評価結果
 
評価結果

事後評価 : 【FS】探索タイプ 平成24年1月公開 - アグリ・バイオ分野 評価結果一覧

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課題名称 所属機関 研究責任者 研究開発の概要 事後評価所見
テトラクロロエチレンの完全分解を目指した環境調和型汚染処理システムの実用化開発室蘭工業大学チャンヨンチョル本研究開発は、新規に分離したPropionibacterium sp. HK-1株の分解能力を活用し、テトラクロロエチレン(PCE)を汚染土壌から完全分解できる低コスト、かつ安全なシステムを確立することである。現在、PCEを無害な物質にまで完全分解できる菌として米国のDehalococcoides ethenogensが報告されているが、わが国では生態系への安全性の観点からその使用が懸念されている。申請者らはPCE汚染土壌の実用的な浄化方法として毒性の強い中間代謝産物を生成しない分解菌、HK-1株の実用化に向けた最適条件を見出、汚染土壌を浄化する実用化システムの構築について検証し、実用化の見通しを得た。当初目標とした成果が得られていないように見受けられる。今後、技術移転へつなげるには、今回得られた成果を基にして研究開発内容を再検討することが必要である。当初の計画通り研究を行い、テトラクロロエチレンの効果的な分解を行えるよう検討する必要がある。十分な成果が得られておらず、今後の研究開発計画についても具体性に欠いている。
寄生性ベクター構想に基づく新規害虫防除法の開発帯広畜産大学相内大吾アブラムシ類の天敵寄生蜂であるコレマンアブラバチの宿主間を渡り歩く宿主探索行動を活かし、アブラムシ類の昆虫寄生菌であるLecanicillium属菌を害虫へと運ぶベクターとして天敵寄生蜂を利用する「寄生性ベクター」という新たなコンセプトに基づいた害虫防除法確立の可能性を検証した。Lecanicillium属菌を保菌したコレマンアブラバチをワタアブラムシ個体群中に放飼したところ、寄生蜂単独放飼区に比べ強力にワタアブラムシの増殖を抑制し、コレマンアブラバチはLecanicillium属菌の寄生性ベクターとして機能することが明らかとなった。今後はコレマンアブラバチの羽化とLecanicillium属菌の伝播を長期的に繰り返す実圃場での試験を実施し、その防除効果を実証することで新規防除資材の開発への展開を目指す。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。寄生蜂と寄生菌の併用による、独創性のある害虫防除技術の有効性を立証した。圃場での有効性をさらに検証するとともに、実用性向上のための技術開発の推進が期待される。
耐熱性アルギン酸分解酵素の大量生産法および機能改良法の開発北海道大学井上晶本課題の目標は、申請者らが海洋好熱細菌に新規に見出し性状解析を行った耐熱性アルギン酸分解酵素(以後NitAlyと称する)の大量生産方法の確立とアミノ酸変異導入による酵素機能改良法の開発である。本成果により枯草菌による大量分泌発現が可能となり、収量も大腸菌を用いた場合と比較して約200倍に改善された。さらに、NitAlyをコードする遺伝子にランダム変異を導入し、38種類の変異型NitAlyについて酵素活性を調べた結果、15種類のものは天然型と同等あったが、他のものでは比活性や熱安定性が低下していた。このように当初の目標は概ね達成され、本技術を用いた網羅的な解析は、NitAlyの機能改変に有効な方法であると考えられた。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。当該の耐熱化酵素の生産性が約200倍向上するなどの具体的な成果が出ており、且つ国際特許出願も実施されている。実用化のためには更なる酵素生産性の向上が求められ、培養条件の最適化のみならず、組換え時点での検討も今後期待される。
タンパク質由来の生分解性凝集剤により食品加工廃水から回収した有機物の飼・肥料化北海道大学関秀司研究責任者が発明したタンパク質由来の生分解性凝集剤(エステル化タンパク質)の製造法について、これまで99%-メタノールを用いていたエステル化処理を60%-エタノールで行うことにより、簡便で安全な製造プロセスを開発する。従来の凝集剤を用いて食品加工排水から回収した有機性浮遊物は焼却・埋め立て処分にコストを要する産業廃棄物であるが、タンパク質を原料とする本凝集剤を用いて回収した有機性浮遊物は飼・肥料への有効利用が期待される。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。目標とするエステル化率と凝集助剤を見いだして排水処理液の目標清澄度を得たことは評価できる。今後は回収した製品を実際に利用する分野(飼料、肥料)における評価試験が期待される。
抗炎症機能を増強した魚肉由来ペプチドの開発北海道大学佐伯宏樹本申請の目標は、魚肉消化物の抗炎症機能におよぼす食品成分間反応の影響を明らかにするとともに、抗炎症機能を増強する基本技術の確立をめざすものである。本研究の結果、細胞系実験によって、魚肉タンパク質消化ペプチドの抗炎症作用が、食品成分間反応を施すことによって強化されることを明らかにできた。さらに動物実験によって、当該魚肉ペプチドのもつ増強された抗炎症機能が、経口投与によっても発揮されることを証明するとともに、抗炎症機能を増強する製造条件の一例を提示することができた。以上の結果から、当該目標を充分に達成できたと考える。今後は、抗炎症機能のメカニズム解明にあたるとともに、当該の抗炎症ペプチドを産業レベルで生産できる工程の確立と本素材の活用法を検討する。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。当初目標とおり、開発した抗炎症ペプチドが細胞実験および動物実験でも有意な抗炎症効果を発現している。今後は抗炎症作用がヒトに対しても発現されることを確認することが望まれる。
成長のメカニズムに着目した魚のストレス診断法の開発北海道大学清水宗敬本研究は、魚類のストレスの指標として有望であるが未同定の、28 kDa インスリン様成長因子結合蛋白(28K BP)について、サケ科魚類でタイプを同定することを目標とした。まず、精製品の部分アミノ酸配列から縮重プライマーを設計した。そしてPCR法により翻訳領域部分を含む28K BPのcDNAを初めてクローニングした。その配列はIGFBP-1に最も高い相同性を示した。一方、サケでは22K BPがIGFBP-1とされていたが、28K BPとともに遺伝子の重複により派生したものであることが分かった。両者はストレスホルモンであるコルチゾルにより誘導されたことから、ストレスの指標として有用であると考えられた。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。ストレスによるサケ成長遅延に着目し、対応して誘導・放出されるコルチゾルに比べて、反応の遅いインスリン様成長因子結合蛋白に着目して、その抽出と定量化を目指したことは評価できる。
深海底熱水活動域に棲息する共生微生物群が有する新規糖転移酵素群: 地球最大のレアバイオスフェアに眠る未開拓資源の網羅的開発北海道大学中川聡本研究の目的は、深海底熱水活動域に棲息する微生物の糖鎖関連遺伝子群を網羅的に取得することにある。現場に普遍的に優占する微生物のゲノム情報に基づき、糖鎖関連遺伝子群のクラスターを増幅するためのプライマーセットを設計した。中部沖縄トラフの深海底熱水活動域(水深約1,000m)において採取した試料から環境DNAを抽出し、糖鎖関連遺伝子群をターゲットとするロングPCRを行なった。予想されるサイズの増幅産物が得られたため、ディープシーケンシング解析するためのフラグメントライブラリーの作製(断片化しアダプターを付加する)を試みた。その段階において解析に必要なビーズが回収されず、予算の範囲内で考えられるあらゆる手段を尽くしたが、ライブラリーの作製に至らなかった。当初目標とした成果が得られていないように見受けられる。今後、技術移転へつなげるには、今回得られた成果を基にして研究開発内容を再検討することが必要である。糖鎖関連遺伝子群のPCRによる増幅までは成功した。今回研究目標に届かなかったが、ライブラリー作成に成功すれば新しい段階に進むと考えられる。
バイオマスを原料としたキシリトール発酵プロセスの開発と自動化北見工業大学堀内淳一本研究では、申請者らが開発したキシロース資化性酵母Candida magnoliaeを用いトウモロコシの芯(コーンコブ)を原料として、高収率でキシリトールを生産するバイオプロセス技術を更に進めるため、申請者らが知的所有権を有するバイオプロセスのファジィ制御技術を適用し、低コストな自動制御を実現することを目指した。 その結果、キシリトール発酵プロセスの呼吸速度計測機能(本申請導入設備)を備えたオンライン培養制御システムを構築し、ファジィ制御システムの構築を進めた。更にシステム構築の基盤となる酸素供給速度がキシリトール生産に与える影響について実験的検討を行い、ファジィ制御の適用による培養効率化の可能性を示した。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。菌体増殖に対して通気速度を変化させる方法が、キシリトール生産性を向上させるのに有効なことが分かったことは評価できる。更なる生産性上昇を実現して、実用化につながるような技術を確立していただきたい。
花きの強遮光育苗による端境期出荷地方独立行政法人青森県産業技術センター加藤直幹強遮光育苗が応用可能な品目を検索するため、長日性花き5品目を0%、60%、95%の遮光条件下で育苗後、ほ場に定植し、開花抑制効果と切り花品質を検討した。その結果、95%遮光区では全品目で開花が20~58日抑制され、対照品目(デルフィニウム・エラータム)とカンパニュラ・メジウムにおいては切り花品質が向上した。また人工光型ファイトトロンを用いて、上記と別な4品目を、上述の遮光条件下で育苗し、生育と抽苔抑制効果を検討した。その結果、宿根カスミソウとハイブリッドスターチスでは95%遮光区において抽苔を抑制し、ハイブリッドスターチスでは生育が対照区と同様であり、強遮光育苗に適応する可能性が示唆された。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。当初目標の開花遅延20日を達成し、安価な技術でニーズに合った生産性を制御できる可能性が示された。短日植物の花卉について適応ができるか、野菜についても応用できるか、今後多くの作物への応用が期待される。
LED波長を利用した宿根性花卉の工業的生産技術の開発~リンドウをモデルとして~(財)岩手生物工学研究センター高橋秀行本研究では、宿根性花卉の人為的な開花期制御を目指し、リンドウをモデルに越冬芽の萌芽期及び栄養成長を制御する技術開発を目標とした。LEDを用いた単色光照射により、越冬芽の萌芽が赤色光では促進され、遠赤色光では遅延することを見出した。本効果に品種間差は殆ど見られず、培養物においても同様の効果が観察された。さらに、赤色光を適度な光度で照射することにより、リンドウの栄養成長が促進されることを明らかにした。今後、LED照明の改善により、これまで不可能であった宿根性花卉の開花期を自在に調節する新たな栽培法の確立が期待できる。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。リンドウの冬至芽の萌芽・栄養成長の促進条件及び、抑制条件を見出したことは、技術移転につながる成果であると評価できる。詳細な試験が必要であるが、産学共同等の研究により達成される成果は、社会還元が期待できる。
地下水中の亜ヒ酸酸化のための無曝気型バイオリアクターの開発岩手大学伊藤歩本研究では、地下水中の亜ヒ酸酸化のための無曝気型バイオリアクターを開発するために、吊り下げ式のスポンジ担体への亜ヒ酸酸化細菌の固定化とその固定化細菌による模擬地下水中の亜ヒ酸の連続酸化について検討した。その結果、スポンジ担体に固定化した亜ヒ酸酸化細菌によって曝気による酸素供給が無くても模擬地下水中の亜ヒ酸を連続的に酸化することができ、当初の目標である滞留時間2時間以内での亜ヒ酸酸化率90%以上を達成することができた。今後は、さらに短い滞留時間(例えば数十分あるいは数分)での連続酸化やこのバイオリアクターとヒ酸の吸着装置の併用による地下水中のヒ素の経済的な除去システムの開発を検討する予定である。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。亜ヒ酸酸化細菌を固定化したバイオリアクターを用い、次亜塩素酸等の化学物質なしに亜ヒ酸を酸化できることが確認された。他種担体との比較など、追加データの取得・充実が望まれる。
沙漠化が進む中国東北部のNa型塩類土壌の土壌改良による植生回復技術岩手大学河合成直計画通り、砂漠化が進む、中国吉林省大安市郊外のNa型塩類土壌地帯にある、共同研究への協力農家の牧草地へ行き試験地を設定し、土壌改良資材や肥料と共にシオチガヤの種子を播種した。この時、羊草、トールフェスクなどその他の可能性がある牧草も合わせて播種した。また、現地において、その植生の異なる場所、例えば、シオチガヤ、葦、虎の尾草などの群生地や植生がないアルカリスポットと呼ばれる不毛地の土壌を採取し、その土壌の電気伝導度や土壌pHを測定した。その植生と土壌分析値との関連性を検討した。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。砂漠化が進んでいる中国東北部のアルカリ塩類土壌を改良するための植生回復技術は非常に有用である。本研究で新たに発見された虎の尾草と従来の対象植物であるシオチガヤを組み合わせた土壌改良技術を確立し、今後、無灌漑方式で実用化することが期待される。
菌床栽培キノコ用コードレス電気パルス刺激装置の開発岩手大学高木浩一本研究は、菌床栽培キノコ増産のためのコードレスで小型・安価な電源開発を行い、菌床栽培キノコなどを用いて、増産効果の検証を行うことを目的として、1)ピエゾ素子方式電源の開発、2)乾電池駆動スイッチング電源の開発、3)開発電源の菌床栽培でのキノコの増産効果の評価などを実施した。電源開発では、充電式乾電池(エネループ;SANYO)を用いた、60kV出力の電源を開発した。重量は4kg程度と、肩にかけて使用できる。その電源を用いて、菌床シイタケの収量の比較を行った結果、電気を加えることで約1.4倍に増加することや、収穫までの日数が短縮されるなどの成果を得た。また、植物の生育の改善などにも効果があることを確認した。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。当初目標としていた電気パルス刺激装置によるシイタケ増収に成功している。今後は企業との連携をより強化し、汎用化が可能な電源の開発を進めて、実用化可能な技術を確立することが求められる。
反芻家畜におけるタンパク質合成速度の簡易推定法の開発岩手大学佐野宏明家畜生産の第一義的目的は動物性タンパク質供給にあり、全身のタンパク質合成速度(WBPS)の解明が不可欠であるが、その測定は極めて難しい。反芻家畜では第一胃内微生物が飼料タンパク質や非タンパク態窒素を素材として微生物態タンパク質を合成する。微生物態タンパク質合成速度(MPS)は、尿中プリン誘導体排泄量から推定できるため、WBPSとの量的な関係を解明し、WBPSの簡易推定法の開発を目標とした。ヒツジを用いて3課題の実験を実施した。一部の結果にはMPSとWBPSとの間に有意な正の相関が認められたものの、飼料条件によっては相関が低かった。今後は飼料給与レベルを広範囲に設定し、これらの関係を追求する。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。尿中プリン誘導体の簡易測定法を確立した。東日本大震災のため、過去10年分サンプル分析は持ち越しとなったが、次ステップへの技術的課題は明確にされている。研究成果が実用化されれば、畜産業界に大きく寄与するものと思われる。
牛潜在性子宮内膜炎の迅速診断法の開発岩手大学大澤健司牛の潜在性子宮内膜炎をより迅速かつ簡便に診断できる検査手法を開発することを目的として、市販の尿検査用スティックを応用して子宮内膜スメア中の顆粒球エステラーゼ濃度を定性的に測定し、子宮内膜スメアにおける多形核白血球率(PMN%)との相関ならびに検査手法の適合性を調査した。その結果、顆粒球エステラーゼ濃度とPMN%との間のκ値には十分な一致度が認められ、尿検査用試験紙の顆粒球エステラーゼ比色検査が現場での牛の潜在性子宮内膜炎の即時診断に応用できる可能性が示唆された。今後、より一層感度および特異度が高い迅速診断法の開発、そしてウシ子宮内膜炎診断に特化した診断薬の開発などを検討する必要がある。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。当初計画した実験はすべて行われているが、測定法の感度の向上が不可欠である。今後の研究開発計画や研究開発ステップを十分に考慮されており、予測通り展開出来た場合は社会的貢献が期待できる。
サケ残滓の卵巣外皮を高度有効活用した水産増養殖技術の開発北里大学森山俊介本研究はイクラを採取した後に廃棄されている未利用資源であるサケの卵巣外皮に魚の成長を促進する機能性素材が存在する研究成果に基づいて、サケ卵巣外皮から魚類の成長促進に関与する成長促進因子を抽出して濃縮し、この画分をニジマスの肝臓片の培養液に添加すると、魚類の成長促進において重要な機能を担う肝臓のインスリン様成長因子の発現を濃度依存的に増加させることを明らかにした。さらに、成長促進因子画分を配合した機能性飼料を作成し、これを摂餌したニジマス稚魚の体重が通常飼料を摂餌した魚よりも著しく増加することを実証した。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。卵巣外皮由来成長促進因子の調製法を確立するとともに、促進因子含有飼料の開発に成功しており評価できる。地元水産加工会社等と連携を取りながら研究を進めており、養殖魚への実用化が期待される。
ファージ尾部状バクテリオシンによるオーダーメード型特異的殺菌剤作出技術開発東北大学金子淳本研究は、我々が発見したPectobacterium carotovorumが生産するファージ尾部状バクテリオシン(carotovoricin,以下Ctvと略す)の尾部繊維を改変することにより、その抗菌スペクトルを変化させるための基礎技術の確立を目標とした。本研究では数種のCtvについて尾部繊維遺伝子をPCRにより増幅し、それを発現ベクターに組みこみ、そのプラスミドで殺菌スペクトルの最も狭いCtvの生産菌を形質転換することにより、宿主域が変化したハイブリッドCtv生産系を確立した。さらに、目的の尾部繊維のみを持つCtvを生産させるため、生産系に用いるCtv生産株の改良に着手した。しかし、3月の震災で種々の菌株の保存に問題が生じたため、復旧後に出来るだけ速やかに生存を確認し、研究を再開する。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。増幅した部位についての抗菌活性が、定性的ではあるが計測されている点が評価できる。震災の影響もあり考慮する必要があるが、対象とする病原性細菌(感染症)やアッセイ系をさらに絞り込むことが期待される。
非生物由来複合材料を活用した受精卵培養デバイスの開発秋田県立大学伊藤一志本研究は、非生物由来複合材料を活用した受精卵培養デバイスの開発を目的とする。本研究において、受精卵の培養に有効かつ安全な培養デバイスを構築できれば、優良家畜の作出効率や不妊治療効率の改善につながることが期待される。今年度は、受精卵培養デバイスにおいて細胞培養基質となる複合材料の作製と複合材料での細胞培養を実施した。その結果、作製した複合材料は受精卵培養デバイスに適していることが確認された。また、事業期間中、細胞培養関連機器メーカより研究内容についての問い合わせがあり、現在研究交流を実施している。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。「受精卵培養デバイス」開発における基礎的な細胞増殖の評価を単層カーボンナノチューブ(SCNT)により確認している。CHO細胞で一定の評価を得ていることから、卵丘細胞や受精卵でもSCNTが十分に有効な複合材料である可能性が高く、さらなる検討が期待される。
稲いもち病用農薬カスガマイシンの発酵生産に未利用資源のセルロース系バイオマスを利用するための技術基盤の確立秋田県立大学小嶋郁夫稲わらや間伐材などのセルロース系バイオマス(CB)を原料に稲いもち病用農薬カスガマイシン(KSM)を工業発酵生産することを目的に以下の2通りで生産菌育種を行う。1天然分離のCB資化性放線菌にKSM生産菌のKSM生合成遺伝子群を導入し発現させる;2KSM生産菌にCB資化性菌由来のセルラーゼ遺伝子群を導入し発現させる。これまでに、1より得たCB資化性のKSM生産菌は、米ぬかを原料に目標値を凌ぐKSMを生産した。また、このCB資化性菌から2種のセルラーゼ遺伝子を分離した。今後は2をめざし、構築したセルラーゼ発現カセットをKSM生産菌に導入してCB資化性KSM生産菌を育種する。さらにCBを原料に、12の菌株によるKSM高生産条件を比較検討し、工業生産への転用をめざす。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。生産用放線菌株を育種し、米糠原料での発酵生産において目標を達成した。またセルラーゼ遺伝子群のクローニングにも成功している点は評価できる。発現プラスミドの構築という課題が解決されれば、企業化の期待が持てると評価される。
農作物に蓄積するカドミウムの量を低減するための技術基盤の確立秋田県立大学中村進一植物(農作物)の可食部分(葉・茎部分)に蓄積するカドミウム量を抑制するための土壌改良剤としてグルタチオンを用いることの可能性を水耕・土耕栽培実験によって検証した。今回の実験ではアブラナを供試作物として用いた。栽培土壌を用いて行ったポット試験でのアブラナの葉・茎部分に蓄積するカドミウム量に及ぼすグルタチオンの効果は、水耕栽培の実験によって得られたグルタチオンの効果より少ないものであった。今後は、土壌中におけるグルタチオンの持続性を検証し、水耕栽培時に得られた植物体の地上部へのカドミウムの移行と蓄積の抑制効果を再現できるグルタチオン施用方法を確立し、この技術の実用化に結び付けていきたい。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。カドミウムの地上部移行阻害の効果は、水耕栽培の場合に明瞭に確認されており評価できる。土耕栽培への応用、実用栽培技術への検討が今後期待される。
近赤外光を利用した貯蔵芋品質の非破壊計測技術の開発秋田県立大学陳介余貯蔵芋類などの原料・素材を用いた加熱加工・製造時に、芋中のアスパラギンと還元糖成分が加熱によりメイラード反応して発がん性のアクリルアミドが生成される。従って、還元糖などの高い芋を用いないために、現在では抜き取り検査による化学分析により判定しているが、煩雑な前処理と分析時間が長いという欠点がある。本研究では、迅速分析が可能である近赤外分光法を提案し、貯蔵ジャガイモの還元糖成分とアスパラギン等のアミノ酸成分の同時計測技術を開発し、オンラインで迅速に全数検査できるシステムの開発の足掛かりをつかむ。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。光ファイバープローブ改良と回帰分析法で近赤外スペクトルによるアミノ酸組成予測モデルを開発した点は高く評価できる。農業現場では、多数回計測法よりも時間の短い1回計測法の方が評価されると考えられるので、貯蔵施設や集荷場でも利用しやすい方法に改良していただきたい。
タンパク質結晶化技術の研究開発茨城工業高等専門学校若松孝創薬を目的とするタンパク質結晶の構造解析には、良質なタンパク質結晶の供給が必要であるが、そのためには、タンパク質の効率的な結晶化技術、及びその分析技術の確立が重要課題である。我々は、これまでに、タンパク質結晶化溶液状態を高感度に計測できる分析装置を試作し、一方、低電圧印加による結晶化促進技術を研究開発している。当探索研究では、低電圧印加によるタンパク質結晶化状態を分析するための結晶化溶液セルを開発した。今後、出願特許をベースに実用化に向けた装置の開発に発展させる。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。当初目標である透明導電膜電極を使用する装置の薄型小型化を達成している。なお蛋白質の適用範囲の拡大等について、さらに検討が望まれる。
熱ショックを利用した野菜の品質制御技術の開発茨城大学佐藤達雄栽培中または収穫直後のホウレンソウ、コマツナ、カイワレダイコンに対して温湯浸漬による熱ショック処理を施し、可食部の成分改変の可能性について調査した。品目によって効果や最適処理条件は異なるが、有用成分の含量を制御することに成功した。本技術は野菜の有用成分の向上や、冷凍野菜の品質改善に応用可能であると考えられる。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。葉菜類に熱ショックを施すことにより、一時的にビタミンC含量や遊離アミノ酸含量が増加することを明らかにしており、今後の野菜品質の向上、加工処理の可能性を示すものである。基礎的な試験と並行して、可能性のある現場試験が期待される。
実用的なガラクト-N-ビオース製造法の開発独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所西本完本研究では実用的なガラクト-N-ビオース(GNB)を製造する方法として、GalNAcとスクロースからGNBを合成する複合酵素系および、より安価なGlcNAcをGalNAcへと変換する複合酵素系を組み合わせることで、ワンポットでGlcNAcとスクロースからGNBを生成する酵素系の開発を行った。本反応系では使用した酵素の基質選択性により、事前の予想通り、ラクト-N-ビオース(LNB)も同時に合成されてしまうという問題が生じたが、基質特異性が厳密な酵素を利用することでこの問題を克服し、最終的に目標とする反応収率には及ばなかったものの、GlcNAcとスクロースからGNBのみの合成が可能であることを実証した。したがって、反応収率を如何に向上させるかが、実用化へ向けた今後の課題である。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。本研究で明らかにした反応条件を最適化する必要がある。反応工程の確立、合成率及び回収率に関する基礎データを得た上で、企業化に向けた検討を行うことが望まれる。
質量分析による遺伝子高速検出システムの利用局面の拡大独立行政法人農業生物資源研究所梶原英之これまでに開発した方法はイネを材料として進めてきたため、他の材料については適用の可否が不明だった。その可否を試すことが本課題の目的である。実際に各種野菜類を栽培、それを材料としてまず春までに収穫可能なものについて実験を行った。これまで得られた各材料について試みたところ、大部分のものについてはそのままの手法で適用可能だった。しかし、特定の材料については適用できず、PCRによる遺伝子の増幅ができなかった。その原因と考えられる反応を阻害する目的で、適当な試薬を含む溶液で粗抽出したところPCRによる増幅が可能で、それに引き続く質量分析も行うことができた。期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。材料採取から質量スペクトルピーク検出まで1時間以内でほぼ全ての農作物に対して可能なことを確認している。また病原菌に対しても本法の有効性が示された点は大きな成果である。on-siteで分析できる機器および手法が開発できれば、技術移転、社会還元は大きく期待される。
性フェロモンを用いたリンゴの新害虫ヒメボクトウの被害低減技術千葉大学中牟田潔ヒメボクトウの合成性フェロモンを用いて、本種への交信かく乱の効果、およびリンゴの被害低減効果を明らかにすることを目標とする。合成性フェロモンの処理によりヒメボクトウの交信かく乱効果が確認できた。また、羽化した蛹殻の数で推定した被害程度は、2010年より2011年により少なくなった。交信かく乱効果による被害低減効果が確認できたので、今後性フェロモンの交信かく乱剤としての実用化に向けた取組を加速する。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。ヒメボクトウの被害は低減しており、予想を上回る効果が得られている。対象果樹園数を増やすことによって、より精度の高いデータが得られるものと考えられる。性フェロモンを利用した害虫防除は長い歴史があり、実効性の高い技術であることが確認されれば、今後技術移転は速やかに実現するものと考えられる。
キチン2糖の発酵的製造プロセスの開発静岡理工科大学齋藤明広放線菌の一種Streptomyces coelicolorのキチン2糖(N,N’-ジアセチルキトビオース)輸送系コンポーネント遺伝子dasAを破壊した変異株(dasA破壊株)は、親株よりもキチン分解能が高く、かつ、培養上澄みへのキチン2糖蓄積量が多かった。また、dasA破壊株では、培養上清に単糖(N-アセチルグルコサミン)はほとんど蓄積せず、3糖以上のオリゴ糖は検出されなかった。これらの結果から、dasA破壊株がキチン2糖の発酵的生産に適した性質をもつことが判った。dasA破壊株を用いたキチン2糖製造では、接種菌糸量と原料が重要であり、接種菌糸量を最適化した結果、コロイド状キチンを原料として最大48%の収率でキチン2糖が生産された。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。コロイダルキチンを用いた2糖生産の最適化を検討し、約50%の収率で2糖生産を可能にする条件を確立した点は評価できる。当初目的であるカニ殻からの2糖生産を産業ベースに乗せるには、安価な産業廃棄物を活用するための解決策を検証することが期待される。
細胞内物流制御による植物の免疫力向上と新規防疫剤の創出東京理科大学来須孝光本課題では、イネを中心とした広範な植物種に対して防疫剤になり得るリード化合物の特定を目指すと共に、植物培養細胞を利用した、新規植物防疫剤の効率的スクリーニング手法の確立を目標としている。研究の結果、複数の市販化合物が防疫剤のリード化合物として機能することが判明した。一方、培養細胞の活性酸素種(ROS)生成量を指標にした効率的且つ定量性の高いスクリーニング法の確立にも成功した。現在は、防疫剤スクリーニング法及び選抜化合物の防疫剤利用を骨格とする特許出願の準備(H23年度出願予定)と共に、選抜化合物の細胞内における新規作用機構の解明を進めている。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。新規防疫剤のスクリーニング法を確立すると共に、病原菌による耐病性検定の結果、2種類の化合物に効果を認めたことは評価できる。スクリーニング方法の効率化により、多くの防疫剤の検出とその同定が期待される。
PPRモチーフ機能を利用した人工RNA制限酵素の開発中央大学奥田賢治(目標)RNA結合アダプターのプロトタイプを開発するためにPPRユニットを人工的に組み合わせたPPR蛋白質が実際にそのデザインから予想されるRNA配列を特異的に認識することを示す。(達成度)同定または作製したPPRユニットを連結した組み換え蛋白質が、標的RNAに高い結合能を持ち、かつ特異的に結合することを明らかにした。(今後の展開)本手法を用いて作製した蛋白質が、任意のRNA配列に対応できるかどうかを検討する。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。当初目的である解析系の確立、特異性を持つ人工酵素の作成に成功している。本研究は学問的な価値の高い課題であるが、長期的な展望に立てば社会への還元も期待される。
窒素固定ラン藻のデンプン生産性を2倍に向上させる技術の開発中央大学得平茂樹微細藻類は植物に替わる新たなバイオマス資源として、近年注目を集めている。しかし、現存の微細藻類が作り出すバイオマスは生産コストが高く、実用化には至っていない。窒素固定ラン藻は空中窒素を利用できる唯一の微細藻類であり、窒素肥料を全く必要としないため培養コストの大幅な削減が可能である。本研究では、窒素固定ラン藻のデンプン生産性を向上させることで、バイオマス生産コストを低減させることを目指した。 本年度の目標は、デンプンの分解を抑制し、デンプン生産性を50%以上改良することである。デンプン分解に働く遺伝子群の発現を制御する転写因子NrrAの改変株を作製し、デンプンの分解を抑制した。その結果、細胞内デンプン量を1.5倍に増加させることに成功し、本年度の目標を達成することができた。 今後、デンプン生産量をさらに増加させる技術開発を継続し、本研究課題の最終目標である生産性の2倍以上の向上を実現させ、窒素固定ラン藻によるデンプン生産の実用化へと発展させていく。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。当初の目標とおり、デンプン蓄積量が1。5倍のアナベナ株を作ることに成功している。デンプン消費に関与する他の制御因子も見出おり、NrrA制御因子との相乗効果が期待できる。今後は、自然環境、特に海洋における有利性を明らかにすることが実用化に必要である。
魚と肉の食べごろや調理に適した肉質を簡単に見分ける技術の開発東京海洋大学濱田奈保子魚の鮮度を見分ける方法として、従来から大学研究者や魚を扱う専門事業者の間ではK値というものが一般的な指標として使われてきた。しかしこの方法は測定値を求める過程と判定に専門的な知見を要することが必須であり、エンドユーザー(調理人、家庭人)が簡単に生食、加熱等の判断材料を提供するには至っていない。本課題はこれらの課題を解決すべく、魚の鮮度をさらに分かりやすく指標化し、これを可視化することを目的とした。K値を可視化するためのキット作製を構成要素である3種類の酵素と発色試薬を凍結乾燥試薬し、安定化することにより行った。本キットを用いて実際の食材としてマアジを計測したところ、常法である機器分析法との間に良好な相関が得られ、キットの発色度から生食、要加熱等の判断が可能であった。今後、凍結乾燥試薬キットのさらなる反応時間の短縮が期待される。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。研究目的そのものは極めて具体的で社会的ニーズの高い課題である。他の魚種への応用やアルゴリズム開発が急がれる。
封入体形成防止発現ベクター・シリーズの開発とその実用化に向けた系統的検証東京農工大学黒田裕大腸菌を宿主に用いた発現系で、封入体を形成し易い組換え蛋白質にMBPなどの高溶解性蛋白質を融合することで、可溶化画分で発現させることがしばしば報告されている。しかし、MBPなど高分子量の融合蛋白質は除去を必要とするため目的蛋白質の最終収率はあまり向上せず、大腸菌以外の高価で汎用性が低い発現系に移行する場合が多い。本計画では、分子量が小さく切除を必要としない短いペプチド系タグ(特願2004-358021号)の付加が目的蛋白質の溶解性を著しく向上させることを踏まえて、封入体を形成する組換え蛋白質を可溶化画分で発現するための封入体形成防止発現ベクター・シリーズを開発し、実用化に向けての検証実験を行う。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。封入体形成防止発現ベクターシリーズ開発の観点より、当初目標をクリアーしていることが確かめられた。本ベクター系によるSS結合蛋白質の大腸菌生産に展望が開けており、抗体等の有用蛋白生産に役立てられる可能性が示唆された。
衛生管理が必要な材料表面へのバイオフィルム形成を防ぐ抗菌材料の創製東京農工大学寺田昭彦病原性や産業界で有害とされるバイオフィルムの形成を大幅に抑制できる抗菌性を有する高分子材料の創製とその効果の検証を行った。微生物の付着抑制に効果があると期待されるベタインをグラフトした高分子材料(シート)を作製した。カルボキシベタインを導入した高分子材料(DMGABAシート)により微生物付着の1.3倍の抑制効果が見られた。次に、この高分子材料にさらにバイオフィルム形成を促進する微生物間情報伝達物質を消失することが可能なアシラーゼを固定化した高分子材料を作製し、バイオフィルム形成の抑制効果を検証した。この結果、24時間後のバイオフィルムは酵素固定化した高分子材料では基の材料と比較して約14倍のバイオフィルム形成の削減効果が見られ、作製した高分子材料の抗菌効果を示すことができた。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。当該シート作成で微生物付着抑制効果を 確認し、酵素固定化において14倍のバイオフィルム形成削減効果例が得られる等、当初目標を上回る成果が得られている。これらのバイオフィルム形成抑制機能は事業化にもつながる有望な技術と評価される。
診断精度を向上させる末梢血好塩基球活性化マーカーに基づいたイヌのアレルギー診断法の開発東京農工大学大森啓太郎本研究開発では、ヒト好塩基球活性化マーカーに基づいてイヌ末梢血好塩基球活性化マーカーを探索し、実際にアレルギーを発症したイヌを用いてアレルギー診断法としての有用性を評価した。その結果、市販の抗ヒト好塩基球活性化マーカー抗体はイヌ好塩基球とは交差反応性を示さず、これらをイヌに応用することはできないことが明らかとなった。また、アレルギー罹患犬において末梢血好塩基球の数、IgE結合状態、IgE受容体発現量を評価したが、健常犬と有意な差は認められなかった。これらの結果から、本研究開発で評価したマーカーを指標とするイヌのアレルギー診断法の開発および実用化にはさらなる研究が必要であると考えられた。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。当初の計画内容の多くを実施し、改善点および今後の課題を明確にしており評価できる。課題が解決され、応用展開されれば、社会還元に繋がることが十分期待される。
フジツボ類幼生簡易検出システムの開発東京農工大学北野克和フジツボ類キプリス幼生に特異的に作用し、他プランクトン存在下でのキプリス幼生の簡易検出を可能とする色素プローブの開発を行った。その結果、アントラキノン骨格を有する青色プローブを用いた場合に、他のプランクトン存在下においても、色素プローブを作用後、プランクトンネットによるろ過、水洗を行うことによって、キプリス幼生のみが青色に着色され容易に観察を行えることを確認した。今後、良好な結果を示した青色色素プローブ化合物について、色素部分以外のアルキル差部分の構造変換を行い、水溶性、分子の大きさ等を詳細に検討するとともに、画像解析の方法を確立することによって、フジツボ類幼生の簡易検出システムが開発されることが期待される。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。多数の可視光プローブ化合物を合成し、青色系プローブ化合物によって、フジツボキプリス幼生を特異的に染色できることが明らかにされた。水溶性向上策検討において、取込みが単純拡散であれば逆に取込み速度の低下に繋がる可能性があるので、実用化にあたっての考慮が望まれる。
黄麹菌遺伝子発現プロファイル解析に基づく交配不全性解決東京農工大学有江力黄麹菌の交配を成功に導くために、本研究では黄麹菌の交配に適した環境条件を効率的に選択することを目標としている。交配至適条件を科学的根拠に基づいて探索することは困難であり、既往の研究では手当たり次第条件を設定し、交配を試みる手法がとられてきているが、交配が観察されたことのない菌でのこのようなアプローチは効率が極端に悪いと考えられる。そこで本研究では、ゲノム情報と遺伝子発現に基づいて、効率的に黄麹菌の交配至適条件を探索することを目標としている。 そのため、具体的には(1)黄麹菌ゲノムデータベースにおける交配関連遺伝子の探索と同定(2)黄麹菌における交配関連遺伝子の発現解析(3)遺伝子発現プロファイル解析による交配至適条件の選抜(4)交配好適条件でのパートナー株の掛け合わせ(5)交配進行状況のモニタリングの各項目を実施することを目指している。これまでに、(1)を完了、(2)-(5)を実施中、2011年度に(2)-(5)を完了させる予定である。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。黄麹菌ゲノム解析と子嚢菌交配メカニズムに関する知見を組み合わせて研究を進め、黄麹菌に完全世代形成を行わせることのできる可能性を示したことは、高く評価できる。時間的制約があったが、今後も計画通りの研究が継続されることにより、交配による育種技術の産業界への提供が大いに期待される。
環境調和型農業を実現するインドセンダン(ニーム)由来害虫防除剤の低コスト製造法の確立と天敵昆虫との組み合わせ利用法の開発東京農工大学濱周吾本研究では「ニーム由来防除剤の生物検定による影響評価法の確立」、「ニーム由来防除剤の安定性改善技術の検討」および「ニーム防除剤が天敵に及ぼす影響の評価」を目的とした実験を行った。その結果、チョウ目の幼虫を供試昆虫としてニーム防除剤の致死様態を用いた生物検定法を確立した。また、ニームオイル乳化剤の安定性について、保護剤の添加による紫外線に対する安定性を評価した。天敵におよぼす影響として、ニーム防除剤の寄生蜂に及ぼす影響を明らかにした。本研究期間で生物検定法を確立した点が最も重要であり、今後事業化を進める上で核となる成果を得た。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。当初目標である米糠麹エタノール抽出物には、保存性および散布後残効性を改善する作用があることが実証された。生物検定法の確立は本研究における重要なポイントであり、今後は早急な安全性確認が望まれる。
酵母と乳酸菌の複合バイオフィルムを利用した無殺菌エタノール発酵日本大学森永康本課題では、乳酸菌と酵母が形成する複合バイオフィルム(以下複合BF)を利用したエタノール連続発酵法の開発を目指した。新規乳酸菌を酵母と共存させて固体表面に形成させた複合BFを利用した小型バイオリアクターを開発し、エタノール発酵を行った結果、少なくとも10日間にわたって安定的連続発酵が可能で、酵母の単独培養系に比べ原料糖のエタノールへの変換率は同等で、発酵成績の安定性が高いという優位性が確認された。また、今後リアクターの改良によって長期連続発酵が可能なことが示めされた。加えて、乳酸菌の共存でモデル汚染菌(大腸菌、枯草菌)を排除可能なことが確認され、無殺菌連続発酵の可能性がみいだされた。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。バクテリオシン産生の乳酸菌発見や、pH低減による雑菌抑制のプロトコールを完成すると共に、アルコール連続発酵(10日)を達成しており高く評価できる。本技術によるバイオエタノール生産の分散化によって、地場産業育成と高付加価値産物生産による流通コスト削減が期待される。
DNAマーカーを用いた病害抵抗性個体判別技術の開発新潟大学岡崎桂一キャベツなどの生産現場で問題となっている根こぶ病および萎黄病に対して抵抗性を示す個体を選抜するDNAマーカーを開発した。このDNAマーカーを使うと煩雑な病害接種検定をせずとも、DNA検査で植物体が病害抵抗性遺伝子を持つかどうか判定できるほか、複数ある病害抵抗性遺伝子を従来法に比べ極めて効率よく1品種へ集積できる。萎黄病には、1遺伝子(Foc-Bo1)、根こぶ病においてはPb-Anju1~4 、Pb-GC1の5つの遺伝子のDNAマーカーを開発した。これらの遺伝子を保持する個体は日本各地から収集したいろいろなレースに対して強抵抗性を示した。本研究で開発した抵抗性遺伝子のDNA検定法は、抵抗性品種開発の非常に有効な手法である。期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。根こぶ病と萎黄病の抵抗性遺伝子のDNAマーカーを用いて病害抵抗性の個体を識別できることを実証しており、高く評価できる。今後の技術移転による成果が大いに期待される。
低炭素型社会に向けた組換え大腸菌による糖からの芳香族化合物前駆体の高発酵生産新潟薬科大学高久洋暁2-デオキシ-シロ-イノソース(DOI)は、炭素六員環構造を持つ芳香族化合物前駆体であり、医薬・農薬、酸化抑制剤等の化成品合成のための重要な中間原料である。これまで組換え大腸菌を利用し、60時間でグルコースからDOIを変換効率100%で得ていたが、本研究で培地条件の検討を行った結果、DOI発酵生産時間を40時間まで短縮化することに成功した。さらに高活性型DOI合成酵素の取得にも成功し、今後、これまでの組換え大腸菌にこの高活性型DOI合成酵素を利用することにより、さらなるDOI発酵生産時間の短縮化が可能であると考えられる。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。目標物質の発酵生産時間を、従来の60時間から40時間に短縮した点は評価できる。スクリーニング系基盤は確立できており、組換え大腸菌による発酵生産時間のさらなる短縮に期待が持てる。
ギョウジャニンニク周年出荷に関する研究の実用化の可能性探索石川県立大学鈴木正一ギョウジャニンニクの季節外出荷技術を確立するために、以下の目標を設定した。1.研究室レベルだが、鱗茎数20個で確認完了しているので、スケールアップ(鱗茎数を500個程度)した場合の問題点を明らかにする。2.鱗茎の低温貯蔵に関する温度の管理状態を検討し、温度管理精度を向上する。3.コストダウンを考慮し、籾殻等を利用した低温恒温状態を確認する。4.上記の条件で、80%以上が生育すること目指す。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。保存条件などについてデータが得られるとともに、農業廃材である籾殻の有効性が確認されており、評価できる。今後の課題に述べられているように、さらなる最適条件の確立が期待される。
ナラ枯れによる森林衰退の早期観測手法の開発石川工業高等専門学校小村良太郎本研究課題では、森林衰退のケーススタディとしてナラ枯れの早期の被害判定を行う。本研究では、ナラ枯れによる森林衰退被害の早期判定を行うために、被害を発生させる媒介昆虫が活発に活動する6-8月頃に発生する潜在的な被害の進行度合を樹木の分光スペクトル特性から判定することを目標とする。本研究では試験地にナラ類の樹木に害虫の接種量を調整して接種し、健全な樹木、被害を受けたが生存している樹木、被害を受け枯れた樹木、の3種類の被害モデルを人工的に発生させこれまでの研究の観測における問題点の解決し、各モデルの分光スペクトル特徴を観測し、早期の被害判定を行う。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。分光器を用いて、ナラ枯れの初期状態を検出できることが半定量的に検証されている。森林保護という公共的、広域的な技術開発であり、この研究を一つの足場として、他の行政・研究機関との連携を深めてきるだけ早期の実用化が期待される。
有機リン系薬剤に有効なスマートケミカルマイクロセンサーの開発福井工業高等専門学校高山勝己有機リン加水分解酵素(OPH)酵母細胞表層発現体を認識素子とするμ-TAS 化に向けた有機リン化合物検知システムを構築し、その特性・性能評価(検量線作成、検出限界、耐久性や再現性など)を行った。また、アンペロメトリック検出系を採用する場合に有用となるニトロレダクターゼ表層発現体創製のためプラスミド作成を行った。研究の達成度は30%程度であり、次年度も研究を継続する必要がある。豊橋技術科学大学電気・電子工学系の澤田和明教授らが開発したスマートバイオケミカルマイクロチップを応用することで、最終的に、前処理・検出工程の全てを含める分析所要時間を30分程度までとし、検出限界0.1 - 0.01 ppmを達成目標にしている。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。検出器の内、有望なアンペロメトリック式センシングシステムを開発しており評価できる。センシング精度や安定度など、計測器としての評価が今後期待される。
マンガンペルオキシダーゼ固定化製剤の開発福井大学藤原伸哉本研究の目的は、染色工場で問題となる染料廃水処理にマンガンペルオキシダーゼを適用するため、新規の固定化製剤を開発することである。「固定化担体の評価・決定」では、固定化率50%以上、活性維持率50%以上の条件を満たす固定化担体を探索したところ、固定化率100%を示す担体が見つかった。さらに、固定化製剤を試作したところ、少なくとも5回繰り返して染料溶液の脱色が可能であった。「誘導・阻害物質の探索」では、様々な有機酸が酵素反応を促進することが明らかとなった。今後、本研究成果をもとに、新規のマンガンペルオキシダーゼ固定化製剤を開発することで、マンガンペルオキシダーゼによる廃水処理の実用化を目指す。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。固定化率や誘導・阻害物質の探索については概ね目標を達成できている。今後はコスト面での検討を並行して行い、さらに土壌浄化技術にまで発展させていくことが期待される。
固形性高級脂肪酸を添加した脱窒素用土壌処理システムの開発信州大学松本明人地下水の硝酸性窒素汚染防止対策のため、生活排水処理水中に含まれる硝酸性窒素(以下、NO3-Nと略記)を固形性高級脂肪酸であるラウリン酸を局所的に充填した土壌カラムを用い、50mgN/LのNO3-N溶液を上向流で負荷し、処理をおこなった。その結果、土壌の空隙容積に対する滞留時間が0.71日の場合、全窒素(以下、T-Nと略記)除去率は95%と目標値(90%以上)を達成したものの、流出有機炭素(以下、TOCと略記)濃度は14mgC/Lと、目標値(10mgC/L以下)に届かった。従来法に較べ、T-N除去率(滞留時間 0.73日のとき、およそ40%)、流出TOC濃度(滞留時間 0.73日のとき、TOC濃度25mgC/L)とも改善されたが、TOCの目標値達成には更なる検討が必要である。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。提案プロセスが基本的に正しいことが証明されており、評価できる。カラムの形状、スケールが性能に与える影響が大きいと思われるので、実用化に向けて一層の工夫が期待される。
癌転移マーカーFABPを標的にした機能性食品創製の基盤研究信州大学藤井博これまでに、ブドウ残渣抽出物中に転移原因遺伝子 (FABP) の発現を顕著に抑制する活性があることを見出しているため, 粗抽出画分を種々のクロマトグラフィー(XAD, Sephadex LH-20など)で精製し、活性成分によるFABP遺伝子抑制活性が、現在の60%から約95%になるまで、活性分子の構造を決定することを目標にした。その結果、約80%抑制活性を有する画分を得ることができた。本画分の質量分析の結果、エピカテキンのオリゴマーなどが含まれることがわかったが、活性分子の構造決定には至っていない。今後、更に精製し、構造・活性相関の解析によって、機能性食品創製や癌治療のための医薬品開発の基礎データを集積する。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。ぶどう残渣抽出物からの有効活用という点で、地元産業との特徴を生かした研究である。今後の研究をぶどう残渣に含まれる物質の同定に焦点を当てて、機能性食品の開発等に繋げることが期待される。
ポリフェノール成分を富化した機能性米粉の開発信州大学藤田智之穀類外皮成分を可食部に浸透移行させる高圧加工技術の実用化について検討した。コシヒカリでの知見を元に、うるち米のあきたこまち、モチ米および低アミロース米であるミルキークイーンの各玄米を用いて、加水、加温(40℃)、加圧(100MPa)下で24時間処理を行い、精米後、精白米中のポリフェノール成分を定量した。その結果、精白米中の総ポリフェノール量はコントロールに比べていずれも増加し、フェルラ酸量は1.6~3.0倍に増加することを確認した。また、処理温度を高くすることでその効果が高まることを明らかにした。製粉後の米粉では物性も変化しており、今後製パン性等への加工特性について検討を行う予定である。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。加水、加温処理法を比較し、穀類外皮成分を可食部に浸透移行させ、精白米中のGABAやフィチン酸等の機能性成分を増加させることを確認している。研究目標は達成されており、開発された新規技術の応用展開が望まれる。
葛の根廃棄繊維の機能性成分の活用方法の検討信州大学廣田満葛澱粉の製造廃棄物から得られる機能性成分6-geranyl-coumestrol (6-GC)は強力なチロシナーゼ阻害剤である。本研究では6-GCの精製効率の向上、安全性、生理活性の検討を行った。6-GCの精製方法については5回の操作で精製収率を53%まであげる精製法を開発した。マウスを用いた安全性評価では、50 mg/kgの経口投与でも全く毒性があらわれないこと、皮膚への塗布による刺激もないことを確認し、化粧品素材の候補として非常に有望である結果を得た。ヒト培養細胞を用いたメラニン合成阻害の検討では、6-GCが2.8 μmol/well で85%にまでメラニン産生を抑制することを認めた。機能性繊維としての利用を検討するため6-GCの抗カビ活性を検討したが、Aspergillus oryzae、A. awamoriに対しては阻害活性が認められなかった。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。葛の根からも目的成分精製法が、目標スペックで原理試作できており評価できる。また試験範囲では深刻な動物毒性は認められていない。当該方法論の堅牢性を担保するとともに、品質保証の指標検討を進めることが期待される。
小豆煮汁の骨粗鬆症予防食材への再資源化近畿大学伊藤智広本研究課題では、小豆加工時に副産物として発生する小豆煮汁の有効利用を目的として、骨粗鬆症予防素材への再資源化について検討を行った。小豆煮汁を逆相吸着樹脂DIAION HP-20で調製した小豆エキス(EtEx.40)は、骨芽細胞の分化促進、破骨細胞の分化抑制を示した。骨芽細胞の分化促進メカニズムとして、転写因子の発現や転写活性の活性化が考えられた。破骨細胞分化抑制メカニズムや各々の分化制御に係る活性成分の同定は現在解析中である。また、小豆の加工条件、産地を特定化することで、小豆エキスの品質を均衡化できることが示唆され、工業的レベルで小豆煮汁から骨粗鬆症予防食材を生産できる可能性が見出された。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。部分精製した小豆エキスが骨芽細胞の分化促進と破骨細胞の分化抑制を示したことは評価に値する。今後モデルマウス実験を実施し、小豆加工企業と実用化に向けた共同研究を進めることが期待される。
アロマターゼ阻害剤を用いて作出した性転換雄アユの実用性評価岐阜県河川環境研究所桑田知宣新たに開発した性転換技術を全雌アユ生産に応用するために、新技術で作出した性転換雄アユとその次世代の特性を調査した結果、この性転換雄アユからは通常雄と同じように機能的な精液が得られること、その精液を受精させた卵は通常卵と同様に発生し全て雌になること、その全雌アユからは性転換雄作出時に用いたアロマターゼ阻害剤が検出されないことを確認した。従来法では、全雌アユ種苗の生産時に専門技術を必要とする精巣培養が不可欠であったが、本事業成果により、新技術を活用すれば、精巣培養を行わなくても通常魚の人工授精と同じ方法で全雌アユ種苗を生産できること、生産された全雌アユは食品として安全であることが実証された。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。性転換雄アユの特性、次世代アユの特性、薬剤残留性について計画通りの研究を実施し、期待以上の成果が得られている。出来るだけ早期に本技術を確立すると共に、生産者への社会還元が期待される。
牛肉の脂質評価装置の開発岐阜県情報技術研究所田中等幸本研究は1可搬式の脂質評価装置の開発、2脂質分布と枝肉形質との相関分析、以上2テーマを目標とした。カメラと光源を含むドーム型筺体、光源コントローラおよび、制御PCによって構成される可搬式の脂質評価装置を試作した。装置の脂質推定精度を検証した結果、理化学的測定値との相関係数0.70推定誤差±2.45%の結果を得た。本装置を用いた計測によって、理化学測定値が同一の試料でも脂質割合の分布が異なることが明らかとなった。また、オレイン酸割合の分布から牛肉のおいしさに関係する多汁性や食感を推定できる可能性が示唆された。今後、装置の小型・軽量化と推定精度の向上を図ることによって、流通現場での利用や牛肉の質的向上のための測定ツールとしての利用が期待される。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。当初目標であるコンピュータビジョン技術を用いて、牛肉の脂質評価を行う手法の発展と、可搬式の計測装置が作成されている。牛肉の部分的脂質評価だけにとどまらず、脂質状態の面的、立体的な広がりの計測から、おいしさを評価する装置の開発が期待される。
DNAチップを用いた栽培管理の工程化に必要なバイオマーカーの探索岐阜大学小山博之作物は生育する環境で様々なストレスを受けるため、その能力を十分に発揮しているわけではない。作物の生育を簡便かつ正確にモニターする手法は、品質・収量の両面で農業の高度化をサポートする技術と考えられ、開発することの意味は大きい。この研究では、離れた部位の遺伝子発現を解析して、例えば根が受けているイオンストレスや栄養欠乏をセンシングする技術の開発を目指した。具体的には、菜種などの近縁種である、モデル植物シロイヌナズナに様々なストレスを与え、遺伝子発現を網羅的に解析する手法であるマイクロアレイと、生物情報学によるデータ解析を組み合わせることにより、植物体が置かれている状態を推定することが可能であることを見出した。今後は、低コストのDNAチップの製品化などを通じて、近縁の野菜類での実用化を目指すことが可能となった。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。土壌イオンストレスと養分欠乏等の環境ストレスに対するシロイズナズナの応答遺伝子の抽出に成功している。得られたバイオマーカーが実際に様々な品種によって再現性があり、実用的であるか等の検証が実用化に向けて今後必要となる。
カンキツ果実における機能性成分の高含有化技術の開発静岡大学加藤雅也ウンシュウミカンは、果実の成熟に伴いβ-クリプトキサンチンを多量に蓄積する。本研究では、β-クリプトキサンチン含量の少ない未成熟な果実(摘果ミカン)に、β-クリプトキサチンを高含有化させる技術を開発することを目的とし、その第一段階として、その高含有化メカニズムを解明することを目的として行った。収穫後の処理により、β-クリプトキサンチンが高含有化されたウンシュウミカンのフラベド(果皮部分)におけるカロテノイド関連遺伝子の発現を調査したところ、含量の増大に伴い関連遺伝子の発現が上昇し、さらに、その高いレベルが保持されていた。以上の結果から、β-クリプトキサンチンの高含有化には、カロテノイド関連遺伝子の発現上昇とその後の高い発現レベルの保持が重要であることが示唆された。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。βークリプトキサンチン含量に関連すると思われるカロテノイド関連遺伝子の発現を調査し、両者の間には相関が高いことを明らかにした。摘果した果実の有効利用という着眼点は評価できる。
ギョウチュウ卵のマクロ蛍光観察装置の開発浜松医科大学(現、豊橋技術科学大学)櫻井孝司寄生虫、特にヒト蟯虫(ギョウチュウ、Enterobius vermicularis)に対する罹患の判定には、検査用粘着フィルムにおける卵を顕微鏡で鑑別する手法が採用されている。従来法で卵の有無は形状から鑑別されてきたが、ギョウチュウ卵が有する蛍光特性を利用することで蛍光強度値からのより簡便な判定・鑑別が可能である。直径役3cmの被検査領域における卵の蛍光を高S/N比でかつ特異的に検出するためのマクロ蛍光観察装置を構築した。開発した光学仕様を、簡便で迅速な一時選別を可能とする方法または装置のコア装置として技術移転することで、検査時間の短縮化、自動化、省力化へ展開する。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。光源が代替されてはいるが、ほぼ当初の目標が達成されたと 評価される。今後の技術的目標が明確であるため、これからの研究開発ステップに期待が持てる。
黒麹菌発酵小豆(小豆麹)を利用した新規小豆発酵食品の開発愛知県産業技術研究所山本晃司小豆は、あん、赤飯、しる粉などに用途が限られている。主な理由は、小豆のデンプン粒子はタンパク質に強固に取り囲まれ、デンプンを微生物が利用することが困難であるため、発酵基質とならないことである。これまでに研究申請者らは、黒麹菌を用いて小豆を低酸素下で発酵(製麹)することで、胞子形成を抑えて小豆麹を調製できること、即ち、米や小麦と同様に小豆のデンプンを利用した発酵食品が製造できる可能性を見出した。本研究では、ペプチド生成やポリフェノールの機能性が強化される発酵条件を見い出し、風味・機能性を兼ね備えた新規小豆麹の調製法を確立した。さらに、小豆発酵ドリンクや小豆発酵酒などの新規食品の開発を行った。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。計画通りに研究が実施され、食品開発に利用可能な小豆麹の製造条件を確立した。他の健康機能性についても評価すると共に、黒麹菌小豆麹の特徴を活かした発酵食品の開発が期待される。
乳酸菌による食品洗浄水の再資源化愛知県産業技術研究所石川健一無洗米を製造する際に副生する洗浄水(米洗浄水)の減容化、及びその利用について検討を行った。米洗浄水はたんぱく質、脂質など米ぬか由来の有用成分が多く、高温貯蔵すると直ちに変敗菌が 107/ml に増殖し、これが不快臭生成の原因と考えられた。そこで、食に由来する 136 種類の乳酸菌を米洗浄水に接種し、乳酸生成量が多く、ホモ乳酸発酵を示し、風味を向上させる乳酸菌 8 種を選択した。これらの乳酸菌は米洗浄水でそのままで増殖が可能であり、米洗浄水が培養培地として利用できることが示唆された。さらに、これらの乳酸菌には、たんぱく質の低分子化や、ぬか床の速醸効果が確認された。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。米洗浄水を乳酸菌処理することにより、有用乳酸菌の集菌と上澄を静菌剤に利用できる可能性を示した点は評価できる。発酵液からの付加価値の高い製品開発の可能性についてさらに検討が望まれる。
イチゴ重要病害の感染を1時間で検出できるDNA診断技術の開発愛知県農業総合試験場黒柳悟LAMP法による診断技術を確立するため、イチゴから病原菌を検出した。最初に、イチゴから抽出した少量のDNAでも検出できるようにDNA増幅速度を増すLoopプライマーを添加してLAMPマーカーを改良した。このマーカーを用いて病原菌の検出に適した部位を特定し、さらに簡易に抽出したDNAによる検出を試みた。Loopプライマーの添加により検出時間を短縮することができた。検出部位は炭疽病菌が最外葉の葉柄基部、萎黄病菌は根が適していた。簡易抽出法において、炭疽病菌は市販のキット以外での検出はできなかったが、萎黄病菌は磨砕して蒸留水で煮沸するボイル法で検出できた。今後は、接種濃度の低い潜在感染イチゴからの検出を確実に行えるようにする。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。圃場での感染チェックが可能で、イチゴ炭疽病、萎黄病を予防できると同時に、栽培従事者の技術向上が見込める。より短時間での感染初期検出ができる様、LAMPマーカーの改良が期待される。
セルロース性バイオマスからイタコン酸を生産する糸状菌の育種中部大学金政真本研究の研究者らがイタコン酸生産糸状菌より単離したイタコン酸生合成遺伝子を、セルロース分解酵素生産糸状菌に導入して異種発現させることを目指した。まず、セルロース分解酵素生産糸状菌に本遺伝子を導入し、形質転換体を得た。次いで、形質転換体のうちイタコン酸を生産する株を、培養液のpH低下を指標に探索し、目的の株を得た。また同時に、本研究で用いる宿主として好ましいセルロース分解酵素の発現特性を有する糸状菌の育種にも成功した。しかし、培養時の炭素源の検討には至らなかった。今後、セルロース分解性の検討とイタコン酸生産性に優れた株の選抜を進め、植物性バイオマス資源の有価物化を目指す。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。CAD1遺伝子導入株を得て、pH低下を指標にイタコン酸生産が期待される株を取得できたことは評価できる。糖化工程は別の系で行った方が良い場合が多く、セルロースからの直接生産はそれほど重要なことではない。
難聴予防化合物の探索―加齢性難聴予防食品の開発に向けてー中部大学大神信孝【技術内容】 申請者は世界で初めて聴力制御遺伝子を発見した。マウスにおいて遺伝子改変技術によりその機能を低下させると、通常よりも約半年早いスピードで加齢性難聴を発症する。この新技術を用いて、加齢性難聴に予防効果のある候補化合物を迅速にスクリーニングする。【目的】 世界で約7億人に達する加齢性難聴患者は、有効なモデルマウスが存在しない為、未だその予防・治療薬はない。本研究では、「加齢性難聴に対して予防効果のある機能性飲料」の開発を目標として、上記の加齢性難聴を早期発症するモデルマウスを用いて、加齢性難聴予防化合物の迅速なスクリーニングを行う。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。フラボノイド経口連続投与により、副作用はほとんどなく難聴予防効果を確認できている。有効なモデルマウス系を有しているので、更に長期投与安全性を多角的に実証することが望まれる。
環境技術診断に利用する低コスト・簡易型脱窒細菌計測技術の開発豊橋技術科学大学山田剛史排水処理現場などにおいて、複合微生物群集中の脱窒細菌を簡易的・安価に計測するために、硝酸呼吸活性を評価可能な新規CTC (5-cyano-2,3-ditolyl-2-tetrazolium chloride)法を検出原理とする計測技術の開発を試みた。本研究では、脱窒細菌計測に用いるCTC濃度、測定時間、硝酸呼吸阻害剤の種類や濃度の検討を行った。検討したCTC反応条件および脱窒条件下において、1時間程度の反応 (測定) 時間で、数種の脱窒細菌からCTCフォルマザンの蛍光を得ることに成功した。今後、本研究で開発した手法が、排水処理系などの複合微生物群集中の脱窒細菌に適用可能かを評価する必要がある。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。脱窒細菌を用いて蛍光シグナルを得たことは評価できる。 現場での迅速な計測技術開発のため、蛍光シグナルが脱窒細菌に特異的に得られるか否かの検討が必要である。
活性酸素生成エリシターを活用した植物免疫誘導剤の開発名古屋大学川北一人本技術は、植物病原菌由来の活性酸素生成エリシターの構造決定、免疫誘導能の検証等により、植物の新規免疫誘導剤を開発することに関するものである。ジャガイモ疫病菌を原材料として活性物質の分離精製を進め、その構造をほぼ決定した。活性物質は、複数の植物種(ジャガイモ、タバコ、シロイヌナズナ)に対して活性酸素生成活性および抵抗反応誘導活性(過敏感細胞死誘導能)を示すという結果を得た。今後はこれまでに得られた複数の活性物質について、植物病原菌の感染に対する免疫誘導能を協調的効果も含めて検証することにより、免疫誘導剤としての有用性を明らかにする。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。検討物質が活性酸素生成エリシターとして働き、抵抗性反応を誘導することを実証した点は評価できる。課題としている活性物質の協同効果試験や耐病化評価試験を進めて、双子葉植物に有効な免疫誘導剤の開発が期待される。
海洋深層水を活用したサツキマス養殖技術開発三重県水産研究所宮本敦史海洋深層水を活用したサツキマス養殖技術を開発するため、飼育試験を行った。養鱒場で継代飼育されたスモルト系アマゴ516尾を1月上旬に海水馴致させ、生残した391尾(平均体重約86g)を5トン水槽4槽に分養し、海洋深層水を飼育水に用いて異なる給餌方法および飼料で飼育試験を開始した。飼育45日後の平均体重は93.8~101.9g、種苗導入時からの生残率は41.9%、分養後の生残率は48.0~60.2%であった。いずれの給餌方法および飼料も成長、生残率ともに期待された数値より低く、サツキマス養殖の実現には導入する種苗の選定方法や海水馴致後の飼育水管理等に配慮し、成長や生残率を向上させる必要があると考えられた。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。海洋深層水を活用した養殖技術開発のための飼育試験を行ったもので、概ね研究計画通り実施されている。本研究から得られた結果を是非有効に使用し、地域への還元につなげることが期待される。
トマトにおける天敵利用を安定化させる天敵バンカーの開発三重県農業研究所西野実本研究では、コナジラミ類の天敵寄生蜂を有効活用するためのバンカーの開発を実施した。バンカーに用いる代替寄主は通過できないが、天敵寄生蜂は通過可能な目合いのネットを利用することで天敵寄生蜂のみを施設内に供給することが可能となった。また、バンカーをネットで被覆しても天敵寄生蜂による防除効果は低下しないと考えられた。ただし、本研究では、栽培ほ場における防除効果の実証を行っていないため、防除効果についての検証は不十分と考えられる。今後は、栽培ほ場に当該バンカー設置して防除効果の実証を行うことが必要と思われる。また、バンカー植物等の維持管理を行うための技術開発も必要である。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。予備試験で決定したメッシュサイズのネットを用いることで、ハチによる天敵効果が認められている。技術移転面ではネットおよびシステム全体において、企業との協力が望まれる。システムが安価に確立されれば、国内野菜市場において、十分に受け入れられることが期待される。
魚類の免疫特性を利用した新規魚類ワクチンの開発三重大学一色正研究責任者は先に、変温動物である魚類の免疫機構が水温に強く影響されるという特性を利用することにより、魚類のウイルス性出血性敗血症(VHS)を効果的に予防できる新規魚類ワクチンの技術を考案した。本課題研究では本技術を移転し、その実用化の可能性を探索することを目標に検討した結果、1ワクチン効果の持続期間、2魚種によるワクチン効果の差異、3ワクチンの交差防御効果、および4ワクチン効果に関与する免疫因子が明らかとなった。今後は、本技術の実用性を向上させるため、本症のワクチンを投与するだけで複数の病気を予防できる多価ワクチンとしての可能性を検証する必要がある。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。当初設定した研究目標を全て完了し、ワクチンの実効性を確認している。養殖漁業において、ワクチン腹腔投与の手法が現実的かどうか課題が残る。商業化するにはワクチン投与法で、簡便・確実な手法の開発が期待される。
稲ワラ抽出成分の添加による新規ワラ納豆風納豆の商品開発三重大学稲垣穣稲ワラの熱水抽出液に納豆の食味を向上と保存期間を延長する効果を見いだしたが、そこにどの様な成分が含まれるか全く判っていなかった。そこで、抽出液に対して溶媒分配やHPLCによる分画を試み、GC/MS装置によって分析を行った。また、抽出液に含まれる有機酸を分析した。その結果、抽出液には非常に多くの成分が含まれることが判った。見いだされた成分の中から食品添加物として一般的な2つの成分を暫定的に取り上げ、それらを濾紙に染み込ませて発酵過程に加え、納豆を試作した。得られた納豆は、ワラ抽出物を使って作成した納豆には及ばないものの、遊離アミノ酸およびプロテアーゼ活性が通常の納豆よりも低いワラ納豆に似た特徴が僅かに認められた。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。目標有効成分を同定及び、当該物質を用いた試作納豆の改善ができるか、展開が望まれる。次ステップの研究開発の手法、発想を、従来と異なる観点から進めることも必要と思われる。
アクチン細胞骨格の重合調節によるイネの耐病化三重大学小林一成申請者の研究から、アクチン細胞骨格の脱重合が耐病性誘導のシグナルになることを見出し、この現象を応用すればイネを巧妙に耐病化させる技術に応用可能であると考えた。先行研究である平成21年度シーズ発掘試験において、阻害剤によるアクチン細胞骨格の脱重合によりイネに耐病性マーカー遺伝子発現が誘導されることを見出し、本法がイネに応用できる可能性を明らかにした。本法の技術移転の可能性を明確にするためには、アクチン脱重合因子を条件発現する形質転換イネを作製し、イネにいもち病菌抵抗性を誘導する方法を確立する必要がある。本課題では、先行研究を踏まえた上で、本法によりイネを耐病化するための基礎技術確立を目標とする。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。イネのいもち病に対する新規抵抗性システムの発見に基づき、そのメカニズムの解明と有効性を実証した応用性の高い研究といえる。実用化のためには、形質転換体作物としてのイネの諸形質をさらに評価することが望まれる。
コイ血液由来バイオ抗菌剤の開発三重大学青木恭彦研究責任者は、従来廃棄物と見られているコイ血液から抗菌作用を持つ糖タンパク質(グリコホリン)を調製した。従来使われている化学合成抗菌剤は、自然界では容易に分解せず残留性が常に問題になってきた。そのため環境に対する負荷が高い。そこで本抗菌剤を用いて環境に対する負荷が小さい抗菌剤として、まず水産養殖業の現場をモデルとして合成抗菌剤の代わりになりうるかどうかを検証した。実験1として代表的な魚病の病原菌に対するMICを測定し、さらに人工的に感染させたニジマスを用いてグリコホリン投与実験を行った。実験2としてウイルスに対する有効性を検討した。実験3としてグリコホリン結合カラムを養殖タンクに設置して、経時的に生菌数を測定して水質汚濁防止法 の基準である3,000個/cm3以下を達成することを目標として実験を行った。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。全体計画で示されたウィルスへの効果、養殖場での菌数低減等が一部不完全な結果に終わっている。実用化へ向けては、効果とコストの両面から検討する必要がある。
食品微生物機能を改善する大豆由来機能性ペプチドの開発京都工芸繊維大学井沢真吾本研究開発では、酵母に冷凍耐性を付与する機能性ペプチド、および中性脂質蓄積を抑制する機能性ペプチドを大豆ペプチドから単離・同定することに取り組んだ。当初、単一のペプチドの働きによる冷凍耐性の賦与および中性脂質蓄積抑制を想定していたが、ペプチドの分画を進める中で、それぞれの効果には複数のペプチドが協調的に作用することが必要であることが明らかとなった。そのため、本事業期間内で機能性ペプチドの同定を完了するにいたらなかった。一方、想定される機能性ペプチドを酵母細胞内に取り込む経路について新しい知見を得ることに成功した。出芽酵母は複数のペプチドトランスポーターを持つが、今回、これまで機能が不明であったある遺伝子がコードする膜タンパク質が大豆ペプチドの取り込みおよび冷凍耐性賦与と中性脂質蓄積抑制に重要であることを見出した。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。摂食可能天然機能性成分を利用した食品微生物機能の改変技術が可能であることが示唆されている。中性脂質蓄積抑制効果を持つペプチドが同定されれば、機能性ペプチドの開発等に貢献することが期待される。
肝機能の診断基準であるビリルビン測定に有用な新規酵素生産京都大学安藤晃規本研究では、正確性、再現性、簡便性に優れた酵素法によるビリルビン測定の基盤となる酵素ビリルビンデヒドロゲナーゼの大量調製を目的とした。ビリルビン測定に利用可能なビリルビンデヒドロゲナーゼを土壌由来の糸状菌Aspergillus ochraceus IB-3に見いだし、本酵素を活用した測定系がビリルビンの定量に有用であることを明らかにした。また、安定した酵素活性を示す培養条件を見いだし、本酵素の粗精製に成功したが、部分配列情報を得ることはできなかった。今後さらなる酵素精製の詳細な条件を検討し、ビリルビンデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を取得する必要がある。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。先ずは目的酵素精製条件の確立に全力で取り組んでもらいたい。本研究の成果は社会的意義が高く、課題のブレイクスルーが可能になれば、実用化への道筋がより明確になると期待される。
肉牛の瞳孔画像を用いた血中ビタミンA濃度の高速推定京都大学近藤直本研究では、カラーCCDと近赤外CCDを同一筐体に有する2板式カメラならびに白色および近赤外のLEDを用いて計測装置を試作した。実験を2011年7月から2011年11月に渡り、瞳孔を画像計測し、瞳孔の色、収縮速度、瞳孔面積比率、光反射強度の4つの計測項目データを解析した。その結果、それぞれの計測月での結果はばらつきが非常に大きく、相関も低いものであったが、牛個体のデータを追跡すると血中VA濃度と色および光反射強度との間には高い相関が見られた。一方で瞳孔面積を基にした収縮速度はばらつきが大きく、他の特徴量とは異なる結果となった。ただし、これらのデータは、血中VA濃度が50IU/dL程度以下という肥育後期の生育ステージの牛のみのデータであることより、肥育前期から計測し、個体ごとに計測する必要があると思われた。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。実地計測で運用を確認し、当初目標としていた計測データを収集していることは評価できる。技術移転をして畜産応用に至るには、さらに詳細なフィールドテストが必要である。
マウス体細胞核移植胚の発生促進技術の開発京都大学山田雅保マウス受精胚の体外培養で起こる2細胞期(胚性ゲノム活性化時期)発生停止現象を解除する活性を含む生理的成分によって、BDF1系、ICR系そしてC57BL系マウスの体細胞核移植(SCNT)胚の胚盤胞期への発生が促進され、さらにヒストン脱アセチル化酵素阻害剤処理を組み合わせることによってより一層促進されるだけではなく、発生する胚盤胞の胚質が改善されることを明らかにした。しかし、その条件で発生した胚盤胞の胚移植後の産子への発生について、そしてSCNT胚の発生促進因子を単離し同定することはできなかった。今回できなかった実験を含め、新たに見いだした成果を基に、クローン動物作出効率のより一層の向上を目指す研究を今後展開する。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。胚盤胞発生率の向上に繋がる処理方法が見い出されており評価できる。基礎研究の継続が必要であるが、今後の成果次第では研究開発への進展が期待できる。
酵素によるシュガーエステルの効率的生産法の開発京都大学小林敬酸触媒を用いて糖を糖アセタールへ変換し、さらに、酵素により糖アセタールに脂肪酸をエステル結合させる反応を連続的に行う合成装置を構築した。まず、酸触媒を用いて、糖を糖アセタールに高い効率で変換した。酸触媒を除去した後、糖アセタール溶液に脂肪酸を添加し、酵素反応器に通液し、エステル合成を実施した。これら、2つの工程を連続的に実施することで、糖から糖アセタールを経由して、糖アセタールエステルを合成できた。糖アセタールエステルは酸触媒により容易に脱アセタール化でき、目的とするシュガーエステルを得た。本成果は、シュガーエステルの効率的合成の実用化に有用であると考えられる。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。有機溶媒中での酵素反応に対して、基質の溶解性を高めるという本質的な方向の課題といえる。シュガーエステルの利用範囲は広いので、所期目標が達成できれば社会還元については期待できる。
ほ乳動物における革新的産み分け技術の開発京都大学南直治郎本研究では哺乳動物の産み分けを行う目的で、その一つの柱となる精子形成過程の細胞間架橋物質が通過しない仕組みを開発するとともに、目的の精子が受精できない仕組みを開発することを目的とした。細胞間架橋を通過しないDNA配列であるSmok1遺伝子の5'上流域と3'上流域のクローニングには成功したが、組換えマウスの作製には至らなかった。また、受精阻害因子を組み込んだ組換えマウスの作製には成功し、いくつかのマウスの系統を得ることができた。これらの系統のマウスは現在解析中であり、中に不妊の傾向を示すマウスが存在するため、現在さらに確認を行っている。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。細胞内架橋を通過しないDNA配列である2つの流域のクローニングに成功しているが、当該組み換えマウスの作成までには至っていない。本研究が今後進展した場合、その社会的還元、特に畜産業への貢献は大なるものが予想される。
てん茶(抹茶)の品質を向上させる「熟成」の客観的評価方法と管理技術の確立京都府農林水産技術センター 農林センター茶業研究所矢野早希子茶流通業界では、光線・酸素・温度・保存期間を調節することにより品質を向上するよう、製品の保存が行われている。本研究では、これまで未解明であった保存条件と「熟成」の関係を調査することによって、品質向上のための保存条件を解明中である。現在までに、保存条件として設定した水分・保存温度と、保存開始から早期に変化が起こると想定していた品質関連成分であるアスコルビン酸、DMSの残存率との間には、一定の傾向がみられている。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。予定通りの実験を終了しており、保存・熟成要因を実験データを根拠として示したことが評価される。官能評価による熟度との相関が高まれば、実用化は可能であると考えられる。
廃棄されているウシ初乳から精製した可溶性CD14分子を利用した、 経口免疫ワクチンアジュバントの開発京都府立大学井上亮経口ワクチンアジュバントの開発に成功畜産又はヒト乳児で経口免疫ワクチンの利用が期待されているが、経口で導入された抗原は皮下や筋肉に注射された抗原に比べ免疫原性が弱いという問題がある。本研究では、ウシ廃棄初乳から精製した可溶性CD14(bsCD14)を利用した経口免疫ワクチンアジュバントの開発を試みた。bsCD14を熱殺菌したSalmonella Typhimurium(ST)と共に経口免疫したマウスでは、PBSを投与した対照群、STを単独で経口免疫した群に比べ、血清中の抗ST抗体価が顕著に上昇すること、ST感染時の生存率が高くなることがわかった(p<0.05)。このことから、bsCD14が経口免疫ワクチンのアジュバントとして利用出来ることが証明された。今後は、畜産、特にブタへの利用を視野に入れた研究を展開する。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。マウスで一定の成果が得られており、ウシbsCD14が経口免疫ワクチン・アジュバントとして利用しうることが証明できた。畜産農家での生産性の向上、衛生面の改善等に役立つと考えられると共に、消費者への安全な食肉提供につながることが期待される。
経口摂取によって個体レベルで老化を抑制する食品の開発京都府立大学佐藤健司従来抗酸化等の試験にも基づき多くの食品にアンチエージング効果が期待されている。しかし、これらの成分の摂取によって個体レベルでの効果が認められた例はほとんどない。本研究では個体レベレでのアンチエージング効果を持つ食品の探索とその活性成分の同定を目的とした。老化促進マウスを用いた行動解析により経口摂取で老化を抑制する食品を見いだす事に成功した。さらにこの食品の水抽出物はショウジョウバエの寿命を有意に延長した。この抽出画分を分画したところ特定の画分にショウジョウバエの寿命延長効果が認められ、200倍以上の活性成分の濃縮に成功した。今後は、活性成分の同定を行い、最終的にはヒトで効果を確認する。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。実験計画にそって、半年の研究期間で一定の研究成果が得られている。当初の目標は達成されており、活性成分を同定できれば物質特許の申請も可能と判断される。
コロイドが拓く次世代型の遺伝子変異解析技術同志社大学橋本雅彦PCRやLDRのように温度サイクルを必要とする酵素反応をマイクロチャンネルなどの微小空間において実行するために、PLCで制御された小型温度サイクリングデバイスの開発に取り組んだ。このデバイスにより微小空間内の反応液温度を簡便かつ正確に制御することが可能となり、サブマイクロンオーダーの液滴を反応場としたPCRが達成された。また、微粒子ハンドリング技術を応用したLDRに基づく新規のDNA変異検出法を開発した。この手法を、正常型DNAの分子集団中に含まれる微量の変異型DNAの検出に適用したところ、含有率1%の変異型DNAを5分以内に検出することが達成された。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。エマルジョンを利用した簡便なシステムでヘテロ分子集団のPCR反応を実現することを目ざす本技術は、有用な技術といえる。分散したエマルジョンを安定に保持する技術開発が課題として残っているが、成功すれば、自動化の可能な変異解析への道が開ける。
偶蹄類動物に対して恐怖反応を誘発する革新的な忌避剤の開発(財)大阪バイオサイエンス研究所小早川高野生動物が田畑、植林地、道路・鉄道、住居、倉庫などに侵入する獣害は、増加傾向を示しているが、有効な対策技術は開発されていない。私たちは、これまでに匂い情報を脳へ伝達する嗅覚神経回路の一部によって、恐怖反応が先天的に制御されることを明らかにしてきた。先天的な恐怖反応を制御する嗅覚神経回路の活性に基づいて、これまでに知られていた天敵の分泌物由来の匂い分子に比較して、遙かに高い生理活性を持つ一連の人工物由来の匂い分子「恐怖臭」を発見した。本研究開発では、農地への被害額の大きい偶蹄類を対象にした忌避剤を理論的に開発するための基盤となる、1恐怖情動の定量マーカーの開発と、2嗅覚受容体遺伝子と「恐怖臭」との対応関係データーベース開発を進めた。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。調査物質が先天的な恐怖行動を誘発できるかどうかを判断できる可能性が高まった。具体的な忌避物質を解明できれば、技術移転を目指した産学共同の開発ステップにつながる可能性があると考えられる。
健康食品の抗腫瘍効果の妥当性を検証する動物試験の延命機序近畿大学助川寧抗腫瘍性をとなえる健康食品の効果の妥当性と食品の安全性を検証する動物試験受託ビジネスを行うことは企業ニーズがあると考えられる。この目的にかなうモデルとして、担癌マウスに対する治療実験(腫瘍が4。5mmを超えてから経口投与を開始するモデル)で延命効果を検討するモデルを考案した。このモデルの解決すべき課題として、再現性検討と、延命の機序の解析を進化させることの2点を検討した。再現性検討では2つの食品を用いて検討をおこない、再現性があると思われる傾向がみえている(実験継続中)。延命機序の解析の解析においては、DC/Mφ系の抑制性細胞の関与が示唆されている(実験継続中)。23年度研究でより研究を進展させる予定である。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。再現性試験からモデルの妥当性を支持する結果が得られおり、多くの抗腫瘍性食品の効果の検証に利用できる可能性が示唆された点は評価できる。今後は、動物試験受託ビジネスとしての社会還元が期待される。
微量な塩基性蛋白質を迅速に解析できる二次元電気泳動法の開発大阪医科大学吉田秀司一般に用いられている等電点二次元電気泳動法は、塩基性領域の蛋白質を十分に解析することができない。そこで、微量な塩基性蛋白質を迅速に解析することができる電気泳動法の開発を行った。その結果、全泳動時間を従来法の3日間から2日間に短縮すること、および必要な添加蛋白質の総量を従来法の約1/10(約30μg)にすることに成功した。しかし、この新しい方法で大腸菌に代表される細菌の蛋白質はきれいに分離できたが、ヒトやラットなどの高等真核生物の蛋白質に対しては分離の悪い蛋白質が複数存在した。これは細菌の蛋白質に比べて高等真核生物の蛋白質の可溶性が低く、本泳動法では可溶化剤(界面活性剤)を使用していないことが原因であると考えられる。今後、泳動中蛋白質の可溶度を上げる方法を模索する。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。電気泳動時間の3日から2日への短縮及び、解析に必要とする添加蛋白質量を大幅に減量することに成功しており評価できる。泳動中の蛋白質不溶化の問題が解決できれば、動物細胞中の微量塩基性蛋白質の分離精製に効果を発揮すると考えられる。
チャビコールフラグメントを基にした新規コラーゲン産生促進剤の開発大阪市立大学東秀紀タイショウガ由来のコラーゲン産生促進効果を示すACAの代謝産物であり、類似の活性を有するHPAの関連化合物として新たに7種の化合物を合成し、ヒト由来線維芽細胞に対するI型コラーゲン量を免疫染色法により評価した。その結果、全ての化合物について未処理の場合よりコラーゲン量は向上していたが、ACAやHPAより高活性な化合物を得ることはできなかった。そこでHPA自体の機能向上を試みた。HPAはACAと同様、難水溶性であるため、活性を維持しつつ、水に可溶なヒドロキシプロピル化β-シクロデキストリン(HPβ-CD)との複合体の作製を高速振動粉砕法により行った。その結果、HPβ-CDとほぼ1:1で、コラーゲン活性も有し、かつ水溶液中でも安定な水溶性複合体の作製に成功した。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。従来化合物以上のコラーゲン産生促進物質は見つからなかったが、製剤化では一定の進展があり評価できる。コラーゲン産生促進がどの程度皮膚への美容効果に結びつくのか、検討する必要がある。
高水素生産微生物の創製法の確立大阪府立大学荻野博康クリーンエネルギーである水素の持続可能な生産法の確立が望まれている。種々の嫌気性微生物を用いて水素生産を検討したところ、Enterobacter属細菌を用いた場合には、高価な還元剤を必要とせず、比較的高速に水素を連続生産することがわかった。また、必要な窒素源の濃度も低いため、発酵後の廃水処理の負担を軽減できる。また、プロトンを消費する代謝経路をノックアウトすると、水素への転化率を高めることが期待できる。そのため、Enterobacter属細菌のプロトンを消費する代謝経路の確認、プロトンを消費する代謝に関与する遺伝子の同定、および当該細菌の特定の遺伝子をノックアウトする手法を確立した。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。実用的な意味合いを持つEnterobacter属細菌を用いて、水素生産に係る代謝系の確認に目処をつけたのは評価できる。さらに水素生産のキーとなる反応を特定して、生産向上を計る検討の段階に到達することが望まれる。
ハイドロゲルに固定化した耐熱性酵母によるエタノール生産の高度化大阪府立大学古田雅一耐熱性を有する酵母IFO0482株の発酵力を最大限に生かすため、効率の良いエタノール生産を達成できるハイドロゲルの調製条件を明らかにすることを本研究の目的とした。放射線架橋によりハイドロゲル化可能なゼラチン、PEGと荷電性を調節するため二加えて荷電性ポリアミノ酸の組み合わせを検討した結果、酵母がゲル内に維持されている場合は高温においても十分な発酵力を維持している可能性が示唆された。今後は酵母の発酵力を最大限に維持したままでハイドロゲルに組み込むための吸着性の良いハイドロゲルの開発とエタノール発酵能の発現条件のさらなる最適化に向けてさらに研究を推進する予定である。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。高度ハイドロゲル作製へ向けて着実に検討を実施したことは、評価できる。詳細に今後の計画を立案し、研究開発ステップアップが期待される。
現場で出来る受胎率の高いガラス化保存牛胚の新規移植法の開発大阪府立大学高橋正弘ガラス化保存した体外受精卵をストロー内で希釈し、受胚牛に移植するダイレクト移植法の開発に取り組んだ。と場卵巣を用いて非共培養法により体外受精卵を作製した。7-8日目に胚盤胞期胚に発生した胚を用いた。ガラス化液は15%EGおよび15%DMSOを含む20%CS199液とした。胚をガラス化液とともにストロー内壁に付着させる手法により保存し、融解後にストロー内で1段階希釈を行う方法とした。融解胚は低酸素条件下で培養し生存性を確認した。シュークロース(0.5M, 1M)を含む希釈液によるストロー内での1段階希釈法は、クライオトップによるガラス化保存法の段階希釈による融解胚と同等の生存率であった。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。保存受精卵の融解法での操作性の簡便化は、生存率向上に繋がることが期待され評価できる。本方法の確立は、畜産現場での優良品種保存など社会還元性高い課題であるため、技術革新が期待される。
熱水リアクターを用いるアミノ酸自動分析用の高速タンパク質分解法大阪府立大学川村邦男タンパク質等のアミノ酸組成の分析は生化学等の基本プロトコルであるが、その前処理法は6M塩酸中で110℃で24時間処理するという面倒な古典的手法しかない。一方、我々が開発した熱水フローリアクターは400℃までの高温反応を数ミリ秒~200秒で実施できる。本課題では、本技術を用いて、様々なタンパク質やペプチドを構成アミノ酸に分解処理する条件を明らかにすることを目標とした。この結果、275℃で酸性条件下で30秒程度で、鎖長の短いペプチド類では完全分解する条件を見出し、基本的に本システムがタンパク質やペプチドのアミノ酸組成分析法の前処理技術としてきわめて有効であることを確認した。一方で、幾種類かのタンパク質では不完全にしか分解しない場合が認められ、分解条件のさらなる検討が必要であることを知った。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。短鎖ペプチド・タンパク質に関して、完全分解条件を見出し、組成分析法の前処理技術として有効と考えられる。熱水フローリアクター装置のコスト面や熱水によるペプチド分解機構のさらなる解明、また他技術との融合で実用上の課題解決を目指すことが望まれる。
ミヤコグサ毛状根を利用したAM菌胞子の増殖技術の開発大阪府立大学大門弘幸アーバスキュラー菌根(AM)菌の、の感染、菌糸伸長、胞子の形成、再感染の過程をミヤコグサ毛状根培養系で再現して、共生実験に利用できるAM菌胞子の効率的供給方法を提案することを目的とした。表面殺菌したGlomus intraradicesとGigaspora margaritaの胞子を毛状根に接種し、感染、内生菌糸の伸長、樹枝状体の形成、外生菌糸の伸長、培地中での胞子の再形成を誘導することができた。また、より効率的な感染のための毛状根の継代培養の期間と胞子接種位置を明らかにし、胞子形成率を高めることができた。一方、供試菌株は上記2種に限られ、他の菌種への応用についてはさらなる検討が必要である。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。表面殺菌した菌株胞子を毛状根に接種することにより、期待通りの実験成果を上げることができた。今回検討した菌以外の菌種についての検討やできるだけ多くの作物での実証が期待される。
野生の海洋生物に寄生する海洋微生物が生産する新規な生理活性物質の探索と医薬品開発研究神戸学院大学水品善之日本各地に棲息する野生の海洋生物(海藻・珊瑚・苔など)を無菌的に採集し、そこに寄生する海洋微生物(カビ・細菌など)を分離・純化・株化して、51種類を菌株化(ライブラリー化)した。そして、菌株化した海洋微生物を培養した代謝産物(菌株・培養液)からDNA合成酵素(DNAポリメラーゼ, pol)分子種選択的阻害活性を指標にして、pol阻害物質の単離・精製を行った。佐渡島沿岸の野生海藻に寄生するカビからpol阻害活性を有する3物質(うち新規物質2つ)を単離・精製、化学構造を決定した。葛西臨海公園の苔に寄生するカビから単離・精製した2つのpol阻害物質のうち1つは新規物質であった。これらにはヒトがん細胞増殖抑制活性やマウス耳抗炎症活性があったことから、医薬品開発が期待できる。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。菌株及び、有望化合物の単離を行い、初期目標は十分達成している。技術移転が可能な素材であることを十分に精査することが期待される。
医薬品ペプチドを果汁中に大量分泌・蓄積する形質転換トマトの開発神戸大学山形裕士メロンセリンプロテアーゼ・ククミシンが果実特異的に大量蓄積する分子機構を解明し、その機構を利用して果汁に医薬品ペプチドを蓄積するトマトの開発を目標とした。 まず、ククミシンの果実特異的発現を担うメロンの転写因子をククミシン遺伝子プロモーターへの結合解析、転写因子の発現部位と発現時期の解析などにより同定した。次に、トマトの形質転換実験により、ククミシンプロモーターとシグナルペプチドが果汁中への異種タンパク質の分泌・蓄積に有用であることを示した。しかし、異種タンパク質の発現量が少なかったので今後多数の形質転換株より高発現株を選抜する必要がある。また、ヒトインターフェロンα遺伝子を導入したトマトを作成した。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。提案されている実験については実行されており、研究は順当に行われている。今後の方向性は正しく、研究成果が予定通り得られた場合は、実用性の高い研究となりうる。
超小型水質バイオモニタリング装置に用いるためのハリタイヨウチュウの大量培養技術とカートリッジへの注入・保持・移送技術の開発神戸大学洲崎敏伸原生動物ハリタイヨウチュウを用いた水質モニタリング装置に用いるための、ハリタイヨウチュウの大量培養方法と、カートリッジへ装填する手法を検討した。加えて、ユーザーの手元にまで輸送するための方法を検討した。研究の具体的な内容としては、1)神戸大学において、ハリタイヨウチュウの品質安定大量培養系を確立した。そこ結果、培養液の組成・温度・餌の種類を検討することで、これまでの約10倍効率的で、品質の安定した培養法を確立した。2)岡山大学では、脱気装置・接続プラグ等を改良し、ハリタイヨウチュウの測定カートリッジへの充填法などを改良し、安全に運搬するための輸送容器の設計を行った。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。システムとして当初目標を達成し、完成度が高い。企業化の可能性が非常に高いので、本システムのコストパフォーマンスは十分か、今後検討の必要がある。
光合成生物の葉緑体形質転換技術による物質生産技術の開発近畿大学田茂井政宏本研究はユーグレナの葉緑体形質転換技術による物質生産技術の開発を目指して、1)ユーグレナ葉緑体ゲノムへの遺伝子導入部位の検討、2)タンパク質発現用プロモーターの検討、3)相同組換えを起こしやすいユーグレナ株の作出、について検討を行った。 ユーグレナ葉緑体形質転換用ベクターを4種類構築した。これらのベクターを用いて、マーカー遺伝子として薬剤耐性遺伝子と共にGFPを連結したベクターをユーグレナ細胞に導入した。抗生物質による選抜を行った後に、蛍光顕微鏡によりユーグレナ葉緑体でのGFP蛍光が認められる株を選抜したが、発現は一過的であったことから、現在は相同組換え効率の向上を目指した条件検討を行っている。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。15日間のGFPの発現を認め計画を進展させた点と、多面的な研究アプローチを行った点を高く評価する。バイオ燃料生産の原材料問題と生産性の視点から、今後の進展が大いに期待される課題である。
有用アミノ酸を高生産する酵母の育種と泡盛の高付加価値化への応用奈良先端科学技術大学院大学高木博史沖縄県の蒸留酒「泡盛」の酒質の差別化と製造工程の改良を目的に、プロリンやアルギニン等の有用アミノ酸を高生産する産業酵母(清酒、パン、バイオエタノール)を用いて泡盛の小仕込み試験を実施し、発酵特性の解析と香気成分の網羅的分析を行った。その結果、アミノ酸高生産株のエタノール耐性・生産性は親株に比べて有意な改善は見られなかったが、プロリン・アルギニン代謝関連酵素(Pro1・Mpr1)の発現が泡盛香気成分(4-VG、酢酸イソアミル、2-ノナノン等)の生成に影響を与えること、その影響は親株の種類により異なることが判明した。また、味認識装置を用いた分析から今回試製した泡盛は味(酸味、渋味刺激等)に有意な差異があることも明らかになった。さらに、実用泡盛酵母に突然変異処理を施し、プロリンやアルギニンを高生産する変異株を分離した。今後、得られた結果をもとにアミノ酸代謝に着目した育種戦略を最適化し、高香味性や耐久性を付与した泡盛酵母の開発をめざす。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。使用株によって泡盛風味に差が出ることを明らかにしているが、予想できるものである。泡盛酵母から、遺伝子操作を用いることなく、アミノ酸高生産株が育種された意義は評価できる。従来の泡盛と差別化された泡盛が製造できるかどうかを見極めることが、実用化に向けての第一歩と考えられる。
遺伝子組換えトラップ作物の創生によるネコブセンチュウ防除法の確立鳥取大学河野強ネコブセンチュウによる世界的な農作物被害は年間約8兆円にのぼる。最も有効な防除法である土壌燻蒸は、環境汚染・労働衛生上の観点から世界的に使用を削減・中止する方向である。本研究では、低コスト・軽労力に加え「安全で環境やさしい」ネコブセンチュウ防除法の開発を指向し、「植物農薬」の開発を行う。本研究ではネコブセンチュウのトマトに対する嗜好性を利用する。RNA干渉能(遺伝子特異的機能抑制)を付与したトマト(トラップ作物)を作出し、根に侵入したネコブセンチュウの増殖を阻害し、一網打尽にする。現在、RNA干渉能を付与した遺伝子組換えトマトの作出を終え、ネコブセンチュウを感染させている。最もRNA干渉能(センチュウ増殖抑制)の高い遺伝子組換えトマトをポット試験により選別し、圃場試験へ移行する予定である。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。RNA干渉を誘導するループ状2本鎖RNA を産生していることが推定され、目的とする遺伝子組換え体の作出に成功したと考えられる。圃場への展開が可能な段階まできており、今後の展開に期待したい。
水溶性シリカテインの開発鳥取大学清水克彦シリコンバイオミネラリゼーションに関わるタンパク質シリカテインは、シリコン材料の新規製造プロセス創出など産業上有用であると期待されているが、生体内で自己集合的にフィラメントを形成するように水溶性に乏しいため、産業利用に向けた研究開発がすすんでいない。本課題では構造解析によりシリカテインの不溶化要因を推定し、変異体を作製して不溶化要因の除去を確認することを目標とした。円偏光二色性解析とアミノ酸配列解析の結果、分子表面の疎水性が不溶化要因であると推定された。また、組換えシリカテインおよびその変異体を発現させることに成功した。今後は水溶性シリカテイン変異体作製技術を確立して産業利用に向けた研究開発を行うこととする。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。シリカテインの立体構造を推定できたことは評価できる。水溶性シリカテインをどのような用途に利用するかについて、具体的なイメージを持つことが望まれる。
HELF照明装置を利用した植物病害防除技術の検証島根大学上野誠本課題では、これまで得られた赤色蛍光灯照射による植物への抵抗性付与の特性を生かし、農薬などの環境負荷の軽減やコストを含めた農作業効率の向上をめざした病害防除システムの開発を最終的な目的としてキュウリ病害の防除をモデルとしたHEFL照射装置の効果を調査した。その結果、赤色蛍光灯照射時に防除できたキュウリ病害は、HEFL照射装置においても防除効果が確認された。さらにこれまで赤色蛍光灯照射では効果が見られなかった種類のキュウリ病害を防除できる波長を特定することができたことは大きな成果である。今後、効果が確認できた波長を組み合わせることにより幅広い病害に対応できる病害防除システムを開発できると考えられる。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。経費節減可能な形で、病害抑制技術の基礎を確立したことは評価できる。各病害に特異的に抑制効果のある照射光波長を特定している。企業化実現のためには、病害抑制のメカニズムの解明及び、農業現場での実証試験が期待される。
新光源による沖縄環境負荷軽減を目指した侵入害虫の新防除技術の開発岡山大学宮竹貴久イモゾウムシを特異的に誘引するLEDの紫外波長領域と光強度をスクリーニングする。1まず50cm立法の暗箱を設置し、対象害虫が移動可能な仕切りを作る。一方の暗箱に30個体を放飼し、もう一方にLEDを設置する。既存の緑色LED(550nm:高波長)の害虫誘引力は60%程度であるため、この数値を有意に上回る目標値としては80%以上のイモゾウムシを誘引する紫外LED素材を探索する。2探索できた紫外LEDをLED基盤スタンドに設置し、トラップ試作品とする。これを沖縄島において実際にイモゾウムシが多繁殖する沖縄県読谷村内のサツマイモ畑に10個程度設置し、従来の高波長LEDとの誘引力の違いを比較する。またこれまでに甲虫類では、LEDの特殊な反射光に特に強い誘引力を示すことがわかっているので、反射を利用した粘着シートを用いた野外誘引試験も同場所において実施する。既存のトラップより、有意に誘引力の強い紫外波長LED誘引素材が探索できれば、現地に設置するためのバッテリーの軽量化などについて、次の実用化段階の事業フェーズへの技術移転を検討する。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。緑色LEDよりも、UV-LEDのほうが、イモゾウムシ誘引率が高いことを明らかにした点は評価できる。目標としている成果が得られた場合には、社会還元に結びつくものと期待できる。
バイオディーゼル燃料廃液からの“夢の繊維”原料の製造 -植物油の完全資源化-岡山大学虎谷哲夫近年、植物油を原料としてバイオディーゼル燃料(BDF)が製造されるようになったが、副産物グリセロールの利活用が全世界的に大きな課題となっている。本研究では、このグリセロールから“夢の繊維”ポリトリメチレンテレフタレート原料であるトリメチレングリコール(TMG)を製造することで、植物油の完全資源化を目指す。具体的には、代謝工学的改変を施した菌体をBDF廃液に加えて培養することによりTMGに変換する。この変換の初発段階を触媒するビタミンB12依存酵素が反応中に不活性化され易いことが最大の問題であり、B12補酵素のリサイクルによる再活性化とメタボロソームの活用という独創的技術を駆使して解決することを企図した。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。アイデアの実現と、実際での混合物系での相違点をクリアにすることが期待される。企業化に向けた可能性は、今後の基礎研究成果によると判断される。
加工澱粉の製造効率を改善することができる新奇の粒径を持つ澱粉粒の開発岡山大学松島良これまでに澱粉粒の形状が野生型と異なるイネの変異系統を6系統 (ssg1-ssg6変異体) 単離し育成している。本研究ではこれらの変異体の澱粉を精製し、糊化特性ならびにアミロペクチンの鎖長分布という物理化学特性を測定した。これら物性は加工澱粉の製造効率に直接影響を及ぼす重要因子である。また、新奇物性を示す澱粉を開発することは、将来の澱粉育種に極めて重要である。本研究によりssg1, ssg2, ssg3変異体の澱粉は難糊化性を示し、ssg6変異体では易湖化性を示すことが分かった。また、ssg1, ssg2, ssg3変異体では、アミロペクチンの鎖長分布においても野生型とは異なる分布を示した。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。ssg変異体におけるデンプン粒の形状、粒径、糊化熱量、アミロペクチン構造等を、野生種と比較している。当該ssg遺伝子をどのように有効利用するかのか、明らかにすることが期待される。
核酸系抗生物質の飛躍的増産を目的としたrpoB遺伝子への多重変異導入効果の検討岡山大学田村隆近年、病原性ウィルスの世界的,地域的流行が頻発する状況が頻発している。現在、処方可能な抗生物質のほとんどはウイルスに無効であり、感染拡大が始まればそれを押さえ込むのは容易ではない。実は、ウィルスやがんなどにも強い薬効を示す一群の抗生物質群が存在する。これら核酸系抗生物質は、放線菌による生産量が極めて微量で、工業生産が困難という理由で活用されていない。本研究では、放線菌Streptomyces incarnatusが生産するシネフンギン、S.calvusが生産するヌクレオシジンの2つの核酸系抗生物質を指標として、その生産性を飛躍的に高めるrpoB (RNAポリメラーゼのβサブユニットをコードする遺伝子)への部位特異的変異効果を検討した。本研究開発により、従来のrpoB遺伝子改変法で提唱されている一カ所の点突然変異よりも多重変異効果がより飛躍的に増産効果をもたらすことを明らかにした。本研究の成果は岡山大学の発明委員会において本学から特許出願することが承認され、現在、弁理士と協議しながら出願準備を進めている。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。当該遺伝子多重変異を見出し、以前提唱されたメカニズムと異なる、新たな転写制御メカニズムが明らかになっている。技術移転に繋がる成果が得られており、従来生産性が低く利用されていなかった抗生物質についても、今後の実用化が期待される。
施設園芸用低コスト耐風ハウスを実現させる外側骨組み構造の開発広島県立総合技術研究所越智資泰目標:骨組みの耐荷重を明らかにし、外側骨組み構造を決定する。軒高を 1.8m、骨組みの奥行き方向の設置間隔(以下、奥行き間隔)を 4.5m に設定し、耐荷重から40m/秒の耐風性能を有する構造を明らかにする。 達成度:実地試験にて、骨組み構造の幅は 1.35m で、基礎は用いた2 種類ともに耐荷重が大きくなった。奥行き間隔が 4.5m のときの耐風性能は 40m/秒以上と算出された。また、室内試験にて、骨組み構造の地際部を固定し、筋交い資材としてΦ19mm 鉄パイプを用いた条件で測定すると、耐荷重は実地試験の 2 倍以上となった。以上から達成度は高い。 今後の展開:柱パイプの地際部の変位を抑える技術開発、基礎の引抜き耐力の向上を行った後に、ハウスを設置して耐風性能を確認し、施設園芸用低コスト耐風ハウスを開発する。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。新着想で設定した性能を持ち、且つ大幅な低コスト商品化に関する基礎資料を得ており評価できる。既に得られた成果で技術移転が可能であり、商品化されれば、コスト低減につながり、社会へ貢献できると期待される。
植物バイタリゼーション原因遺伝子VITA1を用いた作物増産技術の開発広島大学高橋美佐大気中の二酸化窒素は、植物の生長、代謝を全般的に活性化する(二酸化窒素の植物バイタリゼーション効果)。本研究は、この効果の原因遺伝子の1つであるVITA1遺伝子(シロイヌナズナ由来)をトマト品種マイクロトムにおいて過剰発現させ、果実収量、栽培期間および糖度に及ぼす効果について研究した。過剰発現体を育成、解析した。その結果、果実収量の増加、栽培期間の短縮について有意な結果が得られた。糖度については有意な結果は得られなかった。VITA1遺伝子過剰発現により、開花まで日数の短縮、個体当たりの花数の増加など花芽分化が促進され、果実収量の増加、収穫期間の短縮が惹起されるものと考えられる。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。果実収量と栽培期間は目標を達成しており、作物増産という観点からみて高く評価できる。他のトマト品種や他の植物でも同様の結果が得られれば、技術移転可能性は高まる。食用植物以外への展開を図っていくのもひとつの方法と期待される。
難消化性澱粉含量を制御した澱粉含有焼成食品の加工特性の検証広島大学川井清司水分含量の異なる様々なクッキー生地を調製し、焼成時の内部温度変化及び水分含量変化を測定することで、小麦澱粉の融解とクッキーの難消化性澱粉(RS)含量との関係について調べた。その結果、予め水分含量を低下させた生地の内部温度は小麦澱粉の融点に達しておらず、残存する結晶質アミロペクチンがクッキーのRS含量の増加に寄与することが示された。一方、様々な澱粉(米、小麦、とうもろこし、馬鈴薯)の融解特性(融点の水分含量依存性)及びRS含量を調べたところ、融解特性は殆ど同様の傾向を示したが、RS含量は大きく異なることが明らかとなった。以上より、クッキーのRS含量の変動要因を明らかにすること、また、クッキー以外の澱粉含有焼成食品への適用性を示すことができた。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。当初の目標とおり、技術移転に必要な基本的研究成果が得られている。食品素材として必要とされる食感、保存性、保型性等の特性をさらに明確にする必要がある。今後は地元と連携して企業とともに商品開発を目指す体制を構築していくことが望まれる。
シリカ結合タンパク質を用いた変性条件下でのタンパク質精製法広島大学池田丈我々はこれまでにシリカ・ガラス表面上に非常に強く結合するタンパク質『Si-tag』を発見し、Si-tagとシリカとの親和性を利用した低コストのアフィニティー精製法を開発した。本研究課題では、Si-tagが変性剤存在下でもシリカに結合できることを利用して、変性条件下での精製技術を確立することを目的とした。結合・解離条件を最適化することで、封入体として発現したSi-tag融合タンパク質を純度90%、収率92%で精製することに成功し、目標値を達成した。また、最適化した条件下においては宿主由来のタンパク質がほとんどシリカ表面に吸着しないことを利用して、遠心分離による封入体の回収のステップを省略し、封入体を含む菌体を直接変性剤で可溶化することで精製方法を大幅に簡略化することに成功した。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。アフィニティー精製に使用したタグは独創性が高く、かつ将来的な実用性も高いものと考えられる。目的蛋白質機能維持が達成され、低コスト大量生産が行えれば、広範囲な工業的応用に道が開けると期待される。
自律型アサリ漁業の実現のための干潟土壌改良材の開発広島大学中井智司激減したアサリ資源の自律的回復にはアサリに好適な環境を整備することが不可欠である。アサリの生活史において、消耗が最も著しい段階は浮遊幼生であり、浮遊幼生を速やかに着底させることが個体数増加への一歩となる。申請者らは、ある種の物質がアサリ浮遊幼生の着底を誘引することを明らかにするとともに、これらを添加した山砂を溶融させることで、アサリ浮遊幼生の優れた着底性を有する材料を作成できることを実証した。このような知見を基づき、本申請研究では、アサリ浮遊幼生を選択的・集中的に着底させる干潟土壌改良材を創出する。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。実験室レベルでは一定の成果が得られており、目標以上の着底性が得られる可能性も見いだしたことは評価できる。今後の研究の進展次第では、企業化の可能性が見いだせることが期待できる。
マハタのウイルス性神経壊死症(VNN)に対する経口ワクチンの開発広島大学中井敏博マハタのウイルス性神経壊死症(VNN)の予防対策として、これまでに不活化ウイルスを用いた注射ワクチンの有効性を明らかにした。本研究は、注射が困難な小型魚(稚魚)に対する経口ワクチンの開発を目的とした。ワクチンのみを添加した飼料の経口投与では免疫効果がほとんど認められなかったため、バクテリオファージおよび二種類の吸着剤(A、B)の同時投与を試みた結果、吸着剤A投与群においてウイルス攻撃に対して延命効果が認められた。一方、肛門から腸管内にワクチン液を直接接種すると、有意な感染防御効果とともに、一部の魚で中和抗体の産生が認められた。従って、ワクチンの有効量を腸管内にいかにして到達させるかが経口ワクチン成否の鍵となる。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。経口ワクチンが魚に負担を与えず、また今回開発したワクチンは環境にも負荷を与える影響が少ない点が評価できる。実用化のためには、さらなる死亡率軽減に向けた研究を期待したい。
任意の微生物に酸耐性を付与するシリカ層形成技術の開発広島大学廣田隆一Bacillus属細菌の胞子がシリカ層を形成し、この構造体により酸抵抗性を高める効果がもたらされるという過去の知見に基づき、Bacillus属細菌由来のシリカ形成タンパク質(CotG)を用いて微生物の酸抵抗性を高める技術の開発を試みた。2種類のCotGペプチドをグラム陽性細菌の細胞壁溶解酵素由来の細胞壁結合ドメイン(CWB)とそれぞれ融合させた組換えタンパク質を作製した。これらのタンパク質を用いて、バクテリア細胞表層への固定化を行い、シリカ形成処理後、酸抵抗性の変化を調べた。その結果、本手法によっては有意な抵抗性の差は観察されず、CotGペプチドシリカ形成能力の向上、細胞表面上における固定分子の高密度化が必要であることが明らかになった。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。概ね研究計画とおり研究を進め、一定の成果を収めた。本成果は新規性が高く学問的な考察や解析も追究していくべきである。枯草菌を対象にしているが、他の微生物にも適用できるかどうかの検討を進めてもらいたい。
捕食性昆虫唾液の生物機能利用北海道大学加藤大智本研究は、“未開拓の生物資源”とも称される昆虫から新規有用物質を発掘し、その生物機能を農林・研究分野へ応用することを目標とする。本研究では、捕食性昆虫ヨコヅナサシガメの唾液から生理活性物質を見出し、その生物機能・作用機構を解明する。これまで、ヨコヅナサシガメ唾液腺cDNAライブラリーの作製に成功し、約500クローンの遺伝子転写産物の解析を行い、そのプロファイルを明らかすることができた。また、この中から孔形成毒素、カルシウムチャネル阻害物質と類似した構造を持つ物質、タンパク質分解酵素などと相同性をもつ物質を同定し、大腸菌および昆虫細胞発現系で組換えタンパクを作製、機能解明を進めている。これら新規物質は、農林業・研究用新素材として有用なシーズになると考えられる。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。ヨコズナサシガメ唾液腺cDNAライブラリーの作成に成功し、一部ではあるが、大腸菌発現系で得た組換えタンパク質を用いて活性を示すことができた点は評価できる。順調に進展していけば、有用な生物農薬が実用化されることが期待される。
積層化した木質バイオマス燃料を用いた園芸農業用高効率燃焼炉の開発大島商船高等専門学校川原秀夫作物の生育補償や生育促進のために二酸化炭素ガスを肥料として供給する栽培技術が存在し、近代的な園芸農業では欠くことができない。今回提案している燃焼炉は、狭小流路を上下方向に各層に設け、内部に積層化したバイオマス燃料を投入し、下方から空気を流して燃焼させるものである。実験では、バイオマスの燃焼が低空気過剰率で行われかつ、火格子上の燃焼残渣が少なくなる条件を探り、さらに本装置の温室適用の検討を行った。その結果、燃焼炉内に供給する空気量を変化させることによって燃焼速度および燃焼炉内の温度を精密に制御できることが確認された。今後は燃焼制御に加えて、発生する二酸化炭素等の生成物についても詳細に調査していく方針である。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。固体燃料を効率的に燃焼させる技術は難しく、本研究のように体系的なアプローチが望ましい。今後は燃焼炉メーカー等と共同で、より実用的な研究展開が期待される。
法面緑化に向けたアーバスキュラー菌根菌の緑化資材化技術の開発徳山工業高等専門学校天内和人本事業においては、宿主植物に対して優れた耐土壌酸性能を与えるAM菌と、その宿主となる植物種子を緑化用フィルター内に組み込むための資材化技術の開発を目指した。その方法として、植物種子と菌根菌胞子混合物の完全生分解性シートへの加工とペレット状への加工を試み、それぞれ発芽能力と植物根への高い感染能力を保持したまま資材化する事に成功した。さらに緑化用フィルターへの組み込み方法を検討し、改良型緑化用フィルターを試作し、降雨試験と含水比試験を実施した。その結果、改良型緑化用フィルターは、通常の緑化用フィルターよりも土壌の乾燥を防ぐ能力や土壌安定化性能に優れ、より安定な植生が可能であることが明らかとなった。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。種子発芽率に大きな遅延は無く、当該菌根菌感染率も6週間後で50%と実用化のレベルにある。実際の現場に近い方面での当該菌ー植物種子シートの性能検討では、ほぼ実用化可能なレベルと推定される。
閉鎖系水域の水質浄化を目的とした凝集材の固形化に関する研究阿南工業高等専門学校西岡守閉鎖性水域の自然流浄化システムとして凝集剤・微生物を用いた循環型の「自然流浄化工法」がある。この工法は非常に有望な浄化システムであるが、凝集剤の分散において欠点がある。この欠点を克服するために、凝集剤の成型によるペレット化が考えられるが、研究責任者の無機粉末成型技術シーズを利用することができる。この成型技術は、地質学の分野において堆積物が堆積岩となるような続成作用を応用した成型法であり、成型においてコントロールする複数の条件を変化することにより凝集剤の最適なペレット化を達成する。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。ペレットとしての強度性能を有すること及び、浄化性能が期待できる点を確認したことは評価できる。分散時間等の性能を改善した後、庭池などでの実証試験を実施することで、技術移転に繋がることが期待される。
超高温高圧水蒸気爆砕を用いた古着からのバイオエタノール生産徳島大学中村嘉利本研究は、既往技術の問題点であったセルロース系物質からのエタノール生産における1前処理における環境汚染物発生の削減および2セルロースの糖化段階における酵素フリー(高価なセルラーゼを使用しない)プロセスの開発という課題を解決するために超高温高圧水蒸気爆砕を用いたセルロース物質を直接グルコースに変換するための最適爆砕条件の探索を行った。その結果、セルロースのモデル物質として不織布の超高温高圧水蒸気爆砕処理を行ったところ、水蒸気圧力60 atm、蒸煮時間1分にて処理することで爆砕処理物当たり67.7%の可溶性糖を得ることができた。今後は、未利用の植物資源のセルロース直接糖化への応用を検討する。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。新規な超高温高圧水蒸気爆砕方式を試験している点は評価できる。世界に唯一の機器を用いて多くの成果が出ているので、古着からのバイオエタノール生産の研究においても今後の成果が期待される。
糖質、アミノ酸のビルドアップ型ナノ結晶機能性食品粉末の開発香川大学吉井英文本研究では、アミノ酸・グルタミン酸ナトリウム一水塩を、エタノール中で脱水することにより、微細なナノ結晶構造の多孔性構築体を作製するための条件、機構を探索した。はじめに、示差走査熱量測定計(DSC)の圧力パン内にグルタミン酸ナトリウム一水塩を入れ、等温、昇温変化させた場合の熱量変化より結晶変換速度を求めた。DSC 及び圧力反応器で結晶変換させた無水結晶グルタミン酸ナトリウムは表面に多くの針状結晶がついた多孔性結晶であった。結晶の X 腺粉末回折を測定し、結晶形を確認した。作製した無水結晶グルタミン酸ナトリウムは一水塩に比較して溶解速度が著しく増大した。 今後この手法を、含水結晶をもたない結晶系に応用する。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。当初目標とおり多孔性無水結晶の作成に成功しており、その構造も確かめられている。実用化レベルに求められられる結晶誘導法の改善、検証や、付加価値の高いアミノ酸・糖等のナノ結晶化も期待される。
個体再生誘導遺伝子を利用した新たな植物形質転換技術の開発香川大学京正晴植物遺伝子分野の研究成果を品種改良に活かすためには種々の作物に広く適用できる効率的な形質転換技術が不可欠である。しかし多くの作物では培養組織片から個体再生(不定芽形成)を誘導することが難しく形質転換体を得ることができない。我々はある種の転写因子の遺伝子で形質転換したタバコでは、その根端組織から不定芽が発生する現象を見いだした。そこで、それらの遺伝子をアグロバクテリアを用いて作物の組織片に感染させ、まず不定根を誘導し次に導入遺伝子を発現させてその根端に不定芽(形質転換体)を発生させることを考えた。植物ホルモンによらない新たな個体再生原理に基づいた普遍性の高い形質転換技術に発展する可能性を調査した。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。最初のステップである不定根の形成を達成しており、今後の展開が期待される。実際の現場で使用できる技術であるため、さらに不定芽誘導の検討を行い、実用化を目指すべきである。
食品系における透明なナノサイズエマルションの省エネな調製法の開発香川大学合谷祥一親水的な食品用乳化剤に、疎水性の強い食品用乳化剤を混合し、この混合乳化剤/水/食用油系で既存の技術などを用いて相図を作成し、その相図から適切な乳化過程を体系的に見いだし、U 字型撹拌羽根のプロペラミキサ-による攪拌というきわめて省エネな方法で乳化して平均粒径 100nm 以下のナノサイズの油滴を有するほとんど透明なエマルションを得た。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。プロペラミキサー撹拌法でナノサイズの油滴を有するエマルションを得る方法を確立し、混合乳化剤/水/食用油系での相図を作成している。企業等との共同研究を通じて、実用化に向けた研究が開始されることが望まれる。
甘味料を用いた保存食品害虫防除技術の開発香川大学佐藤正資ノンカロリー機能性甘味料である特殊な糖類を食品に添加し、貯穀害虫による加害を長期間防ぐ技術の開発を目的とした。世界的に貯蔵食品に深刻な被害を与えている貯穀害虫 7 種に対して、この糖類の殺虫効果を示す濃度を明らかにした。また、加工時、保存中の安定性についても試験を行った。その結果から、この糖類が保存食品害虫防除資材として利用でき、企業への技術移転の可能性があると判断できた。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。技術移転に必要な基礎的データについて当初目的を達成している。より防除効果のある糖類、その誘導体作出、殺虫スペクトルを検討されたい。また、食品害虫を特定した詳細な防除効果の検討が期待される。
塩生植物を用いた環境修復技術の開発とその新規高機能性野菜としての利用に関する研究香川大学東江栄アイスプラントは銅及びカドミウム耐性が高いこと、銅の含有量は一般植物より高く、カドミウム含有量はカドミウム高度集積植物と同程度であることを明らかにした。塩生植物であるシチメンソウ、ハママツナ、ヒロハマツナ、ホソバノハマアカザ、及びウラギク等の葉身抽出液のラジカル消去能はいずれも高く、これはフェノール化合物の蓄積によること、その一つはクロロゲン酸であることを明らかにした。このように、塩生植物は重金属のファイトレメディエーションに有効であり、さらに高機能性作物及び有用成分原料として有望であることを示した。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。アイスプラントの銅・カドミウム集積確認等の当初目標を達成している。塩性植物が、可食部に有害金属の過剰蓄積はないか確認したい。また海砂地、干拓地、例えば津波汚染田等にも活用できないか検討が望まれる。
食用キノコの子実体発生を誘起・促進する生理活性物質の探索・解析と応用香川大学麻田恭彦本研究は、食用キノコを対象として、その子実体発生を誘起・促進する生理活性物質を探索・解析することを目的として行った。通常の菌床培地を用いる栽培では、正常な子実体形成能力を失った変異株(不良株)をアッセイ系に用いて、子実体発生を誘起する生理活性物質を探索したところ、リグニン代謝関連低分子化合物がエノキタケの子実体発生の誘起活性を有することを強く示唆する結果を得た。また、これらのリグニン代謝関連低分子化合物はエノキタケおよびヒラタケの子実体形成を促進することが明らかとなった。また、エノキタケの子実体形成に直接関与することが強く示唆される遺伝子の存在を明らかとした。以上のことから、当初の研究計画はほぼ達成されたと考えられる。これらの研究成果委は、今後、産業レベルでの食用キノコの収量増加に展開することが期待される。当初目標とした成果が得られていないように見受けられる。今後、技術移転へつなげるには、今回得られた成果を基にして研究開発内容を再検討することが必要である。不良株の培地にリグニン代謝関連低分子化合物を添加すると、子実体を形成することが見出された。子実体誘導物質は検出されたが、本物質が子実体の形成を誘導する本体であるかどうか不明のままとなっている。
カツオ中骨のコラーゲンの有効利用愛媛県産業技術研究所平岡芳信カツオの中骨に含まれているコラーゲンの有効利用方法について検討した。中骨からコラーゲンを抽出する方法について検討した後、その特性を調査し、用途を探索した。さらに、コラーゲンの酵素分解等によって生成されるコラーゲンペプチドの機能性を調査し、コラーゲンペプチドを利用した新しい複合食品を開発することを目的として行った。その結果、カツオの中骨から熱水抽出法等によってコラーゲンを95%以上抽出する技術を確立した。そのコラーゲンは、冷蔵で固化するため要冷蔵の固形スープの素として利用できることが分かった。さらに、プロテアーゼで分解したコラーゲンペプチドは、血圧降下作用を示し、そのコラーゲンペプチドの配列を決定したので、血圧降下作用を示すサプリメント等として利用できることが分かった。期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。従来利用用途の少なかったカツオ中骨から、マリンコラーゲンを高効率で抽出する技術を確立し、抽出物の血圧降下作用を確認した。高付加価値のある用途開発の目処をつけた点は評価でき、化粧品や健康食品関係への展開も大いに期待される。
雄性不稔形質を利用したデルフィニウム種子の低コスト生産技術の確立愛媛県農林水産研究所岡本充智デルフィニウムにおいて、雄性不稔系統と花粉媒介昆虫を利用した種子生産が可能であることを明らかにするため、試験をおこなった。雄性不稔系統は蜜と花粉を持たないことから花粉媒介昆虫にとって訪花する魅力の少ない花である。このため、花粉媒介昆虫が訪花する際の花色による影響は大きいと考えられる。そこで、花色の違いによる影響の有無を明らかにした。 また、花粉媒介昆虫による種子の収量と人為交配した場合の種子生産性を調査・比較し、種子生産にかかる作業時間あたりの生産効率を求めた。 更に、虫媒により受粉したデルフィニウム種子の発芽率を確認した。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。花粉媒介昆虫による種子生産法と現行人為交配法を比較し、花粉媒介昆虫による方法が実用化可能であるデータの取得に成功しており評価できる。再現性と継続性が担保されれば、技術移転の可能性は更に高まると期待される。
ファイトレメディーエションによる重金属汚染された水環境浄化技術の実用化への展開愛媛大学榊原正幸廃止鉱山残土堆積場付近のCuやAsなどの有害元素に汚染されたダム池で、重金属超集積植物のマツバイによるファイトレメディエーション実用化のためのフィールド実用化試験を行った。本研究の結果、栽培容器を水面に浮かべる「フローティング栽培法」によってマツバイを安定的に生育することができた。また、「フローティング栽培法」の実用化試験の結果、マツバイ量によるダム下流側の河川のCuおよびAsの濃度をそれぞれ約1/2および1/4にまで低減することに成功した。この結果は、マツバイによるファイトレメディエーションが河川という開放系で十分効果的であるということを実証した。また、マツバイに吸収された重金属は、体内のプラントオパールに濃集していることから、それら重金属は不溶化されているといえる。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。現地実証試験として、重金属類等に汚染されたダム池に、マツバイを栽培することによって、下流側の流出銅、ヒ素濃度が極めて低下した点は十分に評価に値する。なお、植物を使用するシステムであり、その汎用性についての検討が期待される。
脱塩・乾燥クラゲを利用した水稲有機栽培技術の開発愛媛大学杉本秀樹食の安全の確保や自然環境の保全を目指した有機農法への取り組みが各地で行われている。しかしながら、従来の農法に較べて手間がかかる上に収量が少ないことなどからなかなか広がらないのが実情である。そこで、申請者は水稲有機栽培において最大の障壁となっている除草作業の省力化を図るため、肥料効果と雑草抑制効果を併せ持つ脱塩・乾燥クラゲ (クラゲを脱塩・乾燥して作った細片) を活用した新しい栽培技術の開発を目指すものである。クラゲは、近年日本近海で大量発生し水産業に甚大な被害を与えており、その有効活用法の確立は新しい産業の創出につながると考える。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。クラゲは日本近海で大量発生し甚大な被害を与えているが、その農業的な有効活用法の確立が期待される。雑草抑制効果についてさらに検討が必要であり、水田における実証試験が望まれる。
RNAサイレンシングの接ぎ木移行を利用した新機能付与技術:ウイルス抵抗性愛媛大学西口正通タバコモザイクウイルス等のトバモウイルスの感染に必要なタバコの遺伝子をサイレンシングさせたタバコ系統を台木に、穂木には野生型のそれぞれの遺伝子を発現している系統を用い、接ぎ木を行う。接ぎ木後台木のRNAサイレンシングシグナルが穂木に移行し、穂木の同じ遺伝子をサイレンシングさせ、ウイルス抵抗性を付与する。実験の結果、穂木においてウイルス感染に必要な宿主遺伝子の発現が抑制され、高度のウイルス抵抗性が穂木に付与されることを確かめることができた。今後は、この手法を他の形質付与についても応用していくことが考えられる。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。当初目標通り、RNAサイレンシングシグナルの効果が観察され、今後の発展が期待できる。技術移転につながる基盤データが得られたと評価できるので、今後は企業との連携をより強化した研究開発が期待される。
天然甘味料糖アルコールの簡易測定キットの開発愛媛大学渡部保夫果実や食品に含まれる天然甘味料である糖アルコール類はそれ以外にいくつかの機能性も報告され、注目される成分であり、含量を簡便に計測する技術のニーズは高い。デヒドロゲナーゼ酵素を用いた定量法を構築するため、本研究においてグリセロールに特異的な酵素を選別することを目標とした。Saccharomyces cerevisiae由来のグリセロールデヒドロゲナーゼ遺伝子について発現、精製して、基質特異性を調べたが特異性はきわめて低かった。別に、市販品中からの酵素の選別を平行して実施したところ、細菌由来の酵素が有望であることを確認でき、ほぼ目的酵素の取得の目標は達成した。今後、甘味料としての使用量の多いキシリトールについて酵素を取得して5種の糖アルコールを網羅的に測定できるキットを構築したい。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。当初計画とは異なり市販品酵素からではあるが、目的のグリセロールデヒドロゲナーゼを得ることができた。最終目的である測定キット用酵素には活用できないことが明らかになったので、改めてグリセロールに特異的な酵素を探す必要がある。
ショウガジンゲロールの高効率水抽出と高濃度化に関する研究開発高知県工業技術センター森山洋憲エタノールを用いることなく、水のみでショウガからジンゲロールを効率的に抽出し、その濃度を高める方法を検討した。新規超音波装置を用いて処理条件を検討したところ、振動媒体、発振周波数、処理時間、試料設置方法を最適化することによって、汎用装置よりも抽出率向上を図れることが分かった。続いて市販の添加剤を入手し、ショウガの水抽出に有効なものを調べた。その結果、ショウガ抽出物中のジンゲロール濃度を高めるいくつかの添加剤を見いだした。以上の添加剤と超音波処理とを組み合わせた結果、ジンゲロール高含有液を得ることができた。この濃度をさらに高めるために凍結濃縮法の適用を試みたところ、ジンゲロール濃度を増大可能であることを明らかにした。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。ショウガ汁の高濃度化が可能であることを明らかにし、当初目標を達成している。高濃度化についての検討をさらに行うことにより、他の食品への応用も期待できる。
牛蒡の1次加工における品質安定化を目指した冷却・保存法の検証高知工科大学松本泰典牛蒡は組織が傷つけられその部分に空気が触れることで酸化し、褐色することが知られている。牛蒡の1 次加工業者はこの褐色を防止するため、衛生管理に加え経験に基づいた独自のノウハウにてカット加工を施し保存を行っている。しかし、次段階の食品加工業者に出荷した1次加工品の全てが品質の安定したものでないのが実情である。そこで、本研究ではささがき等のカット加工から保存に至る一連の工程における雰囲気、また加工後の保存溶液の違いによるカット牛蒡の影響について調べるため、カット面の色の変化を経時的に計測した。その結果、カット牛蒡の褐変を防止する加工の際の雰囲気と、保存するための溶液についての有効な条件が得られた。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。詳細且つ網羅的に、牛蒡の1次加工における品質安定化のための冷却・保存法の検証が行われている。品質安定化のための至適冷却・保存法が明らかになれば、そのまま現場に応用でき、速やかな社会還元が期待される。
マイクロバブル発生機構を利用したマイクロエマルション化技術に関する研究高知工業高等専門学校秦隆志本申請では旋回式マイクロバブル発生機構を活用した液-液2相混流によるマイクロエマルション作製手法の確立を目的とした。結果、数平均分布で約1μm付近に均一な粒子径のピークを確認、導入されるオレイン酸量と分散媒(水)の比率を調整することで多量から少量までの均一なマイクロエマルションの作製が可能であること、界面活性剤等の乳化剤無しで安定なマイクロエマルションの作製が可能であることなどの成果を得た。一方、問題点としては、長期の安定性に対する改善や極少量ではあるが約50μm程度の比較的大きなエマルションが生成されたことなどが挙げられる。しかしながら、本研究段階でそれら問題点に対する改善策も浮かび上がっており、改善後は安価でかつ大量に、更に安全性の高いマイクロエマルション作製手法が提供できる。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。バブル発生ノズル改善及び乳化剤必要性の検討により、微少粒径で且つ安定なマイクロエマルション作製技術を確立した点は評価できる。特許出願済みであり産学連携のもと、企業化に向けた取組みを加速させることが期待される。
ピーマン葉を用いた有用フラボノイドの高効率大量生産技術の開発高知大学手林慎一特殊フィルムおよびLED光源を用いたピーマンの栽培試験の結果から、フラボノイドの一種アピゲニン(Api)から同じくフラボノイドであるルテオリン(Lu)への変換を促進するために必要な波長の特定に成功するとともに、該当波長の強光下および弱光下での作用についても解明した。さらに植物の耕種的な栽培条件を調節することでLuの大量発現が可能であることを見出し、これに特殊フィルム処理を可用することで該当技術によるLu発現蓄積が促進されることを見出した。これらのことから全国的に栽培されているピーマン品種を用いてピーマンの栽培後に高濃度・大量のLuを生産するための方法論が確立した。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。さらなるデータの蓄積は必要であるが、当初目標に沿った有望な方向性が得られている。多様な圃場条件でのトレースが必要であり、地域農家及び農業研究機関との連携した試験を期待したい。
新奇人工微生物鉄輸送化合物の植物生長促進剤としての応用高知大学松本健司鉄はほぼあらゆる生物にとって生きて行く上で必要な元素であるが、土壌中の鉄は生物が利用しにくい形状で存在しているため、その摂取は容易ではない。微生物はシデロフォアと呼ばれる鉄輸送化合物を用いて鉄摂取を行っており、植物でも類似の機構を持つことが知られている。本研究では天然シデロフォアを改良した新奇人工シデロフォアを用い、植物への鉄供給を促進できないかと考えた。この新奇人工シデロフォアの存在下で植物を育成したところ、植物中の鉄分などの栄養成分の向上や収量の増加が見られた。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。新奇人工シデロフォアは、ほうれん草鉄分やβ-カロテンを増加させる作用があることが判明し、高付加価値性作物の育成への利用が期待できる。今後、実用化に向けた企業との共同研究が期待される。
環境にやさしい野菜の炭酸水農法の確立高知大学西村安代炭酸ガスを溶解させた炭酸水農法を確立させるため、栽培試験を行った。キュウリおよびトマト栽培で増収効果が認められた。トマト栽培で炭酸水と硫酸によるpH調整の影響を比較した結果、硫酸区では減収となったが、一方、炭酸水では増収したため、炭酸ガスが根から吸収され、光合成が活性化されたことが示唆された。チンゲンサイのNFT栽培では、明確な増収効果は認められなかった。循環により、pHが短時間で元に戻り、また無処理でもpHが低かった時期があったことが原因と考えられた。循環式養液栽培においては、処理方法について再検討する必要がある。かけ流し栽培では増収効果が認められ、環境に配慮した新たな炭酸ガス施与法として有効である。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。果菜類であるキュウリで、通常の施肥条件で有意な増収効果が得られており、果菜類では技術移転につながる可能性が高まったと期待される。施与効果は葉菜類においても認められるべきはずのものであり、栽培方法を含め、効果の出る条件を明らかにすることが望まれる。
遺伝子下流域を用いた植物組み換え遺伝子発現制御法の開発九州大学丸山明子植物における組み換え遺伝子の高発現系、発現誘導系の開発を将来的な目標として、本研究では硫酸イオントランスポーターの遺伝子下流域を任意の遺伝子の下流においた場合に、その遺伝子の高発現を引き起こすこと、硫黄欠乏による発現誘導を引き起こすこと、を示すための実験を行った。検討した3種の遺伝子のうち、2種については発現誘導効果が認められたものの、形質の発現には至らなかった。高発現や発現誘導の起きる組織が形質の発現に有効でない可能性が考えられた。1種については、顕著な高発現と発現誘導が認められ、また形質も大きく現れた。今回はシロイヌナズナを用いて実験を行ったが、今後、作物での利用について検討する予定である。合わせて、学会や論文誌上での成果発表を予定している。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。植物由来遺伝子のみで有効に発現する、実用的な組換え体作出の可能性を示しており評価できる。できれば企業と共同で、花卉や薬用植物等への展開が期待される。
熱帯性食用ナマコの種苗生産に用いる産卵誘発ホルモンの開発九州大学吉国通庸ハネジナマコの口器組織中に十分に発達した卵巣に作用して卵成熟と粗に続く排卵現象を誘発する生理活性を見出した。マナマコ「クビフリン」と同様の抽出法で活性が回収されることから、クビフリン同様の性状を有するものと考えられる。沖縄近海でのハネジナマコの産卵期は9月以降に収束に向かい、11月期に生殖腺の発達は最も低い状態にあるが、12月期以降、次期産卵期に向けての卵巣発達が開始されることが分かった。生殖に参加する個体は体重600g以上の親個体であると思われ、卵巣内の卵母細胞は平均直径が160ミクロンを越えると予想され、本州のマナマコに比べ、一回り大型の卵を産生すると思われる。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。計画通りの研究が実行され、期待した成果の多くが得られたことは評価に値する。研究方向性は妥当であり、今後、研究を継続することにより、現場で活用される技術にまで発展すると考えられる。世界的にも重要な水産種であるハネジナマコの種苗生産に不可欠な技術になることが期待される。
新規コンニャクナノ微粒子のゲルマトリクス複合化剤への展開九州大学近藤哲男マイクロメートルサイズのコンニャクグルコマンナン(KGM)は、アルカリ性下でゲル化し、食用コンニャクとして利用されてきた。本研究ではまず、水中カウンターコリジョン法(ACC法:US特許登録済)により、KGM粉末をナノ粒子化させ、均一に水中で分散させた。このナノ分散液は、濃度3%においても液状の粘性を示し、Ca(OH)2を添加し加熱処理することにより、従来と比べ容易にゲル化することが判明した。そこで、グラファイトマイクロ粒子とKGM粒子をACC法で微細化と同時に混合させたのち、ゲル処理し、疎水性ナノグラファイトの高分散KGMゲルの創製を試みた。検討余地があるものの、KGMゲルを介する容易な他の素材とのナノ複合化による新たな生物系複合材料構築法提案の可能性は示された。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。当初目標のひとつであるACC法によるコンニャクグルコマンナン粒子の微細化に成功した。本技術を工業的に波及させるためには、マトリックス中グラファイトの分散状態の解明が望まれる。
新規抗体-酵素ハイブリッドによる超高感度抗原検出系の構築九州大学神谷典穂本研究では、タンパク質(酵素)と核酸を酵素反応により共有結合的かつ部位特異的に連結する新たな技術に基づき、新規な抗体ー酵素ハイブリッド分子の創製を試みた。その結果、ハイブリッド分子中の酵素/抗体のモル比を制御する方法を確立し、得られたハイブリッド分子による抗原検出が原理的に可能なことを確認できたが、抗体と核酸の連結に用いたクリックケミストリーの反応条件に更なる改善を要することが明らかとなった。今後、より温和な条件で抗体と核酸を部位特異的に連結する技術の確立について連携企業と協同研究を行い、企業化に資する超高感度抗原検出システムを構築する。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。酵素-修飾分子の特異的結合によるハイブリッド化に成功したことなど、当初目標を達成している。抗体分子との特異的結合が完成し、超高感度な抗原検出のプローブとして機能すれば、企業化は大いに期待できる。
二段階リパーゼ法によるバイオディーゼル生産用バイオリアクター システムの開発九州大学川上幸衛バイオディーゼル燃料は酵素リパーゼを触媒とした油脂のメタノリシスによって生産される。リパーゼ固定化シリカモノリスバイオリアクターはこの連続生産を効率的に実行するために有効である。しかし、基質メタノールならびに副産物グリセリンの蓄積が酵素の総括活性を低下させ、バイオディーゼル収率を約70%から90%以上に増加させるためには約20時間を要する。本研究では、バイオディーゼルの生産プロセスを油脂の加水分解とエステル化からなる二段階とすることによって上記の問題点を克服し、総反応時間5時間以内で収率90%達成を目指した。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。製造工程を油脂加水分解とエステル化の二段階に分けることにより、収率の向上及び、総反応時間短縮に目標をおいた点に意義が認められる。今後は油脂分を回分式加水分解によって、効率良く脂肪酸生成を行うことが期待される。
食品機能性評価に向けた代謝物プロファイリング技術の開発九州大学藤村由紀本研究では、食品中の多彩な成分を網羅的に測定し、その多成分分析データから有用な成分情報を得るための多変量統計解析によって、食品中の生理活性成分の同定とともに活性に寄与する共存成分パターンの解明や活性予測を可能とする計量化学的方法論(食品機能性評価-代謝物プロファイリング法)の開発を目的とし、これに必要な1)質量分析による食品中の網羅的代謝物情報の取得ならびに2)最適な多変量統計解析モデルの構築に当初の予定通りに成功できた。今後、本成果を学会ならびに論文にて公表するとともに、多様な食品の機能性評価へ適用することで、技術的検証(汎用性評価)を行うとともに更なる技術的高精度化への展開をはかり、多彩な食品・農林水産物に対応可能な質の高い評価技術へと昇華させる。概ね計画通りの成果を上げられ、技術移転につながる可能性が高まっている。網羅的代謝物解析からの予想値解析等によりモデルを作成し、そのモデル性能をサンプルを用いて確認するという当初目標は達成されている。食品機能解析のためには、さらに動物試験、ヒト臨床試験との相関性を調べることが望まれる。
北部九州に適した低炭素投入型ダイズ根粒菌資材の開発佐賀大学鈴木章弘本研究開発では、単離する根粒菌の条件としてa) ダイズ植物との共生によって、ダイズの標準根粒菌(Bradyrhizobium japonicum USDA110株)よりも高い窒素固定活性を示す。b) 土壌中でも他の根粒菌よりも旺盛な成長(増殖)を示す(土壌中における競合に負けない)。の2つを目標におこなっている。a) については、標準根粒菌と同等かそれ以上の窒素固定活性を示す根粒菌が単離できているので、達成できる見込みである(根粒接種後約3週間後の窒素固定活性)。b) については、現在まだ研究をおこなっている途中であり、評価できる段階に無い。概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。計画通りに研究が実施され、実用化の可能性が高い優良根粒菌が選抜されている。信頼に足る栽培試験のデータを積み重ね、早期の実用化を期待したい。
YY型の性染色体をもつ超雄トラフグの作出の検討長崎県 科学技術振興局濱崎将臣本課題では、1「クサフグの始原生殖細胞の発生、挙動を把握し移植時期を決定する。」21で決定した移植時期に移植を行い、ドナー細胞が宿主生殖腺内で正常に分化しているか確認する。」という目標を設定した。1に関しては、組織切片を作製することで観察することができ、移植の時期を決定できた。しかしながら、この決定時期に移植したものの、ドナー細胞が分化しているところまでは最終的に確認することはできなかった。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。精原細胞移植技術を用いた魚類養殖の高度化は重要な課題である。本技術の社会還元を行うためにも、移植魚の生残率が低いことを、改善することが期待される。
植物由来耐熱性タンパク質を用いた酵素添加剤の開発宮崎大学稲葉丈人バイオリアクターなど酵素反応を伴う工業生産プロセスでは、しばしば反応系における酵素の熱失活が大きな問題となっていることから「耐熱性を備えた酵素添加剤」の開発が求められている。申請者らは、植物のストレス応答タンパク質が100℃で10分間加熱しても凝集せず、且つ、優れたタンパク質保護活性を持つことを明らかにしている。こうしたタンパク質を酵素添加剤として開発できれば、化学工業製品、食品や医療等、酵素反応を伴う幅広い分野で利用でき、その反応効率を格段に改良することが可能となり、経済的にもエネルギー的にも節約になる。本研究では植物由来耐熱性タンパク質を用いた酵素添加剤の開発を目指した。当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。多くの制限酵素に対する効果、担体固定型での効果等を今後明らかにすることが期待される。技術移転への展開として、酵素固定化の効果を優先すべきである。
植物工場による高品質ブルーベリー葉の大量生産技術の開発宮崎大学國武久登ロックウールを支持体として用いたブルーベリー培養苗育成試験を行い、最適な培養液濃度およびpHを決定し、土壌での処理区よりも、生産量を2割程度増加させることができた。10日間の青色LED光照射により、ブルーベリー葉中の総プロアントシアニジン含量を露地栽培における6月の含量と同程度に増加させることができた。また、ブルーベリー葉中の総プロアントシアニジン含量の十分な増加には、光照射時の気温を20℃以上にしておく必要があることも見出した。ブルーベリー葉中の総アントシアニン含量は、気温が低いほど多くなることも分かった。さらに、ポリフェノール生合成に関与する遺伝子を単離し、その発現解析も行った。期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。当初目標を達成し、特許も出願されている。栽培及び加工の連絡協議会が設立されており、地域全体として、実用化に向けた組織体制ができあがっている。今後着実に技術移転が進み、実用化につながると期待される。

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