評価結果
 
評価結果

事後評価 : 【FS】探索タイプ 平成24年1月公開 - 医療技術分野 評価結果一覧

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課題名称 所属機関 研究責任者 研究開発の概要 事後評価所見
心筋再生医療に用いるヒト心筋幹細胞移植ハイブリット治療法の開発旭川医科大学竹原有史本申請のシーズは、自家心筋幹細胞移植と組織工学製剤を用いた細胞機能増幅サイトカイン(bFGF)徐放による心筋再生医療技術であり、細胞移植に最適なアテロコラーゲン製材によるハイブリット移植法を確立する事が開発目標である。本研究では生体分解性アテロコラーゲンシートによる心筋への薬剤徐放技術を開発しているが、既にbFGF徐放アテロコラーゲンシートの(マウス)虚血心筋への移植に成功、10%の心機能改善効果を認めており、現在ヒト心筋幹細胞との同時移植実験を実施中である。今後、臨床試験で採用されているゼラチンハイドロゲルとの比較を行い、有効性が実証された後には心筋再生医療との併用もしくはbFGFアテロコラーゲンシート単独使用としても有効な医療製剤化を視野に研究を進めている。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。アテロコラーゲンシートの生体吸収期間がゼラチンハイドロゲルシートよりも長く、サイトカインの長期徐放性の可能性が示された点で、目標達成の見通しを得た。今後、予定していたbFGF含浸アテロコラーゲンシートと心筋幹細胞を用いた研究を継続すると共に、bFGFシートで死亡しない投与量設定を早急に検討することが望ましい。技術移転の為に、もっと具体的な実用化プランを示す必要がある。
癌の密封小線源のための移動中線源強度評価法の開発札幌医科大学田中憲一癌の密封小線源治療において線源刺入作業中に同時に線源強度(放射能)を測定する手法を開発する。現在行われている刺入前の強度測定に比べ、本手法はマンパワーを大幅に節約でき、また刺入前測定で盲点となる測定後の線源取り違えを防げる長所がある。本課題の目標は、線源挿入用のガイド針の位置による変化と遮蔽に対し補正した後の評価精度が10%以下になるような測定系を決める事であった。成果として、大寸法のプラスチックシンチレータ検出器で短時間測定をすることにより、治療で想定すべき最大20cm/sまでの速さで移動する線源の強度が10%以内の精度で評価できることを明らかにした。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。CsTe検出器測定体系と独自のファントムにより、小線源移動速度20cm/sで10%以内の線量評価の目標を達成した。今後、さらなる精度向上の為に、CsTe検出器測定体系の最適設計を実施し、実際の応用の場での取り回しなどの諸問題への解決も図る必要がある。市場規模は大きく、癌治療の品質向上技術でもあるので、大きな社会貢献が期待される。
乳児泣き声の音響特性に基づく「舌癒着症」の自動診断法の開発室蘭工業大学岡田吉史舌癒着症(ADEL)とは、舌や喉周辺の構造異常を呈する遺伝病であり、呼吸障害による様々な心身障害を引き起こすことが知られている。特に乳児では、異常な泣き声が育児ストレスや幼児虐待の要因になると考えられるため、産後の早い段階での発見と治療が重要とされている。本課題では、乳児のためのADEL簡易診断法の開発を目標として研究を行った。本課題では、新たに反復変数増加法と呼ばれる特徴選択法を考案し、泣き声の周波数スペクトルからADEL識別に有効な周波数セットの抽出を試みた。実験として交差検定法による性能評価を行った結果、反復の無い従来の変数増加法を大幅に上回る98%という高い正解率を示した。現在、Web上で動作するADEL自動診断プロトタイプシステムが完成しており、今後はさらなる性能および機能の強化を行い、実用化を図っていく。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。舌癒着症の診断精度を向上できる診断法を開発した。但し、乳児の泣き声を病院外来で取得する場合、様々な予期せぬ雑音が混入する可能性があるので、本開発システムの耐雑音性がどの程度あるのか検討する必要がある。今後特に、入力音声に対しての方針を明確にして開発すること、専門医師、病院と連携し、臨床現場での実験、評価への展開が望まれる。
オーダーメイド医療の側方展開を目指した、次世代型完全長cDNA解析技術の開発帯広畜産大学山岸潤也本研究課題では、合成した完全長cDNAをサブクローニングすることなく、直接次世代シーケンサーにより解析することにより、作成効率の向上・低コスト化・作業期間の短縮をめざした次世代型完全長cDNA解析技術の開発を目指した。本計画は、大きく分けて1)cDNAの断片化と環状化によるサンプル調整ステップと、2)次世代シーケンサーにより得られる大規模・短鎖塩基配列のアセンブリーによる完全長cDNA配列の再構成ステップからなる。前者については、申請当初案より効率的な実験スキームを起案し、後者については、疑似データーを作成しアセンブリー条件の検討を行った結果、サンプル処理時における反応条件の最適化がなされれば、提案技術の確立が十分可能であるとの結論が得られた。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。コンピュータ-シミュレーションにより、本技術の有効性をある程度実証した。本研究では、試料調製を確立していないので、本技術の有効性を追認する実験が必要である。又、現状のシミュレーション結果では、全体をカバーできるという見通しは立っていないことを考慮して頂きたい。本課題と次世代シーケンサとのより効率的な組み合わせは、スプライシング異常などの領域の研究に大いに貢献することが期待される。
人工喉頭技術を活用した気管切開児のための発話訓練装置の開発地方独立行政法人北海道立総合研究機構橋場参生近年の医療技術の進歩により、喉頭軟化症などの障害を患った子供達が気管切開手術によって救命される事例が増えてきている。しかし、気管切開後は、呼気で声帯を振動させて音声の原音を作り出すことが困難となるため、音声言語の獲得に重要な幼児期を発話不自由な状態で過ごさざるを得ない。そこで本研究では、人工喉頭の技術を活用することによって、気管切開児の発声・発話を可能にする訓練装置の開発に取り組んだ。開発した装置は、子供の手で扱えるように小型・軽量化が図られており、言語聴覚士等の指導に従って口唇や舌を動かした子供達が音声の生成を体感して、発声訓練を行えるようになっている。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。人工喉頭を開発し、気管切開施行の小児症例において、人工喉頭の有用性を検証し、実用に充分耐えることを示した。今後、人工喉頭機器の更なる小型化、性能向上、コストダウンに取り組むことが必要である。本研究開発は、社会的必要性は高いと思われるが、ニッチな市場と思われるので、この点を考慮して今後の技術移転を目指した産学共同等の研究開発を進めることを希望する。
自動上皮採取装置のヒト小腸上皮採取への応用北海道大学綾部時芳研究責任者らはこれまでにマウス小腸上皮を採取するための自動上皮採取装置の開発を行い、マウス小腸より小腸上皮を構成する絨毛と陰窩を形態、機能ともに維持した状態で採取することを可能にした。本研究開発課題では、ヒト由来試料に適用できる自動上皮採取装置の開発を目標とした。研究開発期間においてこの目標を達成するため、ヒト小腸試料採取に特化した新たな動作機構と試料装着部品を開発して動作試験を実施した。試料装着部の大型化による重量増に対して動作部の出力増強等で必要十分な剥離力が得られることを確認し、ヒト用自動上皮採取装置開発に成功した。これによって今後、マウス及びヒト材料から小腸上皮の大量採取が可能となる。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。ハードウェアの改良という観点では、ほぼ目標通りの成果が得られている。今後、採取した上皮の純度や組織像等のデータを積み重ねていく必要がある。又、産学共同など技術移転を目指した取組みを進めることが望まれる。本装置で採取したヒト上皮試料は、生理的な機能を維持している可能性が高いので、医薬品の吸収試験等の種々の評価系を構築する用途に応用されることが期待される。
迅速かつ明瞭多彩な色調変化を示す糖検出チップの開発北見工業大学兼清泰正糖応答性ポリマーをナノ薄膜化することにより、応答速度を従来より飛躍的に高めた糖検出チップの開発を目指した。ボロン酸含有ポリカチオンとポリアニオンを、交互吸着法によりガラス基板上に積層することにより、ナノスケールの厚みを有する糖応答性薄膜を作製できた。また、アニオン色素存在下で交互吸着を行うことにより、薄膜中に色調の異なる複数の色素を担持させることに成功した。得られた薄膜を糖水溶液に浸漬すると、糖に応答した色素の脱離が生じ、糖濃度に依存して薄膜の色調が明瞭に変化した。このような色調変化は10分程度の短時間で発現し、従来1時間以上要していた応答時間を大幅に短縮することができた。今後は、共存物質による妨害を抑制する手法を検討し、実用化へ残された課題を解決したいと考えている。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。色調変化は10分程度の短時間で発現し、従来1時間以上要していた応答時間を大幅に短縮することができた。今後、特に共存物質による妨害を抑制する手法を確立する必要がある。又、検出感度の向上研究も継続し、現状の感度では実用化の際にはどのような領域で技術移転できるかを明確にすることも望まれる。
てんかんにおける遺伝子診断ツールの開発弘前大学兼子直本研究では、包括的なてんかんの遺伝子検査とその臨床応用を目指し、先に開発したプロトタイプのてんかん遺伝子診断用DNAチップ技術を基に、臨床応用可能なDNAチップの開発を目的とした。新しく発見された12のてんかん責任遺伝子と、7つの重篤副作用感受性遺伝子プローブを設計し、DNAチップ上に追加搭載して新しいバージョンのDNAチップを作成した。さらに、検査手順の簡略化を行い、ヒューマンエラーの発生を最小限に抑えることに成功した。今後は、様々なてんかん類型の検体を解析し、さらなるデータを蓄積して、バージョンアップしたDNAチップの臨床応用を目指す。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。てんかん責任遺伝子の新規遺伝子変異の探索において、SCN1Aに変異を持つてんかん患者(SMEI)48名のうち、4名の患者においてSCN1A以外の遺伝子変異を発見した。本研究では、遺伝子解析実験プロトコルの効率化は十分と言えず、更なる検討が必要である。今後、てんかん患者から見つかった新規遺伝子変異について、健常者のサンプル数を増やし、malignantな変異であるか否かを検討することも重要と思われる。
微細血管への設置・撤去が容易な血栓検出マイクロセンサ弘前大学牧野英司手指などの手術の際に直径1mm程度の微細血管の吻合部に取り付けて血栓発生を検知し、使用後には体外へ容易に抜去できるマイクロ血栓センサを開発した。センサの検出原理は、血栓生成時の血流速の低下を検出するものである。本センサは、血管の所定の位置に容易に正確に設置でき、血栓生成を早期に検出できる独創的なものである。設置、撤去が容易であることから、患者と医師の双方の負担を軽減する低侵襲医療の観点からも有用である。また、薄膜形成、フォトリソグラフィおよびエッチングによって多数のデバイスを基板上に一括形成できることから、大量生産にも適した実用性の高いデバイスである。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。血栓検出を目的としたマイクロ流量センサを、マイクロマシニング技術により実現し、流量センサとしての基本性能を実験的に検証し有効性を示した。センサのサイズが当初の目標寸法を満たしていないので、改善する必要があり、センサの応答速度についても改善の余地がある。製造プロセス上の課題を解決し、動物実験および臨床検証によって生産性と信頼性を高めることで、技術移転に向けた展開が期待できる。
非結核性抗酸菌症の病勢を予測する「臨床検査法」の開発東北大学菊地利明非結核性抗酸菌症は、中高年女性患者数が最近増加中の慢性呼吸器感染症である。その病勢は様々でその予測指標もない。先行研究において、非結核性抗酸菌症患者の病勢は、患者から検出された非結核性抗酸菌の遺伝子型との関連が示唆された(特開2010-142150)。そこで当該課題では、「菌遺伝子型による非結核性抗酸菌症病勢の予測臨床検査システム」の事業化を将来目標として、さらなる症例を解析し、事業化への道筋を検討した。当初の計画では、240株の非結核性抗酸菌株を解析する予定であったが、予定を上回る250株の遺伝子型を解析することができ、事業化に向けた技術移転の可能性が明確になった。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。非結核性抗酸菌症が、VNTR分析を基にした非結核性抗酸菌のクラスター解析分類と病勢が良く関連している結果を得た。宿主側(患者側)の因子である感受性が病勢分析に配慮されていないので検討が必要であり、コスト削減についても更に取り組む必要がある。非定型坑酸菌は本来土壌細菌が多く、日本各地に生息している菌株間に遺伝的差異があることも考えられるので、今後地域的普遍性に留意してデータの蓄積が望まれる。
歯周組織再生促進:生体機能性デバイス「純チタンマイクロメッシュ」の開発東北大学石幡浩志従来の歯周組織再生治療は使用されるバリアメンブレンは400μmもの厚みがあり、組織内を占有して再生を阻害、しばしば感染を招き失敗する。本提案は、その問題の核心であるポリマー製バリアメンブレンの欠点を解消した新規生体材料「純チタンマイクロメッシュ」創製し、より完全な歯周組織再生治療を目指す。純チタンを精密加工し、バリア機能を生み出す20μm貫通孔を高密度形成、微細多孔構造を構築し、(50μmの薄さを達成し、歯周組織再生治療に纏わる諸問題を一気に解決するが、この技術は歯科用インプラントに必要な母床骨としての顎骨造成に利用されるチタンメッシュとして用いることも可能で、その際は現行のチタンメッシュの問題である組織癒着を回避できると見られ、整形外科における骨折整復や骨欠損部の補填使用されるチタンメッシュにも応用可能であり、医科分野における発展的事業展開も期待される。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。純チタンマイクロメッシュ薄板の試作とその生体適合性の評価が、目視ではあるがほぼ当初の目標を達成した。今後、生体適合性と機械的強度に関する各種の定量的な評価、10ミクロンのポア径の達成が望まれる。放電プラズマ焼結法に依る多孔チタン薄板に関しても、検討を継続することが望まれる。本技術は、組織・臓器再生に応用可能なスキャフォールドが生成できる可能性があり、さらに、普及を念頭に置いた製造コストも目標値に近い。今後の展開が期待される。
医用X線透視撮影装置(フラットパネル型)用のQC・QAファントムの実用化東北大学千田浩一フラットパネル(FPD)型X線装置(臨床実機)の、低コントラスト分解能と空間分解能とダイナミックレンを評価可能なQCファントムの検討と作製、QCファントムの耐久性の検討、QCファントムの個体差の調査、QCファントムの特許出願準備などを当初の目標とした。当初掲げた目標は、一部を除き、概ね達成できたものと考えている。また、本QCファントム(静止ファントム、動画像評価用ファントムおよびDSAファントム)の製品化へ向け新たな課題も明確になった。今回の研究成果を継続的に発展させるため、さらに研究資金の確保を目指し、本研究開発で明らかになった課題(耐久性や個体差など)の解決ため検討を進め、各種QCファントムの製品化を目指す予定である。さらに国際特許出願を目指し、日本国内のみならず、国際市場も視野に入れ、製品化を行いたいと考える。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。DSA用のQCファントムを予定通り作製し、様々な工夫により製品化へ向けた改良を実施した。今後、同一に作製されたファントム間の個体差の改良を、原因追及と共に検討する必要がある。本研究では、素材に関する課題が残っていると思われるので、直ちに入手可能なものの他にも、他種類の素材を比較する検討も望まれる。
視覚再生治療のための「神経細胞特異的プロモーター」の構築東北大学富田浩史我々はチャネルロドプシン-2(ChR2)遺伝子を、アデノ随伴ウイルスベクターを用いて残存する網膜細胞に導入することで「視覚を再生」できることを明らかにしている。ヒトへの応用を考慮した場合、アデノ随伴ウイルスベクターの他臓器への非特異的発現を引き起こさないように、「神経細胞に特異的なプロモーター」によって遺伝子発現を制御する必要がある。本課題では、「神経細胞特異的なプロモーター」を含む(SY, CO)「アデノ随伴ウイルスベクター」を新たに2種類構築し、神経細胞に特異的に導入されることを確認した。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。シンタキシン、及びCOをプロモーターとするアデノ随伴ウィルスベクターを開発した。機能回復の程度をCAGプロモーターと比較しての評価、神経細胞特異的なプロモーターであることを確認する為の腹腔内投与による遺伝子導入実験、遺伝子発現の量的安定性試験が、今後取り組むべき課題と思われる。改良型ChR2を用いて視覚再生を目指すアイデア自体は大変興味深く、今後の発展が期待される。
糖鎖チップ調製のための糖鎖固定化技術の開発東北大学野口真人糖鎖チップの簡便な調製法の確立を目的として、固定化用官能基を導入した糖鎖ライブラリーの合成とチップ表面への糖鎖の固定化技術の開発を行った。オリゴ糖ライブラリーとして、5糖から9糖の四種類のオリゴ糖を用いて、これを表面に固定するためにグリコシルアジドへと誘導体化した。また、アルキン末端を有するアルコキシシラン誘導体を合成し、シリカゲルやシリコン基板表面に固定した。固相表面のアルキンとグリコシルアジドとの結合は、硫酸銅とアスコルビン酸を用いることで進行し、表面に糖鎖が固定化できることが明らかとなった。一連の反応は市販の試薬から、合計で三段階で達成できるため、簡便な糖鎖チップ調製法になるものと期待される。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。固相表面へのリンカーン分子の固定化、グリコシルアジドの合成とClick 反応によるリンカー分子への固定化が期待通りに進行し、概ね期待通りの成果が得られた。改善点としてモデル反応において、オリゴ糖鎖(5~9糖)の種類によりアジド基導入の収率に大きな差がある。実用化に向けた検討課題として、少ないサンプル量での糖鎖チップの調製法、より定量的な評価法の確立が望まれる。
早期診断可能な「新生児難聴スクリーニング装置」の開発東北大学和田仁本研究では、我々が独自開発した中耳診断装置(SFI meter)の実用化を見据えた安全設計および新生児(生後5日以内)におけるSFI meterの診断装置としての有効性を確かめることを目的とした。上記目的達成のため、新規に陽陰双方対応型低圧リリーフバルブを設計開発した。当該バルブに加え医療規格IEC60601-1対応電源を装置に組み込むことで、SFI meterの臨床使用が可能となった。本装置を用い、約40名の新生児に対し中耳動特性の測定を行った結果、新生児の中耳動特性は大人のそれとは異なることが明らかとなった。さらに、中耳疾患による新生児中耳動特性の変化の計測に成功した。これらの結果よりSFI meterの新生児難聴スクリーニング装置としての有効性が示された。今後、装置の静音・小型化を進めるとともに、外・中耳疾患を有する新生児の中耳動特性を調査する。これら計測結果に理論的考察を加え、新生児の中耳動特性の解明に取り組む。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。開発した装置の安全性が確認され、かなりの数の新生児の測定・評価が行えた。本研究により、清音化、高速化、診断方法の確立などの検討課題が明確となった。本方式の特徴の一つである陰陽加圧による計測が、今回の結果から見て必要であるかも検討し、測定の簡略化の検討も望まれる。着実に研究を遂行していることが伺え、独創的で社会的要求も高いことから今後の展開への期待は大きい。
スフェロイドーコラーゲンゲル内3次元培養による歯胚形成技術秋田大学小代田宗一本研究は、エナメル芽前駆細胞と象牙芽前駆細胞の2種の細胞間に適切な相互作用を誘導できる新たな3次元培養法を開発し、歯再生のための歯胚を培養細胞から形成することを目的とした。申請者らが独自に樹立したエナメル芽前駆細胞と象牙芽前駆細胞を用いて、組織中の密度に近いと考えられるスフェロイド培養法およびコラーゲンゲルを用いた共培養系を検討した結果、培養組織に著しい石灰化を引き起こすことに成功した。上皮および間葉由来の細胞株の共培養で細胞間相互作用が促進され石灰化が誘起されたメカニズムを明らかにすれば、再生歯胚を培養系で作製し、再生歯胚移植医療を実現させる技術の確立に寄与できると考えられる。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。2種類のスフェロイドのサイズ、エナメル芽前駆細胞と象牙芽前駆細胞の比率、コラーゲンゲルの添加方法を改良したことで、歯胚3次元培養組織を構築した。今後、予定していたスフェロイドのコラーゲンゲル内培養での各種分化マーカーの検討を行い、マウス腎臓皮下組織内への移植の達成が望まれる。
ポリエステル基の効果的骨誘導再生メンブレンの実用化研究開発山形大学鵜沼英郎本課題では、ポリエステル表面にゼラチンとリン酸カルシウムを被覆した、以下の特徴を持つ骨欠損治療用材料の作製条件の最適化と、細胞培養試験・動物実験を通して、薬事申請に向けた実用化検討を行った。 検討に使用したメンブレンは、厚さ50μmのPETシートに、1μm以下の厚さのゼラチン層と、5~10μmの厚さの低結晶性水酸アパタイト層を積層したものである。細胞培養の結果、本メンブレンは比較試料(PETのみ、PET/ゼラチン、cytoplast)に比較して、著しい増殖・分化・石灰化を示した。イヌを用いた動物実験においても、骨再生に要する期間が従来品の半分程度に短縮できた。医師主導による自主臨床研究において抜歯窩の再生を行ったところ、感染・炎症などを示さずに従来品の半分程度の期間で骨および付着歯肉の再生ができた。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。メンブレン作成のための最適条件の検討で、目標としたメンブランを作成した。今後技術移転を進めていくためには、ここで取り上げている以外の項目の最適条件を検討して、細胞毒性試験などの安全性の確保にも努める必要がある。企業との共同研究が予定されているので、上手く進行させることが望まれる。
色の変化でわかる肉・魚類の簡易型鮮度センサーの開発山形大学木島龍朗肉・魚類の鮮度判定には未だに消費者と同じ目と鼻を使った感覚評価法が多いが、本研究課題で開発した簡易型鮮度センサーは、アゾ還元酵素による色素分解機能を利用し、腐敗物質(指標物質)が検出されると(赤)色が無色透明に変化する誰もが簡単に判断できる画期的なものである。腐敗物質の検出限界は50ppmという高感度であり、これにより目視でもわかる高感度で安価な鮮度センサー系を構築できることが証明された。今後は、検出部となる酵素、補酵素固定化部位のコンパクト化、色素分解系との一体成型化を検討し、簡易型のバイオセンサーを試作する。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。キサンチン脱水素酵素の固定化により、腐敗物質マーカーの一つであるキサンチンの定量に見通しを得た。今後、イノシン酸の定量に必要なイノシン酸脱水素酵素の入手可能性に関しての事前調査と、使い捨て型電極型の試作・評価を実施する必要がある。イノシン酸脱水素酵素の調達や調製検討により、デバイスとして利用可能かどうかを早期に見極めることが望まれる。
障がい児育児用「抱っこ器」の開発鶴岡工業高等専門学校小野寺良二本研究は重度の障がい児をもつ育児者を対象とした機器の開発である。具体的には、椅子の上での育児を補助するもので、本研究では「抱っこ器」と称している。本開発では、音声認識によるリクライニング動作、立ち上がり時のキャスタの後方への流れ防止機能を実現した。当初はアームレストとフットレストの自動化も計画されていたが、今回はその部分の音声操作までは至らなかった。今後は、試乗によって出てきた問題点を考慮したプロトタイプの改良とその量産化、さらに長期的な試験運用を予定している。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。重度の障がい児をもつ育児者を対象とした機器「抱っこ器」の改良に取り組んだが、臨床的評価に関する検討が遅れている。実際に使用されている状況で、評価データを早急にとることが必要である。又、障がい児の前に健常な児での検討を実施し、安全性や有用性のデータを得ることも検討課題である。今後早期に福祉機器開発メーカーと契約を結び、臨床試験を行いながら実用化を進めことが望まれる。
認知症診断のための髄液型糖鎖の検出プローブ開発福島県立医科大学橋本康弘【研究の経緯】 研究責任者である橋本は、髄液トランスフェリン(Tf)には血清トランスフェリンと同じ移動度のもの(Tf-2)と、これとは異なる移動度を示す髄液に特有のもの(Tf-1)の2種類が存在することを明らにした。両者を精製してその構造の違いを調べたところ、糖鎖修飾が異なっていることが明らかとなった。すなわち、Tf-1はN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)を末端糖に持つユニークな糖鎖を持つのに対してTf-2は血清Tfと同様に、シアル酸を末端糖に持つことが示された。さらに、Tf-1は髄液産生組織である脈絡叢(脳内)から分泌され、髄液代謝異常に基づく認知症(特発性正常圧水頭症: iNPH)の診断マーカーとなることが示された(Futakawa S , Hashimoto Y et al, Neurobiology of Aging, in press)。一方、Tf-2は血清から由来することが示され、その値はiNPHで変化しなかった。即ち、タンパク質部分は同一(Tf)であるが、糖鎖部分のみが異なるアイソフォーム(異性体)が診断マーカーとなることが見出された。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。GlcNAc糖鎖を認識するIgMモノクーロナル抗体からcDNAを分離し、組み換え抗体の作製に成功した。特発性正常圧水頭症のアッセイ用プローブの実用化に向けた道筋が明らかにされたと考えられる。今後、cDNAクローン化と組換え5量体化で、目的どおり親和性が高まったのかなど更なる検討が必要である。又、従来法との比較において、相関性のみならず優位性を明確にすることが望まれる。
【目的】Tf-1とTf-2の区別は、イムノブロッティング法の移動度の差により検出してきたが、臨床診断にはELISA法などのハイスループット検出が必要となる。しかし、トランスフェリン抗体はタンパク質部分しか認識しないので、Tf-1とTf-2を区別できない。従って、Tf-1のハイスループットスクリーニングのためには、GlcNAc糖鎖を検出するプローブ開発が必要となる。現有のGlcNAc糖鎖プローブとしては、PVLレクチンおよびGlcNAc結合型IgM (OBM4モノクローナル抗体)がある。しかし、PVLレクチンは糖鎖結合特異性に乏しく、OBM4は結合特異性は良好であるが、IgM抗体によく見られるように結合性が弱く、不溶物(aggregates)を生じやすい欠点がある。 本研究の目的は、OBM4抗体の結合特異性を保ったままで、実用性が高い新規GlcNAc糖鎖プローブを開発することである。具体的にはOBM4抗体遺伝子より重鎖遺伝子および軽鎖遺伝子をクローン化し、そのFabフラグメントが自己凝集して多量体となるプローブを作製する。このプローブは、OBM4抗体の結合特異性を保ち、抗原結合部位の自由度が高いため多価で抗原に結合し、見かけ上の親和性(ability)が著しく上昇することが期待される。【研究成果】 慶應大・高柳:OBM4抗体遺伝子より重鎖遺伝子および軽鎖遺伝子をクローン化し、Fabが自己凝集して多量体となる自己会合ドメインとの融合タンパク質遺伝子を作製した。なお、検出のためにアルカリフォスファターゼとの融合タンパク質としている。 福島医大・橋本:プローブタンパク質の哺乳動物細胞での発現を確認した。本プローブは、認知症(特発性正常圧水頭症)のハイスループットのアッセイに応用が可能である。
ナノピラー・擬微小重力培養を用いた3次元ガン組織構築とドラッグスクリーニングへの応用検討独立行政法人産業技術総合研究所植村寿公ガン研究のインビトロ研究は通常培養ディッシュ上で2次元培養を行うのが通常である。しかし、生体内ではガンは3次元的組織を作っており、抗がん剤の作用機序の研究、ドラッグスクリーニングへの応用には2次元培養を用いた評価が不十分であり3次元培養の重要性が指摘されている。本研究では、RWVバイオリアクターを用いて擬微小重力培養によるコラーゲン担体を用いた3次元ガン組織形成技術を確立した。本手法によれば、多数の均質な3次元ガン組織を同時に得ることができ、2次元培養によるガン細胞では得られない抗がん剤に対する応答特性を持つことを見出し、より生体に近いガン組織を用いたドラッグスクリーニングの可能性を見出した。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。3次元細胞培養と2次元培養との抗がん剤に対する感受性の違いなどの研究成果で、本技術が抗癌剤のスクリーニングに応用出来る可能性が高まった。今後、スフェロイドを用いたスクリーニング法の確立を急ぐ必要がある。又、実用化の際には適用できる細胞株の一般性に関する知見も必要なので、ヒトのがん組織から採取した初代培養での検討も望まれる。3次元癌組織を用いた抗がん剤のスクリーニング系の実用化が期待される。
高感度遺伝子検出を実現する超分子電気化学センシングプローブ独立行政法人産業技術総合研究所青木寛高感度遺伝子検出を目的とする新規機能性遺伝子プローブを開発するため、フェロセンを電気化学活性部位として有する新規核酸モノマーを開発した。また、耐熱・耐薬品性に優れたセラミックス基板を用いて、マイクロ電極アレイを作製した。従来、セラミック電極のセンサ利用の最適化に技術的課題があったが、これを克服することで、複数の異なる微小遺伝子センサを高集積アレイ状に有する遺伝子センサアレイの構築に成功した。また、特定の遺伝子に対する電気化学的応答の観測にも成功した。今後、本研究で得られた成果をさらに発展させ、遺伝子センサアレイチップとしての実用化・事業化を行う予定である。期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。ガラス基板に固定する従来法ではなく、セラミックス基板で複数の異なる微小遺伝子センサを高集積アレイ状に有する遺伝子センサアレイを構築した。本研究では、新規合成プローブの性能についての構築が残されており検討することが必要である。今後、新規プローブによる遺伝子検出感度を確認し、複数のターゲットを対象とした遺伝子センサアレイの開発を歴て、企業化との共同研究に進まれることを期待する。
シリル化ペリレンの高効率発光消光システムを用いた高感度遺伝子解析システムの開発群馬大学森口朋尚本研究課題は、申請者のグループが開発した新規蛍光物質であるシリル化ペリレンの高効率発光、およびその消光を利用した新たな遺伝子解析システムの開発である。蛍光プローブを用いた遺伝子解析には、標的となる遺伝子の有無に対して、高感度に反応する発光システムとその発光を高効率に消光できる両方のシステムが必要となるが、高い発光効率をもつシリル化ペリレンとこれを効果的に消光できるアントラキノンを組み合わせることで、効率的に遺伝子配列を識別できるプローブ分子の開発を行った。このプローブ分子は遺伝子配列に一塩基の違いも高度に識別し、その違いを明白に蛍光発光強度の違いとして示すことが可能となった。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。溶液系では、シリル化ペリレンとその消光ペアであるアントラキノンを用いて基本的なビーコン特性が得られることを明らかにし、この蛍光団の潜在的な能力を確認した。今後、マイクロアレイへ用いる為に基板上での機能評価が必要である。又、既存の装置との互換性も重要なので、波長を合わせる工夫もし、その後、既存のプローブとの差別化がどのくらい可能かの検討に移り、産学連携できる企業を探す展開になることを期待する。
高感度のウィルス検査薬を目指した糖鎖含有金ナノ微粒子の合成埼玉大学小山哲夫本研究の目標は、糖鎖誘導体をエステル交換反応により金ナノ微粒子上に導入する手法について、その反応条件について検討を行い、検査薬等として使用可能な糖鎖含有金ナノ微粒子の合成法を確立することである金ナノ微粒子への糖鎖導入法については、糖鎖誘導体末端のチオアセチル基に対してエステル交換反応を行うことによって、簡便に糖鎖と金ナノ微粒子を結合できることが確認された。また、導入反応後の糖鎖-金ナノ微粒子複合体の精製法に関しては遠心分離によって目的物の精製・回収ができることを明らかにした。本手法を用いて各種病原体が認識する糖鎖を金ナノ微粒子上に導入することによって、検査薬として利用できる糖鎖含有金ナノ微粒子の合成が期待できる。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。ラクトース誘導体をモデル系として、導入反応の最適化指針の導出、合成粒子の精製法の構築に至っており、当初の目標である金ナノ粒子に対する糖鎖導入技術を確立した。今後、長期保存に耐えうる安定化や高感度化の検討を続けることで、実用化に繋がる技術の成果が期待される。研究成果は、導入する糖鎖を選択することにより様々診断、分析に適用できる汎用技術であるので、技術移転が期待できる。
新規メラノーマ治療薬の探索を目指した高感度・迅速・簡便なジアシルグリセロールキナーゼ活性測定系の開発千葉大学坂根郁夫メラノーマ(悪性黒色腫)は、あらゆる癌の中でも最も悪性度が高く、致死率も高い。しかし、現在のところ本症に対する有効な化学療法は未だ存在しない。既に我々は、ジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)αの活性阻害が、極めて有望で且つ副作用、併用効果の面等で優位性があるメラノーマ治療法になり得ることを明らかにした。しかし、従来のDGKα活性測定法は煩雑で阻害剤スクリーニングは事実上不可能であった。我々は、今回A-STEPの支援を得てDGKα阻害剤スクリーニングの為の高スループット(HTP:高感度・迅速・簡便)活性測定系の開発に成功した。そこで今後、本法を用いてDGKαを特異的に阻害する化合物の発見・開発を目指す。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。高感度、迅速、簡便、及び放射性同位元素を用いないジアシルグリセロールキナーゼα(DGKα)活性の測定系を確立した。但し、既存手法の組み合わせの為、新規性や進歩性を追求した研究も考慮して頂きたい。今後、アイソザイム特異的なハイスループットスクリーニング系の構築をすることで、本手法を用いたDKalphaの特異的阻害剤の開発へと繋がることが期待される。
無光で水を浄化する抗ウイルス性新触媒の企業化の探索千葉大学白澤浩本触媒には無光でヒドロキシラジカルを発生させる能力があり、アミノ酸(arginine)を分解する能力のあることが確認されたが、トリハロメタン等を分解する能力は確認できなかった。一方、ウイルスの不活化は本触媒がウイルス粒子蛋白質を崩壊またはエンベロープ蛋白を変性させることにより起こることが確認された。また、本触媒の活性として、ヒドロキシラジカル発生以外のメカニズムも存在することが示唆された。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。無光でウイルスを不活化する新触媒の実用化の可能性を探索する為に、本触媒の詳細な作用メカニズムを解明した。今後は、市場性や社会的要望など、実用化に関する判断材料を示し、その判断に対する開発の観点を明示することが求められる。本触媒の実用化の為には、今回明らかになった特性以外の特性を明らかにすることも必要と思われるので、早急に応用性を探索することが望まれる。
周波数選択性測定システムの構築から難聴病態解明と次世代補聴器の開発へ慶應義塾大学神崎晶本研究の目標として、現在まで研究レベルでのみ使われていた周波数選択性測定を一般臨床に応用し、外来での難聴者に対して測定を行うことで実際外来診療においてその測定精度が一定化・普遍化することを確認することと、既知の検査データとの比較検討において、周波数選択性測定結果の解釈の検討をすることとした。研究レベルでは5周波数測定するために約4時間程度要していた時間を、今回診療においての測定時間を20分程度まで短縮可能であった。また、加齢性難聴者を対象に行った測定結果では、純音聴力検査、語音聴力検査、ノイズ下語音検査、OAE等との相関関係がみられ、一定の精度をもって測定が行えることが可能であった。今後はこれらの測定結果からの聴覚特性を用いての増幅装置を開発していきたい。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。約4時間要していた時間を20分まで短縮し、加齢性難聴者を対象とした測定結果では、従来法との相関関係が見られ、一定の精度をもって測定が行えることを確認した。周波数選択性の低下が母音の了解度の低下を引き起こす可能性を示すことで、音声強調処理プログラムの有効性を示唆している。今後、雑音下においても残された周波数を有効利用する新しい増幅技術への展開が期待される。
がん病態診断を指向したバイオハイブリッド型蛍光プローブによる細胞イメージング慶應義塾大学西尾忠日本人の死因のトップである癌の病態診断に向けた分析ツールの開発を目標として、本研究では主に、正常細胞と癌細胞の内部環境 (pH、温度など) の差異を識別可能なバイオハイブリッド型蛍光プローブの作製を行った。まず温度応答性ポリマーに種々のpH応答性蛍光分子を導入することで、ポリマーの相転移温度又は蛍光分子のpKa付近で蛍光強度が大きく変化する環境応答性蛍光ポリマーを合成した。次いで癌細胞ターゲティングのため、ポリマーに葉酸を結合させたバイオハイブリッド型蛍光プローブを作製した。今後、このプローブの細胞透過性及び毒性を精査し、蛍光顕微鏡を用いて細胞内環境変化をモニターする予定である。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。がん細胞の生物学的特性を利用した発蛍光による診断法の開発において、有用な蛍光プローブを作成した。今後、従来法である癌細胞診断に対する感度と特異性の優位性の確認が必要である。従来法に対する優位性が証明できれば技術移転も可能と思われる。本研究は、現在の形態診断である細胞診に新局面を開く可能性があり、今後、乳癌にターゲットを絞って行うのはよい展開と思われる。
分子インプリント高分子を用いた抗凝血剤センサの開発芝浦工業大学吉見靖男体外血液循環療法において抗凝血剤ヘパリンの濃度を連続監視するセンサの開発が目的である。本助成期間の研究目標は、分子インプリント高分子の薄膜を利用してヘパリンセンシングの可能性を見いだすことにある。そこでインジウム・スズ酸化物の表面に、ヘパリンを鋳型とした分子インプリント高分子をグラフト重合法で固定した。これを電極としてフェロシアン化物のサイクリックボルタメトリーを行うと、検出電流は試験液中ヘパリン濃度に依存した。さらに血液中のヘパリンに対しても、フェロシアン化物の酸化電流は、依存した。以上の結果より、分子インプリント高分子固定電極は、血液中ヘパリンのセンサとして有効であることが証明された。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。grafting from法で得られた分子インプリント高分子電極が、ヘパリンセンサとして機能しうることを示し特許出願を行った。今後、ヘパリンセンサとしての検出感度、応答性、及び電極作製条件との因果関係を示すことが必要である。技術移転につながる可能性の見極めを早期に実施することが望ましい。
In-cell NMR法による蛋白質立体構造解析と新規計算手法の開発首都大学東京池谷鉄兵生命機能や疾病機構の分子レベルでの理解には、より自然な生体内環境での蛋白質立体構造解析が不可欠である。申請者と首都大学東京 伊藤隆教授らは、2009年に世界初の「生きた細胞」中の蛋白質立体構造決定に成功した(in-cell NMR)。この方法を様々な蛋白質に適用可能な汎用技術にするため、本課題では、特に計算機の担う段階に焦点を当て、システム開発に取り組んだ。課題期間内で、新しいNMRデータプロセス法のin-cell NMRへの適用、検証実験を行い、スペクトルの大幅な改善を可能にし、世界で第二のin-cell NMR構造決定に成功した。また、多重共鳴スペクトルを一切必要とせずに、NOESYスペクトルのみで完全自動構造解析できる新規手法を開発した。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。本研究により、少ないスペクトルデータを用いた構造計算手法の開発、及びアルゴリズム開発において成果を示し、世界で第二番目のin-cell NMR立体構造決定を達成した。今後、構造最適化計算を行うことで最終構造決定まで完了させ、国際誌上で発表しながら、本技術を汎用化する検討も実用化の面で望まれる。
非接触型中耳可動性測定装置の開発と実用化電気通信大学小池卓二聴覚器官は耳介と外耳道からなる外耳、鼓膜と耳小骨(ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨)からなる中耳、および感覚細胞が存在する内耳(蝸牛)により構成されている。耳小骨は、空気中の音波によって生じた鼓膜の振動を、蝸牛に効率よく伝達する役割を担っている。耳小骨は靭帯や筋腱で振動しやすいように鼓室内に保持されているが、これら靭帯・筋腱が病的に硬化すると、耳小骨の振動が妨げられ、難聴が生じる。特にアブミ骨を保持している輪状靭帯が硬化すると、聴力が大きく低下する。上記の問題を解決するため、申請者と東北大学のグループは、耳小骨可動性計測装置を開発した。本装置は、手持ちの計測プローブにより、耳小骨に10 micron程度の変位を与えながら、その時の反力を瞬時に計測し、耳小骨の可動性(コンプライアンス)を定量的に評価するものである。本装置を慶應義塾大学の協力により、数名の患者の耳小骨可動性を術中に計測したところ、聴力低下量と、本装置によるコンプライアンス計測値には有意な相関がみられた。これにより、術中に本装置により、耳小骨の可動性計測を行えば、病態の定量評価や術後の聴力予測が可能となり、最適術式の選定や術後聴力成績の向上・安定化に大きく寄与する可能性があることが明らかとなった。 上述のように、本装置および計測手法の有用性は示されたものの、計測時には脆弱な耳小骨を直接押し動かして計測を行うため、耳小骨破壊のリスクが僅かながらあり、特に、耳小骨に疾患による脆弱化が見られる場合には、計測自体を躊躇せざるを得ない場合もあり、これが実用化の妨げになっていた。そこで本研究では、パルスインジェクタを用いた微小水流により耳小骨に変位を与え、光プローブにより非接触で耳小骨変位を計測可能な、新たな耳小骨可動性計測装置を開発する。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。従来の接触式検査機器と完全非接触印パクタ―とのちょうど中間にあたりで、水滴(流体)を介して振動特性を得る技術で、従来法と比べて大きな変異が得られた。実用化には、更なる小型化と高出力化(変位測定感度)が必要である。最終目標である、実際の手術中の患者の耳小骨計測まで進展させることが望まれる。
アプタマーを利用した新規小分子検出法の開発東京学芸大学原田和雄本研究課題では、抗体による検出が困難な小分子を簡便かつ高感度に検出する方法の開発を目的としている。具体的には、RNAアプタマーがリガンド(標的分子)と結合する際の構造変化をRNAキッシング相互作用による会合体の形成とリンクできる「キッシング・アプタマー」分子をデザインすることにより行う。本研究期間は、これまでに開発したテオフィリン結合キッシング・アプタマーを出発点として、蛍光生、及び蛍光標識人工塩基を導入し、FRET法によるリアルタイム検出が可能であることを示した。今後は検出におけるバックグラウンドの抑制、及び感度の向上をはかるとともに、テオフィリン以外の標的分子へ応用を試みることにより、検出系としての一般性を検証する。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。テオフィリンのリアルタイムの検出が可能なことを示したことで、抗体による測定が難しい分子について、簡便で感度の良い測定法を構築できる可能性を示した。今後、検出感度の向上、FRET法改良、コカインの検出法については、技術的な検討課題はほぼ明らかにされているので、研究を加速することが望まれる。目標が達成されれば、新規な分析法としてコカインなどのリアルタイムな高感度分析に使用されることが期待できる。
環境応答性蛍光色素に結合するDNAアプタマーを用いた標的核酸配列検出法の開発東京工科大学加藤輝均一系での標的核酸配列の蛍光検出法は、定量的PCRなどの遺伝子解析および遺伝子診断技術への利用が期待できる。本研究では、環境応答性蛍光色素Dapoxylに結合し、その蛍光強度を増強するDNAアプタマーをDNAプローブとして用いることにより、標的核酸を均一系で蛍光検出する技術の開発を目指した。本研究により得られた2分子からなるDNAプローブは、標的DNAの存在下でDapoxylの蛍光強度を約100倍に増強することが確認され、均一系での新たな標的核酸検出法の可能性が示された。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。蛍光物質に結合するDNAアプタマーを改良することで、標的DNAを効率的に検出する手法を見出し、特許化を行った。今後、他の標的DNA配列に対する検出も可能かどうかの検討が必要である。原理的に検出手法の確立には成功しているが、実際のPCR産物を使った特異的DNA配列の検出や高感度化が達成できれば、技術移転に向けた展開が期待される。
ハイスピード陰圧補助機能付微小血管マイクロ吻合器(Vacuum-Assisted Micro vascular Anasto-Coupler:VaMAC)の開発東京大学牛田多加志微小血管吻合を自動的に行う吻合器=VaMACを開発し。現在のプロトタイプに改良を加えて、動物実験で成功させることを目的とした。上記期間内に動物実験(ラット8匹)で動物実験を施行し、7例の血管吻合(端々吻合)を行い、6例の成功を得た。また、これにより、同実験で動物実験のデータを形態学的に評価し、大筋として原理が実現可能であることを証明した。これにより、同吻合器の利点と、問題点を明確にすることが可能であった。吻合器の形状の更なる最適化、デバイス周りの付属部品を開発することで、もう一つの大きな課題である端側吻合(血管をT字に吻合する技術)に挑戦できると思われる。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。施行後の開存率にも一定の結果が得られ、吻合方法の基本技術の有効性を得た。病理学的検討については、例数を増やし、又経過も長期にわたって観察することが望ましい。今後、陰圧ポンプ・チューブを含めた全体の寸法・サイズの検討や、一手術に必要となる吻合器の個数などの検討も課題として残る。医療機器として、薬事法対応も考慮した実用化展開を期待する。
再生血管用拍動培養デバイスの開発東京大学古川克子再生血管の開発が望まれるなか、先行研究において培地の流れを利用し細胞へせん断力や圧力を負荷することで、血管組織の構築が促進されることがわかっている。現在までに、生体内に近い環境が再現可能な血管培養装置が開発されているが、それらの多くが流れを制御するため複雑な系となっていた。本研究では、装置の簡便化を図り培地を往復させながら、細胞へせん断力や圧力の複合的な物理刺激が負荷できる再生血管培養装置を新規に開発した。今後、心筋梗塞や脳梗塞の治療手段として再生血管の構築を行う際の工学的なツールとして汎用性の高い工学技術に発展しうると考えられた。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。細胞播種性、及び力学的特性にも優れた再生血管モデルを作製し、拍動様の流れとひずみを同時に負荷可能でセットアップが簡便なデバイスを開発し、in vitro培養実験でもその優位性を確かめた。今後、治療技術として応用するためには、生物学的な問題点(血栓等)の検討も必要である。生物学的および臨床的に有用性・安全性が確かめられることで、心筋梗塞や脳梗塞の治療手段として技術移転に向けた展開が期待される。
マイクロバブルの凝集現象を利用した腫瘍組織の血管内治療法の開発東京農工大学桝田晃司マイクロバブルを用いた超音波治療法には温熱療法と機械的衝撃法の2種類があり、前者は音波の連続照射によりバブルを振動させる方法、後者はバブルが破壊した機械的衝撃によって薬剤を導入する方法であるが、両者とも正常部位に対する副作用の恐れがあった。そのため本研究では、音波の作用力であるBjerknes力によってバブルが凝集体を形成する条件があることを利用し、体外からの超音波音源制御と画像処理技術と統合し、生体内に局所的超音波音場を生成することによって腫瘍組織内の血流を阻害し、最終的に血管を塞栓して死滅させる治療法の開発を目的とする。これにより副作用、バブル使用量、医療費を格段に抑制できると考えられる。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。体表面からの標的部位の距離や血管形状に応じて必要となる超音波源のパラメータ導出と、その標的部位に対し、超音波音源の位置や姿勢を生体外から電子的・機械的に制御する技術をほぼ確立した。本研究により、システムの精度検証の詳細と生じた誤差の原因追究が検討課題として明確となった。実用化の為には、生体への応用研究への計画を進め、特に正常部位に対する副作用の評価を行う必要がある。
PARP経路を標的とする抗がん剤の適応予測・検証マーカーの探索独立行政法人国立がん研究センター益谷美都子本研究ではPARP経路を標的とする抗がん剤の効果規定因子をsiRNA法等の手法で同定し検証する。アルキル化剤に対しPARP阻害剤は細胞死増強効果を示す。ポリ(ADP-リボース)グリコヒドロラーゼ(PARG)のsiRNAによる機能阻害が細胞内シグナル伝達をブロックすることでPARP阻害剤のアルキル化剤による細胞死増強効果を抑制することを見出した。PARP経路のマーカー候補としてポリ(ADP-リボース)、特異的metaboliteリボシルアデノシンについての評価系の構築を検討した。ポリ(ADP-リボース)標品の調製法を簡略化する方法を見出し、リボシルアデノシン標品の酵素的調製過程が短縮できた。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。PARGに対するsiRNAを用いた発現阻害によって、PARP阻害剤に対する感受性が低下する(耐性が強まる)ことを培養がん細胞で明らかにした。今後、予定していたPARP阻害剤に対する感受性規程因子としてのPARGの臨床的意義(発現、血中検出など)、ポリ(ADP-リボーズ)特異的代謝産物の臨床検体での検討が必要である。臨床的に意義のあるマーカーであることが実証できれば、技術移転も可能と思われる。
インターネット上のメラノーマ自動診断システム実用化研究法政大学彌冨仁メラノーマは極めて悪性度が高い皮膚がんの一種で、早期発見は極めて重要である。メラノーマと色素細胞母斑(ほくろ:良性)の識別は皮膚科専門医でも困難な場合が多い。我々は2004年に、ダーモスコピー画像を用いてメラノーマと母斑を識別できる世界で初めてのweb上の自動診断システムを開発して公開し、改良を加えてきた。システムをより実用化に近づけるためには、母斑以外で多くみられる脂漏性角化症や血管腫、基底細胞癌などの非メラノサイト腫瘍とメラノーマを正しく識別する技術の開発が必要となる。本課題でこれらの腫瘍領域抽出手法の開発と識別手法の開発を行い、メラノーマの早期診断システム実用化の可能性を検証する。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。高い精度、再現度で非メラノサイト病変とメラノサイト病変を識別する診断システムを構築した。できれば、企業からの視点、企業サイドの意見を聞くことが望まれる。今後は、実用化という視点に立った取り組みを進めていく必要があり、その点では「無線LAN連動ダーモスコープ」の開発は期待される。企業が参画できるような製品像を構築していくことが重要と考える。
生体吸収性ペースト状人工骨の開発(財)神奈川科学技術アカデミー小西敏功本研究課題では、インジェクションによる低侵襲治療を可能とする「生体吸収性ペースト状人工骨」の開発を指向し、セメントの材料・力学特性の最適化を推進した。シリンジでインジェクションしたセメント成形体の圧縮強度がヒト脊椎椎体の強度に匹敵する29 MPa で、8 min で硬化開始可能なセメントの試製に成功した。これは従来型セメントと比較して高いスペックである。また、細胞毒性を間接的に調べた結果では、コントロールと比較して劣るものの良好な増殖を示した。今後は、確実な硬化が得られる高いスペック(材料・力学特性)のセメントへと改良し、医療用デバイスとして応用するための技術を構築する予定である。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。強度、ならびに生体適合性の検証という点において目標をクリアした。今後、さらなる強度向上、細胞毒性低減の為の材料設計、及び溶解性の確認実験の実施が必要である。生体適合性試験において、前臨床試験を念頭におくならば、JIS T 0993-1「医療機器の生物学的評価」のプロトコールに則って評価した方が良いと思われる。
骨誘導能を備えたインジェクタブル型ペースト状人工骨の開発(財)神奈川科学技術アカデミー相澤守本研究課題では、自家骨の持つナノレベルの欠陥構造が「骨誘導能」を誘起しているという申請者らの新たな知見に立脚し、生体骨と類似した化学組成をもつアパタイト(以下、骨ミネラル含有アパタイト)を合成し、それを出発原料として低侵襲治療を可能にするペースト状人工骨(骨修復セメント)を開発した。予備的な検討ではあるが、実験動物(ウサギ)を用いたin vivo評価により、骨ミネラル含有アパタイトセメントは純粋なアパタイトから作製したセメントよりも材料周囲での骨形成率が高く、従来のアパタイトセメントを超える優れた骨形成能を有することが分かった。今後は、このペースト状人工骨のスペックを臨床応用可能なレベルに引き上げる研究を推進する。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。自家骨の持つナノレベルの欠陥構造が、「骨誘導能」を誘起しているという申請者らの知見に立脚した独創的な研究であり、新生骨の形成の確認やペーストの強度の測定など一定の成果を示した。今後、「充分な性質に到達する時間」をより短くすることが非常に重要となる。その為にも、混練液の組成等のさらなる最適化が望まれる。
磁気ナノ微粒子を利用したベクターフリーiPS細胞の創生横浜国立大学一柳優子報告者は、独自の製法(特許第3933366号)を用いて3d遷移金属を含むナノメートルサイズの磁気微粒子を生成し、それらの磁気的性質について研究してきた。近年はこれらの磁気微粒子を医療へ応用すべく、本微粒子の形状を利用して、従来不可能であった酸化物絶縁体の磁気微粒子への官能基の修飾やがん細胞に選択的に導入可能な磁気微粒子の作成に成功してきた。本課題は、これらの蓄積した技術を基盤として磁気ナノ微粒子を用いて効率的に遺伝子導入を行い、従来用いられている手法のようにウイルスやベクターを使用することなしにiPS細胞を創生することを目的とした。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。マグネタイトナノ微粒子として磁気特性の優れたものが取得され、それらを利用して細胞内への遺伝子取り込みを可能とし、iPS細胞誘導に見通しを得た。本研究では、有効性を証明するiPS細胞誘導の実証を示すデータが不十分であり、今後この部分のデータの充実が望まれる。実用化の為には、高確率で発現する技術の確立がキーポイントになると思われる。
腱分泌物tendon gelによる人工腱の開発東海大学鳥越甲順損傷腱の再生過程は未解明である。今回、in vivoでありながらin vitroの便利さを兼ね備えたフィルムモデル法によって腱の再生過程を電顕解析した。層板構造が完成した時期の腱分泌物tendon gelに張力(メカニカルストレス)が加わるとtendon gelは張力方向に縦列した膠原線維へと劇変し腱が形成された。その後、線維は太く成熟した。また、tendon gelから膠原線維へ形態変化する時のメカニカルストレスを定量評価した。tendon gelを特許出願し、今回の成果を学会発表後、専門雑誌へ投稿した。今後、成熟した人工腱の作製化をめざす。次に、腱細胞と羊膜間葉系幹細胞との共培養を行い、幹細胞にはtendon gelのcollagen type I, IIIを分泌する能力があることが判明した。今後、tendon gelの量産化をめざす。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。マウスにおいて、腱の再生過程が示され、前十字靱帯断裂の場合には人工靱帯(異物)を用いない代替え治療法となる可能性を示した。今後、動物による再建実験に移行することが必要である。羊膜幹細胞からのtendon gelを利用した人工腱の作製については、まだ予備実験の段階であるので、特に細胞の安全性に留意して研究を進めることが望ましい。再生に係る生理学的検討も同時進行で行うことも考慮されたい。
心疾患合併妊娠における切断PRL診断方法の開発明治大学大橋充代(石田充代)周産期心筋症は、健康な女性が周産期に何の兆候もなく心不全を発症する難病であり、長年にわたって明確な原因が不明であった。しかし、2007年に、哺乳類の授乳に不可欠なプロラクチンがプロテアーゼ切断を受けて生成される切断プロラクチンが、周産期心筋症の原因であるという報告がなされた。これを受け我々は、平成22年度「FSステージ探索タイプ」の研究費助成を受け、切断プロラクチン及びその切断酵素であるカテプシンDの測定方法を確立した。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。切断PRL、及びカテプシンD活性を、周産期心筋症患者のブロモクリプチン投与前後、及びそれ以外の心疾患患者の血液サンプルにおいて計測し、2例の周産期心筋症患者において有効性を示した。今後、再現性を示す具体的データ収得や、臨床検体(目標の100検体以上)の測定が必要である。血漿の検体を得るには、新鮮な状態で血球の除去など個別に処理する必要があり、手技の改善を考慮してほしい。
家兎における代用気管としての形状記憶合金コイルの有用性の検討新潟大学窪田正幸現在まで理想的な代用気管材料として、腐食や劣化のないチタン・ニッケル形状記憶合金ワイヤに注目し、紡錘形コイルと整形することで気管半周切除における代用気管としての可能性を検討した。疎なコイル(Group 1)やメッシュで覆った疎なコイル(Group 2)に比べ、隙間なく密な紡錘形コイル(Group3)を検討した。密なコイルが気管欠損における代用気管として有用であることを明らかにした。そこで、気管部分欠損で有用であった密なコイルを気管全欠損における代用気管として有用ではないかとの発想に至り、今回の実験を施行した。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。当初予定していたコイルに代えて、改良型コイルによる動物実験を行ない、当初の目的の6ヶ月以上の生存が得られた。改良した点においても肉芽形成が見られるので、更なる検討と対策が必要である。現在の方法では、肉芽形成が完全には制御できていないので、申請者らが計画中の方法なども検討して、更なる生存率を向上させることが重要であると思われる。
レビー小体型認知症の診断に有用な髄液中αシヌクレイン簡易ELISA測定キットの開発新潟大学池内健レビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症に次いで頻度の高い認知症であり、全国に約50万人の患者数が推定されている。レビー小体型認知症は、診断マーカーなど客観的な診断技術が不足しているため、正確な臨床診断が困難なことが少なくない。本事業課題は、レビー小体型認知症の診断マーカーの確立に向けた簡易診断キットの開発を目的とした。レビー小体型認知症の患者脳にはαシヌクレインが特徴的に蓄積することから、脳脊髄液中のαシヌクレイン測定の有用性を本研究事業で検証した。αシヌクレインに対する特異抗体を2種類用いサンドイッチELISA測定系を作成した。このELISA測定系により、レビー小体型認知症患者の髄液中αシヌクレインが有意に低下していることを示し、診断バイオマーカーとして有用である可能性を示した。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。当初の目標が達成され、研究開発のシーズの優れた点を示した。しかし、残る技術的課題についての具体的な計画と対策を実施する必要がある。今後、簡易測定キットの開発を行い、その信頼性や有用性の確認し、技術移転へと発展させることが望まれる。
放射線治療における線量分布の画像再構成技術富山高等専門学校阿蘇司本研究開発では、X線治療装置における対象物内の線量分布を、間接的情報から画像化する手法を開発することを目的とする。研究は、物理過程に基づいたシミュレーションを利用して実施した。 X線照射装置を想定した治療において、照射X線のビーム条件が既知である場合に、照射によって得られる間接的な情報から線量分布を解析して画像化することを試みた。解析データから得られる観測量は、水ファントム内で得られる深度線量分布に相関があり、線量値を予測できることを確認した。また、照射方向に垂直な平面内での線量分布を画像化できることを確認した。 今後、実機システムに向けた検出器部分の設計や検出効率などのパラメタの組み合わせを検討すると共に、画像化の手順を見直して、より鮮鋭な画像での線量予測が行えるように最適化を進める。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。シミュレーション技術を用いて、散乱X線を利用した間接的な線量分布の見積もりへと応用し、その基本的な原理と実現可能性を確認した。今後、課題としてあげている線量の予測精度の向上、及び視覚化された情報を分かりやすくする点で改善の余地がある。本研究が実用化されれば、医療検査/治療に伴う無駄な被爆量低減につながるので、社会的にも大きく期待される。
培養細胞を用いた膜蛋白質機能解析のための新規平面脂質膜の開発富山大学(現、山形大学)奥野貴士本研究では、気-液界面に作製した平面脂質膜に膜蛋白質を再構築し、新しいタイプの膜蛋白質の機能イメージング解析技術の開発を目的とした。研究では、細胞膜を気-液界面に再構成する条件検討と、培養細胞から細胞膜を切出す条件検討をそれぞれ並行して実施した。 再構成の条件検討には、試料量が十分準備出来る大腸菌由来の反転膜小胞を用いた。実験を実施した結果、反転膜小胞をリポソームと融合し、脂質の成分を気-液界面に展開出来る事を、蛍光顕微鏡解析により明らかとした。さらに、気-液界面の平面脂質膜に膜蛋白質が再構成されるか検証した。現時点で、膜蛋白質の発現量の問題から、気-液界面に明確な膜蛋白質由来の蛍光を確認には至らなかった。今後、膜蛋白質の発現量を増加させるなどの改善を行い、気-液界面の平面脂質膜上の膜蛋白質の解析を発展させる。 さらに、大腸菌の膜蛋白質だけでなく、ヒト培養細胞膜から細胞膜を切出す条件検討を行った。ヒト培養細胞から調製した細胞膜を気-液界面に添加し、ヒト細胞由来の膜蛋白質解析に応用、実用化への発展が期待される。研究を実施した結果、一本鎖のアルキル鎖を有する陰イオン性界面活性剤を培養細胞(HeLa)に添加すると、効率的に細胞膜から数十マイクロメートルサイズのBleb(小胞状の膨らみ)が生じる事を見いだした。さらに、細胞膜機能の損傷を低減させる界面活性剤を見いだした。超音波や還元剤などを添加し、生じたBlebを細胞から切り離す条件を検討したが、現時点で、生じた小胞を細胞から切り離す効率は高く無い事が分かった。今後、物理的、化学的に細胞から小胞を効率的に切り離す事に焦点を絞り研究を展開していく。本研究を実施し得られた成果は、膜機能解析のための新規平面脂質膜の開発のために需要な知見であり、大きく進歩した。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。気―液界面に平面脂質膜を作製する本技術に関連して、蛍光標識膜タンパク質の平面脂質膜での再構築の効率を、蛍光顕微鏡で観察可能なまでに向上させた。本研究では、膜タンパク質由来の蛍光の確認まで至らなかったが、技術移転につながる可能性は得られたと思われる。今後は、当初の目標通り平面膜中の膜蛋白質の検出と活性評価法を早急に確立することが望まれる。
ソフトマター技術を活用した重厚組織培養用の酸素供給体の開発富山大学岩永進太郎再生医療や組織工学において、より高機能で生体組織に近いものを作製するために、3次元組織培養が重要であり、毛細血管を有する組織作製の研究が盛んに行われている。しかし、培養液への酸素の溶解性が低く、チャネルを作製しても十分な酸素の供給は困難であると考えられる。そこで、本研究では酸素を運搬する媒体が重厚組織作製に必要であると考え、人工酸素運搬体の作製に着目した。我々のマイクロ粒子作製技術を応用して、ヘモグロビンを長期に封入可能なゲルビーズの作製に成功した。赤血球と同サイズの均一ヘモグロビン粒子の作製により、基礎的検討は達成できた。今後は、酸素運搬能を調べ、実際に培養に組み込んで研究開発を行う。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。酸素供給ソフトマターからのヘモグロビンの漏出を比較的抑制する効果を見出した。本研究において、問題となったヘモグロビン漏出の原因について解明する必要がある。今後、細胞非接着性の付与に関する検討や、ナノ粒子内のヘモグロビンが本来の機能を維持しているかの検証も望まれる。
羊膜幹細胞を利用したインスリン産生細胞の作製富山大学吉田淑子血糖値のコントロールが不安定で、膵島移植を必要とする重篤な糖尿病患者に対し、移植細胞の不足から十分に対応できないのが現状である。我々は、組織拒絶性をほとんど示さない羊膜細胞から幹細胞を単離し、インスリン産生細胞へ分化誘導し、膵島の代替えとして利用することを最終の目的としている。しかし、臨床に応用するには解決しなければならない問題が未だに多く存在する。 本研究ではその一つの問題である分化高率の向上のために、羊膜細胞の細胞表面マーカーを明らかにし、インスリン産生細胞への分化誘導が可能な細胞を選択的に単離することを検討した。さらに、移植した細胞が過剰反応することによって起こる不利益や、異所性に存在することによって起こる問題を解決するために、インスリン産生細胞をカプセルに入れてレシピエントと細胞が直接接触せず、不必要なときには簡単に取り出すことが可能な移植方法を検討した。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。インスリン産成細胞に分化したヒト羊膜幹細胞を、投与した部位からインスリンを放出させて血糖値をコントロールする斬新な試みに一応の成果が得られた。今後、細胞の生存維持、インスリン生産能の維持等の可能性を検討し対処する必要がある。既に産学共同研究は行われているので、技術的課題を協力して解決し、実用化を急ぐことが望まれる。
超細径血管造影システムの開発富山大学時光善温超細径血管造影システムの研究開発の第1段階として、超細径カテーテルの試作を本課題での目標とした。カテーテル先端の外径が 0.6mm 以下、内径が 0.2mm 以下の超細径カテーテルを想定している。具体的な性能としては、CO2 ガスによる造影と 100μm 程度の塞栓物質を使用できることが条件である。 本研究課題で試作後、開発研究を進めることで、わが国で開発された肝がん治療をさらに発展させ、患者にとって優しく、負担のない治療、そして治療効果の高い肝がん治療が実現できる。これまで治療適応外とされてきた患者にとって治療の道が開けることも社会的に大きな利益となる。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。目標としたサイズのカテーテルの開発に成功した。開発途中で目標の変更をしているが、問題点を改善する為であり結果的に良い製品が開発されつつある。今後、生体適合性や安全性などについて、動物実験等を行う必要がある。新規技術の開発ではなくても、用途拡大や新たな機能の付加等により技術移転に繋がる内容で、特許出願が望まれる。
表面プラズモン共鳴を用いる細胞チップの開発と薬物センサへの応用富山大学篠原寛明本研究では、金チップ上に免疫系や内分泌系の株化動物細胞を培養して、2次元SPRイメージングにより、薬物刺激時の多数の細胞内の動的反応を同時に、しかも個々の細胞ごとにリアルタイム観察する新規な細胞チップを世界に先駆けて開発した。この細胞チップでは、薬物刺激によって細胞内部で引き起こされるプロテインキナーゼC(PKC)の活性化とPKCの細胞膜へのトランスロケーションをSPRシグナルの変化として観測できることが強く示唆された。また、この2次元SPR細胞チップは、PKCの活性化とトランスロケーションを誘起する、あるいはそれを抑制する薬物を、何のプローブ試薬も必要とせず、迅速簡便、高感度に検出、定量するのに極めて有効であることが示され、今後の薬物スクリーニング用センサとして極めて有望である。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。2次元SPRイメージングにより、限られた酵素系や反応だけであるが、生きたままの細胞内での反応を細胞表面から観察できる可能性を見出した。 課題として、特にSPRシグナル変化が、酵素特異的であるかを検討する必要がある。今後の展開として、薬物センサーへの応用の場合、ある程度的を絞った方が効率的であると考えられる。
バイオプリンティングによる組織構築のための細胞接着性素材の開発富山大学二階堂敏雄移植臓器不足解消の為、細胞移植に期待がもたれているが、その細胞はばらばらに移植されており、効果が期待できず、細胞の3次元的立体配置された組織の構築が必要とされている。我々は、これまでにインクジェット技術を応用した、細胞とゲル基材の同時配置による3Dバイオプリンターの開発に取り組み、細胞を含んだ立体構造の作成に成功している。【目的】瞬間的にゲル化が行われる素材として、アルギン酸ナトリウムが挙げられるが、生体親和性に問題が無いものの、細胞接着性に乏しい。しかしアルギン酸ゲルに糖を結合させるによって細胞接着が可能となる素材を開発する。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。細胞接着性を高めたゲル基材の開発目標を達成した。本研究により、機能を有する細胞を用いて立体配置することで、細胞機能の向上と維持が良くなることを示す検討、プリンティングにより細胞を重層することが重要と思われるので、ゲル構造物の高さの調整や重層方法についての検討が課題として明確となった。高い分化機能を発揮できるように細胞を3次元的に配置できれば、事業化の道も見えてくると思われる。
身体活動援助型車いすの研究開発 -最適なシートの傾斜と形状の検討-金城大学神谷晃央本研究では標準体型と生理的な脊柱弯曲を考慮し、体圧分散に優れた車いす標準シートを作成したうえで、利用者が主観的に快適だと判断する基準は何であるかを明確にするため頭部伸展モーメント・座圧・筋活動・主観的評価を用いて多角的に検討した。その結果、座圧や頭部伸展モーメントよりも頚部屈曲筋群への負担が主観的評価に影響していることがわかった。主観的に最も快適なシート傾斜は平均119度であり、これは最も筋活動が少ないシート傾斜であることがわかった。そのため119度のシート傾斜は休憩に相応しい。しかし、机上動作などの身体活動を支援するためのシート傾斜は119度よりも前方傾斜が望ましいため、今後は直立座位を含めた前方傾斜時の検討を行う必要性が示された。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。体重心移動機能を備えた車いすの基本設計については、概ね方向性を明確にした。座圧について、単位時間当たり何g/cm2を超える体圧量が加わった場合不快さを感じるかについては、より詳細な検討が望まれる。車いすを利用する高齢者の場合、特有の疾患がある場合が多く、更には身体虚弱状態に陥っている場合も多いので、これらの視点を踏まえ、身体活動援助車いすの更なる研究開発を期待する。
赤外光透過ファイバを用いた生体内温度のリモート計測福井大学勝山俊夫赤外光ファイバを用いて体温近辺の温度をリモート計測するシステムの基本構成の開発を試みた。測定対象物からの熱放射特性を詳細に検討し、赤外光ファイバとしてはTe系カルコゲナイドガラスファイバ、集光レンズとしてはZnSe系レンズ、検出系についてはHgCdTe (MCT)半導体検出器を用いて、実際の測定システムを構築した。このシステムを用いて、黒体標準サンプルのリモート温度計測を行い、体温近辺のほぼ30℃から高温の温度測定が可能であること、および温度測定の分解能は、2.5℃であることを明らかにした。このように、光ファイバを用いて生体の体温付近の精密なリモート温度計測が可能であることを示すことができた。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。黒体標準サンプルを用いた系で、目標としていた仕様を達成した。現在30℃までの温度測定が可能であり、温度測定の分解能は2.5℃であるが、より精度の高い測定ができることを期待する。今後、実際の生体を用いて測定し、計測精度や運用上の問題点を明らかにし、それを解決する事によって、実用的なリモート計測ができるようにすることが望まれる。
狭心症治療薬(SNP)の被ばく時緊急救急処置薬への実証研究福井大学松本英樹平成21年度シーズ発掘試験研究において、X線被ばくに対する実用可能な放射線防護剤の開発を行い、狭心症治療薬ニトロプルシドナトリウム(SNP)に、造血系および免疫系の回復促進による放射線障害の防護および治癒作用があり、放射線障害を起こしたマウスの生存率を上昇させる効能があることを明らかにした。
本提案では、SNPのX線以外の放射線(仮称 放射線Y)による放射線障害に対する防護および治癒作用の詳細な解析を行い、被ばく時の緊急救急処置薬として実用化へ向けた実証研究の実施を目的とした。
放射線Yによる放射線障害はX線によるものとは相当異なり、当初実験条件の設定に時間を要し、SNPの放射線Yによる放射線障害に対する防護および治癒作用を十分に明らかにすることはできなかった。しかしながら研究期間の延長により、さらに実験の実施が可能となり、以下の結果を得た。
放射線YをICRマウスに全身照射した。照射のみの対照群では、照射後数日で急激な個体死が観察され、放射線Yの被ばくによる腸死による個体死が示唆された。その後も個体死が観察され、全ての個体が死亡した。一方、SNPを投与した群では、照射後数日で腸死による個体死が観察されたが、その後個体死の発生率が緩和し、照射後30日まで相当数が生存した。これは放射線Yによる放射線障害に対するSNPの防護効果を示している。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。震災にもかかわらず、急きょ研究場所を変更して放射線Yの照射実験が可能となり、放射線Yの被ばくにおいてもX線と同様にマウスでのニトロプルシドナトリウムの防御効果が見られた。今後、骨髄に対する影響、腸管に対する影響、皮膚に対する影響などのデータを取る必要がある。実用化の為には、ニトロプルシドナトリウムの被ばく後の効果について機序を明らかにすることも望まれる。
入力インターフェイスとしての肌検出カメラの開発岐阜大学加藤邦人申請者らは、これまでに人の肌の分光反射特性に基づいて、露出した肌領域を検出できる基本画像処理技術を確立した。そこで、この技術を用い、人の肌とそうでない部分を簡便に識別できる「肌検出カメラ」の開発を目的とした。入力インターフェイスを指向し、本手法をFPGA上に実装することに成功したことにより大幅な小型化、高速化が実現できた。さらに、本装置の安定性を確認するために、室内での使用を想定した照明環境下での実験、多数の年齢、性別、人種での評価実験、連続稼働実験を行いほぼ安定して検出することができた。非常に小型の装置で高速に人の「肌検出カメラ」が実現されたことで、ユーザーインタフェースやセキュリティなど人検出に広く応用されると考えられる。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。入力インターフェイスとしての肌検出カメラの開発の基本的な目標を達成した。今後、太陽光の強弱等などによる検討課題が明確となっている。本研究成果は様々なジャンルでの応用が期待できるが、まず、具体的な事業展開に結びつける戦略が必要である。又、リハビリテーションシステムへ展開する場合、具体的な技術課題を明確にすることも望まれる。
個別化医療の実現を目指した遺伝子多型探索プローブの創製岐阜大学上野義仁本研究は個別化医療を目指した新規一塩基多型探索プローブの創製及びその機能について検証したものである。研究者は研究開始時点でオリゴヌクレオチド中の一塩基の種類をピンポイントで検出可能な、蛍光特性を有する三環性ヌクレオシドアナログを導入したオリゴヌクレオチドを用いる検出システムを構築していた。本システムはマッチ塩基対において三環性ヌクレオシドアナログが二重鎖外へフリップアウトすることを利用している。本研究ではより目視により検出可能な、より長波長の蛍光を発するジアミノ型の三環性アナログを含むオリゴヌクレオチドプローブを合成した。その結果、プローブを用いることにより目視で一塩基多型を判別することが可能であることが分った。今後は、本プローブの一般性を検証し、本プローブの製品化を目指す。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。全く新規な一塩基識別システム、及び検出原理解明の開発において、今回の成果で実用化できる可能性を実証した。今後、実用化に向け測定系と組み合わせた実施例を積み重ねると共に、安価な合成ルートの確立必要がある。糖部開環型の三環性アナログによるミスマッチ検出法は 今後も様々な分野での応用、展開が期待される。
ペプチドアレイによる新規胆汁酸結合ペプチドの網羅解析と革新的脂質代謝改善素材への応用岐阜大学長岡利血清CHOL低下作用を動物実験で発揮する大豆β-コングリシニン由来の疎水性ペプチドを発見するために、ペプチドアレイを作成し、胆汁酸結合ペプチドを探索した。その結果、我々の発見(Biosci.Biotechnol.Biochem. 74: 1738-1741 (2010)した胆汁酸結合ペプチドであるVAWWMY(ソイスタチン)と比較してより強い胆汁酸結合ペプチドを数個発見した。発見したペプチド中にはCHOL吸収を抑制する医薬品であるコレスチラミンと同程度に、in vitroでのCHOLミセル溶解性の阻害作用を発揮する新規ペプチドが存在し、動物実験でコレステロール吸収を抑制することを明らかにした。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。ペプチドマイクロアレイを用いて、大豆コングリシニンから新規の胆汁酸結合ペプチドを数個見いだしており、コレステロールのミセル溶解性やコレステロール吸収を抑制し、コレステロール代謝改善能を有する有効性を明らかにした。本研究により、胆汁酸結合ペプチドの有効性については、肝腎の血漿コレステロール濃度を低下させるという直接的なデータの蓄積が必要であることが明確となった。更なる研究の進展が望まれる。
酸化ストレス防御酵素の超高感度微量測定法の開発岐阜薬科大学足立哲夫培養細胞を用いるin vitro糖尿病モデル実験において、酸化ストレス防御酵素であるextracellular- superoxide dismutase(EC-SOD)のタンパク発現の解析は病態の把握や有用化合物の探索研究に有益な情報を提供するものと考えられるが、培養細胞におけるEC-SOD発現は非常に微量であるため、これを測定する超高感度微量測定法の開発を目指した。確立した測定法は、従来法に比べ10倍高感度であり、ヒト培養細胞上清やヒト培養細胞ホモジネート中のEC-SODを感度良く測定することが可能であった。また、非侵襲的に随時、簡便に入手できる検体である唾液中のEC-SODを測定することができ、臨床検査法としての活用も可能ある。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。超高感度EC-SOD測定法は従来法に比べ、約10倍の感度をもち、従来測定できなかった試料中の濃度も測定可能となった。本測定法は病態の把握や有用化合物の探索研究に有益な情報を提供するものと考えられが、EC-SOD濃度を測定する臨床的意義については未定であるので、今後の検討課題である。実用化の為に、実サンプル臨床検体によるメソッドバリデーションは必須と思われる。
超高感度DNA損傷体分析用オンライン濃縮チップ開発に関する研究岐阜薬科大学村上博哉DNA損傷体の定量分析では、高感度である放射標識法が主に用いられているが、放射性物質を利用することからその代替法の提案が求められている。その代替法として、LC/MS/MSを用いた分析法の開発が積極的に行われている。しかしDNA損傷体は、107~109個の未損傷体中にわずか数個程度しか存在しないため、未損傷体の除去と選択的な損傷体の捕捉が可能な前処理法の開発が求められている。これらの需要を達成するために、通液するのみという簡便な操作により前処理を達成することが可能なチップの開発を目指し研究を遂行した結果、選択的なDNA損傷体の濃縮を可能にするチップの開発に成功した。今後は本検討を元にし、簡便なDNA損傷体分析用の手法開発を行う予定である。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。簡便なDNA損傷体分析用の前処理チップの開発に成功した。本研究により、酵素などの夾雑物を一括除去する検討、チップをESIニードル化し、LC/MSまでの一括処理を実現する検討、ヒトやモデル動物を用いて本当にDNA損傷を検出できるかの検討が課題として明確となった。商品化に向け汎用性のある装置開発に至ることが望まれる。
低コヒーレンス動的光散乱法を応用した簡便な抗原抗体反応の測定光産業創成大学院大学石井勝弘本研究開発では、電気泳動法を利用することにより抗原抗体反応の洗浄操作を不要にし、抗原抗体反応過程の簡便化をおこなった。また、低コヒーレンス動的光散乱法で抗原抗体反応の測定をおこない、タンパク質の濃度依存的な時間相関関数の変化を検出することができた。低コヒーレンス動的光散乱法は、溶液中の粒子径の大きさを高感度に測定する方法であり、溶液中に複数の物質が高濃度に混在した状態でも、直接、粒子径分布の測定が可能である。今後は、本研究開発結果を踏まえて簡便かつ高感度な免疫測定システムの実現を目指す。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。簡便化に関しては、ディスポーザブルチップの開発、及び電気泳動による抗原・抗体反応物と未反応物の分離によって概ね達成した。今後、高感度や精度の面で問題点が残っているので更なる改良が必要である。実用化の為に、装置のコスト低下と性能の向上が達成されることを期待する。
新生児の潜在的ビタミンD欠乏症の診断技術の確立静岡県立大学東達也本研究の最終目標は、各臨床検査機関で新生児のビタミンD欠乏症を検査できるキット (測定手順書と検量線用標準濾紙血、内標準物質溶液や誘導体化試薬などのセット) を開発することである。これに対し本課題では、その前段階として必要な知見・情報を獲得すること、技術を開発することを目標とした。マーカー分子の25(OH)D3と妨害代謝物である3-epi-25(OH)D3の完全分離条件の設定に始まり、検量線用標準濾紙血の作成とその抽出法の開発を経て、定量法の臨床実用性能評価までを行うことができ、当初の目標を概ね達成できた。今後は開発した方法による測定例を増やし、データの蓄積を行い、臨床検査法としての確立を目指すとともに、臨床検査会社や試薬メーカーなどにキット化を働きかける。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。 新生児のビタミンD欠乏症の簡便な検査キットの開発に基づく基礎データが蓄積された。今後、健常検体での評価、及び従来法との比較、25(OH)D3の値と臨床的なビタミンD欠乏症との相関性の検証をする必要がある。一方、検出方法としてMS用ではなく、より一般な検査法としての有用性を追求する検討も望まれる。新生児スクリーニングとして、少子高齢化社会に貢献できる研究と期待される。
簡便かつ低コストな活性酸素測定装置の開発静岡大学平川和貴活性酸素(過酸化水素および一重項酸素)を測定する装置の設計と作成を行った。原理は、安価で安全な色素である葉酸を蛍光プローブに用い、活性酸素による酸化分解で蛍光増強が起こる現象の利用である。これまで測定装置が高価であったが、その低コスト化を研究した。光源に紫外線発光ダイオードを用いることで励起部分の低コスト化と軽量化に成功した。蛍光検出にはフォトダイオードを用いることで低コスト化を狙ったが、検出感度に問題があった。そこで、既製品の小型スペクトル検出器を用いることで測定可能にすることができた。これまでの装置よりも安価であるが、予定よりも高価であり、検出器部分の低コスト化と軽量化に改良の余地がある。現段階の装置を用いた活性酸素検出試験の継続と改良型の開発を今後も進める。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。既製品を使用してではあるが、従来の装置より安価な活性酸素測定装置を作製した。本研究では、当初の目標を達成できていないので、問題点を解決する方策を明確にし、活性酸素測定性能について具体的なデータを示すことが必要である。今後、感度や分解能の目標値を用途側からの要求値で明確にして、それに合った検出部構成の為の基礎検討をすることが望まれる。
脂肪組織の生理機能の画像化を目指した生体イメージング法の開発と診断への応用浜松医科大学井原勇人糖・脂質代謝異常やインスリン抵抗性と関連する内臓脂肪細胞での悪玉アディポカイン遺伝子発現増強を指標として、脂肪組織の質的な変化を生体光イメージング法で定量的に解析する事が可能であるかを検証した。 悪玉アディポカインの代表例であるPAI-1/ルシフェラーゼ遺伝子導入脂肪細胞をヌードマウスに移植し、生体内光イメージング画像解析装置を用いて定量的に解析した。移植細胞数と発光シグナルの定量的関係や脂肪細胞分化刺激に対する応答性が確認できたものの、メタボリック症候群発症過程を想定した長期にわたる飼育により光シグナルの発現増強は確認できなかった。この目的のためには、悪玉アディポカイン遺伝子レポーター・トランスジェニック肥満マウスを用いた解析が有用であると考えられた。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。PAI-1遺伝子転写調節領域/ルシフェラーゼ安定発現株を作成し、in vivo移植実験において評価を行った。レポータ細胞を用いるイメージングを長期計測系に当てはめた時、レポータ細胞の発現が減少したことのみにとらわれているので、成果が出なかった原因究明の考察を十分行うことが望まれる。実用化の目標は、ヒトへの直接的応用と述べているが、現状の枠組みでは難しいと思われるので、薬剤の効果判定や予防効果検証への応用に絞った方がよいと思われる。
子宮筋およびその周辺組織の酸素動態測定器の開発浜松医科大学金山尚裕子宮筋およびその周辺組織の酸素動態については、これまでの研究はほとんどなく不明な部分が多い。子宮筋の酸素濃度は、子宮筋を通して酸素の供給を受ける胎盤酸素濃度と大きな関連があると考えられ、子宮筋の酸素濃度測定はすることは、胎盤機能不全の病態解明にもつながる重要な課題である。今回子宮筋の酸素濃度測定を目的に試作機作成ならびに正常妊娠女性において、被験者の同意のもとに子宮筋酸素濃度の測定を行った。その結果、正常妊娠女性において、子宮筋酸素濃度の測定に成功した。今後は、症例を増やし正常値の確定を行う予定である。その後、子宮筋酸素濃度と胎児発育の関連を検討する予定である。また、子宮収縮時すなわち陣痛発来している状況での測定も行い、子宮筋の疲労度との関連も検討する予定である。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。脂肪層を考慮した近赤外線酸素濃度測定器を試作し、目標とした精度を実証した。本研究では、症例を増加させ、正常妊婦における子宮筋酸素濃度の正常値を確定させることが必要である。今後、胎盤機能不全などの症例の測定、及び陣痛と子宮筋酸素濃度の関連を明らかにすれば、実用化に近づけることが期待される。
合成ペプチド等を用いたウイルス吸着技術の開発浜松医科大学鈴木哲朗C型肝炎ウイルス(HCV)は血液を介して感染する、肝疾患の主要原因ウイルスである。肝細胞への感染には、細胞表面の硫酸化多糖及びCD81等受容体蛋白との結合が重要である。本研究では、C型肝炎の治療補助あるいはより安全な血液製剤の製造に資するため、血中からのHCV吸着除去技術の開発を行った。CD81のHCV結合領域の合成ペプチドがHCV捕捉効果を有すること、またヘパリンを固定化した中空糸またはセファロースビーズがHCV吸着除去能を有することを示した。得られた研究成果を基に、さらにウイルス吸着能を高めるとともに、有用な血清成分への影響を最小限に抑えた特異性の高い除去技術が開発されるものと期待される。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。多孔性ろ過型中空糸で、HCVの80%を除去できることを明らかにした。これにヘパリンあるいはCD81の結合ドメインの一部アミノ酸配列を結合させることでHCVを100%除去できる可能性が高まった。今後、アミノ酸配列の改変やヘパリン以外のヘテロ多糖体の検討、及び非特異的な吸着による血清成分への影響の検討が必要である。血清成分からウイルスを高効率で特異的に除去出来る吸着材料が開発されれば、医療分野において大きな社会還元となる。
新規な細胞培養添加剤の開発愛知県水産試験場松村貴晴細胞培養分野において牛胎児血清は必需品であるものの、プリオン蛋白質の混入というリスクが問題化している。本研究は牛胎児血清に代わる細胞培養添加剤の開発を試みるものである。今年度は、この培養添加剤の原料生産における生産効率などについて調査し、概ね量産化の目処を付けることが出来た。また、複数の細胞種に対する汎用性について調査を行った。今後はさらに高い汎用性と増殖活性を目指し、開発を進める。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。細胞培養において安価で、ウシ血清以外の添加剤の開発は各方面から期待されているので、着眼点は優良であり一定の研究成果を得ている。本研究により、継代培養の際本添加剤添加により細胞の接着性が弱まるという問題が検討課題として明確となった。技術移転の為の最終目標として、細胞培養で通常使用されている5-10%FBSに比して、70%以上の活性を持つ本添加剤の開発が望まれる。
がん診断のための呼気バイオマーカー分析法の開発愛知工業大学手嶋紀雄前立腺がん、乳がん等の患者の尿や呼気から健常者よりも高濃度のホルムアルデヒド(HCHO)やアセトアルデヒドが検出された報告がある。これらは揮発性があるため、呼気として排出されており、がん早期発見のための有力な呼気バイオマーカーである。そこで試料前処理を自動化する流れ分析法と分離分析が可能なキャピラリー電気泳動法(CE)を組み合わせた呼気分析のための流れ分析-CE法の開発を目的とした。今年度は、流れ分析とCEを結合するインターフェースの設計と流れ分析法によるHCHOの定量法の開発を行い、100%の目的達成には至らなかったが、今後も当初の目的を達成するため研究開発を続ける。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。フローインジェクション法を用いてホルムアルデヒド濃度がppmオーダーであれば、JISに定められている方法と同等の定量ができること、設計したキャピラリ電気泳動法により分離分析が可能であることを示した。本研究では、キャピラリ電気泳動法での定量分析に至っていないこと、フローインジェクション法では感度が不十分であることなど、実サンプル測定までに解決すべき課題は多い。がん発見のための呼気ガス分析への応用は、まず感度の低さの改善が最優先と思われる。
短期間で確実な高品質タンパク質生産を可能にする遺伝子増幅系の開発基礎生物学研究所渡邊孝明診断薬・バイオ医薬の研究開発に求められるタンパク質を短期間で生産する可能性を見出すため、増幅期間を大幅に短縮しながら従来と同等以上の生産力をもつ増幅系の確立を目指した。予定した増幅誘導とその評価には至らなかったが、安定した高い生産性が期待できるシステム、効率の良い増幅の選択・モニタリングが可能なシステムを構築し、目標に向けて異なるアプローチを提供するユニークなシステムの構築にも成功した。今後は企業に共同研究を提案し、高品質が要求されるタンパク質をシンプルな手順で迅速に調整できるシステムとして開発したい。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。DHFR遺伝子に加え新規薬剤耐性マーカーが利用できるシステムや、GFPタンパク質を利用するモニタリングシステムの開発など、本研究の展開に必要な基本的な技術ツールを開発した。異なるアプローチでの研究に意欲的であるが、目標との乖離がまだ大きいので、技術的戦略を絞り込んで具体的かつ実質的な検討を推進すべきと思われる。技術移転の為には、具体的なモデルタンパク質での検証データの取得が必要である。
高強度・低弾性率チタン合金(ゴムメタル)を用いた次世代型インプラントの開発中部大学松下富春ゴムメタルをインプラント用材料に利用する可能性を調査した。最適化した条件で生体活性処理したゴムメタル板と兎の脛骨との結合力は無処理板に比べ優位に高かった。また、入手したゴムメタル棒、板の弾性率および引張強度は、それぞれ57~70 GPa、800~1200 MPaの範囲であった。一方、ゴムメタル線を骨折させたラットの大腿骨髄腔に挿入し骨形成量を調べた結果、純チタンに比べゴムメタルの方が仮骨形成量が多いこと、大腿骨に挿入した人工股関節ステムや骨折接合プレートを想定したFEM計算から、ゴムメタルは発生応力の最大値を低下させること、が示された。これらから高強度・低弾性率のゴムメタルインプラントは臨床使用しうる新しい医療機器候補である。今後、長期埋植試験による安全性評価と材料価格の低減が重要な課題である。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。チタン合金よりも、ゴムメタルが低弾性率と強度性において優れており、有害性においても問題が無いことを確認した。今後、インプラント材料としての安全性と長期安定性を検証し、コストをいかに抑えるかが検討課題である。コストに関しては、市場に受け入れられる為の大きな障壁となり得るので、共同開発企業と共に取り組むことが望まれる。
高病原性鳥インフルエンザウイルスのヒト-ヒト間感染変異を監視する診断キットの開発中部大学鈴木康夫目標イムノクロマトの原理を応用し、高病原性鳥インフルエンザウイルス (H5N1)のヒト型適応変異監視技術を開発する。達成度1)イムノクロマトの原理を応用したプロトタイプキットの構築:目標達成。2)操作時間:目標の15分以内を達成。3)使用ウイルスの必要最少量:4 HAU(目標の2倍)のウイルスが必要、感度上昇が求められる。4)ウイルス受容体としての化学合成シアロ糖鎖量:目標の20 nmolを達成。5)H5N1ウイルスのヒト型変異の識別:鳥型レセプターを認識するH5N1との反応性を確認。ヒト型は未確認。以上、目標の5項目中3項目は完全達成、2項目は部分達成できた。今後の展開より、高感度、高特異的キットを完成し、地球規模で使用可能とする。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。高病原性鳥インフルエンザウイルスを、従来よりはるかに簡便かつ高感度に識別できるキットを開発した。但し、ヒト型ウィルスの識別能が未確認であり、目標感度に到達していないので継続して検討する必要がある。感度については、臨床上必要な感度を明確にして具体的に研究を進める方がよい。既に特定の企業と製品化を進めているので、早期の実用化が望まれる。
不織布型生体材料の骨形成能高度化技術の開発名古屋工業大学春日敏宏整形外科分野の施術を目的とした骨形成性不織布の埋入初期の生体親和性(骨形成性細胞の初期接着性向上)を付与するため、イモゴライトナノチューブを被覆する技術を開発し、親水性・細胞親和性を向上させることを目標とした。電気泳動法を用いることで、短時間で100μg/cm2以上のイモゴライトナノチューブを高分子系複合繊維上に付着できることを見出した。超音波処理によっても剥離しない、十分な接合力を示し、得られた被覆型不織布は超親水性を示した。細胞培養試験3日で未処理不織布、アパタイト被覆型不織布より増殖性に優れることがわかった。今後は、石灰化促進効果、タンパクの初期接着性を調べてさらなる優位性を検証した後、動物実験にて生体親和性を確認していく。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。不織布の骨充填材に、イモゴライトナノチューブを電気泳動法で被覆することに成功し、この材料の骨形成能を大きく高める可能性を実証した。今後、実際に骨形成ができるかの検証を行い、安全性の面で急性の毒性試験、特に炎症を惹起しないのかという点が危惧されるので、ファイバーの埋植試験を動物実験で進める必要がある。実用化を視野において進める場合、医学研究者との共同研究等も重要になると思われる。
メタボローム解析による関節リウマチ早期代謝マーカーの探索名古屋市立大学金澤智関節リウマチモデル動物(D1CCマウス、JST支援等により販売開始)は、慢性かつ進行性の間質性肺炎を示す。これまでのモデル動物では病態進行が急性であるなど、本来緩やかに進む関節炎の病態進行を捉える事は困難であった。一方D1CCマウスでは、緩やかな病態進行を示し、極早期における関節部の変化を観察する事ができる。この特徴を利用し関節炎極早期間における血漿メタボローム解析を行った。データの解析結果から、腎機能および呼吸代謝系中のTCA回路に関し異常がある可能性が示唆された。これら代謝経路を司る各タンパク質について追加の解析を加え、代謝系バイオマーカー候補になり得るか否かさらに検討する予定である。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。関節リウマチのモデル動物を用いて、血漿を用いたメタボローム解析の結果有望な因子を得た。今後、動物モデルでの検討項目として、化学的刺激、あるいは細菌毒素などを用いて関節炎を起こさせた場合との比較検討が必要である。又、他の疾患患者のサンプルも検索しその結果との比較を行い、本因子が関節リウマチに特異的かも検討課題である。網羅的解析に時間がかかるので、より系統だった実験手順で臨んでほしい。
ナノ材料吸入曝露による肺発がんリスク評価短期検索法の確立とこれを用いたカーボンナノチューブのリスクの予測名古屋市立大学二口充我々は吸入曝露肺発がんリスク短期検索法を確立した。この方法は我々が確立した経気管肺内噴霧法我々は吸入曝露肺発がんリスク短期検索法を確立した。この方法は我々が確立した経気管肺内噴霧法を用い、1被検物質の短期(9日間)肺内噴霧による肺発がんプロモーション機序の検索、および2in vitro発がんメカニズムの検索を行う一連の作業で、吸入曝露による肺発がんリスク評価が短期間で可能となるプロトコールの開発を行った。本研究では繊維状ナノ物質の吸入曝露による発がんリスクを予測することを目的で、被検物質として、A社製単層カーボンナノチューブ(SWCNT-A), A社製多層カーボンナノチューブ(MWCNT-A), また、吸入曝露による発がん性の陽性対照として、B社製多層カーボンナノチューブ(MWCNT-B)およびアスベストであるクロシドライト(CRO)を被検物質として吸入曝露による肺発がんリスクを検索した。1において、繊維状ナノマテリアルはいずれもCROと同様に肺胞マクロファージに貪食された。さらに2において、in vitroで被検ナノマテリアルを貪食させた初代培養マクロファージの培養上清は、肺胞上皮(ヒト肺がん細胞)の増殖を促進することが明らかとなった。また、この増殖促進作用に関与するサイトカイン等の因子を検索した結果、被検物質を貪食したマクロファージが分泌するサイトカインの種類は、ナノマテリアルの種類により異なることが示唆された。今後、肺発がん性二段階中期検索法を用いてSWCNTおよびMWCNT-Nの肺発がんプロモーション作用の有無と強度を検索し、繊維状ナノマテリアルの吸入曝露による肺発がんリスク評価を行い、我々のナノマテリアルリスク評価短期検索法の開発を進める予定である。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。経気管肺内噴霧法での吸入曝露による肺発がんリスク評価が、短期間で可能となるプロトコールを開発した。MIP1αをナノ粒子の吸入曝露による発がんに対するリスクマーカーとすることが特徴なので、MIP1αなどのサイトカインと肺がんの発生率との関係をより明確にする必要がある。動物実験を含めて成果に説得力を増せば、技術移転につながる可能性も高まると思われる。
再発悪性腫瘍に対する陽性荷電マグネトリポソームを用いた腫瘍特異的温熱免疫治療法の開発名古屋大学菊森豊根交番磁場により発熱する鉄微粒子であるマグネタイトをリポソームで包んだナノ粒子の表面を陽性荷電し、腫瘍細胞吸着能を改善した陽性荷電マグネトリポソーム(MCL)を開発し、動物実験で有効性を報告してきた。この課題の目的は、再発悪性腫瘍(乳癌、頭頚部・軟部悪性腫瘍)組織にMCLを局所投与し、交番磁場照射(臨床用交番磁場照射装置)により腫瘍特異的に加温し縮小させる温熱免疫療法の安全性を確認することである。再発悪性腫瘍患者を対象とした第I相臨床試験は、平成21年8月3日に当院のバイオ先進臨床研究審査委員会の実施承認を得ている。第I相試験を9例で実施し、安全性・有効性の検証を目標として、再発悪性腫瘍に対する温熱免疫治療の開発を目指したい。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。本研究において、3例(1投与群)で有害事象を認めなかった結果を得ている。今後、マグネトリポソーム使用による有効性、その分布の特性や癌の消失との関係について、科学的なデータの蓄積と評価が必要である。臨床症例を扱うだけに他施設との共同研究も考慮し進めること、及びMCLの製造、交番磁場照射装置の改良も含め綿密な研究計画が望まれる。
組織傷害の原因となる活性化細胞をMRIで可視化する技術名古屋大学小野健治iNOSプロモーター制御下においてFerritin-蛍光タンパク質を発現できる細胞を作製し、LPS刺激によって活性化した遺伝子導入細胞をMRIで検出できるか検討を行った。株化細胞や初代培養に遺伝子導入を行いLPSで刺激した。iNOSが誘導されることに伴いFerritin-蛍光タンパク質の発現増大が確認された。また、in vitro、in vivoともにMRIのT2強調画像においてFerritinと鉄の結合による陰性造影効果が確認できた。今後、パーキンソン病などの中枢変性疾患や急性炎症のモデル動物を用いて、活性化する細胞のイメージングを行っていく予定である。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。MRIを用いて細胞の陰性造影効果が得られ、LPSにより赤色蛍光増大の細胞によりタンパク発現増大を確認した。今後、動物生体内でのデータを充実させ、細胞の活性状態における差異も検討する必要があり、ヒトの疾患モデルでの確認が検討課題としてあげられる。パーキンソン病などの中枢神経変性疾患をターゲットとした場合、病態解明や症状発現前の早期診断などに応用されることが期待される。
波長1.7μm帯超広帯域光源を用いた超高分解能OCTの開発名古屋大学西澤典彦本研究課題では、生体中での水の吸収と散乱の小さい新しい波長帯として注目されている波長1.7μm帯において、超短パルスファイバレーザーを用いた新しい超広帯域光源(スーパーコンティニューム光源)を開発し、それを用いたμmの分解能で非破壊で断層情報を観測することのできる超高分解能な光断層計測装置を開発する。まず、光ファイバ増幅器等を改良し、高強度で実用的なSC光源を開発する。また、干渉系や光学系、信号処理系の最適化を図り、高感度・超高分解能で高速なOCTシステムを開発する。更に開発したシステムを用いて生体サンプルの断層イメージングを行い、測定深度の波長依存性やシステムの特性を評価する。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。中心波長1.7μm帯でのSC光を生成や検出系の最適化を図ることで、分解能3.3μmの超高分解能OCTシステムを構築した。今後、いくつかのパターンの波長で評価を行い、本技術の優位性を明らかにするで技術移転の可能性が出てくると思われる。成果となる光源の効果的な利用方法については、利用する側の専門家と緊密な連携が望まれる。
低侵襲外科手術のための視覚センシングデバイス名古屋大学川原知洋低侵襲外科手術において術野の俯瞰情報を提供する視覚デバイスの開発を目的としている。本研究では体壁に直径 0.7mm の 3 層構造針状コネクタを穿刺することで侵襲度を保ちつつ、そのコネクタとカメラヘッドを体内でアセンブルすることで術野全体をモニタリングできるデバイスの開発を行った。結果として、カメラ解像度を従来比で大幅に向上させることができなかったものの概ね目標値を達成することができ、2例の動物実験で有用性を検証した。また、in vitro 環境下でリアルタイムに術具や出血を検出するソフトウェアを開発することに成功した。今後は、カメラの高解像度化(100万画素以上)を行うとともに、実用化に向けた取り組みを進める予定である。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。重要度が高いと思われるカメラ解像度に関しては大きな成果が得られており、本提案技術の有用性を十分に示した。今後、照明の照射領域を広げることが重要な課題であり、動物実験による検証は確実に実施する必要がある。撮像デバイスの高解像度化を含め、企業との連携により実用化を進めることを期待する。
医療福祉用機器への応用を目指した小型頚部筋電位制御ユニットの開発名古屋大学大惠克俊本年度においては、目標として挙げていた制御ユニットの小型化と高精度化のうち、小型化に関しては実現されたと考える。また高精度化に関しては、目標としていた複数センサの使用ではなく、信号処理回路の最適化により、達成されたと考える。小型化に関しては、従来の回路と比較して70%強の面積減少に成功した。これは目標値と比較しても55%程度の大きさであり、また、ケースを含んだ寸法も74×109×19mmとなり、目標としていたポケットサイズを実現した。高精度化に関しては、ハイパスフィルタを回路内に組み込み、信号処理プログラムを改良することで、安定性が向上し、誤作動の低減が確認された。この小型制御ユニットは他の福祉用機器への応用が可能であり、将来的な事業化が期待される。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。目標である小型化と高精度化は達成した。本研究では、電極固定方法について検討されていないし、実用化には誤動作を皆無とする改良が必要であると思われるので、取り組んで頂きたい。今後、企業との連携を実現することが望まれる。
ビーズディスプレイ法を用いたプロテインキナーゼ標的基質ハイスループット探索名古屋大学兒島孝明細胞内情報伝達系において中心的な役割を担うプロテインキナーゼは創薬分野での標的分子であり、これらの網羅的機能解析法の確立が嘱望されている。DNAライブラリーをビーズライブラリーに変換する技術、エマルジョンPCRを駆使し、この手法を用いたチロシンキナーゼ基質ハイスループット探索法の確立を目的とした。チロシンキナーゼINSR及びCSKを用いて本スクリーニング系の改善、効率化を試み、従来の系よりもバックグランドを低減させる反応系の開発に成功したものの、スクリーニング系の確立までには至らなかった。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。バルクの分散が予定通り進まないので、薄層内無細胞タンパク質合成系の検討に切り替え、ある程度の成績を得た。本研究により、最適化のための条件が見つかったので、将来スクリーニング系の確立ができる可能性はある。今後、濃縮効率の達成という具体的目標に対して、それぞれの段階を丁寧に効率アップする努力が必要と思われる。
網膜OCT画像を対象とする3次元疾患診断支援システムの開発三重大学鶴岡信治本課題は、次世代3次元光干渉断層計(3D-OCT)に網膜疾患診断支援をするための3次元画像解析機能と入力インタフェースを開発する研究であり、本研究では、臨床医の診断時間を短縮し、客観的に疾患を把握するために、臨床医が関心を持つ疾患部領域を自動的に推定するアルゴリズムを開発し、診断支援システムを開発するための研究を行った。また自動抽出した網膜階層の境界線から3次元立体表示を試み、層境界面の凹凸変化を回転させ、容易に観察できるシステムを開発した。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。疾患部位の候補領域の抽出、及び3次元の対話型表示システムの開発では、目標通りの成果を示した。課題として、網膜組織の境界線の抽出に対し、疾患例に対して新たなアルゴリズムの開発があげられる。又、健常画像に比べ疾患例では多様な症状が有り、これに対応できる新しいアルゴリズム開発への対応も考慮する必要がある。コンピュータによる診断データの提示は、医師の診断基準を標準化でき、インフォームドコンセプトの形成に役立つと思われる。
要素逐次実装型人工細胞リポソームによる膜情報伝達機能評価法の開発三重大学湊元幹太細胞シグナル伝達系を構成する複数種の膜タンパク質からなる経路を人工細胞膜系(リポソーム)へ組込み機能を再構成する方法の確立を目指した。単一種膜タンパク質の再構成に成功済の組換えバキュロウイルス膜融合法の展開利用可能性を試験した。Gタンパク質共役型受容体、Gタンパク質サブユニット、アデニル酸シクラーゼの単一の組込等が、リポソーム特異的な検出により確認できた。再構成効率、回収率向上を検討した。さらに、膜上での異種要素間相互作用の十分性を明らかにした。一方、この人工細胞系による外部刺激に対するシグナル受容機能発現の評価では十分な感度を得るのは非効率で、再構成リポソーム内に捕捉する新たな検出反応の考案が必要となった。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。バキュロウイルス系とリポソームの融合によるユニット作成を行い、基本的に融合や膜部位での発現確認ができた。本研究では、レセプター、Gタンパク質、効果器(アデニル酸シクラーゼなど)の3者を独立ユニットとして、リポソームに構成するという研究目標の全体には及んでおらず、それぞれに発現したものを作成する難しさの程度に違いはあるが、着実に成果をあげることが望まれる。
操作性に優れた医療穿刺用小型超音波探触子の研究立命館大学田中克彦本研究の目的は、開腹手術に適した操作性の良い小型の穿刺用超音波探触子を開発することである。中央に穿刺用の貫通孔を有し、その外周にリング状の穿刺針検出用素子、さらにその外周に患部観察用の1次元リングアレイ状素子を配置した円筒型探触子(外形φ20 mm、高さ20 mm、周波数7 MHz)を設計・試作した。検出原理をシミュレーションで確認した。ブタの肝臓を用いて試作探触子の評価を行った。穿刺針先端位置と針周囲の肝臓のAモードとBモード画像表示を行い、針と患部の両者を同時に高いS/N比で観測できた。人体への応用の可能性が得られたので、今後患部観察用素子を2次元アレイ化して、患部画像の高精細化を進める。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。穿刺針の位置検出が可能であること、穿刺針先端位置と針周囲の肝臓のAモードとBモード画像の同時計測が可能であることを検証した。今後、対象物によらず安定に画像が得られるための短針素子、駆動・検出回路、ソフトなどの最適化が必要である。又、共同研究企業先と2次元アレイ化への展開が可能かどうかの検討も望まれる。
蛍光で検出できる酵素活性評価キットの開発龍谷大学宮武智弘酵素反応の阻害剤のスクリーニングは、酵素反応を利用する多くの産業分野や医薬品開発において重要なステップであり、酵素の活性を迅速かつ容易でしかも安価に評価できるシステムが求められている。そこで本研究では、蛍光色素を内封した小胞体(リポソーム)と、高い分子膜透過性を有するポリマーを用い、癌やアルツハイマー病の治療と関係が深いプロテインキナーゼおよびコリンエステラーゼを対象とした酵素活性評価システムの構築を目指した。その結果、各酵素反応溶液に蛍光性リポソーム、膜透過性ポリマーの各水溶液を添加するだけで、蛍光発光により酵素反応の活性を評価することに成功した。本研究成果は、医薬品開発の現場で利用できる酵素活性評価キットの開発につながることが期待される。期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。プロテインキナーゼ、コリンエステラーゼの活性評価に有効であることを実証できた。市販の試薬類を用いていること、室温保管が可能であることなど技術移転の可能性が大いに高まった。今後、具体的に「キット」が活用される現場を想定し、企業との共同開発を模索されたい。
患者別力学解析に基づく骨粗鬆症の骨折リスク評価手法の開発龍谷大学田原大輔本研究では、これまでに申請者が開発した骨のイメージベース力学解析シミュレーション手法を基に、より詳細な骨折リスク評価手法を開発・確立することを目的として、骨が骨折に至るまでの非線形な材料力学的特性挙動を考慮した骨折解析シミュレーション手法を開発・提案した。この解析手法を投薬治療中の骨粗鬆症患者の脊椎に適用した結果、経時的な骨折荷重値および骨折パターンの分布から、患者別に骨強度の変化が顕著に示され、骨折リスク評価における解析手法の有用性を示すことができた。計算シミュレーション手法の基本的な開発を達成したが、今後、提案手法の有用性をさらに検討するため、広範囲な年齢の解析対象モデルを増やし、詳細な統計的データの解析を行うことが望まれる。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。椎体の形状と材料特性分布を反映した患者別モデリングを行い、骨折解析における材料非線形性を考慮した患者別非線形骨折解析技術を構築した。骨折リスクの新たな評価手法として期待できる。今回の検討では例数が限られているので、本技術の有効性を確立する為には例数を増やすことが必要である。技術移転を目指すのであれば、医療関係の専門家との一層の相互協力が望まれる。
ピーナッツ種子アレルゲンの単一コンポーネントの開発京都大学丸山伸之ピーナッツは食物アレルギーの8大要因の一つとされ、重篤な症状を示す。そのため、ピーナッツアレルギー患者に対する単一コンポーネントを利用した精度の高い検査薬の開発が急務とされている。種子の脂質を貯蔵する特殊な区画に存在するオレオシンと呼ばれるタンパク質がアレルゲンの一つとされているが、特徴的な構造をもつために単一コンポーネントの調製が難しい。本課題研究において、昆虫細胞を用いた発現系を用いて3種類のオレオシンのアイソフォームについて単一コンポーネントを調製することに成功した。さらに、アレルゲン検査薬に利用するための予備的データを取得した。今後、これらの単一コンポーネントを用いたアレルギー患者の抗原の診断や他の植物種に対する交差性の診断などへの利用が期待される。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。オレオシン3種の遺伝子発現と精製法を確立した。現時点で患者血清検査では陽性反応が見られていないので、早急に3種のアレルゲン共確認する必要がある。又、オレオシン3種がアレルゲンとなる患者が、ピーナッツアレルギー患者全体に占める割合も市場性を確認する上で必要な情報である。Ara h1~h9の遺伝子を取得していれば、新たなアレルゲンマーカーの検査薬開発の展開も期待される。
生体組織に近い貯蔵弾性率をもつ高分子ハイドロゲル培養基材の開発京都大学山本雅哉本研究開発の目的は、生体組織に近い貯蔵弾性率をもつ、高分子ハイドロゲルからなる細胞培養基材を開発することである。本研究では、厚みの薄い刺激応答性高分子ハイドロゲルを作製する技術、ならびに異なる貯蔵弾性率をもつ高分子ハイドロゲルを傾斜機能化したスループットの高い新しい細胞培養基材の開発を試みた。糖あるいは酵素などの細胞に傷害を与えないマイルドな外部刺激により、貯蔵弾性率を任意に変化させることができる細胞培養基材を開発することができた。さらに貯蔵弾性率を変化させることにより、細胞機能を改変することにも成功した。一方、スループットの高い培養基材については、ステップ幅のコントロールに技術的課題が生じたが、本研究を通じて、その解決の糸口となる、今後の実用化につながる研究成果を得た。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。これまで不可能であった厚い高分子ハイドロゲルにおいて、弾性率を変化させることを可能とした。又、当初予定になかった方法で調整した高分子ハイドロゲルも開発した。今後、新たに開発された高分子ハイドロゲル用いた細胞分化への有効性についてのより詳細な検討、及び細胞機能の改変がどの程度まで可能かの検討も必要である。材料の開発と同時に、具体的な応用範囲についての検討も進めていくことが望まれる。
電動車いすの左右方向移動を可能にする全方向移動可能車輪の開発京都大学小森雅晴高齢者や障害者が使用する電動車いすには、病院やエレベータのような狭い空間における動作を容易にするため、前後左右の任意方向に移動できることが望まれているが、現在の電動車いすでは車輪機能に制約があるため、左右方向の移動は不可能であり、使用者に不便を強いることとなっている。本研究では、電動車いすへの適用を目的として、前後左右の任意方向移動が可能な全方向移動可能車輪を開発した。全方向移動可能車輪の運動特性について理論解析を行った。また、車輪を試作し、それを用いて実験を行い、想定通りの動作が可能であることを確認した。期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。利用者が実際利用する状況を想定した上で、電動車椅子の全方向移動機構を現実に使用できるレベルまで開発した。今後、実用化の為のコストダウンを考慮し、極力簡素化を図った全方向移動機構となるように改良を加え、機能性と実用性の高い電動車椅子を研究開発することが望まれる。
内視鏡に搭載可能なin vivo遺伝子導入法の開発京都大学清水一憲独自のin vivo遺伝子導入法の開発に関する研究を行った。本手法はネイキッド核酸を低侵襲に臓器に送達出来る手法である。本課題では、当該手法の臓器特異性を明らかにすることとsiRNAの送達による遺伝子発現抑制が可能であるかを明らかにすることを目標とした。予定した実施項目をすべて実施し、本手法によるプラスミドDNAの送達を試みた臓器・組織7種のうち、4種の臓器・組織に対して送達が可能であることが明らかにした。またマウス肝臓においてsiRNA送達による遺伝子発現抑制が可能であることも明らかにした。今後は、本手法を適用したことによる臓器機能への影響の有無を明らかにする必要性がある。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。プラスミドDNAの送達を試みた臓器・組織7種のうち、4種の臓器・組織に対して送達が可能であることを明らかにした。臓器特異性に関して、定量的な比較ができなかったことは改善する余地がある。本研究により、他の通常の方法との比較を行い優位性を示すことが検討課題として明確となった。事業化の為には、ターゲットとなる疾患を絞った方が効率的であると思われる。
内肛門括約筋切除術(ISR)後の肛門括約筋再生に関する研究京都大学中村達雄直腸癌に対する肛門温存手術では、時に日常生活に支障を与える肛門機能障害が生じる。この肛門機能障害を補填することを念頭に、犬の肛門括約筋切除モデルに対して肛門内圧を改善させる研究を施行した。犬の脂肪組織(大網)を利用して精製したAdipose-derivedstromal cells (ASCs)とコラーゲンスポンジ(5%濃度)を使用した。犬の肛門括約筋領域において組織再生を認め、肛門内圧を平均で9mmHg上昇させることが出来た。圧力のかかる場所では、足場となる素材が圧に耐えられないことが多いが、コラーゲンスポンジの濃度を上げて強度を高めたことで、肛門でも組織再生が可能であったと考えられる。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。ASCsと5%コラーゲンスポンジを用いたモデル系で、肛門内圧の上昇を認めた。正常内圧と比較して9mmHgの内圧上昇により、どの程度改善されているかの臨床データが、今後の技術移転にとって重要と思われる。今後、組織標本を作成した組織再生を病理学的に評価するステップが必要である。再生医療企業と共に、実用化する為に具体的な計画をたて、更なる検討が望まれる。
MRIで低酸素細胞を可視化する分子プローブの設計と機能評価京都大学田邊一仁低酸素応答型置換基インドールキノンを修飾し、NMR・MRIでがん低酸素環境を可視化する分子プローブの開発を試みた。従来型のプローブIQ-Fの水溶性の向上および物性改善を目的とし、アミノ基の導入および13Cラベル化とGd錯体部の導入を行った。その結果、すべての化合物で水溶性の向上が確認できた。また、13Cラベル化インドールキノン誘導体については、低酸素下での選択的なシグナル発信機能が確認できた。今後、動物等を用いた機能評価を行い、低酸素プローブとして開発を進めていく予定である。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。インドールキノン型低酸素プローブの構造活性相関を明らかにし、細胞内での機能も確認した。今後、より高感度かつ選択性の高いプローブへと改良すること、及びその性能を動物実験で検証することが必要である。その後の研究は、産学連携で進めることが望ましい。
bFGF徐放性生体吸収性ゼラチンハイドロゲルによる歯槽骨再生治療京都大学別所和久歯が欠損した場合、義歯、補綴治療または歯科インプラントによる咬合回復が行われており、近年では歯科インプラント治療が着実に広がっている。しかし、歯の喪失後、歯が植立していた部分の骨(歯槽骨)は水平的・垂直的に吸収し(歯槽堤萎縮症)、多くの症例で骨の再生が必要となる。 本研究により、歯槽堤萎縮症患者に対する歯科インプラント埋入のための骨増生術の骨移植材料の代替として塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor:bFGF)徐放化ゼラチンハイドロゲルを臨床応用することを目的とし、既存の骨移植材料による様々な問題を解決し、新たな骨を必要としている部分に低浸襲に生体材料を適応して生体が本来備えている骨再生能力を賦活することで骨を形成することが可能になれば歯科医療に大きな利益をもたらす事になると考える。本研究では、細胞増殖因子を高濃度で持続的に作用させる方法として生体吸収性材料であるゼラチンによる増殖因子徐放化システムを骨再生医療に応用することを目指した基礎的実験として、実験動物を使用したbFGF徐放化ゼラチンハイドロゲルによる骨形成について検討した。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。 DDSとしてbFGF徐放化ゼラチンハイドロゲルの性能が優れていることを、顔面領域で明らかにした。本研究では、用量設定が不明であり、dose-dependentではなく、bBEGF80μgはbEGF20μg投与と比較してむしろ効果が抑制されているので、臨床展開にはその機序の検討が不可欠であると思われる。当初予定していたハイドロゲルの分解速度、bFGFの徐放性、生物活性の発現などの検討も必要である。
血清中遊離DNAを用いた癌特異的遺伝子異常の早期診断法の開発京都府立医科大学家原知子血清からの遊離DNA抽出システムの汎用化を実現するため、神経芽腫患者血清を用いた、血清中MYCN遺伝子増幅診断をモデルとして、血清分離、保存、輸送方法の条件最適化、血清中遊離DNAの条件最適化、解析条件の最適化について検討した。プリザベーションプレートによる血清の保存は、常温、常圧下でも安定であり、長期間の保存によっても血清中遊離DNAの検出は十分可能であった。また、プリザベーションプレート保存された血清と、凍結保存された血清による血清中MYCN遺伝子定量の結果はほぼ一致した。以上より、血清中遊離DNAによる検査において、プリザベーションプレートによる血清保存は、従来の凍結保存と結果に遜色なく、特別な保存機器や条件が必要ないこと、郵送可能であることより、今後有望な検体保存システムとなりうることが示された。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。保存検体のDNA破壊を防止するプリザベーションプレート部分の開発と検出手法の二つの要素からなり、プリザベーションプレートの有用性を実証した。本研究では、Primer-extended preamplification 法による、多数の遺伝子解析が可能な質、量の遊離DNA が検討されていないので実施する必要がある。新規診断法開発において、二つの内どちらの要素技術に主眼を置くのかを明確にして、必要であれば優れた技術を導入して組み合わせた事業展開も考慮されることを望む。
経皮的腫瘍蒸散術を目的とした形状記憶合金製蒸散プローブの開発京都府立医科大学内藤泰行今回の実験の目標1である、『プローブの製作、蒸散条件設定』について、まず実験を進めた。プローブの試作を行い、精度の検証を行った。穿刺のためには2mmのプローブ径が必要と設定したが、機能的に十分か? さらに、蒸散電極部を0.2mmのチタンーニッケルで作成したが、我々の今回の目的であるいかなる腫瘍径・形に合わせたオーダーメードな形状に十分回復できるか、リユースに耐えうるかなど、設定した課題についてひとつひとつ検証を進めた。目標1だけでも検証項目が多く、研究期間は超えたが、引き続き計画にそって研究を進める。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。プローブの製作、蒸散条件設定について、着実に課題を検討し実用化の見通しを得た。今後、具体的な対応、例えばプローブと電極の接合部の改良法、電極の材料の特性試験/構造試験を計画し、プローブ部分の改良に集中する必要がある。将来、形状記憶合金製蒸散プローブの実用化が十分に期待できる。
新規ワクチン噴霧投与デバイスの試作同志社大学高野頌高病原性鳥インフルエンザウィルスの感染防御対策における予防技術の中でも、特に簡便性・安全性・有効性に優れたワクチン投与法の研究開発が急務である。本課題では、これらの優位性を具備する、新規の経気道ワクチン噴霧投与デバイスの試作開発を目標とする。従来の注射法と異なり、気道を介する手法は粘膜免疫応答を誘導できることが知られており、技術移転する試作開発では、従来法の注射あるいは経鼻と比較して1/10程度のワクチン量で同程度の抗体付与効果を実現するために、1~20μL程度の極微量ワクチン量を4.9~5.9μmの液滴粒子で噴霧投与を実現する医療デバイスを開発した。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。経気道粘膜ワクチン噴霧投与という新規投与経路によるデバイス開発の着眼点は優れている。極微量ワクチンの液滴粒子出噴霧投与を実現する医療デバイスの開発に見通しを得た。医療機器の開発には、QMSによるデザインレビューが重要であるので、設計インプットとしての設計審査からアウトプットとしての試作確認までのプロセスを明確にし設計検証を行うことが望まれる。今後、臨床応用に向けた具体的な研究開発計画が必要である。
角膜内皮細胞のアポトーシスを抑制する新規ドナー角膜保存液の開発同志社大学小泉範子Rhoキナーゼ阻害剤を角膜保存液に添加することにより、ヒト角膜組織保存中の角膜内皮細胞のアポトーシス、細胞死を抑制することを確認した。アポトーシス、細胞死の抑制率は個体差を認めるものの、Rhoキナーゼ阻害剤により抑制されていることが明らかになった。動物を用いた角膜移植モデルにおいては、早期に角膜が透明治癒し、Rhoキナーゼ阻害剤による副作用を認めなかった。本研究はRhoキナーゼ阻害剤のヒト角膜組織における角膜内皮細胞の障害抑制効果を世界で初めて確認したものであり、新規角膜保存液の臨床応用の可能性が示された。今後も米国アイバンク、企業と共同で研究を継続し、角膜移植の治療成績を向上させる新規角膜保存液の開発につなげる予定である。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。Y-27632を添加した角膜保存液に保存した角膜により、角膜が早期より透明治癒することを動物評価モデルによって確認した。正確な抑制評価には、薬剤によるアポトーシス、細胞死誘導下でのY-27632の影響の検討などを例数を増やして検討する必要がある。今後、従来法と比較して、移植効率の優位性や安全性のデータを詰めることで、技術移転の創出に向けた問題点や技術目標が明確になると思われる。
筋ジストロフィーの病態進行マーカーの開発(財)大阪バイオサイエンス研究所鎌内慎也デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者の尿中プロスタグランジン(PG)D2代謝物について、病態進行マーカーとしての開発可能性を検討した。ヒト尿での測定におけるPGD2代謝物の定量下限値は0.1ng/mLを目標値としたが、液体クロマトグラフィー-タンデムマススペクトル法を用いて、その値を達成した。一方、多検体同時測定に優れた酵素免疫測定法についても方法を構築中である。尿中PGD2代謝物の測定から、患者の中で、健常人と比べて明らかに高値を示す一群が認められた。一方、患者では血清中のクレアチニンキナーゼ(CK)値が高値を示すが、血清CK値と尿中PGD2代謝物値には明確な相関が認められなかった。今回、より簡便な尿で評価できる新規病態進行マーカーの開発可能性が明らかになった。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。患者全体でみると高値群、低値群があり、また病態の進行と一致した挙動をするかどうかが不明であるなど、研究対象とされている尿中PGD2代謝物は、現時点で臨床的に有用なマーカーとは評価できない。まずヒトにおける基礎的データの収集が必要である。血中PK値を上回る利点が明確ではないので違いを明らかにし、尿中PGD2代謝物がどの病態と相関するのかを、臨床情報や他の臨床データにより詳細に検討することが望まれる。
総入れ歯安定を得るための新しい歯科用インプラントの探索大阪歯科大学呉本晃一海外で提唱されているインプラントと総入れ歯を組み合わせた新しい治療法(ImFD)の導入には専用インプラントを必要とするが、国内では未だ専用のインプラントは開発・販売はされていない。本研究の目的は、日本においてこのImFD治療を簡便に導入するための専用インプラント(MI)を開発することにある。本課題の結果、従来型のMIにマイクロスレッド形状を付与することで、機械的強度・インプラント埋入時の初期固定の向上、側方負荷下でのMIの高い安全性について明らかにした。今後、生体力学的なin vivoの研究を引き続き行うことで、ImFD に適したMIのさらなる開発および最適化を行う。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。ミニインプラントにマイクロスレッド形状を付与すると、機械的強度が増強し、インプラント治療に不可欠な良好な初期固定効果も得られることがわかり、研究目標の大部分を達成した。今後、継続中の動物実験の結果を踏まえ、ミニインプラントのさらなる最適化を目指すことが重要である。
光ピックアップ型バイオセンシング技術の開発大阪大学吉川裕之試料溶液中にレーザーを集光し、集光点からの後方散乱光を測定して特性の生体分子の検出を行う光ピックアップ型バイオセンシング技術の開発に取り組んだ。グルコース溶液中にグルコース酸化酵素を加え、硝酸銀を含む反応溶液と混合することにより、レーザー集光位置に有機分子-銀ナノ粒子複合体が形成され、後方散乱光強度の時間変化からグルコース濃度を定量することに成功した。当初10μL以下の溶液試料中に含まれる10^-5- 10^-2 mol/Lの範囲のグルコースを2分以内に、誤差数%以下の精度で検出する目標を設定した。現段階での検出限界は10^-4 mol/Lであるが、他の目標はほぼ達成しており、検出感度も反応溶液系を最適化することにより向上すると期待できる。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。金や銀のクラスターサイズの変化より、アニリン誘導体分子重合反応の方がより好適であること等、新規な知見を得ることにより、本手法の優位性を立証した。本研究の課題として、まず原理を解明しなくては、血液や尿などのより複雑な混合用液系に適用するには時間がかかると考えられる。新規なコンセプトに基づく血液中グルコースの簡便測定手法の確立で、糖尿病の新たな診断システムの実用化も期待される。
ヒトiPS細胞の増幅・集積プロセスのための培養面設計大阪大学金美海多分化能を有するヒトiPS細胞の未分化維持のための培養面の設計および新たな増幅培養プロセスを確立する。特に、リガンドとしてD-グルコースを提示した培養面にて、細胞膜上のグルコース・トランスポータと培養面上の提示グルコースの親和性により、細胞骨格形成の変化から足場タンパク制御を伴う、従来の幹細胞培養手法とは異なる新規な培養システムを開発する。さらに、ヒトES細胞などの幹細胞への汎用性ならびに実用化を目指した培養面作成、ならびにその設計方針を確立することにより、医療用途の細胞を培養できるシステム開発を目指す。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。グルコース提示型デンドリマー界面を使って、単回でのiPS細胞の増殖、維持を達成する見通しを得た。今後、継代培養における未分化細胞の増殖、維持の確認が必要と思われる。又、未分化の状態を見る指標として定量性を示すデータを示すことが望ましい。ヒトiPS細胞、ひいてはES細胞の培養面として有用であると考えられ、企業における製品化も十分に期待できる。
蛍光性金ナノクラスターを利用した近赤外光造影剤の開発大阪大学神隆蛍光性金ナノクラスターを生体イメージング用光造影剤として応用しようとする研究は、これまでほとんどおこなわれていなかった。蛍光性の近赤外発光金ナノクラスターは、量子ドットのように生体毒性のある重金属イオンを含まず生体適合性に優れており、生体光イメージング用造影剤として注目すべき蛍光材料である。本研究開発では、蛍光性金ナノクラスターを生体イメージング用光造影剤として実用化するための試験研究をおこなった。具体的には、近赤外発光の金ナノクラスターの合成法および金ナノクラスターへの抗体修飾法を開発し、乳がん生体イメージングにおける光造影剤としての有効性を確認した。期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。従来の有機系色素に比べ輝度が高く、しかも毒性がない近赤外造影剤を開発した。本研究成果では、蛍光波長が700nmなのでより長波長のデータも取ることが必要である。今後の展開において、特許出願と論文投稿のみだけでなく、成果の技術移転も考慮した展開が望まれる。
磁気ハイパーサーミア用自己温度制御発熱体の開発大阪大学中川貴磁気ハイパーサーミア療法とは、がん患部に交流磁場で発熱する発熱体を挿入しあるいは集積させ、体外から交流磁場を照射することにより、がん細胞を殺傷する方法で、低侵襲的ながんの治療法として近年注目を浴びている。体内深部にある患部の温度を非侵襲的に測定することは非常に難しく、磁気ハイパーサーミア療法において、適切な温度(42~47℃程度)に患部を保持することは大きな課題の一つである。この問題を解決するために、体温付近にキュリー温度を持つLaMn系ペロブスカイトを交流磁場中で発熱させたところ、LaMn系ペロブスカイトの温度はキュリー温度で一定に保たれた。このLaMn系ペロブスカイトを体内に低侵襲的に挿入できるように直径1mmφの針状に加工した。また、キュリー温度付近で比熱、磁気ヒステリシスを詳細に測定し、実際に温度を測定しなくてもこれらの測定結果をもとに任意の磁場強度、周波数での到達温度を評価できることが明らかとなった。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。LaMn系ペロブスカイトを用い、体内において交流磁場をかけ、適切な温度に一定に発熱させる機能を有する技術において、ペロブスカイトを直径1mmφの針状に加工成型することに成功した。専用のアプリケータで挿入する従来技術に対抗する為、直径0.8mmφ程度まで小さくすることが望ましい。今後、マウス等を使った検証実験等により、実用化の可能性を追求することが望まれる。
非固定型PET検査システムの開発大阪大学渡部浩司通常のPET検査では、長時間にわたって被検者を固定して検査を行わなければならない。本研究は、被検者の動きをモニターすることにより、被検者を固定せずにPET検査を可能とし、被検者の負担を軽減し、また、動きの補正をすることにより、PET画像の定量性の向上を図るものである。本研究期間において、動きを模擬する治具を開発をした。また、観察された動きをモニターするためのソフトウェアを開発した。これにより、被検者の動きをモニターできることを確認し、動きを考慮した画像の作成に成功した。今後は、さらなる精度の向上を図ることにより、PET検査に本システムを導入し、被検者に優しい検査確立を進め、製品化を図る。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。被験者の動きを模擬する回転装置を開発し、被験者の様々な状態をシミュレーションできる技術の見通しを得た。本研究では、2時間以上の被験者の動きをモニターするための検討や、動きをモニターするマーカーの最適化は達成できなかったので、継続することが必要である。実用化の面では、まず小動物の分子イメージングの分野で活用が期待される。
筋シナジー評価に基づくスキルトレーニングシステムの開発大阪大学平井宏明本課題は、ユーザの運動中の筋バランスを定量評価し、運動改善のための具体的運動提示を行う「スキルトレーニングシステム」の開発を目的とする。ここでは目標の達成に向けて、申請者らの有する筋シナジー抽出技術を核に、(1)筋シナジーと運動タスクの関係の明確化、(2)筋シナジーに基づく運動トレーニングの効果の検証を行った。小課題(1)に関しては十分な結果を得ることができ、その成果は学術論文、学会発表の形でまとめられている。また、小課題 (2)についても、開発システムによる運動トレーニング効果を確認できた。ただし、現時点では、被験者の運動学習能力に左右される点も大きい。タスク習熟に伴う筋シナジーの変化に基づき、個人差を考慮に入れた運動教示法を確立することで、本システムの更なる洗練化が図れるものと考える。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。運動タスクとそれを達成する大自由度の筋肉の活動パターンの関係を明らかにする検討で、目標達成の見通しを得た。本研究では、実験の被験者の人数を明確にして、その内の熟練者と初心者の構成比を明らかにし、パターンの分類、解析を行った根拠を示す必要がある。実用化の為には、被験者の個人差を考慮した新しい運動評価方法の確立が不可欠である。企業との連携により実用化を進めることを期待する。
毛の発育を規定する新規蛋白質の機能特性の解明と応用大阪府立大学山手丈至円形脱毛症などの毛の発育異常の病態の全貌は、毛の形成に係る因子が複雑であるが故に、未だ十分には解明されていない。研究責任者は、ラットの体性幹細胞を抗原として作出した抗体A3が毛芽細胞を特異的に識別することを見出した。そこで、本研究では、ラットの胎児・新生児の発育段階の毛、成体の毛、さらには病的な毛を用いて、A3認識毛芽細胞の出現を、体性幹細胞との関連で解析するとともに、 A3が認識する新規蛋白質の機能特性を、ヒトとの相同性を含め、解析する。さらに、毛の病態の基礎研究に応用できるツールとしての有用性を探索することすることを目的とした。この課題は、毛の発育や病態の解明を目指した基盤研究に繋がる。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。毛の発育を規定する新規タンパク質を認識する新規抗体を作成した。本研究では、A3タンパク発現細胞の育種として、MT-9細胞系の改変や、抗体を用いた新たな細胞系の樹立方法が明確にされていないので、今後の検討課題である。又、抗原タンパク質遺伝子の破壊や、RNAiによる影響の検討も望まれる。A3タンパク高発現細胞の獲得により、実用性は一気に高まると思われる。
可視光溶解性ゼラチンを用いたピンポイント細胞分離・回収システムの開発大阪府立大学児島千恵細胞工学、細胞医療の発展とともに、目的の細胞を分離・回収するシステムは重要になっている。我々は、光熱変換特性を有する金ナノ粒子と細胞接着性と温度応答性を示すゼラチンゲルをハイブリッドすることで、可視光照射によってピンポイントで溶解する光応答性細胞足場材料を行ってきた。しかし、これまでのゲルではゾル化温度が37℃よりも低かったため、ゲル上で細胞を培養することができなかった。本研究では、ゾル化温度の改善とそのゲル上で培養した細胞のピンポイント分離を目標に掲げ、いずれも達成することができた。今後は、ゲルの光応答性の改善と様々な細胞への汎用性について検討し、将来的には細胞医療で用いる移植細胞の作製を行いたい。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。ピンポイント細胞分離システムの構築を目指して研究を進め、実用化の可能性のある成果を得た。今後、培養に関しては、最低数日間安定な結果が必要であり、可視光照射によるピンポイント細胞分離、細胞の生存率についても詳細な結果が必要である。改善点を共同研究先とも連携して、さらに追及することが望まれる。
金属ナノ粒子固定化ビーズを利用した非標識バイオセンサの開発大阪府立大学床波志保自己集合的に金属ナノ粒子を高密度固定したマイクロ樹脂ビーズを作製し、その光学特性を評価すると共に、ビーズの分光特性を利用した多検体一括検出を可能とするバイオチップの開発を最終目的としている。この目標を達成するため本研究実施期間内では、サイズ、形状の異なる金ナノ粒子、および異種合金ナノ粒子を作製しマイクロビーズ上に集積固定する技術を確立した。さらに、ナノ粒子を高密度固定したビーズから生じる強い散乱光を観察することに成功した。今後、生体関連物質を修飾した金属ナノ粒子固定化ビーズのバイオセンサへの実用的な展開を行うつもりである。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。異種合金ナノ粒子を作製し、マイクロビーズ上に集積固定できたこと、球状、ロッド状のナノ粒子の作成ができたことを確認している。光学特性評価を進めるに当たり、適切な顕微鏡観察環境(計測光学系)を構築することが重要と考える。今後、新規性のある固定化法の開発も必要であり、ラベルフリーバイオチップの実現に向け本研究開発が、着実にステップアップすることを期待する。
創傷部での癒着を回避できるガーゼ開発のための高速親水化ポリマー甲南大学渡邉順司本研究開発では、傷口での癒着を回避するガーゼを開発するために必要となる高速親水化ポリマーを創製することが目標です。このようなガーゼ開発には、傷口周辺が乾燥している時と湿っている時の環境の違いを識別してポリマー材料の特性が変化する必要があります。本研究では、親水性の高分子と疎水性の高分子を一つにつないだブロック共重合体を設計し、合成しました。ポリエステルで作られた基板に塗布して評価した結果、乾燥時には疎水性であった表面が水中に浸漬して数分程度で親水性になることを見出しました。このことは、合成した共重合体が外部環境の違いにより表面の性質を変化させたと考えられます。さらにガーゼ素材としてポリエステル製の不織布に適用することを計画しています。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。創傷部での癒着を回避できるガーゼに資するに充分な機能を有していることを示した。今後、速親水化を評価する手法の更なる改良が望まれる。企業と共同して実用化へ向けた計画が進んでいるようで、実用化により社会的有用性が大きく期待される。
高感度バイオセンシングに向けた非特異的タンパク質吸着抑制剤の開発神戸大学大谷亨本研究では、センサ基板表面にポリグリセロールデンドリマー(PGD)を一層で固定化する方法を見いだし、PGD表層の水酸基密度が血液中のタンパク質を含む5種類のタンパク質吸着に及ぼす影響を定量的に評価し、各タンパク質吸着量が0.1nmol/mm2以下となることを目標とした。反射干渉分光法(RIfS) でのセンシングに鑑み、そのセンサ基板である窒化シリコン基板上への第一世代から第三世代までのそれぞれのPGD固定化をエポキシ系シランカップリング剤を用いて行ったところ、エリプソメータ測定、原子間力顕微鏡観察の結果、各PGDの一層での固定化を確認した。ヒト血清アルブミン、免疫グロブリン、フィブリノーゲン、リゾチーム、ペプシンの吸着をそれぞれRIfSの光学膜厚変化量から測定したところ、非特異吸着量は第三世代のPGD固定化表面において全て0.1nmol/mm2以下となった。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。窒化シリコン基板への固定化技術の確立、及び非特異吸着量が0.1nmol/mm2以下の目標設定を実証した。本研究では、固定化技術の新たな手法指針が具体的に示されていないので、示す必要がある。本技術を実用化する為に必要な検討課題を、企業の観点にたって絞り込むことも望まれる。
生理活性反応測定装置を活用したユビキチン化の高感度検出法の開発姫路獨協大学宮本和英ユビキチン化に関わる酵素であるユビキチンリガーゼ(E3)を人工的に作製し、さらに生理活性反応測定装置(AMIS-101)を活用することで、ユビキチン結合酵素(E2)の活性を高感度に検出・測定することを目標とした。本研究では人工的なE3を、分子設計した後、ペプチド合成・精製などを経て得ることができた。これを利用するE2活性の検出をin vitroで検討した結果、AMIS-101によるE2活性の検出下限は3nmol/Lで、濃度依存的な高感度検出が可能となった。今後、培養細胞あるいは血清中でのE2活性の検出・測定が可能となれば技術移転が可能である。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。人工的E3ペプチドを合成し、E2によりユビキチン化されることを確認した。血清試料で、人工的E3ペプチドを加えない時 、AMIS-101はどのようなシグナルを検出するかの予備的な基礎実験は実施した方がよい。今後、血清のE2測定の診断的意義、治療的意義、その上に立った感度の問題を再考し、疾患特有のE2が測定できるようなE3ができているか、negative controlを含めて特異性に関する評価も厳密にする必要がある。
イムノクロマトグラフィーへの電気化学定量法の融合兵庫県立大学安川智之本研究では、簡便性、迅速性、可搬性に優れた安価で小型な免疫診断デバイスであるイムノクロマトに、定量性と高感度化を融合したデバイスの開発を目標とした。免疫認識反応のシグナル分子として酵素を用い、酵素反応生成物をレドックスサイクリングおよび変換濃縮法を利用して高感度化を行った。通常に酵素免疫測定法と比較して、2-3桁程度の高感度化の可能性を示せた。さらに、酵素間の基質サイクリングを利用すると非特異吸着する標識酵素からの影響を無視でき洗浄工程を排除できる。ニトロセルロース膜および電極を組み込むことの可能なイムノクロマトデバイスを作製し、免疫反応で捕捉された標識酵素を電気化学的に計測できた。今後は、デバイスを用いて高感度化を遂行する。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。電極デバイスのマルチ化と抗体固定化担体として微粒子表面の利用を行った結果、感度は従来技術に比べて100倍程度上昇した。但し、測定時間が40分~60分と長い為、測定時間の短縮、及び再現性のさらなる向上が今後の検討課題である。本法を普及させるには、優位点をさらに伸ばし検討課題の解決が必須であると思われる。
高感度、定量性、簡便性をキーワードとする免疫センサの開発兵庫県立大学水谷文雄測定対象となる抗原と抗体固定化ビーズとを含む溶液中で不均一な交流電場を印加して、ビーズを誘電泳動力により抗体固定化基板上に集積させると、基板上の抗体/抗原/ビーズ上の抗体の構造の複合体が形成される。交流電場の印加を止めた後も、この複合体を形成したビーズは基板上に固定化された状態で留まり、固定化ビーズ数から抗原の量が求められる。使用するビーズの直径を0.5-1.0 μmと、通常の1/10程度とすることにより、液の流動によるビーズ脱離の抑制(ビーズに掛かる応力の低下による)、ビーズ表面での反応の高効率化(ビーズ表面積の増加による)が可能となり、迅速かつ高感度に免疫測定が出来ることを示した。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。従来の約10分の1の0.5~1.0μmのビーズサイズの採用により、感度の向上、及び抗原の固定化が実現できており、簡便なセンサとしての性能を実証した。但し、当初の目標である測定時間5分、検出下限濃度数ppmに対する研究成果を示す必要がある。実用化されれば有用なセンサとなるので、今後のより精力的な研究活動が望まれる。
急速進行性糸球体腎炎の早期診断に有用な新規バイオマーカーの開発奈良県立医科大学岩野正之急速進行性糸球体腎炎は最も重篤な腎臓病であり、患者の約30%が死亡する。早期診断・治療により予後が改善するため、有用なバイオマーカーの開発が待たれている。急速進行性糸球体腎炎の特徴である半月体には、FSP1陽性細胞が浸潤する。尿中FSP1値の急速進行性糸球体腎炎早期診断バイオマーカーとしての有用性が証明できれば、検尿の2次スクリーニング検査としての利用価値が高くなり、試薬メーカーなどへ技術移転が可能である。本研究では、腎生検が実施された147例の糸球体疾患患者の尿中分泌型FSP1値を、われわれが開発した高感度ELISAを用いて測定し、ROC曲線から急速進行性糸球体腎炎の診断に有用な尿中FSP1値を決定した。FSP1陽性細胞は半月体内に多数出現し、糸球体内FSP1陽性細胞数は尿中FSP1値と高い正相関を示したことから、半月体から分泌されたFSP1が尿中に検出されると考えられた。期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。急速進行性糸球体腎炎の診断法として、尿中の値から推測する簡便な方法を確立し、2次スクリーニング系として診断・治療に利用できる道を開いた。すでに進行している企業との共同研究を遂行し、早期に検査法の事業化が望まれる。
末梢血遺伝子発現プロフィールを利用した慢性腎臓病における動脈硬化進展予測法奈良県立医科大学上村史朗本研究では慢性腎臓病患者を対象として、動脈硬化の重症度および遠隔期における重症化の危険性を末梢血遺伝子発現プロフィールを用いて評価できる臨床検査法を確立することを目的とした。申請者らの過去の知見に基づいて健常者末梢血単核球をFlt-1受容体をリガンドの胎盤成長因子で刺激したところ、刺激後の単核球では複数の遺伝子発現が亢進した。候補遺伝子のRT-PCRによる検討ではMCP-1、ICAM-1、CX3CR1が腎機能低下例で高発現していた。ベースラインの遺伝子発現パターンと、登録されている491例の3年間の臨床的予後との関連性を調査した。今回の検討では、MCP-1が長期予後との間に弱い相関関係を示したが、予後を的確に予測できる組み合わせを確定することが困難であった。当初目標とした成果が得られていないように見受けられる。今後、技術移転へつなげるには、今回得られた成果を基にして研究開発内容を再検討することが必要である。慢性腎臓病患者を対象として、動脈硬化の重症度や重症化の危険度を遺伝子発現プロフィールを用いて評価できる臨床検査法の確立を目指したが、予後を的確に予測できる組み合わせを確定することはできなかった。これまでとは異なった新たな候補遺伝子を探索する研究へ移行することが必要と思われる。動脈硬化発症機構を解析する研究に移行することも考慮することが望まれる。
活性酸素種に着目した非侵襲的膀胱癌診断システムの開発奈良県立医科大学島田啓司膀胱癌の診断は、主として膀胱鏡を用いて採取した病変の病理診断によるが、尿道から内視鏡を挿入するため患者に与える苦痛が大きい。一方、侵襲性の低い細胞診は、形態的特徴(いわゆる異型の程度)に頼る検査法であるため、検査者の技量に影響を受け、検出感度が低い。今回、申請者は正常細胞に比して癌細胞で高く産生される活性酸素種に着目し、尿検体を用いた非侵襲的で感度と特異度の高い新規膀胱癌診断システムの開発に取り組んだ。活性酸素種と反応する蛍光試薬を尿検体に加え、蛍光顕微鏡下に活性酸素種陽性細胞を検出して形態的診断を加味することで癌細胞の検出感度と診断特異性を高めることを目指すものである。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。従来法である尿細胞診に比して、感度・特異性共勝った結果を得た。今後、多数の検体で評価を実施すると共に、結果が伴わない症例のさらなる解析、診断コストの低減対策が必要と思われる。実用化に対しては、細胞診など他の診断法と相補的に併用検査することも検討することが望まれる。
癌細胞由来転移促進因子HMGB1の血液吸着による除去奈良県立医科大学國安弘基癌細胞から分泌され、転移促進、癌免疫抑制、抗癌剤効果減弱、及び、臓器障害を生じる血中HMGB1を血液浄化により除去する治療法の臨床応用を目標として、HMGB1吸着技術の基盤を確立するため種々のHMGB1吸着体の効率を検討した。その結果、ヘアピン型2本鎖DNAを結合した磁気粒子が抗HMGB1抗体やHMGB1受容体蛋白などと比較し、最も効率よく、吸着体投与量に相関を示す吸着能を示した。HMGB1はすべての細胞で細胞維持機能を果たし、さらに自然免疫に必須の因子であることが判明しており、DNA磁気粒子によるHMGB1除去法を量的・部位的に制御可能な方法に発展させることが臨床応用のために必要と考えられる。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。DNA結合磁気微粒子は、投与量依存性にHMGB1吸着能を変化させることを実証した。今後の改善で、磁気粒子の安全性の確認、腹腔内に投与した粒子の回収方法の検討等の諸問題に取り組む必要がある。又、安全性を重視した研究手法で、早急に産学共同などの研究開発ステップに移行することが望まれる。
骨組織再生を誘導する新規コラーゲンの検証試験近畿大学森本康一本研究課題は、テロペプチドをほぼ完全に除去したI型コラーゲン(APCol)を用いて、1)細胞レベルでの骨組織再生誘導活性の解析、2)in vivoでの骨組織再生速度の加速作用の検証を目的とする。APColはコラーゲン線維の形成能が著しく低下した物性を示し、APCol埋植群の施術1週間後のラットに骨組織再生効果を力学特性により確認した。また、骨髄由来の間葉系幹細胞をAPCol上に播種して位相差顕微鏡により観察した結果、従来コラーゲンで培養した細胞群と異なる挙動を示すことが明らかとなった。以上の結果より、I型コラーゲンの潜在的な細胞への機能を見いだし、その有用性が確認できた。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。特定の酵素処理したコラーゲンを用いてin vivoで骨再生を行うと、骨強度が向上することを示しており、臨床応用に向けたin vivoでの効果を実証した。今後、骨代謝学専門の研究者との共同研究などで、研究の進め方に工夫ができると思われる。ヒト臨床試験への応用を見据え、素材の検討ならびに長期的な臨床評価や安全性試験を進め、実用化に向けた研究が進むことを期待したい。
医療・生体イメージ応用を目指した近赤外広帯域光源の開発和歌山大学尾崎信彦医療・生体イメージング技術であるOCT(光コヒーレンストモグラフィー)の高性能化に寄与する近赤外波長の広帯域光源を、半導体量子ドット(QD)を用いて実現することを目標とした。我々が独自に開発してきた、選択領域・選択波長成長技術を用いたInAs-QDの成長により、中心波長が異なる4種類のQDをモノリシックに成長させることに成功した。発光波長1.3μm帯において中心波長が40nmずつ均等にシフトされた4色のQDにより、基底準位間(GS)発光のみで帯域約160nmを得た。強励起下では励起準位間(ES)発光が寄与するため、SLD素子においては帯域200~300nmが期待できる。この結果から、分解能数μm程度の高解像度OCTに資する光源が開発可能であることが示された。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。OCT光源としての有用性を示した。本研究では、従来のsuper luminescence素子との共合成についての詳細や、高出力化について触れていないので、今後の検討課題として残る。光学素子作製メーカーとの打ち合わせを開始したり、ユーザーである医学系研究者との協力関係を構築しつつあるなど、技術移転が大いに期待できる。
リン脂質部位化学結合型生体適合性イオンセンサーの開発和歌山大学矢嶋摂子本研究の目的は、生体適合材料を用いて臨床分析用イオンセンサーを開発することである。生体適合材料としては、細胞膜の構成成分であるリン脂質および無機材料として知られるゾル-ゲルガラスに着目し、これらを組み合わせてセンサーの感応膜材料として使用した。カリウム選択性の化合物として知られるバリノマイシンを添加したイオン感応膜を作製し、カリウムイオンに対する電位応答、ナトリウムイオンに対するカリウムイオン選択性を測定したところ、従来の可塑化ポリ塩化ビニル膜のイオンセンサー性能と比較しても遜色がないものが得られた。今後は、膜組成の最適化、生体適合性試験を行い、実用化へ向けて取組んでいく予定である。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。当初予定していた合成がうまくいかなかった為代替法を見出し、バリノマイシン包埋代替膜で高感度、高速応答の成果を示した。今後、代替膜の生体適合性の試験を行うこと、及びイオノフォア化学結合型の膜を作成することが必要であり、又、膜寿命を調べることは実用化に不可欠であると思われる。
マイクロRNAによるヒト癌細胞のiPS化誘導とその応用研究鳥取大学三浦典正siRNAの合目的的な発現制御プロセスは、癌細胞に劇的変化をもたらす可能性がある。我々がヒト10番染色体短腕からクローニングしたRNA遺伝子(RGM249)は、肉腫を含む数種の癌細胞の転移性を制御できることを証明してきた。更に多くのRNA関連遺伝子、転写因子、細胞周期に関わる遺伝子群、数種のmiRNAと極めて強い関与を確認した。特に1種類のmiRNAはヒト正常細胞をiPS化でき、癌細胞を多能性マーカー陽性のiPS細胞に誘導するため、癌細胞の分化度や悪性度を切り替えて正常化及び良性化すると予想される。本試料による癌組織の正常化、当該miRNA群のメカニズム解明、有用な分子標的医薬開発を目指した。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。がん細胞の正常化に関し、in vivo での有効性と安全性を確認でき、特許や論文で情報発信したことで臨床応用への可能性を得た。今後、製薬企業等の共同研究先を探索する為にも、有効性に関する基礎データを積み上げることが課題である。又、臨床応用への可能性を製薬企業に認識させるには、DDSへの展開よりも薬としての有効性に関する基礎データを発信し続ける方が効果的と思われる。
抗体医薬品開発への応用を目指したラクダ一本鎖抗体の試験管内迅速作成法の開発鳥取大学中山祐二ラクダ一本鎖抗体は、新しい抗体医薬品開発のリードとして有用性が高いため、実験室レベルで取り扱えるようにすることは意義深い。本研究開発の目標は染色体工学を基盤技術としたラクダ一本鎖抗体試験管内産生系を構築することである。本技術の確立には、抗体遺伝子の再構成が起こったラクダ抗体遺伝子座を染色体レベルで得る必要があるため、ラクダ抗体遺伝子座を人工染色体に組み込んでマウスに導入し、マウス内でV(D)J組み換えを起こさせた。その人工染色体をハイブリドーマを作成することによってマウス体外へ回収することを目指したが、ラクダ抗体を産生するハイブリドーマは得られなかった。今後は人工染色体の新規改変による再試を検討する。当初目標とした成果が得られていないように見受けられる。今後、技術移転へつなげるには、今回得られた成果を基にして研究開発内容を再検討することが必要である。目標の達成には人工染色体の基本設計やラクダ一本鎖抗体の生物学的特性など基盤研究に立ち返る必要がある。解決に向けた道筋の見通しが弱いと思われる。コンセプトと材料は固まっているので、課題は多いが実現に向けた取り組みに期待したい。
タンパク質修飾による機能性造影剤の開発と超微細がんの可視化島根大学中村守彦研究責任者は、これまでに酸化亜鉛ナノ粒子を新しい蛍光剤として活用したナノメディシン研究を進めてきた。その過程で、がんを認識する抗体を酸化亜鉛ナノ粒子に架橋する高い技術を確立した。そこで本課題では、既存の造影剤に官能基を持たせたナノ粒子で抗体を標識し、MRI(核磁気共鳴画像法)でがん病巣を正確に早期画像診断できる技術基盤を構築した。現在のMRIでは、がんを特異的に診断できないが、抗体を活用する本技術により患者に負担のかからない体外からのがんの特異的な画像診断が可能となり技術革新となる。また、安全な造影剤を利用することから薬事法の縛りもなく実用化の可能性は極めて高い。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特定の癌細胞のMRIイメージングプローブ作製に見通しを得た。本研究では、マウス体内でのがん組織の画像解析実験結果も示す必要がある。超微細がんの可視化は、多数の研究グループで試みられている研究課題である。本技術が、他の手法と比較した時の優位性を明らかとし、標的を絞った研究開発を行うことで技術移転が促進されると思われる。
指先触覚による認知症早期診断装置の試作と臨床確認実験岡山大学呉景龍近年、認知症患者が急増し社会問題になっている。認知症は高次脳機能障害であり、「見えない障害」と言われて、早期診断方法がまだ確立されていないのが現状である。申請者らは、認知実験、脳波とfMRI脳画像などの認知脳科学の基礎研究を積み重ねて、世界で初めて触覚による角度弁別実験で健常高齢者と認知症患者の間に顕著な差を発見し、触覚による認知症早期診断法を提案した。本申請は、これらの研究成果に基づいて指先触覚による認知症早期診断装置を試作し、臨床確認実験を実施した。本課題終了後には装置を改良し、大規模の臨床実験を通じて認知症早期診断法の確立を目指す。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。装置試作と小規模の臨床データ収集には見通しを得て、今後の改良点なども明確化した。今後の検討で、簡易診断法として確立するならば、臨床データとの整合性を客観的に示す必要がある。今後、装置の小型化による汎用性の向上と、大規模臨床試験による評価基準の構築に力を入れれれば、早期診断に役立つ有用な装置の技術移転につながることが期待される。
遺伝子工学の手法を用いた葉緑体光電池の創出岡山大学高橋裕一郎葉緑体チラコイド膜に存在する光エネルギー変換装置である光化学系複合体に、電極素材に親和性のあるタグペプチドを遺伝子工学の手法により融合し、それを電極素材に結合させた葉緑体光電池の創出を目標とした。形質転換系が確立している緑藻クラミドモナスの葉緑体チラコイド膜を可溶化し、ショ糖もしくはグリセロール密度勾配超遠心法により、高い活性をもつ光化学系複合体を迅速かつ高い純度で精製する方法を開発した。さらに、電極素材に親和性のある6アミノ酸のタグペプチドをスクリーニングするT7ファージ・ランダムペプチド・ライブラリーを構築した。このライブラリーを用いたバイオパニングにより金板に親和性をもつタグペプチドを50クローン単離した。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。緑藻クラミドモナスから光エネルギー変換装置である光化学系複合体を、高い活性を保持したまま高い収率で精製する方法の開発を行い、エネルギー変換体の精製技術に見通しを得た。本研究により、タグペプチド選定の点での検討課題が明確となった。
奇異性脳梗塞の再発予防を目的とした卵円孔閉鎖システムの開発岡山大学赤木禎治卵円孔開存に起因する心原性脳梗塞が存在すること、特に若年成人の脳梗塞では主要な原因となっていることが、これまでの研究で確認されている。しかしその治療は、抗血栓療法を主体とした薬物療法に限られていた。われわれは心房中隔欠損症に対するカテーテル治療を積極的に進めるなかで多くの卵円孔開存症はカテーテル閉鎖が可能ではないかと考えるようになった。この研究では、これまで世界に存在する閉鎖システムと異なり、金属を全く使用しない新しい閉鎖メカニズムを作成することを目標とした。このようなシステムの臨床的価値は非常に魅力的であるが、卵円孔の形態は多様であり、この形態を3次元的に構築することが重要であった。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。金属デバイスを用いて欠損孔の閉鎖術を行い、このデータに基づいて、高周波エネルギーで癒着させるシステムの開発をし、イタリアでのヒアリングでも評価されている。今後、典型的症例を具体的に応用する時の基準を明確に示し、適用効率を上げる為に卵円孔の形態判断による患者選択基準の確立も必要である。デバイス製造企業との協議によるシステム開発、及び臨床での有効性と安全性の実証により、臨床分野での実用化が期待できる。
ヒアルロン酸結合タンパク質を用いた新しい動脈硬化検出蛍光イメージングプローブの開発岡山大学大橋俊孝アテローム動脈硬化症は、脂質異常症や糖尿病、高血圧、喫煙などの危険因子により生じると考えられ、脳梗塞や心筋梗塞などの原因となる。ヒアルロン酸(HA)は動脈硬化のアテロームプラークに豊富に含まれる主なマトリックス成分として知られ、さらに直接的に細胞増殖・炎症に直接関与するactive modulatorであるとされる。本研究課題では、タンデム型HA結合モジュールをもつHA結合性タンパク質をHA特異的プローブとして使用する新しい動脈硬化検出用蛍光イメージングプローブ作製を目標とした。精製リコンビナントタンパクによりアテロームプラークと内皮細胞のHAを検出できた。今後in vivo用リポソーム化を行う予定である。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。目的とするヒアルロン酸結合たんぱく質が3種類作製され、ヒアルロン酸と強く結合するタンパクの選出を達成した。本研究により、動脈硬化モデルマウスでHA結合性のリコンビナントタンパク質のin vivoでの有効性の実証や、リポソーム化を行う前にインビボでの集積性を、投与量を変えるなどして検討する検討課題が明確となった。共同研究企業との連携もあるので、本研究成果をベースに技術移転が期待される。
乳酸菌をキャリアとしたRNAiデリバリー岡山大学大槻高史乳酸菌を用いてRNAiデリバリーを行う手法の開発に取り組んだ。本手法による癌細胞増殖抑制効果を示すこと、および、腸内デリバリー効果を示すことを目標とした。まず、乳酸菌RNAiデリバリー法により、マウス皮下に植え付けたヒト癌細胞の増殖抑制を試みた。現在、この方法による癌細胞の増殖抑制については実現できていない。また、乳酸菌のマウスへの経口投与による腸内への核酸送達を調べたが、現在のところ明確に送達されたことを示すデータは得られなかった。しかしながら、ルシフェラーゼの発現抑制という形で、乳酸菌RNAiデリバリー法によるRNAi効果は示されたので、今後の研究継続により本技術の実用性が示されることが期待される。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。ルシフェラーゼ産生腫瘍に対するRNAi効果の定量的測定により乳酸菌をキャリアーとするsiRNAのデリバリーがある程度有効であることを示した。本研究では、腫瘍増殖に関連するsiRNA投与では抑制効果が確認されなかった。今後、目標としていた乳酸菌のマウスへの経口投与による腸内への核酸送達が可能であることの効果を証明する必要がある。基礎データを十分積み上げることが望まれる。
4回膜貫通型受容体テトラスパニンを用いた関節リウマチ早期診断薬の開発就実大学中西徹関節炎からRAへの移行を早期に診断してRAの発症を予防するため、関節液あるいは血中のCD81量(濃度)を高感度で簡便に測定するRIAまたは酵素免疫測定技術を開発することを目的とした。そのためにまず、CD81の組換えタンパク質を大腸菌で大量発現し、これを免疫源としてマウスを免疫し、モノクローナル抗体を作製した。当初の目的のモノクローナル抗体産生株の樹立に成功し、これらを用いて関節リウマチ患者の関節液中にCD81が存在して定量可能であり、病態との関連も見いだせることを発見し、診断薬の開発が可能であることを確認した。今後、さらに高感度化を目指して血液や尿の測定を行う。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。10種類の抗CD81モノクローナルを確実に得ており、予備的ではあるが関節液中の可溶性CD81の半定量を可能としている。早期診断、確定診断、あるいは薬物の感受性を示すバイオマーカーとして本技術を確立する為には、血清レベルでの定量が不可欠であり、多くの患者での有効性を明確にする必要がある。実用化の為には、バイオマーカーとしての総合的なデザインなども考慮することが望まれる。
マイクロポンプ集積化遺伝子トランジスタのシステム化技術の研究広島大学坂本憲児個人の体質による個別治療の実現には臨床現場での個人の遺伝子配列解析が必要である。遺伝子解析の有望なツールとして遺伝子トランジスタが注目されている。これはセンサ面に固定化した一本鎖遺伝子の相補的反応を電気化学的に検出する簡便なセンサであるが、現状では試薬や洗浄液を交互に流すための大型ポンプを外部に設ける必要があり装置の小型化、高速化を阻む課題となっている。本研究では複数の試薬と洗浄液を交互に供給するためのマイクロポンプをセンサ面周囲に集積化し、CMOSプロセスと親和性の高いモノリシック製造技術を用いてセンサ-ポンプ一体化試作研究を行った。また複数ポンプの連動制御を行い複数試薬の送液制御法を確立した。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。cMOS製造と互換性の高いプロセスを用いて、ポンプとトランジスタ型センサーを集積化したシステムを試作し、その動作を実証した。今後、電気浸透流ポンプをこのようなシステムに組み込む際の問題点、つまり、電極での水の電気分解に伴うガス発生、pH変化についての検討が必要である。ポンプに加えて、バルブなどの流体制御素子の集積化技術開発を進めることが望ましい。
リン酸親和性トラップゲル電気泳動転写法の開発広島大学木下英司本研究では、リン酸化分子を選択的に捕捉するオリジナルな分子(フォスタグ)を用いて、生体試料の分離からリン酸化蛋白質の検出までをポリアクリルアミドゲルを用いた操作で行うリン酸親和性トラップゲル電気泳動転写法の開発を目指し、1ゲルの組成、製造法の検討を実施し、次いで、2そのアッセイ法の検証を試みた。その結果、亜鉛フォスタグを用いた中性緩衝液ゲルにおいて良好な成果が得られ、精製標品のリン酸化蛋白質であるペプシンや卵白アルブミン等のリン酸化フォームを分離・同定することに成功した。また、細胞抽出液の試料においては、細胞骨格系蛋白質等のリン酸化フォームを分離・検出した。今後は、プレキャストゲルの創出を視野に入れた展開を目指す。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。リン酸化タンパク質を、亜鉛フォスタグゲルで純度を保ちトラップできる簡便な方法を開発しており、リン酸化蛋白質に対する良好なトラッピング結果が得られた。又、フォスタグとして亜鉛錯体を使用することで、より強い親和性を示すことが明らかとなった。今後、さらに微量なリン酸化タンパク質の純化の為に、アプライ量の増加の工夫も望まれる。プレキャストゲルのキット化に向けた技術移転・実用化が期待される。
再生医療のための生体外組織形成に向けた細胞の力の可視化装置の開発山口大学岩楯好昭再生医療の最先端では生体外での組織形成が試みられ始めている。組織形成には適切なメカニカルストレスが必要である。メカニカルストレスは組織内の細胞自体が発揮する力に起因し、細胞種毎に異なる。従って生体外組織形成では、細胞種毎に発揮する力を計測し、等しいメカニカルストレスを形成中の組織に与える必要がある。本課題では、アメーバ様細胞が自身の貼り付いている基質へ発揮する力と、細胞内分子をリアルタイムに同時に計測する技術の開発を目指した。開発技術では細胞の力で歪む程の柔らかさの弾性基質を用いるため、細胞自身の重みも感知してしまうという問題点もまだあるものの、細胞自身の力を感知できる基質を試作でき、実用化は近い。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。細胞を接着される為の2液混合硬化シリコンシートを作製し、細胞性アメーバの仮足先端での蛍光強度の減少や細胞内分子の同時観察を実証した。今後、シリコンコートの垂直方向の歪みを改善する必要がある。技術移転を目指した産学共同などの研究開発に向けて、具体的な方向性を示すことが望まれる。
哺乳類培養細胞で高効率遺伝子導入を実現する遺伝子導入エンハンサーの開発山口大学中村美紀子リポフェクション用の市販遺伝子導入試薬に添加するだけで高効率に遺伝子導入できる化合物を開発したので、その化合物の遺伝子導入エンハンサーとしての実用化を目指し、1リポフェクション法では遺伝子導入が難しい細胞に遺伝子導入できるようにする、2mRNAを導入できるようにする、ことを目標に研究を行った。その結果、マウスES細胞において、遺伝子導入エンハンサーを用いることで高効率に遺伝子導入をすることができるようになった。今後は、この系を用いてES細胞でより簡単に高効率に遺伝子操作(遺伝子導入・発現・遺伝子破壊)ができるようにしたい。mRNAの導入は、できる時とできない時があり、未だ、できない理由を捉えきれていない。今後は、その理由を明らかにし、mRNAも導入できるようにしたい。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。マウスES細胞を使った遺伝子導入エンハンサー効果を検討した結果、有意に効率は上昇した。本研究により、DT40においては効率の向上、mRNAの導入については、ばらつきの小さい安定した導入・発現の上昇を目指すことが研究課題として明確となった。又、遺伝子のゲノムへのインテグレーションや相同性組換え効率についての検討も進めることが望まれる。
新規脂肪酸結合蛋白を標的とする創薬のための探索研究徳島大学阪上浩本研究の最終的な目標は、申請者が見出した新規な脂肪酸結合蛋白質を治療標的とした小分子化合物などの創薬や医療への応用における基盤確立にある。そのためALBPのリガンドの選択性の解析と脂肪酸との結合様式の解析を行い、ALBP結合阻害薬に対するハイスループットアッセイ系の構築を探索した。解析プラットフォームとなる細胞培養系の一部が未だ構築されていないが、全てのプラットフォームが作製されれば、今後この細胞系プラットフォームが機能するかどうかを迅速に判定する予定であり、ALBP結合阻害薬に対するハイスループットアッセイ系の構築により、リード化合物を含む薬剤ライブラリーのスクリーニングを実施する。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。ALBPのPPARγにリガンドを提供する機能を明らかにし、肥満や糖尿病に対する治療法につながる可能性を示した。当初の計画と比べ、解析プラットフォームとなる細胞培養系の構築が達成できていないので、迅速な達成が望まれる。現在種々開発が進んでいるPPARγ関連薬とのすみ分けが、今後の企業との共同研究の推進において、criticalな問題点となるものと思われる。
唾液を検体とする高血圧診断用抗体マイクロアレイの開発徳島大学石川康子血圧は健康診断や病気診断に必ず用いられる指標である。しかし、既存の加圧式血圧計は測定時の心理状態や測定直前の運動量、測定時の体位移動等の一過性の影響を受けやすく、真の血圧を測定することが難しい。そこで、新たな血圧を測定できる検査法が必要である。高血圧を示す人のうち80%が本態性高血圧であり、残りがホルモン異常などによって生じる二次性高血圧である。本態性高血圧のうち約半数は食塩の過剰摂取が原因であるとされている。従って、日本人の40%は食塩感受性高血圧症であり、減塩のみで血圧が低下するとされている。そこで、高血圧や摂取食塩量の増加により変動する唾液中のナトリウムチャネル・ENaCをはじめ種々のイオンチャネル量を測定して血圧を知る新規高血圧診断用抗体マイクロアレイ法を検討した。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。動物モデルの唾液を用いて、食塩負荷前後での検出可能なイオンチャンネルの変動を見る実験システムを確立した。本研究では、唾液量、ウエスタンブロットによる測定値の評価結果が明確でなく、統計的に有意差があるのかないのか判断しにくい。今後、水チャネルAQP5を内部標準として比較した方がよいと思われる。実用化の為には、チャネルタンパク質の解析をする臨床的意義、あるいは価値を見いだす必要がある。
患者のそばで使用可能な「ATP 簡易測定器」の研究開発徳島大学千田淳司申請者は以前に患者の末梢血中の ATP (アデノシン-三リン酸) を定量するキットを開発し、本キットを使用することで、患者の重症度を評価する新規重症度評価法 (A-LES) を確立した。本スコアは、集中治療の現場 (ICU) で広く用いられている評価法 (APACHE II 等) と比較し、1) 算出法が簡便であり、2) 検査項目が少なく、3) 迅速な評価が可能である。しかし本法での ICU 管理患者の重症度評価にはルミノメーターが必要であるものの、本測定器は医療現場では普及していないのが現状である。そこで本研究では食品製造の分野で使用されている安価な簡易型ルミノメーターを用い、重症度評価を可能にする新規技術を開発する。期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。先行技術と同等のATP抽出効率、及び測定器でも同等の測定能を有すること実証した。但し、検討症例が40例と少なく、疾患別での検討も実施していないので計画的に実施することが必要であり、特に臨床重症度と本技術の有効性の関係が重要課題である。実用化に向け課題を克服すれば、臨床の現場において使用される可能性は高いと思われる。
新しい発想から生まれた麻酔用換気マスクの開発徳島大学田中克哉高齢者(特に入れ歯のある人)はマスクから酸素がリークしやすく換気困難となることがある。我々はこれまで、下写真に示すような初心者でも換気しやすいマスク保持法を見出し、それに適した形の麻酔用マスクの開発を行ってきた。今回、開発試作したマスクを用いて、臨床で従来マスクを使用した時と比較すると我々が開発したマスク保持法では試作マスク、従来マスクどちらも同程度の換気が行えた。マスクの顔面と接着する部分をさらに改良することで従来マスクよりも効果的なマスクになると強く感じている。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。今回提示されたプロトタイプの試作マスクで有効性を確認した。本研究により改良点が明確となり、顔面フィット部分をバルーン方式に改良することで目標数値の達成ができると思われる。今後、従来のマスク換気に対する優位性を証明すること、マスク換気の非熟練者でも容易に換気できることを実証する必要があり、更なる改良が望まれる。
マスク換気を評価する顔面-マスク間圧センサーの開発徳島大学木下倫子全身麻酔がかかると患者は無呼吸に陥るため、麻酔科医は患者にマスク換気を施す必要がある。安全な麻酔導入のためにマスク換気は必須の手技であるが、上手くマスクを顔にフィットさせられず顔とマスクの間に隙間(リーク)が生じてしまうと、たちまち換気は困難となり無呼吸から低酸素状態となる危険性がある。マスクのフィットは大変重要であるが、これまで顔とマスクのフィット具合を客観的に評価出来る方法はなかった。我々は、顔とマスクの間にかかる圧力分布を測定することで、顔とマスクのフィット具合を評価することが可能であると考え、顔面-マスク間の圧センサーを試作した。そして世界で初めて客観的に、かつリアルタイムにマスクのフィット具合が視認出来るようになった。医療用マネキンを用いた実験では、換気の評価や換気の質改善に有効であることが示された。しかし、初期の試作品では、実際の患者に使うには、デバイスの大きさや安全性に問題があった。そこで本研究では、実際の患者に使うことの出来るデバイスとするため、デバイスのボリュームダウンを図り、また患者の皮膚にも安心して使うことが出来るよう、センサー部分をシリコン素材で覆った。そして、全身麻酔が導入された患者に、新しく制作された圧センサーを用いてマスク換気を行ったところ、センサーから得られた圧力分布は、実際の患者でも換気の質評価に有効であることが証明された。今後は、本デバイスの一般普及を目指していきたいと考えている。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。 患者に用いることのできる圧センサーを開発し、臨床上圧センサーの有効性を証明できる見通しを得た。圧センサーを用いた圧力分布のモニタリングの手間や、測定データの保存が不十分な為、実用化の為には更に改良が必要である。今後周辺機器の開発が、技術移転の創出に向けた鍵になると思われる。
愛媛大学発子宮内膜症マーカーの有用性検討愛媛大学阿部康人現在子宮内膜症の確定診断には手術が必要とされるため、患者の身体的かつ精神的な負担が大きい。これを血液検査で診断する手段としてCA125という悪性腫瘍のマーカーを代用してきたが、感度が低く実用的ではなかった。この度我々は、子宮内膜症を血液で高精度に診断可能な手法を開発することに成功した(シーズ:特願:2009-223494号名称:子宮内膜症の判定方法、および子宮内膜症の診断用キット; WO/2010/101047)。本法は世界に先駆けて発見、確立したものであり、この研究ではこの診断方法の応用性を確立することによって企業化を促進することが目的である。本研究の結果、本測定法に関して極めて有用な情報が得られ、結果PCT出願後の海外特許申請をより確実にすることができるようになったと考えられた。今後、この研究をさらに進め、可能であれば追加特許申請にも結びつけたい。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。子宮内膜症マーカーとして、従来法に比較して優位な成果が出ており、一次スクリーニング検査の為のキットとして使用できる可能性を示した。データのバラツキの低減策や、求められる個々のデータの信頼度を高める方策が必要であり、更なる高感度化を目指すことで、疑陽性のない診断法の確立を目指すことが望まれる。今後は、共同開発企業への技術移転、実用化の段階に入る段階と思われる。
尿路上皮腫瘍の光動力学的スクリーニングシステムの新規開発高知大学井上啓史本研究は、天然アミノ酸である5-アミノレブリン酸(ALA)を経口投与後、尿中に癌特異的に排泄される代謝産物であるポルフィリン類の濃度を分別定量測定することで、尿路上皮腫瘍の有無を簡便かつ迅速に診断する技術および、当該診断のための蛍光測定装置をパッケージしたスクリーニングシステムを開発するものである。本研究では尿路上皮腫瘍(腎盂癌、尿管癌、膀胱癌)を標的に開発するが、本スクリーニングシステムは癌細胞が持つ基本的な生物学的特徴(ワールブルグ効果)に立脚しており、原理的にすべての癌に応用可能である。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。臨床試験において、膀胱癌105例、正常人20例のデータから本診断法の有用性を実証した。本研究で実施できなかった一般検診に応用可能なレベルまでの高速化について改善が必要である。今後メカニズムの解明において、ワールブルグ効果(ガン組織は正常組織よりポルフィリンを多量に取り込むことが多い)と、PpIXの産生能との関係を明確にすることが望まれる。
新奇酵素を利用したホモシステインの簡便かつ安価な定量試薬の開発高知大学加藤伸一郎システインの側鎖メチレン基が1つ長いアミノ酸である『ホモシステイン』に対して活性を示す、新奇な酵素『ホモシステイン脱水素酵素』を有する微生物株を3株選抜した。これらのうち最も高い比活性を示す菌株No.251について液体振とう培養を行い、集菌後に超音波破砕して無細胞抽出液を調製するとともに、陰イオン交換カラムを用いて本酵素の精製を試みた。しかしながら、本酵素は安定性に極めて乏しく、精製の過程で完全に失活した。そこで無細胞抽出液を用いて、基質特異性、補酵素特異性、pH安定性、熱安定性などの酵素学的なパラメータの測定に取り組んだところ、精製にむけて必要とされる基礎的なデータを取得することができた。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。基質特異性、補酵素特異性、pH安定性、熱安定性などの酵素学的なパラメータの測定に取り組んだ結果、精製に必要とされる基礎的なデータを取得することができた。今後、酵素の安定的な精製法を確立し、取得した酵素における各種パラメーター設定、定量の可能性検証、更に従来品に比べて簡単・迅速・安価を示唆することが必要である。基礎研究が確立した時点で、技術移転を目指した具体的な診断項目の開発を期待する。
水熱ホットプレス法を応用した生体近似骨の顎骨再建への応用高知大学山田朋弘水熱ホットプレス法は、試料粉末の大きさ、処理時間、温度、圧力を変化させることにより、得られる固化体の密度、開気孔率、気孔径、さらには機械的強度を変化させることができる利点を有する。これらの特徴を有する人工骨製造法は他に報告がなく、優れた新規性および先行人工骨に対する優位性を有するものと思われる。本研究では、高温焼結で作製したアパタイトを比較対象として、水熱ホットプレス法を用いたアパタイトの生体親和性を評価するために、これらの基質上でのマウス骨芽細胞様株化細胞(MC3T3E1)の培養実験を行った。その結果、水熱ホットプレス法では水酸アパタイト(HAP)やカルシウム欠損型アパタイト(CDHAP)より炭酸含有アパタイト(CHAP)の方が高い生体親和性を有することが示された。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。水熱ホットプレスによるアパタイト焼成を低温下で行い、気孔率、機械的強度を自在に調整できる特性を持たせ、アルカリフォスファターゼを使った分化能は従来のアパタイトよりも優れていることを明らかにした。しかし、通常の高温焼成アパタイトよりも繊維芽細胞の増殖能が低下した。PH低下によるものとしているが、解決策が見いだせていないので、検討を継続する必要がある。pHの問題を克服した人工骨を作製してから、次のステップに進むことが望まれる。
硬質窒化ホウ素膜の表面機能制御と生体親和性評価九州大学堤井君元生体材料の性能を高めるためには、硬度、化学的安定性、生体親和性が高い物質をその表面にコーティングする必要がある。窒化ホウ素膜は硬度と化学的安定性が高く、炭素との親和性が高いという潜在的な利点を有している。本研究課題では、プラズマ蒸着法によって基板上に形成した窒化ホウ素膜のぬれ性の向上と、生体親和性の検証を目的とした。膜表面をプラズマ加工処理することによって、ぬれ性は著しく向上した。その後細胞培養試験を実施したところ、優れた生体親和性が確認された。今後はぬれ性向上の原因究明と、さまざまな生体物質に対する親和性の評価を進める。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。フッ素添加低圧プラズマCVDで作成した硬くて安定なC-NB膜を、表面処理することで生体親和性の高い膜を作成できることを実証した。本研究により、生体親和性がまだ定性的な評価に留まっており、更なる検討が必要である点、ポーラス材料へのコーティング特性、生体材料内での長期的な安定性、非剥離性などの検証が課題として明確となった。cBNが生体に対して完全に「非活性」であることを証明できれば、技術移転が期待できると思われる。
足圧パターンを用いた簡易な膝継手立脚期制御システムの研究開発産業医科大学蜂須賀研二2010年10月1日より2011年3月31日までの期間に、下肢麻痺者が歩行時に膝折れを生じないで安全に快適に歩行できる簡易な膝継手立脚期制御システムを開発するのが目的である。従来、一般的に使用されている長下肢装具の膝部にスイスロック膝継手を取り付け、圧センサーを足底に装着し足圧の変化や荷重のタイミングにより、下肢の運動(立脚期、遊脚期)を判別してスイスロック膝継手のon-offを制御することで目的を達成でき、本制御システムの特許申請も行った。この制御システムは長下肢装具に取り付けて被験者に違和感のない程度にまで小型化および軽量化でき、また低価格で作製できる目途が立った。なお、長期間の安全性や耐久性は障害者が長期間試験的に使用して再度確認する必要がある。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。小型制御装置を製作し、遊脚時に膝関節の屈曲が見られ、歩行の対象性が改善されているので、期待した成果を達成することができた。on-off制御の微調整に手間取ったとの報告があるが、このことは装着の仕方や足部の条件などでに敏感な制御であることを意味しており、さらなる安定な制御方式の実現が望まれる。今回実施できなかった耐久性試験、複数の患者による実用試験も必要であり、実用化の為にはコストダウンも望まれる。
精神遅滞を伴う難治性てんかんの発症を分子病態に基づき予防する福岡大学廣瀬伸一永年行ってきたてんかんの遺伝子研究を通じ、てんかんには発症の臨界期が存在し、その時期の分子病態に介入すれば、以降のてんかんの発症を完全に防止できる可能性を見出した。最近、精神遅滞を伴う難治性てんかん (Dravet症候群) のモデル動物の作出に成功した。本研究では、このDravet症候群の遺伝子異常と症状を有する遺伝子改変モデルマウスを用いて、てんかん発症の臨界期前に、分子病態を阻止する薬剤を投与し、神経科学的・神経薬理学的にDravet症候群の予防法を開発する。開発はてんかんの分子病態に基づくため、成功すればDravet症候群ばかりでなく、その他のてんかんで苦しむ数百万人の患者・家族への福音となる。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。難治性てんかんのモデル動物(マウス)を作出した。本研究では、モデル動物の作出のみの実施に留まっており、当初の目的であるループ利尿剤による予防効果についての検討が必要である。技術移転の為には、早急に技術移転の可能性について判断できるデータを示すことが望まれる。
機能性フラーレンをコンポジットした高分子膜の電気物性とこの特性を利用したグラム陰性菌検出センサへの応用北九州市立大学礒田隆聡フラーレンをコンポジットした高分子膜を感応部とするセンサ表面に、グラム陰性菌表面のLPS(リポポリ多糖)を認識するレセプター分子を集積させるため、フラーレン分子表面にLPSレセプター分子を結合するための「アタッチメント分子」を取り付けた新規材料開発を試みた。フラーレン分子表面に水酸基を導入し、その水酸基にシランカップリング反応でアミノアルキル基を導入した。アミン反応性の蛍光標識化剤と反応させたところ、350nmのUV励起によって蛍光発光が認められ、フラーレン分子表面にアミノアルキル基が効率よく導入されていることを確認した。本研究ではアタッチメント分子を取り付けたフラーレン分子の開発に成功した。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。目的の2つの化合物の内、1つを合成し、フラーレン表面にアミノアルキル基を配向させることができた。本研究では、アミノアルキル基の配向を蛍光特性で定性的に検出した段階で、電気特性の測定で置き換えられるかの検証や、実際にグラム陰性菌を使った研究が未実施なので検討していく必要である。臨床用のグラム陰性菌検出センサーへの実用化の為、低コスト化の検討も望まれる。
ランドマークの自動設定と協調追跡による心エコー動画像の高精度解析長崎大学喜安千弥心エコー動画像の自動解析において、着目点の周囲に自動的にランドマークを設定し、それらを協調的に追跡して解析精度を向上させる方法を開発した。局所的ウィンドウ間のマッチング度に基づいた追跡しやすさの評価法を開発し、評価が高い候補点の中から着目点の周囲にバランス良くランドマークを設定する方法を確立した。また、これらのランドマーク自身を高精度に追跡可能であることを確認した。さらに、追跡点を弾性要素で連結したモデルに基づき協調的に追跡を行うアルゴリズムを導入し、追跡精度の向上を図った。心臓の運動の周期性も考慮に入れたアルゴリズムとすることで安定的な精度向上を実現していきたい。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。心臓の動きの周期性を利用し、補助追跡点を自動的に設定し、心臓の動きの周期性を考慮したアルゴリズムにより、解析精度の向上の見通しを得た。本研究で、アルゴリズムの改善の為の方向性については具体的に示されているが、実用化に向けての克服すべき課題が明確にされていない。実用化に向けてのロードマップを作成することが望まれる。
生理活性物質の探索に利用可能な化合物生体センサー技術の開発長崎大学千葉卓哉本研究では、抗老化作用を持つ化合物を検出する生体センサー技術の開発を目指した。生体センサーの原理は分泌型アルカリフォスファターゼ遺伝子を組み込んだ、レポターアッセイシステムを応用し、哺乳類において寿命延長効果のある食餌カロリー制限に反応するセンサーの開発を目指した。本研究開発により、2系統の遺伝子組換えマウスがカロリー制限に応答し、生体センサーを活性化させることを明らかにした。さらに、抗老化作用を持つ可能性のある機能性食品を1種類同定した。今後さらに、in vitroおよびin vivoにおいて開発したセンサーを活性化させる化合物等の大規模なスクリーニングを実施し、新規物質を同定するなどして技術移転を目指す必要がある。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。マウスを用いて候補物質B投与でPGC-1遺伝子活性が1.5倍ほど上昇した結果、抗老化作用を持つ物質のスクリーニング系用生体センサーとして有効性を示せた。今後、スクリーニングした物質が有効かつ副作用がないことを調べる為に、代謝改善に関連する生体タンパクや遺伝子の解析パラメーターを増やす必要がある。種々の生体センサーを組み込んだトランスジェニックマウスの作出で、より有効な物質探索システムの構築が可能となると思われる。
胚性肝細胞の薬物代謝能発揮に必須な支持細胞の誘導方法の開発熊本大学横内裕二(目標)本計画では 胚性肝類洞壁細胞 (embryonic hepatic sinusoidal cell, EHSC)のin vitro誘導/検出系を用いて、EHSC誘導に必須なシグナル伝達経路同定を行う。具体的には、in vitro EHSC誘導/検出系に シグナル伝達経路の特異的阻害剤を添加し、シグナル伝達経路を同定する。またそのパテントを製薬・バイオ系企業に技術移転/販売することを目指す。(達成度) 本研究計画の第一段階である、in vitroにおけるEHSCの定量的誘導検出法のための組織単離法の開発が完了した。(今後の展開) 本手法を用いてEHSC誘導に必須なシグナル伝達径路の同定を行う予定である。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。肝中胚葉、及び胚性肝類洞壁細胞マーカー評価系の確立において、当初の候補のうちWT1ならびにBmp5について評価系を確立した。、今後、未達成であったWnt9aについての確立、及び計画していたシグナル伝達系の阻害剤を用いた分化制御系について検討する必要がある。又、提案されたin vitro EHSC誘導/検出系にシグナル伝達経路の特異的阻害剤を添加する方法以外の探索方法も、検討することが望まれる。
膵癌特異的に発現する修飾抗原をターゲットとした新規抗体療法の開発熊本大学桑原一彦申請者らはGANPTGマウスの作製によりこれまで検出できなかったタンパク質修飾、糖鎖領域などに特異的なモノクローナル抗体を産生することを可能とし、国際的にトップレベルの高親和性抗体産生技術を開発した。本研究開発では、有効な化学療法等が確立していない難治性癌の代表である膵癌に対して新しい分子標的を探索する研究を行った。特に膵癌細胞表面に特異的に発現する修飾抗原を標的にし、新規テクノロジーと膵癌臨床検体によるスクリーニングを組み合わせて膵癌に特異性の高いエピトープを探索し、治療用抗癌抗体の開発を目指した。本研究開発は12ヶ月で行うため、現時点では抗体樹立までに至っていないが、残りの研究期間での成果獲得を目指す。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。患者由来組織を抗原とした点において、すい臓癌特異的抗体が得られている可能性を示した。今後、特異性を確認し、すい臓癌特異的モノクロナル抗体であるかどうかの最終的な詰めを行う必要がある。血液中に分泌される分子であれば、すい臓癌スクリーニング検査薬への応用が期待でき、非分泌型の抗原を認識しているのであれば分子標的薬としての応用が期待できる。
MRI位相情報を用いた脳内アミロイドβ画像診断法の開発熊本大学米田哲也本研究により、従来の撮像技術に比べ位相を用いる方法は、約20分の1程度の撮像時間でも観測が報告されているアミロイドβ(AB)を観測可能にするに至り、今後の医療適用へ十分な期待を持つ結果となった。さらに、選択的に強調するために必要な位相値を調べたところ、鉄沈着に特有な位相を特定することがほぼできたと考えられる分布(Gaussian)を得ることができた。これにより当初予定していたABの効率的な検出を可能にする技術と位相選択は、臨床応用を十分に可能にする程度として達成できたと考えているが、今後は撮像sequenceをFLASHのみに限定したので、より多くのsequenceで撮像が可能かを検討し、さらに効率的に撮像を行うためのsequenceの変更も行いたい。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。アミロイドβによる老人班を MRI-PARDE 画像により検出可能であることを示した。本研究により、PETを使った結果との比較検討、治療介入に基づく変化の検証、再現性確認など、実用化に不可欠な性能を明確にする検討課題が明確となった。Aβのイメージングについては、欧米を中心に多くの研究者が成果を示しているので、今後の具体的な計画立案が望まれる。
細胞移植療法に向けた安全な細胞トラッキング技術の開発熊本大学國安明彦MRI装置を活用した細胞治療の効果判定に有用と期待される「安全かつ長期的な細胞トラッキング法」の開発を目的とし、13C標識アミノ酸または核酸による細胞の直接標識を行い、細胞移植マウスの13C撮像を小動物用7テスラMRI装置により行った。その結果、ケミカルシフトイメージング法により13Cスペクトルの検出と、移植細胞塊の画像化に成功した。画像取得に14時間の測定を要したものの、2次元像とはいえ13C撮像ができた意義は大きいと考える。 実用化にはさらなる標識手法と測定パラメータの最適化が必要であるが、本成果は、放射線被曝が全くない、安全な細胞トラッキング実現の第一歩といえる。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。これまで不可能と考えられていたMRIによる13Cイメージングが、高い積算回数での結果ではあるが達成できた。現状空間解像度に難点があり、機能的イメージングに活路を見出そうとしても、撮像時間の大幅な短縮が要請されるので検討する必要がある。本研究はMRIの撮像モードに関する内容であるが、実用化の為にはハード的な検討も含めた改善が望まれる。
ヘリコバクター・ピロリ病原因子DupA検出法の確立大分大学山岡吉生ピロリ菌は全世界人口の約半数が感染しており、萎縮性胃炎、消化性潰瘍、胃癌の原因となる。しかし、ピロリ菌感染者がすべて消化性潰瘍や胃癌になるというわけではなく、菌側の病原因子の有無が重要である。我々は、過去の研究で十二指腸潰瘍誘導因子DupAを発見した。DupA陽性ピロリ菌は特に十二指腸潰瘍を引き起こす可能性が高く、早めの除菌が必要である。本研究では、DupAの検出する方法及び検査キットの研究開発を試みた。まず、PCR法でDupA陽性ピロリ菌の検出法の確立に成功した。また、DupAタンパク質を特異的に検出する抗体の作成にも成功した。現在、血清や尿中の抗体検査のシステムの実用化に関する研究を続けている。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。ELISA法用の抗原発現系構築の再検討が必要とわかり、抗体だけはなく、遺伝子レベルでの発現と疾患寒冷性に関しての研究も必要であることを確認した。対象としている蛋白質と疾患との関連がまだ研究レベルである。今後、蛋白レベルもしくは遺伝子発現レベルのどちらが、より疾患発現や重症度などにと関連するかの評価も必要である。
L-band電磁ホーン型ESR装置を用いたてんかんモデルにおけるフリーラジカルの画像化大分大学上田徹生体内のフリーラジカルの分布領域を画像化することは、酸化ストレス由来の疾患の診断や創薬における酸化能評価において有用である。我々の研究チームでは生体試料のESR測定を行うため、L-band電磁ホーン型ESR装置やループギャップ共振器を開発してきた。本研究は、L-bandのマイクロ波対応の電磁ホーン型ESR装置やループギャップ共振器を使って、てんかんモデルにおける脳内のフリーラジカル反応をESRとして捉え、既にK-band電磁ホーン型ESRで確立させている3次元仕様の磁場勾配方式のESRイメージング装置の構築へと応用させる。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。予定通りL-band電磁ホーン型ESR装置、スピンプローブ剤、生体試料上下移動装置、拘束ホルダーの開発に成功した。ESRイメージングを最終目標としていたが、感度不足のために、そこまで到達できていない。ESR装置の感度を向上することが必要である。本研究の成果を元にした今後の研究計画、研究資金調達計画、特許化、論文発表の計画がなされており、実用化へのステップに期待ができる。

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