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事後評価 : 【FS】探索タイプ 2021年12月公開 - 情報通信技術 評価結果一覧

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課題名称 研究責任者 コーディネーター 研究開発の概要 事後評価所見
全二重通信可能なリレーを用いた協力通信の実装からの理論展開 香川大学
石井光治
香川大学
倉増敬三郎
本研究では、全二重通信を実装・評価し、実装により明らかになった技術的問題点を理論へフィードバックし、さらに全二重通信可能なリレーを用いた協力通信のより現実的な設計を行った。全二重通信を実現するためのアナログ領域自己干渉除去(抑制)方法として、a)アンテナ領域自己干渉除去、2)サーキュレータを用いた全二重通信、の2方式を実装した。アンテナ領域自己干渉除去は干渉除去用のRF回路、アンテナが必要であり、かつアンテナ素子配置誤差と設定周波数のずれが性能に大きく依存する。一方、サーキュレータを用いた場合は自己信号の漏洩が発生することを実証した。また実装による知見を全二重通信方式に取り入れ設計した場合においても、全二重通信による効果が非常に大きいことを示した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもリレーを用いた協力通信システムを構築し,基礎的なデータの取得と解析を行い実用化に向けての課題を明確にしていることについては評価できる。一方、このシステムには干渉除去技術が最も重要であり,広帯域でダイナミックレンジの広い特性の実現に向けた取り組みが必要と思われる。今後は、産業界との連携をとりながら標準化,規格化も視野に入れた研究活動が望まれる.
高速大面積非接触3次元表面検査機の開発 埼玉大学
塩田達俊
埼玉大学
北島恒之
1mmあたり80ラインの段差をもつ大口径の空間位相変調器を用いてシングルショット計測を行える干渉計を構築した。干渉波形を測定する際に単一次数の干渉がCCDサイズに一致する様光学調整し、深さ計測の分解能20μm台を得た。
入射光はシリンドリカルレンズを用いて、光形状がライン状になる様に試料に照射した。一方、試料からの散乱光をCCDに結像するために、入射とは直交したシンドリカルレンズをCCD前に設置した。これにより、光散乱を発生する試料を計測した際にもシングルショットの2次元イメージングが可能であることを確認した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に空間位相変調器を用いてシングルショット計測可能な干渉計に関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、本技術の活用可能な分野での特定ニーズに対応して製品仕様展開による実用化が望まれる。今後は、ユーザ企業の確定とともに要求仕様、性能へ技術適用されることが期待される。
基地局・端末キャリブレーション技術によるマルチユーザMIMO通信効率改善手法の開発 新潟大学
西森健太郎
新潟大学
川崎一正
基地局にアレーアンテナを用い,複数の端末と同時に通信を可能とする技術としてマルチユーザMIMOが提案されている.マルチユーザMIMOでは,端末から伝搬チャネル情報を取得する必要があるため,通信効率は大きく低下する.したがって,端末より直接伝搬チャネルを基地局が取得できれば通信効率を向上する.この手法を実現するためには,基地局・端末で送受信装置の振幅と位相誤差を補正するキャリブレーションが必要となる.本研究では,基地局側では送信信号の受信機への帰還から,端末側では制御信号送信時に端末間でキャリブレーションを実現する手法を提案し,実際の環境でその効果を定量的に明らかにした.4素子アレーにより位相誤差が1度以内となること,アレー放射指向性によりほぼ理想どおりの指向性が得られることを明らかにし,当初の目的は達成された. 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に基地局側では送信信号の受信機への帰還から,端末側では制御信号送信時に端末間でキャリブレーションを実現する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、キャリブレーションアルゴリズムの改良、キャリブレーション回路が、受信機間や送・受信機間での影響評価などでの実用化が望まれる。今後は、既存の基地局の送受信装置への適用をどのように行うかなど企業との実用面での研究が期待される。
車載レーダのためのBF-SIMO/MIMOハイブリッドセンシング技術 名古屋工業大学
菊間信良
名古屋工業大学
岩間紀男
車載レーダに、送受とも複数アンテナを用いるMIMO(Multiple-Input Multiple-Output)レーダを用いると、目標物の位置と大きさを検出するための高分解能・高性能な波源推定が可能となり、車載レーダの信頼性を飛躍的に向上させることができる.より高い推定精度と角度分解能を実現するために、MIMOレーダの送信側に拡散符号とマルチビームを用いた複合送信ダイバーシチを、そして受信側には空間平均法を含めたスムージングを導入し、計算機シミュレーションにより特性を評価した.送受とも10素子半波長等間隔リニアアレーのMIMOレーダにおいて、1000波長という十分遠方の目標物からの反射波の到来方向を推定したところ、平均誤差1度以下の推定精度が達成された. 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも拡散符号とマルチビームを用いた複合送信方式において受信角推定精度が向上し、平均誤差1度以下の推定精度が達成したことについては評価できる。一方、課題としてマルチビームの配置方法および演算時間の評価・短縮に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、前方に複数の車両があった場合の分離・認識技術についての検討が望まれる。
タブレット型コンピュータの画面から風や香りが漂ってくるように感じさせる装置の開発 東京農工大学
石田寛
東京農工大学
村田周一
市販のタブレット型コンピュータに装着して、画面から風や香りが出ているように感じさせる装置を開発した。複数のファンで生成した気流をタブレットコンピュータの画面上の狙った位置で衝突させ、その点からユーザの方向へと向かう気流を作り出す。この気流に香料蒸気を混入することで、香りが画面から出ているかのように感じさせる。試作した装置では、画面をタッチした場所から半径3 cm以内の位置に風速や匂い濃度のピークができるようにすること、また、3種類の香りを切り替えて提示できるようにすることを目指し、これらの目標を達成した。今後は、装置の小型軽量化と各種アプリ開発を進め、製品開発に向けて研究開発を継続する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、目標であるコンピュータの画面から風や香りが漂ってくるように感じさせる装置を開発した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、特許出願等の知的財産化に向けた活動が望まれる。今後は、香りや気流による情報の提示は高い将来性が見込まれます。現実的な活用プランを作成し、広く展開していくことがことが期待される。
フォトマスクずらし法による高速人工散乱体作製技術の開発 神戸大学
的場修
神戸大学
高山良一
人工散乱体作製技術はセキュリティ用情報秘匿メディアや複雑な散乱体構造をもつ生体模擬材料などの様々な応用が期待されている。本研究では、フォトマスクによる微細空孔パターンの一括作製と、フォトマスクの位置ずれによる積層ずらし構造とすることで散乱体として利用可能なことを数値シミュレーションにより実証するとともに、空孔体積率と等価散乱係数の間に比例関係が成り立つことを明らかにした。空孔径が2 μmの場合に空孔体積率12%で1 mm-1 の等価散乱係数となる結果を得た。提案した散乱体作製技術により作製時間の短縮と大面積化を可能とし、人工散乱体を利用する散乱エンジニアリングの応用に向けた成果を得た。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、数値シミュレーションによる散乱特性評価に関しては、その目的は達成されており、シミュレーションモデルの作成を行い、散乱特性などの検討が行われ、提案手法の妥当性が示されたことは評価できる。一方、3Dプリンタによる光硬化性樹脂を用いた人工散乱体の製作を行い、実験により提案手法の検証や技術的課題の抽出、データの積み上げなどが必要と思われる。今後は、実験による提案手法の検証を進め、応用展開を見据えた企業等との連携が望まれる。
次世代移動体通信基地局用超伝導送信フィルタの開発 山梨大学
關谷尚人
山梨大学
還田隆
超伝導送信フィルタの課題はトレードオフの関係である小型化と耐電力特性の向上を同時に実現することである.しかし,超伝導フィルタに用いられてきた従来のマイクロストリップライン構造では非常に困難な課題であった.そこで,申請者は新しいフィルタ構造であるダブルスリップ共振器(DSR)構造を開発し,小型化と耐電力特性の向上を同時に実現できることを明らかにするために,4段デュアルモード共振器フィルタを用いて実証試験を行った.その結果,提案構造を用いることで,従来技術では困難であった小型化と耐電力特性の向上を同時に実現できることを明らかにした.今後は入出力の給電部分に損失となる原因があるため,給電方法を改善し低損失化を目指す予定である. 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にダブルストリップ構造を用いた4段デュアルモード共振器フィルタの設計、製作、および実験より、小型化と耐電力特性の向上が検証されている技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、更なる省電力化、伝送特性の改善などでの実用化が望まれる。今後は、企業等との更なる共同研究を進められることが期待される。
量子計算機への耐性があり個人情報を漏えいしない情報通信の実現 岡山大学
野上保之
岡山大学
村上英夫
本研究開発では、量子計算機に対抗する次世代の暗号技術(耐量子暗号)の一つとして注目される格子暗号に対して、我々が提案するスケーラブルなベクトル乗算アルゴリズムCVMAを適用することの可否、安全性への影響、および計算効率の評価を行った。その結果として、格子暗号の一つであるNTRU方式に対して問題なくCVMAを適用でき、その安全性についてもNTRUの安全性に準拠するものであることを確認できた。そして、CVMAの特長であるスケーラビリティにより、格子暗号の暗号強度を柔軟に調整できることをプログラミング実装により確認し、一方でその計算処理はいまだ現実的なレベルに達していないことを確認した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にCVMA方式を格子暗号として従来のNTRU方式と同等の安全性を持つものであることを確認している技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、暗号強度を調整するための次数の高いCVMAの処理速度の高速化技術の開発が望まれる。今後は、極力多数のシステム上での有効性を示されることが期待される。
光飛行時間型距離撮像デバイスによる非接触3次元スキャナの開発 静岡大学
安富啓太
公益財団法人浜松地域イノベーション推進機構
稲垣安則
本研究課題では、高距離分解能TOF距離イメージセンサによって、超小型かつ高速化が容易な新たな非接触3次元スキャナの実現に向けて、距離分解能300μm以上の第一試作機を開発した。これまでの光学定盤上で行っていたセンサ素子評価系から、距離センサ、短パルスレーザ等を一体化したTOF型3次元スキャナの構築した。目標とした距離分解能300μmのは達成出来ており、フレーム平均を行うことで更に距離分解能を高めることが出来ることがわかった。ハーフミラーを介さない非同軸系の光学系と繰り返し周波数の向上により、基準球の3次元データの取得に成功した。TOF型3次元スキャナの実用化に向けて、今後は更なる距離分解能の高いTOF距離イメージセンサを開発する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、3次元スキャナーを試作し目標とした距離分解能以上を達成していることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、実用化を目指し測定対象を広げた計測データの取得や解析などが望まれる。今後は、更なる高分解能を目指ことが期待される。
観察者の目の前へ仮想物を結像させるためのフライアイレンズ方式3Dディスプレイに関する研究 九州大学
石原由紀夫
九州大学
伊藤範之
カメラの30cm前方に結像された仮想物へ、カメラによるオートフォーカスが可能であるための、フライアイレンズアレイ(FELA)の小レンズとMCOP(Multiple Center Of Projection)画像のサイズを明らかにすることが目標である。様々なサイズのFELAとMCOP画像をコンピュータ上でシミュレートし、FELAの正面に現れる仮想物を仮想カメラにより撮影した。撮影された仮想物のコントラスト値を算出し、その理想値の80%を達成するときの、FELAの小レンズとMCOP画像のサイズを求めた。今後は、本課題の結果に基づき、3Dディスプレイを早期に試作する予定である。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特にカメラの前方に結像された3D仮想物へ、カメラによるオートフォーカスを可能とするための、フライアイレンズアレイ(FELA)によるシミュレーション技術を開発し、実際に機能する事を確認している技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、フライ・アイ・レンズ・アレイの共同開発や、ヘッドマウントディスプレイへの応用などでの実用化が望まれる。今後は、3Dオブジェクトを高速にMCOP画像に変換する技術についても開発されることが期待される。
高レベル放射線環境に向けた耐ソフトエラー集積回路の研究 筑波大学
安永守利
筑波大学
畠山靖彦
中性子線は,遮蔽が困難な放射線である。このため,廃炉作業用ロボット制御など,高レベル放射線(中性子線)下で使用する集積回路には,故障(ソフトエラー)対策が必須である。本研究の目的は,高レベル放射線下でも故障を回避できる集積回路方式の提案とその実験検証である。本研究の結果,提案する多重化回路により耐故障性を向上でき,かつ,1Gbps/チャネルの高速送受信と1n秒でのソフトエラー修復が可能であることを確認した。更に,今後の詳細設計に必要な中性子線の飛程距離測定に向け,その測定用回路の動作を確認した。今後,飛程距離測定用集積回路を試作し,中性子線照射実験により飛程距離を実測し,提案集積回路の具体化を進める。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に放射線環境向けの新たな耐故障回路を提案し,その有効性を書き換え可能集積回路(FPGA)により評価する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、手法の得失比較など評価・実証が必要であり、ソフトエラー発生箇所が限定されていることや回路面積の大幅な増加(通常回路の3倍以上になる)の妥当性検討が望まれる。今後は、要求仕様に対応した形で面積オーバヘッドの妥当性の検討やユーザ企業などから意見聴取されることが期待される。
サブミリスケール物体操作のための微小ハンドアイシステム 立命館大学
下ノ村和弘
立命館大学
國友美信
本実施期間では,具体的な微小物体操作タスクとして,電子回路チップ部品のハンドリングを想定し,そのための装置(a),(b)を製作した.(a)カメラに装着したテレセントリックレンズ物体側に透明材料を用いて設けた密閉空間内を負圧にし,カメラ光軸上に開けた微小孔部で対象部品を吸着する.カメラで吸着前後の対象物が継続的に撮影できるため,吸着時の対象物の位置姿勢計測や,位置決めが可能である.(b)また,小型複眼カメラとその前面に取り付けた透明柔軟材料を用いて,微小物体を凝着によりピックアップする指型デバイスを試作した.複数の個眼画像を用いて,対象物の位置姿勢や凝着状態のセンシングが可能である. 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも当初計画のドーナツ型イメージセンサの設計については、レベルダウンしたものの、試作には成功しており、可能性を示した点については評価できる。一方、当初計画に提案されていた小孔を通したマニピュレーションについては未検討であり、微小マニピュレータを小孔を通して使用するための技術検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、ドーナツ型イメージセンサの特長を活かすべく、小孔を通したマニピュレーションの実現性を追求すること、他方式(たとえば光ファイバ)との比較を含めたニーズ(目標仕様)を把握するためにも早期に企業との接触を行うことが望まれる。
ドライブレコーダの映像解析による危険動作の自動検出 愛媛大学
木下浩二
愛媛大学
吉田則彦
ドライブレコーダに記録された映像を解析し,脇見や助手席の物を触るなどの潜在的な危険動作の自動検出を目的とする.危険動作は上半身の大きな動きを伴うので,まず,顔検出結果を利用して上半身領域を設定する手法を開発した.次に,設定した上半身領域で見かけの動きを算出し,危険か否かを判別する特徴量を設計した.実画像で検証した結果,上半身領域の検出率は約97%であった.また,機械学習を用いて危険動作を検出した結果,約82%の検出率であった.
今後,より多くのデータを集め,さらに検証を行う必要がある.また,携帯端末の操作などの大きな動きを伴わない危険動作を検出する手法の開発が必要である.
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に上半身領域を自動設定し、見かけの動きを推定し,特徴量を算出,危険動作を判定する手法により実際のビデオ画像を用いてアルゴリズムの開発と評価を行っている技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、脇見運転の検出精度の向上が課題として挙げられており,ドライブレコーダーで得られる他のデータと統合して誤検出を低減することなどでの実用化が望まれる。今後は、学習に基づく手法,特にニューラルネットを応用するのであれば,適切な特徴抽出することが期待される。
超低消費電力フェーズドアレイ型多チャンネル光スイッチの開発 神奈川工科大学
中津原克己
神奈川工科大学
野々山登
本研究では、多チャンネル光スイッチの超低消費電力化を可能にする強誘電性液晶を用いた新たな構造のフェーズドアレイ型光スイッチを提案し、その動作実証を目指した。
素子の設計、理論解析、製作プロセスの検討を行い、強誘電性液晶装荷可変位相シフタを組み込んだフェーズドアレイ型光スイッチの製作に成功し、C-bandを含む通信波長帯の光を一括して切り替えるスイッチング動作を実証した。さらにフェーズドアレイ導波路の小型化(開発目標素子サイズの50%以下を達成)、可変位相シフタ部分の強誘電性液晶の配向状態の観察を行い、フェーズドアレイ型多チャンネル光スイッチの高機能化および複数集積化したN×N光スイッチの実現に向けた検討を行い良好な結果が得られた。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に強誘電性液晶を用いたフェーズドアレイ型光スイッチの動作実証とともに、当初目的よりさらに小さい素子を実現している技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、強誘電性液晶の特徴に基づく自己保持動作の検討や基本的な素子の安定性(特に強誘電性液晶の配向安定性)はどでの検討が望まれる。今後は、企業との連携や、コスト面や、温度特性などの評価検討が期待される。
能動的な音響計測に基づくプロトタイピング技術 筑波大学
志築文太郎
筑波大学
竹内洋生
申請者がこれまでに見いだした「能動的な音響計測による把持状態認識」は、物体がどのように触られているのか(すなわち把持状態)を、物体を様々な周波数で振動させその響き具合を見ることによって簡単に認識できるという非破壊的かつシンプルな原理(以降基本原理)である。申請者はこれまでこの基本原理を示し、さらにこの基本原理が一組の振動スピーカとマイクとを使って実装可能であること、様々な把持状態の認識に応用できることを明らかにした。本研究開発では、この基本原理を把持状態に加えてその強度という連続量も認識するものへと拡張し、これをソフトウェアパッケージ化した。このソフトウェアパッケージを用いれば、UIデザイナは一組の振動スピーカとマイクを購入して試作品に取り付け、把持状態とその強度に応じて振る舞うUIデバイスの試作が容易に行える。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にマイクとスピーカーを取り付けて、任意の物体の把持状態や把持力を認識するためのソフトウェアがパッケージ化された点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、ソフトウェアの動作は、マイクとスピーカーの個体差に依存するように思われるので、対応策について事前に検討されることが望まれる。今後は、筋電位等を利用した測定など他の方法に対する優位性を示すことが必要である。
大規模データの特性に応じた地形図への容易な視覚化モデルの提案 名古屋大学
廣井慧
名古屋大学
富田竜太郎
本研究は、大規模データの特性に応じた地形図への容易な視覚化を目指し、モデルの検討とプロトタイプの開発を行った。空間表現の限られる既存視覚化手法に対し、目的に応じた表現の格子分割手法を選定し視覚化できるほか、異なる形式のデータを統合できる柔軟な空間分析を可能にした。洪水の事例において空間的な適合率の向上が確認でき、当初の目標を達成した。また、本技術の応用として、本プロトタイプを利用した避難経路提示システムを構築した。今後はさらに適用事例を増やすとともに容易な情報視覚化の環境を企業自治体へ提供するため、産学共同にてサービス、システム開発を行い、技術移転を進める。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に自律選定可能なプロトタイプを実現し、大規模データを用いた応用例として、Emergency Routingシステムを開発し、また選択経路をの精度評価も行っている技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、データモデルの拡張(時空間データ)に加えて、ユーザインターフェースの改善、視覚化モデルの追加に対する柔軟性、プラットフォームにポータビリティの実現などでの実用化が望まれる。今後は、大規模データの処理速度向上、高速な自空間分析技術向上が期待される。
マルチチャネル非負値行列因子分解に基づく音場分離手法の開発 静岡大学
立蔵洋介
本研究課題では,複数の音源が存在する環境において,任意の音源によって生成される音場情報を抽出する手法の確立を目指し,各基底を拘束するマルチチャネル非負値行列因子分解(MNMF)に基づく音源分離アルゴリズムを開発した.検討の結果,各チャネル個別にNMFを行う従来の分離方式に比べ,演算時間を約25%削減できた.次に,類似する基底を削減する手法を構築したところ,分離精度の低下を最小限に抑えつつ,従来法に対して約40%の演算量削減に成功した.今後は,分離した各音を波面合成(WFS)方式によって再生したときの音質や定位感精度についての主観評価を通じて,分離アルゴリズムの精緻化と更なる高速化をすすめるとともに,音場の再生方式についても調整を行うことによって本手法の実用化を目指したい. 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に音場の分離性能をほとんど落とすことなく、演算量を従来法に比べ40%削減している技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、分離した信号を用いて音場を再現する研究の推進などでの実用化が望まれる。今後は、共同研究先の企業との間で、今後の具体的な研究計画を立て、早期に実行されることが期待される。
一般的な印刷物やサイネージ映像から気軽に情報を得られる電子透かし技術 大阪府立大学
岩田基
大阪府立大学
上田卓司
映像を対象とした研究開発内容として,従来手法では16ビットだった埋め込み可能ビット数を22ビットに拡張した上で,画質の評価指標である透かし入り動画像のPSNRを34[dB]以上にできた.また,300[ms]~476[ms]という短時間で正しい透かし情報を誤りなく抽出できることを確認した.印刷物を対象とした研究開発内容として,サーバとの通信を要するものの,画像検索技術を応用して「特別なマーカーや枠を必要とせずに透かし入り印刷物の位置を特定できる」という当初目的を達成できた.また,画質の評価指標である透かし入り画像のPSNRについても42[dB]以上を実現できた.さらに,QRコードにも使われているパターンを採用した従来手法では左右45度の角度からは透かしを抽出できなかったのに対し,開発技術では92%~98%という高い割合で正しく透かしを抽出できた.抽出にかかる時間は,サーバとの通信時間を含めても900[ms]と,1秒以内での抽出を実現できた.今後は,学会発表,新技術説明会その他への参加計画等を通じて共同研究パートナー企業を求める. 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも透かしが埋め込まれたサイネージ映像領域を自動検出し、情報を得られる電子透かし方式については評価できる。一方、実用化には埋め込み可能ビット数を従来16ビットから22ビットに増加しているが、更なるビット数の増加が必要と思われる。今後は、提携する企業を見つけるために社会ニーズとの関連を明確化されることが望まれる。
自律飛行型ヘリコプター向け自動無線給電装置の開発 九州大学
服部励治
本研究開発では、自律飛行型ドローンが着陸する際に、自動的に充電を行い広い給電範囲を持つ無線給電システムと、自律着陸位置精度の向上を目指した着陸位置検知アルゴリズムの開発を行った。その結果、高効率でコンパクトなISMバンド(6.78 MHz)50 W級高周波電源を設計・作製を行い、横15 cm、縦25.5 cm、最大角度誤差45°の着陸範囲をもつ自動無線給電着陸基地を作成に成功した。加えて、この着陸範囲に正確に着陸させることのできる位置検知システムと自律飛行型ドローンの着陸位置検知アルゴリズムを開発した。また、このシステムを用いた遅延耐性ネットワークを思考し、情報ネットワークの耐性強化に向けた研究を行うことができた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に自律飛行型ヘリコプターの給電に無線電力伝送を使用するシステムが実現できたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、個々の技術の完成度を上げて当初の目標を達成することが望まれる。今後は、要素技術ごとに問題を整理して検討をして、開発を進めることが期待される。
回折イメージングのための幾何計量による超高解像技術の開発 室蘭工業大学
塩谷浩之
室蘭工業大学
宮澤邦夫
回折イメージングとは物体波の強度分布から物質構造を求める顕微法であり,位相回復による非周期な物質構造解析である.回折イメージングの実験研究が進むなかで,量子ノイズや光源のダイレクトによる欠損などのフーリエ変換から乖離した回折パターンからの位相回復において,解を一意に収斂させられない問題が取り残されている.本課題においては,実像の関数空間の幾何計量を導入し,球殻構造を成す弱位相回復解の領域を逐次的に構成するアルゴリズムを開発し,弱位相回復像群からの平均化を効率的に行える新しい手法を開発した.数値シミュレーションによる有効性から,顕微法用の実用計算開発に移行できることを確認した. 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもX線放射光や電子線において良質な回折像を得るために効率計算を主にして、アルゴリズムと計算環境を構築している点については評価できる。一方、TEMなどの装置において、回折イメージングの有用性を示すなど実用に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、技術の確立という観点からの産学連携の研究推進が望まれる。
「自分ロボット」による存在感転送型コミュニケーション技術の開発 関西学院大学
山本倫也
関西学院大学
丸本健二
人々のライフスタイルの変化に合わせ、一体感が実感できる遠隔コミュニケーションが求められている。本研究では、自分そっくりのロボットを相手の手元で組み立てることで存在感を転送し、コミュニケーションを支援する「自分ロボット」の開発・評価を行った。まず、ベースとなるロボットフレームに、テンプレートから作成された自分の顔と服を取り付けることで、デフォルメされた自己のロボットを容易に製作可能とした。次に、音声から自動生成されたコミュニケーション動作に自己の動作を重畳させることで、相手側でハンズフリーでロボット動作を生成するシステムを開発した。評価実験を行った結果、人と人をつなぐ新たなメディアとしての自分ロボットの有効性が示された。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも「存在感転送型コミュニケーション技術」の実現において既存技術をうまく組み合わせてスピーディーに研究開発を行っている点については評価できる。一方、離れた場所でのコミュニケーションに役立つことから、一般社会で、特に高齢化社会において有用と考えられる一方、どのような使用場所を想定するかによって、自分ロボットの製作仕様を大きく変えるニーズが予想されるので引き続き技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、ヒューマノイドメーカとの連携や、具体的なフィールドや応用事例などを開拓されることが望まれる。
人の関心や状況を理解して共助を支援する実世界マッチング技術の開発 神戸情報大学院大学
横山輝明
日常生活における「助け合い」の実現には、困っていることに対して、能力や状況(居場所、時間の有無など)に応じた人の出会いが重要である。本研究では、スマートフォンやセンサによるユーザ状況の収集と、それらの情報に基づいたユーザ間の多面的かつ動的な距離の計算により、困っている人と助けられる人を、それらの多面的な側面から結びつけるユーザ間マッチングシステムについて研究開発した。実証実験では、システム実装による概念検証は完了したが、ユーザ参加を促す工夫が必要との課題が残った。外部発表にて、複数の企業より事業化への関心の反響を得た。本システムのニーズは確認できており、実サービスとしての実現には引き続き取り組む。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもセキュリティーやプライバシといった個人情報の秘匿性確保は重要な技術課題であるスマートフォンを利用し、高齢者や若者のマッチングを支援する技術は応用範囲が広いことについては評価できる。一方、「人」を結びつけるだけでなく、「回答」を求めるニーズが大であり、ここをどう実現するかについても検討することが必要と思われる。今後は、セキュリティやプライバシといった個人情報の保護・秘匿性確保は重要な技術課題であり、並行して開発されることが望まれる。
位相感応光増幅を用いた光SSB・DSB変調変換器の研究開発 山形大学
高野勝美
光通信ネットワークのコア領域では光単側波帯(SSB)変調方式を利用しアクセス領域では光両側波帯変調(DSB)変調を使えば、周波数帯域の有効利用と光送受信器の簡易化が実現できる。そのために光処理で光SSB・DSB変調の変調変換することが求められる。本研究は光SSB変調から光DSB変調に変換する光技術の研究開発を行った。光SSB信号は片側側波帯抑圧に寄与する直交位相成分を持つ。位相感応光増幅は励起光に直交する位相光を減衰させるので、片側側波帯抑圧を解き光DSB変調に変換できる。本研究では、位相感応光増幅を利用した変調変換技術の理論検討を進めた。その結果、位相感応光増幅器利得と出力光のスペクトルにおける側波帯抑圧比の関係が明らかになった。15dB以上の利得を持つ位相感応光増幅器を用いれば光SSB信号を光DSB信号に変換できることがわかった。また、情報信号における不要成分の混在についても検討した結果、増幅器の励起光に0.1radの位相制御が必要であることがわかった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも光・電気変換を経ることなく位相感応光増幅器を用いた全光学的手法によ光SSB/DSB変換の可能性を示している点については評価できる。一方、高精度な光波位相制御が必要という技術的課題に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、DSB-SSB変換、SSB信号の高密度WDM、SSB-DSB(一括)変換の全体を通じた実証実験を行い、実用化の可能性が明らかにされることが望まれる。
暗号化データ処理基盤システムの研究 筑波大学
川島英之
筑波大学
竹内洋生
暗号化データベースシステムはデータを暗号化することにより情報漏洩対策を行いながら,正規のユーザは従来のデータベースシステム同様に動作させることができるシステムである。OLAP 等データ分析において重要な演算である総和計算は暗号化データベースシステム上での実現に必要な準同型暗号が必要となり、これは平文での演算と比較してコストが高い。本研究では暗号化データベースシステムにおける総和計算の並列化手法を提案した。提案手法はブロックサイクリック分割方式をカラムストア形式で稠密格納された準同型暗号集合に適用する。提案手法は暗号化総和計算を従来技法に比べておよそ3.7 倍高速化した。今後、暗号化データ処理の対象範囲を選択・射影・結合まで広げ、暗号化データ基盤プロトタイプの高度化を図る予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも本研究は、暗号化データ処理基盤の構築であり、暗号化データベースにおける総和計算の高速化のための並列化処理手法を開発し、実装している点については評価できる。一方、soft layerの実証および通信データを用いた評価に向けた検討が必要と思われる。今後は、暗号化データ処理基盤システムとして、処理速度性能、暗号強度の強化などを含めて全体像を検討いただきたい。
新規ランガサイト型圧電単結晶を用いた高安定・広帯域弾性波デバイスの開発 東北大学
大橋雄二
優れた特性が期待される新型単結晶CTGASの開発に成功し、その材料定数を決定した。その材料定数をもとに、SAWフィルターとして適したカット角を計算により求め、温度係数TCVが0で電気機械結合係数がk2=0.45%となる方位が存在することを明らかにした。また、2インチ径のCTGAS単結晶の育成にも成功し、1インチ径のものよりもより均質にすることに成功した。従来材料であるLBOの代替となる有望な材料であることを示唆した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、新しい弾性波デバイス開発に向けた、設計・作製の基盤となる技術が確立されたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、実用化に向けた技術的課題のクリアと、新規特許申請や論文発表などの早期対応が望まれる。今後は、企業との共同研究も進んでおり、応用展開に向けた更なる進展が期待できる。

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