評価結果
 
評価結果

事後評価 : 【FS】探索タイプ 2021年12月公開 - 社会基盤 評価結果一覧

※他分野の評価はこちらからご参照ください。 >> 事後評価 : 【FS】探索タイプ 2021年12月公開
課題名称 研究責任者 コーディネーター 研究開発の概要 事後評価所見
香辛料成分を使った植物耐熱性向上剤の探索研究 静岡大学
原正和
静岡大学
橋詰俊彦
異常気象、特に夏場の高温障害は、農作物の収量と品質を低下させる。これを防ぐための新技術として植物熱耐性向上剤(散布するだけで後天的に作物の熱耐性を高めうる資材)が開発されたが、十分な普及には至っていない。本研究では、研究責任者が開発した、熱ショック応答を定量化する独自のスクリーニング系を駆使し、従来剤より費用対効果の高い物質を探し求めた。その結果、イソチオシアネート類の中から目標に到達した物質を発見した。本物質は、従来剤の5倍の熱ショック応答誘導活性を有し、原料コストも低く抑えられるため、有望な物質である。現在、実用化に向けた開発研究を進めている。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、外部からの薬剤散布で特定ファミリーのタンパク質の発現制御で障害を回避するとの考えの、作物の高温障害への対策技術は評価できる。一方、技術移転の観点からは、どのタンパク質がどのような生理機能を回復させるのかなどの作用機作の解明、生産現場を念頭に置いた多様な実証試験や、それらに基づく費用対効果に係るデータ蓄積と検証を踏まえた実用化が望まれる。処理区での温度状態、水分状態、植物サンプルの生理状態の計測も必要となるので、今後は、植物生理もしくは作物生理の専門家との共同で研究を取進めることが期待される。
山形架構天井における落下防止補強具の試作と実験的検証 香川大学
野田茂
香川大学
倉増敬三郎
山形架構吊り天井は吊りボルト・ブレースの長さが空間的に均一でない。そこで、振動実験、3次元地震応答解析により、新開発の天井補強具の耐震性確保を目標とした。振動実験の検証結果、2.2g耐震天井の条件を満たしており、強い揺れによっても高耐震性を保証できることが明らかになった。また、振動解析の結果、ブレースを含めた各部材の伝達力、接合部やブレースの変形・応力状態に与える影響が定量的に分析され、1)吊り長さが不均一であると、ブレースや吊り天井全体に及ぼす影響が顕著になること、2)吊り長さを均一にすることが耐震性確保に当たって望まれることがわかった。今後は商品化に伴う本製品の設置進展を期待している。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、要求されている加速度応答時に天井材落下等不具合ないことを確認し、数値シミュレーションにより天井面と建築構造体の相対的な関係においての振動抑制効果の差を明らかにしていおり評価できる。一方、技術移転の観点からは、ブレース部品の伸縮性を利用した振動抑制機構の開発、空間配置と必要性能に対する定量的な問題の解決などでの実用化が望まれる。今後は、補強設計手法や適用範囲を明確にした開発により、社会還元に繋がることが期待される。
災害対策用高出力LED照明装置の開発 北九州市立大学
井上浩一
公益財団法人北九州産業学術推進機構
田中康彦
災害復旧や消防活動で求められる超高出力照明のLED化には、高性能放熱技術の確立が不可欠である。本研究では、LED光源において発生する熱を大型放熱ヒートシンクに高効率で熱拡散するヒートスプレッダーの導入が特に有効であることに着目し、放射状に配置した微小流路内の気液二相流動によって熱拡散する蒸気式ヒートスプレッダーを提案した。LED照明適用時の主要課題と考えられた、大型化、高い熱拡散性能、姿勢による性能変化量最小化、について各種の基礎的な検討を実施し、提案内容の有効性を確認した。今後、蒸気流路改良などによって更なる熱拡散性能向上と実用化のための製作方法について検討を実施する予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ヒートスプレッダーの大型化において構造強度が十分であること、高熱負荷条件下で銅の熱伝導率に相当する熱拡散性能が得られたこと、ヒートスプレッダーの姿勢による性能変化が十分に小さいことが実証されており評価できる。一方、技術移転の観点からは、ベーパーチャンバーとしての伝熱性能の評価基準を明確に示し、それに基づく評価を実施することが望まれる。今後は、技術移転を目指した産学共同の実施体制を具体化し、本研究成果を応用展開されることが期待される。
コンクリート構造物の吸着式登はん型検査ロボットの吸着信頼性の向上 熊本大学
徳臣佐衣子
コンクリート構造物をロボットが登はんして自動的に検査する方法が期待されている.ロボットが構造物を登はんするには,吸着盤の吸着を確実に行う必要がある.しかし,壁面が汚れていたり,濡れていたりすると吸着盤が滑って,ロボットの落下を引き起こす.本研究では,吸着盤に鋭い爪を数個配列し,爪が壁面を捉えることによって,吸着盤の滑りを防止する方法を開発した.開発した爪の摩擦係数は2に達し,吸着盤が壁面に吸い付く力の2倍近い壁面接線方向の保持力を実現した.さらに,この爪を装着した吸着盤は,壁面上に粉が付着していたり,濡れていたりしても保持力に影響しなかった.この結果,吸着盤の吸着信頼性が大幅に向上した. 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、吸着盤と爪とを併用した保持機構を安価な材料で実現できることを実証し、目標を上回る摩擦係数を実現し、真空吸着装置の性能を高めたところは優れている。一方、技術移転の観点からは、現実の構造物を想定した検討がなされてはいるが、実用化を想定し、不陸のある場合や既にひび割れが存在する場合など使用想定箇所を詳細に分析し、それを考慮した追加検討が望まれる。今後は、検査ロボットに求められる要求仕様とそこから導かれる真空吸着装置の性能の関係を明確にした上での、実用化に向けた開発が期待される。
気中カーボンナノチューブの蛍光検出法の開発 広島大学
石田丈典
広島大学
野村武司
カーボンナノチューブ(CNT)は、産業上重要な物質であるが、生体影響が懸念されている。そのためCNTを取り扱う作業環境で、CNTの飛散状況を日常的にモニタリングするために、低コスト、かつ適切な感度を有する検出技術が必要とされている。本研究では、蛍光で標識したCNT結合ペプチドを利用して、フィルターに捕集したCNTを蛍光顕微鏡で簡便に高感度に検出することを目指した。フィルターの素材や洗浄条件を検討することで、CNT結合ペプチドがフィルターへ非特異的に吸着するのを抑制し、フィルター上のCNTを蛍光顕微鏡で簡便に検出する事に成功した。また、本方法は電子顕微鏡なみの感度であることが分かった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、気中カーボンナノチューブ(CNT)の蛍光検出法を確立し、蛍光顕微鏡で電子顕微鏡並の感度で簡便に検出することに成功したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、今回得られた研究成果の知的財産権の確保を進めるとともに、検出結果の定量化や検出法の標準化を産官学が連携し進めることが望まれる。
今後は、さらなる研究の進展により社会にとって有用なCNTが広く普及するよう、CNT及びその応用製品の製造者や利用者の安心・安全に貢献する気中CNTの検出法として実用化されることが期待される。
汚染土壌の浄化手法の開発とその応用 香川大学
吉田秀典
香川大学
倉増敬三郎
地圏の浄化に関しては,粘土分が多い土壌にセシウムを添加してから一定期間放置し,その後,セシウムの抽出試験ならびに浄化試験(電気泳動試験,吸着材は開発したHApシート)を実施した.その結果,土壌にセシウムを添加し,即,抽出試験をした場合は70%を超える割合で抽出できたセシウムも,例えば,1週間ほど放置した後に抽出試験を行うと,25%程度しか抽出できないことが判明した.これは,粘土等の劣化によって形成されるフレイドエッジサイトにセシウムが強く固着するからである.
水圏の浄化に関しては,魚骨を焼成したのみで,特に加工を施さないヒドロキシアパタイトを吸着材としてストロンチウムならびにセシウムの吸着試験を実施した.その結果,ストロンチウムについては,1週間ほどでほぼ全量の吸着が達成でき,セシウムについては,4週間で半分程度の吸着を達成できた.
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも廃棄物である魚骨を利用したヒドロキシアパタイト(HAp)吸着シートを開発し地圏や水圏の放射性セシウムやストロンチウムの除染の可能性を示したことは評価できる。
一方、土壌からの除染に関しては、電気泳動を基本とする本提案では通電性の確保やセシウムのように吸着力の強い放射性物質に対する技術的検討や実証データの積み上げを企業と連携し取組む必要があると思われる。
本課題は、福島第一原子力発電所の事故による土壌や水圏の放射性物質の除染関するもので、社会的意義は高く、今後の研究の進展よる実用化が期待される。
交流インピーダンス法を用いたコンクリート構造物の非破壊検査 による塩分濃度推定 岩手大学
小林宏一郎
岩手大学
小川薫
鉄筋コンクリート構造物の塩害を評価するため、コンクリート内塩化物濃度の非破壊検査装置の開発を行った。実用化へ向けた従来の2つの問題点の解決を行った。1 つ目は、深さ方向で塩化物濃度が異なる時の評価と測定時間の短縮である。2 つの電極間距離におけるインピーダンスの傾き(差分)を用いることによって、深さ方向の塩化物濃度の差を評価可能とした。また、評価値を1つの周波数に限定することによって、測定時間を従来の150 秒から10 秒以内に短縮した。2つ目は、構造物の側面や下面で測定可能な測定治具の開発である。作成した測定治具により従来の方法と比較して、誤差1%以内となり、実構造物での利用を可能とした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、コンクリート内部深さ方向の塩分濃度の違いについて、インピーダンスの傾きで評価できることを示し、また、実構造物の側面や下面で測定可能な治具を開発することで実構造物での計測を可能としたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、実構造物を対象にした測定を通して、測定時の問題点抽出と推定精度の評価を行うことが望まれる。今後は、実構造物の環境条件下での測定精度など実用化に向けた課題についての検討が期待される。
豚の浮腫病に関与する志賀毒素バリアント(Stx2e)の検出系の作製 藤田保健衛生大学
有満秀幸
公益財団法人名古屋産業科学研究所
羽田野泰彦
豚の浮腫病(ED)の迅速診断を目的とした、マウスモノクローナル抗体(mAb)を使った志賀毒素バリアント(Stx2e)検出用イムノクロマトグラフィーのテストストリップを完成させた。このテストストリップのStx2eに対する検出感度は約10ng/mLであったが、豚から分離された浮腫病由来株の培養上清から、Stx2eを検出可能であること、Stx2e特異的な抗体を使うことで、EDに関与しない他のタイプのStx2(Stx2a, Stx2c, Stx2d)に交差反応しないことも確認したことから、Stx2e産生株の特異的検出に有効なテストストリップが完成したと判断し、特許出願した。現在論文も投稿中である。今後は実用化に向けて提携企業を模索しながら、感度のさらなる向上を検討したい。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、独自手法により毒素を大量に調整し、これに基づく特異的単クローン抗体を単離してテストストリップとして確立した成果が顕著である。一方、技術移転の観点からは、金コロイドの代わりに蛍光シリカナノ粒子やその他の量子ドット技術を応用するなどでテストストリップの検出感度を向上させ、医療現場での実用化が期待される。今後は、動物用検査ではコスト要求が厳しいので、低価格で製造できる他の認識分子などへの代替えを含め、新規技術を保有する企業とのタイアップを進めることが期待される。
ポータブル分析装置の高感度なマイクロ検出器の開発 北海道大学
石田晃彦
北海道大学
須佐太樹
その場で状況を把握して迅速に対応する仕組みを構築することは、生活の安全・安心、健康増進の観点から今日の重要な課題であり、その場分析を可能にする分析機器はその中心的な役割を担う。我々は、そのような分析機器として適したポータブルな液体クロマトグラフ(LC)の実現に向けて研究を行ってきたが、キャッシュカードほどの大きさの基板にカラムとともに搭載する検出器のさらなる性能や操作性の向上が実用化の課題となっていた。そこで、本課題では、マイクロ流体ベースの紫外可視検出器および電気化学検出器の開発を行った。その結果、組み立てやメンテナンスが容易なシンプルな構造でありながら高感度な検出器を実現できた。今後は、これを搭載したポータブルLCの実用化が課題である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも時間的制約のために、当初の計画通りには開発が進んでいないが、部分的には目標を達成しており、検出セルでの基本動作検証を得た点については評価できる。一方、性能の向上、装置の作製などについて新規な取り組みまでには至っておらず、検出できる物質種とそれらの分析性能で特徴を有したマイクロ検出器の開発に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、外注メーカーの納期による時間制約を受けずに開発目標を達成できる計画立案、および技術レベルを高める研究が推進されることが望まれる。
園芸作物の種類を問わず適用可能な害虫防除用LED照明技術の開発 広島県立総合技術研究所
石倉聡
申請者らは、これまでに「防蛾効果あり」、「キクに開花遅延なし」及び「ヒトに不快感なし」の三つを同時に満たすLED照明技術に見通しを得ているが、当該技術の実用化にはキク以外の園芸作物全般への利用展開を迅速に進める必要がある。そこで、本研究では夜蛾類の被害が問題となっている園芸作物のうち、キクと同様に照明の影響を受けやすいイチゴを対象として、適用可能な照明条件の特定を試みた。その結果、実際の利用場面より遥かに過酷な照明条件を設定して処理した場合であっても、早晩性の異なる3品種の花芽分化および花芽発達に悪影響はみられず、技術移転及び実用化に向けて、当該技術の高い汎用性を実証することができた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ランニングコストも小さい黄色パルス光による本防蛾技術について、キク栽培での開花遅延がないことに加えてイチゴ栽培での花芽抑制もないことも確認したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、園芸品種、害虫、気温、季節等の異なる条件下で、周波数を含めた最適パルス照明を見いだすと共に、防蛾効果の蛾に対する実データやヒトへの不快感の指標化も試みるなどでの実用化が望まれる。今後は、パルス光による、害虫側の適応能力により忌避効果は長期の連続使用では無効になってしまう恐れがあるので、パルス発生装置の開発に注力するなどで生物の適応能力を回避する技術も開発することが期待される。
菌床椎茸における植氷凍結を利用したナガマドキノコバエの防除技術の開発 島根大学
泉洋平
島根大学
丹生晃隆
菌床シイタケ栽培の害虫であるナガマドキノコバエを、植氷凍結により防除するという新規防除技術の開発に取り組んだ。菌床であっても吸水させれば、-2℃処理においてナガマドキノコバエに植氷凍結を誘導できることを明らかにした。吸水させた菌床を-2℃で処理した後の子実体(キノコ)の発生能力は,5時間程度の処理であるなら、無処理のものと差が無いと示唆された。これらの結果から、今後、大規模実証試験を行い、防除効果と収穫量の関係から最適な処理時間を求めることにより、植氷凍結を用いたナガマドキノコバエ新規防除技術が可能になると考えられる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、菌床シイタケ栽培において、-2℃、6時間の植氷凍結処理で害虫ナガマドキノコバエの90%を超える防除効果が得られることを明らかにしたことは評価できる。一方、高い防除効果が得られる処理時間ではシイタケ子実体の形成阻害が見られており、高い防除効果と形成阻害の解消の両立に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、一定温度ではなく変温条件での処理の検討に加え、実際の栽培現場での実証も試みることが望まれる。
マルチプレックスLAMPによるナシ萎縮病の簡易診断法の開発 愛知県農業総合試験場
永井裕史
NPO法人東海地域生物系先端技術研究会
大石一史
ナシ萎縮病菌(チャアナタケモドキ)および、類似キノコ(チャアナタケ)を検出できるLAMPプライマーを設計し、これら2種を同時に色で判別できるマルチプレックス検出技術を開発した。発病樹試料をオガクズ状に削り、バッファーに磨砕懸濁するだけでDNAを簡易に抽出できた。解体調査で菌の侵入侵食経路を解析し、年輪調査用キリで極少量試料を採取する最適部位を決定した。年輪調査用キリで採取した極少量試料からDNAを簡易抽出し、マルチプレックスLAMPで診断した結果、61%がキット抽出(DNAすいすいW)の結果と一致した。発病樹では75%が一致したが、無病徴樹の一致は33%であり、樹体内菌密度が非常に低い場合はDNAのキット抽出が有用であった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、LAMP プライマーを設計しナシ萎縮病菌の2種を同時検出できるようにした点については評価できる。一方、高感度で高精度な現場技術として必要な、簡易なDNAの検出法と少量試料の採取法の開発に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、全国規模での適用を目指して、他の研究機関や企業との連携などによる技術移転(実用化・商品化)の動きをより具体化されることが望まれる。
電気穿孔および真空脱気処理による植物組織への成分の迅速浸透技術の開発 石川県農林総合研究センター農業試験場
三輪章志
特定非営利活動法人近畿アグリハイテク
北村實彬
本研究では、野菜や果実の組織を電気穿孔と真空処理することで破壊して、各種調味液の浸透性を向上させる技術の開発を目標とした。野菜については、電気穿孔と真空処理を組み合わせた処理が混合調味液においても浸透性向上を確認できた。また、野菜組織の破壊程度をNMRで評価しても電気穿孔と真空の組み合わせ処理が最も組織を破壊していることが明らかとなった。このように食品素材の原形をとどめながら、微細に組織破壊することで調味や成分の抽出の効率化が期待できる。今後は、装置製造企業と連携して実用化レベルの装置開発を進めていく。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にある対象物に関しては提案する処理により一部の調味成分の浸透が促進さることが示された点に関して評価できる。一方、技術移転の観点からは、対象により調味液の浸透量の差は大きいことから均一に浸透させるという目的の達成や未評価であった食感の改善など、さらに多くの試料でのデータを蓄積し、どこまで汎用化できるか科学的根拠を示すことが望まれる。
QCMセンサアレイによるエチレン濃度の識別と食品鮮度管理への応用 大阪工業大学
大松繁
大阪工業大学
乙武正文
エチレンに特化して反応する水晶振動子(QCM)匂いセンサの官能膜をゾルゲル法で構成する技術開発とそのセンサをアレイ状に配列したガス計測装置を作製した。とくに、水分やエタノールや様々なエチレン濃度に対する反応特性の差異を利用して、1ppm~1000ppm濃度のエチレンガスを高精度で検出可能なシステムを設計した。さらに、サイズがW×D×H=12cm×8cm×7cmで重量が250gの小型軽量なエチレン識別器を作製し、1ppm以上のエチレンガス発生源を100%の精度で検出できた。したがって、当初の目標は達成されたが、小型軽量なエチレン識別器の場合、未知のエチレン濃度に対してもエチレンの有無を検知することが必要となり、エチレンの有無を識別できる精度が83%であった。したがって、研究開発の実用化に関してはまだ不十分なことも有り、達成度は約85%と判断した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にQCMセンサアレイを用いたエチレンガス濃度を識別するための小型軽量な識別器を作成した技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、エチレンガスの有無を識別できる精度改善と生鮮食品鮮度保持システムなどでの実用化が望まれる。今後は、識別器を用いた生鮮食品鮮度保持システムの有効性を定量的に提示されることが期待される。
キチン・キトサンナノファイバーを用いた植物成長調整剤の開発 鳥取大学
上中弘典
鳥取大学
山岸大輔
本課題では、甲殻類等に含まれるキチンとその誘導体キトサンを超微細な繊維として調製した独自の素材キチン・キトサンナノファイバー(NF)がもつ機能を利用し、本素材の特性と安全性を生かした新しい植物成長調整剤の開発に関する基礎知見を得ることを目的とした。その結果、複数の植物種を用い、キチン・キトサンNFがもつ高い植物の生長促進効果を明らかにした。また本効果に関して、その作用機作に関する新規知見を得ることができた。今後は、得られた知見と知財、および独自にもつナノファイバー化技術をベースに、関連企業と連携してキチン・キトサンNFを成長調整剤として実用化するための試験研究を継続していく予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、キチン類による成長促進効果を複数の作物で確認し、その効果に窒素吸収の促進過程が関係することを示したことについては評価できる。一方、キチンオリゴ糖と費用対効果も含めて比較検討するなど、ナノファイバー化の優位性の明示に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、植物工場なども含めた実際の栽培現場での有効性についての検討と併せて、多種多様な中の一部にでも他技術に勝る効果を発見するための地道な検討もされることが望まれる。
無線センサネットワークにおけるセンサノード3次元位置推定方式の研究開発 関西大学
滝沢泰久
関西大学
曽根裕文
3次元NLOS混在環境において,4アンカノードで多数の無線センサノードの位置を高精度に推定する方式を我々が提案するSOL以下の手順で研究を進めた.
・位置推定において無線センサノードの省電力化と位置精度の向上のため,クライド環境を用いたシステム構成とする集約型SOLを考案した.さらに,WSNの実トポロジに非依存で推定位置を高精度化する仮想トポロジを考案した.
・集約型SOLにおいて2次元NLOS混在環境でシミュレーション評価と実機評価を行い,高精度な位置精度を確認した.
・集約型SOLを3次元化し,3次元NLOS環境でシミュレーション評価を行い,高精度な位置精度を確認した.
精度としては目標精度に至らなかったが,その精度は十分に高精度であり非常に有用性があることを確認した.
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に「自己組織化マップアルゴリズムを用いたノード位置推定方式」に関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、配置距離の推定誤差精度を当初目的の5%程度にすることの改善が望まれる。今後は、橋梁や橋脚などの構造物モニタリング等の実サービスに適用できることを実証されることが期待される。
廃瓦骨材の内部養生を活かした高強度フライアッシュコンクリートの開発 広島大学
小川由布子
広島大学
野村武司
本課題は、廃瓦骨材の内部養生効果による高強度コンクリートへのフライアッシュの有効活用のみならず高性能化を目標とし、フライアッシュコンクリートにおける所定の初期強度の確保、および廃瓦骨材の内部養生による蒸気養生を行ったコンクリート組織の改善を検討した。この結果、フライアッシュをセメントに対し40%置換した場合であっても、水結合材比30%で早強セメントを用い蒸気養生することで、材齢1日の圧縮強度が35N/mm2以上となり、プレストレストコンクリート構造へ適用できる可能性が示された。また、フライアッシュ40%置換したコンクリートに、廃瓦粗骨材を内部養生材として粗骨材に対し10%質量置換して混入することにより、材齢初期にコンクリート内の相対湿度を高く保持し、その後の圧縮強度、中性化抵抗性、塩化物イオン浸透抵抗性が向上する可能性が示された。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、廃瓦という廃棄物及び産業副産物であるフライアッシュを有効利用し、既往のコンクリートより高性能な材料を開発しようとする積極的な着想のもとに、目標圧縮強度を達成したことについては評価できる。
一方、実用化に際しては廃瓦骨材からの水分供給に関するメカニズムモデルの構築などの技術的な検討とともに、企業との産学連携によりコンクリートとして求められる物性を定量的に設定し経済性や環境性などを考慮のうえ材料の最適配合などの技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
本研究は、地域の廃棄物や産業副産物の有効利用に関連するものであり、社会的意義は大きく、今後の進展が望まれる。
小麦粉製品に物性向上と機能性をもたらす新たな技術の開発 鳥取大学
田中裕之
鳥取大学
山岸大輔
自然界に広く存在するキチンやキトサンなどのバイオポリマーは、増粘剤としての特性や食物繊維としての機能性・安全性から食品への応用が進められている。しかし、水に不溶であるため、加工性の問題から実用化が困難な場合がある。これまでに私たちは、バイオポリマーをナノファイバー(NF)化することにより、水中に分散させることを可能にした。本課題では、それらを小麦粉に加え、製パン性を評価した。その結果、キトサンNFと比べ、キチンNFを加えた小麦粉では、生地強度が強化され、パン容積も増大し、製パン性を顕著に向上できた。今後は、機能性評価を行うとともに、米粉へのバイオNF添加についても検討する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、パン用小麦粉(薄力粉・中力粉)にキチン・キトサンナノファイバーを添加することで製パン性が向上することを示したことについては評価できる。一方、食味試験などパンに求められる機能性や官能試験、キチン・キトサンナノファイバーの食品用途に必要な各種の試験に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、米粉への応用展開や他のデンプンとのブレンド研究もあるが、コストを含めた実用的な研究開発を進めることが望まれる。
乳製品中のアレルゲンを選択的に除去する特定タンパク質吸着剤の開発 産業技術総合研究所
永田夫久江
独立行政法人産業技術総合研究所
飯田康夫
本課題は、特定のタンパク質のみを吸着することのできる“単一吸着アパタイト”の合成方法を新たに開発し、その成果を、乳製品に含まれるアレルゲン吸着除去に適応しようとしたものである。タンパク質吸着剤に用いる材料としてリン酸カルシウムセラミックスの一種であるアパタイト粒子を用いた。アパタイトは、タンパク質を良く吸着する材料として知られているが、特定のタンパク質に対する選択性を持たせることは困難であった。これに対して本課題では、目的とするタンパク質のみを吸着する“単一吸着アパタイト”を開発し、アレルゲンタンパク質を90%以上吸着除去可能であり、かつ、他のタンパク質の吸着量が10%以下となる選択性を持った吸着剤を開発することに成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ターゲットのタンパク質に対応したアパタイト粒子を合成する方法で、特定のタンパク質のみを吸着する単一吸着型のアパタイトを作成し、アレルゲンタンパク質を高い選択率で吸着除去できることを検証した技術に関しては評価できる。
一方、技術移転の観点からは、メカニズムの検討を行いつつ実用化のための問題点と本技術の波及範囲を整理し、新たな特許をまずは出願するなどでの実用化が望まれる。
今後は、前述のメカニズムや問題点と波及範囲の検討のためにも本技術を積極的に公開されることも期待される。
放射性有機廃液がゼロとなる新型トリチウム測定器の試作開発 お茶の水女子大学
古田悦子
お茶の水女子大学
北岡タマ子
申請当初の予定通り、手持ちの光検出試作器の改造を行い、プラスチックシンチレータペレットを用いたトリチウム水の測定を可能とする検出器を作成した。予定とは異なり、容器の材質として用いることができたものは石英とアクリルであった。蓋部分の溝切が不可能とされた石英容器も、張り合わせにより作成するアクリル容器も、気化したトリチウム水のリークを抑えることができなかった。また、容器の構造も不適切だったのか、従来の円柱形バイアルほどの計数効率を得ることができなかった。これらは試作してみて得られた貴重なデータであり、今後は、テフロン製でのノーリークな容器の作成を試みるとともに、容器形状を円柱形として測定可能な試作器の作成を検討する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、放射性有機廃液の発生をゼロにすることが可能な、プラスチックシンチレータペレットを用いたトリチウム検出器の試作を行い、当初目標は長時間測定により達成され、シンチレータの再使用が可能であることが確認されたことは評価できる。一方、計数効率の向上のため光学系の見直しやリークについては材料情報を集めて計画をたてるなどの技術検討が必要であると思われる。今後は、低レベル放射線測定において社会的なニーズがあるため、明らかになった課題を踏まえ測定容器の設計・製作を進めていただきたい。
食品の品質管理のためのラマン分光イメージング装置の最適化 農業・食品産業技術総合研究機構
佐々木啓介
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
相川勝弘
食品の品質管理に適した分光イメージングに必要な最小限の空間分解能を明らかにするために、実際の食品(挽肉)を試料とし、主要成分(脂肪)の分光分析結果におよぼす空間分解能の影響を調べた。食肉を構成する単位(脂肪細胞、筋細胞)の大きさは50μm程度であり、空間分解能50μmで取得した9801点のデータの平均値に対して、空間分解能を下げたときに生じる誤差を求め、データの試料代表性を評価した。その結果、空間分解能をヒトの視覚の空間分解能程度(200~300μm)に下げても、50μmの測定結果との許容誤差3%程度の高い信頼性を保つことができた。空間分解能を50μmから200μmに下げ、かつ多焦点測定方式を採用することで、実際の食品全体(5×5 cm程度)のイメージを、1時間程度で取得することができると考えられた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、空間分解能を落としても強度誤差には測定上影響を及ぼさないと云う、ハードウェアの必要スペックの高速処理に関する知見を得たことについては評価できる。一方、もう一つのハードウェアの必要スペックである豚由来の脂肪を分離検出するための良質なスペクトルの取得にに向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、実装置での検証に向けた装置側の課題を改めて整理されることが望まれる。
外力による人体損傷評価用疑似皮膚の開発 山梨大学
伊藤安海
山梨大学
還田隆
本研究では独自に開発した測定系を用い,①皮膚動的粘弾性調査,②皮膚緩衝性能調査、を実施したうえで表皮・真皮・皮下組織に力学的特性が近い工業材料を選定して組み合わせることで打撃事件の鑑定や医療や安全性評価の現場で受傷リスク評価に用いることが可能な「外力による人体損傷評価用疑似皮膚」の開発を目指した.その結果,すべての特性を人体に合わせるためには表皮代替材に適度な張力を与える必要があることが明らかとなり,人肌ゲルを20%張力を加えた医療用ドレッシング材で覆うことで硬度,動的粘弾性,緩衝性能が20代男性の標準的な皮膚に酷似した疑似皮膚の開発に成功した. 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、皮膚のせん断方向、圧縮方向それぞれの力学的特性を明らかにすることができ、所期の力学的特性を持つ疑似皮膚のプロトタイプ開発に成功したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、工業製品として、プロトタイプから脱却し安定した物性を持った疑似皮膚が得られるよう、企業との協力関係を保ちながら研究開発を続けることが望まれる。今後は、法医学データ取得などの社会的利用のほか、人体損傷を伴う事故の解析や自動車などの安全性評価への展開が期待される。
ホタテ加工残渣(ホタテウロ)の畜産用飼料化技術の研究開発 弘前大学
福田覚
弘前大学
上平好弘
目標達成するため、初めにホタテウロが可溶化(スラリー状)となる適切な条件を探索し、スラリー状にする条件を確立することに成功した。次に競争吸着法により、脱カドミウムしたホタテウロはカドミウム濃度が1.7mg/kgを示し、飼料安全法の3.0mg/kgを下回った。したがって、目標である競争吸着法によるホタテウロのカドミウム分離条件の確立を達成した。脱カドミウムしたホタテウロは液状のため乾燥する必要があり、脱脂米糠に吸着させ乾燥後、大豆粕の代替として利用できるかどうかの検討を行った結果、代替できることが分かった。今後は実際に畜産用飼料として利活用可能か実証への展開が考えられる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、スラリー化工程を加えることで、大きなスケールでも目標の(2ppm以下)カドミウム除去を検証したことについては評価できる。一方、プロセス上の改善点を経済的視点を踏まえて抽出するなど飼料化における収支計算や飼料としての嗜好性の確認に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、本飼料の利用者の視点に基づくメリットの具体的な提案をされることが望まれる。
カーナビ風のシーナビによる海難防止を目指す海上交通の研究 神戸大学
塩谷茂明
公益財団法人新産業創造研究機構
伊賀友樹
道路交通ではカーナビが運転支援として一般に普及するが、海上交通では経験と少ない情報量の旧体制で運航している。カーナビは多様な交通情報が提供され、事故軽減や渋滞回避などに功を奏する。海上には車線の概念がなく、自由航行が衝突、座礁の原因となる。本研究の目的はカーナビの概念を取り込むシーナビによる航海支援システムの構築である。三次元海図の作成をベースに、様々な航海情報を組み込み、システムの高度化ができたことは、概ね課題の目標を達していると思われる。今後は、海域の拡大、より一層のシステムの高度化を図る。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、概念的設計に基づく、3D図面や様々な航海情報の取り込みと合成、システム化が行なわれ、次に進むための技術課題が明らかにされたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、実用化に向けた設計は多岐に渡って統合化される必要があり、重要部分を絞り込んで早く特許化を図るなど取捨選択が必要であり、また、技術的にはカーナビなどの技術者や評価に関して他大学などの協力を得るなど関係機関と協調、連携することで完成度を上げることが望まれる。今後は、ビジネス面での課題抽出を行い、企業と連携して課題を解決することが期待される。
PC鋼材を腐食から守るためのイオン交換樹脂混入再注入用グラウトの開発 埼玉大学
睦好宏史
埼玉大学
笠谷昌史
現在我が国のコンクリート橋のうち,約60%がPC橋で,グラウトの未充填なものが多数判明している。さらに、ダクト内には塩分が付着しており、塩分を吸着できる再注入用グラウトの開発が求められている。本研究開発では、イオン交換樹脂を混入したグラウトについて、要求される性能(強度、ブリージング、粘性)を満足する配合を明らかにした。さらに、イオン交換樹脂を混入した再注入用グラウトにより、PC鋼材に付着した塩分をどの程度吸着できるかを明らかにした。次の段階として、実PC橋に適用し、製品化することを目指すものである。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、グラウト未充填のPCシース内の塩化物イオンをイオン交換樹脂を混入したPCグラウトで吸着しようという発想は新規性があり、塩化物イオンを吸着できることを確認したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、共同研究に興味を示している企業がいることから、産学共同研究の開発ステップにつながる可能性は高いと判断される。本研究で開発された再注入用グラウトがPC鋼材の塩害腐食を防止できるか否かは実橋梁等に適用して、さらに検討が必要であるが、PC橋の再健全化、長寿命化実現などでの実用化が望まれる。今後は、企業との共同研究を進めながら本技術の有効性が検証されることが期待される。
非破壊的なマツタケ特異的菌根検出法の確立 岩手生物工学研究センター
坂本裕一
公益財団法人岩手生物工学研究センター
田村和彦
本課題は、マツタケ菌根の有無を可能な限り非破壊的に検出する手法を開発することを目標として行った。そのための課題として、①より微量の菌根で検出可能にすること、②他の菌根の混入による誤判定を可能な限り減らすこと、③菌根苗の地上部組織(葉や枝)で検出可能にすること、を目指した。①に関しては、申請時点の1/10量程度のサンプル量で検出可能になったことから、目標を達成することが出来た。②に関しては、得られた技術でマツタケ以外の菌根菌ではバンドが検出されなかったことから、目標が達成できたと考えられる。③に関しては、アカマツでマツタケ感染時に特異的に発現する遺伝子を検出することで、ほぼ目標が達成できた。以上のことから、概ね当初の研究目標は達成できたと考えられる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、低侵襲のマツタケ菌根の検出手法を開発すべく設定した、試料量の大幅低減・誤判定の防止などの目標を概ね達成したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、まだ基礎的な段階の成果と思われるので、市場戦略に基づき実用的な技術的課題を明確にすると共に、成果を特許出願や論文発表等の形で公開するなどでの実用化が望まれる。今後は、マツタケのみならず他の菌種へも本成果を展開されることが期待される。
パルスプラズマによるパックした生食用食品の非加熱殺菌技術の開発 山形大学
南谷靖史
山形大学
金子信弘
パックした生食食品の非加熱殺菌ができる方法としてプラズマ殺菌の食品への適用方法の研究開発を行った。ポリ容器でパックした場合を想定し,プラシャーレを用い中の寒天上の菌がプラズマで殺菌できるか検証したところ,バリア放電によりプラシャーレ内部にプラズマが発生し,短時間で完全に大腸菌を殺菌できることが確認された。また実際の食品では重なった部分の殺菌が必要でありプラズマでどの程度重なった部分の殺菌ができるかも模擬して確認した。その結果,重なり部分に隙間がありプラズマ発生部とその隙間が繋がっていれば殺菌できることを確認した。また隙間が密閉されていても,密閉空間に電界を集中させることでプラズマを生成,殺菌可能であることを明らかにした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、パルスプラズマを用いた非加熱殺菌技術を開発、大腸菌の殺菌効果をプラシャーレ培地で確認し、生食食品に対するプラズマ殺菌法の有用性が示された点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、適用できる食品の範囲やプラズマ殺菌による食品影響評価により、それぞれの条件に対する具体的な対応策を示すことが望まれる。今後は、産学共同を通してコスト面での評価、新たな技術的検討課題の明確化と技術改良による実用化が期待される。
強風環境で飛行可能なマルチローター機の開発 横浜国立大学
樋口丈浩
横浜国立大学
原田享
強風環境で飛行可能なマルチローター機の研究開発を行った.従来耐風性能を有しないマルチローター機は風に対する脆弱性を持っており,軟風(風速4m/s前後)程度でも通常飛行は困難である.本研究では強風環境での飛行が可能なマルチローター機に関する基礎的な研究開発を実施し,マルチローター機に耐風性能をもたせるための根幹的技術の発見及び実用化に至った.当初目標の台風クラスの耐風性能には至らなかったが,1秒未満で風上を向く機能を達成した.これは,全マルチローター機に適用可能,且つ,耐風性能をもたせることのできる技術の実現となった.本技術については特許を出願手続き中であり,今後の技術発展及び商品化についても期待できる. 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にマルチローター機の耐風性能改善技術を開発し、瞬時に機首を風上に向けることを実験で証明した点に関して評価できる。一方、技術移転の観点からは、屋外での有用性を示さないと企業の関心は薄れるので、フィールドでの実験とデモを行い産業界へ技術をアピールすることが望まれる。今後は、本格的な定量データを取得する実験(およびその環境整備)を検討するとともに、産業界への技術移転を早急に進めていくことが期待される。
PEBPファミリー遺伝子群ならびにそれらと相互作用する遺伝子群の機能解析に基づく新たなイチゴ栽培技術の確立 名古屋大学
松本省吾
名古屋大学
玉井克幸
栽培イチゴ‘とちおとめ’より単離した花芽分化時のクラウンで発現変動する遺伝子FaTFL2は、異なる品種‘章姫’においても花芽分化時に発現レベルが低下していた。新たに、花芽分化時に発現上昇しているFaFT3遺伝子を見出し、これら遺伝子の発現変動を指標にした花芽分化時期を特定する技術開発に繋がる成果を得た。また、花芽分化時特異的に発現上昇もしくは下降する新奇遺伝子探に向けてRNA seq.解析を実施した。一方、FaFDを単離し発現解析を行ったが、FaFDにはこのような花芽分化に伴う発現変動は見られなかった。前述のFaTFL2の発現変動を指標として省エネ超促成栽培条件の検討を行い、新たな省エネ超促成栽培法を提唱した。結果の一部は、国際誌「HortScience」に“Energy saving seedling production system for super-forcing cultivation of June-bearing commercial strawberry”の題目にて掲載された。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、花芽分化の遺伝子を同定し新しい栽培法を提言したことについては評価できる。一方、花芽分化の遺伝子の発現と果実収量の間の大きな隔たりを埋めるなど、実際の栽培実証試験に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、花芽分化に係る遺伝子情報に基づく実証試験をできるだけ早く具体化されることが望まれる。
陽極酸化チタンの油水分離器への応用 東北大学
水越克彰
陽極酸化後焼成して作製したチタン酸化膜の表面は、焼成のみで作製した酸化膜よりも親水性ならびに撥油性が高く、また含水量が大きく、これらが陽極酸化材の油水分離能の起源であることがわかった。メッシュ状のチタンを用いた油水分離実験では、焼成材が軽油あるいは軽油のモデル物質であるヘキサデカンを透過することがあったが、陽極酸化材は油分を通しにくかった。紫外線の照射の有無は油水の分離に大きく影響せず、基材表面の多孔質組織が重要であることが示唆された。分離可能な油相は基材として用いたメッシュの孔径に依存し、微小な水相の油エマルジョンの透過は完全には抑制できず、基材の形状を最適化することが実用上重要であることが分かった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に陽極酸化後焼成したチタン酸化膜を適用したフィルターによってある範囲までの油分を除去する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、把握された技術課題とその対策案により高油分エマルジョンに対して目標濃度までの除去を実現することが望まれる。今後は、企業との連携によって実用が加速されること、これまでに得た知見を拡大して、広範囲な対象物に適用できるよう、さらなる研究がなされることが期待される。
魚類の免疫特性を利用した新規魚類混合ワクチンの開発 三重大学
一色正
三重大学
松井純
冷水温期に発生するウイルス性出血性敗血症(VHS)を効果的に予防できる新規魚類ワクチンの技術を,発生する時期や魚種がVHSと極めて類似するヒラメラブドウイルス病(HIRRVD)の予防法として応用し,VHSとHIRRVDの両冷水性ウイルス病に対する新規混合ワクチンの開発を試みた。その結果,VHSワクチンの技術はHIRRVDに対しても有効であったことから,HIRRVDの予防法として応用できる可能性が高い。一方,試作した混合ワクチンは免疫誘導効果を示したが,両ウイルス病に対する十分な感染防御効果を発揮できなかった。本混合ワクチンの効果を向上させるには,抗体の関与した免疫系を活性化させる技術開発が必要である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、効果が水温に強く依存する魚類ワクチンに着目し、ヒラメラブドウイルス病に対しても単体のホルマリン不活化ワクチンが有効であることを示したことについては評価できる。一方、単体としては効果が認められているが混合ワクチンとして使用すると効力がなくなる原因を明らかにする技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、対象とする疾病は発生例が比較的に少ないと思われるので、商品化を考える企業連携先も再検討されることが望まれる。
3次元河道縦断形状と接峰面を利用した崩壊可能土砂存在位置検出法の開発 京都大学
齊藤隆志
京都大学
喜多山篤
土砂災害の被害軽減のためには、精度の高い発生位置予測が重要である。本研究では、対象流域の詳細な数値地形図データを用い、不安定で崩壊可能性の高い土塊(潜在崩壊土塊)の位置と範囲を推定する手法を開発した。現行の崩壊予測モデルとは異なり、土層厚や透水係数などの多様な物理パラメータを必要としないことを特徴とする。3次元表示した河道縦断形状から潜在崩壊土塊の位置・範囲を可視化し、流域斜面内の侵食過程やその時間的変遷などについて周辺地域を相互に比較することで、その危険度を評価することが可能となり、当初の目的を達成できた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に3次元表示した河道縦断形状から潜在的な崩壊土塊の位置・範囲を可視化し、現行の崩壊予測モデルとは異なる危険度評価を可能とする技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、崩壊の範囲やタイミングが明らかにされることによって人的被害軽減に役立つ技術の社会還元が期待できるので、土砂災害の被害範囲の想定と人的被害軽減のための避難のタイミング把握など関連技術との協調による実用化が望まれる。今後は、福知山市をフィールドとした実証研究を関連技術を有する企業との共同で進めること期待される。

このページの先頭へ