評価結果
 
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事後評価 : 【FS】探索タイプ 2021年12月公開 - ナノテクノロジー・材料 評価結果一覧

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課題名称 研究責任者 コーディネーター 研究開発の概要 事後評価所見
連続不斉中心を有するシークエンス分子のホモロゲーション合成 京都大学
永木愛一郎
京都大学
宮井均
フローマイクロリアクターを用い、立体化学的に不安定なキラル有機リチウム種の反応の高次制御を基軸とする連続不斉中心を有する分子のホモロゲーション合成の開発を目指し、これまで利用不可能とされた立体化学的に不安定なベンジルリチウム種を鍵中間体とする反応開発に成功した。反応温度を精密に制御するとともに、滞留時間を短くすることにより、エピマー化する前にボリル化反応に利用することが可能になる。今後も本研究を継続することにより、新規光学活性物質創製を実現するとともに、「革新的フローマイクロ製造プロセス技術」を基軸とする企業との実用化研究開発に展開する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、化学的に不安定なキラル有機リチウム種をフローマイクロリアクターを用いて生成させることにより、これまで不可能であった分子変換を可能にした技術は評価できる。一方、技術移転の観点からは、具体的な有用物質へターゲットを絞り、連続ホモロゲーションへと拡張することなどにより、特許出願も行なった上で医薬品などでの実用化が望まれる。今後は、対象とする基質の例を増やしこれらの反応が特殊でないことを確認し、フローマイクロリアクターの手法としての一般性を示されることも期待される。
アジャイル生産に向けた多軸複合加工機用製造支援システムの開発 東京農工大学
中本圭一
多軸複合加工機を対象に,先進的な材料や創造的形状を迅速に加工する,アジャイル生産の実現に向けた製造支援(CAM)システムの開発を目標とした.そこでまず,除去形状から加工方法に深く関係する特徴的な領域を認識し,加工プログラムを生成して加工に至る一連のプロセスを自動化した.また,工程設計・工具経路案の評価に向けて,工作機械の物理的特性を反映させた加工時間,加工精度,消費電力の予測手法を提案し,実験結果と比較して妥当性を検証した.さらに,工程評価指標によりオペレータの意向に沿った加工工程が選択できることを確認し,本製造支援システムの有効性を検証して目標をほぼ達成した.今後は,実際に活用される現場で検証を重ねて汎用性を向上させる. 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に多軸複合加工機に対してマシンシミュレータを完成させ、加工時間だけでなく、切削物理モデルに基づいた加工精度予測と加工コストの解析を可能にし、いくつかの事例でその妥当性を検証しており、技術移転の先駆け的な成果が得られた点で評価できる。一方、技術移転の観点からは、他の多くの事例に対してシミュレーションの精度や機能が十分であるかを確認することが望まれる。今後は、類似のシミュレーションについての研究やソフトもあるため、本研究によるシミュレーションの妥当性と優位性を明確にして、競争力のあるシミュレーションビジネスにつなげられることが期待される。
異種異形・超小型チップ部品の液架橋力式ピック&プレース法の開発 横浜国立大学
渕脇大海
横浜国立大学
西川羚二
本課題では、ゲル状ロッドによるチップ部品の非破壊かつ精密な実装技術を開発する事で、50μmの超小型部品と異形部品の実装法を確立することを目的として実施した。内径100μmのガラスピペットから円柱状の化学ゲルを100μm程押し出すことに成功した。しかし、ゲル形状が不安定でありピックアップ姿勢の再現性に課題が残った。再検討した結果、「金属ワイヤの三次元構造体」が有望である事を見出した。その理由は、形状を工夫すれば①液体の保水機能、②形状回復力、③柔軟性による非破壊性など、「超小型部品の液架橋力による実装作業」に優れた機能を発現できるためである。実験では数時間以上の保水機能、一辺100μmのシリコン片のピック&プレースを実現し、本研究の有効性を示すことに成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に当初提案内容における形態とは変更され一部の目標達成ができていないが、液架橋力を利用した手法を新たに提案、保持時間等について定量的なデータを得ており、部品実装の可能性を示した点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、異形部品の実装について未達成で、実装位置の精度は未評価であるので、位置、姿勢の確保、吸着の安定性など、基本的な研究を進め、新手法がどこまで汎用性を持った技術かどうかを検証することが望まれる。今後は、関連企業との連携などにより企業の視点を加えた全体構想を具体的に検討し、研究に取り組んでいくことが期待される。
セルロース緻密層のナノ穿孔形成による高性能ガス分離膜の開発 九州大学
北岡卓也
九州大学
佐々木ひろみ
持続的発展可能なグリーン産業に必須の物質分離膜の技術革新に向け、樹木由来のナノセルロースをマトリックスとする高性能ガス分離膜の開発に成功した。針葉樹セルロースに水系で穏和な酸化処理を施してナノファイバー化し、表面のカルボキシ基を接点にナノ多孔性金属-有機構造体(MOF)を合成する新手法を考案し、超緻密なナノセルロース膜にMOFでナノ穿孔する戦略で、二酸化炭素とメタンの完全分離に成功した。二酸化炭素の高い透過流量を維持したまま透過選択率100以上を達成した。目的に応じてMOFの種類を変えることで、様々なガス分離・精製・成分濃縮などへの応用が可能で、モノづくり・エネルギー分野での利用が期待される。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、セルロースナノファイバー上のカルボキシル基を介して金属-有機構造体(MOF)を合成することで界面ガスリークが少ない緻密なガス分離膜を調製し、CO2/CH4の分離が可能であることを明らかにした成果が顕著である。一方、技術移転の観点からは、競合技術/製品との様々な観点からの比較に基づく技術的課題を優先順位付けし解決/改善に取組むなどでの実用化が期待される。今後は、MOF構造を変えることなどにより適応対象ガスの拡張も検討されることが期待される。
界面ナノ構造制御による超高輝度かつ超長寿命OLEDディスプレイの開発 長岡工業高等専門学校
皆川正寛
有機ヘテロ界面混合による長寿命化メカニズムの解明,およびホモ接合型有機EL素子にさらに界面混合技術を適用した新規素子を作製して高発光効率化かつ長寿命化の検討を行った。
有機ヘテロ界面構造を変えた際の寿命特性と変位電流の関係から,界面を混合することにより連続駆動に伴う素子内の蓄積キャリア量の経時的変化が小さくなるため寿命特性が改善されることを明らかにした。また,界面混合型有機EL素子にホモ接合技術を適用することで, 1000mA/cm2時の発光効率を発光開始時の効率に対し85%まで改善できる(従来素子は76%まで低下)ことを明らかにした。しかし,寿命特性は評価継続中のため,長寿命化の効果を検証できていない。今後,寿命特性評価を進めた上で,高輝度ディスプレイの試作を行っていく。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、提案された界面混合型有機EL素子の寿命改善メカニズムの解明を行い,予定通りの80%寿命を実証した点については評価できる。一方、寿命問題の原因と考えられる短絡を解決することに向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、短絡の問題を解決後、長寿命化に進むことが望まれる。
酸化ストレスを消去するナノ吸着剤、シリカ含有レドックスナノ粒子の設計と評価 筑波大学
長崎幸夫
我々はこれまで、吸着能と活性酸素種除去能を有するナノ粒子siRNPを腹膜透析用液添加剤として開発し、腹膜硬化症抑制と透析能の向上に寄与することを実証してきた。本研究ではsiRNPの実用化をめざし、その合成法の検討と材料のさらなる展開を目指し、経口用薬物DDSキャリアとしての評価を行った。開発の過程で材料の合成法を確立し、権利化を行った。さらに安定な薬物担持能、薬物担持siRNPの血中薬物取り込み能の向上および消化管障害の抑制効果が明らかとなった。このようにsiRNPは実用化可能で腹膜透析や経口DDS用材料として大いに期待され、今後、薬物放出能を有するナノ吸着剤として実用化を進めていく。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に当初目指されていた経口DDS用のsiRNPの開発にほぼ成功し、動物実験の段階で有効な所見を得ている点に関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、経口DDSの実用に近づいている印象はあるが、具体的な社会還元に至るまではまだ多くのステップを経なければならない事は明らかである。しかし、本研究が目的に沿って順調に進めば、十分に社会的に有用な技術となることが期待できるので実用化が望まれる。今後は、siRNPの物性・調製再現性や、経口DDS用材料としての安全性を含めた特性評価を十分に行い、腹膜透析用材料への応用についても検討を進めてられることが期待される。
自己光混合法によるコロイド溶液の高感度交流電気泳動計測器の開発 東京都市大学
須藤誠一
フォトダイオードと固体レーザを用いた自己光混合測定法を基本原理として、懸濁液中のナノサイズコロイド粒子の交流電気泳動現象を簡便に高感度で計測・評価する装置を開発した。印加された交流電圧に従って泳動するコロイド粒子の泳動速度と、印加電圧に対する泳動速度の位相差の評価が達成できた。これら粒子の泳動特性量の周波数依存性を、濃度1ppm以上で達成した。これらの評価は、泳動速度の実時間計測が可能な自己光混合計測法を用いることで初めて達成できる。本課題の達成で、懸濁液中のコロイド粒子の動的な状態評価(コロイド粒子をトレーサとした局所的な粘弾性特性評価、等)が可能なことから、医療・化粧品、粉黛工業分野に高性能・簡便・安価な評価ツールを提供することが可能になった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、コロイド粒子によるフィードバック光を半導体レーザー励起のGdVO4共振器に戻すことでコロイド粒子の交流電気泳動現象を測定する技術の有効性を実証し、測定の再現性や試料の安定性についても定量的に明らかにしたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、市販されている高価な計測装置に比べて本研究で構成された光学式の計測技術は安価且つコンパクトであることから、医療・化粧品などの分野での評価ツールとしての実用化が望まれる。今後は、計測メーカとの話し合いが開始されつつあるが、粒子分散の測定に及ぼす影響や信頼性など基礎的な検討をされることが期待される。
摩擦摩耗特性に優れた高温軸受用Fe基自己潤滑傾斜機能材料の開発 名古屋工業大学
佐藤尚
名古屋工業大学
岩間紀男
本研究では,高温軸受部材への応用を念頭にし,SUS430にグラファイト粒子が傾斜分散したFe基自己潤滑傾斜機能材料の開発を試みた.その際,製造技術として遠心力混合粉末法を用いた.その結果,混合粉末における母相粉末の溶解に必要な熱量を考慮することで,摺動面にのみグラファイト粒子が複合化されたFe基自己潤滑傾斜機能材料を作製することに成功した.また,強度および摩擦摩耗特性の両方を改善するために適したグラファイト粒子体積分率は7vol.%であることも分かった.このFe基自己潤滑傾斜機能材料は,SUS430に比べて,摩擦係数が1/2,耐摩耗性が3倍以上および0.2%耐力が同等であった. 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に鋳造条件、およびグラファイト粒子の最適化等で当初の目標は概ね達成している点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、新規特許出願を進めるとともに、メーカーからのプロポーザルなどに基づいた研究開発計画を具体的に立案してニーズに沿った目標を達成する研究開発を進めることが望まれる。今後は、他の構造の低摩擦係数材料作製の開発や耐久性等の実用に関する評価を含めることが期待される。
チェレンコフテラヘルツパルスを利用した広帯域分光装置の開発 千葉大学
森田健
千葉大学
竹内延夫
パルス面傾斜法によるテラヘルツ(THz)パルス発生は,高強度テラヘルツパルスを発生する有用な手段として知られるが,用いる非線形結晶を励起する光の波長の屈折率と出力するテラヘルツ波の屈折率にTHz発生を行う光学系が依存し,入射波長や出力周波数を自由に変えることが難しい.本課題では,光学系を大きく変えることなく入射波長と出力周波数を自由に変化できるM字型の光学系を考案し,それを利用したTHzパルス発生・分光装置を開発した.実験では,非線形結晶としてLiNbO3(LN)を用い,繰り返し周波数100 kHz,パルス幅150 fsのパルスレーザ励起でピーク電場振幅100V/cm以上のTHzパルス発生を実現した.また入射波長を790-840nmまで変化させても光学系を大きく変えることなくTHzパルスが得られることを示し,さらに 3 THz程度までの出力周波数が得られることが分かった.予想に反し,高周波領域が得られない理由としてLN結晶での強いフォノン吸収が考えらえる. 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、励起光波長・発生周波数に応じた大幅な光学系の変更なしに、高強度テラヘルツ光発生に成功した点は評価できる。一方、今後の特許出願に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、更なる高周波化と、光学結晶をLiNbO3(LN)以外の非線形光学結晶に展開されることが望まれる。
高弾性率、高耐熱性を有する剛直高分子ナノファイバーの連続製造法の確立 岡山大学
内田哲也
岡山大学
齋藤晃一
高強度、高弾性率、高耐熱性、高熱伝導性を有する剛直高分子ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)のナノファイバー作製法について検討した。目標としていた連続生産設備の構築は完全には達成されていないが、作製法である溶液からの結晶化条件を最適化することでPBOのナノファイバーを作製する方法のスケールアップを検討した。その結果、従来の方法と比べて生産性を50倍に向上させることに成功した(目標は生産性100倍)。また、連続方式でのナノファイバーの作製方法の基礎を構築した。今後、得られた知見をもとに実用化に向けての検討を具体的に進めていく予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、連続方式での剛直な高分子ナノファイバーの作製方法の基礎技術を構築すると共に生産性を向上させた技術は評価できる。一方、技術移転の観点からは、反応率、生成物のばらつき、反応速度の向上など基礎的な知見を得ると共にナノフィラーの健康への問題、LCAの観点からの評価などを踏まえた実用化が望まれる。本課題のような量産性に係る研究開発には大学単独では限界があるので、今後は、産業界との連携体制を強化されることが期待される。
完全結晶ゲート絶縁膜を有する高速半導体素子の開発 大阪大学
金島岳
大阪大学
宮川勝彦
Ge MISFETの微細化のためには,より小さなEOTを得られるhigh-k/Ge直接接合が望ましい.そこで,Ge(111)とLa2O3(001)が原子マッチングすることに注目し,高品質なエピタキシャルhigh-k/Ge(111)直接接合の形成を行った.その結果,PLDによりGe(111)基板上に300℃以下の低温で,EOT 2 nm以下のLa2O3をエピタキシャル成長させることに成功し,PMAにより良好なリーク特性が得られることを示した.さらに,界面状態をXPSで調べたところ,誘電率の低いGeO2や電気特性を悪化させるGe-La結合は見られず,Ge-O-Laのように酸素を介した良好な結合が形成されていることが分かった.これらは,high-k/Ge直接接合をもつMISFET実現のための基礎的な成果となり得ると考えられる. 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、2段階成長法と成膜後の酸素アニールとを組み合わせて、試作を行い、電気特性の評価を行った点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、ゲート絶縁膜を単結晶化したGe-FETの特性と他の技術との比較検討が望まれる。今後は、電気特性に見られるヒステリシスの原因が解決されることを期待する。
シクロオレフィン樹脂への耐有機溶剤性被覆の開発 京都大学
杉村博之
シクロオレフィンポリマー(COP)に耐有機溶剤性を付与する有機シリコン系保護膜被覆プロセスを開発した。このプロセスは、COP表面の真空紫外光(VUV光)表面改質による化学吸着サイトの形成、環状シロキサン分子の化学吸着と縮重合膜形成過程、多層被覆による欠陥修復の3工程から構成される。被覆は可視光領域で無色透明で、キシレンおよびエチルアルコールに対する耐性を有した。しかし、テトラヒドロフランおよびジメチルホルムアミドに対する耐性は不十分であった。今後は、耐性の向上と他の有機溶媒への展開、COP製マイクロ流路内壁への被覆へと応用し、有機溶媒で使用できるCOPマイクロ化学反応器の開発を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、独自の大気圧CVD法によりシクロオレフィンポリマー表面に有機シリコン系保護膜を形成させ、有機溶剤(主としてキシレン)への耐性を付与することに成功した技術は評価できる。一方、技術移転の観点からは、CVD法の操作パラメータの詳細検討による保護被覆膜の形成技術の信頼性向上、高分解能の分析技術による保護被覆膜の形態評価の精度向上を図ると共に特許出願を行なうなどでの実用化が望まれる。今後は、有機溶剤への耐性の発現モデルについても検証されることが期待される。
次世代MEMSデバイスの高精度・高信頼性を実現する新規低熱膨張Fe-Ni合金めっきプロセスの高度化 京都市産業技術研究所
山本貴代
地方独立行政法人京都市産業技術研究所
山本佳宏
本課題の目標は、我々が開発した新規低熱膨張Fe-Ni合金めっきプロセスを活用したMEMS構造体作製技術の高度化を検討し、寸法熱安定性の優れた次世代MEMSデバイスの作製技術を確立することである。そのために、当該プロセスにおいて、現状めっき液の経年使用時において課題となっているFe(III)イオンの生成、蓄積によるめっき膜の脆化の影響について調査するとともに、Fe(III)イオンのモニタリング技術さらには低減化技術を確立することで、課題解決を図った。検討の結果、当該プロセスにおいてめっき膜が脆化することで、得られためっき構造体がMEMS部材に供することが困難となるFe(III)イオン濃度を見出すことができた。そこで、Fe(III)イオンの濃度管理を簡便かつ高精度で行うことのできるフローインジェクションアンペロメトリーによるFe(III)イオンモニタリング技術を確立した。さらにめっき液中のFe(III)イオンの低減化を図るために鉄粉還元法を適応し、めっき液の経年使用時においても高品位なMEMSデバイスに適した低熱膨張構造体を得ることが可能となった。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に当初提案された研究内容は緻密に完全に実施されており、イオン濃度のモニタリング方法を確立、めっき溶液のイオン濃度を制御する方法を示し、これら技術を使い高品質なFe-Ni合金めっき被膜を実証した点で評価できる。技術移転の観点からは、基本的には技術を移転できるレベルにまで開発を成し遂げていることから早期に企業と連携した実用化が望まれる。今後は、本技術のより広い範囲への適用を考え、特定の企業に限らず、研究開発を進めていくことが期待される。
2次元に制限された粘土鉱物表面を用いた迅速光学分割カラムの開発 愛媛大学
佐藤久子
愛媛大学
松本賢哉
生理活性物質はキラリティを有し薬理効果は分子のキラリティに顕著に依存する。しかし光学分割は非常に困難を伴う。本研究では、2次元に制限された粘土鉱物にキラル金属錯体を吸着させ分子認識場として利用する。まず、ヘクトライトがシリカ粒子表面に接着したコアシェル粒子を充填剤として用いその分離能について調べた。ラセミ混合物の例として[Ru(acac)3]の溶出試験を行った結果、従来の層状ケイ酸塩カラムと比べて分割に要する時間が短いことがわかった。プロジェクトに応募した後に特願2014-180909を提出し、各種学会において、ヘクトライト-シリカコアシェル粒子のHPLCカラム充填剤への応用として発表した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、粘土鉱物にキラル金属錯体を吸着させたコアシェル粒子のHPLCカラム充填剤としての有用性を示した技術は評価できる。一方、技術移転の観点からは、強いニーズのある無修飾アミノ酸の光学分割でも有効であることを検証するなどでの実用化が望まれる。今後は、既存製品のカラムの使用条件なども考慮した本課題のカラムの分離効率とコストなどの比較検討や、担持錯体の流出による機能劣化の有無など、より具体的な検討もなされることが期待される。
On-site 水中対向衝突処理により得られるシランカップリング剤・疎水性付与セルロースナノファイバーと疎水性樹脂との均一ナノ複合化 九州大学
近藤哲男
研究代表者が提案した水中カウンターコリジョン(ACC)法により製造されたセルロースナノファイバー(CNF)は、現在関連企業によりサンプル販売、市場開発まで至っている。本研究は、ACC法の特徴である疎水性付与CNF表面をシランカップリング剤で活性化させた相溶性CNFマトリクス創製を目指した。次いで、この活性化CNFマト リクスと水性樹脂とを均一ナノ複合化させ、通常の水性樹脂単独の強度を凌ぐ複合材料が調製された。本プロセスは、化学処理をせずCNFと他の樹脂との複合化を容易にさせ種々の高強度複合材料が得られるため、市場の拡大に貢献することが期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、シランカップリング剤を同時添加する水中カウ ンターコリジョン(On-site ACC)法の開発により、表面を活性化させたナノセルロースマトリクスの合成と水性樹脂との複合化に関する技術は評価できる。一方、技術移転の観点から は、ポリオレフィン等の疎水性樹脂との混練による複合化の検討なども加えた、実用化が望まれる。今後は、種々の表面活性化も研究されることが期待 される。
電気泳動する非イオン性高分子を活用した中性電着塗料の開発 名古屋工業大学
高須昭則
名古屋工業大学
沖原理沙
申請者は『非イオン性の高分子(ポリエステル-スルホン)』が電気泳動する事実を発見した。これを用いた中性の電着塗装技術の創出を目指すため、電気泳動するメカニズム解明を第一目標として取り組んだ。ポリ(エステル-スルホン)を良溶媒に溶かし、そこに貧溶媒(アルコールおよびエーテル)を添加しポリマーの分散液を調製した。得られた分散液中にステンレス板を挿し直流電流を流して電気泳動堆積を行ったところ、すべての系で電気泳動した。また、アルコールの種類によりゼータ電位、堆積量、初期電流値が変化することがわかった。さらに、アルコールなどのプロトン性の溶媒がその電気泳動性を高めていることもわかり、電気泳動機構が明らかとなった。また、塗膜の強度はJIS規格に準じてテープ試験を行い、防錆試験まで実施することができた。今後は、企業との共同研究を通じて、革新的な電着塗装技術の構築へと展開したい。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、非イオン性高分子(ポリエステル-スルホン)の電気泳動による塗膜形成について、その必須構造、電気泳動の条件を明確すると共に美的に優れた塗膜を形成させた技術は評価できる。一方、技術移転の観点からは、電着塗料として求められる密着性、膜強度や防錆効果のより詳細な評価とその改善などによる実用化が望まれる。今後は、斬新な技術であるが故に実用化への道のりは平坦ではないが、幅広い分野で本技術の広報活動をして、良い企業パートナーを見つけて、実用化につなげることが期待される。
ガラスファイバーを利用した新規高効率イオン注入装置の開発 名古屋工業大学
大幸裕介
名古屋工業大学
沖原理沙
イオン伝導性ガラスをファイバー化、また先端を先鋭化して電界印加することで、ガラスファイバーからのイオン放出を検討した。本研究において、ガラスファイバーからのH+およびAg+イオン放出を初めて実証した。H+イオンの場合、高分子膜への水素添加やベンゼン環の開裂反応が生じ、またAg+イオン放出ではターゲット基板に電子供給することで銀ナノ粒子の析出も可能であることを確認した。Ag+イオンは伝導性が高く、5μA/cm2を超える非常に高いイオン電流密度が得られた。さらに手のひらサイズのイオン銃を試作し、基本動作を確認した。本研究成果により、新たな化学分析や治療・医療技術、細胞工学など様々な分野でイオン注入の用途展開が期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、イオン導電性ガラスからファイバを形成し、その先端を先鋭化することにより高効率のイオン銃として機能させるという、ガラス材料の成形加工性(ファイバ化など)とイオン導電性の特徴を巧みに応用した斬新なアイデアを実証したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、 特許出願がなされており、新しい概念のイオン発生器として、バイオ分野や化学・分析分野等への具体的な応用展開と実用化が望まれる。今後は、現象の機構解明をさらに進めると同時に、産業界の要望を取り込むことで応用分野の開拓、ニーズの掘り起こしが期待される。
国民の安全で安心な生活に寄与する高靭性鋳造用亜鉛合金の開発 北海道立総合研究機構
宮腰康樹
地方独立行政法人北海道立総合研究機構
高橋英徳
ダイカスト用亜鉛合金地金2種(JIS H 2201)に代表される鋳造用亜鉛合金は、多くの優れた特徴を有する反面、粒界腐食に起因する脆性破壊の不安も有している。本研究では申請者らが開発した高靭性な亜鉛合金(特許申請中)のダイカスト用合金への適用性を、精密鋳造性、めっき性、耐粒界腐食性の観点から検討した。その結果、精密鋳造性およびめっき性は従来からのダイカスト用亜鉛合金と同等かそれ以上の性質を示したが、最も重要な耐粒界腐食性において劣る結果となり、申請者らが開発した合金を亜鉛ダイカスト製品へ適用するためには耐食性を保証できる優れた表面処理の検討が課題として残された。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、概ね計画通りの実験を行い、本開発合金の耐腐食性は必ずしも良くないが、本合金のめっき性については従来合金と同等程度の特性をもっており、精密鋳造性も良好であることを示したことは評価できる。一方、申請者らが開発した新合金の実用化に向けて、例えば耐腐食性に関する技術課題等が明らかにされているが、その課題解決に向けた技術的検討や、さらに次のステップに進める技術課題の明確化が必要と思われる。今後は、 研究成果の技術移転先を具体化するとともに、市場規模や用途ニーズに応じた技術を開発することが望ましい。
水熱法によるナノカーボン発光材料の高効率大量合成 金沢大学
比江嶋祐介
金沢大学
渡辺奈津子
本研究では高温高圧水中での水熱合成による発光ナノカーボンの連続合成を目指して、流通式反応器を作製した。この反応器を利用して、多様な原料を用いて発光ナノカーボンを合成することに成功した。発光特性に関しては、励起光波長に依存して青色から橙色付近までの発光を有する発光ナノカーボンの合成が可能となった。連続合成の反応条件の最適化により、不溶かつ非発光の副生成物をほとんど生成せず、1時間当たり数十グラム程度の発光ナノカーボンを製造することが可能となるなど、高効率な大量合成法の確立に成功した。以上の成果を元に特許出願2件を行うとともに、複数企業との共同研究に発展した。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、独自の流通式反応装置を開発し多様な原料と生成条件の検討により目標を超える生成効率と純度を達成するとともに、青色から橙色付近までの発光を有する高量子収率の発光ナノカーボンの合成に成功したことは評価できる。
また、新たな特許の出願や企業との共同研究が開始されるなど、実用化に向け進展したことについても評価できる。
一方、技術移転の観点からは、反応機構の解明や発光特性の向上を進めるとともに、発光性ナノカーボンの用途開発などを産学が連携し進め実用化されることが望まれる
今後は、本研究のカーボンドットは稀少元素や有害金属を含有しない安全・安心・安価な発光材料としての社会的意義も高く、研究の進展による実用化が期待される。
航空機エンジン用CFRP製吸音パネルの開発 岐阜大学
深川仁
岐阜大学
安井秀夫
開発したブラストによる小径孔加工技術を、CFRP板への孔加工に適用し、効率良く低コストで大量の小径孔の加工ができることを確認した。また、孔の出口・入口径の精度を保持し、テーパの小さい孔を加工できる条件を見出した。
次に、多孔板付ハニカムパネルを接着組立する工程を、専門家の意見を参考に、各種手順を比較しつつ、CFRP製吸音パネルの試作に成功した。
さらに、試作パネルの吸音性能を測るため、試験片を切出し、航空機メーカの支援により、吸音性能測定試験を実施した。この結果、CFRP製吸音パネルは、従来のアルミ製吸音パネルに比べ、重さが約2/3と軽量である特徴を有し、同等の吸音性能が得られることを確認した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ブラストによる小径孔加工技術をCFRP板への孔加工に適用し、効率よく低コストで大量の小径孔の加工ができることを確認し、従来のアルミ製吸音パネルと同等の吸音性能をもつことを実証したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、CFRPを使用した吸音特性の向上で、板厚、孔径などの因子のほかに、炭素繊維や樹脂の選択も考慮した総合的な観点から特性向上を目指して頂きたい。軽量化と吸音特性向上という両者を兼ね添えた本技術は幅広い分野での実用化が望まれる。今後は、CFRP製板を用いた吸音パネルの価格競争力や長期信頼性などの検討が進められることが期待される。
ステンレス箔への貴金属一段階固定による排ガス浄化触媒の超高効率化 京都大学
芳田嘉志
熊本大学
緒方智成
パルスアークプラズマ法を用いて耐熱性ステンレス箔上に直接Rhを析出させることにより,成型が容易な薄膜触媒の調製に成功した。本材料は高い空間速度を必要とする自動車排ガス浄化触媒として有効に機能し,また最適調製により従来と比較して貴金属使用量の低減が期待できることを示した。実用環境を想定した熱負荷により触媒活性は低下するが,劣化メカニズムの解明と抑制技術の開発を実現したことから極めて実用性の高い材料開発に成功した。今後は既存のメタルハニカム製造インフラを利用した触媒コンバーター製造を目指して劣化抑制技術の改良を行いたい。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、Rh量の定量化に成功し一般的なセラミックハニカムに担持する手法に対しRh量の大幅な低減の可能性を実証したことは評価できる。加えて、自動車排ガス浄化触媒の実用条件を想定した熱環境下での触媒性能の確認とその劣化に対するメカニズムを想定し、劣化抑制手法を見出したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、本触媒担持手法のPdやPtなどとの複合系触媒への適用の可能性や担持された金属の物性などに関する基礎研究とともに、産学連携による実際の排ガス中の排ガス浄化性能の確認など実用化に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが望まれる。
今後、本研究の進展により自動車や発電所などの排ガス浄化触媒に用いられる貴金属資源の有効利用が期待される。
青緑色~赤色領域で発光する高輝度オルガノゲル媒質の開発 島根大学
西山桂
島根大学
北村寿宏
希土類発光錯体を、自己組織化オルガノゲル等の媒質中に分散させることにより、高輝度オルガノゲル媒質及び高い発光量子収率(Φ)を示すマルチカラー発光体の実用化への目処を付けた。今回開発したCe錯体は、その発光機序に4f-5d遷移を用いるので、既存研究で用いられるEu、Tb錯体では到達できない紫色~青色の発光色が実現できる。励起波長は350 nm付近であり、既存錯体のものに近いので、単一励起光源を用いて加色法による発色混合が可能である。一方Eu錯体について、励起エネルギーを分子内振動緩和に分配しないよう、重い原子団を配位子に用いてΦ=46%を達成し、従来値(22%)を大きく向上させた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、同一の励起波長で発光する新たに開発した青色Ce錯体と研究者が既開発した緑色~赤色発光Eu、Tb錯体の混合により1つの励起光源でマルチカラー発光の可能性を示すとともに、Eu錯体の発光量子収率を倍増させたことは評価できる。
一方、高輝度オルガノゲル媒質の実現に向けては、マルチカラー発光の実証やそのための希土類錯体の開発、ゲル中での錯体の高効率発光などの技術的検討やデータの積み上げなどが、産学連携にて実施されることが望まれる。
今後、本研究の新規発光デバイスが、医療機器や照明機器などの高機能化や新たな用途に向けて実用化されることが期待される。
電極位置補正機能を有する高精度接触放電ツルーイング装置の開発 岩手大学
水野雅裕
岩手大学
佐藤義之
電極位置補正機能を有する接触放電ツルーイング装置の開発を行った。電極位置補正ガイドの電極拘束点を固定式から転動式に変更することによって、280 分使用時の電極拘束点の摩耗量を従来の約200μm から4μm 以下に低減することに成功した。その後、改良したツルーイング装置を用いて直径200mm、幅19mm のメタルボンドダイヤモンドホイールのツルーイングを行った。接触放電によって生じた脆化層を除去するためにGC 砥石を用いた補助的なツルーイングを併用した結果、円周振れを初期の58μm から13μm に低減することができた。また、研削ホイールの外周断面形状の傾斜を2μm 程度に抑えることができた。今回は当初の目標の達成には至らなかったが、実用化に向けての可能性は見出せた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、電極位置補正ガイドの拘束点を固定式から転動式にすることで、電極拘束点の耐摩耗特性が飛躍的に向上しており、メタルボンドダイヤモンドホイールのツルーイングでは、その円周の振れを低減できていることから十分な成果が得られたと評価できる。一方、技術移転の観点からは、実用化に向けた検討課題(小型化、高効率化など)に対して具体的に目標設定し、解決にむけて取り組み、研削機械メーカなどでの実用化が望まれる。今後は、企業と情報交換を行いながら技術の改良を進めることの検討が期待される。
光触媒としての応用を拡大する、カーボンナイトライドの高効率で均質なマイクロカプセル化技術の開発 鹿児島大学
澤田剛
鹿児島大学
中武貞文
本研究課題では、光触媒として注目されているカーボンナイトライド(g-C3N4 )のマイクロカプセルを合成することを目的として、メラミン樹脂マイクロカプセルの合成と焼成反応を行う。本研究期間内に、乳化コネクタを利用したメラミン樹脂マイクロカプセルの合成法を開発するとともに、メラミン樹脂微小粒子の焼成反応によるg-C3N4 微小粒子の合成と、得られた微小粒子による光触媒機能を検討した。得られたg-C3N4 微小粒子において、一部に元の樹脂構造が残り、また光触媒反応が観測されなかった。そのため、メラミンより縮合度の高いメレン樹脂マイクロカプセルの合成が今後の課題であり、メレンの高純度精製法を開発した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、独自のマイクロカプセル合成法によるメラミン樹脂マイクロカプセルの合成と詳細な熱処理条件を検討し、グラフィックカーボンナイトライド(g-C3N4 )合成に関する新規特許出願をしたことについては、評価できる。
一方、g-C3N4 の光触媒機能の発現に向け、g-C3N4 の高純度化に向けた前駆体の検討や金属のドーピングなどの基礎的な検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
ユビキタス元素からなるグラフィックカーボンナイトライド(g-C3N4 )は、光触媒、有機物除去、センサーなどへの応用が期待されており、今後の研究の進展が望まれる。
共役系オリゴ(チエニレン ビニレン)の簡便ステップワイズ合成 神戸大学
森敦紀
神戸大学
浅田正博
チオフェン環と炭素-炭素二重結合が交互の配置された共役系オリゴマーのオリゴ(チエニレン ビニレン)を,チオフェン化合物のCHカップリング反応を利用することで,ステップワイズに合成する方法の確立をめざした。カップリングの材料となるチオフェン環をもつ臭化ビニルを汎用の原料から簡便かつ大量供給可能な方法で合成することに成功した。続いて触媒的なカップリング反応を利用することで,構造の明確に制御されたオリゴマーを,1ユニットを1工程で伸長する画期的な手法での合成を達成した。得られたオリゴ(チエニレン ビニレン)の末端修飾を検討し,色素増感太陽電池用等有機色素とするための官能基導入をおこなった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、共役系オリゴ(チエニレンビニレン)ならびにカルバゾールで末端修飾した化合物を目標通りに効率よく合成したことは、有機合成の手法として学術的にも評価できる。一方、技術移転の観点からは、発電変換効率の向上に向けてより多くの化合物を合成すると共に、異性化や分解反応など化合物の安定性も検証するなどでの実用化が望まれる。今後は、色素増感太陽電池の分野の競争は激しいので、有機合成のみならず初期物性の評価にも注力されることが期待される。
アルミ電解コンデンサ向け高機能新規多塩基酸の実製造に向けた反応機構の解析 三重大学
清水真
三重大学
横森万
パワエレ装置の重要電子部品として、アルミ電解コンデンサがある。このアルミ電解コンデンサの性能は、その構成要素である電解質に支配されていると考えて良い。申請者は、研究ラボレベルで耐圧750Vの目処をたてたが、その量産化技術の確立に課題を残していた。具体的には、基本的合成反応のメカニズムの解析とそれに基づく低コスト化プロセスの構築である。本研究では耐圧750V以上を実現する多塩基酸の量産化製造技術の構築に向け、反応機構の解明、それを受けての低コスト・効率的なプロセスの開発を検討した。その結果、各種問題点を詳細に解析し、その幾つかの解決法を提案することができた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、高性能アルミ電解コンデンサに用いる電解質として「極性エーテル基」を提案できていることについては評価できる。一方、製造プロセスについては副反応を明らかにした段階でもあり、溶媒や添加剤の検討を含めより安価な塩基の使用など、反応の最適化に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、反応剤の添加の順や、バッチ式に加えてフロー系での反応についても検討されることが望まれる。
非焼成多孔体硬化技術の確立と調湿建材の製品化に関する研究 北海道立総合研究機構
執行達弘
地方独立行政法人北海道立総合研究機構
高橋英徳
調湿タイルの製造時に、焼成せずに原料(珪藻土)を硬化させる技術を提案している。本研究開発では、(1)硬化材(二水石膏とシリカゾル)による硬化メカニズムを解明し、(2)最適製造条件を見出すことで、速やかな量産製造試験への移行と製品化の見通しを得ることを目標とした。また(3)他の原料にも本技術を応用した。(1)として、硬化材中のCa成分とSi成分が水を介して反応し、非晶質のネットワークを形成することがわかった。(2)として、製造条件が諸特性に与える影響を把握し、乾燥収縮率、シリカゾルの添加量、調湿機能、3点曲げ強度において概ね目標を達成した試作品の作製に成功した。今後、協力関係にある企業への技術移転を進める。(3)として、新しい野菜の鮮度保持材の創製を視野に入れ、天然ゼオライト硬化体も作製し、基礎物性を把握した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に珪藻土を焼成することなく硬化させる技術を開発し、収縮率、シリカゾル添加量、三点曲げ強度、などの目標値を達成できており、タイル形成基本技術を実現した点で評価できる。一方、技術移転の観点からは、大型タイルでのタイルのそりや強度低下などの課題があり、プロセスや材料などの条件を振った基礎データの蓄積、調湿性能および他のガスの吸着について吸着特性を明らかすることが望まれる。今後は、課題の解決を前提に、検討されている製品化に向けた量産製造試験など企業化に向けた取り組みが進められることが期待される。
ガラス表面の高強度化と金属薄膜との密着性向上 山梨大学
渡邉満洋
山梨大学
服部康弘
本研究では,金属酸化物層を用いてガラス表面に金属原子を拡散させることによるガラス表面の高強度化とCu薄膜とガラス基板の密着性向上に取り組んだ.金属酸化物層にはZnOならびにIn2O3を用い,ガラス表面への金属原子拡散のためのアニール条件,金属酸化物層堆積手法およびガラス基板種の影響を調べた.ZnO層ならびにIn2O3層のどちらを用いても適正な条件のアニール処理を施すことによって金属原子をガラス表面に拡散させることができ,拡散層形成後にPt微粒子触媒を付与することによって常温でCu薄膜を堆積したとしても高密着性なCu/ガラス構造を作製できることが明らかになった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、金属酸化物層を用いてガラス表面に金属原子を拡散させることによりガラス表面の高強度化とCu薄膜とガラス基板の密着性を向上させる手法に関しては評価できる。
一方、技術移転の観点からは、ガラス表面の金属拡散層形成の確認や企業と連携し具体的な応用を想定しCu/ガラス界面の熱安定性などの技術検討やデータの取得とともに特許出願が必要と思われる。
今後は、研究の進展により低コストの高集積半導体用インターポーザーなどでの実用化が期待される。
軸方向放電励起方式による小型・高繰り返し・深紫外レーザーの開発 山梨大学
宇野和行
山梨大学
還田隆
本研究開発では,軸方向放電励起方式による小型の高繰り返し・深紫外レーザーの開発を行った.N2レーザーでは,繰り返し50 Hzにおいて出力エネルギー97.5 μJのレーザーと繰り返し300 Hzにおいて出力エネルギー4.9 μJのレーザーを開発した.この結果より,高繰り返しにおいて高出力エネルギーを得る為の放電電圧の特性が明らかとなった.KrFレーザーでは,波長248 nmの強い発光と円形のビームを観測したが,スペクトル幅が広く,レーザー発振に至っていないと結論づけた.高反射ミラーの使用によりレーザー発振可能と考えられる.また,低ガス圧放電によるKrFの発光特性を明らかにした. 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、全く異なるガスレーザー媒質に対しても軸方向放電励起方式が適用可能であることを示したことは評価できる。一方、窒素レーザー、KrFレーザーともに問題点が抽出されていて、今後どのように進めば本計画で実現できなかった事柄が実証できるかが示されている。継続して実用化に向けた技術検討やデータの積み上げを期待したい。今後は、応用面において当該開発光源が紫外域でポータブルかつ狭帯域、さらにはパルスであることの優位性を活かせる分野を光源開発と並行して探索することが望まれる。
希土類レス赤色酸化物蛍光体の研究開発 宇都宮大学
単躍進
宇都宮大学
網屋毅之
Euなどの希土類元素を用いない安価で安定供給が可能な無機赤色蛍光体新材料として,マグネシウムを化学量論より過剰にしたマンガンドープスピネル型酸化物(MgAl2O4:Mn)が紫外線励起による強い赤色発光を示すことを研究者らが独自に発見した.本研究ではMnドープスピネル型酸化物MgB2O4:Mn(B = Al3+, Ga3+)の主成分制御(結晶サイト制御)という簡便な方法より,赤色,緑色の蛍光体を作り分けが可能であること及び合成時の酸化還元雰囲気の検討により,赤色発光のMnが高酸化状態であることを見出した.さらに,Mgの除去や再焼成による蛍光特性の変化やESR, 固体NMR, リートベルト等の構造解析により,緑色および赤色発光が生じるメカニズムを解明し,実用化に向けた指針が得られた. 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、希土類元素を含まない赤色および緑色蛍光体の開発に成功するとともに、その発光メカニズムを明らかに出来たことに関しては評価できる。
一方、技術移転の観点からは、発光強度の向上に向けた基礎的な技術検討とともに、企業との産学連携により既存の蛍光体との優位性を明らかにするなど実用化に向けた取組みが望まれる。
今後は、研究の進展により希土類元素を含まないユビキタスな元素からなる本蛍光体を用いた照明やディスプレイとして実用化されることが期待される。
金属3Dプリンターによる製品製造実現にむけた集合組織形成の抑制技術 名古屋工業大学
渡邉義見
名古屋工業大学
岩間紀男
粉末床溶融型を始めとした金属積層造形技術(金属3Dプリンター)は,逐次レーザー等によって金属原料粉を溶解・凝固させることにより構造を得ている.この溶融・凝固は逐次過程であり,一方向に凝固が進むため,通常の部材とは異なる集合組織を持つ異方性材料となる.このような異方性組織、集合組織は構造材製品化への展開に対し一つの阻害要因となり得る.そこで,この溶解・凝固の過程を検討し,集合組織形成の抑制が可能かに関し,チタン合金粉末を用いて調査した.その結果,開発したチタン合金粉末を用いることにより,3D造形性が向上し,集合組織の形成抑制が可能であることが示せた.本手法で製造した造形物は,従来材で製造したものに比べ,高い強度を有することが予想される. 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、異種核を選定し目標の等軸晶が得られ、粒径の微細化が得られ、硬度の上昇が確認された点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、学会発表や共同研究を通して、技術移転先を模索している点を進めつつ、把握している課題の検討とその対策などを行い特許化することが望まれる。今後は、異質核粒子の適正化と、造形条件の適正化を組み合わせた検討を行うことなどにより、より一層の開発が進むことが期待される。
より強靭・安全な生体硬組織材料の3次元造形を目指した構造解析 山形大学
松葉豪
山形大学
金子信弘
生体硬組織である骨中に含まれるコラーゲンの配向を高分子の精密構造解析の技術を利用して明らかにすることを目的に放射光を利用したX線散乱法を主に用いて,「定量的に」評価する方法を確立した。実際に骨粗鬆症ラットと健常ラットを比較し,コラーゲンの配向が骨端部で10%程度低くなっていることを示した。本プロジェクトにて,骨中のコラーゲンの定量的評価手法によって,骨粗鬆症がコラーゲンの配向に影響を与えていることを示し,医療的展開も可能となった。産業応用としては,リン酸カルシウムとコラーゲンのように硬質材料と柔軟な材料をサブミクロンスケールで制御した新たなバイオミメティック複合材料の開発につなげていきたいと考えている。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ラットの骨粗鬆症群と健常群とを比較するなど、生体硬組織中のコラーゲン構造を広い空間スケールで解析する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、材料設計など材料面の研究展開を明確にし、3Dプリンタで作製可能な歯科材料や骨材料などでの実用化が望まれる。今後は、他研究機関や企業の調査を行い、骨粗鬆症に係る成果を足がかりに、材料設計とそれらを用いた試料作成などの共同研究につながることが期待される。
非酸化物透明セラミックスシンチレータの基礎研究 奈良先端科学技術大学院大学
柳田健之
本研究の目的は世界に先駆けた透明セラミックスフッ化物 (BaF2) シンチレータの開発であり、定量的な目標としては、直線透過率 50% 以上、BaF2 の特徴であるオージェフリー発光によるサブナノ秒シンチレーションの検出である。結果として放電焼結プラズマ法を用いることで、バルク透明フッ化物セラミックスシンチレータを得ることに成功し、上記の定量的な目標を全て満たしている事を確認した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもSPSプロセッシング法でBaF2透明焼結体を作製できたことについては評価できる。一方、本研究の要であるBaF2の透明焼結体のプロセッシングの再現性も含めたSPS法の最適化に関する結果が求められる。今後は、SPSプロセッシング法を確立し、複合フッ化物への展開を図り、新規材料開発がされることを期待する。
金属基板を腐食する強アルカリ現像液を不要とする水現像可能なMEMS加工用レジスト材料の開発 富山県立大学
竹井敏
富山県立大学
山本肇
レジスト材料の主原料用途としてバイオマス資源の副産物である糖鎖化合物を用い、MEMS加工に必要とされる100 nmのナノパターンを解像可能とする微細加工性を有し、かつMEMS加工用金属基板を腐食する既存標準品の強アルカリ現像液 水酸化テトラメチルアンモニウムを不要とする、フォトリソグラフィ用水現像性レジスト材料の開発を目的とした。植物性天然原料である糖鎖やセルロース化合物を分解・分離・精製し、水現像に最適な分子量分布を有するMEMS加工用レジスト材料組成物がガロンスケールで製造できた。本経費で購入した研究用微細加工装置と量産装置により、目標を超える75 nmのナノパターンを解像できる良好な大面積加工特性を確認した。目標としていた中規模スケールの合成に成功し、平成27年10月より少量サンプル出荷を開始した。一年間の成果として、国際学術論文 2件 、国際国内会議 9件、展示会(Nano tech 2015) 1件、及び新聞(日刊工業新聞 大学面トップ記事) 2件の発表を行った。当初目標に向けて順調に研究が進展し、期待以上の成果が得られた。東証一部上場企業と実需化のための共同研究を開始することになった。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に当初の目標をうわまわる微細ナノパターンを実現するフォトリソグラフィ用水現像性レジスト材料をバイオマス資源の副産物である工業用糖鎖化合物を用い開発するとともに、その大量合成に成功したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、セルロースの分子設計や微細パターンにおけるLER(ラインエッジラフネス)の改善など実用化に向けた取組みが望まれる。
今後は、バイオマス資源の副産物を活用した環境に優しい高機能のレジストとして企業との産学連携により実用化されることが期待される。
低電圧駆動液晶デバイスの開発 山口東京理科大学
高頭孝毅
本研究で改善を行ったRTN液晶は低電圧駆動が可能だが、電圧無印加状態では構造が不安定なため安定化の必要があった。これまで光硬化性モノマーを添加し、全体に露光する方法では長期安定性達成は困難であった。マスクを用いて部分的な露光で液晶内に壁を形成することで安定化することを確認しており、当初この方法で取り組むことにし、改善に取り組んだが、実用化の検討過程でこの方法では実機に適応しにくいとの評価があった。(以上2014年度報告書)そのため方向を変更し光硬化性モノマーを使用せず、RTN液晶が熱力学的に安定になる条件を検討した。この結果、プレチルト角と液晶層の厚みを最適化することで安定なRTN液晶を得ることができた。しかし、透過率が低い欠点がありディスプレイとしてこのまま使うことは難しい。今後本研究の成果を基礎に特性の改良と応用の開拓を行う。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、低電圧で駆動できる液晶材料としてRTN液晶を提案し、その信頼性を向上させる方向性が示されている点については評価できる。一方、光透過率の改善が必要で、信頼性の確立とともに、高分子安定化プロセスを確立に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、液晶表示素子の高速化は常に期待されているので、基礎的な観点からの理解を深めながら推進されることが望まれる。
製紙スラッジ焼却灰と微細セルロース繊維を利用した複合材料の開発 愛媛大学
伊佐亜希子
愛媛大学
松本賢哉
本研究では、製紙スラッジ焼却灰(PS灰)とナノセルロース(NC)を混練し粉末状にした2種類のフィラー(水熱処理あり・なし)を調製し、このフィラーを樹脂(PP)と混練し射出成型体を作製した。その結果、簡易な乾燥処理でNCが均一分散したフィラーが作製できること、水熱処理によりトバモライトが生成すること、樹脂の比率の半分をPS灰+NCフィラーに置き換えた成型体の曲げ強度は、従来の樹脂の強度を保持したまま、かつ耐熱性が向上することがわかった。さらに、水熱処理を加えたフィラーを添加した樹脂成型体には、金属様の光沢が付与され、質感のある素材として利用できる可能性があることがわかった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、製紙スラッジ焼却灰(PS灰)と微細セルロース(NC)とを混練・粉末化したフィラーを、ポリプロピレンに複合し射出成型体を得た技術に関しては評価できる。
一方、技術移転の観点からは、成型体として特有の質感が得られることが確認できていることから、本複合材料の優位性とニーズに応じた最適な材料設計の指針を明確にし、PS灰の有効利用技術の一つとして実用化されることが望まれる。
今後は技術移転に向けてコスト等の検討を行うと共に、知財権の取得に向けた検討を行うことが期待される。
極めて強い発光を示す包接錯体型有機蛍光材料の開発 金沢大学
前多肇
金沢大学
渡辺奈津子
希薄溶液中、脱気した条件下で強い蛍光を発する分子でも、高濃度溶液中や固体状態、空気飽和条件下においては一般に蛍光強度は著しく減少する。本研究では、高濃度溶液または固体状態においてもよく光る蛍光材料の開発を目指し、蛍光性部位にデンドロンまたはかさ高い置換基を導入した化合物を合成し、その蛍光特性を調査した。その結果、合成したデンドリマー分子では酸素へのエネルギー移動およびエキシマー形成による消光過程がほとんど抑制できることが分かった。固体状態での蛍光量子収率は、デンドロンの世代が増えるにつれて増大した。一部のデンドリマー分子は、メカノクロミズムを示すことも明らかにした。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、「分子を包み込む」という手法で固体状態での蛍光発光量子収率の向上を見たことについては評価できる。一方、量子収率の測定法の絶対法への見直しを含め、熱・酸素に対する安定性の評価とその改善に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、有機ELへの応用のされ方など、具体的なデバイスに合わせた設計が見直されることが望まれる。
機能性酸化物ナノ粒子を用いた温度変調型スマートウインドウの開発 東京大学
松井裕章
東京大学
長谷川克也
近赤外光遮断技術は、省エネルギー社会に向けて重要な課題である。本研究は、60℃近傍で金属・絶縁体転移を示す酸化物VO2に着目した。VO2ナノドット構造におけるプラズモン励起の光学特性の理解は、VO2ナノ粒子シートのプラズモン励起の理解に貢献した。また、単一相であるVO2ナノ粒子を用いて作製されたナノ粒子積層シートは、近赤外域で表面プラズモン励起が発現し、明瞭な温度履歴を示した。ナノ粒子シートのプラズモニック機能は、ナノ粒子間で発現する電磁相互作用が重要な役割を果たすことを見出した。上記の成果より、外気温の変化を自律的に感知し、近赤外域の光透過性を自動制御可能なスマートウインドウに向けてVO2が適することを実証した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、VO2ナノ粒子によるプラズモン励起現象をナノドット構造体の形状効果を基礎的に検討し、ドット間距離により中赤外から近赤外領域までプラズモン励起がシフトする現象を見出し、現象の理解を深める知見が得られたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、企業との産学連携に向け可視光透過率と近赤外光遮断特性などの向上やその制御手法に関する定量的な基礎データの着実な積み上げや技術的な検討が必要と思われる。
本課題の自立型の温度変調型のスマートウィンドウは省エネルギー社会実現への貢献が期待され、今後実用化に向け研究が加速されることが望まれる。
カバリング技術と製織技術を活用した織物CFRP基材の開発 あいち産業科学技術総合センター
池上大輔
あいち産業科学技術総合センター
福田嘉和
炭素繊維を樹脂繊維でカバリングして被覆した糸を作成したものを織物に製織した後、成形加工を行い織物CFRP基材を作製する技術を確立することを目的に研究を実施した。
糸素材及び糸速、スピンドル回転数などのカバリング条件を検討することで、炭素繊維が完全に保護され、擦れによるズレの少ないカバリング炭素繊維を製造することができた。さらに、全体カバーファクタ値を考慮して織物規格を設計することで、汎用の織機等設備のみを用いて、炭素繊維の折損なく、炭素繊維織物を製造する技術を確立することができた。また、炭素繊維織物から熱プレス機を用いて温度、圧力、時間を最適化してCFRP基材を作製することで一定の強度を有する織物CFRP基材を開発することが可能となった。
期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、汎用の織機で製織を可能とした成果やカバリング糸素材による含浸性向上とカバリング条件を改善する可能性を示したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、カバリング技術の更なる改善による実用化が望まれる。今後は、新素材(超高強度繊維など)に対するカバリングの可能性や新たなカバリング手法(例えば網目格子状など)を追求し、適用対象品を意識した個別の性能・品質目標に向かっての開発が期待される。
粒径制御された裸の多種金属ナノ粒子簡易合成法の確立 千葉大学
西川恵子
各種イオン液体中へ、アークプラズマ法による金属ナノ粒子調製を行った。まず同一のイオン液体を用いた場合には金属種が異なっても、得られる粒子のサイズはほぼ一定であることが明らかとなった。また、金ナノ粒子の調製において、イオン液体のアニオン種が重要な粒径制御因子となることがわかった。他の手法による調製との比較から、アークプラズマ法の利点は、これまでに報告されている手法よりも二倍程度高い調製効率にあると結論される。また、スパッタ法ではイオン液体の温度が重要な粒径制御因子であったが、アークプラズマ法では、イオン液体の温度を無視した調製が可能である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、イオン液体中へのアークプラズマ法により、金、白金に加え合成の困難なアルミニウムナノ粒子を調製できたこと及びその粒径制御因子を解明したことに関しては評価できる。
一方、技術移転の観点からは、ナノ粒子の構造、表面状態、化学状態および分散安定性などに関する技術検討やデータの蓄積が望まれる。
実用化に向け今後の研究の進展が期待される。
有用金属の相互分離を指向した新規な充填カラムを用いる金属成分の分離技術開発 愛媛大学
山下浩
愛媛大学
入野和朗
撹拌装置などの大きな動力を必要とせずに溶媒抽出が可能な抽出装置を開発した。すなわち、塔内に種々の形状の充填物を充填し、その充填物の大きさおよび親水性・疎水性のバランスをコントロールすることにより、水および油を同時に流すことを可能とし、水相から油相へ有用金属を溶媒抽出することが可能となった。この方法を希土類金属イオンの溶媒抽出に適用したところ、塔長2mのミニプラントを用いた場合、ツリウムの分配比が130の結果が得られた。他の希土類金属イオンに関してもそれぞれ抽出可能であり、原子番号が大きくなるほど分配比が大きくなる傾向が得られた。これらのことから、希土類金属イオンの相互分離が可能となった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、申請者のオリジナル技術の実用化に向け、有用金属の溶媒抽出システムを実機レベルで検討し、実用化の可能性を見出した点は評価できる。一方、本法のメリットについて他法も含めた比較、最終的に必要な希土類元素の相互分離などについての技術的検討やデータの積み上げが望まれる。今後は、地元のメーカーとの連携により、今回検討した希土類金属分離の実用化だけでなく、他の分離対象への適用が期待される。
界面重合反応を活用した剥離紙のいらない粘着紙の開発 高知大学
市浦英明
高知大学
吉用武史
本研究では、界面重合反応を活用して、剥離紙のいらない粘着紙の調製を目的に研究を行った。その結果、界面重合反応を活用して粘着剤含有機能紙の調製が可能であった。粘着剤は、エマルション系および油溶性系ともに利用することは可能であった。さらに、剥離紙の必要がないことも確認できた。油溶性粘着剤の場合、粘着性が発現した場合の粘着剤定着量を算出したところ、50g/m2以上であった。また、その条件の場合、剥離強度を十分に発現することができた。剥離強度の最大値は、約500 mNで、十分な粘着強度であったことから、本研究の目的を達成することができた。今後は、プラントレベルでの開発を目指していく予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、考案した界面重合反応でアクリル系エマルジョン粘着剤を用いて紙の表面処理を行い、「剥離紙のいらない粘着紙」について実用化の可能性を検証したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、マイクロカプセルの膜厚と圧力・温度の処理条件との関連などを精査すると共に、バッチ処理から連続処理への転換などを検討し、実用化されることが望まれる。今後は、最終目標に対する現状の達成水準が整理され今後の課題を具体化・定量化し進められることが期待される。
全単結晶ホイスラー合金からなるCPP-GMR素子の開発 大阪大学
山田晋也
大阪大学
宮川勝彦
本課題は、次世代の超高密度磁気記憶装置ハードディスクドライブ(HDD)用の高性能磁気ヘッドとして期待されている面直通導型巨大磁気抵抗(CPP-GMR)素子を、全単結晶のホイスラー合金で構成し、HDDの超高密度化に貢献する技術へと発展させることを目的として研究を行った。Si基板上に全単結晶『強磁性ホイスラー合金/非磁性ホイスラー合金/強磁性ホイスラー合金』積層構造を形成した後、CPP-GMR素子を設計・試作し、強磁性ホイスラー層から注入されたスピンを非磁性ホイスラー合金層を介して電気的に検出することに成功した。次世代HDD用の磁気ヘッドとして要求されている領域まで素子性能を引き上げるためには、理論計算と実験の両面から材料探索の研究を進める必要があると考えられる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも独自に開発した積層化技術を駆使することにより、強磁性ホイスラー合金薄膜と非磁性ホイスラー合金薄膜とを、界面のミキシング層なしに全単結晶ホイスラー合金からなるCPP-GMR素子を作製し、スピン伝導の観測に成功したことについては評価できる。
一方、実用化に向けさらなる素子性能の向上が望まれ、現行合金系でのアニール処理などのプロセス条件や新たな材料系探索などの技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。また、得られた研究成果の知的財産権の確保が望まれる。
今後は、情報化社会を支える次世代の超高密度磁気記憶装置ハードディスクドライブの実現に貢献する高性能磁気ヘッドの実現に向け、さらなる研究の進展が望まれる。
ホタテ貝殻微粒子を乳化剤に用いた日焼け止めの開発 室蘭工業大学
山中真也
室蘭工業大学
古屋温美
本研究の目的は、ホタテ貝殻粉体を乳化剤に用いることで、たとえ誤飲しても問題のない安全安心な日焼け止めを開発することである。そのための技術的課題(エマルションに含まれる粉体量を如何に多くするか)を解決して、遮蔽率80%以上のエマルションを得ることを目標に設定した。平成26年度は、乳化剤粉体の比表面積が遮蔽率に及ぼす影響、および疎水化処理した粉体の油相中への導入効果を検討した。その結果、エマルションの遮蔽率は開発当初の20%から70%に向上した。平成27年度は、より均質なエマルションを作製するために水相に導入する粒子の作製法を確立して、当初目標を達成できた。今後は、油相内に導入する粒子の適切な作製方法と疎水化処理方法を検討して遮蔽率90%以上のエマルションの開発を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、疎水化処理したホタテ貝殻粉体を油相中に導入するなどで当初目標の紫外線遮蔽率80%を達成したことについては評価できる。一方、技術移転の観点からは、疎水化表面処理による安定な分散化や解砕粒子の油相への導入による紫外線遮蔽効果の解析などに基づく実用化が望まれる。今後は、廃棄される天然資源の様々な応用技術の一つとして、特許出願が可能な研究展開をされることが期待される。
超高速CPU開発に向けた高品質シリコンゲルマニウム結晶基板製造の研究 宇宙航空研究開発機構
荒井康智
独立行政法人宇宙航空研究開発機構
二俣亮介
次世代半導体材料として一部実用が始まっているSiGe単結晶について独自の飽和溶融帯移動法(TLZ法)による育成条件を鋭意研究し、デバイス試作が可能なΦ30mm×L7mmサイズにて当初目標を大幅に越える高品質単結晶の作製に成功した。具体的には、X線ロッキングカーブ半値幅が当初目標100arcsec以内を越える21arcsecのモザイクフリーで、組成変動1%以内且つボロン不純物濃度を目標より2桁低い1014/cm3まで高純度化した高品質のSiGe単結晶が得られた。
今後実用化に向け、現在進めているデバイスの試作検討とともに、更なる単結晶の大口径化と高品質化を目指し研究開発を進めていく。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、デバイスの試作が可能な均一な組成でモザイクフリーの高品質のSiGe単結晶育成に成功したこと及び関連する企業や公的研究機関に対する調査から有望な応用デバイスや具体的なSiGe単結晶育成の目標が、見出されたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、調査から得られた目標特性の実現に向け、さらなるSiGe単結晶の大口径化や結晶品質の向上に向けた技術検討やデータの蓄積が望まれる。
今後は、次世代半導体材料として期待されるSiGe単結晶の実用化に向けさらなる結晶品質の向上等の取組の進展とともに、そのデバイス応用による優位性の実証が期待される。
活性化粉末法によるアルミニウム合金のガス窒化技術の開発 静岡理工科大学
吉田昌史
静岡理工科大学
久留島康仁
アルミニウム合金表面に厚膜の窒化アルミニウムを形成させるためのガス窒化技術の開発を行った。開発期間内に,400℃以下の処理温度で,アルミニウム表面に窒化アルミニウムを形成させることを目標とした。400℃以下での処理の実現には,Al基材の前処理方法を確立する必要がある。このため,金属の窒化処理の前処理方法について検討した。この結果,窒化前の基材表面状態は,平滑な方が厚膜の窒化膜を生成できることが分かった。窒化物の生成は,従来は500℃以上の温度が必要であったが,マグネシウム量を制御することにより,窒化物を窒化処理温度450℃で生成させることが可能となった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも独自技術の可能性を、着実に実験、研究し、現段階で最適条件を見つけ、アルミニューム合金の表面を従来より低い温度の450℃で窒化できることを確かめた点は評価できる。一方、立てられている計画方針をもとに、目標温度達成に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、技術的な大きな壁を破る必要もありそうであり、表面の物理的な活性化だけでなく、母材の成分系も広く検討し、総合的なブレークスルー技術を研究開発されることが望まれる。
低環境負荷な白色発光性半導体ナノ結晶の精密合成とフルカラーチューナブルレーザーへの応用 東京理科大学
古海誓一
東京理科大学
中川隆
半導体ナノ結晶の一種である量子ドットは、量子サイズ効果に由来した優れた光電子特性を示すことから、近年、研究が活発に行われている。しかしながら、現在、ディスプレイに使用されている量子ドットはCdを含むCdSなどであり、人体および環境に対して有害なので、代替可能なナノ材料が渇望されている。本研究では、低環境負荷でカルコパイライト型結晶構造を形成し、I-III-VI2族半導体であるAgInS2(AIS)とCuInS2(CIS)に着目して、高い発光量子収率を示すAISナノ結晶とCISナノ結晶の精密合成を行った。さらに、III-V族半導体であるInPナノ結晶も合成も試みた。AISナノ結晶では、毒性の低い酢酸銀(I)と酢酸インジウム(III)を用いて合成すると、AISナノ結晶の溶液は透明な黄色~橙色を呈していた。最適な合成条件おいては、AISナノ結晶の絶対発光量子収率は、過去の研究と比較すると高い値を示した。これに加えて、InGaPナノ結晶と高分子ゲルを高度に融合することで、新しい波長可変レーザーの作製に成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、「コロイド結晶中に分散した低環境負荷の半導体ナノ結晶」により高い絶対発光量子収率の赤色から緑色までの波長可変レーザーの実現の可能性が示されたことに関しては評価できる。
一方、技術移転の観点からは、青色発光のナノ結晶の開発、低い励起パワーでのレーザー発振などの研究を進めるとともに得られた研究成果の特許出願が望まれる。
今後は、研究の進展により新たな発光デバイスとして波長可変フルカラーレーザーが実用化されることが期待される。
超高性能環境調和型触媒による二価フェノールの製造 横浜国立大学
窪田好浩
横浜国立大学
山本亮一
YNU-2P(MSE骨格)のスケールアップにあたり避けて通れない事項として,これまでに達成されていない水熱合成時のTi直接導入を試みた。MSE骨格は従来,アルミノシリケートの直接水熱合成のみが可能で,他のメタロシリケートは上記のような気相ポスト処理の助けを借りなければ調製が不可能であった。本研究では、アルミノシリケート合成液にTi源を共存させる方法で、まずTi含有Al-MCM-68を合成したところ、期待どおりに[Ti, Al]-MCM-68(MSE骨格)が得られた。硝酸処理を施すと,Alのみが除去され,[Ti]-MCM-68を液相処理のみで得ることに初めて成功した。今後、触媒としての機能評価や高性能化に期待が持たれる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ゼオライト系触媒骨格中の欠陥制御とそれに基づく立体規則性の制御、及び、液相合成法によるTi導入という新合成法に基づく新規素材に関する技術は評価できる。一方、技術移転の観点からは、従来法とのコスト、純度、プロセスなどの差異、優位性を明示するなどでの実用化が望まれる。今後は、二価フェノールの選択合成にとどまらない工業的な応用展開を目指し、反応設計と触媒設計の観点からの新たな触媒合成技術を研究開発されることが期待される。
光で創る堅牢な高効率青色発光性材料分子の開発 群馬大学
山路稔
群馬大学
小暮広行
現存の発光性有機分子は熱・光・湿度・酸素等の外部因子に対して劣化し,デバイスとしては寿命が短いことが問題である。本研究では堅牢であるフェナセン分子骨格を公知のクマリン分子骨格に組み込み,高発光効率性を保ったまま外部因子に対する耐性を向上させた青色発光性分子の合成法および発光特性を向上させる方策を開発し、分子設計を行った、その結果、提示した目標基準を全て満たす化合物の開発に成功し、知財申請を行うに至った。
1)空気中,室温で安定に単離可能であること。
2)380-480 nmの波長領域に蛍光を示すこと。
3)有機溶媒中の蛍光収率が0.2以上であること。
4)融点が300 ℃以上であること。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、フェナセン分子骨格を有する3種の新規な青色発光性分子を光縮環反応により合成し、それらの光物理過程を明らかにしたことに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、合成した蛍光性色素分子で有機ELデバイスを作成し、量子収率、耐環境性などの問題点の洗い出しと目標の見直しを行い、より実用性の高い色素分子を開発することでの実用化が望まれる。今後は、デバイス作成の得意な研究者や企業との共同開発を検討されることが期待される。
摩擦攪拌プロセスによるナノバインダ超硬合金皮膜の創製 大阪市立工業研究所
長岡亨
地方独立行政法人大阪市立工業研究所
高田耕平
SKD61、SKH51のそれぞれの基材上に溶射処理によって形成したWC-12Co超硬合金皮膜に対して摩擦攪拌プロセス(FSP)を行った。プローブ付ツールを用いたFSPは処理が困難であったが、前進角を3°から1.5°と小さくすることで、フラットツールを用いても超硬合金皮膜の深さ約0.8 mmまで緻密化、高硬度化することができた。硬度は、FSP前の550-1200HVから1500-2000HVにまで上昇した。超硬合金皮膜/基材界面の接合強度は、基材の種類によらずFSPによって約2倍に向上した。前進角を小さくすることで、FSP時の超硬合金の材料流動が変化するためと考えられた。超硬合金皮膜の硬度、ならびに皮膜/基材界面の接合強度は当初目標をほぼ達成することができた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に合金工具鋼基材の表面に溶射した超硬合金皮膜に摩擦攪拌プロセスを施すことで、皮膜内部のボイドを消失させて皮膜硬度の上昇が図れること、また、基材/皮膜接合強度を約2倍に高められることを明らかにした点に関して評価できる。一方、技術移転の観点からは、今後の課題として挙げられている安定した界面接合強度を実現するための条件確立を行い、バルクの焼結超高合金の硬度・強度に近づいた溶射皮膜/基材複合体により、超高合金切削工具の低コスト化や省資源性の実現が望まれる。今後は、安定した接合強度を得る条件の確立のほか、とくに長尺切削工具への応用を念頭に、サイズ依存性の原因の明確化とその制御の開発が推進されることが期待される。
フォトニック結晶位相板による偏波ダイバーシティ微小光学素子の研究開発 慶應義塾大学
津田裕之
入力ポート数4、出力ポート数8の導波路集積型ダイバーシティ光インタフェース回路の設計と試作を実施した。様々な偏光状態の入力光に対して、偏光分離して、同じ向きの偏光に変換して出力し、かつ、経路間の光路差を0とする設計である。試作したモジュールは、損失3.5 dB、偏光消光比15 dBの特性を示した。次回の試作に評価結果を反映すれば、目標は達成できる見込みである。また、フォトニック結晶を用いた超薄型の偏光ビームスプリッタの理論計算、デバイス設計、サンプル品の作製、特性評価を実施し、Walk-off動作を確認している。新規構造の特許出願と再試作による目標値達成を予定している。これらの研究成果を踏まえ、試作技術を有する企業との共同研究を開始している。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、小型集積型の偏波ダイバーシティ素子を設計、実証していることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、目標性能、仕様の達成のための原因について、さらに調査をすることが望まれる。今後は、挿入損失の低減および集積技術、実装技術の確立が望まれる。
良好な熱伝導性・熱的信頼性を有するアルミナ-アルミニウム接合体の開発 産業技術総合研究所
北憲一郎
独立行政法人産業技術総合研究所
渡村信治
パワーデバイス用の低コスト・高耐久性・高熱伝導性・絶縁性を特徴とする高熱伝導性セラミック基板の製造技術の開発を目指し、「シロキサン系ポリマーを利用したアルミナ-アルミニウム接合技術」を用い、本課題の目標値である「12.0W/m・K」を大幅に上回る「18.32W/m・K」のアルミニウムとアルミナの接合体を開発することが出来た。また、その熱伝導率を達成した原理の解明に成功した上で、熱サイクル試験が接合層ならびに熱伝導率へ与える影響を解明することに成功した。今後実用化を目指し、さらなる研究を進めていく。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ポリマーの熱分解反応を応用した新規の手法により、当初の目標を超える熱伝導率を達成し、研究者の提案する接合体構造の有効性が認められたことに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、熱サイクルによる熱伝導特性の安定性の確保や金属/セラミックス接合面の熱応力緩和などに対するさらなる技術検討が望まれる。
今後、本研究が進展し高熱伝導性セラミック基板製造技術とし実用化され次世代パワー半導体の普及を加速し、機器の省電力化への貢献が期待される。
高酸素還元活性を発現する固体高分子形燃料電池用複合酸化物担体の開発 宮崎大学
酒井剛
宮崎大学
新城裕司
本研究では、我々が見出した低価数チタンであるTi3+を出発原料としてTi-Sn系沈殿試料を調製すると、焼成温度よりも低い温度での水熱処理によって結晶化が進行する現象を基に、燃料電池担体に適用可能な高比表面積結晶性TiO2-SnO2複合酸化物の開発を行った。150℃での水熱処理後で168 m2/gの比表面積値が得られ、80℃での水熱処理では184 m2/gの結晶性TiO2-SnO2複合酸化物が得られることを実証した。また、水熱処理による結晶化現象について、含有されているTi3+によることをXPS測定によって明らかにした。さらに、この特異現象を利用して電極触媒を調製し、市販試料の2倍の値の比活性が得られることを明らかにした。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、固体高分子形燃料電池の高価な白金触媒量の低減に貢献する高酸素還元活性を発現する複合酸化物担体を、独自の低温水熱処理により高比表面積と白金触媒の高活性化に必要なTi3+を含有する結晶性TiO2-SnO2複合酸化物を新たに見出したことは評価できる。さらに、当初の目標に加え、開発した担体を用い電極触媒を試作し、市販電極触媒の2倍の比活性が得られる可能性を確認できたことは大いに評価できる。
一方、技術移転の観点からは、本研究成果の知的財産権の確保を進めるとともに、担体への有効な白金担持方法の開発を進め燃料電池セルでの発電性能や電極としての寿命特性などを検討し、企業との産学連携による実用化が望まれる。
今後は、本研究の進展と実用化により燃料電池の普及による水素エネルギー社会の黎明期を支える技術として貢献されることが期待される。
メカノメタラジカル接合法による同種・異種金属板接合法開発 東京工業大学
大竹尚登
東京工業大学
三谷明男
接合面に対して垂直方向に超音波振動を印加するメカノメタラジカル接合法により,軟鋼板および980MPa級ハイテン鋼板と2000系Al合金板の接合を実現する加工装置を試作し,圧縮荷重,超音波印加時間など種々の実験条件を変化させて接合実験を行い,十字引張試験により,接合条件が接合強度にどのような影響を及ぼすかを詳細に検討した。その結果,直径3mmのパンチを用いて,A2017 T4材と980MPa級ハイテンを437Nの最大接合荷重で接合出来ることを示した。さらに,有限要素解析により,時間を追って接合がどのように生成するかを明らかにするとともに,安定して接合を得るための接合条件探索の指針を提示した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ハイテンとアルミ合金の接合に関しては、当初に設定した目標値や想定結果を得ており評価できる。一方、技術移転の観点からは、応用先により異種金属の組み合わせや研究要素が異なため、他の方法との差別化、優位性の訴求、ニーズに基づく実用化などよく整理した上での実用化開発が望まれる。今後は、本技術ならではの用途開発について積極的なアピールと実ニーズに基づく研究開発、技術移転が期待される。
単分散コア・シェル微粒子を利用した高性能光拡散材の開発 熊本大学
高藤誠
熊本大学
緒方智成
本課題では、ディスプレイ、LED照明などの光取りだし効率、太陽電池などの光取り込み効率を向上させるための高効率かつ均質な光拡散材の開発を目的として、超臨界二酸化炭素複合化法を用い、無機ナノ粒子をシェル層とする単分散コアシェル複合微粒子の作製について検討した。酸化チタン、シリカなどの無機ナノ粒子をマイクロサイズのポリマー微粒子の表面に被覆させた複合微粒子の作製ならびに粒子サイズ、粒度分布、界面構造の制御技術の確立に成功した。複合微粒子の表面反射率はポリマー微粒子と比較して大きく向上することを確認した。今後、プロセス面およびコスト面での検討を行い、高性能光拡散材の実用化を目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、独自の超臨界二酸化炭素複合化法により種々のサイズの高い反射率を有する高屈折率コア・シェル複合微粒子を作製した技術については評価できる。
一方、高い反射率に加え透過率などの光学的特性や界面シェル構造や分散度との関連性の解明などの実用化に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
今後は、企業との産学連携により本研究成果の種々の特性を有する新規の高性能光拡散材が具体的な用途に向け実用化されることが期待される。
自己組織化単分子膜形成技術を活用したガス吸着フィルターの開発 あいち産業科学技術総合センター
村井美保
あいち産業科学技術総合センター
山本周治
自己組織化単分子膜(SAM)形成技術を活用して材料表面に消臭性能を付与することにより、ガス吸着性能を持つフィルター素材の開発を目指した。ポリエステル織物に消臭性能を付与するためのSAM処理条件について検討し、処理布の性能を評価した。処理条件については、最大のSAM形成量が得られる熱CVD条件を見出すことができた。処理布の性能として、ホルムアルデヒド、酢酸及びイソ吉草酸に対して、2時間後の消臭率がほぼ100%得られることを確認し、初期性能としての目標を達成した。また、耐久性評価でも、5回繰り返し消臭試験後及び5回洗濯後も消臭率90%以上を保持していることを確認し、目標を達成することができた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ガス吸着フィルターの開発を目的に、ポリエステル白布に熱CVD法で自己組織化単分子膜(SAM)を形成させ、当初目標の消臭性付与や物性を満足できるSAMの形成条件を明らかにしたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、消臭対象となるガス種を増やすためのSAM用素材の探索、布素材の特性を配慮した温度に代表される熱CVD法の処理条件の最適化などを経た実用化が望まれる。今後は、研究開発成果の知財化と共に、繊維製品における消臭ニーズを再調査されることが期待される。
自己組織的フィラー配列によるエポキシポリマーアロイ系高熱伝導コンポジット 兵庫県立大学
岸肇
兵庫県立大学
福井啓介
硬化過程にて反応誘起型相分離を生じるエポキシ/熱可塑性樹脂をマトリックスとし、アルミナや窒化ホウ素をフィラーとするエポキシコンポジットを作成した。コンポジット硬化時に、フィラー表面とマトリックスとの組み合わせに応じて親和性の高いマトリックス相にフィラーが自己組織的に選択配置することが明確になった。また、フィラーが選択配置するマトリックス相が連続チャンネルとなる相構造を形成させることにより、既存のエポキシコンポジットに比較して少量のフィラー添加で熱伝導率を向上させうるとのコンセプトが証明された。大学の現有装置上の課題(フィラー含有高粘度コンポジットの成形困難)のため目標値(50vol%フィラー配合にて3W/m・K)達成とは言えない現状だが、窒化ホウ素を用いればフィラー配合量25vol%にて1.9W/m・K レベルの熱伝導率に到達し、一定の研究成果を得た。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、研究者が見出した硬化過程にて反応誘起型相分離によりエポキシ/熱可塑性樹脂の連続ナノ相構造のマトリックスを形成するという技術を進化させ、このマトリックス中にアルミナや窒化ホウ素をフィラーが自己組織的に選択配置することにより従来の熱伝導性を大幅に越えるエポキシコンポジットを開発したことについては評価できる。
一方、実用化に向けては、さらなる熱伝導性の向上やエポキシコンポジットの耐熱性などの技術検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
今後は、企業との産学連携により電子デバイスなどへの応用展開により社会還元が期待される。
電子線照射による医療用高分子シートの積層接着技術の開発;接着剤を用いないPTFEと異種高分子材料の接着 東海大学
西義武
東海大学
立川守
医療材料として優れているPTFEは、他の材料との接着が困難である。従来の電子線による接着法では積層試料を直接照射する為、0.1mm以上の厚い試料では電子線が接着界面まで達せず、接着が困難であった。一方、実用化に必要な接着剥離強度を得るには、新しい技術が必要である。そこで研究責任者はPTFEと異種高分子の接着面を予め電子線照射処理後、積層加圧熱する接着法を見出した。その結果、電子線照射処理による損傷を抑制し、かつ、厚い試料にも適用できる技術を確立した。この方法は不安定原因のチャージによる斥力を防ぎ、接着界面での化学結合形成を促進する為、片方の試料のみ照射し、その後、被接着面と重ねて加圧熱処理を行った。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、接着が難しいPTFE (ポリテトラフルオロエチレン)での電子線照射を用いる接着に関して、予め片面を電子線照射すると云う興味深いコンセプトの手法を試み、エポキシとの接着実験で目標値に近い剥離強度の結果を得たことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、先ずは医療用高分子シートに狙いを絞り、接着条件の最適化により剥離強度を向上させると共に、操作性・生産性などを勘案し実用化されることが望まれる。今後は、応用分野のニーズに合わせて具体的な目標を定量的に設定し、他材料への展開も検討されることが期待される。
粒径50 nm以下で均一なラテックスのクリーン合成プロセスの開発 および規則的ナノ構造材料への応用 東北大学
石井治之
東北大学
柿崎慎也
粒子径50 nm以下で、粒径均一性の高いラテックスの新規合成法を確立した。スチレン(St)とメタクリル酸メチル(MMA)の乳化共重合系を適用し、界面活性剤濃度は既往の乳化重合系に比べ1/10以下で行った。CMCが低い界面活性剤を用いたとき、その濃度が1 mM 以下とごく微量の条件で粒径50 nm以下の単分散ラテックスの合成に成功した(原料モノマー濃度 約3 wt%)。原料モノマー濃度が高い条件においてもまた、小粒径な単分散ラテックスの合成に成功した。合成したラテックスは、自己組織化により周期的で規則的な粒子配列体を形成し、また従来技術では作製が困難な3次元構造を有するナノ構造材料の鋳型として有用であった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、スチレンとメタクリル酸メチルの乳化重合で、単分散に近い、粒子径50nm以下のラテックスを生成させ、これを鋳型として秩序構造のあるポリマーフィルムを作成した技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、実用的な高モノマー濃度でのより小粒径の単分散粒子の実現に向けた、原料構成のみならず撹拌や原料添加の仕方などエンジニアリング項目を含めた技術課題の設定と検討などによる実用化が望まれる。今後は、早期の特許出願を検討すると共に、有機ナノ構造物に目標を絞るなど、ナノ構造の専門家と共同研究をされることが期待される。
多光子励起蛍光体分散高透明アクリル樹脂マトリックスを用いるフルカラーボリュームディスプレイプロトタイプの開発 東海大学
冨田恒之
東海大学
立川守
本研究開発では透明または半透明な体積中に立体的に画像を描画できるフルカラー3Dボリュームディスプレイの開発を目指し、その発光材料の合成と分散状態での種々の特性評価を行った。980nmの近赤外光を励起光に用い、外部から励起光を集光することでその焦点位置のみを発光させることができるアップコンバージョン蛍光体を用い、UV硬化型アクリル樹脂に分散した。TmとYbをドープしたYTa7O19やCaF2において良好な透明性、色純度を持つ分散発光体が得られた。ErとYbをドープしたYTa7O19において同様に優れた緑色発光分散体が得られた。赤色発光に対しては透明性、輝度、色純度、均一性を十分に満たす蛍光体が得られず、さらなる材料探索が必要である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、フルカラー3Dボリュームディスプレイに必要な色純度・輝度・濁度・均一性に優れた青色と緑色画素として有望なアップコンバージョン蛍光体を見出したことは評価できる。
一方、赤色発光蛍光体の材料開発や励起赤外光の集光位置走査技術などに関する技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。なお、励起赤外光の集光位置走査技術については、光学系や画像処理関連の研究者や企業と連携し進められることが望ましい。 
今後は、材料開発、システム開発にくわえ、マーケティングの観点からも研究開発を進め、医療分野やエンターテイメト分野など広範な分野での実用化が期待される。
窒素添加によるクロム系ステンレス鋼の耐食性向上に関する研究 新潟県工業技術総合研究所
三浦一真
中~低Cr系ステンレス鋼について、熱処理により硬化するマルテンサイト系ステンレス鋼の代表鋼種であるFe-13Cr-0.3C(SUS420J2)とフェライト系ステンレス鋼の代表鋼種であるFe-16Cr-0.1C(SUS430)を対象に窒素添加に関する研究を行った。SUS420J2は、目標とする硬さと耐食性レベルを達成し、刃物・産業用チェーンへの適用の見通しを得た。SUS304への代替が期待されるSUS430については500~1200℃の温度域で処理プロセスを検討した結果、1000℃以上のオーステナイト域で最大0.6%の窒素が添加され、SUS304と同等以上の耐食性を得ることができた。今後、耐食性が要求される分野への用途を開拓する。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、 マルテンサイト系ステンレス鋼とフェライト系ステンレス鋼の硬さと耐食性に及ぼす窒素添加の影響を調べ、目標とする性能が達成されたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、熱処理による材料改質の利用や耐食性の向上は、省資源、省エネルギー、リサイクル性の向上など、社会ニーズにマッチしており、問題点はまだ残されているものの、民間企業との研究開発ステップにつながる可能性は高まったと言える。今後は、真空中での窒素雰囲気条件などを明確にされて、本研究開発で獲得した技術の実用化を期待したい。
液状樹脂材料のミリ波複素比誘電率評価装置の開発 宇都宮大学
清水隆志
TM0m0モード空洞共振器法をベースとした50-75GHz帯向け低誘電率(約5以下)の液状樹脂等を測定可能な評価システムを実現する。比誘電率の測定精度10%以内、誘電正接の分解能10-4以下を目指し、研究開発を行った。
棒状試料評価用TM0m0モード50GHz帯空洞共振器を設計・試作し、高い製作精度で実現できることを実証した。しかし、安定した高Q値を得るためには、共振器の組立方法に一部課題が有ることを示した。また、開発した測定システムを用いて、丸棒誘電体試料の複素誘電率測定を行い、比誘電率の測定精度10%以内、誘電正接の分解能10-4以下の評価が可能であることを実証した。
今後の展開は、Q値の向上や液状試料の複素誘電率評価に関する検討を進める。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、従来不可能であった50-75GH帯における低誘電率や液状樹脂材料の誘電率の測定が可能になった点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、積極的な展示会参加と、共同研究の企業の探索が望まれる。今後は、液状・軟性状態の評価試料を保持するための機構が開発されることが期待される。
テラヘルツ帯磁気光学エリプソメトリーによる非接触半導体薄膜評価法の開発 摂南大学
長島健
摂南大学
鈴木茂夫
半導体薄膜の自由キャリア密度,移動度及び有効質量を独立に,かつ非破壊・非接触で導出するためのテラヘルツ帯磁気光学分光エリプソメトリー法を開発した.測定感度向上のためにラピッドスキャン方式時間領域分光システムを構築し,さらに強磁場印加装置を製作した.データ解析においても磁場印加を考慮した新規解析スキームを開発した.高移動度半導体薄膜について自由キャリア密度,移動度及び有効質量を評価できることを実証した.低移動度材料についても,今回明らかになった開発課題を達成することで評価可能と考えられる.本手法は基礎研究段階での材料物性評価に有用であるだけでなく,電極等を必要とせず迅速に測定できるので製品検査への摘要も期待される. 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、半導体薄膜試料のキャリア輸送特性を、コンタクトレスの非破壊・非接触で計測できる手法の開発関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、測定可能範囲が限定されている点、また測定したキャリアの有効質量が、キャリア移動度と一対一に対応しない点が懸念される。今後は、特許出願と製品化のための検討・開発を早急に進めることが期待される。
プラスティック上で実現する単結晶シリコンCMOS技術 広島大学
東清一郎
広島大学
島筒博章
水のメニスカス力を利用した低温転写技術により、プラスティック(PET)基板上に単結晶シリコン薄膜を形成する研究を実施した。PET基板と転写シリコン薄膜が高い密着性を示すのは界面にSi-O-C結合が形成されるためであることを実験的に明らかにした。SOI層転写に重要な中空構造の形成に関して、ウエットエッチング条件の精密制御とイオン注入を利用したBOX層のテーパー柱形成技術の考案により歩留まり向上を達成し、PET基板上でnチャネルおよびpチャネル高性能トランジスタの動作に成功した。転写したトランジスタを用いてデジタル回路を作製する基本プロセス技術を構築し、インバータの動作に成功した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にPET表面上にSiデバイスを転写により作製し、動作も確認された点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、展示会等を活用して、企業へのアピールと用途の探索が望まれる。今後は、さらに複雑なデバイスを高集積に作りこむ技術を持つことより応用範囲の拡大が期待される。
Fe-Co系合金ナノワイヤー配列素子を利用した希土類フリー高性能磁石の開発 長崎大学
大貝猛
長崎大学
坂田智昭
強磁性金属の中で最も大きな結晶磁気異方性を有するCoおよび最も大きな磁気モーメントを有するFeに着目し、結晶配向型の高アスペクト比形状Co、FeおよびFe-Co合金ナノワイヤー配列構造体の作製を目指した。陽極酸化時の極間電圧や電解液温度を最適化させた結果、アルミナ製メンブレンフィルターの細孔直径を約25nmレベルにまで絞り込むことに成功した。更に、この細孔中に全組成範囲のFe-Co合金ナノワイヤー配列構造体を電析出来ることが判明した。また、試料の磁気特性を評価した結果、Fe-50at.%Co合金組成の付近で保磁力が最大となり、2kOeを超越させることに成功した。今後、本材料のバルク化を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に目標とする孔径40nm以下を満足する25 nm径のFe-Co合金ナノワイヤー作製での磁気特性の評価を達成できた点で評価できる。一方、技術移転の観点からは、計画している全体目標に対して、本研究はその一部の達成を目指したものであるので、明確になった課題に対して研究開発を進めて目標の高い保持力の高性能磁石を実現することが望まれる。今後は、企業技術などの導入により本提案材料のバルク化を具体的に可能にする技術確立と、最終的な磁気特性の目標と具体的な製品をイメージし、技術移転を目指した研究開発を進めることが期待される。
プレス成形を用いたCFRTPの高品位せん断加工技術を汎用形状への拡張に向けた技術開発 岐阜大学
鳥羽景介
岐阜大学
菱田隆行
CFRTPの穴あけ加工において、高い加工品位と生産性を両立する加工法の実現を目指し研究を行った。汎用プレス機と金型とを併用した加工技術において、加工時のCFRTPに対する試料拘束力と試料温度との条件の最適化を図ることで、高精度で穴あけ加工を行うことができた。加えて、CFRTP内部からの炭素繊維の引き抜けや、繊維残留応力の発生を抑制することができた。また、CFRTPへの垂直方向からの加工といった限定的な加工条件だけでなく、斜め方向の加工においても検証を試みた。5°、10°、15°の角度をもった加工条件では、垂直面への加工条件よりも試料温度の影響が顕著になることがわかった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも傾斜打ち抜き加工実験を行い、いくつかの予備的な知見が得られた点については評価できる。一方、せん断加工精度や繊維の残留応力についての影響因子に関して体系的な研究、それに基づいたメカニズムの解明、に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、目標達成に向けた適切で妥当なアプローチを検討し、CFRTPの傾斜打ち抜き法の可能性およびそれに向けた技術開発について真摯にチャレンジされることが望まれる。
金ナノ粒子二量体配列基板を用いた高感度・高信頼性表面増強ラマン分光技術の開発 神戸大学
菅野公二
神戸大学
高山良一
本研究課題では高感度・高信頼性化学分析技術の開発を目的とし,表面増強ラマン分光(SERS)のための金ナノ粒子二量体アレイ配列を再現性良く作製することで,低い検出下限濃度で再現性良く有害物質検出が可能な高感度・高信頼性SERS基板を実現した。強度の不安定さが問題となっていたため実用化が進まなかったSRES分析に対し,金ナノ粒子二量体アレイ配列提案構造により検出下限10-13 Mの極低濃度分子検出を可能とし,さらに強度のばらつきを補正する校正技術を構築したことでSERS基板間ばらつきを従来の30 %から5 %に減少することができ再現性良い分析手法を実現した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、金ナノ粒子二量体アレイ配列の再現性の良い作製手法と校正技術の開発により高感度・高信頼性の表面増強ラマン分光(SERS)の可能性を示したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、特許出願とともに想定する分析対象物質や実試料での分析精度の確認や分析手順の確立に関するデータの積みあげや技術検討などが必要と思われる。
今後は、本研究の進展と実用化により、極微量有害物の分析による環境保護、食品の品質や安全性の確保などでの社会貢献が期待される。
半凝固金属の固相率制御とECAP法の併用による高強度・高じん性マグネシウム合金の開発 同志社大学
田中達也
同志社大学
奥平有三
軽金属としてアルミニウム合金およびマグネシウム合金を供試した.これらに対し半凝固鋳造及びECAP加工を施すことにより高強度・高じん性材の開発を行った.アルミニウム合金は,半凝固ダイカスト鋳造により鋳造材と展伸材を共に半凝固材料として作製した.マグネシウム合金は,難燃性のマグネシウム粉末を溶融させて半凝固材を生成するチクソモールディング法により低固相率の半凝固材料を作製した.さらにそれらにECAP加工を施し結晶粒微細化作用による高強度かつ延性に富む材料作製を行った.半凝固アルミニウム合金はECAP加工を最大8回まで施し,高じん性材料を作製することができた.一方,半凝固マグネシウム合金においては,上述の試料作製に際し,保持圧力が作用しない鋳造となったため延性が不十分となりECAP加工中にせん断破壊が起こった.また以上のプロセスで得た試料をインパクト成形による高速鍛造で成形性を評価し,結晶粒微細化による効果を確認した.
今後の展開として,半凝固マグネシウムの製造において保持圧力が作用可能な射出装置の開発を急ぐ必要がある.
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもアルミニウム合金を半凝固ダイカスト鋳造した後、ECAP加工による高靭性材料の作製に成功しており、半凝固鋳造により初晶粒径を微細化し、連続してECAP法による強加工法を施して、高強度・高靭性材料を製作する方法を開発した点については評価できる。一方、マグネシウム合金では開発途上であり、半凝固鋳造でできた素材の延性の改善などの技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、半凝固鋳造法およびECAP法については学術的にも技術的にも数多くの研究がなされているので、必要な情報を十分に収集して、迅速な改善に役立てることが望まれる。
3Dプリンターを用いた陶磁器素地成形技術の開発 岐阜県セラミックス研究所
立石賢司
公益財団法人名古屋産業振興公社
亀山哲也
陶磁器素地を3次元造形するための固化方法として、紫外線硬化樹脂を選定した。種々の樹脂および分散剤の検討を行い、樹脂中に粉体を単分散させかつインクインクジェットノズルで吐出可能なインクの作製に成功した。しかしながら、ノズル抜けや吐出速度のバラつきがあり、3次元造形できる安定吐出にまでは至っていない。陶磁器素地を35vol%含有するインクを固化し、密度1.58g/cm3の歪の少ない成形体が得られた。焼成により得られた密度は2.43g/cm3で一般磁器と同等であった。焼成体にはクラックが多く発生しており、焼成方法の検討等が今後の課題である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、3Dプリンターのプリント吐出条件として、スラリー濃度、粒度分布、固化剤、インクノズル形状等について考察し、今後の研究展開につながる基礎的知見が得られたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、3D法による陶磁器プロトタイプ作製についての基礎的検討が行われ、研究完成に必要な多くの知見が得られているが、テーマが多岐にわたりまた困難なものが多いため、多くの課題が未解決のままであり、さらに研究を進める必要がある。今後は、粉体性状、インク特性等々の種々の克服すべき課題があるが、実用化に向けて着実に解決することが期待される。
金属無機塩と脂質からなる新規ハイブリッドナノ触媒の調製とバイオPET前駆体合成反応への応用 岡山大学
島内寿徳
岡山大学
平山智康
ポリエチレンテレフタラートの代替物質である2,5-フランジカルボン酸(FDCA)の生産プロセスのための触媒開発を対象とした.金属無機塩型触媒と脂質構造体とを複合化して得た触媒をハイブリッドナノ触媒と呼び,FDCA合成を試みた結果,最大74%の収率を得た.特筆すべき点として,既往の方法と比較し,より低温かつ非NaOH系でのFDCA合成を達成した点である.今回検証した限りでは,ゲル担体にリポソームを共有結合により固定化し,金属触媒を担持させる構造が繰り返し使用と長期保存性に優れ,カラム操作に展開できることを実証した.加えて,安価な界面活性剤でハイブリッドナノ触媒を作成できることも見出した. 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、リポソームや界面活性剤で固体触媒の表面修飾を行い、温和な条件で2,5-フランジカルボン酸が合成できることを検証したことについては評価できる。一方、実用化を目指した十分な触媒性能は実現できておらず、その実現に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。既に工業化されている触媒プロセスを新触媒に置き換えることのハードルはかなり高いので、今後は、本技術でしか進行しない触媒反応を見出し、その反応を有用な有機合成中間体や機能性化合物に展開されることが望まれる。
革新的CNTドーピング技術による透明導電膜電極の開発 名古屋大学
上野智永
名古屋大学
富田竜太郎
本研究開発では、CNTによる透明導電膜の実現に向けて、ソリューションプラズマによりCNTの表面修飾を行い、CNTの導電性の向上を目指した。プラズマによる欠陥の生成によって導電性の低下が懸念されたが、ドーピング効果による電子構造のチューニングにより、導電性が大きく向上した。簡便な方法で、CNTの高機能化が可能であり、透明導電膜の実現に近づいた。本成果を用いたカーボン材料の高機能化技術は、産学連携による共同研究開発へと発展しており、各種材料開発への応用展開を進めている。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも簡便なソリューションプラズマ処理によりヘテロ元素をドーピング処理したカーボンナノチューブ(CNT)の透明導電膜の導電性を大幅に向上させる技術を開発したことについては評価できる。一方、元素種の違いによるドーピング効果や透明導電膜のさらなる導電性の向上と透過率の向上に向けた技術的検討やデータの積み上げとともに、特許出願などが必要と思われる。
今後は、透明導電膜としての実用化にくわえ、更なる用途展開の可能性を企業との産学連携による用途開発とその実用化が望まれる。
超小型・低閾値シリコンラマンレーザを用いた革新的多波長変換デバイスの開発 大阪府立大学
高橋和
大阪府立大学
赤木与志郎
本研究では、シリコン光配線などの光ルーティングにおいて重要な構成要素となるマルチ波長変換デバイスを、高Q値フォトニック結晶ナノ共振器を用いたシリコンラマンレーザで開発した。FDTD計算によるデバイス設計、半導体微細加工プロセスを用いたサンプル作製、顕微分光測定による性能評価を繰り返し、最適なデバイス構造の探求と作製プロセスの改善を行った。その結果、光通信波長帯である1.5マイクロメートル前後で、5ナノメートルの波長間隔で3波長動作するシリコンラマンレーザの開発に成功した。コーディネータと研究開発担当者は、本デバイスの量産化、応用可能性、新規分野の開拓に向けた議論を、電子機器メーカ3社と行い、今後の研究方針を固めた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも当初の目標の3波長のシリコンラマンレーザ動作が達成されている点については評価できる。一方、導波路帯域の拡大、作製歩留まりの向上、導波路構造の探求と周波数差のばらつきに冗長性を持たせたナノ共振器構造をあげているが、その具体的開発に向けた検討が必要と思われる。今後は、微小な素子を製造する上では、実際の作製素子は設計値とは異なることが不可避であり、これを極力抑制するための技術開発が望まれる。
エクソソーム迅速精製のための小型分離デバイスの開発 東京大学
赤木貴則
東京大学
長谷川克也
表面タンパク質を指標にしたエクソソーム分離技術の構築を目指して、使い捨て用途が可能なポリマー製マイクロフリーフロー電気泳動デバイスの開発を行った。デバイスのデザインを変更するとともに、シース液として用いる緩衝液を最適化し、申請時と比較して10倍高い電圧を印加できるようになった。この条件で蛍光色素を用いた分離性能評価実験を行ったところ、ピークの完全分離を確認し、更に、ヒト培養細胞由来エクソソームを用いた実験により、表面タンパク質を指標にしたエクソソーム分離が実現可能であることを確認した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に本申請での目標(①使い捨てを想定してポリマー製のデバイスにすること、②できるだけ高電圧の印加を可能にすること、③エクソソームとエクソソーム抗体複合体の分離)は十分にクリアされていると評価できる。一方、技術移転の観点からは、実試料中に含まれる様々なサイズ・種類のエクソソームを十分に分別できることが望まれる。エクソソームの診断バイオマーカー探索は極めてホットな話題であり、今後は、いろいろな分野への波及が期待され、この機会に集中的に取り組んで優れた成果を発表し、企業との共同研究により是非製品化を目指されることが期待される。
0.66μm~16.2μmで波長依存性のない螺旋位相子の開発 埼玉医科大学
若山俊隆
埼玉医科大学
菅原哲雄
螺旋位相を有した光渦を広帯域スペクトル(0.66μm~16.2μm)で生成するためにZnSeを用いた新しい螺旋位相子を設計試作し、その基礎特性を評価した。ここで光源に用いたビームは15 ns、最大4.9 mJの高出力CO2パルスビームであり、15 ns、2.6 mJのベクトルビームパルスの生成に成功した。螺旋位相子の変換効率56%であった。ベクトルビームは、偏光度が0.95と非常に高い偏光度を有していることが精密偏光計測から明らかになった。さらに、ベクトルビームの位相情報もマッハツェンダー干渉計を用いて評価した。得られた位相分布から周方向に2μradの螺旋位相が検出され、出射ビームがラジアル偏光渦であることが示された。今後は、螺旋位相子をレーザー加工機に応用展開していく予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、0.66μm~16.2μmで波長依存性のない螺旋位相子の開発を目的に、ZnSe製の回転対称フレネルロムを試作・設計し、10.6μmの赤外パルスレーザーのベクトルビームの生成を実証するとともに、本素子を用いたスナップショット偏光解析法を新たに開発したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、ベクトルビームは通常のレーザー光と比べて優位なレーザー加工特性が得られることが示唆されており、本研究により実証されることが望まれる。今後は、ベクトルビームのモード状態がレーザ加工性能に強く影響すると思われるので、様々なモードに対する影響を検討されることが期待される。
単一分子でフルカラーチューニング可能なアミノベンゾピラノキサンテン系(ABPX)蛍光色素の開発とカラーセンシング材料への応用 理化学研究所
神野伸一郎
独立行政法人理化学研究所
井門孝治
単一分子でフルカラーチューニング可能なアミノベンゾピラノキサンテン系 (ABPX)蛍光色素の開発のため,蛍光団のキサンテン環が非対称構造を有する化合物の新たな合成法と誘導体を開発し,「アミノベンゾピラノキサンテン系色素化合物とその製造法」として特許出願を行った.またABPXを蛍光団としたガスセンサーの開発では,誘導体の一つである cis-ABPX010 が結晶状態で近赤外と青色の異なった発光帯を示す二重蛍光性をもつことに加え,有機色素分子の中では世界最長のストークスシフト値を示すことを見いだした.更に,近赤外/青色蛍光は結晶構造に依存するといった知見を応用し, ガス分子の結晶内への包接と,力学的な刺激を加えることで, 分子集積構造の変化を蛍光波長の変化として出力できることを明らかにし,cis-ABPX010 がガス分子や力を検出する固体蛍光センシング剤として有用であることを示した. 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、アミノベンゾピラノキサンテン系(ABPX)蛍光色素が、有機溶剤分子を包接させることで二重蛍光性を持つことを検証すると共に、発光制御につながる非対称構造のABPXの合成法も見出したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、単一分子での3色発光を実現するなどでの実用化が望まれる。今後は、分子設計のみならず、結晶中の分子間の相互作用、二量体やエキサイプレックス発光を含めて考察すると共に、単一分子での3色発光の可能性とその開発戦略を見直されることも期待される。
高分子押出成形加工速度の高速化 首都大学東京
水沼博
首都大学東京
横手陽介
樹脂のシートやフィルムの製造法としてTダイ押出し法が利用されているが、押出速度を高くすると押出材表面に溶融損傷が発生し、生産性が制限される。その対策として、ダイ出口に回転ローラーを取り付ける方法を提案し、各種ダイ形状を試作テストした。目標とした通常ダイの高速化上限(約10倍)を更に上回ることはできなかったが、その設計指針を明らかにし、その指針が力学的に必然的合理性に基づくものであることを示すことができた。また、通常の成形機と同じ生産動力と仮定した場合について検討し、(1)4倍の高速化、あるいは(2)同じ生産速度で成形機の1/4の小型化、等が実現可能であることを実証した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもローラーダイにより押出速度をさらに高速化ができなかったものの、安定化と押出速度の上限を決める要因を明らかにし、一定の目標を達成した点については評価できる。一方、押出速度の10倍高速化をどう実現するか、当初の目標を変えて表面形状制御へ展開する場合の有効性について技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、民間への技術移転を意識した研究開発として、既存の実用機と比較検討し、競争優位性、更には、競争不利性を詳細に、具体的に考察されることが望まれる。
革新的電気エネルギー機器の開発を可能にする電気泳動を用いた傾斜機能性絶縁材料の開発 九州工業大学
小迫雅裕
九州工業大学
松永純一
本研究は電気泳動法を用いた誘電率傾斜機能性ポリマー複合絶縁材料の創製手法の確立を目的とする。誘電率を空間的に傾斜させた傾斜機能材料を、電気機器内部の固体絶縁物として用いることで、絶縁部の電界緩和に有用である。エポキシ複合材の硬化反応中に直流電場を与えて、無機粒子(アルミナやシリカ)を意図的に空間配置させた後、加熱硬化している。成果として、使用する無機粒子とエポキシ樹脂・硬化剤の種類の組合せで粒子表面の帯電極性および帯電度合いを制御できることが明らかになった。また、シランカップリング処理、放電処理などによる強制帯電制御も可能であることがわかった。これらの成果が傾斜機能材料の創製手法確立に大きく貢献できる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、無機粒子とエポキシ樹脂・硬化剤の種類の組合せで帯電極性と帯電度合いを制御できることが明らかにしたことと、シランカップリング処理などによる帯電制御も可能としたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、研究予算の制約から高望みは出来ないが小サイズの実用モデルの試作を行なうことなどでの、ポリマー複合絶縁材料としての実用化が望まれる。今後は、連携企業との研究開発計画をより具体化してA-STEPの再活用も含め実用化研究を加速されることが期待される。
自己伝播発熱材料を用いた極省電力接合技術の確立 兵庫県立大学
三宅修吾
兵庫県立大学
上月秀徳
Al/Ni多層膜の自己伝播発熱反応の反応熱と,これを用いたはんだ接合技術に関する研究を行った.自己発熱量測定方法の検討を行い,恒温壁型比熱測定法による測定装置を構築した.製作したAl/Ni多層膜試験片の発熱量を測定した結果,示差走査型熱量計による値に近い1.081-1.184kJ/gの熱量が認められた.今後は接合試験片全体としての発熱量評価に応用可能な技術としての利用価値が期待される.製作した種々の接合試験片について熱抵抗を評価した結果,接合部熱抵抗は,はんだ厚さには依存せず,むしろ接合時の接合圧力と,接合前のはんだ層とAl層もしくはNi層の接触界面に大きく影響を受けている事が明らかになった. 本研究結果は今後の熱抵抗低減に向けた重要な知見であり,早期実用化が望まれる. 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、ほぼ目標に近い接合部の熱抵抗を達成していること及び反応時の正確な熱量の把握に必要な独自の恒温壁型比熱測定システムを構築したことは評価できる。
一方、実用化に向け、はんだ層の溶解凝固条件の最適化や熱抵抗支配因子の解明と改善条件の探索といった観点からは更なる技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
今後は、はんだ接合工程の電力削減や生産性向上に加え、熱的脆弱部へのダメージ低減など本研究の一層の進展による実用化が望まれる。
高分子基材料内部における応力ひずみ同時計測による動的弾性率分布マイクロ断層可視化システム(多機能OCT)の開発 大阪市立大学
佐伯壮一
大阪市立大学
若林寿夫
高分子基材料内部の物性定数(弾性率分布,温度分布)をマイクロ断層可視化するシステムを構築した.低コヒーレンス干渉計(OCT)を用いて材料内部の断層情報を取得し,その変形解析からひずみ分布を検出するだけでなく,偏光波の位相断層情報から応力分布も同時にマイクロ断層検出する光学システムを構築した.動的引張試験との同期により,材料内部の応力・ひずみ断層分布の動的情報を検出した.また物性定数のマイクロ断層可視化システムの構築の前に,構築光学システムと有限要素法のハイブリッド逆解析システムを構築し,材料内部の温度分布をマイクロ断層可視化した.この結果から,高分子基材料内部の応力(残留応力)・ひずみを断層可視化するだけなく,力学的材料物性値の分布をin situマイクロ断層検出可能であると考える. 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、応力分布とひずみ分布を同時計測するマイクロ断層可視化システムを構築し、さらに力学試験器との組合せにより荷重負荷をかけながらの断層可視化を可能にし、一部応用には振動荷重負荷時の断層像を可能にするなど有効なシステムを開発したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、各種プラスチックなどの応力とひずみの断層の同時可視化など、材料や構造体の性能評価などでの実用化が望まれる。今後は、振動試験の実施、弾性率・粘性係数のマイクロ断層可視化の実施を行っていけば更なる用途拡大が期待される。
共晶体ファイバー構造を応用した、超高分解能、高感度中性子イメージング装置の開発 東北大学
鎌田圭
中性子イメージングへの応用をめざし、中性子線球種断面積の高い6Liを含有する三元系共晶体として、ファイバー状構造をとるLiF/CaF2/LiBaF3共晶体をマイクロ引き下げ法により育成した。光導波構造を有し、シンチレータをファイバー構造となる透明な三元系共晶体の作製に世界で初めて成功した。当該共晶体は、CaFシンチレータ相におけるEu2+ 4f-5d遷移由来の発光を420nmに確認した。また、252Cf線源による熱中性子を照射し、260 ns (73.6%) ,50 ns (26.4%)の蛍光寿命と7000 ph/nの発光量を確認した。LiF/CaF2/LiBaF3 共晶体はLiの含有量が67.9%と高いため、高感度な中性子検出が可能となる。ファイバー構造を活かした中性子線イメージング装置への応用が期待できる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、発光特性に優れたファイバー構造の光導波型LiF/CaF2/LiBaF3共晶体を育成したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、CCDカメラの解像度の最適化等による中性子イメージングの実証や発光量の更なる改善などによる実用化が望まれる。 
中性子線イメージングは非破壊検査、核セキュリティー等の社会的ニーズへの応用展開が期待されている。今後、産学連携により高空間分解能でリアルタイムセンシング技術として本研究の成果が実用化されることが期待される。

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