評価結果
 
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事後評価 : 【FS】探索タイプ 平成25年2月公開 - 有機化学分野 評価結果一覧

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課題名称 研究責任者 コーディネーター 研究開発の概要 事後評価所見
迅速かつ簡便なキラル分析を実現する高分子キラルセンサーの開発 旭川工業高等専門学校
堺井亮介
苫小牧工業高等専門学校
土田義之
今日、産学問わず幅広い領域で強く求められている迅速かつ簡便なキラル分析を実現する革新的手法を提供するために、本研究ではキラル物質のキラリティーを異なる色で示す高分子センサーの開発を目指した。本研究で合成した共役ポリマーはキラル物質のキラリティーを認識し、異なる色調変化を示すことが明らかとなった。従って、この共役ポリマーを用いることでキラル物質のキラリティーを色調から決定することが可能であり、目的としたキラルセンサーの開発に成功したと言える。今後さらに、センシング可能なキラル物質の適用範囲の拡張等を図ることで、実用化に繋がる可能性を大いに有している。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、キラルセンシングに利用可能な材料を見出し、その材料がキラリティーに依存した色調を示すことを確認し、光学純度の決定の可能性を示し点に関しては評価できる。但し、光学純度と色調の関係については微妙な変化であるので更なる確認検討が必要と思われる。一方、技術移転の観点からは、実用化にはキラル物質の適用範囲の拡張が必須であり、研究責任者はそのことを十分認識しているのでA-STEP本格研究開発ステージへのステップアップ等が望まれる。今後は、キラルセンシング用材料の種類を増やすと共にセンシング可能なキラル物質の適用範囲の拡張に取り組まれることが期待される。
発光性キラル高分子の開発 北海道大学
中野環
高効率な青色および緑色円偏光発光を示す新規ポリフルオレン誘導体の合成に成功した。このポリマーは植物由来のl-メントールに由来するネオメンチル基を含む9-ネオメンチル-9-ペンチルフルオレン-2,7-ジイル単位から成る。この単位から成る単独重合体、9,9-ジオクチルフルオレン-2,7-ジイル単位との交互共重合体およびランダム共重合体を合成し、これらのうち交互共重合体が最も効率の高い青色および緑色の円偏光発光を示した。また、新規なハイパーブランチ型光学活性ポリマーであるポリ(9-ネオメンチル-9-ペンチルフルオレン-2,4,7-トリイル)の合成にも成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。但し、青色円偏光発光を示すネオペンチル基を側鎖に有するフルオレン誘導体の交互共重合体の合成に成功している点は評価できるが、当該材料の円偏光発光特性の測定には至っておらず、高い発光効率を有する赤色円偏光発光材料の創成についても結果が得られていないため、今後の課題は明確になっていない。一方、技術移転の観点からは、今後の研究開発計画について検討はされているものの具体的かつ的確ではなく、次のステップに向けての技術的課題をもう少し詰めることが望まれる。既に企業との共同研究が行われており、その緊密な連携関係により本発光材料を用いた安価なディスプレーが実現するなど、研究成果が応用展開されることが期待される。
重要医薬原料「光学活性α-ヒドロキシラクトン類・エステル類」の高純度合成 北海道大学
大熊毅
本課題は、医薬等の合成原料として需要の極めて多い光学活性α-ヒドロキシラクトン類・エステル類を効率的かつ高純度に供給する方法の開発を目指すものである。申請者が独自に開発した「光学活性銅触媒を用いるα-ヒドロキシラクトン類・エステル類の不斉カルバモイル化を経る速度論分割技術」をブラシュアップし、他法では合成困難な第三級アルキル基をもつ光学活性α-ヒドロキシカルボニル化合物を、容易に合成出来るラセミ混合物から500-5000分の1当量の触媒を用い、1-6時間の反応で得る方法を確立した。分子の左右を見分ける選択性 >100:1(最高261:1)を達成した。今後は化学系企業と協力し、医薬品等の有用化合物合成に向けた検討を行う予定である。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、特許は出願されていないが、実用化に向け明確に設定された目標を高度に達成されており、技術移転につながる実用性の高い研究成果が得られている点は評価できる。反応溶媒(ジクロロメタン)の変更やターゲットの選定が今後の技術的課題と考えるが、特に前者については示されていない。技術移転の観点からは、企業との連携を通じて今後の研究計画が決定される段階に来ており、産学共同による研究開発となる可能性は極めて高い。今後は、溶媒の問題やターゲット分子の設定、光学分割による不要鏡像体の再利用などの検討など、企業との連携による実用化に向けた取り組みが期待できる。
高い耐紫外線性を発現する高強度PEEK基ナノコンポジットの開発 北海道大学
中村孝
北海道大学
城野理佳子
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)は強度、靭性、耐熱性、耐放射線性等を高いレベルで合わせ持つスーパーエンジニアリングプラスティックである。しかし、その耐紫外線性は一般のプラスティックと同程度であり
必ずしも高くはない。本研究では紫外線遮断能力を有するナノ粒子を基地に高度に分散させることにより、
宇宙を含む極限環境でも使用可能な PEEK 基コンポジットの開発を試みた。溶融攪拌と振動圧縮を組み合わせた新たな製造プロセスを提案し、これを用いてナノコンポジットを試作した。そして、そのナノコンポジッ
トの粒子分散性、耐紫外線性、機械特性等を評価した。その結果、これらの諸特性を従来品に比べ向上さ
せた PEEK 基ナノコンポジットの開発に成功した。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)材へのナノ粒子充填による「PEEK基ナノコンポジット」の製造プロセスとして「溶融攪拌+振動+圧縮」という新たな手法を提案し、粒子分散性を向上させる事に成功した。紫外線照射色差についても目標値を達成し、耐紫外線性を向上させた。一方、硬さ向上の目標は達成できておらず、靭性など材料特性の評価および改善は未達成である。今後は、技術移転を意識して、ナノ粒子の粒径や分散性、粒子充填密度の更なる向上を目指すなど事業化に向けて解決されるべき課題を検討し、共同研究企業を得て、連携を進めながら製造プロセスの改良や性能の向上を期待したい。
高効率原油増進回収に向けた二酸化炭素用増粘界面活性剤の開発 弘前大学
鷺坂将伸
弘前大学
工藤重光
原油増進回収の溶媒として利用される高密度CO2に対し、低回収率の原因となる低粘度を改善するため、棒状逆ミセルの形成により粘度を2倍以上に増大させる検討を行った。界面活性剤をCO2によく溶解させるためにはフッ化炭素を導入することが要求されるが、環境負荷が高いため、フッ化炭素をできる限り少なくしたCO2溶解性界面活性剤を設計、合成した。合成した界面活性剤のうち、炭素鎖長6の一本のフッ化炭素鎖をもつハイブリッド界面活性剤が、小角中性子散乱測定(SANS)測定および解析から、超臨界CO2中で棒状逆ミセルを形成することがわかった。発見された棒状構造のアスペクト比は4.1倍であり、それは1.2倍程度のCO2の粘度増大を起こしているものと示唆される。目的の2倍の粘度増大には至らなかったものの、棒状逆ミセルの発現は、超臨界CO2系では極めて稀であり、原油増進回収に向けたCO2増粘界面活性剤の開発に大きく道を切り開いた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。棒状逆ミセルの形成により、原油増進回収の溶媒として利用される高密度COの粘度を2倍以上に増大させることを目指したテーマであるが、中でも、本研究開発期間で高密度CO中に棒状ミセルが形成される現象の理解につながる知見が得られたことについては評価できる。一方、フッ素系界面活性剤に替わる炭化水素系界面活性剤の開発を試みたが十分な成果は得られていない。また、フッ素系界面活性剤を用いて高密度COの粘度の増大は実現されたものの、目標を大幅に下回った。従って、現時点での研究成果の応用展開、技術移転の可能性は低いものと判断される。当面は将来の応用を目指した基礎的な研究を継続することが望ましい。
新規液晶表示媒体アモルファスブルー相材料の開発 弘前大学
吉澤篤
弘前大学
上平好弘
本課題では15℃-35℃の温度範囲でアモルファスブルー相III(BPIII)を発現し、室温における応答時間が1ms以下のブルー相液晶材料の開発を目標とした。実用的なシアノビフェニル系ネマチック液晶組成物に含フッ素棒状液晶とT型ブルー相安定化剤を混合し、得られた液晶材料にキラル化合物を添加することで、28.5℃から47.9℃の温度範囲でアモルファスブルー相IIIが発現した。その全温度領域で電界-透過率曲線にヒステリシスがなく、応答時間は1ms程度であった。低分子系のみでブルー相の温度範囲を拡大し、ヒステリシスフリーの高速応答材料を開発する指針が得られた。しかし、駆動電圧の低下には至らなかった。今後は国内外の機関と共同し、駆動電圧の低下を目指す。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。対象とする液晶材料の開発目標として挙げた作動温度範囲、応答時間、駆動電圧の物性値に関して、作動温度範囲と応答時間についてはほぼ目標値を達成している点は評価できる。一方、駆動電圧は目標値には達していない。また、特徴である高速応答性も35℃以下では急速に劣化してしまうため、実用化のためには更なる技術的検討が必要と思われる。研究手法として、従来の液晶材料に混合、添加などを駆使して実用に適うブルー相発現を狙っており、極めて応用指向に特化した研究であるが、今後ブレークスルーのためには、従来の研究手法にとらわれないアプローチも求められる。
直接メタノール形燃料電池用セルロース誘導体電解質膜の開発 地方独立行政法人青森県産業技術センター
葛西裕
(財)21あおもり産業総合支援センター
安保繁
本研究開発では、直接メタノール形燃料電池(DMFC)への利用を目的として天然高分子であるセルロースを原料とした高分子電解質膜の開発を行った。開発した電解質膜は含水時の膜面方向の寸法安定性に優れ、従来のスルホエチルセルロース/ポリビニルアルコールブレンド電解質膜よりも引張強度が乾燥時で2倍以上、含水時で4倍以上向上させることができた。この電解質膜を用いてパッシブ型DMFCを作製したところ4.5mW/cm^2の出力が得られた。今後はさらなる発電性能の向上のために電解質膜への電極の形成技術の確立やDMFCの耐久性評価を行っていく予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、直接メタノール形燃料電池(DMFC)用電解質膜として、天然高分子であるセルロースを原料とした高分子を複合化することにより膜の引張強度を大幅に高めることに成功したこと、室温で9MPa程度の引張強度を維持する期間が1.7年であることを示したことは評価できる。技術移転の観点からは、室温で2年経過後も初期の70%以上の発電性能を維持するというデータを示すなどの膜劣化に係るデータを積み上げられ、然るべき企業との連携による実用化が望まれる。DMFC用電解質膜としての実用性は既に示されており現状の課題認識も妥当だと考えられるので、今後は、実用化に向けた実証実験を行いつつ膜性能を向上させる研究に移行することが期待される。
電荷移動型自己組織化単分子膜(SAMs)を活用した有機TFT一体型高性能フレキシブル有機ELの試作開発 岩手大学
小川智
岩手大学
近藤孝
近年、有機TFT(薄膜トランジスタ)を用いたフレキシブルな表示デバイスの実現の可能性が近づいた。しかしながら、自発光照明として期待されている有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子と有機TFT素子の双方にフレキシビリティーを付与しつつ、効率的に高性能化を図らなければならないという問題点が残されている。研究責任者はこれまで有機TFTについては満足すべき研究成果を得たが、有機ELが十分な性能に達していない。そこで本申請課題では、これまで開発してきた技術を有機ELに適用して高性能フレキシブル有機EL素子を開発し、高性能有機TFT素子と組合せ、自発光照明の安定動作が可能な一体型の試作品を開発する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。各図面についての説明がなされていないことと、その構造決定の根拠説明がないので判定しにくく、特許の取得は特に今回はないが、学会発表等については積極的に行われており、当初の研究目的は達成されている。一方、技術移転の観点からは、特許出願についての具体的方策と、次のステップの具体的指針を示して、企業化に向けた具体的な取り組みを行うことが望まれる。フレキシブル有機ELは潜在的なマーケットニーズも大きいが、企業化に向けた取り組みはやや不十分であり、実用化に向けた取り組みを加速されることを期待する。
結晶化によるラセミ化合物の光学分割手法の開発 岩手大学
横田政晶
岩手大学
小川薫
銅錯体形成法によるDL-アミノ酸の光学分割を高純度かつ高効率に実施する方法論を開発した。例えば、DL-アラニン(Ala)の場合、酢酸銅一水和物とともに液相で結晶化させることにより、D-Alaが選択的に銅と錯体を形成し、容易に沈殿を形成することを見出した。この際、L-イソロイシン(Ile)を加えることが重要で、L-Ile が光学活性体分子を不斉認識することで、D 体もしくは L 体を選択的に配位させ、エナンチオマー選択性を待たせることが可能であることを示した。
さらに、添加剤にはよらない他の光学分割法の開発の基礎的な研究として、圧力結晶化による各種アミノ酸の結晶構造の変化についても検討した。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、銅錯体形成法による光学分割という当初の目標は達成され、研究責任者らの新規な発想の基礎的な実験検証ができたことについては評価できる。一方、実用化、企業化へは、さらなる基礎的探索研究が必要であり、もう少し時間がかかるが、今後の研究開発計画は的確に検討されていて、今後、実用化を視野に入れた産学共同研究の可能性はあると言える。この新技術は高純度なグルタミン酸、アスパラギン酸、分岐鎖アミノ酸などに適用ができ、医薬品、電子デバイス、光学デバイスの素材などに利用で、大きな波及効果が期待されることから、今後のさらなる研究進展が望まれる。
新規糖鎖固定化技術を利用した糖鎖アレイの開発 東北大学
野口真人
科学技術振興機構
木村恒夫
糖鎖アレイ構築に向けた新規糖鎖固定化技術の開発を目的として、遊離糖鎖を固定化用官能基であるアジド基の導入とガラス表面への固定化の検討を行った。脱水縮合剤を新規設計することで、従来法では必須であった、生成物であるアジ化グリコシルのクロマトグラフィー精製を省略することに成功した。また、新規脱水縮合剤は、既存の脱水縮合剤に比べて安定性を向上させることができたため、使用量の低減にも成功した。合成したアジ化グリコシルを用いて、アルキンを修飾したマイクロプレートウェルへの糖の固定化を行い、レクチン結合アッセイを行った。その結果、特定の糖鎖に対応するレクチンの選択的な結合が見られた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に反応条件の検討による収率向上、さらに、ガラス基板上への固定化とアッセイ系の確立とほぼ目標は達成されている点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、開発はほぼ完了しており、さらに種々の糖の応用例を増やすことで適用範囲を広げ、企業との共同研究による一連の作業・測定条件の標準化を経て、実用化されることが望まれる。特許化に関して不安があるが、今後は、応用例を増やすことで適用範囲が広がった形での試薬メーカーからの市販が期待される。
2次元配光制御を実現する光学フィルムの開発 東北大学
西澤真裕
東北大学
平塚洋一
目標として掲げた、フィルム透過拡散光の分布形状が明瞭な「正方形」「六角形」を形作るために必要な条件を明らかした。具体的には、硬化用紫外線光源として紫外線LEDを用い、その配置と周期的パラメータを変えることで照射面から見たLED配列パターンを変化させた。LED配列パターンの最適化により、フィルム透過拡散光がより明瞭な「正方形」または「六角形」を形作ることに成功した。また、フィルム原料最適化の試みから、光伝搬経路の多様化が『拡散光分布の均一化』に寄与する事を明らかにした。フィルム内部構造の周期性に乱れを発生させることで、形状の内側に均一光拡散させる事に成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。光拡散フィルムの作製技術によりLED照明の欠点を克服する技術開発であるが、特に、フィルム透過拡散光の分布形状を「正方形」「六角形」とするために必要な条件を明らかした点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、LED照明などでの実用化が望まれる。今後は、関連企業との連携を深め開発を加速することが望まれる。
高耐酸性分離膜を利用した工業的エステル製造に関する研究 独立行政法人産業技術総合研究所
長谷川泰久
当研究では、耐酸性を有するゼオライト分離膜を利用したエステル製造に関する研究を実施した。その結果、分離膜による脱水が複数のエステル製造に有効であることを示すとともに、定量的な評価モデルを構築することができた。また、1回あたりのエステル化反応に伴う分離膜の性能低下を、40%から0.5%へと大幅に抑制することに成功した。加えて、基質容積を1L以上とした実験を実施し、反応器をスケールアップするときには、反応溶液の蒸発速度の制御が重要であることを明らかにした。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、性能劣化など本研究に用いた耐酸性のゼオライト分離膜の限界を明確にしたことについては評価できる。一方、劣化要因であるアジピン酸蒸気の付着防止に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。現行の有機溶媒を用いた共沸脱水技術に比べて、トルエンなどの有機溶媒が不要な本技術はよりクリーンな新技術として期待されるので、今後は、分離コスト上極めて重要な、膜の再利用率の当初目標を実現されることが望まれる。
不揮発性溶剤を用いる吸収式VOC除去・回収技術の開発 独立行政法人産業技術総合研究所
牧野貴至
独立行政法人産業技術総合研究所
松永英之
不揮発性かつ難燃性の溶剤を用いる、省資源・省エネルギーかつ高効率な吸収式VOC除去・回収技術の開発に取り組んだ。当該溶剤が、従来型の溶剤と比較して、高いVOC吸収特性を有すること、処理後のガス中のVOC濃度が排出基準値以下であることを実証した。また、VOCを吸収した溶剤からVOCを選択的に回収し、溶剤とVOCを、いずれもリサイクルできることを明らかにした。以上の結果は、従来にはない湿式のVOC除去・回収プロセスを構築できることを示す。今後、VOC除去・回収プロセスの省エネルギー化・高効率化を達成するため、企業連携を模索しつつ、溶剤の開発を推し進める。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。従来の溶剤と比較して、高いVOC吸収特性を有し、処理後のガス中のVOC濃度が排出基準値以下であることを実証している。また、VOCを吸収した溶剤からVOCを選択的に回収し、溶剤とVOCをいずれもリサイクルできることを明らかにした点も評価できる。一方、技術移転の観点から、溶媒の生産と利用に向けて、コスト面、投資面、認可面などの検討項目が残されていると考えられ、実用化のための具体的な検討項目の選定が重要と考えられる。本研究テーマは、社会的ニーズの高いテーマであり、迅速に特許出願を行い、実施企業の選定及び産学共同での研究開発を進めることが望まれる。研究成果が応用展開された際には、社会還元に導かれることが期待できる。
飽和炭化水素とアルコールを用いたプロピレン製造技術の開発 独立行政法人産業技術総合研究所
山口有朋
独立行政法人産業技術総合研究所
松永英之
本課題では、高い耐スチーム性を示すP/ZSM-5を触媒として利用し、反応物としてヘキサンとエタノールの混合物を使用した接触分解反応を行い、高収率でのプロピレン製造を検討した。反応温度およびヘキサンとエタノールの混合比率をパラメーターとして反応条件を精査し、目標とするプロピレン収率を達成し、24時間の連続反応試験においても安定したプロピレン収率(目標値)が得られた。さらに異種元素導入によるプロピレン収率の向上を検討し、目標値に近いプロピレン収率が得られた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。ベースとなる技術は明らかになっており、目標としていたプロピレン収率に対して、到達値は概ね達成されている。当面は本研究での成果をもとにナフサ分解工程にバイオエタノールを添加し、プロピレン収率の向上を図ることが有効なアプローチとなると思われる。ヘキサンをモデル化合物として利用しているが、ナフサへの切り替え等、触媒系の改良等の実用的課題を明らかにすることが次のステップと考えられる。一方、技術移転の観点からは、コスト削減効果の定量評価も必要である。研究成果を応用展開し、社会還元に導かれるためには、予定している特許出願を進め、大手企業との産学連携での共同研究開発が期待される。
高選択性レアメタル分離・抽出剤の合成開発研究 秋田大学
近藤良彦
秋田大学
伊藤慎一
本提案は、特に合成研究にターゲットを絞り、独立行政法人科学技術振興機構の事業である地域産学官共同研究拠点整備事業で設置した新たな解析機器を利用した、レアメタル新規抽出剤の合成に関する研究提案である。これまでの研究により、含硫黄大環状化合物であるチアカリックスアレーンは分子内に有する硫黄の影響により特にパラジウムやジルコニウムとの金属親和性が高いことが分かっている。そこで、本研究では、特にプラチナやニッケルなどの有価金属を高選択・高効率で抽出できる新規化合物の合成とその抽出効率について研究を行う。その結果、新規誘導体1種類の合成に成功した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。レアメタルの製造プロセスは、粗原料に多くの類似化学成分が含まれるため、特定の物質だけを選択的に抽出・分離・精製できることが重要である。抽出剤の研究としては、合成プロセス(反応効率)から単離精製プロセス(分離精度)に至るまでの総合的な評価が必要と思われる。今後は、既にレアメタル事業を営んでいる企業と連携し、粗原料からレアメタル最終製品の製造に係る全てのプロセスを総合的(経済性)に捉え、問題・課題を具体的に明確にし目標や分担を定量化して進めるられることが望まれる。
超音波照射を用いるメタンハイドレートの高効率分解・回収技術に関する研究 秋田大学
内田隆
秋田大学
伊藤慎一
R-11ハイドレートはメタンハイドレートとほぼ同じ物理特性を持つが冷温常圧で生成するだけではなく、可燃性メタンガスや加圧装置、恒温槽などの実験設備を必要としないため、可視状態でのハイドレート生成および分解挙動の観察に手軽で有効なハイドレートである。しかし、R-11の水への溶解度がかなり小さく、比重も大きいため、ハイドレート生成は予想以上に容易ではなかった。しかし、実験要領を得た後にハイドレート飽和率を100%、80%、60%に変化させた試料を作製し、超音波周波数28および200KHzを照射してハイドレートを分解させた。その結果、飽和率が小さいほど分解が顕著に進行し、また超音波周波数の違いによって分解効果が異なることが分かった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。深海底を想定した3℃冷温下において超音波照射によるハイドレート分解実験を実施し、超音波フラックスの指向性、周波数変化によるハイドレートの分解特性、超音波照射による局所的な分解効果等の成果が得られた点は評価できる。一方、メタンハイドレートは水深1、000mの海底下200m以上のところから採掘されるため、高圧下における超音波照射の検討等、本システムが実際に採用されるためには、今後クリアすべき問題点が残されており、研究を継続する必要がある。今後、検討されている計画の通り、JOGMEC主体のメタンハイドレート研究と連携をとり、減圧法の補助手段として超音波照射の有効性を実証することが望まれる。メタンハイドレートの高効率の分離回収技術は、今後のエネルギー事情を考えると、極めて重要な課題と思われ、社会還元が期待される。
液化木粉ポリオールを用いた軟質系ウレタンフォームの開発と応用 秋田大学
徳重英信
秋田大学
伊藤慎一
液化木粉樹脂を用いた軟質系ポリウレタンポリマーモルタルについて、PPGの添加率および分子量や加熱処理、使用骨材の種類をパラメータとして、曲げ強度と硬さ(衝撃応答加速度)について検討した。PPG添加に伴って曲げ強度は低下するが弾力性付与が可能となったがPPGの添加率と分子量の適切な選択が必要であり、さらに改良を重ねるためにポリオールの改良とイソシアネート剤の選定について継続する必要があることが明らかとなった。しかし、学会発表を行った内容について民間企業からのアクセスがあり、今後、実用化を想定した産学共同研究へと発展させていくこととなった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。軟質系ウレタンフォームの改良について、硬さ(最大衝撃応答加速度)が70G~90G、すべり抵抗値が35以上、及び、乾湿繰返し試験時の曲げ強度低下率を20%に抑える等の条件を全てを満たす材料開発する事を目標とした。曲げ強度と硬さについて、PPG添加率及び分子量、加熱処理等をパラメータとして検討した結果、PPG添加率と分子量を適切に選択し添加率に応じた過熱処理の有無の選択が必要であることを明らかにした。しかし、耐久性を向上した樹脂主剤を開発する目標に対して、樹脂自体の改良にまで到達していない。当初目標である、所要の品質を確保できる軟質ウレタンフォームを得るため、さらなる研究が必要である。興味を示している企業と連携し、技術移転につなげられることを期待したい。
光硬化型シルセスキオキサン微粒子を基盤とした有機ー無機ハイブリッドコート材料の開発 山形大学
森秀晴
光硬化技術は、省エネルギー等、環境に優しい技術として広範囲な分野に普及し、各種産業分野で重要な役割を担ってきた。近年、特に光学ディスプレイ・フィルムといったエレクトロニクス分野において、ハードコート材料として様々な成長を遂げている。
本課題では、申請者が世界に先駆けて開拓した重要なシーズ(シルセスキオキサン微粒子の簡便・安価な合成手法)を基盤として、次世代の光硬化型有機ー無機ハイブリッドコート材料の開発を目指す。特に、企業での大量合成と実用特性評価に向けた技術課題を解決するため、フッ化水素(HF)を使用しない合成ルートの確立と水酸基を含まないシルセスキオキサン微粒子の合成手法の確立を目指す。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。本研究は、シルセスキオキサン微粒子に光硬化機能をもたせ、ハードコート材料への応用を意図した有機―無機ハイブリッド材料の開発を目指したもので、この研究開発期間の目標は達成されている。特に、シルセスキオキサンの工業生産に向けて、腐食や安全性の観点からフッ化水素の替わりにフッ化アンモニウムを用いる合成ルートを開発し、技術課題の一つを実験室レベルでは解決した点が評価できる。技術移転の観点からは、企業と協力して進めており、共同で特許出願もされている。今後、開発した合成ルートが工業生産に適用できるかどうかが今後の技術移転の鍵を握っている。シルセスキオキサンの光硬化機能の付与と評価に関する研究が今後の課題であり、これが達成されれば技術移転につながり、エレクトロニクス分野への社会還元になることが期待される。
未利用天然ゴム資源の活用による循環型(生合成-分解)システム構築 山形大学
大谷典正
山形大学
櫻井宏樹
パラゴムノキ由来の天然ゴムは植物が生産する最も有用な高分子材料であるが、ゴムアレルギーや単一種であるための危険性、需要増大に対する供給不足は深刻である。本研究では、新規天然ゴムリソースとして雑草由来ゴムの工業的利用に向けた高機能化および効率的産出系構築を検討した。ゴム分子量が低いこととゴム産出量が少ない理由から実用に適さない雑草ゴムを、培養条件やエリシター添加などの最適条件を見出すことにより分子量調節機構を変化させることで、野生に生育する植物の数倍の高分子ゴム生産を可能とした。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、セイタカアワダチソウカルスのゴムを用いて野生の植物由来ゴムの平均分子量の3倍以上の高分子化を達成したことと、雑草からのゴム抽出に使用する溶剤量を半減する精製法が開発したことは評価できる。一方、高分子化の要因解析など、網羅性と確実性のある天然ゴムの分子量調節の機構解明に向けたデータの積上げなどが必要と思われる。今後は、新規特許出願も踏まえた技術移転への展開が望まれる。
有機薄膜太陽電池を指向した有機半導体ナノ結晶の薄膜化 山形大学
増原陽人
山形大学
歌丸和明
目標;サイズ・形状制御された有機半導体ナノ結晶をウェットプロセスにて薄膜作製する手法を確立することで、有機薄膜太陽電池を構築し、変換効率向上への最適なナノ構造の道筋を明らかにする。
達成度;再沈法をベースとした手法によりサイズ15-400 nmの範囲でC60ナノ結晶の作製に成功した。またそれらナノ結晶を液-液界面集積法によりナノ結晶の単層薄膜化にも成功した。これら薄膜は有機太陽電池の最適構造と言われる櫛形構造に類似した疑似櫛形構造をとる。
今後の展開;ナノ結晶の薄膜化最適条件(用いるナノ結晶サイズ及び薄膜化条件)および多層構造化の為の最適溶媒条件等をさらに探索する必要があり、また窒素雰囲気下といった素子作製環境を整えることも重要である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、180nmの膜厚ではあるがC60ナノ結晶から単層膜を作製する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、この単層膜を用いた太陽電池の変換効率は0.045%と低く(目標5%)、太陽電池用への実用化には多くの技術的課題が残されている。研究責任者らのナノ粒子作製法は実用価値の高いものなので、今後は、太陽電池以外への応用にも目を向けることが期待される。
溶剤可溶性を示す高耐熱性芳香族ポリケトンの開発 山形大学
前山勝也
山形大学
櫻井宏樹
本課題では、高性能エンジニアリングプラスチックの一つである「芳香族ポリケトン」素材の一層の高耐熱性・十分な溶解性・十分な高重合性の付与を図ることを目指した。高耐熱性の目標値として、ガラス転移温度240度以上のポリマーの開発を目指し研究を行った。すなわち、ポリケトン主鎖に、十分な溶解性を付与することを目的に、「1,1’-ビナフチル単位」を導入し、その2,2’-位での分子鎖伸長を試みた。その結果、パラジウムナノクラスター触媒を使った鈴木-宮浦クロスカップリング重合反応を行うことで、ガラス転移温度240度を超える可溶性芳香族ポリケトンの合成を実現した。さらなる耐熱性の向上を目指し、「1,1’-ビナフチル単位」からの分子鎖位置の変更および組み込む芳香族単位の分子設計の改良を行うことにより、ガラス転移温度290度を超える可溶性芳香族ポリケトンの合成を実現した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。耐熱性と可溶性に優れるポリケトンの合成を目的とした研究であるが、特に、力学的・機械的性能は不足してはいるが、メトキシキ基含有のビナフチル骨格で300℃近いガラス転移温度を有するポリケトンを見出した技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、重合条件の最適化などにより高分子量化(機械的特性の向上)を実現し目論見通りの可溶性に優れるスーパーエンプラとしての実用化が望まれる。今後は、企業との共同研究により、力学的・機械的性能の改良と具体的用途への活用の検討を加速することが期待される。
新規近赤外吸収スクアリニウム誘導体の開発 山形大学
笹部久宏
科学技術振興機構
磯江準一
本研究では新規近赤外吸収スクアリニウム誘導体の開発を目的としている。新規近赤外吸収分子を開発し、最終的なエネルギー変換効率6%以上を目指している。本研究では、化学構造の異なる7種類のスクアリニウム誘導体の合成と特性評価を行った。その結果、脱水縮合反応は水酸基数が増えるほど容易に進行し、対応する誘導体を収率よく与えることを見出した。すなわち、四角酸との脱水縮合反応は芳香族化合物の電子供与性が高いほど反応性が高まる。得られた材料はいずれも希薄溶液中で645nm以上、固体薄膜では760nm以上に吸収を持つことが分った。有機薄膜太陽電池を作成したところ、塗布型5%、蒸着型6%の変換効率を達成した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、予定通りにスクアリニウム誘導体の合成に成功し、移動度は目標近くの値であったが低分子型有機薄膜太陽電池としては高い変換効率(6.3%)を得ていること、塗布型有機太陽電池も作成していることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、特許出願も検討され地元企業との連携で先ずは地元ニーズでの実用化が望まれる。今後は、課題としている材料の更なる開発による変換効率の向上と大面積化の内、特に大面積化を早期に実現されることが期待される。
高溶解性を有する無置換折れ曲がり型有機半導体材料の開発 山形大学
片桐洋史
科学技術振興機構
磯江準一
無置換折れ曲がり型の新規な有機半導体材料を開発し、現在プリンタブル有機エレクトロニクスの発展において大きな障害となっている材料の溶解性と安定性を克服することを目的とした。まず、材料合成の検討では、市販の原料から三段階の効率的な合成ルートを確立した。また、折れ曲がり骨格にもかかわらずπ共役系は伸長されることが吸収スペクトルから明らかになった。さらに、従来の直線的な縮合環数の増加による材料群とは異なり、1700 ppm(ジクロロメタン)の溶解性を示した。薄膜状態での高い配向性が得られ、従来トレードオフの関係にある分子の配向性と溶解性を共に向上させることに成功した。今後、半導体特性の向上に向けて溶液プロセスでの薄膜作成条件の検討を行う。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、分子配向性と安定性、溶解性を併せ持つと考えられる無置換の折れ曲がったアセン化合物を分子設計し合成に成功したことと期待通りに溶解度を上げたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、現状では電荷移動度は低く分子配向性や半導体特性も未確認であるので、先ずは物性と特性の把握に注力することが望まれる。無置換の縮合環化合物による分子配向性と溶解性・安定性の同時追求は興味深いテーマなので、より共役系を長くした平面化合物も含め、技術移転を目指した研究の深化が期待される。
新規天然アミノ酸を高含有する機能性食品素材の生産技術の開発 福島工業高等専門学校
柴田公彦
福島工業高等専門学校
大隈信行
本研究では、機能性成分として期待されるN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)を安価に供給できる技術を確立することを目標とした。そのために、NMDAを高含有する生物の探索とそのNMDA含有量をさらに強化する方法を模索してきたが、その研究過程である種の微生物がNMDA生産能を有していることを見いだした。この微生物を培養する過程でNMDA含有量が増加することから、今後はその濃度をより高める培地・培養条件および簡便な抽出条件を確立させることが、実用化へ向けた課題である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、新たな分析手法を開発したことと目標濃度10mg/Lは未達であるが微生物を利用したNMDA生産への道を開いたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、高濃度を実現して機能性食品やサプリメント分野での実用化が望まれる。原料基質としてD-アスパラギン酸が、機能評価には動物実験も必要と考えられるので、今後は、企業との連携による実用化検討を進めることが期待される。
表面改質繊維を用いた軽量で柔軟性のある複合材料の設計 福島大学
金澤等
福島大学
森本進治
ポリプロピレン、超高分子量ポリエチレンからなる繊維の表面改質を行い、材料との接着性を高める。製造した改質繊維を、繊維強化プラスチック(FRP)用の繊維として用いた場合の性能を検討する。ポリプロピレンと超高分子量ポリエチレンはヤング率が小さい(弾性が高い)ため、製造したFRPには、ガラスまたは炭素繊維を用いたFRPと異なり、軽量で柔軟性が出ることが期待され、これまでのFRPと異なる性質が期待される。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。ポリプロピレンと超高分子量ポリエチレン繊維の表面改質により界面接着性を改良した繊維強化プラスチック(FRP)の性能を検討し、放電処理によって有機繊維と樹脂との接着性が改善されたことは評価できる。しかしながら、得られたFRPの強度は競合材料である炭素繊維を用いたCFRPやガラス繊維を用いたGFRPに比べ一桁低く、目標がすべて達成されたとは言えない。強度を落とさずに改良することが前提であり、FRP製造実機試験による本モデルの妥当性の検証が必要である。一方、技術移転のためには、繊維と樹脂の最適な接着強度の発現条件の追及や、UHMWPE及びPPの特性評価等のデータの積み上げも必要と思われる。本技術は、既存のFRPの製造過程による物性変動の低減につながる可能性があり、既に企業との共同開発に発展している。今後、技術移転へに向けた研究開発の継続が望まれる。
低コストかつ低環境負荷な有機薄膜太陽電池材料の合成法 筑波大学
桑原純平
本研究では、C-H 結合の直接官能基化を利用した重縮合によって有機薄膜太陽電池の素材となる π 共役高分子を合成することを目的とした。ビチオフェンモノマーの C-H 結合の直接官能基化を利用して含色素モノマーと重縮合を行い、目標とした分子量1万以上の高分子を収率80%以上で得た。合成した高分子の基礎物性を明らかにすると共に、有機薄膜太陽電池の活性層として機能することも確認した。開発した重縮合が太陽電池用素材の合成法として利用可能なことを明らかにし、今後は高い光電変換効率を示す材料の開発へと展開する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。テトラメチルビチオフェンとアクセプターとなるモノマーをトリアルキルホスフィンを配位子とするパラジウム触媒(Fagnou型)の反応を行い、分子量1万の有機薄膜太陽電池材料を合成しており、概ね期待通りの成果が得られている点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、有機薄膜太陽電池としての変換効率はまだ1%であり5%以上に展開させる必要があるが、今後の研究開発計画は具体的かつ的確に検討されており産学共同等の研究開発ステップにつながる可能性が高まっている。今後は、研究開発計画に基づいた成果から産学共同の研究開発に繋がることが期待される。
スパッタナノカーボン電極を用いたバイオマーカーの安定・高感度検出法の開発 独立行政法人産業技術総合研究所
加藤大
研究提案者らが開発しているスパッタナノカーボン薄膜電極を用いた生体分子の高感度計測の達成を目指した。具体的には、実尿中の極微量バイオマーカーである8-OHdGを対象にして、検出感度1 nM以下、再現性C.V.値1%以下を実現することを目標とする。上述の目標を達成するために、1)カーボン薄膜表面の最適化と、2)ナノカーボン電極用極微少量フローセルの開発を検討した。以上を検討の結果、目標を凌駕する検出感度500 pM、C.V.値2.8%(n=3)を得た。以上の優れた再現性と検出限界値から、本電極が実試料中のバイオマーカーを定量するためのHPLC分析用カーボン電極として技術移転の可能性があることを見出した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ナノカーボン薄膜電極の目標感度と再現性を実証し、更には検出器とするためのフローセルの設計まで手掛け、HPLC分析用として妥当な結果を得たことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、電極としての品質を担保する検討も行い、HPLC検出器などでの実用化が望まれる。今後は、応用範囲を広げるために、スパッタナノカーボン電極の特徴を活かせる測定対象物の探索へも研究を広げることが期待される。
活性点の配置を精密制御した高性能固定化金属錯体触媒の開発 独立行政法人産業技術総合研究所
深谷訓久
嵩高いリンカーを利用し、SH基を配位子として有する固定化パラジウム錯体触媒を新規に開発し、臭化アリールとフェニルボロン酸を用いた鈴木カップリングにおいて、従来型触媒よりも低いパラジウム流失量を実現するとともに、目標である、収率90%以上を維持しつつ10回のリサイクル利用を達成した。今後、実用化に向けて、リンカーユニットの製造コスト低減を目指し、合成プロセスの最適化・合理化に取り組む。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、触媒量0.05mol%以下、収率90%以上で10回以上のリサイクル使用が可能な触媒の開発と云う当初目標を達成し、学術的には興味深い知見も得たことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、企業の開発関係者が記載しているように大幅なコスト削減を実現すると共に対象とする基質も増やした実用化が望まれる。今後は、鈴木カップリング反応の他の優れた触媒との比較も行ない、知財権の確保も検討されることが期待される。
光と熱による書換えが可能な新しいデジタルペーパーの開発 独立行政法人産業技術総合研究所
木原秀元
独立行政法人産業技術総合研究所
池上敬一
我々が開発したアントラセン化合物とポリマー樹脂からなる複合薄膜サンプルを作製し、その薄膜に加熱・光照射を施すことにより、パターンの書込み・消去ができるような新しいデジタルペーパーの開発を目標とした。ある種の耐熱性ポリマーとアントラセン化合物を溶解した溶液をガラス基板に塗布することにより、相分離構造を有する白濁サンプルが得られた。このサンプルを加熱しながら、UV光を照射することにより、白濁-透明のコントラストを有する光パターンを作製することができた。また、軽量かつ屈曲可能なプラスチック基板上へのパターニングも可能であった。一方、パターン作製後の消去・書換えは今のところ達成しておらず、今後の研究課題である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。具体的には、耐熱性の樹脂とアントラセン化合物の混合溶液から溶媒誘起相分離法により、白濁フィルムを作製し、書換え可能とは言えないが加熱・紫外線照射により光パターンを書き込むことができており、当初目標は概ね達成されたと評価できる。一方、技術移転の観点からは、今後の課題である書換え可能となるフィルムが調製できれば、技術移転を目指した産学共同等の研究開発ステップに繋がり電子ペーパーとしての実用化の可能性は高まると考えられる。構造変化を利用して電子ペーパーとするには、分散構造の形成や耐熱性熱拡散等の特性の評価も必要であり、結晶非晶間の転移のダイナミクス(速さ)の解析にも取組まれたい。
新規有機薄膜太陽電池用半導体材料の開発 宇都宮大学
伊藤智志
宇都宮大学
山村正明
本研究課題で、当初目標(10種類)を大幅に上回る27種類の新規テトラベンゾポルフィリン誘導体の合成を行った。そのうちの16種類について各種特性の測定を行ったところ、有機薄膜太陽電池の性能向上を期待できる誘導体を3種類見出すことが出来た。特に、メソ一置換テトラベンゾポルフィリンの一つの誘導体は、これまでに最高性能とされたものよりも優れた物性を有することが明らかとなった。以上の結果から、本研究課題は当初目標を大幅に上回る成果があったといえる。今回得られた研究成果については出来るだけ早い時期に特許出願を行った上で、今回得られた知見を基に更なる新規誘導体の開発を行い、本研究成果に興味を示している企業と連携して有機薄膜太陽電池の向上を試みる予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、700nm以上の近赤外で強い吸収を持つ、電子移動度が比較的高いテトラベンゾポルフィリン(BP)誘電体が合成されたことの価値は高く評価できる。一方、技術移転の観点からは、研究開発実施中に行った企業への材料提供を基に技術移転へ繋がることが期待される。今後は、本研究開発の大前提である、耐久性に優れ発電効率の高いn型半導体の合成に向けて、次のステップに結び付く方針を明確にし、開発した材料を用いる有機薄膜太陽電池の実用化開発を継続することが望まれる。
化学的進化による過剰紫外線障害対策分子の開発 宇都宮大学
二瓶賢一
宇都宮大学
山村正明
<目標> チロシナーゼは皮膚の光老化現象の鍵を握る酸化還元酵素である。オゾン層減少などに伴い近未来に起こりうる紫外線過多環境に適応するためには、この酵素に対する安全かつ強力な阻害剤が必須である。申請者はすでにビベンジル型およびアルブチン類似型の阻害剤を開発したが、前者は合成過程、後者は活性の点で不十分である。本申請では、それらの構造修飾、すなわち分子の化学的進化により、さらに有効性を高めた過剰紫外線障害対策分子の開発を目指す。
<達成度>化学的進化および阻害活性評価についてはほぼ達成した。その結果、代表的なチロシナーゼ阻害剤のコウジ酸よりも強力な新規阻害剤を3種開発し、特許出願を行った。
<今後の展開>阻害剤の立体認識性の確認や細胞レベルでの有効性評価を、当研究分野での継続および共同研究による連携にて推進し、本阻害剤の製品化を図る。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、強力なチロシナーゼ阻害活性をもつ化合物3種を合成していること、化合物の立体構造による活性阻害の差異、細胞レベルでの有効性評価など今後の課題を明確にしていることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、細胞レベルでの阻害活性、安全性等のデータを積み上げられ、機能性化粧品や光老化防止剤の成分としての実用化が望まれる。今後は、共同研究中の企業に加え川下企業との連携を通じて、生体試料での有効性、安全性を確保すると同時に副作用の検証など長期に渡って評価されることが期待される。
色素増感太陽電池用タンデム型金属フタロシアニン修飾色素の開発 埼玉大学
石丸雄大
埼玉大学
東海林義和
本申請では、色素増感太陽電池においてデバイス感度を向上させるために、可視域でルテニウムトリスビピリジル錯体より長波長に吸収を持つ亜鉛フタロシアニンを合成し、250 nm~750 nmまでの長波長化を実現することができた。金属フタロシアニンを導入することで光に対する安定性が向上するだけでなく、2つ導入すること(タンデム型)で光電変換効率の向上も見込める。本研究では、金属フタロシアニンをアミド結合により連結したビピリジルの効率的な合成法を確立した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、色素増感太陽電池の特性向上を目指し、金属フタロシアニンとルテニウム錯体の新たな合成法を確立したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、2件の特許を出願していることは評価するが、合成したルテニウム錯体の単離と太陽電池材料としての特性評価についての記述がない。今後は、開発した合成技術を活用し、太陽電池材料としての実用化にステップアップされることが期待される。
目視で放射線を検出するためのカラーフォーマー材料の高感度化 埼玉大学
太刀川達也
埼玉大学
北島恒之
本研究開発は、ガンマ線に代表される放射線に対して高い感受性を有して無色体から発色体に変化するカラーフォーマーを開発することである。現在までに得られている最高の条件で100 mSv程度の放射線を目視で確認できる感度は望めるが、媒体は有機溶媒であり、溶液は不安定で徐々に発色してしまう。媒体や添加剤を工夫することで感度を向上させ、安定して再現性良く発色させる最高レベルのカラーフォーマーを実現できれば、原発事故に関連した付近の土壌や瓦礫の放射能汚染量や、農業・工業製品への放射線の照射量を簡便に確認できるラベル材として広範囲に利用することができるようになり、放射線に漠然とした不安を抱える社会ニーズに応えることとなる。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ゲル化させた水溶性カラーフォーマーを合成し、2Gyのγ線を目視できた点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、有機系と水溶系との間の発色機構の違いやカラーフォーマー溶液の安定性についての検討など、現状の感度(2000mSv相当)を当初目標の感度(ゲルで100mSv、溶液で10mSv)まで向上させ、放射線を目視する手法としての実用化が望まれる。低線量放射線の検出については100mSv以下(実用化となれば10mSv以下も必要)が必須と考えられるので、今後は、更なる基礎的研究の積み上げることが期待される。
環境に調和した生体適合オイルゲル化剤の応用開発研究 日本大学
橋崎要
日本大学
渡辺麻裕
申請者らにより開発されたレシチンオルガノゲル化剤の実用化を目標に、化粧品・食品・環境分野への応用を検討した。まず、化粧品で汎用されるシリコーンオイルのゲル化を検討したところ、50wt%程度のシリコーンオイルを安定にゲル化できた。また、肌に馴染みやすく垂れにくい特徴を持つため、高付加価値製品に応用できる可能が示唆された。次に、食用油の固形化について検討したところ、中鎖脂肪酸トリグリセライドを固形化できる可能性を見出した。最後に、工業廃油の回収・処理システムの開発を行った結果、レシチンオルガノゲル化剤でケロシンをゲル化することに成功した。さらに、抽出溶媒に水を利用することで、ゲル中からゲル化剤を回収できることもわかり、このゲル化剤を再びケロシンに加えたところゲル化が確認された。これらの結果より、工業廃油の処理にレシチンオルガノゲル化剤を利用できる可能性が示唆された。今後は、処方の最適化を図ることにより、上記分野への実用化が期待できる。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。環状シリコーンオイル等の単一成分のオイルのゲル化や、中鎖脂肪酸トリグリセライド等のオイル組成物のゲル化に関する検討、流出原油や工業廃油のゲル化剤への応用など、いずれも一定の成果を得たと判断される。得られた成果より、回収可能なレシチンオルガノゲル化剤を利用した廃油処理システムへの応用の可能性が示された。一方、技術移転の観点から、ゲル化時間の短縮化およびゲル化剤回収率の向上が望まれる。また、食品関連等の新しい用途への可能性が見いだされており、今後、それぞれの用途に応じた課題を明らかすることが期待される。今回得られた成果に関しては特許出願をしており、今後成果が応用展開された場合には社会還元に導かれると期待される。
環境適用型撥水撥油表面創製を指向した新規フッ素-非フッ素交互型ポリマーに関する研究 お茶の水女子大学
矢島知子
お茶の水女子大学
湯浅長久
撥水撥油材は欠かすことのできない材料であり、これまで長鎖のパーフルオロアルキル基を有するフッ素系材料が用いられてきた。しかし、近年長鎖のフルオロアルキル鎖化合物の体内蓄積性が指摘され、その使用が制限されつつある。そこで、長鎖のフッ素鎖を持たない、環境適用型の撥水撥油材の代替材料の開発として、本研究では申請者らのグループが開発した光ラジカル反応を基に含フッ素ポリマーの合成法開発し、新規含フッ素撥水撥油表面の創製を目指した。その結果、光反応による含フッ素ポリマーの合成を可能にし、全フッ素型ポリマーと同等の撥水性を得ることに成功し、環境適応型撥水撥油材となることを明らかにした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、光反応を用いて予定を超える14種の新規なフッ素含有ポリマーの合成に成功し、テフロンに近い撥水性(最大接触角94度)を確認したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、撥油性については評価ならびにその解析がまだ十分でないので撥水性に特徴を持たせた実用化への展開が望まれる。新規なポリマーも含まれているので、今後は、成膜法やモノマー種などの技術的検討に加え学会・論文発表に先行した特許出願も検討されることが期待される。
珍しい多硫黄分子を利用した高性能光学レンズ材料の開拓とその応用 首都大学東京
佐藤総一
首都大学東京
鷲田弘
高屈折プラスチックレンズは、更なる高屈折・高耐久化だけでなく、色収差の改善が大きな課題となっている。最近は高性能なチオウレタン系、エピスルフィド系の樹脂が開発されたが、屈折率や色収差に関して更なる性能向上が望まれている。申請者は、最近一分子内に6個の硫黄原子を内在する化合物「テトラメチルヘキサチアアダマンダン(TMHTA)」の定量的合成法を開発した。この化合物は屈折率や色収差を向上させる電子的・構造的要素を併せ持つだけでなく、極めて安価に合成が可能な分子である。本研究では、このTMHTAをポリマーに組み込むための官能基導入法開発を行い、最終的には高性能な高屈折高分子材料の開発を目指す。 当初目標とした成果が得られていない。目標達成に至る第1ステップである、高分子の高屈折率化が期待できるキーモノマー「TMHTA-Br」の官能基化が合成上の問題で未達である。このため以降の検討に着手できていない。合成が未達であった原因の究明を通して派生的な成果を一部得ているが、合成上の課題解決策は必ずしも明確ではない。現段階では、技術移転につながる可能性は低い。一方、高分子の高屈折率化は産業上の利用価値が大きく、本研究も民間企業と連携している点は評価される。今後の計画も官能基化の成否如何であり、官能基化の戦略を広く見直し実証されることが望まれる。
バイオ燃料混合ガソリン中のバイオ炭素比率の簡便な決定法 ― 炭素排出権取引普及に向けた技術基盤の確立 ― 東京都立産業技術研究センター
柚木俊二
東京都立産業技術研究センター
三尾淳
液体シンチレーションカウンタ(LSC)を用いて、バイオエタノール混合ガソリン(E3、E10、およびE25)のバイオエタノール濃度の定量を目標とした。LSC計測は色の妨害を受けるため、その影響の抑制が定量の鍵である。ガソリンの着色料を通常の赤から青に変更するとLSC計測に対する色の妨害が大幅に減少し、ガソリンをそのままLSCで計測してもバイオエタノール濃度を定量できることを明らかにした。また、活性白土で赤色着色剤を吸着・除去し、色の影響を消去することに成功した。バイオエタノール濃度の低いガソリン(例えばE3)に対しては、バイオエタノールを水で抽出して濃縮・脱色する方法が有用である一方、E10以上では水相への色素の移行が避けられないことがわかった。研究者らが独自に開発した簡易LSC装置は色による計測妨害を受けやすく、その活用のためにはサンプルの完全脱色が望ましいと結論した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも活性白土等の吸着剤による色素を除去する技術に関しては評価できる。吸着剤による脱色法はほぼ確立されたが、着色料除去法の更なる高効率化や「簡易LSC装置」との組み合わせ製品の更なる低価格化を図る必要と思われる。今後は関連企業との連携をより積極的に模索することが望まれる。 バイオエタノールが将来どの程度燃料として使用されるかによるが、社会的に貢献されることに期待したい。
ポリエステル高分子の革新的なモノマー化技術開発 中央大学
船造俊孝
中央大学
加藤裕幹
熱水条件下の希薄アミン水溶液を反応溶媒として、ポリエチレンテレフタレート(PET) やポリカーボネート(PC)などのエステル結合やカーボネート結合を有する高分子材料の高速・高選択性なモノマー化プロセスの開発を目標とした。
成果として、回分式反応器と半回分式反応器を用いて、PETボトルやコンパクトディスク等のPETやPCを含む種々の実製品について、各種アミンの希薄水溶液を反応溶媒として、モノマー化速度およびモノマー回収率を求め、アミンの種類による反応性と反応速度の違いを明らかにした。いずれの場合も、反応後残渣固体は殆どなく、高収率・高選択性でモノマーを回収し、本プロセスの有効性を実証した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。アミンの希薄水溶液を用いてポリエステル系プラスチックのモノマー化を目指したものであるが、特に、当初目標のモノマー回収率90%以上、反応溶液の繰返し使用、およびアミンの仕込み量5倍以内は充分に達成したことと、より正確な測定手法や実機を想定したコストを明らかにしたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、重要な発明要素があれば早急に特許出願を行ない、プラスチックを原料として再利用するケミカルリサイクル手法の一つとしての実用化が望まれる。今後は、企業との連携を模索する中でより高い目標を設定され、幅広い実用化を実現されることが期待される。
光学材料を指向した多官能性ベンゾチアゾール合成法の開発 東京工業大学
重田雅之
東京工業大学
林ゆう子
本研究では、連続発振するマルチカラー有機液晶レーザーの実現を最終目標とするレーザー発振の低閾値化を目指し、ベンゾチアゾール骨格を有する超高効率発光する緑色色素を開発した。本研究の初期の検討で、鍵反応のベンゾチアゾール環を構築する段階で、光学特性向上のために導入したチオフェン環が酸化されることが収率の低下を招いていたことを明らかとし、反応条件を詳細に検討することで、目的化合物であるベンゾチアゾール環を安価な反応剤と溶媒を用いて、かつ、高収率で合成することに成功した。さらに、得られたベンゾチアゾール環を用いてさまざまなドナー・アクセプター型の発光色素を合成し、青紫色から緑色まで自在に実現することに成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にベンゾチアゾール骨格の新規の簡便な合成技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、経済性の改善をすると共に応用面からの評価検討を加え、液晶レーザーなどでの実用化が望まれる。今後は、企業との連携などを通して収率の更なる向上と溶媒の低価格化などを達成し実用化されることが期待される。
均一網目構造を有する新規ハイドロゲルの生体分子分離媒体への応用 東京大学
酒井崇匡
本研究の目標は、近年我々により開発された従来にない均一網目構造を有するTetra-PEGゲルを分離媒体として、電気泳動によるタンパク質の分離手法を確立することである。本年度は、一般的にタンパク質分離に用いられている溶媒を含浸したTetra-PEGゲルを作製することに成功した。Tetra-PEGゲルを泳動媒体として蛍光色素で標識したタンパク質を電気泳動し、タンパク質のバンドの検出に成功した。現段階では、高分離にはいたっていないが、今後、緩衝液の濃度、ゲルの条件と分離性能の相関を調べ、分離の最適化を行い当初の目標であるマーカータンパク質の完全分離が達成されることが期待される。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。Tetra-PEGゲルを分離媒体とした電気泳動によるタンパク質の分離手法の確立を目標として溶媒含浸ゲルの作製、及び、蛍光色素で標識したタンパク質について電気泳動を行いタンパク質のバンド検出に成功した。概ね期待通りの成果が得られたが、マーカータンパク質の完全分離には至っていない。一方、技術移転の観点から、緩衝液の濃度、ゲルの条件と分離性能の相関を調べて分離の最適化を行う等、課題や商品化に向けた問題点を明確にしている。産学共同体制が構築されており、連携している企業は既製ゲルの販売実績も有しているため、実用化への体制は整っている。開発したゲルでタンパク質分離などの技術的課題を克服できれば、その応用範囲は格段と広がり、社会還元に導かれることが期待される。
レーザ光変調計測法を用いた生体高分子の新しいキャラクタリゼーション法の開発 東京都市大学
須藤誠一
ナノサイズ高分子の回転運動を、レーザ光を用いて高感度検出する計測器の開発を目標とした。レーザ光変調計測法のセットアップ、四極子型液体セルの開発を行い、光散乱測定では標準試料として扱われるポリスチレンラテックス分散液を用いて分子の回転運動の検出試験を行ったところ、回転運動の検出・リアルタイム計測に成功した。生体高分子への応用を検討するために、ガンマグロブリン、リゾチーム等の分散液で試験を行ったところ、回転運動の計測に成功した。今後、事業化に向けて、様々な生体高分子の計測を対象とした電極開発を行うと共に、形状異常化した血球等の臨床試験を行っていく。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、測定系の構築は達成され、回転緩和の測定を可能とする目標を達成した点については評価できる。一方、タンパク質の生体液中での回転速度の測定に成功したことは産学共同研究へのステップにつながる成果として評価できるが、現時点では測定精度が低く、目的とする臨床応用につなげるためには大幅な改善が必要である。精度向上に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、生理学・生化学的な要請を十分検討して、測定系を再構築することが望まれる。
導電性高分子ナノファイバー包埋フィルムの開発 東京農工大学
下村武史
東京農工大学
江口元
ポリチオフェンナノファイバー包埋フィルムを作製し、ナノファイバーネットワークが形成する条件を確定し、ナノインプリントを用いて目標に掲げた配向ナノファイバー包埋フィルムの作製を行った。次に、ポリチオフェンナノファイバー包埋フィルムの導電率を測定し、高い導電率が得られる条件を決定した。しかし、ナノインプリントの欠陥やナノファイバーどうしの接続が不十分であったため、ナノインプリントを行った配向ポリチオフェンナノファイバー包埋フィルムでは電気伝導が得られず、異方性が確認されなかった。最後に、ナノファイバー包埋フィルムでFETを作製し、目標に掲げたキャリア移動度1×10-3cm2V-1s-1を達成した。配向フィルムでは導電率測定の際と同様の理由でFETとして機能しなかった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも汎用高分子フィルムであるポリメタクリル酸メチル(PMMA)に、ポリチオフェンナノファイバーを包埋したフィルムの作成に成功したことと、フィルムのトランジスタ特性を測定し、キャリア移動度が高いことを確認したことは評価できる。一方、実用化するために重要な熱ナノインプリントによる配向処理の技術検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。研究責任者の固有技術は様々な用途に適用可能と思われるので、今後は、技術移転につながる研究シーズを新たな観点から開発することも望まれる。
糖化アミノ酸の酵素合成法の開発 東京農工大学
津川若子
東京農工大学
江口元
還元糖とアミノ酸とのメイラード反応初期生成物である糖化アミノ酸は、化学合成は容易だが反応を停止することができないため、多様なメイラード反応後期生成物が混在し精製が煩雑である。糖化アミノ酸合成酵素を用いて合成することによって、精製物が容易に得られると期待される。本研究では「糖化アミノ酸合成酵素」と考えられる蛋白質を組み換え発現させ糖化アミノ酸合成を行うことを目標とした。5種類の候補蛋白質の大腸菌での組み換え発現に成功し、うち1種の蛋白質をグルコース、グルタミンと混合した場合、酵素を用いた検出法では糖化アミノ酸の存在を示す微弱な発色が見られ、薄層クロマトグラフィではグルタミンのスポットが減少する傾向が見られた。今後は反応および生成物の明確な確認を目指す。
当初目標とした成果が得られていない。糖化アミノ酸合成酵素を用いて糖化アミノ酸を得るという目標に対し、5種類の候補酵素蛋白質の大腸菌での組み換え発現体が得られ、うち1種の酵素については、薄層クロマトグラフィーにより糖化アミノ酸が生成された可能性が高いことを確認できた。しかしながら、5種類の候補酵素蛋白質の遺伝子配列の検索、大腸菌での発現タンパク質の不溶化等で時間を要したことは理解できるが、設定目標の途中までしか研究は進展していない。技術移転につながる成果が得られる段階に至っておらず、他の酵素試料に関する検討や、糖化アミノ酸合成に関するpHや反応温度などの反応条件の決定等、残された課題を検討する必要がある。今後、予定の研究成果が得られた場合には、合成酵素により生成される糖化アミノ酸は食品や製薬の業界において応用される可能性を持っており、研究の継続が望まれる。
高い生分解性を有する無毒性付着阻害物質の開発 東京農工大学
北野克和
東京農工大学
江口元
本研究では、フジツボ類等の海洋付着生物に対する“環境にやさしい”付着防汚剤開発への応用を視野に入れた、高い生分解性を有する無毒性付着阻害物質の開発を目的とした検討を行った。具体的には、生体成分を基本構造として、最終的には生分解されて無毒性の生体成分へと変化する付着阻害活性物質の創製を行った。その結果、研究期間内の数値目標とした、フジツボキプリス幼生に対する付着試験で有効な付着阻害活性(EC50;<0.3 μg/ml)を示し、なおかつ高濃度でも毒性を発現しない(LC50;>100 μg/ml)新規付着忌避物質を複数創製することに成功した。今後は、詳細な海洋評価試験等を行うことによって、漁網用防汚剤、船底防汚塗料開発に応用されることが期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、フジツボキプリス幼生に対する実験室内付着試験で既存の付着防汚剤と同等の付着阻害活性を発現し(EC50;<0.3μg/ml)、高濃度の生物試験においても毒性を発現しない(LC50;>100μg/ml)生体成分誘導体を発見したこと、特許出願も予定していることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、これら誘導体が環境的に問題のない生体成分へ分解することの確認などを海洋評価試験等で実証されることが重要である。今後は、予定されている漁網用防汚剤企業との共同開発で早期の実用化が期待される。
ハイドロゲルの積層化による担持物質の徐放制御システムの開発 横浜国立大学
鈴木淳史
横浜国立大学
西川羚二
ハイドロゲル内の担持物質の自然徐放ならびに自律徐放(外部環境によるゲルの膨潤特性の変化を利用)に関し、ゲルの積層化技術と溶出現象について研究した。すなわち、スマートな輸送に適した貯留・徐放・浸透の機能発現の最適条件を検討するために、結晶性のポリマーとして生体適合性を有するポリビニルアルコール(PVA)を用いて以下の実験を行なった。機能性分子を担持したゲルの膨潤特性の温度依存性を詳細に検討した。また、貯留層と徐放層の積層方法として、ゲル化時に性質の異なる板状ゲルを接合する方法を確立した。さらに、ゲルからの高分子の溶出現象に着目し、原料粉末の特性(重合度とケン化度)の及ぼすゲルの架橋構造(架橋点である微結晶の大きさ、数、分布)の最適化と溶出現象の温度依存性を検討した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、積層条件の確立については目標をほぼ達成するなど、目標達成への基礎知見を数多く得ていることについては評価できる。一方、PVAキャストゲルの構造制御と溶出現象抑制に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、産学連携によるフォロー体制の強化も視野に入れPVAキャストゲルの第3分子の添加による構造制御と溶出制御技術を確立し、物理架橋ハイドロゲルの応用を更に広げることが期待される。
分子鋳型を持つ高分子薄膜材料の開発と簡易計測技術への応用 神奈川工科大学
斎藤貴
神奈川工科大学
谷田雄二
女性ホルモン等のエストロゲン物質の分子形状を鋳型に持つ新規な高分子薄膜材料を合成し、その吸着能を評価すると共に、新規なセンシングシステムに応用し、簡易迅速な分析技術を確立することを目的としている。強いエストロゲン活性を持つ17β-エストラジオールを鋳型としたナイロン6薄膜を作製し、吸着選択性及び再現性、定量的な吸着能、繰り返しにより利便性、等、優れた点が見出された。また水晶振動子被覆センシングシステムに応用できることも明らかとなり、提案した研究計画が達成された。今後、本センシングシステムの確立を目指すと共に、さらに抗原抗体反応に基づくELISA法の抗体としての応用も目指し、新たな計測法の展開を狙いたい。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に成膜条件を確立し、QCMセンサを用いた17β-エストラジオールのFIA分析を行った点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、選択性や応答速度等のの評価とその向上など、今後の実用化に向けた技術課題が不明確である。本手法は他の分析目的にも広く応用が可能であり、迅速分析が求められる分野へのインパクトは大きいので、今後は技術移転に関しての研究課題を明確にし、次のステップに進むことが期待される。
医療用高分子材料における電子線照射と加熱加圧処理による高接着技術の開発 東海大学
西義武
東海大学
加藤博光
研究責任者はこれまで、医療用の接着技術として電子線照射による異種高分子材料の殺菌接着技術の研究を進めてきた。結果として、電子線照射の後処理として新たに加圧熱処理を施すことで実用剥離強度の達成の可能性があることを見出している。さらに、試行実験では、剥離強度が未処理と比べ約10倍に向上した。この値は一般に使用されているアラルダイド接着の剥離強度よりも非常に高い値を示している。すなわち、加圧熱処理条件を追求することで剥離強度を大幅に向上させる可能性がある。本申請では、医療用異種高分子材料について電子線照射と加圧熱処理による複合接着技術の開発を行う。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。医療材料であるPTFEとPP、PE、PDMSとの異種高分子材料を電子線照射処理(0.13MGy)後、加圧熱処理(5MPa、180秒)を行い接着強度を評価した結果、一般に使用されているアラルダイド接着を大幅に超える剥離強度が得られている。学会等発表を行う前に、優先して特許出願をすることが好ましい。一方、技術移転の観点からは、産業活用等における要求特性を明示し、その特性に応じた目標値を設定すると共に技術的課題を明らかにし、研究開発を進めることが求められる。課題解決により、社会還元されることが期待される。
濾過廃棄物削減と高速濾過が可能な生分解性デプスフィルターの開発 新潟大学
田中孝明
新潟大学
定塚哲夫
申請時において、研究開発担当者はポリ乳酸溶液に界面活性剤Tween 80を10-15%添加すると濾過抵抗1011 m-1、細菌阻止率の99%のフィルターが常温付近(40℃以下)で作製可能なことを見出していた。この事実に基づく発明は本申請課題申請後の平成23年10月に新潟大学から特許を出願した(特願2011-224300)。本課題では、これを高速濾過可能なフィルターとして改良することを目標とした。平成23年度においては、水を循環させて温度を調節する保温プレートを試作し、これを用いて90~100 mmφのポリ乳酸製フィルターを作成することに成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、有為な濾過速度を持ち、濾過膜の大きさが直径100mm程度の生分解性フィルターの調製に成功した事は評価できる。成膜装置を改良し、ポリ乳酸溶液に界面活性剤 Tween 80 等を添加することにより作製しており、濾過抵抗、細菌阻止率、成膜温度は従前と同程度での調整に成功している。一方、技術移転の観点から、現状は実験室レベルで調製した膜であるため、本技術に関心を持つ企業との共同研究などで、更なる性能向上や大量に製造する際の課題などを抽出して、実用化に向けてそれらを解決していく道筋が必要である。今後、早急に特許出願を行い、実用化に取り組む連携企業を見つけて、実証実験につながる事を期待する。
天然ゴム低分子化技術の開発と有用化合物生産への応用 長岡技術科学大学
笠井大輔
長岡技術科学大学
品田正人
本研究では、天然ゴムを低分子化し、スクアレンの原料となりうる低分子イソプレンオリゴマーを効率的に生産する天然ゴム分解組換え細菌の作出を目指し、天然ゴム分解菌の天然ゴム分解に関与する遺伝子を探索した。その結果、既知の天然ゴム分解酵素遺伝子とは相同性の低い新規の酵素遺伝子を特定することに成功した。得られた遺伝子を異種宿主で発現させ、天然ゴム分解能を調べ、本遺伝子がコードする酵素が天然ゴムの酸化分解に関与することを明らかにした。以上の結果より、天然ゴムのオリゴマーへの低分子化技術の開発に必要な分解遺伝子と分解酵素の情報を得ることが出来たと考えられる。将来的には、得られた情報を利用して天然ゴム低分子化能を向上させた組換え細菌を作出することが望まれる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。当初計画の分解酵素の機能評価解析、分解経路の特定の早急な具体化、明確化が必要である。現在の研究進展の格段のスピードアップと将来の技術移転を考慮して、早い段階からの企業との共同研究を早急に具体化する必要があると思われる。天然ゴムから多くの有用有機化合物が、効率良く生産出来れば、エネルギー、食料、機能有機物質生産など、その実用性メリットは大変大きいものがあると、大いに期待される。
有害重金属イオン除去用光触媒による水環境浄化技術開発 長岡技術科学大学
佐藤一則
長岡技術科学大学
品田正人
水中のppmレベル溶存重金属イオンを効率的に除去するために、光触媒(Ce1-XMX)O2(Mはアルカリ土類あるいはランタノイド元素)粒子表面にa-FeOOH微粒子を分散添加させた(Ce1-XMX)O2酸化物粒子(a-FeOOH-(Ce1-XMX)O2複合粒子)を作製した。(Ce1-XMX)O2単体でのPb(Ⅱ)イオン除去試験において光照射を行うことでPb(Ⅱ)イオンを効率的に除去することを見出した。特に(Ce0.9La0.1)O2粒子表面にa-FeOOH微粒子を高分散担持することで電析効果によるPb(Ⅱ)イオン除去能が著しく向上することを示した。これらのサンプルを用いて光照射による溶存Pb(Ⅱ)濃度の環境基準値以下への低減を達成できるために必要な溶存酸素の効果と妨害元素の影響を明らかにした。しかしながら、Cd(Ⅱ)イオンについては0.01 ppm以下への低減が困難であった。したがって、光電析反応に高活性な光触媒酸化物の選択指針を確立するため、重金属イオン除去実験とバンド構造計算による最適な(Ce1-XMX)O2固溶体の探索とともに溶存重金属イオンに対する光電析反応のメカニズム解明を進めている。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも溶存Pbイオンに対する高い除去効果を見出した点は評価できる。一方、Cdイオンを0.01ppm以下まで除去するという目標や、重金属除去用の粉体微粒子をフィルターやペレット上に固定する技術開発については達成できなかった。PbやCdイオンの他に、Cuイオンを含む溶液の試験結果が示されているが、他の水中の共存物質(例えば有機物)の酸化還元、吸着等による効率の低下の可能性などに対する技術的検討が必要と思われる。また、応用展開に際しては、どの試料を対象と考えているかを明確にし、その試料における妨害要因の有無等についても検討も行い、次のステップに進むための指針を明確にすることが望まれる。重金属除去は産業を支える重要な技術であり、今後さらなる研究開発に期待したい。
ナノ分散自己組織化技術により光散乱と封止性を一体化した光ダイオード用多機能透明成形材料の開発 富山県立大学
竹井敏
富山県立大学
福井敏
本研究では、1)透明性、2)光散乱性、3)封止性、4)熱硬化性、及び5)ガスバリア性に優れる発光ダイオード用多機能透明成形材料の開発を目的とした。金属微粒子を用いる既存の材料では達成が困難であった光散乱と封止性との一体化を、精密な高分子設計によるナノ分散自己組織化の発現により達成した。開発した発光ダイオード用多機能透明成形材料の組成物に関する知的財産を共同研究会社と出願し、大手材料メーカに中規模製造の委託を実施した。本材料を製造する材料メーカ、成型加工メーカ、及びデバイスメーカという一連のビジネスモデルを構築した。今後、大学から企業グループに開発の主導権を移し、近い将来には目的とする多機能透明成形材料の実用化が可能になると期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。ナノ分散自己組織化構造の制御技術や最適な組織物設計と成形加工条件の確立は、必ずしも明確に達成されていないが、従来の金属微粒子を用いる既存の材料では達成が困難であった光散乱と封止性との一体化を、精密な高分子設計によるナノ分散自己組織化技術の発現により達したことは評価できる。今後は、目的とする多機能透成形材料の実用化を近い将来に可能にする応用展開をめざし、産学共同の研究開発による社会還元を目指すことが期待される。
蓄光成形品の輝度向上を目指したレンズ形状の最適化 富山高等専門学校
山本桂一郎
富山高等専門学校
村上達夫
現行蓄光成形品は、高分子成形材料と蓄光材料を配合し硬化させ製品化されている。表面層には、透明度の高いものを使用し特に形状の制御は行っていない。発光量は蓄光材料の配合量で制御し、より明るく光らせるには、その配合量を増加させ達成している。しかし、蓄光材料はレアメタルを使用するため高価であり、コストパフォーマンスは低い。そこで、蓄光成形品表面に透明樹脂層を設けて微細レンズ加工を施すことで、集光量増加により輝度を上昇させることを試みる。いくつかのレンズ形状を製作し実験を行った結果、特に蓄光量を少なくした場合の発光の輝度が、従来のものより最大で13%向上した。また、レンズ効果により、光の入射角が水平方向に近くなっても蓄光することがわかった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。蓄光材料を含むプラスチック成型品を透明樹脂で覆い、微細レンズ加工等の表面加工の工夫により、微弱な光エネルギーを蓄光し斜め方向からの視認性も良好な試作品が出来上がった。目標とした輝度向上15%には達しなかったが、13%というデータは得ている。一方、技術移転の観点からは、レンズなしの場合と比較し、実用上どの程度のコストメリットがあるか検討する必要がある。また、透明樹脂層と蓄光体成形層との密着性や厚み、耐久性など解明すべき問題点が残されている。実用化に向けた課題は明らかとなっており企業との連携も取れているので、技術移転の可能性はあると思われる。実用化され社会還元につながることが期待される。
重金属を含まない低放射化超伝導マグネシウム線材の新規製造方法の開発 富山大学
松田健二
富山大学
永井嘉隆
富山大学は、数ミクロン~サブミクロン粒子を緻密にかつ均一に分散させる複合材料作製技術を持っており、この方法により作製されたMgB2/Al複合材料ビレット(以後、ハイブリッド超伝導材料ビレット)は、押出加工が可能であり、さらに超伝導転移温度が粒子単体とほぼ同じであること、さらに素地金属をアルミニウムからマグネシウム化することにも成功した。本プロジェクトでは、Mgハイブリッド超伝導線材を、直接製造する新規の半溶融押出法を確立することで、超伝導特性を持つ軽量で有害な重金属を含まない低放射化材料線材の開発を目指し、製造条件の最適化とその可能性について検討した。 当初目標とした成果が得られていない。中でも素材装てんの最適化、半溶融押出条件の最適化や内部構造評価などに関して技術的検討や評価の実施が不十分であった。
今後は、研究目標を十分絞り、限られた期間に成果を出せるよう、研究計画・方法の具体化、明確化や絞り込みが必要である。               
吸穂性カメムシに対する忌避物質の開発と活性評価 富山大学
阿部仁
富山大学
永井嘉隆
吸穂性カメムシはイネの斑点米の発生をもたらす害虫であり、稲作農家にとっては、カメムシ駆除は大きな課題となっている。最近、エノコログサ類植物にはカメムシが寄り付かないという事実に着目した中島(鳥取大)らは、同植物から単離された3-(4-メチルフラニル)-1-プロパノールがカメムシ忌避作用を有していることをつきとめた。本研究では、この物質を人工的に化学合成すること、さらに種々の誘導体を合成し、カメムシに対する忌避作用を調べることを目的とする。必要となる3,4-二置換フラン化合物の簡便合成はこれまでに例が無く、重点的に検討を行なう。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、爆発生のジアゾメタンを用いてはいるが目的の二置換フラン体を合成したことについては評価できる。一方、大量生産に向けた合成法の検討や各種フラン誘導体の合成とそれらの活性評価などのデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、今回開発された新たな合成法や他の反応の改善により、農薬の合成ルートとして確立することが望まれる。
タンパク質機能部位の蛍光ラベル化試薬の開発 富山大学
友廣岳則
富山大学
金田佳己
標的タンパク質機能部位を光化学的に蛍光ラベル化する独自技術は、光捕捉反応と蛍光基形成反応の2つの光反応から成り、反応の選択性や操作の簡便性で特長がある。蛍光ラベル形成効率、蛍光特性向上を主な目的として、試薬の誘導体化を中心に最適化を図った。その結果、光捕捉反応はベンゼン環上の置換基により、一方、蛍光基形成反応は脱離基や二重結合上の置換基、反応温度により大きく影響されることを明らかにした。最終的に2つの光反応をほほ完全に制御し、対象タンパク質における蛍光ラベル速度の著しい向上を達成した。さらに従来の化合物に比較して100 nm以上もの蛍光の長波長化を示す誘導体合成に成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。優れた着想の新規な蛍光ラベル化試薬の開発研究であるが、特に、蛍光波長の長波長化や反応速度の向上等の目標をほぼ達成したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、蛍光強度の更なる向上や(ATP結合タンパク質だけではなく)種々のタンパク質に対する有用性の実証などの検討をし、優れた蛍光ラベル化剤としての実用化が望まれる。今後は、構造不明の膜タンパク質の解析手法となることを示すなど本手法の有用性や優位性を実証して、出願可能なデータは出ているので特許出願も検討し、企業と連携して実用化を加速することが期待される。
溶媒抽出法によるZr廃液中からのScの分離・回収 金沢工業大学
藤永薫
本研究では、酸化Phoslex DT-8抽出系においてSc(III)抽出の役割を果たしている真の化合物が、O,O-bis(2-ethylhexyl) hydrogen thiophosphate(DOMTPと略記)であることを明らかにした。さらに、別途有機合成して得たDOMTPを用いてSc(III)とZrO(II)の溶媒抽出を行った結果、Sc(III)抽出率とSc(III)-ZrO(II)間の分離能のいずれの点でも酸化Phoslex DT-8抽出系よりも優れた性能が得られた。今後は、DOMTPを担体に担持させた吸着体を開発し、カラム法によるZr廃液中からのScの分離回収を目指して、研究を推進する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、空気酸化させたPhoslex DT-8(Bis(2-ethylhexyl) dithiophosphate)中のO,O-bis(2-ethyl- hexyl) hydrogen thiophosphate(DOMTP)がSc3+イオンを抽出する役割を果たしていることを明らかにし、同イオンを溶媒抽出法で分離できる見通しを得たことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、抽出機構を解明するなどの詰めの検討が望まれる。今後は、特許出願を踏まえ現状のバッチ法をフロー法にまで展開するなどの開発研究を企業と連携して取進めることが期待される。
悪臭・有害物質除去を目的とする新規両性イオン型繊維状吸着剤の製品開発 金沢大学
早川和一
申請者らは、揮発性化学物質の中で特に親水性臭気物質に強い吸着能をもつ吸着性繊維を開発した。本繊維状吸着剤は、粒子型では不可能な形状の製品を容易に作製できる。しかも、繊維表面に形成させる水和層が目的物質を捕捉するので、水洗いで吸着物質のみを流し出して吸着性繊維は再利用可能である。さらに、金属化合物を担持させることで吸着特性の修飾が可能である。以上の利点は、従来の活性炭吸着剤にはなく、空気中の極性悪臭物質やシックハウス要因化学物質の選択的な捕捉・除去素材として極めて有望である。そこで本研究は、本繊維状吸着剤を素材とする臭気成分や有害化学物質を除去するリユース型高機能製品の開発を目指した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、既に企業と共同で取組み、両性イオン型高分子を混合紡糸した繊維状吸着剤を作製し、指定悪臭物質やシックハウス要因物質の一部について基礎的吸着特性を明らかにしたこと、吸着機構とその適用性についても把握したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、「捕捉候補の化学物質リスト」を然るべく作成し、既存製品の高機能化、切り替え材料としての実用化が望まれる。今後は、川下企業を含めた協力/連携体制や事業化に向けた検討案を明確にした上で開発を進めることが期待される。
多糖のらせんキラリティーを利用した高分子不斉触媒の開発 金沢大学
井改知幸
金沢大学
渡辺良成
多糖のらせんキラリティーを不斉源に利用した高分子不斉触媒の選択性を向上するための設計指針抽出を目標に掲げ、様々な多糖誘導体型触媒を系統的に合成した。本研究を通して、「多糖の高次構造が不斉選択性に与える正の効果」、「芳香環上のN-オキシド基の最適位置」など、不斉選択性を向上するための有用な知見を得ることができた。また、側鎖フェニル基上のアルキル基の種類を変えるだけで不斉触媒能が大きく変化することが分かり、多糖誘導体の構造スクリーニングを突き詰めることで、不斉選択性が飛躍的に高まる可能性があることが明らかとなった。次年度以降は、多糖の主鎖骨格の違いが不斉選択性に大きく影響を及ぼすことに着目して、アミロースやセルロース以外の多糖を用いて不斉触媒の開発を継続する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。アミロースのメタ位にN-オキシド基を有する触媒を用いて不斉アリル反応を行い、収率70%、らせん構造に由来する不斉導入で不斉収率44%を得ているが、当初の目標が達成されたとは言えない。一方で今後の研究開発計画については、不斉選択性の向上への戦略が具体的に検討されており、応用展開への可能性はある。今後は、多糖のらせんキラリティーを利用した高分子不斉触媒の開発に向けた着実な研究開発の展開が望まれる。
動的らせん高分子の特性を活かした選択性のスイッチングが可能なキラル分離剤の開発 金沢大学
前田勝浩
金沢大学
渡辺奈津子
側鎖にビフェニル基を導入した光学不活性なポリアセチレン誘導体が、溶液中だけでなく固体状態でも光学活性化合物と接触させることにより一方向巻きに片寄ったらせん構造を形成し、誘起されたらせんキラリティーが、光学活性化合物を完全に除去した後も記憶として保持されることを明らかにした。また、本ポリマーを物理的にコーティングしたシリカゲルをステンレスカラムに充填することによって高速液体クロマトグラフィー用キラル分離剤として利用したところ、光学活性化合物を含む溶離液を通液することによってポリマー主鎖に一方向巻きのらせん構造が誘起・記憶され、ラセミ体の光学分割が可能となり、さらに逆のエナンチオマーを通液することによって、溶出順序のみを完全にスイッチングできることを実証することに成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。シリカゲル表面上における、らせん構造の誘起と記憶を実験的に立証しており、らせん高分子の特性を活かして溶出順序のスイッチングができるキラル分離剤を開発できたことは評価できる。今後の技術移転に向けて、基礎的な成果が得られ、また、更なる性能向上のための技術的課題が具体的に提示されいてる。一方、技術移転の観点から、共有結合によるシリカゲル表面へのポリマーのグラフト化は達成できていないので、製品としての安定性にも優れていると考えられる共有結合による固定化も検討をしてほしい。本研究の成果に基づいた特許を出願中であり、今後の産学研究開発に向けて連携企業の確保が望まれる。光学活性物質の溶出順序のスイッチングが達成されることで、高感度分析や分取による高純度化が可能になることが見込まれることから、本技術が社会に果たす役割は大きいと考えられる。
エンプラナノ繊維マットによる大型リチウムイオン電池用セパレータの開発 福井大学
小形信男
エンプラであるポリフェニレンサルファイド(PPS)に汎用性高分子をブレンドしたシート状材料から、線状レーザ溶融静電紡糸装置(福井大学開発)を用いて繊維マットを作製し、その後汎用性高分子成分を繊維から抽出することにより、PPS ナノ繊維(平均径300nm 以下)からなる繊維マットを得ている。この方法の問題点は、抽出すべき汎用性高分子成分の量が多いことである。解決策として、PPS/汎用性高分子ブレンド物に誘電率の高いルチル型二酸化チタン針状粒子を添加したシート状試料から繊維を作製し、繊維の更なる細径化と汎用性高分子のブレンド量の減少を図る。この検討を更に発展させ、上記電池の性能向上に繋がるセパレータ用ナノ繊維マットを開発する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。PPS繊維の細径化は実験室スケールでの学術的研究としては興味深いが、実用化には製造コスト等の技術的課題がある。新たな特許出願はなく、本方法はメルトブローンに近いと思われる既存特許への抵触が危惧される。今後の計画も明らかでなく、セパレータ開発の技術的課題が明らかでないため、市販のセパレータに対する優位性も明白でない。学術的には興味深い成果が得られているが、技術移転につながる可能性はまだ低いと言わざるを得ない。
二酸化炭素分離回収を革新するイオン液体/ポリアセチレン材料の開発 福井大学
阪口壽一
福井大学
奥野信男
新しいCO2の選択的透過膜の開発を目的として、代表的なイオン液体であるイミダゾリウム塩を結合させたポリ置換アセチレンの合成方法を確立し、作製した材料の二酸化炭素分離能を評価した。新規に合成したアセチレンポリマーとメチルイミダゾールを反応させ、イオン液体/ポリアセチレン材料を合成できた。しかし、イオン液体部分の含有量は目標値の50%程度であった。従来のアセチレンポリマーの透過係数比CO2/N2は11~16であったが、本材料のCO2/N2は33~44に向上した。以上のように、イオン液体/ポリアセチレン材料の作製を達成し、その優れたCO2分離能は実証できた。今後、イオン液体の含有量を上げるため作製法を改良し、材料を二酸化炭素分離回収へ応用する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、当初目標の100以上には達していないが透過係数比(CO2/N2)が33や44の膜ポリマーを合成できたことと問題点もある程度は判明していることは評価できる。一方、既に取組んでいるポリマーへのトリメチルシリル基の導入などの手法による透過係数比の向上など技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。これまでの実績も十分にあり新たなアイデアでの基礎研究であり、今後は、今少し時間をかけて基礎研究を継続し当初目標の透過係数比のポリマーが合成できた時点で実用化展開を考えることが望まれる。
芯・鞘構造繊維を基材とする高効率Cs,Sr、レア金属イオン吸着繊維の調製 福井大学
堀照夫
福井大学
奥野信男
ポリエステルを芯、エバールを鞘とする複合繊維ソフィスタからなるい不織布クラフレックスを基材に電子線照射法によりアクリル酸(AA)、グリシジルメタクリレート(GMA)を最高で370%までグラフト重合できた。GMAをグラフト重合したクラフレックスについては導入されたエポキシ環をさらに、イミノニ酢酸基およびチオール基に変換した。AAグラフトしたクラフレックスは高い金属イオン吸着性を示したが、選択性はほとんどなかった。一方、イミノニ酢酸基導入クラフレックスはレアメタルに対して高い吸着性と選択性を有していた。特にサマリウムSmの選択吸着性が高かった。この他、コバルトとクロムイオンを含む溶液中の両金属イオンをほぼ完全に吸着し、酸により脱着性能が異なることが明らかとなった。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。金属イオンを高効率で吸着し、異なる条件下で同時に吸着した2種類の金属イオンを別々に脱着することを見出した成果は評価できる。イミノ二酢酸基を導入したクラフレックスのレアメタルに対する高い吸着性能を見出したことは特筆できる。特許出願などで知財の確保に努めていただきたい。技術移転の観点からは、特定の金属イオンに絞って、各繊維の吸着性を高める必要がある。既に大手繊維メーカーに紹介して、今後、スケールアップと実用化に向けた共同研究体制を作れる状況にあるので、産学共同での研究開発へつながる可能性が高く、社会還元に導かれることが期待できる。
環境の温度に応答して薬剤の放出/非放出を制御するインテリジェント繊維の開発 福井大学
廣垣和正
福井大学
青山文夫
繊維に電子線照射技術によりシクロデキストリン(CD)とポリ-N-イソプロピルアクリルアミド(PNIPAAm)をグラフト共重合し、CDに機能性の薬剤を包接・担持することで、薬剤の吸着・放出を温度によりスイッチングできるインテリジェント繊維の創出を目的とした。β-CDとNIPAAmをポリエステル繊維にグラフト共重合し、温度に応答して繊維の親水性・疎水性が変化する布を作製した。布は、水中でグラフト層の相転移温度を境に、低温では薬剤を多く吸着し、高温では少量の薬剤しか吸着せず、薬剤の吸着を温度によりスイッチングできた。一方で、薬剤放出の明確なスイッチングにまでは至らなかった。薬剤の放出には、繊維のグラフト層および、放出雰囲気に対する薬剤の親和性のバランスが重要であることが見いだされ、今後、薬剤の選定、グラフト層の化学構造の調製により、この課題の解決を進める。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。電子線照射技術によりシクロデキストリンとN-イソプロピルアクリルアミドをポリエステル繊維にグラフト共重合し、温度に応答して繊維の親水性・疎水性が変化する布の作製に成功した。また、緩衝液中でグラフト層の下限臨界溶液温度を境に薬剤の吸着量をスイッチングできることも確認しているが、薬剤放出特性のスイッチング制御には至っていない。今後、研究成果の特許化は勿論であるが、情報発信を行い産学連携体制を強化する必要があり、放出特性制御のための課題を含めて今後の研究開発計画に具体性が必要である。最終目標とする温度応答性インテリジェント繊維が開発できれば、繊維産業の活性化や繊維の新たな活用分野の開拓が可能となり、社会貢献が期待される。
キトサンナノカプセルをテンプレートとしたフェライトナノ微粒子の合成 福井大学
佐々木隆
福井大学
青山文夫
カルシウム結晶体超微粒子の表面に吸着法によりキトサン系高分子からなるシェルを形成し、それを中空化した後、内部にフェライトなどの磁性材料を析出させるという手法により、サイズが100 nm以下の磁性微粒子を合成することを目標とする。得られる磁性超微粒子は様々なフィルターや医療分野への用途が期待できる。交互吸着積層法における実験条件、微粒子の分散条件、シェルの架橋条件などを最適化することにより、ミクロンサイズのカルシウム結晶コアについては、カプセルの中空化を経て、Fe結晶体微粒子を合成することができた。得られた技術を用いて、今後さらに小さい100 nm以下の磁性超微粒子の合成技術を確立できる可能性が高まった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。サイズが100nm以下のフェライト微粒子の合成を目的とするテーマであるが、フェライト微粒子を合成する前段階のコア/シェル微粒子の形成について、100nm以下の目標には届かないものの150~400nmのコアを用いたシェルの形成に成功したことについては評価できる。一方、コア・シェルについてはその収率の向上とサイズの更なる微細化、その後のフェライト微粒子合成に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。大きな社会還元が期待されるテーマであるので、今後は、技術移転につながる研究成果を得るべく研究を継続されることが望まれる。
再生医工学における足場材に適したキトサンナノファイバーの革新的製造技術の開発 信州大学
金翼水
信州大学
宮坂秀明
本課題の目標は、ハンドスピニング(HS)法によるキトサンナノファイバー製造技術の開発であり、本開発期間内目標は、作製したキトサンファイバーの平均繊維径が5 μm以下となる溶液の最適条件の調査である。本課題では、溶媒およびキトサンの分子量に焦点をあて、溶媒にはトリフルオロ酢酸(TFA)および希酢酸を用い、溶液の最適化を図った。その結果、HS法によるキトサンファイバーの作製には、溶媒および分子量が大きな影響を与え、溶媒にTFAを、さらに高分子量のキトサンを用いた方が、紡糸性は高いことがわかった。TFAおよび希酢酸溶媒を用いて作製したキトサンファイバーの平均繊維径はそれぞれ、1.91および1.19 μmであり、本課題の目標を達成した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。独自のハンドスピニング法を用いて、キトサンのナノファイバー化を達成し、目標値としていた平均繊維径5 μm 以下を達成している。溶媒やキトサンの分子量が紡糸性に影響を与えることを明らかにした点も評価できる。一方、細胞培養基材を始めとした、用途別に望ましい繊維径や繊維の形状、物性との関係を明確にする必要がある。また、エレクトロスピニング法ではなくハンドスピニング法を用いた事で得られた優位性を明らかにすべきである。今後は、技術移転に向けて、特許出願を進め、キトサンナノファイバーの製造技術の確立と大量生産に向けた技術開発が望まれる。
リサイクル可能な炭素繊維-熱可塑性樹脂複合材料のメカノケミカル創出技術 岐阜工業高等専門学校
本塚智
岐阜工業高等専門学校
杉山正晴
メカノケミカル技術によってリサイクル可能な炭素繊維-樹脂の複合材料を創製した。粉砕によるメカノケミカル反応によって、炭素繊維と樹脂(ナイロン6 (熱可塑性樹脂)、エポキシ、シリコーン(熱硬化性樹脂)を強固に化学結合・複合させる技術を見出し、炭素繊維-樹脂の複合材料を創製する方法を確立した。これは、炭素繊維表面および樹脂表面が、酸素分子により活性化されて、さらに活性化表面同士が接合反応するためであることがわかった。さらに、本・メカノケミカル複合化・界面接合によって得られたCFRPは、従来の表面改質技術(UVオゾン、酸素プラズマ処理、等)による複合化技術に比べて、高い機械的強度を有しており、界面化学結合状態が強固であり、優位な複合化技術であることを実証した。特に、炭素繊維-熱可塑性樹脂複合材料を用いたCFRPの機械特性は、詳細に分析・評価し、実用化に必要な研究目標・課題を抽出し、リサイクル可能なCFRPとして、技術移転の可能性を見出した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。炭素繊維の表面にメカノケミカル反応を発現できる粉砕条件を見出し、粉砕によるメカノケミカル反応技術によって炭素繊維と樹脂を化学結合させ、炭素繊維-熱可塑性樹脂複合材料を創製出来ることを明らかにした。また、複合化状態における炭素繊維表面への樹脂被覆の均一性は、本技術(メカノケミカル技術)の方が従来技術(UVオゾン処理)よりも優れている点も評価できる。一方、既存のCFRPの機械特性と同等以上の性能がある事を実証するためにCFPR成形体を作製したが、強度測定における標準資料として必要な、複合化処理を施した試料と長さの分布が同一の炭素繊維を作ることが困難であったために、測定が出来ていない。技術移転に向けて、中部地区の企業との共同研究・開発を通じて航空機・自動車産業への寄与を目指しているが、技術移転に向けた技術的目標や課題を明確にした研究開発計画を策定されることが望まれる。
多孔質シリカ触媒による低環境負荷型アクリルアミド類の合成 岐阜大学
小村賢一
岐阜大学
丸井肇
本研究は、工業的に重要なアクリルアミド合成に関して、低環境負荷型プロセスを指向した触媒反応の検討を実施した。アクリル酸と多種のアミンとのアミド化反応を実施したが、アクリル酸の重合を効果的に抑制する手法を見出すことが難しいことが分かった。しかしながら、アクリル酸と等価の誘導体を用いることで、アクリルアミド誘導体を合成できることが新たに分かり、今後、本研究成果をもとにした技術的研究開発を通して具現化したいと考えている。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、副反応の原料アクリル酸の重合反応とマイケル反応を抑えられないことから、酸無水物に一度変換してからの製造法への提案としたことは評価できる。一方、酸無水物に変換する方法は特殊なアミドでない限り技術移転の可能性は低いと思われる。不飽和カルボン酸とアミンからの一段反応とすることに意義があるので、今一度、一段反応へのアプローチをされることが望まれる。
プラスチック白色シースルー色素増感型太陽電池の高耐久化を実現する有機色素の開発 岐阜大学
船曳一正
岐阜大学
小田博久
本研究では、プラスチック基板上に作成した半導体(例えば、ZnOやTiO2)を用いるフレキシブル白色シースルー色素増感型太陽電池の高耐久化を実現するアンカーのポリアンカー型の近赤外光吸収色素の開発を目的とする。その結果、低温作製した半導体と色素との弱い結合のため、耐久性の低かったプラスチック白色シースルー色素増感型太陽電池の高耐久化を可能とするだけでなく、一般のプラスチック色素増感型太陽電池の高耐久化のための色素骨格構築指針を提供する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初予定した各種アンカー基を有する色素の合成に成功し、トリアンカー型色素の合成にも成功した点に関しては評価できる。しかし、テトラアンカー型色素は合成できず、色素の合成に時間を要したため、性能評価には至っていない。一方、技術移転の観点からは、太陽電池としての性能評価ならびに耐久性評価が行われていないために今後の研究開発計画は具体性に欠けるが、企業との共同研究がスタートしたことから、技術移転を目指した産学共同等の研究開発ステップにつながる可能性は高まった。本太陽電池は、従来のSi太陽電池に比べ効率は半減するが、これまでに例のない白色・無色透明なシースルー太陽電池が実現できることから、住宅関連製品などや新しい場所で使用されることが期待される。
近赤外発光を有するビスホウ素錯体の開発 岐阜大学
窪田裕大
岐阜大学
馬場大輔
固体状態において近赤外領域に蛍光を示す色素の開発を目指し、新規な色素であるビスホウ素錯体の合成を行った。2種類のビスホウ素錯体1および2を合成し、これらが近赤外固体蛍光材料として有用であることを明らかにした。固体状態での蛍光特性は以下のとおりであった:最大蛍光波長(1: 641nm, 2: 716nm)、量子収率(1: 0.07, 2: 0.01)。今後、開発した新規色素へ電子供与基や電子求引基などを導入することで蛍光波長の制御(長波長化)の検討、また、ホウ素原子上への嵩高い置換基の導入による量子収率の向上について検討する予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。700nm以上の波長領域において固体状態で蛍光量子収率0.3以上の色素を開発するという当初目標に対して、当初予定の色素骨格の合成が困難であったために異なる色素骨格の合成を進めた。その結果、当初目標には到達できなかったものの、641nmにおいて蛍光量子収率0.07の新規色素を開発したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、新規色素骨格を用いることにより、近赤外領域での固体状態における発光を達成しており、当初計画にあった色素骨格に適切な置換基を導入することができれば、発光波長のさらなる長波長化や量子収率の向上が期待できるため、産学共同研究開発ステップにつながる可能性も残している。産学共同研究が実現すれば、本研究開発課題で提案されている色素は省エネルギー化に貢献しうる可能性があり、成果の社会還元も期待しうるものと考えられる。
クレーズ処理ナノ多孔ファイバー製造処理刃の開発 岐阜大学
武野明義
岐阜大学
馬場大輔
高分子のクレージング現象を利用して繊維を多孔質化することに成功した。これは、機能素材を吸収し、任意の速度で徐放することができる。 通常の練り込み法と比べ耐熱性低い素材の利用が可能となる。現在、繊維にサプリメトを閉じ込め、「着るサプリメント」の開発を計画している。しかながら、技術移転を考えた場合に、経験に頼った処理刃の製造が問題である。 処理刃は、できるだけ鋭いことが要求され、一方 、繊維を切断してはならい。この鋭利で切れない刃の開発を目的とした。刃先のRだけでなく、その摩擦も大きな要因と考え、表面未処理、テフロンコーティングおよびDLC(ダイヤモンドライクコーティング)を行った処理刃を用意し、先端が鋭利であるが切れない刃の条件を検討した。処理刃とは本技術の要となる応力集中点を決めており、この良し悪しが、工業化における生産性や安定性に大きく寄与する。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。刃先のRやコーティングに関する条件の検討など、ほぼ目標は達成され、次のステップへ進むための技術的課題が明確に示されている。一方、生産性を高めるためにマルチフィラメントの多孔化を行ったようだが、クレーズ処理、すなわち刃が侵入する方向に複数の繊維が重なっているため、マルチフィラメントでは刃先の形状だけでなく、他の物理化学的要因も追及する必要がある。技術移転の観点からは、本研究成果を基に企業との共同研究が予定されており、社会還元に導かれることが期待される。
創薬を志向したベンゾ[h]クロマンおよびクロマン類の簡便合成法の開発 岐阜薬科大学
澤間善成
(財)名古屋産業科学研究所
大森茂嘉
オルト-ナフトキノンメチドは芳香族縮合環合成における有用な反応活性中間体であるが、その効率的合成法は皆無である。我々は、容易に調製出来る1,4-エポキシ-1-シロキシメチル-1,4-ジヒドロナフタレン類を出発原料として、ルイス酸触媒によるオルト-ナフトキノンメチドの簡便合成法を開発した。更にアリルシランなどと官能基選択的に反応させることで、生物活性物質骨格として有用なベンゾ[h]クロマン類の有用な構築法として確立した。本法は、多様に置換された新規ベンゾ[h]クロマン類縁体を容易に構築できるため、高活性を有する生物活性物質探索に繋がることが期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にナフトキノンメチド反応中間体へのアリルシラン誘導体の反応による各種ベンゾクロマン誘導体のダイバージェント合成を達成しており、計画通りの成果を得たことは評価される。製薬、農薬、化学企業から注目されているクロマン誘導体の簡便かつ新規性の高い合成法の開発であり、その応用性も格段に広く、新規機能性材料の合成ツールとして発展していく可能性も高い。一方、技術移転の観点からは、医農薬等の生理活性物質創製先への技術移転を見据えると本合成は骨格構造の構築に留まっており、官能基の導入が可能な化合物合成を意識した技術開発が今後の課題と思われる。特許出願を急ぎ、関連企業への研究成果情報の積極的提供が望まれる。
糖類の位置及び立体選択的重水素化法の開発 岐阜薬科大学
佐治木弘尚
(財)名古屋産業科学研究所
大森茂嘉
ピラノース及びフラノース誘導体を始めとする環状ポリオール類の位置及び立体選択的重水素化法の開発に成功した。この反応では遊離水酸基のα位でのみ進行することから、位置選択的に水酸基の保護基を導入することで、所望の位置のみを重水素標識する事ができる。操作法が簡便であり、穏和な条件下、定量的な収率及び重水素化率で重水素標識できることから、糖類(ポリオール類)の重水素標識体合成における実用的手法としての展開が期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、Ru/C-DO-HならびにRu/C-DO-H-LiOHの組み合わせにより、ピラノース及びフラノース誘導体を始めとする環状ポリオール類の位置及び立体選択的重水素化法の開発に成功した点に関しては評価できる。ただ、メチルエーテルやアセタール保護基のデータがメインで、当初計画されていたアセチル基やシリル基保護の基質の実験がなされておらず、基質の一般性の部分が若干不足している。今後、技術移転の観点からは、基質適用性の拡大とスケールアップ検討が重要であると考えられる。
難分解性環境汚染物質PCBの無溶媒接触水素化分解 岐阜薬科大学
門口泰也
(財)名古屋産業科学研究所
大森茂嘉
PCB汚染土壌からPCB抽出工程を経由しない直接的なPCB分解法を開発した。本法を用いると、溶媒を使用しなくとも常温・常圧の穏和な条件下わずか1時間で廃棄物基準(0.5ppm)未満を大きく下回る濃度(0.045 ppm)にまでPCBを無害化することができる。従って、本法は環境、コスト及び操作性に優れた手法であり、設備の小型化も可能とすることから、土壌からの抽出工程を排したPCB汚染土壌浄化施設の実現に貢献できるものと期待される。また、土壌中のPCB無溶媒分解反応に一電子捕捉剤を添加しても無害化効率が低下しないため、一電子移動が関与しない機構で進行する可能性がある。この結果は、溶媒中での芳香族塩素化合物の脱塩素化とは異なり有機化学的に興味深い。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。既存の分析計では検出限界以下にまでPCBを分解できる条件を見出しているが、実用化にはさらなる高度化が求められる。特に、反応機構が未解明であり、適用は限定的と考えられる。一方、今後の展開については、基礎研究で明確にする点と実用化を目指す上で必要な課題との切り分けが明確では無く、後者の課題が多いと考えられる。PCBの土壌汚染と言っても様々な環境状況にあることから、どの様な条件であれば適用可能な反応であるのかを明確にすれば、応用展開は可能であると考えられる。
経済的で安全な光酸素酸化反応の実用化への展開 岐阜薬科大学
多田教浩
科学技術振興機構
原田省三
申請者が見出した光酸素酸化技術を用いて産業界からの要望が非常に強いハロゲン化キシレン類の酸化を行い、収率90%以上で対応するハロゲン化フタル酸類を得ることを目的とした。申請者が4-tert-ブチルトルエンを基質として最適化した可視光と空気存在下、2-クロロアントラキノンを用いる反応条件をハロゲン化キシレンに適用したところ、目的のハロゲン化フタル酸は低収率であった。また、新規触媒を合成して反応を行ったが収率は改善しなかった。そこで塩基を増量し水を添加したところ、目的のハロゲン化フタル酸の収率が劇的に向上した。今後新規触媒の合成と添加剤や溶媒の検討を行い目的の収率90%以上を達成する予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。可視光と空気を用いる酸化反応は、省エネルギーや環境負荷の軽減などの利点がある魅力的な反応であり、特に数千トンの需要があるハロゲン化フタル酸を、対応するキシレンから目標90%には到っていないが、73%の収率で得たことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、2つ目のメチル基の酸化が課題であるが、技術的課題と対策も明確にしており改良成果に基づく早期の実用化が望まれる。今後は、既に始められた企業との共同研究による触媒活性や収率の向上が期待される。
両エナンチオ選択的不斉触媒反応の開発と糖尿病治療薬合成への応用 岐阜薬科大学
三浦剛
科学技術振興機構
原田省三
サリドマイド事件をきっかけに、新薬開発において両方の鏡像異性体(エナンチオマー)の生理活性ならびに安全性評価が義務付けられた。しかし、不斉反応では両立体配置の不斉触媒の入手は容易でないため、必要とする両エナンチオマーの作り分けは困難である。本申請課題は有機触媒の構造をほんの少し変えるだけで、医薬品開発には欠かせない、両方のエナンチオマーを作り分ける合成技術を開発する。さらに、本方法論を実証するべく、糖尿病の治療薬として期待されるデオキシノジリマイシン(DNJ)およびそのエナンチオマーをそれぞれ合成し、新規医薬品開発技術を創生する。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、ニトロオレフィンへの不斉マイケル付加反応およびデオキシノジリマイシンの不斉合成は達成されていないが、フルオラス鎖を導入したアミンーアミド触媒による不斉アルドール反応では90%ee前後の高い選択性を達成したことは評価できる。一方、反応基質が極めて限定的であり、マレイミドとアルデヒドとの間の不斉マイケル付加反応では不斉収率が十分でないため、不斉有機触媒のチューニングや再設計などの技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、マレイミドとアルデヒドとの反応を利用した新しい医薬品合成のターゲットを提案されることが望まれる。
希土類識別モード電気泳動法による迅速オンサイト分析システムの開発 岐阜薬科大学
江坂幸宏
科学技術振興機構
菅野幸一
希土類イオンとの錯体形成を分離モードとする非水系キャピラリー電気泳動法に基づく、目的成分のみ迅速検出可能な高選択的検出法を開発し、薬物治療モニタリング(TDM)等の迅速定量を必須とする現場で利用可能な方法論、装置を完成することを目的とする。各種金属イオンと各種官能基の錯体形成について、その強さ、平衡の速さ、特異選択性を検討し、分離系構築の多くの指標を得た。ユーロピウムイオンの適性が高く、特に過塩素酸塩の成績が良かった。ユーロピウムイオンは、医薬品に多見される部分構造と強く錯形成するため、TDMなど医薬品分析への適用が期待される。一方、分析法の再現性、頑強性、及び感度など、解決すべき課題も残った。オンサイト装置化を含めて、本分析法の開発を継続して続ける。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ユーロピウムイオンをセレクターとした非水系キャピラリー電気泳動法は、当初の予定通りの成果が得られている点は評価できる。しかし、研究責任者が蓄積したキャピラリー電気泳動法での基礎検討の跡は見受けられるが、申請段階での実験結果から進展している度合いが少ない印象を受ける。応用に向けての考察も重要であるが、より具体的な実験結果が欲しい。一方、技術移転の観点からは、分析可能な医薬品がTDMの対象であれば、あるいは、多くの農薬の同時定量ができるようにできるようになれば、産学共同等の研究開発への移行も可能となると考えられる。今後は、産学共同等の研究開発の実現に向けたさらなる努力を期待したい。
独自の不斉合成技術を活かした新規香料素材の開発 静岡県立大学
赤井周司
静岡県立大学
柴田春一
我々は最近、加水分解酵素とバナジウム化合物を併用する新しい動的光学分割法 (DKR) を発明し、ラセミ体アルコールを単一の光学活性体に高収率で変換する技術を開発した。本研究では、この技術を活かし、天然の香料抽出物から、美白などの効能を持つ未開拓な単一化合物を発掘し、絶対配置を含めて構造決定し、その大量合成法を確立することを目的とした。以て、安全で付加価値の高い新規香料素材として商品開発することを目指した。
まず、メラニン生成抑制作用、抗酸化作用などを指標に天然香料抽出物を選び、それに含まれる構造未決定の微量成分を不斉合成し、照合することで化合物の構造を決定した。その結果、キンモクセイの香気成分から、メラニン生成抑制活性を示し、フローラルの優れた香りを有する化合物を見いだした。また、その成分の大量不斉合成に目処が立った。
 
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。キンモクセイに含まれるジヒドロ-β-イオノール2の絶対配置がRであることと、ラセミ体2にメラニン生成抑制効果があることを明らかにしたことは学術的に評価に値する。ただ、光学活性な2はDKR法でなくても合成可能である。一方、既に論文投稿が行われているが、特許として権利化に懸念がある。香気成分は特に欧州にもニーズがあるので、特許法第30条特例を利用するつもりであれば、欧州市場を失うことになることを危惧する。
超分子ヒドロゲル電気泳動法の開発 静岡大学
山中正道
静岡大学
吉田典江
低分子化合物の自己集合により構築される超分子ヒドロゲルの電気泳動用基材としての評価を行う。分子間相互作用を駆動力に形成される超分子ゲルは、高分子ゲルと比較して柔軟性に富んだ材料として機能する。ゲルの構成単位となる低分子化合物の分子設計により任意の刺激に応答したゲルからゾル(溶液)への相転移が進行する。本研究では、超分子ゲルが潜在的に有する柔軟性に着目し、独自の分子設計に基づく超分子ヒドロゲルを開発し、生命科学の研究領域において不可欠な電気泳動への利用を行う。超分子ヒドロゲルの有する潜在的特性により、特異な分離規則に基づく試料分離や、高効率的な試料回収を実現する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、幾つかのタンパク質を代表例として、目標とした分子量の小さなタンパク質の分離、及び、超分子ゲルマトリクスからの分離タンパク質の50%以上の回収を達成したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、既存技術との差異化やコスト面での検討も加え、電気泳動による蛋白分析/精製分野での実用化が望まれる。今後は、ユーザーや販売企業からの情報も踏まえ、このユニークな材料をどういう方向に改良すべきかを検討することが期待される。
二酸化炭素を原料としたジメチルエーテル製造に用いる触媒の開発 静岡大学
武石薫
静岡大学
斉藤久男
地球温暖化の原因の一つとなっているCO2と水素(H2)とを反応させて21世紀のクリーン燃料であるジメチルエーテル(DME)を合成する触媒の開発を目指す。CO2の削減化・資源化を通して地球温暖化対策に寄与できる。今のところ、申請者が開発した合成ガス(COとH2の混合ガス)からDMEを一段で経済的に製造できる開発触媒を用いると、DME以外にCO生成が起きDMEの選択率が低い。この問題を解決し、CO2から高活性・高選択的にDMEを製造できる触媒を開発する。方法は、現在使用している触媒では逆水性ガスシフト反応が起きていると考えられるので、DME生成に適したCu量、Cu/Zn比などを見出すことである。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。Cu担持量等の反応条件の検討を行い、目標値には至らなかったが、以前より高活性・高選択性のDME合成触媒が開発でき、得られたDME選択率の最大値は14C%であった。当初計画しなかった他の成分系も検討し、目標値には至らないものの、選択性に優れている触媒を見出し、特許出願を検討している。DME選択率およびDME生成速度共に高い触媒の開発が継続的な課題である。現在の社会の要請にマッチしたテーマであるが、技術移転の観点から、実用化試験のためには生成物の生成速度を1000倍、選択性を2~3倍まで向上させることが必要であろう。また、触媒gあたりの生成物がμmol/hで、かつ水素と200℃の反応温度を要するのでは、このプロセスで処理できるCO2量と発生するCO2量では後者が多くなることも懸念される。プロセスとしてCO2の収支をきちっと評価した研究方針が望まれる。
ヨード置換低バンドギャップ半導体を用いた太陽電池用近赤外吸収色素の探索 静岡大学
植田一正
静岡大学
藤縄祐
テトラチアフルバレノチオキノン-1,3-ジチオールメチド骨格を有する低バンドギャップ半導体にアンカー部としてヨード基を導入した太陽電池用色素の探索を行った。ヨード基と酸化チタンとの間のhalogen bondingは色素吸着を行うには弱いことが明らかとなった。そこでアンカー部としてカルボキシル基を導入した誘導体を合成し、その太陽電池性能を評価した。変換効率は最大で0.5%であった。これは、誘導体のLUMOの準位が酸化チタンの伝導帯より低く、色素から酸化チタンへの電子移動が効率よく行われないからであることが明らかとなった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。今回、物理吸着と酸化チタンの酸素原子へのhalogen bonding を利用した色素増感太陽電池の作成を試みたが、halogen bonding を用いた酸化チタンへの吸着は実用的でないことが明らかとなり、可視紫外域から1000nm程度までに感度がある太陽電池を作ろうとする試みはうまくいかなかった。このため、当初の目標は達成できていないが、テトラチアフルバレノチオキノン-1,3-ジチオールメチドのLUMOの準位が酸化チタンの伝導帯のものより低いことが変換効率の低い理由であることを明らかにし、その改良指針は示されているなど、本研究から問題点を明らかにし問題点解消に向けた必要な取組みが示されている点については評価する。残念ながら今回の結果は、技術移転を目指した産学共同の研究開発ステップにつながる可能性は低いが、明らかになった問題点を克服すれば、太陽光発電の低コスト化を通じ社会還元が期待できる。
HV、EV用の高機能反毛フェルトシートの開発 あいち産業科学技術総合センター
杉山儀
あいち産業科学技術総合センター
齊藤秀夫
平成23年度は目標の電磁波シールド性能をもつ素材を選定し、複合化した反毛フェルトシートを試作した。また、低周波用のシールド効果測定装置を製作した。平成24年度は、平成23年度に製作したシールド効果測定装置を用いて、平成23年度に選定した素材の中から更に低周波シールド性の高い素材を選定し、かつ吸音性能、難燃性能についても従来の反毛フェルト以上の性能を備えた複合化反毛フェルトシートを開発した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。低周波シールド効果の測定装置を製作し、より安価なシールド材料を用いて低周波領域のシールド効果がある反毛フェルトシートを作成し、難燃性、吸音性も満たす素材であることを確認した。当初の目標が達成され、低周波シールド測定方法の高精度化や開発コストの削減など、今後の具体的な研究開発についても検討されている。特に、コスト削減のためにはシールド材の量を減らす必要があるという、技術移転に向けた課題も明確にした。今後、HV、EV向けの自動車底部に充填するフェルト素材として実用化が期待される。
真空紫外光を利用した毛織物の深色加工技術の開発 あいち産業科学技術総合センター
村井美保
あいち産業科学技術総合センター
齊藤秀夫
繊維製品、特に毛織物で市場価値の高いブラックフォーマル用生地においては、先端ナノテク技術を利用した深色加工技術に注目が集まっている。本研究では、真空紫外光を利用して、羊毛繊維の表面改質を行い、染色性を向上させることで、新規な毛織物の深色加工技術を確立することを目指した。真空紫外光の照射条件と深色効果の関係について検討した結果、目標のL値は達成できなかったが、染色加工工程の前処理として真空紫外光を用いることで、羊毛繊維表面に親水性官能基が導入され、染色性が向上し、一定の深色効果が得られることを確認した。また、物性面では、未処理布との比較を行い、風合いではHARI、KOSHIが向上し、染色堅ろう度や引裂強さは当初の性能を保持していることを確認できた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。繊維製品の中でニーズが高い、ブラックフォーマル分野での深色製品を狙ったテーマである。中でも、目標をやや下回った値ではあるが真空紫外光を用いて羊毛の深色化を達成したことについては評価できる。一方、紫外光の照射条件は実用的とは言い難く、大気圧プラズマを用いた既存技術(羊毛織物の表面に極薄低屈折率被膜を形成)を凌駕するには多くの技術課題が残されている。今後は、例えば繊維表面の親水化や風合の改良技術などに向けた基礎研究に注力されることが望まれる。
微小白金粒子担持カーボンナノファイバーの開発 あいち産業科学技術総合センター
浅野春香
あいち産業科学技術総合センター
齊藤秀夫
カーボンナノファイバーシートを固体高分子形燃料電池(PEFC)における白金担持電極材として活用することを目指した。電界紡糸法によりシートを作製する際、繊維方向を揃える工程を導入し、加熱処理時に延伸を行うことで、シートの繊維強度向上を狙った。
その結果、電界紡糸時の巻き取り速度が繊維の配向性に影響を与え、加熱処理時に適切の荷重をかけることで、元の引張強度の70%以上を保持した。また、BET比表面積1,160m^2/gのカーボンナノファイバーシートが得られた。電界紡糸法によるカーボンナノファイバーシートを用いて、PEFC触媒相を作製し、電気特性を評価した。電気特性評価の結果から、白金、カーボンナノファイバーシート、ナフィオンによる3相界面構造形成においてナフィオン偏析等の新たな課題を見出すことができた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。カーボンナノファイバーシートを、固体高分子型燃料電池用の白金担持電極材料として活用するテーマであるが、特に、シート繊維の強度向上を目的とした活性炭素化とナノファイバーイバー表面への白金担持を行い、発電特性まで測定したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、課題として残った強度の改善を図り、燃料電池自動車への適用を目指し、技術移転と実用化が望まれる。今後は、根本的な問題である白金量の低減に向けた抜本的な見直し検討も期待される。
環境低負荷型高分子微粒子不斉触媒によるワンポット合成システムの構築 豊橋技術科学大学
原口直樹
豊橋技術科学大学
田中恵
環境低負荷型有機反応に有効な高分子微粒子不斉触媒を沈殿重合法を用いて開発し、ワンポット合成システムの構築を試みた。沈殿重合により、アニオン性官能基の導入量と導入位置、親水性―疎水性バランスが制御された高分子微粒子の合成に成功した。アンモニウム塩、アミン塩等を有する不斉有機分子触媒とアニオン性官能基を有する高分子微粒子の反応は円滑に進行し、高分子微粒子に迅速かつ簡便に不斉有機分子触媒を固定化することに成功した。1つまたは複数の高分子微粒子固定化不斉触媒をカラムに充填し、ワンポット合成システムを構築する条件を検討した。現在イミニウム触媒とエナミン触媒によるワンポット合成に成功している。今後、再使用性、耐久性に関するデータを収集し、実用化への展開を行う予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、アニオン性官能基をもつ高分子微粒子の調製などの三つの目標を達成し、4種の高分子微粒子と6種の不斉触媒を組合せて少なくとも有効な2種の固定化触媒を開発し、高分子微粒子不斉触媒によるワンポット合成システムを構築したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、実際のニーズにどうマッチさせるかが課題である。今後は、本技術の特性を活かした合成対象物質を定めることが期待される。
フレキシブル基板に利用できる塗布型有機半導体の研究開発 名古屋工業大学
小野克彦
名古屋工業大学
岩間紀男
携帯電話や電子書籍などのモバイル製品用途に向けて、フレキシブル基板上に半導体デバイスを作製する技術が必要とされている。本研究では、溶液プロセスで製膜可能な有機半導体の新たな分子モデルを発見した。このモデルでは、可溶性の非平面分子から難溶性の平面π共役系が変換率100%で生成した。本研究では、1)塗布条件、2)変換反応、3)トランジスタ基板上での変換反応を調べ、1)と2)の調査を完了した。2)では、膜質劣化の問題が生じたものの、対策を検討してこれを解決した。3)の課題は研究期間内に完了できなかったが、学内研究者と共同で調査を実施している。今後は、3)の調査を完了したあとで、企業との共同研究を念頭においた材料開発へ展開する。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。本課題は、モバイル製品用途に向けてフレキシブル基板上に塗布型有機半導体膜を形成し、その半導体特性を見積もることにある。類似な手法で有機薄膜型太陽電池で有機半導体膜のナノオーダーのpn接合を実現し高い接合構造を得ている例があるが、適当な溶剤に可溶な有機半導体前駆体を塗布後、熱分解により難溶性有機半導体膜を形成させる本法は興味深い。研究過程の予期しない現象で廻り道を余儀なくされ最終特性評価には至っていないが、着実な研究進捗を感じる。計画達成が遅れた理由も有機材料の融点が分解温度よりも低かったためという合理的なものであり、その条件を避ける半導体前駆体のスクリーニングをさらに詳細に行えば、最適な有機材料が見出されるであろう。一方、技術移転の観点からは、有機EL材料や有機薄膜太陽電池でも、この手法で最適なpn接合を完成できる事が知られている。この技術分野の競争は激しいので、検討課題を前倒しにする気持ちで成果を出されたら、フレキシブル有機半導体の実用化は意外と近いのではないだろうかと思われる。目標とするフレキシブル有機半導体の特性評価まで到達していないが、今後もこの研究開発を続けて、是非ともフレキシブル有機半導体を実現して欲しい。
循環型金属ゼロ触媒によるアルコールの空気酸化 名古屋工業大学
平下恒久
名古屋工業大学
山本豊
アルコールの酸化反応はもっとも基本的な有機化学の反応である。終末酸化剤として酸素を利用して、遷移金属触媒を利用しない高速酸化反応を目指して、有機触媒、溶媒の検討を行った。申請者らはある種のメソイオン化合物が室温で液体となることを見出している。これを溶媒として利用した酸化反応を試みるべく、その効果的な合成方法を検討し、従来法に比べて簡便な手法で、また従来法では合成できなかった種々のメソイオン化合物の合成に成功した。また有機触媒を用いたイオン液体中の酸化反応における相乗効果を見出した。今後は、開発した手法・知見に基づいて種々のメソイオン化合物を合成するとともに、これを溶媒とした酸化反応を検討の予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、イオン液体とイオン性TEMPOを使うことで大幅な速度向上が見られたことについては評価できる。しかし、触媒の回収や生成物の分離という面でイオン液体を使う手法は企業化の可能性もあり、応用展開出来れば有益であることは間違いないが、当初目標の「反応時間一時間以内」は、酸化されやすい一部のアルコールで達成出来ているだけで、「大幅な反応性増大」という課題に対してブレークスルーとなる結果は得られていない。立体障害以前に、一般の脂肪族化合物の酸化がもっと早くならないと企業化は困難であり、イオン液体の構造を変えるという検討課題は具体性が無く、次なるアプローチには酸化力向上のための何らかの指針が必要であろう。
結晶性高分子ブロック共重合体のミクロ相分離構造およびグレイン構造形成の小角・広角X線散乱同時測定法による解析 名古屋工業大学
岡本茂
名古屋工業大学
山本豊
イメージングプレート/フラットパネルセンサーを用いた小角/広角散乱測定を行った。試料にはポリブタジエンーポリε-カプロラクトン/ポリブタジエン混合系を用いた。室温においてはカプロラクトンの結晶のためにミクロドメイン構造が破壊されていた。しかし融点より十分高い180℃でミクロドメイン構造(Frank-Kasperσ相)/グレイン構造の階層構造へ転移する事が分かった。フラットパネルセンサー(C9728DK-10:浜松ホトニクス)のノイズの公称値は多数測定して得られたであり、通常の1回の測定ではそれより大きなノイズを有する事が判明した。特に短時間の時間分解測定では問題となる。今後、中部小型シンクロトロン光施設(仮称)で小角/広角同時測定システムを構築し多くのユーザーへ技術移転を図る。 当初目標とした成果が得られていない。あるブレンド高分子混合物のミクロ構造の解明を目的としたが、中部小型シンクロトロン光研究施設が未完のため実際のところ前進していない。今後、小型放射光の利用が期待される。
バイオマス誘導体を使用した化学修飾によるポリ乳酸の分子レベルでの物性改良 名古屋市工業研究所
高木康雄
名古屋市工業研究所
大岡千洋
環境分野材料としてのポリ乳酸系材料の材質を改良し多くの製品に適応できるように、ヒマシ油と光学活性なラクチドを反応させたヒマシ油~ポリ乳酸誘導体を調製した。本研究では、ステレオコンプレックスの最適化と安定化を図ると同時に、ポリ乳酸成形物の柔軟性を改良することを目的としている。本研究開発では、光学活性なポリ乳酸を誘導体としても一定の範囲の分子量では、ステレオコンプレックス効果が現れ融点が上昇すること、油脂成分によって反応物の柔軟性を改良できる知見が得られた。そこで、安定的なポリ乳酸を誘導体とすることで一定の柔軟性を付与し、かつ、融点を従来のものより改良した材料とする条件について検討した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。今回作製したステレオコンプレックス体について、融点に関しては、ある条件において目標値である190℃をクリアすることができた。また、加水分解安定性は80~90%を達成した点は評価できる。一方、引張伸びに関する物性試験の検討が不十分であり、ステレオコンプレックスの融点と物性の関係を明確にするために、更なる技術的検討が必要である。ステレオコンプレックス調製時の分子量の下限値を決定する事など、技術的課題は明確で、達成できる可能性は高い。目標とする成果が達成されたならば、将来ポリ乳酸の用途展開は大きく伸びる。今後の更なるデータ取得により、関連企業との共同研究へ発展することが期待される。
α-アシロキシカルボニル化合物の環境調和型製造法の開発 名古屋大学
UYANIK Muhammet
(財)名古屋産業科学研究所
大森茂嘉
本申請研究では、応募者が開発した第四級オニウムヨージド/過酸化水素水(或はTBHP)触媒的酸化システムを用いる酸化的カップリング反応の最適化を行い、力量のあるα-アシロキシカルボニル化合物の製造プロセスの実現を目指した。その結果、当初目標としていた触媒量の削減に成功しなかったが、アンモニウムヨージドの代わりに、安価な触媒前駆体としてヨウ化カリウムやヨウ化ナトリウムを用いることに成功した。また、有機溶媒を全く必要としない反応条件を見いだしたので、本反応の実用化において更なるコスト削減が期待できる。さらに、不斉酸化的カップリング反応において、オキシアシル化では目的を達成できなかったが、その原因を考察することで、炭素-窒素カップリングの新反応を発見でき、最高85%の不斉収率に成功した。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。本研究が目指すα-アシロキシカルボニル化合物の製造プロセスには、研究者自身が開発した触媒的酸化システムを用いており、効率よく目的生成物を得る手法が得られた。当初設定された目標に対し検討事項が残されているが、触媒前駆体として安価なヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムを使用する方法や無溶媒での反応条件を見出し、また、室温でのケトカルボン酸の分子内酸化的カップリング反応の成果は特筆に値する。一方、現段階で得られた成果は学術研究の範疇であり、技術移転の観点から、触媒量の削減や不斉収率の向上、1molまでのスケールアップについて、改良の余地が残されている。これらが解決されると医薬品中間体等の合成プロセスが一挙に改善されるはずである。含窒素ヘテロ環化合物の不斉合成において本研究の成果は希少元素触媒を用いない方法として今後に期待が持てる。
オニウム塩触媒を用いるエステル製造技術の開発 名古屋大学
波多野学
(財)名古屋産業科学研究所
大森茂嘉
オニウム塩触媒およびオニウム塩-硝酸ランタン複合塩触媒を創製し、各種エステルとアルコール(最少比の1:1)を用いるエステル製造技術を開発した。今回の触媒は、既存の触媒と比べて遥かに毒性が低く(最大1/100)、水や空気にも安定で、安価であり(最大1/100)、実用性を大幅に高めた。着色の問題もない。1-100グラムスケールで、触媒量1mol%以下、収率95%以上を目標とした。今まで対応できない反応性の低い炭酸エステル類にも適用できた。PET合成や反応性の低い第3級アルコール由来のレジスト材料製造など、繊維、医薬品、化粧品、食品などに幅広く存在するエステル化合物の製造に利用できる。
期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。ホスホニウム塩触媒と硝酸ランタンを共存させることにより第3級および第2級アルコールに幅広く対応できる中性の触媒を開発するテーマであるが、特に、ほぼ目論見通りのスケール(25g)と触媒量(1-3mol%)で高収率(95%以上)の結果を得たこと、従来の触媒では難しかった炭酸ジメチルのエステル交換、嵩高い第二級アルコール、酢酸メチルによるアセチル化反応などを可能にしたことが評価でき、学術的にも興味深い。一方、技術移転の観点からは、ラセミ化を伴わないエステル交換反応の実現可能性が示されているので、医薬品とその中間体などでの合成手法としての実用化が望まれる。今後は、実用化を念頭に、光学活性エステルのラセミ化を伴わないエステル交換反応のライブラリを充実されることが期待される。
有機・無機複合化技術による電気自動車向け絶縁材料の開発 三重大学
青木裕介
三重大学
横森万
EV、HEV向けの絶縁材料として産業界の要望に応える性能目標を有する材料の実現を目指して、有機・無機複合技術による熱硬化型絶縁材料の開発を行った。その結果、既存の材料では実現困難であった「250℃で連続使用可能な耐熱性」、「熱衝撃に耐えうる柔軟性」、「50kV/mm以上の絶縁耐圧」を有する硬化体を得ることが出来た。今後は、EV、HEV向けの材料としての実用化に向け、より高性能で、かつ、低コストで製造可能な材料の製造技術を確立するための実用化研究を進めていく予定である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。本研究は有機・無機複合化によるシリコンポリマー(PDMS)の構造制御技術による電気自動車向けの絶縁材料の開発を目指した研究であり、特に、達成目標をほぼ達成している点に関しては評価できる。技術移転の観点からは、電気自動車への応用に向けて耐熱性と耐ヒートショックの項目で改良が必要であるが、原料として用いるPDMS成分の品質が複合材料の最終的な特性に影響を与えるため、本研究で得られた成果を基に材料特性の向上が期待でき、電気自動車向けの絶縁材料などでの実用化が望まれる。今後は、使用する材料や合成プロセスの改良を重ねることにより、耐熱性、耐ヒートショック特性などを改良され、自動車産業が望む特性を持った素材が開発されることが期待される。
両親媒性ホモポリマーを用いた酸素透過性コンタクトレンズ材料の開発 三重大学
宇野貴浩
三重大学
横森万
酸素透過性コンタクトレンズ材料の開発を目的に、一分子内に親水基として生体適合性のピロリドン系置換基あるいはエチレンオキシド系置換基、疎水基として酸素透過性のオリゴシロキサン系置換基の両方を導入した両親媒性α-置換アクリル酸エステルモノマーを分子設計し、その重合により両親媒性ホモポリマーを合成した。種々の重合条件を検討した結果、単独で分子量が数万の両親媒性ホモポリマーを得ることができ、また生成ポリマーの立体規則性をある程度制御することが可能であったが、材料としての特性については十分な評価を行うことはできなかった。今後、より合成が簡便なモノマーの設計と両親媒特性の評価が必要である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも当初の目的である両親媒性ホモポリマーの合成に成功していることは評価できる。一方、材料の特性評価には到っておらず、材料の物性とコンタクトレンズ用材料としての特性の評価データが必要と思われる。今後は、技術移転に向けて、それら評価データと既存材料との比較に基づく材料の改良を行い、両親媒性ホモポリマーの利点を示すことが望まれる。
シリル基含有ポリマー系接着剤用非スズ高活性化新規硬化触媒の開発 三重大学
中村修平
三重大学
横森万
シリル基含有ポリマーを対象として、有害な有機スズ化合物硬化触媒に匹敵する新規触媒の開発に成功した。従来型技術では、有機スズ化合物は触媒能、接着性及び貯蔵安定性などの向上のためにアミノシランカップッリング剤を併用する。開発したスズフリー新規硬化剤は、従来型硬化触媒と同等以上の速硬化性と同等の貯蔵安定性並びにそれ以上の接着強度を示した。
さらに、代表的室温硬化型(RTV)樹脂(シリコーン、変成シリコーン、ウレタン)にも新規硬化触媒は、有機スズ化合物を用いた従来型硬化触媒より速硬化性と貯蔵安定性に優れている。
このような実施例を基礎として、平成24年4月9日に特許出願(出願人:三重大学-信州大学)を行った。
期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。シリル基含有ポリマー系接着剤の非スズ系新規硬化剤の開発テーマであるが、特に、硬化時間や強度、安定性で目標値以上の接着剤性能を持つ材料開発に成功し新規特許出願(PCT出願を含む)も既に行っていることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、異分野の複数企業との共同研究体制も整備されており、支障なく実用化研究が進捗することが期待される。今後は、樹脂硬化剤としての基本的な技術的課題が概ね解決されているので、応用範囲を更に広げることが期待される。
分子ピンセットを用いた単層カーボンナノチューブの実用的な分離精製法の開発 滋賀医科大学
小松直樹
滋賀医科大学
江田和生
ピンセット型ジピレン化合物による単層カーボンナノチューブの大量分離法について検討を行った。まず、これまで数十mg程度であったジピレン化合物を百mg程度合成できるようになり、ジピレン化合物の大量合成への道筋をつけた。次に、それらを用いた単層カーボンナノチューブの抽出を行ったが、スケールを大きくすることで、従来用いてきたバス型超音波装置のエネルギーが不十分となり、新たにプローブタイプ、カップホーンタイプの超音波照射法の検討を行った。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。分子ピンセット型ジピレン化合物を用いて単層カーボンナノチューブ(SWNT)を数百mg~数gのスケールで分離精製することを目的としたテーマであるが、中でもジピレン化合物を100mgスケールで合成できたことについては評価できる。一方、SWNTの分離精製は出来ておらず、この目的達成に向けた、未達理由の究明などの技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。本手法はSWNTの分離精製以外にも応用範囲があるので、産学共同も視野に入れた研究開発の継続が望まれる。
耐衝撃性/流動性を兼ね備えた新規ポリカーボネート系ポリマーブレンドの創製 滋賀県東北部工業技術センター
神澤岳史
耐衝撃性に優れたエンジニアリングプラスチックであるポリカーボネート(PC)の耐衝撃性のみならず流動特性を併せて向上させること目的に、申請者がすでにノウハウを有する"動的架橋"リアクティブプロセッシング(反応押出)法を駆使したPC系ポリマーブレンド材料を検討したところ、ABS/PC単純ブレンドに比べ流動性(MFR)が最大130%、耐衝撃性が最大90%向上する組成を見出し、耐衝撃性と流動性を高度に両立する優れたブレンド材料となり得る可能性を見出した。また、各特性の増減と添加剤量との相関を把握し、要求に応じて材料特性が設計可能となり得ることを併せて見出した。今後は、製品化に向け必要な添加剤処方、あるいは耐久消費材に使用可能な長期耐久性に優れた組成とするための最適処方を確立していく。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ABSとPCの動的架橋技術を開発し、実用上で重要な物性を向上させた点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、企業からのアドバイスを得て次のステップへの課題も明確にしているが、企業側での展開が具体的に示されていないのが残念である。実用的なニーズを収集・分析し、本シーズとのマッチングに努めて欲しい。本研究開発での目標は十分に達成し特許も出願されている一方、産業化につながる具体的なルートが示されていないのが残念であるが、実用上重要な材料のブレンド技術であるため、展開力はあると思われるので、今後はそれを具現化する方法の検討が必要である。
発光材料としての液晶性金錯体の開発 立命館大学
堤治
立命館大学
矢野均
本研究では、液晶性を示す金錯体の開発を行い、発光挙動と凝集構造の関係について検討した。いろいろな構造の金錯体を合成し分子構造と液晶性の相関を調べ、低温で液晶性を発現させるための分子設計指針を得た。また、液晶性金錯体の発光挙動を観察した結果、室温・大気中でも強いリン光発光を凝集相で示すことが明らかになり、発光デバイス用材料としては極めて魅力的であることを見いだした。本研究では、当初の目標である室温での液晶相発現は達成できなかったが、低温液晶を得るための分子設計指針を明らかにしたので、今後は室温液晶性金錯体を開発して発光材料としての技術移転を目指した展開を行う。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初目標である液晶性金錯体の相転移温度の低温化に向けた分子設計に指針を得たことと凝集相でのリン光発光を検証したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、室温領域までの低温化と相構造変化に伴う発光特性の有為性などの基礎データを蓄積し発光デバイス用材料としての実用化が望まれる。液晶性錯体の高効率発光と発光制御は魅力的なテーマであり、今後は、これら基礎データの取得に向けた研究を継続することが期待される。
植物油に含まれるグリセリンを炭素源としたバイオプラスチックの高収率生合成 龍谷大学
中沖隆彦
龍谷大学
筒井長徳
植物油からバイオディーゼル燃料(BDF)製造時に副生成物として得られるグリセリンを精製することなく、微生物によるバイオプラスチック(ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート))の生合成を行ったところ70%を超える極めて高い収率を得ることに成功した。
これは未精製のグリセリンに少量のBDFが含まれている効果による。また廃グリセリンから生合成したポリ(3-ヒドロキシブチレート)を共重合体(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)に数%程度ブレンドすることで力学物性を大幅に改善(もとの共重合体と比較して最大応力で2倍、破断ひずみは500%以上)することができた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。P3HAの共重合体での破断伸び200%以上の目標は達成できなかったが、特に、P3HAの生合成収率60%以上の目標は達成され、PHAのブレンドという改善策を見出し、材料の物性改善という大きな成果を得た点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、グリセリン処理の企業が興味を示しており、廃グリセリンのリサイクル技術として実用化が望まれる。今後は、実用化に向けた方向性と計画の具体的な立案がなされ、引き続き研究開発を実施することで、企業との具体的な連携に発展することが期待される。
太陽型高分子を用いた選択的ナノ粒子捕集材料の開発 京都工芸繊維大学
足立馨
京都工芸繊維大学
行場吉成
本研究は太陽型高分子の精密合成法を基盤とし、機能性官能基による太陽型高分子の側鎖末端修飾技術の開発と、側鎖末端修飾太陽型高分子の選択的ナノ粒子捕集特性を目標とした。活性アニオン末端に対して直接金属への配位特性を有する官能基の導入は、副反応のため難しいことが明らかになった。そこで環状高分子から直接機能性モノマーを重合することで、太陽型高分子側鎖に機能性官能基が導入できることがわかった。今後は得られたこれらの太陽型高分子に金属配位特性を有する官能基を導入し、その選択的ナノ粒子捕集特性を明らかにする。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。ナノ粒子を捕集する結合サイトを導入することにより環状高分子をナノ粒子の回収・分離剤として利用することを目指す研究開発であるが、当初目的の結合サイトの官能基の導入には至っていない。このためにナノ粒子の捕捉能についても検討はされていない。現時点では技術移転のための企業との共同研究へ発展していく段階とは言えない。今後、高分子の修飾技術の基礎研究を更に実施し、レアメタルなどの回収などでの利用可能性を見出されることに期待したい。
二重細孔構造を有する新規高分子多孔体の開発と高速液体クロマトグラフィー用カラムへの適用 京都大学
金森主祥
本研究課題は、研究責任者らが見出した、相分離を伴うリビング重合によるモノリス型多孔性架橋高分子作製法に基づく、新しい高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用の分離媒体(ポリマーモノリス)を開発するものである。毛細管(キャピラリー)中にポリジビニルベンゼン多孔体をリビングラジカル重合により合成し、HPLC分離実験を行ったところ、アルキルベンゼンのベースライン分離が達成され、従来のポリマーモノリスカラムでは不可能だった低分子分離が可能であることが確認できた。また、同一のカラムを用いて生体関連高分子であるタンパク質の分離も効率よく行えることが明らかとなり、汎用性の高い有機高分子カラムとして機能することを実証した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。細孔サイズを最適化することによって得られた理論段数の最大値は、申請者が目標とするレベルには未達であるが、HPLCカラム充填剤としての明確な特性の向上が見られている。理論段数を上げて分離性能を向上するための技術課題が明確化されており、今後の技術移転に向けた可能性が高まったと評価できる。HPLCの充填剤に対する需要はあり、技術が実用化された際の社会的有用性は高い。困難も予想されるが、HPLCカラムとして高価ながら付加価値の高い、サイズ排除カラムへの展開も望まれる。今後、実用化に向けた具体的な方向性と計画の検討が重要となる。
紫外線リソグラフィによるエポキシ樹脂系分子フィルタ作製技術の開発 京都大学
平井義和
関西ティー・エル・オー株式会社
橋本和彦
細胞や分子を微小な空間で扱うバイオチップの構造材料として利用されているエポキシ樹脂系ネガレジストが、紫外線リソグラフィの加工パラメータで拡散係数を制御可能な「分子透過膜」として利用できることを実証することに成功した。例えば本研究開発の分子透過膜におけるRhodamine-6Gの拡散係数は10^-8~10^-6 mm^2/sレベルを実現できることがわかった。さらにエポキシ樹脂系ネガレジストの分子透過特性に関する基礎的な現象を粗視化分子動力学法によって裏付けることができた。提案する分子透過膜の加工技術は汎用性があり、かつバイオチップ内へ簡単に集積加工できるため、新規のバイオ実験用プラットフォームに応用展開できる。今後は各種イオンや糖類などの透過特性を明らかにすることで,実用性のある分子透過膜として企業化できる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。当初計画にあった、大きめの数十nmの細孔径フィルター作製までは至らなかったが、当初の分画分子量計測法ではなく拡散係数法を利用して、シミュレーション法の開発などにより、当初の目標計測が可能なことを確認し、細孔を有するマイクロ流体デバイスを作製するという目標はほぼ達成している点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、次へのステップに対する課題もすでに明らかになり、解決法もおおよそ明らかになっているようで、今後の展開は具体的である。紫外線(UV)リソグラフィ技術とエポキシ樹脂の材料特性の融合によって、UVリソグラフィの加工限界(約1μm)を超えた孔径数十nm の機能を発現するフィルタ創製技術は、新規なバイオデバイスとして有望な技術であり、この技術が社会に還元されることが望まれる。ナノオーダーの粒子フィルターをマイクロ流路内に組み込んだ新しいデバイスであり、今後は、実験結果とシミュレーションの結果を突き合わせ、透過特性とUV照射時間との定量化が可能になれば、マイクロ流路内での細孔径を指定したフィルターの製品化がなされることが期待される。
構造制御された固体表面金属種の構築法の開発と触媒機能 京都大学
和田健司
関西ティー・エル・オー株式会社
大西晋嗣
固体表面上における厳密に構造制御された金属種の構築は、環境調和型高性能触媒等の開発において、極めて重要な課題である。本研究では、固体表面の官能基とチタン錯体の保護基の穏やかな交換反応を活用することによって、シクロオクテンのエポキシ化反応に対して、前駆体のチタン錯体や従来法による固体触媒等と比較して飛躍的に高い活性を有する触媒系を見出した。さらに積極的に固体表面に固定化することで、チタン種の溶出を伴わず高活性を示す固体触媒を開発したが、チタン担持量はチタン錯体に大きく依存した。本手法は制御された表面金属種を構築する一般的手法として、触媒調製に加えて他分野へのさらなる応用が期待できる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初の評価指標である触媒活性(TOF)及び安定性(Tiの流出量)をほぼ達成できた点に関しては評価できる。しかし、本研究の目標である構造制御された固体触媒調製法の確立のためには、固定化過程の解析を含めた基礎的な研究が引き続き必要である。技術移転の観点から、今後は保護基そのものが高価であるので、本研究の成果であるところの金属高分散化固定法を実用的に実施可能な安価保護基に展開していく必要があるものと考える。
機能性キトサン誘導体の開発 京都大学
高野俊幸
関西ティー・エル・オー株式会社
大西晋嗣
機能性キトサン誘導体として、光熱変換性(近赤外線吸収性)キトサン誘導体、および光電変換性キ
トサン誘導体について検討した。前者については、フェニルカルバモイル基の目標導入率: 0.70以上
に対して、0.74のフェニルチオカルバモイル化キトサン誘導体の合成法を確立し、この誘導体と銅化
合物の熱処理化合物は、近赤外線吸収性を示した。後者については、光電変換官能基をほぼ目標通り
の導入率で導入した新規なキトサン誘導体の合成に成功した。この誘導体の光電変換性能の評価を行
い、既知の光電変換性セルロース誘導体とほぼ同等の性能を確認した。今後、さらに、光熱・光電変換性誘導体の実用化に向けての諸問題の検討、および両誘導体の合成法の知見を基にして、光熱、光
電変換性以外の機能性キトサン誘導体への展開を図る予定である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。フェニルチオカルバモイル化キトサン誘導体の合成法を確立し、この誘導体と銅化合物の熱処理化合物が近赤外線吸収性を示すことを見出した。未達事項はあるが、所定の光熱変換性キトサン誘導体も得られており、概ね目標を達成できたと評価できる。一方、技術移転のためには、実用面での評価を行う必要がある。本研究成果は、環境・エネルギー分野での高機能性キトサン材料の有効利用へと繋がる可能性があり、従来の健康食品や化粧品分野に限らず、高機能性キトサンへ展開できる技術を企業が求めている。企業との共同研究を進め、実用化に向けた研究開発を進めることが望まれる。
pHによって活性化される蛍光分子の開発と応用 京都大学
川添嘉徳
京都大学
井内浤二
本研究計画の主要な目的は、次の二つであった。1)蛍光プローブの誘導展開、2)誘導展開したプローブを用いてのリンパ球単離 目的1)に関しては構造変換を促すpHを酸性側にまで拡張することは出来なかったが、青から赤までの蛍光を発する誘導体を作成する事に成功した。2)については、化合物の特性と考えられるが、作成した誘導体が好塩基球のみを染色することが出来ず、当初の予定をクリアできなかった。しかしながら、誘導体の中にソルバトクロミズム特性を示す化合物や、新しい染色特性を示す化合物を見出したことから、これらをリファインすることで新たな技術移転の可能性が生まれると考えられる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。当初目標の達成には届かず、pHで蛍光変化する分子の開発は十分にはできていない。まず、この性能の優れた分子が必要であり、細胞分離については戦略を立て直す必要がある。とは言え、次のステップへ進めるための技術的課題が明確になったと考えられる。今後、更なる基礎研究が必要であるが、この蛍光分子の応用や技術移転を考えているのであれば、本研究で得られた分子について、論文発表の前に特許出願をしておかないと企業との共同研究へは進めないことになる。本制度の成果については、きちんと特許出願をされることが望まれる。
ホスホール連結共役高分子の合成と機能化 京都大学
俣野善博
京都大学
吉川信久
α位で直接連結された高分子(ポリホスホール)の合成へ向けて、単量体の合成法を確立した。まず、
可溶性置換基の導入位置が異なる三種類のホスホール単量体を合成し、クロスカップリング反応を利用
してそのポリマー化を検討した。ホスホールのβ位に長鎖アルキル基を導入した場合には、立体障害の問題からポリマー化が効率よく進行しなかったが、ホスホールのリン上置換基に長鎖アルキル基を導入
した場合には、ポリマー化が効率よく進行し、目的とするポリホスホールを得ることに成功した。研究の
達成度は9割程度である。また、ポリマーの電荷移動度の測定とポリホスホールを構成要素とする有機
薄膜太陽電池の光電変換効率の評価を行った。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、ホスホール環を有する化合物から高い電子受容性をもつポリホスホール類の合成に成功し、電子輸送材料として利用できる可能性を示したことにについては評価できる。一方、材料合成としては収率も重要であり、廃棄物となる有機スズ化合物の処分と云う課題もある。今後は、知的財産の確保も当然とし実用化に向けたロードマップを策定されることが望まれる。
両親媒性ブロック共重合体の会合・周期構造形成を用いた金属ナノ粒子の合成制御と分散制御 京都大学
中村泰之
京都大学
増田亜由美
ミクロ相分離構造中にドメイン選択的に金属ナノ粒子が分散された材料の創製を、リビングラジカル重合法を用いた新しい高分子合成を基盤として行った。分子量および分子量分布の制御された両親媒性ブロック共重合体ポリスチレン-block-ポリビニルピロリドン(PSt-b-PNVP)のミセルを金ナノ粒子合成の反応場、およびブロック共重合体のミクロ層分離構造をナノ粒子の配列場として用いることについて検討した。PSt-b-PNVPを用いた金ナノ粒子の合成では、PNVP鎖を核、PSt鎖をコロナに持つ逆ミセル中に金ナノ粒子が内包された複合体が得られたが、ナノ粒子の粒径や数の制御を達成することはできなかった。一方、PNVPにより安定化された金ナノ粒子と、PSt-b-PNVPの混合物からミクロ層分離構造を形成させたところ、金ナノ粒子がPNVPドメインに選択的に分散されたラメラ型構造を得ることに成功した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、当初の3目標の内、相分離構造中へのドメイン選択的な金属粒子の分散制御を目的にPNVP相に金属粒子を配列させたことについては評価できる。一方、他の当初目標である、ミクロ相分離構造の種類・ドメインサイズ・ドメイン周期長の制御と金属ナノ粒子生成における粒径および単分散性の制御に係る検討やデータの積上げなどが必要である。今後は、ナノ粒子形成のメカニズム解明を最優先させ、技術的課題を明確にするための基礎データを蓄積し、具体的な検討課題の洗い出しと課題攻略法の練り直しをされることが望まれる。
身近な紙を有機EL照明用透明・低熱膨張フィルムに変える 京都大学
矢野浩之
京都大学
増田亜由美
植物繊維をリグニン除去後、乾燥させることなく疎水変性すると、透明樹脂との複合化で簡単に低線熱膨張の透明複合材料を製造できる(シーズ技術)。本技術によれば、透明かつ低熱膨張のフレキシブル材料を極めて安価に製造でき、本材料を有機EL照明や有機太陽電池等の電子デバイスの透明基板に用いることができれば、その製造コストは飛躍的に低減できる。本研究では、本技術の移転に向け、有機EL照明用透明基板として用いるための要求性能を明らかにするとともに、本材料が、それを満たす基本特性を有していることを明らかにした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、疎水変性した植物繊維と透明樹脂とを複合化した、低線熱膨張の透明複合材料について、その全光線透過率、線熱膨張係数、耐熱性は目標値を達成していること、短期間で特許性の検証を行ないPCT出願を行ったことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、有機EL照明や有機太陽電池などの電子デバイスの透明基板などでの実用化が望まれる。今後は、有機EL発光素子で実用化する上で重要な当該材料の平滑特性を向上させるなど、企業との連携で実用化開発を加速することが期待される。
大気圧ドライプロセスによる汎用合成樹脂材料表面への高密度アミノ基導入 京都大学
杉村博之
(財)京都産業21
辻岡則夫
シクロオレフィン樹脂(COP)基板に、大気圧下で波長 172nm の真空紫外光を照射し、アミノシラン固定化サイトとなる水酸基を、表面光酸化により形成するステップと、大気圧下で 3-aminopropyltrimethoxy-silane(APS)蒸気に基板を接触させるステップからなる、アミノ化大気圧ドライプロセスを開発した。反応温度 70℃で、表面窒素濃度 7%の APS 被覆が得られた。この値は、平滑な石英ガラス基板上に APS 単分子膜被覆をした場合の2倍強の値である。高密度で、APS がCOP 上に固定化されたことを示している。60-70℃という比較的低温での被覆が可能であったことから、より耐熱性の低いオレフィン系ポリマーである、ポリエチレンやポリプロピレンへも対応できると考えられる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初計画で予定していた飽和炭化水素系合成樹脂のうち、シクロオレフィンポリマーに対して本手法が有効に作用し、高密度で表面にアミノシラン分子を集積して固定化可能であることを見出している点に関しては評価できる。しかし、特許の出願や具体的な応用検討には至っておらず、ポリエチレン、ポリプロピレンについては未評価の段階にある。一方、技術移転の観点からは、表面処理、材料表面の機能化の基礎研究としての価値は高いが、材料開発の面から評価すると多くの課題が残されていると考えられる。シクロオレフィンポリマーには異なる性質のものが多くあり、ポリマー構造と反応性の相関をを明確にする必要がある。また、ポリエチレン、ポリプロピレンの反応性についても個別の検討が必須である。多方面に同様のニーズが認められるので、使用素材の範囲を拡大し、他の表面処理技術(コロナ放電、プラズマ処理等)との生産性・コストの比較検証がなされれば、技術移転が期待される。
クルードグリセリンを用いる液化バイオマスポリオールのポリウレタンへの適用検討 京都大学
吉岡まり子
科学技術振興機構
渡邉博佐
近年バイオディーゼル燃料の生産が増え、副生するグリセリンの利活用が求められている。本研究では、グリセリンを用いる液化バイオマスから市販ウレタン樹脂成形物と同等更にはそれらを上回る製品を誘導できた。その物性をさらに高めるためにセルロースナノファイバー(CNF)を用いるナノコンポジット材料化も試み、物性の1割以上の増強にめどを付けた。なお、植物度40%以上のバイオポリオールを、植物度20%以上のウレタン樹脂製品をという目標初期目標の達成は一部にとどまった。その原因はバイオマス液化物のアルキレンオキシド付加の検討が好適に進んだため、深追いし、「或いは」で考えていた植物度を本質的に高くするラクチド付加の検討を行わなかったためである。  当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、市販バイオポリオールを用いたポリウレタン発泡体と比べ、より植物度の高い本研究のバイオポリオールを用いたポリウレタン発泡体が同等以上の機械物性や熱物性を示したことは評価できる。一方、当初目標の、ラクチドを用いた検討やナノファイバーを加えての物性向上検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、グリセリンへのバイオマスの溶解条件、アルキレンオキサイドとの重合条件、そこで得られたポリオールのブレンドなどの基礎データを積み上げるなど、ポリウレタン発泡体の物性向上に向けた検討をされることが望まれる。
ケトンの不斉還元における立体選択性の逆転を可能にする2つのアプローチ 関西大学
坂口聡
関西大学
柴山耕三郎
エナンチオマーを任意につくりわけることは製薬、農薬、香料産業において重要な研究課題である。本研究では非天然物に頼ることなく、天然アミノ酸から誘導したキラルなN-ヘテロサイクリックカルベン(NHC)配位子のみの使用で、Ir触媒によるケトンの還元反応において、2つのアプローチにより両エナンチオマー生成物を高立体選択的につくりわける技術を確立した。具体的には新規な2種類のNHC-Ir錯体を合成し、それを触媒に用いたイソプロピルアルコールによる不斉水素移動型還元反応およびシランを用いた不斉ヒドロシリル化反応によって、R体およびS体のアルコールを良好な不斉収率で合成できる触媒システムの開発を行った。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。当初目標はほぼ達成され、特に、NHC-Ir錯体触媒の合成では、R1基がt-Bu基およびR2基がベンジル置換基が効果的であることを見出している点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、現時点では触媒の価格と生成物の価値が合わないが、配位子をポリマー鎖に連結させて、金属を固定化し回収する技術を開発するなど、計画は具体的であり、不斉収率の向上や触媒量の減量など反応条件の改善により技術移転される可能性があると考えられる。製薬、農薬、香料産業においてエナンチオマーを任意に作り分ける技術は重要な研究課題であり、実用化が望まれる。
直接表面パターニング可能な新規光応答性ポリマーの開発 関西大学
宮田隆志
関西大学
上畑滋
本研究では、光によって励起された分子間で二量体形成する光二量化反応に着目し、自由体積の大きなポリジメチルシロキサン(PDMS)に光二量化基を導入することによって、光照射により体積変化する新規な光応答性ポリマーを合成した。そのポリマーから調製したフィルム表面に、フォトマスクを通してUV照射すると、光照射部分のみが凹んでフォトマスクに対応した表面パターンが形成された。また、UV照射条件によって比較的短時間で表面パターニングが可能であることがわかった。さらに、表面パターニングしたフィルムをマイクロコンタクトプリント用スタンプとして利用することにより、基板表面へのタンパク質のパターニングも可能であった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、光応答により直接パターンニングできる素晴らしいシーズが見出され、目標に対して着実な成果が得られている点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、シーズを活かせるニーズを見出すことが産学連携による技術展開のカギとなるので、産学連携部門等のサポートも受け、ニーズ元の連携で本シーズが早期に実用化されることが望まれる。今後は、PVCi-g-PDMSを作製するモノマーは非共役モノマーと共役モノマーの組合せなので、得られたポリマー中の連鎖分布がどのようになっているのか解析を行う必要があると感じる。また申請者はブロック共重合体も作製しているが、グラフトポリマーとブロックポリマーとの性能の違いなどをもう少し議論するべきである。これらのポリマー合成に関する基礎的知見を十分に蓄積した後は、さまざまな応用が期待できる。
光増感型配位高分子を用いた低コスト高効率有機薄膜太陽電池の開発 近畿大学
大久保貴志
本研究ではこれまで金属イオンと架橋有機配位子からなる種々の配位高分子を独自に開発し、最近
ではそれら配位高分子を添加したバルクヘテロ型有機薄膜太陽電池の光電変換効率が従来の有機薄
膜太陽電池に対して向上することを見いだした。そこで、本研究課題ではこの研究シーズを発展させ、現行のP3HT-PCBM系の特性を上回る高効率有機薄膜太陽電池の開発を目指すとともに、技術移転可能な基盤技術を確立することを目的に研究を行った。その結果、ジェットミルにて粒径制御を行った配位高
分子を有機薄膜層に添加することで、再現性良く高い光電変換効率を示すバルクヘテロ型有機薄膜太
陽電池が作製できることを実証した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。配位高分子を用いたバルクヘテロ型有機薄膜太陽電池としてエネルギー変換効率の向上やデバイスの安定性の改善など、具体的数値目標を設定し精緻に検討がなされている。配位高分子の添加によって、短絡電流密度は再現良く増大することが見出され、アニール処理による配位高分子の粒径制御により更なる変換効率の高効率化が期待できることが示された。技術移転の観点からは、当初の目標である、P3HT-PCBM系としては高い変換効率6%には及ばなかったものの、概ね目標を達成しており、今後の改善の進行によって実用的デバイスとしての技術移転の可能性が高まったと考えられる。今後、企業との積極的連携により実用化の段階へ検討を進め、太陽電池としての耐久性などの実用面に重要な機能の評価等も行うことが望まれる。
非メタル系高輝度超分子有機円偏光発光素子の探索 近畿大学
今井喜胤
近畿大学
松本守
本研究課題は、「green chemistry」に基づき、合成的手法の使用をできるだけ回避し、金属(メタル)元素を用いず、非メタル系高輝度有機円偏光発光(CPL)素子及びその開発指針を探索するものである。本研究では、以下のような成果を得ることに成功した。
1. フェニルエチルアミン超分子発光体において、構成分子をビフェニルスルホン酸からビフェニルジスルホン酸にすることにより、超分子中の分子ネットワークが強固になり、蛍光(PL)特性が増加することを見出した。
2. 3成分系超分子有機発光体においても、固体蛍光特性を示すことを見出した。
3. 従来の概念を打ち破り、同じ絶対配置の軸不斉化合物から、軸不斉の角度を制御することにより、円偏光発光(CPL)の符号を制御する事に成功した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。超分子有機円偏光発光素子を新規に開発し、高い発光強度と円偏光度の実現を目指すことを目標としており、特に、候補となる化合物構造ならびに組み合わせを拡張し、円偏光発光の符号制御にも成功している点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、合成手法を最小限に抑え、機能の異なる2種類の単分子を組み合わせることにより、円偏光型の3Dディスプレイ用有機発光素子を開発しようとしているところに優位性があり、ある程度突出した性能数値が示せれば、すぐにでも共同研究に移行できるものと思われる。今後は、実用化を可能にするための発光強度と円偏光度の向上を新たな事業で検討しつつ、新規化合物あるいはその組み合わせで有望な発光特性は確認されているので、初期の段階から化合物構造範囲を見極めて特許出願等も行っていくことが期待される。
有機無機同時析出重合法を利用する金属ナノ粒子触媒担持技術の開発 大阪工業大学
藤井秀司
大阪工業大学
上村八尋
パラジウム、白金などの貴金属ナノ粒子は、優れた触媒活性を有することから注目を集めているが、サイズがナノメートル次元であるため、使用後、反応液からの分離・回収が困難である。本研究では、センチメートルサイズの任意の形状を有する基材(多孔質体、繊維)の表面を、導電性高分子―貴金属ナノ粒子からなるナノコンポジットで被覆することで、基材に貴金属ナノ粒子触媒を担持させ、簡便かつ高効率、迅速な再利用が実現できる触媒担持材料の最適合成条件の精査を行った。その結果、ナノコンポジットの基材への導入量が4%以上となる被覆反応条件の最適化に成功した。さらに、触媒反応を3回以上繰り返し行った後でも、80%以上の生成物の収率が得られることを確認し、実用化に向けた技術移転の可能性を見出した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。目標とした、有機無機同時析出重合法による基材のコーティング条件の最適化や、金属ナノ粒子触媒担持材料の触媒活性評価について、計画していた実験項目をすべて実施し目標値をすべて達成している。特に、ピロールの濃度の影響を検討し、ナノコンポジットの基材への導入量5.2%を達成した点は評価できる。また、クロスカップリング反応で、触媒反応を3回以上行った後も83%の収率を得ることにも成功している。一方、技術移転の観点から、今後は実用レベルでの化学工学的な検討が必要と思われる。具体的な有機合成プロセスで他技術に対する優位性を示す必要がある。繊維工業分野の企業、および貴金属ナノ粒子を触媒として利用する有機化学反応に興味を持つ企業との共同研究を模索中とあり、今後、産学共同の研究開発につながる可能性は高く、社会還元に結び付くことが期待される。
光スタート温度管理機能を有する分子センサーの開発 大阪市立大学
小畠誠也
大阪市立大学
立川正治
本研究では、温度センサーが光照射によって機能をスタートできる分子の開発を目指して、温度管理機能に必要となる各種物性評価を行った。フォトクロミックジアリールエテンのチオフェン環をチオフェン・ジオキシド環にし、反応点炭素部位にかさ高い置換基を導入することにより、着色体の光安定性と熱退色反応性を兼ね備えた新規分子センサーを設計した。合成した化合物は目的とする物性を示すとともに、熱退色反応が不可逆的に進行することを新たに見出した。反応点炭素部位に結合したアルキル基の違いにより、不可逆的な熱退色反応性が異なることから、複数の温度センサー分子を利用することにより、広い範囲での温度を管理することができると考えられる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。新たに合成したフォトクロミック分子(ジアリールエテン化合物)を用いて、温度管理可能な、紫外線でスタートする分子センサーの構築を目指す研究であるが、特に、光スタート機能をもつ温度管理シールの開発において数値で緻密に設定された研究目標を概ね達成された点は評価できる。光スタート機能を有する感温シールの開発に繋がる成果が得られたと考えられる。一方、技術移転の観点からは、特許出願に向けての準備を進めており、研究の継続による技術移転に向けた取り組みを計画していることから、食品分野への応用が望まれる。今後は、さらに用途を絞った目標値を設定することにより実用化が加速されることを期待する。
分散安定性と除去性に優れた易分解性ポリマー型分散安定剤の開発 大阪市立大学
佐藤絵理子
大阪市立大学
立川正治
高分子界面活性剤はポリマー微粒子などの分散安定剤として使用されており、多点吸着によって高い分散安定性を示す反面、ポリマー微粒子と同程度の耐熱性を示すため分解・除去は容易ではない。本課題では、外部刺激によってポリマー微粒子の分散状態を制御可能な高分子界面活性剤の開発を目指し、易分解性ポリマー型分散安定剤の開発を行った。分解性を有する新規両親媒性ポリマーを合成し、これらを利用することによりポリマー微粒子の分散安定性の向上ならびに分散安定剤である両親媒性ポリマーの分解によるポリマー微粒子の分散安定性の低下に成功し、当初目標を達成した。乳化重合系への応用などポリマー微粒子のin-situ合成への適用が可能になれば技術移転の可能性が期待される。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。ポリペルオキシドをベースにした高分子界面活性剤を開発し、ポリマー微粒子の分散安定性や、ポリマー分解による微粒子の分散安定性の低下を確認するなど、概ね当初の研究目標を達成していることは評価できる。一方、申請段階にあった、アニオン性やカチオン性モノマーの設計と本界面活性剤を用いた乳化重合の検討が実施されていないのは残念である。今後は、基本データの取得や汎用性の確認などに注力し、コスト面も考慮した上で、分散安定剤として応用展開することが最善なのかも、併せて検討されることが望まれる。
低屈折材料への応用に向けた分岐型パーフルオロアルキル化合物の創出 大阪大学
家裕隆
化学的な安定性を保持し、かつ、スケールアップ合成が可能な分岐型パーフルオロアルキル化合物の合成を達成した。創出した化合物は含フッ素系溶媒に対して溶解度を有していることから、塗布法での薄膜作製が可能なことを特徴とする。屈折率の評価を行ったところ、いずれの化合物からも1.34程度の値を得ることができた。化合物の分岐型構造と屈折率の相関関係の解明、および、実用化に向けてさらに低い屈折率を得るための化合物開発が今後の課題である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、化学的な安定性を保持し、スケールアップ合成が可能で、塗布法に対応可能な分岐型パーフルオロアルキル化合物を合成するという目標は、計画していた化合物とは多少異なるものの達成されている点に関しては評価できる。しかし、屈折率1.30以下を実現するという目標に関しては、1.34を得たのみで、申請段階で得ていた1.32にも及ばない結果となっている。技術移転の観点からは、今後の研究開発計画は具体的には述べられていないものの、本研究でスケールアップ合成の手法を見出したことで技術移転を目指した研究開発ステップにつながる可能性は高まったと考えられることから、ディスプレイなどの光学機器での実用化が望まれる。今後は、化合物構造の検討範囲を拡大することで屈折率の目標値を達成すると共に、研究成果を基にして化合物の特許出願を図ることが期待される。
金属錯体の複核化を利用したエチレンの選択的オリゴマー化反応の開発 大阪大学
劒隼人
大阪大学
中村邦夫
エチレンの選択的オリゴマー化における炭素-炭素結合形成反応に複数の金属核の存在が重要であるかを明らかにする目的で、モデル反応としてアルキン配位子を有する5族金属錯体の合成を行い、種々の配位子の導入による複核化の検討を行った。立体的に小さなアルコキシ配位子をメタラサイクル錯体に導入することで複核化が進行することを見出し、さらには二核金属上での炭素-炭素結合形成反応によるメタラサイクル構造の拡大反応が進行することを明らかにした。本研究成果はエチレンを基質とした反応に展開する際の複核触媒設計に関する重要な知見である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。当初の目標は達成に至らなかったようであるが、技術的課題は明確になった点については評価できる。一方、技術移転に関しては、「まだ研究が必要である」との記述が見られるが、その具体的取組みについては示されておらず判断が難しい。少なくとも明確にした技術的課題の解決に向けた検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。学会発表や論文にできる程度の成果は得られたことが報告されているが、結果は予想と違う方向となっていることから、今後は、目標達成のための技術的課題を解決し、それを基に特許出願されることが望まれる。
シアン化物イオンの超高感度蛍光センシング 大阪大学
平井隆之
大阪大学
中村邦夫
本課題研究では、研究責任者らが独自に開発したスピロピランを用いる分子設計に基づき、水溶液中の低濃度のシアン化物イオン(CN-)を選択的に検出するための分子センサーの開発を行った。スピロピランとクマリンを複合化させた新分子を、CN-を含む水溶液に溶解させて紫外線を照射すると、強い蛍光を示す化合物になることを明らかにした。本分子の特性を利用することにより、当初の目標(1 ppm)を大幅にクリアする15 ppbのCN-を検出できることを明らかにした。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。新規な蛍光剤の開発については、CNイオンと結合する蛍光剤に関する反応機構を充分に検討され、497倍もの蛍光強度の増加を可能にした蛍光試薬を開発し、これまでに報告されたCNセンサーの中で最も低濃度の15ppbのCNを定量することが可能となった点については評価できる。一方、30分程度のワークアップ時間を必要とし更に20分程度の反応時間を必要とするなど、反応速度の向上がみられず、分析時間の短縮や前処理の簡便性についての目標は達成されなかったために、分析ツールとしての使用目的には時間短縮の課題が残っている。今後解決すべき問題点は明らかになったが、それの解決法については現段階では模索中と推測される。技術移転をするために、既に企業とのディスカッション等をされてきたようなので、それらを基に反応速度の向上に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、ワークアップと反応時間の短縮と云う課題を克服するための研究開発を引き続き実施し、新たなCNイオンの分析法として実用化されることが望まれる。
極薄有機強誘電体を用いた低電圧駆動有機薄膜メモリ 大阪大学
金島岳
大阪大学
中村邦夫
強誘電体は新規不揮発性半導体メモリへの応用が期待されており、また最近フレキシブル、プリントプロセスによる低コストなどの利点をもつ有機半導体が注目されている。しかし、有機強誘電体は抗電界が大きく、ICカードなど低コストを活かす機器に応用するためには低電圧駆動化が必須である。また、有機強誘電体の上に有機半導体層を形成する必要があるが、徐冷アニールを行うと表面が荒れてしまい良好な界面が形成されないという問題がある。そこで、我々はアニール時に非常に平坦な表面でキャップすることで有機強誘電体薄膜の表面ラフネスを1 nm以下まで平坦にしつつ、膜厚が100 nm程度の極薄化に成功し、抗電圧が10 V以下と低電圧化を行った。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。有機強誘電体薄膜の極薄化を目標とした研究であり、駆動電圧、膜厚、膜の表面粗さなど具体的な目標数値を掲げているが、得られた成果は「約」とおおよその値で報告されているため、目標が達成されたかどうかの判断がしがたい。有機強誘電体メモリの作製も目標とした成果は得られず、引き続き基礎的な研究が必要である。薄膜の作成技術と材料の選定がキーとなるようであり、いくつか作成において注意すべき項目は明らかにされているようであるが、実験環境との間にギャップが感じられる。ICカードやタグ用途への展開が期待できる技術であり、社会貢献は期待されるが、まだ技術移転につながるレベルではなく、今後、実用化にはプロセスの改善、最適化等の継続した基礎的な研究が必要である。
インプリンティングポリマーによるキラル光合成場の創成と制御 大阪大学
西嶋政樹
大阪大学
神崎伯夫
本課題では、キラル化合物を鋳型とする分子インプリンティングポリマー(MIP)の作成と、MIPの光化学反応場としての適応可能性について評価した。MIPの評価には、2-アントラセンカルボン酸(AC)のキラル二量化反応を利用した。今回、2種の化合物を鋳型としたMIPをそれぞれ作成し、それらを鋳型に用いたACの光反応を実施した。その結果、共に鋳型に対応した反応選択性を示し、特にキラル化合物を鋳型とするMIPを用いた系では高エナンチオマー選択性を確認し、MIPがキラル光反応場として利用可能であることを見出した。MIPによる反応場の構築は、任意の化合物をターゲット可能で、様々な分野への応用研究が期待できることから、今後製薬企業や試薬合成メーカーなどのニーズを取得し、本手法の技術移転を加速する予定である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。作成した分子インプリンティングポリマー(MIP)を用いる光反応において、選択的に反応制御可能であることを示すことができた。MIPを光二量化反応に用いる研究は新たな取り組みであり本成果は高く評価されるが、得られた成果は基礎的であり、継続研究により特許出願につながることが望まれる。今回は限られた化合物のキラル合成であるが、技術移転に向けて、実用化されている化合物を含む高付加価値化合物のモデル合成などの研究成果を持って技術移転に進める必要がある。今後の更なる技術的検討により、多くの反応系への展開も可能であり、社会還元することが大いに期待できる。
有機EL材料の高発光効率・高耐久化を目指したフッ素化ヘリセンの創製 大阪府立大学
神川憲
大阪府立大学
阿部敏郎
本研究では、当研究室で開発したパラジウム触媒を用いた炭素-水素結合切断を伴う直截的炭素-炭素結合生成反応により、一挙にヘリセン類を簡便に合成する手法を基に、従来の方法では合成が困難であったフッ素置換基が導入されたヘリセンを合成することが目的としている。フッ素化されたヘリセン類を配位子とするイリジウム錯体を形成すると、発光効率化が重要な課題となっている青色有機EL材料において、従来のものを凌駕できる高発光効率、高輝度な材料の開発が十分に期待されるために、機能性材料として非常に有望な化合物群である。今回、我々は本合成法を活用することにより、フルオロアザ[4]ヘリセン-N^オキシドを合成することに成功した。これを通常の条件にて、還元することにより、目的とするフッ素化されたアザヘリセンの合成にも成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、トリフルオロメチル基を有するアザヘリセンを高い収率で合成できた点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、リン光材料の作製に向けてIr錯体を合成することを計画していることから、これらの研究成果によっては、高い青色発光効率を有するEL素子などでの実用化が期待される。
有機溶媒耐性プロテアーゼを用いたポリアミノ酸の新規合成法の開発 大阪府立大学
荻野博康
大阪府立大学
阿部敏郎
本研究では新規に見出した高い有機溶媒耐性を有する酵素を用い、ポリアミノ酸の低環境負荷な新規合成法を開発する。ポリアミノ酸は生分解性に優れ、生体適合性も高く、縫合糸、人工皮膚、あるいはドラッグデリバリー用の材料として用いることができる。しかし、ポリアミノ酸の化学合成は有毒な化合物の使用を必要とする低収率な多段階反応である。プロテアーゼは本来ペプチドの加水分解を触媒する酵素であるが、有機溶媒存在下ではその逆反応が進行し、ペプチド合成反応を触媒することが可能である。有機溶媒耐性プロテアーゼを高濃度の有機溶媒存在下で用いることにより、高分子量のポリアミノ酸を合成する新規合成法を開発する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、目標とした有機溶媒耐性プロテアーゼを用いて平均重合度10以上のポリアミノ酸を収率10%以上で合成できる系の開発を概ね達成している点については評価できる。一方、応用展開に向けて、更に良好な収率を達成するための詳細なデータが必要であり、プロテアーゼを用いて生成されるポリアミノ酸の重合度や生産効率等の詳細なデータ採取と、それらの向上が必要であると思われる。その際、平均重合度や収集率等の目標値については、工業化を踏まえた場合の妥当性を明確にする必要がある。研究成果の特許化を進め、今後の研究開発計画を明確にした上で、産学共同の研究開発につなげることが望まれる。
分解性を有する低収縮型光硬化樹脂の開発とUVインプリント用材料への応用 大阪府立大学
白井正充
大阪府立大学
濱田糾
UVインプリントは微細加工技術としての期待が大きい。高価な石英モールドの代わりに、安価な複製樹脂モールドの作製法を既に開発した。しかしながら、精確な複製樹脂モールドの作製には、分解性を有し且つ低収縮性であるUV硬化樹脂が必要である。本研究では、ヘミアセタールエステルユニットを分解サイトとした、多官能メタクリラートモノマーを合成し、365nm光照射による重合硬化と、254nm光照射により室温付近で熱分解する低収縮性樹脂を開発した。開発した樹脂をテンプレートモールドに用いて、石英モールドからの精確な複製樹脂モールドの作製に成功した。また、当該樹脂モールドを用いてUVインプリントを達成した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、2官能性モノマーを数種類合成することから系統的な評価を行ない、目標性能を持つ光硬化性樹脂を合成することができたことは評価できる。収縮率1%のモノマーを合成したことは学際的にも興味深い。一方、技術移転の観点からは、類似技術と比較し、それらへの優位性をPR してUVインプリント分野での実用化が望まれる。今後は、特許出願の可否やナノインプリント分野への適用の可否も検討することが期待される。
低環境負荷光源に対応した高性能光酸発生剤の開発 大阪府立大学
岡村晴之
大阪府立大学
濱田糾
非イオン型のチアントレン誘導体の基本骨格およびイオン型のチアントレン誘導体の基本骨格に各種置換基を導入して、高機能・高性能のi-線用およびLED光源対応光酸発生剤を開発する。365 nm光あるいは405 nm光を吸収し、光反応性が高く、効率よく強酸を発生し、熱的安定に優れ、エステル系やケトン系の有機溶剤に対する溶解性に優れる光酸発生剤を開発する。また、合成経路の短縮化を図り、各合成ステップの高収率化を達成し、光酸発生剤を低コストで合成する。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、ハイブリッド型光酸発生剤として四種類(内一つは混合系)の合成に成功し、混合系ではないものの熱的安定性は当初の目的を達成していることについては評価できる。一方、前駆体と思われる化合物との分離による純粋な目的物の取得に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、この分野での深い研究成果にも基づき、別のアプローチを含め研究戦略の練り直しをされることが望まれる。
ラジカルを用いた低炭素型有機EL発光材料の開発 大阪府立大学
池田浩
大阪府立大学
稲池捻弘
本研究開発では、アリール置換トリメチレンメタン型ビラジカルという有機ラジカルを使って、低炭素型有機EL の発光材料の開発研究を行うことが目標である。具体的には、ビラジカルの前駆基質を合成し、種々の有機EL 素子を試行錯誤的に試作することを課題とした。しかし、研究中途より某企業が本研究計画の基となった実験を独自に追試して良好な結果を得たことから、本研究では計画を一部変更し、ダブルレーザーフラッシュフォトリシス(DLFP)法による励起ビラジカルの発生と特性評価の研究を行った。達成の程度は研究全体としては85%である。今後は、日東電工テクニカとの共同研究の可能性を探る一方、JST A-STEP (本格研究開発ステージ)やJST ALCA (プロジェクトステージ)などの大型予算の獲得を目指し、さらに本格的な試作と実用化の条件を明らかにする。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。アリール置換トリメチレンメタン型ビラジカルに基づく低炭素型有機EL発光材料の開発を目指す研究課題であり、特に、DLFP法による発光性中間体の観測など、基礎的な面での新たな知見を得ている点に関しては評価できる。しかし、現状では研究が有機基質の合成法の段階にとどまっており、材料の光学特性の解明が進んでいないためにEL素子としての効率も明確でないなど、EL素子開発の研究は今後の課題として残されている。また、基質の合成、材料の探索、素子としての最適化などの課題は明確にしているが、課題を克服するための指針は示されていない。今後は、企業との共同研究を進めて、課題解決のためのアプローチを明確にして実用化へ進めることが期待される。
3次元構造を有する色素の開発と有機薄膜太陽電池への応用 大阪府立大学
前田壮志
大阪府立大学
亀井政之
有機薄膜太陽電池の高効率化に向けて、本申請課題では高純度化やホール移動度の改善が期待される低分子3次元構造をモチーフとして、吸収波長域と太陽光スペクトルのマッチングを改善するためにスクアリリウム色素骨格を導入した新規色素を設計・合成し、その構造が光・電気化学特性及び光電変換能に与える効果について検討した。得られた色素の光吸収・電気化学特性は、スクアリリウム色素部位に強く依存した。この新規色素とフラーレン誘導体からなる有機太陽電池は、その変換効率自体は低い値にとどまっているものの、色素の吸収領域に分光感度を示し、3次元構造を有する色素がドナー材料として機能していることが示された。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。本研究は、有機薄膜太陽電池で必要とされる電子ドナー材料を、3次元構造を有する色素をモチーフとして調製し、その性能評価を行っている。三次元構造を有するスクアリリウム系色素の合成には成功し、その光・電気化学的特性を明らかにした点は評価できる。その色素を用いた有機薄膜太陽電池の作成も目標通りに行われた。しかし、光電変換能が低く、太陽電池として利用する際の効率からすると、技術移転に向けて更なる技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。研究テーマとしては、社会還元しうる内容のものであり、今後は今回のアプローチをさらに発展させることで光電変換能の向上を目指すこと、更に企業との共同研究の段階に移行するためには、向上を目指す戦略の確からしさを実証する事も望まれる。
有機デバイスにおけるキャリア寿命の高感度評価法の開発 大阪府立大学
小林隆史
大阪府立大学
赤木与志郎
有機材料からなる電子デバイスは多くの場合、数100nm程度の膜厚であり、内部を走行するキャリアは数μs程度で対向電極に到達するか、または再結合する。このような走行時間または寿命を、特定の層に注目して、かつ実際のデバイスを用いて決定することはこれまで極めて困難であった。本研究では変調分光法を反射配置で用いることにより、非常に高い感度でこれらの時定数を決定する手法を開発した。具体的には有機太陽電池において、1μsを切る時間分解能を達成し、さらに短絡回路条件のようなデバイス内部のキャリア密度が著しく低下するような状況でも寿命決定が可能なことを実証した。この手法を用いれば、有機デバイスの作製プロセスの改良や材料選択を合理的に進めることが可能となり、早期実用化に貢献できるものと期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。新しい発想ではないが、当初計画通り検出器や増幅回路等を見直した結果、1μs以下の時間分解能が実現されている。これによって、有機太陽電池中のキャリア挙動についての詳細な解析が可能となり、今後の有機太陽電池開発への手法を得ている点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、開発された測定装置は民間企業における有機太陽電池開発に有効に用いられるべきものであると考えられる。また、他の有機デバイスの研究開発に対する有効性も十分期待できる。以上の事から、測定装置としての早期の実用化が期待される。
新規複核錯体を触媒とする環境調和型新規酸化反応プロセスの開発 大阪府立大学
小川昭弥
大阪府立大学
濱田糾
本プロジェクトにおいて、新たに銅、ルテニウムをベースとした6種類の新規触媒を合成するとともに、分子構造をX線結晶構造解析により解明することに成功し、複核を有する錯体合成の手法を確立した。本触媒を用い、常圧の空気を酸化剤として、反応収率90%で対応する酸化生成物を合成することに成功した。また、反応終了後の溶媒への有機物残留物については、重溶媒を用いた実験において、原料以外には0.5%以下に抑えることが可能となった。
さらに、新たに光触媒を開発することに成功し、環境低付加溶媒として知られるフルオラス溶媒において、光照射下、常圧酸素により定量的に酸化的イミン合成が可能であることが明らかとなった。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、隣接位置に芳香環が必須ではあるがバナジウム錯体で空気酸化によるケトンの酸化を実現したこととタングステン触媒で過酸化水素による第2級アルコールの酸化を実現した技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、特許出願には到っていないが企業との共同研究で計画している色素やイミン合成などでの実用化が望まれる。今後は、アルコールからケトン、アミンからイミンへの合成の先行技術を踏まえて実用化の目標値を設定され、更なる触媒の機能向上に必要な作用機構の解明も含めた検討を進められることが期待される。
新規バイオミメティック触媒を用いて合成した多分岐ポリL-乳酸からなるバイオマスコーティング材の開発 地方独立行政法人大阪市立工業研究所
門多丈治
地方独立行政法人大阪市立工業研究所
高田耕平
酵素の協同的酸塩基触媒作用にヒントを得た新規有機重合触媒を駆使して、分子量、分岐構造が明確に制御された精密多分岐ポリ乳酸を合成し、塗料に適した新素材の開発に繋げることを目的に研究を行った。その結果、分子量21万、直鎖状から8分岐までの一連の精密ポリ乳酸ライブラリを構築することができた。また、得られたポリ乳酸のガラス転移温度、融点、結晶性等の熱的性質や、引張強度、接着性等の力学的性質を分子量、分岐度で評価することによって、諸物性との関連性を明確化し、これまでにない柔軟性発現メカニズムを考察した。その成果の1つの応用例として、溶解性、塗布性、透明性に優れた塗料用ポリ乳酸の設計を可能とした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、天然の多価アルコールを触媒として分岐度や分子量分布が精密に制御されたポリ乳酸の合成法を確立したことと、合成したポリマーの性能が系統的に評価され非常に説得力のあるデータとしていることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、成型加工の方法にある問題と課題を解決し、塗料や接着剤などでの実用化が望まれる。本技術で分岐度や分子量を精密制御することが可能なので、今後は、精密合成の重合性を示すデータの取得、例えば、分子量分布の広い多分岐ポリマーとの比較や汎用触媒で合成した多分岐ポリマーとの比較を是非に検討され、用途を広げることが期待される。
アリル基の反応性を利用した接着性と靭性に優れた高耐熱性樹脂の開発 地方独立行政法人大阪市立工業研究所
大塚恵子
地方独立行政法人大阪市立工業研究所
高田耕平
低粘度であるために成形加工性に優れ、耐熱性や、高温高湿下における電気絶縁性に優れたジアリルフタレート樹脂をベース樹脂として、アリル基の反応性を利用した変性を行うことにより、優れた靭性とエポキシ樹脂並みの接着性を持つ新たな高耐熱性樹脂を開発することを目的とした。開発した新規樹脂は、200℃以下の硬化温度で、250℃を超えるガラス転移温度と0.7 MPa・m1/2以上の破壊靭性値を達成することができた。この値はジアリルフタレート樹脂やエポキシ樹脂を超えるものである。さらに、せん断接着強度についてもエポキシ樹脂に近い値を示し、低熱膨張性についても確認した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。高耐熱性樹脂の開発において、耐熱性や破壊靱性、せん断接着強度に関して概ね目標値が達成された点、さらに、低熱膨張性も見いだされたことは評価に値する。一方、技術移転の観点から、今後の課題は明確にされているが、それを成し遂げる具体的方策と、既存競合品に対するコストパフォーマンスに関して更なる検討が望まれる。
バイオマス由来工業原料ピロリドン生産法の開発 独立行政法人産業技術総合研究所
山野尚子
独立行政法人産業技術総合研究所
堀野裕治
本技術は工業原料のバイオベース化のための研究であり、実用化に向けて、実験室レベルで構築した効率的な生産系をスケールアップする際に生じる問題の解決と、バイオマス由来材料が石油由来と同等の性能を有することを検証することを目的とする。1Lスケールの反応系で、時間空間収率10g/Lh以上、連続的に10日以上生産する系を確立し、kg単位での生産を可能にすることを目標とし、スケールアップした1Lの反応系で10日間に2030gのGABAを収率80%で、さらに熱処理によりGABAから収率95.5%でピロリドンを得ることが出来た。今後のスケールアップには企業の協力が必須であり、更なる研究開発を行いつつ、連携先企業を見出し、バイオベース材料の実用化に繋げたい。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、固定微生物の利用は未達成であるが、生産連続系への見通しがあり、スケールアップした生産系への基礎的情報を得ており、菌の分離技術や粗精製グルタミン酸の利用によるコスト低減も提案されている点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、本研究開発での出発材料はアミノ酸であり、生バイオマス原料ではなく、合成されたピロリドンやポリアミド4の需要に関してのリサーチが今一つ不十分であるが、コスト削減を含めた効率的な生産方法が提案されており、省エネ省資源化を目指したバイオマスからの生産という観点から実用化が望まれる。今後は、固定化微生物による生産系を構築する対策として菌の膜分離など、また、コスト低減に粗精製グルタミン酸の利用などの具体的提案がなされており、それらを基にして連続的生産手法が構築されることが期待される。
3,6-O-架橋反転ピラノースの大量合成法の確立―超高β選択的グリコシル化反応の実用化に向けて― 関西学院大学
山田英俊
関西学院大学
山本泰
架橋反転ピラノースを糖供与体として用いる超高β選択的グリコシル化反応は、糖分子の立体配座の固定という概念を用いる新しいグリコシル化法である。当該手法は、隣接基関与を用いないグリコシル化反応の中では最高の選択性を示し、高い反応性/多様な条件下で適用可能である等汎用性が高いことを実証している。しかし、この糖供与体となる3,6-O-架橋反転ピラノースは、一般の研究者にとって非常に入手し難い化合物である。そこで、当該グリコシル化法の普及・実用化のために、3,6-O-架橋反転ピラノースの大量合成法を検討した。その結果、合成経路の最適化による全合成段階の短縮、シリンジポンプ滴下法による架橋構造構築段階における収率向上等を達成し、技術移転の可能性を見出した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、糖供与体の合成経路を11段階から6段階に短縮すると共に架橋構造の構築段階で2gスケールで73%の収率を達成したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、当初目標とした3,6-O-架橋反転ピラノースの10gスケールへのスケールアップは不十分と言わざるを得ず、このスケールアップ検討を更に進めて糖供与体としての実用化が望まれる。今後は、試薬メーカーなどの企業との連携により、糖供与体の大量提供スキームを構築することが期待される。
単分散で長期安定性を有するサンスクリーン用ポリマーコロイドの開発 甲南大学
渡邉順司
本研究では、日焼けを防ぐサンスクリーン(日焼け止めクリーム)基剤において、サンスクリーン効果を高める紫外線を吸収する有機化合物や紫外線を反射させる無機微粒子のような配合薬剤を均一に分散させる材料開発が目標です。従来は、合成系界面活性剤の使用が主流でしたが、これに代わる生体適合性の高いポリマー材料の開発が消費者から望まれています。本研究では、生体適合性の高いポリマーから長期間分散安定性が高いポリマーコロイドを創製し、そのコロイドの内部に配合薬剤を内包させることに成功しました。水媒体中で6ヶ月以上の期間、分散性に優れたポリマーコロイドは今後の主流になると確信しています。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初目標より長期の安定性を有するポリマーコロイド溶液の作製に成功したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、進行中の企業との共同研究で、様々な環境下でのコロイド分散系の安定性の評価など実用的な観点からの検討が望まれる。今後は、予想外の方向性や展開にも対応することを想定し、改めて課題を整理し目標を再設定することが期待される。
材料表面を簡便に化学的機能化する新規塗布型合成高分子の開発 神戸大学
西野孝
神戸大学
塩野悟
本研究では、塗ることでプラスチック材料表面に反応点を安定的に提示可能な機能性高分子の開発を行った。高分子の基本骨格はポリメタクリル酸メチルとし、高分子塗布の仕方は最も実用的なディップコートを用い、高分子中のアミノ基を効率的にアクリル板表面に提示させることを目指した。その結果、アミノ基をフリー(保護基無し)で高分子に導入した場合、各種保護基で保護した場合とで、表面に提示されるアミノ基量に大きな違いが生じた。このことは、特定の工夫を施すことでアミノ基が高分子-空気界面に配向しやすくなるためと考えられる。また本研究により、表面アミノ基の定量のための新たな機能を有する蛍光試薬を開発した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。アミノ基以上に有用性が高いと考えている「カルボキシル基の表面提示」については全く進展がないが、「導入反応点を利用したDNAの固定化とDNAチップへの変換」については、DNAを実用的な密度で固定化が可能であることを示しているので、研究成果が十分に得られたと考える。また、開発した切断可能な蛍光物質により固体表面上に存在するアミノ基の新規定量法を確立したことも評価できる。一方、技術移転の観点からは、基板上にアミノ基を40 pmol/cm程度で提示してDNAを実用的な密度(2 pmol/cm)で固定化する技術と、切断可能な蛍光物質により固体表面上に存在するアミノ基を定量する方法がほぼ確立したと考えられる。今後は、基礎研究を続けると共に、速やかに技術移転を目指した産学共同研究に移行することが期待される。特に、蛍光物質については分析試薬として高い潜在性があると思われるので、このシーズを必要とするシーズの発掘が望まられる。
不可逆的に表面改質可能な機能性界面活性剤による次世代炭素材料薄膜の開発 神戸大学
丸山達生
神戸大学
塩野悟
本研究では、重合性界面活性剤を新規に設計、合成した。この界面活性剤には、水中および有機溶剤中でラジカル重合可能な重合性官能基を、疎水基として疎水鎖の異なる脂肪族炭化水素を導入した。また、親水基はノニオン性の単糖およびオリゴエチレングリコールを用いた。この重合性界面活性剤を用いて疎水性ポリスチレン粒子(粒径1~1.5μm)の分散およびカーボンナノチューブの分散に成功した。特に、界面活性剤同士を重合させた後も粒子およびカーボンナノチューブは分散状態を維持しており、洗浄後も凝集しなかった。また得られたカーボンナノチューブ分散液はガラス板等に塗布し、薄膜化が可能であることを実証した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、複数の重合性表面活性剤を合成し、それらの特性評価から選択した活性剤を用いて、カーボンナノチューブ(CNT)のバンドルのほどけた分散を達成したことと分散液をガラス板に塗布することにより薄膜形成が可能であることを明らかにしたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、CNT薄膜の導電性評価などを行ない、ITOの代替えとしての実用化が望まれる。今後は、共同研究中の企業との連携を深め実用化検討を加速することが期待される。
発光材料を指向した新規チアゾール誘導体窒素アナローグの創製 神戸大学
森敦紀
神戸大学
大内権一郎
申請者が開発に成功した新規な触媒的カップリング反応である、チアゾールやオキサゾールなどのアゾール類のCH結合で起こるCH,NHカップリング反応を利用して、チアゾール類に窒素原子を導入し、π共役系が拡張したチアゾール類窒素アナローグを創製した。得られた化合物の紫外・可視吸収スペクトル、蛍光スペクトルを測定、またはサイクリックボルタンメトリー測定をすることにより、これらの電気化学的特性,発光特性を評価した。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、合成法の確立及び量子収率の目標が達成されており、高く評価できる。一方、技術移転の観点からは、まだ基礎的な研究が必要であるが、大学での研究シーズは得られたと評価できるので、今後産学共同研究により発展させることにより、より良い材料の開発につながると考えられる。今後は、発展させ応用展開されると、社会的に有用な成果であり、社会還元につながることが期待される。また、有機EL系の発光材料だけでなく、バイオイメージングや医薬系など別の用途も考えられるので、コーディネータと協力の上、検討されることを望みたい。
次世代型石炭火力発電の実現に向けた耐圧性と耐熱性を併せ持つCO2選択分離型促進輸送膜の創製 神戸大学
松山秀人
神戸大学
大内権一郎
次世代型火力発電所である石炭ガス化複合発電(IGCC)におけるプレコンバッション方式でのCO2分離回収を対象とし、高温且つ高圧ガスに対する膜分離脱炭酸法の適用を検討した。これまでに開発したCO2選択分離膜のスケールアップを行うとともに、CO2分離性能に及ぼす圧力の影響について検討を行った。開発したCO2選択分離膜は170 oC、2 MPaの高圧条件で1.5×10-6 mol/(m2skPa)のCO2透過係数と30以上のCO2/H2選択性を有しており、膜分離法のIGCCへの適用に対して有用な知見を得た。一方、CO2透過係数の向上を目的として、高い吸水性を有するアミノ酸イオン液体を反応輸送媒体として用い、低スチーム分圧条件下でも極めて迅速なCO2透過性を有する新規CO2選択透過膜の開発に成功した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。また、高温、高圧のCO2選択透過膜開発のための有用な知見が得られていると考えられる。また、技術移転のための連携が進められている一方、当初の目標の達成には至っていない。今後は、社会的に重要性の高い課題であることから、連携による具体的な製品イメージを含む中長期の計画を明確にし、それに伴う課題も整明示されており、着実な進展に期待したい。
天然ガス処理プラントへの適用を目指したCO2選択透過型高強度ダブルネットワーク高分子膜の創製 神戸大学
神尾英治
神戸大学
大内権一郎
本研究では、高い機械的強度を持つダブルネットワークハイドロゲル(DNゲル)膜に促進輸送機能を付与したCO2選択透過DNゲル膜の創製を目標に検討を行った。Poly(2-Acrylamido-2-methyl-1-propanesulfonic acid) (PAMPS)ゲルを作製後、CO2を選択的に透過させる役割を担う化合物(キャリア)とゲルの強度を増大させる役割を担うAcrylamide (AAm)の混合水溶液に浸漬、膨潤させ、AAmをPAMPSゲル内部で重合することで、キャリアを内部に含むDNゲル膜を作製した。創製したキャリア含浸DNゲル膜は引張強度試験により高い強度を有することを確認した。また、CO2透過速度は約400,000 Barrer、CO2/N2選択性は約200であり、迅速且つ選択的なCO2透過が確かめられた。これらの結果より、機械的強度を有するCO2選択透過DNゲル膜の創製に成功したと言える。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に世界最高レベルのCO2透過速度を実現し、CO2透過速度、選択性など、評価時の圧力をのぞいて当初目標は達成されたことは評価できる。技術移転には、次のステップとして高圧下でのCO2分離のための膜強度の向上が課題であるが、具体的な方向性を示すことを期待する。既に企業との共同研究も進められ、知財の確保にも動いていることは評価できる。社会的ニーズの高い課題で有り、技術移転に向けたさらなる産学共同研究の実施と課題解決のプロセスの明確化が期待される。
アミノベンゾピロキサンテン系色素を母核とする有機系固体発光性材料の開発 独立行政法人理化学研究所
神野伸一郎
独立行政法人理化学研究所
井門孝治
高効率で固体発光するアミノベンゾピラノキサンテン系色素(ABPX)蛍光材料の開発を目的とし、まずカチオン種として有機酸存在下、溶媒再沈法を用いた凝集体の合成を行なったところ、ABPXは水中でナノサイズのコロイド粒子を生成し、これらは良好な蛍光を有することが分かった。続いて、新規ABPX誘導体の分子設計並びに合成を行ない、従来のABPX01と比べ、3倍から5倍の高い蛍光量子収率を有する新規誘導体の開発に成功した。また、同様の方法で、用いるカチオン種を金属元素としたところ、結晶性を有したABPX固体発光ポリマーが生成し、選択するカチオン種の種類により、これら凝集形態の制御が可能であることが分かった。今後は、本研究開発より得られた成果を基に、発光性ソフトマテリアルや発光性固体結晶ポリマーとして更なる応用展開と技術移転に取り組みたい。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、当初目標を達成し技術展示会などを通して企業との交流も活発に行うなど、特定企業との技術移転や特許出願の段階に達していること、 ABPX-亜鉛ハイブリッド発光ポリマーの製造技術の成果に基づきアルミニウムなどの金属を用いた新規蛍光材料の研究開発にも着手しており次の技術開発への展開も期待できる点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、 対象とする有機蛍光発光材料は将来的にエレクトロニクス、エネルギー産業を支えるキー材料となる可能性があり、今後の研究開発を支援する産業界との連携により実用化されることが望まれる。今後は、太陽電池を含むエネルギー関連装置、光デバイス、薄膜デスプレイなど具体的なターゲットを絞ったABPX-金属発光材料の開発が行われることを期待したい。
セルロースナノファイバーを補強剤とした機能性ゴム材料の開発 兵庫県立工業技術センター
長谷朝博
兵庫県立工業技術センター
富田友樹
本研究では補強剤としてセルロースナノファイバー(CNF)、母材として天然ゴムを用いることにより、何れも植物由来の原料のためカーボンニュートラルで環境低負荷型の新規機能性ゴム材料を開発することを目標とした。CNF の形状最適化、天然ゴムへの均一分散化、界面接着性の向上などについて検討した結果、CNF の添加量が 10phr 以下でも防振ゴムなどの工業用ゴム製品と同等の引張物性を示すゴム材料が得られた。また、ゴム用補強剤として広く利用されているカーボンブラック(CB)を配合したゴム材料を CNF 添加ゴム材料で置き換えることで、引張物性を維持しながら約 18%軽量化できることが明らかになった。機能性の一つとして計画していた制振特性の付与には至らなかったが、開発材料は従来材料に比べて環境低負荷型で軽量化や明色配合が可能なゴム材料として工業用ゴム製品分野への応用が期待できる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、母体の天然ゴムに補強剤としてセルロースナノファイバー(CNF)を添加した新規ゴム材料の開発に成功し、技術移転を目指した様々な検討項目の目標を概ね達成していること、例えば、カーボンブラックを配合した従来材料と比較し約18%の軽量化をしながら同等性能を実現したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、環境低負荷型の新機能性ゴムとしての実用化が望まれる。今後は、企業との連携により実用化開発を加速することが期待される。
ATP-dependentなチオエステル化酵素を用いたN-アシルアミノ酸型界面活性剤の合成法開発 兵庫県立大学
加藤太一郎
兵庫県立大学
八束充保
N-アシルアミノ酸は、シャンプーや化粧品に添加されている重要な界面活性剤である。本化合物の工業的合成では現在、酸クロリドとアミノ酸のショッテンバウマン反応が用いられているが、高価な酸クロリドの使用、食塩の副生、冷却や亜リン酸廃液の処理が必要等、課題が多い。
本研究において申請者は、アシル-CoAシンセターゼ(ACS)を利用した脂肪酸とアミノ酸からのN-アシルアミノ酸の酵素的直接合成法を工業生産へ応用することを模索する研究を行った。具体的には反応条件最適化と機能性官能基を含む基質への許容性解析)という2つの課題を設定し検討を行った。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。本課題は、シャンプーや化粧品に添加されている重要な界面活性剤であるN-アシルアミノ酸の合成を、従来の化学合成法から酵素合成法へ転換する技術の開発であり、研究責任者が見出した新規アシル-CoAシンセターゼを利用するために、アミノ酸N-アシル化条件の最適化および機能性官能基を含む基質の許容性解析を行ったものである。目標であるACSによるアミノ酸のN-アシル化反応条件の最適化はpH、温度および基質濃度に関しては明らかとなり、また、機能性官能基を含む基質の許容性についてはN-メチルシステインとN-メチルグリシンの2種について確認を行っていることは評価できる。しかし、産業化へむけて重要な酵素の安定性の検討は行っていない。一方、技術移転の観点からは、反応速度を高めることが必須であると考えられる。そのための具体的な対策が述べられているが、その対策を講じても反応速度の改善に至るまでにどれほどの時間がかかるか未知である。N-アシルアミノ酸は目や皮膚に対する刺激が少ないヒトに優しい界面活性剤であり、ACSによる生産では亜リン酸が生成しないので環境にも優しいことから、今後、酵素合成法が確立すれば、大きな環境負荷軽減につながると期待される。
調整済み不斉固体触媒の改良と実用化 兵庫県立大学
杉村高志
兵庫県立大学
八束充保
不斉固体触媒は医薬品等の光学活性物質原料合成に優れた特性を示すが、触媒調製に特殊な技術を必要とするため実施例は限られている。申請者はシンコニジンで修飾したパラジウム炭素触媒の保存性と耐久性を高め、2010年3月に試薬メーカーより上市した(2009年シーズ発掘試験研究)。この市販触媒の問題点は、立体選択性が不十分、低温保存で半年しかもたない、適用範囲が限られている、一方の鏡像体しか合成できない、の4点である。これらを解決するため最新の不斉修飾剤の合成の研究成果を応用し、Pdの修飾剤として用いる本計画を立案した。予想される成果は市販触媒の改良だけでなく、学術的に未成熟な修飾触媒に新たな知見を与えると期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。立体選択性の向上、保存耐性の向上、適用範囲の拡大、他方の鏡像体への適用の4点の改良を目指した研究であったが、どの点でもある程度の改良に成功していることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、触媒の耐候性の向上と温度劣化に対する対策が最大の課題になるので、ここに焦点を絞った研究や適用反応の拡大の検討などが望まれる。不斉固体触媒は、現行触媒との置換えという形での需要が多いと考えられるので、今後は、ポリオール安定化剤の有効性が明らかにするなどにより保存耐性を向上されることが期待される。
強発光性有機ナノ粒子の創製と光デバイスへの応用に向けての探索研究 兵庫県立大学
八尾浩史
兵庫県立大学
八束充保
本研究責任者は、イオン性の機能性有機物と、それとは反対の電荷を持つ疎水的な対イオンを水中で混合するだけで有機ナノ粒子が作製できる手法(「イオン会合法」)を開発し、この手法を光デバイスへの応用が可能な強発光性有機ナノ粒子の作製に展開した。その開発目標を (i) 大きさ50nm以下の凝集のない、発光量子収量Φf > 0.8を持つ有機ナノ粒子の作製と発光メカニズムの解明、(ii) 8ヶ月間の発光の安定性・経時変化の評価、(iii) 赤色(波長600-800nm)強発光の達成、と定めて研究を遂行し、下記に示す成果によってほぼ目標を達成する事ができた。(a) 淡青色の発光を示すチアシアニン色素(TC)ナノ粒子の作製に取り組み、発光量子収量Φfが0.76-0.88であるナノ粒子の作製に成功した。そのナノ粒子のサイズはおよそ20nmであった。更に、その強発光の原因はイオン対形成によるTCの分子内回転抑制効果と、発光性分子会合体(H会合体)形成による「協同効果」である事を明らかにした。(b) TCとエチジウム(ETD)色素の2種類が混合されたナノ粒子を作製し、TCからのエネルギー移動を巧みに利用して対イオン濃度を変えるだけで「赤-オレンジ-黄色」に発光するナノ粒子の作製に成功した。(c) 緑色発光するカルボシアニン色素を検討し、その発光収量の増大化に成功した。以上により、「RGB」発光性ナノ粒子全てが揃った事になる。またこの系は光退色に対して著しい耐性を示した。今後、本研究は生体系プローブとして注目されている近赤外発光性ナノ粒子の作製へと展開していく予定である。
期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。正電荷を持つ発光性色素を負電荷を持つアニオンとのイオン会合によりナノ粒子化して、発光量子収率と耐久性の向上を図ろうとするものであるが、特に、三原色(B、G、R)のナノ粒子化に成功し、B:80%、G:30%、R:20%の発光量子収率を達成すると共に、数ヶ月以上の安定性も確認していることが評価できる。一方、技術移転の観点からは、シンプルな手法でもあるので、知財権の確保も検討され有機エレクトロニクス材料としての実用化が期待される。今後は、メカニズム解明を含め、基材の有機色素やナノ粒子化の条件などを詳細に検討し更なる性能向上を企業との連携で図ることが期待される。
快適ソックス設計指針の着圧ソックスへの応用 奈良県工業技術センター
辻坂敏之
(財)奈良県中小企業支援センター
山田裕士
足首部分から膝下までを3分割し、テンション、編目の大きさ等の製編条件を変化させて、各部位の着圧が10hPa~40hPaの範囲で3水準の異なる着圧ハイソックス試料を作製した。それらの着圧ハイソックス着装時の着圧・圧分布の測定および着圧部分に対する官能評価を行い、足首から膝下にかけての快適な着圧範囲を決定すると共に、最適な着圧を実現する製編条件を明確にした。その結果、次のことが明らかになった。
下腿部上部(ふくらはぎ部分)の圧迫力が着圧ハイソックスの履き心地に大きく影響を及ぼし、下腿部上部における圧迫力を45hPa以下にすることが履き心地が良く且つ疲れない快適な着圧ハイソックスを設計する条件である。
圧迫力は弾性糸の挿入量を変化させることによって調整することが可能である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、快適さを官能評価で行い圧迫力との相関を発見した成果は貴重である。下腿部上部における圧迫力を45hPa以下にすることが快適な着圧ハイソックスの設計条件である事を見出す等、目標をおおむね達成している。一方、技術移転の観点からは、得られた知見をいかにマーケティングに利用するか、官能評価が顧客にどう訴求できるかの検討が必要である。具体的な技術移転先の企業があり、販売元での製品開発も期待できる。ただし、更なる技術移転のためには、知財の取得を行い、その後で企業への情報発信を強化されることを期待する。
酸化劣化防止剤を添加した木質炭素化合物含有導電性塗料の開発 和歌山県工業技術センター
梶本武志
機械の製造現場や手術室、ガソリンスタンドなど静電気が発生する場所において床材等に電気伝導性を付与することにより予期せぬ機器の誤作動もしくはトラブルの発生を未然に防止できる水性塗料の開発を目的として研究を行った。 973K以上で焼成された木質炭素化物の添加により電気伝導性を付与し 、シリコン化合物の添加により酸化劣化防止性能を付与して塗料を作成した。開発塗料の目標は、木質炭素化物及び酸化劣化防止剤を添加する前の合成樹脂だけで形成した塗膜と比較して酸化による塗膜残留率が約2倍、電気伝導性が市販の導電マットと同等、塗料粘度が現場塗装可能な値となるよう設定した。得られた結果はほぼ目標通りであり、今後は酸化劣化防止及び電気伝導性が付与できたメカニズムをさらに分析するとともに実用化に向けた研究を進める予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、明確な試験計画に基づき実用的な視点から設定された目標をほぼ達成していることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、機能性発現のメカニズムにも考察を加えて、導電性コンクリートの表面を保護する塗料などとしての実用化が望まれる。手法がやや帰納法的であり応用への時間がかかると考えられるので、用いる炭化物の物性を詰めることなどで応用範囲を更に広げることが期待される。
電荷輸送と光吸収性分子を有する有機薄膜太陽電池用非共役系高分子の創製 和歌山県工業技術センター
森岳志
本研究では、非共役系の主鎖を用いて側鎖に光吸収、電荷注入・輸送性を導入した側鎖型の有機薄膜太陽電池用高分子の創製を目標とした。ブロック共重合体の最適な重合法を確立するために、研究内容は材料合成に重点を置き、精密に制御された主鎖構造を有する高分子の合成を試みた。合成は各機能を有するモノマーを側鎖に導入したブロック共重合体をニトロキシド開始剤を用いたリビング重合により重合し目的としていたブロック共重合体の合成に成功した。一方で、光電変換効率は非常に低い結果となり、当面の効率の目標である3%は達成できなかった。原因の一つとしては、光吸収機能を担ったアゾ系色素の吸収能が低かったことが考えられるため、高光吸収能を有するモノマーの導入が光電変換能向上のための今後の課題となる。 当初目標とした成果が得られていない。材料の合成と色素分子の設計についての基盤的な知見は得ているものの、技術的検討や評価の実施が不十分であった。光吸収に優れた色素の開発という目標の設定は理解できるが、既存材料との差別化をどのように図るか、その目標のための合成技術開発について、まず明確にすることが望まれる。
排ガス浄化触媒からの回収を目指したパラジウム選択性吸着剤の開発 和歌山大学
矢嶋摂子
関西ティー・エル・オー株式会社
山本裕子
本研究の目的は、排ガス浄化触媒からパラジウムを選択的に回収する吸着剤の開発である。
レアメタルであるパラジウムは排ガス浄化触媒に多く使用されており、自動車産業が盛んな日本において重要な元素であるが、輸入するしかないため世界情勢により入手不可になるおそれがある。本研究では、パラジウム高選択性の配位子をシリカゲルに化学結合させたものを設計・合成し、パラジウムの選択的吸着および脱着剤を用いた回収に基づくシステムを構築した。これは、有機溶媒を使用しないため環境負荷が少なく、将来的には、排ガス浄化触媒のリサイクルにより簡易かつ高効率にパラジウムの安定供給が可能となる。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。新規のバラジウム選択性吸着剤を設計・合成し、吸着量および金属吸着選択性を評価した結果、標的化合物がパラジウムに対して極めて吸着能が高く選択性も優れている事を示した。選択性に関しては、パラジウム以外の金属の含有率は、当初目標であった5%以下よりも高い約6%程度になったが、ほぼ目標は達成されたと考えられる。今後の展開として、吸着剤の性能をより向上させると共に、技術移転の観点から、吸着剤を充填したカラムを作製して、パラジウムの回収プロセスに関する研究を行う必要がある。現在、輸入に頼っているパラジウムの高効率回収が実現すれば、経済への波及効果を含め社会還元に導かれることが期待できる。
水溶液からのリチウムイオン回収用外部刺激応答性高分子の開発 和歌山大学
坂本英文
関西ティー・エル・オー株式会社
山本裕子
本事業では、リチウムイオンと選択的に錯形成すると共に水溶性を温度変化により制御しうる部位と、その隣接する位置に金属イオンとイオン対を生成して錯形成能を制御するためのカルボキシル基を側鎖に備えたポリビニル系高分子吸着剤を開発し、リチウムイオンの選択的回収と吸着剤の再利用を目指すものである。本事業期間の終了に当たり、リチウムイオン選択性を有する14-クラウン-4の代わりに、その類縁体であるテトラエチレングリコールモノエチルエーテルをカルボキシル基の隣に有する高分子を合成して、水溶液への溶解性と溶存状態を調べ、溶解性の温度依存性を認めている。また、主目的であるリチウム回収剤については、14-クラウン-4部位の合成を行い高分子化を進めている段階である。 当初目標とした成果が得られていない。リチウムイオン吸着樹脂を合成し、リチウムイオン選択的吸着能と水溶液への溶解性の温度依存性の確認、吸着したリチウムイオンの脱着・回収プロセスの確立を目標としていたが、高分子を合成し水溶性の温度依存性は確認しているが、主目的であるリチウムイオン吸着樹脂の合成には至っていない。未達の原因と解決策、及び、次のステップに進むための技術的課題はある程度明確になってはいるが、その実現にはかなりの時間を要すると考えられる。研究成果が応用展開された際には、社会に果たす一定の役割は存在すると考えられるものの、現段階では目的化合物を合成するための基礎的な知見を得ることが重要と考える。
セキリュティ分野で必要とされる高耐光性長寿命型ステルスインクの開発 和歌山大学
中原佳夫
和歌山大学
鈴木義彦
シリカナノ粒子表面に発光性のユーロピウム錯体を原子移動ラジカル重合によって化学修飾することで、分光学的にステルス特性を示すナノ粒子分散型の蛍光インクを開発した。作製されたナノ粒子のメチルエチルケトン分散液は可視光下で無色透明であり、UV光源(励起波長:365 nm)による励起で赤色発光(最大蛍光波長:615 nm)を示したことから、分光学的な物性値については目標をほぼ達成できたと言える。作製されたナノ粒子の形状を走査型顕微鏡によって観察したところ、重合反応による粒子の変成および破壊等は観測されず、溶媒分散性についても一ヶ月間は安定して存在することを確認した。今後は、光耐久性の向上が課題としてあげられる。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に計画通りに目標としたポリマーが合成されていることは高く評価できる。得られた材料のステルスインクとしての適用可能性は十分にあり、今後、技術移転のために解決しなければならない耐光性の改善の方向性も示され、今後の研究方針も明確である。化学メーカーとの連携が進められ、また、知財確保も計画されるなど、継続的な開発が進められることによって、商品化に至ることが期待される。
特異な構造を有する積層ナノファイバー触媒によるケトン類の連続合成とp-キシレン分離膜の開発 鳥取大学
奥村和
鳥取大学
山岸大輔
これまで直径約25 nm、長さ数μmというファイバー状のNb-W酸化物をシュウ酸水溶液で処理することで、ファイバーの断片が集積した特異な構造を有する積層酸化物を見出してきた。本研究では、このNb-W積層酸化物を用いてケトン類およびアルキルベンゼン類の連続合成を行った。また、キシレン類の分離膜としての可能性を検討した。さらに、積層構造の形成要因を考察した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初の目標である1ヶ月連続使用での活性の維持を確認されている点に関しては評価できる。しかし、130℃以下での生成物収率は、アルキル化では目標90%以上(120℃)を達成しているが、アシル化では140℃が必要で目標を達成できていない。また、分離膜としても目標を達成できていない。
一方、技術移転の観点からは、固体酸触媒としての成果は得られ、特許も出願されており、スケールアップデータを取得する企業との共同研究を行なう段階に来ている。分離膜としての問題点として考えられた細孔サイズに関して、Nb-Mo酸化物は微細な結晶が集積したメソポーラス構造であることを見出しており、今後は、分離メカニズムと結晶構造の関係をもう少し掘り下げた検討が必要である。また、固体酸触媒としては、Friedel-Crafts反応の固体触媒は工業的にも多数存在するので、Nd-W系の触媒としての特徴を見いだすことが望まれる。
酸性ガスを発光変化で検知可能な層状無機/有機ナノハイブリッドの創製 島根大学
笹井亮
島根大学
北村寿宏
本申請課題では、酸性ガスを高感度かつ迅速に検知可能な材料の創製を目指して、研究代表者らがこれまでに開発してきたチタン酸ナノシート(TNS)/デシルトリメチルアンモニウム(C10TMA)ハイブリッド中に酸性条件下で発光を示す化合物に構造変化することが知られるローダミン系色素ラクトン体を固定化することを目的とした。種々の検討を行った結果、有機塩基であるブチルアミンをTNS/C10TMA/ローダミン3B(R3B)に気相導入することで、層間のR3Bをラクトン化できることを明らかにした。今後、この材料の酸性ガス検知特性を明らかにし、実用化に向けたデバイス化手法の確立に関する研究を進める予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもTNS層間にラクトン型ローダミンBを含む複合体を作成したことについては評価できる。一方、アルキルアンモニウム塩の鎖長の適正化によって層内のpH制御が可能であるとの見込みが頓挫し、酸性ガスに対して発光するラクトン体型RBをTNS層間に固定化することも実現できていない。複合試料の発光・消光のメカニズムに対する具体的な検討もない。今後は、技術移転のためにも目標を常に意識して検討を進め、学会等に優先して知財権等について検討することが望まれる。
希土類ー有機ハイブリッド集光アンテナをナノ空間配列したハードおよびソフト発光材料の開発 島根大学
西山桂
島根大学
北村寿宏
有機-発光希土類(Eu, Tb)ハイブリッド集光アンテナをナノ空間で配列することで、紫外線の幅広い波長領域において光を吸収し、可視光で色味のよい発光線が効率よく得られる発光デバイスを開発する。ナノ配列に使用するホスト材料には、希土類ナノロッド及び有機ナノゲルを使用する。本研究では有機ナノゲルにEuとTbを含む集光アンテナを実装したところ、それぞれ橙色と緑色の発光を色で溶液中より約1桁高効率の発光を示した。さらに、この材料を用いて橙色と緑色の中間色の発光を実現するなどカラーチューニングにも成功した。有機ナノゲルの構造解析の結果から、発光強度の増加や中間色の発光の原因を推定できた。今後は、集光アンテナを共振器に実装して、レーザー発振の可能性についても検討する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、希土類ナノロッドではその大量合成法に目処をつけると共に有機ナノゲルによる各種波長における発光とカラーチューニングに成功し、当初の目標以上の成果を挙げていることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、発光体やレーザーなどでの実用化が望まれる。今後は、新規の特許出願や企業への働きかけにも注力されることが期待される。
二酸化炭素固定化のための二官能性ポルフィリン金属錯体触媒の開発 岡山大学
依馬正
岡山大学
梶谷浩一
第四級オニウムブロマイドを有する数種の金属ポルフィリン錯体触媒を開発した。これらの二官能性触媒は市販品から全4段階で収率良く合成した。中でも、第四級アンモニウムブロマイドを有するMgポルフィリンが最も高い触媒活性を示した。エポキシドに対して0.0008mol%の触媒を用いて無溶媒条件下でCO2圧1.7MPa・120℃で24時間反応させると、環状炭酸エステルが83%で得られた。この時の触媒回転数(TON)は103,000回であった。基質適用範囲を調べるために、0.005mol%の触媒を用いて種々のエポキシドを反応に付すと、数時間以内に生成物を高収率で与えた。対応する無機担体固定化触媒も創製した。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。触媒は安価で有用性が高く、ポリカーボネート合成の非ホスゲン化に向けて良い成果を挙げている。特に、第4級アンモニウム、ホスホニウム塩を持つマグネシウムポリフィリン錯体触媒でエポキシドと二酸化炭素を反応させて環状炭酸エステル合成を実現し、触媒回転数も高く、良い成果を挙げるとともに、触媒を無機担体に固定化して再利用を実現した点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、工業化までにはまだ壁があると思われるが、特許出願も新聞への掲載実績もある。基礎技術はほぼ確立できているので、今後は工業化を視野に入れた研究が進むものと期待される。
有機電子材料の開発:光をあてるだけでつくる新しい合成手法の探索 岡山大学
岡本秀毅
岡山大学
秋田直宏
目標:新しい有機電子材料の開拓を目指して、合成のキーステップに光反応を活用した多環芳香族有機化合物の構築とその有機電子デバイスとしての有効性の検証を目的とした。
達成度:[5]フェナセン(ピセン)、[6]フェナセン(フルミネン)の効率よい合成法を確立しそれらがFETや太陽電池等の有機電子材料として有用であることを示すことができた。nが8以上のフェナセン、二次元縮環系のトリベンゾコロネンについては当初企画した同様の光環化を適用できないことが明らかとなった。
今後の展開:新しい高性能の高次フェナセンを構築するための新しい光反応の開発を引き続き行うとともに、溶解性の問題を克服して材料として活用するために、高次フェナセンの可溶化、集積化を図る予定である。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、高次フェナセンを合成法を新たに確立し、基礎物性の評価結果から有機電界効果トランジスタ(OFET)系での高移動度と太陽電池系での高変換効率を確認している点については評価できる。一方、溶解性や成膜等のプロセスに関する課題が未解決のままで、材料開発の面から実用化に向けた課題の絞り込みと合成面からのアプローチを明確化することが必要と思われる。今後は、光増感環化法の適用範囲の検討や、低収率の改善も必要と思われる。また、今の材料の全体での位置づけを理解し、その利点を明確にした上で展開を図る必要があると考えられる。
多層ヒドロゲルの精密生産技術を活用した機能性ヒドロゲルカプセル創製 岡山大学
小野努
岡山大学
秋田直宏
多量の水で構成されるヒドロゲルをカプセル膜とする新規カプセルの高度生産技術を既に確立しており、この精密な多層構造作成技術を活用して、金属捕捉部位を有するキレート高分子を用いた機能性ヒドロゲルカプセルの創製を目指す。ヒドロゲルカプセル膜の極めて高い物質拡散特性とゲルカプセル内部の金属錯体構造によって、水中で均一系触媒のように振る舞い、容易に回収できる新規触媒担持材料を構築できる。また、希薄水溶液中から選択的に目的金属を濃縮可能な、油を使わない濃縮剤としての応用を目指す。キレート高分子の分子設計と独自のゲルカプセル化技術によって、革新的機能を付与したヒドロゲルカプセル創製を実現する。 当初目標とした成果が得られていない。中でも当初予定のヒドロゲルカプセルについての技術的検討や評価が必要である。研究期間が短いために研究の進展が予想と異なる場合の対応が難しいことは判るものの、今後は、応用展開や技術移転に向けてある程度は予想される問題点や技術課題などを明確にして、研究計画を立案することが望まれる。なお、ヒドロゲルカプセルの作製の成否についての記載が研究者とコーディネータとの間で異なっている。
抗アレルギー剤合成中間体の工業的レベルでの不斉合成法の確立 岩手大学
是永敏伸
岩手大学
小川薫
本申請課題では反応条件の検討を行い、工業的規模で合成可能な抗アレルギー剤合成中間体の合成手法の開発を行う事を目的とした。本研究では、研究代表者の開発した不斉ホスフィン配位子を有する触媒を用いた不斉触媒反応が鍵反応となる。この反応では、用いる反応基質の加水分解を抑えつつ触媒量を低減化する事が成功の鍵を握っていた。検討の結果、溶媒効果により反応基質の加水分解が大きく抑えられる事が判明した。しかしその結果生成物の不斉収率が大きく低下してしまい、不斉配位子の再設計を必要とした。新たに導入された不斉配位子は生成物の不斉収率を向上させたが、それと同時にイミン基質の加水分解も再発し、目標としたレベルまでの触媒量の低減化は達成できなかった。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。計画に即した研究が実施されたが、残念ながら期待された触媒活性や選択性は達成されなかった。今回検討したオルトキシレンの使用や複雑な配位子の利用はコストが高くなりすぎ、(R)-4’-クロロフェニル-フェニルメチルアミンの工業的合成では採算がとれなくなる可能性が高いことを明らかにした。この結果から、当該開発を一時凍結すると結論づける等、今後の研究計画は的確に検討されている。今後も配位子を利用した工業的合成を行う上で、有用な結果を得たと考える。一方、今回見出した反応基質の加水分解を抑える溶媒は高いポテンシャルが期待される事から、新しい合成ターゲットを見つけ、これに関連する研究を継続して頂きたい。今回の研究成果は、今後の配位子設計・反応設計に有用なものと考えられ、近い将来、別の形で技術移転・社会還元に貢献する事を期待する。
アクリルアミド製造用の錯体触媒を長寿命化する、新たな固定化方法の開発 岡山大学
押木俊之
岡山大学
齋藤晃一
アクリロニトリル水溶液から50%アクリルアミド水溶液を直接製造できる、ラボレベルの固定化触媒を開発することを目標とした。アクリルアミドを高選択的に製造できるルテニウム錯体触媒をベースとする、新たな固定化方法の開発を進めた。固定化のための錯体触媒の化学修飾条件の探索および固定化条件の最適化を進め、固定化における技術的な課題を明確にした。研究開発と並行し、コーディネーターと連携しながら産業界の意見聴取を進め、本研究開発の方向性が妥当性であることを確認した。本研究開発で明らかになったグラムスケール(ラボレベル)での固定化触媒製造条件の確立を踏まえ、今後は研究成果物の知財確保を本学知的財産本部等と連携し進める予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、触媒の回収再使用と生成物への金属種のコンタミネーションを防ぐ意味でルテニウム種を固定化するコンセプトについては評価できる。一方、鍵となる触媒活性種を合成できていないので、新規構造の固定化錯体に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、地道な研究、あるいは新たな発想に基づく固定化方法を再検討されることが望まれる。
希薄溶液からの結晶化を利用した単層カーボンナノチューブナノフィラーの作製と高性能・高機能高分子複合体への応用 岡山大学
内田哲也
特定非営利活動法人メディカルテクノおかやま
奥野健次
これまで困難であった単層カーボンナノチューブ(SWNT)の固体高次構造制御を独自の方法(希薄溶液からの結晶化)により可能とし、高分子やゴム中に均一に分散しやすいSWNTナノフィラーの作製に成功した。このSWNTナノフィラーを用いた高分子複合体の実用化を目指し、複合体を作製して、その機能・性能を評価した。SWNTナノフィラーの構造は強く壊れにくいため、複合体をリサイクルしても強化効率が低下せず、汎用高分子材料の高強度化による省資源やリサイクル性向上による資源循環型社会の構築に貢献できる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもカーボンナノチューブ(CNT)からのナノフィラーの作製と高分子との複合体での物性向上を確認したことについては評価できる。一方、飛躍的な物性向上に向けた、更なるナノフィラーの分散やナノフィラーの配向制御などの技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、特許出願に足る段階まで本シーズをブラシュアップすると共に製品の製造コスト試算も行ない、企業への技術移転を図ることが望まれる。
セルロースからの磁性メソポーラス炭素および酸触媒合成プロセスの開発 津山工業高等専門学校
山口大造
津山工業高等専門学校
柴田政勝
バイオマスセルロースを原料として、1バッチあたり約115 g(目標の200%以上)の磁性炭素および約54 gの酸触媒(目標値)の大量合成プロセスを構築することに成功した。これらの物質についての様々なキャラクタリゼーション結果より、ラボスケール合成物質と同様の性能を有することを確認した。また、触媒化物について、セルロースの加水分解反応により酸触媒の活性評価を行った結果、既存の固体酸触媒と同等の性能を有することも確認した。すでに企業との共同研究を進めており、5年以内の商品化を目標に引き続き研究開発を進めている。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、セルロースからの炭素材の大量合成において目標の2倍以上の磁性炭素の製造に成功し たこと、スルホ化によりセルロースの加水分解能を有する触媒を製造したことと、これらがラボスケールでの磁性材料や触媒とほぼ同様な比表面積 と孔を有する事を明らかにしていることについては評価できる。一方、大量合成では磁化特性向上に向けた技術的検討などが必要と思われる。
新型D-π-A蛍光性色素を用いた色素増感太陽電池の開発 広島大学
大山陽介
広島大学
榧木高男
新型D-π-A色素を用いた色素増感太陽電池(DSSC)の光電変換効率の飛躍的向上を目指し、TiO2電極への色素吸着量の増加を検討した。TiO2電極をBF3処理することで色素吸着量は約5倍増加し、DSSCの短絡光電流(Jsc)は向上したが、開放光起電圧(VOC)は大きく低下した。本研究から、TiO2のTin+やBのルイス酸部位に新型D-π-A色素は強く吸着(配位結合形成)することがわかった。よって、今後の展開として、新型D-π-A色素の吸着量の増加とVocの低下を防ぐために、TiCl4の原料からTiO2ナノ粒子の調整と色素自身の改良も合わせて行う。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。色素増感太陽電池の変換効率の更なる向上を目的に、D-πーA型増感色素のチタニア触媒表面への大幅な吸着量増大(吸収光量を増加)を課題とした研究である。BF処理などの検討で変換効率の目標値を達成した点については評価できる。しかし、未処理のものと比較して短絡電流値は改善したが開放電圧は低下している。色素増感太陽電池の性能改善には多角的な視点が必要であり、色素のチタニアへの吸着量についても多ければ多いほど良いのではなく、過剰に凝集すれば濃度効果で光励起状態生成効率が低下する。即ち、最適量が吸着する分子設計が必要であり、本検討でもBF処理による開放電圧値の低下を制御する新たな課題が生じている。また、性能評価の観点からは耐久性が求められる。これらが解決しないと本格的な実用化は難しい。色素増感太陽電池の性能向上に向けて、今後一層の多角的方面からのスクリーニングが行われることが望まれる。
化学的安定性に優れる高導電性有機材料の高効率合成法の開発 広島大学
今栄一郎
広島大学
榧木高男
3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)を部分的に含む各種オリゴチオフェンの合成に取り組んだ。その中で、EDOTを1個および2個含むチオフェン3量体を収率60%および68%で合成することに成功した。さらに、これらを用いてチオフェン6、9量体の合成も検討した結果、研究開始当時は十数%程度だった単離収率が、30%を超えるようになり合成効率の向上に成功した。また、溶解性を付与することを目的として、アルキル置換チオフェンも導入したEDOT含有オリゴチオフェン(チオフェン5量体)の合成に成功し、さらにこれを重合しオリゴマー化(チオフェン20量体)した高分子量体においても有機溶媒に対し0.04M以上という高い溶解性があることも確認した。また、高分子量体が期待通り10 S/cm という高い電気伝導性を有することも分かった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。本研究開発は高電導性有機材料の有力な候補としてEDOTユニットを含むオリゴチオフェンの開発を目指して努力している。しかし、当初の目標のEDOT含有のオリゴチオフェンの高効率合成の開発には改良の努力が認められるが、最終目標の60%には未だ達していない。一方、第二の課題の可溶性オリゴチオフェンの開発には、ヘキシル基を導入することにより目的達成に成功している。また、第三の課題の電導性に関しては、目標化合物から10S/cmの高電導性の発現に成功している点に関しては評価できる。技術移転の観点からは、合成に手間取ったためか企業化に向けたほどの顕著な成果を見出していないことが残念である。今後の研究開発を推進するには、可溶化オリゴチオフェンや高い電導性オリゴチオフェンの開発に成功しているので、EDOTユニットを含むオリゴチオフェンのニーズ探索が必要であり、特に、デバイス化などにより他の高電導性有機材料との差別化に向けた研究が望まれる。
自己集合による分子間反発相互作用を応用した低流動点・高粘度指数潤滑油の開発 広島大学
福原幸一
広島大学
榧木高男
潤滑油の低流動点と高粘度指数は、分子構造上相反する物性であるため、これらを単一物質で兼ね備えることは従来の手法では困難であった。しかしオキサアルキル鎖の自己集合による分子間反発相互作用を利用することにより、この課題が解決できる。本課題では、オキサアルキル鎖を持つ潤滑油モデル化合物を系統的に合成し、その熱・力学物性を調べた。その結果、オキサアルキル鎖の構造のみならず、分子内の側鎖やエステル基との共存の有無、さらにそれらの相対位置などが熱・力学物性に影響することがわかり、既知のオキサアルキル鎖、側鎖、エステル基単独による物性改変効果を凌駕する結果が得られた。これにより低融点高粘度指数潤滑油の分子設計が容易になると考えられる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。アルキル鎖にエーテルやエステル結合を導入することにより、粘度などの動力学物性を維持しつつ低温で流動性を持つ低流動点・高粘度の潤滑油の開発を行うことを目的としたテーマであるが、構造と物性の相関を明らかにした点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、具体的な実用性が明確になっていない。ターゲットの物性を明らかにして物質合成を行っていく必要があると思われる。今後は、本成果を活かして、実用的な潤滑油の開発を産学共同研究として進めていくことを期待したい。
有機水溶液の蒸気透過/浸透気化分離のためのシリカ膜の構造制御 広島大学
都留稔了
広島大学
榧木高男
bridgedアルコキシドの有機架橋基のサイズでシリカネットワーク細孔の制御するspacer法を提案している。各種のbridgedアルコキシドを用いて製膜条件を最適化し、有機水溶液の浸透気化分離に用いた。Bis(triethoxysilyl) ethane (BTESE)は、有機物濃度90wt%、75℃において、イソプロピルアルコール水溶液では透過流束5 kg/(m^2・h)、分離係数900を示し、酢酸水溶液では1.9 kg/(m^2・h)と分離係数500を示した。当初の目標である水透過率2x10-6 mol/(m^2・s・Pa)以上、水選択性200以上を達成した。また、実用化に重要である耐酸性については、連続浸透気化実験および浸漬実験で評価した。連続浸透気化実験では8h以上に亘って安定した透過性を示し、酢酸90wt%水溶液の浸漬法でも1800h(75日)以上に亘って安定した透過性を示すことを明らかとした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、目標の透過率と選択性を達成すると共に耐酸性も確認し、エタノール、イソプロパノールと酢酸の脱水膜としての実用的な性能を達成したことに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、蒸留塔との組合せや大面積化などの検討を進め、提案のようにバイオエタノールや酢酸の脱水膜として蒸留塔への設置などによる実用化が望まれる。今後は、知財権確保も検討し、産学連携による開発を加速することが期待される。
イオンチャネル型固体電解質の開発 広島大学
西原禎文
広島大学
榧木高男
現在、次世代電池として注目されている全固体リチウムイオン二次電池の実用化に向け、その心臓部である固体電解質の開発が急がれている。そこで、我々は従来とは全く異なるイオン伝導機構を有する高性能な有機固体電解質の開発を目指した。
本研究で提案した材料は、単結晶中にクラウンエーテルからなるイオンチャネルを有しており、その内部をリチウムイオンが伝導するように設計されている。これら塩の物性を詳細に調査することにより、高イオン伝導材料の開発に、分子設計学の導入が有効であることを突き止めた。また、今後、本研究で得られた知見を活用することで、既存の材料を上回る高性能イオン伝導材料開発への足掛かりを得た。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、イオン伝導材料の開発に分子設計学の導入が有効であることを明らかにし、クラウンエーテルのサイズとイオン伝導度の関係から、より大きな環サイズの環状化合物の応用まで具体的に検討したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、現状のイオン伝導度が目標値を大きく下回っているので、得られた知見に基づき更なる性能向上を図り、有機固体電解質としてリチウムイオン電池や燃料電池などでの実用化が望まれる。今後は、産学連携を念頭に置いた新規特許の出願検討と共に基礎的知見を蓄積することが期待される。
シリカネットワークファインチューニングによるオレフィン/パラフィン分離膜の創製 広島大学
金指正言
広島大学
榧木高男
本研究では、Si原子間に有機官能基を有する“Bridged Alkoxide”を用いて、ゾル-ゲル法によりアモルファスシリカネットワークサイズを精密制御し、従来のマイクロポーラス材料では分離が困難である有機ガス分離膜を開発する。具体的には、(1)有機無機ハイブリッドアルコキシドを用いたシリカネットワーク制御法の確立、(2)各種気体透過特性および安定性評価、(3)オレフィン/パラフィン透過特性、分離性能の評価、を研究項目とする。Si原子間の有機官能基により、シリカネットワークチューニングが可能であり、製膜の際の焼成温度によらず同様な平均細孔径を有することが明らかになった。また、低温で製膜することで膜におけるSi-OH基密度が高くなるため、プレピレン分子との吸着親和性が強くなり、高いプロピレン/プロパン分離特性を示した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、プロピレン/プロパンのガス分離を例に取り、選択性(離係数10超)、透過率共に目標値を達成していることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、長期の耐久性やコストなどの技術課題の検討を継続すると同時に、論文/学会発表に先駆けた特許出願も検討することが望まれる。今後は、膜の圧密化による選択性や透過率の低下、熱履歴や化学的耐久性の劣化による分離膜の剥離、ダストや油の粘着に対する対策、膜分離のための昇圧エネルギーコストの位置づけなどを、具体的な適用プロセスを念頭に企業と連携して検討することが期待される。
ユビキタス金属触媒によるジホウ素化アルケン類の実用合成 広島大学
吉田拡人
広島大学
榧木高男
ジホウ素化アルケン類は、その2個のホウ素部位を手がかりに、連続的変換反応を施すことができる極めて有用な合成中間体である。既に多数のメーカーから市販試薬として販売されているが、市販数は狭小であるうえ、各販売価格は現状では高い。これは、先行技術で使用する触媒のコスト高さに帰することができる。本課題では、安価で入手容易性の高い銅系触媒を用いることで、ジホウ素化アルケン類を低コスト合成できる実用プロセスを開発することを目標とし、大半の基質をジホウ素化できる触媒系の開発、および、触媒量の軽減(0.5mol%程度)を達成できた。また、ジホウ素化アルケンのグラム単位合成を指向したスケールアップや精製法も確立でき当初の目標の達成度は9割程度である。より一層の触媒量軽減により工業化を見据えた技術へと展開できると考えている。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、従来は白金触媒で合成してきた化合物を安価な銅触媒で合成できるようにすると共に、グラムスケールの反応を可能にし再結晶で精製する手法を見いだしたことは評価できる。一方、触媒回転数が当初目標の1000を大きく下回る180であり、申請者の目指す超高活性触媒を実現するには触媒設計を再考する必要があると思われる。対象化合物のライブラリー拡充についても、17種の化合物を合成可能にしたことは評価されるが類似の化合物が多い。今後は、ヘテロ環や官能基等の導入された化合物を含む多彩なライブラリーを作成しし、実用面での本合成技術の価値を高めることが望まれる。
ビスフェノール類を用いたドライフィルムレジスト用ノボラック樹脂の開発 宇部工業高等専門学校
山崎博人
宇部工業高等専門学校
黒木良明
従来、フレキシブル配線基板のレジスト材として、アクリル系樹脂を成分としたドライフィルムレジストが広く使用されているが、この解像度は、30~300□m程度である。これに対し、半導体などのエッチング用レジスト材に用いられているノボラック樹脂の解像度は1~10□mと高いが、膜質が脆く、柔軟性に欠けるため、それをロール状製品とすることに難点がある。本研究で開発したビスフェノール類から合成されるノボラック樹脂は、柔軟性に富み、パターニング4□m以下の高解像度、残膜率90%以上高感度をも両立できる新規なフレキシブル配線基板用レジスト材として有望である。本研究成果は次世代フレキシブルディスプレイやフレキシブルプリント配線板等の微細加工技術の躍進につながるものと期待できる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。柔軟性に富み良好な解像度と残膜率のドライフィルムレジスト用フェノール樹脂の開発を目的とし、特に、過去の研究成果も十分に考慮して合成する樹脂のターゲットを絞り、数値目標をクリアした樹脂を合成したこと、コストを意識した合成戦略にもなっていることが評価できる。一方、技術移転の観点からは、社会要請の強いフレキシブル配線基板用レジスト材料としての実用化が望まれる。今後は、ロール状製品を試作すると共に当初目標の高解像度(2.5ミクロン以下)も目指して研究開発を更に進めることが期待される。
量産型竹チップ作製技術の開発 阿南工業高等専門学校
森岡和美
阿南工業高等専門学校
宮城勢治
竹の繊維を製紙等に利活用するため、従来方法の低い生産性や騒音問題を解決して、竹素材から約30mm角の竹チップを量産する技術を開発し、コスト低減を図るための研究である。
本研究では、基本構想図に基いた量産対応の竹チップ作製装置を具体設計、製作、稼働テストを行い、技術評価まで実施した。
評価の結果、上記の目標に対して、チップ作製能力以外は達成した。課題は工程の途中で竹片が分割刃物に詰まる問題が発生し、これを手で除去する作業が頻繁に必要となり、稼働率が大幅に低下し
た。
今後は技術課題として明確になった竹分割後の刃物間の詰まりと、チップ寸法との相反する問題を解決し、量産化レベルまで到達したいと考えている。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、竹チップ作製装置を製作し詳細な評価し今後の課題を浮き彫りにし、竹の等分割法の改善がを残しほぼ目的は達成されたと思われる点と特許の出願については評価できる。竹の等分割には必ずしも放射状の刃を用いる必要はなく、等分割された刃が最適であると思われる。今後は、この様な改善検討により装置の性能向上に邁進することが望まれる。一方、運転エネルギーや維持管理経費の評価、騒音や切り屑の処理方法も併せて検討する必要があると思われる。
切削屑に含まれる油分の再利用技術の開発 阿南工業高等専門学校
立石学
阿南工業高等専門学校
西岡守
金属屑に付着している切削油の脱離処理について、現在大気汚染や切削油の再利用性の悪化が問題となっている。そこで、本研究では環境負荷の少ない方式にて切削油を脱離回収することにより、切削屑が産業廃棄物処理されている現状から、切削屑の汚染度改善による買取化とそれに伴う切削油の回収再利用を目標に研究を行う。
本研究の結果より完全脱離を行うためには2次処理まで必要となり、脱離回収した切削油の再利用に関して特段の懸念事項も無く、再利用可能であることが分かった。ただし、コスト面で2次処理について効果に見合わず、今回の結果からは1次処理のみでのコストメリットを見出すことに成功した。
今後の課題として、2次処理のコストダウンを検討する必要がある。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、掘削油の完全除去を達成し、コスト試算と切削油の再利用を検討したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、高コストであることが大きな課題であり、既に計画済の段階的な実用化が望まれる。今後は、連携企業と共に取り組みを再検討されることが期待される。
ポリフェノール酸化技術による新しい食品機能性物質の開発 徳島大学
増田俊哉
徳島大学
嵯峨山和美
容易に酸化されるというポリフェノールの化学的性質に着目し、様々なポリフェノールの鉄触媒空気酸化物の機能として、酸化劣化酵素であるチロシナーゼ、リポキシゲナーゼおよびキサンチンオキシダーゼの阻害機能を検証した。その結果、レスベラトロール酸化物が特徴的に高いリポキシゲナーゼ阻害活性を示すことを解明した。また、カフェ酸酸化物には、強力なキサンチンオキシダーゼ阻害活性を認めた。それらの酸化物中における各機能に対する寄与物質を解明したところ、いずれも母体のポリフェノールのダイマー化により生成する物質であることが判明した。特に、カフェ酸酸化物は、特異な構造を有する新規物質で、その機能は既存の物質よりはるかに強いことがわかった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ポリフェノール酸化物の酸化酵素阻害活性が示されたことにより、目標とした機能性素材開発の可能性が広がった点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、キサンチンオキシダーゼ活性阻害能を応用した新規痛風薬として創薬化していくためには、資金面からも企業との共同研究が必要なことから、コーディネーターによる今後のフォローアップが望まれる。ただ、新規物質の効率的生成法の確立までには至っていないことから、今後はそれらを確立しつつ、特許出願を行い、研究成果の応用展開を具体化されることが期待される。
マルチプレックスアッセイに向けた新規なビーズアレイ用粒子の開発 徳島大学
中村教泰
徳島大学
新居勉
フローサイトメトリーによるビーズアッセイは従来のプレートを用いるELISA測定法などと比較して同時多項目測定が少量のサンプルで可能であるため、近年汎用されつつある。有機シリカ粒子を用いた高感度かつ測定範囲の広いビーズアッセイの実現ため研究開発を行った。蛋白質の測定において製品化されたビーズアッセイ用粒子と同等の数 pg/mlから数百 ng/mlの範囲の定量的測定を行うことに成功した。また抗原蛋白質の測定に加えて抗体、ビオチン化蛋白の測定にも成功した。今後は生物医学的に重要な分子の同時多項目測定や臨床検査への展開を行いたい。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、マルチプレックスアッセイに向けた新規ビーズアレイ用粒子の開発を目標として、有機シリカ粒子を用いて製品化されたビーズアレイとの比較を念頭に置いた実験を入念に行うことで、当初目標を達成したことは高く評価できる。一方、技術移転の観点からは、今後の開発を進める上で重要な反応条件、抗原や抗体の必要量や評価法なども確立されており、技術移転の可能性は高まったと判断される。本研究開発において、既に製品化されているものとの性能面での同等性が確認できたのは大きな収穫である。今後は、進歩性、新規性の両面から、現在までに得られているデータを評価したうえで、必要な追加実験等を行い、特許出願を行う必要があると考える。
液晶性半導体のナノ相分離を利用したバルクヘテロ接合太陽電池の開発 香川大学
舟橋正浩
香川大学
倉増敬三郎
オリゴシロキサン鎖を複数導入したp型液晶性半導体とn型液晶性半導体を合成する。これらの液晶性半導体は、有機溶媒に対する溶解性が大きく、溶液プロセスにより薄膜化ができる。それに加えて、p型液晶性半導体とn-型液晶性半導体を混合することにより、ナノ相分離を利用して、大面積の光活性なp/nヘテロ接合界面の形成に取り組む。溶液プロセスによりコンポジットの薄膜を作製し、太陽電池への応用を検討する。主に、下記の2項目を一年間で検討する。
1. 10^-2 cm^2/Vs以上のキャリア移動度を示すp型、および、n型液晶性半導体の実現(H. 23年度)
2. 両者の混合によるナノ相分離構造の構築(H. 24年度)
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、複雑な分子の合成に成功し、n型半導体材料について室温で液晶相を示すことを確認し、スピンコート法により薄膜を作製し、目標を一ケタ上回る電子移動度(室温で0.1 cm/Vs超)を実現したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、未達であるp型半導体材料やn型とp型の両者の混合によるナノ相分離構造を検討することにより、太陽電池での実用化が望まれる。今後は、電荷輸送特性・光起電力効果の評価や太陽電池の作製などについては企業との連携で実用化検討を加速することが期待される。
地震時液状化対策を想定したウレアーゼ型バイオグラウトの開発 愛媛大学
安原英明
愛媛大学
吉田則彦
本研究では、ウレアーゼ活性による尿素の加水分解作用を利用して、地盤間隙中に炭酸カルシウムを析出させ、地盤を改良するグラウト工法の開発を実施した。本研究の達成目標は、グラウト材の最適配合の決定、力学試験による砂試料改良効果の検討、中型・大型土槽を用いた注入試験の実施、および炭酸カルシウム析出を考慮した室内試験の再現解析を行うことであった。特筆すべき成果として、グラウト濃度を一定条件とし、グラウト注入回数を1~3回と変化させた実験を行った結果、大型土槽内で、ほぼ想定通りの改良体を作製することに成功した。また、数値解析的検討では、実験結果を概ね再現する成果が得られた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。液状化対策を目標とした地盤改良の手法として既存の化学的処理から生物学的処理への転換を試みた研究であるが、中でも、ドラム缶規模の定性的な結果ではあるが炭酸カルシウムを析出させ強度や剛性の増加を確認し、シミュレーションとの比較を行ったことについては評価できる。一方、地盤改良の効果や環境へのインパクト(近隣地盤のpH値の変化)の定量評価などの技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、共同研究を企図している企業との連携により大規模な実験も行うことが望まれる。
水中プラズマによる高導電性排水の処理 愛媛大学
前原常弘
愛媛大学
吉田則彦
本研究は水中高周波プラズマによる水処理の高効率化を目指したものであり、水の導電率の増加とともにプラズマへの入力電力の正味量が増加するということに着目している。研究期間内には主にメチレンブルーを用い、その分解率の導電率依存性とpHへの依存を調べることにあった。しかしながら、プラズマ発生の安定化に時間を要し、導電率依存性のみを得るに留まった。種々の工夫によって、純水から飽和食塩水まで、安定的に水中で高周波プラズマを維持することが可能となった。更に、期待されていたように、最大5倍を超える分解率の改善を得ている。また、過酸化水素発生の導電率依存性も得られ、導電率が増加しても十分な量の過酸化水素が発生していることが明らかとなった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、常に定量的な評価に基づき検討して導電率の上昇による最大5倍の分解率の改善を達成したことについては評価できる。一方、分解率の更なる向上や紫外線照射による改善効果、pH依存性、オゾン処理との効率比較に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、オゾン処理以外の一般的な廃水処理法とのエネルギー効率などの優劣比較や、計画中の特徴を活かした実用例(高電気伝導度廃水)での優位点の実証を検討することが望まれる。
水のみを用いる生理活性不飽和カルボン酸の無触媒一段階合成技術 高知工科大学
小廣和哉
高知工科大学
和田仁
すべてがE配列の二重結合を有する共役ジエナール(2E,3E)-2,3-ヘキサジエナールを亜臨界水で処理することにより分子内酸化還元反応が進行し、非共役系かつZ配置を有する不飽和カルボン酸である(Z)-3-ヘキセン酸が42%の収率で一段階で生成した。さらにこのカルボン酸を過酸化水素水と共に撹伴すると、生理活性物質であるcis-β-ヒドロキシ-γ-エチル-γ-ラクトンが90%の収率で得られた。このように、高価な金属触媒を全く使用せず、水と過酸化水素水のみを用いて、安価な市販試薬から不安定な化合物を一段階合成し、かつ、生理活性物質を誘導することに成功した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、亜臨界水を有機合成に利用して無触媒で目的化合物を得た点については評価できる。亜臨界水は超臨界水と比較して利用しやすく、この観点から本研究の成果は技術移転の可能性があると思われる。一方、ラクトンを除き、副生成物が多く目的化合物の収率が比較的低いのが課題となると考えられる。また、従来型の反応装置が利用できないなど、実用化には設備投資と更なる研究が必要であると思われる。今後の技術開発計画について概ね明らかにされているが、汎用性の追求とコスト削減効果の大きい有用物質へのターゲットの絞り込みが実用化を目指す上で重要である。無触媒の水媒体中の反応手法はグリーンケミストリーの見地からも重要な技術となる可能性が大きいので、環境負荷の低減化技術の一つとして期待される。
有機不斉触媒反応の最適化による実用的不斉合成技術の開発 高知大学
小槻日吉三
株式会社テクノネットワーク四国
安田崇
本研究では、我々独自の分子設計に基づく新規有機触媒の開発、それを活用した効率的なC―C結合形成反応の開発、高度な官能基変換反応/不斉触媒反応への展開を主要なテーマして取組んだ。その結果、次のような成果を得た。
1.不斉ロビンソン環化反応の最適化による抗圧性アルカロイド(-)-mesembrineの形式的全合成
2.キラルチオ尿素/4-ピロリジノピリジン複合触媒系を用いるマロン酸エステル類のα,β-不飽和ケトン類への不斉マイケル付加反応
3.キラルチオ尿素/4-ピロリジノピリジン複合触媒系を用いるマロン酸エステル類のシクロヘキサジエノン類への不斉識別的マイケル付加反応
4.新規アミノヒドロキシアセトン等価体の開発と不斉アルドール/Mannich反応
5.アリール置換マロン酸類の室温での脱炭酸/シアノメチルエステル化反応
6.シクロアルカノン類の有機触媒的Baeyer-Villiger酸化反応
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、新規なピロリジンーピリジン系触媒などの有機不斉触媒を開発して不斉ロビンソン環化反応の最適化による抗圧性アルカロイドなどの医薬材料の合成に成功していることや当初提案されてはいない反応について検討したことは評価できる。一方、実用化という観点ではどのような有用化合物について研究を進めるかを明確にする必要があると思われる。今後は、知財権の取得も踏まえ連携企業を見つけるためにも、有機触媒の改良という観点だけではなく応用に向けた研究に着手されることが望まれる。
ポリ-γ-グルタミン酸の環境機能材料化と簡易水質浄化技術への応用 高知大学
芦内誠
株式会社テクノネットワーク四国
柳瀬直人
納豆ネバの接着高分子とイガイ足糸の接着性を司る分子基盤を有機的に融合させた新構造繊維素材"ドーパミルポリ-γ-グルタミン酸"を開発し、環境浄化や新産業技術の創出に繋がりうる機能性について調査した。結果、浮遊性微粒子に対する高度な吸着性を基盤とする水質浄化機能、コバルトやニッケル等の備蓄対象レアメタルをはじめとする多価金属イオン捕捉機能等、環境機能新素材として求められるユニークな性能を保持していることを明らかにした。今後は素材開発メーカーや環境産業に携わる企業との連携を深めるとともに、時機を図って技術移転まで進めたいと考えている。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。新しい繊維素材であるドーパミルポリ-γ-グルタミン酸を開発し、環境浄化他に向けた機能性について検討している。その結果、浮遊性微粒子に対する高い吸着性に拠る水質浄化機能、コバルトやニッケル等の多価金属イオン捕捉機能などユニークな機能を持つことを明らかにしている。中でも、金属捕捉機能に関する検討では、当初の目標値を上回る性能を確保している点については評価できる。一方、カオリンをモデルに使用した水の浄化効果は限定的なものであり、また、金属捕捉に関してはドーパミルPGAに吸着した後のポリマーと金属の分離の方法として、pHや温度の検討が不足している。今後は、金属捕捉に関しては夾雑金属イオンが存在する場合の回収や、捕捉されたコバルトやニッケルのドーパミルPGAからの分離回収の検討と共に、実際の汚染水を用いた実用化に向けた検討も行われることが望まれる。
バイオマス由来のエタノール及びメタノールから有用なアルコール類を製造する触媒変換プロセスの開発 高知大学
恩田歩武
株式会社テクノネットワーク四国
柳瀬直人
本研究では、エタノールおよびメタノールを気相接触触媒変換により、プロパノールやブタノールなどの有用なアルコールを製造するための触媒開発を目的とした。バイオマス由来化合物は、一般に石油由来化合物より反応性が高く、副反応や触媒のコーキングを起こしやすく、生成物選択性や触媒寿命に問題がある。本研究実施期間において、固体触媒として着目した化合物は、弱い酸-塩基性を持ち、エタノールやメタノールなどのバイオマス由来化合物に対して適度な触媒活性を有する。そこで、同じ結晶構造で元素・組成比を変えた化合物を合成し、熱安定性および酸塩基性を明らかにし、また微粒子化に成功した。そして触媒反応を行い、従来より高い選択性でブタノールを生成する触媒の開発に成功した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、1-プロパノールの選択率は約60%と目標(85%以上)に届かなかったが、全アルコール(C4, C5アルコールを含む)の選択率は95%を達成し、コーキングによる触媒劣化もほとんど見られなかった等、概ね目標を達成した点については評価できる。しかし、エタノール2分子から1-ブタノールへの反応触媒を開発するなど、当初目的の1-プロパノール合成から研究内容が発散していることが危惧される。実用化に向けた具体的テーマが見えない現状では技術移転は困難と思われる。
界面重合反応を活用した新しいナノファイバー合成製技術の確立 高知大学
市浦英明
高知大学
兵頭正洋
本研究では、界面重合反応を活用して紙表面上でナノファイバーを合成する手法の確立を試みた。その結果、エチレンジアミン濃度が10%~50%の条件のときにシクロヘキサン:クロロホルム=3:1および1:1混合溶媒を用いた場合、ナノファイバーの生成率が高かった。生成したファイバー構造を有するポリアミド(PA)膜の機能性を評価するためにヨウ素吸着量および比表面積の算出を行った。その結果、高い吸着性能および高い比表面積を示した。この結果から、高い吸着性能示したことから、悪臭成分吸着シートならびに触媒担体としての応用展開が期待される。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、界面重合反応により紙表面にナノファイバーを合成し、そのカプセル構造とファイバー構造、吸着性能の発現を確認した技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、商品化に向けた製造法としての確立と特許出願の検討も行ない、住環境分野や触媒の担持体などでの実用化が望まれる。今後は、既存商品との比較も行ない企業との連携に結び付けることが期待される。
微小血管における循環能を活性化する新たなポリフェノールの合成 九州工業大学
北村充
最近我々は、茶葉より従来知られている茶カテキンとは全く異なる構造のポリフェノール(PPX)の単離に成功している。PPXの生理活性として高い抗高血圧効果が挙げられ、その他種々の血液に由来する疾患に対して効果を示すことが分かっている。本研究では、大量供給ルートの開拓を目的とする。これまでに茶葉からこのポリフェノールを単離するには非常にコストがかかることが分かっており、有機合成化学的に供給することを目指し検討した。二つの合成経路を試し、そのうち一つの経路でこのポリフェノールの炭素骨格の構築に成功した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。抗高血圧効果を有する新しい茶カテキンを大量合成する手法を研究するテーマであるが、全炭素骨格の構築を実現し、目的のポリフェノールXの類縁体の合成には成功したことは評価できる。一方、ポリフェノールXの合成ルートの確立は未達であり、然るべき数量での合成を可能にすべく、引続く技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、中間体購入などへのシフトや植物・微生物代謝も使った半合成法も視野に入れることが望まれる。
セシウム(放射性)を特異的に結合するシクロファン類の開発とその実用化 九州工業大学
柘植顕彦
九州工業大学
小川勝
2011年3月11日に東北地方を襲った大震災による福島原発事故の影響は、広範囲に及んでいる。 その中でも放射性セシウムの拡散は、今後、長期に亘り、その環境、生体等への影響が非常に懸念される。 一方、我々は、これまで芳香族を基盤とする環状化合物(シクロファン)類の研究の中で、特異的に特定の金属を、シクロファン分子の内部空孔内に捕捉できることを見出している。 これらの知見をもとに、セシウム捕捉選択性のある化合物の合成、評価を行った。 その結果、セシウムに対して特異的な結合を示すシクロファン類の合成に成功した。 しかしながら、他の共存金属との選択性の差を見出すには至っておらず、達成度は60%と判断している。 今後は、選択性に着目した新規化合物の構築を行う予定である。 当初目標とした成果が得られていない。セシウムへの高選択性を示す環状化合物(シクロファン)を環境中の放射性セシウムの除染に用いる計画はいい着目点ではあったが、中でもセシウムの選択的除去を環構造の大きさのみで考慮しているためか、共存する他のイオンの選択性に対する抑制制御を達成していない。今後は、改めて開発戦略を練り直すことが望まれる。
相互侵入高分子網目構造の導入による高耐久性高分子電解質膜の創成 九州大学
西原正通
(財)九州先端科学技術研究所
山本竜広
本研究では、スルホン化ポリイミドの水中での重量変化を1 週間で1wt%未満に抑制し、低加湿環境
(15RH%)下で、15mS/cm (50℃以上)のプロトン伝導性の発現を目標と研究を進めた。2,6-ジヒドロキシナフタレンを用いた場合において架橋反応後の水の取込を評価したところ、室温で6日間膜を水中に浸漬
した場合、重量は浸漬前よりも軽くなっていた。これは、膜の一部が崩壊したためで、より柔軟性を持つ
膜作製の必要性が確認された。また、プロトン伝導性においても、80℃加湿条件で1mS/cmとなり、架橋
剤として用いたイソシアネートとスルホン酸の反応によるプロトン伝導性の低下が示唆された。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。疎水性のモノマーを導入しないスルホン化ポリイミドを形成し、水中での重量変化の抑制、ならびに低加湿下でのプロトン伝導性の発現を目標として挙げているが、いずれも目標値には至らなかった。今回の結果を踏まえた技術的課題や見直すべきポイントは的確に抽出されており、その対策も具体的に検討されている事から、研究の継続を期待したい。燃料電池に関する情報交換を複数の企業と実施しており、技術移転への準備は整いつつある。耐水性や化学的安定性が向上し、かつ充分なプロトン伝導性を発現できれば、得られる高分子電解質膜は燃料電池への応用が期待され、企業化に向けたデータの積み上げが必要と思われる。先ずは今後の対策として複数提案された、スルホン化ポリイミド形成法のスクリーニングをすべきである。
プラスチック抗体の高速大量精製システムの開発 九州大学
星野友
九州大学
山内恒
申請者は、抗原ペプチドを固定化したビーズを用いて高分子ナノ粒子をアフィニティー精製する事で、抗原に強く結合するナノ粒子を単離できる事を見いだした(JACS 13648, 2010)。この粒子は動物血中でも抗原を認識しその毒性を中和する事から(JACS 15242, 2008. JACS 6644, 2010)抗体に代わるナノ医薬材料"プラスチック抗体"として注目されている。しかし、これまでの技術では、一週間に数マイクログラムしかプラスチック抗体を単離出来なかった。そこで本研究では、高速液体クロマト用のアフィニティー精製担体を開発すると共に、アフィニティー精製条件を検討し、短時間で大量のプラスチック抗体を精製するシステムを検討した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。プラスチック抗体を従来の100分の1の時間で100倍量の繰り返し精製を可能にする精製システムを開発することを当初の目標としていたが、今回最適化した条件で、理論的に24時間で数ミリグラムのプラスチック抗体を精製可能になることを、即ち理論的に従来の10分の1の時間で100倍量の繰り返し精製が可能であるということを示すことが出来た点は評価できる。一方、新しく変更した合成方法では多くの類似の抗体が生成することから、GMP基準によりプラスチック抗体を調製することにはかなりの困難さが予想される。今後は、目的の抗体だけを精製できるシステムの構築が必須であり、不純物が含まれないシステムにすることが望まれる。
金属触媒を表面集積したクリスタルエアロゲル触媒の開発 九州大学
北岡卓也
九州大学
山内恒
再生可能資源の新機能開拓と環境に優しいモノづくり技術の革新に向け、樹木多糖に特徴的な結晶性ナノファイバーをマトリックスとする「クリスタルエアロゲル触媒」の開発を行った。簡便な凍結乾燥法で多糖結晶を保持したまま空隙率99%を越えるエアロゲルの調製に成功した。超高密度に表面導入したカルボキシル基を接点に銅IIイオンを還元して銅Iイオンとして担持することで、化学量論担持を達成した。Huisgen環化付加反応において極めて高い触媒効率を達成するとともに、回収・再利用可能でハンドリング性に優れたハイブリッド触媒の創出に成功した。今後、様々な金属種・金属ナノ粒子等のマトリックスとしての機能設計と実用展開に期待が持たれる。
期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、2,2,6,6-tetramethylpiperidine 1-oxyl(TEMPO)で酸化したセルロースナノファイバーを単体とする高機能金属触媒の性能を実証したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、企業との連携などを通して明確に目標を設定している課題に取組むことが望まれる。今後は、実用場面での触媒の安定性やコスト、応用展開における権利化などについても考慮することが期待される。
穏和な条件下でのN-アシル基の実用的脱保護法の開発 九州大学
大嶋孝志
九州大学
平田徳宏
アシル基はアミノ基の保護基として重要であるが、アシル基の脱保護に激しい反応条件が必要であるため、用いることの出来る基質に大きな制限があった。本研究ではアミンを求核剤とするアミド交換反応を脱アシル化反応に用いることを計画し、弱酸性物質である臭化アンモニウムを用いた穏和な条件下での脱アシル化反応の開発に成功した。本脱アシル化反応は、マイクロ波照射条件を用い、アミンとしてエチレンジアミンを用いることで効率的に進行し、様々な官能基が共存できる基質一般性の高い反応である。さらに、求核剤を工夫する事でより低温で、マイクロ波の照射なしでも反応を円滑に進行させる事に成功した。また、複素芳香環などの脱CO法としても利用できる事を見いだした。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。臭化アンモニウムとエチレンジアミンを用いて、これまで困難であった、穏和な条件下におけるN-アシル基の脱アシル化に関する簡便な方法を独自に見出した。また、新規求核剤を開発することによって、当初必要であったマイクロ波照射を必要とせず、通常の加熱装置を用いることができるようになった点は期待以上の成果といえる。特許出願も行われており、アミドに代わってカーバメートやウレアの脱保護反応への展開等、本研究をさらに発展させるための礎となる研究結果も得ている。一方、技術移転の観点から、明確になっている今後の研究課題に対して、具体的な対応策の検討が必要と思われる。本成果は合成化学分野に於いて極めて汎用性があり、化成品、医農薬、機能性材料などの化学産業に広く利用できることが期待され、近い将来、社会還元に繋がる可能性は極めて大きい。
ホストゲスト分子システムを基盤とする薬物送達および放出に関する探索研究 福岡大学
林田修
福岡大学
芳賀慶一郎
本研究では、ゲストに対する捕捉力が飛躍的に向上するクラスター効果の概念をホストの分子設計に取り入れて、複数個のシクロファンを集積した新規ホストを開発し、細胞への薬物送達のための効果的なキャリアとしての可能性を探索した。クリックケミストリーを採用して複数個のシクロファンを集積した新規ホストを収率87%で合成することに成功した。さらに、ペプチド合成法を利用してシクロファン5量体までのホストも合成した。これら5量体ホストのゲストに対する捕捉能は単環性ホストと比較して 49 倍以上に向上した。一方、ピレン基を導入したシクロファン4量体がヒト肝がん細胞へ取り込まれることを示した。また、細胞内へ送達したゲストを放出できることも示唆された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、クラスター効果が狙いの、シクロファンを5つ集積した新規ホストの高収率の合成法を開発したこと、このホストの捕捉能が40倍以上に向上することを確認したことやがん細胞内にゲストを放出することも可能にしたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、抗がん剤などでの実用化が望まれる。今後は、コーディネータが計画されているように産学連携の臨床研究にステップアップされることが期待される。
高殺菌機能性を付与した光触媒固定化ビーズの開発 北九州市立大学
森田洋
(財)北九州産業学術推進機構
安田久
アルギン酸ゲルの三次元的な網目構造が光触媒の接触効率を高めることに着目をし、可視光応答型光触媒をアルギン酸ゲルに包括固定化することにより、従来にない高殺菌機能性を有する光触媒固定化ビーズの創生を行った。S-TiO2に銅を複合化することにより殺菌性能は飛躍的に向上し、本高性能光触媒ゲルビーズは大腸菌汚染水に対して、20000 Lxの可視光照射下において30分の接触で最大6オーダーの殺菌効果が認められた。また本ゲルビーズは、連続使用により若干の殺菌性能の低下が起こるものの、150時間の連続使用においても、180分の接触で6オーダーと高い殺菌性能が維持される結果となった。本成果により高性能光触媒ゲルビーズの水処理技術(殺菌処理技術)への利用可能性が大きく広がった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、高効率、長時間での殺菌機能を付与したビーズの作製に成功し、目標はほぼ達成された点に関しては評価できる。しかし、特許取得済みである「2段接触法」によるゲルビーズ成形を断念し、「1段接触法」を用いたようであるが、結果としてビーズの物理的性質が低下したのではないかという疑問が残る。殺菌効果の持続性に関しても、当初目的は達成されているが明らかな低下が認められる。一方、技術移転の観点からは、用途に応じてどのような殺菌装置に組み上げるのか、コスト面で実用に見合うのか、といった問題の検討が必要と考える。また、技術移転先として種子殺菌への展開を検討されているが、記載にある連携先企業の業種とギャップが見られる点も気にかかる。今後は、研究成果に基づく新しい特許を出願し、技術移転を積極的に進めることが望まれる。技術移転の予定先と共同研究先の企業とのシーズとニーズをマッチさせ技術移転に繋げる努力を継続されることを期待する。
2-フルオロ-1,3-ジカルボニル化合物の安全かつ簡便製造法の開発 佐賀大学
北村二雄
佐賀大学
佐藤三郎
医薬品、農薬等の中間体として有用なα-フルオロ-β-ケトエステルの実用的な製造方法として確立できれば、フッ素ガスを用いない新しい合成法として技術移転が可能となる。そこで、本研究では、(1)基質であるβ-ケトエステルの適用範囲を明確化することと、(2)本合成法がスケールアップに耐えられるかを検証した。その結果、種々の置換基をもつ1,3-ジカルボニル化合物に適用することが可能で、合成操作が非常に簡便で収率良くフッ素化物質を合成できる有用な方法であることが判明した。さらに、本反応はスケールアップに耐える有用な合成法であることもわかった。このように、実用化が可能なフッ素化方法として有用な合成法へ展開することができる。今後、企業との共同研究により、将来実用化へ向けた技術開発を行い、実用的な研究の展開を推進していく。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。鎖状および環状ケトエステルのフッ素化という当初の研究計画に対して、鎖状化合部に対する反応では目的が達成されている。基質の適用範囲が広がり、10ミリモルおよび50ミリモルのスケールで、フッ素化反応の実験を行い76-79%収率で2-フルオロ-3-オキソヘキサン酸エチルを合成できた。工業化を意識したスケールアップ実験が実施されており、全体としての研究成果は高く評価される。本フッ素化反応の鎖状基質への適用範囲がある程度明らかにされたが、環状基質には適用できないことは今後の解決すべき課題である。一方、技術移転の観点からは、フッ素化反応の基質が鎖状構造を持つものに限られているものの、それに対応する部分構造を持つ農薬や医薬品に対しては応用の可能性が高い。今後は、具体的に検討を進めている企業との共同研究を行うことで、実用化に向けた研究段階への展開が期待される。
分子複合による新規耐熱接着材料の開発 佐世保工業高等専門学校
古川信之
本研究では、従来の研究を体系的に発展させ、新材料技術を確立するため、新規な高靭性ベンゾオキサジンの開発とともに、ベンゾオキサジン構造とその基本特性(結晶性、軟化温度、開環重合温度等)および架橋反応物の耐熱性について、構造相関について検討した。さらに、ベンゾオキサジンスペーサーへのアミド結合を有するアルキレン鎖の導入、アゾメチン基の導入により液晶性の発現を期待したが、これまでの検討では明確な液晶性は見いだせなかった。これらの開発において、共同研究者により、ベンゾオキサジン環の開環重合性について、反応性解析(使用ソフト:SPARTAN)によるスペーサー部の電子的効果が反応性に影響を及ぼしていることが示唆された。また、熱可塑性ポリイミドとの複合化により従来材料の高性能化を達成し、有用な分子複合材料技術を提供することを目的として検討を行い、熱可塑性ポリイミド/ベンゾオキサジン系セミIPN型耐熱接着材料については、フィルム形成能に優れ、加熱時の流動性が良好で、硬化反応後の耐熱性に優れた材料の開発に至った。また、共同研究者により、ポリイミド/ポリイミド系複合材料開発を目的として、マイクロリアクターの利用による複合材料用ナノレベル粒子の開発検討も実施した。
これらは、電気・電子部材用樹脂材料の高性能化が、今日、強く望まれており、プリント回路基板用(特に車載用)接着材料、フィルム材料、コーティング材料、半導体関連材料等の実用材料としての応用技術へ繋がるものと期待される。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。研究責任者のポリベンゾオキサジン開発に関する研究を一定の範囲で展開したのみの成果であり、目標も部分的には達成されているが、ブレークスルーにつながる新規な成果は見出されていない。目標がこの分野の体系的発展というように明確に示されておらず、そのため、成果の評価が定性的にならざるを得ない点が残念である。一方で、企業との密な連携で次のステップにつながる課題が具体的に示されている点は評価される。ポリベンゾオキサジンは実用上重要な材料であり、成果となるセミIPN型材料の優れた諸性質(耐熱性等)を活かした具体的な研究が産学連携で進む可能性が示唆されている。今後、産業界で幅広く利用される「学」独自のシーズとして発展することを期待したい。
長崎県産農林水産物を用いた機能性食品開発の推進 ─長崎特産香酸カンキツ「ゆうこう」を用いた機能性食品の開発─ 長崎県立大学
田丸靜香
長崎総合科学大学
山中孝友
長崎特産香酸カンキツ「ゆうこう」は限られた地域でのみ生産・利用されている。「ゆうこう」の摂取はラット血清および肝臓中性脂肪濃度の低下を引き起こすことが明らかとなり、さらにこの作用は成熟果よりも未熟果の方が、また未熟果の搾汁残渣よりも搾汁の方がより効果的に発揮される可能性が示された。「ゆうこう」のフラボノイドや食物繊維含量を測定した結果、作用程度はフラボノイド含量が高い画分ほど強く、よってフラボノイドが作用発揮に関与していることが明らかとなった。このことから、「ゆうこう」の未熟果搾汁に含まれるナリルチンおよびヘスペリジンの効果を期待した機能性食品創成の意義は十分にあると考えられる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもフラボノイド類の抽出ができたことに関しては評価できる。一方、「ゆうこう」の相対的な優位性を明らかにすることはできなかったため、今後ゆうこうの特徴性、特異性の調査・検討などが必要と思われる。今後は、機能だけにとどまらず、総合的に利用する加工法にも目を向け、さらに開発することが望まれる。
ニンニク成分による骨強度低下抑制剤の開発 長崎県立大学
西明眞理
長崎総合科学大学
山中孝友
近年、わが国では骨粗しょう症による大腿骨近位部の骨折が増加傾向にある。高齢者の骨折は「寝たきり」にも繋がる。ニンニクの香気成分であるジアリルスルフィド(以下DAS) 含有植物油を摂取させたラットの大腿骨骨強度、骨成分に有効な影響が認められた。DAS含有植物油は従来のガーリックオイルとは異なり非加熱製法による純度の高い植物油にDASを添加した新たな食材とされる。今回、DAS含有植物油を含む飼料で飼育したラットのCTによる全身骨並びに大腿骨の骨形態計測を実施しDAS含有植物油摂取による骨強度低下抑制効果を検証した。日常的なDAS含有植物油の摂取が骨強度低下抑制に働き、ヒトの骨粗しょう症予防に貢献する可能性が示唆された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ジアリルスルフィド(DAS)添加給餌ラットの大腿骨破断結果から、DAS添加植物油が骨強度増加と血漿アルブミン上昇をもたらす研究結果が得られた点は評価できる。一方、骨強度と骨密度との関連性が見られなかったことから、骨強度には骨密度と骨の質が関係しているのであろう、といった今後の課題が示されているが、その課題に対する具体的解決策の検討が必要である。また、皮質骨密度、海綿骨密度に関しては、得られた結果に対して、より詳細な考察が必要と思われる。産学での共同研究に向けて、特許出願の準備や食品加工関連企業との接触を行っており、技術移転につながる可能性が大いに期待される。
触媒的不斉モノスルホニル化による光学活性アジリジンの実用的合成 長崎大学
尾野村治
入手容易な2-(N-スルホニルアミノ)-1,3-プロパンジオール1から光学活性アジリジン2を合成する反応は、2を多様な医薬中間体に容易に変換できるので価値が高い。そのような反応はこれまで知られていなかったが、研究責任者は触媒的不斉モノスルホニル化により一挙にいくつかの1から2が合成できることを見出した。この方法は従来困難であった四置換不斉炭素原子を有する光学活性アジリジン合成において特に有効で、反応条件最適化の結果、良好な収率、高い光学純度で様々な2を合成することに成功した。光学活性化合物の製造で実績のあるナガセケムテックス社が本方法を触媒効率、反応操作の簡便性の点からも高く評価し、共同で特許出願した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。触媒使用量 1%以下、収率 95%以上、光学純度 95% ee 以上で光学活性アジリジン誘導体を合成する目標は達成できなかったが、反応条件の最適化実験の遂行は概ね達成している点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、基質の適応範囲など本方法の限界を明らかにしたこと、重要中間体を得るなど今後の新たな展開を期待できる成果を得ていることや企業と共同で特許出願を完了したことから、技術移転につながる可能性が高まったと判断される。得られた光学活性アジリジンを、光学活性アジリジンカルボン酸誘導体、2,3-ジアミノプロパノール、β-アミノ酸、非天然型四級アミノ酸等の非天然型アミノ酸誘導体に容易に変換する方法を確立すると言う今後の計画は評価に値する。具体的かつ的確に検討頂きたい。
ポリオール類の触媒的モノアリール化反応 長崎大学
栗山正巳
ポリオール類に対して一般性に優れた選択的アリール化反応を開発することを目標とする。本反応によって生じる化合物は天然物等の有用合成中間体であることに加え、アリール基は保護基としても利用可能である。反応効率向上の鍵となる独自配位子の合成法について種々反応条件を検討したところ収率が顕著に改善され、多様な配位子前駆体群を効率よく合成することに成功した。ポリオール類のアリール化に対する検討においては、単純化モデルであるジオール類では優れた基質一般性が達成されたことに加えて触媒量の低減にも一定の成果を収めることに成功した。一方で、糖類については収率の低下が見られ、十分な収率が達成されなかった。しかし、配位子効果などに関して知見蓄積ができたことから、これらを基盤として今後更なる検討を加えることで効率の向上が可能と期待される。

当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。本テーマは新しいタイプの配位子を用いてポリオールの触媒的なアリール化反応を高効率化しようとする、難易度が高いものであるが、中でも、配位子の前駆体合成とジオール類の選択的モノアリール化で概ね良好な成果を得たことについては評価できる。一方、触媒効率の向上やポリオールのモノアリール化に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、糖鎖合成分野で活用されることを狙い検討を継続することが望まれる。
天然材料を活用した導電性薄膜の創成と太陽電池への応用 熊本県産業技術センター
堀川真希
近年、太陽電池や有機ELなどの「光電変換デバイス」の発展とともに、導電性高分子の研究が精力的に行われている。その中でもPEDOT/PSSが注目されているが、PSSが結晶格子を乱して伝導パスの障害となり、既存のITO電極と比較して導電性が低いことが問題であった。本研究では、構造規則性をもつタウリンおよびセルロース誘導体とPEDOTと複合化させて、薄膜を作製し、既存のPEDOT/PSS以上の導電性を確認した。今後は、タウリンおよびセルロース誘導体の構造を最適化することによって、さらに導電性能を向上させると共に、得られた導電性薄膜を用いた光電変換デバイスの作製にも取り組んでいく。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に天然材料により、高導電率の透明導電膜が得られたことは、技術移転に繋がる成果として評価できる。また産学官により着実に研究が進められている点も評価できる。一方、技術移転の観点からは、薄膜太陽電池での実用化が望まれる。今後は、既存のPEDOT/PSSに対する優位性を明確にする応用評価を行うなど、次のステップである実用化への仕組みづくりが期待される。
超臨界流体パルス放電法を利用した炭素系素材の簡便かつ迅速作製および機能化技術構築に関する研究 熊本大学
佐々木満
熊本大学
緒方智成
申請者は、導電性材料や高強度部材等として利用される炭素系素材(グラフェン、カーボンナノチューブ、窒化炭素など)をフェノールやピレン、チオフェン等、常態で液体または固体状態の芳香族・脂肪族化合物を出発物質として重合する技術を確立する。また、得られる炭素系素材の疎水表面上の炭素-水素(C-H)結合を、簡便かつ迅速に機能性官能基(例えば、酸化、窒化、硫化)へ変換する革新的技術の創出を目指す。反応場には亜臨界または超臨界状態の各種流体(水、二酸化炭素、窒素、アルゴン)を用い、種々の芳香環化合物および導入する官能基を有する添加物質を、前記媒体に溶解または分散状態でパルス放電処理を行うことでC-H結合を機能化する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。超臨界流体パルス放電法という新しい炭素系素材の合成研究であるが、高圧反応機のシール問題から予定した研究成果は得られていないが、装置作製や実験結果の解析や条件策定など解決に向けた取り組みは評価できる。生産効率、収率の向上が必要と思われる。今後は、技術移転を目指し、得られた知見に基づき明確にされている技術的課題を克服することが望まれる。
光加筆型リライタブルペーパーの開発とレーザープリンターへの導入 熊本大学
桑原穣
熊本大学
緒方智成
本研究では、光加筆型リライタブルペーパーの実現化のために、大面積ペーパー材料の作製技術の確立と、書き込み装置の試作を行う。(I)大面積多層膜の作製法の確立、(II)書込み装置および消去装置のシステム構築、(III)リライタブル性評価に関する検討を行った。本実験で用いたレーザーにおいて、1回の「書き込み」に必要な光エネルギー量に達していないことが示唆された。書き込み操作を行ったところ、複数回で「書き込み」が確認できた。今後、さらに高強度の光源を採用すれば、現状の技術を転用して「書込媒体」への光書き込みが実現可能であると考える。複数回のリライタブル性が確認された。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、小面積ではあるが高分子多層膜によるリライタブルペーパーとしての基礎開発はほぼ達成したことは評価できる。一方、当初目標にある、A4以上の大面積多層膜の作製と書込み/消去装置のシステム構築にに向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。リライタブルペーパーは新規用途を加えた広い市場への展開が期待できるので、今後は、高分子液晶自体の光応答性の向上検討と併せて、企業との連携により大面積化と装置構築の検討を加速することが望まれる。
均質なナノ界面増強による高次機能(高屈折率・波長変換)光学材料の開発 熊本大学
伊原博隆
熊本大学
緒方智成
本研究は、保有する複数の基盤技術を活用・展開して、ナノ界面を物理的および化学的に増強する新たな手法を確立し、波長変換能や屈折率変調能を有する光学材料の創製を目指した。具体的には、球状微粒子の界面機能を制御する手法、および繊維状のナノ構造形成を通じる手法によって当初目標を達成した。中でも、発光素子を組み込んだナノ繊維構造体は、汎用性のポリマーフィルム中に封入することが可能であり、透明性を維持しつつ、高い量収率とストークシフトを示す波長変換材として応用可能であることを明らかにした。多彩な用途展開が可能であり、太陽電池や農業用フィルム等の光マネージメント材料としての展開が期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、フィルムのナノ構造導入制御は用途開発上、有効なアプローチであることを立証できつつあることが評価できる。特許出願もされており、今後、企業と連携し、事業化できる製品を早期に見いだすことが期待される。
オリゴ糖ペンダントポリマーを用いた光電素子モジュール用ハイガスバリア性有機コート剤の開発 熊本大学
高藤誠
熊本大学
緒方智成
重合性オリゴ糖を用いた酸素ガスバリア性有機コート材の開発を目的とし、重合性オリゴ糖の合成、重合によるオリゴ糖ポリマーのライブラリ化ならびにナノ材料との複合化によるガスバリア材の開発を行った。オリゴ糖ポリマーとナノ材料を混合したエマルションを基材フィルムに塗布、乾燥後、熱処理することで、複合コート膜を形成させ、酸素ガス透過度を評価した。その結果、混合エマルションの配合比やナノ材料の種類により、酸素ガスバリア能は異なるが、いずれも幅広い湿度範囲において、高いガスバリア能を示すことが明らかとなった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。当初の目標性能は未達であるが、オリゴ糖ペンダントポリマーを用いて、バリア材の開発ができたことは評価できる。企業と共同して現実的解決を実現しており、今後も共同開発などでの実用化が期待される。
有機π電子系超薄膜を利用したビタミンE類の精密高速分離法の開発 熊本大学
澤田剛
熊本大学
緒方智成
本申請課題の最終的な目標は、ビタミンE類を完全に分離する手法の開発であり、有機π電子系超薄膜を利用したπ電子相互作用を利用して、ビタミンE類の精密高速分離法を開発することが目的である。
本研究期間で、有機π電子系超薄膜のシリカ表面への導入と評価を行い、ビタミンEを分離する逆相HPLCに利用可能な固定相の開発を達成した。開発した固定相をHPLCカラムに充填し、ビタミンEのHPLC分離挙動を検討しており、その際にHPLCの分離条件の最適化を行うとともに、特許化、産学共同研究への展開と、製品化への可能性を目指す予定である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、無機/有機のハイブリッド微粒子を用いたHPLCカラムを開発し、4種類のビタミンE異性体を流速1mL/minで分離することに成功したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、特許出願も検討し、目論見通りにHPCLカラムなどでの実用化が望まれる。今後は、スケールアップなど実開発に向けた検討をカラム充填剤メーカなどとの共同研究で取進めることが期待される。
分子性導電体ナノ結晶薄膜を利用した有機太陽電池の開発 熊本大学
松田真生
熊本大学
松本泰彦
分子性導電体ナノ結晶薄膜を利用した有機太陽電池の作製が可能であることを示すため、複数種の分子性導電体ナノ結晶薄膜の作製を行った。対象には、フタロシアニンを構成成分とする分子性導電体を選び、そのHOMOバンドが3/4-filledとhalf-filledの系について取り組んだ結果、3種の分子性導電体についてITO透明電極をナノ結晶で被覆する技術の開発に成功した。
これらをフラーレン系アクセプターと組み合わせることで太陽電池素子作製を行ったところ、フタロシアニンの分子内遷移に由来する光応答性を検出することに成功した。
分子性導電体微結晶サイズの制御、n型半導体の種類の検証により、効率向上実現への知見を得ることを期待している。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。フタロシアニン系分子性導電体における光キャリア生成を示唆する成果は得られたが、当初の目標である太陽電池素子の作成までは達成されていない。実験結果は基礎実験レベルの段階であり、可能性を示唆する実験結果を得ているが、研究成果がはっきりしないため、今後は材料選択などの基礎的なデータを得るための技術的検討が望まれる。アプローチの方法としては、ナノ結晶膜質の改善を行いつつ、従来型P3HT/C60系太陽電池との融合を行うことが挙げられる。有機太陽電池としての変換効率の向上を目的に「分子性導電体ナノ結晶薄膜」を利用する方法は評価しうるものであり、今後も研究の継続が望まれる。
塗布型バイポーラー性ホスト材料の開発と燐光有機ELデバイスへの展開 崇城大学
八田泰三
本研究の目標は、有機ELデバイスの低コスト化を可能とする塗布性と熱的・膜安定性を持つ燐光ゲスト用ホスト材料を開発することである。本研究では、電子輸送性含窒素複素環に、高い三重項エネルギーレベルとホール輸送性及びアモルファス性を付与しうるカルバゾリルビフェニル基を組み込むことで、高い熱的・膜安定性と塗布性を持つバイポーラー性カルバゾリルビフェニル置換含窒素複素環化合物を開発し、これが塗布法に利用可能な燐光ゲスト用低分子系ホスト材料として機能することを明らかにした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にバイポーラーホスト製造の技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、試作した二種のうち一種は低コスト化が可能な有機ELデバイスのホスト材料として期待が持てそうである。今後は、競合品と性能・コスト等を比較しながら、現状材料に対する優位点を明確にし、産学共同により次の目標を立てることが期待される。
さつまいも茎葉のポリフェノールを原料とした環境調和型エンプラの製造プロセスの開発 鹿児島県工業技術センター
東みなみ
鹿児島県工業技術センター
西元研了
さつまいも茎葉からポリフェノールを抽出し、これを原料とした高強度・高耐熱性のバイオマスプラスチック製造技術を開発することを目的として、原料モノマーの抽出・精製条件を検討した。バッチ式の抽出装置を用いて、抽出時間を一定とし120℃~160℃で抽出したところ、熱水流通式に比べて、カフェ酸誘導体類(ポリフェノールの主成分)の収率は抽出温度が高いほど減少した。精製については、カフェ酸誘導体類を高い収率で得られる合成吸着剤が選定できた。また精製物を溶液重合し評価をしたところ、比較的低い抽出温度の条件で得られた精製物から耐熱性のある重合物が得られた。簡易な熱プレス成形でじん性は不足しているが硬い成形品が得られ、エンプラとしての利用可能性が示唆された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、サツマイモ茎葉からポリフェノールを抽出し精製する条件を明らかにしたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、得られるエンプラとしての性能(強度や延性など)を競争力のあるレベルまで高めて、エンプラ相当のバイオプラスチックとしての実用化が望まれる。今後は、開発志向に考え方を転換し、知財権も確保しつつ鹿児島発の技術として技術移転を進めることが期待される。
高圧力処理による温度応答性材料の開発 鹿児島大学
山元和哉
鹿児島大学
中武貞文
高圧条件下での原子移動ラジカル重合による温度応答性高分子の調製と材料化を検討した。短時間で50万以上の分子量を有する温度応答性高分子の調製を目標とし、触媒や反応溶媒を最適化し、高圧条件下での重合反応の促進効果により、重量均分子量が50万以上の高分子を調製した。さらにモノマーを選択することで、水環境下での適用を考慮したハイドロゲルや、大気環境下での融点(結晶化温度)前後で粘着(接着)-非粘着(非接着)性が繰り返し制御可能である温度応答性膜が調製できた。またエレクトロスピニング装置を利用した成膜化では、使用する側鎖結晶性高分子の分子量および濃度によって、粒子状から繊維状の異なる形態が確認された。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。高圧下において、高分子量・高粘着を有し、さらに温度応答性をも示す高分子材料の創製という目標を掲げた研究課題であるが、目標値を概ね達成する材料を創製することができた。さらに、当該材料開発に関して企業との特許共同出願を行っていることは高く評価できる。今後の課題として材料としてのスケールアップや粘着性の鋭敏化といった具体的な技術課題を挙げており、これらの課題を解決することにより、新規高分子材料としての開発が望まれる。一方、技術移転の観点から、ハイドロゲルの調製や側鎖結晶性高分子の合成において、高圧重合の特徴を活かしつつ、いわゆる通常のラジカル重合ではなく、リビングラジカル重合を用いる必要性を確認する等、より簡便な創製手法も検討して欲しい。また、予定されている産学共同研究を通して、コストパフォーマンスや必要となる材料の性能についても検討し、企業ニーズに応えうる研究成果が得られれば、社会還元につながる可能性も高いものと期待される。

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