評価結果
 
評価結果

事後評価 : 【FS】探索タイプ 平成24年1月公開 - 情報通信分野 評価結果一覧

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課題名称 所属機関 研究責任者 研究開発の概要 事後評価所見
高い操作性を実現するタッチパネルの色彩デザイン支援システム構築室蘭工業大学須藤秀紹本課題の目的は,ATMや駅の自動券売機などで用いられているタッチ式パネルのインタフェースデザインを,操作性とデザイン性の双方から支援するシステムを開発することである。計画では分析エンジンと修正案作成モジュールからなるシステムを構築する予定であった。しかしながら分析エンジンの開発中に,色彩の組みあわせパターンによっては開発済みの知識DBがうまく機能しない場合があることが判明した。そこでインタフェースの明度と操作性との関連をより詳細に分析することで知識DBの精度向上に取り組んだ。また操作者が操作ボタンをどのように評価するかについての知識を新たに追加した。これによって,実用的な支援システム開発のための準備が整った。ほぼ予定通りの成果を得られ、技術移転に向けての可能性を示された。本研究の目的は、電子デバイスの操作画面のための色彩デザイン支援システムのプロトタイプをコンピュータ上に構築することにあり、電子デバイスの画面操作の正確性と速度、および操作者が画面から受ける印象の関係が明らかになった。高い操作性を実現するタッチパネルの色彩デザイン支援システム構築が、iPADのようなモバイル端末で行われたことは、評価できる。ただ、重要な評価実験が行われていないことが残念である。今後、IT企業などへの技術移転を積極的に行う必要がある。
3次元ウェハ積層のための新規Si貫通配線プロセスの開発北見工業大学武山眞弓ムーアの法則に則った2次元での集積化の限界が見え始め、3次元集積の要請が高まっている。さらにコスト面等を考慮すると、ウェハ単位での積層が将来的に主力となるものと思われる。本研究ではLSI工程の後、貫通ビアを作るビア・ラスト工程に欠かせない200℃以下での薄膜作製実現を目指して検討を行い、低温化する上で最も困難であったSiNx及びバリヤ材料の低温化に成功した。さらに、SiNx膜とバリヤ膜を同様のプロセスで作製できることから、TSV技術におけるプロセスの整合性という観点でも問題をクリアできた。なお、バリヤ材料に関してはPVDでもCVD/ALDにおいても200℃以下の低温プロセスで成膜を実証し、そのバリヤ特性は従来の反応性スパッタに匹敵する性能を示すことが明らかになった。期待通りの成果が得られ、技術移転に向けての可能性を示された。課題設定は既存技術との整合性をよく踏まえ、着実に取り組んだ結果、計画以上の進捗と成果が得られている。プロセスにとどまらない特性評価のステージに速やかに進み、実用化に近づける努力が求められる企業、あるいは学にある専門家との連携により提案以上の研究進捗が認められる。追加項目についても成果を挙げるなど、達成度は目標以上のものがある。費用面や、3D化技術の点では尚、Si LSIに関する鍵となる研究で企業との連携が必要不可欠である。知的財産の権利化推進と共に技術移転の推進が期待される。
曲面モデルの高効率圧縮技術に基づく3次元形状データ圧縮・転送システムの構築岩手大学今野晃市本課題は,平成21年度までに実施した研究成果に基づき,3次元曲面モデルデータを圧縮するデータコンバータと,圧縮されたデータを伸長して,モデルデータを描画するシステム構築が目標である。曲面データの圧縮は,特徴稜線で囲まれる閉領域を,接平面に基づいて生成した点情報を利用して,曲面を当てはめる手法に基づく。曲面データは,IGES 形式を想定しており,実験で扱った 1807 個の曲面に対して,91.3 % の成功率で本手法を適用することができ,平成22年度の実験結果である 500 個の曲面に対する90.5% の成功率から精度が向上した。また,XVL 形式から平均で 2.7 倍(IGES形式からは80.8 倍),最大で7.9 倍(IGES 形式からは141.4 倍)の圧縮率で圧縮することが可能である。本システムでは,当てはめた曲面の品質に関していくつかの問題が残されているので,今後は,品質向上に関する課題を解決していく予定である。ほぼ期待通りの成果を上げられ、技術移転に向けての可能性を示された。当初目標のうち、既存ツールへの組み込みは成功した。実データを用いた検証については、実行性についても圧縮率についても、目標を達成することはできなかったが、実用化にあたっての技術的課題を具体的に明らかにできた点を評価する。CADデータの調査結果、当初想定していたデータ表現とは異なるものが多数存在することが判明した。そのため約3分の1のデータに対して提案圧縮手法が適用できなかったことは、今後の改善を要する点である。今回基本的な技術が確認されたので、前記問題などの検討を元にした研究成果の展開が期待される。
災害現場モニタ用無線センサネットワークシステムの開発会津大学宮崎敏明災害現場の異常、特に人の有無を確認するために、直接現場に投げ入れるセンサノードに搭載すべき最適なセンサ種別とその組合せの決定、および、それらセンサを用いて人の有無を自動判定するアルゴリズムを創出することを目的に研究を推進した。その結果、定量的評価に基づいて選択した複数センサを搭載したセンサノードを試作すると共に、観測領域に存在する人の数および各個人の移動軌跡を同時推定するアルゴリズムを開発した。今後は、本開発技術を、別途開発を進めている災害現場モニタ用無線センサネットワークシステムに組込み、その実用化を急ぐ。当初期待していた成果までは至らぬまでも、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。いくつかのセンサーを搭載した球状プラスチックケースを試作したことは評価できるが、提案されていた人数と移動軌跡の同時推定アルゴリズムについては目標未達成である。また実環境での適用実験等も行われていないために技術的課題なども明確になっていないため、構想段階に近いものと考えられる。今後、プロトタイプのシステムにより基本データの取得や、現場での実証実験を重ねることにより実用性と性能の検証が望まれる。
ラインレーザスキャナ搭載無人小型航空計測システムの試作福島工業高等専門学校高橋一義作物の生育指標のひとつである「植被率」を三次元レーザスキャナ計測し推定する技術をベースとした航空機観測システムの実用化に向けた基礎データ取得を効率よく低コストで取得する、低運用コストな無人航空計測システムを試作し、その水平飛行性能を平面検出誤差により評価した。低速度移動可能な小型回転翼機に小型軽量ラインレーザスキャナを搭載した試作システムを開発し、平坦地を対象とした試作システムによる飛行計測(レーザスキャナ計測)を実施した。計測データから求めた鉛直距離により試作システムの平面検出誤差を計算した。その結果、試作システムは、高度2~6m、走査角±40度程度の範囲で、誤差 1.4~5.5cmの平面検出性能を有することを確認した。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。想定外の問題が発生したため未だ具体的成果を得るに至っていないが、問題は解決されたため今後研究成果が期待できる。装置の製作ならびに実験をした結果、回転翼機上のラインレーザスキャナの利用上の問題点を明らかにした。今後の研究開発については構想は示されているが具体的内容やスケジュールに再考の余地がある。今後上記点を含めて技術移転の観点からの更なる検討が望まれる。
自然言語による病理文字情報教師データ作成支援システムの開発(財)日本産業技術振興協会守谷哲郎病理診断の正確度は数値化が困難であるため、客観的評価が必ずしも容易でない。そのため、過失の種類、治療への影響が類型化され、診断の妥当性が評価されている。そこで、東大病院病理部・東大知の構造化センター・産総研による研究体制の下で、病理診断の適切性を監視する方法を研究してきた。この研究成果を踏まえ、技振協では、所見・診断の不一致や頻度の高い誤診、報告書の記載漏れ等を防止することができるようなシステムを確立するため、特に、IT支援により日常業務上で病理文字情報の管理、利用等について真に重要な病理文字情報を得るためには、最低限どのような点に注意して病理文字情報を扱ったらよいかを中心にして、『病理文字情報教師データ作成支援システム』の実用化に向けた研究を行った。当初期待していた成果までは至らぬまでも、技術移転につながる可能性を有る程度見出せた。本研究は所見・診断の不一致や頻度の高い誤診、報告書の記載漏れ等を防止することができるようなシステムを確立するため、『病理文字情報教師データ作成支援システム』の実用化に向けたものである。研究成果として、具体的な方法、検討内容、評価法、評価データの提示がなく、プロトタイプシステムが開発できたという点は評価できるが、そのシステムが真に有用であるかについての定量的な評価は明示さていない。また、講演発表は行っているものの、新規特許出願や、次のステップへ進むための技術的課題については今後の課題となっている。
高速移動ハイテク留守番犬ロボットの研究開発茨城大学福岡泰宏近年,不審者の進入を感知する高度なセキュリティシステムを備えた家が建築されているが,それらを既設家屋に供えるには多額の設備投資と手間を要する。そこで,本課題では、一般家庭の庭や屋内で不審者を見つけたら即座に駆けつける高速移動ハイテク留守番犬ロボットの実用化を目指した。申請者はこれまで様々な路面を高速移動可能な犬型走行ロボット「鉄犬」を開発してきた。本研究では,その鉄犬に距離センサを搭載し,不審者を追跡する機能の搭載を目指した。結果として,鉄犬がジグザグに逃げる人の足を距離センサで認識しながら追いかける実験に成功した。今後は侵入者の顔認識,主人の携帯電話や警備会社への連絡など,本物の番犬を超えるテクノロジーを搭載することで本課題が具現化されると考える。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。開発目標であった前方240°視野のジグザグ走行する人の確実な追跡機能の実現が重要である。人とロボットの距離を一定に追跡する基本機能は開発達成している。今後、各種センサーを追加搭載することにより高機能化を図る事など、4足ロボットの優位性を生かした高付加価値の応用分野に研究目標を絞り込むことが期待できる。早期に企業との協力を前提に実用化に向けた応用展開が期待される。
Mie散乱領域における囁きの回廊モード共振器を用いた波長スプリッタ筑波大学コール・ジェームズ・ビーMultimode optical fibers can carry many messages simultaneously, each one encoded in lightwaves of different wavelength (color) but at the receiving station, the messages must be separated. For this reason we need a wavelength separator. The usual ones are very large and also the different wavelengths are not completely separated. They are designed according to the principles of geometric optics in which the wave nature of light is neglected. We took a different approach. Using coupled whispering gallery mode resonators, the size of which are on the order of the wavelength of light, we designed a wavelength separator based on the principles of vector wave optics. A typical whispering gallery mode resonator is shown below in Fig. 2. It is just a dielectric cylinder. When light of a few special wavelengths is coupled into the cylinder, the light intensity (indicated by different colors: red = strong, blue = weak) inside and outside forms a static pattern. Light of other wavelengths does not form this pattern.
These are called whispering gallery modes, because sound waves in structures, such as domes, have a similar pattern. If either the wavelength of the light changes or the index of refraction changes (even slightly) the pattern disappears. Notice that the diameter of the resonator is only 640 nanometers (nm). By coupling whispering gallery mode resonators together, as shown in Fig.3, it is possible to not only guide light along a particular path, but also to send different wavelengths along different paths. While it is possible to calculate the electromagnetic fields of the light in simple structures, such as one cylinder, when many are coupled together, such as in Fig. 3, there is no analytic method to solve the problem. This is one reason why it is difficult to design practical devices using whispering gallery modes. Using new high accuracy algorithms that we have developed we have made a design for a compact wavelength separation device (see Fig. 4).
After verifying the accuracy of our new algorithms, we used them to design wavelength separator devices based on the following two concepts (see N. Okada, J. B. Cole, S. Yamada, K. Ogawa, Y. Katayama, “Nonstandard FDTD Simulation-Based Design of CROW Wavelength Splitters” in Advances in Optical Technologies, Vol. 2011, Article ID 265702, 6 p.) In both designs 1 and 2, we must decide the optimal spacing between the resonators ( ΔAA , ΔBB in Fig. 5; ΔOO , ΔOA , ΔOB , ΔAA , ΔBB in Fig. 6). If the spacing is too close some of wavelength A is lost in the B resonators and some of wavelength B is lost in the A resonators, but if the spacing is too large the efficiency of the separation goes down because both wavelengths A and B fail to follow their intended paths.
Because the whispering gallery mode resonators mutually interact, there is no analytic method to do this calculation. It is necessary to simulate light propagation for many different combinations to determine the optimal values of ΔAA , ΔBB ; ΔOO , ΔOA , ΔOB . We judge that we satisfied the goal, and have applied for a patent. In future work we would like to actually fabricate this device and test it. If successful we hope to develop a commercial product.
(図は省略してあります)
当初期待していた成果までは至らぬまでも、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。本研究開発計画のベースとなる「囁きの回廊モード共振器を用いた波長スプリッタ」に関し、研究責任者等によりこの一年間に数編の数値シミュレーションによる学術論文が出版されており、独創性の高い研究の活性度の高さが伺える。一方、波長スプリッタの設計、非線形屈折率材料やプラズモン共鳴に伴う異常分散媒質など、数値シミュレーションをベースとした研究展開の方向性が提案されているが、デバイスの試作やそれによる実証が進んでいない。当初予定していた企業との共同研究を進め、早期に実験検証に取り組まれることが期待される。
適応・学習理論に基づく知能化ディジタル制御電源の開発群馬大学橋本誠司本課題では、ディジタル制御による汎用スイッチング電源に対し、適応制御と学習理論を導入し、その知能化を図ることを目標とした。適応制御では、単一設計パラメータで、かつ対象の経年変化を補償できる軌跡追従性を考慮した制御系を構築した。さらに、規範モデルを持つ制御系に学習理論を導入することにより、負荷変動・外乱に対するロバスト性能向上を達成した。また、学習理論の重み係数変化に着目することにより、特徴パラメータを導出した。これにより、リアルタイムでの負荷状態推定を行う手法を提案し、その有効性をシミュレーションと一部、実験により検証した。今後の展開は、実験検証ならびに、提案する知能化技術の実用化へ向けた低コスト実現、実装手法の開発である。概ね予定通りの成果を上げられ、技術移転に向けての可能性を示された。スイッチング電源のディジタル制御について研究を行ってきた、これまでの成果に立脚し、汎用のスイッチング電源の知能化(高機能化)を実現しようというもので、これまでと異なる視点で電源技術の研究を行っている点が評価できる。応用として、電子機器用電源の基板上にそれぞれの回路ブロック必要な電圧を供給するオンチップ型電源を分散配置する方法もある。また、製品化には価格も重要なことから、今後は専用の電源や制御基板の開発など、製品化に向けたソフトウエアとハードウエアの実装がポイントになろう。
陽解法衝撃解析コードの建物地震応答解析への適用研究前橋工科大学河西良幸自動車等の衝突解析に有効性を発揮している陽解法の衝撃解析コードを建物の地震応答解析に応用し、阪神淡路大震災で多発し未解明の鉄筋コンクリート建物の崩壊現象のコンピュータ解析を可能にする適用研究を行った。そのため、E-ディフェンスで行われた実大6階建て鉄筋コンクリート建物の崩壊に近い現象にまで至った振動台実験のシミュレーション解析を海洋研究開発機構が所有する地球シミュレータ(大規模ベクトル並列型スーパーコンピュータ)を用いて行った。比較的良い結果を得、数値振動台として各種構造物の実大振動台実験等にかかる膨大な費用の軽減と効率化が可能となる見通しを得た。今後も研究継続の予定である。当初期待していた成果までは至らぬまでも、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。構成則モデルを試行錯誤により定めているが、企業化するためには、研究に蓄積を行い、モデルの設定ルールを整理することが望まれる。研究成果が応用展開された際には、社会還元に導かれることが期待できるものと考えられ、実大実験に置き換えるために模擬できるシステムなどにより信頼度を十分高める努力が必要である。
グループコミュニケーションを支援する複数ロボット車椅子システム埼玉大学小林貴訓車椅子利用者が同伴者と一緒に出かけるとき、車椅子が、まるで利用者が操作しているかのように、横に並んで同伴者に自動的に追従すれば、車椅子を操作する精神的、身体的負担を軽減できる。一方、介護施設などの現場では、介護者の不足から、一人の介護者が複数の車椅子を移動させている。そこで、本研究では、一人の同伴者に対して複数の車椅子が協調的に追従し、相互の会話状況に応じて位置関係を柔軟に変化させることで、同伴者と車椅子利用者がグループで会話しながら移動できるシステムの基礎的検討を行った。具体的には、複数の車椅子が互いの位置関係を把握できるようにし、適切な位置関係で一人の同伴者に追従できる枠組みを構築した。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。支援ロボットとして捉えた車いすの構成法の基礎的な研究ができたと判断できる。実用化までには、まだ基礎研究が必要な部分も多いが、超高齢社会に対応する重要な技術の一つであり、応用展開された場合の社会還元が期待できる。コミュニケーションを支援する内容と車いすユーザの本当に支援してもらいたい内容を明らかにして、真に効果のある方策などの観点からの更なる検討が望まれる。
触視覚ディスプレイによるデジタルサイネージの実用化に向けた検証首都大学東京串山久美子デジタルサイネージ(電子看板)とは、表示と通信にデジタル技術を活用して平面ディスプレイなどによって映像や情報を表示する広告媒体である。従来技術である視覚のディスプレイに対し、本技術では、表示部材の表示面を触ることによって、視覚情報に適した冷温覚触表示などの触覚表示を視覚と同一箇所に表現を感受することができるディスプレイ装置を提供できる。今回の検証により、観客の目を引き、視覚効果だけでなく触ることによる体験できる新しいディスプレイとして楽しみを共有できる可能性を提示できた。特に視線計測や生体情報、アンケートによる有効性など人間工学的なデータ収集と実用化ソフトウエアの開発が成功したことで、デジタルサイネージとしてより実社会へ向けた実用化の検討を図ることができた。今後の展開として、具体的な広告の表示など商業展示への実践や、福祉利用へ発展させたい。概ね予定通りの成果を上げられ、技術移転に向けての可能性が高まった。視覚と触覚による電子看板という発想は社会的にニーズも高く優れた内容で、将来的には技術移転につながる可能性は高い。現状では実際の具体的な広告の表示など商業展示への実践や、福祉利用への発展応用に至るには、まず、問題を十分に絞った上での詳細なフィールドテストが必要に思える。リハビリテーション器具など、特に社会的意義が認められることから、企業化に向けた可能性は高い。
生体情報と人工物を組み合わせた認証法による認証・課金システムの開発首都大学東京西内信之本課題では、商業施設・宿泊施設などで用いる認証・課金システムに、生体情報(指の輪郭線)と人工物(基準点2点を描画したシール状のもの)を組み合わせた新たな認証法を適用することを目指し、(1)新たな認証法のプロトタイプシステムの構築、(2)市場調査・事業可能性の検討、を目標として遂行した。目標(1)については、まだ検証段階ではあるが本認証法の有効性を十分に示す結果が得られた。この研究内容をとりまとめ、株式会社トッパンテクニカルデザインセンター(TDC)と共同して特許出願を行った。目標(2)については、株式会社TDCのネットワークを利用して事業可能性を検証した。今後は、本提案システムを実用化レベルまでクオリティを引き上げるためA-STEPの他タイプへの応募を予定しており、企業化を視野に入れて展開していく。当初予定の成果までは至らぬまでも、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。指紋のような個人を特定できる生体情報を用いるのではなく、低レベルな生体情報と人工物の組み合わせによる認証方式は、アミューズメント施設利用などの短期間での利用に適している。特許出願は行われているが、本研究は単純なマーカによる人工物の撮影実験であり、被験者数が5名と少なく、マーカの検討および多数による評価実験が必要である。また、なりすまし耐性に関するセキュリティの検討がなされていない。今後上記点を含めて技術移転の観点からの更なる検討が望まれる。
携帯端末による記憶学習支援システムの実装形態の探索研究首都大学東京池井寧本研究では、携帯端末(電子書籍リーダ類、スマートフォン、軽量notePC 等)上における電子文書の機能を拡張して、学習者が対象素材(デジタル教科書等)を能動的に学習するための機能をリアルタイムに利用できる基本機能を実証する目標に向けて開発を行った。その成果として、記憶支援のための記憶掛けくぎデータを伝達・共有するための基本設計を与え、記憶掛けくぎを付加する操作機能を実装し、記銘監視のための遮蔽表示または練習問題自動作成機能を実装し、問題作成のためのデータベースの設計を行なうことにより、すべての目標を完了した。今後は、急速に変化しつつある各種タブレットに適合させる開発を実施し、我が国独自のデジタル教科書を有効な学習基盤とし得るように実用化を目指す。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。研究の目標である、「記憶掛けくぎデータの伝達・共有機能」「記憶掛けくぎの付加操作機能の実装」「練習問題自動作成機能」がおおむね達成された。デジタル教科書の実用化を目指すことは今後の重要な目標課題である。特許等の出願の時期ともかかわるが、研究成果の早期の公開が望まれる。
選択論理を利用した超高速な差積演算回路とその実応用回路の設計早稲田大学戸川望差積演算は高速フーリエ変換や超解像処理など重要な応用回路の基本演算として頻出する演算であるが、減算と乗算の順序関係のため演算時間が増大するという問題点がある。これに対し申請者は、差積演算を2進表現し展開し途中項をxizi+yizi(xi,yi,ziは1ビット変数)という形式で表現することに成功した。これは選択論理と呼ばれ桁上げがなく、前処理として高速演算すれば途中項数を1/2に、つまり差積演算時間あるいはその面積を最大1/2に削減できる。この成果のもと本申請では、高速フーリエ変換の基本演算としてバタフライ演算を高速化、続いて、超解像処理の基本演算として加重加算を高速化・低面積化した。バタフライ演算では11%以上の高速化を達成し、加重加算では25%以上の高速化および最大50%の低面積化を実現した。今後、これらの基本演算の高速化・低面積化により直接、デジタルテレビ規格で用いられるOFDM(直交波周波数分割多重)方式や、超解像処理、3次元画像処理を等して、たとえば次世代デジタルテレビ放送などに対して大きくその飛躍が期待できる。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転に繋がる可能性が高まっている。差積演算高速化を高速フーリエ変換回路、及び高解像度画像処理に応用してほぼ目標を達成した。基数や入力数、ビット長などの様々なパラメータの要因があるため、更なる実験が望まれる。今後ますます需要の大きい画像処理分野等企業との連携を図り、早期実用化していくことが望まれる。
ユビキタスなアクティブセンシングによる高能率な感性のモデル化中央大学加藤俊一ショップなどの実空間内での消費者の自然な行動の履歴から、個々の消費者が興味・関心をもつ商品やその属性・属性値を高精度・高速に推定する技術を確立することを目標とした。 視覚センサー群により取得した見る・触る・手に取るなどの行動履歴データ、商品の属性データの統計的分析やラフ集合解析から、一定時間滞在した消費者が興味・関心をもつ商品やその属性・属性値を70~90%程度の精度で推定するアルゴリズムを開発した。また、デジタルサイネージ群からの動的な情報提示に対する注視などの反応の履歴も合わせた分析により、推定の精度を5~10%程度向上させることができた。 デジタルサイネージから提示する情報の効果的な選択の手法を確立し、推定の速度を高速化することが今後の課題である。ほぼ期待通りの成果を上げられ、技術移転に向けての可能性が高まった。視覚センサ群とデジタルサイネ―ジ群を統合利用して、ラフ集合解析によるデータマイニングにより、消費者の行動評価(アクティブセンシング)を実現し、70-90%の高精度で消費者の興味・関心の推定を実現しており、オリジナリティが高い。実験結果分析のレベルにとどまり、当初目標である感性のモデル化や観測時間の短縮には至っていない。実用化のためにはこれらの達成が必要だと考えられる。購買行動のモデル化については、社会的ニーズは高いと思われ、今後の研究進捗に期待する。
MPEGアノテーションを用いた協調型ホームビデオ共有システム電気通信大学森田啓義本課題では、同じ場にいる人たち同士が様々な位置・アングルから撮影した動画や静止画を用いて、自分の見たいシーンを互いに補間し合う多アングル映像を実現するために、すでに開発したMPEG動き解析システムの高速化と高精度化に取り組んだ。高速化に関しては、H.264で圧縮された動画像データから動きベクトルなどの符号化パラメータを利用することで、カメラ視野内をさまざまな方向に直線移動する物体の空間軌跡をリアルタイム測量することが可能になった。この測量結果から、2台のカメラで捉えた7名の人物の軌跡を約7割の精度で正しく連結する手法を考案したが、カメラ台数や撮影人物数を増やしてより詳しい精度評価を行うことが今後の課題として残されている。当初予定の成果までは至らぬまでも、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。同じ場にいる人たち同士が様々な位置・アングルから撮影した動画や静止画を用いて、自分の見たいシーンを互いに補間し合う多アングル映像を実現するために、すでに開発したMPEG動き解析システムの高速化と高精度化に取り組み、2台のカメラで捉えた7名の人物の軌跡を約7割の精度で正しく連結する手法を考案した点は評価できる。同一時空間を共有するカメラ映像による人物軌跡の同定技術として、交差点など公共の場所における複数カメラを用いた安全監視サービスなどへの展開が期待できる。高速、高精度化、知的財産化などの点での今後の進展に期待したい。
既存Ethernet網の待機資源有効活用により通信品質向上を実現するEthernet Bypassに関する研究開発東京工業大学山岡克式これまでの検討の結果、EBN(Ethernet Bypass Node)により、既に構築されているEthernetネットワークにおいて、容易かつ安価に、特定のノード間の通信を待機リンクにバイパスし、トラヒック分散による通信品質向上を実現可能であることが、示されている。しかし、現時点では、オペレータが手動でEBNに対して設定を入力する必要があり、本来は管理コストのほとんどかからない、Ethernetネットワーク管理のコストを増加させてしまう。 そこで、EBNのさらなる実用化を目指して、本研究期間では、バイパス対象となる通信の自動決定、および、その結果に従ったバイパス経路決定の自動化を目標として、研究開発を行った。その結果、複数台のEBNをネットワーク上に配置した場合に、いずれかのリンクやスイッチに障害が起きた場合に経路を再構成するSTPが、そのままでは正常に動作しない問題を、研究期間内に解決した。当初予定の成果までは至らぬまでも、技術移転につながる可能性を有る程度見出せた。想定外の問題が発生したため未だ技術移転につながる成果を得るに至っていないが、問題は解決されたため今後研究成果が期待できる。当初予定した2/3が遂行されたが、第3の課題である「EBNへのバイパス自動設定」が手付かずである。今後上記点を含めて技術移転の観点からの更なる検討が望まれる。
テレモビリティ技術によるヒューマンアクティビティの新展開慶應義塾大学桂誠一郎本研究開発では、人間にとって安全で豊かな生活を支援しつつも生活に伴うエネルギー消費の削減を実現するために、実際に空間的移動を伴わなくとも人間の行動を遠隔地で代行し実現する「テレモビリティ技術」を開発することを目的とする。本研究開発の実施により、アクセル・ブレーキ・ステアリングインタフェースのついた新しいハプティックデバイスによる遠隔地からの感覚フィードバックが可能になった。これにより、物理的な移動を伴うことなく身体性を拡張して遠隔環境で行動するICTインフラの確立が期待される。今後はインターネットと統合しネットワークの通信遅れ補償を開発するとともに、共同研究先企業と実用化へ向けた研究を進めていく。期待を大きく上回る成果を上げられ、技術移転に繋がる可能性を大きく高められた。マスタスレーブシステムが異構造・異動作範囲である車両型テレモビリティシステムの開発、及び、触覚情報のリアルタイムフィードバックの確認が主体の研究である。視覚、聴覚、触覚情報をリアルタイムで同時処理が可能となれば、遠隔地や極限環境におけるロボット等の操作への応用に期待できるが、インターネットと統合してネットワークを利用した遠隔操作を行うためには通信遅れを補償する技術の評価、開発も進めることで、実用化の可能性を高められると思われる。
集積化可能な超高速カーボンナノチューブ発光素子開発慶應義塾大学牧英之本研究課題では、CNT発光素子を用いて、発光の高速変調機構の解明や素子構造の検討により超高速・超小型・省電力・低コストの発光素子を開発するとともに、実際に光ファイバーを用いた光通信の実証実験を行うことにより、現在の化合物半導体では実現が難しいシリコン上へ集積化可能な微小発光素子を実現することを目指して、研究を進めた。CNTへの電界印加による発光を詳細に解析することにより、電界印加によるキャリアの励起機構およびそれらの緩和機構を明らかにした。また、時間分解測定による高速応答性についても評価した。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。カーボンナノチューブを用い電界効果トランジスター構造において、エレクトロルミネッセンスを測定し、電界発光スペクトルについて、励起子発光の観点からの考察をより一層深めている。当初目標としていたSi基板上への素子の実現など、応用展開を睨んだ研究を推進し、実用性の検討を推進することが望まれる。高速応答のCNT素子の実現に成功しており、ほぼ期待通りの成果が得られているので今後産学共同研究への発展が期待できる。
感性マルチメディア対応ディスプレイの評価法に関する研究東海大学伴野明デジタルサイネージやバーチャルリアリティへの応用を目的として、香り付き映像(感性マルチメディア)を表示できるディスプレイを試作し、その嗅覚特性、及び、表示対象への誘目性・関心などの心理的効果を評価する手法を検討する。当該ディスプレイは、薄型LEDパネルを使用し、画素間に多数の穴を設けることで画面の中から香りを放出できる機能がある。映像と香りを一体化させて提示できる特徴があるため、その際の心理的影響を従来のディスプレイと比較することで、感性マルチメディア対応ディスプレイの有効性や課題を調査した。被験者実験によって、当該ディスプレイは、映像に連動して香りを提示できること、その際、臨場感が向上し、脳血流や皮膚コンダクタンスなどの生体反応が変化することを明らかにした。ほぼ期待通りの成果を上げられ、技術移転に向けての可能性を示された。香り付きディスプレイを実現し、その効果を検証した。香りと映像の一体化の効果を生体信号の変化で示した。一体化ディスプレイの効果検証方法が開発され、生体信号以外の変化で、その効果が確認されれば、産学共同研究の開発ステップにつながる可能性がある。気流に乗せて香りを知覚させる方式の有効性の評価を進めていただきたいことと、ディプレイに穴を開ける方式の実用性が不明である。
高齢者・障害者の見守りと外出支援システムの構築富山県立大学松本三千人高齢者・障害者が積極的に外出(社会参加)する事を支援するために、要支援者宅に情報端末及び見守り用センサを設置し、外出のきっかけを作るための「イベント情報の提供」や「交通手段の提供」等を行い、より外出し易い環境を構築する。また、外出時においては、その人にとって必要な時に必要な情報を提供する仕組みを構築する事を目標とした。 本研究開発では、赤外線センサ、ドップラーセンサを設置する事で、情報端末の前に人がいる事を認識し、人を認識した事をトリガーにして、情報端末上に情報を表示する仕組み、また、視覚障害者が一人で屋外を移動するための支援の仕組みを構築した。 今後は、上記開発した要素技術を統合し、トータルシステムとしての評価を進めて行く。当初予定の成果までは至らぬまでも、技術移転に向けた可能性は一定程度高まった。システム試作により、当初目標としていた研究課題の整理ができており、概ね期待通りの成果が得られている。公益性が高いため、目標の達成およびシステムの受け持ち先が決した段階で、広範囲な社会還元性が期待できる。一方、システム運用主体の想定が不十分であるため、研究成果の技術移転先あるいは連携企業先があいまいに終始している。介護施設経営会社、NPO、行政、公益法人等、類似先例を手掛かりに何らかの項目立てにより整理する必要があると考える。
寄り回り波予報・通報システムの構築に関する基礎研究富山高等専門学校河合雅司沿岸技術研究センターが試験運用しているうねり性波浪の予測・監視システムの波浪予測情報について、波浪計により観測された値と比較することによりその予測精度を調べたところ、うねり性波浪について、現在の予測システムでは十分でないことが確認され、寄り回り波予報・通報システムを構築するための基礎的な研究を行う本研究の目的はほぼ達成された。ただ、2010年秋から2011年春にかけては、顕著な寄り回り波は来襲しなかったために、寄り回り波の来襲と水位上昇の関係については成果が得られなかった。今後は、能登半島先端に設置した波浪計で寄り回り波を事前に捉えて予測する機能を現在のシステムに追加することにより、より信頼性の高い波浪予報の実現を目指す。当初予定の成果までは至らぬまでも、技術移転につながる可能性を有る程度見出せた。能登半島先端海域に波浪計を設置し、富山湾沿岸に来襲するうねり性波浪を監視するシステムを構築されたが、計画した精度(1時間間隔)のデータが得られていない事、データ取得期間が限定的で寄り回り波の観測自体が行われていないなど、計画の前提となるデータの取得が行われていない。一方、観測システムの不具合などきちんと評価している。今後上記点を含めて技術移転の観点からの更なる検討が望まれる。
非線形相互作用を考慮した高波・津波の高精度予測シミュレーター開発富山大学奥村弘従来、気象庁を始めとする高波・津波予測シミュレーターでは、複雑な海岸線と極浅海域における海洋波動の非線形性を正確に表現できないため、沿岸線で数十から数百mで発生する高波の局所的な集中予測までには至っていない。一方、本研究では海洋波動の数理モデルとして、非線形保存型の浅水長波方程式に対して有限要素法に基づく計算力学手法を採用することにより、深海波の性質(分散性)と、極浅海域での非線形性を同時に考慮する。海底地形データをもとに富山湾における波の大規模コンピュータ・シミュレーションを行った。その結果、寄り回り波の基本的な発生メカニズムは、富山湾固有の複雑な海底谷と、海岸から1km~5kmの沿岸域内における急激な海底地形により発生する大きな『屈折』を伴った浅水変形が波エネルギーを局所的(沿岸線で数百m)に集中させることで波高が高くなる現象であることを示した。予定以上の高い研究成果を達成され、技術移転に繋がる可能性が大いに高まった。有限要素法による大規模コンピュータ・シミュレーションを行い、富山湾に発生する日本海側からの寄り回り波の基本的な発生メカニズムを明らかにした。湾内に於ける地表や、海面下のデータを構築、現象にとって本質的な非線形項をモデル化し、計算パワーを投入することによって、メカニズム解明成功に結びついている。更に、非線形保存型の浅水長波方程式に対して有限要素法に基づく計算力学手法を採用することにより、深海波の性質(分散性)と、極浅海域での非線形性の両者を扱うことのできるシミュレータが開発された。これにより、現象のメカニズム解明が大きく進んだ。幅広い応用分野での研究開発計画の立案にとって大きな学術的基盤を形成したこととなり社会還元に導かれることが期待できる。例えば大地震時の津波予測や、地域、もしくは全国の防災システムへの採用が期待される。
レッグウェアにおける審美性評価方法の開発金沢大学若子倫菜本課題の目標は、脚部マネキンを用いたパンティストッキング(PS)における審美性(透明感・立体感)の評価方法を開発することである。PSの審美性はPS着装脚部明度と素肌脚部明度との明度差分布を用いることで評価できることがわかっている。明度差分布の基礎となる素肌脚部の明度ヒストグラムについては、照明照度を人脚部よりも小さく、脚部マネキン表面の光沢を小さくすることによって人脚部に近似できることがわかった。また、脚部マネキンの明度ヒストグラムを人脚部の明度ヒストグラムに近似するだけでは、従来の明度差分布を用いたPS審美性評価方法にそのまま適用できない事がわかった。今後は、脚部マネキン表面の光沢の程度や部位についての詳細な検討およびPS原糸の種類に合わせた明度差ヒストグラムの解析方法を検討する予定である。当初予定の成果までは至らぬまでも、技術移転につながる可能性を有る程度見出せた。開発・製造・顧客に対する店頭でのプレゼンテーションにおける、一貫した「審美性」に対する評価法を画像表示システムとして実現しようとする取り組みである。今回の研究成果からは、従来からのデータ収集、解析の段階から進んでいるとは見えず、具体的な画像表示システムの提案に進める必要がある。また、脚部マネキンと人脚部の相違とその評価を行う事に加え、データの蓄積から、更にシステム化へ進展させるためには、画像表示における専門的企業とのコラボレーションの実現が望まれる。
マイクロ・ナノインクジェットシステムによるマテリアルインタフェイスの風合評価データベース北陸先端科学技術大学院大学永井由佳里マテリアルインタフェイスの質感は製品の価値と深く関係している。製品内部機構に用いられていた材料が、表面素材に用いられるケースとして、液晶の基盤用のフィルムが、操作用タッチパネルで使われるなど、これまで人の目に触れたり、触られたりすることが少なかった材料が製品のインタフェイスとして最前面に登場するようになった。本研究の目的は、マイクロ・ナノインクジェットシステムによるマテリアル等に触れたときの感触をインタラクションにより生じる風合い感性情報として定量的に評価することと、その評価に寄与しているインタラクションの質的情報をデータベース化することである。その際、インタラクションとしての風合い情報を次の三種に階層化し扱うことができる点に着目した。 (A) 視覚認知 (B)接触知覚反応 (C) 触感(触り心地) 人間が総合的に評価していると考えられる風合い情報は上記の(A)(B)(C)が不分離で混在している。新規に開発すべきマテリアルに期待される特徴を策定するために、新規マテリアルを操作し、上記の3種類の関係性と総合的な好感度との相関を探る必要がある.その観点でマイクロ・ナノインクジェットシステムによるマテリアルと比較試料との関係を定めた。マイクロ・ナノインクジェットシステムにより作成したマテリアルの特徴は、透明であるため(A)視覚認知 においては14種のうちの2種(ガラス、プラスチック)と区別ができないが、(B)接触知覚反応及び(C)触感においては明らかに異なるというものである。(マイクロ・ナノインクジェットシステムにより作成したマテリアルは開発を担当した企業の権利保護のため現時点では開示できない) 本研究の特徴(オリジナリティ)は、新規なマテリアルにおいて、人がどのようにそれを感じ取るかという問題について、上記の三階層として(A)の視覚認知における色彩の影響、(B)の接触知覚のパターン解析、及び(C)の触り心地と操作感評価の関係を分析した。*ゴール:実験結果の分析を踏まえ、特にプロダクトマテリアルの開発においては、上の(B)と(C)の重要性を確認した。さらにこれらの相互関係を探り、マテリアルインタフェイスの風合い感性情報として統合したデータベースを構築した。ほぼ期待通りの成果を上げられ、技術移転に向けての可能性を示された。マテリアルの風合い感(触感)の定量化手法の確立と感性情報データベースへの統合は、企業の商品企画設計段階で有効なツールとなる可能性が高い。マイクロ・ナノインクジェットによるパターン印刷での好感度のコントロールも魅力的な表面処理技術であり、量産の技術を検討すれば技術移転の可能性が高いといえる。触感に影響する素材の表面性状(形状や粗さ)熱特性(熱伝導率や表面温湿度)等の物理的データを伴っていると設計者へのフィードバックが早くなるものと思われる。尚、風合い感という感性情報の定量化手法の基礎は示されたが、産業技術としては依然としてデリケ-トで主観依存性が強い。実用技術としての一層の単純化、簡潔化、汎用化が望まれる。
テザー係留飛行ロボットによるモニタリングシステムの開発福井大学高橋泰岳単体のテザー飛行ロボットの設計・製作を行い、飛行ロボットの運動性能、発電性能、情報収集発信性能を明らかにするのが目標であった。 ジャイロ・加速度センサ等を搭載した翼長約2mの試作機を製作した。カルマンフィルタを用いた姿勢推定器を設計し、フィードバック制御による姿勢制御器を構築した。実験に適した気候条件を満たす日が少なく、屋外飛行実験による制御器の性能を評価できなかったため、屋内で風速3-4m/秒程度の風を受けた状況での姿勢制御の基礎実験を行い、基礎的な姿勢制御性能の評価を行った。 今後は浮揚機能を持たせるために推進装置を搭載し、地上よりも風力の強い上空まで浮揚するための制御器を構築する必要がある。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性は一定程度高まった。設計・製作、風力発電性能評価、プロペラとモータの搭載等、実施計画の目標が未達である。実験を行うための条件(気象状態)が整わず、計画で意図した実験が実施できていないため、予定のデータが得られていない。気象条件の変化に対応して自律的に停留できるテザー係留飛行ロボットのプロトタイプの完成が必要である。今後上記点を含めて技術移転の観点からの更なる検討が望まれる。
GPUを用いた高精細映像の低遅延配信技術の開発山梨大学安藤英俊GPU上での高速な画像処理と符号化により100Mbps程度のネットワーク環境においてフルハイビジョン映像を低遅延に配信する技術を開発した。これによりPCとGPUそして民生用フルハイビジョンカメラ等の安価で広く入手可能なパーツの組み合わせだけで、従来よりも高品質なテレビ会議、遠隔講義、遠隔医療システムを構築することが可能となった。開発した技術は特定の映像規格やインタフェース等とは独立のため、様々な映像入力機器に対応可能で将来性が確保されている。プログラムのチューニングによりノートPC等でも利用可能とし、映像品質についてはPSNR値40程度を達成した。今後は様々な双方向遠隔映像配信に適用してゆく。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性を示された。 GPU上での高速な画像処理と符号化により100Mbps程度のネットワーク環境においてフルハイビジョン映像を効率よく圧縮する技術を開発している。この圧縮技術は、映像品質としてPSNR(Peak Signal to Noise Ratio)値40程度を達成した優れたものである。今後の実用化の可能性について、高品位回線環境向きだけでなく、それが期待できない環境における活用について言及している点や、実用化が期待される遠隔授業、遠隔医療分野の専門家と具体的に検討して、今後の方向性を確認している点は評価できる。今回の成果は、技術移転につながるものと判断できるが、新規特許出願による権利化や、ネットワークを含む遅延、圧縮技術としての実用性を検討・明確化していただきたい。
物理的な手がかりにより入力性能向上をはかるタッチスクリーンキーボードの開発山梨大学郷健太郎本課題では、タッチスクリーン用ソフトウェアキーボードに物理的な手がかりを与えることで、文字入力に関するユーザビリティ向上を目指し研究を行った。物理手がかりとして、凸手がかりと凹手がかりを提案した。これの提案手法について試作を行い、ユーザによる文字入力速度と誤り率を計測した。さらにユーザによる主観評価を行った。現在の試作では、手がかりのないソフトウェアキーボードによる作業と比べて、文字入力速度と誤り率に有意差はみられなかったが、主観評価からは物理的手がかりの有用性が示唆される結果が得られた。以上の結果をもとに、新たにコンビネーション手がかりの提案を行った。当初予定の成果までは至らぬまでも、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。物理的な手がかり(凹凸)を付加したタッチスクリーンは試作できている。評価検証も行われているが有効性が十分ではない、という結果が得られている。また、被試験者の数や、年齢などの条件に偏りがあると見られるが、これらを含めた考察などが進められていない。今後上記点を含めて技術移転の観点からの更なる検討が望まれる。
標本化ファイバブラッググレーティング作成技術の改良山梨大学塙雅典本課題では高速光信号に対する全光トランスバーサルフィルタとして機能する標本化ファイバブラッググレーティング(SFBG)の作成において残留位相誤差と挿入損失を低減する方法を検討し、SFBG型光トランスバーサルフィルタの実用化可能性を検証した。残留位相誤差の原因である位相トリミング後の位相後退量を実験的に評価し、所定の位相トリミング量を得るための過剰トリミング量の実験式を得た。またFBG挿入損失の低減を目的としてFBG書き込み用紫外ビーム光のエネルギー密度改善のために現有装置に高倍率の投影レンズを導入した。これによりエネルギー密度向上は実現できたが、同時にビームコヒーレンス低下が生じ、FBGの低挿入損失化は実現できなかった。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。当初掲げた目標の(位相誤差、損失の低減、多重反射抑制)の内、位相誤差を目標値内に納めることができた。残された損失、多重反射ともに実用化にとっては極めて重要な項目である。また、エキシマレーザを用いた精度の高い高品質のFBGの量産性についても今後検討すべき課題である。今後、上記点を含めて技術移転の観点からの更なる検討が望まれる。
対数型美的曲線によるデザインの官能評価試験静岡大学三浦憲二郎対数型美的曲線を実務に使用した場合、高品質な曲面が生成できるのか、またデザイン業務をどの程度効率化できるかについての基礎データはまったく存在しない。そこで、プロのデザイナやデザインを専攻する大学生に、実際に対数型美的曲線を用いて自動車、マウスやボトル等をデザインしてもらい、出来栄えやデザイン効率に関する官能評価試験を実施した。官能評価試験の結果をまとめると、対数型美的曲線を用いると、通常の曲線よりも素早く容易に美しい曲線を生成することが可能である。また、手書きのラインに近似させやすく、2次元の曲線から3D化する際に面の歪みが少なく、より意図した形に近い曲面が生成できる、との評価を得るとともに、デザイン業務全体の効率は約1.25~1.5倍に向上することが分かった。 概ね予定通りの成果を上げられ、技術移転に向けての可能性が高まった。CADにおける意匠設計において対数型美的曲線を使用することの効果を検証することが目的であり、種々の官能検査から対数型美的曲線を使用することの効果を明らかにしており、ソフトウェア開発に繋がる研究成果が得られている。官能評価試験など、デザイナ感覚に近く、数値的に整った曲線を約1.25~1.5倍の効率アップの成果が得られた。対数型美的曲線をCADで使用する場合の操作性の観点から、解決すべき機能が技術課題として明確にされている。実用化に向けた方針が具体的であり、開発技術の権利化を含め、次のステップへつながる可能性は高い。
伝統技法『絞りの絵付け・型彫り』工程の電子化システムの開発愛知県産業技術研究所福田ゆか目標であった【手描きの絞りの柄(元絵)の電子化】【元絵に対し3種類の絞り技法の自動割り付けを行うソフトウェアの開発】【カッティングプッロッタを用いた「型彫」工程のシステムの開発】【試作品の作製】について実施した。現在手描きで行っている絞りの図柄入力から型紙出力までの工程の代替として、『「絵付け・型彫り」工程の電子化システムを開発する』という目標を概ね達成できた。 開発したシステムは『絞りの絵付け・型彫り』工程の代替として使用可能であり、操作性などの改良を行うことで技術移転による実用化が可能であると考えられる。 開発したシステムは主に PC で作業するため『工程・技術』の保存が可能となり、型紙作成までの『作業時間・コスト』共に大幅な削減が期待できる。概ね予定通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まった。研究目標である「元絵の電子化」「元絵に対する自動割り付けを行うソフト開発」「型彫工程のシステム開発」「試作品の作成」の全てにおいて当初の目標に達しており、作業時間の短縮化やコスト削減が期待される。伝統技法の電子化システム構築は重要である一方、今後の技術開発、研究開発計画については不明確である。特許性のある技術と考えられるので権利化の推進と共に技術移転や社会還元に関して、実用化的側面からの産学共同体制が期待される。
コミックの電子書籍データ生成システムの開発中京大学山田雅之コミック画像から電子書籍向けのデータを生成するシステムを開発した。このデータはコミック1冊の論理的ページ構成、ページ内コマ・台詞構成および登場人物リスト、台詞発話者などの情報を表し、XML形式で記述され、多様な活用が可能である。システムはコミック画像からコマ抽出、コマ整列、台詞抽出、台詞整列、台詞文字認識を自動で行う機能、および、データ編集のための直観的ユーザインタフェースを備える。目標はコミックデータ作成にかかる作業時間を短縮できるシステムの開発であり、本システムにより短縮が可能となった。コマ抽出・台詞抽出の精度の向上、操作機能の充実およびデータの活用提案を今後展開する。概ね期待通りの成果が得られた。コミックの電子書籍データ生成システムの開発は、順調に進んでいるようであるが、さらなる性能の向上、今後の利用分野についても、具体的に研究を進めることが望まれる。当初の目標であった処理時間10分の1以下の達成と、広範なコミックデータ抽出のためのベクトル形式のデータ処理へのさらなる検討が期待される。学会等での発表や特許出願でのアピールが無いので、その点が今後必要である。研究開発の目標は、ほぼ達成されているようであるが、技術移転の可能性は対象となる製品や業界が見えにくい点が問題と見える。
組み込み神経回路によって環境に自動適応する太陽電池の最大電力点高速追従装置中部大学山内康一郎組み込み機器向けの追記学習を可能とする神経回路ソフトウエアLimited General Regression Neural Networkを提案し、これをマイコンに組み込んで太陽電池用最大電力点追従コンバータを製作した。これにより、太陽電池固有の電流-電圧特性を運用中に自動的に学習し、常に高速に最大電力点追従制御を実現する。特にこのコンバータではマイコンの電源を、装着した太陽電池セルから賄うように設計されており、個々の太陽電池セルに装着してバイパスダイオードを介して直列つなぎにすることが可能である。こうすることで、複雑なIV特性を持つ場合においても正確かつ高速に最大電力点追従を高速に行うことを可能にした。概ね予定通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まった。組み込み機器向けの追記学習を可能とする神経回路ソフトウェアを新たに提案し、これをマイコンに組み込んで太陽電池用最大電力追従コンバータを製作・実験し、高速に最大電力追従制御が可能であることを確認している。コンバータに搭載している制御用マイコンの電源供給技術など、実用化技術の面での検討の余地が残る。今後、上記の他、搭載されるシステムに応じた制御技術や、コスト面での分析、追及などの検討が望まれる。
乗物運転手の眠気予兆検知システム実用化に関する研究中部大学平田豊本研究は居眠り運転を防止するために、運転手の眠気の「予兆」を検出する技術に関するものである。従来の居眠り運転防止装置は、何らかの生体信号から「居眠り」を検出する方式がほとんどであった。そのため、眠りかけた状態で注意を喚起されても、回避動作が一瞬遅れ事故に到るという問題があった。そこで、ヒトが眠気を自覚する前から変化し始める『眼』の動作があることに着目し、その動作を検出する技術を開発した。本研究では、この技術を実用化するために、運転手への装着が不要な、非接触型の眼球運動計測システムを開発する。ほぼ予定通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。乗り物運転手の眼球運動を計測することにより、その眠気の「予兆」を早期に発見し、居眠り運転防止装置に利用した点が高く評価できる。実験で得られた成果のフィードバックを繰り返すことにより実用化の精度を高めることが望まれる。また、実時間で運転者の眠気状態を算出するソフト&ハードウェア開発、システム設計と試作品による機能検証が報告され、知的財産権の確保も行われているなど技術移転への可能性が期待される。
In-Body/On-Body ワイヤレス通信機の開発名古屋工業大学王建青高齢化社会の到来に伴い、各種の人体装着或いは埋込み型生体センサに通信機能を持たせ、それらの生体情報を医療・ヘルスケアに活用するボディエリアネットワーク(BAN)の確立に対する期待が高まっている。本研究では、人体埋め込み型生体センサの計測データをワイヤレスで人体表面に送り出すためのIn-Body/On-Body通信機の開発を目的としている。これを実現させるために、超広帯域(UWB)変復調方式を取り上げ、人体内外間の伝送特徴をとらえたUWBローバンドインパルスラジオ変復調方式(IR-UWB)の回路構成を明らかにし、それを採用したIn-Body/On-Bodyワイヤレス通信機を試作した。また、評価実験の結果、10Mbpsの伝送速度、60dBの人体内外間の伝搬損が対応できることがわかり、ほぼ当初の研究開発目標は達成できた。概ね予定通りの成果を上げられ、技術移転に向けての可能性が高まった。体内-体外ワイヤレス通信の実現により、医療・ヘルスケア分野への技術移転が期待できる。本課題の成果を基にして今後の展開が具体的に述べられている。アンテナ部分の小型化を含む全体的な小型化が今後の課題である。 今後の展開としては、医療・ヘルスケア分野において応用展開される可能性が高い。研究成果が応用展開された際に、社会還元に導かれることが大きく期待できる。
複数アンテナ中継器を用いた超高信頼無線制御信号伝送方式の開発名古屋工業大学岩波保則工場や病院などのロボットや医療機器制御における無線信号の伝送に於いては、再送は許されず、リアルタイム性と誤動作防止の為の超高信頼性を有する無線通信方式が必要である。申請課題は、複数の送受信アンテナを用いるMIMO通信方式と中継器リレー伝送を組み合わせて超高信頼な無線制御信号伝送方式の開発を目指すものである。複数の送受信アンテナを用いるMIMO通信方式に関しては、MIMO OFDM方式に関し、リアルタイムで受信信頼度であるBER(Bit Error Rate)値を推定する方法を開発した。また、中継器リレー伝送方式に関しては、最尤推定法に基づくBER値が最小となる受信判定方式を開発した。ほぼ期待通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まった。複数の送受信アンテナを用いるMIMO通信方式と中継器リレー伝送を組み合わせて医療機器用途などに向け、、超高信頼な無線制御信号伝送方式の開発を目指すものである。大容量と長距離伝送についても改善すれば、より応用面が広がるものと期待される。今後LDPC、リレー伝送、MIMO-OFDMを組み合わせたリアルタイム伝送についての評価、検討が望まれる。
関係型データマイニング法の実利用試験名古屋工業大学犬塚信博データに潜む規則性を獲得するデータマイニング技術(以下、DM)は経営、医療、金融等あらゆる分野で注目される。関係型DMは述語論理(述語と関係は同義)を基礎に論理パターンを抽出する技術で、AI(人工知能)分野で起こり、現在注目される。関係型DMは構造的対象の分析に有用だが計算負荷が高い。申請者はこれまでに計算負荷の飛躍的軽減を実現し、21年度シーズ発掘研究でこれの実装方式を構築した。本研究はこれを複数の応用分野の実データで試験し実利用環境でシステム実装を調整することにある。また他のシステムと比較し、提案システムの特徴を明らかにし、実用的応用領域のターゲットを絞る。概ね予定通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性を示された。提案手法の優位性を理論とタイプの異なるデータ領域(科学物質と英文)での試験を行っており、今後の実用化に向けて重要である。パターンを高次に組み合わせた場合の処理時間の一層の改善を期待したい。また、技術移転に向けて技術的優位点を前提にした特許などの確保を図られたい。今回Webログデータの試験など、まだ実現できていないものもあるが、ネットワーク上での公開システムの構築等、実用化に関した作業が進められており、次のステップにつながる可能性は高まっているものと思われる。研究開発成果の展開に向けた問題や技術目標の明確化が期待される。
高周波回路との一体化に適した多層基板集積化ミリ波アンテナに関する研究名古屋工業大学榊原久二男高周波モジュールのシールドケースとして用いる金属に形成された開口と、その逆側に接続されたLTCC(低温同時焼成セラミックス)基板に構成されたマイクロストリップ給電回路からなる広帯域ミリ波アンテナを開発した。ミリ波帯で設計し、試作アンテナの特性を実験で評価したところ、反射損失が-10dB以下となる周波数帯域幅が70~90GHz(20GHz)以上となり、当初の目標を大きく上回る周波数帯域幅が得られた。今後は、動作メカニズムを解明し、設計手法を確立する。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。計画されていたアルミナ基板でミリ波アンテナの試作を行い、特性評価を行った。その結果、周波数帯域では目標を上回る結果を得ることができた。ただし、これは反射条件を緩やかにするという条件下でのものであり、その妥当性が示されていないこと、材料の誘電性が特定されていない事など、利得、効率が未評価であり、次のステップへの技術課題が明確でない。技術移転には基礎的な研究の蓄積が必要であり、研究成果を応用展開するターゲットなどについても更なる検討が必要である。
プッシュ配信に基づくWebコンテンツ転用防止システムの開発名古屋工業大学大囿忠親本研究課題では、Web上でのプッシュ配信に基づくコンテンツ転用防止技術を開発した。プッシュ配信技術を用いることで、人間にはコンテンツを配信するが、コンテンツを収集するプログラムにはコンテンツを配信しないようなコンテンツ配信が可能である。動的なWebページに対応するために、クライアントに配信する配信制御プログラムを最適化するためのアルゴリズムを開発し実装し、実験によりその効果を確認した。さらに、実用化のための開発として、WebAPIの実装、仮想マシン上への実装を行い、WebAPIのドキュメントを整備した。今後は、実環境への応用に向けて、システムの洗練化を行う予定である。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転に向けての可能性が高まった。Web上でのプッシュ配信に基づくコンテンツ転用防止技術として、プッシュ配信の効率化を高めるために各クライアントに最適な「番組表」を配る方法を開発し、シミュレーションにより評価試験を行った。スマートフォン等、携帯型端末が急速に普及してきており、本研究成果は、コンテンツ配信サービスの健全な展開に貢献できるものと期待される。今後特許技術としての技術差別化や、開発ポイントとして、変更情報の多重化やマルチコアプロセッサやクラウド向きの実装方式に関する検討が望まれる。
境界要素法による大規模高速音響設計感度解析システムの開発名古屋大学松本敏郎本研究では、騒音解析において音場中の音圧や粒子速度が、音場の形状を定義するパラメータを変化させたときの変化率(感度)を、大規模な問題に対して高速に計算するための理論とソフトウェアの開発を目標とした。すなわち、騒音共感度解析に用いる音圧と粒子速度の設計変数に関する感度を関係づける境界積分方程式とその基本解の多重極展開式を用いた高速計算アルゴリズム、および感度解析ソフトウェアを開発した。開発したソフトウェアは、大規模な音響感度解析においても高速性能が得られた。今後は、本理論とソフトウェアを発展させて、音場内の一定の領域で騒音軽減を図る最適な音場形状やそのトポロジーを求める方法に迅速に応用する。概ね予定通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性を示された。従来手法と比較して計算時間が大幅に削減されるという明確な技術的な成果が出ている。大規模な騒音共感度解析問題に対して特に大きな利点を有することが明確となった。計算時間の大幅な削減を有効活用した形状最適化システムの開発などへの展開が期待できる。並列計算の利用など、騒音共感度解析に必要な計算時間の短縮に対する継続的な研究も必要と思われる。今後の研究開発計画の方向性が明確であるため、発展の可能性は高い。CAEソフトウェアベンダーとの共同開発も、比較的容易であると思われる。
構造優良化によるLCA戦略的構造設計支援環境の開発名古屋大学大森博司構造設計支援とライフサイクルデザインプログラムを、構造性能の優良化を実現するためのライフサイクルコストとライフサイクル構造性能を表す複数の目的関数によって、多目的最適化問題として再構成し、これを解いて、複数の非劣解設計群として構造設計解を提案することのできるソフトウェアを開発することがこの課題の内容である。具体的な研究項目は、1)入力用ユーザーインターフェースの設計、2)グラフィック出力の設計である。1)では実務で必要となる設計条件を入力するためのユーザーインターフェースを設計し、2)ではユーザーにとって直感的に理解しやすい出力仕様を確立し、それに基づいてグラフィック出力の設計を行っている。ほぼ予定通りの成果を得られ、技術移転に向けての可能性を示された。一つの設計に於いていろいろな要素を加味した総合的な設計を行うことは基本的設計を行う上で重要である。また複数解の構造設計結果を示して判断をサポートする、可視化は利用者として望む機能であり、入力・出力ユーザーインターフェースが提示されている。本システムに於いては建築構造物に関わる天候や耐候性、様々な地震、振動など、さらに考慮すべき要因も存在する。さらに実用的なシステムとして、機能的な選択、充実を図るべく、技術移転を推進されることが期待される。
再構成光合成タンパク質複合体PSIを用いたバイオ撮像素子の研究開発名古屋大学中里和郎光合成タンパク質複合体PSI(Photo System I)の量子効率は100%であり、究極の光電子変換素子である。東理大・東大・産総研との協力により、PSIと半導体集積回路とを融合したバイオイメージセンサの実験に成功した。(1) PSIに金ナノ粒子結合分子ワイヤを組み込んだ再構成PSIをMOSFETのゲートに固定し、PSIからの光電流を測定することに成功した。 (2)電極間を分子で結ぶ技術として型-器1分子形成技術を提案した。(3)半導体集積回路チップで用いられている窒化シリコン膜のトラップ準位による光起因ドリフトを除去するため、SU-8、ポリイミドの保護膜形成技術を開発した。当初期待していた成果までは至らぬまでも、技術移転に向けた可能性は一定程度高まった。想定外の問題が発生した事で未だ技術移転につながる成果を得るに至っていないが、問題は解決されたため今後研究成果が期待できる。課題のいくつかは解決しているが、それが1光子検出撮像素子の実現にどの程度近づいたか、という視点での評価や、従来の1光子検出撮像素子と比べた場合の優位性を評価することが期待される。今後上記点を含めて技術移転の観点からの更なる検討が望まれる。
超高感度・小型磁気センサ用いたハンディモバイル多機能トラフィックカウンタシステムの開発名古屋大学内山剛超高感度・小型の磁気センサによる道路脇設置型のトラフィックカウンタについて、センサおよび、マイコンとのインターフェースシステムなどのハードウェアおよび信号処理アルゴリズムのなどのソフトウェアの開発を行った。試作したトラフィックカンタシステムによる車両通行カウントの精度は、ほぼ100%を達成した。マイコンを用いた車両速度の計測精度に関しては、2σが10km/h以上となり、研究計画で目標としていた精度には達しなかった。誤差要因を解析した結果、試作システムのデーターサンプリング周波数の設定に問題があることが分かった。今後の改善策として、サンプリング周波数を調整することにより、実用的なトラフィックカンタとしての精度が得られることが期待される。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。センサ間の差分でより高い感度の小型磁気センサの開発が成功し、それをベースに道路脇に設置できる車両検知システムを開発した。特に道路環境での外乱を取り除いて、カウント数と車両速度の計測結果も得られている。今後道路横に設置するため複数車線の場合や外乱がある場合の対策、車種の判定などについて検討が必要である。今回基本的な技術が確認されたので、前記問題などの検討を元にした研究成果の展開が期待される。
判断・動作統合型運転行動モデルに基づく運転能力の統合的評価名古屋大学鈴木達也本課題では、個々の運転者の運転行動特性を(連続/離散)ハイブリッドシステムの一種であるPrARXモデルとして表現し、運転モードの切り替わりを表す確率分布のエントロピーから、その運転者の判断能力を定量的に評価する手法を開発した。2モードのPrARXモデルは特定の式で与えられる。PrARXモデルの出力ykは、2つのARXモデルの出力値、y1,k、y2,kに重みをつけて足し合わせた形として与えられる。ここで重み係数は別の特定式のロジスティック関数で与えられ、これ自体が入力信号や過去の出力信号に依存する。直線道路における前方車追従運転行動を2モードのPrARXモデルで表現する場合、入力信号uは前方車との車間距離や相対速度などの環境情報であり、出力信号yは車両の加速度である。また、各モードは動的特性の異なる運転操作(通常運転と急ブレーキなど)を表現している。したがって、入力信号(=環境情報)に対する重み係数の変化が急峻であればあるほど、環境変化に対して鋭敏に操作の切り替えがなされていると言え、判断能力が高いと言える。このような判断のあいまいさを定量化するエントロピーは別の特定式で与えられる。PrARXモデルは、計測された入出力信号の時系列データをもとに最急降下法を用いてモデルパラメータを決定できるという利点がある。また、モデルのエントロピーはモデルパラメータから計算可能である。以上の手順により、個々の運転者の運転データから運転行動モデルを同定し、その運転者の判断のあいまいさをエントロピーにより計量することができる。開発した手法を応用し、車内機器操作などの外的要因が運転者の判断特性におよぼす影響を、ドライビングシミュレータを用いた実験を通じて検証した。 本技術は機器操作以外の様々な外的および内的要因(走行状況の変化や疲労など)による運転行動の変化を捉えることに有効である他、個々の運転者の特性に合わせた運転教育への応用が可能であると考えられる。概ね予定通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まった。運転能力評価の定量的評価指標と具体的な評価指標算定ロジックを考案し、システム化できる技術を開発し、発明考案としてまとめている。運転支援システムの開発に大きく寄与する技術として今後の進展が期待される。外的要因とドライバの能力を含めたモデル化が今後の課題となっている。今回基本的な技術が確認されたので、前記問題などの検討を元にした研究成果の展開が望まれる。
セキュア通信グループを実現する通信プロトコルの実用化名城大学渡邊晃IPv4の環境において、エンド端末間のセキュリティを確保することは重要な課題である。本事業では、これを実現するために、相手認証を実現するDPRP (Dynamic Process Resolutin Ptotocol)、および暗号化通信を実現するPCCOM (Practical Cipher COMmunication)を、Android上で実現する。DPRPは、通信に先立ち通信経路上に存在するGSCIP構成装置が互いに情報交換し、エンド端末間の認証を実現するとともに、端末間の通信に必要な動作処理情報テーブルを動的に生成する役割を持つ。一方、PCCOMはNATやファイアウォールと共存でき、かつオリジナルパケットのフォーマットを変えないままパケットの完全性保証(パケットが改竄されていないことの保証)を実現することができる。DPRPとPCCOMは、FreeBSD上で既に実現済みである。本事業では、AndroidのコアとなるLINUXにこれらの機能を移植する。さらに実運用を可能とするために、鍵管理装置を開発する。ユーザインタフェースの実現、鍵配送機能などを実現し、管理装置から全ての設定を可能とする。さらに管理負荷の定量的な見積もりを行い、提案方式の管理負荷が低いことを証明する。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。鍵管理システムがほぼ完成した。成果の一部が学術論文、講演等の成果につながった。本来の対象をFreeBSDからAndroidへ完全に移植したうえで管理負荷の性能を測定評価することが望まれる。今後の研究開発については、NAT越えの問題解決のための技術の開発を行っており、研究の実用化が期待される。
高汎用性を実現するAndroid向けNAT越えプロトコルの開発名城大学鈴木秀和外出先からホームネットワーク内のコンテンツを視聴したり、情報家電機器を遠隔制御するためにはNAT越え問題を解決する必要がある。これまでの研究により高い汎用性を持つNAT越え通信プロトコルNAT-fを開発して有効性を実証してきた。本研究開発ではスマートフォンOSであるAndroidに通信プロトコルを組み込むことにより、研究成果の実用化およびその課題を明らかにすることが目的である。プロトコル開発の結果、AndroidのカーネルであるLinuxへの実装および動作確認することができ、Androidを利用した実現可能性を見出すことができた。また、開発したプロトコルを市販のスマートフォンに実装するためには、携帯端末メーカの協力が必要であることを確認した。当初予定の成果までは至らぬまでも、技術移転に向けた可能性は一定程度高まった。計画ではAndroidという携帯端末への実装が目標であったが、到達点としてはLinuxカーネルへの実装にとどまったようである。Linuxカーネルに実装可能なNAT-fソフトウェア開発は行われたが、当初目標のAndroid 上での実装および通信速度測定は達成されていない。PCやスマートフォンの開発では、技術の優劣よりもいかにデファクトをとるかによって採用される技術が決まることから、科学的な見地も必要ではあるが、企業の中での研究の位置づけの明確化や、携帯メーカとの連携が必要と考えられる。
個人領域の特定によるネットパトロール支援に関する研究立命館大学小柳滋本研究は、中高生の間で広く利用されているモバイルインターネットにおける安全・安心確保のため、学校関係を対象としたネットパトロールの支援を目的としている。本研究では、プロフから個人に関する領域を解析し、その結果をネットパトロール支援に役立てるための個人領域の解析基盤の確立と、出会い目的の危険な書き込みの自動発見手法の提案の2点を目標として開発を行った。前者に関しては、個人に関する年代や性別の推定手法を提案し、SVMにより識別する実験を行った。その結果、性別推定でF値が0.95、年代推定でF値0.82という良好な結果を得た。後者については、転移学習モデルに基づき、高年代の男性から低年代の女性への書込みを危険な書込みと定義し、これを自動発見する手法を提案した。実験の結果、F値で0.91という良好な結果を得た。 本研究の結果、実用化に向けてさらなる精度向上や、新しい課題が明らかになった。概ね予定通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性を示された。学習技法に基づいた情報抽出の技術を応用し、青少年をモバイルインターネット犯罪から守るためのネットパトロールを支援する情報処理アルゴリズムを開発・実験・評価したことは高く評価できる。提案技術の有用性を広く公開し、中学校・高等学校の教員と連携した研究推進体制を築くことが望ましい。また、インターネット上の書き込みデータを元に危険度を想定するものであるが、想定された危険が正しいかどうかを検証する手段の確保が難しい。今後公的な機関との連携による検証も必要と考えられる。
想定大地震時における誘発地すべり地の予測と監視技術の開発京都大学松波孝治既往の地すべり地で、中規模以上の地震により再活動することがあるならばその地すべり地は来るべき大地震時には勿論のこと、豪雨時にも高い確率で再活動するであろう。大地震時に誘発され易い危険な地すべり地の予測とその活動の監視には、地表面の変位の時間的変化を検出できるInSAR解析と地表面の傾斜分布や表層流分布等の水文地形学的特徴を抽出できるDEM解析を併用することが有効である。ここでは、震度4以上の地震を経験している地すべり地を数ヶ所選定して解析を試みた。地震前後の地表面変位分布、表層流分布、及び傾斜分布をGIS手法により重ね合わせ、有意な変位を示す地すべり地について現地調査を行った。その結果、対応する地盤変状を確認でき、本手法の有効性を確認できた。しかし、解析事例が少ないためこの手法を確立させ技術移転を行うには更なる事例研究を必要とする。ほぼ期待通りの成果を上げられ、技術移転に向けての可能性が高まった。研究テーマの社会的な期待度は高く、InSAR(衛星レーダ)による地すべり予測と監視に関する技術開発は当初の研究目標をほぼ達成しており、実用化に向けて前進している。当初目標として、1InSAR地表面変位と実地盤変動の比較分析、2地すべり斜面の振動特性評価、32mDEMを用いた地形解析の3点が挙げられている。このうち、13についてはその目的を達成している。残された技術検討と共に、本研究の方法に関する知的財産権を早期に確保し、近い将来の技術移転に備えられたい。
超高解像度計算機合成ホログラムによる3D表示関西大学松島恭治本課題では、研究責任者らがすでに開発していた超高解像度計算機合成ホログラムの作成技術をさらに発展させ、サイネージや装飾等にも活用できる技術に昇華することを目指した。本課題では特に、広視域化、隠面消去処理、実物体の再生の3点に取り組み、ほぼその目的を達成することができた。その成果として実物の人顔や複雑に入り組んだ物体のホログラム、実物体と仮想物体の3Dシーンなど、従来の計算機合成ホログラムでは不可能であった立体像を再生できることを示した。これらの立体像は空間像として深い奥行き感を与えるものであり、その再生像は従来技術の立体画像とは一線を画す非常にインパクトの強い映像となっている。ほぼ予定通りの成果を得られ、技術移転に向けての可能性を示された。今回、広視域化、隠面消去処理、実物体の再生の3点に取り組み、ほぼその予定した目的を達成することができた。現在進行形の周辺技術の進展により、10年前では不可能であった新しい3D表示システムの開発と実用化が期待できる。市場ニーズを考える場合、高速化・実時間処理の見通しの定量化や画面の大型化についての見解、再生アルゴリズム実用化の見通しを技術的に示して欲しい。
網膜投影ディスプレイの実用化を目指したマルチカラー方式の開発大阪市立大学高橋秀也網膜投影方式を用いた眼鏡型ユビキタス・ディスプレイのマルチカラー表示方式の開発を目的とし、赤と緑の2色表示のマルチカラー化を目標とした。マルチカラー表示の網膜投影方式を実現する光学素子と映像投影系を試作し、原理確認を行った。ほぼ期待通りの成果を上げられ、技術移転に向けての可能性が高まった。網膜投影ディスプレイの実用化に向けて、そのマルチカラー化のための新規性の高い技術を確実に進展させている。残念ながら、マルチカラー表示での被験者実験が行われておらず、実際の画像を直接評価できていないように思われる。 また、小型、軽量化の点からも検討すべき課題が見受けられる。今後上記点を含めて技術移転の観点からの更なる検討が望まれる。
溶接部材組立時における高精度変形予測システムの開発大阪府立大学柴原正和本課題は、溶接部材組立時における変形の高精度予測法の開発を目的としている。本課題が達成されると、任意の構造形状・溶接法および溶接条件の溶接継手を含む溶接組立時に、溶接構造全体にわたる変形が溶接工程順に従って事前に予測できるようになる。この手法を設計に活用することにより、組立順序の最適化が図られるほか、各段階における手直し量を事前に見積ることができるために手直し作業の低減が可能となり、大幅なコスト削減が期待される。さらに、本手法は、溶接構造物を扱うほとんどの分野に対して幅広く適用可能であることから、波及効果が大きい手法である。期待以上の成果を上げられ、技術移転に繋がる可能性を大きく高められた。有限要素法による大規模溶接変形計算と、画像処理による実測を組み合わせ、製造中の鋼構造物の溶接変形が高精度に予測できるシステムである。変形予測システムとしての高精度化が着実に進んでおり、大型鋼構造物への溶接変形を制御することが期待できる。今後このシステムを実構造物の溶接作業に適用して実証解析が必要と思われる一方、鋼構造物の品質管理、製作費に著しく影響を及ぼすので早期技術移転が望ましい。
総合的診療情報の電子化をめざした患者説明のための対話的ベクトルシェーマ作成インタフェース独立行政法人国立循環器病研究センター中沢一雄本研究開発では、患者説明のための対話的ベクトルシェーマ作成インタフェースについて、汎用化に向けたシステムのリエンジニアリングを行い、技術移転の可能性を示した。シェーマデータベースの拡充については、シェーマで表現すべき心機能の再検討を行い、表現できる機能を追加した。実際、小児科および小児外科の専門医からの意見聴取を行った結果、患者説明のために望まれる機能としては、血行動態や形状変形、電気生理データの反映などが挙げられた。これを受け、血行動態・形状変形を含むフォンタン術の手順を再現するシステムを試作した。今後、臨床で利用されている心臓カテーテルシステムと本シェーマインタフェースの機能を組み合わせることを目標に、実用化に向けた開発研究を行う予定である。ほぼ期待通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まった。患者にとって、画像や治療実績などの医療データの提示は大きな安心や、期待が得られるものと思われる。今回患者の立場に立った医療のためのデータベースやインタフェイスの開発を試みた。利用マニュアルなども整備され、汎用性が高い。当初の目標はほぼ達成され、他の医療システムとの連携を図るなど、次のステップへ進めるための技術的課題が明確になった。企業化のプランもたっており、是非我が国発の技術として確立してほしい。
革新的高速低電力コンピュータ実用化のための演算器アレイ制御方式奈良先端科学技術大学院大学中島康彦演算器アレイ構造に従来型機械語命令列を写像して高速実行する基本技術は、次世代低電力高速コンピュータの実現に大きく貢献できる可能性がある。一方、実用化のためには、(1)計算結果を格納する配列に相当する出力ストリームを1本しか扱うことができない制約、および、(2)演算器段数を超える命令列を写像できない制約を各々解決する必要があった。本研究開発では、演算器アレイ構造に写像した従来型機械語命令列が自然な形で複数の出力ストリームを扱う基本技術、および、演算器段数を超える命令を写像できる演算器仮想化技術に関して各々成果を挙げることができた。今後、本研究をさらに発展させて、低電力高速計算アクセラレータとしての実用化を目指したいと考えている。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転に向けての可能性を示された。高速演算に向け多段の演算器アレイに命令を写像、実行出来ることを実証した。演算器アレイを極端に増大させることなく、時分割多重処理を行うことで実用性を伴っている。また、命令セットや、コンパイラなどの変更や負担が少ない面に於いても、汎用的なプロセッサとしての実現性が高い。今回、動作性能を実証したことにより、高速MPUとしての有用性を検証すべく、プロセッサメーカなどとの共同研究、開発が望まれる。
細粒度エラー訂正機能を備える動的冗長度可変高信頼プロセッサの実用化奈良先端科学技術大学院大学姚駿半導体微細化技術の高度化に伴い、電子機器の高信頼化が重要な問題となっている。我々は、信頼性が低い微細デバイスを用いて高信頼計算機システムを構築可能な、自己エラー検出機能を有するスケーラブルモジュールを提案してきた。本モジュールは、(1)電力効率に優れた動的かつ適応的冗長性、(2)細粒度エラー検出および回復機能、(3)永久故障モジュールの切り離しおよび動的パイプライン再構成によるシステム長寿命化、の特長を備え、少ないハードウェアにより高信頼プロセッサを実現できる次世代マイクロアーキテクチャ基盤要素として有望である。本研究では、上記モジュールを用いたプロトタイププロセッサの実現および評価を行った。ほぼ期待通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まった。ランダムロジックを含むマイクロアーキテクチャの高信頼化技術に関する重要な研究であり、RTLレベルでの具体的評価を通して、一時故障に関しては期待通りの成果を得ている。設計し、評価したアーキテクチャをオープンソースとして公開している。研究成果をより多くの研究者ならびに企業等で活用できる点は評価できる。今後のチップ試作を通して、DARAの消費電力や回路オーバヘッドを明らかになった後、技術移転につながることを期待する。
仮想空間とメタファを用いたユーザ参加型およびデータフィルタ型用例対訳評価システム和歌山大学吉野孝本研究開発では、用例対訳評価システムのために、ユーザ参加型の仕組みとして、仮想空間とメタファを用いた「用例の森」を構築した。用例の森は、我々が、これまでに収集してきている多言語用例データベース(TackPad,http://med.wakayama-u.ac.jp/)の用例評価を継続的に実施するためのシステムを目指したシステムである。用例の森は、「森」と「木」を「用例」のメタファとして用い、多数の森をユーザが訪れ、木である用例を評価することで、「森」と「木」を成長させることが出来るシステムである。さらに、本研究開発ではWeb上の多言語データを検索サービスと組み合わせて用いたフィルタリング手法を提案し、その評価を行った。「用例の森」に関しては、非日常的な作業である用例の評価活動のモチベーション維持支援が可能であることを示した。フィルタリング手法に関しては、2-gramを用いて不正確単語の検出を、3-gramを用いて文法的に誤りがある用例の検出がそれぞれ可能であることを示した。さらに、上記の組み合わせにより、約17%であったF値を、約23%まで改善できた。本手法は、形態素解析などの言語処理資源に依存せず、多言語の正確性判定が可能であること示した。ほぼ予定通りの成果を得られ、技術移転につながる可能性が高まった。用例対訳評価システムの全体設計、ユーザ参加を促すための基本機能の設計等、概ね目標を達成している。目的とする日本に在住、または来日した外国人に向けた実践的活用と、データベースの蓄積が今後求められる。また、医療現場や、外国人対応窓口での具体的な展開を期待したい。また、正確な医療用語との接続も必要ではないか。WEB活用においてより実践的な機能を高める上で、インターフェイスのデザインが重要である。知財化と共に使い勝手の向上に向けた取り組みも並行して進めるための専門企業との連携が必要と考えられる。
テキストコーパスを必要としない大語彙音声認識システムの開発和歌山大学西村竜一本事業では、インターネットから獲得した集合知識源として日本語N-gramデータベースを用いた、コーパスに依存しない音声認識システムの開発手法に関する研究を行った。本研究は、音声認識システムの初期開発コストを削減し、音声認識の本格実用化に寄与する。評価実験では、テキストコーパスを要した従来法の認識精度が77.4%に対し、提案法は74.3%(当初目標75%)であった。数値上は3.1ポイントの低下が生じたが、収集に高コストを要するテキストコーパスを使わずに、同程度の性能を獲得できたことで本手法の有効性を示し、当初目標を達成することができた。今後は、処理時間を削減するために、プログラムを精査した上でツールとしての整備、産業界への技術移転を目指す。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性を有る程度見出せた。テキストコーパスを要した従来法の認識精度が77。4%に対し、提案法は74。3%(当初目標75%)を達成している。若干の認識精度の低下があるが、テキストコーパスを作成することなく、ほぼ同程度の認識が可能なら大きな利点がある。実際の音声認識の利用条件では、収集したコーパスと、Google N-gramのようなWebからのコーパスとを融合することが有効と推定され、融合による効果と、融合のアルゴリズムを明確にする必要がある。今後、上記点を含めて技術移転の観点からの更なる検討が望まれる。
多色LEDを用いた非常時通信システムの研究開発和歌山大学塚田晃司災害時孤立集落を対象とした非常時通信手段として、上空を飛行する消防、自衛隊などのヘリコプターに対する多色LEDの発光色の変化を用いた通信システムを提案し、伝送速度・認識率の改善に取組んだ。本課題では、発光色判定手法に学習機械SVMを適用し、外乱光なしでは従来方式と同程度の認識率、外乱光ありでは従来方式と比べて認識率の向上を達成した。また、伝送速度は受信側の処理能力に強く依存することが実験結果より推測でき、処理量削減などによる高速化の目途がたった。今後は、機材の低価格化を見据えて共同研究企業の模索をすすめていく。光タグ、カラータグの分野にも適用できると考えられるので、防災分野以外の適用先も検討する。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転に向けての可能性が高まった。多色LEDを用いて、非常期の通信手段を開発しようとしている点は、今後の防災対策の観点からも非常に優れた発想であり、実用性が高い製品開発である。ほぼ実用の域に達しているのではないかと思われる。今後は、実際の被災現地等でその性能を確認することが望まれる。安価な専用品の開発・製造を見据え、共同研究企業の模索を図るなど産学連携に向けて今後の展開を期待する。
生産理論と熟練ノウハウの融合による生産知識の体系化とその活用鳥取大学北村章本事業では、鳥取大学とモデル企業が連携し、電子基板の生産に関わる理論と計測機器に関わる企業内の多様な文章にマイニングやルート探索技術を応用して得られた生産知識を複数のオントロジーとして体系化した。生産理論による知識として、CAEシミュレーションと品質光学による解析結果を導出した。採取した情報やデータは、体系化した複数オントロジーとともに知的ものづくりのプラットフォーム(SKIP)として統合化した。モデル企業においてSKIPを用いた生産知識の探索実験を行い、事例によって効率的探索の有用性を検証した。定量的な有効性の検証には至らなかったが、全体の目標は達成した。今後は、生産知識の体系化と共有化をサービスとして提供するプラットフォーム(PaaS-SKIP)を開発し、その事業化を提案して行く。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。電子基盤の生産に関わる知識をCAEシミュレーションと品質工学の技術ならびにマイニング技術による体系化の試みを、モデル企業と共同で行い、研究成果の見通しが得られた。生産工程における不具合報告などの製造情報から、必ずしも熟練者を必要とせず、生産知識を獲得できることが検証できた。今後、誰がどのように知識のオントロジー化や運用を行うのかなど、より実践的な検討が求められる。
歩行動作解析に基づくパーソナル情報の収集・解析技術に関する研究島根大学平川正人フロアマット型の入力デバイスを用い、素足ではなく靴を履いて歩行するという現実的条件下で複数人の歩行動作を同時に実時間で収集・解析するという申請者らのこれまでの研究実績の上に立ち、言語、スキル、ハンディキャップの壁を克服するユニバーサル情報機器の開発実用化に向けて、(1)利用者に事前の靴の登録作業を課すことなく、フロアマット上を歩くだけで自動的に靴底形状モデルを取得する機能、(2)歩行動作追跡精度の改善、という2つの基本的な課題解決に取り組んだ。項目(1)については機能の実装を完了した。項目(2)については認識精度を当初の70.7%から81.5%に改善することができた。ただし、モデル自動認識の下では認識精度の更なる改善が今後必要であることが分かった。本研究によって明らかになった課題に今後も継続して取り組む予定である。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性を有る程度見出せた。フロアマットデバイスに靴を履いた状態で個人情報を登録できる技術、理想的な条件下ながら80%を超える高い認識精度を達成した点での評価は高い。現実的な条件下での認識精度は必ずしも高くないが、目標はおおむね達成できたと評価する一方、具体的製品計画や、測定精度向上に向けての今後の改善が必要と考えられる。今後上記点を含めて技術移転の観点からの更なる検討が望まれる。
複数の衛星データを用いた鹿児島湾への外洋水の流入モニタリング手法の開発のための水質調査津山工業高等専門学校細谷和範インターネット等を通じ鹿児島湾に突発的に流入する外洋水の流入状況を配信するサービスは資源管理や水質環境の保全に資するものと見込まれる。本研究では人工衛星によるSST(表層水温)やChl-a(クロロフィルa)画像及び数値モデル等を組み合わせ、急速に流入する外洋水の状況を配信する手法の確立を目指し、基礎データとなる流入水塊の厚さや流入層の現地調査を行った。2010年11月からの1ヶ月間について湾内1地点の水温とChl-aの鉛直分布を調べた結果、今回調査した期間内に突発的な外洋水の流入現象は見られず、目標が達成できなかった。さらに2010年は例年よりも曇天が多く、衛星画像を利用する上での課題も明らかとなった。今後はこれらの課題を克服した配信手法について検討する。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性は一定程度高まった。クロロフィル画像を用いて外洋水の流入を衛星データから判別する新技術を開発し、その技術の実用化に取り組んだ事、及び実用化に向けて企業等からの情報収集に取り組んだことは評価できる。「突発的な流入現象」を捉えるには長期的観測が有効である点は理解できるが、低頻度の流入現象が、現時点で結果的に環境にどのような影響を及ぼしているのかも調査する必要性がある。省庁や自治体が湾内に設置している水位計や水温計などの観測機器のデータを利用する方法については、産学官共同開発への発展性も伺える。
人間の手形状から手型モデルへの効率的な変形手法の開発広島県立総合技術研究所横山詔常型設計のノウハウの形式知化・標準化を目標に、「人間の手形状から手型モデルへの効率的な変形手法」を開発した。手袋の着用実験から、適合性(フィット感)に重要な要因となる手寸法を抽出し、その手袋に適合する「手の推定形状モデル(デジタルハンド)」を生成した。この手形状データを基に、3 次元 CAD の設計パラメータを特定するとともに、自動変形プログラムの試作を試みた。これによりリアルで複雑な手形状から簡略化した手型への変形方法の可能性を見出すことができ、研究目標を達成した。 今後は、関連メーカが事業化できるように、「自動変形手法」を完成させ、ノウハウの蓄積と高度な適合性を有する手袋の製品に寄与する。概ね予定通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性を示された。研究目標のデータ取りが確実に行われ、全貌がはっきりしてきた。問題点としては各種データを取得するという初期の目標は達成されたが、実用化を目指す総合的視点が不十分と見える。実用化の見通しは立てられているが、曖昧性が強い。どれか一点に絞り、実用的アプローチを試みることが先決と思われる。技術移転への道筋を付け、企業からの共同研究の出資などがあると、製品化に向けた問題点の明確化や企業とのコミットメントに繋がるものと期待される。
ハフ変換を越える高精度直線抽出手法の開発山口大学平林晃本研究の目標は「ディジタルカメラで得られた画像からハフ変換より高精度で直線を抽出すること」であった。この目標を、双曲型Eスプラインを用いた方法を開発する事により、達成する事を試みた。導出した理論式に基づき直線抽出アルゴリズムを開発し、既存のバイラテラルフィルタと組み合せる事により、車両のナンバープレート画像に対して文字領域の輪郭を精度よく抽出できた。この結果はハフ変換で得られたものより、高精度であった。しかし、この画像は十分な解像度を有するように至近距離から撮影されたものであり、今後はより遠距離から得られた画像に対しても高精度抽出できるようにする必要がある。当初予定の成果までは得られなかったが、技術移転に向けた可能性を有る程度見出せた。理論式に基づき直線抽出アルゴリズムを開発し、既存のバイラテラルフィルタと組み合せる事により、車両のナンバープレート画像に対して文字領域の輪郭を抽出した。この画像は十分な解像度を有するように至近距離から撮影されたものであり、今後はより遠距離から得られた画像に対しても高精度抽出できるようにする必要があると考えられる。目標未達の影響から、提案した技術が必ずしも実証されておらず、技術移転につながる成果は今後の研究、検討によるところが大きいと考えられる。
接触対象の材質判別を可能とする半導体超触覚センサの開発香川大学高尾英邦本研究では、接触対象の材質判別を可能とする半導体超触覚センサの開発にむけて、高感度・高性能を維持しつつもロバスト性を確保する新しいデバイス構造を開発した。感度とロバスト性は常に相反する要求であり、両性能のトレードオフでなくブレークスルーを実現するための技術として、空間的に分割したポリマー材料を用いる新しい触覚センサ構造を開発した。半導体のセンサ薄膜表面にスピンコート型の感光性薄膜樹脂(SU-8)を表面保護膜としてコーティングを施し、これを表面保護膜とすることで、柔軟なセンサ構造の柔軟性を維持しつつ、画素毎に保護膜が独立して分割した構造とすることで、高い空間解像度と感度を両立する技術を開発した。概ね予定通りの成果を上げられ、技術移転に向けての可能性が高まった。半導体触覚センサとしての基本性能の発揮と、耐久性を実証できている。加えて、分解能も目標をクリアできているほか、材質の判別にも成功している。触覚感度だけから材料判別を行うことは実際には難しいかもしれず、このセンサーにつながるコンピュータにおける学習等の情報処理技術も合わせて開発すると発展性があるものと考えられる。また、人間の指先と同じ機能を持つ触覚センサは多くの応用範囲が考えられ、様々な技術移転が期待される。
強い誤り訂正能力を持つネットワーク符号の設計香川大学石井光治本研究開発の目的は、申請者らが研究を行ってきたネットワーク、誤り訂正融合符号に強い誤り訂正能力を持たせることである。具体的には、従来の畳込み符号化構成を直列連接符号化(ターボ符号化)することで、復号複雑度の増大を抑えつつ、強い訂正能力を持つ符号器、復号器の設計を行った。特に本研究開発では、要素符号器の最適設計を中心に行う事でシャノン限界に漸近する符号を設計した。結果として、従来の畳込み符号器のみを用いた構成に比べ、ビット誤り率10^-4において3dBの特性改善を実現することができ、本研究開発の目標である強い誤り訂正能力を実現した。今後は、従来の無線通信システムや4Gシステムへ応用することを検討している。概ね予定通りの成果を上げられ、技術移転に向けての可能性を示された。従来の畳込み符号化構成を直列連接符号化(ターボ符号化)することで、復号複雑度の増大を抑えつつ、強い訂正能力を持つ符号器、復号器の設計を行った。従来技術を大幅に上回る符号構築がされている一方、必要とされる計算量は大幅に低減され、実用化が期待できる。現実的な復号複雑度の点では、実用化へ大きく前進したといえる。さらに特性を改善するためには今後、長い拘束長の符号器、長い符号長、多い繰り返し復号回数で評価する事などにより実用性を確認する必要がある。
プライバシー保護のための環境画像中の文字情報の検出および隠ぺい九州大学内田誠一情景画像内の文字パターンの検出および隠蔽について研究開発を行った。文字の検出は、その情景に関する様々な情報の抽出に寄与する。文字の隠蔽は、プライバシー保護の観点から昨今重要である。ただし検出については、文字があまりに多様な状況で存在し、かつ情景中に文字に類似した部分が多々存在する点が問題となる。また隠蔽については、如何に文字だけを隠蔽し、誤検出されている非文字領域の見えに影響を与えないかが問題になる。本研究開発では、文字の断片(局所領域)を利用した検出法および過剰な検出の抑制法を案出し、定量的評価を通してその有効性を確認した。また、文字の性質(特徴空間内における分布)を利用した文字隠蔽法を新規開発した。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性はある程度高まった。文字パタ―ンを局所的に分解して、局所部分データベースと照合する着想は学術的に新規性が高い。誤検出を現状の3/4程度にすることが目標であったのに対し、「検出漏れ40%、誤検出40%」まで低減し、凡そ目標値は達成した。隠蔽方法に関しては、1種類のみ報告されている。技術移転を行うまでには解決すべき課題が多い。これらの課題を明らかにして、解決方法を開発する研究を継続する必要がある。
遺伝的ネットワークプログラミングに基づくデータ分類法とそのネットワークセキュリティシステムへの応用早稲田大学間普真吾インターネットにおけるセキュリティ確保のために侵入検知システムが存在するが、日々新しい脅威が発生するインターネットでは、既知の不正アクセスの検知に加え、未知の不正アクセスを検知するシステムが必要である。本研究では、遺伝的ネットワークプログラミング(GNP)と呼ばれる進化論的計算手法に基づくデータマイニング手法をベースにして新しいデータ分類法を提案した。この分類法を侵入検知システムへ応用し、新たなアクセスデータを正常アクセス、既知の不正アクセス、未知の不正アクセスの3クラスへ分類できるシステムを開発した。今後は、インターネットの不正アクセス検知に加え、自動車の故障検知などへの展開も予定している。ほぼ期待通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まった。 遺伝的ネットワークプログラミング(GNP)により、新たなアクセスを正常アクセス、既知の不正アクセス、未知の不正アクセスへ分類する方法について考察している。評価データ(KDD99Cup)用に、事前にパラメータ調整した提案方式を用いて、その有効性を高めている。検知率が1。1%以上向上したが、この数字が、実用上どのぐらいの意味をもつのかについて、明らかにする必要がある。また、他の学習/マイニング手法(例:SVM)との比較評価が必要であり、提案手法の適用について、その効果を検討されたい。
超音波エコー動画像を利用した肉牛の脂肪交雑評価独立行政法人産業技術総合研究所福田修飼育中の肉牛の超音波エコー動画像から、脂肪交雑(BMSナンバー)を高精度に推定することを目的として、動的画像情報を利用した自動判定プログラムを開発した。本プログラムは、画像の取り込み、解析範囲の指定、時系列テクスチャ解析、動的特徴量抽出、BMSナンバー推定処理などの一連の作業を実施することができる。また、新たに取得した大規模データに対する実証試験を実施し、パラメータの最適化を図った結果、 BMSナンバー推定値と実測値の相関係数が0.75、平均推定誤差が1.09という高精度な推定が達成された。今後は推定精度の向上と安定を目指すとともに、肉牛用に特化した超音波装置開発を含めたハードウェア面での整備を実施する予定である。ほぼ期待通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まった。現在の人手に頼った脂肪交雑評価の問題を解決するという明確な目的に向かって、自動評価システムの構築を確実に進めている。また、100頭を超える肉牛を用いた評価により、人手(専門技術者)と同程度の推定精度を達成しており技術移転の可能性が高まってきている。既に、実際の応用に近い形で性能評価等が行われており、実用化までのステップも明確に示されている。そのため、数年以内には、応用製品が実際の現場で使用されることが期待できる。また、学習型予測機であるため、実用化された後も学習用データの蓄積と共に、予測精度の向上が期待できる。今後、プローブの専用化や、システムの低価格化、ニューラルネットワークの構造決定や学習、汎化性能の評価に関して、検討が期待される。
電磁ノイズの分類・表示装置の開発熊本高等専門学校下塩義文スイッチング機器の増加、都市型気象による雷雨の多発等により電源線上に様々なノイズが発生している。本研究では、電源線ノイズを観測し、特徴抽出・分類を行い、発生原因別に順位をつけて保守作業者にわかりやすい形で表示する装置を開発することを目標とした。実施した結果、特徴抽出を行い、それを用いた分類実験を実施した。またその特徴量を人にわかりやすい形で表示する部分について、フェース法による表示を行い、違いが表現できることを確認した。分類と発生原因別の順位については、さまざまなノイズを収集する必要があり、これが実施できていないため、今後も継続して研究を行う予定である。当初目標の成果は未達と思われる。今後、技術移転へ繋げるには、今回得られた成果を基にして研究開発内容の再検討が必要である。電磁波パターンの特徴抽出技術の明確なアイデアが示されておらず、ノイズデータベースや、電磁波パターンの特徴抽出技術は手付かずである。電磁ノイズの分類実験を行なっているが、一例にすぎず、どの程度の精度があるかという点と、フェース法(顔表示)による表示も、その有効性が不明である。今後、基本計画を見直されると共に、データベースの構築、パターンの抽出技術、評価、判定技術などについての再検討が望まれる。

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