇宙用には、宇宙線に対する耐性の評価と対策を検討する必要がある。今後は、提案のSRAM技術が従来技術と比較して、優位になるような用途を見出すことが期待される。
新たな作製技術によるパワー半導体用放熱材料の実用化に向けた研究 九州工業大学
高原良博
九州工業大学
山崎博範
独自に開発した金属粉末の混合技術と高密度バルク化の技術を用いて高い熱伝導性を有するCu-Mo複合材料の開発を行った。熱力学データを基に選定したNiの微量添加によりMoとCuの濡れ性の改善に成功し相対密度99.6%を達成した。この緻密化により目標値の98%の熱伝導率(196W/(m・K))が得られた。また開発した高密度バルク化の技術に対して、作製工程をより簡素化するためにキャンニング法を用いたHIP処理によるバルク化の検討を行った。この方法で作製した試料の相対密度は98.5%であった。今後、大型試料の作製条件の確立と性能の確認を行い製品化に向けた取り組みを進める。また、HIP処理による新たなバルク化の技術を開発し作製工程の簡素化を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にNiの微量添加がCu-Mo複合材料の高密度化と熱伝導率の向上に効果的であることを見出すとともに、HIP処理によるバルク化で焼結温度を下げプロセスの簡素化が図られ低コスト化の方向性を示すことができたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは特許の出願やMo粒子が粗大化しないNiの限界添加量の把握、装置の大型化への対応や更なる簡便な処理の検討を進め放熱材料としての実用化が望まれる。
今後益々パワーモジュールの小型・高出力化進展が予想され、低コストで高性能な放熱材料への期待は大きく、本研究のさらなる進展が期待される。
三原色発光型ゲルの創製とその機能化 九州工業大学
柘植顕彦
九州工業大学
小川勝
βジケトン部位とアミド結合、またはウレア結合を持ち、種々のアルキル鎖を有する配位子を合成した。 このユーロピウム錯体について、そのゲル化挙動を詳細に検討した。 アミド結合を持つ場合、アルキル鎖長9と11のものは、クロロホルム、ヘキサン1:1溶液中でゲル化が認められた。 ゲルのSEM写真を撮ったところ、0.3-0.5マイクロの幅を有するファイバー状が観察された。 ウレア結合を持つ場合、アルキル鎖長10と12の場合、クロロホルム、ベンゼン中でゲル化が認められたが、ヘキサン、シクロヘキサン、エタノール中ではゲル化しなかった。 さらに、2本、3本のアルキル基を有する配位子についても、ゲル化することも見出した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にユーロピウム配位子として、βジケトン部位とアミド結合あるいは、ウレア結合を有する多くの化合物を合成し、ゲル化と発光挙動を探索し赤色発光ゲルを創製したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、ゲル化発光材料開発をさらに展開し発光部位を希土類金属とするか、有機化合物とするかなどを検討し、青色及び緑色発光材料の研究開発が期待される。
今後は、青、緑、赤の三原色ゲル化発光材料が開発され、新たな応用展開されることが期待される。
高速鍛造法による輸送機械部材向け高強度高靭性アルミニウム合金の開発に関する研究 九州工業大学
恵良秀則
九州工業大学
波多江俊一
1)技術移転の可能性が見込まれる大学等の研究成果
温間でのネットシェイプ加工により製品を得て、しかも加工と同時に強度のみならず靭性を向上させた製品を作製する方法で、衝撃変形を利用していっそうの強度上昇と靭性の向上を図ることを目的とした。溶体化後の温間衝撃変形により、強度が400MPa以上、伸びが13%以上という高強度を得た。アルミニウム合金で400MPa以上という高強度は、自動車用の鋼板に使用される高強度のリン添加アルミキルド鋼に匹敵する。
2)申請課題の独創性(新規性)及び優位性
・新規性:本方法で得られた合金は、靭性も優れており、材料の信頼性向上にも大きく寄与している。
・優位性:特殊な元素を加えないので、リサイクル性が向上する。また、加工と熱処理を一体化したことでコスト削減に繋がっている。本合金は、特に、輸送用機械において大幅なエネルギー削減効果をもたらす。 
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、衝撃塑性加工により、ニアネット成形のみならず強度と延性・靭性を兼備するアルミ合金をユニークな微細組織により発現させようとする斬新な技術を確立しつつあることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、加工条件(温度、時間、ひずみ量等)と最適な機械的性質の関係に関するさらなる系統的調査により実用化に進むことが望まれる。また、変形に関するシミュレーションに関しては有効なモデルを見出すことができなかったので、さらなる検討が望まれる。今後は、自動車用部材としての広範な用途が期待され、車体の軽量化による省エネルギーが期待されるので、本事業で連携した企業との連携により、研究開発をステップアップし、実用化につながることが期待される。
高効率かつ低コストな次世代リソグラフィー光源開発のための評価技術の確立 九州大学
富田健太郎
九州大学
古川勝彦
次世代の半導体リソグラフィー用光源として期待される極端紫外(EUV)光源は、現状では使用する光の波長13.5 nmの発光効率が低く、実用化の障害となっている。EUV光の効率向上には、発光効率を支配するEUV光源用プラズマの電子温度や電子密度、イオン密度の計測を行う必要がある。本課題ではトムソン散乱法による、EUV光源用プラズマの電子密度・電子温度・イオン密度計測を試みた。様々なノイズ信号を除去し、微弱なトムソン散乱信号を検出するために、新たに高波長分解能分光器を作製した。これにより、トムソン散乱スペクトルを十分な精度で観測し、各パラメータの決定を可能とした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、次世代の半導体リソグラフィーとして期待される極端紫外(EUV)リソグラフィー用のプラズマ光源のパラメータを短時間、高精度に測定できる技術を確立した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、物理モデルに基づいたメカニズムの解明と、再現性、信頼性を確保するデータの蓄積が望まれる。今後は、成果の特許出願とともに、企業との連携により、EUVリソグラフィの実用化が促進されることが期待される。
磁気ナノ粒子を用いたセンチネルリンパ節イメージングシステムの開発 九州大学
吉田敬
九州大学
古川勝彦
本研究では、乳癌等のリンパ節転移を調べる際に行われるセンチネルリンパ節生検において、現在主に行われている放射性物質を用いたRI法に替わる「磁気ナノ粒子による安全なセンチネルリンパ節イメージングシステムの開発」を行った。「磁気ナノ粒子の高性能化」、「高感度イメージングシステムの開発」により目標とした100μg Fe磁気ナノ粒子の検出距離50 mmでの検出を実現した。傾斜磁場を用いて25 mm離れた2個の磁気ナノ粒子サンプルの識別には成功したが、目標としていた空間分解能10 mmは達成できなかった。より急勾配な傾斜磁場システムの開発および更なる磁気ナノ粒子の高性能化が必要であり、実用化への課題となった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に本研究では「磁気ナノ粒子の高感度検出システムの開発」で検出距離50 mmでの100 μgの磁気ナノ粒子の検出を目標とし、これを達成した。さらに「高分解能イメージング技術の開発」で検出距離50 mmでの10 mm離れた磁気ナノ粒子群の識別を目標とし、25mmの識別を達成した。また、磁気ナノ粒子を分画し、高磁気粒子の調整と高感度検出システムの作成を行っており、技術移転につながるものと考えられる。特許出願等の知的財産化が待たれる。高分解能イメージングのための技術的課題を明らかにし、明確な目標にそった次の技術開発プロセスが明瞭であることは評価できる。一方、磁気ナノ粒子を用いた臨床検査技術として社会還元が期待できるが、技術移転や産業化の方向が見えない。実用化プロセスを明確にすることで実用化が望まれる。今後は、センチネルリンパ腫の他にもRI代替法として応用可能な技術ではないかと思われる。異分野・共同研究企業等との意見交換によって、新たな技術展開をされることが期待される。
ユニバーサルな分子ラジカルビーム発生装置の開発 九州大学
古屋謙治
九州大学
古川勝彦
本課題を実現するため、実施期間内において次の項目、(1)同位体分離された7Li+イオン源の開発、(2)Li+イオン源の大強度化、(3)低真空中でのLi+イオン発生と高真空領域への注入、について順に取り組んだ。(1)については比較的安価な同位体分離された7LiOH・H2OとSiO2、Al2O3からユークリプタイトを合成し、これをイオン源として用いることで少なくとも数時間に渡り安定した7Li+イオンビームを得ることに成功した。(2)については高真空下において2段の差動排気用アパチャを通過した後でも十分量(> 1010個/s)のLi+イオンを得ることに成功した。(3)では低真空領域内において1012個/s程度のLi+イオンを発生させることに成功したが、高真空領域へLi+イオンを導く段階において大きな困難を伴った。最終的にこの困難の原因は判明し、今後改良すべき点が明確になった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、ユニバーサルな分子ラジカルソースという目標には意義があり、目標達成のための対策を明らかにしたことは評価できる。一方、問題点解決の方法が明確になったとされているが、その具体的な方法が不明であり、さらなる改善が必要と思われる。今後は、イオン発生法の検討だけでなく、イオンを基板に付着させる具体的な方法を含めて、システム全体を再設計し、目標達成に向けての研究の継続が望まれる。
カルシウムフェライトの超微粒子調製法の確立と高表面積化の達成 北九州工業高等専門学校
前田良輔
公益財団法人北九州産業学術推進機構
米倉英彦
元素戦略および環境保全の観点から、資源的に豊富でエコ・フレンドリーな元素群による材料開発が注目されている。本研究では、可視光吸収が可能かつエコ・フレンドリーなカルシウムフェライトについて、微粒子化や高分散化による高比表面積化、バンドギャップの狭窄化を実施し、カルシウムフェライトの光触媒特性の改善を図る。具体的には、(1)異種原子導入による微粒子化と高分散化、 (2)低温かつ短時間焼成による高比表面積化の達成、 異種原子添加による可視光吸収波長域の拡大について検討した。その結果、CaFe2O4に異種原子(Ti)を導入すると、結晶子サイズが減少するだけでなく、試料表面の多孔質化や粒子同士の高分散化(微細化)が進行して比表面積が増大すること、マイクロ波を利用すると高純度のCaFe2O4粉体が短時間焼成で得られることが判明し、高比表面積化を達成した。なお、異種原子(Ti)導入によってCaFe2O4の光学的バンドギャップはあまり変化しなかった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にマイクロ波を用いたプロセスにより、TiドープCaFe2O4に対して当初の目標の約2倍の比表面積を実現したこと及び本プロセスが電気炉を用いる従来法に比べて約10%のエネルギー消費であることは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、CaFe2O4を光触媒として将来展開していくためには、バンドギャップの制御の方が重要でありTi4+のようなd電子の無いイオンのドープよりもd電子を有する他の遷移金属元素のドープなどの検討が望まれる。 
微細三次元形状測定用高アスペクト比極小径ファイバスタイラスの製造および校正技術の開発 北九州市立大学
村上洋
公益財団法人北九州産業学術推進機構
川口秀樹
本研究では、直径1μmの極小径の光ファイバの接触式スタイラスを用いることにより、低測定力・検出機構が簡便で5μm以下の溝や穴を有する微細形状を測定可能な装置の開発を目的とし、小径で高アスペクト比の接触式スタイラスの製造およびその先端部形状の校正技術の開発を行った。
その結果、フッ化水素酸を用いたウェットエッチングにより直径1 μm以下(約0.4 μm)、長さ約1.5 mmのスタイラスシャフトを製作可能であることを確認した。また、スタイラス接触子の直径は、幅1mmのブロックゲージ幅の測定値とブロックゲージの幅との差より算出することで接触子径を測定できることを確認した。また、AFM(原子間力顕微鏡)を用いることで、接触子形状を測定可能であることを確認した。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、当初の製作スタイラスの目標直径1μmの約半分の0.4μmを達成したことは評価できる。一方、接触子形状の校正アルゴリズムおよび測定手法にも着手したが、簡易的な測定には成功しているが、精密測定は実現できていないので、さらなる検討が必要と思われる。また、小径スタイラスの場合、静電気等の影響によるスタイラス自身の曲がりなども無視できなくなるので、その補正方法等も検討することが、必要と思われる。今後は、実用化には、企業連携が不可欠であるので、連携に向けた取り組みを進めることが望まれる。
光スイッチを持ったレセプターによるセシウムイオンの光輸送技術の開発 佐賀大学
竹下道範
佐賀大学
佐藤三郎
本課題はフォトクロミックジアリールエテンを光スイッチ、ポリエーテルやクラウンエーテルを結合部位とした、能動輸送可能なセシウムイオンレセプターを開発し、セシウムイオンを光濃縮することを目標とした。まず、以前合成したジアリールエテン光スイッチをもったクラウンエーテルを用いてセシウムイオンの液膜輸送実験を行ったところ、実用化できるほどの良好な結果は得られなかった。そこで、新規なセシウムイオンレセプターとして、ポリエーテルで架橋したチオフェノファン-1-エンを設計し、合成した。得られたチオフェノファン-1-エンのフォトクロミック挙動について検討し、光スイッチが機能することが明らかになったので、今後、大量合成をおこない、光能動輸送を検討する。 光スイッチをもったセシウムイオンレセプターによるセシウムイオンのみを光能動輸送する化合物が得られておらず当初の目標は達成されたとは言いがたい。
しかし、その前段となる新規化合物(チオフェノファン-1-エン)にフォトクロミック挙動が見られ、光スイッチ機能を有することが明らかにされているので、セシウムイオンの光能動輸送の早急な確認が望まれる。
省エネルギー溶融塩電解による金属マグネシウムの回収技術 佐賀大学
池田進
佐賀大学
佐藤三郎
海水からの晶析プロセスで精製した塩化マグネシウムを電解浴に用い、ボロンドープダイヤモンド(BDD)被覆電極によるマグネシウムの電解回収を実施した。電解回収に先立ち、両極がグラファイト電極や陽極がグラファイトと陰極が鉄からなる従来の電極。さらに、両極がBDD被覆電極からなる電気化学挙動をサイクリックボルタメトリー(CV測定)で調べた。得られた分極曲線から求めた電位窓(電位)の大きさを比較した。次に、従来のグラファイト電極や鉄電極で指摘された課題(1.電極の消耗、2.電流効率の低下、3.不純物混入)がBDD被覆電極で改善できるか否かを明らかにした。また、電解回収したマグネシウムの物性評価を実施した。これらの結果から、BDD被覆電極が従来の電極に比べて優位性の高い電極材料であることが分かった。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に海水からの晶析プロセスで精製した塩化マグネシウムから金属マグネシウムを電解回収する際の電極にボロンドープダイヤモンド(BDD)電極を両極に使用することで電極の消耗と不純物の混入を抑制できることなどの優位性を明らかすることができ、顕著な成果が得られた。
一方、技術移転の観点からは電解回収での電流効率は重要な評価項目であり、企業と共同研究を進める中で確認・改善し、再生医療用のマグネシウムスキャホールド製造向けの回収金属マグネシウムとしての実用化が期待される。
本研究は省資源や省エネの点から有用であり、今後は成果の社会還元が最大化できるよう技術移転や実用化に向け産学連携体制を構築し、実用化されることが期待される。
機能性材料を目指したジシリルベンゼン誘導体の安全で安価な合成法の開発 佐賀大学
北村二雄
佐賀大学
佐藤三郎
有機ケイ素化合物は機能性材料としてその利用が期待されているが、ジシリルやポリシリルベンゼン類の従来の合成法は、発がん性で猛毒なヘキサメチルリン酸トリアミド溶媒と厳しい反応条件が必要とされる。その方法を改善するため、本研究課題では、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンを溶媒とし、金属マグネシウム、銅塩、安価なジクロロベンゼン類とクロロトリメチルシランの反応により、ジシリルベンゼン誘導体を安全で安価に製造する方法を開発した。さらに、この方法の基質適用範囲と大量合成を検討し、技術移転可能な、安全で安価なジシリルベンゼン類の製造方法を確立した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)が不要な、ベンゼン環にトリメチルシリル基を導入する方法を開発したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、銅塩の使用量を触媒量程度までに軽減することや当初予定の100ミリモルスケールでの合成を実現するなどでの実用化が望まれる。今後は、還元剤として金属を用いない手法に変換することや多種の芳香族系の機能性化合物への展開も検討されることが期待される。
衝撃波を用いた食品加工用小形高電圧発生回路に関する研究開発 熊本高等専門学校
大田一郎
熊本高等専門学校
上甲勲
本研究では、衝撃波を用いて食品加工が瞬時に行える食品加工用の高電圧発生回路について開発を行った。回路シミュレーションの結果を基に、個別部品を用いて回路を試作し、実験によって、200μFのキャパシタを3.5kVまで充電して、放電試験までを実施できた。昇圧回路では、突入電流を抑えるためのソフトスタート回路が必要であることと、放電回路では、キャパシタの充電エネルギーを効率よく衝撃波に変換するために、損失抵抗を減らす必要があることが分かった。今後はこれらの改良を行い、安定した衝撃波を発生させる予定である。試作回路のサイズと重量は、当初の数値目標をほぼ達成し、価格についても量産になれば十分目標値を達成できる見通しがついた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に家庭用電源から高電圧を発生する小型で軽量なスイッチトキャパシタ装置を実現した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、突入電流を抑制するソフトスタート回路の開発や、衝撃波発生効率を高める工夫が必要である。今後は、食品加工分野に限らずに、衝撃波の実用化を探るための研究用小型実験装置の開発が期待される。
円偏光性を有する光発光材料の開発 熊本大学
澤田剛
熊本大学
緒方智成
本研究は有機EL素子に利用可能な、光応答性を有する新しい円偏光発光材料の開発を目的としている。光応答性部位にジヒドロピレンを用いて、蛍光性部位としてアントラセン、カルバゾールキノキサリンなどを用いて不斉を有する発光材料を合成した。アントラセン、カルバゾールを置換した発光材料は、長波長シフトしたエキシマ発光と軸性キラリティを示し、高い成膜性が確認された。しかし光応用性は示さなかった。一方キノキサリンを縮環した発光材料は、面性キラリティとともに、光異性化に伴う発光波長の変化が観測された。これは光応答性の円偏光発光材料としての可能性を示唆しており、発光特性の評価、発光デバイス化が期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にアントラセンおよびカルバゾール環の導入により、蛍光発光現象をとらえ、円偏光発光材料開発への可能性を探る分子設計方向を見出している点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、基礎材料となる分子の設計、合成、評価ができたことから、プロトタイプからパイロットプラントへの道筋を明らかにし、材料としての評価が必要と思われる。さらには今後、 有機EL発光をフィルターを使わずに円偏光に変換する新しい円偏光発光材料が開発され、円偏光度の変調制御との組み合わせにより、高速光通信や無線光通信などへの応用が可能にれば、本研究の社会還元は計り知れないほど大きい。
高次機能シェル層を有するコアシェル微粒子による精密研磨への応用 熊本大学
伊原博隆
熊本大学
緒方智成
本探索研究では、コロイダルシリカ粒子を自己組織化させながらポリマー粒子表面に単層で被覆・固定化するコアシェル造粒技術をベースとし、シェル層の多層化および他の無機材(ナノダイヤやセリア、チタニア、アルミナ)との複合化による硬度調節や化学研磨機能等が付与された高機能砥粒の開発を目指した。その結果、従来の物理吸着法に比べナノ粒子が脱落しにくい安定化した、かつシェル硬度が調節されたコアシェル粒子が得られた。一段階プロセスによる製造技術であり、使用する無機材の最少化も実現可能であるため、低コスト化が見込める。サファイアに対する研磨性評価では高い平滑性が達成され、精密研磨粒子として高い機能を示した。今後は粒子メーカー、研磨剤メーカー等への展開を目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもシェル層の多層化、シェル成分の複合化によりシェル粒子の脱着の少ない高機能砥粒を開発し、精密研磨粒子として研磨能の高さについても確認した点に関しては評価できる。一方、製造条件の最適化により、低コスト化の可能性についても具体的な検討などが必要と思われる。今後は、研磨用途だけでなく、光散乱材やフィラーとしての活用など、新たな枠組みでの産学官共同研究が展開されることが期待される。
全鋼種に適用可能な新しい炭窒化法の技術開発 熊本大学
森園靖浩
熊本大学
東英男
ステンレス鋼の優れた耐食性は、その表面に存在する不動態皮膜に由来する。しかし、この存在が鋼中への炭素や窒素の拡散浸透、いわゆる浸炭や窒化といった表面改質を困難にする。これまでにプラズマ浸炭やプラズマ窒化による表面改質が報告されているが、特殊な設備が必要で、処理工程が複雑であった。申請者らは、鉄粉、炭素粉末などから成る混合粉末にステンレス鋼を埋め込み、窒素フロー中で加熱・保持することで、鋼中に炭素や窒素を容易に拡散できるという、極めて有益な現象を見出した。そこで本申請課題では、(a)低炭素鋼を使った炭窒化メカニズムの解明、(b)ステンレス鋼に対する炭窒化条件の最適化、の2点について検討を行った。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ありふれた原料粉体を用いて鋼やフェライト系ステンレスの浸炭窒化を行えることが最大の特徴であり、目標とした鋼材に対する炭窒化メカニズムの解明、およびステンレス鋼に対する炭窒化条件の最適化の2点について、目標を十分達成していると判断されることは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、メーカーとの共同による量産化問題、オーステナイトステンレスを含む他の合金系への適用性拡大が今後の課題であり、課題解決の手段を明確にして実用化に進むことが望まれる。また、あらたな特許の出願が望まれる。今後は、社会的にインパクトの高い技術であるため、しっかりした機構解明ををするとともに、チタンやタングステンなどの他材料への応用展開も進めることが、期待される。
可変音響インピーダンスカップリングを用いたマグネシウム合金の超音波探傷 熊本大学
森和也
熊本大学
東英男
被検査体とカップリング材の音響インピーダンスをマッチングする「粉浸法」のマグネシウム合金への応用の実用化を行なった。当初、タングステン粉体を用いてマグネシウム合金の音響インピーダンスを発生させるためには、50MPaと言う高い圧力を必要としていた。この高い圧力が実用化の障害となっていたのである。本研究では、粉体を充填・加振する際に、粉体に超音波振動を加えて粉体に加える圧力の低減化を図った。さらに、平均粒子径の異なる粉体を混合させる方法も開発した。加振法では10MPaの加圧力でマグネシウム合金の音響インピーダンスを実現し、異径粒子混合法では15MPaでマグネシウム合金の音響インピーダンスを実現した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初50MPaであったマグネシウム合金の音響インピーダンス発生のための加圧力を当面の目標である25MPaをクリアーする15MPaを達成している。 また、加振および粉体の混合化による粉体密度の上昇により、音響インピーダンスを上げるという成果を得ていることは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、本開発による「粉浸法」を、どこにどのように利用するとメリットがあるのか等を、具体的な企業ともに十分検討することが望まれる。今後は、成果の企業での実用化を進めるために、企業側の次の技術課題を明らかにし、関連するメーカー、施工者等の意見も取り入れて、実用化に向けた検討がなされることが期待される。
微小癌の検出・治療を目的としたセラノスティック薬剤の開発 崇城大学
前田浩
固型癌にピンポイント的に薬物を集積させる基本原理は我々の発見したEPR効果である。それは高分子化薬物/蛍光ナノプローブにおいてもみとめられ、今回開発した亜鉛型プロトポルフィリンを用いた蛍光ナノプローブにより固型癌を高感度に検出できた。即ち人工的に発癌させたラット乳癌も明瞭に検出し、そのラットに30mg/kgを静脈注射し、内視鏡光源で照射(20分/日×2)するとこの乳癌は劇的に縮小し、50日目には治癒した。一方、対照群はヒト乳癌と同様に増殖・増悪し、60日には癌死した。このナノプローブは毒性が全くない。
今回の我々のナノ化増感剤を用いることによって、ついに癌治療に革命をもたらすかもしれない画期的な成果を得た。この方法は全く無毒であり、蛍光ナノ化増感剤は癌部にしか集まらないので、光があっても癌部しか傷害をうけない。よって、普通の光のもとで、普通の生活が可能であり、在来のPDTとは大違いである。
今後、興味をもつ民間企業と協力し、GMPレベルの本蛍光ナノプローブを作成し、限定的な臨床治験を九州大学先端医療センターあるいはその他の大学と多面的に展開したい。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。癌の蛍光イメージングならびにPDT(光線力学的療法)に関して、HPMA-ZnPPのサイズ等、最適化を行った点、また、蛍光内視鏡による癌の蛍光イメージングおよび光線力学的療法についてin vivo蛍光イメージング装置(IVIS)を用いて可能であることを確認した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、研究の未達成な点などを整理し、企業との共同実施により研究成果の社会還元を早急に検討することが望まれる。今後は、臨床試験の早期実施が期待される。
ナノエマルションを粒径分画する新しいクロマトグラフィーの実証 宮崎県工業技術センター
中山能久
宮崎県工業技術センター
藤田芳和
本研究では、多孔質ガラスを充填材にしたカラムを作製し、分取クロマトで物質の分子量分画を行うのと同様に、O/Wナノエマルションを粒径毎に分画することを目標とした。その結果、完全に分画するには至らなかったが、分画できる可能性を確認することができた。今後は、独自に研究開発を継続するとともに、将来的にO/WまたはW/Oといった分散系の製剤や化成品等への展開を狙う。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。
中でも、多孔質ガラスを用いることでエマルションを粒径毎に分画できる可能性を実証したことについては評価できる。
一方、本来目的であるナノエマルションを完全に分画する手法の確立に向けた具体的な技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、工業的な手法としての確立を目指した材料開発を基礎から検討されることが望まれる。
金属液滴を前駆体とする新しい酸化金属固体微粒子合成法の開発 宮崎県工業技術センター
山本建次
宮崎県工業技術センター
藤田芳和
既往研究で苦慮してきた金属が酸化されやすい性質を逆に利用して、金属液滴を強制的に酸化させることにより酸化金属固体微粒子を合成するという新しいプロセスの確立を目指した。金属液滴を生成させる第1工程については、直接乳化法により狙ったサイズの均一な金属液滴を得るとの目標を達成できたが、目標滴径範囲の小さい側(500nm)には到達できなかった。金属液滴を酸化させる第2工程については、酸化をある程度進行できたものの、完全な酸化金属に変化させるとの目標には及ばなかった。ただし、本研究により、酸化の進行に必要な要件を概ね把握できたため、今後も何らかの形で研究開発を継続する計画である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも金属を加熱溶融後、膜乳化法により平均粒径3μmの単分散金属球状粒子が得られたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、金属材料の物性および酸化挙動等を基礎的に考察して、新しく酸化プロセスを設計され酸化度を上げるとともに、更なる微粒子化に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
高選択性タンパク質吸着リガンド設計システムの開発と血漿性タンパク質吸着材探索への応用 宮崎大学
湯井敏文
コンピュータによるタンパク質高選択性吸着リガンドの分子設計手段を開発し、それを手段として血漿成分中の疾患原因物質に特異的なリガンド吸着材を探索した。目標の探索効率をほぼ達成する探索システムを構築し、それを用いて新規リガンドを探索したところ、目標に定めた疾患原因物質に対する吸着特異性が期待される持つ十数個のリガンド候補を提案した。一方、吸着特性評価の定量性向上を目的として、ドッキング構造の最適化計算システムを開発し、性能を検証した。その結果、最初の探索結果と大きく異なる傾向が示された。最適化ドッキング構造のレセプタータンパク―リガンド間の結合エネルギー評価方法に原因があると推定され、その対策を提案した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、当初目標に対する達成度を評価するためには検証実験結果が必要であるが、コンピュータによるタンパク質高選択性吸着リガンドの分子設計手段を開発し、血漿成分中の疾患原因物質に特異的な新規リガンド候補十数個を提案するに至っていることは評価できる。一方、技術移転に向けては予測される吸着特性の検証実験が必要であり、データの積み上げなどが必要と思われる。今後は、学会発表より研究成果の権利化を優先してされることが望まれる。
光ファイバーを用いた高精度広帯域屈折率センサーの開発 宮崎大学
亀山晃弘
宮崎大学
福山華子
高機能広帯域光ファイバーセンサーを開発することが、当初の目的であった。1年間の研究開発により、所定の性能を持つTFBGを10分以内で作製できる技術を開発した。更に計測技術も検討し、1秒以内に屈折率を計測する方法も提案できた。さらに温度と屈折率を同時に計測する方法も考案した。今後、化学プラントのモニタリングや生体・医療センサーとして使用するために、より高い分解能(10-3以下)と広範囲の屈折率を計測でき、更に小型(1mm以下)な光ファイバーセンサーを開発する予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に傾斜型ファイバーブラック回折格子(TFBG)を用いた高精度広帯域光ファイバーセンサーの回折格子の作製時間、計測時間の短縮を達成できたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、特許出願も既にされており、より高い分解能と広範囲の屈折率を計測可能で更に小型化の開発を進め、小型で電気が不要で耐腐食性にも優れ、生体に対しても安全なセンサーとして実用化されることが望まれる。
今後は、本センサーの優れた特徴を活かし産業や医療分野におけるセンサーとして広く応用されるよう、技術移転されることが期待される。
発光性イオン液体を利用した感熱型発光材料の開発 宮崎大学
白上努
宮崎大学
和田翼
シクロフォスファゼン骨格を持つ発光性イオン液体(CP-IL)を含むポリ塩化ビニル(PVC)複合フィルムにおいて、熱履歴を与えると、熱に曝露された部分からの発光強度が増強する「熱誘起発光増強効果」を利用して、熱履歴時の温度を簡便に検出することができる熱感熱型発光材料の開発を行った。PVCの分子量あるいはイオン液体の含有量を変化させた複合フィルムをそれぞれ調製することで、90℃から140℃までの10℃間隔の加熱温度に対して感熱発光する5種類の透明フィルムの調製に成功した。この5種類のフィルムを熱履歴温度が知りたい材料に貼付すれば、その材料の熱履歴温度を発光強度により簡便に測定することができるので、熱履歴センサーとしての展開が期待できる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に発光性イオン液体のポリ塩化ビニル中への含有量の違いで発光開始温度が変化すること、また発光強度を解明できたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、発光開始温度と発光強度や発光タイミング、材料の熱的安定性等について検討を進め、熱履歴センサーなどでの実用化が望まれる。
今後は、産学連携により厳格な温度管理が必要な食品や精密機械分野向けに応用展開されることが期待される。
セラミックスの押出し加工における成形プロセス解析技術の確立 鹿児島県工業技術センター
桑原田聡
鹿児島県工業技術センター
中村俊一
本研究は、金属の塑性加工で製造過程を可視化する独自のシミュレーション手法を活用して、セラミックスの押出し成形プロセスを解析する技術の確立を目的としている。
今回、アルミナを用いた押出し成形について材料の流動性や流速を計測し、成形体内部の粒子分布や焼成体を評価することで以下の成果が得られ、当初の目標を達成することができた。今後は、押出し形状の複雑化への対応や技術移転を目指す。
・これまで用いてきた可視化技術が、セラミックスの塑性流動へ利用でき、ダイス内部における
材料の流動状態の評価や流速の計測が可能である。
・ダイス内部で流速の違いが発生する箇所では、粒子の分布状態や密度に違いが生じていた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、金属材料の塑性流動化の技術がセラミックの押し出し加工の解析にも使えることが確認され、金型設計や材料のクラックの分析に使えることが分かり、解析型の設計支援ができることがわかったことは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、ハニカム形状などの、複雑な形状や寸法、さらには用いる鋼球トレーサーの寸法などの適用範囲および得られる計測精度に関する技術課題を明確にするとともに、可視化のツールとして考えらえるFEシミュレーションに対する本法の優位性が明確になるような具体的な成果を示すことが必要と思われる。今後は、広く金型業界、セラミックス成型業界との接点を持って、共同研究を多層に渡って実施し、実用化につながることが、期待される。
カチオン‐アニオン両性糖鎖材料の開発 鹿児島大学
門川淳一
鹿児島大学
中武貞文
研究代表者が開発したアナログ基質を用いたグルカンホスホリラーゼによる酵素的グリコシル化技術を利用して、分岐状多糖非還元末端へのグルコサミン残基およびグルクロン酸残基の転移反応を行い、カチオン‐アニオン両性糖鎖の合成を検討した。反応条件を検討し、末端残基の導入率およびグルコサミン残基/グルクロン酸残基導入比の制御を可能にし、高度に構造の規制された両性糖鎖を調製できる技術を確立した。等電点および水溶液中でのpH変化による粒子径変化を測定し、医薬分野でタンパク質に匹敵する素材として利用可能な材料としての基礎的知見を得た。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、酵素反応による新しい両性糖鎖の合成に初めて成功したことは次世代の医薬品開発に重要な役割を果たす可能性があり、高く評価できる。一方、技術移転の観点からは、多糖材料の機能向上の道筋を提示すると共に特許出願を急ぐことなどでの実用化が望まれる。今後は、アミノ基やカルボキシル基を介した更なる機能性残基の導入などと共に、粒径などの物性制御も検討されることが期待される。
糖鎖固定化蛍光性ナノ粒子を用いた細胞品質管理法の開発 鹿児島大学
若尾雅広
鹿児島大学
中武貞文
培養細胞の品質管理は、iPS細胞やES細胞などを用いた組織再生医療において重要であり、細胞状態をモニターできるバイオマーカーが求められている。本研究では、細胞の糖鎖結合性に基づいた糖鎖マーカーの開発を行うため、糖鎖固定化蛍光性ナノ粒子(SFNP)を用いた方法について検討した。SFNPはこれまでの方法にしたがって調製し、SFNPの細胞結合性について検討した。細胞には、HepG2、HeLa、A431細胞等を用いた。実験の結果、細胞株の種類によってSFNPの結合性が異なることが分かった。この結果をともに統計解析を行ったところ、細胞管理の指標として使用できることが示唆された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、糖鎖固定化蛍光性ナノ粒子(SFNP)を多種開発し、糖鎖結合性の評価およびパターニング解析による糖鎖の抽出について、当初の目標を概ね達成している。開発者独自の糖鎖固定ナノ粒子を応用した細胞品質管理法の開発は、企業との連携の可能性が産まれており、近い将来に技術移転を期待させる成果で評価できる。一方、技術移転の観点からは、再生医療やワクチン生産において細胞の品質管理は重要で、まだ相対的蛍光強度のばらつきが大きくデータの精度管理や信頼性については検討の余地が残されているが、実用化が望まれる。今後は、糖鎖を用いた新しい細胞の規格・品質管理法として発展することが期待される。
高揮発性物質に対して選択性を持つテフロン被覆金属蒸着ガラス棒センサー 鹿児島大学
満塩勝
鹿児島大学
中武貞文
本研究課題は、表面プラズモン共鳴現象を利用し、高感度でありながら単純な構造を持つ金属蒸着ガラス棒SPRセンサーにおいて、研究例がきわめて少なく、化学的安定性が高いテフロンを主体とする選択膜を使用することで、揮発性が高いアルコールやガソリンなどを迅速簡便に検出できるセンサーを構築することを目的とした。モデル試料としてブドウ糖や各種アルコールを用い、その価数、直鎖の炭素数、および化学構造と選択性能の関係について観測を行い、選択膜の応答特性について検討を行った。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも表面プラズモン共鳴(SPR)センサーの基礎的研究が進み、三種類の金属薄膜に対する波長応答を明らかにしたことと、センサー上に疎水性のテフロン膜をコートして揮発性物質の分析を一部達成したことは評価できる。一方、テフロン膜の選択性を向上するための膜の材料や構造の改善が必要と思われる。今後は、センサー部だけでなく他の方法でも選択性をもたせる方法も可能性として検討されることが望まれる。

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