評価結果
 
評価結果

事後評価 : 【FS】探索タイプ 平成25年2月公開 - 創薬分野 評価結果一覧

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課題名称 研究責任者 コーディネーター 研究開発の概要 事後評価所見
サーファクタント蛋白質による尿路病原性大腸菌の感染防御機構解析と応用 札幌医科大学
大野(西谷)千明
札幌医科大学
佐藤準
本研究では、サーファクタント蛋白質(SP)による尿路病原性大腸菌(UPEC)の感染防御機構を分子レベルで解明し、尿路感染症の予防・治療薬としてのSPの臨床応用の可能性を目指し研究を行った。サーファクタント蛋白質D(SP-D)は、UPECの接着因子であるFimHとウロプラキンとの結合を抑制し、in vivoにおいても、SP-DがUPECの感染防御に有効であることが示唆された。今回は、SP-Dと同様に、肺に存在するC型レクチンであるSP-AのUPECに対する効果の全容解明までには至らなかったが、それ以外の課題については達成できた。今後、SP-Aについても検討を行い、サーファクタント蛋白質がUPEC感染防御に有効であると判定したい。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。組み換えタンパクの作成、結合解析、阻害解析、野生型マウスにおけるモデル実験でのSP-Dの作用検討等により、尿路病原性大腸菌感染をサーファクタント蛋白質が防ぐとの結果を得たことは評価できる。今後の研究開発計画について具体的かつ的確に検討されており、サーファクタント蛋白質のウロプラキン結合部位が見つかれば、技術移転に近づく。尿路感染症の予防・治療薬としての感染防御効率の良いサーファクタント蛋白質変異体の作製など、応用展開がなされて実用化に結び付くことが期待される。
長寿遺伝子サーチュイン制御による脳腫瘍治療の新展開 札幌医科大学
堀尾嘉幸
札幌医科大学
佐藤準
長寿遺伝子サーチュインの1つSIRT1は酸化ストレスによる細胞死を抑制し、メラノーマ(悪性黒色腫)では細胞移動と転移を促し、SIRT1阻害薬はメラノーマ移植モデルマウスの転移を抑制し寿命を延ばした。脳腫瘍は手術で切除することが治療の主体で、最も悪性の膠芽腫ではこの40年間で治療成績はほとんど向上していない。そこで、膠芽腫についてSIRT1の働きを検討した。C6グリオーマ細胞を用いた検討でSIRT1 は転移には関与しないものの、脳腫瘍細胞に発現して細胞生存に働くことを見出した。また、手術検体から人 脳腫瘍細胞の培養化をおこない4系統のcell lineを確立した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。長寿遺伝子サーチュインのひとつであるSIRT1が腫瘍細胞の生存に関わることをin vitroで明らかにした点、さらにグリオーマ細胞の培養環境の変化でSIRT1の発現量が変化することを見出した点は高く評価できる。一方、技術移転の観点からは、が寄与する効果の特異性の見極めや動物モデルでの効果確認といった課題の解決が求められる。今後、臨床検体が使えるというメリットを生かし、多くの専門家を取り込んで展開を図ることが望まれる。
特発性大腿骨頭壊死症に対する新規治療薬開発 札幌医科大学
岡崎俊一郎
札幌医科大学
佐藤準
特発性大腿骨頭壊死症の有効な予防法の報告はなく、予防法策定は急務である。我々は、特発性大腿骨頭壊死症の発生機序に自然免疫機構が関与していることを明らかとし、転写制御因子活性に変動により大腿骨頭壊死症が発生することを見いだした。本研究では、分子標的治療薬を用いた特発性大腿骨頭壊死症の発生予防を目標とし、動物実験において、分子標的治療薬の大腿骨頭壊死症の発生予防効果を確認した。今後は、動物実験における同薬剤の安全性評価をおこなう。動物実験における有効性および安全性を確認した後、臨床応用の可能性を探索する。 当初目標とした成果が得られていない。特発性大腿骨頭壊死症の発症率の低下を狙ってIKK抑制薬を投与している。結果、対照群に比べて発症率が有意に低下したとしているが、対照群の発症率が元々低く、投与量の異なる複数群を同時に比較しているのに、多重比較に対する補正も行われていない。また、有意な効果のあった群で死亡例がでており、高用量群では更に多数が死亡している。生化学的検査で対照群と有意な差もでていない。IKKの作用は極めて多くの遺伝子発現に関わるため、具体的な効果の基盤も不明である。当初予定した計画が着実に実施されたことは認めるが、その成果が実用化につながることは示せていない。技術移転には更なる検討が必要である。
新規不斉有機分子触媒を用いた新規抗インフルエンザ治療薬中間体合成法の開発 室蘭工業大学
中野博人
室蘭工業大学
加賀壽
タミフル耐性菌に有効な新しい抗インフルエンザ薬合成中間体である光学活性イソキヌクリジン誘導体を高光学純度で大量合成するための新しい合成方法を開発することを目的として、申請者が開発したオキサゾリジン塩型不斉有機分子触媒を用いる1、2-ジヒドロピリジン類とアクロレイン誘導体とのDiels-Alder反応を検討した。その結果、本触媒を用いた場合に、50-95%の化学収率と85-99%eeの良好な光学純度で目的のイソキヌクリジン誘導体が得られた。このことから、用いる1、2-ジヒドロピリジン基質により化学収率および光学純度にそれぞれ違いはあるが、光学活性タミフル誘導体合成のために本触媒を用いるDiels-Alder反応が有用であることが明らかとなり、十分ではないながらも研究目的は達成できた。今後、どの基質を用いた場合にも99%の化学収率および99%以上の光学純度でイソキヌクリジン誘導体が得られる本Diels-Alder反応の反応条件や、用いるオキサゾリジン塩型不斉有機分子触媒の検討、さらには得られたイソキヌクリジン誘導体から多置換タミフル誘導体への変換を検討したい。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。しかし、これまでのところ目標化合物に近い構造の化合物の合成はできているが、化学収率と光学収率はともにそれほど高くない。また、置換型中間体にも到達していないので新規抗インフルエンザ薬への展開も不透明である。これまでの研究成果を改良して技術移転につながる知見が得られることが期待される。
トキソプラズマ原虫感染症に対する新規次世代型生ワクチンの開発 帯広畜産大学
正谷達謄
帯広畜産大学
藤倉雄司
増殖型ステージ(タキゾイト)では赤色、潜伏型ステージ(ブラディゾイト)では緑色となるトキソプラズマ原虫株:PLK/Dual株を入手し、潜伏型に誘導するための最適条件の検討を行った。トキソプラズマ原虫の遺伝子をランダムに破壊する目的で、PiggyBacトランスポゾン酵素遺伝子をトキソプラズマ原虫において発現させることの出来るプラスミドを作製した。また、この酵素によって挿入される遺伝子カセット(青色蛍光蛋白質及び薬剤耐性遺伝子)を搭載したプラスミドを作製した。現在、これらプラスミドをPLK/Dual株に同時に導入するうえでの最適条件を検討している。 当初目標とした成果が得られていない。新規次世代型弱毒生ワクチン開発の目的でトランスポゾン酵素を用いたプラスミドを構築したが、発現は認められなかった。発想は独創的であるが、いまだ基礎的な検討が必要な段階にあるため計画の見直しが望まれる。
漢方薬の主原料「カンゾウ」の機能性化合物高含個体安定供給を可能とするストロン培養法の開発 北海道医療大学
高上馬希重
科学技術振興機構
東陽介
薬用植物カンゾウの主薬用成分グリチルリチンの含有率が高い選抜植物体の大量供給には、栽培期間を飛躍的に短縮することができる植物組織培養によるクローン増殖苗の生産が必要である。高グリチルリチン含有体のクローン増殖は非常に困難であり、再生クローン植物体の作成はこれまで不可能であった。本研究により、わずか6ヶ月間で再生クローン植物体を作成する技術の開発に成功した。さらに再生植物体においてグリチルリチンが産生されることを確認した。本研究成果をもとにして、漢方薬原料である「甘草(カンゾウ)」の優良品種生産の実用化が今後期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。培養法によるストロン増殖とストロンからの植物体再生を短期間のうちに達成できる見通しを得たことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、いまだグリチルリチン含量が当初目標には未達であり、より高効率の再生条件が望まれる。よって今後さらなる研究の展開が必要であるが、企業化の努力も進められており、実用化が期待される。
海洋生物に含まれる血球増多物質の分離 北海道大学
酒井隆一
エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)などの造血因子は、「血液の素」ともいえる造血前駆細胞に作用し、赤血球、血小板、白血球へと分化・増殖を誘導するサイトカインである。このように、造血過程の司令塔ともいえる機能を持つ化合物は、医薬品開発や造血機構を研究にきわめて重要であるが、それらの機能を模する物質を見出すのは非常に困難であることが知られ、特にEPOやG-CSFの作用を模する小分子は皆無である。本研究では、これまでに省みられてこなかった海洋天然物を探索源とし、造血前駆細胞の増殖を促す血球増多物質を単離する事を目的とする。 当初目標とした成果が得られていない。TPO様物質として2ペプチドの混合物を得たが構造決定には至らず、EPO様物質は混合物で活性の出方も明確でない。天然物のため再収集が難しいことは理解できるが、量の確保が必要である。TPO様物質を単離したことは成果であるが、技術移転は今後の結果次第である。既存の対照薬との比較試験を行って、本化合物の優位性を明らかにするよう実用化に向けた展開を目指すことが望まれる。
HIVワクチンとしてのワクシニアベクターの最適化 北海道大学
志田壽利
エイズワクチンベクター用にワクシニアm8Δ株を最適化するために、ATI複合プロモーター、p7.5プロモーター、前期繰り返しプロモーターのもとでSIV/HIV遺伝子を発現させ、免疫原性、増殖性を検討した。その結果、免疫原性に関してはATI複合プロモーターがp7.5プロモーターと同等またはやや効果的であり、又安全性の観点からATI複合プロモーターのもとでSIV/HIV遺伝子を発現させるのが良いことが示された。また、BCGプライム/m8Δブースト免疫法は、SIV/HIVの感染防御に有効なエフェクターメモリーT細胞を長期維持できる良い免疫法であることが分った。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。抗HIV/SIV細胞性・液性免疫を効率よく誘導する組換えワクチンを作製することを目標に、エイズワクチンベクター用のワクシニア株を最適化するための検討を着実に行っている点は評価できる。しかし、本研究ベクターがこれまでの同ウイルスベクターに比べて感染防御効果に優位性があるか全く不明である。企業との連携を図っており、技術移転を目指した産学共同の構築に展開しているので、着実に成果を蓄積していくことを期待したい。
メナキノン新規生合成経路をターゲットにした抗ピロリ菌剤の開発 北海道大学
大利徹
抗ピロリ菌剤の開発を目標に、メナキノン新規生合成経路(フタロシン経路)をターゲットとした阻害剤を放線菌とカビの代謝産物中に探索した。既知経路を持つB. subtilisには活性を示さず、フタロシン経路を持つB. haloduransに生育阻止活性を示すサンプルを探索した。候補サンプルについては液体培養でメナキノン添加による生育の回復を指標に再チェックを行った。総計約2,000サンプルをスクリーニングした結果、放線菌培養液の4サンプルがB. haloduransに特異的生育阻止活性を示した。そこで大量培養液からの活性本体の精製を試みた。その結果、3サンプルは不安定な化合物であり精製中に失活したため中止した。残る1つは弱酸性物質の安定な化合物であり現在精製を行っている。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。スクリーニング系の妥当性評価がほぼ達成されたことは評価できる。しかし、放線菌等の代謝産物を中心にランダムスクリーニングが実施されて活性を示す化合物が得られているものの、開発候補化合物の同定及び実際のピロリ菌活性があるかの検証には至らなかった。一方、ピロリ菌に特有であり、かつ生育に必須なメナキノン生合成経路をターゲットとしたアッセイ系を開発していることから、今後の展開しだいで技術移転につながるピロリ菌の特異的抗菌剤の開発を期待したい。
新規AKT阻害剤によるインフルエンザ感染治療法の開拓 北海道大学
野口昌幸
北海道大学
須佐太樹
我々はインフルエンザウイルスの構成蛋白であるNS1蛋白(Non-structural protein 1)がセリンスレオニンキナーゼAKTのリン酸化依存的に結合、そのリン酸化を誘導し、インフルエンザウイルス感染の治療への可能性を示した。また、我々はプロトオンコジンTCL1とAKT複合体の構造と機能の解析に基づきAKTに結合しその活性を抑える新規AKT阻害剤「Akt-in」を同定した。本申請では、インフルエンザ感染の宿主細胞内のNS1蛋白を介したAKTの活性化を我々の開発した新規AKT阻害剤「Akt-in」を用いて抑制インフルエンザAウイルスの構成蛋白であるNS1(Non-structural protein 1)蛋白とPI3Kの1つの機能的サブユニットであるp85βとが結合し、AKTの活性化を誘導、その標的基質のリン酸化を介して感染宿主細胞の細胞死を抑制し、ウイルスの増殖を助ける。我々はこのインフルエンザウイルスのNS1分子がAKTのリン酸化の標的基質としてインフルエンザ感染の病態の鍵を握る分子であると考えられる。重要なことにこれまでNS1に注目したインフルエンザウイルス感染におけるAKTの活性化の病態生理的な意義は解明されていなかった。我々の持つAKT特異的阻害剤"Akt-in"を用い、インフルエンザ感染宿主細胞のNS1-AKT活性を抑え、新しいインフルエンザ治療への可能性を検証することを目標としている。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。AKT活性を抑制するペプチド(Akt-in) の同定、 NS1蛋白質によるAKTシグナル伝達系の活性化機構の抑制など、インフルエンザ治療の基盤となる基礎研究に成果をあげている点は評価できる。一方、現段階では技術移転できる段階にはないと思われるため、研究の成果を積み重ね、実用化に近づけるような展開を図ることが望まれる。
急性腎障害(AKI)治療薬の開発 弘前大学
八木橋操六
弘前大学
工藤重光
急性腎不全は致死率の高い疾患であり、その詳細な機序はいまだ明確ではなく、期待できる治療法もない。私共は、急性腎不全の発症にアルドース還元酵素(AR)を介したポリオール代謝が関与する可能性を考え、AR阻害薬(ARI)が急性腎不全に対し防御的に作用するかを検討した。その結果、外傷誘発急性腎不全マウスや、Lipopolysaccharide(LPS)誘導腎不全マウスへのARIであるFidarestat投与で、死亡率の有意な減少、急性腎不全の改善をみた。腎の解析で、ARIによる腎不全マウスでのポリオール蓄積抑制も確認され、理論背景も裏付けられた。今後、臨床でのFidarestat効果の検討が期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。ノックアウト動物を用いた検討も実施し、有用なデータが得られており、特許の内容をさらに深化させ、サポートする結果も得られている。試験対象化合物もすでに安全性試験を終えており、さらに臨床的に使用経験もあるため、今後の展望に関しては不確実な部分があるものの、実用化が大いに期待される。
ヒアルロン酸とのハイブリッド糖鎖の自動合成システムの開発 弘前大学
柿崎育子
弘前大学
工藤重光
本研究では、酵素的に合成されたヒアルロン酸の構造を含むハイブリッドオリゴ糖の実用化を目指し、オリゴ糖の分離・精製工程の省力化を目標とする。1)ミリグラムスケールのオリゴ糖のHPLCによる分離・精製の効率化を図るために、カラムスケールに応じた分離条件を決定した。2)分離、精製の各ステップをつなぐHPLC流路系の検討を行った結果、複数台連結したHPLCシステムを用いた閉じられた流路での連続性を確保した精製システムを提案することができた。今後は、大量スケールでの分離条件の決定と、酵素的な合成を行うカラムと分離HPLCとの連続性を確保するようなシステムの開発を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。最大の目的である自動化システムにつながる連続精製システムの構築として、3つのステップを閉鎖系で行う事ができるようになった点は評価される。一方、実用化の面からは、更なる工夫と試行が必要であるように思われるため、分取用カラムでのオリゴ糖の分離・精製条件を早急に確立し、自動化へつなげて頂きたい。
細胞内Clホメオスターシス制御によるてんかん予防機序解明 弘前大学
上野伸哉
弘前大学
工藤重光
てんかんモデル動物において、Clトランスポータ調節薬投与による、てんかん予防、発作抑制効果の有無を検討し、Clトランスポータの機能発現変化との比較検討をおこない、てんかん予防の可能性をさぐることを目的とした。Clトランスポータ調節薬をてんかん発作出現前より投与をすることにより、発作回数の減少がみられ、調節薬中止後もその効果が持続することが観察されたことより、細胞内のClホメオスターシスの正常化によるてんかん予防の可能性を示すことができた。問題点として、本研究に用いたClトランスポータ調節薬は、脳以外の臓器への作用を強くもっており、脳特異的化合物を見いだす必要がある。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。Clトランスポータ調節薬をてんかん発作出現前より投与することにより、発作回数の減少が見られ、調節薬中止後もその効果が持続することが観察されたことより、細胞内のClホメオスターシスの正常化によるてんかん予防の可能性を示すことができたことは評価できる。但し、本研究はてんかんのうち、ある特定の遺伝子変異による病態をもとに議論されたもので、特定少数の患者への福音になる可能性はあるが、多数の患者を対象とした抗てんかん薬の開発に発展するかは未知である。技術移転にはまだ時間がかかると思われるが、コーディネーターの協力も得ながら展開を図って頂きたい。
アルツハイマー病治療のための評価法の開発 弘前大学
瓦林毅
弘前大学
工藤重光
本研究では認知症の約半分を占めるアルツハイマー病(AD)の新たな治療法を確立するための評価法の開発を行う。我々はADの原因物質であるアミロイドβ蛋白(Aβ)の抗原決定基を種子中に蓄積する形質転換ダイズを開発した。大腸菌で産生されたダイズ組換え蛋白をマウスに投与するとAβ特異抗体が産生された。アルツハイマー病モデルマウスCRND8への投与では脳Aβアミロイドの減少と共に学習障害の改善を認めた。本研究ではダイズ組換え蛋白による経口ワクチン治療を用いて、学習機能の評価試験として広く用いられているモリス水迷路試験を用いて副作用の少ないアルツハイマー病経口ワクチンの開発のための評価法の開発と有効性検証を行う。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。アルツハイマー病モデル動物を用いて大豆組み換え蛋白による経口免疫療法で有用な結果が得られており、特許も申請できていることは評価できる。特に脳でのアミロイドβ蓄積の減少も確認され、髄膜脳炎などの副作用も認めていないことから、臨床応用へも期待される。今後、高次薬理評価、安全性試験、物量確保等、実用化に向けて技術移転を睨みながら展開を図ることが望まれる。
褐色脂肪細胞活性化を標的とした新規抗肥満・糖尿病薬の開発 北里大学
橋本統
北里大学
平田伸
脂肪を熱に変換してエネルギーを消費する褐色脂肪組織の活性化は、抗メタボリックシンドローム効果が期待できる治療法に応用できるとして注目を集めている。本研究開発では申請者が発見した、褐色脂肪細胞を活性化する新規エネルギー代謝調節因子の新規抗肥満・糖尿病治療薬としての有効性を検討した。その結果、in vitroおよびin vivoにおいて、この新規因子が脂肪前駆細胞または白色脂肪細胞を褐色脂肪細胞へと分化させる能力を有し、エネルギー代謝を活性化していることを実証した。今後画期的な抗肥満・糖尿病薬の開発を目指し、この新規エネルギー代謝調節因子の生体内における活性化機構やシグナル伝達経路などを詳細に探索する。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。In vitro、in vivoの解析にて白色脂肪組織を褐色脂肪組織へと変換させるエネルギー代謝調節因子である新規へパトカインの役割を解明し、この因子の発現を上昇させる化合物も同定したことは評価できる。一方、この新規へパトカイン受容体の同定に関して実施されなかった点が惜しまれる。新規特許出願準備中で、この因子の組換え体の大量調整についても検討中とのことから技術移転が期待される。
Wntシグナル伝達経路を標的とする新規大腸がん治療薬の開発 岩手医科大学
河野富一
岩手医科大学
早川信
大腸がん発生の最初のステップではWntシグナル伝達経路が異常活性化していることに着目し、このシグナル伝達経路を標的とする新規な大腸がん治療薬(Wntシグナル阻害剤)の開発を目標に、申請者らが前年度特許出願したWntシグナル阻害剤をもとに、その構造最適化を通じて、Wntシグナル阻害に必要な部位の特定および、より高活性なWntシグナル阻害剤の創製を目指した。当初の予定通りに各種誘導体の合成を達成し、得られた誘導体の活性評価をおこなった結果、Wntシグナル阻害に必要な部位を特定することに成功するとともに、僅かではあるが高活性な阻害剤を得ることに成功した。また、合成された誘導体の活性評価データを先の特許の実施例として追加し、本特許のPCT国際出願をおこなった。さらに、コーディネータと連携しながら本研究成果を関連企業へアピールし、パートナリングに向けた商談もおこなった。今後は、臨床応用を視野に入れた研究データを得ながら、より高活性なWntシグナル阻害剤の創製を目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。既に保有していたリード化合物のレベルで製薬会社との技術移転の可能性が検討されており、そのためのサポートデータを取得した点は評価できる。一方、本研究期間で合成された化合物数や評価・考察などには物足りなさが残り、さらに本系統化合物の作用点、Wntシグナル選択性と活性向上策を明確にする必要がある。まずはサブマイクロモルで有効な化合物を見出し、企業との連携を進めて頂きたい。
高力価ヒトIgG抗ヒトTACE抗体作製とそれによる骨破壊性疾患の阻止 東北大学
菅崎弘幸
株式会社東北テクノアーチ
水田貴信
骨破壊性疾患において、破骨細胞分化因子であり、膜結合型タンパク質であるRANKLの酵素的切断と遠隔活性化に関与するTACEに対する中和抗体の開発と臨床応用を目指し、研究を実施した。抗TACE抗体の作製にあたり、TACEタンパク質の3次元立体構造からエピトープとして複数のポリペプチドを選定した。これらをマウスへ免疫後、アフィニティー精製して、各々のペプチドに対応する抗TACE抗体を得た。これらの抗TACE抗体を用い、1)ヒトリコンビナントTACEタンパク質に対する酵素活性阻害効果、2)TACEタンパク質を発現するマウス脾臓細胞に対する、膜結合型RANKL残存率を指標としたTACE酵素活性阻害効果、を確認した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。短期間に最適化エピトープの検索の具体的計画が提案されているなど特色ある基礎研究として大いに評価できる。一方、技術移転の観点からは、エピトープの構造最適化と動物実験での骨破壊阻止能の評価までの達成を待つ必要があるため、研究開発計画を再検討し、産学共同研究等の次の研究開発ステップにつなげることが望まれる。
アルツハイマー病の治療・予防用「脂肪由来幹細胞薬」の実用化研究 東北大学
内田隆史
東北大学
芝山多香子
皮下脂肪から採取調製した脂肪組織由来間葉系幹細胞(AD-MSC)を神経細胞に分化させ、機能が低下した神経細胞を置き換えることで、アルツハイマー病の治療・予防用することを目的とした。これまでに、GFPトランスジェニックマウス(グリーンマウス)から、緑の蛍光を発するAD-MSCを調製することができるようになった。このAD-MSCを用い、AD-MSCそのものが神経細胞に分化しているのか、それとも、AD-MSCが産生するサイトカインが宿主幹細胞に作用しているのかを明らかにしたいと考えている。しかしながら、AD-MSC採取時には様々な細胞の混入があり、さらに間葉系幹細胞中に多分化能を有する細胞はわずかしかおらず精密な解析は困難である。そこで、まずこの2つの問題を解決することを目的にAD-MSCクローン性株細胞の樹立・解析を行った。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。クローン性AD-MSC株細胞を樹立し、特許出願や論文発表の準備を進めていることは、次へのステップにつながる成果として評価できる。一方、動物への投与実験及び脳における細胞分化の検討結果が待たれるところである。今後の展開については、それらの結果を含めて再検討し、共同研究や技術移転を目標に展開を図ることが望まれる。
膜透過性ペプチド結合型の「タンパク質創薬」に関する実用化研究 東北大学
日高將文
東北大学
芝山多香子

我々は、リン酸化タンパク質の構造・機能を制御することで様々な生命現象に関わる酵素・Pin1に着目し、細胞中のPin1量を制御することが、タンパク質のリン酸化が引き金となる癌やアルツハイマー病に対する予防・治療へつながると考えている。本研究開発は、Pin1に膜透過性ペプチドを融合した人工タンパク質を開発し、Pin1を細胞内に取り込ませる蛋白質薬剤として応用することを目標としている。本期間(平成23年12月~平成24年7月)では、Pin1に融合する膜透過性ペプチドの検討、「膜透過性ペプチド融合型Pin1」を1グラム合成すること、を最終目標に設定し研究を行った。今後は、タンパク質の大量生産を目指した培養系・精製系の確立を目指す。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。Pin1タンパク質の細胞内レベルの向上によって、疾患治療につなげるアプローチはユニークで、大腸菌の系でシヌクレイン配列付加Pin1タンパク質の高発現に成功している点は評価できる。但し、活性確認が必要であるとともに、細胞膜透過効率を簡便で定量的に評価するために、Pin1にタグを付加するなどの工夫が必要である。グラムスケールのタンパク質合成については、ほぼ目標を達成しているが、現時点では技術移転にはいまだ多くの課題が残されているため、更なる展開が望まれる。
ニコチン性アセチルコリン受容体活性化分子を標的にした「新規認知機能改善薬」創製に関する実用化研究 東北大学
福永浩司
東北大学
芝山多香子
新規アルツハイマー病治療薬 ST101 (米国で臨床試験実施中)の作用機序に関する研究を行い、ST101の標的タンパク質がT 型電位依存性カルシウムチャネルであることを発見した。 ST101の認知機能改善機序は既存のアルツハイマー病治療薬とは全く異なり、T型カルシウムチャネルを活性化し、脳において記憶形成に関わるカルシウム/カルモデュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMKII)を活性化した。更にST101誘導体を中から活性の強いSAK3 を創製し、認知機能改善薬として24年1月に特許出願した。本研究では培養神経細胞とアルツハイマー型遺伝子改変マウスを用いて、認知機能改善効果における優位性を確認した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にSAK3の標的タンパク質がT型カルシウムチャネルであること、ST101に比べて薬効が強いことを明らかにして特許を出願したことは、高く評価できる。一方、技術移転の観点からは、薬効評価、動態試験、安全性試験による前臨床試験の実施を求められているとのことから、更なるデータの蓄積が望まれる。今後、先行するST101の動向も睨みつつSAK3の開発の可能性の追求が期待される。
制癌剤としての応用を目指した新規2量体ナノ薬剤の作製と薬効評価 東北大学
笠井均
東北大学
渡邉君子
SN-38は強い抗癌活性を有することで知られるが、水溶性置換基を付けた化合物であるイリノテカンとして実用化されている。本研究開発では、逆転の発想により、SN-38の難水溶化を施したSN-382量体を用いて、キャリアフリーで、薬剤のみで構成されるナノ薬剤を創製した後、1.ナノ薬剤の細胞内外での動態、2.ナノ薬剤のエイジングによる薬効の向上、3.ナノ薬剤の薬効におけるサイズ依存性という3点を解明することに成功した。これらの知見は、化学のトップ論文雑誌に掲載されることが決定している。今後、上記の知見を活かして、企業への技術移転を図るとともに、マウスなどの小動物を用いたin vivo の実験系に進むことを目標とする。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。ナノ薬剤がそのまま細胞内に侵入する可能性が高いことを示し、現行のナノ粒子においてイリノテカンの1/10以下の投与量で上市薬と同等以上の薬効を発揮できることを確認したことは評価できる。制癌剤としての応用のために、in vivo効果の確認まで必要であるので予備的でも確認しておくほうが良い。また製剤としての課題を解決して実用化に向けた展開を図ることが望まれる。
低分子阻害剤を用いたエピジェネティック制御による新規有用二次代謝物の創出 東北大学
浅井禎吾
科学技術振興機構
戸部昭広
DNAメチル化酵素やHDACの阻害剤を用いたエピジェネティック制御に基づく新規有用物質探索法の実用化に向け、適応範囲の拡大を目的とし、特異な生活環を有する昆虫寄生糸状菌や植物内生糸状菌を対象に探索を行った。その結果、それぞれ数種の菌から、新規骨格を有するポリケチド類を含む30以上の新規物質の取得に成功し、本法の汎用性の高さと有用性を示した。さらに、本法を数種の植物カルスに適用することで、植物への応用展開の可能性を示す知見を初めて得た。今後、糸状菌では、DNAメチル化酵素やHDAC阻害剤に加え,ヒストンメチル化や脱メチル化酵素阻害剤を取り入れ、また、探索糸状菌の多様性を拡げることで、より多くの新規有用物質の取得を目指す。植物では、生薬を中心としたカルス細胞に適用し、有用薬理活性物質の効率的生産を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。通常の培養条件では発現されにくい2次性代謝産物生産にかかわる遺伝子資源から新規有用物質の取得を目指して、各種エピジェネティック制御による新規物質探索法を開発し、この探索法を用いて基礎的なデータを得たことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、新規な薬理作用を持つ化合物の探索に軸足を置くのか、実用性のある医薬中間体の効率的な生産系として展開するのかなど、方向性を明確にして展開することが望まれる。
放射線による骨髄抑制に対する経口治療薬の開発研究 東北大学
松本幸子
科学技術振興機構
戸部昭広
骨髄障害後の造血再生には線溶系酵素の活性化が深く関わっている。申請者らは内因性t-PAを活性化する低分子経口PAI-1阻害化合物に着目して、東海大学との連携の下、放射線による骨髄障害モデルマウスでの治療効果の検討を進め以下の結果を得た。PAI-1阻害化合物TM5275は、t-PAをはじめとする線溶系酵素群を活性化し、造血幹細胞の増殖分化を促進し、末梢白血球や血小板を回復させたのみならず、生存率を改善し、ヒト臍帯血細胞の移植モデルにおいてヒト造血細胞を増加させた。以上より、PAI-1阻害薬が造血幹細胞移植後の造血回復期間を短縮する可能性が示唆された。今回TM-5275で示したように、一連のPAI-1阻害化合物が更に優れる放射線防御作用を有する経口PAI-1阻害薬になる可能性が示唆された。 当初目標とした成果が得られていない。本研究では、TM5275等の複数のPAI-1阻害薬の薬効を比較するとともに、出血傾向についても確認する計画であったが、マウスを用いた尾部切断による出血時間試験法の確立には至っていない。また複数の化合物による最適化や比較検討が行われておらず、また既存薬との比較優位性が不明であり、本研究成果からだけでは、知的財産権の取得や技術移転につながる可能性は低い。しかしながら放射線障害による骨髄抑制の克服については今日的課題であり、共同研究の可能性を含め今後の研究展開に期待したい。
天然資源からの新規な自然免疫制御剤の開発 東北大学
菊地晴久
科学技術振興機構
戸部昭広
自然免疫は感染初期に作用する基礎的な生体防御機構である。本研究開発は、自然免疫に対して作用する化合物を天然資源から探索し、創薬へとつながる候補化合物を提示することを目指すものである。開発の結果、自然免疫応答増強作用を示す3種のシード化合物を得ることに成功した。また、自然免疫応答抑制物質celastramycin A について、LPSによって誘起されるマウスの自然免疫応答を抑制することを明らかにした。さらにビオチン化誘導体を用いることでcelastramycin Aが特定のタンパク質に結合していることを見出した。今後、celastramycin Aがin vivo で重症敗血症に対する治療効果をもたらすことを確認するとともに、その標的分子の同定を行うことで、新規医薬品開発にふさわしい化合物であることを示し、技術移転を達成したい。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。独自のアッセイ系を用いて自然免疫を制御する2つのシード化合物についてマウスマクロファージ由来細胞を用いた薬効試験やin vivo試験における毒性試験を行い、その安全性を示してきたことは評価できる。敗血症モデル動物での効力試験の十分な結果は得られていないが、シード化合物の作用機序を部分的に解明しており、またリード化合物からさまざまな誘導体を合成し、構造活性相関を明らかにしようとしていることから技術移転に向けて更なる展開に期待したい。
Gemininの特性を利用した血小板誘導薬スクリーニング系の立ち上げ 東北大学
本橋ほづみ
科学技術振興機構
戸部昭広
試験管内血小板産生誘導系を開発しGemininの発現量もしくは活性を測定可能なスクリーニング系の構築を目標とした。試験管内での巨核球様細胞の誘導には成功したが、血小板産生までには至らなかった。巨核球へ分化誘導すると比較的早い時間でGeminin の発現は抑制され、その後、DNA 含量が著しく増加することが観察された。これはin vivo での巨核球の成熟過程と良く一致していた。そこでこの誘導可能な株で、Geminin の発現量を誘導的に調節することができる細胞株の樹立を試み、Geminin発現抑制によってDNA含量の増加とともに、巨核球としての表現型が再現されることを確認する予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも巨核球の誘導の技術に関しては評価できる。一方、血小板誘導やそのためのモニタリング法開発に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、計画された研究を遂行されることが望まれる。
メグシンを分子標的とする腎疾患治療薬のリード化合物の探索 東北大学
段孝
科学技術振興機構
戸部昭広
糖尿病性腎症治療薬としてのmegsin 阻害薬開発を目的に、大規模化合物ライブラリーをハイスループットスクリーニング(THS)することで技術移転可能なリード化合物の発見を目指した。今回大量精製したヒトmegsinの既報との同等性を確認し、THS系の実用性は、リードとはならなかった陽性対照S3-18とmegsinと同じSERPINファミリーに属し、THSでリードが発見されているPAI-1を用いて検証した。東大が保有する化合物ライブラリーCore9600(20万化合物を代表)をHTSしたところ、PAI-1では複数の特許/開発中の化合物に類似するヒットがあったが、megsinではヒットが得られなかった。以上から、megsinはPAI-1とは異なり、低分子化合物による活性制御が困難であることが強く示唆された。また、ヒット(リード)化合物が得られなかったことから、実用化の見通し(技術移転の可能性など)は立たなかった。今後、megsinの発現機序や受容体の解明により、それらの機構を調節する薬剤開発研究を進め、再提案を期す。 当初目標とした成果が得られていない。中でもヒット(リード)化合物が得られなかった点に関しては技術的検討や評価の実施が不十分であった。今後、技術移転へつなげるには、今回得られた成果を基にして研究開発内容を再検討することが必要である。
新規末梢性掻痒治療薬の探索 東北薬科大学
櫻田忍
福島大学
森本進治
近年histamine H4受容体が同定され、掻痒治療薬の新たなターゲットとして注目されている。本申請課題では、histamine H4受容体を介した掻痒誘発作用を持つ新規化合物(A)とその誘導体であり抗掻痒作用を持つ(B)を用い、それら化合物の構造活性相関を検討することにより、掻痒誘発薬ならびに末梢性抗掻痒薬を探索した。その結果、H4受容体選択性を向上させた掻痒誘発薬(C)、(D)ならびに低分子掻痒誘発薬 (E)を見いだした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。(A)及び(B)をリードとして、構造活性相関を検討し、掻痒治療薬の開発候補化合物として histamine H4 受容体に対する選択性の高い拮抗物質を見出したこと、また、掻痒誘発試薬の候補化合物として選択性及び活性の高い有望な化合物を見出したことは高く評価 できる。すでに、企業と提携して最適な化合物の探索を始めており、技術的課題等を克服し、技術移転が進行している段階にあると思われる。実用化に 向けた展開が期待される。
イリジウム錯体の光線力学治療薬としての可能性を検証する 秋田県立大学
穂坂正博
秋田県立大学
渡邊雅生
申請者は、これまでイリジウム錯体を利用してがん組織をイメージングすることに成功し、がん検査薬としての製品化に向け開発を続けている。最近、申請者はイリジウム錯体の生体投与方法を改良する過程で、イリジウム錯体を人工脂質膜に内包した「イリジウム錯体内包リポソーム」が、がん組織特異的な光線力学治療薬としての効果を持つことを発見した。そこで本研究はイリジウム錯体内包リポソームの光線力学治療薬としての可能性を検証している。申請者はこれまでの研究期間でイリジウム錯体内包リポソームが、低酸素状態のがん細胞のみに壊死を引き起こすことを見出した。今後はそのメカニズムを明らかにする。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。イリジウム錯体内包リポゾームの至適投与方法、正常細胞とがん細胞との作用機作の違いの差の解明などが達成され、治療薬としての可能性は高まったことは評価できる。更に、共同開発研究を通して企業化の可能性も高まっており、実用化に向けた展開が加速されることが望まれる。
天然物由来の環状ペプチドを基盤とした新規血栓溶解剤の開発 秋田大学
小泉幸央
秋田大学
伊藤慎一
本研究の目標は、糸状菌由来のマルホルミンA1による血栓溶解促進活性を超越した非天然型環状ペプチドの開発である。本課題を解決するため、1)誘導体合成、2)in vitro血栓溶解活性評価、3)細胞毒性評価を行なった。誘導体合成の結果、天然型マルホルミンを上回る活性を示す誘導体は得られなかった。また、活性を保持したまま細胞毒性を10倍以上強める誘導体は得られたが、細胞毒性を低下する誘導体は今回得られなかった。これまでの結果、活性上昇および毒性低減の要件を満たす誘導体は合成できなかったので、今後さらなる誘導体合成を展開し、天然型マルホルミンを超越した誘導体の開発を目指す。 当初目標とした成果が得られていない。糸状菌由来の環状ペンタペプチドであるマルホルミンA1が血栓溶解促進活性を示すという知見を発展させ、より強い活性(nMオーダー)と百分の1以下の細胞毒性を有する非天然型ペプチドの開発を目指したが、リード化合物を凌ぐ誘導体は得られなかった。そのため、in vivoの実験に関わる項目は実施されなかった。今後、さらなる誘導体の合成により有望なものが見出される可能性はあるので新たな展開に期待したい。
色素細胞特異的転写因子MITF 抑制作用を有する悪性黒色腫治療薬及びメラニン色素抑制剤の開発 秋田大学
池本敦
秋田大学
伊藤慎一
秋田に自生する天然植物資源であるヨブスマソウ(イヌドウナ、ホンナ)は山菜として東北地方で利用されているが、この抽出物にメラニン産生抑制作用があり、有効成分の標的が色素細胞特異的転写因子MITFの抑制であることを見出した。ヨブスマソウ抽出物からMITF抑制物質を精製し、濃縮した分画を作成した。作成した分画は、悪性黒色腫選択的に抗癌作用を示すことを見出した。さらにヨブスマソウ抽出物にはメラニン色素産生酵素であるチロシナーゼの阻害物質や抗酸化物質が含まれ、アルブチンやコウジ酸などの既存のメラニン抑制剤よりも低濃度で効果を発揮した。今後、ヨブスマソウ抽出物を活用した化粧品・サプリメントを開発していく計画である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に秋田県に自生する天然植物資源であるヨブスマソウより抽出したメラニン産生抑制活性の効果を示したことは評価できる。リード化合物としての活用にも取り組んでおり、機能性豊かな新物質の用途は広い。今後は、実用化に向けて商品化・産業化へ大きく発展されることが期待される。
新規化合物SST-VEDの発毛促進剤としての有効性の検討 秋田大学
夏井美幸
秋田大学
伊藤慎一
SST-VED化合物は、α2受容体遮断作用を持つことを特徴としており、血圧に影響することなく血管拡張作用を示す事から、頭皮血管の拡張を介した発毛促進効果が期待できる。本研究ではα2受容体遮断作用を持つ新規化合物SST-VEDによる発毛促進効果と作用機構の解明し、発毛剤として商品化することを目的とした。本事業ではマウスでのSST-VEDの発毛促進効果試験、毛包器官培養系、毛乳頭細胞培養系での発毛促進効果試験を実施した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。新規化合物に発毛促進効果があることが細胞培養及び動物実験レベルでは確認できたことは評価できる。一方、技術移転の観点からはさらに最良の化合物を目指して、類似化合物を多種類合成・探索していくステップが必要と思われる。さらに、現在の市販薬との比較検討も必要であり、ヒトへの応用に向けて、更にデータを積み重ね次のステップにつなげることが望まれる。
潰瘍性大腸炎に対するナノ治療剤の開発 筑波大学
長崎幸夫
活性酸素消去能を有するナノサイズの粒子(レドックスナノ粒子、RNP)が大腸粘膜に高度に集積し、難病に指定される潰瘍性大腸炎の治療に成功した。本開発ではRNPの腸内粘膜集積性を検討した。その結果、RNPは大腸粘膜内に高度に集積することが確認された。集積はサイズ依存的であり、40nmの粒子は200nm以上の粒子に比較して50倍程度の集積性を示した。潰瘍性大腸炎モデルでは通常マウスに比較してさらに50%集積度が増し、高い集積性を確認した。一方でナノ粒子は血中に全く取り込まれず、全身への副作用の惹起を抑えることが確認された。このようにRNPは安全で効果の高い潰瘍性大腸炎治療薬となる。RNPの経口投与による腸内細菌分布はほとんど変化せず、潰瘍性大腸炎モデルマウスで増殖する大腸菌、ブドウ球菌を有意に抑制することが確認された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。活性酸素消去能を有するナノサイズの粒子(レドックスナノ粒子、RNP)を開発し、40nmのRNPが大腸粘膜、特に炎症を有する大腸粘膜に効率よく集積し、血中には移行しないこと、このRNPが潰瘍性大腸炎モデルで大腸の炎症を有意に抑制できること、さらに腸内フローラに重大な影響を与えないことなどを確認した点は高く評価できる。難治性疾患である炎症性腸疾患に対して全身に影響を与えず局所で炎症を抑制する新しい薬剤の開発の可能性を示す有望な研究成果であり、技術移転を視野に入れた共同研究を行うレベルに達していると考えられ、今後の進展が期待される。
肺血管内皮細胞を用いた抗がん剤の副作用発症機構の解明 筑波大学
山下年晴
筑波大学
窪田道夫
低酸素応答において抑制性に作用するHIF-3α欠損マウスでは肺血管内皮細胞において慢性的な低酸素応答遺伝子の過剰発現が見られる。また抗がん剤Boretzomibは長期投与によって肺において低酸素応答遺伝子の過剰発現が起こり肺水腫という重篤な副作用を誘発する。これらを合わせて考えるとHIF-3αがこの現象に関与している事が示唆される。本課題では副作用の発症におけるHIF因子の関連性を明確にすると共に、その分子機構を明らかにする。この解析により安全な治療薬の開発へと応用することが期待される。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。Bortezomibの副作用機作解明は、HIF-3αKOマウスでの実験系から、HIFの関与及び NOSによる血管内皮細胞への影響を推測するなど、推察の範囲であるが前進は見られる。しかし、ひとつの薬剤の副作用機構解明だけであり、その作用機作から副作用低減などに結びつく研究方向が示されていないため、技術移転につながる可能性が見い出せない。薬剤では想定外の遺伝子の動きや、副作用に由来する二次的効果の探索も重要であり、たとえばin vivoでsiRNAやデコイによるHIF機能阻害との比較実験等を取り入れるなど研究計画の見直しが望まれる。
膜タンパク質認識ペプチド創製技術の最適化および自動化に関する技術開発 独立行政法人産業技術総合研究所
木村忠史
独立行政法人産業技術総合研究所
小高正人
本研究開発では、大腸菌の形質転換後、固相寒天培地を用いた培養を経ず、直接液相培養を行うことによりPERISS法を効率的に行える方法を開発することを目標とした。形質転換後、回復培地による培養を行い、その後遺伝子発現用液体培地に置換し培養することにより固相培養と同様のバイアスでライブラリを展開、培養できることがわかり、液相培養によるPERISS法が可能となった。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。液相培養法によるPERISS法の開発という当初の目的を達成したことは評価できる。しかし、非特異的結合の除去という新たな課題も見つかり、技術移転につながるまでにはもう少し時間がかかるかもしれない。知財の確保に注意しつつ、企業との共同研究などを積極的に進めることが望まれる。
GM1-ガングリオシドーシスの新しい経口シャペロン薬開発 国際医療福祉大学
鈴木義之
本研究の最終目標は、古典的な神経遺伝病GM1-ガングリオシドーシスの経口シャペロン薬を開発することである。本研究では、シャペロン化合物NOEV(N-オクチル-4-エピ-β-バリエナミン)の合成法を再検討し、この標品を使ってマウスの予備的毒性試験と薬理動態試験を実施した。公比4の3段階濃度の水溶液を単回投与後、2週間経過を観察した。最少致死量は500-2000mg/kgの間と推定された。3mg/kg (10ml/kg)の単回投与時の最高血中濃度は664.0ng/ml、最高血中濃度到達時間は60分、半減期は112分であった。これらのデータをもとに、今後さらに詳細な非臨床試験から薬剤開発に進みたい。
当初目標とした成果が得られていない。当初シャペロン化合物NOEVの大量合成を行って、非臨床予備試験を行うとともにマウス体内での薬物動態を解析する計画であったが、大量合成法が技術的問題で頓挫し、急遽、従来の合成法の再検討を行っている。その中で、一定のデータを得たことは評価できるが、技術移転の観点からは大量に安価に合成することが技術課題として残された。今後の開発計画を再検討して課題に取り組むことが望まれる。
プロテアソーム阻害作用を有するホモピペラジン化合物の探索 自治医科大学
菊池次郎
プロテアソーム阻害作用を持つホモピペラジン化合物K-7174が、プロテアソーム酵素活性中心に直接結合し、活性阻害に働く機序が結晶構造解析から明らかになった。この結果を基にK-7174と異なる側鎖や官能基を有する誘導体の中からより低濃度で有効な誘導体を探索した。その結果、in vitroにおいてK-7174に比べて約4分の1の濃度でプロテアソーム阻害を介した細胞傷害活性を示す誘導体の同定に成功した。また、本剤はボルテゾミブ耐性細胞にも有効であった。現在、in vivoにおける経過観察中であるが、本研究によりホモピペラジン化合物による新規プロテアソーム阻害剤経口薬の候補化合物を得ることができた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。プロテアソーム阻害作用を持つホモピペラジン化合物でボルテゾミブ耐性細胞にも有効な誘導体を同定している点は評価できる。また、作用も新規であることから、抗腫瘍療法の進歩に貢献することが強く期待される。しかし、マウスin vivo実験が実施されていないこと、in vitroの作用濃度が依然マイクロモルオーダーであることなど、クリアすべき実用化に向けた課題が残っており、企業との産学協同を加速することが望まれる。
血圧低下作用を持つプーアル茶抽出物を利用した次世代健康飲料の開発 群馬大学
中村彰男
群馬大学
塚田光芳
本研究では、血管平滑筋収縮測定により50 種類のお茶より、微生物の発酵過程を経たプーアル茶と碁石茶の熱水抽出エキスに血管平滑筋弛緩作用があることを発見した。この弛緩作用は血管平滑筋に対しての直接作用で新規の降圧作用であると考えられる。さらにこのエキス成分を用いて自然発症高血圧モデルラットを用いた非観血血圧および観血血圧測定により血圧降下作用が動物実験においても確かめられた。これらの探索研究により将来的には新たな降圧剤や次世代の健康補助食品あるいはドリンクの開発に技術移転できる可能性が考えられる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。プーアル茶と碁石茶(後発酵茶)に、既存の緑茶や烏龍茶より優れた血管弛緩作用があることを検証し、活性成分の商品化への方法や技術移転先の構想も具体的に進んでいることは評価できる。また、後発酵茶に血圧降下作用があり酢酸エチル画分にその成分があることも明らかになり、その作用点の解明なども進んでいる。これらより特定保健用食品や降圧剤などへの応用の可能性が明確になった。今後、実用化を目指して研究開発を加速することが望まれる。
従来と異なる作用機序を有する新しいタイプの免疫抑制剤の開発 群馬大学
保坂公平
群馬大学
塚田光芳
免疫抑制剤として現在、頻用されているタクロリムス(FK506)類はイムノフィリンを介して間接的にカルシニューリン(CN)を阻害する。本研究の目的はCNを標的とし、これらとは異なった作用機序の抑制剤のシード化合物を発見する事である。プラスチック中から目的物質を精製・構造決定した。この物質は新規化合物ではないが、IC50は凡そ10μMとなり、しかも CNに直接作用する事は今回の研究で初めて判明した。そこで、この物質をシード化合物に決定した。側鎖のアルキル基を長くすると更に酵素の阻害作用が強力になり、IC50値は更に低くなった。細胞レベルでの作用をJurkat細胞のIL-2産生能を指標に調べた結果、シード化合物は100μMの添加で50-60%の産生阻害をした。今後は更に化合物の側鎖や、基本骨格の芳香環を変化させてみたい。 当初目標とした成果が得られていない。カルシニューリン(CN)阻害作用を有する極性画分物質の構造決定はなされたが、低極性画分物質の構造決定は物質の不安定性のため達成できなかった。検討したアルキルベンゼンスルホン酸は市販品であり重合度によりカルシニューリン活性を示すが、さらに高濃度にすると細胞の生存率が急激に低下することは、界面活性剤としての作用が表れてきたものと推察される。すでにCN阻害薬として知られているシクロスポリンやタクロリムスよりも有用性が認められなければ技術移転につながる可能性は乏しい。
新規な免疫抑制剤・抗炎症剤の開発 群馬大学
久保原禅
群馬大学
塚田光芳
DIF-1とDIF-3は、土壌微生物の一種、細胞性粘菌Dicytostelium discoideum由来の生物活性物質である。近年我々は、DIF-1とDIF-3の誘導体TH-DIF-1, TM-DIF-1, Bu-DIF-3, CP-DIF-3が、Concanavalin A (ConA)で喚起したJurkat細胞(免疫系T細胞のモデル)のInterleukin-2 (IL-2)産生を抑制することを発見した。本研究開発計画において、我々は、DIFsをリード化合物とした新規な免疫抑制剤・抗炎症剤の開発を目指し、検討を進めた。その結果から、とりわけTM-DIF-1とTH-DIF-1が抗炎症剤・免疫抑制剤の有望なリード化合物であることが示唆された。 当初目標とした成果が得られていない。細胞性粘菌由来低分子物質 DIF をリード化合物として、免疫抑制薬、抗炎症薬の開発を目指すものであったが、最も有望とされる化合物についても顕著な効果を示し得なかった。興味深い研究であるので、今後より強力なあるいは何らかの明瞭な特徴を有する化合物を見い出すことが望まれる。
血糖値を調節する血中遊離マイクロRNA 群馬大学
畑田出穂
群馬大学
塚田光芳
短鎖ノンコードRNAで遺伝子発現制御を行うマイクロRNAは”エクソソーム”という膜に包まれ血中に遊離して安定に存在することから、臓器間の情報伝達物質として注目されている。申請者らはこれまでに肥満したマウスで増えている血中遊離マイクロRNAを発見し、そのうちの1つを健常なマウスに投与すると血糖値が上がることを見出した。そこで、本プロジェクトではこの血糖値を上げる遊離マイクロRNAが肥満や糖尿病の病態を改善する創薬のターゲット分子、バイオマーカーとなるかを明らかにすべく1)このマイクロRNAの効果を抑えて、血糖値を下げることができるかどうか、2)肥満や糖尿病の病態を改善できるかどうかについて検討する。 当初目標とした成果が得られていない。動物モデルを用いて糖尿病や肥満に対する効果について検討がなされたが、血糖値を上げるマイクロRNAの相補的修飾核酸の腹腔内投与は、糖尿病や肥満に対する改善効果を示さなかった。血糖値を調節する血中遊離マイクロRNAは今回のもの以外にも複数見出しているとのことなので、それらを含めてマイクロRNAの生理的役割を明らかにすることが望まれる。
カルシウムセンサーを導入したゼブラフィッシュによる薬剤評価系の開発 埼玉大学
中井淳一
埼玉大学
永井忠男
我々は、脳の多数の神経細胞の機能を解析するために、細胞活動の可視化技術を開発した。この技術は脳以外の組織・細胞にも応用可能な技術である。近年医薬品開発において、動物実験の時間・経費削減のためゼブラフィッシュの導入が始まっている。そこで本課題では蛍光カルシウムセンサーを導入したゼブラフィッシュの有用株を作出し、それを用いた新たな薬剤評価系の開発を行った。ゼブラフィッシュに我々の開発した可視化技術を組み合わせることにより、これまで測定が困難であった生体情報のモニターや、in vivoでの薬剤の光学的測定が可能となった。本研究成果は網羅的な薬剤作用の研究や、医薬品開発の効率化に寄与できると期待される。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。生体情報のモニター及びin vivoでの薬剤の光学的測定に関して、一定の成果は得られている。しかし、より生理的条件での測定法の開発等、今後検討すべき課題も出てきている。既にマウスが用いられており、ゼブラフィッシュを用いるメリットを明確にしたうえで、早急な実用化を図るべきである。
環状ペプチドによる新規血栓溶解薬創生戦略 日本薬科大学
河村剛至
開発したプロカルボキシペプチダーゼR(ProCPR)活性化阻害ペプチドを環状化することにより、分子認識における立体構造形成の効果を検証した。ProCPR活性化を阻害するアミノ酸20残基のペプチド両端にシステインをつけ、環状化したペプチドは、50%阻害濃度が約7倍減少し、親和性が大きく上昇した。直線状ペプチドと同程度の阻害活性を保持し、14残基まで低分子化に成功したが、同様に環状化を行ったところ、阻害活性は全く消失した。この結果、ペプチドはある程度のアミノ酸数、あるいは、適度のフレキシビリテイが必要であると考察された。さらに親和性、代謝安定性向上させたペプチドの探索中である。同時にX線結晶解析でペプチドとProCPRの結合部位と結合に関与するアミノ酸を明らかにし、経口血栓症の予防及び治療薬の開発を目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。より良い経口血栓症の治療薬を目指して、既存プロカルボキシペプチダーゼR活性化阻害ペプチドの小分子化を 環状化による3次構造安定化により達成しようとするもので、直線状ペプチドと同程度の阻害活性を保持し、14残基まで低分子化に成功したことは評価できる。しかし、それ以下の環状化では活性を全く消失しており、得られた結果は今後の研究基盤を固めるのには役立ったが、技術移転に向けて進展したとは言いがたい。今後、結晶解析等により、より正確な複合体構造情報が望まれる。
PDE3Bインヒビターを用いた抗癌剤治療増強法の開発 千葉大学
鵜澤一弘
千葉大学
小柏猛
シスプラチンは抗癌剤として広く癌種に用いられているが、その薬剤耐性は治療効果の妨げになっている。シスプラチン耐性因子の検索は現在世界中で盛んに研究が行われているが、耐性克服法にまで至った研究はほとんどない。私たちのグループは、平成15年から19年まで千葉大学で行われた21世紀COEプログラムにおける研究において、シスプラチン耐性遺伝子を網羅的に検索し、5種類のシスプラチン耐性遺伝子候補を同定した。その中で、PDE3Bが多くのシスプラチン耐性腫瘍において高発現している事を確認し、さらに同遺伝子のsiRNA法を用いたノックダウンモデルにおいて、シスプラチンへの抵抗性を減弱させるメカニズムを既に明らかにした。今回の申請はPDE3Bのインヒビターであるシロスタゾールを用い、シスプラチンを用いた化学療法の効果増強療法の開発を狙った内容となっている。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。シスプラチンはその薬剤耐性が問題となっている。シロスタゾールを用いた、シスプラチンによる化学療法の効果増強療法の開発が目的であるが、マウスを用いた試験において両化合物併用群で有意に腫瘍増大抑制効果が見られており、一定の成果が認められた点は評価できる。一方、すぐには特許出願にはつながらないことから、産学共同等の研究開発ステップにつながる可能性については未知数である。治験審査委員会に申請して自主臨床試験を開始することを計画しているので、その後の展望についても検討を加えながら実用化への展開を期待したい。
糖尿病創薬を目指した膵島再生マウスの樹立と応用 千葉大学
三木隆司
千葉大学
片桐大輔
インスリンを分泌する膵島量の減少は糖尿病発症の主因であり、膵島再生による糖尿病根治治療が注目を浴びている。しかしながら、現時点では膵島再生を観察できる動物モデルは樹立されていない。そこで、根治療法開発の一翼を担うべく、膵島再生マウスの作製と膵島量定量法の確立を目指した研究開発を行い、これを達成した。具体的には、膵β細胞にジフテリア毒素受容体を発現するマウスに、様々な重症度の耐糖能異常を誘導し、その後の膵島再生を実証した。また、全膵臓の組織切片を用いて、正確な膵島量算出法を確立した。本マウスは膵島再生を介した糖尿病治療法の開発などに重要なツールであり、本事業後も発展的、実用的展開が期待できる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。本研究は糖尿病に関する創薬を目指して、膵ランゲルハンス島を適度に破壊し、膵島の再生を非侵襲的に評価できることを目指した意欲的なものである。ジフテリアトキシンを投与し糖尿病を作成するモデルマウスは既に発表されており新規性は少ないものの、非侵襲的な膵島量の評価のためには、種々の工夫がなされているようであり、今後このマウスを用いた膵島量の増加作用を解析する予定などもあることから、実用化に向けて着実に進めていくことが望まれる。
革新的ハイスループットdiacylglycerol kinase活性測定系を用いたメラノーマの治療薬の開発 千葉大学
坂根郁夫
千葉大学
小柏猛
メラノーマ(悪性黒色腫)は、あらゆる癌の中でも最も悪性度が高く、致死率も高い。しかし、現在のところ本症に対する有効な化学療法は未だ存在しない。既に我々は、ジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)αの活性阻害が、極めて有望で且つ副作用、併用効果の面等で優位性があるメラノーマ治療法になり得ることを明らかにした。しかし、従来のDGKα活性測定法は煩雑で阻害剤スクリーニングは事実上不可能であった。我々は、最近、DGKα阻害剤スクリーニングの為の高スループット(HTP:高感度・迅速・簡便)活性測定系の開発に成功した。そこで今回、本法を用いてDGKαを特異的に阻害する化合物のHTPスクリーニングを行い、複数の有望な化合物が得られた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。酵素阻害作用を有する複数の化合物を見出している点は評価できる。一方、それらの細胞レベルでの効果の検証が待たれるところであるが、研究成果に基づいた特許出願も準備段階にあり、またすでに一部は企業と共同研究を行っているので、今後の産学協同の研究開発の進捗に期待する。
カバノアナタケから同定された抗癌剤候補化合物DDTCTの抗腫瘍活性評価 東京理科大学
池北雅彦
東京理科大学
船越安信
免疫不全マウスにヒト癌細胞を移植することで作成した担癌マウスにDDTCTの腹腔内注射を行い、その腫瘍の増殖抑制効果を測定した。先行して実施したマウスへの毒性試験の結果では400 mg/kgを最高濃度としてDDTCTの腹腔内注射を行ったが、マウスに対し目立った毒性は認められず半致死量を決定するに至らなかった。担癌マウスによる腫瘍増殖抑制効果に関しては、最大400 mg/kgの濃度でDDTCTの腹腔内注射を行ったが、最大濃度においても腫瘍増殖抑制効果が認められるという結果は得られなかった。培養細胞でみられた細胞増殖抑制が動物実験で認められない理由は明らかではないが、DDTCTを単体で用い抗癌剤あるいはそのリード化合物とすることは適切ではないと考えられる。 当初目標とした成果が得られていない。計画通りに研究が行われ、 DDTCTの毒性試験では良好な結果が得られたものの、腫瘍サイズの退縮効果が認められなかった。そのためDDTCTを制癌剤として開発を続けることが難しいという結論になった。従って技術移転につながる可能性は低いため、残念ながら今後の発展は期待できない。
NMDAR及びASICを分子標的とした脳梗塞改善薬の開発研究 日本大学
益子崇
日本大学
渡辺麻裕
アミロライド誘導体及び新規合成ビグアニド誘導体がNMDAR及びASIC1aの活性を顕著に抑制することで、脳虚血刺激に対して神経細胞保護効果を発揮するかどうかを検証することを目的とした。その結果、ビグアニド誘導体であるMS-508、MS-509などは、両イオンチャンネル活性を顕著に抑制し、アミロライド誘導体であるフェナミル、ベンザミルよりも強い神経細胞保護効果を示すことが明らかとなった。今後、MS-508やMS-509を基本骨格として、チャンネル・ブロック作用、細胞毒性及び神経細胞保護効果の結果を踏まえたビグアニド誘導体の構造の最適化を検討すること及びそれらの化合物MCAO実験(中大脳動脈閉塞術による実験)での有用性のさらなる検討を行うことが必要と考えられた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。アミロライド誘導体やビグアニド誘導体のグルタミン酸受容体阻害・酸開口チャンネルの阻害活性に着目し、より高性能な神経細胞保護剤の開発を目指した研究で、in vivo実験と培養神経細胞保護活性で良い成績を得ている。一方、技術移転の観点からは、脳血液関門の透過性実験はまだ不十分であり、in vivoデータもより信頼性のあるものが求められる。PCT出願はなされているので、早急に企業と共同研究に持ち込むことが望まれる。
神経幹細胞の自己複製促進剤の開発 慶應義塾大学
並木淳
慶應義塾大学
一色孝子
神経幹細胞の自己複製促進剤であるマウスECF-L蛋白質と相同性の高い3種のECF-Lヒトホモログ蛋白質は、いずれもin vitroの実験により、対照群と比較して有意に高いマウス神経幹細胞の自己複製促進効果を示した。3種の蛋白質間ではその効果に差を認めなかったため、この中から1つのオーソログ候補蛋白質を選択してin vivoの検証実験に進む当初計画を変更した。ヒト血管内皮前駆細胞の分泌蛋白質にECF-Lと相同性の高い蛋白質が存在している可能性について、ショットガンプロテオミクスによる網羅的解析を行ったが、既知の蛋白質データベース検索ではその存在は確認できなかった。しかし、ヒト血管内皮前駆細胞の分泌蛋白質には、ウエスタンブロットにてECF-Lモノクローナル抗体が認識するバンドが確認され、マウスECF-Lよりも約20kDa大きい分子量を持つことが示された。今後はこのヒト蛋白質の同定と、神経幹細胞に対する生理活性の検証を進める予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。神経幹細胞自己複製促進物質のマウス蛋白質ECF-Lと相同性の高いECF-L ヒトホモログ蛋白質3種を選択したことは評価できる。しかし、in vitro ではなく、in vivo(生体内)でECF-Lが神経幹細胞の自己複製や分化に対して一定の役割を担っているかどうかについて検証が必要となる。今後、ヒト血管内皮細胞から分泌されていることが明確になり、その分子が同定できれば、産学協同等の開発ステップにつながる可能性が高くなるものと思われる。
H.pylori の鉄取り込みトランスポーターFecA1を標的とした、病原性細菌を特異的に制御するリード化合物の探索 慶應義塾大学
鈴木秀和
慶應義塾大学
湯浅洋二郎
目標:化合物ライブラリーを用いたケミカルバイオロジー技術によりHelicobacter pyloriの慢性感染を規定する鉄トランスポーターFecA1に対する特異的親和性化合物の選定と選定化合物のH. pyloriに対するin vivo抗菌活性につながるin vitro抗酸化能の評価。
達成度:ケミカルバイオロジー技術適応のためのFecA1の効率的かつ断続的供給を目的とした大腸菌によるFecA1の可溶化発現システムを構築した。また、COPICATを利用してFecA1の1次構造に基づいた結合性化合物の探索により、3種類の低分子化合物をFecA1結合可能性化合物として同定した。今後の展開:可溶化発現FecA1蛋白質の精製法の確立と精製FecA1を用いて化合物ライブラリーから結合性化合物の探索と機能評価を実施する。COPICATにより同定した結合可能性化合物のin vivo抗菌活性につながるin vitro抗酸化能を評価する。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。H.pyloriの鉄トランスポーターFecA1の可溶化発現システムの構築をし、FecA1結合可能性化合物の同定はできた点は評価できるが、当初の目標であったFecA1に対する親和性化合物の選定とin vitro抗酸化能の評価までには至らなかった点が惜しまれる。研究内容は独創性が高く、注目すべきであるものの、多くの課題も残されており技術移転に向けてさらに検討を要すると思われる。
HNF1β標的ヒト型モノクローナル抗体による分子標的治療薬の創薬 慶應義塾大学
赤羽智子
慶應義塾大学
湯浅洋二郎
近年の癌治療において治療奏効性が高く副作用が少ない治療薬として分子標的治療薬が各臓器にて用いられている。しかしその奏効性は症例により差があることから新規分子標的治療薬の開発が望まれている。我々はこれまでの研究においてHepatocyte Nuclear Factor1β(以下HNF1β)は卵巣癌の中でも明細胞腺癌に高発現することを解明し(Higashigugi A, Cancer Sci 2007)、子宮体部に発症した明細胞腺癌においても同様の結果を得ている。従って本研究は特定の臓器を対象としないHNF1β産生腫瘍に対する特異的標的抗体治療薬の創薬を行うこととする。 当初目標とした成果が得られていない。抗体治療薬の基礎となるモノクローナル抗体の作製を目指したが、目標とするモノクローナル抗体の作製まで到達できなかった。従って、現状では技術移転につながる可能性は低いと言わざるを得ない。ポリクローナル抗体の実用化の可能性について成果が得られたが、ポリクローナル抗体は抗原決定基が複数検出されることが多く、抗原に対する特異性に欠けることより抗体治療薬に適さないと考えられる。
新規化合物Nishio199のEGFR-TKI耐性肺がんに対する抗腫瘍効果の検討 昭和大学
大森亨
我々はEGFR-TKI耐性細胞株用いて441種の化合物のスクリーニングを行い、T790M変異EGFRを発現するPC-9/ZD耐性株において高感受性を示すNishio199を見出した。IC50値は10μM以下と低濃度であることから、EGFR-TKI耐性腫瘍治療薬として期待される。既存のEGFR-TKIはほとんどがquinazolin誘導体であるのに対して、Nishio199は異なる分子骨格を有しており、EGFR cysteine 797のSH基と結合することで阻害効果を発揮すると推測される。本研究ではNishio199の抗腫瘍活性の分子機構を明らかにし、臨床応用の可能性について検討する。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。リードとなる化合物を発見し、最適化に向けて取り組みを行っていることは評価できるものの、候補化合物の腫瘍選択性・汎用性の解析においては、当初計画の数十種類からすると極めて少ない14事例でしか実施できておらず、誘導体の評価も実施例が少ない。耐性獲得の大きな原因となるEGFR T790M変異を克服できる薬剤の開発については非常に重要であり、物質特許取得及び企業とのアライアンスに向けた展開に期待したい。
薬剤耐性かつ高温感受性変異株の解析に基づく抗生物質の標的分子の同定法の開発 東京大学
松本靖彦
本研究は、抗菌化合物の標的分子を同定するための新しい方法論の確立を目的としており、薬剤耐性かつ高温感受性変異株の解析により、その薬剤の作用点を明らかにできるか検証を行った。我々は、新規の骨格の抗菌化合物の標的分子の候補の同定に成功した。また、それぞれの抗菌化合物において標的分子の候補が異なっており、化合物特異的な標的分子の同定が行えることが示唆された。本方法により、1)抗菌化合物が直接結合する標的分子の同定、及び2)薬剤の作用機構に関与する分子(直接結合しない分子)の同定が行えることが明らかとなった。今後もさらに、本技術の適用範囲の拡大を視野に入れて開発を進めていきたい。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。標的となるタンパク質の精製とその酵素活性に対する抗菌性化合物の阻害作用の確認まで至らなかったが、新規化合物であるYM-NAの薬剤耐性かつ高温感受性株において、独立に異なった遺伝子に変異が導入された菌株を取得している。本法は改良により、抗真菌物質、抗ウイルス物質、抗がん物質の標的も同定できるような可能性を示唆した点が評価できる。すでに企業との共同研究の合意がなされていることより研究の進展を期待する。
ヒト脂肪幹細胞をソースとする肝細胞スフェロイドチップの開発 東京大学
吉本敬太郎
細胞接着領域がマイクロレベルで規制された機能性培養皿を用いて、間葉系体性幹細胞の一種である脂肪幹細胞の三次元化を試みたところ、約80μm径を持つ球状細胞塊(スフェロイド)を効率良く且つ大量に構築することに成功した。構築した脂肪幹細胞スフェロイドは約1カ月間の継続培養が可能であり、内部壊死も観測されなかった。さらに、未分化関連遺伝子の発現量を比較したところ、単層培養したものよりもスフェロイド化したもの方が高く、骨芽、軟骨、肝臓様細胞への分化も確認した。以上の結果から本機能性培養皿を用いた三次元培養法が脂肪幹細胞の分化誘導能を向上させ、目標であった肝細胞スフェロイドチップの作製に利用できる可能性を有することを明らかとした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。単層培養したコントロール(脂肪)幹細胞よりも細胞1個あたり数百倍高い生理活性を示す(脂肪)幹細胞の三次元共培養法を確立し、肝細胞スフェロイドチップの作製の可能性を明らかにしたことは高く評価できる。一方、この細胞が効率よく中胚葉系及び内胚葉系の細胞に分化できる可能性は示されたが、肝細胞機能評価が充分ではない点が惜しまれる。技術移転に向けての着実な進展はあったと考えられ、今後の展開が期待される。
Acylated homoserine lactoneによる発毛促進作用 東京大学
真田弘美
東京大学
寺澤廣一
本研究では、発毛促進作用を有するAHL類の同定とその作用機序の解明を目的に動物実験を実施した。その結果、いくつかのAHL類が発毛促進作用を有することが明らかとなった。また、その作用機序の全貌を解明するには至らなかったものの、毛包発生関連因子の発現促進が証明され、今後それらの上流因子、シグナル経路の解明が待たれる。本研究課題は、引き続き株式会社アデランスとの共同研究として実施されることが決定している。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。発毛促進機序として、既存の毛包の発毛周期の活性化と同時に、毛包新生効果があることを認めるなど、これまでの発毛、育毛薬との差別化が可能との結果が得られている点は評価できる。すでに企業との共同研究に結びついており、実用化に向けた展開が期待される。
HER2の細胞内取り込みを阻害する新規抗癌剤開発の基盤研究 東京大学
並木繁行
東京大学
増位庄一
本研究課題は、細胞膜上のHER2の細胞内酸性オルガネラへの取り込みを促進する化合物の探索を目指し、HER2を標的とするリード化合物を得るためのスクリーニング系の構築とスクリーニング系の有用性を実証する事を目的とする。本年度の研究開発ではスクリーニング系のファインチューニングを行う事で、384ウェルプレート上の各ウェル間で化合物に依存せずに生じるばらつきを大幅に抑制することに成功し、優れたスクリーニング系と言える0.6以上のZ’ファクタで再現性良く安定的にスクリーニングを行う事を可能にした。今後はより大きな規模の化合物ライブラリーを用いたスクリーニングを実施し、実際に本系が大規模スクリーニングに適用可能であることを実証する予定である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。新しいpH感受性蛍光色素を用いたハイスループット化合物スクリーニング法の条件を検討しており、期待通りの検出感度と特異性、高い安定性を持った手法が確立できたことは評価できる。但し、このスクリーニング系の持つポテンシャルについて、スループットの実際はどうかが不明である。技術移転の観点からは、企業からのアプローチがあり、独占ライセンス契約が締結されたとのことから、実用化に向けた企業との連携が期待される。
新規エポキシドヒドロラーゼ阻害剤: 新たな機序の炎症性疾患治療薬の開発を目指して 東京農工大学
蓮見惠司
農工大ティー・エル・オー株式会社
諏訪桃子
抗炎症・組織保護活性をもつアラキドン酸エポキシドはエポキシドヒドロラーゼにより分解され失活する。これを抑える新規化合物を炎症性疾患治療薬として開発する可能性を探った。技術移転を促進するため、これまでに発見した化合物に加え、新たに誘導体を単離し構造活性相関を明確化した。また、切実な需要があり、治療薬開発の具体的道筋が明確な、がん悪液質(サイトカインストームによる炎症が増悪因子)を標的とした動物実験でsEH阻害剤の効果を検証した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。炎症性疾患治療薬の開発を目指し、開発候補となる新規化合物を選択してin vitro試験で阻害活性を確認している点は評価できる。また悪液質モデル動物を用いた薬効評価で有効性を認めているので、今後は、既存のエポキシドヒドロラーゼ阻害薬との差別化をどのようにするかを考慮しながら、技術移転に向けた展開を図ることが望まれる。
ヒトマスト細胞活性化阻害によるアレルギー疾患の新規治療薬の開発 日本大学
岡山吉道
日本大学
松岡義人
アレルギー疾患の治療薬としてこのペプチドが技術移転されるためには、このペプチドが25アミノ酸からなるため(KVPEDRV-pY-EELNI-pY-SAT-pY-SELEDPG;pYはリン酸化したチロシン残基)、このなかで必須のアミノ酸だけを残し、短くしたものを作成する必要があり、新規性の点からヒトFcεRIβ鎖とはシークエンスを変えたペプチドを作成する必要があった。目標としては、約半分のアミノ酸を置換あるいは短縮したペプチドを作成する必要があった。今回、14アミノ酸まで短縮した新規シークエンスを持つペプチドが、特許申請したKVPEDRV-pY-EELNI-pY-SAT-pY-SELEDPGよりもヒトマスト細胞内Lynと強く会合することを見出した。この新規ペプチドを新たに特許申請する予定である。したがって技術移転の可能性が高まった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。すでに肥満細胞活性阻害効果を確認しているペプチドを改変して、短いペプチドのLynへの会合が確認できたことは評価できるが、細胞内移行までは確認できなかった。また、in vivoでの効果確認を予定していたが、実施できなかった点も惜しまれる。今後FITC標識物を作成して細胞内移行を確認するなども含め、残された課題を整理し、次の展開につなげることが望まれる。
血管内膜における微小損傷の治癒を促進するペプチド 日本大学
日臺智明
日本大学
渡辺麻裕
本研究では、我々の発見したペプチドに血管内皮構造の微小損傷修復促進作用があるか検討した。培養血管内皮細胞を用いた実験では、機械的な微小損傷においても、インターロイキンによる内皮構造の障害に対しても、本ペプチドは強い修復作用を示し、正常な内皮構造への回復が観察された。また、この効果は化学的に合成されたペプチドでも確認された。敗血症や動脈硬化等の予後を左右する血管内皮障害に対しては、有効な治療薬が未だ開発されていない。本ペプチドは、その候補としての資格を持つと考えられる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。目的とするペプチドが想定通りの機能を有し、合成ペプチドでも同等の機能を有することが明らかとなったことは大きな前進であり評価できる。一方、技術移転の観点からは、早急に種々の疾患モデル動物を用いたin vivoの研究に取り掛かかり、実用化の可能性を検証することが望まれる。
作用選択的ビタミンD受容体モジュレーターの開発 日本大学
槇島誠
日本大学
渡辺麻裕
ビタミンD受容体(VDR)作用薬には、細胞増殖抑制・分化誘導、炎症・免疫調節、心臓血管系及び毛周期の調節などの作用がある。本研究では、関連疾患の治療への応用を目指し、選択的VDR作用薬の開発を目標とした。これまでの研究成果に基づき、新規リガンド誘導体の設計と合成を行い、選択的VDR作用の生物学的評価を行った。(1)新規ビタミンD誘導体の立体選択的合成法の開発、(2)VDRとのX線結晶構造の解明、(3)VDR結合性、転写活性、白血病細胞に対する効果の解析を行った。X線結晶構造解析と合成法の開発を優先させたため、細胞及びマウスに対する活性評価が期間内に十分実施できず、全体の達成度は約80%である。合成完了後、生物活性を徹底的に検討する予定である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。ラットVDR-リガンド結合ドメインとADTKとの錯体のX線結晶構造解析を行い、胆汁酸であるリトコール酸もVDRに作用するが血中カルシウム濃度を増加させないことを見出し、新規ビタミンD誘導体の合成にも成功したことは評価できる。但し、合成法や構造活性相関などの構造生物学に重点が置かれているため、どのような病態の治療につながるかという視点での解析も行い、技術移転につなげることが望まれる。
抗インフルエンザウイルス物質wickerol Aを用いた新規インフルエンザ治療薬の開発 北里大学
塩見和朗
北里大学
鈴木賢一
微生物培養液より抗インフルエンザ活性を示す抗生物質を探索した結果、トリコデルマ属糸状菌の生産する新規ジテルペン骨格のwickerol AおよびBを発見した。Wickerol Aは2種のA(H1N1)型インフルエンザウイルスのイヌ腎臓由来MDCK細胞への感染を、0.07 μg/mlで50%阻害(IC50値)した。そこでwickerol Aの抗インフルエンザウイルス活性を動物実験で評価することにした。そのためにはwickerol Aを十分量確保する必要があり、まず生産菌を大量培養そこからwickerol Aを単離した。続いてマウスに対する毒性が弱いことを確認し、wickerol Aのインフルエンザウイルス感染治療効果を調べた。 当初目標とした成果が得られていない。In vitroで高い活性があったものが動物実験では効果がないことはよくある事であるので、今後ともこの分野での研究を続けるべきであるが、作用メカニズムの解明研究を通し、動物実験とin vitro実験の作用相関性についての向上も望まれる。
EP4シグナル制御による大動脈瘤に対する新規薬物治療法の開発 横浜市立大学
横山詩子
横浜市立大学
福島英明
大動脈瘤は、我が国の主たる死因を占める動脈硬化性疾患の重篤な合併症であり、患者数が増加しているが、大動脈瘤に対する根本的な治療は存在せず、その薬物治療の開発が強く望まれている。本研究を通して、我々はヒト大動脈瘤組織の器官培養とマウス大動脈瘤モデルにおいて、EP4拮抗薬が大動脈瘤の進行を抑制する可能性を示した。また、EP4欠損マウスを用いて2種類の大動脈瘤モデルを検討し、いずれもEP4を抑制することが大動脈瘤の進行を抑制することを示した。さらにマウス大動脈瘤モデルで形成された瘤に対してEP4拮抗薬が退縮硬化を示すことを明らかにし、研究計画はすべて達成した。今後はEP4拮抗薬の臨床応用に向けた検討を行う予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にApoE欠損マウスにアンジオテシIIを投与する大動脈瘤モデルにおいて経口投与で大動脈瘤形成の45-87%の有意な抑制が認められたこと、またEP4拮抗薬の大動脈瘤の退縮効果が確認できたことに関しては評価できる。一方、評価した化合物は製薬企業で開発された既存の化合物であることから、開発には企業の意向が大きく影響すると思われる。幸い当該企業との共同研究の実施が決まっていることより、その他の化合物の評価とともに今後の展開に期待が持てる。
新しい発想により発見された生体に存在する癌増殖抑制/転移抑制タンパク質(ケモカインBRAK)の迅速精製法の確立 神奈川歯科大学
畑隆一郎
よこはまティーエルオー株式会社
小原郁
本研究は我々が見出した、生体内に存在する癌抑制分子分子であるケモカインCXCL14/BRAKを動物細胞で大量に合成させ、かつ迅速に精製する方法を確立することを目的としている。ヒトに対する安全性が認められているチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を用い、ヒトCXCL14/BRAK遺伝子を導入してヒトCXCL14/BRAKを合成する細胞を作成し、この細胞を無血清培養して、得られたヒトCXCL14/BRAKを特異的な吸着カラムを用いて迅速に精製する方法と条件を見出した。今後、ゲルクロマトグラフィー、と再クロマトグラフィーを併用してヒト型CXCL14/BRAKタンパク質精製法の実用化を図る予定である。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。今回、動物細胞で合成された活性型ヒトBRAK/CXCL14が従来予想されていた分子量より大きいこと事が判明したとのことであるが、純度が評価されていない。今後、得られた蛋白の物性評価、生物評価の再確認も必要である。また、技術移転の観点からは、スケールアップ、GMP合成に向けた課題など解決すべきポイントも多いため、受託予定先とも入念に研究計画を検討することを切望する。
革新的な変形性関節症治療のためのフラーレン医薬の開発 聖マリアンナ医科大学
遊道和雄
MPO株式会社
木苗貴秀
変形性関節症(Osteoarthritis: OA)は、関節軟骨の変性と二次性滑膜炎ならびに、軟骨・骨の増殖に基づく進行性の関節変性疾患であり、QOLを高めうる治療薬は未だ開発されておらず治療満足度も低い。
平成23年度A-step FSステージ探索タイプ研究において研究責任者は、関節疼痛と関節変性の両方を制御しうる革新的なOA治療薬として、フラーレン(C60)誘導体に着目し、水溶性で、かつ高い抗酸化能を持つ数種類のC60誘導体の中から最も優れた薬効を示す水酸化C60をin vitro実験系で選出した。今後は、H23年度A-stepに選出した水酸化C60医薬候補の薬効を、疾患モデル動物を用いた動物実験において評価する計画である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。水酸基数の異なる5種の水酸化C60の細胞活性への影響、抗炎症効果、及び軟骨異化抑制効果をin vitroで検討した結果、水酸基24個のものが一番活性が高いことを見出している。この誘導体の活性はヒアルロン酸製剤では見られない軟骨異化抑制効果を示し、かつNSAIDと同等の抗炎症効果を示すことを示したことも含めて評価できる。一方、変形性関節炎に対する効果は検討されておらず、技術移転の対象をより明確にする必要がある。また生体での有効性・安全性が重要であり、より詳細な競合技術との比較や優位性を検討して実用化への展開を図ることが望まれる。
T細胞増殖因子IL-15を用いた新たな高齢者敗血症治療薬の開発 東海大学
井上茂亮
東海大学
高柳一男
[目的]ヒトおよびマウスの高齢敗血症における免疫機能を明らかにし、免疫機能を改善する適切な分子を選択し、その効果を判定すること [結果]高齢者のCD4+およびCD8+T細胞では、若年者と比較して、CD28陽性率が有意に減少し、programed death-1(PD-1)陽性率が低下し、T細胞が非活性化している可能性が示唆された。高齢者敗血症モデルではIL-15受容体陽性率が若年者より有意に低下していた。高齢敗血症マウスでは若年敗血症マウスより予後不良であり、PD-1の陽性率、制御性T細胞の割合、アポトーシスの割合が増加し、T細胞の数と機能が障害されている可能性がある。[今後の展開]PD-1受容体の抗体および組み換えたんぱくIL-15を高齢者および高齢マウスに投与し、老化T細胞の再活性化に向けた研究を展開していきたい。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。ヒト高齢者及び高齢マウス敗血症モデルを用いて、IL-15が T細胞の数を増大し、T細胞を活性化する様々なメカニズムが解析されている。また、高齢マウス敗血症モデルに IL-15を投与すると生存率が上がることを示している等in vivoの結果については高く評価できる。一方、in vitroでの解析については更なる検討が必要と思われる。企業との連携を深め、今後、治療薬としてのIL-15の大量生産(治験薬GMPレベルでのIL‐15の品質確保)等、また非臨床安全性評価から臨床応用に向けた展開が望まれる。
エルシニア症防御のための遺伝子組み換えワクチンの開発 麻布大学
宇根有美
麻布大学
寺本清
本研究の目的は、エルシニア症をコントロールするための簡易、安全かつ有効なYersinia pseudotuberculosis(Yp)ワクチン作成である。すでに、免疫原として有用なYp抗原部分を特定し、実験室内実験およびリスザルを用いた臨床実験をおこない、免疫原としての有効性を確認している。本研究開発では、この抗原の大量生産と効率のよい精製方法を開発することを目標としている。すでに、大量生産のための手法を確立し、培養株も樹立した。今後は効率の良い精製方法やDrug Delivery Systemなどの局所免疫を考慮した接種条件を検討する予定である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。遺伝子組み換えによる大腸菌蛋白発現系を構築し、目的とする抗原蛋白を大量に発現することを可能にしたこと、並びに免疫源としての有効性を確認したことは評価できる。しかし、大量精製した抗原蛋白についての解析は不十分であり、その有用性についての検討は今後の課題である。技術移転の観点からは、エルシニア症だけでは市場性が小さくハードルが極めて高いと思われるため、今後の計画の見直しも含めての検討が望まれる。
がん遺伝子Ect2を標的にした新世代抗がん剤の探索 長岡技術科学大学
三木徹
長岡技術科学大学
品田正人
Ect2とPar6の結合を阻害する化合物の探索により、Ect2の異常により増殖するがん細胞を選択的に死滅させるような薬剤の開発を最終目標とする。Ect2に結合する化合物のスクリーニングにより21のヒット化合物が得られているが、Par6に結合する薬剤はまだ得られていない。がん細胞におけるEct2/Par6の結合様式は複雑で、直接の結合に加えて間接的な結合もある事が判明した。更にEct2のシグナルを解析する系をいくつか確立した。今後これらの系をこれまでに見いだした薬剤のアッセイに用いると共に、更にEct2/Par6の詳しい相互作用の様式を解明することによって確立した系を用いて目的の薬剤を同定する予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。新たなコンセプトによる抗がん剤開発において、Ect2-Par6相互作用を標的とした阻害化合物の同定を目指して、Ect2に結合する化合物を複数見出し、Ect2-Par6相互作用の解析方法の確立を進めたことは評価できる。しかし、見出した化合物の生物学的評価は行えておらず、技術移転の観点からは、さらにPar6に結合する化合物のアッセイ法、Ect2とPar6の結合を阻止する化合物のアッセイ法、Ect2から癌化表現形に至る細胞内シグナル伝達経路のアッセイ法等、基本的なアッセイ法の確立を先行する必要がある。今後それらを確立し、目標とするEct2-Par6相互作用の阻害が低分子化合物で可能であることを示すことが望まれる。
非線形多変量解析による和漢薬機能解析法の開発 富山大学
田中謙
産地が異なる甘草を多数収集し、エキスを作成してLC-MSにより羅的成分分析を行った。同時に各エキスのリパーゼ阻害活性を測定し、生薬の成分組成と活性の関連性についてニューラルネットワークで成分・活性予測モデルを作成することにより、和漢薬の成分化学的・薬理学的全体像を捉えた新たな評価法の構築を目的として研究を行った。ほぼ初期計画どおり研究を実施した。今回分析に使用した試料は、成分パターンの類似性が高く、活性も同様の値であったことから、モデル化に偏りが生じ、実際の試料に適用可能な完全なモデルを構築するまでには至らなかったが、新たな和漢薬評価のための方法論の開発につながる基礎を確立することができたと考えられる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。和漢薬評価のための方法論の開発につながる基礎的な検討においては一定の評価はできるが、生薬のサンプルの集め方やそれらのデーターベース化を具体化して、各種解析を再度行う必要があり、化合物標品による再構成試料を用いた実験なども必要であろう。技術移転の観点からは、ニューラルネットワークモデルを用いた予測手法を利用しているが、予測精度の向上のため、SVMなど他の先進的な情報処理技術についても調査検討する必要があると思われる。
吸血昆虫由来の新規ペプチドを基盤とした抗血小板薬の開発 金沢大学
吉田栄人
生理的な止血機能を阻害する抗血小板療法では不可逆的に出血性合併症が惹起される。この“副作用”を回避するためには、血小板を標的とする従来のコンセプトとは異なる新しい作用機序を有する抗血小板薬を開発する必要がある。23年度の研究成果は、i) AAPPの血小板凝集阻害効果がアスピリンより優れていること、ii)アスピリン投与で生じる出血助長の副作用がAAPPでは起こらないことを立証し、AAPPがその次世代型抗血小板薬としてのポテンシャルをもつことを明らかにした(論文発表)。iii) 低分子化に向けての生理活性部位の絞り込みを実施したが、活性部位の同定には成功していない。活性部位はその高次構造部位に存在することが判明(24年度研究実績)したために、活性部位を解明するにはAAPPの結晶構造の情報が不可欠となっている。iv) モノクローナル抗体を用いた共結晶法を開発することに成功し、これにより一部のAAPP構造が解けた。AAPPの生理活性に必要な最小単位を探索し、低分子化を実現することができれば出血助長副作用のない新規抗血栓薬開発のシードとなる可能性が高まる。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。AAPPの活性部位の推定、実験動物モデルでの薬効確認についてほぼ計画を達成したことは評価できる。しかし、AAPPとコラーゲンの共結晶化、薬効を持つ低分子ペプチドまたは化合物の取得には至らなかった。新しい病態モデルの構築が提案されているが、AAPP低分子化の研究開発戦略をより明確にして技術移転の可能性を追求することが望まれる。
骨形成を促す新規骨疾患治療薬の研究開発 金沢大学
鈴木信雄
金沢大学
長江英夫
我々は骨芽細胞の活性を上げ、破骨細胞の活性を低下させる新規化合物を魚のウロコのアッセイ系により発見し、この化合物が卵巣摘出ラット(閉経後骨粗鬆症のモデル)の骨密度及び骨強度を上昇させることを確認した。そこで本研究では、万能な骨疾患治療薬を目指すため、後天性栄養疾患の骨疾患モデル(低Ca食ラット)を用いた動物実験を行った。その結果、ブロモメラトニンは低Ca食により生じる骨代謝回転を抑制して、破骨細胞数は正常食群と同等な値に減少した。さらにヒトアレイを用いて、ブロモメラトニンのヒトの骨芽細胞に対する作用を解析した結果、約1400個の遺伝子が変化して、骨芽細胞に作用していることが判明した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。企業からのアプローチがあった点は評価できる。一方、低カルシウム食ラットを用いた動物実験(組織学的解析)において、定量的に充分なデータが示されておらず、得られた結果の位置づけが評価できない点は惜しまれる。医薬品開発にはまだハードルもあり、企業と連携して臨床治験に持ち込めるように計画的に進めていくことが望まれる。
石川県伝統調味料「いしる」の生体に及ぼす効果 金沢大学
棟居聖一
金沢大学
長江英夫
最終糖化産物(advanced glycation endproducts,AGE)は、細胞表面に存在するAGE受容体(receptor for AGE,RAGE)を介して細胞障害的に作用するが、食品に含まれるAGEは色、香りといった食品の風味を構成する重要な要素で、生物学的活性については未だ不明な点が多い。申請者は本研究室独自のAGE評価系開発し、これを用いて、様々なAGEを含む食品の生体への効果を検証してきた。この結果、AGEには細胞表面受容体にアンタゴニスティックに作用して細胞障害を示す「悪玉」とアンタゴニスティックに作用して細胞を保護する「善玉」とあり、醤油由来の成分が後者に属することを見出した。本申請では石川県の伝統的な調味料でありAGEを多く含む「いしる」をこの細胞解析系を用いて評価し、「いしる」の健康影響を検証した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。まずは、さらに精製をすすめ有効成分の物質的な同定や構造決定を行うことにより、応用可能な成果にまで発展させる必要がある。今後行う予定の糖尿病腎症モデル動物を用いた実験において良好な結果が得られれば、産学共同等の研究開発ステップにつながる可能性はある。
イリドイド化合物ライブラリーからのSニトロシル化を標的とした新規緑内障治療薬の探索 金沢大学
郡山恵樹
金沢大学
渡辺良成
一酸化窒素(NO) は濃度によって中枢神経脱落作用と神経栄養因子作用と相反する作用を有する。NOによるタンパク質のS-ニトロシル化はその標的分子の探索や新規生理作用の発見が世界的競争下にある。我々はイリドイド化合物ゲニピンにNO産生能を見出し、(1R)イソプロピルオキシゲニピン(IPRG001)が効果的であった。IPRG001はKeap1をS-ニトロシル化し抗酸化タンパク質、HO-1の発現効果を有することとヒストン脱アセチル化酵素2のS-ニトロシル化がクロマチンリモデリング依存的な神経再生を促すことがわかった。これらの神経保護、神経再生効果は新規緑内障治療を創出させるための基盤となる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。神経保護作用や軸祭伸長作用などを有する化合物を見出した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、新規特許出願につなぐことが望まれる。今後は、更なる合成展開や、in vivoでの検証を含め、より有効性の高い化合物の創出が必要と思われる。
腫瘍血管新生阻害治療の分子標的探索に有用な新規マウスモデルの開発 金沢大学
吉岡和晃
金沢大学
渡辺良成
悪性腫瘍は我が国における最大死因である。悪性腫瘍に対する「血管新生阻害療法」は、副作用のない優れた治療法となりうると期待されている。しかし、現時点における血管新生抑制医薬の有効性は十分とは言えない。遺伝子改変マウスの解析により、血管内皮細胞に発現する脂質リン酸化酵素PI3キナーゼ・クラスII α型(C2α)が腫瘍血管新生に必須であることを見出した。 C2αの腫瘍血管の機能成熟におよぼす影響を検討した結果、腫瘍組織を灌流する機能血管の数は有意に減弱しおり、血管新生抑制治療の分子標的としてのC2αの有用性が明らかとなった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。腫瘍の進展に重要な役割を果たすと考えられる血管内皮細胞の脂質リン酸化酵素PI3キナーゼクラスIIα(C2α)についてコンディショナルノックアウト動物で、腫瘍の進展への関わりの評価を行い、基礎データとして意義あるものが得られた点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、この結果を今後どう生かそうとするのかのビジョンがあまり感じられなかったことが、惜しまれ、実用化の視点を持った研究の展開が望まれる。
がんの転移と悪性度に関わるRAGEを標的とした抗体療法の開発 金沢大学
山本靖彦
金沢大学
渡辺良成
(目標) がんの転移と悪性度に関わるマルチリガンドレセプターRAGE (receptor for advanced glycation end products)を標的とした抗体療法の開発を試みる。
(達成度) RAGEの多量体化とそれに引き続くRAGE細胞内シグナル伝達を阻害するRAGE細胞外ドメインの確認と、その領域に対する抗体の効果を検討した。しかし、その抗体の有効性はそれほど高くなく、RAGE sheddingによるRAGE細胞内シグナル伝達遮断とデコイ受容体(可溶型RAGE、sRAGE)の生成へと目標を軌道修正した。スクリーニングの結果、今後有効と考えられる候補薬剤が見出された。
(今後の展開) 引き続き候補薬剤の有効性の検証を詳細に行って、がん治療に役立つかどうかを見極めたい。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。当初目標はRAGEに対する完全ヒト型モノクロナール抗体の作成であったが軌道修正して、基礎的な検討に留まっているが、分子メカニズムの解明や、臨床へ応用できる治療薬にまでつながる可能性は十分に残っており、技術移転の観点からは、企業が興味をもつことが期待できる、今後、完全ヒト型モノクロナール抗体の作成につなげることが望まれる。
がん化学療法の飛躍的改善を目指したDNA修復阻害剤の開発 金沢大学
松永司
有限会社金沢大学ティ・エル・オー
木下邦則
本研究開発では、化合物ライブラリースクリーニングより見出したヌクレオチド除去修復阻害物質について、構造活性相関、ならびに抗がん剤の抗腫瘍作用に対する増強効果を検討した。その結果、90種類の構造類縁体の修復阻害活性を比較し、活性に重要な構造に関する知見を得た。また、その中から得た高活性誘導体を用いて、ヒト胃癌細胞の紫外線やシスプラチンに対する感受性への影響を調べたところ、2倍程度の増感効果が認められた。現在、マウス癌移植系を用いてインビボにおいてもシスプラチンの抗腫瘍作用を増強できるか検討しており、これを完了した上で創薬候補の顕在化段階に進めていく予定である。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。In vitro試験では効果を確認しているが、in vivo試験が進行中のため、成果については判断できない。しかし、計画は着実に進めており、本化合物のターゲット分子を同定できる可能性が報告されているので、本化合物の併用療法への実用化の可能性を含めて、更に検討することが望まれる。
生体内の細菌感染巣の画像化と治療効果判定への応用 福井大学
法木左近
福井大学
青山文夫
我々はこれまでに細胞壁の構成成分であるアセチルグルコサミンに放射性同位元素(18F)を標識したFAGを合成し、ラットの大腸菌感染巣をPETを用いて画像化することに成功している。これを基礎にFAG-PETを用いて大腸菌以外の細菌での画像化と抗生物質の感染巣の治療効果判定への応用を試みた。その結果、大腸菌以外の細菌での画像化は感染モデルの作製が困難で、成功していないが、今後継続して研究を進めるが、大腸菌による感染巣はFAG-PETで画像化でき、FAG集積巣は抗生物質投与による治療に反応して縮小していった。同一個体において細菌感染巣の変化を経時的に画像化したのはこれが初めてであり、FAGは診断ばかりでなく、薬剤の治療効果判定など基礎研究にも有用であることを示すことができた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。今回は大腸菌では画像化が示されたが、当初の目的の他の細菌による実験モデルの作成ができなかったことが、残念である。細菌や真菌等の感染巣の画像化は臨床的に極めて有用なので、今後の展開っしだいでは、企業への技術移転の可能性も期待される。
形質細胞様樹状細胞に腫瘍細胞傷害活性を誘導する技術の開発 福井大学
伊保澄子
福井大学
青山文夫
特許化した「G91」は、BCGゲノムの塩基配列を模倣する合成オリゴDNAであり、形質細胞様樹状細胞にToll様受容体9の活性化を介してインターフェロンαの産生を誘導し、免疫を増強する作用を有する。本研究では、「G91」のがんの分子細胞療法や、ワクチン療法への応用の可能性を検討した。その結果、「G91」と共培養した免疫担当細胞は、白血病由来細胞株にアポトーシスを誘導することが示された。G91刺激細胞による腫瘍殺傷機構を明らかにすることで、新しいがん治療法の開発が可能になることが示唆された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。G91で刺激した細胞を介した腫瘍細胞傷害活性の検証については評価できる。一方、技術移転の観点からは、特許出願はされているものの、同様の研究は多く、従来の坑腫瘍物質よりも優位性があるという根拠が必要である。実用化に向けて今後はin vitroの実験だけでなく、in vivo実験の結果がでてくることを期待したい。
イオンビーム照射した冬虫夏草変異株を用いた生理活性物質コルジセピンの高効率生産 福井大学
櫻井明彦
福井大学
青山文夫
冬虫夏草が生産するコルジセピンは、抗菌・抗腫瘍など多くの薬理活性を持つことから、健康食品や化粧品原料等として期待されている。しかし、野生株を用いる現在の培養法では生産性が低く高価(16万円/g超)なため、その用途開発が進んでいない。そこで、本研究ではコルジセピンの実用化を目指し、生産と回収を含めた全ての製造プロセスの高効率化について検討した。本研究では、コルジセピン生産の原材料費を10000円/g以下とすることを目標に検討を進め、1Lスケールの液体表面培養で5g/Lの生産性をほぼ達成した。また、晶析法により純度98%以上、収率70%以上でコルジセピンを精製可能な条件を見いだした。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。コルジセピンの実用化を目指した製造工程の効率化を1Lスケールで達成した点は評価できる。一方、タンク培養では生産がほとんど見られていない。精製法についてもスケールごとに確認・検討が必要になることから、現状での技術移転は難しいと言わざるを得ない。今後、実用化の目的を明確にして展開を図ることが望まれる。
AhR経路を活性化する乳酸菌による炎症性腸疾患の新規予防法の開発 山梨大学
中尾篤人
山梨大学
河西あゆみ
近年、腸管における芳香族炭化水素受容体(AhR)経路の活性化がクローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患を抑制する作用があるというデータが蓄積されつつあり、それらの疾患における予防/治療の新たな標的としてAhR経路が注目されている。
我々は、最近、ある種の乳酸菌株がAhR経路を活性化することを示唆する予備的データを得た。そこで、本研究開発では、(株)明治が保有する乳酸菌株ライブラリーからAhR経路の活性化能を強く有する乳酸菌株をスクリーングし、その結果、OLL1181株を同定した。このOLL1181株をマウスに経口投与することによって実験的腸炎の発症が強力に抑制された。現在は、OLL1181株を用いた乳製品を作成し、炎症性腸疾患の予防につながるような商品の開発を進めている。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。AhRを活性化する乳酸菌種を見出し、炎症性腸疾患の動物モデルを用いた検討により大腸炎発症抑制作用を示唆し臨床応用につながる可能性を示すことができた点は評価できる。今後は計画にあるように、よりAhRを強く活性化する菌株の探索を進め、炎症性腸疾患予防機能を持つヨーグルト製品の開発など実用化への可能性に向けた検討を早期に進めることを期待する。
NMDA受容体の上方制御ハブ分子Srcの脱連結による網膜神経節細胞の保護 山梨大学
加藤梧郎
山梨大学
還田隆
Srcと相互作用蛋白との相互反応が、網膜神経節細胞(RGC)の変性を起こす緑内障等視神経症の新規の治療標的となる可能性が示されている。そこでまず、SrcのNMDAR複合体との相互作用領域に由来するSrcUDペプチドのRGC保護効果を検討した。ラット単離RGC初代培養系による評価系を構築し、三種類の化学合成したSrcUDペプチドのRGC生存に及ぼす影響を評価した。その結果、何れのSrcUDペプチドも保護効果を示さなかった。従って、SrcによるNMDARの上方制御は、RGC生存死の調節には関与していない可能性が高い。SrcとNMDAR以外の他の相互作用蛋白との反応系を遮断するRGC保護分子の探索が必要である。 当初目標とした成果が得られていない。当初の開発計画を変更した手法を用いたにもかかわらず、RGC脱落の誘発とSrcUDペプチドの保護効果は観察されなかった。研究開発の目標の設定が間違っていた可能性も捨てきれない。SrcがRGC細胞死を促進すること自体は、基礎研究としては非常に興味深いので、今後の研究の発展を期待するが、今回の結果を受けて本来は新たな仮説に基づいた研究を開始するべきと思われる。
食用きのこに高免疫賦活活性を付与する技術の開発 信州大学
増本純也
覆土堆肥のミネラル成分と菌体成分の主体であるLPSの含量を測定した。堆肥中にはアルカリ金属やアルカリ土類金属が多く含まれる珪藻土で、堆肥中の菌体成分であるLPSと熱水抽出物中の乾燥重量換算 LPSはほぼ同量で、ほぼそのままの濃度で移行することが明らかになった。つぎに、それぞれのきのこの熱水抽出成分とLPSでマウス腹腔細胞を刺激するとTNFα産生は濃度依存的に増加した。なかでもあるきのこのTNF-α産生量は他のきのこに比較して高値を示した。 そこで、このきのこの抽出物をマウスに経口投与し、腫瘍移植後3週間での成育抑制効果をみたところ、腫瘍抑制の傾向が認められたが、統計的な有意差はみられなかった。この結果を踏まえ、今後実験期間を延長し、腫瘍抑制効果とLPSの添加による腫瘍抑制増強効果を解析する予定である。 当初目標とした成果が得られていない。ほぼ計画通りの実験経過であるが、マイタケの熱水抽出物を経口投与してもSarcoma肉腫マウスへの腫瘍抑制効果は顕著ではなかったことから、期待したほどの成果は得られていない。よって技術移転の可能性が現段階では判断できない。
キクイモサポニンの花粉症軽減効果とその応用 信州大学
片山茂
信州大学
福澤稔
本課題では、キクイモサポニンの花粉症状軽減効果を検討するとともに、耕作放棄地の再生利用モデルとしてのキクイモの利用に関する採算性について検証した。キクイモ粉末をメタノールで抽出した後、イオン交換カラムに供してサポニン粗画分を得た。メタノール抽出物(ME)とサポニン粗画分(SF)の花粉症状軽減効果について花粉症モデルマウスを用いて検討した。8週間自由摂取させた結果、ひっかき回数は、MF摂取群で67.0%、SF摂取群で91.5%の減少がみられた。血清IgE濃度は、それぞれ78.0%、70.2%の減少が認められた。以上の結果から、キクイモサポニンの花粉症状軽減効果が示された。一方、SFの回収率は0.116%と低く、採算性を実現するためには収率を上げる精製手法の見直しが課題となった。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。キクイモからサポニンを抽出することに成功し、花粉症モデルマウスによるキクイモサポニンの花粉症軽減効果も確認された。花粉症モデルマウスにおけるひっかき回数の軽減、くしゃみ回数の軽減、血清中のIgE濃度及びヒスタミン濃度の低下など、優れた研究データが得られた意義は大きい。一方、サポニンの回収率が低いこと、既存のサポニンとの差別化、キクイモ全体をどのように利用するか、70%以上含まれているイヌリンの利用等々、実用化に向けた課題が多く残されているため、今後ひとつひとつ課題を解決していくことが望まれる。
大豆由来胆汁酸結合ペプチドの革新的コレステロール代謝改善素材への応用 岐阜大学
長岡利
岐阜大学
安井秀夫
β-コングリシニンα´ サブユニットが血清コレステロール(CHOL)低下作用を有することを発見(第63回日本栄養食糧学会講演要旨p.197)した。その活性本体と予想されるペプチドのin vitro評価(HepG2細胞による低密度リポタンパク質(LDL)受容体mRNAなどに対する影響)を行ない、コレステロール7α-水酸化酵素(CYP7A1)mRNAが有意に増加し、LDL受容体mRNAが増加する傾向を示す新規ペプチドを発見した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。HepG2細胞によるin vitroの培養実験でCYP7A1のmRNAは対照を比較してある種のペプチドで有意に高まる結果を得ており、動物実験での効果確認が待たれる。目標とする合成ペプチドが高価なため本研究機関内で充分実験遂行できなかった点が惜しまれる。今後更にデータを蓄積して実用化の可能性を追求することが望まれる。
標的外遺伝子への影響(オフ・ターゲット効果)を回避する実用的なRNA分子の開発 岐阜大学
北出幸夫
岐阜大学
丸井肇

申請者らは、短鎖二本鎖RNAが遺伝子発現を抑制する過程で重要な役割を担っている3’-末端ダングリングエンド部位と、これら短鎖二本鎖RNAが標的遺伝子以外に影響を及ぼすこと、即ちオフ・ターゲット効果に着目し研究開発を進めた。本年度は最終年度として目的化合物の合成と化学修飾オリゴヌクレオチドの合成、及び得られたオリゴヌクレオチドを用いて活性評価を行った。当初の目標であった、オフ・ターゲット効果を回避する実用的なRNA分子の開発に成功し、またRNAi活性をON/OFF制御することの新しい知見を得た。今後も本研究を継続し、データを精査していく予定である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。短鎖2本鎖RNAを化学修飾する事によってオフ・ターゲット効果の少ないRNAiの開発に成功している点、更に、合成の簡便さ、安価などの優位性に加え、短鎖2本鎖RNA のみならず一般的なRNA創薬を推進する際の問題点解決のツールとしても活用される可能性を示したことは高く評価される。製薬企業等に技術移転することを具体的に検討されているようなので実用化に向けての展開が期待される。
黒米の新規成分による網膜内皮細胞障害に対する作用解明 岐阜薬科大学
嶋澤雅光
糖尿病網膜症等の眼疾患予防素材の創生を目的として、眼疾患の発症および進行の危険因子である網膜内皮細胞障害に対する黒米抽出物のアントシアニン以外の新規成分の作用を解明する。今回の検討で黒米抽出物から2-hydroxy-5-[(3S)-3-hydroxybutyl]phenyl-β-D-glucoside (HHPG)の単離・精製を行った。また、高グルコース誘発の網膜内皮細胞障害モデルを確立した。また、この試験系を用いて黒米抽出物、HHPGおよび含有アントシアニンについて評価を行った結果、高グルコース誘発の網膜内皮細胞障害抑制作用が明らかとなった。さらにその作用メカニズムとして、活性酸素種(reactive oxygen species:ROS)産生抑制作用も明らかにした。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。黒米より網膜内皮細胞障害に対する非アントシアニン系成分を単離・構造決定し、高グルコース誘発網膜内皮細胞傷害モデル実験システムを確立した上で、その保護効果がアントシアニン類と同等であることを明らかにしたことは評価できる。さらに、その作用には活性酸素産生抑制作用以外のメカニズムで発現されていることを示唆しているが、すべて細胞レベルでの結果である。今後、関連企業との共同研究などにより動物試験を実施する等、ヒト介入試験の実施に向けての更なるる展開が期待される。
抗アンドロゲン作用をもつ植物由来ポリフェノールの新規前立腺癌治療薬としての可能性の検証 岐阜薬科大学
井口和弘
(財)科学技術交流財団
安井克幸
本研究課題では、植物由来ポリフェノールの抗アンドロゲン活性を評価し、その構造活性相関に関する知見を得ることを目標とした。植物由来の各種ポリフェノールおよびその誘導体の抗アンドロゲン活性の評価を通して、去勢抵抗性前立腺癌に効果を示す可能性のある化合物を見出した。また、当該化合物中のフェノール性水酸基の存在が活性発現に影響することを示した。さらに、当該化合物中の細胞障害活性に関与する可能性のある置換基を明らかにした。今後、当該化合物を含有する植物エキスでの抗アンドロゲン活性およびin vivoでの評価等の検討が必要であると考えている。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。培養細胞を用いる薬効評価系の改良を試み、多くの化合物の中から化合物を絞込んで、その構造活性相関を試みた点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、より活性の強い化合物が求められると思われる。正常細胞に対する細胞毒性試験については、特に1,1-ジメチルアリル基の還元体の抗アンドロゲン活性の評価が明記されていないのは残念である。今後はスクリーニングをさらに強力に推進することで、次のステップにつなげることが望まれる。
癌細胞の増殖を抑制する副作用の少ない分子標的制癌剤の開発 岐阜薬科大学
遠藤智史
科学技術振興機構
菅野幸一
癌で高発現し、癌細胞増殖や既存の抗癌剤耐性化に関与することが報告されている2種の還元酵素AKR1C3とAKR1B10を標的とする分子標的制癌剤の開発を目標とし、以下の結果を得た。低濃度のプレニルアルデヒド添加によって大腸癌HT29細胞の増殖能は上昇し、AKR1B10の発現量の増加によってもMAPキナーゼ系の亢進を介した増殖能の上昇が確認された。また、両酵素それぞれに特異的な阻害剤 (AKR1B10については阻害定数6 nMのカフェ酸誘導体、AKR1C3については阻害定数0.1 μMのシンナム酸誘導体) を見出した。これら阻害剤は細胞実験においても還元酵素活性阻害及び癌細胞増殖抑制効果を示し、細胞レベルでも有用であることが示唆された。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。プレニルアルデヒド還元酵素と癌細胞増殖との関係が明らかとなり、さらにAKR1C3とAKR1B10の阻害剤が同定され、癌細胞増殖抑制効果が明らかになったことは評価できる。一方、リード化合物からの誘導体展開においては一般に実用化が期待されるレベルには達していない。またin vivoでの酵素阻害作用評価法にも課題が残り、技術的課題の克服が求められる。今後の展開に期待する。
脳炎ウイルス感染モデル動物を用いた抗ウイルス剤の有用性の検証 静岡県立大学
左一八
静岡県立大学
柴田春一
抗デングウイルス活性を有する既特許化合物について、同属の日本脳炎ウイルスを用いた感染モデルマウスを用いたin vivo解析を行い、その有効性を評価することを目標に試験を実施した。当該化合物はウイルス感染によるマウスへの神経病原性を軽減させることを見出した。このことから当該化合物が動物レベルで作用することが示され、本研究目的はおおむね達成された。今後は抗デングウイルス剤としての実用性の検証を異なる投与経路の検討を進めていくことにより、抗デングウイルス薬開発への事業展開を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。細胞レベルとマウス個体レベルで、開発候補化合物の日本脳炎ウイルスの感染阻害作用が確認できたことは評価できる。しかし、個体感染阻害作用については、延命傾向と体重減少阻止が見られたものの統計的に有意なレベルではなかった点、マウスへの日本脳炎ウイルスの投与法を自然感染経路に近い皮下投与に変えた上で、再実験する必要性など、課題も残った。企業と接触もあるようなので、積極的に意見交換し、研究開発方針を決定し進めることが望まれる。
潜伏期結核菌を標的とした抗結核ワクチンの開発 浜松医科大学
辻村邦夫
浜松医科大学
小野寺雄一郎
本研究は結核菌が潜伏期特異的に発現するDosR regulon抗原等を標的として、結核菌の再燃を制御できるワクチンの開発を目標としている。結核菌感染者でT細胞応答が亢進している本抗原群のT細胞エピトープ検索を行い、少なくとも本抗原群の12種に対するT細胞応答が結核菌感染者で亢進していることを明らかにした。そのうちRv2031cとRv3133cのHLA-A2/A24/DR4拘束性エピトープを検索して、現在までにHLA-A2拘束性エピトープを1つ同定できた。今後はエピトープ検索と平行し、これらの抗原を標的としたワクチンの効果を、マウスを用いた感染実験モデルで検証し、ヒトへの応用を検討していく予定である。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。HLA-A2拘束性結核菌由来エピトープを同定できたことは評価できる。しかし、新しい結核菌抗原の同定や結核菌潜伏感染モデルでの効果の検証に関す実験では期待した成果は得られなかった。技術移転には時間を要すると思われるので、更に検討を進めることにより、実用化に向けての展開が図られることが望まれる。
脂質代謝異常所見に基づいた自閉症病態モデルの開発 浜松医科大学
松崎秀夫
浜松医科大学
小野寺雄一郎
Smith-Lemli-Opitz症候群が自閉症を合併する事実から、自閉症者の末梢血中脂質を精査し、脂質総量の低下に加えて、VLDL分画の有意な低下を発見した。この所見は発達と相関し、自閉症判定に応用できる可能性が見出された(特願2009-236976)。また、一塩基多型の解析結果よりVLDL受容体遺伝子に自閉症の関連遺伝子となる可能性が示された。これらの所見の自閉症との関連を調べるため、遺伝子改変技術によりVLDL受容体の過剰発現をラットで再現したところ、自閉症に認められる多動を呈することが判明した。
本研究では、このラットの行動所見、脳病理組織所見、末梢血血液所見、脳PET画像所見を精査し、これまでに例のない自閉症病態モデルとなりうるかどうかを総合的に検討する。
当初目標とした成果が得られていない。計画通りの実験はすべて行われ、データは得られたが、多動を除いて遺伝子改変ラットとワイルドラットの間で差は見られなかったことから、本ラットは自閉症モデルとしては適さないと判断される。良い自閉症モデル動物はまだ存在しないため、引き続き開発を行う意義はあるが、どの遺伝子を標的にすべきか、より詳細に検討することが望まれる。
CFPD技術を応用したヒト難治性がん標的用膜透過ペプチドの開発 愛知県がんセンター(研究所)
近藤英作
【目標】CFPD 技術を応用して分離したヒト膵がん(浸潤性膵管癌)および腹膜転移性胃がん(低分化型腺癌)に対する選択的高透過性膜透過ペプチド配列の候補から最高性能(選択的かつ高効率浸透性)を発揮するペプチドを開発することを目指した研究を実施した。【達成度】10か月の研究期間内に、ヒト浸潤性膵管がん細胞高透過性ペプチド(膵がんホーミングペプチド)として、2種類の異なる配列とフォームを持つペプチド(CPP36, pE12)を開発した。これらについては、細胞レベルの透過特性と生体内イメージング解析による性能評価を実施できた。胃がんについては現在候補ペプチドの合成がほぼ終了し、性能検定に入るところである。【今後の展開】開発した膵がん高吸収性ペプチドについては、さらに生体内動態、安定性、安全性などの試験を行うことにより詳細なスペックの検証を進める。次段階として、生体内膵がん腫瘍組織イメージング用ペプチドプローブ開発のための蛍光物質やアイソトープ標識フォームの検討や、薬物送達のためのドラッグデリバリー用ツールとしての応用展開の研究を進めていく。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。CFPD技術を応用して、ヒト膵癌に対して選択的に高い透過性を示す高性能ペプチド配列を同定することに成功している点は高く評価できる。ペプチドの持つ低侵襲性という特性は、医療現場で期待される腫瘍イメージングルーツとして今後、腫瘍の早期発見・診断等に利用可能な先進的医療技術としての価値を有すると考えられることから、得られたペプチドがそれぞれの癌種において汎用性があることを証明し、実用化につなげていくことが望まれる。
逆流性食道炎改善薬類縁体の効率的新規合成法の開発 名古屋工業大学
中村修一
名古屋工業大学
山本豊
コレシストキニンBおよびガストリン受容体拮抗作用による逆流性食道炎・胃潰瘍などへの顕著な改善効果のあるとされるAG-041R類縁体の効率的不斉合成を目指し、イサチンイミンへのマロン酸ハーフチオエステルの不斉脱炭酸型マンニッヒ反応の検討を行った。このような、ケトン由来のイミンに対する不斉触媒的脱炭酸型マンニッヒ反応は、全く報告されていないが、以前に我々が開発した高機能型活性化基を導入した新規不斉有機触媒を駆使することで、高エナンチオ選択的に反応を進行させることに成功した。また、AG-041R類縁体への変換も行った。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。新規触媒の創製によるAG-014並びにその誘導体の不斉合成が概ね達成されたことは評価できる。一方、その他の実施計画に関する研究成果報告が全くなかった点が悔やまれる。今後、触媒量の軽減、触媒の固定化などに向けた実用化研究の推進によって、これらの技術移転が期待される。
神経変性疾患の治療を目指したSIRT2選択的阻害薬の創製 京都府立医科大学
鈴木孝禎
(財)名古屋産業科学研究所
羽田野泰彦
SIRT2選択的阻害薬の創製を目指し、Cu(I)-catalyzed Azide-Alkyne Cycloaddition (CuAAC) を用いて、短時間に142個のトリアゾール体ライブラリーを構築した。続いて単離・精製なしに直接SIRT蛍光アッセイを行った結果、強いSIRT2阻害活性を示す化合物を見出した。さらに、その化合物をリード構造として構造最適化研究を行った結果、既知のSIRT2選択的阻害薬AGK2よりも高いSIRT2阻害活性、選択性を示す化合物を見出した。また、本阻害薬は、SIRT2の基質であるα-チューブリンを選択的にアセチル化したことから、細胞系でもSIRT2選択的阻害薬として働くことが明らかとなった。
 
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に合成した酵素阻害剤の選択性、作用濃度の点から当初の目標を達成した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、モデル動物を用いたin vivoでの検証が必要である。今後はリード化合物からより高い薬理効果を有する誘導体の研究を推し進め、安全性や薬物動態の検証などを行って最適化を進めるためにも共同研究を推進してもらいたい。
次世代型創薬スクリーニングに対応可能な薬物間相互作用予測のためのバイオセンシングデバイスの創製と最適化 名古屋市立大学
井上勝央
(財)名古屋産業科学研究所
羽田野泰彦
医薬品の体内動態に関わる重要なSLCタイプの薬物トランスポーター群について、医薬品開発における薬物間相互作用予測に適応可能な迅速スクリーニング系の構築を行った。その結果、有機カチオントランスポーター群については、輸送基質となる蛍光核染色剤とトランスポーター発現細胞系と組み合わせることにより、特異的な輸送活性の迅速評価が可能であることが示され、有機アニオントランスポーター群については、評価系に輸送基質の代謝酵素を組み込むことにより、細胞内への輸送現象を測定することが可能となることが示された。今後は、簡易迅速評価法としての実用化へ向けて、特許申請及び論文発表を早急に進めていく予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。短期間に課題内容に沿った諸々の研究を精力的に実施し、当初計画からの変更は認められるものの一定の結論を得ていることは評価できる。トランスポーター発現細胞とコントロール細胞との検出感度比が100倍以上と極めて良好であり、さらに完成度を高めることにより、特許申請や産学連携への展開が望まれる。
ウイルスの転写活性化因子Tatを標的とする新規抗HIV薬の開発 名古屋市立大学
岡本尚
(財)名古屋産業科学研究所
吉田勝
HIV療法はHARRT療法の確立により格段の進歩を遂げたが、未だ耐性ウイルスの出現や重篤な副作用など克服すべき問題を抱えている。そこで、新たな作用機序を持つ薬剤の開発が求められており、本申請課題ではウイルスの転写活性化因子Tatを標的とした阻害剤について検討を行った。本過程を標的とした薬剤は、既存の薬剤と併用可能であることと、耐性ウイルスの出現を抑えられるというメリットを持つ。in silico スクリーニングからTat阻害活性、もしくはHIV複製阻害活性をもつ化合物を見出し、化合物構造のもつ特異性や標的分子の解析を進めた。見出した活性化合物について、今後開発を進めていきたいと考えている。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。Tat阻害剤についてTatとの相互作用に重要な部位を同定し、阻害剤のシーズ候補化合物の同定に成功していることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、必要に応じて化合物ライブラリー評価の実施を行うとともに、一定の合成展開や特許出願を行い、製薬企業が連携しやすい体制を構築することが望まれる。
原がん遺伝子産物Skiを標的とした新規分子標的薬の創製 名古屋市立大学
井上靖道
(財)名古屋産業科学研究所
吉田勝
本課題は、p53とSkiとの結合を阻害する効果的なペプチド配列のスクリーニングをおこない、得られたペプチドによる腫瘍抑制効果を示し、Ski阻害剤による新しい分子標的薬の臨床展開を目指したものである。本研究の結果、Skiと結合する3種類のp53由来ペプチド配列がp53活性化能を有することを見いだした。そのうち1種類については、細胞膜透過を可能にしたペプチドを設計・合成し、その合成ペプチドによりがん細胞の増殖が抑制されることを示した。以上の結果から、当該目標を充分に達成できたと考える。今後は、腫瘍抑制作用が増強するようペプチドを改良するとともに、実用化に向けて知財確保ならびに技術移転を進めていく予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。研究目的はSkiを標的とした分子標的抗がん剤シーズの創製であり、Skiとp53の相互作用を阻害するp53由来のペプチドを絞り込み、さらに細胞膜透過性を付与したペプチドを調製することができた点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、ペプチドでのアプローチを続けるとすれば、比活性や透過効率を数十倍~数百倍に向上させることが必要とも考えられる点を考慮して進めることが望まれる。
特発性間質性肺炎モデル樹立を目指した既存治療薬による実用試験 名古屋市立大学
金澤智
(財)名古屋産業科学研究所
吉田勝
関節リウマチモデルD1CCマウスは、慢性進行性の炎症後、進行性の骨破壊及び間質性肺炎を示す(PNAS, 103:14465, 2006)。間質性肺炎の病理組織学的な特徴から、D1CCマウスの病態は、特発性間質性肺炎における非特異性間質性肺炎と類似している事が明らかとなった。そこで抗線維、抗炎症、抗酸化作用を持つと考えられるピルフェニドンを病態誘導D1CCマウスに長期間投与し、間質性肺炎に対する抑制効果を検討した。抑制効果のモニターは間質性肺炎バイオマーカー血清SP-D値を基に行った。投与の結果血清SP-D値の上昇が抑えられた。その肺病理組織像を解析すると無気肺領域の顕著な減少が観察された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特発性間質性肺炎のよいモデルがなかったため、このマウスの上市により、新薬の開発に寄与することが期待される。一方、当初計画した治療実験がスペースの関係として実施されなかった点はモデルの有用性を推し量る上でも惜しまれる。今後、間質性肺炎発症機序を含めて継続検討されることが望まれる。
神経変性疾患の病因蛋白質の生体内分解系を利用した分子標的治療 名古屋大学
足立弘明
名古屋大学
石山慎一
ポリグルタミン病などの神経変性疾患は、神経細胞内に変異蛋白質が蓄積して病態が形成される。オートファジーとユビキチンープロテアソーム系(UPS)は、細胞内の変異蛋白質を処理して無毒化するシステムであるが、多くの神経変性疾患では、この機能を超えて神経変性の原因となる変異蛋白質が蓄積され、神経毒性が惹起されると考えられる。球脊髄性筋萎縮症(SBMA)は、伸長ポリグルタミン鎖を有する変異アンドロゲン受容体(AR)によって神経細胞の機能障害や変性が惹起される。本研究では、培養細胞及びマウスモデルを用いてSBMAについてオートファジーとUPSの病態形成に果たす役割を明らかにし、新規治療法を開発する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。ポリグルタミン病に対する分子標的治療の開発において、培養細胞及びSBMAマウスモデルを用いてペオニ抽出物の効果を確認し、特にSBMAマウスモデルでは表現型の改善が示されたことは評価できる。一方で、オートファジーやUPS活性化機構に関しての検討がなされていない点は惜しまれる。今後、着実に技術移転に向けた研究開発を進めることを期待する。
次世代核酸医薬への応用を目指した人工siRNAの設計 名古屋大学
浅沼浩之
名古屋大学
野崎彰子
siRNA活性の低下を伴わずにアンチセンス鎖を選択的にRISCに取り込ませることを目的とし、アゾベンゼンをD-threoninol(TN)を通じて導入した人工siRNAを構築した。アゾベンゼンのsiRNA内における導入可能部位を網羅的に検討した結果、センス鎖の5’端から数えて2~8残基にアゾベンゼンを導入することで、アンチセンス鎖を選択的に取り込みつつ高活性化することに成功した。またNativeのsiRNAではセンス鎖の取り込み率が95%であったのに対し、5’端から数えて7残基目にアゾベンゼンを導入したところ、siRNAの高活性化とセンス鎖の取り込み率を30%にまで抑制することに成功したことから、当初の「センス鎖の取り込み率を未修飾のsiRNAの1/2以下に抑制」という目標を達成することが出来た。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。siRNAの配列特異性の改良のために多くの誘導体を合成して活性相関を調べ、明確な結果が得られたことは評価できる。Off-targetの一因となるセンス鎖の取り込み率をさらに抑制することなどが今後の課題であろう。また、体内での安定性、毒性、有効性等を、既存の方法と比較して優位性を示すことが実用化のうえで重要であるが、企業との共同研究が始まっており、新たな開発ステップに進むことが期待される。
異種脂肪酸の組み合わせによるがん抑制法の開発 名古屋大学
北浦靖之
名古屋大学
鈴木孝征
中鎖飽和脂肪酸と様々な不飽和脂肪酸を用いてがん細胞死誘導効果をin vitroで評価し、最も効果的な組み合せを探索したところ、不飽和度を大きくすることで、中鎖飽和脂肪酸との組み合せにより、強力にがん細胞の生存率を低下させることに成功した。また、様々ながん細胞を用いて、その効果を調べたところ、がん細胞種により違いが見られたことから、最も効果的ながん細胞を同定し、in vivoでのがん抑制効果について検討することで、ある特定のがん治療法として期待できる。 当初目標とした成果が得られていない。In vitroですべてのがん細胞においてC12との組み合せによる細胞死誘導効果の相乗効果を不飽和度が大きいほど強いことを見出したものの、in vitroとin vivoでの結果が異なった。まずはこれらの結果の要因についてさらに解明することが求められる。がん細胞種の違いによる抗腫瘍効果の影響の差を基礎的研究により明らかにすることは重要だが、生体内では脂肪酸は大部分エステル結合しており、遊離脂肪酸の毒性は以前より知られているため、本課題における細胞死のメカニズムを明らかにする必要がある。
吸入剤応用に向けた噴霧急速凍結乾燥微粒子の最適化および吸入特性解析 名城大学
奥田知将
名城大学
関孝史
本研究では噴霧急速凍結乾燥 (spray-freeze-drying; SFD)法により調製される多孔性粉末微粒子を吸入剤として実用化することを目的として、(1) 分散補助剤であるL-ロイシンの添加量および(2) 試料溶液の噴霧圧を最適化し、優れた分散性・肺到達性を発揮する画期的な吸入用粉末微粒子の開発に成功した。この粉末微粒子は吸入気流で容易に解砕され、Twin-stage Liquid Impingerによる吸入特性評価においてOEで80 %以上、Stage2到達率で50 %以上の吸入特性指標値を吸入パターンに依らず安定して得ることができた。また輸送時などで生じ得る物理刺激に対しても安定性が高いことが示された。本研究の成果は、従来の製剤よりも吸入器の性能や吸入パターンに依存せず安定した治療効果を保証する革新的な吸入粉末剤の開発に貢献できるものと考えられる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。吸入パターンや吸入器の解砕性能による影響が少なく、優れた吸入特性を安定して得られる吸入用粉末微粒子の開発に成功したことは評価できる。しかしながら、物理的安定性評価は実際の薬の輸送、調剤後の患者サイドのことが想定されておらず、課題が残る。また、実薬により吸入特性、安定性が変化することは容易に想像できることから、薬効を持った薬物でこの点を十分に確認するべきである。今後、肺到達性を発揮する粉末吸入剤の実用化に向けた展開を期待したい。
ナノスプレードライヤーによる吸入用遺伝子粉末製剤調製条件の最適化 名城大学
岡本浩一
名城大学
松吉恭裕
ピエゾ式ナノスプレードライ(nSD)法を用いた遺伝子粉末吸入製剤の開発を行った。生分解性ポリカチオンであるPAsp(DET)およびPEG-PAsp(DET)をベクターとして添加することにより、噴霧過程で生じる遺伝子の分解を抑制できた。全ての製剤はnSD特有の球状で空気力学的粒子径は3μm前後であった。吸入特性はPEG-PAsp(DET)製剤ではベクターの占有率が大きいためコントロール製剤よりも低下したが、混合製剤においては維持することができた。in vivo遺伝子発現効果は、PEG-PAsp(DET)製剤が優れており、nSD法が有用な遺伝子粉末製剤調製法となる可能性が示唆された。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。当初の目標であるルシフェラーゼ活性が確認された点は評価できる。一方、水溶性キトサンについて、条件設定などほとんど検討されておらず、またPAsp(DET)、 PEG-PAsp(DET)のどちらが適しているのかも不明であり、基礎研究の段階に留まっている。次のステップへ進めるための技術的課題は明確になっているが、今後、どのベクター、どのような遺伝子を用いてどのような設定で研究を行っていくのか具体的かつ的確に検討していくことが望まれる。
乳癌に対する遺伝子免疫治療ベクターの開発 三重大学
河野光雄
三重大学
松井純
本研究においては、乳癌様モデルマウスに、腫瘍特異抗原(A遺伝子)と細胞性免疫誘導の強いアジュバント活性をもつ(B遺伝子)の2遺伝子を搭載した非増殖型PIV2ΔMベクターを経鼻投与することで、乳癌に対する新規治療・転移予防の経鼻噴霧型抗腫瘍ワクチンとしての技術移転をめざしたが、研究期間内にA遺伝子を搭載したベクターを作製できなかった。一方、B遺伝子のみを搭載したPIV2ΔMベクターの経鼻投与により、原発腫瘍部位に効果はなかったが、腫瘍の肺への転移を著しく抑制する結果を得た。今後、A遺伝子搭載ベクターを早急に作製し、2種のPIV2ベクター経鼻投与ならびに原発部位への皮下投与による相乗効果を検討し技術移転をめざしたい。 当初目標とした成果が得られていない。腫瘍特異抗原遺伝子と細胞性免疫誘導性の遺伝子を搭載するベクターを取得することが目標であったが、腫瘍特異抗原遺伝子を搭載したベクターを作製することができなかった。細胞性免疫誘導性の遺伝子搭載ベクターの経鼻投与は癌の肺転移を抑制したが、現時点では技術移転につながる研究成果までには至らなかった。腫瘍特異抗原遺伝子搭載ベクターが取得できるかどうか、乳癌様のマウスモデルにおいて経鼻投与により明確な抑制効果がみられるかどうかが重要なポイントになると思われるため継続検討の結果に期待する。
ADAMプロテアーゼの特異的阻害剤の開発 名古屋大学
荒木聡彦
(財)名古屋産業科学研究所
羽田野泰彦
ADAMプロテアーゼの特異的阻害剤の開発に向けて、ADAMプロテアーゼに結合する合成ペプチドの作製に成功した。結合は、ペプチド一端のみを固定することによる形状が柔軟な状態のペプチドでもしっかりした結合が見られ、強い結合力を持たせることができた。さらに、そのペプチドを利用して阻害剤を試作してみたが、今回は阻害効果をもつものの作製には至らなかった。しかし、強く結合する分子を今回得たことから、早いうちに阻害剤の作製は可能であると思われる。今後、早急に阻害剤を作製し、特許を出願する予定である。 当初目標とした成果が得られていない。実際に阻害剤となるペプチドは得られていないものの、ADAMに結合する合成ペプチドを見出した点は評価できる。一方、具体的なペプチドのデザイン手法や配列構造などが記載されていないことが惜しまれる。低分子阻害剤を架橋せずペプチドの結合による阻害が達成されれば、技術移転につながる可能性は高いので、今後の検討に期待する。
アミロイドβ産生の中間産物APP-C99をターゲットとしたアルツハイマー病の治療法開発と創薬研究 滋賀医科大学
西村正樹
滋賀医科大学
岡崎誠
アルツハイマー病の原因ペプチドAβの産生を抑制する新たなアプローチを検討した。独自に同定したタンパク質ACDPはAβの基質APP-C99の分解を促進しAβ産生を抑制する。この活性をもとにしたAD治療の可能性を探究した。得られた知見は、(a)分泌型ACDPの全長がAβ産生抑制活性に必要である、(b)ACDPはNotchからのNICD産生を阻害しない、(c)ACDPトランスジェニック・マウスの脳内Aβレベルは有意に減少している、(d)髄液中ACDPとAβのレベルはほぼ同調して増減する、(e)ACDPはTGF-β刺激により翻訳誘導を受けるなどであり、ACDP活性の治療への有効性が明らかになった。ACDP活性を促進する化合物のスクリーニングは、アッセイ系を改善する必要が生じ、リード化合物の同定まで到らなかった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。Aβ分泌を抑制する新規分子ACDPがアルツハイマー病脳において病態にも関わっている可能性があること、ACDPの過剰発現はマウス個体において副作用なくAβレベルを低下させることなどを見出したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、ACDP活性を促進する化合物のスクリーニングを実施できずリード化合物の同定まで至らなかった点が惜しまれる。今後はスピーディにスクリーニング系を立ち上げリード創出に向けて研究を継続することが望まれる。
酸性リン脂質血中濃度測定法の確立 滋賀医科大学
森田真也
滋賀医科大学
岡崎誠
本研究課題において、我々が開発した酵素蛍光定量法を用いて、血漿、リポタンパク(LDLならびにHDL)および血球細胞中に含まれるホスファチジン酸(PA)およびホスファチジルセリン(PS)の定量測定を可能にすることを目標とした。以前開発した酵素蛍光定量法そのままでは不十分であったため、改良を行った。それにより、リポタンパクとしてLDLならびにHDLおよび細胞内に含まれるPAとPSの高感度かつ高精度な定量を実現できた。このことから、当初の目標は、ほぼ達成できたとみなせる。今後は、実用化に向けて、企業と共同で本酵素蛍光定量法のキット製品化を進めていく。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。目標とする酸性リン脂質(ホスファチジン酸及びホスファチジルセリン)の測定が可能になったことは評価できる。すでに企業と共同で製品化に向けて取り組んでいることから、LDL並びにHDL画分の酸性リン脂質を測定する臨床的意義をより明確にして、臨床検体を用いたバリデーションを進めることにより、実用化につなげることが望まれる。
可溶性アミロイドオリゴマーを検出するアルツハイマー病診断キットの開発 滋賀医科大学
田口弘康
滋賀医科大学
岡崎誠
Protein G microsphereと抗Asモノクローナル抗体にShiga-Y5を組み合わせ、可溶性As凝集体(Asモノマー)診断キットを試作した。このキットは、人工合成した可溶性As凝集体を100 nM -1000 nMの範囲で定量できた。しかしながら、アルツハイマー病モデルマウスを用いた血液、髄液などの生体サンプルでは、測定感度以下であった。そのため、感度を上昇させるためShiga-Yにかわる化合物を新規合成した。この化合物を用いることで診断感度を約10倍高めることができた。新規化合物を平成24年4月25日に特許出願した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。当初の開発目標であったShiga-YとAβ抗体を結合させた磁気ビーズを組み合わせた可溶性アミロイドオリゴマー検出システムでは、アルツハイマー病モデルマスを用いた評価で感度が悪く、残念ながら開発に至らなかった。しかし新たに感度を上昇させる化合物の合成の開発に成功しており、今後の展開により、技術移転につながることが期待される。
アディポネクチンによる新しい敗血症の治療法の開発 滋賀医科大学
山本寛
滋賀医科大学
江田和生
予後予測因子としてのアディポネクチンの敗血症に対する有用性に関するデータ集積を進めていく中で、PDF(膜型血漿分離器)による敗血症治療の有効性がアディポネクチンと関連が深いことを見出した。今後、本結果に関心を持っていただいた企業との共同研究・特許申請を検討する予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。当初は敗血症の予後予測因子としてアディポネクチンの有用性を確立することであったが、研究の中でアィポネクチンが膜型血漿分離器(PDF)による敗血症加療の有用性との関連性を明らかにしたことは評価できる。企業が関心を示すなど、産学共同等の研究開発ステップにつながる可能性が高まったと考えられる。今後、敗血症のPDFによる血中アディポネクチン上昇のメカニズム解析が検討され、敗血症の新たな治療法の確立につながることが期待される。
ナノダイヤモンドを用いたデジタル標的化DDSシステムの開発 滋賀医科大学
小島秀人
滋賀医科大学
江田和生
ナノダイヤモンド(ND)を用いた標的化DDSシステム開発の基礎検討を行った。遺伝子輸送ベクターとしての有用性を検討するために、マウス脊髄後根神経節(DRG)神経細胞に特異的に接着できるペプチド配列を水溶性ND表面に接着させた後、黄色蛍光色素(YFP)遺伝子を含むプラスミドと電気的な結合物(ND-YFPベクター)を作成した。このベクターは電気泳動による検討から遺伝子輸送体として安定して機能することを証明した。そこでND-YFPベクターを単離培養DRG神経細胞と反応させたところ、細胞内に黄色蛍光を観察した。今後マウスin vivoでの遺伝子輸送能と安全性を明らかにしたい。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。標的化ベクターの核としてのナノダイヤモンドの特性が確認できたことは評価できる。一方、in vivo実験ができなかった点が惜しまれる。今後、デジタル標的化DDSで運搬が可能な薬の種類の選定や標的臓器での薬のDDSからの遊離法の開発など困難も予想されることから、研究の方向性を明確にして、病変に特異的なペプチドの開発と重ねて進めることが望まれる。
新規プレニル化プリン塩基を基軸とする神経変成疾患改善薬の開発 広島大学
太田伸二
長浜バイオ大学
堀伸明
本研究は、パーキンソン病等の難治性神経変成疾患の症状を改善する医薬品のリード化合物を開発することを目的としている。アセチルコリンエステラーゼ(AChE)に対して活性化を示すことがわかったサイカチ種子メタノール抽出物から、活性成分として新規なアルカロイド配糖体類を単離し、それらの化学構造を決定した。また、プリンアルカロイドであるアデニンおよびイソグアニンの各窒素原子をプレニル化した10種の各種誘導体を調製し、AChEに対する効果を調べた。その結果、プリン骨格の3位に適度な鎖長の置換基を導入することでAChE活性を増強する物質の開発が可能となることが明らかになった。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。新規アルカロイド配糖体類を単離して化学構造を決定したこと、今回10種の誘導体を合成し、構造活性相関に関する新たな知見が得られたことは評価できる。しかし、全般に合成の検討が不十分で、緻密な合成計画の立案が望まれる。技術移転まではまだ時間がかかると思われるが、着実に進めることを期待したい。
炎症性腸疾患治療用の経口投与用モノクロナールIgA抗体医薬の開発 長浜バイオ大学
新蔵礼子
長浜バイオ大学
堀伸明
炎症性腸疾患は治療に難渋する事が多く難病に指定されている。ステロイド等の免疫抑制剤が投与されるが、長期投与が必要で副作用が問題である。
申請者は、ターゲットとする腸内細菌に対する抗体を産生するマウスの腸管由来IgA産生ハイブリドーマ株多数を樹立し、それらの抗体の性質を検討した。本研究で開発した特殊なスクリーニング方法を用いて、治療効果が高いと思われるIgA抗体を選択した。この抗体を、炎症性腸疾患を生じているモデルマウスに経口投与し、炎症を制御できるか検討する。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。腸管由来IgA産生ハイブリドーマを樹立した点は評価できるが、in vivo における有効性の確認が必要である。また炎症性腸疾患の原因として腸内細菌が挙げられているが、詳細は不明であり、多数の腸内細菌を同時に制御することが有利であるか否かについても解析が必要と思われる。残された課題に取り組み、技術移転を加速することが望まれる。
モルモットインフルエンザモデルによるインターフェロン-αモジュレーターの抗ウイルス活性の評価 立命館大学
木村富紀
立命館大学
松田文雄
インターフェロン-α1(IFN-α1)遺伝子のアンチセンス転写産物(AS)が同mRNAを安定化し、その発現を増大する事と、この安定化機能に関与する塩基配列を持つ合成アンチセンスオリゴリボヌクレオチド(ASORN)は全長のASと同程度にIFN-α1 mRNAを安定化する事を発見した。本受託研究では、このASORNの抗ウイルス効果を検証できるモルモットインフルエンザモデル系の構築を目指した。その結果、1)モルモットIFN-α1遺伝子を特定した。2)モルモットIFN-α1 mRNA上にASが認識するドメインを決定した。3)ASORNのモルモット気道組織への投与にもちいるDDSとしてExosomeを選び、その単離・精製のための実験系を確立した。今後このExosomeを用いて、ASORNの抗ウイルス効果の生体内検証実験を実施する予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。モルモットIFNA1遺伝子の決定とASRNAが認識するドメインの決定については評価できる。しかし、Exosomeやナノ粒子によるDDSの構築が達成されず、モルモットへのインフルエンザウイルス感染に対するIFNA1モジュレーターによる病態形成、生存率の改善効果まで示せなかった点が惜しまれる。将来的には、DDSの開発及びin vivoでの評価を確立し、高病原性トリインフルエンザや新型インフルエンザの予防や治療に応用展開されていくことを期待する。
ナノ組織化シャペロンペプチドによるアルツハイマー病の制御 京都工芸繊維大学
田中直毅
熱ショック蛋白質αAクリスタリンの基質結合部位ペプチドαAC(71-88)を脳神経疾患制御に応用する研究を行った。αAC(71-88) の酸性蛋白質基質に対する熱凝集抑制機能は、自己組織化プロセスによりナノファイバーを形成するナノ組織化により大幅に向上した。一方、αAC(71-88)のナノ組織化ファイバー塩基性基質の熱凝集を促進した。ゼータ電位測定によるナノファイバーの表面電荷解析により、これらの結果は基質に対する静電的相互作用によるものであることが判明した。この知見に基づき、アルツハイマー病の病原蛋白質であるアミロイドβおよびタウの凝集を抑制するαAC(71-88)を開発することに成功した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。アルツハイマー病の病原蛋白質であるアミロイドβ及びタウの凝集を抑制するペプチドαAC(71-88)を独自のアイデアから見出した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、細胞を用いた評価まで実施できなかった点が惜しまれる。今後はさらに基礎データを蓄積し、細胞死阻止率を改善したペプチド誘導体の展開が望まれる。
光応答性架橋型核酸プローブの開発と、RNAマニピュレーションへの応用 京都工芸繊維大学
小堀哲生
京都工芸繊維大学
行場吉成
これまでに我々は、核酸医薬品候補化合物として、光照射によりクロロアルデヒド誘導体を生成し、標的核酸と配列選択的にエテノアデニン環を介した共有結合を形成する機能性核酸の開発を行ってきた。本研究では、これらの誘導体を基盤として、生理的条件下、UV光を照射するだけで、標的RNAを選択的に化学修飾することのできる光応答性架橋型核酸プローブの開発に成功した。今後は、1.架橋反応により生成するエテノアデニン環の蛍光特性を利用することにより、生細胞中のRNA検出システムを構築することと、2.標的がん細胞選択的な細胞死誘導能を評価し、核酸医薬品・診断薬品素子としての可能性を示すことを目指して研究を実施する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。光応答性架橋型核酸プローブとしての反応性と配列選択性などの(合成)研究には一定の成果が認められる。一方、最終目的としている標的mRNAを特異的に阻害できることを明らかにするまでには至っていない。また共同研究の取り組みや特許出願といったところまで至っておらず、今後の展開に期待したい。
BMP拮抗分子USAG-1とBMP-7の歯数制御による歯牙再生 京都大学
高橋克
京都大学
藤井永治
BMP7を局所投与することによって、歯数が増加させることが可能か確かめるために、E15マウス胎児より上顎の切歯部の歯胚をマイクロダイセクションし、1日器官培養した後、BMP7の組み換え蛋白局所を浸漬したゼラチンスポンジとともにマウス腎被膜下移植した。19日経過後、腎臓を摘出し、移植した歯胚を確認したころ、明らかな歯数の増加は確認できなかった。そこで、USAG-1とBMP7ダブルノックアウトマウスを用いて、歯数制御のメカニズムを更に詳細に検討するとともに、用いたゼラチンスポンジの改良を行った。更に、その研究過程でBMP7、USAG-1発現量減少により歯の体積が増大するという興味深い結果を見出し、BMP7、USAG-1の遺伝子発現量を減少させることで、歯の大きさも制御できる可能性を示した。 当初目標とした成果が得られていない。BMP7及びUSAG-1遺伝子の発現を制御することで歯芽再生を誘導するシステムの確立を目標としたものの、発現量変化による歯体積の1-2割の増加を見いだすことに留まった。ノックアウトマウスやトランスジェニックマウスを用いた遺伝子機能解析及び発現解析実験は基礎研究であり、化合物スクリーニングについて記載されていない点が惜しまれる。今後は技術移転の可能性を視野に研究を推進することが望まれる。
TRPM2チャネルを標的とした炎症性中枢神経疾患治療薬の開発 京都大学
中川貴之
京都大学
越前谷美智子
TRPM2遺伝子欠損マウスを用いた解析により、慢性疼痛、脳虚血再灌流障害、多発性硬化症等、TRPM2が関与する中枢神経疾患を絞り込むことができた。一方、パーキンソン病、永久脳梗塞モデル等では有効な結果が得られず、今後、これらの疾患は対象から除外する。また、培養ミクログリア細胞応答に対するTRPM2阻害薬候補のin vitroでの有効性が確認でき、当初目標をある程度達成できた。一方、TRPM2阻害薬候補を用いたin vivo検討では、炎症性/神経障害性疼痛モデルに対しても、その有効性が認められなかった。今後、中枢移行性が高く、TRPM2に対する親和性、選択性の高い安定的な阻害薬が必要になると考えられる。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。TRPM2遺伝子欠損マウスを用いて、慢性疼痛、脳虚血再灌流障害、多発性硬化症にTRPM2が関与することを明らかにしたこと、また、培養ミクログリア細胞応答に対するTRPM2阻害薬候補のin vitroでの有効性が確認できたことなどは高く評価できる。一方、TRPM2阻害薬候補を用いたin vivo検討では、炎症性/神経障害性疼痛モデルに対しても有効性が認められなかったことから、今後は中枢移行性が高く、TRPM2 に対する親和性、選択性の高い体内動態良好な阻害薬を探索して展開を図ることが望まれる。
解糖系代謝亢進による抗老化効果を標的とした加齢生活習慣病の新規診断・治療法の開発 京都大学
近藤祥司
我々はストレス老化研究に10年以上従事する中で、解糖系酵素PGMに注目し、その臨床応用技術の開発を目指している。具体的には、PGMを標的とした候補加齢性生活習慣病への臨床応用に向けた特許取得と、その創薬開発につながる試験管内再構築系の樹立である。これらの目標のために、モデル動物での実験や、試験管内実験を繰り返し、当初目標の60-80%程度と思われる達成度に至った。今後は、これら基盤成果をもとに、特許取得、創薬開始への足がかりとする。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。生活習慣病Xモデルマウスを用いた実験でPGM発現量と病気との因果関係はさらに強まった。マウスモデルの結果と生活習慣病X患者のデータとは異なる結果となったが、PGMの分解に関わるユビキチン化の試験管内再構築やノックアウト動物の作成など意欲的な努力もなされている。ヒトとモデルの相違点の解明に向けて、ノックアウトマウスの作成が進んでいるので、いずれ本課題が解決することが期待される。
がん細胞特異的に細胞周期進行を阻害するがん分子標的治療薬の探索 京都大学
米原伸
京都大学
藤井永治
FLASHは上皮がん細胞特異的に細胞周期S期進行をになうこと、FLASHの機能が核内でのFLASH bodyとCajal bodyの形成と相関することを示している。そこで、上皮がん細胞株KBを用い、FLASH bodyまたはCajal bodyを細胞が生きたまま蛍光顕微鏡下に観察できるシステムを構築し、FLASH bodyとCajal body の形成を阻害する低分子化合物のスクリーニングを行った。1280種類の低分子化合物ライブラリー(Sigma-Aldrich社:KPV 017-132)から、9種類の化合物がFLASH bodyとCajal body の形成を阻害する活性を示し、このなかの3種類が細胞周期S期に存在する細胞の割合が増加していた。最終的に、FLASHの機能を阻害する活性を有する可能性があると考えられた1種類の化合物について、さらに詳細な解析を行っている。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。目的の低分子化合物が取得されれば、上皮がん細胞特異的に増殖抑制と細胞死を誘導する新しいがん分子標的治療薬の開発につながることが期待される。FLASHの機能を阻害する薬剤のスクリーニング系の開発を行い、これを用いて9種類のヒット化合物を得ていることは評価できる。今後、誘導体の合成を試みることにより、より活性の強い化合物が得られることが期待される。
イントロン性マイクロRNA-33a/bの機能解析と新規動脈硬化治療法の開発 京都大学
尾野亘
京都大学
藤井永治
我々はSREBP-2遺伝子のイントロン16にあるmicroRNA (miR)-33欠損マウスを作成し、血中HDLコレステロールが著増することを見いだした。このマウスをApoe欠損動脈硬化モデルマウスと交配したところ、著明に動脈硬化の抑制、脂質の蓄積の低下、および炎症細胞浸潤の抑制が認められた。またこのマウスのマクロファージ機能につき検討したところ、著明な脂質の引き渡し能の上昇と遊離コレステロールに対するアポトーシス抵抗性を認めた。骨髄移植実験においても動脈硬化巣の脂質の蓄積の低下を認めた。さらにmiR-33発現に影響を及ぼす化合物スクリーニングを行い、新規の動脈硬化抑制法の開発につなげる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。miR-33欠損マウスと動脈硬化モデルのApo欠損マウスと交配させ著明な動脈硬化巣抑制、HDL-Cの上昇を確認したことは評価できる。一方、人でのmiR-33b解析のためのキメラマウスの作成を行っているが、解析はまだ行われていないため、迅速な検討が望まれる。今後、ヒトの動脈硬化病変での検討も予定されており、、技術移転を目指した研究開発ステップにつなげることを期待したい。
アドレノメデュリンによるアルツハイマー病の血管-神経再生療法 京都大学
猪原匡史
京都大学
牧野圭祐
本研究では、血管新生を誘導することで、Aβのクリアランスと脳虚血を改善させる、アルツハイマー病の新規治療法を創出する。すなわち、「血管作動性ペプチドアドレノメデュリンにより、アルツハイマー病モデルマウスにおける脳内βアミロイドの蓄積が抑制され、血管機能が保たれ、認知機能が改善すること」を示すことを目標とした。アドレノメデュリンが発生段階より血中に過剰発現するマウスを用いた実験では、Aβ沈着の抑制効果は乏しいことが明らかとなり、アドレノメデュリン受容体であるCLR/RAMP2が負に制御されていることが原因であると考えられた。すなわち、Aβのクリアランスを高めるためには、アドレノメデュリンの持続投与ではなく、間欠投与などCLR/RAMP2を負に制御しない投与法が必要であり、アドレノメデュリンの投与プロトコールの修正と、CLR/RAMP2刺激薬の開発を今後展開する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。当初のもくろみどおりにはいかなかったため、結論はでていない。しかし、今回の結果は薬剤の標的分子を考える上で重要な知見であり、RAMP2アゴニストを開発するにしてもRAMP2受容体を減少させないことがポイントであることを示唆したことは評価できる。この仮説を検証し、アドレノメデュリンを用いた基礎的研究データを蓄積して、今後、臨床に使用できる形の薬剤を開発することが望まれる。
脂肪酸受容体GPR40特異的化合物のin silico予測手法の確立と、新規創薬候補化合物の探索 京都大学
平澤明
京都大学
藤井永治

脂肪酸を検知する生体内のセンサー分子として見出されているGタンパク質共役型脂肪酸受容体に関して、その中でもGPR40は代謝調節、特に糖尿病、メタボリックシンドロームの治療標的分子として期待されている。メタボリックシンドローム治療薬の候補化合物として極めて大きな価値を持ちGPR40に特異的に作用する化合物を効率的に探索するための手法として、コンピュータ上での化合物との相互作用を予測するドッキングシミュレーションのシステム構築を行った。これを用いて、新規の化合物の活性予測をin silicoで系統的に行い、また実験により候補化合物の活性測定をしたところ、GPR40に特異的な化合物としてNCG75が得られた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。ドッキングシミュレーションのアルゴリズム確立と精度向上を進め、後半ではそれを用いたin silicoの活性予測と、実際の活性測定をGPR40発現細胞で行い、GPR40特異的化合物の一つとしてNCG75を見出している点は評価できる。一方、以前の脂肪酸受容体のGPR120に対するものと同様に、GPR40に対してもドッキングシミュレーションのシステムを応用したに過ぎないとも言えなくない。本受容体の生理学的意義や創薬標的への可能性の検証を進め、技術移転のシーズとしての価値の向上を期待したい。
新規カルシウムチャネルTRPC3/6イオンチャネルを標的とした新規心血管病治療薬の開発 京都大学
桑原宏一郎
京都大学
藤井永治
申請者はTRPCイオンチャネルファミリー、中でもTRPC3/6の活性亢進が心肥大・心不全の進展に関与しTRPC阻害薬が心肥大モデルマウスの心肥大を改善することを報告した。さらに血管病モデルおよびヒト血管病変においても TRPC3/6発現・活性亢進が確認されている。これらの結果よりTRPC3/6阻害が新規心血管病治療薬になる可能性を考え、本研究では複数の心血管病モデル動物に対するTRPC阻害薬の効果と分子機序を検討し、さらにより選択的な阻害薬開発の端緒とすることを目的とする。本年度は、昨年度に引き続き、心不全、原発性肺高血圧症モデルマウスにおいてTRPC3/6阻害が病態を有意に改善することを見出し、その詳細を検討した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。TRPC3/6阻害薬のさまざまな心血管疾患モデルマウスに対する治療効果を検討し、高血圧性心肥大抑制や肺高血圧モデルに対する肺動脈圧降下作用などを見出したことは高く評価できる。高血圧時の心肥大は、はじめは代償的なところもあるので抑えてしまっていいのかという問題は残るが、肺高血圧症に対しては有効な薬が少ない中で今後の展開に期待したい。
動物細胞における効率的組換え型タンパク質生産のための特異的mRNA輸送体の開発 京都大学
増田誠司
京都大学
藤森賢也
動物細胞での生産性は、大腸菌や酵母などに比べて依然として低く、新たなブレークスルーが産業界から期待されている。提案者は、遺伝子発現を規定する律速段階となっているのは、転写や翻訳段階ではなくmRNAの細胞質への輸送過程であることを見いだした。本提案は、CHO細胞でmRNA輸送を効率化することによりタンパク質生産性を向上させる発現系を構築することにある。
mRNA輸送を効率化した結果、一過性の発現系でタンパク質の発現量が2倍以上に増加した。このことより当初の目的を達成できた。今後は、安定発現株を取得する。さらに安定発現株においても、mRNA輸送を効率化したことによりタンパク質の生産性が高く維持されるかについて明らかにしていくことが必要と考えられた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。mRNAの核外への輸送の効率を2倍以上に上げるという目標をHela細胞及びCHO細胞で達成した点は高く評価できる。一方、技術移転の観点からは、他の有用タンパク質(エリスロポエチンなど)についてもその発現が既存の方法に比べ画期的な生産量への増加があるかどうか大変興味深いので、今後に進展に期待したい。
メタボローム解析に基づくアミノ酸含有人工涙液の開発 京都府立医科大学
外園千恵
京都府立医科大学
羽室淳爾
"眼表面機能の正常化に寄与するアミノ酸含有人工涙液の開発"を目的に、アミノ酸を選択的に含有する点眼液の有用性を明らかにするため、正常および疾患眼における涙液中23種アミノ酸の網羅的発現解析結果に基づき、アミノ酸含有人工涙液の効果を検証した。少数例であるがドライアイ、眼精疲労の自覚症状および他覚所見の改善を得た。また培養細胞を用いたin vitroの検証により、特定のアミノ酸含有あるいは非含有が創傷治癒に大きく影響した。さらにアミノ酸が電気抵抗に及ぼす影響を検討したところ、創傷治癒と同様の特定のアミノ酸が電気抵抗に影響し、tight junctionへのアミノ酸の関与が示唆された。 当初目標とした成果が得られていない。In vitro試験では創傷修復、タイトジャンクション形成ともにFull培地で効果が認められるものの、アミノ酸含有培地ではその効果を補完できるほどの効果が得られていない。仮説が検証できていないように思われる。In vivo試験で効果があると記載があるが、対象実験が明確でなく、アミノ酸液の効果なのかどうか不明である。被験者数が6例というのも当初の想定数以下であり、評価できる人数ではない。以上から技術移転の可能性を判断できない。
肺癌細胞株におけるパクリタキセルの新規細胞内標的タンパク質の同定 京都府立医科大学
下村雅律
京都府立医科大学
羽室淳爾
薬剤感受性の異なる3種類の肺癌細胞株で、耐性の主たる原因であるとされているATP-binding cassette, sub-family B, member1 (ABCB1)の発現やβ-tubulinにおける遺伝子変異、微小管の安定性を検討したが、これらと明らかな耐性との間の相関は認めなかった。一方、細胞内のパクリタキセルの局在については、最も耐性の高い細胞で細胞内のパクリタキセルの強集積を認めたが、それがどこに局在して、どのタンパク質に結合しているのかは不明である。そこで、パクリタキセルを用いた固相化カラムを作成し、新たなパクリタキセルの結合タンパクを同定することを目標とする。 当初目標とした成果が得られていない。パクリタキセルの新規標的タンパク質の同定に取り組んでいるが、現段階での研究成果としては、具体的な標的タンパク質の同定には至っておらず、候補タンパクの選定に留まっている。研究テーマ自体は興味深いものであり、今後の更なる展開に期待したい。
新しい分子メカニズムによる皮膚老化防止をめざした研究 京都府立医科大学
岩田和実
京都府立医科大学
羽室淳爾
活性酸素種(ROS)産生の抑制および除去が皮膚老化の抑制において重要な課題と考えられてきた。しかしながら皮膚におけるROSの産生源は明らかにされていない。本研究ではROS産生酵素であるNADPHオキシダーゼの新規サブユニットであるNOX1の皮膚老化における関与を明らかにするため、遺伝子欠損マウス(NOX1-KO)を用い検討を行った。NOX1-KOの皮膚では野生型マウス(WT)と比較してコラーゲン量の増加が認められたが、皮膚弾性は有意に低下していた。これらの結果からNOX1が産生するROSはECMの機能維持に重要な役割を果たしていることが示唆された。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。内因性老化におけるNOX1の役割を検討して結果を得たことは評価できる。しかし、紫外線による外因性老化(光老化)の実験が行われなかったことが惜しまれる。また、コラーゲン、エラスチンのmRNAレベルと蛋白レベルレベルにおける差異がどうして起こるかなどを含め、基礎データの蓄積が望まれる。次のステップへ進めるための技術的課題を明確にして展開を図ることを期待したい。
ペルオキシレドキシン6のメチルグリオキザールによる翻訳後修飾を標的とした糖尿病合併症の評価系開発 京都府立医科大学
伊藤友子(大矢友子)
京都府立医科大学
羽室淳爾
糖尿病の診断で現在の診断マーカーであるHbA1cは有効性が示唆されているが、適用できない患者も存在する。糖尿病では高血糖や酸化ストレスによりメチルグリオキザール(MG)が赤血球の主要な抗酸化酵素ペルオキシレドキシン6(Prx6)を修飾する。Prx6は発現量が多くHbと並んで血糖値の影響(修飾)を受けやすいため、有望な指標と考えられる。我々は、MG修飾Prx6を分子標的として、簡便な測定系の確立を試みた。また、酸化修飾及びMG修飾を認識する抗体を組み合わせることにより、進行度を複合的に評価可能な系の確立を目指した。有用性検証を終え、キット化の段階へ至った。本測定系の確立により、合併症の病態進展を的確な上に早期に把握できる評価系として、予防と治療に貢献するものと成り得る。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。メチルグリオキサザール修飾ペルオキシレドキシン6の赤血球における定量は、ウェスタンブロティング法により微量の血液を材料として測定可能であることを示したことは評価できる。一方、抗ペルオキシレドキシン6及び抗システインスルフォン酸認識抗体を用いたELISA法についての検討が待たれる。今後、HbA1cやグリコアルブリンと比較して有用性が示され、実用化への展開を図ることが望まれる。
新しい難治性疼痛治療を目指した活性酸素産生酵素阻害薬の開発 京都府立医科大学
衣斐督和
京都府立医科大学
島田かおり
新しい難治性疼痛治療の標的分子としてNOX1が候補になりうるか検証することが本研究の目的であった。そのためNOX1欠損マウス(NOX1-KO)を用いて難治性疼痛の病態生理(発症・維持とそれに続く神経症状)におけるNOX1の役割を検討した。その結果、NOX1は難治性疼痛の発現・維持ではなく、惹起される不安様行動の発現に寄与することが明らかとなった。またNOX1は難治性疼痛に対する既存鎮痛薬の鎮痛作用を減弱する作用を有することが明らかとなった。以上の結果より、難治性疼痛の効率的な除痛療法において活性酸素産生酵素NOX1は標的分子として非常に有望であると考えられる。今後は創薬開発に向けてさらに詳細な解析を行うとともに、NOX1の選択的阻害薬のスクリーニングや開発を行う。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。NOX1欠損マウスを用いた研究により、難治性疼痛の一つ神経障害性疼痛モデルで認められる不安症状(難治性疼痛に必ず付随する症状)発現にNOX1が深く関与することを明らかにした点は評価できる。すぐに技術移転する段階にはないが、疼痛コントロールは医療上重要かつ緊急のテーマであり、製薬企業の関心も高いため、NOX1選択的阻害薬の発見・開発という次のステップに期待したい。
血小板の機能抑制による炎症性皮膚疾患の新規の治療法の開発 京都府立医科大学
峠岡理沙
京都府立医科大学
島田かおり
ハプテンによるアレルギー性接触皮膚炎モデルマウスを用いて、マウス耳介皮膚にハプテンを塗布して皮膚炎を惹起させてから、抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル)を外用することにより、抗炎症効果を検討した。ハプテン塗布直後に抗血小板薬を外用すると耳介皮膚の厚さおよび皮膚への細胞浸潤は減少傾向を認め、直後にアスピリン塗布を行った群では統計学的に有意に耳介皮膚の厚さは減少した。ハプテン塗布2時間後以降に抗血小板薬を外用した群では耳介皮膚の厚さおよび皮膚への細胞浸潤は減少傾向を認めなかった。今後は他の抗血小板薬を用いたり、抗血小板薬の外用濃度などの条件を変動させて検討することにより、皮膚炎における抗血小板薬外用の効果の検討を実施する予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。血小板が非特異性炎症の初期段階に重要な役割を果たすことは容易に推測できるとは言え、アスピリン外用による効果が有意差を持って得られたことは評価できる。一方、ハプテン投与直後のみのパラメータをやや抑制したに過ぎず、ステロイドと比較して創薬の機転となる成果を得たとは言い難い。病理組織学的評価のほか予定されていた生化学的検査がキャンセルとなったことも残念である。今後、メカニズムから総合的に本格的創薬につながるような工夫を期待したい。
スタチン外用による難治性皮膚潰瘍の新規治療法の開発 京都府立医科大学
浅井純
京都府立医科大学
島田かおり
スタチンの外用剤としての有効性およびその機序について検討し、これにより、今までにない新しい皮膚潰瘍治療剤の開発の可能性を検証することを目標とした。糖尿病マウス難治性皮膚潰瘍モデルを用いてスタチンを局所投与したところ、優位に創傷治癒が促進した。スタチン外用群では創部の血管・リンパ管新生が増加するとともに、創傷治癒に重要な細胞の一つであるマクロファージの浸潤数が優位に増加した。これらはスタチンによる創傷治癒促進作用の機序の一つと考えられた。in vitroで培養リンパ管内皮細胞にスタチンの刺激を加えたところ、リンパ管内皮細胞の脈管形成が促進された。今後はこれらの結果を元に実用化を目標として研究を継続していく予定である。 当初目標とした成果が得られていない。完了報告書に記載された研究開発成果とされる5つのデータのうち、3つは申請書に記載された「これまでの研究成果」と同一ではないか。2つの新たに加わったデータもスタチンの作用機序を明らかにするに至らないものと判断する。さらに、糖尿病モデル以外の疾患モデルによる難治性皮膚潰瘍に対する効果の検討や スタチンの外用剤としての最適化・予備試験ついての検討は未実施であり、技術移転に向けた展開に向けて計画の見直しが望まれる。
肝保護作用を有する新規抗糖尿病薬のインスリン抵抗性における有効性の解明 京都府立大学
南山幸子
京都府立大学
市原謙一
新規構造体SAG (50, 200, 600 mg/kg/day)をラットに投与し、フルクトース負荷によるインスリン抵抗性モデルに及ぼす効果とその機序を確認することを目標とした。そして、SAGはフルクトース負荷モデルによる糖負荷試験OGTT値および脂質代謝異常を改善することが判明した。また、SAG 600 mg/kgを6ヶ月以上投与しても肝障害は起こらないことを確認した。また、SAGはマクロファージ機能を調節することも判明した。今後、シーズ顕在化などで健康食品や創薬開発のために、企業と提携していきたい。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。SAGについて、フルクトース負荷によるインスリン抵抗性ラットモデルに対してOGTT値と脂質代謝異常を改善する作用が明らかにされ、長期投与においても肝障害が起こらないことが確認されたことは評価できる。しかし、in vivo 実験の結果では有意差は認められるものの、その効果はあまり顕著ではない。また作用機序についても今後の解析となっており、技術移転の可能性の観点から更なる検討が望まれる。
新規抗アレルギー薬の開発を目的としたEP3アゴニスト化合物の作用解析 同志社大学
上田真由美
同志社大学
尾崎安彦
本開発研究では、申請者らが新規にEP3アゴニスト作用を発見した化合物A, 化合物Bの二種について、マウスin vivoでのアレルギー性結膜好酸球浸潤抑制作用を解析した。方法は、ブタクサ花粉に対するアレルギー性結膜炎マウスモデルを用い、化合物A, Bを抗原点眼の同日に、一日3回点眼することとした。その結果、化合物Aには、in vivoでのアレルギー性結膜好酸球浸潤抑制作用は認めず、化合物Bには、in vivoでのアレルギー性結膜好酸球浸潤を抑制する傾向を認めたものの、有意な差を認めるまでには至らなかった。 当初目標とした成果が得られていない。2種類の EP3アゴニスト(化合物AおよびB)は in vitroの実験から期待されたが、共にアレルギー性結膜炎マウスモデルにおいて有効性が見られなかった。しかし、臨床で使用されているステロイド点眼液(Positive control)でも有効性が示せていないので、実験系の再検討または再構築が必要と思われる。
体性幹細胞を用いるヒト造血幹細胞の体外増幅システムの開発 関西医科大学
薗田精昭
関西医科大学
三島健
ヒト造血幹細胞(HSC)の体外増幅システムの開発研究には、これまで多くの試みがあるが未だに成功していない。その主な理由は、HSCの自己複製因子が同定されていないことにあると考えられる。
本研究では、研究責任者がヒト臍帯血中に同定した非常に未分化なCD34抗原陰性HSCを用いて、独自にヒト骨髄より樹立した間葉系幹細胞との共培養系において、長期骨髄再構築細胞であるCD34+CD38-HSCを効率的に産生するシステムの開発・確立を目指した。その結果、低酸素培養下における無血清培養系の開発に成功した。しかし、研究期間内には、限界希釈法を用いてCD34+CD38-HSCの増幅を確認することができなかった。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。CD34-HSCとMSCの共培養の条件設定を検討し、1個のCD34-HSCから67個のCD34+HSCを得ることができたことは評価できる。しかし、 NOGマウス1匹あたり100細胞を骨髄腔内移植しても生着が得られなかった。また骨髄内直接移植実験は時間が足りず、本研究期間内で再実験を行うことはできなかった点は惜しまれる。今後、骨髄内直接移植実験法の確立と本条件(増幅効率)の有用性の確認作業を早急に実施することが望まれる。
網膜神経節細胞選択的に遺伝子導入が可能なレンチウイルスベクターの開発 関西医科大学
若林毅俊
関西医科大学
三島健
網膜神経節細胞選択的に遺伝子導入が可能なレンチウイルスベクターの作成を目指した。網膜神経節細胞特異的に発現する分子のプロモータ領域を単離し、これをベクターにおける外来遺伝子発現を制御するプロモータとして組み込んだ。これにより網膜神経節細胞選択的に外来遺伝子を発現し得るようなレンチウイルスベクターが作成できた。
一方で、細胞特異的プロモータ単独利用では十分な細胞選択性が得られない可能性もある。そこで、網膜神経節細胞の膜表面上の分子に対する抗体を結合できるよう、ウイルスベクターを改変した。このベクターは感染能を維持しており、また抗体が結合することを確認した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。抗体とプロモータの併用が最終目標であるが、その第一段階として網膜神経節細胞選択性をもつレンチウィルスベクタ―の作製が部分的に達成できたことは評価できる。しかし、実際に抗体が結合したベクターでの実験結果がないことが惜しまれる。中途半端に発表してしまうことは実用化の障害になることも考えられるので慎重を期することが望まれるとともに、ベクターへの抗体の非特異的吸着も見られることもあり、より一層の創意工夫が望まれる。
関節症診断マーカーとしての抗低硫酸化型ケラタン硫酸モノクローナル抗体作成 関西医科大学
赤間智也
関西医科大学
三島健
本研究では低硫酸化ケラタン硫酸グリコサミノグリカン(GAG)に対するモノクローナル抗体を作成することを目的とし、抗原の作成とマウスに対する免疫、その後の抗体産生細胞のスクリーニングを行なった。抗原としては培養細胞に硫酸転移酵素、糖転移酵素を導入することで細胞表面及び分泌タンパク質上に低硫酸化ケラタン硫酸を所有する細胞株を得、この細胞そのものか、細胞が分泌する糖タンパク質を精製して抗原とした。免疫されるマウスは硫酸化ケラタン硫酸を持たないChst1/Chst5二重欠損マウスをBalb/cバックグラウンドで作成した。このマウスに抗原を免疫して現在スクリーニングを実施中である。 当初目標とした成果が得られていない。低硫酸化ケラタン硫酸グリコサミノグリカン(GAG)を発現している細胞株を抗原として、これらの糖鎖を欠損しているマウスを免疫したが、最初の免疫では免疫マウスの抗体価が期待通りには上昇せず、再度の免疫で、弱いながら抗体価の上昇が見られた程度であった。融合細胞の培養検討から進めて、早急に抗体産生の検討に移れるよう計画の練り直しが望まれる。
骨芽細胞の機能低下による骨粗鬆症モデルマウスの開発 公益財団法人大阪バイオサイエンス研究所
古川貴久
(財)大阪市都市型産業振興センター
長谷川新
骨芽細胞分化および成熟を促進する機能を持つ新規膜タンパク質obif(Osteoblast Induction Factor)の生体における骨形成能の確認および骨粗鬆症モデルマウスの確立のために obifノックアウトマウスを作製し、その解析をマイクロCT等による各種骨形態計測値において実施した。Obifノックアウトマウスはコントロールマウスと比較して、8週齢マウスでは骨量(BV/TV(%))、骨梁連結数(mg/cm3)、骨梁幅(Tb.Th(μm))および皮質骨厚(cortical thickness(μm ))において有意に減少し、一方骨梁間隔(Th.Sp(μm))においては有意に増加した。さらに各種骨芽細胞マーカーによりObifノックアウトマウスの骨量減少は、骨芽細胞の機能低下によるものであることを確認した。よって本研究ではObifノックアウトマウスが新たな骨粗鬆症モデルマウスになりうる可能性を示した。今後生体内でObifと相互作用する分子の探索を行うことを考えている。 概ね期待通りの成果が得られたが、技術移転につながる可能性については疑問である。骨芽細胞の分化及び成熟を促進する膜タンパク質obifノックアウトマウスの作製し、骨粗鬆症モデル動物としての有用性を検証した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは。成果は論文で発表されているが、新規特許の出願がなされていない。今後の研究開発計画の詳細も記載されておらず、このマウスを創薬開発のためのモデルマウスとして実用化(特許取得)できる可能性は低いと言わざるを得ない。
自然な眠りを導くカロテノイド化合物の化学修飾による薬効改善 公益財団法人大阪バイオサイエンス研究所
有竹浩介
(財)大阪市都市型産業振興センター
長谷川新
サフランに含まれる成分であるカロテノイド色素のクロシンが、マウスへの経口投与で従来の睡眠導入剤では得られない「自然な睡眠」を促進する作用を有することを脳波解析によって証明した。その効果はアグリコンのクロセチンに比べて10倍の効力を有する。本研究は、クロシンの睡眠改善効果を、より効果的に発揮させるために、クロシンの酵素的糖付加や、包摂化合物による可溶化を行った。糖付加クロシンは、クロシンに比べて、溶液中での安定性、光に対する安定性が向上した。糖付加クロシンをマウスに経口投与すると、クロシンに比べてより低用量で睡眠改善効果を発揮することを証明することができた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。睡眠を促進する作用を有するサフランに含まれるクロシンを配糖体化することで、水溶液中での安定化、光安定化が向上し、低用量の経口投与で睡眠改善効果を示すことを明らかにしたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、クロシンの供給面の課題を解決し、臨床試験に向けた準備を着実に進め、産学共同の展開を図ることを期待したい。
関節拘縮に対する新規おとり型核酸医薬品開発と薬剤併用リハビリテーションの新概念の確立 森ノ宮医療大学
青木元邦
本研究では、脳卒中・骨折後固定などの不動化により生じる関節拘縮の分子メカニズムを明らかにし、それに基づく新規薬剤開発・新規リハビリテーション機器の探索を目的としている。今回までの検討で、関節拘縮の病態進展として、初期の筋肉拘縮による関節可動域(ROM)の低下から、各種分子の発現亢進に伴う滑膜肥厚、線維化、癒着による関節包内拘縮への移行を明らかにし、またリハビリテーション機器による拘縮進展抑制を確認した。今後、得られた病態メカニズムから、新規製剤の開発を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。関節拘縮に対する新規医薬開発において、まず疾患モデル動物を用いて分子的に評価する系の立ち上げ、さらにはある種のリハビリテーション機器による効果のメカニズムの一端を明らかとし、新たな治療戦略の可能性を明らかにしたことは高く評価できる。また、創薬だけでなくリハビリテーション分野での臨床応用、機器メーカーへの技術移転の可能性もあり、今後の臨床応用に向けた更なる進展が期待される。
Apelinシグナル抑制による血管成熟化促進を介した虚血性網膜症治療法の開発 摂南大学
石丸侑希
摂南大学
上村八尋
増殖性糖尿病網膜症などの虚血性網膜症では、血管内皮細胞の過増殖により壁細胞を伴わない脆弱な血管が生じ、それらが破綻することにより失明に至ることが知られている。したがって、本疾患の治療には、脆弱な血管に壁細胞を動員すること、すなわち血管成熟化を誘導する機構の解明が重要であると考えられる。我々はこれまでに、オリゴペプチドapelinが虚血性網膜症において血管内皮細胞の増殖を促すことで異常な血管新生に関与することを見出してきた。本課題では、apelin発現抑制による血管成熟化への影響について検討した。その結果、apelin発現を抑制するapelin siRNAを眼内投与した虚血性網膜症モデルマウスの網膜では、新生血管に対する壁細胞による被覆度の増加がみられた。また、培養血管内皮細胞へのapelin siRNAの導入は、血管壁細胞遊走能を有するMCP-1発現を誘導し、その転写因子であるSmad3を活性化させた。さらにapelin siRNAを導入した血管内皮細胞の培養上清には、血管壁細胞の遊走促進効果がみられた。以上の結果より、apelin発現を抑制することにより血管成熟化を誘導できる可能性が示唆された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。Apelin siRNAが MCP-1の発現を上昇させ、血管壁細胞遊走を促進すること、及びApelinシグナルの下流にSmad3が関与することを確認し、Apelinシグナル伝達系が血管成熟化に関連している可能性を示したことは評価できる。特許化の検討と産学連携を模索し、創薬研究につなげることで技術移転が加速されることを期待したい。
マクロファージ活性化抑制作用を有する新規肝硬変の抑制・治療薬の開発 大阪市立大学
竹村茂一
大阪市立大学
樋口堅太
本研究は、炎症に伴うマクロファージ活性化の抑制を基盤とした、長期投与可能な肝硬変の進展抑制および治療薬の開発を目的とした。申請者らが従来報告した治療薬候補であるS-アリルシステイン(SAC)より安全性・安定性が高く有効な物質として新規物質を合成し、種々のラット肝硬変モデルにおける肝線維化の予防薬・治療薬としてSAC以上の有効性を確認した。さらに本物質による抗線維化作用の主因がマクロファージ活性化の抑制であることを見いだした。肝硬変のみならずマクロファージ活性化に伴う慢性炎症に起因する疾病は多く、本結果を基に他の慢性炎症性疾患における効果を検討するとともに、創薬に向けてさらに検討を進める予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。肝硬変発症抑制・治療薬の実用化を目指し、マクロファージ活性化抑制活性を有する、新規物質SAGの合成からモデルマウスでの実験まで実施し、新規に特許の申請も行ったことは評価できる。但し、星細胞活性化が線維化につながるところでは、テネイシン産生が重要であるので、その部分についても検討してほしかった。用いられた実験系では線維化の程度は軽く、ヒトの慢性肝炎や初期の肝硬変に見られる像とはまだ大きな隔たりがあり、別のモデルも含めたより詳細な検討を行うことにより技術移転に向けた展開を図ることが望まれる。
新しい抗動脈硬化薬としてのジヒドロピリジン系降圧薬光学異性体 大阪市立大学
加藤隆幸
大阪市立大学
樋口堅太
動脈硬化は血管内皮細胞などが障害・活性化され、そこに炎症性細胞が集積し、活性酸素などにより血管が肥厚する。発生する部位により致死的な疾患となる。ジヒドロピリジン系降圧薬は血管拡張作用と抗炎症作用を示す。臨床で用いられている上記薬剤の多くはラセミ体の混合物であり、血管拡張作用はS-enantiomer(S体)にある。本研究で、BenidipineのS体ではなくR+enantiomer(R体)が炎症性サイトカインによる血管内皮細胞の活性酸素産生を抑制することを見出した。これらの研究成果を発展させ、R体による血管内皮細胞及び好中球機能制御機序を解明し、新規抗動脈硬化薬としての有用性を明らかにすることを目的とする。
当初目標とした成果が得られていない。ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬の光学異性体が抗サイトカイン作用を持ち、活性酸素産生を抑制するという現象は興味深いものの、想定した機序による反応は十分見られていない。また、実際に動物や人において有効かどうかについて検討が十分ではないこともある。すでに広く使用されている医薬品にこの成分が含まれているために、、改めて開発するメリットを明確に示す必要もあり、動脈硬化治療薬として発展させるにはかなりハードルが高いことが懸念されため、綿密な検討を期待したい。
カルパイン阻害剤による滑脳症治療薬等のスクリーニング法の開発 大阪市立大学
山田雅巳
大阪市立大学
中島宏
滑脳症は、中枢神経系の形成異常を伴う代表的な遺伝疾患の一つであり、臨床的には重度の精神遅滞、てんかん発作等を主な症状とする。現段階では、滑脳症に対する有効な治療法は確立されておらず、対症療法にのみ依存する。申請者は、多くの場合滑脳症の発症が原因遺伝子LIS1の変異に起因することから、LIS1の機能に着目して分子レベルでの研究を進めてきた。これまでに、滑脳症の原因遺伝子LIS1が、細胞質ダイニンの微小管プラス端へのリサイクル輸送を制御していること、カルパイン系タンパク質分解酵素によって分解されることを報告した。本研究は、新たなヒト滑脳症の治療法を開発することを最終ターゲットに置いているが、本課題では、滑脳症モデル(LIS1ヘテロ欠損)マウスを用いた「新規スクリーニング法の開発」を行う。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。独自性の高い基礎研究に根ざした創薬研究を形成している。一方、取得目標とするカルパイン阻害薬には、酵素阻害作用(選択性を含む)、細胞での作用(ここで確立した系)、脳内移行性(薬物動態)、安全性など多くの課題をクリアしてはじめて到達するので、ストラテジーを立ててスクリーニングを進めることが望まれる。
熱ショックタンパク質を利用した簡便かつ特異性の高い腫瘍マーカーの開発 大阪市立大学
塩田正之
大阪市立大学
中島宏
血中微量タンパク質を対象とした腫瘍マーカーの開発は重要かつ急務であるが、その単離・同定は困難を極める。そこで簡便かつ特異性の高い腫瘍マーカーの探索法の確立を目的とした。癌細胞が異常産生したタンパク質に熱ショックタンパク質(HSP70)が結合したまま分泌されることから、血中HSP70 結合分子の中には癌細胞の特性を反映した腫瘍マーカー候補分子が存在しうると考え、HSP70結合分子の効率的な単離・同定法を開発した。本申請では夾雑タンパク質の除去効率を上げ、さらに同定分子の腫瘍マーカーとしての妥当性を検証した。その結果、HSP70結合分子の中には細胞内由来タンパク質がその半数を占めることが明らかになり、本系の有効性が明らかとなった。さらに多発性骨髄腫腫瘍マーカーの候補となりうる患者特異的な分子の同定に至った。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。熱ショックタンパク質(HSP)は、様々な臓器の悪性腫瘍の腫瘍マーカーとしてその有用性が示唆されているが、HSP70に着目し、結合分子の効率的な単離・同定法を開発することを目的として夾雑タンパク質の除去効率を上げ、さらに同定分子の腫瘍マーカーとしての妥当性を検証した点は評価できる。一方、特異性の高い腫瘍マーカーが得られているわけではないため、技術移転につながる可能性は現状では厳しい。今後、新規な腫瘍マーカーが見出されることが望まれる。
メラノーマ中性子捕捉療法用コウジ酸修飾ホウ素薬剤の開発 大阪市立大学
長崎健
大阪市立大学
渡邉敏郎
メラノサイト特異性をもつことが示唆されているコウジ酸をホウ素クラスターであるo-カルボランに修飾したホウ素薬剤(CKA)を用いて、メラノサイトのがんであるメラノーマ特異的なBNCT薬剤の開発を目指し評価を行った。
難水溶性であるCKAをシクロデキストリン誘導体を用い水溶化した。この水溶液をWST-assayにより、低毒性であることを確認後、メラノーマモデルマウスを用いて、体内動態を評価した。この結果から、正常組織と腫瘍組織の集積した濃度比(T/N比)が最も優れた時間において、京都大学原子炉実験所にてメラノーマモデルマウスに薬剤投与後熱中性子を照射しBNCT評価を行った結果、延命効果が認められた。今回使用したCKAはホウ素10の非濃縮型であり、濃縮した化合物はメラノーマに対するBNCT薬剤として期待される。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。腫瘍動物での実験系の確立に時間を要したこと、また期待したCKA/HPCDによる顕著な延命効果が認められなかった点は残念な結果ではあったが、更にboron-10 濃縮型薬剤について検討を続けることにより、目標とする化合物を見出すことを期待する。技術移転にはまだ時間がかかると思われるが、知財の点も含めて緻密につめて頂きたい。
薬剤排出ポンプ亢進を抑制する薬の開発 大阪市立大学
藤田憲一
大阪市立大学
渡邉敏郎
薬剤耐性菌の頻出により既知抗菌剤の使用が限定されつつあり、加えて新薬の開発も困難となってきている。従って、薬剤排出ポンプ抑制剤は併用剤として今後盛んに開発されると期待される。薬剤排出ポンプ阻害剤であるアネトール関連の誘導体について微生物に対する相乗的抗菌作用を指標に構造活性相関を行った結果、抗真菌剤フルコナゾールと組み合わせた場合、アネトールよりも有効であるフェニルプロパノイドを見つけ出すことができた。また化学合成も同時行い、アネトールと同等の相乗効果を有する誘導体を見いだすことができた。従って、本研究で目標とした課題は達成されたと結論した。今後は、食品添加物として許可されているアネトールと組み合わせた際に、より効力を発揮する保存料や防腐剤を実際に使用されているものから探し出して、食品添加物や化粧品への実用化の可能性を見いだしていきたい。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。薬剤排出抑制剤として、既存のアネトールよりも有効なフェニルプロパノイドを見出した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、既出願の特願201-91645を補強する特許出願を予定していることから注視したい。今後は食品・化粧品添加用防腐剤としての開発に絞るとのことなので連携する企業を早急に見出し、共同研究を進めることが望まれる。
非修飾DNAからなる新規miRNA阻害剤「LidNA」の開発 大阪市立大学
立花亮
大阪市立大学
渡邉敏郎
DNAで構成されたmicroRNA阻害剤であるLidNAを高性能化することが最大の目標であった。その中でも最も重要視した項目は、LidNAを小型化すること、低濃度での活性を上昇させることであった。これらの項目はほぼ達成され、従来の修飾オリゴヌクレオチドであるLNA, 2’-O-methyl RNAで構成された阻害剤に対し、遜色ないだけでなく、やや上回る活性を示した。また、予期せぬ副作用が出た場合、速やかに阻害活性をなくすスイッチの機能を付与できた。がん細胞で特異的に発現しているmicroRNAをLidNAによって阻害し、がん細胞株の増殖抑制を示すことが出来た。以上より、当初の目標をおおむね達成できた。今後、主要なmicroRNAにも有効であることを示し、研究用試薬として、その後、核酸医薬として展開することを目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。非常に独創性の高い研究であり、LidNAの小型化と低濃度における高活性化については評価できる。また、in vivo 評価において高性能が得られれば、核酸医薬の基盤技術になり得るポテンシャルを有している。miRNAの細胞への導入効率の改善が今後の課題で、ハードルは高いが、本課題の解決に向けて研究が進捗することを期待したい。
海洋天然物をモチーフとした新規メカニズムを有する血管新生阻害剤の創製 大阪大学
古徳直之
大阪大学
金允政
以前に見いだした、強力な血管新生阻害活性を有する海洋天然物cortistatin A由来のアナログ化合物について、活性の向上と供給の容易さを指向した更なる構造最適化を検討し、血管内皮細胞に対する選択的増殖抑制活性が大きく向上した、天然物に匹敵するリード化合物の開発に成功するとともに、合成ルートを改善し、グラムスケールで再現性よく供給できる体制を確立した。また、本化合物が、in vivo活性試験において経口投与でも有効であることを見いだし、顕著な血管新生阻害活性および抗腫瘍活性を示すことを明らかにした。化合物の標的タンパク質に関する情報も得られつつあり、これを明確にすることで、更なる開発の進展が期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。 海洋天然抗がん性物質cortistatin Aのアナログ化合物のグラムスケールでの合成に目途がつき、また、より強い活性のアナログを見出し、経口投与でも抗腫瘍活性を見出すことができた点は高く評価できる。一方、結合タンパク質の同定が未だである点は惜しまれる。もし結合タンパク質が同定できれば作用メカニズムが解明されるだけでなく、構造情報をもとにさらに構造の最適化が可能となり、実用に近いものが生まれる可能性が残されている。今回の成果で特許も出願していることから企業等とのマッチングを図り共同研究を開始することが望まれる。
インスリン分泌を亢進させる低分子化合物の開発 大阪大学
原田彰宏
大阪大学
金允政
目標:膵臓インスリン分泌細胞特異的にSNAP23蛋白を欠損するマウスではグルコース刺激後のインスリン分泌が亢進した。そこでSNAP23に結合する低分子化合物をスクリーニングし、特異的に結合するいくつかの化合物を得た。本課題ではインスリン分泌細胞株やマウスを用いてその化合物のインスリン分泌への作用を調べる。
達成度:インスリン分泌細胞株に低分子化合物を投与し、グルコース刺激後のインスリン分泌が亢進するいくつかの化合物を得た。
今後の展開:細胞を用いて濃度依存性や毒性を更に調べ、有望そうな化合物についてはマウスに投与してインスリン分泌の亢進を調べ、糖尿病の治療薬としての可能性を探る。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。SNAP23に結合する化合物を用いての数々のインスリン分泌亢進作用があることを見出したことは評価できる。しかしながら、現段階ではSNAPに結合する5つの低分子化合物のMIN6細胞のインスリン分泌への亢進作用を調べた段階であり、次のステップへ進めるための技術的課題が明確になったとはいえない。糖尿病に対する治療薬研究は社会的ニーズが高く、その開発への期待は極めて大きいため、今後は、方向性を明確にした更なる検討が望まれる。
循環器疾患の克服をめざした革新的な薬物送達基盤技術の開発 大阪大学
南野哲男
大阪大学
金允政
慢性心不全は予後不良の疾患であり、その克服のための画期的な医薬品の開発は画期的な医療技術となる。申請者らは、不全心臓において膜結合型へパリン結合性EGF様増殖因子(HB-EGF)発現が著明に増加することを見出し、抗HB-EGF抗体を結合させたリポソーム(HB-EGF結合リポソーム)による心筋細胞への遺伝子・薬剤送達システムを構築した(特出:PCT/JP2010/51515)。本研究では、施設内の地域産学官共同研究拠点のセルソーターを利用し、HB-EGF結合ベクターの心筋細胞への取り込みを定量的に評価し、取り込み効率を高めた膜透過型HB-EGF結合ベクターを創出した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に抗HB-EGF抗体を結合させたリポソーム(HB-EGF結合リポソーム)の開発において、膜融合ペプチドの付加が、HB-EGF結合リポソームのエンドソーム・リソソーム膜との膜融合能を高め、心筋細胞内部への物質送達を可能にするペプチドであることを明らかにしていることは評価できる。ノックインマウスを利用したin vivo評価のデータが得られていないものの、今後の確認が進められ、HB-EGF結合リポソームの能力を飛躍的に高めることが実現されれ、きわめて有用な技術となることが想定される。今後の製薬会社との共同研究が大いに期待される。
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌の抗菌剤開発に向けた新規阻害剤の開発 大阪大学
松村浩由
大阪大学
金允政
本課題では、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌のペプチドグリカン合成に必須な抗菌剤ターゲットタンパク質の新規阻害剤を開発することを目標とした。本研究では、ターゲットタンパク質の新規高親和性阻害剤との複合体結晶を作製することに成功した。さらに、タンパク質の精製・結晶化条件を改良し、X線回折実験に適したタンパク質結晶を得ることができ、現在その結合構造を解析中である。目標にあったタンパク質の立体構造に立脚した親和性向上までには至ることができなかったため、最終達成には至らなかった。本シーズを元に今後さらに立体構造に立脚した親和性向上を行う予定であり、今後の応用展開が期待できる。 当初目標とした成果が得られていない。提案されている研究計画は広範囲であり、研究手段も妥当性があり、高い計画性は見られるものの短期間で研究成果を挙げられるような計画となっておらず、当初目標の達成には至っていない。研究の遂行に当たっては、研究目標をより適切に絞り込んだ形で設定することが重要である。新規阻害剤の研究開発の必要性は認められるので、達成可能な研究計画を策定し構造解析を行うとともに、再現性のある開発に結びつくような具体的計画が必要と思われる。
癌浸潤転移能に対して阻害効果を有する抗Wnt抗体の評価法の確立 大阪大学
菊池章
大阪大学
金允政
Wnt5a を介する癌に対する治療において、中和抗体療法は有望な戦略の一つである。本研究では、1)受容体エンドサイトーシス、2)細胞内シグナル伝達を指標にWnt5aに対する特異的中和抗体の評価系を確立することを目指す。Wnt5aはその受容体であるFzをエンドサイトーシスするが、Wnt5a抗体はそれを抑制した。一方、Wnt5a刺激はDvlのリン酸化を誘導するが、これに対しWnt5a抗体の阻害効果は得られなかった。以上より、Wnt5a抗体の評価系として受容体エンドサイトーシスが有用であることが判明した。今後、マウスやニワトリ、ファージディプレイによりWnt5aモノクローナル抗体を作製する予定であり、抗体の特異性はエンドサイトーシスを用いて確認する予定である。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。癌の治療に向けた創薬標的の探索に精力的な研究を実施し、当初の目標設定も的確であり、Wnt5aを介する癌に対する中和抗体療法のための適切な抗体の開発に至ったことは高く評価できる。今後の展開についても適切な方向性が検討されており、本研究で開発されたWnt抗体の評価法は、企業で開発中である抗Wnt5a抗体の評価に用いられているなど、今後の技術移転への展開にも期待される。
米ぬかに含まれる新規「肝細胞増殖因子」誘導因子の同定 大阪大学
中村敏一
大阪大学
西嶋政樹
「肝細胞増殖因子(HGF)」誘導因子は、慢性難治性疾患の治療に有効な再生薬としての利用が期待されている。様々な天然物中にHGF誘導因子が存在することが報告されており、我々は米ぬかに含まれるHGF誘導因子を単離し、医薬品としての開発、機能性食品・美容品としての活用方法の確立を目指している。本研究では、米ぬか抽出液をHGF産生細胞に添加するとHGF mRNAおよびタンパク量が増加すること、米ぬか由来HGF誘導因子は分子量が約4,500のタンパク性物質であることを見出した。今後は、傷害モデルマウスを用いた治療効果を検証する必要がある。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。米ぬか抽出液をHGF産生細胞に添加するとHGF mRNA及びタンパク量が増加すること、米ぬか由来HGF誘導因子は分子量が約4,500のタンパク性物質であることを見出したことは評価できる。一方、精製過程で生じる沈殿物の除去に時間がかかり、マウス実験が十分に実施できなかったことが惜しまれる。今後はその点をクリアにして、米ぬかの活用に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。HGF誘導因子の同定なくして技術移転は見込めないため、その点を留意して今後も研究することが望まれる。
放射線による障害を軽減する食品由来機能性物質の開発研究 大阪電気通信大学
齊藤安貴子
大阪電気通信大学
彦坂明宏
プロアントシアニジン(以後PA)は、果物や飲料など、様々な食品に含まれる抗酸化物質である。この化合物は紫外線によって生成するヒドロキシラジカル等の活性酸素を消去する能力を持つことから、放射線によって体内で生成するであろう活性酸素の消去も可能だと考え、それを証明するための研究を行った。まず、Rigaku SLX-2000にて、大腸菌由来のプラスミドDNAに対しX線を照射し、PAによってDNA切断が阻止されるか検討を進めた。その結果、アガロースゲル電気泳動によってDNAのバンドの濃淡が変化するという現象が見られたが、紫外線照射でみられるような明らかなDNA切断とその阻止は見出すことができなかった。
当初目標とした成果が得られていない。放射線による障害を軽減する物質としてプロアントシアニジン類の利用を検討したもので、プロアントシアニジン(PA)が柿の皮やぶどう種皮などの廃棄物に多く含まれていて廃棄物を利用する新たな産業を生み出す可能性があった。しかし、実際の研究にはPAを用いず、お茶に含まれるEGCGを用いて行った実験である点、また今回は、放射線の影響について詳細に確認できなったことから、技術移転につながる可能性は見えない。今後、早期に共同研究を組むなどして目的を達成することが望まれる。
多分岐pH応答性ポリマー修飾リポソームによる高活性型がん免疫ワクチンの開発 大阪府立大学
弓場英司
大阪府立大学
阿部敏郎
本研究課題では、膜融合性脂質と新規なpH応答性ポリマーを導入した新しいpH応答性リポソームを用いて、全ての担がんマウスにおいて腫瘍縮退・消失効果を示す高活性ナノワクチンキャリアを構築することを目標とした。膜融合性脂質の導入によってがん免疫誘導能が飛躍的に向上し、ほぼ全てのマウスで固形がんを消失させることに成功した。また腫瘍抽出抗原を用いてもがん免疫を誘導することができた。今後は、膜融合性脂質の導入量やpH応答性ポリマーの改良によって、ワクチン性能の更なる増強を目指す。このような実用性と汎用性を併せ持つ新規ワクチンキャリアの適用によって、がん患者個々人の病態に対応できるパーソナルがん治療の創出が期待される。 当初目標とした成果が得られていない。Chex-HPGの合成、Chex-HPG リポソ-ムによる膜融合及び細胞取り込み増大は成果として評価できるが、、血液中での安定性が低下したことから、その抗腫瘍効果が既存のものより悪かったなど、非常に問題が多い。技術移転につながる可能性は、現時点では低いと言わざるを得ない。
GAPDH凝集阻害剤の創製による新規アルツハイマー病治療薬の開発 大阪府立大学
中嶋秀満
大阪府立大学
下田忠久
本申請研究では、我々が発見した新規GAPDH凝集阻害ペプチド(GAI-1ペプチド)をシード化合物として、非ペプチド性低分子化合物へ発展させ、新規アルツハイマー病治療薬の創製と開発を目標とする。本年度は概ね計画通りに遂行できた。すなわち、前年度実施した7個のGAIペプチドの構造活性相関を纏め、特許申請と技術展示会発表を行った。また、新たに6個のGAIペプチドを設計・合成し、有効性評価系と副作用評価系から、GAI-1ペプチドよりも活性が強く、副作用のない、テトラペプチドにまで絞り込むことができた。以上の結果から、非ペプチド性低分子化合物へ展開する為の具体的な合成スキームが得られた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。新規GAPDH凝集抑制ペプチドをシード化合物としてGAIペプチドを設計・合成し、有効性評価系と副作用評価系から、GAI-1ペプチドよりも活性が強く副作用の少ないテトラペプチドにまで絞り込み、非ペプチド性低分子化合物への展開が可能になった点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、脳内移行が可能な経口投与薬が求められるため、ハードルは高く、現状では厳しいと思われるが、一歩一歩着実に進めることにより展望が開けていくことを期待したい。
ピロロキノリンキノン(PQQ)のPTP1B阻害活性およびインスリン受容体活性化作用を利用した新規抗糖尿病補助食品の開発 大阪府立大学
赤川貢
大阪府立大学
柴野裕次
本研究開発は、ピロロキノリンキノン(PQQ)の抗糖尿病効果を検証し、日常的な摂取によって2型糖尿病の予防と改善を期待できる抗糖尿病補助食品を開発することを最終目標として行った。研究開発実施期間内に50 nM以上の濃度のPQQが培養筋肉細胞のインスリン受容体をインスリン非依存的にリン酸化(活性化)することを明らかにした。また、100 nM以上のPQQが主な糖輸送担体であるGLUT4の細胞膜への移行を誘導し、グルコースの細胞内への取り込みを促進することを明らかにした。今後は、糖尿病モデルマウスを使用した実験により動物レベルでPQQの抗糖尿病効果を検証し、日常的な摂取によって2型糖尿病の予防と改善を期待できる抗糖尿病補助食品の開発を目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。食品成分中でPTP1B阻害活性を検索中に同定されたピロロキノリンキノン(PQQ)がインスリン受容体をインスリン非異存的にリン酸化すること、インスリンの標的細胞である筋肉細胞の培養系でGLUT4の細胞膜への移行を促進し、グルコース取り込みを増大させることをin vitroで確認したことは評価できる。一方、PQQが抗糖尿病補助食品となり得る可能性を示すための動物実験が実施されていない点が惜しまれるため、早急に確認することが望まれる。
ボツリヌス神経毒素重鎖領域を利用したドラッグ・デリバリーシステムの構築 大阪府立大学
幸田知子
大阪府立大学
西村紀之
ボツリヌス神経毒素重鎖領域を利用し、薬物を神経細胞へ運搬するためのドラッグ・デリバリーのカーゴとしての可能性を検討した。毒素処理したB型神経毒素感受容体発現細胞を可溶化し分画した。重鎖は、作用本体である軽鎖を細胞質分画内へ運搬していること明らかにした。また筋萎縮性側索硬化症の治療薬として注目されているIGF-1を軽鎖と代えて重鎖C末端領域に架橋し、神経細胞に運搬する試みとして、リコンビナントIGF-1および重鎖C末端領域の発現・精製を行い、IGF-1の神経細胞に対する効果の評価方法を確立した。今後はIGF-1を架橋した重鎖C末端領域複合体の神経細胞に対する活性およびIGF-1の局在を調べる予定である。 当初目標とした成果が得られていない。当初の研究計画からは、技術移転への可能性が大きいと期待が高かったが、実験技術の改良が必要となっている。しかし、ボツリヌス毒素の臨床応用は難治性疾患ですでに実証されており、より安全なドラッグデリバリーシステムの開発は重要である。残された課題の解決に向けて着実に進めていくことが望まれる。
既存薬ピルフェニドンの高血圧性腎障害及び心不全治療薬としての再開発 独立行政法人国立循環器病研究センター
紀旭
独立行政法人国立循環器病研究センター
大屋知子
ピルフェニドンは、特発性肺線維症の治療薬として既に臨床で使用されているが、我々は、このピルフェニドンの組織線維化抑制作用が他の臓器にも有効であると考えた。そこで本研究では、高血圧性腎障害及び高血圧性心不全に注目し、この疾患モデルラットを用いて、ピルフェニドンの効果を調べ、本薬が高血圧性腎障害の進展を抑制する有用な薬剤として、将来、臨床適用されることを目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。ピルフェニドンが高血圧性腎障害の進展を抑制することを明らかにしたことは評価できる。一方、特許の問題もあり、本当に実用化できるか不透明な部分もあり、技術移転を目指すにはハードルが高いと思われる。しかし、研究開発計画について具体的かつ的確に検討されているので、今後の展開に期待したい。
末梢投与で作用する脂肪酸修飾生理活性ペプチドの探索 独立行政法人国立循環器病研究センター
佐々木一樹
独立行政法人国立循環器病研究センター
大屋知子
近年になって、生理活性ペプチドの活性発現に重要な役割をはたす翻訳後修飾としてアミノ酸残基への脂肪酸付加が認知されるようになった。この修飾構造は、胃の内分泌細胞から分泌される新しいペプチドホルモン、グレリンの発見によって初めて明らかになった。しかし、これまでに脂肪酸修飾を受けたペプチドはグレリン以外に知られていない。我々は分泌顆粒内のペプチドのアミノ酸配列を質量分析で一斉に明らかにするアプローチを確立しており、世界に先駆けて複数の生理活性ペプチドの発見に成功している。その技術を胃のグレリン産生細胞に応用し、末梢投与により作用が発揮され創薬の標的となりうる新しい活性ペプチドの発見を目標とする。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。新しい脂肪酸ペプチドの同定には至らなかったが、新しい開裂法であるETDを用いてのペプチド配列の大規模分析法を開発し、新たな生理活性ペプチドを見出す状況にあることは評価できる。更に生化学、細胞生物学、DNAデータベースなどを総合し、長期的な視点に立った地道な研究が必要と思われるが、今後の知的資産、産学共同研究開発につながる成果であり、実用化に向けた展開が期待される。
組織幹細胞を利用したアルツハイマー病の病態診断・治療応用技術 の開発 独立行政法人国立循環器病研究センター
林真一郎
独立行政法人国立循環器病研究センター
大屋知子
認知症の主な原因である、アルツハイマー病の羅患率は増加の一途をたどり、病態解明と有効な治療方法の開発が急務となっている。本研究では、脂肪組織、骨髄、そして末梢血の幹細胞を利用することで、アルツハイマー病の細胞レベルでの病態変化や、脳の再生能力の変化、そして薬剤の効果などを間接的に把握できるのか探索を行なう。研究実施によりアルツハイマー病の新しい病態診断技術の開発や治療応用につながる重要な基礎研究成果が期待される。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。アルツハイマー病モデルマウスに由来する血液中及び骨髄中から分離培養した幹細胞からの血管内皮への分化が抑制されていたことを明らかにしたことや、遺伝子改変マウスを用いて特に海馬の微小血管の構造変化に着目し血管内皮へのβアミロイドの沈着や自己貪食を見出したことは評価できる。しかし本研究は新しい治療技術への応用であるので、今回得られた病態がアルツハイマー病にどのように関わるかの詳細が明らかにならないと技術移転ができない。また、in vivo,in vitro の細かな照合はされておらず、メカニズムの整合性が確認されていないなど、多くの課題が残されている。更に研究を進め、目標到達につなげることが望まれる。
新規環状ペプチド群の外用剤としての応用可能性検討 関西学院大学
平井洋平
関西学院大学
吉田京子
3種のペプチドEPn1, ST3LおよびST4n1は、それぞれエピモルフィンやその類似蛋白質群によって誘発される正常表皮細胞の分化異常のあるものを正常に戻すことが確認されている。本研究では、それらのペプチドが臨床応用のフェーズに展開できるのかを調べるために、まず正常性を保った培養表皮細胞において、種々の病変刺激がどの程度エピモルフィンや類似蛋白質の発現を変化させるかを調べた。次に、外部から投与したそれらの蛋白質や上記ペプチドの効果を解析し、得られた知見からペプチドの投与量ならびにタイミングを決めて培養モデル細胞ならびにモデル動物に作用させ、その治癒効果を追跡した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。多くの基礎実験を実行して結果を出していることは評価できる。しかし、表皮細胞の分化抑制や脱分化等は、培養レベルでの検証でそれなりの効果が得られても、実際の動物への応用においては無効である場合が多い。特にネズミを用いたモデルは、体毛が豊富であり、毛周期を一致させることは困難であるため、今回の結果でも芳しい結果は得られていない。もう少し動物実験に特化した研究が重要で、その過程から今回のような皮膚モデルや培養細胞を用いた研究にシフトして、作用機序を明確にするべきと思われる。
ホウレン草由来糖脂質MGDGとホウレン草糖脂質画分の膵臓がん対策医薬品・補助食品としての開発研究 神戸学院大学
水品善之
神戸大学
岡野敏和
ホウレン草の糖脂質MGDG(Monogalactosyl diacylglycerol)は、DNA合成酵素(pol)分子種選択的阻害活性に基づく副作用がない抗がん作用を示したので、がん対策(治療と予防)の医薬品・補助食品として開発することを目標とした。膵臓がん対処療法として既に使われている抗がん剤ゲムシタビン(GEM)や放射線について、MGDGとGEMの三リン酸化体によるpol阻害活性の相乗効果、MGDGとGEMによるヒト膵臓がん細胞増殖抑制活性の相乗効果、MGDG投与と放射線照射によるマウス抗腫瘍活性の相乗効果を見出した。本研究は計画どおりに実施できて、その成果は新規特許出願(特願2012-157018)し、学術論文や学会等で発表した。今後は、ヒト臨床試験を展開して、MGDGを高含有するホウレン草糖脂質を健康補助食品やサプリメントとして、MGDGを抗がん促進剤の医薬品として開発する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。治療の難しい 膵臓癌に対し、既存の対処法である化学療法や放射線療法に加えて、食品成分の併用での効果増強を狙って、細胞及び動物実験レベルでその効果を確認できた点は評価できる。論文発表や特許出願もなされており、企業に向けた宣伝活動も開始している。今後の安全性試験、ヒト臨床試験へ向けて、共同研究者との連携も計画が具体的に示されており、技術移転に向けた今後の展開に期待したい。
抗SIRPαモノクローナル抗体を利用した新たながん治療法の開発 神戸大学
的崎尚
神戸大学
堀洋
本研究開発では抗SIRPαモノクローナル抗体を利用した新たながん治療法の開発を目指した。その結果、抗SIRPαモノクローナル抗体が抗腫瘍効果を持つ可能性が示唆された。今後、更に抗SIRPαモノクローナル抗体の有効性や副作用を検証する。 概ね期待通りの成果が得られた。抗SIPRαモノクローナル抗体の有効性が認められた点は評価できる。更に本研究を継続発展させることにより、よりよい効果のある抗体を取得し、実用化につなげることが期待される。
Ras/Rafシグナル伝達を阻害する新規抗がん剤の開発 神戸大学
島扶美
神戸大学
堀洋
Ras/Rafシグナル伝達系は分子標的がん治療薬開発上格好のターゲットである。Raf阻害剤がその開発成功例として広く使用されているが、近年薬効上の問題が露呈し新薬の開発が切望されている。申請者は、Rasの立体構造情報に基づくRas/Raf結合阻害剤の探索過程で偶然得た新規化合物に、Ras/Raf分子間結合を阻害することなくシグナル伝達を阻害する新規作用を見出した。本研究では、難治性の膵臓がんを含む複数のがん細胞株に対して強い活性を示す5種類の化合物を抽出し、うち1種類については担がん動物にて市販薬を凌ぐ強い抗がん作用が確認された。今後この化合物の構造展開による活性改善を視野に入れた開発を行う。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。Ras/Rafシグナル伝達系は分子標的癌治療薬の格好のターゲットであるが、Ras/Rafの立体構造情報に基づくRas/Raf結合阻害剤の探索過程で新規化合物を見いだし、5種類の化合物の内の1種類について強い抗がん作用を確認しており、更なる抗がん活性評価や計画されている構造化学作用の解析・評価などが着実に進められている。アカデミア発創薬を目指した野心的な研究であり、当初目標のかなりの部分を達成していることは評価できる。今後は今回実施できなかった立体構造解析についての検討および、企業との連携を期待する。
関節リウマチ分子治療薬候補分子miR-124aのラットでの効果を組織学的・臨床的に明らかにするための研究 神戸大学
河野誠司
神戸大学
堀洋
ヒト関節リウマチ滑膜組織では、miR-124aが減少している。本研究ではmiR124aのラットにおけるホモログであるmiR-124のラット実験関節炎に対する抑制作用を組織学的・血清学的に明瞭に証明することを目標とする。まずラット実験関節炎において、miR-124投与により滑膜増殖、軟骨破壊、炎症性細胞の浸潤の範囲が、50%以下となることを明らかにした。また、滑膜組織で実際に関節注射投与したmiR-124 が関節炎症局所に十分到達していることを、RT-PCRにて量的に証明した。以上より、当初の今年度の目標はほぼ達成した。今後の展開としては、miR-124投与後の血清マーカーの変動を明らかにすることにより、より治療的効果の客観的証拠を集めて技術移転への可能性を高めたい。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。関節炎の抑制効果がmiR-124により観察できたことは評価できる。しかし、全身的炎症マーカーとの関連は見いだせず、miR-124の関節への集積も高くなかったため、さらに関節への取り込みを高める工夫と、効果を表すマーカーの探索が必要である。さらに基礎実験を積み重ね。技術移転の可能性を追求することが望まれる。
肺および腎線維化の病態解明と阻害薬開発のための新規マウスモデルの開発 神戸大学
西田満
神戸大学
薮内光
本研究開発では、腎臓特異的Ror2変異マウスを作製し、それを腎線維化の病態モデル系として技術移転することを目標とする。変異マウス作製に当たり、腎発生過程におけるRor2の発現パターンを明らかにし、その結果に基づき適切な組織特異的Cre発現マウスを選択し、腎臓特異的Ror2変異マウスを作製した。従来のRor2変異マウスの胎仔腎臓の表現型解析から、腎臓特異的Ror2変異マウスの病態解析にとって重要な知見が得られた。また、腎臓において蛍光タンパク質を発現するマウスを用いて胎仔腎器官培養系を確立したので、この培養系を用いた組織・細胞レベルでの病態解析が可能となった。今後の病態解析により当該マウスの病態モデル系としての有用性を明らかにしたい。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。独自の研究成果をさらに発展させ、治療方針が確立されていない疾患の病態モデルを提供しようとする提案で、腎臓特異的変異マウスが作製されたことは評価できる。今後、さらに病態解析を進め、技術移転につなげて頂きたい。一方、肺特異的変異マウスについても進展があることを期待する。
内皮細胞特異的RhoGEFを標的分子とした次世代血管新生阻害薬の開発 神戸大学
植村明嘉
神戸大学支援合同会社
山東良子
本研究開発課題では、血管内皮細胞に特異的に発現するVE-RhoGEFの機能を明らかにし、次世代血管新生阻害薬の標的分子となり得る可能性を検証した。培養血管内皮細胞では、VE-RhoGEFはVEGFシグナルの下流で低分子量GTP結合蛋白質Cdc42を活性化するとともにRhoJを不活化し、細胞内アクチン線維の重合を促進することが明らかとなった。さらに、VE-RhoGEFノックアウトマウスでは、網膜新生血管の伸長が遅滞するために、網膜血管の総量が減少することが明らかとなった。これらの成果については特許を出願中であるが、今後さらに、VE-RhoGEFの機能を阻害するリード化合物の探索を進め、次世代血管新生阻害薬の開発につなげる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。VE-RhoGEFの生理活性の評価を目標として、その下流因子のCdc42とRhoJを介して、アクチン重合に働くことを明らかにしている。さらに生体レベルでVE-RhoGEFノックアウトマウスを用いて、新生血管に対する抑制的な効果を認めることに成功したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、特許は出願されたもののRhoGEFを標的としたリード化合物の探索に向けての基礎的な知見を得ることに成功したレベルであり、実用化の可能性については今後の展開に期待したい。
好塩基球を標的としたアレルギー性鼻炎治療技術の創出 兵庫医科大学
善本知広
神戸大学
岡野敏和
申請者は、ブタクサ花粉 (以下RW)を水酸化アルミニウムと共に正常マウスに免疫しRWを点鼻することで、ヒトのアレルギー性鼻炎(以下AR)に類似した病態を形成する新規ARモデルマウスを樹立した。平成23年度は、1) 好塩基球欠損マウスではARが発症しないこと、2) RW点鼻後1時間と短時間に鼻汁中にIL-33蛋白が分泌されることを発見した。平成24年度は、1) IL-33欠損マウスではARが発症しないこと、さらに鼻粘膜に存在するマスト細胞と鼻粘膜に集積する増加する好塩基球はIL-33刺激によって、2) ヒスタミン産生を増強し“くしゃみ”発症に関与すること、3) 遊走因子(サイトカイン/ケモカイン)を産生し鼻粘膜に好塩基球と好酸球が集積することを解明した。以上の研究から、花粉によって誘導されるIL-33と好塩基球はAR発症の必須の因子であることが明らかになった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にアレルギー性鼻炎における好塩基球の役割とIL-33の役割についてかなり明確に示した点は評価できる。一方、IL-33のデコイを用いた治療に関する実験結果は示されていないのが惜しまれる。次のステップへ進めるための技術的課題は、ある程度明確になったので、産学共同の展開につなげることを期待したい。
褥瘡の予防・治療のためのシンバイオテイクスの開発 奈良県立医科大学
久保薫
関西ティー・エル・オー株式会社
山本裕子
褥瘡の予防・治療のためのシンバイオテイクスの開発を目標として、体重減少(栄養低下)、食物繊維の摂取不足と腸内環境(善玉菌)と創傷治癒との関連性を明らかにするために、種々の食材の不規則な給餌と通常食の不断給餌が創傷遅延に及ぼす影響を、自然発症糖尿病マウスを用いて検討した。その結果、8週間の給餌において、難治性創傷に対する有意な治癒効果が認められた。当該食材はすでに安全性が確認されており、より効果的な栄養成分の組合せと濃度設定により臨床応用への可能性が示唆された。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。遺伝的糖尿病マウスを用いて、種々の食材を添加した食餌により、創傷治癒効果が確認された点は評価できる。一方、その作用機序については一般的な炎症抑制ではないこと以外知見は見られず、個々の成分食材単独摂取の実験も行われていないため、本当にシンバイオティクス効果かどうかを判断するには、技術的検討やデータの積み上げなどが更に必要と思われる。今後、改良するべき点については明確になっているが、実用化を考えると作用機序をはっきりさせるための計画を追加することが望まれる。
女性の生涯にわたる健康増進のための葛蔓有効利用法の開発 奈良女子大学
根岸裕子
奈良女子大学
藤野千代
本研究では、女性ホルモンバランスの崩れに改善効果が期待されている葛(クズ)に着目し、女性の健康に寄与するため、その科学的機能根拠データを収集することを目的とした。その結果、葛蔓エタノール抽出物により、雌性メタボリックシンドロームモデルラットにおいて血圧上昇抑制、体重増加抑制、コレステロール低下傾向が示唆され、生活習慣病の一次予防に対する機能性食品としての効果が明らかとなり、サプリメント及び含有食品の開発への第一歩として、科学的根拠を示すことができた。さらに、検討を重ね、薬事法や安全性等課題をクリアし、商品化に向け、産学連携で今後も展開していく予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。雌性メタボリックシンドロームモデルラットを用いた実験により、葛蔓抽出物中に体重増加抑制、コレステロール低下作用などの女性の健康に寄与する可能性があることを科学的に示したことは評価できる。一方、分析結果を基に学術的研究にとどまっているため、今後は、有効成分の特定や、作用メカニズムの解析を経て、製剤化検討、安全性評価、ヒトでの有効性、安全性検討のステップにつなげ、企業との連携により女性の健康に貢献できることを期待する。
光化学がん治療用薬剤の創成 奈良先端科学技術大学院大学
廣原志保
奈良先端科学技術大学院大学
戸所義博
本研究課題では、光線力学療法(PDT)用腫瘍集積性光増感剤の開発として、ポルフィリン骨格よりも光殺傷効果が高いことが知られるクロリン骨格を光増感剤に用いたtrans2置換糖鎖連結クロリンの開発を行った。様々な培養ガン細胞株を用いた試験において、開発した薬剤は、最も高い薬効を示していたtrans2置換糖鎖連結ポルフィリンや臨床薬剤よりも高い光殺傷効果を示した。また担ガンマウスを用いた体内動態評価において、開発した薬剤は選択的にガン部位に薬剤が集積した。さらに担ガンマウスを用いたPDT試験においても、臨床薬剤よりも非常に低い薬剤投与量で優れた治療効果を示した。
このように本研究では、当初の目標以上に優れた腫瘍集積性および光細胞毒性能を有するPDT用光増感剤の開発に成功した。今後、他大学 医学部との研究を進め、共同開発を行っていただける企業を募る。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。糖鎖が連結したクロリン系の化合物を用いた抗腫瘍効果や増感剤の集積効果など薬剤の効果に関して進展が見られたことは評価できる。一方、安全性の確認と既存のレザフィリンとの比較をどのように行っていくかなど課題も残っている。技術移転の観点からは、大動物の試験やヒトでの探索的臨床試験を想定した製薬メーカーとのアライアンスを早い時期から検討すべきであり、今後の進展に期待する。
光解離性架橋修飾基を利用したペプチド機能の光制御 奈良先端科学技術大学院大学
廣田俊
奈良先端科学技術大学院大学
戸所義博
研究責任者は、光応答性架橋修飾基を用いてペプチドの構造を光制御することにより、その機能を光制御する技術を開発した(2006年PCT出願、2010年日本特許登録)。本技術では、光照射によりペプチド構造を変化させ、ペプチドを不活性型から活性型へ変換させる。この光制御技術を生体内で利用すれば、DDSなど医薬分野への応用も可能となる。そこで本課題では、生体内でペプチドやタンパク質の機能を制御するために、光応答性架橋修飾基を用いてペプチドやタンパク質の細胞膜透過性の光制御を目指した。タンパク質の細胞膜間輸送の光制御までには至っていないが、評価系を確立し、膜間輸送の光制御の検出が可能となった。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。ペプチドの細胞透過を光制御する試みであるが、細胞内への十分な移動量となった系でなく、この系の確立、改善の対応に終始した。技術移転の観点からは、有用性、実用性のデータを示す必要があり、計画を練り直して細胞透過性を検討できる実験系の構築が望まれる。本研究は学術的成果に留まらず、蛋白質薬物のDDSに寄与できるものであり、今後の展開に期待したい。
遺伝子治療薬開発に向けた機能性PNA-PEGコンジュゲートの設計とin vivo特性評価 鳥取大学
櫻井敏彦
鳥取大学
山岸大輔
1塩基認識能を増幅するPNA-PEGコンジュゲートの機構解明と細胞内輸送の解明を目的として、ミスマッチ配列を含む多様なPNA化合物および蛍光色素を有するPNA-PEGコンジュゲートを調製した。各濃度における融解温度より、PNA-PEGコンジュゲートは従来のPNA化合物と比較して1塩基の違いが内部エネルギーに大きく反映することが示された。また、これらのPNA-PEGコンジュゲートはマクロピノサイトーシス依存的に細胞内輸送されたことから、細胞内における1塩基の違いを認識した遺伝子発現制御が可能であることが示された。今後は、具体的な発現制御の効率化を図るPNA-PEGコンジュゲートの分子設計が期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。塩基認識能を増幅できる機能性PNA-PEGについて細胞毒性、細胞内組織輸送の評価を実施した結果、ある程度満足できる水準まで示すことができたこと、また、熱力学的パラメーターを用いた塩基認識機構の学術的な基盤解明に裏付けられた塩基認識能の優位性に着目し、遺伝子治療薬としてだけではなく検出プローブとして活用される可能性を示した点は評価できる。具体的な1塩基多型原因疾患を対象とした展開については、医学研究者との臨床面からのコラボレーションも必要になると思われるので今後の展開に期待したい。
アルツハイマー型認知症の血液糖鎖マーカーによる早期診断システムの開発 鳥取大学
谷口美也子
鳥取大学
足森雅己
本研究の最終目標は、アルツハイマー型認知症(AD)における血液中の糖タンパクの糖鎖異常を診断マーカーとして確立することである。そのため本研究ではレクチン酵素免疫測定法の改良による検出系の感度の改良をcapture抗体の糖鎖を除去する方法によって検討した。しかしcapture抗体の糖鎖除去では検出系の感度の改良がみられないことが本研究により判り、検出を改良し新たな測定系を確立することに計画を変更しその準備を行った。ADの1種の糖タンパクの糖鎖異常の詳細解析を数例ではあるが行うことができ、糖鎖異常部位の決定が示唆される結果を得ることができている。また本研究課題の進行中に企業との連携を開始することが決定し、検出系の改良による測定系の検証が現在進行中である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。capture抗体に存在する糖鎖を除去し、レクチンの検出感度を高めたアルツハイマー型認知症の早期診断システムの開発する目標は達成されていないが、レクチンの検出系を改良した方法、あるいはAD特異的異常糖鎖認識抗体を用いた検出系の開発など別の方法の開発に成功していることは評価できる。企業との連携がスタートするようなので、アルツハイマー病の早期診断における実用化に向けて、糖鎖マーカーに変動が生じるメカニズムに関しての基礎研究と並行して進めていくことが望まれる。
発癌物質の短期検出系の開発 鳥取大学
岡田太
鳥取大学
足森雅己
発癌物質の短期検出系の開発を行った。最終的な判定・評価系への完成には若干の改良と解析系の追加を必要とするが、研究期間内における提案課題の目標は概ね達成された。今後は、産学共同の研究開発に向けた公的研究開発支援制度等の支援事業を求め、検出系の精度管理と検出精度の向上を加えて短期検出系を完成させる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に小規模の実証実験の実施に関しては、評価できる。一方、技術移転の観点からは、発癌検出精度は高くても、発癌評価に至る期間が長く、この期間の短縮が課題であり、新たなアイディアを加味して、これらの課題を解決することなど、明確になった技術課題を克服するなど、実用化に向けた努力が望まれる。今後は、検出系の精度管理と検出精度のさらなる向上により、技術移転・実用化が期待される。
新規樹立阻害抗体に基づく新しいタイプのインフルエンザウイルス増殖阻害薬の開発基盤研究 島根大学
尾林栄治
病原性の強い新型インフルエンザウイルスに対応する治療薬の開発は全世界レベルでの喫緊の課題である。世界に先駆けて行ったインフルエンザウイルスRNAポリメラーゼの構造生物学的研究を基盤とした本研究では、1)インフルエンザウイルス増殖を細胞内で阻害する新規モノクローナル抗体の認識部位を同定し、2)インフルエンザウイルスの増殖阻害薬を取得するため、モノクローナル抗体を用いたリード化合物の簡便なスクリーニング系を構築した。3)さらに型の異なるウイルスPAタンパク質を認識するモノクローナル抗体5種類を樹立した。今後、産学協同でインフルエンザウイルスの新規増殖阻害剤を研究開発する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。宿主細胞内におけるインフルエンザウイルスの増殖阻害機構を解明するため、モノクローナル抗体の認識部位を同定し、さらにPA/PB1タンパク質とモノクローナル抗体を用いたリード化合物のスクリーニング系を確立できたことは高く評価できる。H5N1のRNAポリメラーゼを認識、免役沈降できる新規抗体を5種類取得しており、複合体の構造解析の結果次第では、新しいタイプの抗インフルエンザウイルス薬開発につながることが期待される。
革新的分子イメージング技法を駆使するREIC遺伝子関連医薬の基盤開発 岡山大学
藤井康之
分子イメージング技法を駆使する橋渡し研究を通じ、REIC関連医薬創製に向けた創薬モデルの構築・検証を行った。がん集積性のPETプローブ(11C-Choline・18F-FDG)をOMIC(おかやまメディカルイノベーションセンター)のPET実験施設で合成し、前立腺がんモデルマウスに投与、小動物用PETカメラによって腫瘍への集積を確認した。これにより、REIC遺伝子関連医薬のPET技術によるがん治療効果評価系の構築に見通しがついた。また、REICタンパク質の免疫賦活化ドメインである17kD-REICタンパク質のMALD-TOF-MS解析を実施、MSイメージングによる当該タンパク質の組織発現の検出条件を決定した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、REIC遺伝子関連医薬のPET技術によるがん治療効果評価系の構築の技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、IC遺伝子治療製剤の臨床開発において実用化が望まれる。そのため、今後は、REIC関連医薬の開発に向けて、解決すべき事項の方向を見出し、今後の展開していくことがが期待される。
人工転写因子を用いた有用タンパク質生産効率の向上 岡山大学
世良貴史
本研究の目的は、抗体医薬を始めとする有用タンパク質の動物細胞内での生産効率を向上させる、新たな発現システムを構築することである。そこで、既存技術の生産効率を超えた、新しい技術を創出するために、申請者が開発した技術を基に、有用タンパク質遺伝子発現を司るプロモーターに特異的に結合し、プロモーターの遺伝子活性化能をさらに向上させる人工転写因子の創出を試みた。4種類の人工転写因子を作製し、そのうち2種類の人工転写因子が過渡的な遺伝子導入実験において目標を上回る遺伝子活性化能を示した。今後はこれら人工転写因子発現の安定細胞株を作製し、その株におけるタンパク質発現を評価する予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。人工転写因子を抗体医薬発現細胞株へ導入して生産量を飛躍的に上げようとする計画は大変ユニークな試みであった。しかし、当初予想されなかった障壁に遭遇したため、計画の立て直しが図られている。技術移転にはまだ多くの基礎研究が必要と思われるが、発現量の増加のために人工転写因子の導入効率を上げる計画の実行性に期待したい。
胸部悪性腫瘍に対する標的化リポソームを用いた治療法の開発 岡山大学
大橋俊孝
肺癌、中皮腫、大腸癌はいずれも治療抵抗性の疾患である。特に、各疾患とも発見時には肺転移を含む血行性転移、リンパ行性転移などを認める進行癌で手術不能である場合が多く、化学療法が治療の主体となる。現在の化学療法による治療では、劇的な予後改善効果は得られていない。そのため、新しい効果的な治療法の確立は急務である。
申請者らは、本研究で悪性腫瘍細胞に選択的に集積するアクティブターゲティングリポソームの確立を目指し、必要な抗体の精製とマウス皮下腫瘍モデル作製を23年度中に達成した。24年度にはマウス皮下腫瘍モデルにおける蛍光内包リポソームの集積評価を行った。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。肺癌や中皮腫を治療標的とした腫瘍細胞指向性リポソームの確立が目的であったが、in vitroでの腫瘍指向性リポソームの腫瘍細胞への取り込みは一定の範囲で確認されたことは評価できる。しかし、集積効率やin vivoでの特異性については今後の課題が大きく、また抗体の安定的な量の確保や人への投与等に関する安全性の問題も残されている。今後の更なる検討が望まれる。
植物抗原性糖鎖の細胞免疫活性と糖鎖薬剤開発への応用 岡山大学
木村吉伸
岡山大学
梶谷浩一
植物由来のオリゴ糖鎖は、哺乳動物に対して強力な免疫活性(抗原性)を有する。申請者らは、これまでの糖鎖機能研究の途上、(1) 花粉アレルゲン等に結合する抗原性糖鎖がT-細胞からのサイトカイン (IL2等)分泌を抑制すること、 (2) ヒト単球を活性化することで自然免疫系を昂進させること等を明らかにしている。これらの事実は、植物抗原性糖鎖が、(1) 花粉症治療を目指した抗アレルギー薬剤の開発、(2) 免疫賦活剤として抗腫瘍療法等に応用可能であることを示唆している。申請課題では、植物由来のオリゴ糖鎖の免疫活性を明らかにし、植物糖鎖を付加させた糖鎖ポリマーを作成し、抗アレルギー作用や抗腫瘍作用を有する高機能糖質ポリマーの開発を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。抗原性植物オリゴ糖鎖を多数結合させたネオ糖ペプチドの調製を実現することができたこと、及びナイーブT細胞のIL-4、IL-10の産生制御機能を有することを見出した点は評価できる。一方、糖鎖を脂質に結合させた人工糖脂質のリポソームの調製・開発については今後の課題として残された。上記サイトカイン産生量の調節作用について、濃度依存性の検証や作用機構の検討を行い、予定されている共同研究から実用化の可能性が見えてくることを期待する。
核酸系抗生物質の飛躍的増産を目的とした生合成酵素群の高発現と安定稼働システムの構築 岡山大学
田村隆
岡山大学
梶谷浩一
近年、病原性ウィルスの世界的、地域的流行が目立って頻発するようになってきた。現在、処方可能な抗生物質のほとんどはウイルスに無効であり、感染拡大が始まればそれを押さえ込むのは容易ではない。実は、ウィルスやがんなどにも強い薬効を示す一群の抗生物質群が存在する。これら核酸系抗生物質は、放線菌による生産量が極めて微量で、工業生産が困難という理由で活用されていない。本研究では、接合伝達という任意の組み合わせによる多重変異を効率的に放線菌に導入する新技術を開発し、核酸系抗生物質を飛躍的に増産する新技術を開発した。本研究の成果は本学から特許出願し、JST本部(H24.1.27東京)で開催された新技術説明会において研究成果と発明内容を報告した。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。ウィルスやがんなどにも強い薬効を示す一群の核酸系抗生物質を産生する放線菌に多重変異を効率的に導入する新技術として、接合伝達を開発している点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、これだけで核酸系抗生物質を飛躍的に増産する新技術を開発したとは言えず、ばらつきの解消や生産性向上の点で、更に課題解決が必要と思われる。
実用的なインドールキノリン系抗マラリア活性剤の高活性化 岡山大学
井口勉
岡山大学
梶谷浩一

抵抗性の出現のため効果の落ちたクロロキンに代わる、熱帯熱マラリア原虫に有効な抗マラリア剤の開発に取り組む。植物起源のインドールキノリン構造をリード化合物とし、その短工程骨格構築法を設計し、多様な置換基を導入したライブラーを構築する。これまで熱帯熱マラリア原虫に対する活性試験を行い、活性発現に適する置換基の絞り込みを行い、特効薬クロロキンを凌駕する活性物質を発見している。更なる高活性を獲得するため水溶性を高める処置を検討した。すなわち、これまでに得られている高い選択性指標と抗マラリア活性を持つ化合物について配糖体を合成し、水溶性向上と肝臓毒性低下を同時に達成することを試みた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。本研究において、強いin vitro活性を示す化合物を見出したことは、水溶性活性化合物の創生という意味では評価できる。しかし、これらはin vivo試験では活性が弱く、安全性が大きな問題である。特許出願はなされているものの、技術移転の観点からは、さらに改良された化合物を見出す必要がある。水溶性の増加という一般的手法のみにこだわって膨大な化合物ライブラリを構築するより、DDSなどによる効力の改善法を見出したり、化合物の生体内代謝や安全性の本質を追及したりするなどして、次のターゲット化合物を設定することが望まれる。
2つの抗菌機構を介し耐性菌出現を予防する抗VREおよび抗VISA薬の開発 岡山大学
座間味義人
岡山大学
秋田直宏
リード化合物であり、3位にアシルグルクトシル基を有するケルセチン誘導体より容易、且つ収率良く合成可能な化合物として、フラボノールの5位に糖部位を有する8種類のケルセチンラムノシド及びケルセチンアシルラムノシドを分子デザインし、ケルセチンから5工程、トータル収率約1%で目的の化合物ケルセチンアシルラムノシドの合成に成功した(リード化合物はケルセチンから9工程、トータル収率約0.5%)。これらの化合物は全て新規化合物である。得られた化合物のほとんどがメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA 株,S. aureus OM481,OM584)に対して有効な抗菌活性を示したが、リード化合物であるアシルグルクトシルケルセチン誘導体程の活性は認められなかった。 当初目標とした成果が得られていない。リード化合物より、容易かつ収率の高い合成法により新規抗MRSA化合物を合成できているものの、抗菌活性はリード化合物に比べ低く、更なる構造展開が必要である。今回合成したケルセチン5-O-ラムノシドシンナモイル誘導体はリード化合物の3-O-グルコシドシンアモイル誘導体に比べて活性が大きく落ちていることから、今回の計画以前にケルセチンの3-OHのO-グルコシドが最も活性が高いのか、それとも他の水酸基におけるO-グルコシドにさらに活性の高いものが得られるのか、まず検討する必要ある。今後の検討に期待する。
新規レキシノイドの毒性ならびに炎症性疾患モデルでの有効性の検証 岡山大学
加来田博貴
岡山大学
斎藤みの里
本研究課題は、自己免疫疾患等の治療に期待されている制御性T細胞(Treg)誘導能が確認された化合物に関して、その安全性ならびに疾患モデルでの薬効評価を実施した。申請者は、独自に創出したレチノイドX受容体(RXR)アゴニスト(レキシノイド)であるNEt-3IP(特許第4691619号)などに関してTreg誘導能を世界で初めて示している。本課題では、本化合物ならびにその関連化合物について毒性試験として知られるラットを用いた28日間反復投与試験を行うと共に、炎症モデルでの有効性について調べた。その結果、中でもNEt-3IBが、副作用発現が少ない上で、TPA誘発皮膚炎における有効性が認められた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。RXRアゴニストで副作用発現の少ないNEt-3IBに焦点を当て、クローン病治療薬としての有効性を見出そうとした点は評価できる。しかしながら、クローン病モデルで効果が見られなかったこと、乾癬様モデルでの効果が軽微であったことを考えると、「Treg誘導能を持つ薬剤の乾癬などの自己免疫疾患への適応」という前提に疑問を持たざるを得ない。今回追加で行ったTPA誘発皮膚炎を用いた実験で炎症の抑制を認めていることや別に実施した実験で2型糖尿病モデルに対する血糖降下作用を見いだしていることなどから、それらにおいて既存薬との差別化、優位性が確認できれば、技術展開が図れる可能性は残る。
沖縄産植物シノブノキ由来のメラニン色素生成阻害物質開発研究 広島大学
大塚英昭
当研究室では天然植物資源を研究対象にして、メラニン生合成阻害剤の探索研究を行っている。今回、助成された支援プログラムにより、シノブノキから単離された化合物の合成、さらには関連化合物の合成をおこない、活性を評価することを目的に研究を開始した。しかし、パラ位にアルキル基が置換した化合物を酸化し芳香属性を壊しp-quinolへと導くことは比較的難しく、また、原料となるp-クマル酸(天然では酸化により重合し不溶性の高分子リグナンとなる)が重合化しやすいことから原料回収にとどまる、予想された化合物がうまく生成できないなど、本研究課題の根幹となる段階で大きく進行が妨げられた(p-quinolへの酸化は収率が悪いものの達成出来ている。アルコキシ基を選択的に1箇所導入する段階で反応条件の検討など、現在も継続して検討を行っている)。そういった合成研究進行の困難な状況を鑑み、研究期間内で十分な成果に到達するのが困難と予想されたことから残された時間で少しでも関連する成果につながるよう、天然資源からの新規の化合物探索研究を同時進行で進めた。メラニン生成を阻害する化合物は抗酸化活性を有するものが多い。これはメラノサイト(メラニン合成細胞)中でチロシナーゼにより産生したドーパキノンは自動的に酸化を起こし、インドール化合物へ変化し、それらが互いに結合することで黒色のユーメラニンや黄色のフェオメラニンが生成するため、自動酸化を抑制できる抗酸化物質は有力なメラニン生成抑制物質となるからである。成分探索研究を進めた結果、幸いにして多数の新規化学構造を持つ抗酸化活性化合物を単離、構造決定することができた。現在検討中の誘導体合成が達成された際、新たに見出したこれらの新規化合物も加えて活性評価を行う予定である。これらの結果は、本プログラムの目標の一つである、継続した事業展開のために必要な第2、第3の化合物を提供していくうえで重要な知見である。 当初目標とした成果が得られていない。計画の段階で目的化合物の合成を1~2ヶ月で完成することを目論んでいたことを考えると、今回の結果は残念といわざるを得ない。期間内では不十分な成果ではあったが、合成による活性物質供給が企業化の近道であることは確かなので、当初計画した研究の続行を期待したい。
好中球性炎症を制御する抗体のステロイド無効の病態に対する効果の検討 広島大学
横崎恭之
広島大学
山岡秀明
炎症性サイトカインオステオポンチンは生体内で重合する。我々は、この重合を阻害することにより好中球の集積が抑制される事を見いだした。そこで、重合化を阻害するモノクロナル抗体を作製し、好中球性炎症が関与する全身性炎症反応症候群(SIRS)に対する効果を検討した。マウスのLPS投与モデルにおいて、抗体投与/非投与群で生存時間を観察したところ、両群間の生存曲線に有意な差が認められ(p<0.05)、抗体投与は死亡を防いだ。また、血中サイトカインIL-6とMCP-1が抗体投与群で有意に低下していた。未だ効果的薬物のないSIRSや急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に対する新しい治療薬として期待される。 当初目標とした成果が得られていない。SIRSに対する有効な治療法が確立していない現状において、好中球性炎症を低減し、サイトカイン上昇を抑制しSIRSを改善し得る本抗体は、創薬シーズとして有望と考えられる。しかし、動物実験計画の一部では成果が得られず、また、重合型オステオポンチンの定量化も行われなかった。抗体の作用機序や病態モデルの分子機序の解析に関して大きな進展はなく、技術移転につながる可能性が有意に高まったとは言い難いので、更なる検討が望まれる。
プロリン異性化酵素Pin1活性阻害による非アルコール性脂肪肝炎の治療開発 広島大学
浅野知一郎
広島大学
山岡秀明

近年の生活習慣の変化に伴って、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の患者数は顕著に増加している。NASHは肝臓への脂肪蓄積と炎症が合併した病態であり、肝硬変や肝癌へ進行するため、新規治療法の開発が強く望まれている。申請者は、Pin1が脂肪蓄積と炎症の両方に関与していることを報告し、さらにNASHの肝臓ではPin1の発現が亢進していることを見出した。また、Pin1の遺伝子欠損マウスではNASHの発症が強く抑制される知見を得た。さらに、本研究では、Pin1特異的阻害薬を投与するとNASHの発症が抑制される結果が得られた。Pin1特異的阻害薬を肝臓へ選択的にターゲッティングさせるために、nanoparticleに封入する方法を採用することでNASHへの治療への応用を開発中である。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。新規NASH治療薬候補であるJuglone投与によってNASHの改善が認められたことは有意義であったが、Jugloneによる別の肝毒性が生じた点は誤算であった。JugloneがPar14を併せて阻害していることを明らかにした点にも一定の評価ができるが、これが肝毒性発現に関わるかはこれからの課題として残された。今後、Jugloneの肝毒性発現の機序について検討する必要があり、リポソーム製剤として肝選択的デリバリーとしての有用性も確立する必要がある。技術移転を目指したデータの蓄積が望まれる。
海洋メタゲノムを利用した免疫応答促進ペプチドの探索 広島大学
岡村好子
広島大学
山岡秀明
カイメンから分離される生理活性物質の多くが共生細菌によって生産されているが、これらの細菌を培養することは困難であるため、メタゲノムとしてDNAをライブラリー化した。本研究は、10万クローンからin silicoでペプチド新生経路をもつ120クローンに候補を絞り、創薬シーズにつながるペプチドスクリーニングを目的とした。その結果、好中球走化性の合成ペプチドであるfMLPを上回る免疫応答促活性を示す3クローンが得られ、最も活性の高いクローンについて、活性本体の同定と原遺伝子クラスターを分離することに成功した。同定されたペプチドは新規ペプチドであり、未知・新規の生理活性ペプチド探索のツールとして本法が有効であることが示された。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。メタゲノムからのin silicoスクリーニングによって新規な免疫応答促進ペプチドをスクリーニングすることが可能であることを示した意義は大きく、うちひとつの活性ペプチドの同定とその合成遺伝子の単離にほぼ成功している点は評価できる。得られたペプチドの構造の同定と生理活性の詳細な解明しだいで創薬シーズ候補に上がることも期待されるので、早急な展開が望まれる。
骨・血管相関関連分子としての(p)ASARMのマウスモデルでの解析 広島大学
吉子裕二
広島大学
山岡秀明
骨、象牙質などの基質タンパクであるSIBLINGはカルシウム親和性が高く、硬組織の石灰化に関与すると考えられている。リン利尿との関連が示唆されているSIBLINGの一種MEPE (matrix extracellular phosphoglycoprotein) は、C末端にSIBLINGに共通のモチーフASARM (acidic serine,aspartate-rich motif) が存在する。MEPEのASARMはMEPE分解の際、血流を循環する可能性が推定され、骨・腎機能などのマーカーとしての有用性が期待される。そこで、MEPE由来のASARMを定量的に解析するため、ASARMを特異的に認識する抗体を作製し、この抗体を用いた測定系を確立した。今後、この測定系を利用し、骨・腎疾患等における有用性を疾患モデルおよびヒトのサンプルを用いて検証する。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。ASARM測定系を確立したことは評価できるが、残念ながらそれを用いた動物サンプルの測定はまだ不十分である。また、生化学的評価、免疫染色、組織サンプル定量等の記載された精度検定にあたる実験結果が示されていない。しかし、技術的な課題も明らかになっているので、今後の検証により技術開発につながることが期待される。
インスリン受容体基質(IRS)のモノユビキチン化を指標としたインスリン/IGF活性制御剤のスクリーニング系の開発 広島大学
福嶋俊明
広島大学
山岡秀明
研究責任者は、インスリン/インスリン様成長因子(IGF)の細胞内シグナルを仲介するインスリン受容体基質(IRS)がユビキチンリガーゼNedd4によってモノユビキチン化されると、これを介してインスリン/IGFシグナルが増強されることを見出した。本研究では、BRET法を用い、Nedd4によるIRSのモノユビキチン化量を生細胞で測定する系の開発を目指す。初年度では、BRET法に用いる各種発現プラスミドを作成し、IRS-Lucをドナー、Nedd4-YFPをアクセプターとするBRETシステムを構築した。更に、次年度では、Nedd4やIRSの中の相互作用に必要なドメインの絞り込みを行い、より高感度なBRETシステム構築の基盤となる情報を得た。今後、このBRETシステムの最適化を進めた後、IRSのモノユビキチン化を促進/抑制する化合物のスクリーニングを行い、最終的に新しいタイプの抗糖尿病薬・抗がん剤・抗老化薬のリード化合物として提案したいと考えている。
当初目標とした成果が得られていない。ユニークな研究テーマであるが、ユビキチンリガーゼNedd4を過剰発現させた細胞でのシグナルの検出に成功した段階であり、スクリーニング系の開発には至らなかった。更に検討を進める予定であることから、好感度のスクリーニング系の開発に期待したい。
チェックポイント機能を欠如したがん細胞特異的に化学療法の効果を増感させる薬剤の開発 名古屋大学
増田雄司
名古屋大学
鈴木孝征
RAD18はPCNAのユビキチン化酵素であり、DNA損傷トレランス機構の制御因子である。本研究開発 の最終目標は、RAD18のサブユニット間の相互作用を妨げることにより、その酵素活性を特異的に阻害 する化学物質を開発することにある。本申請研究の目的はその前段階として、「サブユニット間の相互作 用」を競合的に阻害することが、原理的に可能であるかどうかを明らかにし、もし可能であれば、そのよ うな機能を持つタンパク質/ペプチド断片を見いだすことにあった。研究の結果、RAD18の一部の58ア ミノ酸残基とタグ配列からなる9 kDaのタンパク質が試験管内のPCNAのユビキチン化反応を阻害することを明らかにした。この成果は、RAD18を標的とした薬物開発の可能性を示唆している。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。PCNAのユビキチン化酵素でありDNA損傷耐性機構の制御因子Rad18のサブユニット間の相互作用を阻害するペプチド配列を同定しており、野生型の配列によりユビキチン化が阻害されるが変異型では阻害されないことを見いだしている点は評価できる。しかし、Rad18タンパク質の選択阻害剤の探索ということでは達成されておらず、技術移転に向けての展開を加速することが望まれる。
DNA損傷の定量による動脈硬化マーカーの開発 広島大学
石田万里
広島大学
山岡秀明
最近、動脈硬化の発症とDNA損傷の関連が明らかになりつつある。本研究は、単核球内DNA二本鎖切断定量法による動脈硬化の総合的リスク評価の有用性を検証し、さらに本測定を自動化で行うシステムを構築することを目標とする。すでに我々の行っている手法を用い、動脈硬化のリスクファクターと単核球内DNA二本鎖切断量との関係を探索したところ、喫煙と単核球内DNA二本鎖切断量に強い相関関係が認められた。この結果は、単核球内DNA二本鎖切断量が動脈硬化のリスク評価に有用である可能性を示している。加齢、脂質異常症、高血圧、糖尿病、肥満、高尿酸血症などの他のリスクファクターとの関係を明らかにするには、より多くの症例を要するため、今後も研究を継続していく。また、現法で使用しているγH2AX抗体よりsignal/noise ratioの高いシグナル分子・抗体を特定した。これにより測定・解析の自動化への道筋が得られたと考える。
当初目標とした成果が得られていない。単核球内のDNA二本鎖切断を定量し、動脈壁硬化の促進リスクファクターである喫煙について検討した成績は一定の評価はできる。しかし、重回帰分析が可能な多数の症例を集めたうえで、検討する必要がある。また、単核球内DNA二本鎖切断定量を可能にするELISA法への変換も必要であり、更なる検討が望まれる。
小胞体ストレス改善効果を有する新規抗肥満・抗糖尿病薬の開発 広島大学
細井徹
広島大学
山田一徳
肥満は生活習慣病の主要な危険因子であり、その治療法の開発は重要な研究課題である。しかし、現在使われている治療薬は、対症療法が中心であり、より効果的な治療薬の開発が切望されている。私達は今までの研究の結果、「不良品蛋白質の蓄積によって生じる小胞体ストレス」が肥満や糖尿病の原因であることを見出し、不良品蛋白質の蓄積を抑制する薬物も明らかにしている。本研究では、本薬物のR対、S対、立体異性体の抗肥満・抗糖尿病効果が異なることが明らかとなった。さらに本薬物の標的蛋白質の同定に成功した。今後さらなる解析により、より安全で副作用が少なく、効果的な治療薬開発を目指したい。 当初目標とした成果が得られていない。シクロオキシゲナーゼ効果の減少による副作用の軽減という点では、光学異性体による効果の差別化はできないことが判明した。R体での血糖値の減少効果とS体との体重減少をいかに説明していくかという課題が残ったので、その点での進展が望まれる。今後の研究開発計画について、ヒトでの評価については具体的計画の記載が望まれた。
拒絶反応抑制ペプチドを基軸とする画期的な免疫寛容誘導剤の開発 広島大学
河本正次
広島大学
榧木高男
臓器移植において免疫抑制剤の投与は必須であるが、現行薬には副作用と永続投与の問題がある。本研究では、免疫抑制剤なしに臓器が生着する移植モデルにおいて誘導される拒絶反応抑制抗体の標的ペプチドを基調とした安全かつ永続投与のいらない免疫寛容誘導剤の開発を目標とし、その薬効試験と新規創薬ターゲットの探索を実施した。その結果、本ペプチドに対する特異抗体の免疫学的作用点がconventional T細胞にあることを見出すと共に、その免疫抑制作用を規定する分子標的の解明に成功した。以上の成果は、現行薬を凌駕する画期的な免疫寛容誘導剤の実現に資する創薬シーズを提供するものである。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に拒絶反応抑制ペプチドの特異抗体が認識する標的抗原の同定に成功した点は評価できる。一方、本ペプチドの免疫抑制シグナル伝達経路や標的分子についての十分な理解は今後の課題であり、技術移転の観点からも知財化を待つことになろう。本ペプチドの免疫制御の可能性が示されれば、新規の免疫制御物質としての可能性が高まるものと期待される。
ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(HDAC)による早期抗うつ効果発現機構を応用した新規抗うつ薬の開発 山口大学
松原敏郎
山口大学
殿岡裕樹
近年、気分障害の病態に遺伝子の塩基配列を変化させることなく発現調節を行うクロマチンリモデリングの機能異常の関与が注目されつつある。当教室の先行研究では、気分障害患者の白血球においてクロマチンリモデリング因子の一種HDACのmRNA発現量の異常が認められた。また当科作成のうつ病モデルマウスにHDAC阻害剤を投与したところ、うつ様行動の改善が認められた。これまで明らかにしてきたうつ病の病態とHDACとの関連、更にはHDAC阻害剤が持つ抗うつ効果等の成果に基づき、本申請ではHDAC阻害剤の抗うつ効果の分子機構を検討したところ、幾つかの知見を得る事ができた。今後はこの機構を標的とした新規抗うつ薬の創薬開発に努めていきたいと考えている。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。SAHAにより、海馬における成熟後神経新生細胞の分化がより促進すること、ストレスによるスパイン密度減少が抑制されることを明らかにし、培養神経細胞でもSAHAに神経突起成長作用があることがわかった点は評価できる。一方、CaMKⅡの過剰発現による神経細胞増殖能の増加は他のHDAC阻害薬と類似の現象であり、CaMKⅡβ過剰発現マウスによる抗うつ作用については、立証するためのデータが不十分である。技術移転にはHDAC阻害薬による抗うつ作用の機序解明が重要であり、抗うつ薬開発のストラテジーを明確にして進めて頂きたい。
熱ショック転写因子群によるタウ蛋白質凝集抑制機構の解明 山口大学
林田直樹
山口大学
殿岡裕樹
熱ショック転写因子 HSF1 および HSF2 がアルツハイマー病を含むタウオパチーを抑制する機構、変異型タウ蛋白質の凝集を抑制する分子機構の解明を目標として研究を実施した。まず、HSF1が神経細胞において変異型タウ蛋白質の凝集を抑制することを見出した。HSF2 についてはより深い解析を行い、変性蛋白質の分解に関与する可能性のある新たな標的遺伝子群の探索を行ったところ、32個の新規遺伝子群を得た。HSF2 は転写因子であるが、転写活性化機構は全く明らかになっていなかったため、その転写複合体の解析を行ったところ、HSF2の機能において非常に重要と考えられる、これまで未報告の構成因子を見出した。また、今後研究ツールとして有効となる、ヒトHSF2 を脳で高発現するトランスジェニックマウスの樹立に成功した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。HSF2をノックダウンした Hela 細胞を用いてマイクロアレイ解析で、新たな HSF2 ターゲット遺伝子32種類の同定に成功し、またヒトHSF2トランスジェニックマウスの樹立にもほぼ成功している点は評価できる。変異型タウを発現アルツハイマー病モデルマウスの作製はできなかったが、タウオパチー抑制に向けた研究戦略に必要なツールの開発が有用であることが証明されたので、今後は技術移転をより強く意識して進めて頂きたい。
自己免疫疾患モデルにおける抗BTLA抗体の治療効果の検証 山口大学
玉田耕治
山口大学
殿岡裕樹
本研究では、自己免疫性ぶどう膜炎のマウスモデルを対象として、抗BTLA抗体の治療効果について検証した。最初に、抗BTLA抗体の免疫抑制活性を実証するために、Bio-Plex法によるin vitro解析をおこなった。抗CD3抗体刺激によるマウスTリンパ球の活性化は抗BTLA抗体の添加により抑制され、31種類のサイトカインやケモカインの産生低下が認められた。次に、自己免疫性ぶどう膜炎マウスモデルにおいて抗BTLA抗体を投与したところ、予想に反してぶどう膜炎の臨床スコアは増悪し、病理組織においても炎症の促進が認められた。また抗BTLA抗体を投与したマウスから採取したTリンパ球の抗原反応性は増強していた。以上より、自己免疫性ぶどう膜炎モデルにおいてはBTLA分子が促進的に作用する可能性が示された。そこで、BTLA遺伝子欠損マウスにて自己免疫性ぶどう膜炎を誘導したところ、野生型マウスよりも臨床スコアや病理所見の軽減が認められた。今後はこれらの所見に基づいたぶどう膜炎治療法を開発していく予定である。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。BTLA抗体、BTLAノックアウトマウスを用いてブドウ膜炎におけるBTLAの役割りを明確にすることができたことは評価できる。しかし、BYK-1抗体はリンパ球のサイトカイン産生を抑制したが、本抗体の投与は自己免疫性ぶどう膜炎を悪化させたことから、現時点で本抗体の自己免疫性疾患の治療への応用は期待しがたい。今後BTLAの機能を阻害することによる自己免疫性ぶどう膜炎の治療法開発に向けた研究を実施するとのことなのでその展開を期待する。
炎症性ミトコンドリア機能回復薬の開発 徳島大学
新垣尚捷
徳島大学
大井文香
[目的] 癌や動脈硬化、細胞老化の発症と進行には活性酸素種(ROS)により損傷を受けたミトコンドリア(炎症性ミトコンドリアと呼ぶ)の機能低下が深く関わっている。本研究は、ミトコンドリア融合剤による炎症性ミトコンドリア機能回復効果を検証し、炎症性ミトコンドリア機能回復薬の開発を目的とした。
[結果] ミトコンドリア融合剤が酸化ストレスにより誘導された炎症性ミトコンドリア(ミトコンドリアの断片化とROS産生を指標とした)の機能回復効果を有することを見出し、当初の目標を達成した。
[今後の展開] 新たな炎症性ミトコンドリアの評価法を開発し、ミトコンドリア融合剤を創薬シーズとしてミトコンドリア標的型細胞機能回復薬を開発する。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。炎症性ミトコンドリア融合剤によるミトコンドリアの断片化抑制効果と細胞生存率の改善効果は検証されたことは評価できる。しかし、ミトコンドリアの機能回復の指標であるATP量の評価は行われておらず、また他の評価法も用いられていない点が惜しまれる。これまで細胞毒性、特にミトコンドリアへの障害性のある化合物を集めてツールとして、新たな作用を見出す手法は興味深いが、技術移転の観点からは、新規薬剤を見出すこともポイントと思われ、今後産学連携の可能性を追求することが望まれる。
摂食抑制ニューロンの可視化 徳島大学
堀尾修平
徳島大学
平岡功
摂食調節に関わるニューロンの活動を調節することで摂食を抑える摂食抑制薬を開発することを最終目標においている。すでに、脳視床下部室傍核のヒスタミンH1受容体を発現するニューロンが摂食抑制作用を示すことを明らかにした。本研究ではこのニューロンに発現する種々の受容体を明らかにするために、本ニューロン特異的に蛍光タンパクYFPを発現するマウスの作製を目標にした。方法として、H1受容体ニューロン特異的にCre (Cre recombinase) を発現する遺伝子改変マウスを作製し、このマウスとCre依存性YFP発現マウスを交配する方法を採用した。Creを特異的に発現する遺伝子改変を導入するターゲティングベクターを設計、作製し、ES細胞にトランスフェクションし、目的の遺伝子改変を生じたES細胞を得た。現在このES細胞をもとに遺伝子改変マウスを作製する最終段階である。本研究における重要な鍵は遺伝子組換えES細胞の作製であり、この段階は達成された。今後、H1受容体ニューロン特異的YFP発現マウスの脳切片にスライスパッチクランプ法を適用し、このニューロンの活動を調節する薬物の検索を行う。 当初目標とした成果が得られていない。H1受容体ニューロン特異的蛍光標識マウスの作製が主目標であり、目標に沿って進捗は認められるものの、ES細胞の作成にとどまっている。時間がかかる作業であることは自明であり、今後の進捗を期待する。マウスの完成がない段階では技術移転等の議論につながらない。
in vivo使用可能なハイブリッド修飾型siRNA医薬の開発 徳島大学
南川典昭
徳島大学
平岡功
本研究では、in vivoでも使用可能な新規核酸素子の開発とその評価を目標とした。3種のハイブリッド型化学修飾核酸を合成し、これらが高い二本鎖形成能とヌクレアーゼ抵抗性を示すことを明らかにできた。ヌクレアーゼ抵抗性に関しては、開発した分子の中で2’-OMOE-4’-チオRNAが50%ヒト血漿中、半減期が48時間以上となり驚異的な安定性を示した(同条件下、現在ヒトに対して臨床使用されている、2’-OMeRNAの半減期が10時間)。In vitroの実験系で、RNAi効果と持続性の両面から最適な修飾様式を探索し、これと同じ修飾様式をもった修飾siRNAが、in vivoにおいても制がん活性を示すとともに、自然免疫応答を殆ど誘導しないことを確認できた。今後、この成果をさらに発展させ、核酸医薬品開発研究を継続していく予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。難生分解性で持続型の新規修飾型siRNAに成功し、siRNA研究のネックのひとつである自然免疫応答の大幅な抑制を示すことができたことは評価できる。一方、デリバリーや、化合物の量の問題など、技術移転に向けて多くの課題が残されており、企業等との共同研究を進めるレベルにまで達していない。更なる基礎データの蓄積が望まれる。
ガス壊疽菌感染症予防ワクチンの開発 徳島文理大学
永浜政博
(財)四国産業・技術振興センター
堤一彦
ガス壊疽は、ウエルシュ菌などの細菌が傷口から感染し、毒素が作られガスを発生しながら全身に急速に感染が進行し、ついにはショックとなり死亡する疾患である。先の中国・四川大地震で、約3万5千人の致死率の高いガス壊疽患者が発生した。作年、東日本大震災が発生し、ガス壊疽の脅威が今後もおおいに考えられる。我々は、ガス壊疽の原因毒素であるα毒素の遺伝子組換え変異毒素の精製に世界で初めて成功した。そこで、ガス壊疽予防に有効なワクチンの開発を目標として、無毒な変異毒素を作製し、ガス壊疽感染症の予防に優れた効果を有するワクチンを「感染症予防ワクチンの非臨床試験ガイドライン」に沿って開発する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。ウェルシュ菌感染の進展を防御し得るα毒素変異体の候補を明示できたことは、評価できる。しかし、技術移転の観点からは、変異体の作成に続く更なる基礎検討項目が必要であり、本研究成果をもって技術移転につながったとは言い難い。今後48時間を超えた長期的な解析や、ELISA等を用いたin vitroでの解析も進め、実用化につながる可能性を示すことが望まれる。
希少糖D-Alloseの破骨細胞分化抑制と骨粗鬆症治療への応用 香川大学
山口文徳
香川大学
渡辺利光
本研究では、卵巣摘出による骨粗鬆症モデルを用いて、希少糖の一つであるD-Alloseが破骨細胞分化抑制によって骨粗鬆症の予防効果をもつかどうかを検討した。D-Allose投与群と非投与群では体重増加等に違いは認められなかった。卵巣摘出群のマウスでは、皮質骨塩量・骨密度が正常群に比べ著明に減少し、卵巣摘出+D-Allose投与群ではそれらの改善がみられたが、逆に海綿骨部位では減少した。まげ・ねじり強度については卵巣摘出群と同等または、減弱が認められた。骨髄細胞を用いたリアルタイムPCRでは、D-AlloseによりTXNIP発現増強が認められた。また骨切片のTRAP染色ではD-Allose投与により破骨細胞の分化抑制が認められた。 当初目標とした成果が得られていない。マウスを用いたin vivoの実験で、希少糖であるD-Alloseが破骨細胞の分化を抑制する可能性が示された。しかし、その作用は皮質骨と海綿骨で異なり、皮質骨の骨量や骨密度は増加したが、海綿骨の骨量や骨密度は低下し、全体的な骨の強度はむしろ減弱した。検討した投与量等の条件では、技術移転に向けての優位性は示せていない。D-Alloseが骨代謝に影響を与えることは明らかになったが、投与量や投与期間等の条件の再検討が必要と思われる。
カロリー制限模倣物質の探索-希少糖のアンチエイジング効果の検証 香川大学
佐藤正資
香川大学
渡辺利光
食事におけるカロリー制限は、糖尿病、癌、アルツハイマー病など加齢性疾患の発症を遅延させ、寿命を延長させると考えられている。そこで、苦痛なくカロリー制限と同様の効果を期待できるカロリー制限模倣物質を開発することは、病気を未然に防ぎ、進行を抑制する可能性がある。本申請課題では、ノンカロリー甘味料である希少糖 D-プシコースがカロリー制限模倣物質として生体内で働き、アンチエイジング(抗加齢・抗老化)効果を示すかどうかを線虫C.elegansを用いて検証した。その結果、D-プシコースは線虫寿命を有意に延長することが明らかになった。また、その作用機序はD-プシコース処理により抗酸化酵素(SOD、カタラーゼ)が誘導され、抗酸化ストレス耐性が増強されることにより寿命延長が起こると考えられた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。目標は希少糖D-プシコ-スの寿命延長作用を明らかにしたうえで、寿命延長作用と酸化ストレスの関係を明らかにすることであったが、線虫を用いた実験で寿命延長作用を示す濃度を確認し、酸化ストレス関連遺伝子の発現量と、それらの酵素活性の上昇を認めている。しかし、自ら述べているように、最も根本的仮説である「D-プシコースの効果がカロリー制限によって引き起こされる」という証明はできていない。今後、仮説の証明によって食品素材として効果的で安心・安全なアンチエイジング物質の開発につながることを期待する。
癌遺伝子様 microRNA を標的とした新規口腔癌治療法の開発 愛媛大学
中城公一
株式会社テクノネットワーク四国
塩崎紀子
近年、癌遺伝子様の機能を有する microRNA が発見され、これらの機能阻害が種々の癌細胞の増殖を抑制することが示されている。われわれは、ヒト microRNA (918 種類) の網羅的機能阻害解析によりヒト口腔扁平上皮癌および唾液腺癌細胞の増殖を支持している新規癌遺伝子様 microRNA を同定した。本研究では、これら microRNA の機能を阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチドのヒト口腔癌細胞ヌードマウス背部皮下移植腫瘍に対する抗腫瘍効果を確認するとともに正常組織に及ぼす影響も併せて検討し、有用な新規口腔癌治療としての可能性を探索する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。生体におけるmiRNAの抗腫瘍効果と安全性の評価では種々の腫瘍に対して抑制効果が認められ、効果的なmiRNAの構造について興味深い知見も得られたことは評価できる。残念ながらバイオマーカーとしてのmiR-361-3pの有用性を実証するには至らなかったが、siRNAの修飾法や担体の工夫を含め、今後は企業との共同開発を通じて実用化を目指した開発につなげることが期待される。
マイボーム腺細胞の長期的培養の確立と同細胞を用いた薬剤スクリーニング系の開発 愛媛大学
永井彩子
愛媛大学
入野和朗
眼瞼にある皮脂腺ファミリーのマイボーム腺は、涙液表面に主に脂質を主成分として分泌して、眼球表面を乾燥や感染から保護している。マイボーム腺の機能不全は、感染予防機能の低下、ドライアイ、炎症等に関与し、重要である。また、マイボーム腺の有効な活性化や機能調節機構の解明には、同腺の細胞培養が必須だが、非常に困難で、世界的にも今まで長期培養の成功例がほとんどない。申請者らは、これまでに独自に確立した「皮脂腺の長期間培養・解析技術」を用いて、今回マウスやラット眼瞼からのマイボーム腺細胞培養に成功した。今後、同細胞を用いた薬剤や細胞傷害、副作用のスクリーニング系の構築を目指している。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。マウスやラット眼瞼からのマイボーム腺細胞の長期培養に成功したことは評価できる。スクリーニング系の確立までには至っていないが、同細胞を用いた薬剤や細胞傷害、副作用のスクリーニング系の構築を目指しての検討も進んでいる。今後、スクリーニング系として早急に立ち上げ、技術移転につなげる化合物の創出を目指すことが望まれる。
柑橘由来化合物の虚血脳障害に対する脳保護薬としての可能性を検証する 松山大学
奥山聡
財団法人えひめ産業振興財団
田中宏佳
これまでに我々は、様々な愛媛特産柑橘由来化合物が中枢神経系に作用する可能性を示してきたが、本研究課題では、その中の一つの化合物Heptamethoxyflavone(HMF)に注目し、虚血脳障害に対して脳保護作用を示すかどうかを、神経栄養因子産生作用などの面から検討を行った。C57BL/6マウスの頸動脈流を12分間止め、再灌流することで作製した全脳虚血モデルに対し、HMFの連続投与を行った。虚血手術後、脳の中でも虚血の影響を受けやすい海馬に注目し解析を行ったところ、HMF投与によって脳由来神経栄養因子(BDNF)の産生が促進されたことから、HMFは脳虚血障害に対し、神経細胞保護的に働く可能性が示唆された。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。化合物HMFが全脳虚血モデルにおいてBDNF の産生を高めて神経保護作用を示す可能性を確認したことは評価できる。一方、HMFの効果について濃度依存性が認められない点など、技術移転の観点からは残された課題も多い。今後は、虚血再灌流モデルでの検討でなく、認知症や抗ストレス等の検討なども考慮して、医薬品あるいは健康食品も視野に実用化の可能性を探るほうが得策かもしれない。
トロンボモジュリン分子がもつ新規な血管内皮細胞保護作用機序の解明 高知大学
池添隆之
遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤(rTM)は2008年5月に発売となり、現在、抗凝固薬(抗DIC治療薬)として幅広く臨床応用されている。申請者は、臨床応用の中から本剤には抗凝固作用以外に血管内皮細胞を保護する作用を有していることを見出し、その作用機序を検索した結果、今まで知られていなかった抗アポトーシス作用があることを見出した。即ち、rTMは細胞増殖刺激シグナルERKの活性化を介して抗アポトーシス蛋白質Mcl-1の発現を誘導し血管内皮細胞を保護していることを明らかにした。更に、各種TM変異体を作成し、血管内皮細胞保護を担っている新規最小構造単位を同定した。今後はこの新規TM変異体を大量に生成し、血管内皮細胞障害動物モデルでその有効性及び安全性を検証し、血管内皮細胞障害に起因する各種疾患に対する治療薬として臨床開発の可能性を探索したい。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。トロンボモジュリンの抗アポトーシス効果に着目し、その活性発現部位がTME45という約80個のアミノ酸からなる部分であること、及び抗アポトーシス分子であるMcl-1の誘導を介してその作用を示す可能性を明らかにしたことは評価できる。今後、アポトーシス抑制作用のみを持つ製剤を開発するのか、あるいは抗凝固作用を併せ持つ製剤を開発するのかなど課題もあり、候補化合物の臨床応用における優位性を勘案しながら開発方針を決めていくことが望まれる。
紫外線誘導性皮膚癌モデルマウスの創薬におけるプラットフォームとしての応用 高知大学
横川真紀
高知大学
石塚悟史
我々は、遺伝子改変マウスに紫外線を反復照射し、皮膚癌、皮膚癌の早期病変あるいは前癌症状といった種々進行度の皮膚腫瘍を耳介に誘導した。今回、このモデルマウスに誘導した皮膚癌に自然免疫賦活化を 介して抗腫瘍作用を発揮すると考えられているトール様受容体(TLR)アゴニストを外用投与し、ヒト皮膚癌において想定されている抗腫瘍メカニズムを検証した。さらに、このモデルマウス耳介に誘導した種々進行度の皮膚腫瘍にTLRアゴニストを投与し、その治療・予防効果をプロスペクティブに解析した。これらの結果より、このモデルマウスが治療薬・予防薬の効果解析に有用な優れた実験動物であることが示せた。創薬におけるプラットフォームとしての応用が期待できると思われる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。独自に開発した紫外線誘発皮膚発癌モデルマウスにTLRアゴニストを投与してその腫瘍抑制効果を評価することで、本モデルが皮膚発癌評価モデルとして有用であることを示したことは評価できる。一方、選択した候補因子の効果は示せておらず、知的財産の確保に至っていない点は惜しまれる。今後そのほかの治療薬・予防薬での検討が必要であるが、本モデルを用いることで新規皮膚がん治療薬・予防薬の開がより簡便かつ短期化することに貢献することを踏まえて、実用化につなげることが望まれる。
腫瘍内へT細胞を動員する次世代免疫療法の開発 高知大学
宇高恵子
高知大学
吉用武史
ヘルパーT細胞(Th)を誘導するMHCクラスII分子結合性ペプチドに修飾を加えることにより、Th の誘導効率を500倍程度まで高める工夫を考案し、その作用機序について解析を行った。さらに、マウスを用いた免疫実験で、修飾ペプチドを使えば、本来は免疫寛容にある腫瘍抗原に対する Th も効率よく誘導できることが明らかになった。今後、系統的に機序の解明とデザインの至適化をはかりたい。またさらに、in vivo における抗腫瘍活性を検討して、悪性腫瘍に対する免疫療法の効果を高めるのに利用したい。これらの結果をもとに、国内特許の出願を行った。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。ワクチンをペプチド修飾して、CTLを誘導するという発想がユニークであり、修飾Th誘導性ペプチドがTh細胞を誘導することを示し、FBL3腫瘍細胞を用いた系で腫瘍特異的Th細胞を誘導することで腫瘍増殖制御に有効であることが示されたことは評価できる。今後、効果判定法を確立することにより、臨床応用に向けて展開することが期待される。
新規癌骨転移制御薬の開発:伝統的秘薬の有効成分であるNordihydroguaiaretic Acid(NDGA)による破骨細胞制御とヒト肺癌の骨転移阻止 九州大学
久木田敏夫
九州大学
平田徳宏
古来より北米先住民が秘薬としてリウマチや糖尿病等の種々の疾患に用いてきた薬草メキシコハマビシの有効成分であるノルジヒドログアイアレチン酸(Nordihidroguaiaretic acid)が骨代謝制御能を有することを我々は明らかにしてきた。本研究に於いてNDGAのヒト癌細胞の骨転移制御能について解析したところ、ヒト肺癌細胞をヌードマウスに移植した骨転移動物実験系に於いて、NDGAが骨転移による骨破壊を顕著に抑制することが分かった。癌細胞の転移による骨破壊を抑制することにより多くの癌患者のQOLを高めることのできる新しい骨転移制御薬の開発に繋がるものと思われる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。癌の骨転移阻害活性を動物実験で証明し、安全かつ効力の高い新規癌骨転移制御薬を開発することを目的としている。物質の同定ができていることや、安全性が高いことから、期待したいが、NDGAがヒト肺癌の骨転移阻止に有効であるとする客観的データが提示されていないことから技術移転にはまだ及ばない。今後NDGAがデノスマブやビスフォスフォネートと比べて、肺癌細胞の骨転移抑制がどのぐらい効果があるのかを含めて検証を期待する。
アルツハイマー病に対するアポモルフィンの治療効果の分子機構の解明 九州大学
大八木保政
九州大学
槐島慎
我々は、アポモルフィン(APO)が神経細胞内のアミロイドβ(Aβ)分解促進と抗酸化ストレス作用を誘導し、アルツハイマー病(AD)モデルマウスの記憶障害とAD病理を改善することを昨年報告した。APOの治療効果に係わる分子機構を解明するために、本研究ではDNAマクロアレイによるAPO作用時の遺伝子発現変化を解析した。その結果、APO処理は酸化ストレス抵抗性、細胞周期停止、蛋白リン酸化抑制、インスリンシグナリング促進に働く可能性が示唆された。APOの抗AD効果がこれらのシグナルを介するものと考えると、そのような経路を標的とする新規AD治療薬開発につながることが期待される。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。アポモルフィン処理で変動する遺伝子をDNAアレイで解析し、新たにインスリン関連シグナルの変動を見い出したことは評価できる。しかしながら、必ずしも当初目標としたアポモルフィンの治療効果の分子機構の解明が進んだとは見なし難い。アポモルフィンそのものは既にパーキンソン病患者に対する国内臨床治験が終了しており、アポモルフィンの分子機構の解析を継続するか、それとも安全性のより高い(副作用の少ない)アポモルフィン類似化合物の探索に進むかを慎重に判断することが望まれる。
抗体を用いた癌転移再発抑制療法の開発 九州大学
大池正宏
九州大学
槐島慎
癌細胞は、間葉系への表現型変換によって転移能を獲得し、また化学療法抵抗性となる。複数の内因性蛋白がこの表現型変換を引き起こしうることが知られるが、本研究はそのうち特定のサブタイプへの中和抗体を作製し、これを用いた癌の転移再発抑制療法を開発することを目標とした。本研究期間では、二種類の抗原ペプチドを設計してマウスに免疫を行った。抗原ペプチドを用いたELISAによるスクリーニングでは多くの抗体の産生が確認されたが、目的とする中和活性を示す抗体は得られなかった。今後は新たな抗原ペプチドまたは抗原蛋白による中和抗体の作製を目指すとともに、複数の抗体を用いるなど標的中和方法の改善を行う。 当初目標とした成果が得られていない。最初のステップである内因性蛋白の中和活性を有する抗体が作成できておらず、技術移転を目指した次のステップの計画作成には至っていない。これらの内因性蛋白をターゲットにした癌転移抑制薬というコンセプトは未だ否定されていないので、今後の計画に期待したい。一方で中和抗体にこだわることなく、これら蛋白の受容体への結合を特異的に抑制できる分子を設計することも考えたほうが有効かもしれない。いずれにせよ研究計画を見直したうえで進めて頂きたい。
生態環境に配慮したサンゴ由来アトピー性皮膚疾患治療薬の開発 九州大学
宮本智文
九州大学
槐島慎
沖縄県国頭郡本部町瀬底島にて採取した軟サンゴ(フトウネタケ)粘液含有海水について、ヘキサンによる溶媒抽出、および各種固相担体を用いた固相吸着によるジテルペンの調製を行った。その結果、固相吸着法により採取した粘液含有海水には1Lあたり約100mgのジテルペン類を含有し、医薬シーズであるLobophytol Acが約1%含有されることが明らかとなった。 更に、本手法は、軟サンゴ生態環境に影響を与えず、また、原料生産工程で産業廃棄物を出さない"グリーンサスティナブルケミストリー"であり、生産体制のスケールアップによりアトピー性皮膚疾患治療薬原料供給の技術移転を可能とした。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。従来のマリンプロダクトが生体を用いていたのに比べ、粘液海水からジテルペン類を得る方法を開発していることは評価できる。一方、ロボフィトールAcをアトピー性皮膚疾患治療薬として開発するためには、まず前臨床試験が必要であり、本化合物をいかに大量かつ安定的に供給できるかが課題である。軟サンゴ粘液含有海水からの抽出法のみで果たして医薬品原料としての供給に限界はないか、化学合成による手段も検討し、技術移転につなげることが望まれる。
グラム陽性細菌のクオラムセンシングを標的とした眼内炎予防治療薬の開発 九州大学
中山二郎
九州大学
槐島慎
近年、白内障術後感染症の起因菌として問題視されている腸球菌は、菌密度依存的発現誘導機構“クオラムセンシング(QS)”によりその病原因子であるゲラチナーゼの生産を制御している。本研究では、QSの自己誘導因子(AIP)であるGBAPの生合成阻害剤および受容体アンタゴニストを創製し、眼内炎予防・治療薬とすることを目的としている。まず、GBAPのアンタゴニストをリバースアラニンスキャン法によりデザインし、IC80 = 100 nMのZBzl-YAA5911を得ることに成功した。そしてZBzl-YAA5911をウサギ眼内炎モデル実験に供し、網膜毒性を示さない濃度範囲にて、腸球菌の硝子体から水晶体への移行を有意に阻害することを確認した。同時に、天然物からのスクリーニングにより有望なQS阻害物質を複数見出しており、それらとのカクテル療法によりさらに有効的に感染を予防できるものと期待される。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。AIP合成阻害剤の修飾、並びAIP受容体アンタゴニストの修飾による高活性化はいずれも達成されなかったが、研究計画を変更して行った新規AIP合成阻害剤のスクリーニングには成功しており評価できる。モデル動物を用いた活性測定系は確立されていることから、AIP合成阻害剤とAIP受容体アンタゴニストの併用によるカクテル療法が成功すれば将来的には技術移転の可能性はあると思われるので、早期に企業との共同研究につなげることが望まれる。
培養細胞系においてがん細胞特異的にM期阻害と細胞毒性を示す新規化合物Yとその誘導体のヌードマウスxenograft系での抗がん活性の検討 九州大学
藤田雅俊
九州大学
槐島慎
化合物Y(コードネームNP-10)は、培養系において数μMでがん細胞増殖を選択的に抑制し、M期進行を阻害する。また、類似化合物Y-2(NP-14)、Y-CH3(HND-007)は、癌選択性は低下するものの、高い抗がん活性を示す。本研究において、NP-10およびHND-007がヌードマウスでのHeLaがん細胞xenograft系で抗腫瘍効果を持つ事が示された。最近、M期キネシンEg5阻害剤による抗がん剤開発が試みられている。Y等はこれらと構造的類似性が見られたが、Eg5阻害活性は示さなかった。一方、Y等はin vitro でtubulin polymerizationを部分的に阻害した。よって、Y等は新規微小管阻害剤と考えられるが、他の新規標的分子を持つ可能性も残っており、他のM期キネシンへの阻害効果などを引き続き検討している。これら新規化合物に関して、平成23年10月に培養系での抗がん効果をベースに特許出願を行ったが、今回ヌードマウスでの抗腫瘍効果が認められたので、請求項追加あるいは新規特許出願を準備中である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。申請者らが見出した細胞毒性M期阻害薬は、微小管阻害薬として働く事が予測され、その抗腫瘍効果はxenograftを使用した実験でも明確にされたことは評価できる。安全性試験に関しても、目標とした腹腔内投与法に関しては一定の成果を得ているが、今後薬剤の溶解方法等に工夫が必要である。分子標的治療薬としての開発には、M期停止作用の機序についてはさらに詳細なメカニズム解明が必要であり、今後の検証に期待したい。
ミトコンドリア内膜タンパク質ANTを標的とするアポトーシス阻害剤の開発研究 九州大学
松本健司
九州大学
槐島慎
ボンクレキン酸(BKA)は、アデニンヌクレオチド輸送担体(ANT)の強力な阻害剤であり、またアポトーシスを抑制することが知られている。今回、高活性なアポトーシス阻害剤の開発を目的に、ボンクレキン酸の構造活性相関研究および構造を単純化した簡略化BKA誘導体の分子設計・合成を行った。その結果、アポトーシス阻害活性には、BKAの左側鎖である多置換共役ジエン骨格が必須であることが分かった。また、BKAの構造を単純化したトリカルボン酸誘導体がBKAと同程度の活性を示すことを見出した。今後、構造活性相関を精査することにより、高性能アポトーシス阻害剤の開発を目指す予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。ボンクレキン酸(BKA)のアポトーシス抑制活性に着目し、BKA誘導体の分子設計・合成を行った結果、各BKA誘導体の細胞毒性やアポトーシス抑制活性が判明したことは評価できる。一方、技術移転はまだ先となる印象があり、まずは予定されている他の研究グループとの共同研究が進むことを期待したい。
乳酸菌に含まれる抗炎症成分の特定 福岡大学
鹿志毛信広
福岡大学
芳賀慶一郎
本申請の目標は、乳酸菌に含まれる抗炎症成分を特定し、炎症性腸疾患(IBD)の予防・治療薬への応用を目指すものである。本研究の結果、Caco-2細胞を用いた実験によって、乳酸菌のゲノムDNAが抗炎症作用を有することを明らかにした。さらに、治療薬として安価に高純度品を製造することのできる方法を提示することができた。また、IBDモデルマウスとして、デキストラン硫酸ナトリウム誘発性大腸炎マウスを作製した。今後は、本研究で示した乳酸菌ゲノムDNA由来の製剤が動物実験においても抗炎症作用を発揮し、IBDの予防・治療薬と成り得ることを確認する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。但し、平成23年度の研究開発成果として示されている内容の中には、既知のデータの繰り返し・再現性の確認が多く含まれている。候補DNAモチーフの決定は評価できるが、肝心の動物実験の手前(モデル作成法の確認のみ)で時間切れでは技術移転の観点から良否を判断することができない。
カスタムメイド疾患モデル用キックインマウスの実用化に向けた改良研究 福岡大学
廣瀬伸一
福岡大学
芳賀慶一郎
疾患の解明と治療法開発には、人間と同じ様々な遺伝子異常を持つ疾患モデル動物が必要である。ところが、既存のノックイン動物では、一系統作出にも年余の歳月と数百万円の費用を要した。福岡大学らが特許出願したキックイン技術により、研究者の求めに応じて数分の一の期間と費用で作出が可能となった。
本研究では、標的遺伝子の選定したエクソンのみ変異を導入可能であったキックイン法を、標的遺伝子のコーディング全領域に変異を導入可能なキックインEX法として進化させた。標的遺伝子の種類だけでなく変異の位置や種類を自由に組み込むことを可能にし、変異の種類と病態の関係を多方面から解析して、より正確な病態研究が可能となると思われる。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。目標として掲げたSCN1AとGABRG2の両方について課題を遂行することができず、SCN1Aのみの成果となった。また、そのSCN1AのキックインEXマウスの作製も妊娠まで至るに留まっている。研究期間を考慮すると当初の目標に無理があった感がある。一方、技術移転につながる成果として捉えることもでき、短期的、長期的なビジョンに基づいて戦略的に研究を進める計画が示されていることから、今後の展開に期待したい。
間質性肺炎に対する治療薬の開発 佐賀大学
出原賢治
佐賀大学
大久保惇
これまで、申請者らは、細胞外マトリックスタンパク質であるペリオスチンが、間質性肺炎の中で特発性肺線維症と薬剤性間質性肺炎に対する治療標的となることを明らかにしている。本申請では、ペリオスチンとその受容体であるインテグリンとの結合を指標にして抗ペリオスチン中和抗体を作製し、間質性肺炎に対する治療薬のリード化合物とすることを目的とした。研究を進めた結果、インテグリンとの結合を50%阻害する中和抗体を産生するクローンを樹立することができた。今後は、ペリオスチンとαvβ3インテグリンとの結合様式をさらに解析して、より阻害効果の強い抗体を産生するクローンを樹立することを目指す。 当初目標とした成果が得られていない。細胞外マトリックスタンパクのぺリオスチンをターゲットとした治療薬開発を目標として研究し、抗ペリオスチン中和抗体は作成した。しかし作成された抗体では、インテグリンとの結合を50%しか阻害できずポリクロナールの抗体による阻害効果と同等であり治療薬開発及び技術移転につながる可能性は低いと言わざるを得ない。産学協同の研究開発のステップにつなげるために残された課題も多いため今後の計画についても十分検討して頂くことを期待する。
新規トポイソメラーゼI阻害剤BBPIの合成と抗腫瘍活性評価 長崎大学
岩尾正倫
長崎大学
石橋由香
BBPIは、海洋天然物ラメラリンをモデルに設計・合成された新規トポイソメラーゼI阻害剤である。今回、BBPI骨格を持つ抗がん剤の開発を目的に、2種の水溶性誘導体BBPI-4およびBBPI-5のin vivoでの抗腫瘍活性試験を行った。その結果、これらの化合物が、マウス由来結腸がん細胞 (colon 26) を移植したマウスに対して有意に高い抗腫瘍活性を示すことが明らかになった。また、抗腫瘍活性試験において薬剤を投与したマウスの死亡や体重減少はなく、BBPIが従来のトポイソメラーゼI阻害剤に比較して、毒性が低いことも明らかになった。今後は、さらに抗腫瘍活性や体内動態にすぐれたBBPI誘導体を開発し、抗がん剤としての実用化を目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。トポイソメラーゼ阻害活性を確認し、抗腫瘍活性も認められているが、残念ながら投与量が極めて高い。技術移転の観点からは、トポイソメラーゼ活性I阻害作用を示す既存(市販)薬剤との比較で、優位性があるかどうかのデータがない点が惜しまれる。今後は、より活性の高いラメラリン誘導体の検討とともに溶解性、製剤などの検討を充実させ、薬物動態良好な化合物の選択を目指して頂きたい。
ベンズインドロイソキノリン型抗ガン剤候補分子の合成と生理活性 長崎大学
石橋郁人
長崎大学
石橋由香
研究責任者等は、トポイソメラーゼⅠ阻害に基づく抗がん活性を有する海洋天然物ラメラリンをモデルとして、新規な抗ガン活性化合物BBPIを創製した。本化合物は、ラクトン部位を有しているため、生体内で加水分解され、in vivoでは十分に効果を発揮しにくい可能性がある。本研究では、構造修飾をさらに進め、ラクトン部位をピリジン環に変換し生体内での安定性を高めたベンズインドロイソキノリン(BIIQ)型のアナログを合成し、生理活性を検討した。BIIQの培養がん細胞に対する増殖阻害活性は期待したほど高いレベルではなかったが、ラメラリンやBBPIと比較して優位に高いトポイソメラーゼⅠ阻害活性を持つことが確認され、BIIQ骨格が新規抗がん剤開発のためのスカフォールドとして有望であることが示唆された。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。効率面での改良が必要であるものの、当初目標のトポイソメラーゼ阻害型抗癌剤シーズ化合物の合成が達成できたことは評価できる。しかし、シード分子には特許性がないことから、今後、化学構造の新規性及び抗癌活性(動物実験)ともに優れた化合物を創出する必要がある。今後の進展に期待したい。
臓器標的化遺伝子ベクターによるIn vivo siRNA送達技術の開発 長崎大学
佐々木均
長崎大学
藤原雄介
我々が開発した新規遺伝子ベクターにsiRNAを応用し、その有用性および安全性について評価を行った。siRNA、カチオン性化合物、dioleylphosphatidylethanolamine (DOPE)、アニオン性化合物の混合比を最適化することで安定な遺伝子ベクターの構築に成功した。作製した遺伝子ベクターはin vitroにおいて市販の遺伝子ベクターに匹敵する非常に高い遺伝子抑制効果を示した。また、市販のカチオン性遺伝子ベクターで観察される細胞障害性や赤血球凝集などの毒性は認められなかった。さらに、担癌マウスに腫瘍内投与した結果、in vivoにおいても高い遺伝子抑制効果を示した。今後は、全身投与による遺伝子抑制効果について検討していく予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。siRNA、カチオン性化合物、DOPE、アニオン性化合物の混合比が最適化された新規遺伝子ベクターがin vitro、in vivoにおいて臨床開発に必要な遺伝子発現抑制効果と安全性を持つことを示せたこと、及び研究者のオリジナルの成果を実用化に向けて、着実に進行させ、企業との共同研究の準備を始めていることは高く評価できる。今後は市場調査を行うなど、技術移転、製品化について検討して頂きたい。
学習機能改善薬スクリーニングの新規モデル動物の確立 長崎大学
植田弘師
長崎大学
藤原雄介
本研究の目標は、学習機能障害を改善する薬物のスクリーニング系を開発することである。関連治療薬を評価するためには学習障害動物モデルを確立する必要がある。我々はまず、神経細胞保護分子を大脳皮質・海馬領域特異的に欠損させたトランスジェニックマウスを用いて、精神・神経系脆弱性の検証を行った。一連の行動実験により、記憶・学習障害が確認できたほか、不安行動表現型も呈することが明らかとなった。そして既存の抗認知症薬を投与しても、その記憶・学習障害を回復することはなかった。したがって、このトランスジェニックマウスは、既存の抗認知症薬では治療困難であった精神疾患への新規薬剤の効果を評価可能とする新しい動物モデルとして、今後の活用が期待される。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。大脳皮質・海馬領域特異的神経保護分子欠損マウスが、記憶・学習障害のみならず不安障害を併せ持ち、既存の認知症治療薬抵抗性であることを明らかにしたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、期待されていた生化学的所見は得られず、新規モデルとして提唱することは難しい点があげられる。このモデルとヒトの疾患との関連性についてもう少し明らかにすることにより技術移転に結び付けることが望まれる。
DPD欠損症のスクリーニング検査を指向した尿中ウラシル定量法の開発 長崎大学
柴田孝之
長崎大学
藤原雄介
本申請課題では、ジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ(DPD)欠損症のスクリーニング検査法の開発を目的として、尿に試薬を添加し加熱した反応液の蛍光強度を測定するだけでウラシルを定量できる技術、及びマイクロプレートリーダーを使用した尿中ウラシルの多検体同時定量法の開発研究を行った。その結果、尿中ウラシル濃度を正確に測定できるブランク反応を見出し、日本人成人の正常な尿中ウラシル濃度範囲をカバーできる、多検体の同時ウラシル定量に成功した。今後は、実際のDPD欠損患者から得られた尿を用いて、本技術が実際にDPD欠損症のスクリーニング検査法に成り得ることを証明する。また、本技術を血液に応用し、血中ウラシル定量法の開発及び血中ウラシル濃度とDPD欠損症の相関を調べる予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。当初の目的である尿に試薬を添加し加熱した反応液の蛍光強度を測定することでウラシルを定量できる技術、及びマイクロプレートリーダーを使用した尿中ウラシルの多検体同時定量法の開発を行い、尿中ウラシル濃度を正確に測定できるブランク反応を見出すことにより、日本人成人の正常な尿中ウラシル濃度範囲をカバーできる、多検体の同時ウラシル定量が可能となった点、また基盤となる技術は、国内出願・PCT出願済みであることなども評価できる。今後、患者試料を用いたスクリーニングへの有用性の確認などの課題をクリアして実用化に結びつけることが期待される。
母体血中胎盤特異的mRNA/microRNAを用いた妊娠の非侵襲的分子診断法の開発 長崎大学
三浦清徳
長崎大学
藤原雄介
妊娠の診断と同時にその異常を予測し胎児染色体異常を診断しうる妊娠診断試薬の実用化を最終目標として、以下の3つの成果を得た。1)妊娠の検査試薬として、母体血中の胎盤特異的miRNA濃度測定が有効であることを見いだしたが、そのmiRNA濃度の濃縮化が今後の課題となった。2)母体血を用いた非侵襲的胎児染色体診断法として、胎盤特異的miRNAが胎盤発育の指標として有効と示され、その染色体局在情報を用いることで実用化へと展開できうる。3)絨毛性疾患の診断ツール開発に向け、全胞状奇胎特異的miRNAをマーカーとして同定し、phantom hCGとreal hCGの鑑別など絨毛性疾患の管理に臨床応用されることが期待された。
 
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。当初の研究計画に比較して収集できたサンプル数が少なくなったものの、非妊婦における胎盤特異的mRNAの血中濃度値、妊娠4-11週における胎盤特異的miRNAの検出レベルと正常値、分娩後の検出限界、妊娠合併症及び異常妊娠における妊娠4-11週における胎盤特異的miRNAの検出レベル等を決定したことは高く評価できる。今回の成果は新しいマーカーの発見であり、技術移転に向けた今後の進展を期待したい。
新規抗菌薬S-ニトロソ化α1-酸性糖タンパク質の開発と多剤耐性菌治療への応用 熊本大学
丸山徹
本研究では、感染時に生合成が亢進する一酸化窒素(NO)とα1-酸性糖タンパク質(AGP)の反応物であるS-ニトロソ化AGP(SNO-AGP)の多剤耐性菌に対する抗菌作用を検証した。その結果、AGPがNO の細菌内輸送担体として効率よく機能する結果、既存薬とは異なる機序で強力かつ広域な抗菌スペクトルを獲得することを初めて見いだした。また、既存の抗菌薬との併用において相乗効果を発揮することや、長期保存下においても安定であることを実証した。したがって、新規作用機序と薬剤耐性克服効果を併せ持つSNO-AGPは、臨床現場で猛威をふるう多剤耐性細菌の克服に対して幅広い臨床応用が大いに期待される。 概ね期待通りの成果が得られており、技術移転につながる可能性は高まった。SNO-AGPが多くの多剤耐性菌に対して抗菌活性を示すことや、既存の抗菌剤と相乗効果が見られることなどが明らかになった点は評価できる。一方、薬物排泄トランスポーターへの作用についてはさらに詳細な検討が待たれる。マウスin vivo感染モデルでの薬効も確認されていることから、開発に向けた一層の展開が期待される。綿密な研究開発計画のもと実用化に向けた検討を進めることが望まれる。
動脈硬化症を予防・改善する天然機能成分の開発 熊本大学
塚本佐知子
熊本大学
荒木寛幸
Manzamine Aおよびナツメ抽出物を高脂血症モデル動物であるApoE欠損マウスに3ヶ月間経口投与したところ、manzamine A投与により血中コレステロール濃度(Total cholesterol, LDL cholesterol, Free cholesterol) ならびに血中トリグリセリド濃度の低下が認められた。また、ナツメ抽出物の投与により、血中総コレステロール濃度ならびに血中LDL濃度の低下が認められた。したがって、manzamine Aおよびナツメ抽出物は脂質異常症を改善する可能性を有しているといえる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。血中コレステロール濃度の減少効果は目標の20%に達しなかったものの確認されている。一方、で技術移転の観点からは、動脈硬化に対する効果の検証や他の予防効果のあるサプリメントとの比較など、実用化に向けたデータが少ない点が惜しまれる。これらのデータ追加及び特許性の点も加味した今後の展開が望まれる。
GIRKチャネルを標的とした新規鎮痛薬および鎮痛補助薬の開発に関する研究 熊本大学
高濱和夫
熊本大学
荒木寛幸
GIRKチャネル阻害活性をもつ鎮咳薬チペピジンの新規鎮痛薬および鎮痛補助薬としての可能性を追求するために、マウスでの種々の疼痛試験法を用いてチペピジン単独の、およびモルヒネと併用した時の鎮痛作用を調べた。その結果、チペピジンは、ホルマリン疼痛試験法および酢酸ライジング疼痛試験法で鎮痛作用を示した。また、この鎮痛作用はチペピジンを連続投与してもその作用強度に変化は見られなかった。さらに、坐骨神経結紮による難治性疼痛モデルにおいて、モルヒネとの併用で鎮痛作用を示すことが示唆された。このように、GIRKチャネル阻害作用をもつチペピジンは新規の鎮痛薬および鎮痛補助薬になり得ることが示唆された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。GIRKチャネル阻害作用を持つ鎮咳薬チぺピジンが鎮痛薬・鎮痛補助薬として使える可能性を証明した点は高く評価できる。さらに有効性・有用性の高いチぺピジンの誘導体を見出す計画も立てており、早急な開発候補品の絞り込みが望まれる。製薬企業に共同研究を働きかけるということなので、期待したい。
複合的作用に基づいて中枢神経細胞を保護する薬物の創製 熊本大学
香月博志
熊本大学
荒木寛幸
パーキンソン病や脳卒中といった神経変性を伴う疾患の予防・治療手段として、ヘムオキシゲナーゼ-1 (HO-1)および脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現をともに誘導する薬物の探索・創製を目指した。その結果、パーキンソン病モデル動物において既知の活性化合物と同等の神経保護活性を有する化合物1種を見出した。また、HO-1/BDNF発現誘導効果をもたらす上で要求される化合物の特性について新たな情報を得た。加えて脳卒中動物モデルについては、パーキンソン病に対するものとは異なる薬理活性を持つ化合物群が有効であることを見出した。これらの知見は今後、臨床適用への展開が可能な化合物の創製につなげられるものと期待される。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。パーキンソン病モデルに対してフェルラ酸がCAPEと同等以上のドパミンニューロン保護効果を発揮することを見出した点、研究途上で得られた知見を別の切り口から中枢神経疾患治療薬創出につなげるために活用しようとする姿勢は評価できる。今後「神経保護を基盤とした中神経疾患治療薬」の創製に結びつく研究展開が期待される。
ヒトに類似した皮膚をもつ無毛高度免疫不全マウスの創成 熊本大学
岡田誠治
熊本大学
荒木寛幸
ヒトと同じ厚さの皮膚を持つ新規無毛高度免疫不全マウス(Hairless Rag-2/Jak3二重欠損マウス)の樹立と製品化を目的として研究開発を行った。Hairless Rag-2/Jak3二重欠損マウスは、従来汎用されてきたNudeマウスに比べて、ヒト細胞が有為に生着しやすく、また無毛で皮膚が薄いため、蛍光標識した生体内の腫瘍などが経時的・定量的に解析可能であり、ヒト癌研究・感染症研究以外に、ヒトの皮膚研究、再生医療や幹細胞研究(iPS,ES細胞)への市場の拡大が期待できる。本マウスは既に特許申請中の案件の一事例であり、今後、作成したマウスを用いた抗腫瘍薬の定量系を構築し、新たな特許の取得を目指す。また、企業と提携して本マウスの製品化を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。Hairless Rag-2/Jak3二重欠損マウスを樹立し、新規無毛高度免疫不全マウスとして製品化することを目指した研究であり、研究の目的と研究計画は非常に明確である。当初の目標はほぼ達成されたことは評価できる。本マウスは、無毛であるため扱いやすく、イメージングにも適する。今後、癌、感染症、再生医療など多くの市場への拡大が期待できる。
フランス松樹液の生体内感染系における抗ウイルス活性評価に関する研究 鹿児島大学
小原恭子
鹿児島大学
遠矢良太郎
これまでに、ピクノジュノールのHCV1b 型への複製抑制効果のIC50 は、6~10μg/mL, 2a型に対しては40μg/mL であった。また、HCV (2a 型)感染細胞へのIC50 は約5μg/mL で、細胞内より細胞上清中でより強い抗ウイルス活性を示した。インターフェロン(IFN)に対しピクノジュノールは強い相乗効果を示し、IFN とリバビリンに対しては相加効果を示した。本研究ではHCV が感染するヒト肝臓キメラマウスを用い、ピクノジュノールのHCV 感染抑制効果を検討したところ、ピクノジュノール単独投与ではウイルス量の増加は抑制したものの減少させる事はできなかった。またIFNとの同時投与でも、顕著な相乗効果は見られなかった。臨床的には部分的に抗ウイルス効果がある可能性が示唆されている為、今後の検討を要する。 当初目標とした成果が得られていない。ヒト肝臓キメラマウスを用いてピクノジュノールのC型肝炎ウイルス感染抑制効果を検討したが、ピクノジュノール単独投与においても、IFNとの同時投与でも、当初の期待と異なり、ウイルス量を減少させる事ができなかった。有効性を示唆する新たな情報が得られない限り、ピクノジュノールはC型肝炎ウイルス感染抑制物質として有効な効果は認められないと結論付けられる。
シクロデキストリン誘導体を用いた薬物結晶多形のスクリーニングキットの開発 熊本大学
東大志
熊本大学
松本泰彦
薬物の準安定形の結晶は、安定形に比べ溶解性やバイオアベイラビリティが高いことから、準安定形結晶を選択的に調製可能な結晶化条件を速やかに見つけ出すことが望まれる。本申請課題では、12穴もしくは 96穴プレートの小スケールにおいて、ジメチル β-シクロデキストリン (DM-β-CyD) 溶液中で薬物を結晶化し、準安定形結晶を選択的に調製可能であるか見極めることを目標に検討を行った。その結果、本法を用いて、トルブタミドの準安定形結晶を選択的に調製可能であることを見出した。また、本法はトルブタミドのみならず、他の 2 種類の薬物においても有用であった。以上の結果より、本システムは小スケールで簡便に薬物の準安定形結晶を調製可能であり、結晶多形スクリーニングを行う際の有用なツールになり得ることが示唆された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。準安定形結晶を選択的に調製することが可能になったことは評価できる。しかし、2-3の化合物を対象とした検討に留まっているため、本手法の普遍性については更なる検討が必要である。原理自体は公知であるため、技術移転には今後の工夫も望まれる。企業では、薬物濃度、pH、温度等、種々の条件でのスクリーニングが予想されるため、プレートスケールでも様々な条件下での結晶化を検討し、条件によって結晶形や収率に差があるか否か示すべきであろう。今後の更なる最適化に期待する。
癌細胞特異的かつ安全な送達システムを利用したマイクロRNA補充療法 熊本大学
有馬英俊
熊本大学
松本泰彦
本課題研究では、癌細胞へのマイクロRNA補充療法に基づく新規癌治療システムの開発を目的に、ヒト乳癌細胞におけるanti-oncomirであるmiR-125A/Bと我々が開発した癌細胞選択的キャリアである各種Fol-PαC の中で、Fol-PαC (G3) を用いて、miR-125A/Bとの相互作用、複合体の物理化学的性質、血清中における安定性、細胞増殖抑制効果および細胞障害性について検討を行った。Fol-PαC(G3)とmiR-125A/Bはサブミクロンレベルの複合体を形成すること、また、50%血清存在下、Fol-PαC(G3)複合体は、miR-125A/Bの分解を顕著に抑制すること、さらに、Fol-PαC(G3)とmiR-125A/Bとの複合体をヒト乳癌細胞であるSK-BR-3細胞に導入後、細胞増殖が有意に抑制し、抗腫瘍効果を示すこと、加えてFol-PαC(G3)/control miRNA 複合体は、細胞障害性を示さないことを明らかにした。今後、小動物を用いた in vivo実験を行い、良好な結果が得られた場合、製薬会社等との共同研究の実施に向けた活動を行う。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。PEG化葉酸修飾α-CDE (Fol-PαC)(G3)の物理化学的性質や miR-125との相互作用については、ほぼ期待した成果が得られた。しかし、すでに遺伝子導入試薬として市販に至っているα-CDEと比べ優位性があるかどうかは不明確であり、癌細胞増殖抑制効果は期待したほど強いものではなく、また検討した細胞が2種類のみであることから特定の癌細胞に特異的であると結論付けるに足る情報は得られていない。今後、効果の増強が期待できるような改良を行い、in vivoでも効果が期待できる担体にして動物実験を行ってほしい。今後の更なる最適化に期待する。
天然硫酸化多糖サクランを用いた鎮痒消炎性創傷被覆スプレー剤の開発 熊本大学
本山敬一
熊本大学
松本泰彦
創傷に対する治療は、従来のガーゼと消毒薬の治療法から、創傷面の再生組織を殺傷させないために消毒薬を用いず、創傷面を被覆・保湿させることで、自然治癒を促進させる湿潤療法へと移行しつつある。本申請課題では、鎮痒消炎性を有する創傷被覆スプレー剤としての天然硫酸化多糖サクランの有用性評価を行った。TPA誘発性マウス耳介皮膚炎症マウスに対して、本剤は抗炎症効果を有することが明らかとなった。さらに、アトピー性皮膚炎モデルマウスに対して、サクランは鎮痒作用を示す可能性が示唆された。今回、鎮痒消炎性創傷被覆スプレー剤としてのサクランの有用性が示唆されたことから、今後、技術移転に向けて活動する予定である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。サクランを創傷治療のスプレー剤として開発するため、抗炎症作用、鎮痒作用、保湿作用を動物モデルで検証し有用性を見出した点は評価できる。この成果を基に企業と共同研究の協議を進めており、目標とする製剤がOTCと明確である。次のステップへ進めるための技術的課題も明確であることから、実用化に向けた今後の展開に期待したい。
アジア型2型糖尿病をターゲットにした新規抗糖尿病治療薬を開発するためのスクリーニングシステムの構築 熊本大学
魏范研
熊本大学
松本泰彦
2型糖尿病患者はアジア圏において急増している。アジア型2型糖尿病は非肥満、低インスリン分泌といった特徴を有する。しかし、これまでにアジア型2型糖尿病患者に特化した治療薬の開発が全く進んでいない。申請者は、アジア型2型糖尿病の原因遺伝子の一つであるCdkal1遺伝子の生理機能を明らかにしてきた。そこで、本研究開発においてCdkal1遺伝子機能を利用した新規作用機序を有する治療薬のスクリーニング系の構築を行った。また、同スクリーニング系による薬剤探索を行った結果、Cdkal1遺伝子機能の向上に繋がる新規薬物を発見した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。アジア型2型糖尿病治療薬の開発を目指してそのスクリーニング系を確立し、複数のリード化合物を見出したことは評価できる。一方、in vivo試験の結果が待たれるところであり、技術移転の観点からは、本スクリーニングシステムから見出されるタイプの薬剤に、既存のインスリン分泌薬と比べた場合にどれほど有用性があるのか、薬剤としての位置づけを明確にする必要があると思われる。ハードルは高いが、今後の展開に期待したい。
α-リポ酸誘導体の紫外線皮膚障害に対する効果の検証 大分大学
酒井久美子
大分大学
江隈一郎
私たちが合成したα-リポ酸誘導体は、メラニン産生を司る酵素チロシナーゼ活性を阻害する。紫外線による日焼けや加齢によるシミの防止に効果を発揮すると考え、特に阻害活性の強かったDHL-TauZn(ジヒドロリポイルタウリン亜鉛)の抗酸化能の測定、さらに紫外線感受性のマウスを用いて抗炎症能の検討を行った。従来の美白剤に比較して抗酸化能力は高かった。また、これを飲み続けた黒色マウスは毛の色が茶色となり、強力な美白作用をもつことが示唆された。今後、美白や紫外線による炎症に対する抑制効果を皮膚の組織学的解析により検討し、高付加価値の美白剤として商品化への検討を試みる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。合成したα-リポ酸誘導体の抗酸化能に関しては明白な効果が得られている。一方、紫外線照射実験では、病理組織学検査の結果が待たれるが、皮膚採取時の肉眼的所見をもとに、ある程度の効果を評価することはできなかったか。給水実験では体毛の色変化が観察されたが、今後、定量性を伴った動物実験が必要と思われる。知財取得に関しては、調査を進め、他の前臨床試験への展開も含めて検討していくことが望まれる。
がん細胞接着阻害を利用した難治性白血病抗体療法の開発 宮崎大学
兼田加珠子
宮崎大学
坂東島直人
転写因子EVI1は白血病の原因遺伝子候補であり、EVI1高発現白血病は抗がん剤耐性を示し予後不良である。我々はこの抗がん剤耐性性とEVI1高発現白血病細胞の持つ細胞接着性亢進に着目し、その原因がIntegrin高発現に依存したラミニン複合体への接着性の亢進によることを見いだした。
EVI1高発現白血病細胞の解析から、白血病細胞におけるラミニン複合体への高接着能がG0期細胞分画率を増加させ、細胞が静止期にあることにより抗がん剤耐性を得ている可能性を示した。またIn vivoにおいて当該Integrinの中和抗体処理が抗がん剤の効果を上げる可能性を示した。本研究において「EVI1高発現白血病細胞は、EVI1発現により標的Integrinの転写が亢進し、骨髄nicheでの細胞接着性を亢進して抗がん剤耐性性を発揮する」という仮説が示された。今後さらなる検討を行い、シグナル伝達経路及びIntegrinを標的としたEVI1高発現白血病に対する新規抗体療法の実用化を目指す。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。インテグリン中和抗体の腫瘍増殖抑制効果は現段階では十分とは言えないものの、抗癌剤との併用により、明確な担癌マウスの生存期間延長が示されたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、さらに基礎的なデータを蓄積したうえで安全性等も含めて更なる検証へと進めることが望まれる。新たながん治療領域の開拓への挑戦に期待したい。
乳化技術を利用した経粘膜透過製剤:牛過剰排卵誘導のための非侵襲性DDSホルモン製剤の開発 財団法人宮崎県産業支援財団
西片奈保子
(財)宮崎県産業支援財団
平井澄夫
優良母系家畜の作出のために使用されている卵胞刺激ホルモンFSH(6回)及びプロスタグランジンPG(2回)の筋肉内注射多回投与は、母牛へのストレスと作業負担が大きいため、単回投与かつ非侵襲性の投与法による効果的なホルモン剤の投与法確立が強く望まれている。そこで、多相ナノエマルション等の乳化技術を応用してFSHおよびPGをDDS(薬物送達システム)製剤化し、非侵襲性製剤の開発を試みた。1)高分子タンパク質であるFSHは通常粘膜透過性が得られないが、S/O/W型エマルション化により若干の透過性が得られた。しかしエマルションの粘膜傷害性改善が必要であることがわかった。2)PGは乳化素材(油脂)への親和性が高く放出が困難であった。以上から、両ホルモンの非侵襲製剤化にはキャリア素材のさらなる検討が必要である。 当初目標とした成果が得られていない。FSHなどのホルモンの単回投与法/非侵襲性投与法を確立するため、多相ナノエマルション等の乳化技術を応用したものであるが、当初予想した結果が得られなかった。In vitroの粘膜透過性試験においても期待値と乖離しており、今後の研究継続の見通しが見えない。今回の研究で見えて来た課題を一つ一つを解決し、その上で産学協同などの研究にステップアップし、実用化の見える研究に発展させることが望まれる。
サンゴより抽出された翻訳阻害剤ヒップリスタノールのウイルス関連血液悪性腫瘍への治療応用 琉球大学
石川千恵
琉球大学
宮里大八
ヒップリスタノールの原発性体腔液性リンパ腫(PEL)、バーキットリンパ腫及びホジキンリンパ腫に対する抗腫瘍効果を検証した。その結果、これら3種のリンパ腫に対する治療効果を確認できた。また、PELモデルマウスによる検証では生体における薬剤安全性を確認するとともに、その効果を実証することができた。今後も実験室レベルでヒップリスタノールの効果やその作用機序の解明を進める予定であり、学会及び論文発表を通してその成果を社会へ還元していく。本研究開発成果はヒップリスタノールの新規抗腫瘍薬剤としての臨床応用へ向けた基盤形成に繋がった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。ヒップリスタノールの原発性体腔液性リンパ腫(PEL)、バーキットリンパ腫及びホジキンリンパ腫に対する抗腫瘍効果が動物、細胞レベルで検討され、そのメカニズムも期待通りと思われた点は評価できる。一方、細胞レベルの解析に偏りすぎたために、将来を見据えた動物レベルでの検討にほとんど進展がななかったことが惜しまれる。技術移転を目指すためには、培養系癌細胞を移植した動物を用いて、抗がん作用を個体レベルで検定することを目的とした計画を早急に策定して、研究を遂行する必要がある。
抗癌剤の予期せぬ作用による癌ミサイル療法の新展開 琉球大学
刈谷研一
琉球大学
宮里大八
癌抗原に対する抗体での癌ミサイル療法は抗原が多いほど有効である。或る種の抗癌剤による特定抗原のmRNA発現増加を半定量的に見出したので、本療法への技術移転可能性検証の第一歩として、増加率10 倍を目安に、ヒト培養細胞とマウス移植腫瘍での定量解析を目標とした。mRNAの定量リアルタイムPCRで上記抗癌剤により類似コピー数まで増加を認めた癌細胞株が3種あり、増加率は、或る子宮癌細胞で約10倍、或る肺癌細胞で約1000倍、或る大腸癌細胞で約50倍であった。また、この大腸癌細胞の異種移植担癌マウスに上記抗癌剤を投与し約5倍の増加を認めた。他の癌細胞も含め投与プロトコルと増加率の関係をさらに検討したい。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、ミサイル療法に適した特定癌抗原の遺伝子発現増強機能を持つ、5-azadeを見いだした成果が顕著である。一方、技術移転の観点からは、ミサイル基材開発などでの実用化が期待される。共同研究の計画も明確に立てられており、今後は、企業を入れた共同研究を推進されることが期待される。
微生物の生産する抗マラリア活性化合物 琉球大学
松井徹
琉球大学
宮里大八
マラリア原虫のヘム重合活性を阻害する微生物培養液から活性画分の一つを精製し、同定した結果、トリプトファンであった。トリプトファンを含むアミノ酸の効果については既に報告があるため、特許出願には至らなかった。トリプトファンの構造類似化合物についてもin vitroでの評価を実施したところ、インドールカルボン酸等に高い活性が認められ、今後は、再現性評価、in vivoでの評価について実施する必要がある。また、次世代シーケンサによる活性成分生産微生物のゲノム解析の結果得られた二次代謝産物生合成関連遺伝子の情報を活用して他の活性成分の推定についても進めていく必要がある。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。結果的に既知のアミノ酸であったものの、物質の単離と精製、そして構造決定に成功したことに関しては評価できる。活性化合物採取のために、抽出、精製、同定、活性判定を繰り返し、技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、戦略を練り直す方針を検討しながら、物質が同定されていない活性画分の研究を続けることが望まれる。

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