評価結果
 
評価結果

事後評価 : 【FS】探索タイプ 平成24年1月公開 - 創薬分野 評価結果一覧

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課題名称 所属機関 研究責任者 研究開発の概要 事後評価所見
糖鎖改変・可溶型ErbB3の生理活性の解析と応用札幌医科大学高橋素子本研究では、可溶型ErbB3(sErbB3)の特定の糖鎖欠損変異体を精製し、その生理活性と作用機序を明らかにすることを目標に研究を行った。まず野生型sErbB3のAsn418に結合する糖鎖構造を明らかにし、N418Q変異体ではその糖鎖を欠損していることを確認した。ErbB2およびErbB3を発現している細胞をsErbB3存在下においてheregulinで刺激したところ、N418Q糖鎖欠損変異体sErbB3では野生型と比較してシグナル抑制作用が著明に増強していた。また、その変異体ではリガンド結合親和性が低下していることが示唆された。in vivoでの効果を検討するまで至らなかったが、それ以外の課題については達成することができた。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。可溶性ErbB3のAsn418に結合する糖鎖の欠損体N418は、heregulin刺激により誘導されるシグナルを抑制する作用が、野生型に比べ増強していることが明らかにされた。In vivoでの効果の確認と共に、シグナル抑制の作用機序の解明が必要である。さらに、技術移転を意識した計画が望まれる。
AKT結合分子を分子標的とするAKT特異的阻害剤の開発北海道大学野口昌幸最近ウイルス感染をはじめとする感染症において細胞内にあるこのPI3K-AKT活性シグナル伝達系をウイルスあるいは感染病原体がたくみに利用し、細胞死、感染の遷延化、腫瘍化さらには多剤耐性の成立などに関与しており、その中でもPI3K-AKT活性化シグナル伝達経路のウイルス感染における病態生理学的な意義が注目されている。申請者はインフルエンザウイルス産生蛋白におけるAKT‐PI3Kシグナル活性化機構に注目し、AKTに結合する分子の同定を試み、AKTに結合するインフルエンザのコードするNS1蛋白を同定、NS1蛋白がAKTと結合する部位を同定、その化学的修飾に基づくAKT活性阻害効果と特異性を明らかにした。本研究によりNS1によるAKTシグナル伝達系の活性修飾機構を制御することにより、インフルエンザウイルスの感染の治療に役立てる可能性が示唆された(Matsuda M et al., BBRC 2010 )。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。AKTに結合する分子の同定を試み、NS1蛋白を同定、さらにNS1蛋白がAKTと結合する部位を同定し、AKT活性阻害効果と特異性を明らかにした点は、当初の研究計画目標を達成している。今後、標的に対する具体的な創薬研究の進展が期待される。
脂質合成転写因子を標的とした新規リグニン由来物質の有効性評価青森県立保健大学佐藤伸本課題の目的は、天然リグニン由来物質であるリグノフェノール(LP)の脂質異常症における脂質合成転写因子の活性抑制効果を見出すことであり、最終的目標は肥満改善に資する生薬の開発である。高脂肪食を摂餌した肥満モデルラットにLPを長期投与した結果、LPは脂質代謝に関連する血液生化学検査値の上昇を抑制し、脂質合成転写因子の発現にも影響を及ぼすことが判明した。これらの結果は、これまで私たちが培養細胞試験を通して得たエビデンスが、生体内での脂質異常症においてもLPが効果的であることを示している。今後、LPの毒性試験を通して安全性評価を行い、LPが肥満改善に資する生薬の開発をさらに進める。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。天然素材リグノフェノールの脂質異常症への可能性をin vivoでの効果を検討し、ある程度の成果が得て、その成果を学会発表・学術論文で公表している。今後、作用メカニズムや安全性評価などのデータを補完し、技術移転の展開を期待する。
機能的ヒト免疫反応を惹起できるヒト化マウスの開発東北大学高橋武司本研究では、ヒトHLA-DR分子を発現させた改良NOGマウス(HLA-NOG)を用いて単にヒト免疫細胞を発生させるだけではなく機能的なヒト獲得免疫機構をマウス内で作動させ、ヒト特異的病原体に対する免疫反応をマウス内で解析することを目標とした。HLA-NOGマウスに同じHLA-DR遺伝子型を持つ血液幹細胞を移植し、ヒト細胞発生後その形質、および免疫反応性を検討した。ヒト化後5か月では約50%のT細胞はナイーブT細胞の形質を示し、試験管内での抗原刺激に対して分裂増殖し、IL-2を産生できた。その一方6か月ではナイーブT細胞の割合は10%以下となり、これらのT細胞は抗原刺激に対して反応しなかった。今後、T細胞のホメオスタシス維持に関する研究が必要である。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。マウスMHC遺伝子をヒト型化することによって、ヒト免疫応答を誘発する試みの研究であり、極めて重要な研究である。T細胞の再構築後のある期間経過でナイーブT細胞が激減することが観察され、T細胞の維持や抗原提示細胞との問題など、新たな問題点の見つかった。社会的ニーズも高く、今後の研究の成果と進展に期待したい。
エピジェネティックな遺伝子発現制御を利用した新規有用天然物の創出法の開発東北大学浅井禎吾糸状菌のゲノム上には、通常の培養条件では発現していない、数多くの未同定二次代謝物生合成遺伝子が存在することが知られており、重要な有用生物活性物質探索源と見なされている。本研究では、エピジェネティックにこれらの生合成遺伝子の発現を誘導し、二次代謝物生産を活性化させる物質探索法として、(1)ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤やDNAメチル化酵素阻害剤を用いる化学的手法:(2)LaeA大量発現系を用いる遺伝子工学的手法の開発を目指した。(1)では、種々の酵素阻害剤の有効濃度やコンビネーションによる効果を検討し、様々な糸状菌に共通して有効な条件を見いだした。その条件を用いて、数種の昆虫寄生糸状菌より、多様な新規二次代謝物の取得に成功した。本手法を用いて、様々な糸状菌を対象に探索を行うことで、数多くの新規物質の取得が期待される。(2)では、Aspergillus nidulansより取得したlaeA遺伝子を組み込んだ大量発現用ベクターの構築に成功した。今後、このベクターを導入した糸状菌を作成し、新規有用物質探索へと展開する。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤とDNAメチル酵素阻害剤について、有効濃度が決定され、多くの糸状菌に共通することが明確になった。当初の計画目標はほぼ達成されているが、細胞毒性、大量培養での培養条件、およびlaeA大量発現系に関する評価の実施など、今後のデータに期待する。
脳神経及び血管再生を促進する「バナジウム化合物」の前臨床試験東北大学福永浩司万能細胞 (iPS 細胞) による神経変性疾患への神経再生治療は前臨床試験の段階にある。私達は全身投与(末梢投与)により脳神経細胞の新生を促進する化合物:バナジウム化合物 bis(1-oxy-2-pyridinethiolato)oxovanadium [VO(OPT)] を見出した。既研究により、VO(OPT) が脳梗塞モデル動物においては、脳神経に加えて脳血管再生を促進すること、循環器及び臓器毒性が無いことを齧歯類で確認した(Hypertension, 2009)。本研究では、VO(OPT) の末梢及び中枢での「薬物動態」を質量分析計で確認し、安全な投与量を決定する。更に、神経・血管再生メカニズムを明らかにして神経変性疾患治療への前臨床試験・応用を目指す。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。バナジウム化合物VO(OPT)の脳虚血障害後の神経細胞・血管再生機構の解明が前進したことは、評価できる。ヒトへの適応を考えた場合、溶解性に優れたVO(acac)の可能性の展開を見出しており、今後、VO(acac)の評価データを加え、バナジウム化合物の薬物としての利用が期待される。
発酵食品中の分子シャペロン誘導因子及び癌細胞増殖抑制因子の特定秋田大学伊藤英晃発酵食品を、1硫安分画 、2イオン交換カラムクロマトグラフィーを行い、癌細胞が死滅する群と生存する群の比較を行った結果、分子量約5,000のペプチドが、癌細胞増殖阻止因子の候補と考えられた。さらに、酵素消化処理後、HPLCで分離精製したペプチドを癌細胞に添加し、生育状況を解析した。癌細胞増殖阻止因子の同定は、1発酵食品を、硫安分画、親水性・疎水性成分、HPLCにて分画した成分などを培養癌細胞に投与し、癌細胞の増殖を、顕微鏡観察、MTT法、アポトーシスの有無により解析した。2癌細胞増殖阻止因子は、アミノ酸シークェンサーを用いて分子量と構造を解析出来、特許を申請した。現在、動物実験にて効果を解析中である。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。発酵食品の納豆から3種の機能性ペプチドが得られ、がん細胞増殖阻止機能と分子シャペロン誘導効果が明らかにされた。当初の計画目標は達成され、研究成果に基づく新規特許出願がなされている。高純度ペプチドの精製方法と大量分取法が確立され、今後、in vivo実験での活性や安定性が確認されることで、技術目標の明確化が期待される。
高機能性ペプチドを用いた新しい抗炎症剤の開発いわき明星大学佐藤陽本研究では、炎症反応を強力に惹起する血小板活性化因子(PAF)との特異的な結合能を有する高機能性ペプチドを用い、PAFが密接に関連する種々の炎症性疾患の予防・治療に対し著効する抗炎症剤を開発することを目標として、多機能性ペプチドのさらなる有用性をin vivo試験によって解析・評価した。具体的には、各種ペプチドが有効に活性発現するための投与方法や投与量、生体内における各種ペプチドの安定性などをすべて検証し、各種ペプチドの抗炎症剤としてのさらなる有用性を十分に評価できたことから、実用化へ向けた次の研究ステージへ移行できると判断して特許出願に至った。今後は、高機能性ペプチドの抗炎症剤としての実用化へ向けて、論文や学会発表などを通じて早急に技術移転を進めていく予定である。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。炎症反応を惹起する血小板活性化因子(PAF)との特異的結合を有する高機能性ペプチドを見出し、当初の計画目標としたin vivo試験による解析・評価を全て完遂し、特許出願を行い、技術移転につながる可能性が高まった。課題はペプチドであることから、DDSの応用などにて経口投与での効果、DDSの生体内での安定性、また、炎症性疾患モデル動物を使った研究にて、技術移転の創出に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
超高感度糖タンパク質評価システムによる培養段階の糖鎖品質可視化独立行政法人産業技術総合研究所久野敦本研究は、実施者が開発してきた超高感度糖タンパク質評価システム・レクチンアレイを活用し、タンパク質医薬品の糖鎖品質を培養初期段階で可視化する試みから実用化のためのノウハウ構築を目標とした。ヒト型糖鎖発現メタノール資化性酵母が生産する0型結合糖タンパク質を対象とし、培養液(100μL)中の目的タンパク質精製から、レクチンアレイによる糖鎖分析までを8.0時間で実施できるプロトコルを確立した。その糖鎖品質検出限界0.1ngで、当初設定した5ng検出を大きく感度が上回り、培養初期からの糖鎖品質モニタリング、短時間培養でのスクリーニングには十分な感度であった。lgGなどN結合型糖タンパク質への応用も検証済みであり、今後この新規生産評価基軸を応用したタンパク質医薬品生産プロセス開発に発展していく。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。糖鎖検出限界は5ng以下で、迅速な糖鎖品質評価が可能で、実用的に利用できる技術成果が得られた。今後、培養系などについて検討を加えることにより、迅速かつ簡便な糖鎖品質可視化の可能性と、医薬品生産プロセスへの応用が期待される。
バキュロウイルスデュアル発現システムを用いた次世代マラリアワクチンの開発金沢大学吉田栄人[研究目標]P. falciparum CSP遺伝子を導入したプロトタイプワクチン(AcNPV-Dual-PfCSP)のin vitro評価系の確立(感染防御率目標値 >99%)およびHVJ-Eワクチンの作製[達成度]計画通り、AcNPV-Dual-PfCSPワクチンをマウスに接種し、抗血清を得た。この抗血清に含まれる抗PfCSP抗体がin vitro培養系においてマラリア原虫の感染をほぼ完璧(>99%)にブロックした。HVJ-Eワクチン作製も計画通り完了した。本研究に密接に関係する学術論文を3報発表した。[今後の展開]AcNPV-Dual-PfCSPワクチンの感染防御効果をin vivoで検証する。このための遺伝子組換えマラリア原虫(PfCSPをPbCSPに置換)は作製済みである。同様にHVJ-Eワクチン評価も実施する計画であり、効果が確認されれば特許を出願する。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。in vitroでの感染を顕著に抑え、HVJ-Eワクチンの作製も計画通り完了したことは評価に価する。安全性の高いワクチンと成り得る可能性があり、in vivoおよびHVJ-Eワクチンの評価大いに期待したい。この領域は、現在多くの研究開発が激化しているところから、本プロジェクトのスピードアップが望まれる。場合によっては、プロトタイプワクチンを先行した研究開発展開を薦める。
新規多動症モデルマウスを用いた有効薬物スクリーニング法の確立群馬大学下川哲昭目標:現在、我々が作製した新規多動症マウスであるCIN85ノックアウトマウス (CIN85 KO マウス)を多動症治療のドーパミン新規作動薬探索におけるスクリーニングのために応用することを目指している。本研究開発の目標はCIN85 KO マウスにおける各ドーパミン受容体サブタイプの複数のアゴニストおよびアンタゴニストに対する多動症反応のデータを取得することにある。達成度:当初予定していた4被験薬物である、ドーパミン受容体D1のアゴニストA-68930、D2アゴニストApomorphine、D3アゴニストPIPAT、D3アンタゴニストAJ79/UH232のうち、D3アンタゴニストAJ79/UH232を除く3つのアゴニストによる反応のデータを取得できた。今後の展開本研究で複数のアゴニスト/アンタゴニストの反応データが得られたことより詳細な多動症発症のメカニズムの解明とその抑制のための薬物のデザインを思考していきたい。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。CIN85欠損マウスでは、ドーパミンの放出が著しく低下しており、D2アゴニストに対する反応性に欠損することが明らかにされた。しかしながら、CIN85欠損マウスが「多動性」を示していないことから、「多動症」に関する試験系の再確認を含め十分な検証が求められる。技術移転に関しては、まだCIN85欠損マウスの行動学的研究面において課題が残されている。
炎症性疾患治療の新しい分子標的としてのプロトン感知性受容体に対するアンタゴニストの開発群馬大学戸村秀明本研究では我々が見出したpH感知性受容体のアンタゴニストとして作用する化合物が、炎症性疾患に関与する細胞において、酸性pHによる作用を特異的に抑制することを確認することが目標であった。この目標にそって気道平滑筋細胞に焦点をあて、酸性pHによる応答に対して化合物の影響を観察した。その結果、化合物は酸性pHによる応答を特異的に抑制することを確認した。しかしながら、反応時間の長い応答に比し反応時間の短い応答では、この化合物の抑制の程度が低い傾向が観察された。すなわちこの化合物の作用機構は、当初予測していたような単純なものではないことが明らかになりつつある。今後、これらの情報と化合物を製薬関連会社と共有することで、炎症性疾患の開発研究へと発展させたい。当初目標とした成果が得られていないように見受けられる。今後、技術移転へつなげるには、今回得られた成果を基にして研究開発内容を再検討することが必要である。炎症性疾患に関与する細胞にて、酸性pHによる応答に抑制することが、アンタゴニス(化合物)をして確認された。阻害作用が反応時間の長短で異なるという新たな知見は得られているが、当初計画された試験目標が大幅に未達となった。今後、研究目標と実験計画の妥当性を再検討し、研究開発において研究が進展することを期待したい。
膵β細胞の甘味受容体を標的とした創薬戦略の確立群馬大学小島至膵β細胞に発現する甘味受容体を刺激して「インスリン分泌を促進するとともにβ細胞の保護作用を有する」新規アゴニストの開発を最終的な目的とし、そのために必要な知見・情報を集積することを目指した。甘味受容体は多様な構造のアゴニストを異なる部位に結合するが、興味深いことに、結合部位ごとに産生する細胞内シグナルが異なる。つまりアゴニストの結合部位により、分泌刺激作用やβ細胞保護作用が異なる。そこで、甘味受容体のどの部位に結合するアゴニストが、分泌刺激作用、β細胞保護作用において有効かをin vitroおよびin vivoの系において明らかにすることを目指した。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。膵β細胞上の甘味受容体に結合する作用によりインスリン分泌とβ細胞保護効果との関係を証明し、人工甘味料の中でスクラロースが最も有用なアゴニストであることを明らかにした。スクラロース類似の作用を有する化合物を見出してはいるが、より強力なものの発見には至らなかった。今後、新規化合物の発見を期待したい。
新規血栓溶解薬の創生を目指したペプチド戦略日本薬科大学河村剛至プロカルボキシペプチダーゼR(ProCPR)活性化を阻止するペプチドは、線溶を抑制するカルボキシペプチダーゼR(CPR)の生成を抑えることでプラスミンの生成を促すため、血栓症の治療薬として実用化できる可能性が高い。ProCPR活性化を阻害するアミノ酸20残基から成るペプチドの開発に成功し、そのペプチドがProCPRと結合してProCPR活性化を阻害することを明らかにした。また、薬の開発に重要なステップであるペプチドの低分子化に着手した。活性阻害濃度を維持し、アミノ酸18残基まで低分子化したが、16、14残基と減らすにつれ、阻害に要するペプチド濃度が上昇した。ペプチドSPOT膜を利用してProCPR認識に重要な配列部分を絞り込んだので、今後、親和性が上昇するようにアミノ酸を変換し、低分子で効く薬への発展を目指す。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。プロカルボキシペプチダーゼR(ProCPR)活性化阻害作用を有するペプチドについて、in vitro試験が実施された。今回の試験結果では、低分子化により阻害濃度が上昇し、新たな課題も明確になった。新たなペプチドの探索や、低分子化と阻害作用の目標を明確にし、さらに、将来的には、医薬品としても課題点を抽出して、研究展開を進めることが望ましい。
痛風薬コルヒチンの実用的抗がん剤に向けた創薬研究千葉大学北島満里子痛風治療薬コルヒチンを基盤とした植物天然物由来の新規抗がん剤の創薬開発候補化合物の創製を目的として、コルヒチンの4位並びに7位アミノ基における各種誘導体の合成、活性評価、プロドラッグ化をほぼ計画通り実施した。その結果、4位ハロゲン化誘導体がコルヒチンを上回る活性を有し、in vivo試験においても良好な活性を示すことが明らかとなった。また、腫瘍細胞選択性の獲得を目指して酵素cathepsin Bが認識するジペプチド鎖を結合させたプロドラッグ化合物を合成し、酵素による開裂実験において活性化合物の放出を確認することができたが、これら化合物の腫瘍細胞選択性はあまり認められなかった。今後、4位ハロゲン化コルヒチン誘導体を用いて腫瘍細胞選択性の向上を目指す予定である。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。当初の計画目標であるコルヒチンの4位および7位窒素原子上の誘導体合成および評価の実施は完遂させた。4位ハロゲン化体が腫瘍細胞毒性活性を有することは追試されたが、それを上回る活性を有する化合物は見出されなかった。プロドラッグ化の検討も終了しており、in vivoでの抗腫瘍効果と安全性に関する評価に期待する。
XIAP阻害剤のin silico設計による新規制がん剤リード化合物の創製東京理科大学高澤涼子本研究では、XIAP/Smac結合部位をHot Spotとして、私共が開発したCOSMOS法を用いて、XIAP阻害最適ペプチド配列AVPFをミミックする低分子XIAP阻害化合物を分子設計し、新規制がん剤を開発する基盤となるリード化合物を創製することを目的とした。本研究開発実施期間において、in silicoで結合エネルギーのDecomposition analysisを行い、XIAP阻害ペプチドAVPF/XIAP相互作用に重要なXIAP側のアミノ酸残基(Hot amino acids)の予測を行った。このHot amino acidsを支点として、XIAP阻害低分子化合物設計のためのpharmacophoreを構築した。これを用いて、XIAP阻害低分子化合物のin silicoスクリーニングを行い、XIAPへの結合親和性を蛍光偏光測定によって実測評価した。その結果、AVPF/XIAP結合を阻害する化合物ITM-017を見出すことができた。今後、ITM-017のXIAP Hot Spot内における結合様式をin silicoで解析し、ITM-017のさらなる構造最適化を行っていく。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。当初の計画目標の達成には至っていないが、独自のスクリーニング手法によりAVPF/ⅥAP結合阻害を有する候補化合物ITM-017が同定されたことで、概ね期待通りの成果が得たと評価できる。今後、ペプチド構造の最適化により高い阻害活性を有する物質、更には低分子化合物化が図れれば、臨床的応用の可能性が高まる。
トランスポートソーム制御による抗ウイルス治療の新戦略慶應義塾大学西村友宏抗ウイルス作用を持つ遺伝子アナログ物質の治療効果を高めるために、種々生理活性物質のトランスポートソームにおける効果を検討し、促進効果を発揮するための化学構造情報を得ること、作用の強い化学物質を発見することを目的とした。我々が過去に見出した促進剤DHEAS(Dehydroepiandrosterone-sulfate)と比較し、DHEASの構造類似体を用いた促進効果より、促進効果に必要な分子構造情報を得ることができた。検討した化合物群では依然としてDHEASが最も強い効果を示した。制御機構にはPKCシグナルが関与し、PKC阻害剤とDHEASの併用によりさらなる促進効果を発揮することが明らかとなった。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。DHEASの構造類似体のスクリーニングでは、DHEASより作用が強い化合物は見いだせなかったが、PKC阻害剤との併用により効果を促進すること、また、化合物のスクリーニングが未達ではあるが、構造活性相関から活性発現に必須の化学構造が推定できたことは評価される。今後、薬剤の安全性やPKCシグナルを含むトランスポートソーム制御の分子機構を解析することで促進作用発現を明らかにすることで更なる研究の発展が期待できる。
スピロ環テンプレートを用いたタンパク質間相互作用阻害剤の開発研究東京工業大学飯島悠介計算化学による分子モデリングをもとにタンパク質間相互作用の阻害剤候補としてスピロ環テンプレートを設計した。このテンプレートに3種類の側鎖を導入した化合物を合成し1μM以下の阻害活性を有する化合物の開発を目指した。アミノ酸の側鎖を参考にテンプレートに3種類の側鎖を導入した化合物を約20種類合成した。NFkBに対する阻害活性試験を行った結果、3化合物に弱い活性が見られたが目標とした活性を有する化合物は得られなかった。今後は活性試験の対象を別のタンパク質間相互作用にすることで今回合成した化合物の可能性を調べていくとともに、弱い活性が見られた化合物の誘導体を合成し、活性の向上を目指す。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。独自のシステムでタンパク質間相互作用の阻害剤候補としてスピロ環テンプレートに3種の側鎖を導入した約20種の化合物の合成・評価を完遂したことは評価できるが、当初の計画目標とした活性を有する化合物は見出されていない。重点的に検討する側鎖がクローズアップされては来ているが、構造と阻害活性の相関性についての法則性が見出されるような新たな研究方法や手段を取り入れる必要性など、より信頼できる評価系樹立の検討が望まれる。
がんペプチド免疫療法のための合理的アジュバンド作製法の開発東京慈恵会医科大学伊藤正紀モデル抗原としてovalbumin(OVA)を用いMHC class IとMHC class IIエピトープ配列、蛋白質安定化配列などの機能的ペプチド配列が無作為に、多数繰返した人工蛋白質のライブラリーを構築した。この中から、OVAよりも、強い細胞性免疫を誘導できる人工蛋白質をin vitroで探索した。その結果、OVAよりも1000倍もの低濃度で、蛋白質のみで強い細胞性免疫を誘導できる蛋白質の作成に成功した。本研究により、アジュバンドを用いずに、低濃度の蛋白質のみで、細胞性免疫を誘導可能にすると言った革新的な腫瘍免疫療法を開発できる可能性が示された。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。Ovalbuminをモデル抗原としてクロスプレゼンテーションを誘導可能な人工タンパク質の創製され、概ね期待された成果が得られた。今後、臨床応用に向け、新たなる課題への対応と、具体的な技術移転への展開が望まれる。
乳癌の治療薬創出を目的とした、細胞選択的ビタミンD受容体モジュレーターの基礎検討東京農工大学稲田全規乳癌はエストロゲンに依存して増悪し、原発巣より高率に骨に転移する。さらに、骨粗鬆症で脆くなった骨に乳癌が転移した場合の骨転移癌の治療は難しい。本研究課題では、生体の骨を維持する活性型ビタミンD3(VD3)を新たに構造展開し、乳癌細胞に抗癌作用を示し、一方、骨を維持する作用を併せ持つ、新規の細胞選択的ビタミンD受容体モジュレーターの創成に向けた基礎検討を行った。その結果、新規に合成した候補因子化合物の数種はVDRE転写を介した生理活性を示した。さらに、乳癌細胞への作用を検討したところ、乳癌細胞の増殖を抑制した。本研究により、細胞選択的ビタミンD受容体モジュレーターの候補化合物を獲得し、乳癌の治療薬創出に向けた基盤確立を達成した。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。細胞選択的ビタミンD受容体モジュレーターの5種の候補化合物を得ている。それらは、リード化合物とほぼ同等かそれを上回るものが得られているが、in vivo実験での抗乳がん効果を検証し、更なる高活性を有する新規化合物の合成展開を期待したい。
TGF-β及びMMP9転写前阻害点眼剤の開発千葉県がんセンター永瀬浩喜眼科領域の感染や外傷、手術による線維化や炎症状態は後天的な視力障害という社会的問題を引き起こす。本研究は、DNA 認識化合物を用いた点眼剤治療法を開発し、病変部特異的にゲノム制御系を変化させ病因遺伝子の発現を調節することで炎症細胞などの増殖性、浸潤性等を抑制する治療法を開発し、この問題を解決する。既に TGF-βと MMP9 を標的とする化合物による点眼治療法の特許化、動物実験による効果を確認している。また、ヒトに対する TGF-βと MMP9 を標的とする化合物についても細胞レベルではあるが、標的遺伝子を抑制する化合物を合成し、確認できた。今後、化合物の GMP レベルでの大量合成法を開発し、新規合成法でリードコンパウンドを合成、化合物特許を取得し、その薬効や物性・毒性試験を行い、GMP・GLP グレードの前臨床試験、臨床試験に向けたステップを進める。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。合成TGF-βポリアミドのヒト角膜細胞株でTGF-β発現抑制とラットTGF-βに対する阻害剤が緑膿菌感染後の炎症モデルにおいて明確な効果が得られ、in vitroおよびin vivoでの試験で成果が得られ、企業との共同研究段階に進展したことは、技術目標の明確化が期待される。
嗅上皮型アデニル酸シクラーゼを治療標的にした抗肥満薬の開発横浜市立大学奥村敏人間の食物の味わいは臭いと味覚の混合物であり無嗅覚症は食欲の減退を引き起こし体重が減少する。嗅覚受容体は嗅神経細胞内のGタンパク(Golf)-アデニル酸シクラーゼ(AC)経路を活性化させる。嗅神経細胞のACの主要なサブタイプはType3 AC(AC3)であり、AC3欠損マウスは無嗅症になる。そこでAC3選択的抑制剤は、副作用の少ない末梢作用型抗肥満薬になると仮説を立てた。本研究から我々は4種類のAC3選択的抑制薬(Pサイト抑制剤)を既存の化合物から同定し、オスモティックミニポンプを用いてマウスに7日間投与(20mg/kg/day)したところ未投与群に比較してAC3選択的抑制剤投与群では体重増加が抑制された。以上の結果からAC3選択的抑制薬は抗肥満薬になる可能性が示唆された。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。嗅上皮型アデニルサンシクラーゼ(AC3) 特異的阻害剤のスクリーニングより選択された複数の被験物質についてin vivo試験にて抗肥満効果効果が検討され、概ね期待された成果が得られている。今後、抗肥満作用について、被験物質の投与期間、投与量などの実験条件の検討とともに、毒性試験などを検討必要がある。全く新しい機序による抗肥満薬の可能性があり、研究の進展が期待される。
インフルエンザRNAポリメラーゼによる新規抗ウイルス剤の開発研究横浜市立大学朴三用RNAポリメラーゼはインフルエンザウイルスの増殖に必要不可欠で基本的であり変異は少ないため、創薬ターゲットとして注目されて来た。本申請者は、創薬の基盤になるRNAポリメラーゼのPA/PB1とPB1/PB2サブユニット複合体の構造解明を世界初めて成功しており、そのPA/PB1構造情報に基づき、新規抗インフルエンザ剤を開発する事を目標とする。既に、本研究者は200万個の化合物から、In-silico手法により2個の化合物を得て、PA/PB1サブユニット間の結合阻害する事を確認する事に成功した。本研究では、これらの化合物を基にさらなる合理的な創薬を開発する事を目標とする。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。RNAポリメラーゼの構造情報から、結合して複合体を阻害する化合物を短期間に200万個から数個の候補化合物を絞り込み、化合物とタンパク質との複合体での微結晶を得たことは評価できる。今後、実際の化合物について、阻害活性評価の実施が望ましい。
凍結乾燥可能な多糖ナノ粒子による核酸医薬のデリバリーシステム慶應義塾大学佐藤智典遺伝子治療を目指した非ウイルス型の遺伝子デリバリーシステムにおいて、発現活性と保存安定性を高めることは実用化において重要な課題である。キトサンを用いたプラスミドDNAのデリバリーシステムの改良を目指して、ヒアルロン酸などの多糖を加えた、pDNA/キトサン/ヒアルロン酸3元複合体について検討した。このような3元複合体ではヒアルロン酸の分子量に依存した遺伝子発現活性が示された。さらに、凍結乾燥するとpDNA/キトサン複合体では、発現活性が殆ど消失するのに対して、3元複合体では、凍結乾燥保存した後でも、再溶解後に高い発現活性を保持できていることが示された。pDNA/キトサン/ヒアルロン酸3元複合体ではin vivoにおいても高い抗腫瘍効果を示し、凍結乾燥保存が可能になることで遺伝子治療の実用化への利点が示された。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。キトサンを用いたプラスミドDNAのデリバリーシステムを目指して研究が行われ、高分子量の多糖を組み合わせによりナノ粒子を作製し、その一部in vivoにおいて高い効果を示すことが確認され、また、凍結乾燥保存後にプラスミドDNAの断片化を従来品との比較検討された点は評価できる。既存品との比較にて進歩性を示し、客観的データを補完することで技術移転の可能性がある。
核内受容体共役因子を利用した、ステロイド剤と同程度に強力で副作用のない抗炎症剤の開発聖マリアンナ医科大学岡本一起目標:新しいタイプの核内受容体共役因子(MTI-II)をステロイド剤に代わる新たな抗炎症剤として開発することを目的に、実用化に向けた炎症モデル動物での有効性を単年度で確認した。具体的には、タンパク質細胞内導入配列を融合させた2種類のMTI-II抗炎症剤を作製し、炎症モデル動物に投与して、その抗炎症作用を確認した。達成度:MTI-II抗炎症剤は動物実験でステロイド剤と同程度強力な抗炎症剤として働くが、血糖値を上げないことを確認した。今後の展開:MTI-IIを抗炎症剤として事業化するためには、MTI-II抗炎症剤の大量発現系を確立することと、長期投与により副作用を持たないことを動物レベルで確認することが必要である。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。当初の眼核目標通り、動物モデルにてステロイド薬と同程度の抗炎症効果を示すことが明確にされた点は評価できる。有効性における作用機序と作用部位および全身の藷臓器・器官に対する安全性についてステロイドとの違いについて、さらなる解析が望まれる。
細胞培養系を用いた米由来成分のアルツハイマー型認知症予防効果の検証新潟大学阿部貴子研究責任者らはこれまでに、生化学的解析方法を駆使して、アルツハイマー型認知症(AD)予防・治療効果が期待できる成分が米に含まれることを見出していたが、同成分の詳細と細胞/生体内における効果は不明であった。本課題では、同成分の効果を培養ヒト由来神経系細胞において検証することを目指した。研究開発の結果、同成分が細胞において効果を発揮することを実証できた。更に、同成分の精製・単離を進め、新奇な作用機序により効果を発揮することを明らかにした。同成分は食経験の長い米由来であるため、長期間の摂取が可能な、安全性の高いAD予防食品素材への応用が期待できる。今後は、同成分の効果をモデル動物を用いて検証する計画である。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。米成分によるBACE1阻害効果が明らかとなり、細胞障害がないことが確認された。活性成分の特定には至らなかったが、その精製工程において、特異的分離法を工夫して成功させたことは評価できる。今後、成分の同定と共にin vivo試験での十分なデータの積み重ねが必要である。特許出願の後、公表化を行い、技術移転と研究の進展を期待したい。
がん遺伝子Ect2を標的にした新世代抗がん剤探索システムの開発長岡技術科学大学三木徹Ect2は正常細胞の核に局在するが、ある種のがん細胞では過剰発現しており、細胞質で極性制御因子Par6と複合体を形成し、がん化のシグナルを伝達する。そこでこの複合体の形成を遮断する薬剤の探索法の開発を試みた。まずEct2とPar6の結合を詳しく解析した結果、Par6のN-末端付近にあるPB1ドメインがEct2との結合に主に関与していることが明らかになった。PB1ドメインにいくつかの変異を導入して解析した結果、いくつかの保存されているアミノ酸がこの結合に重要な役割を果たすことが判明した。またEct2に結合する薬剤のスクリーニングをおこなった結果、複数の候補が得られた。現在これらの薬剤がEct2/Par6の結合を阻害するかを研究中である。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。がん化のシグナル伝達を抑制するため、当初のEct2とPar6の複合体結合の阻害化合物の探索を目標であった。Par6のPB1ドメインがEct2との結合に主に関与することを明らかにした。さらに、先にEct2に結合薬剤をスクリーニングを実施し、いくつかの化合物を見出した。これらの化合物について、Ect2/Par6の結合の阻害作用を検討中で、目標達成には至っていないが、技術移転の可能性が期待できる。
交流磁場により作用増強される抗がん剤の探索金沢大学柿川真紀子申請時には交流磁場曝露 (60 Hz, 50 mT) のみでは細胞毒性は無いこと、交流磁場を曝露することで抗がん性抗生物質マイトマイシンCとシスプラチンについては作用が約2倍となることがすでに明らかとなっていた。そこで本研究では、交流磁場曝露 (60 Hz, 50 mT) により作用増強される抗がん剤の探索として、新たに5種の抗がん性抗生物質(アクチノマイシンD、ダウノマイシン、ブレオマイシン、ミトキサントロン、ジノスタチン)の作用について検討した。その結果、抗がん剤の濃度換算における作用増強率(1.35~1.03倍)は各薬物で異なるが何れも交流磁場曝露により作用増強が認められた。ここで示す作用増強率は、横軸を抗がん剤の各濃度、縦軸を生存率として、非曝露群の値をプロット、結んだ線を検量線とし、磁場曝露群の生存率の値より抗がん剤の濃度が磁場により何倍上昇したかを示す。作用増強率(抗がん剤濃度)が1.03倍となったジノスタチンの場合でも、ジノスタチンのみ(非曝露群)に比べ、ジノスタチン+交流磁場群の生細胞数は50%減となり、この差は統計処理にても有意差が認めら作用増強は確認できた。 さらに、抗がん剤の細胞膜透過率の測定結果から、磁場曝露群の培養液中に残る抗がん剤量は非曝露群より少なく、ちょうど生存率との相関が見られたことや、各抗ガン剤の作用増強率と作用機序、分子構造から、交流磁場の影響は、抗がん剤の作用機序というよりは抗がん剤の細胞膜透過率に影響を与え、分子量の大きいものは作用増強率が低くなることが示唆された。以上の結果より、交流磁場曝露により作用を抑制された抗がん剤はなく、これまで検討した7種の抗がん剤で全て作用増強されることが明らかとなった。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。交流磁場により5種類の抗がん剤の増強効果が確認された。抗がん剤の使用量低減(副作用の低減)化が期待できる。交流磁場による増強効果に作用メカニズムの解明と共に、in vivoでの効果の実証が望まれる。
解離性大動脈瘤の病態解明および治療法開発に貢献する新規なマウスモデルの開発金沢大学吉岡和晃解離性大動脈瘤は、主として加齢に伴う動脈硬化を基盤に発症する難病であり、病態解明、治療法の確立が望まれている。申請者は、血管内皮の障壁機能維持に必須な分子である脂質リン酸化酵素PI3キナーゼ・クラスIiα(C2α)遺伝子ノックアウト(KO)マウスが、解離性大動脈瘤の病態解明及び治療法開発のモデルマウスとして有用であるか否かを検討した。その結果、アンジオテンシンII(AngII)を浸透圧ポンプにより2週間全身連続投与することにより、48%という高頻度で解離性大動脈瘤を発症する実験プロトコールを確立した。更に、C2αヘテロKOマウスはAngII投与により顕著な血管透過性亢進を引き金とする炎症性マクロファージの大動脈壁への浸潤及び血管炎亢進が、病態発症の機序であることが明らかとなった。これらの結果は、ヒト疾患との類似性があり、「解離性大動脈瘤」の動物疾患モデルとして非常に有用である。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。血管の脆弱性あるいは解離性大動脈瘤の病態解明につながるIP3キナーゼ・クラスⅡa(C2a)遺伝子ノックアウト(KO)マウスを作製し、アンジオテンシンⅡの連続投与にて高頻度に発症する動物モデルを確立させた。今後、病態発症のメカニズムの解明とともに、ヒトへの応用を外挿した研究展開に期待したい。
GSK3β阻害薬剤のがん抑制効果の検証と神経膠芽腫治療の臨床研究金沢大学源利成glycogen synthase kinase (GSK) 3(に対する新規合成阻害剤やGSK3(阻害効果が判明した医薬品についてがん抑制効果を多角的に試験する。これにより、GSK3(阻害効果に基づくがん治療法、とくに膵がんや神経膠芽腫など難治性がんの治療法開発の実験的根拠を明確にして、本治療法の臨床応用を見極めることを目標とする。実験的にはGSK3(阻害医薬品のがん細胞浸潤抑制効果を見出した。再発膠芽腫治療の第I・II相臨床研究によりGSK3(阻害医薬品の安全性と治療効果を証明した。今後は、膠芽腫の多施設第II相臨床研究と膵がんの第I・II相臨床研究の推進により本治療法の効果を明確にするとともに、新規阻害剤開発のためのハイスループット化合物スクリーニング技術を確立し、GSK3(阻害よる新しいがん治療法と治療薬の開発に繋げる。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。新規合成化合物や市販の医薬品についてGSK3β阻害活性およびin vitroでの抗腫瘍効果が確認された。進行・再発性膵癌に対する抗がん剤とGSK3β阻害市販医薬品の併用による臨床研究が開始した点は評価できる。実用化のためには、製薬企業の参画が必須であるが、今後の研究展開が期待される。
新規フェナントレン誘導体による抗がん作用の動物実験による検証金沢大学向田直史Pim-3キナーゼが種々のがんにおいて発現が亢進し、がん細胞の増殖の亢進と細胞死の抑制を通して、がん化に関与している。Pim-3キナーゼ活性抑制を指標に、抗がん剤開発を目的に化合物スクリーニングを行い、Pim-3キナーゼ活性を抑制し、試験管内のがん細胞株増殖を抑制する化合物として置換フェナントレン誘導体を発明した。本課題では、この化合物の抗がん剤としての有用性を検証するために、ヒト膵臓がん細胞株を接種したマウスに投与した。その結果、軽度の白血球減少症を引き起こしたが、腫瘍増殖を効率的に抑制することを認めたことから、現在の化合物は抗がん剤開発のためのリード化合物として適していることが判明した。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。ヌードマウスを用いたin vivo試験では、ヒト膵癌細胞の増殖を1/10まで抑制した化合物を見出している。また、比較的、低毒性であると報告されている。特許出願対応もされている。
医薬品の迅速合成を可能とする刺激応答性ポリマー縮合剤の開発金沢大学国嶋崇隆アミドやエステルを構築する脱水縮合反応はその一般性・汎用性の点でニーズの高い反応の一つであるが、自動合成に用いるための固定化反応剤の開発・実用化が困難である。一般に固定化反応剤は分離精製が容易であるという利点に対し、不均一系のため、反応速度や収率が低下するという欠点を持っている。申請者らは有力な反応剤として、縮合剤自体をモノマーとして重合した不溶性ポリマー縮合剤の開発に既に成功しているが、この問題点については未解決であった。そこで、本研究課題では、物理的、化学的環境変化を刺激として、反応性や溶解性が変化する重合体の開発を行った。その結果、溶媒に依存して不溶/可溶をスイッチできる固定化反応剤の合成に成功した。期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。計画自体、これまでの問題に対する解決目標が明確であり、設定した研究目標はほぼ達成されており、製品開発化に向けた検討が急がれる。他のアプローチに関しても興味深いものであり、次世代のポリマー担持縮合剤に向けた研究展開を期待したい。
食品由来AGEの健康評価系の開発金沢大学山本博老化タンパクとしても知られている最終糖化産物(advanced glycation endproducts、AGE)は、細胞表面に存在するAGE受容体(receptor for AGE、RAGE)との相互作用により細胞障害的に作用する。食品に含まれるAGEは色、香りといった食品の風味を構成する重要な要素であるが、生物学的活性については未だ不明な点が多い。申請者は予備実験で、2種類の食品AGE由来の低分子画分がRAGE細胞内シグナル伝達を遮断し、細胞保護的に働くことを見出した。本研究では、食品AGEの分子~個体レベルでの生物活性評価手法を確立しつつ、さらにRAGEアンタゴニストとしての活性をもつ食品中のAGEを原型として健康食品ひいては糖尿病合併症治療薬の開発を試みる。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。食品由来AGEを健康評価に応用する点が独創的であり、手法もユニークである。コーヒーおよびワインなどよく飲用されている食品を用いたAGE評価系がある程度構築されたことは評価できる。また、それらのなかにRAGEリガンドの活性を抑制する食品が見出されたという結果は非常に興味深い。今後、本研究で確立された評価系を他の食品に適用すると共に、in vivo試験での検証も必要と思われる。さらに、食品を対象としてデータベースを構築することが望まれる。
PET診断と放射線内照射治療のカップリングを可能とする転移性骨腫瘍用薬剤の開発研究金沢大学小川数馬実際の治療薬剤の開発には至らなかったが、治療薬剤の前駆体となる配位子の合成、PET核種であるGa-68の代替核種としてGa-67を用いた転移性骨腫瘍イメージング薬剤の開発に成功し、その有用性を評価した結果、本薬剤は、濃度依存的にハイドロキシアパタイトへの高い結合親和性を示し、ノーマルマウスにおける体内放射能分布実験の結果、非標的組織にはほとんど放射能が観察されず、骨に特異的な放射能集積を示した。従って、本薬剤の有用性が示され、このリガンドを用いた治療薬剤にも大きな期待が持たれる。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。治療薬剤の前駆体となる配位子の合成、特にPET核種であるGa-68の代謝核種としてGa-67を用いたイメージングで、骨に特異的に集積を示したことは大きな期待となる。今後、腫瘍への取り込みや、骨転移への評価など、基本的なデータの積み重ねが必要である。
従来の問題点を克服した骨がん治療白金抗がん剤の開発金沢大学小谷明我々の開発した白金およびパラジウム抗がん候補薬について、プレクリニカル段階の最後の詰めであるin vivo アッセイ2種、(1) 腫瘍体積を小さくする、(2) 骨がんの痛みを緩和する、を行った。結果、(1)については、マウス前立腺がん比腫瘍体積をシスプラチンと同程度もしくはさらに減少させた。ラット骨がんについては、白金化合物投与により転移性骨がん比腫瘍体積を減少させると同時に、(2)骨がんの疼痛緩和効果を示した。この疼痛緩和効果は同用量のシスプラチンでは認められず、 本開発白金化合物の優位性を示した。これらのポジティブな研究結果は、特許出願に盛り込まれることになり、研究の実用化への発展性が期待される。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。研究目標である新規の白金化合物に抗腫瘍効果と骨がんでの疼痛を軽減することをin vivoマウスモデルを用いて明らかにした点は評価できる。動物モデルの安定化を図り、再度、被験物質の用量依存について再評価し、有用性が認められれば、大いに有望である。さらに、安全性試験なども実施し、技術移転に向けてデータ補完されることを期待する。
アミド型新薬創出を目的とする高効率的な触媒的不斉多成分反応の開発金沢大学添田貴宏本研究は、抗結核作用、抗マラリア作用など、多岐にわたる生物活性を示すアミド誘導体を、簡便かつ高効率的に合成する方法論を開発する。すなわち、これまで世界で類を見ない、イソシアニド化合物の付加反応を鍵とする新規な多成分反応の開拓並びにその不斉反応系への展開を基軸として、高度な反応集積化の実現を目指す。また、本手法によって得られる光学活性アミド誘導体を用いて、実際に種々の生物活性を有する光学活性化合物への変換や生物活性の評価を行い、創薬化学へ貢献する。 本研究では、ニトロンなどのC=N結合へのイソシアニドの付加反応を検討し、得られた知見を基に触媒的不斉反応へ発展させ、これまで構築が困難であったアミド化合物の新規合成法の開拓を試みる。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。高効率的な多置換テトラヒドロイソキノリンの合成を実施した。O-silylative Passerini反応でのジフェニルボリン酸がイソニアジドのα-付加反応に対する有効な触媒となることを見出した。研究期間内に十分な成果を達成している。既存技術との比較にて優位性、実用化に向けての技術の改善、及び医薬品開発において具体的な提案されることが望ましい。
NFATc1を標的とした新しい作用機序の骨吸収抑制薬の開発松本歯科大学山下照仁アルクチゲニンのリード化合物としての有用性を疾患動物モデルで検証した。卵巣摘除を行なった骨粗鬆症モデルマウスにアルクチゲニンを4週間腹腔投与した。マイクロCTを用いた骨量の測定、および組織標本のTRAP染色による破骨細胞の同定を行い、骨吸収に関する解析を行なった。卵巣摘除4週目のコントロール群(無処理)の骨量は減少した。一方、アルクチゲニン投与群は、卵巣摘除後の骨吸収を有意に抑制しなかった。また、破骨細胞数の抑制も観察されなかった。In vitroで観察された強力な破骨細胞分化の抑制と骨吸収機能の抑制は、少なくとも骨粗鬆症モデルマウスでは認められなかった。今後、皮下における継続的投与を試みて、更なる薬理効果を検討したい。当初目標とした成果が得られていないように見受けられる。今後、技術移転へつなげるには、今回得られた成果を基にして研究開発内容を再検討することが必要である。新しい骨吸収抑制のメカニズムに着目した点については、興味深いが、コラーゲン関節炎モデルの安定化、アルクチゲニンの投与方法および体内動態、特に骨組織への移行性、更にはin vivoにて有効な類似化合物の探索などの検討が必要である。
骨破壊を阻止するRor2由来機能ペプチドの同定松本歯科大学小林泰浩技術内容:骨吸収を防ぐオリゴペプチド阻害剤を作製、探索し、骨吸収阻害効果を検証する。目的:過剰な骨吸収により骨量が減少する骨粗鬆症は、高齢者の生活の質を低下させる原因の1つである。我々は、Ror2のWnt5a結合領域由来ペプチド混合物が、破骨細胞分化を阻害することを明らかにしている。そこで、このペプチド混合物より破骨細胞分化を阻害するペプチドを同定し、骨吸収を抑制する新規阻害剤を作製するための知見を得る。実施内容:Wnt5aとRor2の結合を阻害するRor2由来のオリゴペプチド(20アミノ酸以下)を作製し、Ror2による破骨細胞分化シグナルを阻害するペプチドを同定する。破骨細胞前駆細胞である骨髄由来マクロファージと骨芽細胞を活性型ビタミンD3存在下で共存培養し、破骨細胞を形成した。Ror2のWnt5a結合領域のアミノ末端側由来の合成ペプチド混合物は、6μMの濃度で著明に破骨細胞形成を抑制した。これらのペプチドの中にWnt5aとRor2の結合を阻害できるペプチドが含まれる可能性を示唆している。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。破骨細胞分化シグナルを阻害するオリゴペプチドを合成し、同定した。Ror2のWit5a結合領域由来合成ペプチド31種類のうち、アミノ末端より2/3に含まれるペプチドに著しい破骨細胞分化抑制作用が検出された。今後、新規に開発したレポーターシステムをWit5a活性阻害活性試験および個々のペプチドに関する評価系を確立・実施が望まれる。
Aβレセプターを標的とするアルツハイマー病治療薬シーズの開発岐阜大学桑田一夫アルツハイマー病の脳ではAβの蓄積が見られるが、Aβオリゴマーやアミロイドを薬剤により融解しても、症状の改善が見られないことが、数多くの治験(第三相)において証明されている。一方、Aβの異常凝集体は、細胞表面のプリオンタンパク質と相互作用し、その立体構造変化を誘起することが知られている。我々は、プリオンタンパク質に結合しその立体構造を安定化させる働きを持つ医薬シャペロンを、アルツハイマー病モデルマウスに投与し、その抗アルツハイマー病効果を調べた。その結果、我々が開発した医薬シャペロンであるP092が有意にアルツハイマー病モデルマウスの認知機能や記憶力を改善させることが判明した。このことは、プリオンタンパク質がアルツハイマー病治療薬の新たな標的となりうることを示している。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。医薬シャペロンであるP092が有意にアルツハイマー病モデルマウスの認知機能や記憶力を改善することを実証し、プリオンタンパク質がアルツハイマー病治療薬の新たな標的となることを示した。In silicoで得られた低分子候補化合物数や、モデルマウスへの適用がP098のみであったのか、P098の凝集抑制反応の結果が明記されていない。今後、抗プリオン化合物の凝集反応試験方法を見直し、評価の実施が必要である。
旋毛虫分泌蛋白質の免疫抑制機構の解析とその医薬品への応用岐阜大学長野功旋毛虫は宿主の生体防御機構に拮抗する種々の生理活性物質を分泌して、その生存を可能にしている。本研究は免疫機能に影響を与えると推測される旋毛虫が分泌する分子量53kDaの蛋白質について、その免疫抑制機構を明らかにすることを目的とした。結果:53kDa蛋白質は宿主のTh1細胞を活性化させてTh2反応を抑制する活性を有していた。構造的には既知のドメインや類似配列はないが、何らかの高次構造をとっている可能性が示唆された。また、その立体構造の解析のために、組換え蛋白質の発現・精製・可溶化法について検討した結果、大腸菌のSHuffle express株を蛋白質発現に用いた場合に大腸菌体の可溶性画分に強く発現が見られることが明らかとなり、立体構造解析ができる量、質の組換え蛋白質の作成が可能となった。今後の展開:当蛋白質のTh2反応の抑制機序について詳細に検討するとともに、蛋白質のX線結晶構造解析を行う予定である。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。旋毛虫が分泌する53kDaのタンパク質について、免疫抑制機構に関する研究を実施し、宿主Th1細胞を活性化させることで、Th2反応を抑制させる作用を有することを明らかにした。今後、53kDaタンパク質の結晶解析、免疫機能解析の解明、免疫活性領域の同定と生物活性の評価が必要である。
創薬を目的とした有用天然物の生合成遺伝子発現による環境低負荷型分子創製静岡県立大学渡辺賢二本研究課題で取り上げる化合物は抗がん剤として期待されるサフラマイシンおよびその誘導体である。サフラマイシンは放線菌由来の代謝産物である。既に我々は、生産菌であるStreptomyces lavendulaeからサフラマイシン生合成遺伝子群の取得を試み、全長を得ることに成功している。得られた遺伝子を発現させることによって生物機能を活用した低炭素社会型の創薬を可能にする。 本研究によってサフラマイシン全生合成遺伝子を発現ベクターへ導入することに成功した。さらに、全ての遺伝子が目的の酵素へ翻訳されていることを確認した。従って遺伝子レベルにおいては、合成システムの再構築に成功したと言える。 今後、これらの生合成遺伝子を含む発現ベクターを全て酵母へ導入し、大量合成系の確立を目的としてin vivoでの物質生産を行う。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。抗がん剤として期待されるサフラマイシンの全生合成遺伝子を発現ベクターを酵母へ導入することに成功し、その翻訳までが確認され、当初の計画目標を達成した。今後、酵母あるいは大腸菌宿主発現系を活用した大量合成系の確立することが予定されてるが、宿主の利点・欠点を見極め、実用化に向け適切な宿主を選択すべきである。
新規インスリン抵抗性改善剤の開発研究中部大学山下均新規インスリン抵抗性改善剤としてのエボジアミンの有用性について、糖尿病モデルマウスを用いて検討を行い、エボジアミンによる耐糖能の改善とインスリン抵抗性の軽減を示唆する成績を得た。既存薬では肥満が助長されるのに対して、エボジアミンは体重増加を招くことなく、インスリン抵抗性を改善する作用を有することから、2型糖尿病におけるインスリン抵抗性の改善剤としての有用性評価の目標はある程度達成されたと考える。一方、動脈硬化モデルマウスのインスリン抵抗性に対するエボジアミンの効果については検討できなかった。今後は、動脈硬化モデルマウスに対する効果の確認を含めて、エボジアミンによるインスリン抵抗性改善の詳細なメカニズムの解明を進め、新規薬剤としての有用性を明らかにしていく。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。KK-Ay糖尿病マウスを用いて、エボジアミンの有用性を検討し、体重増加なしに耐糖能とインスリン抵抗性の改善することが確認された。今後、作用機序を明らかにするとともに動脈硬化に対する効果を検討されることを期待する。
ヒト類似皮膚をもつ新規モデルマウスの樹立中部大学飯田真智子独自に開発した新規モデルマウスをヒトに応用可能な美白剤開発モデルマウスとして技術移転するために、紫外線に対する応答性について、ヒトとの類似性を調べた。ヒトにおいてすでに報告のある、紫外線照射後の種々の生体反応に着目し研究を行った。いずれの指標についても、ヒトの紫外線応答に類似した反応を得る事ができた。今後は、本試験により明らかになったヒトとの類似性を指標に、植物抽出物あるいは化合物のライブラリーから科学的根拠のある美白剤の選別の段階に進む。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。日焼けマウスモデルが作製されたこと、およびそのモデルにてメラニン沈着およびヒトの日焼けに伴って検出される分子変化がすべて定量的に評価系を確立したことは評価に値する。ヒトとの類似性をより明らかにするために、異なる分子マーカーにて再検討されることを望む。このモデルマウス作製の基礎なっている遺伝子発現について、日焼け条件下における変化を見極める必要がある。
ヒト血清中で安定なRNAモチーフの解明豊橋技術科学大学梅影創我々が設計したあるリボザイム配列は、偶然にもヒト血清中で分解されずに安定に存在可能であることを見出した。この発見は、RNAはヒト血清中で安定に(分解されずに)存在できないとするこれまでの知見を覆す新規の発見である。本研究では、このリボザイム配列の血清中での安定化を産み出す原因の解明を、生化学的な実験によって明らかにすることを目的とした。リボザイム配列への変異導入、及び、短縮実験によって、このリボザイム配列は、複数分子で特殊な構造を形成することでヌクレアーゼによる分解から免れることが示唆された。今後、このRNAの立体構造を解析し、人工核酸を必要としないドラッグデリバリー可能なRNA医薬品の設計方法としての実用化を目指したい。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。リボザイム塩基の複数分子で特殊な構造体を形成することでヌクレアーゼ耐性能が獲得されることを明らかにし、特許出願が可能になったことは評価に値する。
ウイルスの転写活性化因子Tatを標的とする新規抗HIV薬の開発名古屋市立大学岡本尚AIDSウイルスの複製の律速段階であるHIVプロウイルスDNAからの転写の主要活性化因子であるTatは、ウイルスmRNAの5’端のTARと宿主転写因子Cyclin T1と三分子複合体を形成する。我々はこの複合体構造を標的とする新規抗HIV薬の開発を試みた。まず、上記複合体は部分的にしか分子結晶が得られていないために、分子ドッキングなど計算化学の手法を適用してモデルを構築し、実際の実験でその妥当性を確認した。得られた複合体モデルの接触面に構造的に合致する小分子化合物を構造既知の化合物ライブラリーより複数同定した。その中の少数の化合物が実際にTatによるHIV転写活性化を阻害し、ほぼ同程度の濃度でHIV複製を細胞傷害性の現れない濃度で効率よく抑制した。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。HIVについて、Tat-TAR-Cyclin T1複合体の分子ドッキングに成功し、その妥当性が確認され、複合体モデル構造に合致する化合物が同定された。さらに、その化合物によってTatによるHIV転写活性を阻害することを明らかにしたことは評価に値する。今後、化合物の最適化をはじめ、in vivo系での抗HIV作用とそのメカニズム解明に期待する。
ミトコンドリア特異的光制御型NO発生試薬セットの開発名古屋市立大学中川秀彦ミトコンドリア特異的光制御型NOドナー試薬の実用化のため、(1)開発化合物が培養細胞系で光制御NOドナーとして機能する標準条件を決定すること、(2)本化合物からのNO放出による生物学的応答を示すこと、を目標として研究を行った。制御光(300-350nm)を1mW/cm2(320nm)で10分間照射する標準条件を決定し、化合物の光制御によりNO依存性細胞死誘導を引き起こすことをデモンストレーションし、当初設定した目標を達成した。今後、化合物とその使用条件を含むプロトコルを明確に示すことで、ミトコンドリア特異的に任意のタイミングでNO投与することが可能な試薬セットへと展開することが期待できる。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。大腸ガン由来細胞株HCT116細胞を用いた試験において、期待通りの成果が得られている。HEK293細胞では、化合物の細胞毒性が比較的高いことから、新たな化合物の開発が望まれる。また、種々の化合物、あるいはタイプの異なる細胞に応用可能なシステムの構築が必要である。
配糖化による機能性食品素材の消化管吸収の改善名古屋市立大学牧野利明難水溶性の機能性成分を配糖化することにより水溶化し、消化管吸収を改善することを目標とした研究開発を行った。ケルセチンについては、これまで消化管吸収改善に成功した3位の水酸基への配糖化に加えて、その他の複数の水酸基へ同時に配糖化して水溶性を高めることに成功し、特にそのうちの一つは新規化合物であった。また、クルクミンについては、配糖化することにより水溶性を高めることに成功したが、クルクミン自体の不安定さのために消化管吸収を改善することは出来なかった。今後の展開として、新規ケルセチン配糖体の消化管吸収の評価と、クルクミンを摂取した際の安定代謝物に対する配糖化する試みを行う予定である。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。ケルセチンについては、配糖化によって水溶性の向上され、新規化合物をが見出されたことは評価に値する。今後、生体での機能性に関する実証実験が必要である。クルクミンについては配糖化により物性の不安定化の問題が明らかになり、今後、更なる検討が望まれる。
Hsp90の機能調節によるポリグルタミン病の治療法の開発名古屋大学足立弘明最も古典的なHsp90阻害剤であるgeldanamycinには強い肝腎毒性があるが、17-AAGや17-DMAGは生体内での毒性が問題とならない投与量で十分な薬理効果を発揮する。このような分子シャペロンやユビキチン・プロテアソームシステムを活性化する方法は、近年変異蛋白質の発現を原因とする多くの神経変性疾患で検討されており、本研究で治療効果が証明されれば、ポリグルタミン病の枠を超えて、臨床医学に寄与することができる。特に薬剤を用いて変異蛋白質の蓄積を抑制し、神経機能障害や神経細胞死に有効な治療法の開発は、臨床応用へ結びつけられる可能性が高い。そこで、17-AAGと17-DMAGを用いたポリグルタミン病の新規治療を開発する。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。SCA1培養細胞系において当該被験物質がataxin-1タンパク質の減少効果をもたらし、特にリピート数が伸長している効果が強くなることを見出したことは評価できるが、今後、in vivoモデルでのデータの積み重ねが必要であり、また、今回の2剤の被験物質以外についても検討が望まれる。
機能性食品の創生を目指した、コーヒーに含まれる未知の糖尿病抑制物質の同定名古屋大学堀尾文彦コーヒー中の未知の抗糖尿病物質を同定する目的で、カフェインレスコーヒーを出発材料として、数画分に分離し、それぞれの画分を2型糖尿病モデルであるKK-Ayマウスに飲水に混合して与えて、抗糖尿病活性を調べた。そして、有効な画分に含まれる主要な成分を標的化合物の候補と考えて、それらの化合物をKK-Ayマウスに与えて抗糖尿病活性を検討した。その結果、2種類の抗糖尿病活性のある成分を見出すことができた。よって、本研究の当初の目標を達成することができた。今後、この2種の化合物の作用機構を解明することが必要である。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。コーヒーに含まれる成分から、これまでに作用が知られていなかった2型糖尿病抑制物質を見出したことは評価に値する。今後、血糖値の抑制およびインスリン分泌抑制機能の作用機序解明に期待する。
自己免疫疾患の新たな治療薬ターゲットの探索名古屋大学鈴木治彦研究責任者自らが同定したCD8+CD122+制御性T細胞について、その認識する抗原(ペプチド)の探索を行った。分子生物学的手法を駆使した抗原候補分子のスクリーニングを開始する前に、何段階にも及ぶスクリーニングの手法について吟味・検討を加え、この方法ならば間違いなく抗原を同定できるという形のスクリーニング方法を開発した。この方法は、第一次スクリーニングで100個のcDNAクローンを1プールとして100プール、総計1万のクローンをスクリーニングし、第二次スクリーニングでは一次スクリーニング陽性であったプールについて10クローンを1プールとして目標クローンを絞り込み、第三次スクリーニングでクローンごとのアッセイを行って目的のクローンを同定するものである。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。CD8CD122制御性T細胞の認識する抗原(ペプチド)を同定することを当初の目標であったが、目標達成には至らなかったが、今後の技術改良に向けた価値ある情報が得られている。cDNAを用いて、早期に当初の計画目標の達成を期待する。また、抗原分子の絞込みに関する情報(活性化T細胞に機能、表面分子および活性化段階での抗原分子産生との関連性など)を積極的に得られることを期待する。
製薬産業での実用化を目指した超低温ナノ粉砕技術の開発名城大学丹羽敏幸これまでの研究結果より、薬物微細粒子(ナノ粒子)を設計するという側面から液体窒素中での超低温媒体粉砕がジェット粉砕や乾式ボール粉砕を凌ぐ革新的な粉砕技術としての可能性を有していることを示した。今回、粉砕するほど凝集性が強くなってしまう問題点を水溶性添加剤と共粉砕することにより解決した。水相に投入した粉砕品は、添加剤の吸水・溶解機能により速やかに分散(一部ナノ分散)し、薬物溶出性が大きく改善できることを示した。また薬物の結晶性の低下(非晶質化)は、対照の遊星ボール粉砕と比べて少なく、熱力学的にも緩和な粉砕法であることを明らかにした。なお粉砕品の二次製剤化処理については現在も進行中であり、高速剪断混合によるコンポジット化を今後更に検討していく。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。粉砕による凝集傾向を水溶性添加剤の使用によってある程度抑制し、水相での分散性向上に伴って薬物溶出性が改善できることを明らかにした。研究成果により特許出願され、すでに企業との共同研究が開始されている。今後、企業と共に、スケールアップの検討と課題の解決を図り、実用化されることを期待したい。
粘膜免疫誘導能を有する多機能性ウイルスベクター産生系の開発三重大学河野光雄本研究の最大の目標である研究室スペックhPIV2ベクターからM遺伝子をすべて除去した医薬品スペック非増殖型hPIV2ベクター(hPIV2ΔM)への改変に成功した。このhPIV2ΔMベクターにEGFP遺伝子を搭載した遺伝子組換えウイルスベクターを作製し、in vitroならびにin vivoでの発現を確認した。しかしながら、コドンを最適化した抗原遺伝子を搭載したhPIV2ΔMベクターおよび高タイターのウイルス産生能をもつパッケージング細胞は期間内に得られなかった。一方、最適化をしていない抗原を搭載したhPIV2ΔMベクターは作製できた。このベクターのマウス経鼻投与により抗原に対する高い抗体価が認められた。今後も細胞株のスクリーニングを続け実用化に向けたベクター産生向上をめざす。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。ワクチン抗原遺伝子を搭載したベクターを作製し、マウスへの経鼻投与にてその抗原抗体価を認めるなど、着実な研究の進展がみられた。不活化ワクチンよりも優れているという理論根拠が得られることが望ましい。今後、技術移転の可能性の上では、高効率でベクターを産生できる細胞株を得る必要がある。
パラインフルエンザウイルスV蛋白のSTAT3分解活性を利用した新たな抗癌剤の開発三重大学西尾真智子ムンプスウイルスのV蛋白を細胞に発現させると、確かにSTAT1とSTAT3蛋白は分解した。STAT3蛋白のみを特異的に分解するような改変V蛋白の作製を試み、20種類の改変V蛋白を解析した。しかし、STAT1とSTAT3両蛋白が分解できなくなるか、STAT1蛋白のみを分解するV蛋白しか得る事が出来なかった。当初の計画にはなかったが、STAT1もしくはSTAT3蛋白の分解を迅速に定量的に検討するためのルシフェラーゼアッセイ系を構築する事に成功した。これにより、今後、STAT3蛋白を特異的に分解する改変V蛋白の検索が迅速に行なえるようになった。近い将来に、STAT3を特異的に分解するV蛋白に改変できる事が期待できる。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。着眼点と実験方法は優れており、本研究自体は着実に進展すると思われる。技術移転よりも、十分な基礎的研究を実施する必要がある。その先の実用化に向けては生体への投与方法、免疫系への影響などの課題もあり、それらを視野に入れた研究を進めることが望まれる。
養殖場におけるマスの孵化を目的とした環境調和型新規魚卵消毒剤の開発立命館大学今村信孝淡水養殖場で問題となる魚卵へのミズカビ感染防止を目的に、選択的抗ミズカビ物質オリダマイシンの開発を目指して検討を行った。魚卵での感染予防実験を行い、モロコ卵を用いて感染予防効果があることが認められた。特にミズカビ菌糸の成長を強く阻害し、その効果は長年用いられたマラカイトグリーンよりも強力かつ持続的であった。オリダマイシン生産量向上のため、変異株の取得を検討し3、4倍の力価上昇が認められた。また、高生産培養に不可欠な合成培地の作成が可能なことが分かった。魚卵を用いて効果が認められたこと、高生産培養展開への下地ができたことから、ほぼ、目標に達成できたものと考えられる。今後、他剤との組み合わせなども視野に入れて、実用化を図りたい。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。魚卵に対するミズカビ増殖低減効果に新規抗生物質オリダマイシンが有効であることが確認された。当初の計画にあったマスの受精卵での有効性の確認が必要である。実用化にはコスト面をクリアすることが重要である。また、養殖現場での条件にて実証する必要がある。
新規PPARγアゴニストの抗ガン剤としての有用性検証京都大学永尾雅哉申請者はPPARγアンタゴニストGW6662と共存させると、PPARγアゴニスト様活性を発揮して肝星細胞株で脂肪蓄積を促進する化合物(変換化合物)を発見した。一方、PPARγアゴニスト、アンタゴニストのあるものは抗腫瘍性があることが知られていた。そこで、今回発見した化合物をPPARγアンタゴニスト、アゴニスト共存下でのガン細胞株に対する抗腫瘍性について検討することにした。ところが、肝癌細胞株HepG2ではPPARγアゴニストのtroglitazoneは5-100 μMの範囲で用量依存的な抗腫瘍性を示さず、また3種のPPARγアンタゴニストのうち、用量依存的な抗腫瘍性を示すものと示さないものが存在し、GW9662の抗腫瘍性が変換化合物では影響を受けないことを確認した。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。PPARγアンタゴニスト、アゴニスト共存化でがん細胞株での抗腫瘍効果を期待して、PPARγアゴニスト様作用を示す新規化合物を評価したが、当初の目的は達成されなかった。アッセイ方法を再考すると共に、用途に関わる部分に対しても抗腫瘍ではなく、脂質・糖の代謝系に対する検討を先行すべきと思われる。
市販の光学顕微鏡に搭載可能な高圧力チャンバーの開発京都大学西山雅祥タンパク質は、周囲を取り巻く水分子との相互作用することで、高次構造を形成し、酵素活性をはじめとする生物らしい機能を発現させている。本研究課題では、タンパク質と水との相互作用を高圧力技術で変調し、その構造変化がもたらすタンパク質間相互作用やタンパク質と薬剤との結合力などを高感度で検出できる新しい分析技術の開発に取り組んだ。高圧力下で引き起こされる構造変化や結合力の変化を簡便に、かつ、高感度で検出できるように、市販の光学顕微鏡に搭載できる高圧力チャンバーを開発した。耐圧性能重視型、および、開口数を拡げた感度重視型のチャンバーを開発し、それぞれ、光学顕微鏡と組み合わせることで、高圧力下での顕微観察を行えることを実証できた。期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。光学顕微鏡用高圧チャンバーの試作に成功し、実用化の目処をつけた。知的財産権を得る対応を早急に図るべきである。今後、高圧力関連の機器の製造企業との共同研究で、実用化に向けた展開を進めるべきである。
抗ガン剤ターゲットとしてのmRNA成熟過程を阻害する化合物の評価系京都大学増田誠司高齢化社会を迎えた我が国では、効果的かつ効率的な新規医薬品の開発が急務となっています。その中でもmRNAの成熟過程を阻害する化合物は、これまでにないタイプの抗ガン剤としての利用が期待されています。本研究ではmRNAのスプライシング過程を阻害する化合物を評価するアッセイ系を構築することを目的としました。mRNAのスプライシング過程を阻害する標準化合物としてスプライソスタチンを使用し、評価系を構築しました。その結果、評価系はmRNA成熟阻害活性を持つ因子の探索に有望であることを示し、自然界よりmRNAの成熟過程を阻害する化合物の探索基盤を提供することに成功しました。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。mRNAの成熟過程を阻害するという新しいタイプの化合物をスクリーニングするアッセイ系を確立したことは評価に価する。当初の目標である微生物・植物の抽出液について検討すべきである。また、アッセイ系については、大量処理の開発が望まれるところである。
NCAM由来ペプチド製剤による心不全治療法の確立京都大学尾野亘NCAMの結合をになう部位の合成ペプチド(GRILARGEINFK)がラット初代培養心筋細胞において、NCAMのシグナルを増強させ、保護的に働くことが明らかとなった。Aktドミナントネガティブ体の過剰発現系を作成し、この効果がAktのシグナルを介するものであることを確認した。動物モデル(マウス心筋梗塞による心不全モデル)への投与効果の検討をおこなっている 。循環器内科の外来および入院患者においてsNCAMの測定を行い、心不全のバイオマーカーとして使えるかどうかについて、症例数を増加させて検討している。またヒトの拡張型心筋症症例において生検サンプルについてNCAMの染色を行い、病態との関連について検討中である。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。NCAMの結合を担う部分の合成ペプチドがラット初代培養心筋細胞において、NCAMシグナル伝達を増強することで、保護作用を示すことを明らかにした点は評価できる。今後、さらにNCAM増加と心疾患との関連を究明するとともにin vivoでの検証されることを期待する。
中枢神経ネットワーク形成を促進する薬剤の開発京都大学武井義則研究責任者が開発した細胞外リン酸化による神経再生阻害因子の新規抑制方法が、中枢神経組織の再生を促す治療方法として有効かを評価する事が本研究の目的であった。そのために細胞外リン酸化に必要なATPとリン酸化酵素PKAの患部への送達方法、濃度、投与時間などを、ラット脊髄損傷モデルを用いて検討した。その結果、PKAとATPを投与する最適条件が得られ、細胞外リン酸化が脊髄損傷による麻痺の軽減に大変有効である事が示された。同時に、薬剤の投与とともにリハビリテーションが重要である事も、これまでの他研究室からの報告の通り示された。細胞外リン酸化は、脊髄損傷の新しい治療方法として大変有望であり、この結果を創薬に繋げるためにさらに検討を重ねる予定である。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。中枢神経組織再生についてラット脊髄損傷モデルを用いて検討し、細胞外リン酸化の最適条件を明確にしたことは評価できる。脊髄損傷モデル動物での評価は難易度が高いこともあり、今後の創薬スクリーニングについては、十分考慮した上で、研究展開を図る必要がある。細胞外リン酸化と同様の効果をもたらす低分子候補化合物が見出されれば創薬に繋がる可能性は高い。
短鎖脂肪酸受容体を介した糖尿病性自律神経障害発症機構の解明とそのアゴニストによる治療法の確立京都大学木村郁夫糖尿病時に見られる自律神経抑制を伴った循環器系機能障害に短鎖脂肪酸受容体が関与するという申請者らの新知見を基に、ノックアウトマウスや糖尿病モデルマウス、さらには選択的化合物等を用いた実験により、この受容体を介した糖尿病時交感神経抑制機構の解明および糖尿病性自律神経障害の予防・治療薬創成の基礎検討を行った。今回の我々の研究成果により、糖尿病時に上昇するケトン体による、短鎖脂肪酸受容体阻害-交感神経抑制機構は、交感神経節に存在するこの受容体を介した、末梢レベルの非常に即時的な反応によるものであることがわかった。このことは通常の中枢からの刺激による交感神経活性を末梢レベルで抑制する全く新たな糖尿病時における交感神経制御機構を示唆するものであり、今後、この受容体を標的とした糖尿病性自律神経障害治療への応用が期待される。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。糖尿病の病態において、ケトン体投与時での交感神経抑制に短鎖脂肪酸受容体GPCR41を介することを明らかにし、新たな治療ターゲットとの可能性を見出している。今後、明確な研究目標を設定し、創薬研究の展開が望まれる。
転移抑制活性を有する新規抗がん剤の探索京都大学野田亮多くのがんで悪性度と相関した発現低下が見られ、強制発現実験において腫瘍増殖、血管新生、浸潤、転移などを引き起こす活性を有するReck遺伝子は、予後予測因子や化学療法剤のエフェクターとして有用と考えられる。本研究課題では、Reckプロモーターを活性化するが、従来抗がん剤として認知されていない4種の低分子化合物について、生体への毒性、抗がん活性、転移抑制活性などを、自然転移系RM72細胞を用いて検討した。その結果、これら全てに転移抑制あるいは皮下での増殖抑制活性が見出され、本スクリーニング法の有効性が確認されると共に、恐らく新たな作用機構を持つ抗がん薬リード化合物が得られた。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。RECK遺伝子発現を指標に抗癌剤のスクリーニングを樹立し、抗がん活性、転移抑制活性、細胞毒性などの評価を行い、新たな作用機序を有すると思われる抗がん薬のリード化合物が得られたことは評価できる。今後、RECK遺伝子とヒトでのがん抑制との関連性を追求し、明らかにする必要性がある。また、in vivoでのがん転移に係わる評価系など確立し、検証することが望まれる。
タンパク質の翻訳後修飾を指標とした糖尿病由来炎症性疾患の発症を予防する食品因子の評価系の開発京都府立医科大学伊藤友子(大矢友子)糖尿病の合併症への進行は命に関わり、同時にがん発症率増加、創傷治癒遅延など炎症疾患の重篤な病理事象を随伴する。糖尿病完治は殆ど望めず、合併症発症の早期予防が急務となっている。本研究では、解糖系やメイラード反応で生成する反応性の高いカルボニル化合物メチルグリオキザール(MG)による熱ショックタンパク質Hsp27の特異的な翻訳後修飾を分子標的ととらえて指標とし、炎症性疾患の発症を防御する食品因子の簡便で信頼性の高い評価系の確立を目指した。本修飾は培養細胞だけでなくヒト大腸がん組織で確認された。ヒトへの応用という点で本指標の有効性が実証された。今後検体数を増やし評価系の有効性を生体レベルで確認後、動物実験で食品因子での実用性を検討する。分子標的治療に使用する医薬品「分子標的治療薬」に対して、大規模な「分子標的予防食品」の開発を目指すことが可能となった。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。新規バイオマーカーのMG修飾Prx-6の修飾部位を特定したことは評価に価する。検討項目が多岐にわたり過ぎ、期間内に当初の目標には至らなかった。研究目標を絞り、着実な研究展開を図り実用化を目指すべきである。
ナノ磁性ビーズを用いた前立腺癌細胞における抗アンドロゲン剤ビカルタミド感受性調節タンパクの同定京都府立医科大学高羽夏樹ビカルタミドは、前立腺癌の内分泌療法として広く使用されているが、内分泌療法抵抗性前立腺癌に長期に有効な治療法は確立されていない。ナノ磁性ビーズを用いてビカルタミド結合タンパクを精製・同定した後、siRNA法を用いた機能解析によりビカルタミド感受性調節タンパクの選定を行うことを本研究の目標とした。ナノ磁性ビーズを用いて、ビカルタミド感受性細胞株および抵抗性細胞株から精製したビカルタミド結合タンパクの電気泳動を行い、感受性細胞株特異的に精製されるタンパクの存在を見いだした。しかし、本タンパクの質量分析による同定とsiRNA法による機能解析を行うまでには至らなかった。今後、これらを行うことによりビカルタミド感受性調節タンパクを選定し、それを標的にしたビカルタミド感受性増強薬を開発すれば、ビカルタミドとの併用により、内分泌療法抵抗性前立腺癌の克服に寄与することが期待される。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。アンドロゲン依存性ヒト前立腺癌細胞株から、ナノ磁性ビーズを用いてビカルタミド結合タンパクの存在を見出した。今後、本タンパクの同定と機能解析が必要である。さらに、タンパクを標的にしたビカルタミド感受性増強薬の開発が望まれる。
Heme oxygenase-1高発現マクロファージを用いた腸管炎症制御京都府立医科大学高木智久本研究開発の全体計画は右記の通りである。炎症腸管粘膜ではHeme oxygenase-1 (HO-1)が発現誘導され、抗炎症効果を発揮しているという先行研究の結果を背景に、本研究開発ではHO-1高発現マクロファージ(Mps)の炎症抑制作用を検証し、HO-1高発現Mps移入による腸管炎症制御を目指した。HO-1発現を抑制的に制御する転写因子であるBach1を欠損させたマウスから抽出された腹腔Mpsは、HO-1を高発現し、強力な抗炎症機能を有することを明らかにし、このHO-1高発現Mpsを移入することによりマウス実験腸炎モデルであるトリニトロベンゼン惹起性大腸炎の発症・進展が抑制されることを明らかにした。今後、ヒト臨床への応用を視野に入れ、他の腸炎モデルでの検証を進め、HO-1高発現マクロファージによる抗炎症機序に関する分子機構の解明を進める。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。トリニトロベンゼン誘発潰瘍性大腸炎モデルマウスにて効果が確認されたことは評価できる。さらに、他のモデルでの効果を検討する必要がある。マクロファージにHO-1をいかに高発現させるかが課題であり、その点と技術移転に向けた具体的な研究展開が望まれる。
幹細胞技術に基づくテーラーメイド分子免疫療法京都府立医科大学松田修サイトカインを用いた免疫療法はきわめて有望と期待されている。サイトカインの遺伝子を導入した細胞を患者に移植する戦略は、以前から様々に形態を変えて試みられてきたが、既存の技術では拒絶免疫応答を受けずに長期間患者体内で生存し、遺伝子を持続発現させることができなかった。この点を克服できれば、効果的なサイトカイン遺伝子免疫療法の確立に繋がる可能性がある。そこで我々は、以下の技術を案出した。すなわち、癌患者からiPS細胞を樹立して増殖させたのち、抗腫瘍免疫を賦活化するサイトカイン遺伝子を導入する。薬剤選択後、生体内に安定に長期間生存する細胞(たとえば軟骨細胞)に分化させ、細胞製剤として患者に移植すれば、患者の体内で長期間生存してサイトカインを分泌しつづけ、抗腫瘍免疫応答を効果的に誘導するものと期待できる。本研究では、(1) 遺伝子導入軟骨細胞を高効率かつ短時間に樹立するための技術開発、および、(2)生体内での長期発現と高発現を達成する技術開発を行った。その結果、ヒトiPS細胞から軟骨細胞に分化させる途上で遺伝子導入を行うと、ヒト軟骨細胞に遺伝子導入するのに比し、極めて高い効率で遺伝子を発現させられることが示された。期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。サイトカインを長期間および高発現するシステムを樹立し、具体的な応用が可能となった。長期間のサイトカインによる副作用の発現、特に、軟骨では高濃度になるため、周辺組織への影響は検討すべきである。動物実験において確認された後、臨床応用に向けた研究展開に大いに期待する。
誘導した細胞は確かに軟骨細胞様の形態と遺伝子発現パターンを示すことが示された。また、導入した分泌蛋白は軟骨細胞を軟X線照射しても、照射線量依存性に低下はするものの、その後少なくとも6日間の培養を経ても産生され続けることが分かった。したがって、遺伝子導入軟骨細胞を高効率かつ短時間に樹立することが達成できた。さらに、生体内での長期発現と高発現を達成することにも成功した。sLucまたはmIL-12遺伝子導入iPS由来軟骨細胞に、軟X線を照射後、SCIDマウスの皮下に移植することで、血清中の高いsLucの活性、またはmIL-12を検出した。20 Gyの軟X線照射を行っても、照射を行わないものに比して低下はするものの、導入した遺伝子由来の分泌蛋白は長期にわたって血清中に検出された。したがって、生体内での長期間発現と高発現を達成できた。我々はすでに、この技術の根幹については特許出願を行っていたが、本A-stepの助成を受けて研究を行った結果、多くのデータを得て実施例の追加をすることができた。これにより、技術をさらに強固にすることができた。その結果、本特許はJSTの支援を得てPCT国際出願に移行した。さらに、iPSアカデミアジャパン株式会社と技術移転契約を締結した。
構造解析に基づく非ペプチド性抗SARS薬リード化合物の探索京都府立医科大学赤路健一非ペプチド性SARS 3CLプロテアーゼ阻害剤への展開を計るため、新たな環状scaffoldを探索した。これまでの構造最適化の結果に基づき、P2サイトでの疎水性相互作用を核とした縮環骨格を基本構造に選び、すべてのペプチド結合のカルボニル基を除去した化合物を設計した。最初の環化にはDiels Alder反応を、続く縮環構造構築にはPd触媒環化法を用いることで目的とする縮環構造の構築に成功した。合成化合物の阻害活性を評価した結果、アルデヒド基への変換前駆体の段階で数mM程度と弱いながらも濃度依存的に確実な阻害活性を確認することができた。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。SARS 3CLプロテアーゼに対する非ペプチド性阻害剤のリード化合物の創生において、短期間の中で基本となる縮環構造構築法の確立に成功した。目標のnMオーダーの化合物は得られていないことから、より高い阻害活性を有する非ペプチド性阻害剤のリード候補を目指し分子設計を再検討が望まれる。
光固定化法とファージディスプレイ法を融合した薬剤結合タンパク質探索法京都府立大学倉持幸司申請者は、光固定化法とファージディスプレイ法を融合させた薬剤結合タンパク質探索法を開発した。この探索法は、細胞抽出液から結合タンパク質をアフィニティー精製する従来法と比較して、迅速かつ簡便に薬剤結合タンパク質を解析することができる。本研究では、光反応による樹脂への薬剤固定化量を向上させ、結合タンパク質の探索精度を向上させることを第一の目標とした。光反応性基や樹脂を改良した結果、従来法より薬剤の固定化を4.0-8.4倍向上することに成功した。また改良樹脂を用いて、2種の薬剤の新規結合タンパク質の探索を行った。今後、同定したタンパク質が薬剤の作用・副作用に関与するかどうかを検証する。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。フォトアフィニティービーズの合成、光固定化の最適化、ビーズの選択および薬剤結合タンパク質の探索と、当初の目標通り進められ、基本システム設計は完了している。結合タンパク質の種類によっては探索精度が低いものもあることから、更なる検討が必要である。研究の方向性を定め、企業との共同研究への進展に期待する。
肝保護作用を有する新規抗糖尿病薬の開発京都府立大学南山幸子本研究開発は、肝傷害をきたさず長期投与可能な新規抗糖尿病薬を開発し、医薬シーズとして育成することを目的とした。申請者らは熟成ニンニク成分であるS-アリルシステイン(SAC)が、慢性投与可能で安全な臓器線維維化抑制剤および糖尿病治療薬として有効であることを明らかにしてきた。しかし、医薬シーズとして展開するには、新規性のある構造、安全性、安定性が高いことが望ましい。そこで、申請者らが発案、創出した新規構造体の肝線維化抑制効果や遺伝的2型糖尿病ラットに及ぼす効果を検討し有効性を見出した。さらに、トランスレーショナルリサーチを加速するためにもその効果を他のインスリン抵抗性モデルで確認し、機序の解明を行うことが今後の検討課題である。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。被験物質が元の化合物と比べ同等以上の効果を示すことが明らかにされ、TNF-αの抑制作用は糖尿病以外にも応用される可能性が見出された。今後、作用機序の解明と、安全性の確認、特にTNF-αを抑制することによる有害事象に関して検討する必要がある。
インスリン感受性を増強する因子の探索京都薬科大学土谷博之本研究では、研究責任者がすでに明らかにしていたall-transレチノイン酸(ATRA)によるレプチン依存的インスリン抵抗性改善作用を基盤とし、レプチンが肝細胞に対してもたらす糖代謝制御メカニズムについて、分子レベルで解明することを目標とした。本研究期間では、マウス肝細胞株においてレプチンシグナル伝達経路において重要な役割を持つ因子を活性化させることに成功し、この活性化が最大となる条件を明らかにした。続いてこの因子の活性化によって誘導される因子の網羅的探索を行うための試料の回収を行った。現在、網羅的探索に必要な量の試料が回収できたため、今後、目的とするインスリン感受性増強因子の探索を行っていく予定である。当初目標とした成果が得られていないように見受けられる。今後、技術移転へつなげるには、今回得られた成果を基にして研究開発内容を再検討することが必要である。STAT3の下流を標的とする治療法は、新たな戦略として可能性があるが、STAT3で転写されるインスリン感受性増強因子の同定・解析が行われいない。速やかに、研究を推進させるべきではあるが、外注での対応を含めて、当初の計画段階で、別途研究展開についても考慮すべきであった。
糖転移酵素活性の制御による角膜屈折率改変の研究関西医科大学赤間智也本研究課題ではケラタン硫酸糖鎖の角膜屈折率に与える効果を調べる目的で、その糖鎖生合成に必須な糖転移酵素をコードする遺伝子B3gnt7の変異マウスを入手および作成を行なった。B3gnt7ジーントラップマウスの掛け合わせによりホモ変異体マウスが作成され順調に成育中であることから、この遺伝子の欠損による重篤な発生障害はないものと考えられた。またB3gnt7ノックアウトマウス作成も試みられ、変異ES細胞の割合の高いキメラマウスが現在生育中である。これらの変異マウス作成により角膜におけるケラタン硫酸糖鎖の角膜実質細胞外マトリックス構築への寄与を解析することが可能となった。当初目標とした成果が得られていないように見受けられる。今後、技術移転へつなげるには、今回得られた成果を基にして研究開発内容を再検討することが必要である。ケラタン硫酸糖鎖の角膜屈折への影響を検討する目的で遺伝子改変マウスの作製が試みられたが、変異マウスについては作製された状況にも伺えるが、機能解析が未達成なため、早急にこれらのデータを得る必要がある。
リポ蛋白を標的とした新規siRNA薬の開発大阪大学森下竜一リポ蛋白Lp(a)は動脈硬化の独立した危険因子であるが、これまで有効な治療法もなくリスク管理もできていない。そこで、Apo(a)を標的とする核酸医薬虚血性心疾患や脳梗塞等の動脈硬化性疾患の治療に有効であると考え、本研究を実施した。Apo(a) のmRNAを分解するDNA/RNAキメラsiRNA(Apo(a)-siChimera)を設計し、その効果を培養細胞で確認した。Apo(a)はプラスミノーゲンと相同性が高いため、プラスミノーゲンの発現も併せて検討して核酸医薬の特異性を確認した。今後マウスにおける動脈硬化等の病態に及ぼす影響について検証することにより、その実用化の可能性を明らかにする。当初目標とした成果が得られていないように見受けられる。今後、技術移転へつなげるには、今回得られた成果を基にして研究開発内容を再検討することが必要である。apo(a)過剰発現細胞でのapo(a)mRNAでほぼbaselineまで抑制する結果を得た点は評価できるが、siRNAによるapo(a)発現での蛋白レベルでの再評価、安定したモデル動物の確立、および最適なDDSの技術開発が必要である。
化学物質安全評価のための新規バイオアッセイの開発大阪大学倉岡功研究責任者は、DNAに損傷を与える紫外線を用いた実験によりバイオアッセイを開発した。この方法は、ヒト細胞内の転写反応がDNA損傷を認識する機構を応用したものである。しかしながら、この研究成果は紫外線により生じたDNA損傷を迅速に検出できることを示しているものの、DNAに損傷を与える化学物質においては実験条件を含めまだ十分な解析は行なわれていない。そこで既知のDNA損傷を誘発する化学物質を用いて細胞内の損傷頻度を解析した。その結果から、実験責任者は化学物質安全評価のための新規バイオアッセイを構築できたと評価した。今後の展開は、より多検体処理を可能にするため、フローサイトメトリーなどの機器を用いて自動解析型のシステムを構築することである。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。独自の視点から化学物質のDNA損傷を評価する染色体異常を検出するもので、迅速性、簡便性と高い安全性を有するバイオアッセイを構築した。従来法と比較して同等以上の成績を得ており、ヒト細胞を使用していることからヒトへの影響をより反映することが期待できる。今後、大量処理に向けた自動化の方法を検討すべきである。
新規なpH 応答性ポリマー修飾リポソームを用いた高活性免疫ワクチンの開発大阪府立大学弓場英司本研究課題では、新規なpH応答性ポリマーを修飾したリポソームを用いて、既存のワクチンキャリアの活性を凌駕する高活性ワクチンキャリアを構築することを目標とした。その結果、このポリマー修飾リポソームは、動物実験で最大の細胞性免疫誘導能を持つ既存ワクチンキャリアと同等の免疫誘導能を有し、抗原を発現した固形腫瘍を完全に消失させるほどの極めて強力な抗腫瘍免疫を誘導できることが明らかとなった。本研究ではモデルタンパク質を抗原として用いたが、今後は個々の腫瘍から抽出した抗原を用いて同様の実験を行い、本ワクチンキャリアの汎用性を検証することによって、高活性かつ新規な、がん免疫治療用のワクチンキャリア創製を目指す。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。新たな免疫リポソームについてマウスを用いたin vivo試験にて抗がん作用にて確認された。pH応答性ポリマー修飾リポソームについて、動物実験で最大の細胞性免疫誘導能を有する既存ワクチンと同等の免疫誘導能を有し、抗原を発現した固形腫瘍を完全に消失させるほどの強力な抗腫瘍免疫を誘導できることが明らかな成果が得られている。今回の研究ではモデルタンパク質を抗原としているが、今後、個々の腫瘍抗原を用いた研究段階が望まれる。
抗ウイルス活性を有する消毒剤の開発大阪府立大学勢戸祥介ノロウイルスあるいはノロウイルス代替ネコカリシウイルスに対する抗ウイルス効果を示す消毒剤を開発し、市販化に向けた改良に取り組む。アルコールを基材に食品添加物等を用いることにより食品製造現場で安全で安心して用いることができる消毒剤の開発することを目標とした。種々の食品添加物をネコカリシウイルスの増殖阻害を指標にスクリーニングした結果、プロアントシアニジン系ポリフェノールが一定の抗ウイルス活性を有し、ノロウイルスに対しても外殻を破壊する作用を有していた。今後、抗ウイルス活性を有する消毒剤として市販化に向けて改良を行う予定である。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。ノロウイルスに抗ウイルス活性を有する消毒剤を開発するという当初の目標は達成しており、企業との共同研究の準備も進められている。さらに、細菌類への評価についても検討が望まれる。
創薬研究の迅速化を目指したヒト薬物相互作用評価システムの開発神戸大学今石浩正ヒトへ投与された複数種の薬物により、重篤な副作用をもたらす「薬物相互作用」が生じる事が知られている。本研究では、先に明らかになっているシトクロムP450酵素の活性評価技術を応用し、全ヒト薬物代謝の30%に関与するP450(CYP3A4)酵素と薬物輸送MDR1トランスポーターを組み込んだバイオアッセイ系の開発を試みた。その結果、(CYP3A4)酵素と薬物輸送MDR1トランスポーターの活性測定が可能となった。今後は、薬物相互作用を正確に予測する安全性評価の効率化へと利用可能となることが示唆された。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。ヒト薬物代謝酵素CYP3A4と薬物トランスポーター(MDR1)を組み込んだバイオアッセイ系の確立が試みられ、CYP3A4酵素活性測定の再現性が確認され、代謝酵素測定系を確立したことは評価できるが、薬物輸送MDR1のトランスポーター活性を同時に評価する系には至っていない。十分なMDR1の発現量を得られる方法の確立が必要である。
SAP-1およびその関連分子を利用した炎症性腸炎の新たな治療法の開発神戸大学村田陽二本研究開発では、消化管粘膜上皮細胞に特異的な発現を示す受容体型チロシンホスファターゼであるSAP-1およびその関連分子に対するモノクローナル抗体が、炎症性腸炎の治療薬としての有効性を持ち得るかについて、腸炎モデルマウスを用い解析を試みた。その結果、発症機序の異なる複数の腸炎モデルマウスへの抗SAP-1モノクローナル抗体の投与により、一部のモデルマウスにおいて腸炎の症状の緩和が認められた。今後、抗SAP-1モノクローナル抗体の投与法、投与量の最適化を行なうと共に、SAP-1関連分子に対するモノクローナル抗体の炎症性腸炎の治療薬としての有効性についてさらに検討を進める。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。試験期間との兼ね合いでDDS誘発炎症性腸疾患モデルマウスでの結果のみで、他の腸疾患モデルについては目標達成に至っていない。抗p100抗体について、実験の際に投与方法や投与量について、再考すると共に、継続的かつ詳細な検討が望まれる。
生体を用いたハーブ精油の機能性および安全性評価奈良女子大学井上裕康本研究課題では、食品として広く摂取されているハーブ精油の生体内での機能性および安全性を評価し、機能性食品としての可能性を示すことを目標とした。培養細胞を用いたスクリーニングにより、COX-2 発現抑制およびPPARs活性化能を持ついくつかのハーブ精油を見出した。この成分を使用して2系統(C57BLと129系)のマウスを用いた生体内での機能性の評価を試みたが、系統間で効果の違いがあることが明らかとなった。この作用の相違は、2系統間の脂質代謝の感受性に影響され、生活習慣病予防研究で汎用されているC57BLマウスは脂質が分解されにくいが、運動負荷を組み合わせることによって、129系同様に個体レベルでのPPAR活性化を評価できることが判明した。今後、この条件を用いて、ハーブ精油の生体内での機能性を評価したいと考えている。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。2系統のマウスを用いてハーブ精油の機能評価と安全性評価が行われ、2系統間で脂質代謝の感受性に違いがあることが明らかにされた。また運動負荷を組み合わせることでPPAR活性化を評価できることを見出している。さらに、比較的、高用量の被験物質で肝機能に異常が観察されなかった。今後、他のin vivo評価にて機能性について検討すると共に、安全性試験についても綿密に他の安全性試験での検討が望まれる。
2種類の血糖低下機能成分を含有する桑葉加工法の開発島根大学山崎雅之桑葉の食品機能性を生かした製品開発に向け、高効率なDNJとQ3MG 抽出法の開発(島根県産業技術センター勝部拓矢)、高濃度Q3MG、DNJ 製品の機能性評価に向けた実験動物(短期投与、島根大学医学部山崎雅之)を試みた。抽出法の開発では、数種の方法による抽出を実験室レベルで行い、濃縮エキスの抽出を行なった。また、食品機能性評価は、今後の別事業での開発を予定しているが、その前段階での試みとして実験動物への短期投与を試みた。 今後の展開として、効率のよい抽出法のスケールアップ、食品機能性の評価と迅速に行える評価指標の確立が課題としてある。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。桑葉成分DJN、Q3MGを多く含む品種選定、栽培法、抽出法および高濃度製品の機能性評価を目標としていたが、Q3MGについては成果が得られているが、一部、品質選定、栽培法および長期間での機能性評価については、未達であった。共同研究機関との役割分担、目標を明確にして、再度、研究体制を考慮して、更なる検討が望まれる。
生活習慣病予防を目指した米糠由来機能性ペプチドの探索岡山県農林水産総合センター生物科学研究所畑中唯史糖尿病の改善・予防においては、血糖値を適切に管理することが重要である。摂取された糖類は、小腸上皮の酵素α-glucosidase (AGH)によってグルコースに分解される。血糖値の上昇を抑え、インシュリンの分泌を促すホルモンであるインクレチンは、血中の酵素Dipeptidyl peptidase-4 (DPP-4)によって分解されその能力を失う。本申請では、米糠タンパクをペプチドに分解し、DPP-4あるいはAGH阻害効果を検討した。その結果、A社酵素消化物に、DPP-4阻害効果を認め、その阻害ペプチドには、少なくともIle-Pro, Leu-Proのいずれかが含まれているものと推測された。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。米糠由来機能性ペプチドについて、α-glucosidase(AGH)阻害作用とDipeptidyl peptjdase-4(DDP-4)阻害作用を検討し、ほぼ計画通りに実施された。DDP-4阻害を示すペプチド体については、期待以上の成果が得られている。AGHについては、当初の目的を達成されなかった。その原因について考察が必要である。今後、in vivoでの試験にて、技術目標の明確化が期待される。
ピリミジン融合ステロイド類の合成法開発と各種感染症治療薬探索岡山大学永松朝文本研究は、デアザフラビン骨格とステロイド骨格を内蔵する融合(ハイブリッド)化合物の簡便な合成方法を見出すとともに、該方法によって得られる薬理的な混成増強作用や新しい生理活性若しくは薬理活性が期待できる有用な化合物を提供することを目的とするものである。今回の研究で簡便なハイブリッド化合物の合成法を確立できた。今後、このハイブリッド化合物の構造活性相関を基に抗腫瘍活性や感染症関連のドラッグデザインが可能となった。このハイブリッド化合物のヒト急性リンパ芽球性白血病と口腔癌由来細胞に対する抗腫瘍活性試験を行った結果、2~15μg/mL(CCRF-HSB-2)及び2~25μg/mL(KB細胞)の活性化合物を見出せた。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。デアザフラビン骨格とステロイド骨格のハイブリッド化合物の簡便な合成法が確立され、現時点では顕著な生理活性や薬理活性を有する医薬品候補化合物は見いだされてはいないが、種々のハイブリッド分子の合成と医薬品の開発へと期待される技術である。今後、合成化合物の広範囲な活性評価の実施と共に、企業との情報交換や共同研究が望まれる。
レチノイドX受容体を標的とする制御性T細胞誘導物質の探索岡山大学加来田博貴RXRアゴニストによるTreg誘導については未報告である中、申請者らは独自に創出したRXRアゴニストNEt-3IP (6-[N-ethyl-N-(3-isopropoxy-4-isopropylphenyl)amino]nicotinic acid)によるTreg誘導を世界で初めて見出した。しかし、本化合物は連投により体重増加、血中トリグリセリド上昇、甲状腺機能低下が認められる。RXRアゴニストは、構造の違いにより恊働するPPAR/RXRやLXR/RXRなどのヘテロダイマーに対する活性化能が異なることなどから(Biochem. Pharmacol. 2008, 76, 1006-1013.)、構造の違いにより上述する副作用が回避される可能性が考えられた。これまでにNEt-3IPとは異なるRXRフルアゴニストNEt-3IB (6-[N-ethyl-N-(3-isobutoxy-4-isopropylphenyl)amino]nicotinic acid)やRXRパーシャルアゴニストCBt-PMN (1-[(3,5,5,8,8-pentamethyl-5,6,7,8-tetrahydronaphthalen-2-yl)amino]benzotriazole-5-carboxylic acid; Emax = 68%, EC50 = 488 nM)を見出している。しかし、これらのTreg誘導能、遺伝子発現については未確認である。本研究ではこれらの未解決課題の解決を目指した。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。RXRアゴニスト候補化合物に制御性T細胞(Treg)誘導作用が有することが確認された。この候補化合物は肝肥大、体重増加および血中トリグリセリドの上昇など、比較的、毒性が低いことが確認されているが、通常に医薬品候補の有効濃度が高い。さらに、低用量で薬効性を示す化合物の探索と共に、毒性面での検討が望まれる。当初、企業等との共同研究への移行が目標であったが、そこまでには至らなかった。今後、病態モデル動物での検討を含め、創薬シーズとしての見極めと研究展開を考慮すべきである。
新規熱ショックタンパク質阻害剤KNK437による、悪性腫瘍血管新生阻害作用に関する研究岡山大学村上純当該申請研究は、HSP阻害薬剤KNK437のin vivoでの血管新生阻害効果の検討を計画したものである。今回、担癌マウスを対象に、KNK437投与群、非投与群での血管新生状況を比較検討した。その結果、in vivoにおいても血管新生阻害能を有することを明らかにでき、また、腫瘍縮小効果も認めた。今回の成果を基に、さらなる動物実験を展開することで、KNK437を用いた、副作用が少ない、血管新生阻害剤および癌浸潤抑制剤の研究開発につなげたい。今回の研究では、KNK437投与濃度、方法、マウス種や担癌用腫瘍株の選択などに開発期間の多くを利用し、今後の基礎となる研究系を立ち上げることができた。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。担癌マウスを用いたin vivo試験において、HSP阻害薬が血管新生阻害作用を有し、腫瘍縮小効果についても確認された。今後、投与経路および投与量等の投与条件について検討と共に、長期投与での有効性と安全性をさらに検討が望まれる。さらに、技術移転に向けた研究展開が必要である。
転写調節制御による慢性疼痛治療技術の開発研究岡山大学大内田守申請者は疼痛シグナル伝達遺伝子の発現をデコイDNAで選択的に抑制する慢性疼痛治療剤を開発した。本課題の目標は当該遺伝子発現を制御する転写因子の検出である。疼痛刺激に反応するプロモーター領域の同定と、その領域に結合する35個の転写調節因子の結合サイトの検出に成功した。しかし、蛋白解析においては非特異的吸着蛋白の存在という予期せぬ事態となり、目標達成には時間不足であった。今後は本研究を継続し、疼痛刺激特異的な転写因子の抑制技術による疼痛緩和、デコイDNAを利用した疼痛緩和、その受容体蛋白を応用した疼痛緩和、これらの技術を総合的に組み合わせることにより効果的な慢性疼痛の治療法を開発する計画である。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。研究目標の意義、重要性は理解できるが、DNAデコイ投与で後根神経節でのBDNFの抑制を確認すべきである。評価系である神経結紮ラットモデルの結果から、慢性疼痛の中でも対象となる疾患を絞った研究の進め方を再考が必要であり、また、技術的問題点を克服する策を図るべきである。
難取得性新規インテグリン抗体の病態制御作用に関する検討広島大学横崎恭之本研究は我々が作製した抗体の病態における作用を確かめるもので、今回、線維化抑制作用を検討した。まず培養細胞株に本抗体を添加してコラーゲンの遺伝子発現の抑制を確かめた後、マウスの肝臓に胆管結紮により線維化を惹起、生体での効果を観察した。抗体(-)群では肝臓におけるコラーゲンの発現が50倍、α-smooth muscle actin (α-SMA) が10倍程度上昇していたが、抗体投与によりそれぞれ7倍、1.8倍と明瞭に抑制された。組織像は、抗体(-)群で肝内胆管周囲の結合織と微小胆管の増生が明瞭で、抗体(+)群で明らかに軽度であった。本抗体が肝線維化を抑制することを確認した。今後、他要因による肝線維化、さらに他臓器の線維化への有効性を確かめる。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。マウスの胆管結紮モデルによる肝線維化に対して作製されたインテグリン抗体が明らかな線維化抑制作用を示すことが確認された。臨床的には、ウイルス性慢性肝炎による線維化に対する効果を確認することが重要である。肝線維化における重要な役割を果たしている星細胞に標的インテグリンの発現が確認されなかったことからも、抗体の標的細胞の同定とその作用機序の解明が必要である。
発育鶏卵を用いた血管新生阻害性放射線増感剤のin vivo評価法の開発徳島大学宇都義浩本申請課題は、安価でジェネティック制御下にあるため個体差・実験誤差が小さく、マウスやラットに比べて倫理的問題が非常に少なく、逃亡の危険性がないため動物舎等の特別な施設を必要としない個体である発育鶏卵を用いて、血管新生阻害作用を介して放射線治療効果を増強する新規化合物に対する簡便かつ迅速で汎用性の高いin vivoスクリーニング系を構築することが目標である。達成度は、腫瘍移植鶏卵の作成と腫瘍移植鶏卵を用いた腫瘍血管新生の定量に成功したが放射線併用実験は実施できなかったことから80%とした。今後の展開として、X線CTによる非破壊的な活性評価技術を利用し、ハイスループットスクリーニングが可能な動物実験として開発する。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。発育鶏卵を用いた癌細胞の血管新生促進能の評価系が確立されたことは評価に値する。実用化には、発育鶏卵での評価結果とヒトや動物での結果との相関性を検証する必要がある。また、当初、予定されていた放射線照射実験を早急に実施すべきである。
Smad3リン酸化阻害剤を用いた創傷治癒促進・瘢痕形成抑制法の開発徳島大学泰江章博TGF-βシグナリングの主要な細胞内因子Smad3のノックアウトマウスは皮膚創傷治癒においてその促進ならびに瘢痕形成の抑制が認められる。本課題は、Smad3リン酸化特異的阻害剤の創傷治癒過程にもたらす影響をそのノックアウトマウスの所見を効果の判定の指標として評価する試みであった。In vitroの系においては本阻害剤により線維芽細胞の筋線維芽細胞への分化抑制、上皮細胞の遊走能促進、炎症関連因子の発現抑制といったSmad3ノックアウトマウス由来細胞と同様の現象が確認された。また、in vivoにおける投与においても有意な創傷閉鎖促進が認められ、これは炎症関連因子の発現低下が伴うものだった。今後は、副作用の有無を確認しつつ、臨床応用を目指していく。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。Smad3リン酸化阻害剤の効果を確認することで、Smad3が創傷治癒や瘢痕形成に関与することが明確にされた。Smad3リン酸化阻害剤の候補物質の投与方法や投与後の有害事象について確認すべきである。また、技術移転には、Smad3阻害作用のスクリーニングを実施し、いくつかの候補物質を得る必要がある。
ヘテロ環化合物ライブラリーからの幹細胞研究用分化誘導剤の探索徳島大学辻大輔本研究では、簡便かつ高純度細胞分化が可能な分化誘導剤を開発することを目標とし、ヘテロ原子の特性を活用した機能性分子ライブラリーを用いた未分化細胞に対する分化スクリーニングを行った。その結果、神経系分化を引き起こす新規の分化誘導剤シーズを発見することに成功した。さらに構造活性相関により、コアとなる最小構造を特定することができ、特許出願に向けて準備中である。これらの成果は、急激に発展している再生医療分野に対して応用できる可能性があり、近い将来の「幹細胞研究用の分化誘導試薬」の開発が期待できる。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。神経系分化を誘導する新規の分化誘導剤のシーズを見出している。外・中胚葉分化誘導について化合物ライブラリーを活用したスクリーニングを行い、化合物の構造活性相関により最小構造を特定している。研究用試薬の開発として実用化の可能性も期待できる。
創傷治癒性リゾリン脂質メディエーターを標的とする新規オーラルケア製品の開発徳島大学徳村彰ヒト混合唾液は0.79 μMの創傷治癒因子リゾホスファチジン酸 (LPA)を含むので、LPAを豊富に含有する食品素材は口腔粘膜保護に有効であると推定される。LPAなどのリゾリン脂質メディエータ―がヒト口腔粘膜由来株細胞(歯肉上皮と頬上皮)に及ぼすCa2+動員、アポトーシス誘導および細胞運動亢進作用を比較した。その結果、LPAの方が他のリゾリン脂質に比べて強い作用を示した。Ca2+動員応答は頬粘膜由来細胞の方が、アポトーシス応答は歯肉応上皮由来細胞の方が高かったが、LPAの細胞運動性亢進作用は認められなかった。本研究でLPAのin vitroでの有効性を確認できたので、今後は、動物モデルでのin vivoでの有効性試験へと進む予定である。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。ヒト口腔粘膜上皮細胞において、LPAやその関連リゾリン脂質による細胞の活性化、創傷治癒および粘膜恒常性維持作用をin vitroにて評価し、ヒト口腔内にて他のリゾリン脂質よりLPAが粘膜恒常性維持に有効であることを明らかにした。今後、さらにLPAの有効性、安全性や他のリン脂質との相互作用等について検討が必要である。
歯周病細菌特異結合ヒト唾液タンパク質スタセリンのアミノ酸配列を基盤とした新規歯周病細菌定着阻害剤の開発徳島大学片岡宏介本研究では、歯周病細菌が特異結合するヒト唾液タンパク質スタセリン上の複数の最小結合部位アミノ酸配列を基に、新規ペプチドおよびペプチド複合体を作製し、それらによる実験歯面モデル(in vitro)での歯周病細菌結合(定着)阻害能と、その阻害能の温度依存性を検討することを目的とした。 本ペプチドおよびペプチド複合体は、24℃、36℃、42℃において歯周病細菌の強い結合(定着)阻害能を示し、その阻害能は各温度間において有意な差は認められなかった。 以上より、本ペプチドおよびペプチド複合体は、口腔内温度においても安定した高い阻害能が示され、今後ヒト口腔(in vivo)を用いた同ペプチドによる歯周病細菌の定着阻害能を検討する。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。ヒト唾液タンパク質、スタンセリンのアミノ酸配列から合成した新規ペプチドおよびペプチド複合体が、歯周病細菌阻害活性を有することを明らかにしたことは、十分、評価に値する。今後、ヒト口腔内での検討を前提にして試験、実験モデルでの試験、および実用化に向けた品質、生産性・コストなどの面からも評価が必要である。
ホモ接合型家族性高脂血症に有効な新規治療剤の開発徳島文理大学通元夫我々はホモ型WHHLウサギにおいて血中コレステロール及びトリグリセライド低下作用を有するリード化合物を見出したが、その化合物の経口吸収性は良好でなかった。そこで、本採択研究にてリード化合物の経口吸収性の改善を図る目的で塩基性アミノ酸塩及びモノペプチドやジペプチド誘導体に変換した。誘導化された化合物をRatに経口投与し経時的にリード化合物の血中濃度を測定し、リード化合物自体と比較した。その結果、一部の化合物はリード化合物よりも1.5倍程度の経口投与での吸収性の改善が見られた。しかし、目標とする経口投与での吸収性向上には至らなかった。更なる検討が必要である。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。ホモ接合型家族性高脂血症を対象にしたリード化合物およびその誘導体の合成は完了し、ラットでの経口投与でのリード化合物の吸収実験で1.5倍の吸収の向上が確認された点は評価できる。しかし、当初の目標値である吸収改善には至っていない。リード化合物の誘導化を含め、新たな手法を取り入れる必要があると思われる。
抗菌剤スクリーニングのための定量的な葉酸依存性RNAメチル化酵素活性測定法の開発愛媛大学堀弘幸抗菌剤開発のスクリーニングに利用できることを念頭に、葉酸依存性RNAメチル化酵素の効率的な活性測定方法を検討した。葉酸依存性RNAメチル化酵素の定量的な酵素活性測定法は、2009年まで、開発されておらず、申請者らの一連の研究で初めて報告された。本研究では、この従来活性測定法をさらに改良し、簡便かつ効率的なものとすることを目標とした。まず、酵素・基質のモル比を工夫することにより、定量性を向上させることができ、様々な反応速度分析が可能となった。次に、従来はゲル電気泳動を使用していたのを、フィルターアッセィ法に切り替え、定量性を少し犠牲にすれば、多検体を短時間で測定できる手法を開発した。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。葉酸依存性RNAメチル「化酵素の効率的な活性測定方法について、TrmFO活性測定の酵素化学的測定法の定量化の確立については着実に進展している。ゲル電気泳動法からフィルターアッセイ法では、効率化は図れるが、定量性に欠ける。TrmFO活性測定レンジを決定できるのであれば、諸条件を確認することで、安定した活性測定法の確立が可能と思われる。
固形腫瘍内へT細胞を動員する次世代免疫療法の動物実験高知大学宇高恵子我々は先に、腫瘍組織の血管内皮細胞が腫瘍抗原をMHC class II分子に提示し、それをヘルパーT細胞(Th)が認識して腫瘍組織に浸潤すること、さらに、ThがIFN-γ依存性に、CTLの腫瘍内浸潤を誘導することを観察した。それを受けて本研究では、腫瘍特異的ThおよびCTL誘導性ペプチドを免疫した場合の抗腫瘍効果を評価した。これらの免疫には、Th1タイプの免疫誘導の場を作る百日咳全菌体ワクチン(Wc)をアジュバントとして添加した。その結果、腫瘍特異的ThとCTLが効率よく誘導できれば、樹立された固形腫瘍であっても、抗腫瘍効果が期待できることが明らかとなった。さらに、研究の過程で、Th細胞を誘導する工夫を行ったところ、従来の1000倍もTh誘導効率の高い免疫方法が見つかり、知財確保および論文発表に向けた準備を行った。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。悪性腫瘍に対する次世代ワクチン開発において、OVAを標的抗原として腫瘍特異的ThとCTLが効率的に誘導することで、固形がんに対し、抗腫瘍効果が期待できることが明らかになった。これらの知見は、先進性が高く、技術移転の可能性が高い。また、悪性腫瘍に対するのみではなく、難治性ウイルス感染症への応用も期待される可能性があり、次世代の免疫療法技術として可能性が期待される。
悪性脳腫瘍に対する高力価レトロウイルスベクター産生システムの新たな構築による遺伝子治療法の開発高知大学清水惠司高力価脳特異的レトロウイルスベクターを用いた自殺遺伝子療法の臨床研究を実施するために、ウイルスベクターを大量に調製する技術が必要である。また、治療効果、安全性の向上させるために、腫瘍細胞を特異的に標的とするベクターの開発が期待されている。本課題では、浮遊培養系による高力価レトロウイルスベクター産生システムの構築や腫瘍特異的レトロウイルスベクターの抗腫瘍効果の検討を目的とした。目論見通りに脳特異的レトロウイルスベクターを浮遊培養系で効率よく産生することに成功し、規模のスケールアップを検討している。腫瘍特異的レトロウイルスベクターは、高力価ウイルス産生細胞を樹立後、治療効果を検討する予定である。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。高力価脳特異的レトロウイルスベクター産生システムにおいて、当初の目標以上の高力価のウイルスベクターが得られる細胞培養法を確立したことは評価に値する。今後、ウイルスベクターの安定化、高力価の維持および産生のスケールアップについて検討する必要がある。
糖尿病性腎症の新規治療法の開発とモデルマウスを用いた薬効評価系の確立九州大学稲田明理周知の通り、日本では生活習慣病の1つである2型糖尿病が深刻な問題となっており、急速に患者人口が増加している。一旦、糖尿病になると生涯完治することはなく、高血糖が続くと合併症を併発する。糖尿病性腎症は合併症の1つであり、これが悪化すると透析が必要となる。また、日本透析医学会統計調査によると透析導入の原因の1位は糖尿病性腎症であり、全体の43%を占めている。さらに、関連論文によると、糖尿病性透析導入患者の1人1ヶ月にかかる医療費は約43万円と高額であり、糖尿病医療費高騰問題の一要因となっていることや、透析導入によってQOL(Quality of life:生活の質)も著しく低下してしまうと報告されている。そこで、糖尿病患者が腎症を併発した場合(早期腎症)、透析への進行を食い止めることが重要である。そこで、本研究では糖尿病性腎症の成因を明らかにし、治療薬の開発等を目指す。糖尿病性腎症の病態や成因を研究するためには、動物モデルが不可欠であるが、これまでヒトの糖尿病性腎症を再現できる適当なモデルが無かった。そこで申請者はシングルラインで十分な効果が得られる糖尿病モデルマウスを開発した。このモデルマウスは転写因子ICERをβ細胞に過剰発現させ、インスリン合成とβ細胞の増殖の両方が抑制されるよう設計されているので、生後2週目より高血糖をきたし、インスリン分泌不全から重度の糖尿病を発症する。高血糖は死ぬまで持続し合併症(糖尿病性腎症)を引き起こす。本研究では、このマウスが糖尿病性腎症のモデルとして利用価値があるかを検証し、糖尿病性腎症の成因、治療薬の開発等を目指す。有用なモデルマウスを確立することができれば、糖尿病研究が進み、糖尿病患者人口を劇的に減らすことができ医療費高騰問題の解消につながる。健康と財政の両面において大きく貢献するものである。当初目標とした成果が得られていないように見受けられる。今後、技術移転へつなげるには、今回得られた成果を基にして研究開発内容を再検討することが必要である。転写因子ICERをβ細胞に過剰発現させた糖尿病性腎症モデルマウスの有用性が再確認されたことは、評価できるが、当初の目標にあった化合物の薬効評価については実行されていない。モデル動物についても、更なる病態の解析が必要である。
トロンビン受容体を標的としたくも膜下出血後脳血管攣縮の新規治療法開発九州大学平野勝也脳血管攣縮は、急性期を乗り越えたくも膜下出血患者に遅発性に発生し、長期予後を左右する重要な合併症である。本研究は、攣縮発症の基盤となる血管反応性亢進の分子機序を明らかにし、それに基づいた新たな攣縮治療を開発することを目的に実施した。くも膜下出血モデルを用いて、トロンビンに対する脳動脈の収縮反応が増強されるのみならず、受容体脱感作機構の障害により不可逆的に持続することを見出した。さらに、トロンビン阻害剤と抗酸化剤を併用することにより、収縮反応の増強と脱感作機構の障害の両者を改善し、血管反応性を正常化させることに成功した。今後、くも膜下出血患者での有効性を検証し、この併用療法に基づいた新たな攣縮治療を確立する。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。くも膜下出血による脳血管攣縮に対して、抗トロンビン剤と抗酸化剤の併用にて有効性が確認された。作用機序を解明することが必要であるが、使用された薬剤の多くは利用されているものが多く、早期の臨床への応用が期待される。臨床応用に向けた技術的課題について検討すべきである。
化粧品添加物および日光過敏症新薬開発を目的とする光DNA損傷修復遺伝子のスクリーニング長崎大学荻朋男本研究課題では、平成21年度採択のシーズ発掘試験にて開発した、放射性同位元素を使用しないヌクレオチド除去修復アッセイシステムと高速スクリーニング技術を実際に運用し、siRNAライブラリースクリーニング、エキソームシーケンシングを平行して実施することで、20年来責任遺伝子が未知であった紫外線感受性症候群の原因遺伝子UVSSAを同定することに成功した。UVSSA遺伝子は、日焼けの原因遺伝子であることから、この遺伝子産物を対象とした各種医薬品及び化粧品等の開発が可能であり、これらを包括した特許申請をおこなった。期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。研究責任者が開発したヌクレオチド除去修復活性試験法により、紫外線感受性症候群の原因遺伝子UVSSAが同定された。研究成果については、特許出願がすでに行われている。開発した試験法、そのもの技術移転、および同定されたUVSSAを対象にした化粧品等の開発にむけた企業との共同研究が想定されることから、実用化に向けて期待できる。さらに、UVSSAについての機能が解析が進められば、皮膚の老化(シワなど)や、皮膚がんとの関連性など興味深い。
ジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ欠損症のハイスループット診断長崎大学柴田孝之本課題では、フッ化ピリミジン系抗癌剤の副作用発現に関与するジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ(DPD)の欠損を簡便かつ迅速に診断できる手法の開発を目的として、独自のウラシル特異的蛍光反応を用いた、尿中ウラシル定量法の開発研究を行った。その結果、希釈尿に試薬を添加・加熱した後、有機溶媒抽出を行って有機層の蛍光強度を蛍光スペクトルメーターで測定するのみで、尿中ウラシル濃度を定量できる技術の開発に成功した。この研究成果は、DPD欠損のハイスループット診断法としての可能性を示唆するものである。今後は、多検体を同時に検査できる手法へ展開し、実際にDPD欠損患者の尿を使用して本技術の有用性を証明する。期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。オーダーメイド医療の具体的なものとして、フッ化ピリミジン抗がん剤の副作用発現を防ぐために、新規プローブを作製して尿中の関連酵素DPD量を定量化したものである。測定サンプルが尿であることからも患者への負担が少なく実現性も高い。臨床応用のためにはDPD欠損患者サンプルでの結果が必要である。さらに、ハイスループット化して多くのサンプルが処理できるようにすべきである。
脳血管保護作用を併せ持つ新規の脳卒中治療薬プロトタイプペプチドの同定長崎大学植田弘師プロサイモシンα由来の9アミノ酸残基からなるプロトタイプペプチドP9の誘導体化や元のタンパク質からの配列の移動を行い、有効性を保持、あるいはより活性の高いペプチドの探索を行った。その効果検定は主に緑内障モデルともなり得る網膜虚血障害を中心に行い、限られた化合物については脳卒中モデルともなり得る一過性中大脳動脈閉塞モデルにおいて運動障害、脳血管障害を解析した。低分子ペプチドは化学的修飾も試み、より高い活性の検出の手がかりも得られ、今後の最適化への道筋が得られた。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。脳梗塞モデルでの評価と網膜虚血障害モデルでの評価を実施し、プロトタイプペプチドP9より、さらに高活性の新たな物質が見出されている。今後、新たな候補物質の優位性評価が必要であるが、技術移転の可能性についてはより高まったと言える。
生体レドックス解析のための水溶性アミノ酸・ペプチド型ラジカルの創製長崎大学田中正一生体類似成分であるアミノ酸型スピンプローブ剤とペプチド型スピンプローブ剤の創製を目的として、高い水溶性を有すると期待されるアセタール保護基を持つ環状アミノ酸型安定ラジカルの合成を行った。また、N末端をBoc保護あるいはFmoc保護した環状アミノ酸型ラジカルの合成を行った。合成した環状アミノ酸型ラジカルを生理活性ペプチドに導入したペプチド型ラジカルを創製し、その水溶液中でのラジカル測定を行った。ペプチド型ラジカルは、アミノ酸型ラジカルに比較すると水溶性が向上したが、動物実験に適する溶解度は得られなかった。さらに、固相合成法によりペプチド型安定ラジカル合成の基礎実験を行った。この手法により今後、多彩な環状アミノ酸導入ペプチド型ラジカルプローブが合成できると考えられる。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。水溶性を高めるため、多彩な環状アミノ酸導入ペプチド型ラジカルプローブの合成法を確立した点は評価できるが、スピンプローブ剤の合成については未達であった。早急に、候補となるプローブの合成と水溶性の評価を検討する必要がある。
緑色蛍光を発するライブイメージング用高度免疫不全マウスの作成熊本大学岡田誠治ライブイメージングに最適化された緑色蛍光を発する無毛高度免疫不全マウスを作製し、製品化することを目的に研究を行った。Nudeマウスはヒト腫瘍移植実験に使われてきたが、腫瘍の約20%しか生着せず腫瘍細胞と宿主との区別がつきにくい等の欠点がある。これらの問題点を解決するために、申請者が樹立した無毛高度免疫不全マウスにGFP発現マウスを交配し、緑色蛍光を発する無毛高度免疫不全マウスを作成した。今後、作成したマウスに赤色蛍光標識したヒト腫瘍細胞を移植し、蛍光イメージングによる定量による抗腫瘍薬の定量系を構築し、特許の取得を目指す。また、企業と提携して本マウスの製品化を目指す。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。無毛の高度免疫不全マウスの樹立に成功した。本研究で作製したマウスを用いて腫瘍細胞と宿主との関係や抗腫瘍薬の評価について研究成果が望まれる。
アルブミン融合技術を活用した革新的レドックス制御ナノ医薬の難治性肺障害治療への応用熊本大学丸山徹アルブミン融合技術により、チオレドキシン(Trx)とヒト血清アルブミン(HSA)を遺伝子レベルで融合した血中滞留型の新規レドックス制御ナノ医薬(HSA-Trx)の難治性肺障害に対する有用性を実証することを目的とした。事実、HSA-Trxはアレルギー性肺障害及び肺線維症に対して抑制効果を示したことから、当初の研究計画を達成できたものと考えられる。また、モデル動物における血中半減期を考慮すると、ヒトに投与した場合は2~4週間に一度の投与で治療効果が期待できると考えられた。本内容は酸化ストレス及び炎症性疾患に対する幅広い臨床応用が可能であり、特に、これまで有効な治療法が存在しない難治性肺疾患や現在の世界的問題となっている新型インフルエンザによる重篤な肺障害治療への適応が大いに期待される。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。肺疾患モデルに対してアルブミンーチオレドキシン融合タンパク質(HAS-Trx)について評価を実施し、2つの試験系で顕著な改善効果を有することが確認され、技術移転に可能性が期待できる。当初の計画でもあったインフルエンザ型肺炎モデルでの評価についても、早急に実施されることが望ましい。
GIRKチャネルを標的にした新規小児用抗うつ薬の開発研究熊本大学高濱和夫我々は、先に、中枢性鎮咳薬のチペピジンがGタンパク質共役型内向き整流性K+(GIRK)チャネルの活性化電流を抑制し、治療抵抗性のうつ病モデルにおいて抗うつ様作用を示すことを明らかにした。本研究では、第一に、この作用が連投により変化するのか否か、薬理学的、薬物動態学的に検討を加えた。第二に、連投により逆耐性が発現するのか否か行動学的、神経化学的に調べた。その結果、14日間の連投によってもマウス、ラットで抗うつ様作用を示し、その作用は急性投与に比べてわずかに増強した。しかし、協調運動や体重には影響は見られなかった。また、逆耐性現象もみられなかった。今後、動物での慢性毒性や、ヒトでの体内動態について検討を加えることが重要である。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。動物試験において、新規な抗うつ薬の可能性を示唆するデータが得られた。新規な作用機序であることから、従来の抗うつ薬との比較において、特徴および有用性を裏付けるデータの積み重ねが必要である。また、被験物質は物質特許が切れているため、医師主導型治験の実施を考慮した具体的な技術移転計画を進める必要がある。
生体由来抗酸化物質の抗ウイルス活性評価に関する研究熊本大学小原恭子フランス産松の樹液に由来するピクノジュノールの抗C型肝炎ウイルス(HCV)効果を評価した。ピクノジュノールのHCV1b型への複製抑制効果のIC50は、6-10μg/mL,2a型に対しては40μg/mLであった。また、HCV感染細胞(2a型)へのIC50は約5μg/mLで、細胞内より細胞上清中でより強い抗ウイルス活性を示した。インターフェロン(IFN)に対しピクノジュノールは強い相乗効果を示し、IFNとリバビリンに対しては相加効果を示した。ピクノジュノールの主成分であるプロシアニジンの抗HCV活性のIC50は100μMであり、IFN, Ribに併用効果を示した。試験管内においてピクノジュノールの強い抗HCV活性が認めらており、今後ヒト肝臓キメラマウス感染系等でさらに抗ウイルス活性の詳細な検討が必要と考えられる。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。ピクノジュノールがin vitroにおいて抗HCV効果を有すること、さらに、ウイルスの型に対する評価も実施された。その有効成分がプロシアニンであることを同定したことは評価に価する。ピクノジェノールのin vivoでの有効性については、さらなる検討が必要である。
シクロデキストリンの包接特性を活用したアミロイドーシスの新規治療薬の開発熊本大学城野博史アミロイドーシスは、原因タンパク質が不溶性のアミロイドと呼ばれる線維を形成し、生体内に沈着して臓器障害をおこす難治性疾患の総称であり、いまだ有効な治療法は確立されていない。本研究では、環状オリゴ糖の一種であるシクロデキストリン(CyD)誘導体の不溶性分子を取り込む包接特性を活用した、これまでにないアミロイドーシス治療薬の開発を目的とし、CyD 誘導体が、in vitro および in vivoにおいて、家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)の原因タンパク質であるトランスサイレチン(TTR)のアミロイド線維形成を効果的に抑制することを明らかにした。CyD誘導体は安全性に優れ医薬品製剤にも広く利用されており、アミロイドーシスの新規治療薬としての実用化が期待される。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。アミロイド症にシクロデキストリン(CyD)誘導体を用いるという研究であり、消化管筋層のTTR沈着量がGUG-β-CyDで減少から有効性が示唆され成果が得られている。FAPモデルを用いた試験は未実施であり、長期投与試験および体内動態についても検討することが必要である。
抗ウイルス宿主蛋白質APOBEC3Gの発現量を増やす抗エイズ薬の開発熊本大学藤田美歌子我々は、抗ウイルス性宿主因子APOBEC3GのHIV-1 Vifによるプロテアソーム分解を、メルカプト基をもつ人工キレーターMF1やそのジスルフィド体MF2、MF3が阻害することを見出した。本研究ではこれらの化合物を、毒性がなくかつ強い活性をもつように改変することを最終目標とした。この目標は達成できなかったが、この化合物は様々な蛋白質のユビキチン化/プロテアソーム分解を、プロテアソーム阻害剤MG-132とは異なる作用機序で阻害するということを示した。さらに、活性発現には化合物の4-ジメチルアミノピリジン環が重要であることがわかった。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。MF1、MF2、MF3がAPOBEC3の発現量を増やす以外にも、ユビキチン化/プロテアソーム分解を阻害することが見出された。このことは、HIV以外の治療にも期待できる。今後、化合物の作用機序の解明とともに低毒性の高活性物質の研究展開が望まれる。
新規C型肝癌マーカーDHCR24を利用した分子標的治療薬剤の開発熊本大学齊藤誠本研究開発においては、C型肝癌にてDHCR24が発現亢進するという我々の知見をもとに、我々が樹立した抗DHCR24モノクローナル抗体(2-152a)によるC型肝癌に対する抗体療法への応用の可能性を検討した。その結果、2-152a抗体が 抗腫瘍活性に重要なエフェクター機能(CDC活性)を有していることを確認することができた。また更に、本抗体にはこうしたエフェクター機能とは独立したユニークな機能(抗HCV活性)も備わっていることも明らかとなった。こうしたことから、本抗体はC型肝癌に対する抗体療法への応用の可能性が高いと考える。そこで、将来的な臨床応用を見据えて、本抗体の抗原認識部位(可変領域)以外をヒトIgG1定常領域と置き換えたキメラ抗体の開発にも着手している。また、肝癌細胞表面上のDHCR24分子が 2-152a抗体の結合を介して薬剤を効率的に細胞内に取り込むキャリアとして機能することも明らかとなり、この機能についてもC型肝癌治療への応用が可能であると考えられる。現在、2-152a抗体由来のscFvを構築し これを肝癌細胞表面DHCR24分子への標的・送達ツールとして 強力な細胞傷害活性を示す分子(ジフテリア毒素)を遺伝子工学的に連結した新規C型肝癌標的薬剤(イムノトキシン)の開発を進めている。今後は作製したキメラ抗体の機能を検証するとともに、新規イムノトキシンの肝癌細胞に対する抗腫瘍活性を検証していく。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。マウス抗DHCR24モノクローナル抗体(2-152a)については、エフェクター機能を検証することができた。また、サポリン標識二次抗体との共処理により肝癌細胞株HuH7に対して抗体濃度依存的に傷害活性が認められた。現在作製中の改良ヒト化抗体にてADCC活性について、早急に検討が望まれる。
新規マイクロRNAの探索と肺線維症に対する臨床応用宮崎大学柳重久本研究は、肺線維症のメカニズムの解明と新規治療法の開拓を目標とする。研究課題として、上皮phosphatase and tensin homolog deleted on chromosome ten (PTEN)による肺線維症制御機構とEMT制御との関連を検証すること、肺線維症モデルマウス肺組織とIPF症例肺組織を用い、PTEN発現および線維化・上皮間葉移行(Epithelial mesenchymal transition; EMT)・幹細胞恒常性関連遺伝子発現を制御するmiR発現を解析すること、候補miRの合成miRまたはanti-miR投与による肺線維症への治療効果を検討することで、miRの肺線維化制御機構を解明することを挙げている。本期間において、肺上皮でのPTEN発現はEMTを制御し、肺線維症発症抑制に重要であること、EMT関連分子の発現動態を制御することを突き止めた。現在これらの分子を制御するmiRの発現を、肺線維症モデル肺組織を用いて解析中である。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。PTEN欠乏モデルマウスを用いてブレオマイシン投与後にEMT由来の筋繊維芽細胞数がコントロールに比較して5倍に増加すること、PTEN発現がEMTを制御に関与することを明らかにした。病態に関与するmiRを見出し、標的遺伝子と治療標的としての可能性を検討していく必要がある。早急に、当初の計画目標であった1~3の試験うを実施する必要がある。

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