評価結果
 
評価結果

事後評価 : 【FS】探索タイプ 2021年12月公開 - ライフイノベーション 評価結果一覧

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課題名称 研究責任者 コーディネーター 研究開発の概要 事後評価所見
新規バイオマーカー群を用いた糖尿病リスクの早期検出の実用化 産業技術総合研究所
吉田康一
糖尿病リスクマーカーとして、空腹時の10,12 - (ZE) - HODE、レプチン、アディポネクチン、インスリンを見出し、耐糖能とインスリン抵抗性の同時判定が可能な糖尿病リスク評価モデルを開発している。本研究はそのモデルの検証を目的とし、人間ドック受診者101名に対してコフォート試験を実施した。4種の各マーカーは糖負荷後の血糖値60分、血糖値120分、インスリン抵抗性指標に有意(p<0.05)に相関し、それら複合マーカーとして糖尿病リスク検出に有用であることを検証した。糖尿病リスク評価モデルは耐糖能;感度98%、特異度100%、インスリン抵抗性は感度98%、特異度99%を達成した。本研究は、論文2報(国際誌)、国内学会2件、展示会1件に成果発表した。今後、コフォート試験を継続実施し、実用化へ向けてデータの蓄積を行う。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に一回の採血のみで済む新しいDM予測検査として、人間ドックでのデータ収集を目標通りに進め、臨床現場でのニーズの強いテーマを確実に解決した技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、本研究成果は、DM患者とその予備軍にとって何度もの採血を強いられる糖負荷試験なしでDMの超早期病態をいわば未病の段階から知ろうとするものであるために、検査メーカーや製薬メーカーなど関心はますます高まり実用化が望まれる。今後は、なぜ効果的に判別出来る結果を出しているのかの生理学的メカニズムのような説明をされることが期待される。
新しいヒトがん幹細胞移植ゼブラフィッシュの開発研究 三重大学
田中利男
三重大学
伊藤幸生
少数のがん幹細胞が、化学療法や放射線療法に対して治療抵抗性であるため、再発や転移の問題が困難を極めている。
がん幹細胞研究は、従来より免疫不全マウス開発が不可欠であり、NOGマウス等を活用している。一方、我々は新しい脊椎動物モデルであるゼブラフィッシュを導入し、免疫抑制しないヒトがん幹細胞移植モデルとして免疫的に未熟な稚魚を活用し、 免疫寛容性評価定量化システムを確立し、初回移植免疫抗原としてのヒトがん幹細胞検体を至適化することにより、 最良の免疫寛容型ヒトがん幹細胞移植ゼブラフィッシュモデルを確立した。
今後は、公的な研究開発支援制度を活用して、本研究で確立したヒトがん幹細胞移植ゼブラフィッシュと世界的に活用されているヒトがん幹細胞移植免疫不全マウスとを、比較してそれぞれの移植モデルの特徴を明らかにし、ヒトがん幹細胞移植ゼブラフィッシュの応用分野を明らかにする。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ゼブラフィッシュに免疫寛容を誘導して成魚を用いてがん細胞移植系を確立したこと、抗がん剤スクリーニングの可能性を示したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、何らかの薬剤開発の具体例を示し、ゼブラでの系が従来のマウスでの系と同じスクリーニング能力があることを示すのが得策と思われる。
今後、ヒトがん幹細胞を用いて、ゼブラフィッシュの評価系構築や化合物j評価結果を示すことで、製薬会社が興味を持つことが期待される。
核スピン高偏極3Heガス(医療用のMRIの造影剤)の直接生成法の開発 千葉大学
小堀洋
千葉大学
小柏猛
低圧のヘリウム3ガスを高周波グロー放電によって準安定状態に励起し,得られた準安定状態のヘリウムを波長1083nmの赤外線領域周波数可変レーザーをもちいて光ポンピングにより円偏光励起し,ヘリウム3のスピン高偏極状態の生成を目指した。偏極の様子は,ヘリウム原子からの668nm発光スペルトルから解析できる。本研究の期間中に得られたヘリウム3核スピンの偏極率はせいぜい1%程度であって依然として低い。更に高い50%程度の偏極率が得られるための条件を探している。最終的には,医療用のMRIの造影が可能な圧力まで,ガス圧力の昇圧を必要とする。現在,そのための条件の探索と取り扱いやすい昇圧方法を探している。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、,結果得られたヘリウム3核スピンの偏極率は目標の1%程度で非常に低かったが、赤外線領域周波数可変レ-ザ-を用いてMRI造影剤用核スピン高偏極3Heガスの直接生成法の開発はオリジナリティがあり評価できる。一方、研究成果が応用展開された場合には、他の肺疾患での応用は非常に大きいことが期待されるし、医療以外への応用分野も大きいと判断されるので、技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、レーザー関連の研究者のみならず、広く物性や実験物理学者などとの意見交換されることが望まれる。
生物発光を利用した高感度遺伝子検出システムの開発研究 産業技術総合研究所
小島直
独立行政法人産業技術総合研究所
小高正人
遺伝子検出技術としては未開拓であった生物発光を利用した高感度な検出システムの開発を目指し、遺伝子配列に応答して発光分子(ルシフェリン)を放出する新規核酸プローブの化学合成を行った。研究期間前半では、ベンジルアルコール誘導体2分子を組み合わせることで、目的の機能を有するプローブ分子を得た。しかしながら合成に多工程が必要であったため更なる検討を加え、ルシフェリン骨格を合成の最終段階で構築する新たなアプローチによるプローブ分子の合成を達成した。本改良型分子からも想定通りにルシフェリン放出反応が誘起されることを確認した。今後は核酸プローブの作製、及び標的遺伝子の生物発光による検出について解析を進める。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも 核酸プローブの作製において,合成戦略の見直しが必要となったものの,改良型のプローブを高収率で合成するストラテジーを確立した点については評価できる。一方、産学共同開発を締結できるかどうかはとくにルシフェラーゼ発光検出ができるかどうか、既存技術に対する優位性を担保できるかどうかに依存するため,技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、ルシフェラーゼ発光核酸プローブも独創的であると思われるので,既存技術に対する優位性をデータとしてしっかりとかため,特許申請されることが望まれる。
鉛中毒の診断に有効な新規酵素の開発 福島大学
杉森大助
鉛中毒の診断に有効なアミノトランスフェラーゼの遺伝子を特定し、組換え生産法と分析対象アミノ酸の定量法の確立を目標として研究を実施した。研究当初、市販酵素を用いた比色法で酵素精製(酵素の追跡)を行い、酵素遺伝子の取得、組換え発現を鋭意検討した。ところが、市販酵素の純度が低く、目的外の反応が生じたために、目的とは異なる酵素遺伝子を取得してしまったことが判明した。そこで、直ちに市販酵素に代わる酵素を探索し、その結果、本研究に適した酵素を特定した。さらに、HPLC分析法を併用することで、確実に目的酵素活性を測定する方法を設定することができた。現在、急ピッチで目的酵素の精製を進め、次年度中には出願したいと考えている。さらに、本酵素の開発に明るい見通しが出てきたため、某メーカーと共同研究を進めることになった。 当初目標とした成果が得られていない。中でも本来予定したHPLC法は、時間がかかるとはいっても、期間内に正しい遺伝子の取得はできたものと考えられる。当初申請されたALA測定法開発の優位性、有用性は依然として高いと考えられるので技術的検討や評価が必要である。今後は、新規性、優位性の高い研究開発計画であり、引き続き確実・着実に進めて成果を挙げてることがことが望まれる。
睡眠障害関連の心血管イベント予防を目的とする機器の開発 中部大学
野田明子
中部大学
藤原健一
本研究では、束縛感がなく自然の睡眠状態を評価できる無拘束の多点感圧シート法とカフレス血圧測定により心血管イベント兆候を予測し、その発生を予防するシステムの開発を目指し、睡眠と血圧との関係を検討した。若年者および高齢者を対象とした従来型の24時間血圧測定とカフレス血圧測定による血圧の比較検討において、カフレス血圧法による推定血圧値の信頼精度は良好であった。睡眠中の血圧および血圧変動は、健常群と睡眠障害群において有意な差があり、各睡眠段階別にも血圧は有意な差が認められた。睡眠障害および夜間血圧上昇は心血管病の危険因子であることは明らかにされており、習慣的な睡眠状態と夜間血圧上昇や血圧変動を無拘束で観察できる本システムは心血管イベント予防に役立つと考えられた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも最終目標である「睡眠障害関連の心血管イベント予防を目的とする機器の開発」に対し十分に目標は達成されていないが、睡眠段階に伴う血圧変動の関係が睡眠障害における心血管イベントリスクの評価指標として利用し得る可能性を明らかにした点については評価できる。一方、本研究成果は基礎データの収集段階であると判断され、基礎研究としてまだ多くの解決すべき課題が残されており、技術移転の候補となりうる応用展開のレベルに向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、統計的手法による定量的なエビデンスを得ることが必要であり、データ収集の方法やデータ解析における効率化をはかるための工夫や見直しされることが望まれる。
植物由来の免疫活性糖鎖を利用した免疫調節薬剤の開発と応用 岡山大学
木村吉伸
岡山大学
梶谷浩一
本研究では,機能性糖鎖を利用した抗アレルギー薬剤開発の一端として,抗原性糖鎖を多価に結合した新規糖鎖ポリマーを合成するとともに,それらの細胞性免疫活性解析を目的とした。銀杏種子貯蔵糖タンパク質,インゲン豆貯蔵タンパク質,ニワトリ卵黄糖ペプチドからAsn-糖鎖を精製後, L-・PGAに多価結合させることで新規人工糖鎖ポリマーの合成に成功した。これらの内,植物抗原性糖鎖ポリマーが樹状細胞のCD80/86発現を亢進し,T細胞活性化を促進することを見出したため,今後は人工糖鎖ポリマーによる自然免疫系や細胞免疫系の制御作用をより詳細に解析することで,糖鎖薬剤開発に向けた基盤整備を行っていく。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、ヒトにおいて抗原性が高い植物糖鎖をポリマー化して利用するという発想は、オリジナリティーが高く、これまでに得られた知見を応用展開する価値があると評価できる。
一方、免疫系における評価については評価系も多々あり、しかも個別の試験でも試行回数を増やして再現性を得ることが重要であるので、技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
今後は、植物糖鎖の調達技術開発をさらに発展させることが期待される。また、積極的なマッチング活動を通じて興味をもってもらえる企業との共同研究を期待したい。
フレキシブル有機半導体の屈曲性向上手法の応用展開とビジネスモデル化 津山工業高等専門学校
小林敏郎
津山工業高等専門学校
柴田政勝
フレキシブル有機半導体の屈曲性向上手法を応用展開するために,歪を加えて素子性能を測定する装置および試験片形状を考案し,主に素子への給電パターン部に最新の導電性高分子材料(PEDOT)を適用する改善を行い実用化の見通しが得られ,1つ目の目標を達成した。また,先行研究で提案した屈曲性向上素子構造の試験片に歪を加えて性能を評価し,考案した試験方法が有効であることが確認できたが,試験データ数の関係から2つ目の目標である割れ発生歪の向上率min.25%以上を実証するには至っておらず,引き続きデータ取得が必要である。さらに,塗布法で作製した高分子系の有機薄膜,具体的には太陽電池用のP3HT,有機EL用PVK,透明電極用PEDOTなどの割れ発生限界歪の測定を行い,従来の真空蒸着法で作製した低分子系有機EL素子薄膜以外へも適用可能であることが実証でき,3つ目の目標である適用範囲の拡大は達成できた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、開発した発光素子の耐ひずみ性は,従来のものよりも高いというデータを示したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、再現性の確認と、多方面からの評価や分析が必要である。今後は、種々の製法で造られた膜、他企業で造られた膜などを評価し、データを増やすことが肝要である。
心拍呼吸リズム間コヒーレント振動を用いたウェアラブル健康モニターの開発 山形大学
新関久一
心電図信号を用いて呼吸性不整脈と呼吸リズム間位相コヒーレンス(λ)をリアルタイムに求めるソフトウェアを携帯用端末上で開発した。λが姿勢変化,摂食,睡眠時にどのように変化するか,心拍変動スペクトル(HRV)解析による指標と比較検討した。λは仰臥位で高く立位で低下し,HRV解析の副交感神経指標と線形の相関を示し,交感神経指標と対数逆相関を示した。食事中λは安静時に比べ低下し,HRV解析の自律神経指標より鋭敏に変化した。また,睡眠時には深睡眠に出現するδ波と高い相関が見られた。λは個人の日常生活における様々な場面での自律神経活動の推定や睡眠リズムの判定に有用であることが示唆された。今後はよりユーザーフレンドリなウェアラブルデバイスを目指して,脈波による同指標の計測実用化の可能性について検討を行う予定である。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に研究成果に関して、2件の特許出願が行われており、心拍と呼吸リズムの位相協調関係から自律神経活動やストレスを定量化する方法やシステムをウェアラブルデバイスとして具現化した点に対し、高い新規性と有用性が認められ、それに関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、具体的な実用化を目指した実現性の高い研究開発計画が検討され、既に商品化を念頭においた企業との共同研究を実施している。ウェアラブルデバイスの特徴を生かし、終日にわたる自律神経活動やストレスの定量化を目指した長時間モニタの開発などでの実用化が望まれる。今後は、ウェアラブル健康モニタとして社会で普及させる場合は、一般人にも理解しやすい簡便でインパクトのある表現や提示方法を工夫されることが期待される。
自走型磁気アクチュエータによる新たな配管内搬送システムの構築 東北学院大学
矢口博之
東北学院大学
佐藤忠行
本研究では,電磁力とメカニカルな振動を組み合わせた振動利用型ケーブルレス電磁アクチュエータの開発に取組んだ.まず,最初にアクチュエータ本体のサイズ(重量)の最適化を行うために,簡単な磁気回路で構成される4種類のアクチュエータを試作し,本体サイズの最適化をはかった.得られた結果を基に新たな磁気回路を搭載し,サイズが最適化されたアクチュエータを試作し,その走行特性を測定した.更に,本体に電気ブラシを取付け,配管に電力を供給することで高速走行を可能とするケーブルレス型アクチュエータについての検討を行った.推進特性については,群化の問題など改善の余地が残されているとはいえ,電気ブラシを用いた電力供給法を用いたケーブルレスによる管内走行の手法は,完全に確立することができた.また,輸送物の取付け方法については,研究途上で荷室の接着等に関して新たな課題が発生し,これ等を解決するためには磁気ばねを用いたクッション形式などの検討が必要となった. 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、ケーブル駆動では水平速度の目標値に達し、また、ケーブルレス駆動についても概ね目標を達成しており評価できる。一方、当初の目標に加え、上昇速度や荷室の振動特性などについても、実用化に向けた技術的検討やデータの積み上げが望まれる。今後は、輸送物の積載方法など、メカ部分の製作を一緒に検討できる企業との共同研究に発展していくことが期待される。
ヒト再生医療の実現に向けたイヌiPS細胞由来血小板の効率的作製法の開発 大阪府立大学
稲葉俊夫
大阪府立大学
鈍寳宗彦
血小板減少症は、ヒトと同様にイヌにおいてもよく見られる病態で、輸血以外に効果的な治療法はない。本課題では、血小板に分化誘導させ易い高品質なイヌiPS細胞の作製を目標にした。その結果、長期にわたり安定して継代できるイヌiPS細胞を、成長因子などの添加を極力抑えた非常に簡単な組成の培養液を用いて作製した。培養に際しては、フィーダー細胞を必要とせず、マトリゲル上での生育を実現できた。また、セルナイフなどの物理的な分割を用いず、トリプシンなどの酵素処理により50代以上の継代が可能であった。既報のイヌiPS細胞に比べ、より簡便に継代でき、増殖能力の高いイヌiPS細胞を作製することができ、本結果は効率的な血小板への分化誘導に繋がる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に最終成果物の血小板製造については未達であるが、iPS細胞の樹立方法に関する改善により研究基盤が強化されたことに関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは本研究成果は、伴侶動物として最もニーズの高いイヌiPS細胞の製造供給やiPS細胞由来の機能細胞の製造供給など、産学協同にむけたオリジナルのコア技術が明確であり、それらを大きく進める基点となり得るものである。すでに多くの企業と連携して共同開発が進められており実用化が望まれる。今後は、マウスとヒト以外で本当に有用なiPS細胞はほとんどみられていないことから、まず有効なツールとしての価値を認知されることが期待される。
RHOA変異陰性タイプ末梢性T細胞リンパ腫の特異的ゲノム診断技術の開発 筑波大学
坂田麻実子(柳元麻実子)
筑波大学
山本信行
血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(Angioimmunoblastic T cell lymphoma: AITL)は、高齢者に多い末梢性T細胞リンパ腫のひとつである。従来の病理学的診断のみでは、診断がしばしば困難である。申請者らはAITLの70%にRHOA遺伝子の点突然変異(c.G50T, p.G17V)が集積していることを発見し、これを検出する方法を確立した。今回の研究では、RHOA変異陰性のゲノム異常を検出することにより、RHOA変異陰性AITLを診断する方法の開発を行う目的で研究をおこなった。RHOシグナル関連経路分子をコードする遺伝子Xについて、RHOA変異陰性50例のターゲットシークエンス解析を行ったところ、RHOA変異陰性例のみにおいて3例に遺伝子変異を認めた。RHOA変異陰性AITLの診断方法を確立するために、今後さらに多数例について検討をすすめる必要がある。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に当初の目標であったRHOA変異陰性タイプ末梢性T細胞リンパ腫(AITL)の同定法を確立し、それらの症例で、6%にVAVI遺伝子変異を見出した。また、末梢性T細胞リンパ腫(AITL)でRHOA変異陽性の症例ではVAVI遺伝子変異は存在しなかったことを発見した技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、研究推進にはさらに症例を増やして解析検討することが極めて重要であるが、今回の成果も含め技術移転を目指した産学共同等の研究開発ステップにつながる可能性が高まり実用化が望まれる。今後は、研究推進には症例を増やす事が重要で、検体収集の事業を何らかの工夫を施してより一層活発化させることが期待される。
新規低分子蛍光物質による血管透過性評価法の開発 京都工芸繊維大学
宮田清司
京都工芸繊維大学
神谷靖雄
多くの脳疾病において、血液脳関門の破綻とそれによる血管透過性亢進、神経細胞死を引きこすことが知られている。よって、血管透過性を調べることは脳疾病の研究において重要である。高分子物質の血管透過性は一般に固定可能であるが、低分子蛍光物質は困難で移動・拡散が生じる。Fluoresceinは、青色光により励起され緑色の蛍光を発する蛍光物質で、血管透過性評価の低分子トレーサーとして用いられている。しかし、組織内で固定化されないので、移動・拡散が生じる。そこで、アミノ基に結合能を持つFluorescein誘導体を用いて固定化が可能な低分子物質の血管透過性評価方法を開発した。さらに、ノイズとして生じる細胞膜輸送をエンドサイトーシス阻害により除去することで信頼性の高い低分子透過性評価方法を確立した。今後は、脳損傷モデルやアルツハイマー病発症動物を用いて、病的状態における血管透過性の変化を調べ、この手法の有用性を実験的に検証したい。有用性が証明された場合には、特許申請あるいは論文としてまとめる予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも大脳皮質の血管系におけるFITCの透過性、ならびに、エンドサイトーシス阻害によるFITC取り込み抑制法に関する基礎的な知見を明らかにした点については評価できる。一方、 本研究成果は、基礎的な知見であり、今後、多くの動物実験によるデータの蓄積、および、ヒトを対象とした臨床試験も必要である。しかし、ヒトの脳疾病に対して応用展開されれば、社会還元に導かれることが期待される。研究目標に記載された定量的目標(従来の5倍以上の精度)に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、知的財産権等を積極的に取得され、早期に技術移転されることが望まれる。
扁平上皮がんの分子標的治療薬の開発 筑波大学
鈴木裕之
筑波大学
山本信行
扁平上皮がんは扁平上皮細胞を主な起源とし、食道、皮膚、肺などに発生する予後不良のがんである。しかしその詳しい発生機構は不明であり、分子標的治療薬は存在しない。申請者は扁平上皮がんの新規がん遺伝子として THG-1 を同定し、EGF経路でリン酸化されて腫瘍形成を促進することを明らかにした。さらにTHG-1の結合タンパク質を見いだし、THG-1との結合が腫瘍形成に重要であることを示した。本研究課題では扁平上皮がんの新規分子標的治療薬開発を目標として、THG-1とその結合タンパクとの結合を阻害する化合物の取得を目指し、蛍光タンパクを用いたスクリーニング系樹立に成功した。今後は適切な陽性コントロール、定量法を確立し、化合物ライブラリーのスクリーニングを進める。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、THG-1とKeap1の結合を可視化するスクリーニング系の確立は評価できる。
一方、安定したスクリーニング系の確立に必要な恒常的に遺伝子発現する細胞の樹立や、THG-1とKeap1の結合を阻害するリード化合物の探索に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
今後は、課題点を改善して研究を遂行することが望まれる。
難治性がんに有効な白金錯体と標的指向性DDSを組み合わせた次世代がん治療薬の開発 鈴鹿医療科学大学
米田誠治
7種類の制がんテトラゾラト架橋白金(II)二核錯体を新たに合成し、標的指向性DDSキャリアとの複合体を形成させ、そのin vitroおよびin vivo活性を検討した。設定した目標には届かなかったものの、DDSキャリア導入による効果は、B16悪性黒色腫移植マウスの延命率において明らかに認められた。DDS標的分子を細胞表面に過剰発現しているがんに対しては、延命率を比較できる系での実験は行わなかったが、有効な腫瘍抑制率を示した。さらに、DDSを導入せずともマウスに移植した腫瘍の増殖を99.8%抑制する錯体を見いだすことに成功した。今後はこの錯体を基盤に様々なDDSキャリアとの組み合わせを模索しながら、創薬研究を進める予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、優れた合成能力は、評価できる。
一方、細胞表面リガンドなどを利用するのであれば、その発現量に特徴のある細胞を複数個選んでスクリーニングを確実に行う必要がある。
すでに企業との共同研究を必要とする研究段階なので、今後は、企業の研究費負担により研究を進めるべきと思われる。
ウイルス感染を阻害する新規薬剤の開発 長崎大学
久保嘉直
長崎大学
石橋由香
蛋白質S-S結合形成を抑制することが知られている低分子化合物およびそれらの類自体の中で、ウイルス感染を抑制する化合物を同定した。その化合物がin vivoにおいてウイルス増殖を阻害するかどうか解析した。結果、in vitroにおいて4-PDSが最も効率良くウイルス感染を抑制することを突き止めた。4-PDSは、in vivoのマウス白血病ウイルス増殖と、白血病発症を阻害した。予期しない副作用は観察されなかった。今後、投与方法、投与量などを検討し、他のウイルス感染症マウスモデルにおける4-PDSの効果を確認する。加えて、4-PDSに対する耐性ウイルスが出現するかどうか解析する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、in vivoモデルで効果が見られた点は評価できる。
一方、MLV以外のウイルス感染症モデルで試験を実施すること、投与方法、投与量、投与期間および副反応について詳細に検討することなどデータの積み上げが必要と思われる。
今後は、実用化に向けて企業との連携が望まれる。
小麦ペプチドの消化管ホルモン分泌促進作用を活用した糖尿病予防・治療食品の開発 中部大学
津田孝範
本研究は、インスリン濃度を高める消化管ホルモンGLP-1の分泌を促す小麦タンパク質加水分解物からその成分(ペプチド)を見出し、これを活用するために経口摂取での有効性を確認することである。その結果、有効成分の単離・アミノ酸配列の同定には至らなかったが、活性画分のアミノ酸、分子量組成からの特性を明らかにできた。さらに活性画分の動物個体での効果を検証した結果、単離活性成分を用いなくても強力なGLP-1分泌の促進作用とこれによるインスリン分泌刺激、血糖値上昇の抑制作用を立証できた。今後はヒト介入試験での効果検証、活性画分の食品への添加方法等を検討し、実用化を進める。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、これまで不明であった小麦ペプチドの消化管ホルモンが、GLP-1の産成を促進してインスリンの分泌を高める事を明らかにしており、その研究成果は評価できる。
一方、技術移転の観点からは、消化管ー膵臓ーインスリン機能を制御する機能性小麦ペプチドのモデル提言により、企業との連携・共同研究による機能性食品、創薬産業への一層の展開が望まれる。
今後は、この研究成果に基づいて、ヒトでの安全性、有効性についての研究に期待したい。
がん細胞追跡用ウイルス様粒子の作製~ドラッグデリバリーへの応用を目指して~ 静岡大学
朴龍洙
静岡大学
橋詰俊彦
本研究では、Rous sarcoma virus (RSV)由来のgagタンパク質と結腸がん細胞表面に存在するTAG-72に対する一本鎖抗体をカイコ幼虫で共発現させることで、結腸がん細胞に特異的に結合できるRSVウイルス様粒子(VLP)の作製に成功した。さらに、本VLPに抗ガン剤であるドキソルビシンを包含させ、結腸がん細胞に加えた結果、結腸がん細胞を特異的に死滅させることができることを明らかにした。以上より、本研究で作製したVLPはがん細胞特異的に薬剤を運ぶことで、薬剤投与量や副作用の軽減が期待できるドラッグデリバリーシステム(DDS)に応用可能であることが確認された。今後は、実用化を目指し、安価且つ大量に本VLPを得るための効率的精製方法の確立を進める予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、Rous Sarcoma virus (RSV)由来のgagタンパク質と結腸がん細胞表面に存在するTAG-72に対する一本鎖抗体をカイコ幼虫で共発現させることで、結腸がん細胞に特異的に結合できるRSVウイルス様粒子(VLP)の作成に成功したこと、VLPに抗がん剤であるドキソルビシンを包含させ、結腸がん細胞に加えた結果、結腸がん細胞を特異的に死滅させることを明らかにしたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、実用化を目指し、安価かつ大量にVLPを得るための効率的精製方法の技術的確立などが望まれる。
副作用が少なく、効果的ながん治療を確立するためのDDS技術開発は強く望まれているので、本技術の実用化に向けて、今後の研究の発展が期待される。
Si-MEMS集積センサを用いた近接・触覚複合計測法の開発 新潟大学
寒川雅之
新潟大学
嶽岡悦雄
本研究開発では、Siを微細加工して作製した近接・触覚複合MEMSセンサにおいて、新たな計測手法とノイズ低減を目指した。発振回路およびダイオードを用いた計測回路をそれぞれ設計し、原理的な解析を行うとともに、実際に作製したセンサを用いて回路を構成し、その動作を確認した。従来は直流・交流の計測回路を切替えることにより触覚と近接をそれぞれ計測していたが、開発した手法により回路を切替えることなく触覚と近接の計測が可能となった。また、近接計測において、プローブ光を点滅させることにより出力を変調し、出力から変調した周波数成分のみを取り出すことで、環境ノイズを低減可能とした。さらに、センサの検知部の設計を改良することで、物体近接距離に対する感度を4倍に向上した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、原理的な構造開発から実験を重ねて、製品化の可能性を見出す結果が得られたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、企業との連携を進める上での技術的課題を明確して、研究を進めることが望まれる。今後は、従来技術との対比を進め、本技術が企業から受け入れらるような開発を推進するを期待する。
1細胞レベルで活性酸素放出速度を定量可能な新規細胞検出ツールの開発 大阪大学
境慎司
大阪大学
山近洋
本課題では、これまでに開発していた細胞が放出する活性酸素の一つである過酸化水素を消費して細胞表面にヒドロゲル薄膜を形成させる方法の有用性を向上させることを目的として、過酸化水素の放出速度と皮膜形成速度の相関を明らかにすること、細胞検出に要する時間を短縮することを目的として検討を行った。その結果、過酸化水素生成速度の増大とともに、皮膜形成速度が増大することを明らかにした。また、皮膜の形成に関与する酵素濃度を増大させることで、検出可能な皮膜の形成に要する時間を目標値としていた従来の半分以下(15分以内)に短縮することができた。今後、本研究成果にもとづき、活性酸素に着目した疾患の病態解明のための細胞解析など実用途への展開を図っていく。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、「過酸化水素放出速度の相関を明らかにする」と「15分以内の操作で過酸化水素放出細胞を検出できるようになる」の、過酸化水素関連の目標2つは達成できていることについては評価できる。一方、本課題のメインであるスーパ-オキシドアニオンラジカル放出細胞の検出ができていないので、達成に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、培養細胞も用いた実験をしているが、ラジカル放出の検出には成功していないことから、この発想を実現するための原理的検討をやり直されることが望まれる。
多剤耐性細菌を破壊するL-アミノ酸オキシダーゼの細菌結合機序の解明 弘前大学
葛西宏介
弘前大学
工藤重光
本研究は、多剤耐性細菌を破壊して抗菌作用を示すL-アミノ酸オキシダーゼ(psLAAO1)の細菌結合機序の解明を目指した。その結果、psLAAO1に結合することでL-アミノ酸オキシダーゼ活性ならびに抗菌活性を低下させる物質を明らかにした。また、この物質を持つ化合物Xはタンパク質表面に複数結合できることから、立体構造の変化や抗菌活性調節に関与することが考えられる。さらに、この物質を除去することで、これまで抵抗性を示した細菌に対しても抗菌活性を示すことから、この物質はpsLAAO1と細菌との相互作用(部位)に影響を及ぼすことが推察される。今後は、抗菌活性調節ならびに抵抗性細菌に対する活性を増強した改良型抗菌タンパク質の開発を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、psLAA01の金属イオン配位が抗菌活性に影響を及ぼす事を見出されたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、抗菌・酵素活性試験での結果の再現性と統計学的解析の確認が必要と思われる。
今後は、適切な疾患モデル動物でのin vivo試験での実証と、安全性の検討を実施されることが期待される。
超多眼方式を用いた網膜投影型ヘッドマウント3次元ディスプレイの開発 大阪市立大学
髙橋秀也
大阪市立大学
山崎基治
3次元像による拡張現実感表示を可能とするため、超多眼方式を用いた網膜投影型ヘッドマウント3次元ディスプレイの基本原理の確立を行い、水平視野角20°以上、瞳孔から200cmまでの範囲での3次元像の表示を目標とした。実施項目として、超多眼状態を実現させるために複数の視差画像を網膜へ投影するキーデバイスであるホログラフィック光学素子を作製し、試作した映像投影装置と組み合わせ、試作・評価を行った。その結果、収束点数が3、水平視野角40.2°で、瞳孔から200cmまでの範囲での3次元像の表示が可能であり、当初の目標は達成できた。今後、ホログラフィック光学素子の改良によるシステムの簡単化と3次元像の高画質化を行っていく。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも立体感のある映像を表現するための技術的課題を明確にし、それを解決するための取り組みを進めている点は評価できる。一方、LCDの解像度を高めること、視差画像がホログラフィック光学素子上で重なることがないようにすること、また、視差画像数を増やすことなどの技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、技術移転に至るための残された技術的ステップを関連企業等とともに検討されることが望まれる。
乳酸脱水素酵素を標的とする難治性がん治療薬の開発 岡山大学
井上剛
岡山大学
小林亜子
抗てんかん薬であるstiripentol が、乳酸脱水素酵素阻害作用を有していること、さらに in vitro で抗がん作用を示すことを既に明らかにしている。そこで本研究開発では、in vivo での抗がん作用を検証した。悪性度の高い膵臓癌由来細胞株 MIA-Paca2 に対し、in vitro では抗がん作用を示すが、in vivo では抗がん作用を確認できなかった。そこで、より低濃度で作用する多発性骨髄腫細胞株 KMS-12PE に着目し、アポトーシスの誘導・活性酸素種の発生を確認した。今後は、stiripentol による多発性骨髄腫細胞株に関する in vivo 抗がん作用を検証するだけでなく、より強力な乳酸脱水素酵素阻害作用を持つ stiripentol 誘導体の開発を進める。 当初目標とした成果が得られていない。中でも、バックグラウンドのデータや着想そのものからは、有望な結果を得ることが期待されていたが、薬剤投与後の動物体内・組織の乳酸脱水素酵素の阻害程度を測定する有効な方法を持っていなかった点は残念である。今後は十分な検討を行い、的確な研究開発計画を作成することが望まれる。乳酸脱水素酵素に対するstiripentolの阻害様式を分子モデルから解析し有効な新規stiripentol類似体の合成・開発を目指すことも一つの道であると思われる。
ウエルシュ菌による豚壊死性腸炎に対する予防ワクチンの開発 徳島文理大学
永浜政博
一般財団法人四国産業・技術振興センター
堤一彦
ウエルシュ菌による豚壊死性腸炎は日本国内では経済的損失が懸念され、予防ワクチンの開発が急務である。今回、病原因子であるβ2毒素の不活性アミノ酸置換体(C124Aと C234A)を作製し、大腸菌で発現、精製した。これらワクチンをアジュバントで乳化して、2週間間隔で2回マウスに筋注(10μg)投与した。これにウエルシュ菌を投与すると、いずれのワクチンも投与したマウスでも、防御効果は弱いが、生存が認められ、その有効性が確認された。今後の方針は、ワクチン接種量、投与期間、長期保存による変化などを検討する。さらに、変異毒素のワクチンとしての有効性や安全性を確かめ、投与経路、剤形、感染防御能の評価を行う。成果は、学術論文や学会で発表する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、C型ウエルシュ菌のβ2毒素の変異毒素C124AまたはC234Aは、β毒素による致死活性を抑制し、ワクチン効果が認められたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、C型ウエルシュ菌に対するワクチン効果が弱いことへの対策が望まれる。
今後は、C型ウエルシュ菌に対するワクチン効果をより強くするために、β2毒素以外の他の毒素を組み合わせたワクチン開発などが期待される。
ヒト尿中D-セリン比に着目した腎障害早期検出法の開発とその評価 名古屋大学
伊藤智和
公益財団法人名古屋産業科学研究所
羽田野泰彦
わが国では、腎臓病の有病率が極めて高く、腎不全にまで進行してしまう頻度が増加傾向にある。腎機能異常は早期に検出し、適切な治療を行うことで進行抑制が可能である。
尿中D-セリン比(D-セリンのL-セリンに対する比)は簡便な測定法が開発されることで、腎障害の早期検出マーカーとして利用できる可能性ある。本研究によって、ヒト尿中D-セリン比の簡便な酵素定量法がキット化され、簡便・迅速なD-およびL-セリンの定量法が確立された。また、D-セリン比のバイオマーカーとしての可能性を検証する目的で、開発した酵素定量キットを用いて、健常者の日内および日間D-セリン比の動態解析を行った。本定量法によるセリンの動態解析の飛躍的な進捗と、臨床応用への展開が期待される。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に当初の定量キット開発を達成しており、尿のみならず、血清試料への適用まで視野に入れ、汎用性を目指している技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、応用展開された暁には、早期治療につながり、医療費削減、患者負担減等社会的波及が期待できるので実用化が望まれる。今後は、多数の健常者と腎障害患者の動態解析されることが期待される。
マルベリー成分の代謝予測型分子変換による新しい光老化防止剤の開発 宇都宮大学
二瓶賢一
マルベリー(クワの実)は,植物ポリフェノールの宝庫である.それらの中でもレスベラトロールの誘導体であるオキシレスベラトロールは,強力なチロシナーゼ阻害活性を示し,皮膚の老化防止剤開発のリード分子として有望である.しかしながら,その構造中には光に不安定なスチルベン骨格が含まれ,皮膚上での分解が懸念される.本研究では,生体内におけるオキシレスベラトロールの代謝経路から予測される中間体の化学合成を行った.チロシナーゼを用いて,得られた化合物の阻害活性を評価したところ,それらは代表的なチロシナーゼ阻害剤であるコウジ酸に匹敵する活性を示すことが明らかになった. 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、目標とした二つの化合物、オキシレスベラトロールの合成中間体を合成し、それらのチロシナーゼ阻害活性が予想に近いことを確認したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、合成法のブラッシュアップを行なうと共に構造活性相関を明確にするなどでの実用化が望まれる。今後は、化粧品としての応用を考慮すると、活性物質の天然物からの入手を併せて検討することが期待される。
ひずみ誘起変態に基づく三次元プリンター製医療用チタン合金の疲労強度改善 京都工芸繊維大学
森田辰郎
京都工芸繊維大学
小島義己
本研究の実施期間中には、三次元プリンター製医療用チタン合金について微視組織、機械的性質および疲労特性に係る基礎データを蓄積した後、それらに及ぼす極短時間熱処理の効果について系統的に検討した。これにより、本研究で第1目標とした「三次元プリンター製医療用チタン合金の疲労特性の明確化」については十分に達成された。また、「極短時間熱処理により三次元プリンター製医療用チタン合金の疲労強度を通常材料(展伸材)の65%まで改善する」という第2目標については、当初計画よりも広範囲の条件に対して熱処理の効果を調査した結果、極短時間熱処理のみにより三次元プリンター製医療用チタン合金の疲労強度を展伸材と同等以上とすることに成功し、当初の数値目標を大きく超えて達成された。今後、医工系研究者や関連企業等との連携を深め、具体的にオンデマンド・インプラントの実用化のための取組みを推進する。また、得られた結果については積極的に社会一般へ発信し、日本国発展の一助となるべく努力する。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、 3Dプリンターで製作したチタン合金部品の機械的性質の改善については当初の目標が達成され、特に疲労強度は展伸材と同等以上の値に改善され、目標を大きく超えた技術に関して評価できる。一方、技術移転の観点からは、実用インプラントとして使用するための表面仕上げ技術の確立が必要と思われる。企業との具体的な連携を進める段階にあり、実用化が望まれる。今後は、実際のインプラントや人工関節にかかる内部および表面の応力は材料試験と異なる可能性があるため、早期にインプラントメーカーとの実用化に向けた共同研究をされることが期待される。
体内ロボット用 自走機構および非接触給電システムの開発 信州大学
水野勉
信州大学
生稲弘明
(1)電力伝送
身体に与える負担の少ない医療デバイスとして体内ロボットの研究が盛んに行われており、そのエネルギー供給方法として非接触エネルギー伝送技術が有力視されている。そこで本研究では磁性めっき線を用いることにより, 30 mW 以上の電力を供給可能なことを実証した。しかし,電磁波曝露に関するガイドライン(ICNIRP)に準拠して,電界分布のさらなる低減が必要である。
(2)自走機構
カプセル内視鏡の体内での移動は人体の蠕動運動に依存するために,診察時間の短縮のためにも自走機構が求められている。そこで本研究ではカプセル内部に永久磁石を挿入して外部コイルからカプセルを振動させて磁気吸引力により推進する方式を実証し、20 mm/sの推進速度が得られた。
今後,科研や日本医療研究開発機構などの公募に応募するとともに,消化管内科の医師やカプセル内視鏡メーカなどから情報提供を得て研究を推進する。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもオープンスペース型の自走体内ロボットにおいて伝送電力については目標値を達成し,推進速度については新しい自走方式に変更することにより目標値を大きく越えて達成され、特許出願もなされていることについては評価できる。一方、目標としていた被曝電界を越えたことは改善を要する。臨床応用を目指して産学協同の研究開発ステップに向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
今後は、被曝電界の低減も含め,医療現場とメーカとの組織的連携のもと研究を進めあれることが望まれる。
プリオン病の早期タイプ識別手技の開発 長崎大学
森剛志
長崎大学
藤原雄介
本課題は、従来の異常型PrP試験管内増幅法(RT-QUIC法)を改良し、プリオン病のタイプを識別することを目標である。前年度は、本法に用いるリコンビナントPrP蛋白を大量に精製した。今年度は、このリコンビナントPrP蛋白を用いてプリオン病クロイツフェルト・ヤコブ病のタイプ、MM1とMM2を鑑別する方法の開発を試みた。RT-QUIC反応時に様々なPrPペプチド断片を混合させ、競合阻害実験を行い、タイプ間(MM1、MM2)におけるRT-QUIC反応感受性を制御している重要配列を探索した。結果、タイプMM1では、2つのペプチド配列がQUIC反応を遅延させる効果があった。視床型MM2のタイプでは、3つのペプチド配列が遅延効果を有していた。
今後は、得られた結果を基に臨床への応用を目指す。又、本課題では現在のところ、日本におけるタイプ鑑別(MM1型・MM2C型・MM2T型)のみを目標にしてきたが、今後は、海外のタイプ鑑別を視野に入れる。また、プリオン様凝集形成を起因とする疾患への応用も期待している(レビー小体型認知症等)。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも脳乳剤を検体とした反応系において、RT-QUIC法を実施するのに重要なペプチド領域が見いだされたことについては評価できる。一方、脳乳剤を用いた試験結果に比べ、髄液を用いた試験結果でデータにバラつきが見られたことから、髄液を用いた反応系での条件を見直す必要性がある。この問題の解決が本法によるプリオン病早期診断法の確立に向けての最優先課題で技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、反応性の高いPrPペプチドの、「鑑別診断法」以外の活用法も検討されることが望まれる。
小胞体ストレスを標的としたビタミンE同族体の非アルコール性脂肪性肝炎改善効果の検証 北里大学保健衛生専門学院
高橋知衣
神奈川工科大学
野々山登
小胞体ストレス誘導モデルの構築のため、オレイン酸とパルミチン酸をHepG2細胞に添加した際の小胞体ストレスマーカーへ及び脂質分泌への影響を評価したところ、パルミチン酸が小胞体ストレスマーカーを増加させApoB分泌量を減少させた。この小胞体ストレスモデルを用いて4種類のビタミンE同族体の効果を比較した結果、γ-トコトリエノールのみが小胞体ストレスに関与する遺伝子発現量を低下させた。一方で、γ-トコトリエノールがパルミチン酸添加の有無に関わらず細胞内中性脂質量を減少することを明らかとした。γ-トコトリエノールによる肝脂質減少効果と小胞体ストレス抑制効果の関連については、今後動物モデルを用いて明確にしていく予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、飽和脂肪酸の一つであるパルミチン酸により小胞体ストレスが誘導されることを明らかにした点、また、γ-トコトリエノールの小胞体ストレスを抑制する可能性を見いだした点は評価できる。一方、有用なNASH治療薬の開発に向けた技術的検討やデータの積み上げなどがさらに必要と思われる。今後は、in vivo試験など、基礎的検討が必要である。
血清Galectin-3を標的とした早産の予測・診断法の開発 広島大学
宮内睦美
広島大学
田井潔
正期出産妊婦の妊娠経過中(92症例)ならびに出産時(50症例),早産妊婦出産時(21症例)を含む186症例の血清を用い,ELISA法にてGalectin-3の値を測定した.正期出産では妊娠経過に伴い血清Galectin-3の値が上昇した.早産症例のGalectin-3値は,正期出産のいずれの時期においても有意に高い値を示した.また,感染が原因の早産症例 (71%) では非感染早産症例 (29%) に比べて有意に高く,非感染早産症例は正期出産時とほぼ同程度の値であった.本研究開発結果から正期出産の中期症例の95%,後期症例の75%はカットオフ値以下で,感染による早産の75%がカットオフ値以上となる値が設定可能であった.よって,妊娠37週までの検査において,血清Galectin-3値がこのカットオフ値を超えた場合には早産になる可能性が非常に高いと考えられた.血清Galectin-3値のモニタリングにより早産のリスクを予測/診断する技術の開発とその臨床応用の見通しが立ったと考える.今後,論文化するとともに,産学共同の研究開発として展開していきたい. 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特にGalectin-3の早産との関係を明らかにして、早産の予測に有用な診断マーカーとしての利用を目標とした研究であり、臨床研究により良好な結果が得られ、リスク判定キットの特許出願がなされたこと技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、早期出産に対するリスク評価あるいは予測は、出生児および両親のQOLを大きく高めるという意味において、社会還元に導かれることを期待する技術で実用化が望まれる。今後は、より大規模な臨床評価研究をAMEDなどで実施されることが期待される。
緑内障におけるapelin-APJ systemの病態生理学的役割と創薬標的分子としての有用性 摂南大学
石丸侑希
摂南大学
古川彰
緑内障は、網膜神経節細胞死により失明する不可逆性の眼疾患であるが、既存の治療薬の眼圧降下剤を投与しても、病態が進行する症例が多数存在する。これは、緑内障における網膜神経節細胞死に眼圧以外の要因が関与する可能性を示している。本研究では、薬物投与による緑内障モデルマウスを用いた検討により、*アペリン欠損マウスでは網膜神経節細胞死が増加、*網膜神経節細胞死に伴いアペリンの発現が減少、*アペリンの硝子体内投与により網膜神経節細胞死が抑制されることを明らかにした。これらの結果は、アペリンの欠乏や減少が網膜神経節細胞の脆弱性に関与すること、およびアペリンの補填により細胞死を抑制できる可能性を示している。現在、他の緑内障モデルにおいても、アペリン欠損により細胞死が増加することを見出していることから、引き続き、本課題について詳細に検討し、最終的には、ヒト緑内障とアペリンの関係性について明らかにすることを目標にする。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、アペリン欠損マウスでは、NMDAにより細胞死が誘導されることなどを見出し、アペリンが緑内障の新規治療ターゲットとして有用であることを示した点は評価できる。
一方、技術移転の観点からは、特許取得を検討してほしい。そのためには、眼圧降下薬が奏功しない緑内障の病態におけるアペリンの寄与についてのエビデンスを取得する必要がある。
今後は、眼圧降下薬が奏功しない緑内障治療への有用性を中心に考えているのか、緑内障全般に対し従来法とは異なる治療薬の開発を目指すのか、エンドポイントを明確にすることが望まれる。
生物由来材料を用いたセキュリティー印刷手法の開発 産業技術総合研究所
星野英人
hCBD-BAFをインク利用する際に、粘度の低い蛋白質水溶液での塗布では、紙上での速やかな拡散のため、特定パターンでの印刷は困難であった。通常インクの粘性を与えるために、天然成分から成る増粘剤の添加により、適度な粘性を有するインク化に成功した。インクジェット技術を利用した印刷手法に関しては、セキュリティー印刷の基盤形成に成功したが、研究実施期間内での最適条件の決定にまでは到達できなかった。但し、副産物的な成果として、一般的な「紙」以外にも、当該インクをプラスチックなどの素材に安定結合可能な基礎的手法を新たに見出すことに成功した。インクジェット吐出条件の最適化は今後の課題である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、タンパク質由来の蛍光&化学発光インクとしてセキュリティー印刷分野で実用化する上での技術的課題を明確にし特許出願を終えたことについては評価できる。一方、技術的課題にはインク化や印刷技法など本質的なものが多く、計画の抜本的な見直しも視野に入れた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、連携企業との協力内容を深化させ、ターゲットや技術目標を明確にされることが望まれる。
軟骨伝導を活用した会話を妨げないアクティブノイズコントロールの開発 島根大学
下倉良太
奈良県立医科大学
大野安男
現在アクティブノイズコントロールという消音技術を搭載したヘッドホンが注目されているが、ヘッドホン装用は外耳道を閉ざすので、外部からの有益な情報(会話や警告音)も遮蔽してしまう。本申請は、耳軟骨の振動で外耳道内に音を放射する軟骨伝導を応用し、外耳道を開放したまま会話聴取を阻害しない新しいアクティブノイズコントロールの開発を試みた。まず軟骨伝導振動子へ出力する信号と外耳道内で発生する音との位相特性を計測し、純音の位相を少しずつ変化させながら、外耳道内の音が特定の位相差で減衰することを確認した。今回の結果から軟骨伝導音でもアクティブノイズコントロールが可能であることが示唆された。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、独自性の高いアイデアに基づいて,既存技術を凌駕する性能を持ったアクティブノイズコントローラを開発しようとしている点は評価できる。一方、当初目標の消音効果を実現できていないので、測定値のバラツキ、実験方法・評価環境の再検討が必要と思われる。当面は、現状の問題点を整理し、基盤となる技術の確立を目指すことが望まれる。
タンパク質の調理加工特性を活用した嚥下困難者用食品の開発 島根大学
鶴永陽子
島根大学
丹生晃隆
柿果皮については果皮原料の0.5倍の加水、みかん果皮については果皮原料の2倍加水で、離水のない良好なペーストが得られた。両ペーストとも、特別用途食品許可基準の許可基準Ⅲ(2009年2月13日 厚生労働省通達)の硬さ;0.3~20(103N/m2)、付着性1500(J/m3)以下を満たしていた。また、80℃ならびに90℃で加熱殺菌処理を行い、-25℃で長期保存した場合も良好なペースト状態を保持できることが明らかになった。また、この方法で作った果皮ペーストは、タンパク質素材を添加しなくても渋味やえぐみが無いことが明らかになった。さらに、マドレーヌ、ジャムなどを試作した結果、食味の良い加工品を製造できることが明らかとなった。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、介護支援、自立支援、生活支援につながる加工食品の開発に向けて当初の計画通りに研究を遂行し、目標の果皮ペーストを得た成果が顕著である。一方、技術移転の観点からは、可能な限り多くの人の意見が反映される、食味等の官能評価を行なうなどでの実用化が期待される。今後は、ペースト化における加水条件などの特許出願も検討し、嚥下困難者、高齢者、障害者等に係る現場データの収集と検証にもとづく加工食品として開発することが期待される。
iPS細胞を含む多種な細胞種を用いた気管再生技術開発 新潟大学
西條康夫
新潟大学
長谷川佐知子
マウスおよびラット気管スキャフォールドを用いて、気管内腔面に細胞を生着させる技術開発と複数の細胞を生着させる技術開発を行った。気管内腔面には、通常の培養では接着は困難であったが、遠心法を繰り返すことにより、内腔の大部分に細胞を生着させる技術を開発した。次に、肺上皮細胞株MLE12以外に線維芽細胞株BLK4の生着を試みたが、気管組織の硬度が高く、気管組織内への生着は不可能であった。次に未分化iPS細胞を同様に遠心法で気管内腔面に生着させることに成功した。一方、肺上皮に分化したiPS細胞は生着が困難で、増殖能低下によるものと推測された。今後は、増殖能を維持している分化途中のiPS細胞を用いて気管内腔へ生着させた後に、気道上皮への分化を試みる予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも独自に気管スキャホールドを作成する技術、気道上皮細胞を遠心分離で簡単に生着できる技術レベルについては評価できる。一方、移植に耐えうる気管モデルとしては、まだほど遠いと思われる。複数の細胞を層にし、それぞれが生着する技術ならびに、iPS由来の気道細胞を生着させる技術開発にに向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、インビトロのスキャホールド内で理想的な組織化が行えるような実験を組むことが望まれる。
HDLコレステロール増加作用を有する新規LXRアゴニストの開発 広島国際大学
井口裕介
公益財団法人くれ産業振興センター
山岡秀明
本研究では、LXRアゴニストである24-Nor類似体の動脈硬化抑制作用を実証すると共に、その体内動態を明らかにすることにより医薬品開発への基盤をより強固にすることである。24-Nor類似体は、ApoEノックアウトマウスにおいて血管内皮への脂質沈着を抑制させるとともに、脂質代謝を改善させた。また、既知のLXRアゴニストで見られた中性脂肪の増加効果は認められず、むしろ減少させた。これらのことから、24-Nor類似体の動脈硬化抑制作用が示された。24-Nor類似体の体内動態について明らかにすることはできなかったが、24-Nor類似体は小腸から速やかに吸収されることが確認された。このことから、経口剤としての有用性が示された。今後の研究として、24-Nor類似体の体内動態を明らかにすると共に、なぜ血中中性脂肪量の増加を引き起こさないのかを詳細に検討していく。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、計画での動脈硬化誘発性LDLR-/-マウスとは異なるが、動脈硬化誘発性ApoE-/-ノックアウトマウスでの欠陥内皮への脂質沈着を抑制を確認できたことは新たな知見であり、評価される。
一方、経口投与での体内動態に関するデータが得られなかった原因、コレステロール沈着抑制作用で当初と異なる動物モデルを用いた理由、プラーク退縮効果の検討結果について示されていない点は残念である。
脂質異常症予防治療薬は社会的有用性が高いので、今後、得られた知見を最大限に活用し研究を前進させ、企業との共同研究に結びつけ、成果を社会に出されることが期待される。
自家骨に匹敵する骨修復能を備えた高機能化人工骨材料の創製 岡山大学
小西敏功
岡山大学
齋藤晃一
本研究では、骨形成を促進する「ケイ素」および血管形成を促進する「銅」を導入したセメント原料粉体を用いて「骨形成能」および「血管形成能」を備えたペースト状人工骨を創製することを目的として、まず、1)銅を導入したセメント原料粉体の合成、および2)そのin vitroでの生体適合性を検討した。0-10mol%の銅を導入したセメント原料粉体を合成した結果、固相合成法、湿式合成法いずれにおいても、仕込量と同等の銅を含有した粉体を得られることが明らかになった。この粉体の溶解性は、0, 0.1, 1mol%では市販β-TCPと同程度であったが、5, 10 mol%ではβ-TCPよりも30-40%まで低下することがわかった。また、0.1, 1mol%の粉体ではControlおよびβ-TCPに匹敵する良好な生体適合性を示すことが明らかとなった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、血管形成能に繋がる銅を含有するβ型リン酸三カルシウム(β-TCP)を調整してin vitroでの生体適合性(溶解性と細胞毒性)を明らかにしたことについては評価できる。一方、骨形成能に繋がるケイ素も銅と併せて含有するβ-TCPの調製に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、銅とケイ素の複合効果に着目して、企業との共同研究などを目指した研究成果の知財権化も検討されることが望まれる。
心地よく人間に合わせる自動演奏システムの研究 名古屋工業大学
酒向慎司
名古屋工業大学
土屋洋一
本研究では、自動演奏システムにおいて重要な要素技術である、演奏追跡技術の高精度化と、演奏追跡技術を応用した人間の演奏に同期するロボットの開発を行った。演奏追跡技術では、楽譜の情報を活用することで、テンポ変動を把握しやすい打楽器音とそれ以外の楽器種別を考慮した新たな演奏追跡モデルを提案し、演奏追跡精度の改善を確認した。演奏に追従するロボットの開発では、テンポ変動を含んだ演奏情報にリアルタイムで追従しロボットを制御するシステムを産業ロボットメーカーと共同で開発し、国際ロボット展に出展し実演した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも自動演奏システムにおいてロボットにおける演奏追跡技術については評価できる。一方、演奏者のテンポ推定精度とテンポ追従性の目標値(演奏者にとっての許容範囲)達成に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、演奏追跡技術の高精度化という目的に沿って,自動伴奏システムもダンスロボットもそれほど違いはないのかもしれないが,当初の自動演奏システムに重点化して研究開発されることが望まれる。
ヒトiPS細胞と人工材料を組み合わせた気道バイオシミュレーター作製による気道疾患創薬のための評価技術開発 京都大学
大森孝一
科学技術振興機構
山口一良
目標
本研究の目的は、ヒトiPS細胞由来気道上皮細胞と人工材料を組み合わせ、ヒトの生体内気道を模倣した気道バイオシミュレーターを作製し、気道疾患治療薬の開発に応用させることである。
達成度
単層培養条件下でサイトカイン、低分子化合物、ALI培養を組み合わせることで、ヒトiPS細胞から気道上皮細胞への分化誘導に成功した。
今後の展開
ヒトiPS細胞から高効率に気道上皮細胞を分化誘導させるために、気道上皮細胞分化に関わる転写因子の強制発現を行う。さらに、分化した細胞の成熟化、性質、機能性を長期的に維持させるために、コラーゲンスポンジ等の細胞培養担体を利用した三次元培養を行い、ヒトの生体内気道を模倣できる気道バイオシミュレーターの作製を試みる。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、ヒトiPS細胞からの効率的な気道上皮細胞への分化誘導に成功した点は評価できる。
一方、目標の気道バイオシミュレーター作製に向けて、分化誘導の効率化、分化細胞の性質、機能性の長期的維持の手法の開発が必要であると思われる。
今後は、分化誘導、分化細胞の維持等を解決し、実用化に向け、研究を進めることを期待する。
生体組織の迅速作製が可能な再生医療用スキャホールドの開発 鹿児島大学
武井孝行
鹿児島大学
中武貞文
本課題では、有毒な化学架橋剤を含む既報のキトサン多孔質スキャホールドを使用した場合の3/4の培養期間で軟骨組織を作製できる新規なキトサンスキャホールドの開発を目的とした。申請者はこれまでに、化学架橋剤を使用することなく凍結-融解処理によりゲル化するキトサン誘導体を見出しており、本課題ではその誘導体の諸物性を最適化することにより、それが同処理により多孔質体を形成することを示した。また、その孔径を軟骨組織の作製に適した孔径に制御することもでき、その多孔質体を用いることで従来のものよりも軟骨作製までにかかる期間を目標値よりもさらに短縮できることを示した。今後は、その軟骨組織の生体内での機能を調査する必要がある。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に最大の目標である「生体内での再生組織の機能評価」はできなかったが、作製するスキャホールドの孔径制御に目処が立ち、組織作製速度を目標通り早めることができたことに関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、従来用いられているスキャホールドを凌ぐ可能性のある機能性が示され、研究成果が応用されれば、社会還元に導かれることが予想されるので実用化が望まれる。今後は、企業との連携を進めて、ユーザーである企業側のニーズに基づいた機能性の評価を進めることが期待される。
概日リズムの調節を制御可能な人間に優しい表示装置の開発 鹿児島大学
辻村誠一
鹿児島大学
中武貞文
現代社会では、さまざまな光環境で概日リズムが乱れ社会的な問題になっています。概日リズムの同調性が失わると例えば睡眠リズムの障害が誘引されます。一方で現代社会での様々な光環境は、個人ではそのコントロールが難しいことも事実です。近年、概日リズムの調節や明るさ感に密接に関連する新たな光受容器、メラノプシン細胞が発見されました。代表研究者は世界で初めてこの光受容器を独立に刺激する光刺激装置を開発した実績を踏まえ、本課題では従来装置を応用し、より安価でシンプルな概日リズムを調節可能な多原色表示装置を開発しました。装置の開発により輝度、色度の調節だけではなく、メラノプシン細胞への刺激量も変化可能な表示装置を実現しました。今後は映画など3原色の既成のコンテンツにも対応する予定です。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも本研究開発では、従来装置をベースに、最近発見されたメラノプシン細胞にも刺激調節可能な、安価な多原色表示装置を開発したことについては評価できる。一方、現代の光環境の制御が、ヒトの生理的側面の科学、実証研究が少ない。開発された本装置がこのような局面に、科学的な証明を与えるツールとなれば、技術転移および産学共同の研究開発として取り上げられるものと考え、それに向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、本装置の光環境での制御の有効性を示すためのヒトでの実証実験とその証明がされることが望まれる。
医用画像に対するモルフォロジーフィルタバンクの深化と応用 熊本大学
内村圭一
熊本大学
平野英美
目標として,モルフォロジーフィルタバンク(MFB)の構造要素の形状による依存性などについての検討,MFBの眼底画像への適用による血管の抽出及びMFBの胸部CT画像への適用を目指した研究開発を行なった。その結果,板型の厚み形状をもつ構造要素が優れた性能をもつことを実験的に示した。MFBとニューラルネットワークを組合せた眼底画像からの血管抽出は既存手法と同等以上の性能を示した。また,MFBの胸部CT画像への適用結果では,すりガラス状陰影の特徴を残したまま,様々な大きさの正常血管を含む組織を削除できることが分かった。今後は,民間企業との共同研究において,MFBの特性を生かした医療用システムを開発することにしている。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に医用画像に対するMFBの適用、眼底画像の血管像の抽出、胸部CT画像の血管等正常部の抽出、ノイズ除去などに関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、医用画像に幅広く展開すべく、画像(原画像)の質が本研究成果結果へ与える影響の明確化などでの実用化が望まれる。今後は、データベース(症例)の拡充やマンモグラフィー画像への応用されることが期待される。
乳酸菌ゲノムDNAからの免疫抑制型オリゴ核酸の探索 信州大学
下里剛士
信州大学
唐木好美
オリゴ核酸(ODN)とは、約20塩基のDNA断片であり、含まれる塩基配列によって「免疫増強」と「免疫抑制」という、相反する免疫機能を発揮する。しかし、乳酸菌ゲノムから免疫抑制型ODN(inhibitory ODN, iODN)は未だ報告がない。そこで本課題では、生体内におけるODN安定化2次構造解析法に基づき設計した乳酸菌ゲノムDNA由来iODN候補50種類について、マウス脾臓細胞培養系におけるスクリーニング試験を実施した。試験の結果、乳酸菌ゲノムDNAからiODN配列を見いだした。さらに、免疫増強効果を相乗的に高めるシナジスティックODN(synergistic ODN, sODNと命名)を発見した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、新手法の最初のスクリーニングで、活性の高い免疫抑制型オリゴ核酸(ODN)を絞り込めたことに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、活性作用の解析とより具体的な効果判定により既知の免疫抑制型ODNと免疫増強型ODNとの比較をするなどでの一疾患に焦点を絞った実用化が望まれる。今後は、既知物質と比較して充分に優位性があることを実証し、DNAナノカプセル技術として成熟させることが期待される。
農作物における病気の画像診断システムの構築 法政大学
鍵和田聡
法政大学
永井恒夫
本研究ではキュウリのウイルス病をモデルとして、深層学習装置であるConvolutional Neural Network (CNN)を用いて病徴の画像による診断システムを開発する。ZYMV(ズッキーニ黄斑モザイクウイルス), MYSV(メロン黄化えそウイルス)に感染したキュウリ画像、および健全植物の画像を用いてCNNに導入し3種類を識別するシステムを構築して4-fold cross-validationによって評価したところ、識別率の平均は92.5%と高い精度が得られた。ついで、4種類のウイルス(ZYMV, MYSV, CCMV:ウリ類退緑黄化ウイルス, CMV:キュウリモザイクウイルス)および健全の5種類を識別するシステムを構築したところ、識別率の平均は90.8%と高い精度で識別することが可能であった。以上の結果から、CNNによって、訓練データを加えることにより、複数の植物病害について診断するシステムを構築できることが確認され、実際の応用に向けての端緒を開くことができたと考えられる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、多数作成したキュウリのウィルス病のスマホ画像から、ニューラルネットによる自動学習機能を持つ画像診断システムで、平均で90.8%の識別率を達成した技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、ウィルス病になりかけている場合など、ウィルス病の罹患の程度が定量的に診断できるようにするなどでの実用化が望まれる。今後は、知財化できる部分の特許出願も検討し、様々な画像や利用現場への適用範囲を拡大することが期待される。
光ファイバーによる高感度指から皮膚ガスアルコールセンサーの開発 名古屋大学
LIOiLun
名古屋大学
富田竜太郎
従来の半導体センサーは飲酒検査に有効なアルコール検知器として、呼気からppmレベルの感度を達成しているが、アルコール以外のガスに対しても反応するため、選択性が低いこと、さらに、吹き込み口の衛生面の問題点がある。これらの問題点を解決するため、指から排出される検出感度1ppmのアルコールを検知可能なエバネッセント波を利用した光ファイバーガスセンサーを開発した。本研究では、アルコール分子認識材料として、TSPP(Tetrakis(4-sulfophenyl)porphyrin)及びZnOナノ粒子を光ファイバー表面に成膜することで、ガス選択性及び感度増強を実現する。さらに、安価なLED, Siフォトダイオードのアンプ回路を組み合わせたセンシングデバイスの作製により、アルコール感度1 ppm、応答時間1-3秒、信頼性の高い非侵襲な携帯型(サイズ20cm2)アルコールセンサーを数千円程度で提供する。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、エタノールの検出限界として1ppmを達成していること、数千円の価格、および20平方センチメートルのサイズで実装したことに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、in situ皮膚放出エタノールの検出を評価し、エタノールガスの選択性を十分に達成する等、実用化に向けた開発が望まれる。また特許化も進めてほしい。今後は、アルコール検出以外のマルチガスセンサーとしての検討により、ウエラブル健康管理機器としての開発展開も期待される。
血管新生制御に向けた新規タンパク質回転軸の多点制御法の開発 愛媛大学
東山繁樹
愛媛大学
秋丸國廣
血管内皮細胞のタンパク質回転ダイナミクスを制御する鍵因子であるCUL3 E3リガーゼを基軸とした3つのユビキチンリガーゼシステム、1)VEGFR2制御軸のCUL3-BTBS-基質、2)アクチンダイナミクス制御軸のCUL3-BTBX-基質、3)細胞接着制御軸のCUL3-BTBY-基質に沿って、各複合体形成阻害剤探索用アルファ・スクリーニングシステムを構築・確立した。さらに、血管内皮細胞に発現する60種のBTBタンパク質よりCUL3に結合するBTB23種を決めた。これを基に、阻害剤探索用アルファ・スクリーニング全25種システムを構築・確立した。血管新生特異的阻害剤の探索に向けて、製薬企業と契約後、全25種のCUL3-BTB-基質阻害剤スクリーニングシステムとして導出し、連携先企業が保有する40万化合物のスクリーニングを開始した。今後、本スクリーニングで得られる阻害剤を基盤として、連携企業との共同開発・応用を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初計画を着実に達成し、リード化合物の抽出、さらに製薬会社との共同研究締結による大規模スクリーニングへの展開を進めた点は評価できる。
一方、技術移転の観点からは、生体内における実効性評価を進めてもらいたい。
今後は、製薬会社等との継続した提携もしくはベンチャー企業等に対し、技術移転が達成されることを期待する。
抗Wnt5a モノクローナル抗体による抗腫瘍増殖・抗炎症作用機序の解明 大阪大学
菊池章
大阪大学
金允政
Wnt5aは細胞の増殖や運動を制御する細胞外分泌タンパク質であり、私共はWnt5aの過剰発現が種々のヒト癌の悪性度と腸管炎症を増悪させる仕組みを明らかにした。本研究で、私共が作製した抗Wnt5aモノクローナル抗体mAb5A16は、癌細胞のWnt5a依存性の転移・浸潤能には抑制効果を示したが、Wnt5a依存性の細胞増殖と腸管炎症応答には影響しなかった。mAb5A16はWnt5a依存性受容体エンドサイトーシスを阻害し、更に細胞骨格制御に関わるシグナル経路を抑制した。したがって、Wnt5a依存性の癌細胞の浸潤、転移と細胞増殖、腸管炎症応答は異なる機構を介していることが示唆された。今後は、Wnt5a依存性細胞増殖能を示す細胞株を用いて、抗増殖効果を指標に再度モノクローナル抗体の作製を行う予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、抗Wnt5a モノクローナル抗体による細胞運動抑制のメカニズムの解明につながる知見が得られた点は評価できる。
一方、Wnt5aだけでは治療標的としては十分でないと思われるので、抗悪性腫瘍薬や他のシグナル経路の阻害剤との併用等を検討するなどデータの積み上げが必要と思われる。今後は、Wnt5a阻害のアプローチに加え、Wnt5aが成長や転移のドライバー分子として作用している癌種を絞り込むバイオマーカー技術と組み合わされると社会還元の実現につながると思われる。
義手への応用を目指した小型ハイパワーアクチュエータの開発 東京大学
森田剛
本研究の目的は、駆動力と予圧の独立制御性と、CFRPという音速の大きな材料による振動モード形状の特異性を利用した圧電リニアアクチュエータを提案、実証することにある。当初の提案原理を試し、その駆動原理を確認することはできたが、予圧制御に電磁駆動力を用いると、応答周波数に限界があることから十分な駆動力を得るのには適していないことが明らかになった。この結果をもとに、ランジュバン振動子と積層圧電素子を組み合わせた新規リニアモータを提案、試作した。積層圧電素子は電磁力とは違い、数10kHzの高い周波数でも予圧制御に用いることができ、小型リニア圧電モータに適した構成であることを実証することに成功した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、当初予定していた方法による十分な駆動力を有する圧電リニアアクチュエータの開発は困難であったが、実験の知見に基づきランジュバン振動子と積層圧電素子を組み合わせた小型リニア圧電モータの開発に成功していることは評価できる。一方、研究中に見出した新方式については開発課題が述べられているが、実用化に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要である。今後は、産業界への技術移転の準備を進める上でも、新方式でのリニアアクチュエータの実用化視点から研究を推進されることが望まれる。
内側側頭葉てんかんの単遺伝子モデルマウスのてんかん発生機構解明 名古屋大学
浅井真人
名古屋大学
浜田修子
目標は内側側頭葉てんかん(MTLE)の本質を捉え産業化を達成することであった。期間中、基礎研究産業化両面で大きな成果があった。基礎研究面では、内側側頭葉てんかんの本質が海馬歯状回顆粒細胞の軸索(苔状線維)末端からの神経放出障害にあるという当初の仮説を支持する証拠を得た。産業化として、抗てんかん候補薬をスクリーニングする系で国内特許を獲得し、科学技術振興機構の外国出願支援にも採択されPCT出願も完了した。基礎研究、産業化両面で概ね当初の目標を到達したと思える。今後は、さらに高効率なin vitroによるスクリーニング法開発とさらなる裏付けのデータを蓄積して一流科学誌への掲載に向かう予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、本ノックアウトマウスは人でも同じ遺伝子のてんかん患者が認められることから、MTLEの貴重な疾患モデルである。また、短期間内に当初計画の特許取得まで達成した点は評価できる。
一方、技術移転の観点からは、抗てんかん薬のハイスループットのスクリーニング系を樹立する必要がある。
今後は、KOマウスにおける海馬の神経細胞の配列の乱れなど基礎生物学的に極めて興味深い知見を得ているので、是非、創薬に結びつけてほしい。
非侵襲近赤外線計測による新規体内脂肪代謝リアルタイムモニタの開発 獨協医科大学
安西尚彦
獨協医科大学
森田昌次
「ケトン体」と病態変動の関係を探るための、経時変化を追跡可能な体外からの非侵襲的なケトン体計測機器が「ケトン体」の新たな役割の解明に必要と考え、近赤外光計測による血中ケトン体の計測装置野プロトタイプの開発を行なった。結果、研究開発の期間中に、①ケトン体特異的吸光波長の精密な計測を行い、②上記波長を用いた近赤外光波長可変レーザーを用いた光計測装置のプロトタイプの作製を行なった。更に、③同機を用いた生体模擬試料中のケトン体濃度計測を試みた。結果、作製したプロトタイプを用いて、生体計測を行なうためには、現在の約10~100倍の感度を達成する必要があると考えられ、今後、改良を進める。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、ケトン体測定に複数の波長可変レーザー光源を用いた計測システムを試作し、標準試料をチェックすることで測定技術の改良点が明らかになったことについては評価できる。一方、本研究課題である生体中のケトン体を特異的に測定するという(血中レベル値との相関)前提実験の結果が得られないと進展は出来ない。本手法が生体中のケトン体を特異的に測定できるかどうかに向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、生体(小動物からヒトを含めて)中のケトン体と近赤外光計測との相関する結果が求められる。その後、生体外からの計測にかなう技術改良に共同研究を展開されることが望まれる。
末梢血DNAメチル化を指標とする子宮内膜症の早期診断分子マーカー開発 鳥取大学
伊澤正郎
鳥取大学
増田紳哉
子宮内膜症は、本邦生殖年齢女性の約10%に発症するが、対症療法に依存しているのが現状である。早期治療のための診断分子マーカーの開発は急務である。本研究は、子宮内膜症患者末梢血DNAのメチル化修飾を早期診断分子マーカーとして開発することを目標としている。
先行研究(伊澤正郎:平成25年度JST A-STEP FS)により特定した子宮内膜症患者に特徴的なメチル化修飾23領域(特許出願中)について、新たな14症例による精査検証を実施した。その結果、最終的に17領域への絞り込みに成功した。クラスター解析により、これらの領域に3患者群の存在が示唆された。
本研究により、末梢血DNAメチル化修飾を子宮内膜症の新規診断分子マーカー候補として決定した。今後計画する小規模症例による検証が待たれる。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に先行研究のデータもあわせて子宮内膜症に相関する17のDNAメチル化領域を選別できたことに関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、症例および健常女子の選択にあたり、重症度、初発・再発、治療歴および年齢、月経周期などの臨床情報を考慮する必要があると思われる。実用化上、簡易なメチル化率の検査方法の実用化が望まれる。今後は、
選択された17領域の全部または一部の領域のDNAメチル化率の組みあわせによる内膜症の診断効率を、臨床検査の感度・特異度・陽性(陰性)的中率の観点からデータを整理し検討されることが期待される。
ヒト生体内における薬物動態を予測可能なヒト化動物モデルの開発 鳥取大学
香月康宏
鳥取大学
増田紳哉
本研究では、薬物トランスポーターの中でも重要なOATP1Bクラスター遺伝子のヒト型モデルマウス作製を目的として、ヒトOATP1Bクラスター保持マウスES細胞の作製を目指した。具体的にはDT40細胞中にて、相同組換えを利用してヒト12番染色体上のヒトOATP1Bクラスターのセントロメア側にloxP配列を挿入し、テロメア側に人工テロメア配列を導入することで部位特異的染色体切断を行った。さらに上記改変ヒト12番染色体をマウス人工染色体保持CHO細胞に導入後、Creを発現させることで、マウス人工染色体上へOATP1Bクラスターをクローニングすることに成功した。今後は完全ヒト型OATP1Bマウスを作製し、創薬研究に活用する予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、ヒトOATP1Bクラスター遺伝子のMACへのクローニングに成功した点は評価できる。
一方、ヒトOATP1B遺伝子がマウスで明らかに発現しており、ヒトの薬物動態研究をマウスで代替できることを証明できて初めて本研究の意義が明らかになるものと思われる。
今後は、トランスポーターを研究している薬物動態学者や、企業の創薬研究者と議論を重ね、効率的な開発研究を展開されることが望まれる。
ほうれん草由来糖脂質を用いたがん化学療法用経腸栄養剤の開発 徳島大学
竹谷豊
がん化学療法時の消化管粘膜障害に伴う嘔吐・悪心の副作用を軽減するような食品成分として、ほうれん草由来糖脂質の効果を検討した。その結果、抗がん剤5-フルオロウラシル(5-FU)投与5日前より20 mg/kgの用量にて投与することで、5-FUによる小腸粘膜障害ならびに嘔吐・悪心誘発因子の合成に関わる遺伝子発現の抑制を確認し、当初の目標にあった用量・投与期間の設定ができた。さらに、上記投与条件において、ヒトの嘔吐・悪心行動に相当する異味症(パイカ行動)を有意に抑制できたことから、当初の開発目標をほぼ達成できたと判断した。今後は、特許出願の後、共同開発企業とともに製品化を進め、がん患者を対象とした臨床試験を行い実用化を目指す予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ほうれん草由来糖脂質(SPN)が一定の効果を示したというエビデンスを有した点は評価できる。
一方、技術移転の観点からは、食品として医療界あるいは、患者から受け入れられる商品イメージを固める必要がある。
今後、反復毒性試験などにより無毒性量を推定したり、抗がん剤の体内吸収阻害の有無、SPNの投与経路や成分としての安定性試験などをクリアしていくことが期待される。
バイラテラル制御技術に基づく脳卒中麻痺側下肢の痙縮評価・リハビリテーション装置の開発 三重大学
矢代大祐
三重大学
梅村時博
脳卒中片麻痺患者に認められる痙縮の治療を効率化するためには、痙縮の度合いを熟練した理学療法士などの勘や経験に頼らずに定量評価できる手法の開発が求められる。そこで足を装着することで、足関節の力学的特性を自動的に同定する装置を開発した。本装置は、モータ駆動(瞬時最大トルク:132Nm)により足関節を他動的に等角速度運動することができるだけでなく、運動時の足関節角度(分解能:270336pulse/rotation)と足関節が発揮するトルク(分解能:0.015Nm)を高精度に計測することができる。実際に被験者の足を装置に装着し、等角速度運動時の足関節角度と足関節トルクを計測できることを実機検証した。また、取得した足関節トルクを弾性成分と粘性成分に分離することができた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、弾性・粘性係数の推定が可能となった点、プロトタイプ装置による検証実験の実施や臨床試験実施に向けた医療機関との連携が密に行われていることは評価できる。一方、当初計画内容の未達成部分について、目標と対比し課題をどう解決していくかについての技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、起こりうる課題の想定をより深く検討・予測し研究内容を設定した、企業化への視点からの開発が望まれる。
糸球体基底膜特異的へパラン硫酸欠損マウスの作成ならびに同マウスを用いた糖尿病性腎症新規治療法の開発 東北大学
菅原明
独立行政法人科学技術振興機構
山口一良
本邦においては糖尿病性腎症患者数が急増しており、その病態解明・新規創薬が急務である。糖尿病性腎症の発症・進展においては、尿中アルブミン増加が重要な役割を果たしている。その原因として糸球体基底膜のへパラン硫酸が構成するチャージ・バリア機構の障害が想定されているが、未だ本仮説の証明はなされていない。今回我々はCre-loxPシステムを用いて糸球体基底膜特異的なヘパラン硫酸欠損マウスを作成した後に、同マウスをストレプトゾトシン(STZ)投与にて糖尿病に罹患させることにより、チャージ・バリア機構が障害された新規糖尿病性腎症モデルマウスを作成した。現在、同マウスを用いた糖尿病性腎症の病態解明を進めており、今後の新規創薬へと結び付けたい 当初目標とした成果が得られていない。中でも、申請者独自の糸球体基底膜特異的ヘパラン硫酸欠損マウスを作出することに成功した点は評価するが、当該マウスへの負荷の種類を増やすという当初計画とは異なる進め方をされたため、種々の解析結果が現時点ではまだ得られておらず、当初の目標達成に至らなかったのは惜しまれる。
今後は、病理組織学的ならびに病態生理学的に詳細な解析を進められることを期待する。
新奇低分子成長促進化合物によるウイルス非感染甲州ブドウ樹作製技術の開発 中部大学
町田千代子
中部大学
阿部正廣
和食に合うワインの素材である甲州ブドウの欠点として、ブドウに感染するウイルスに起因する低い糖度がある。“ウイルス非感染ブドウの作製が高品質なワイン生産の重要な鍵である”という認識は世界の常識である。成長点培養による非感染ブドウの作製を目的として調べた新奇低分子化合物のうち、ブドウの若い茎のカルス化を促進させる化合物が見つかった。また、若い茎の葉の形成には超低濃度のサイトカイニンが最適であることもわかった。さらに、甲州ブドウでもウイルス非感染樹の果実は感染樹のそれより糖度が高くなることを確証できた。今後ともこれまで同様、ウイルス非感染苗の効率的作製、維持、供給体制の構築は重要な課題である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、天候不順でサンプル準備が難しいと判った時点で、代用モデル植物としてシロイヌナズナを用いて実験を進め、ブドウの若い茎のカルス化を促進する化合物を見出したことについては評価できる。一方、得られたデータを精査・分析結果を参考にした、本来の技術開発対象であるブドウ苗や甲州ブドウ樹を用いた基礎データの積み上げや糖類・ポリフェノールなどブドウ成分の分離条件の確立などが必要と思われる。今後は、ウィルス非感染の甲州ブドウ樹の必要性を広く認識させるためにも、有志農家への苗木の供給を推進されることが望まれる。
災害地域における聴覚障碍者らへの情報保障に関する広域連携の検証研究 都城工業高等専門学校
上野純包
熊本高等専門学校
西ヶ野政宏
これまで被災地宮城県を中心に、聴覚障碍者らの情報保障に関し検証実験を行ってきた。本課題では開発したシステムをインターネットクラウド上に展開し、災害耐性を備え広域連携を実現した。また障害の程度が違っても、簡単に情報が取り出せるユーザーインターフェースの開発を進めた。被災隣接地域の内の孤立化防止の為前回開発の小型サーバにメッシュネットワーク技術の移植を検討した。懸案の操作性の課題、平時の利便性等について、聴覚障碍者の視点より総合評価を実施した。開発はサーバシステムを都城高専、ユーザーインターフェースを熊本高専、システムの総合評価を宮城教育大の3拠点で分担した。情報保障のバリアフリー化を目指すと共に、情報取得格差を是正し、防・減災技術分野の開拓を進める。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも災害時の回線遮断に対応できるメッシュネットワークを用いた情報提供システム構築を目指した点については評価できる。一方、本課題の未達の部分への取り組みと個々の聴覚障碍者らの要求の差異やタッチ型ディスプレイを用いることによる解決法の取入れとを考慮した技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、聴覚障碍者が求める情報の内容や認知手法の整理に基づく、バックキャスト的な視点を考慮した解決手法などを検討されることが望まれる。
ウイルスの遺伝子転写過程を標的とする新規抗HIV薬の開発 名古屋市立大学
朝光かおり
公益財団法人名古屋産業科学研究所
羽田野泰彦
本研究課題の目標は、「HIV転写過程を標的とした新規HIV薬剤をなりうる化合物を見出す」ことである。そこで、HIV転写活性化複合体を標的とした新規HIV薬剤を見出すために、① in silicoスクリーニング②化合物スクリーニングを行った。その結果、HIV転写複合体を形成するTatとCycT1のタンパク間相互作用を阻害する化合物を見つけることができたが、それ以上の解析を加えることができなかった。今後、これらの薬剤のHIV複製に対する効果やタンパク質立体構造に対する解析などを加えることにより、新たな抗HIV薬創製へと至ることが期待される。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、TatとCycT1との複合体の立体構造情報を基にしたin silico スクリーニングから、可能性のある化合物をヒットできた点は評価できる。
一方、活性の評価をさらに推進するために技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
今後は、in silico スクリーニングと実験的な活性評価と並行しての化合物探索で、HIV転写過程を標的とした新規な抗HIV薬の開発に期待したい。
ESRイメージング法による皮膚角層の画像化の開発 弘前大学
中川公一
弘前大学
工藤重光
通常の電子スピン共鳴(ESR/EPR)の測定法は、試料を検出器に挿入する。この測定とは全く異なるサンプルを載せる検出方法を考案した。この新規皮膚用表面検出器で、人の指や腕の一部を非侵襲に測定することを可能にした。はじめに、安定ラジカル剤としてTEMPOLの水溶液を用い、これを塗布した人の指や爪の測定を皮膚用表面検出器で実験した。これは、これまでの測定法とは全く異なる革新的測定法であり、はじめて人の指や爪を非侵襲に測定できた。この実験成果は、2015年国際的学術誌に発表した。
また、2次元(2D)ESRイメージング装置の開発として、既存のESR装置をイメージング装置に改良し、イメージング用特注プログラム(市販品)での制御を試みた。その結果、データ取り込みとイメージングのための磁場勾配を自動でかけることを可能にした。今後、表面検出器に改良を加え、感度を向上させ広く皮膚科学の研究で用いられることを目指す。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも新規の皮膚検出の装置が開発でき、非侵襲的なESRイメージングの可能性が見えたことについては評価できる。一方、現装置の改良に関しては、できるだけ多くの実験データを蓄積し、有効点を明確にし、その上で装置の改善が必要であり、それに向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、
技術移転可能な企業を探し、共同研究によって装置の改良が行われることが望まれる。
トキソプラズマの潜伏感染に対して抑制能力のある薬剤の開発 帯広畜産大学
加藤健太郎
帯広畜産大学
嘉屋元博
畜産動物に対するトキソプラズマ薬では病態を引き起こす急性感染虫体を潜伏感染虫体へと移行させるだけで根本的な駆虫に至らないため、トキソプラズマの感染源となる食肉中の潜伏感染虫体を防除できる方策を確立する必要性がある。本研究の目標は、トキソプラズマの感染源となる潜伏感染を阻害できる薬剤の同定を行うことである。多検体で高感度に原虫の潜伏感染状態と増殖を評価できる系を確立し、公的化合物ライブラリを用いて栄養型虫体の増殖を抑える薬剤のスクリーニングに成功した。さらに、得られた薬剤について宿主細胞への毒性試験も行った。しぼられた薬剤シーズ、数十種について潜伏感染への影響等の薬効解析を行った後、技術移転を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ほぼ計画通りの結果が得られ、1148の化合物から32の候補化合物に絞り込めたことは評価される。
一方、技術移転の観点からは、治療薬としての可能性を探るにはin vivoにおける抗トキソプラズマ活性とともに毒性についての検討に向けた評価システム開発が必要になると思われる。
今後は、in vitro における薬効評価と並行してin vivoにおける毒性試験や薬効との整合性についても検討を進めていくことが期待される。
筋萎縮性側索硬化症モデルショウジョウバエの開発とそれを用いた新規創薬ターゲットと治療薬候補物質の探索 京都工芸繊維大学
山口政光
京都工芸繊維大学
行場吉成
本研究では筋萎縮性側索硬化症(ALS)モデルショウジョウバエを開発し、それを用いた遺伝的スクリーニングによる新規創薬ターゲットの同定と東南アジア産ハーブ抽出液をモデルショウジョウバエへ経口投与することにより治療薬候補物質を探索することを目的とした。遺伝的スクリーニングにより、複数のALS原因遺伝子が共通に関連するシグナル経路としてHippo経路の同定に成功した。Hippo経路はこれまで癌抑制経路として知られていたが、ALSとの関連が今回始めて明らかとなり、ALSの新規創薬ターゲットとして有望である。モデルショウジョウバエへのべトナム産ハーブ抽出液の効果を調査したが、まだポジティブな結果は得られていない。今後も遺伝的スクリーニングを継続して、新規創薬ターゲットの同定を進めるとともに、製薬会社と連携して治療薬候補物質の探索を進める。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、研究計画についてはほぼ目標通り達成され、遺伝子の機能等が明らかになり、その一部は論文となっており、高く評価できる。
一方、技術移転の観点からは、大手製薬会社との契約に至っていることから、次のステップへ既に進んでいる。
本研究で構築された系は、ショウジョウバエというシンプルなモデル生物を利用し、大規模なスクリーニングが可能である。今後、製薬会社や大学と共同研究契約を締結し展開していく予定であることから、今後の発展が期待される。
冠動脈バイパス手術支援用血管吻合デバイスの研究開発 茨城大学
増澤徹
茨城大学
太田秀夫
複合低エネルギ生体組織接合技術を使い、冠動脈バイパス手術時にバイパス用血管を冠動脈に確実、安全に仮吻合する血管吻合デバイスの開発を行った。装置外部アーム加熱方式から内筒加熱方式に変更することにより、接合時の加熱範囲の最小化による心臓表面熱損傷の回避、装置の取り扱いの容易化、従来比3倍の加熱速度能、1.5倍の吻合強度の向上を行った。開発装置の大きは直径15mm、長さ68mmと十分に小型である。バイパス用血管の装置への30秒以内の装着、1分以内での吻合、吻合後の装置の取り外しが円滑にできる装置が開発でき、開発目標を達成できた。今後は実証動物実験、加熱方式の更なる高度化を図り、製品化に向けて技術移転を行って行く。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特にバイパス装置への30秒以内の装着と、2分以内での吻合が可能な動物実験用の試作機という目標を超えて、1分以内の吻合と装置の取り外しのできる装置を完成したことに関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、すでに解決すべき残る課題が具体的かつ対応策の検討とともに進んでおり、十分な信頼性をもって示されている。 企業化された場合、この研究成果は医学的には循環器領域にとどまらず他の領域での血管縫合や組織の修復に大きなインパクトを与え、治療期間の短縮や治療費の削減などをもたらし、社会的に大きな寄与をもたらすと思われ実用化が望まれる。今後は、本技術に対する意見を複数の心臓外科医からヒアリングされることが期待される。
清浄化予測機能付き透析液管理システムの開発 埼玉医科大学
石川雅浩
埼玉医科大学
菅原哲雄
本研究の目標は、透析液清浄化を管理するシステムを開発し、時系列データを解析しエンドトキシン値と生菌数予測機能を付加することで、安全な血液透析療法を実現することである。計画通り、透析液清浄化管理用サーバを構築し、エンドトキシン値や生菌数を一括管理するシステムを構築した。透析液清浄化管理システムは利便性を考慮し、タブレット端末で撮影した培地画像をクラウドサービスにより自動的にサーバにアップロードするシステムを構築した。また、機械学習を用いて生菌数予測システムを構築した。生菌数予測システムに関しては、8ヶ月の情報を用いることで予測制度83%の結果が得られた。今後は、共同研究企業を探し製品化を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にスペクトル画像の活用により透明なコロニーで誤差が拡大するのを防ぐなど実用性を含めたシステム開発に関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、生菌数予測精度のこれまでの実績以上の改善などでの実用化が望まれる。今後は、実際の使用現場を管理するシステム技術の研究が推進されることが期待される。
安静時fMRIを用いた強迫性障害患者の治療最適化ツール開発 京都府立医科大学
酒井雄希
公益財団法人京都高度技術研究所
板倉正
本研究課題では、安静時fMRIを用いることで、強迫性障害患者に対する行動療法・薬物療法といった従来治療への反応性を予測することを目標とした。強迫性障害患者の治療反応性による各サブグループにおいて、脳ネットワークが大きく異なることを見出すことに成功した。これまでにデータ駆動型のアプローチでこの知見を見出した研究はなく、大きな成果といえる。しかし一方で、MR機器間のデータ特性の差が非常に大きいことがわかり、どのMR機器で撮像しても治療反応性を予測することが可能であるというレベルでの汎化性を有する判別器を作成することは、研究開発実施期間内には困難であった。今後はこの課題を克服する研究開発を継続する予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にfMRIの機種の差を越えた一般化が困難であることを明確に示し、その前提での今後の方針も明確に検討している点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、凡化性という問題が解決され治療最適化ツールが実現できるならば非常に大きな社会還元に繋がることは確実なので、fMRIの装置間の差異をどのように解決していくのかについて企業と連携してあたるなどでの実用化が望まれる。今後は、方向性としては問題が無いように思われるので、上記問題を積極的に解決し、治療最適化ツールの実現に向けて進んで欲しい。また知的財産も積極的に取得されることが期待される。
腫瘍選択性と診断能を有するセラノスティック型BNCT薬剤の開発 徳島大学
宇都義浩
徳島大学
小山秀子
本研究は、多機能イメージングが可能な有機シリカ粒子を用いて腫瘍選択的分子の腫瘍認識能と粒子サイズによるEPR効果によって腫瘍選択的にナノ粒子を集積させ、蛍光特性および安定同位体10Bの中性子捕捉反応によって生じる即発ガンマ線を利用した腫瘍の診断とアルファ粒子による腫瘍の破壊を同時に行える新規BNCT剤の創製である。研究開発実績として、直径50~200nmの粒子において大きさがほぼ同一の粒径分布の狭い粒子の作製に成功し、最大で8.2 ppmの粒子内ホウ素濃度を達成した。また、腫瘍細胞および発育鶏卵やマウスを用いて当該粒子が腫瘍内に取り込まれることを確認したが、中性子線量の不足により腫瘍の破壊能については証明できなかった。今後は、より高い中性子線量で照射可能な京都大学原子炉実験所が再稼働後に当該粒子の中性子増感活性を評価する予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、ホウ素含有機能性シリカ粒子の大量合成の方法論を確立することができた点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、合成した化合物の腫瘍選択性を上げる方策と中性子増感活性評価を確実に実施できるように技術的検討やデータの積み重ねが必要と思われる。
今後は、ホウ素含有機能性シリカ粒子の腫瘍選択性を改善するための具体的な計画を示し、実施されることが期待される。
銀活性ガラスの青色蛍光を用いた放射線イメージ検出システムの開発 金沢大学
黒堀利夫
有限会社金沢大学ティ・エル・オー
山田光俊
本研究では放射線照射した銀活性リン酸塩ガラスに紫外(UV)光刺激を与えることによって発せられるラジオフォトルミネッセンス(RPL)現象を用いたガラス蛍光検出器の開発を行った。同じ材料成分,同じルミネッセンス現象を用いて線量のみならず二次元,三次元の線量分布の再構築も可能であることが実証された。さらに,従来から用いられてきたマイクロ秒の蛍光寿命を有するオレンジRPLの代替として,ナノ秒の蛍光寿命を有し,さらに読取前の“プレヒート”工程が不要な青色RPLの新たな導入により,高速UV励起に追従可能で高い信号強度が得られる検出器となることも実証された。これらの結果から,今後青色RPLを用いたリアルタイム線量検出器の構築と評価ならびに新たな知的財産権の獲得を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に当初の目標の線量のみならず、2次元、3次元の線量分布の再構築も可能であることが実証され、次のステップへ進めるための技術課題が明らかとされていることに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、残された装置及びパラメーターの最適化研究は産学共同研究開発のテーマとして適切であり、技術移転を目指した開発ステップにつながる可能性が高く実用化が望まれる。今後は、提携企業による市場ニーズ情報の適切な活用により研究が一層の進展されることが期待される。
安全で簡便な誤嚥性肺炎予防のための自動嚥下機能評価訓練システムの開発 新潟大学
櫻井直樹
新潟大学
嶽岡悦雄
嚥下診断の基礎研究として、正常者のピエゾセンサーの嚥下時の波形パターンとVFで観察した舌骨移動パターンに関連があることを報告した。また、ピエゾセンサーからの嚥下時の出力電圧から嚥下運動を推定する試作機にて、頸部皮膚が厚い被験者では、嚥下の検出率が低下することも報告した。これらの結果を踏まえ、在宅高齢者に使用可能な小型で携帯可能なピエゾセンサーを用いた嚥下機能評価装置の試作機を作成した。この試作機は嚥下障害スクリーニングテストのRSSTを自動計測し、結果を保存、PCに取り込み後に専門医にRSSTデータを送信可能なシステムとして開発し、実証実験を行った。今後、製品化を目指して試作機改良予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に携帯可能なピエゾセンサーによる装置の電気信号Web伝送方を開発している技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、本課題によって試作品が開発されたので、臨床試験等で患者の計測による有効性等を検証する必要がる。そのためには、次の産学共同の研究開発ステップに進むことで実用化が望まれる。今後は、医師主導による臨床試験等を実施し、より精度向上を図ることが期待される。
新技術Ultrahigh density pile up array(UHPA)の研究利用モデル確立事業 長崎大学
福岡順也
長崎大学
藤原雄介
目標と達成度
本研究は、UHPAの技術検証と有用性の検討をした。内容(1)-(4)は、(1)染色適合率90%以上、(2)コア脱落率10%以下、(3)生体肝移植摘出肝を用いた多段階発癌メカニズムの解析、および(4)技術特許申請である。UHPAは、10種類の組織(11種類の癌腫)、および生体肝移植摘出肝より作製した。検討結果は、(1)一致率90..2%、(2)コア脱落率1.7%。組織コア24,000個をスライドガラスに搭載可能であった。(3)多段階発癌解析については、本UHPAが使用可能であることを証明し、引続き研究継続している。(4)特許申請は、「超高密度組織アレイ」として特許申請を行った。以上より、目標達成は良好であった。
今後の展開
UHPA作製装置の開発、UHPAによる網羅的解析(デジタルデータ解析)を用いた研究および事業化が期待される。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に組織切片の高密度化の試みは特許申請を行っておりその技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、分子マーカーの発現を半定量的に解析するための画像解析手法とその解析アルゴリズムを確立することが必要である。同一病理組織から複数のcoreを取り出してアレイに配置し,その統計値から判断できるようなアルゴリズムを作製することで実用化が望まれる。今後は、がんの多様性が指摘され,がん細胞だけでなく間質細胞の重要性も指摘されるなか,組織レベルで詳細かつ網羅的に解析できる手法を確立されることが期待される。
並列処理に基づく高効率な液体クロマトグラフィー-質量分析法の開発 名古屋工業大学
北川慎也
名古屋工業大学
沖原理沙
複数液体クロマトグラフ-シングル質量分析システムを実現するための、小型識別信号付与デバイスの開発を行った。開発したデバイスは小型であり既存の質量分析装置と組み合わせることが可能であるが、識別信号の安定性にはまだ若干の問題があり今後さらなる改良が必要である。また、信号が付与されたデータから元のクロマトグラムを復元するための信号処理方法の開発を行った。実信号に適応したところ、元のクロマトグラムとほぼ同一の結果を復元することに成功した。定量性についても検討を行ったところ、従来法と比較して若干のばらつきの増大がみられたが、十分な直線性のある検量線を得ることに成功した。今後、さらなる機器・方法の開発・改善を行うとともに、有効な応用例の開発を進めていきたいと考えている。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にユニークな発想で複数のLCとMSを連動させ、時間、費用、利便性などの社会還元が期待できる研究で、その技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、2種類以上のLCとMSの連動の具現化、できれば通常と復元クロマトグラムの検量線の一致へのさらなる検討などでの実用化が望まれる。今後は、実際にLC数台とMSの連動の実行をすべきで検討されることが期待される。
タンパク質脱アセチル化酵素SIRT2を標的とした神経変性疾患治療薬の創製 京都府立医科大学
伊藤幸裕
京都府立医科大学
羽室淳爾
過去に我々が見出したSIRT2阻害薬リードとSIRT2のX線結晶構造を基に、ドッキングスタディーを行い、新規SIRT2阻害薬を設計した。設計した化合物の合成ならびにSIRT2阻害活性評価を行った結果、リード化合物よりも高いSIRT2阻害活性を有する2種類の化合物を見出した。特に、その一つは当初目標としていたSIRT2阻害活性を上回る活性を示した。今後は、他のSIRTアイソザイムに対する阻害活性を評価していく。また、SIRT2は神経変性疾患の標的分子として期待されているため、細胞レベルでのSIRT2阻害活性評価ならびに神経変性疾患の動物モデルにおける有効性を確認していく。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、オリジナルな研究展開から、リード化合物1よりも高いSIRT2阻害活性をもつ化合物の取得に成功している点は評価できる。
一方、技術移転の観点からは、技術移転をめざした産学協同の研究開発ステップにつながる可能性は認めるものの、阻害化合物の選択性や細胞レベルでの活性評価次第と思われる。
今後は、SIRT2阻害の選択性評価、in vitro、in vivoでの活性評価を実施されることが期待される。
新規国産プローブ(E-probe)を用いた、高解像度型HPVタイピング法の開発 鳥取大学
尾﨑充彦
鳥取大学
増田紳哉
子宮頸癌のハイリスクタイプといわれているHPV14種(HPV16, 18, 31, 33, 35, 39, 45, 51, 52, 56, 58, 59, 66, 68)を高感度かつ特異的に検出可能なEプローブを設計し検証することを目的とした。HPV14種特異的配列を有するプラスミドをサンプルとして、各タイプ特異的プライマーによるPCR反応とその産物に各タイプ毎に設計したEプローブを反応させ、その感度と特異性を検討した。14種のうち7種(HPV16, 18, 35, 56, 59, 66, 6)については、目的配列を有するDNAが既存の方法と比較し大幅に少ないコピー数であっても高い感度で検出でき、さらにヒトゲノムDNAへの交差反応がないことを明らかにした。今後は、残る7種の未解決のプローブを早期に決定し、臨床サンプルを用いた検出感度と特異性の検証を進める。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に既存の検査試薬が検出感度においてDNA250コピ-以上必要に対し、本課題の方法では、既存の方法と比較し大幅に少ないコピー数で検出できる技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、臨床サンプルを用いての感度と特異性の確認など、実際に使用できるかどうかの検討すべき課題は多くあるが、当初より企業との共同研究を実施しており実用化が望まれる。今後は、既に企業と共同研究を実施しているので、臨床試験を含めた開発スケジュ-ルを立て実用化を進められることが期待される。
医療・介護に用いる多目的頬粘膜保護装置の上市を見据えた研究開発 鳥取大学
領家和男
鳥取大学
増田紳哉
この度の研究により頬粘膜保護装置の医療機器申請上の課題であった薬事対応について、生物学的安全性の担保を可能とした使用材料の選定や、装置の形態などを最適化した試作品の製作、設計リスク管理のための耐久試験を行うことができた。併せて装置使用上の調整法の確立と器具の開発を実施し、より使いやすく効果的な装置とすることができ、当初予定していたとおりの目的を達成したと考えている。それ以外の用途の歯の切削器具からの頬粘膜保護装置や口腔乾燥症患者の為の保湿剤徐放用トレーについても、要求性能や技術的課題等に関して明らかとなり、今後の開発方針も定めることができたと考えている。本装置については学会で発表し製品化を期待する声もいただくとともに、本研究を通じて製造業、製造販売業との連携も積極的に行い早期の上市に向けた取り組みを行うことができたと考える。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも薬事承認対応可能な試作品を完成させ、問題点や改良すべき点を細かく抽出できていることについては評価できる。一方、今回試作した粘膜保護装置を保湿剤供給装置などへの最適化に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、関連特許を早く取得し、企業と連携されることが望まれる。
高度に安全な次世代抗菌添加剤としてのトリクロサン誘導体プロトタイプの創出 九州工業大学
青木俊介
九州工業大学
白石肇
本研究ではin silico化合物探索技術と有機合成手法によりトリクロサンの構造を改良し抗菌効果を保持したまま細胞毒性フリーの次世代の抗菌剤を創出する事を目指した。トリクロサン類縁体とその標的タンパク質との結合シミュレーションの条件検討を行ない高精度のシミュレーション系を構築した。既存化合物ライブラリから10化合物,新規合成の15化合物の抗菌効果と細胞毒性を検証した。その結果,トリクロサンの毒性を消失させ,かつグラム陽性菌に対して強い抗菌効果を有する化合物を複数同定することに成功した。しかしながら,ほぼ全ての化合物はグラム陰性菌に対して抗菌効果を有さなかった。今後,グラム陰性菌の標的タンパク質構造情報を見直して,本研究において確立された手法によって研究を進めることでさらに有用な次世代の抗菌剤を創出する事が可能であると考えられた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、細胞毒性の強いトリクロサンの代替品として、広い抗菌スペクトル(グラム陽性細菌)をもつトリクロサン関連物質候補の構造について、新規で重要な成果が得られた点は評価できる。
一方、技術移転の観点からは、グラム陽性細菌に加え、グラム陰性細菌に対しても抗菌作用を発揮する化合物の取得が望まれる。
今後は、標的タンパク質の新たな結晶構造取得も実施項目に加え、グラム陰性細菌に対しても抗菌活性のあるトリクロサン関連化合物を取得されることが期待される。
酵素検出電気化学チップによる前立腺癌の早期診断法の開発 九州工業大学
竹中繁織
九州工業大学
山崎博範
本研究ではPSAの検出のためPSAの認識ペプチドに電気化学的に活性なフェロセンを修飾したペプチドプローブを2種類合成した(PSAG0, PSAG3)。PSAG0とPSAG3はともに金電極上に固定化され、高い電子移動速度を有することが明らかになった。このうち、PSAG0固定化電極に対して、前立腺がん患者の血清を含むサンプル溶液を処理した。その結果、血清をサンプル溶液で5倍希釈した場合、37%の電流減少率を示し、血清をサンプル溶液で10倍希釈した場合、49%の電流減少率を示した。これらのサンプルを加熱処理し、PSAの活性を失活させたサンプルでは11%の電流減少率を示したことより、本検出システムでPSAの活性検出が可能であることがわかった。本研究提案を企業化するには、装置、電極、試薬の開発が必要となる。そのため、今後は装置、電極、試薬について、それぞれ共同開発が期待できる企業との連携を進める。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもPSAプローブ固定化チップによる正診率は十分とは言えないが、2種のPSAプローブの合成については評価できる。一方、既存診断法と比べて優位性が明確に示せれば、社会還元に導かれることは大いに期待できるので、さらなる検証に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、目標とする電気化学的検出法を確立し、早期診断を可能とする原理を実証されることが望まれる。
ヒトiPS細胞から作製した腸管上皮細胞を用いた新規薬物動態評価系の開発 名古屋市立大学
岩尾岳洋
公益財団法人名古屋産業科学研究所
羽田野泰彦
本研究課題では、ヒトiPS細胞から作製した腸管上皮細胞の培養系について最適な条件を確立することができた。また、薬物動態学的機能に関しては、取り込みおよび排出トランスポーターの輸送活性、薬物代謝酵素活性およびその誘導の評価が可能であることが示された。さらに、分化させた細胞の維持培養も長期間可能であった。これらの成果は、当初の目的をある程度達成しうるものであり、ヒトiPS細胞から作製した腸管上皮細胞を薬物動態スクリーニング系として広く産業応用する上で重要な基盤となるものと考えられる。今後はこれらの研究結果を踏まえて、腸管における薬物動態が評価可能な系の構築に関する研究を民間企業との共同研究も視野に入れて、実用化に向け引き続き進めていく予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、薬物動態的評価で、CYP3A4による代謝物や代謝活性の確認など、具体的な機能解析がなされている点は評価できる。
一方、技術移転の観点からは、凍結細胞での解凍後の活性評価及び継代培養後の活性評価を早急に実施することが望まれる。
今後は、CaCO2細胞との比較試験の実施による本細胞の優位性を確認されることが期待される。
骨リモデリングによる生体骨置換を誘導するオーダーメイド人工骨材の開発 東京医科歯科大学
永井亜希子
東京医科歯科大学
渡邊公義
炭酸濃度と気孔率を制御した炭酸置換型アパタイト(CAp)多孔体の作製とその評価を行った。置換なしアパタイト(HAp)に比べて、溶解試験で、炭酸濃度制御と溶解性とが相関した。ビトロ試験で、破骨細胞への分化が促進され、生物学的溶解性の増強が示唆された。生体骨への埋入試験では、生体吸収性が上昇した。硬組織密度の解析を行い、CApでは埋入部の本来の生体骨密度と一致し骨リモデリングが必要とされる部位に、HApではどの部位でも密度が高く維持され長期的強度やシーリングが必要となる部位に、それぞれ有用と考えた。これらの成果をもとに、人工骨材のオーダーメイド化の実用化に向けた共同研究等の開始や技術移転を図っていく。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも本研究で開発した材料が骨リモデリング性能を有する人工骨材料として有効で有ることを示したことについては評価できる。一方、 まだ基礎研究の段階ではあるが、従来の人工骨材料であるHApと比較して、本研究で開発されたCApは明確な優位性を備えているために、今後の研究次第で産学共同等の研究ステップに繋がる可能性は十分に有るものと考えられ、さらなる技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、成果は出つつあるが、未だ基礎研究の域を脱していないので、実用化に向け指針や、計画を明確にし、企業へのアプローチされることが望まれる。
皮膚創傷修復の新規アッセイ法を活用した治療シーズの探索 名古屋大学
進藤麻子
名古屋大学
大住克史
熱傷、外傷などによる広範な皮膚損傷の修復は重要な医学課題であるが、創傷修復の細胞生物学的メカニズムには未だ不明点が多い。本研究では、広範な創傷も迅速に閉鎖する脊椎動物胚をモデルとし、表皮創傷の閉鎖を担う細胞運動の制御機序の解明を目指した。創傷閉鎖を担う細胞集団の移動や形態変化を制御するネットワークとして、細胞集団を協調させる細胞間シグナル系、細胞骨格系、細胞接着系に着目し、候補となる創傷修復制御蛋白質の機能阻害による創傷閉鎖過程の変化を解析した。今後は、解明された機序を元に、創傷の閉鎖過程の人為的操作を可能とする蛋白質や低分子化合物の発見と、その作用機序の解明を目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも技術移転に向けた創傷モデルとしての優位性はあり、そのモデルに新たな修正を加えることができたことについては評価できる。一方、産物を得るまでの道のりは長いが、有用な化合物が見つかれば、その社会的なインパクトは大きいので開発に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、画像解析や細胞強度計測では、新たに生物物理等との共同研究をされることが望まれる。
ヨモギルテインの活用:アルツハイマー病の予防を目指して 東北大学
仲川清隆
独立行政法人科学技術振興機構
菅野幸一
赤血球の過酸化の抑制、ひいてはアルツハイマー病の発症や進行の予防に、ルテインの食品からの摂取の有効性が期待される。しかし、ルテインに富む食材は限られ、調理や加工でルテインは減じる。先にルテインを多く含む食材を調べたところ、宮城県産『ヨモギ』のペーストにルテインが特徴的に含まれる手がかりを得た。そこで本研究では、ヨモギペーストのルテイン含量を確定し、加工条件との関係を明らかにした。本成果は高ルテイン-ヨモギペーストの製造につながり、今後のヒト試験でルテインのような日常摂取する食品成分の活用がアルツハイマー病の予防や進行抑制に役立つことが確証され、高齢化社会の諸課題への貢献が期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ヨモギペースト中のルテイン含量を測定し加工条件とルテイン含量との関係を明らかにすることで、本製法にてルテインが分解されないことを検証したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、安定した品質と量のヨモギペーストの供給を目指して、機能成分の季節変動を含め、原料及びプロセスとのルテイン含量とのデータを充実するなどでの実用化が望まれる。今後は、ヨモギ中のルテイン含量の増大を目指す研究やカロテノイドの生合成経路の調整に係る研究も検討することが期待される。
3Dプリンタを応用した暫間被覆冠の製作システムの構築 東京医科歯科大学
二階堂徹
東京医科歯科大学
網中裕一
本研究の目標は、3D-CADで設計したプログラムをもとに、口腔内で利用可能な新素材を利用して、3Dプリンタで製作するシステムの構築である。実験に使用したソフトウェアは、DWOS7シリーズ(データデザイン社製)のマウスピースデザインソフトである。プリンタ素材として、アクリル系熱可塑性エラストマー(クラリティー、クラレ社)を選択し、フィラメント状(直径1.7ミリ)に成型して使用した。溶融堆積型3Dプリンタ(Value 3D Magic, MF-1000、ムトーエンジニアリング社)を用い、造形に必要な設定条件を検討した。その結果、新素材を用いて3Dプリンタによる口腔内マウスピースを作製するシステムを構築できた。今後は従来材料との諸物性の比較や口腔内外での用途の拡大について検討する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、本研究課題の積み残し課題も含まれるが、国内の歯科医院への普及が期待できる小型で安価な熱可塑性積層型3Dプリンタを用いた口腔内技工物作成における一連のシステムを確立しようとするもので、患者のQOL向上に役立つシステムの実現が期待できる技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、 具体的な産学連携には至っていないものの、3Dプリンタメーカーへの連携のアプローチや、素材メーカーとの連携も視野にいれた計画がなされており実用化が望まれる。今後は、新素材に関しても更に検討を進め、当初の目的である暫間被覆冠制作システムへ展開されることが期待される。
細胞内分解性ポリロタキサンを基盤としたニーマンピック病C型治療薬の開発 東京医科歯科大学
田村篤志
東京医科歯科大学
渡邊公義
本申請課題では、ニーマンピック病C型(NPC病)に対する治療薬としてβ-シクロデキストリン(β-CD)空洞部に高分子鎖が貫通したポリロタキサンの効果を明らかとすることを目的としている。NPC病モデルマウスに対する治療効果を生存期間という観点で評価した結果、ポリロタキサン投与群は未投与群と比較して有意な生存期間の延長を示した。一方、ポリロタキサンの構成成分であるβ-CD誘導体を同濃度で投与した結果、生存期間の延長は認められなかった。以上より、ポリロタキサンはβ-CD誘導体単体よりもNPC病治療薬として効果的であることが実証され、当初の研究目標を概ね達成できたと考えられる。今後は、in vivoにおける詳細な評価を実施するとともに、実用化へ向けた製造や安全性に関する研究を進める計画である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、新規なpH応答性シクロデキストリン誘導体放出型のPRXの合成に成功し、これを用いたNPC病モデルマウスの体内動態と平均寿命について調べ、HP-β-CDに対して1/8程度の投与量で有効な薬理活性を認めている点は、研究の成果として評価できる。
一方、技術移転の観点からは、当初予定されていた個体・組織レベルでのNPC病に対する治療効果と、分子レベルでの治療効果については一部の研究に留まっていることから、継続した研究が必要である。また、当初目的としたHP-β-CDに対して1/100程度で十分な薬効を示すPRXの開発が求められる。
今後は、本研究で開発中のPRXの治療効果の向上や投与量の低減をめざして、引き続き体内動態や組織集積性の改善を目指した研究を推進していくことが期待される。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)ペプチド薬の開発 山形大学
黒谷玲子
山形大学
二宮保男
本研究はCOPDの新規治療薬としてのペプチド薬開発が目標である。アレルギー性肺炎などに対する効果を証明したタンパク質の活性化部位を特定し、COPD治療薬としての開発を目指す。マウス線維芽細胞と胎仔肺を用いて、標的タンパク質の活性を網羅的に調査し、細胞増殖効果と気管支分岐促進効果を指標として評価した。その結果、3領域で増殖か分岐促進化のいずれかの効果が認められた。今後、培養系およびCOPDモデルマウスに候補領域を与えた時の効果を検証し、CODPペプチド薬としての有効性を証明する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、新規生理活性物質に着目し、このタンパクをアミノ酸配列順に9個のペプチドに分ける方法は評価できる。
一方、COPDモデルマウスにタバコ煙暴露群を加えるなどデータの積み上げがさらに必要と思われる。
今後は、実験には時間がかかるが、当初計画した実験を継続推進することが望まれる。
二環性縮環骨格を基盤とする新規SARS 3CLプロテアーゼ阻害剤の創製 京都薬科大学
赤路健一
京都薬科大学
内田逸郎
当初設定したナノモルオーダーの阻害活性を示す縮環型R188I SARS 3CLプロテアーゼ阻害剤の開発目標に対し、本課題研究では数十μモルレベルの阻害活性を示すデカヒドロイソキノリン型阻害剤の創製にとどまった。しかし、当初計画のドッキングモデルに基づく阻害剤設計ではなく、実際の阻害剤とプロテアーゼとの複合体結晶のX線結晶構造解析結果に基づく構造設計が可能な研究基盤を確立することに成功した。今後、本課題研究で得られたこの研究基盤を活用することにより、これまで知られていなかった新たなプロテアーゼ相互作用部位を確認するとともに、それら部位での相互作用が可能な置換基の探索と構造最適化を進める。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも,阻害剤とプロテアーゼとの複合結晶体構造のX線結晶構造を明らかにすることにより、構造と阻害活性との関連性の知見を得た点や、すでに立体選択的合成法を確立しているデカヒドロイソキノリン骨格にプロテアーゼ部位での相互作用可能な置換基を導入するというドラッグデザインは評価できる。
一方、ナノレベルでの活性を持つ化合物の創製に向けた技術的検討やデータの積み上げなどがさらに必要と思われる。
今後は、阻害剤とプロテアーゼ複合体の結晶構造解析に成功しているので、詳細に相互作用点を解明し、より良い分子設計をすることが望まれる。
甲状腺診断用高分解能小型ガンマカメラの開発 名古屋大学
山本誠一
名古屋大学
高野純
核医学内用療法における、ヨウ素131(I-131:ガンマ線エネルギー:364keV)の分布を高分解能で画像化するための高エネルギーガンマカメラシステムの開発を行った。システムのガンマ線位置検出器は、発光量が多く高密度なシンチレータであるGAGGとGFAGを深さ方向に2層配置し,シリコンフォトマル(SiPM)アレーに光学結合することで構成した。GAGGとGFAGの2層の弁別には、シンチレータの減衰時間の違いを利用した。さらに開発したガンマ線位置検出器をタングステン遮蔽容器に入れ、ピンホールコリメータを装着することにより、ガンマカメラシステムを実現した。開発したガンマカメラシステムは厚さの薄いSiPMを光センサーに用いることにより、大幅な軽量化を実現できた。今後、実用性を向上させるため、産学共同に向けた研究開発を継続していく 。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも発光量が大なふたつの波長の異なるシンチレーション結晶を2層かつモザイク状に並べた検出器とコリメータを組み合わせた、I-131甲状腺診断用の検出器ブロックの施策を目指したもので、その目的は達成されたことについては評価できる。
一方、本研究は、甲状腺イメージングを想定してごく小さな検出器を作製して評価したのみである。実際の甲状腺イメージングで果たして実用化されるか否かは、別の要素が重要であり別の視点からも技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、コストを含めた実用性の検討を行うこと。最終的な装置仕様について具体的に検討されることが望まれる。
耐熱性溶菌酵素を用いたファージセラピー基盤の開発 九州大学
土居克実
九州大学
房賢貞
安定性が高く、広範な細菌種に利用可能な新規抗菌剤の開発を目指し、好熱性ファージの耐熱性溶菌酵素であるEndolysinとHolinを大量生産し、それらの特性を解明することを目的とした。その結果、これら遺伝子を大腸菌内での大量発現に成功した。Endolysinは、N-acetylmuramoyl-L-alanine amidaseに分類され、至適温度70℃、至適pH7で10分以内に溶菌した。また、100℃でも40%程度の残存活性を示し、pH5~10で安定であった。本酵素は好熱菌7株の他、Listeria monocytogenes、Enterococcus faecium、Pseudomonas fluorescens 等グラム陽性・陰性の病原菌にも高い抗菌活性を示した。HolinはSuperfamily IVに属し、80分以内に大腸菌を破壊することが示された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、好熱性ファージの2種類の耐熱性溶菌酵素の大量発現とそれらの抗菌スペクトルなどの特性の解明にほぼ成功していることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、検討中の溶菌酵素の新規性などを従来研究との比較によって明確にするなど、酵素の分類とその作用メカニズムから溶菌対象の微生物を予測するなどでの実用化が望まれる。今後は、スプレードライ法による製剤化技術など、当該酵素の具体的な実用化技術を明確にして開発を取進めることが期待される。
光散乱計測による血中脂質経時変化の無侵襲連続計測の実現 北海道大学
清水孝一
北海道大学
小野寺晃一
近年、医療や健康管理で注目されている血中脂質の無侵襲定量評価をめざし、繰り返しまたは連続計測可能な新手法を開発した。申請時まだ実験装置での原理検証段階であった提案手法に対し、その成果を本プログラムにより実用化に向け大きく展開することができた。まず、当初掲げた研究開発実施内容は、数値目標も含めすべて達成した。とくに、血中中性脂肪を計測できるようアプリケータ部を最適化し、小型軽量な実用的アプリケータを設計・製作することができた。これにより、一般人でも比較的容易に血中中性脂肪の定量的評価の実施が可能となった。また、アプリケータ部のワイヤレス化により、ケーブル等のないモバイル計測を実現し、繰り返し計測や連続計測も簡便に行えるようになった。さらに、被験者実験を通し、開発システムの有用性ならびに実用性を実証した。これらの成果は、国際特許(3件)として出願するとともに、学術論文(3件)、国際会議(3回)、国内学会(2回)で公表した。今後の展開として、公的な研究開発支援制度を活用して、本手法を臨床機器および民生機器に実用化し社会実装する活動が、既に進行中である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも血中中性脂肪を計測できるようアプリケータ部を最適化し、小型軽量な実用的アプリケータを設計・製作したについては評価できる。一方、装置については実証実験を基にしたデータを科学的、統計学的な根拠に基づく評価を行うことで、さらなる製品化に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる今後は、さらなる小型化、ユーザーインターフェイスに優れた装置の開発をされることが望まれる。
超解像技術を用いた骨間距離測定による関節リウマチの客観評価システムの開発 名古屋工業大学
後藤富朗
名古屋工業大学
岩間紀男
本課題では、医師の負担軽減および客観評価指標の導入を目的として関節リウマチ患者の病状進行過程を評価するシステムの開発を行った。開発システムでは、レントゲン画像を超解像技術により拡大して最適化することでレントゲン画像を高画質化し、その画像に対して数点のマーキング操作を行い、カーブフィッティングを用いることで半自動的に骨間距離を測定することが可能となる。また、本システムの有効性を確認するために、3Dプリンタを用いて関節を模擬したモデルを作成し、そのモデルをレントゲン撮影し、得られた画像に対して距離測定システムを用いて評価を行った。その結果、高精度に測定できることを確認した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に低解像度画像の高精細化・高画質化および骨間距離の自動測定に関する技術、超解像部分やリウマチ患者の骨間距離測定アルゴリズムのに関して基本的な特許申請している技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、複数医師による評価,アプリケーションの操作性向上,ユーザーインターフェースの改良等の医師の視点での使いやすさの改良)、での実用化が望まれる。今後は、医師による評価を急ぐとともに超解像技術のレントゲン画像への技術展開されることが期待される。
高時間分解能を実現する半導体放射線検出器用デジタル信号処理装置 理化学研究所
福地知則
独立行政法人理化学研究所
井門孝治
半導体放射線検出器用のデジタル信号処理装置において、放射線検出時刻の導出精度を向上させる新規の解析手法を開発した。デジタル信号処理装置は、検出器からの信号波形をデジタル数値に変化して数値解析を行いエネルギーや時間情報を導出するものであり、解析に用いる波形を劣化させること無く時間遡りができるなどの利点がある。従来のデジタル信号処理手法は、アナログ信号処理手法をベースとしてデジタル数値解析に置き換えたものが主流であったが、本研究では、デジタル信号処理の利点を生かし、デジタル信号処理に特化した解析を行うことにより放射線検出時刻の導出精度の向上を実現した。今後、ハードウェア上でのスループット等の動作確認をした後、基本原理について特許申請を行い、製品化へと展開する。 当初目標とした成果が得られていない。中でもタイムスペクトルの半値幅で時間分解能の向上を達成したが、当初の目標の時間分解能は得られなかった。まだ基礎研究の段階であり、次のステップに進めるための課題は残ったままで、実用化までには至っていないので更なる技術的検討や評価が必要である。今後は、平板型の半導体検出器での結果が待たれると同時に、動作確認や性能評価等実用化に向けた更なる研究をされることが望まれる。
細胞接着装置タイトジャンクションを増強する医薬品の分子設計 名古屋大学
廣明秀一
名古屋大学
鈴木孝征
本研究はヒト組織の有するバリア機能に関して、それを担う細胞間接着装置タイトジャンクション(TJ)について、裏打ちタンパク質とクローディンの会合に介入し制御する化合物を取得することを目的とする。TJは、形成と分解・抑制の二方向の制御の動的平衡状態にあると考えられ、分解因子の結合を阻害すれば形成が進み、バリア機能が強化されることが期待された。本研究により、TJ強化をする化合物のみならず、類似化合物でTJを減弱緩和させる化合物が得られた。双方につき特許出願を完了した。これは予想を超える達成度である。これを、バリア緩和とバリア強化が低分子により自在に可能な、画期的なTJ制御技術の開発の基盤技術と位置づける。試薬または医薬品シーズとして、企業への導出に向け、科研費を利用した研究展開、製薬企業との共同研究(試料無償供与)の双方を継続する。特に試験管内でのヒト組織モデルおよび動物実験における実証実験を展開する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、国内優先権を利用した包括的特許出願が行われていることは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、NMR実験や計算科学実験が活性評価と良い相関を示してないことから、理論的な研究展開が困難になっている点改善が望まれる。
今後は、医薬品への出口へ向けた研究、情報収集を行い実施されることが期待される。
唾液腺や肺の老性萎縮修復成分の乳製品副産物からの抽出、同定と創薬 徳島大学
石川康子
徳島大学
小山秀子
乳製品副産物中に唾液腺や肺の老性萎縮を修復する成分があることを見つけた(Journal of Functional Foods 21, 349-358, 2016)。本成分は、老齢ラットの唾液腺や肺の遺伝子発現を若齢ラットの遺伝子発現に近づけることによって、唾液腺機能の老性変化を若齢の唾液腺機能に近づける。本研究では、その成分を抽出するため、分子量分画、各種の溶媒分配、免疫沈降実験を行った。その結果、有効成分は、分子量が14,000以上で酢酸エチル層に分配されることを明らかにすることができた。有効成分の構造決定にまでは至らなかったが、有効成分を含む画分を飲用した実験動物の遺伝子発現パターンから、厚労省の指定難病であるシェーグレン症候群に有効と判断できるので創薬へと進めている。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、乳抽出物中のラクトグロブリン複合体などが加齢抑制活性因子である可能性を示したことは新しい研究や産業につながる期待があり評価できる。
一方、技術移転の観点からは、有効性分は一種類ではないかもしれないので、有効性分の正確な化学的同定を行うことが望まれる。
今後は、有効性分による動物実験での結果が必要である。食品企業(とくに乳製品業界)との共同研究が期待される。
手術用吸引器用アタッチャブル力センサシステムの開発 金沢大学
渡辺哲陽
金沢大学
奥野信男
脳神経外科手術では術野が狭いため視野の確保が重要である.視野の妨げとなる組織を圧排するためにはリトラクターが,血液が視野の妨げとなる場合は吸引器が用いられている.これらを同時に組み合わせて使用するためのものとして,吸引器先端に取り付け可能なシリコーンリトラクターを開発している.しかし,これを使用し組織を圧排する力の調節は医師の経験に委ねられているのが現状である.脳組織に過負荷を与えると,組織が傷つき患者に後遺症をのこす危険性が生じる.これを鑑み,本研究では,圧排,吸引,力センシングが同時に可能なシステムを開発した.シリコーリトラクターに変形拡大部を設けそれをファイバースコープで計測するシステムである. 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、実験システムを構築、目標のサイズに近づけた力センサーを試作し、良好な実験結果が得られたことについては評価できる。一方、ひずみを流体の変位で計測する改善システムについての理論と実験との比較、及び複数の分解能とレンジの実現については技術的検討やデータの積み上げなどが望まれる。今後は、システムの十分な考察を行い、さらに医師、企業技術者と連携して、より詳細な仕様の確定とその技術移転の実現が期待される。
室内照明下で抗菌性を示す高密着性TiO2被膜チタン材料の開発 北見工業大学
大津直史
北見工業大学
鞘師守
報告者らが開発した「硝酸塩有機溶媒陽極酸化法」を利用して、室内照明下で半永久的に抗菌性を示す高密着性窒素ドープTiO2被膜をチタン材料に形成する技術を開発することを目指した。目標とする殺菌性能は医療現場での利用を想定し、手術室照度基準である1000ルクス照明下で1時間以内に80%以上の殺菌とした。研究開発の結果、① 光触媒機能および被膜強度の両方の観点から考えられる最適な陽極酸化処理時間は「120分」であること、② 最適処理時間を適用して形成したTiO2被膜を有するチタン材料は、手術室の光を模擬したキセノンランプ光源からの10000ルクス程度の光照射下で、4時間以内におよそ80%の細菌を死滅させることができることすることを明らかにした。しかし、当初目標であった1000ルクス程度まで明るさを低下させたときの抗菌性能や4時間より短時間の光照射における抗菌機能の調査は、研究期間内に終了させることができなかった。然るに、本研究を通じて光触媒機能の大幅な改良に成功し、目標とする抗菌性能まで到達する道筋が明らかとなった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、「硝酸塩有機溶媒陽極酸化法」にて窒素ドープTiO2被膜を有するチタン材料が光照射下で殺菌作用を有することを見出したことについては評価できる。
一方、結晶性等の最適化、窒素ドープ量の制御、陽極酸化のパラメータ最適化などによる更なる殺菌性能の向上や実用性の確認などの技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
今後は、手術室の殺菌への応用だけでなく、他の分野への応用も視野に入れた企業との産学連携による実用化への取組みが望まれる。
高齢者の事故誘発リスクを検査する自転車運転シミュレータの開発 秋田大学
水戸部一孝
秋田大学
伊藤慎一
運転免許証を返納した高齢者は,新たな移動手段として自転車を選択する場合が多い。しかしながら,自転車による死亡事故件数の65%は高齢者であり,自身の交通事故誘発リスクを自覚できずに適切な指導を受けられぬまま高齢者が放置されているのが現状である。本課題では,VR技術とMoCap技術を組み合わせた自転車運転シミュレータを開発し,若年者および高齢者を対象として,車両と併進している状態から右折して車道を横切るシナリオにおける運転時の適応行動を計測した.さらに,事故に遭いやすい高齢者に共通する特徴を抽出することで,高齢者交通事故を誘発するリスク要因を定量評価する手法を考案した。
今後,検査レポート作成機能を備えた自転車シミュレータとしての製品化をめざすと共に,各種センサデータに基づく評価アルゴリズムを実装していく予定である。
期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に高齢者の自転車による交通事故が多発しており、その誘発リスク要因を顕在化し、定量評価するために自転車運転シミュレータを開発した技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、装置の有用性や効用を裏付けするためにも、更なる検査データの蓄積などでの実用化が望まれる。今後は、自転車運転中のスマートフォン利用による「ながら運転」が増加しており、その抑止作用に研究成果を結び付けることができれば、本装置の適用範囲はさらに広がり、大規模な市場開発がされることが期待される。
硫化水素を検出する抗体を用いた簡易心疾患診断方法の開発 大阪府立大学
居原秀
大阪府立大学
鈍寳宗彦
安価で簡便な心疾患早期診断ツールの開発を目標とし、血中の硫化水素(H2S)レベルが心疾患と関連があることに着目した。安価で簡便な診断方法を確立するために「特異的抗体」の利用を検討した。H2Sをマレイミドで誘導体化し抗原とした。免疫吸収、アフィニティー精製による高特異性抗体の調製、ELISAシステムの構築、固相抽出法による検体(血漿)の前処理方法を検討した。ラット血漿中のH2SをN-エチルマレイミドを用いて誘導体化した後、固相抽出法にて前処理を行い、競合ELISA法で定量する方法を開発した。今後、心疾患モデル動物、心疾患患者の血漿を用いて、心疾患早期診断ツールとしての有効性を評価する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、抗体産生のハイブリドーマ細胞がまだ確立されていないが、高特異度の硫化水素を検出する抗体を作成することを見出した点については評価できる。一方、研究成果が応用展開された際に、社会還元に導かれることが期待できると思われるので、抗体産生のハイブリドーマ細胞がまだ確立に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、できるだけ早く、安定した抗体産生能力が高く、効率が良いハイブリドーマ細胞が選別されることが望まれる。
原がん遺伝子Ski阻害ペプチド(Ski-tide)による新規がん治療法の開発 名古屋市立大学
井上靖道
公益財団法人名古屋産業科学研究所
羽田野泰彦
本研究課題は、研究責任者が開発したSki阻害剤(Ski-tide)をリード化合物として腫瘍抑制作用を増強させたペプチドを開発し、Ski阻害剤による新しいがん分子標的薬の臨床展開を目指したものである。本研究の結果、細胞レベルにおいて腫瘍抑制作用を増強させた化合物の開発に成功した。また、Ski-tideがin vivoにおいて腫瘍抑制作用を示す可能性も示唆された。今後は、in vivoにおける基礎的なデータを積み重ねるとともに、ペプチドの安定化を高めるような改良等を進め、実用化に向けた知財確保と技術移転を進めていく予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、新しい抗がんの分子標的としてp53とSkiの相互作用に着目し、阻害作用を持つペプチド配列を見出した点は評価できる。
一方、技術移転の観点からは、被検ペプチド゙のがん細胞抑制作用が、アポトーシスかネクローシスか増殖アレストによるものか等解明することや、他のがん細胞株との感受性を比較しておくことが望まれる。また、in vivoでは、Nutlin-3との同時投与であるため、これらによる抗腫瘍効果を腫瘍体積量の比較だけでなく、被検ペプチドの体内動態や抗腫瘍効果をイメージング゙等により確認することなどが重要と思われる。
今後は、前臨床研究に進むための体制を構築されることが期待される。
NOによるCD14-TLR4-NF-κBシグナル制御に着目した潰瘍性大腸炎の新規治療標的の探索 第一薬科大学
安川圭司
九州大学
古川勝彦
本研究課題では、(1)ニトロ化タンパク質局在細胞を同定し、(2)ニトロ化タンパクを探索・同定し、(3)その阻害により病態抑制効果が見出せることを目標とした。DSS誘発大腸炎マウス大腸組織のニトロチロシンやCD14は組織内に浸潤したマクロファージと共局在していること、STAT3経路関連タンパク質JAK2とSHP2がニトロ化されていることを明らかにし、目標(1),(2)は達成した。また、SHP2に関して、目標(3)のタンパク機能阻害から機能活性化への転換が必要となった。今後、SHP2の発現増加や活性化を誘発するシーズの探索研究とSHP2のニトロ化修飾とp-SHP2減少との関連や他ニトロ化タンパク質の関与についての基礎研究を並行して実施し、成果を相互にフィードバックしつつ、特許出願さらには新薬開発への展開を目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、シグナル経路のクロストーク形成が明らかとなり、シーズ探索の方向性を示すことが出来た点は評価できる。
一方、本研究成果に基づく新規特許出願を検討していただく必要がある。
今後の課題は他の脱リン酸化酵素について検討することであるが、SHP2と大腸炎との関連は既に多くの研究者が研究している領域であるので、他の研究者の動向を知ることが重要と思われる。
生体吸収性に優れた生分解性高分子による心膜用シートの開発 秋田大学
寺境光俊
秋田大学
伊藤慎一
ポリ(グリコリド-乳酸)ーポリカプロラクトンマルチブロック共重合体を用いた生分解性高分子による心膜用シートの開発に向けて,加水分解特性制御とこれを生かした動物実験を行った。緩衝液(pH 10, 7.4)中での加水分解試験により,グリコリドを含有したマルチブロック共重合体の加水分解速度が分子量により最適化できることを見いだした。生体内で3ヶ月程度で完全分解させるよう分子量制御したマルチブロック共重合体をウサギの心膜代替膜として埋め込み,癒着防止能力を評価した。一部のウサギでは全く癒着が見られず,膜も残存していないことから癒着防止膜として極めて有望な結果が得られた。一方,強固な癒着が確認された実験もあったためウサギのタイプと膜の有効性について追加検討を行い,特許申請とこれに基づく産学連携を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に新規の心膜用の生分解性高分子を合成し,生体内での加水分解性の制御を分子量のコントロールで達成した。ウサギで心膜代替膜として生体試験を行い,有用性を明らかにしたことに関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、競合技術も存在するので、この技術の必要な特性項目をあげて差別化、優位性を示すことで実用化が望まれる。今後は、特許化を早期に達成し、競合技術との差異を明確にし、企業に共同研究に向けてアピールされることが期待される。
高発現型バキュロウイルスを利用した外来タンパク質発現系の開発 宇都宮大学
岩永将司
宇都宮大学
倉山文男
本研究では、新たに見出した高発現型バキュロウイルスを用いた外来タンパク質発現系に取り組んだ。その結果、本ウイルスが既存のカイコバキュロウイルスより多くの多角体タンパク質を生産することを明らかにしただけでなく、LC50(半数致死濃度)、LD50(半数致死量)、LT50(半数致死時間)についても明らかにした。更に本ウイルスのゲノム解析に取り組み、外来遺伝子を組み込むためのトランスファーベクターを構築した。現在、本研究で構築した新しいウイルスベクターの実用化に向けて更なる検証を進めている。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、新規のウィルスベクターの構築に挑戦し、未決定の配列が一部残ってはいるもののトランスファーベクターを構築した技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、作成したトランスファーベクターを用いた組換え体がタンパク質の高発現能を維持していることを早急に確認するなどでの実用化が望まれる。今後は、全ゲノム配列の決定を迅速に行ない、Bacmidベクターの構築を早期に実施されることが期待される。
悪性腫瘍に対するThおよびCTL誘導型ワクチンの前臨床試験 高知大学
宇高恵子
高知大学
吉用武史
悪性腫瘍の免疫療法におけるT細胞誘導効率を高めるため、大阪府立大河野健司教授らと共同で、ペプチドの拡散を防ぎ、樹状細胞等に届ける目的で、ペプチドをliposomeあるいはmicelleに会合させて免疫する方法を検討した。その結果、マウスにヘルパーT細胞および細胞傷害性T細胞の誘導が観察された。しかし、さらなる至適化が必要であり、研究を継続している。一方、本研究の発端となった、腫瘍血管の内皮細胞による抗原提示の研究過程で、血管にクロスプレゼンテーションを誘導し、細胞傷害性T細胞の腫瘍内浸潤を強く促す薬剤の発見に至った。In vivoでも高い抗腫瘍活性を示すため、今後、この薬剤とペプチド免疫を併用する臨床試験に向けた準備を進めたい。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、腫瘍血管内皮による抗原提示で誘導されたTh, CTLが腫瘍内浸潤を促すことが抗腫瘍効果発現には重要で、本研究はreagent Xの併用でそれが期待され、従来のペプチドワクチン研究を凌駕する点が評価される。
一方、研究報告からは、現状の治療法による抗腫瘍効果は満足できるものとは言えず、製剤のさらなるブラッシュアップを期待したい。
今後は、reagent Xの作用機序の解明、ならびにその臨床応用が大いに期待される。
がんの上皮―間葉転換をリセットする新規治療化合物の開発 秋田大学
田中正光
秋田大学
伊藤慎一
アフリカツメガエル初期胚の発生を利用した化合物スクリーニングを予定通り、原腸陥入と神経堤細胞の阻害効果を指標にして行った。その結果、新たに9つの化合物が上記発生過程のいずれかを阻害するものとして選別された。これらを続けてヒト癌細胞株(口腔扁平上皮癌とメラノーマ)を用いた浸潤、増殖に対する阻害効果をまず評価した。2つの化合物がこれらの癌細胞の増殖抑制と細胞集団的な浸潤を阻害する強い活性を有していた。上皮間葉転換(EMT)の阻害効果はEMT関連マーカーで有意な影響が検出できなかったものの、分子作用機序を検討した結果、これらの化合物は細胞微小管の重合阻害に基づく細胞分裂M期の停止による増殖と浸潤の抑制効果が強いものである事が判明した。EMTに特化した薬剤スクリーニング法としての有用性は、今後化合物の母集団を増やして検討する課題が残るがin vivoで有効な抗がん浸潤薬の選別法としては効果的だと考えられる。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、抗がん作用のある化合物の初期スクリーニングとしての有用性が確認できており、生理活性を有する化合物のユニークなスクリーニング法として今後が期待できる点については評価できる。
一方、単純な抗増殖活性を有する化合物の効果との区別を明確にするための技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
初期胚に対して化合物を投与する時期に関する対応だけではなく、今後は、本スクリーニング法での化合物の効果判定をより多方面からできる工夫があれば、大きく発展することが期待される。
新規統合失調症モデルマウスの有用性の確立 琉球大学
苅谷研一
琉球大学
玉城理
統合失調症(Sz)は、その発症メカニズムの理解の進展と、より有効な治療法の開発が待たれている。多数の遺伝子がSzの発症に関与すると考えられているが、多くの精神疾患に関与するDISC1遺伝子をその中核に位置付ける考え方がある。 申請者らは、Szに特異的に関与すると思われる新規DISC1結合分子を自ら同定してノックアウト (KO) マウスを作成し、各種試験での検証によりSzのモデルマウスとしての有用性の確立を目指した。KOマウスは自発行動、社会性、感覚ゲーティング機能などの異常を示し、Sz患者の症状と矛盾しなかったが、今後も多数の個体で検証を継続し、Szモデルとしての実用化に結びつけたい。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、動物の確保について課題は残るが、TNIK KOマウスのSzモデルとしての可能性を示した点は評価される。
一方、動物の確保を容易に行う方策を確立することが望まれる。
今後は、ヘテロ型を研究に用いるとか、遺伝的背景を変える等して、材料の確保を工夫されることが望まれる。
安心かつ痛みのない糖尿病治療を目指したインシュリン経皮投与パッチの開発 神戸大学
大谷亨
神戸大学
高山良一
本研究では、生体適合性の高い独自の生体材料(PEGグラフト化ヒアルロン酸)を利用したインシュリン含有マイクロニードルを作製し、動物実験から血糖値が少なくとも投与4時間後には40%にまで低下するレベルに達するように放出制御することを目標とした。マイクロニードルの作製に先立ち、PEGグラフト化ヒアルロン酸に含有したインシュリンの生理活性を確認するために血糖値低下実験を行い、インシュリンの生理活性保持を確認した。0.6Uのインシュリンを含有したマイクロニードルを作製し、ラット皮膚に貼ったところ、6時間後血糖値が約40%低下した。以上により、インシュリンの活性が保持されたマイクロニードルによる経皮投与パッチの可能性を示した。今後は血糖値降下速度と量の最適条件を見いだす展開が必要である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、生体適合性の高い独自の生体材料を利用した新規なインシュリン経皮パッチの開発に関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、マイクロニードルによる投与では、持続的にインシュリンが血中に投与されて生理活性を示したが、静脈注射に比べ血糖値低下値の達成は十分とはいえなのでさらなる材料開発などによる実用化が望まれる。今後は、マイクロニードルの長さ、太さ、数の物理的な因子と、インシュリン保持量、放出速度を加速する因子などの検討されることが期待される。
生体膜の液中操作のための形状記憶厚膜型スマートマイクログリッパの開発 山形大学
峯田貴
山形大学
二宮保男
再生医療分野における細胞シート等の微細成形を目標に、液中で生体膜の繊細な把持とハンドリングを実現するスマートマイクログリッパ開発に取り組んだ。基板上へフラッシュ蒸着した30μm厚の形状記憶合金膜を電解エッチングで超微細クリップ形状にし、把持力センサ、通電駆動用薄膜ヒーター、薄膜温度センサを集積化するグリッパ素子の形成法を確立した。試作したSMAグリッパは50μm厚の生体膜の把持時に1.6mNの把持力を発揮できることを検証し、大気中と水中での通電加熱により把持および開放の可逆的動作が可能であるが、非加熱側のアーム部への伝熱と水中での放熱の影響で駆動時の開口幅に改善の余地があることを把握した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、グリッパの形成法に関するMEMS作成プロセスにおいて一定の目途が得られ、グリッパの機能・性能に関しては50μ厚の生体膜を把持するための把持力や大気中と水中での動作特性に関して当初の目標を確認できたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、ある程度見通しのつく成果が得られているので、知財権の確保を進め、早期に関連する企業と連携して進めることが望まれる。今後は、研究成果を社会的ニーズの高い医療や再生医療分野への応用展開が期待される。
新規磁気粒子イメージング法を用いた磁気送達のモニタリングシステムの開発 大阪大学
村瀬研也
大阪大学
高畑裕美
近年、外部より磁場を印加して磁性ナノ粒子と薬剤を内包したリポソーム等を目的の場所に局所集中させる磁気送達法が注目を集めているが、磁気送達法の有効性を高めるためには、集積した磁性ナノ粒子の空間分布を可視化し、集積量を正確に定量する必要がある。最近、我々は磁性ナノ粒子の外部磁場に対する非線形応答性を利用して磁性ナノ粒子の空間分布を画像化する磁気粒子イメージング(MPI)装置を新規に開発した。そこで、我々のMPI法を用いて、磁気送達法の有効性の評価や最適化を行うためのモニタリングシステムを開発した。また、その有用性や信頼性をファントムや動物実験によって検討した。その結果、本法の有効性が明らかとなった。今後、産学共同の研究開発を進め、早期の製品化を目指す予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にファントムおよび動物を用いた実験によって、新規MPI法を用いた磁気送達のモニタリングシステムの有用性を示した技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、技術移転を目指した研究開発ステップにつながる可能性は高まったものと考える。薬剤を磁気送達するシステムと一体となったモニタリングシステムの開発などでの実用化が望まれる。今後は、開発技術の特許化も含めて,早期の実用化に向けた進展をされることが期待される。
生体内の硫化水素を可視化するON-OFF型蛍光プローブの開発 埼玉大学
中田憲男
埼玉大学
岩佐徳昭
近年、細胞内の生理的シグナル伝達物質として硫化水素が注目されており、様々な蛍光プローブを用いて生体内の硫化水素の働きをリアルタイムに可視化する試みがなされている。本研究では、ジベンゾバレレン骨格に組み込まれたセレノキシド誘導体を活用するリサイクル可能なON-OFF型硫化水素蛍光プローブの設計・開発を検討した。結果として、種々の酸化剤によるセレニドの酸化反応から高い選択性を示し、硫化水素の検出によって生成したセレニドは容易に再利用できることを見出した。一方、赤色発光が期待されるpush-pull型化合物の合成を行い、シアノ基およびジメチルアミノ基を有するセレニド誘導体はCH3CN/リン酸緩衝液中において橙色発光を示し、細胞透過性の高いセンサーとしての可能性を明らかにした。今後は、得られたデータを駆使し、硫化水素プローブ化合物としての性能評価を実際の細胞を使用して検証を行う予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、現在存在する感受性蛍光プローブの欠点を克服できる、リサイクル可能な硫化水素のオン-オフ型蛍光プローブについて、コンセプトを示すシード化合物を得たことについては評価できる。一方、水溶性が不十分であり、生理的濃度の硫化水素を検出できる感度が得られていない。赤外発光を指向したが、やはり実用化レベルに至っていない。実用化に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、早期からバイオセンサーの開発経験が豊富な企業等と共同研究に入り、バイオセンサーにおける最適なプローブを最初から目指されることが望まれる。
新規クリック反応(スルホニルアジドとチオアミド)を用いる試薬開発 富山大学
千葉順哉
富山大学
平川龍夫
本課題では、我々が開発してきたチオアミドとスルホニルアジド間の選択的な反応を、生体分子に展開することを目的とした。まず、本反応を用いて蛍光分子を生体分子へクリック導入し、続いて生成したアミジンを加水分解することで、本課題の特徴となる生体分子の回収を試行した。現時点で回収率は低いながらも、生体分子の回収を確認できたことから、将来的な技術移転への可能性が示唆された。本開発の成果は、開発に関わった試薬類の試薬化に向けた国内試薬会社との実施許諾契約の締結、および、学術論文(1件)、国際・国内学会(1件ずつ)、展示会(1件)における成果報告である。今後は試薬会社と協力しながら、より反応効率や回収効率の高い試薬開発を展開するとともに、知的財産権の取得を目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、申請者らが開発したオリジナリティーのあるクリック・ケミストリーを生体分子の領域に展開するものであり、基礎研究、応用研究の両面で評価できる。また、小分子で的確にエビデンスを固めて研究展開を行っており、研究手法についても評価できる。
一方、タンパク質の多様性を考えると、初めからIgGなどの大分子で検討するのは難しいのではないか。プロトコルの確立にはサイズやアミノ基の数にバラエティがあるペプチドを用いて検討を開始するのが良いと思われる。
今後は、多種多様な市販の合成ペプチドを用いて条件検討されることが望まれる。
新規キノン誘導体を用いたリーシュマニア症新規治療薬の探索 群馬大学
嶋田淳子
群馬大学
早川晃一
新たに合成した40種を含む約90種の誘導体の中で、抗リーシュマニア活性を有する化合物を見出した。中でも化合物Aはプロマスティゴート型原虫に対して目標値よりも低濃度で効果があり、かつ毒性も低く有望である。また、化合物Bはin vivoで抑制効果を示し、マウス腹腔内投与で有意に皮膚潰瘍形成を抑制しその効果は既存薬と同等であった。局所投与でも有意に潰瘍形成を抑制したが、既存薬と比較すると効果が低く、用量を検討する必要があった。今後は化合物の構造活性相関を調べつつ、さらなる化合物の最適化を行い、得られた結果を基に特許出願を行う予定である。また、化合物の安定性、有効性、安全性等の検討を視野に入れつつ、企業との連携を模索する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、in vitroのデータに関して、当初の目標を達成するデータが示されている点は評価できる。
一方、技術移転の観点からは、in vitroで見出した有望化合物を用いた、経口あるいは腹空内投与のin vivoデータが期間内に確認できなかったことは残念である。
今後の展開の判断には有望化合物のin vivoデータが重要であると思われる。
乳癌の診療ビッグデータを活用した個別化診療支援ソフトの開発 京都大学
高田正泰
京都大学
杉山梨恵
研究代表者らは、乳癌の診療に係るビッグデータを効率的に統合し、高精度な診断と治療効果予測を可能にする診療支援ツールを開発してきた。本課題では、その技術を基に、診療支援ツールのパラメータの自動調整、および予測結果を可視化するシステム開発と、実際の臨床データを適応した診療支援ソフトの開発・評価を目的とした。平成26年度にパラメータ自動化プログラムの作成を始め、平成27年度にHER2陽性原発性乳癌の術前療法に係るコホートデータに適応し診療支援ソフトを作成し治療効果や予後を高精度に予測できることを示した。今後は、本ソフトを用いた前向き評価を進めると共に、自動化プログラムに多様な乳癌データをあてはめ、乳癌診療最適化を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に乳がん関連の大量のコホートデータ、臨床データから予測モデルを開発し、Web上で公開し、定量的予測精度を向上する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、本成果を医療現場で幅広く活用実績を上げるとともに個人の病歴・年齢・医療機関などによる予測モデルの開発推進などでの実用化が望まれる。今後は、
ビッグデータのデータマイニング的な側面としても新たな研究開発ステップにつながる可能性を検討されることが期待される。
関節アライメント改善および外的負荷軽減を目的とした新たな関節サポーターの開発 京都大学
建内宏重
京都大学
杉山梨恵
本研究では、変形性股関節症患者の関節負荷軽減・症状改善を目的とした関節サポーターのプロトタイプを作成し、患者での客観的・主観的評価を行った。その結果、股関節3次元アライメント変化とアライメント約5度修正を達成できた。また、関節安定化を目指した股関節の前面部圧迫という新規技術開発を行った結果、痛みや歩行負荷軽減等の主観的症状が改善した。一方、弾性ストラップサポーターでは効果が患者毎に異なったことから、テーラーメイド型サポーターの必要性が示唆された。本研究成果は、関節サポータープロトタイプの装着容易性や耐久性等の改良点はあるが、病態改善・予防に係る知見や実用化に向けた基礎的知見提供に寄与する。今後は、変形性股関節症患者を対象とした関節サポーターの長期間の使用効果検証実験、ならびに対象者を変形性膝関節症患者にも拡大し、股関節部の関節サポーターによる膝関節のアライメントや外的負荷への効果も検証していく予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に変形性股関節症に適用するサポーターの試作開発が実施され、、変形性股関節症の評価がなされたことに関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、研究成果が応用展開された際に、変形性股・膝関節疾患の医療機器としての社会還元が期待できるので技術移転を目指した産学共同開発などでの実用化が望まれる。今後は、サポーターの長期使用効果についての試験を実施されることが期待される。
軟弱野菜用自動収穫機械の実用化に向けたハンドリング制御技術の開発 信州大学
千田有一
信州大学
白川達男
本研究では,ホウレンソウのように人手による収穫でさえも茎や葉を傷つける軟弱野菜の自動収穫を実現するため,把持や挟み込みを伴わずに自動収穫するハンドリング技術の開発を目指したものである。特に,隣接するホウレンソウの葉の絡まりを除去するための技術開発,および自動収穫後のホウレンソウの向きを揃えるため,姿勢変動を起こさない搬送技術の開発を狙い,自動収穫装置の改良と圃場実験検証を実施した。その結果,隣接するホウレンソウの葉の絡まり除去については,適切なかき分けユニット機構を追加することでほぼ解消することができることを確認した。向きを揃える技術についても幾つかの検討を行い,解決に向けて一定の結果が得られた。今後は,企業との共同研究によって製品化を目指した開発を進める。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、柔軟野菜用自動収穫機械の実用化に向けて、問題点を整理しながら独自の観点で研究を進めて、着実に技術移転につながる研究成果が得られている点を高く評価する。一方、技術移転の観点からは、コストや作業時間といった評価軸での検討が望まれる。今後は、広く普及するため、製品の汎用性、コスト、操作性などの検討による、実用化に向けての開発が期待される。
膵がん化学療法奏効率の向上を目指したゲムシタビン感受性増強薬の開発 東北大学
立川正憲
東北大学
山田智子
本研究は、難治性がんに分類される膵がんの治療成績を改善するために、ゲムシタビン化学療法の効果予測と奏効率向上の基盤を構築することを目標とした。具体的には、ヒト膵がん組織の手術検体を活用して、ゲムシタビンの作用機序に関わるタンパク質の組織中での発現量が、ゲムシタビン奏効率の予測マーカーとしての有用であることを実証した。さらに、ゲムシタビンの抗腫瘍活性を増強する補助療法の確立を目的として、併用によってゲムシタビンの膵がん細胞増殖抑制活性を増強する薬物を同定し、マーカータンパク質の発現量を増加させることを実証した。今後は、前臨床試験によってゲムシタビン増強薬のproof-of-conceptを構築するとともに、薬物の適用疾患外使用による臨床治験によって、効果の実証展開を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、当初の目標に基づく計画の内容はほぼ達成できており、基礎データの集積ができている点は評価できる。
一方、技術移転の観点からは、実証実験としては例数を増やして、in vivo ゼノグラフトモデルの継続的な試験が必要と思われる。
ゲムシタビン増強薬のテーマは臨床での実証実験が必要なため、早期の技術移転に向けては、ゲムシタビン薬効予測キットの開発を中心に据えることで優位性を出せると思われる。
血漿セレノプロテインP(SeP)を標的とした新規テーラーメイド2型糖尿病・血管合併症治療薬の研究開発―糖尿病モデル動物による検証および低分子化 同志社大学
斎藤芳郎
同志社大学
尾崎安彦
2型糖尿病患者において、SePが過剰になると、筋肉や肝臓のインスリン抵抗性が増加し、血管新生が抑制され、糖尿病態が悪化することが明らかとなった。SePは糖尿病の重要な治療標的と言える。これまでにヒトSePの細胞表面への結合を阻害し、セレン運搬を抑制する抗体を同定した。本研究では、外因性SePによる耐糖能異常を改善するSeP阻害抗体の作用メカニズムを明らかにした。さらに、糖尿病モデルマウスにSeP阻害抗体を投与することにより、増加した内在性SePの作用を抑制し、耐糖能やインスリン抵抗性等、糖尿病態の改善効果があることを実証した。本研究により、SePを標的とした新規テーラーメイド2型糖尿病治療の研究基盤を確立した。今後は、抗体医薬としての可能性や低分子化の実現を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、得られた新規抗体は有用性が示されており、申請者が今後の技術移転、産学共同研究を目指して企業との打ち合わせ、議論を行ったことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、血管新生、損傷治癒に関しSeP結合アッセイのハイスループット化の実用化が望まれる。
今後は、SeP関連研究を、血糖、インスリン抵抗性に限定して研究をフォーカスすると伴に、阻害性のペプチドや低分子化合物を探索するための信頼できるシステムの構築に期待したい。
微量ハイスループットスクリーニング法を活用したAβ凝集阻害物質の探索 室蘭工業大学
徳樂清孝
室蘭工業大学
古屋温美
アルツハイマー病(AD)は、アミロイドβ(Aβ)と呼ばれるタンパク質が脳内に凝集沈着することが発症の引き金になる。本研究では、我々が開発した微量ハイスループットスクリーニング法により、様々な天然物質からのAβ凝集阻害物質の探索を行った。その結果、シソ科植物が高いAβ凝集阻害活性を有することを明らかにし、特許出願した。また、シソ科植物のAβ凝集阻害活性本体のひとつであるロスマリン酸の構造活性相関を明らかにした。以上より、本研究の目標はほぼ達成できたと考えている。現在、本研究成果を基盤とし、シソの産地である地方自治体、複数の企業、また他大学医学部との連携が進みつつある。今後はADに関する健康食品や予防・治療薬の実現を目指し、産学官で共同研究を展開する予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、研究課題の阻害物質がシソ科植物に由来した化合物として特定され、特許出願がなされた点は評価できる。
一方、技術移転の観点からは、阻害物質の生理活性に関して、臨床的な測定法の追加などが望まれる。
今後は、研究成果の応用展開が進めば、社会還元としての実用化が期待されるので、次の研究開発ステップに企業が参画してくれることを期待したい。
モクレイシ由来の薬剤耐性抑制型新規抗がん剤の開発研究 広島大学
松浪勝義
広島大学
田井潔
沖縄亜熱帯植物モクレイシ葉部から見出した新規トリテルペノイド化合物MJ-1について、さらなる検討を行った。本化合物はヒトがん細胞に対する増殖抑制活性と多剤耐性抑制効果を併せ持ったユニークな化合物である。本研究では、モクレイシに含まれるMJ-1関連化合物のさらなる探索やMJ-1の化学変換によって計17種の類縁体を調製し活性を評価した。その結果、多剤耐性抑制活性に重要な部分構造を見出した。次に近年注目されているzebrafishを用いたin vivo実験系で毒性に関する検討を行った。今回の研究では概ね予定通りの検討を行えたが、今後は化合物の供給や、より安全性の高い化合物への変換が必要である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、有効な結果を示すがん細胞も認められたことや、今後改善すべきポイントが明確にされている点は評価できる。一方、増殖抑制活性のメカニズムを明らかにすることができれば、有用な誘導体調製へのヒントが得られる可能性があるので、どのような化学変換を行うかや、化合物の供給に関する解決法などについてデータの積み上げが必要と思われる。今後は、基本特許の申請がすでになされていることで、連携企業が見いだされることが期待されるが、さらに新たな特許を出願されることが望まれる。
繊細な感触評価のための高度化触感センシング基本技術の開発 京都市産業技術研究所
廣澤覚
地方独立行政法人京都市産業技術研究所
山本佳宏
本研究開発では,新規触感評価として,人の指の触動作により近い接触子/対象物の相互変形挙動を数値化する高度化センシング技術を確立することを目的に研究を行った。
人間の指先を想定した透明弾性体の製作を行い,対象物が直接触れる上部表面に焦点を当ててその画像を裏側からカメラで連写し,その撮影画像の連続変化から,画像相関法により透明弾性体表面の変位分布を数値化する手法を考案し,さらに高精細な変位検出のための計算手法を提案することができた。また,これらをシステム化することで,透明弾性体表面の連続変形を画像として捉え,変位分布を数値化することが可能となった。これらの成果を基に,研究をさらに推し進めることによって,高度化触感センシングの実用化が達成できると考えている。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも画像相関を用いて触感を数値化するアイデアについては評価できる。一方、提案する方法と実際の触感との関連を検討する必要があることや、有限要素法を用いた計測結果の補完方法やサブピクセル単位での算出方法などの技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、被測定物の表面での動かし方なども評価に影響を与える重要なパラメータとなると思われ、用途に応じた必要性能、機能を調査されることが望まれる。
乳児から成長期に対応した小児用磁気浮上補助人工心臓の開発 茨城大学
長真啓
茨城大学
宇都木勲
既開発小児用磁気浮上人工心臓試作機のポンプ駆動時における浮上ロータダイナミクスを参照して流体影響を考慮しつつ,三次元磁場解析を用いて5軸制御磁気浮上モータのステータ形状,コイル巻き数,永久磁石極数を最適化した.外径22 mm,高さ33 mm,体積13 ccの世界最小・超小型な5軸制御磁気浮上モータを開発でき,小児用人工心臓用磁気浮上モータ小型化の目標を概ね達成できた.製作した5軸制御磁気浮上モータが設計通りの磁気支持,回転性能を有していることを実証した.浮上インペラ姿勢の5軸制御を行い,回転数1600 rpmまで浮上ロータの非接触磁気支持できることを明らかにした.今後,磁気浮上制御系を最適化し,非接触支持による浮上ロータの高速回転化を実現し,世界最小の磁気浮上型小児用人工心臓を実現する. 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に世界最小・超小型の5軸制御磁気浮上モータを開発し、これをもとに磁気浮上型小児科用人工心臓の実現が可能となった技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、最高回転数の上昇や支持機構の安定化など、構造、機構の改善をすることでの実用化が望まれる。今後は、医療機器の認定にも多くの時間を要することから、関係機関と連携されることが期待される。
可搬型血液濾過システムの開発 神戸大学
山根隆志
可搬型血液濾過システムのために、羽根直径34mmの小型遠心ポンプを設計・試作し、流体力学性能の確認、および血球破壊の低減を実験室で試験評価した。さらに製品血液フィルターと組み合わせた麻酔下ブタ動物実験により、遠心ポンプがローラーポンプよりも、血液フィルターの中空糸膜間抵抗および循環抵抗が少ないことを実証した。その結果、遠心ポンプがローラーポンプに対して、フィルターのファウリングおよび血液流路の目詰まりに関して非劣性であることと、小型可搬であることの圧倒的な優位性を実証した。
なお現在、共同研究機関が進めている文部科研B の一部に参画して遠心ポンプの基礎研究を続け、血液フィルター研究機関の研究に追いつくことを目指す。これとともに今後、企業との共同研究を並行して進め、遠心ポンプを製品化に近づけ、新遠心ポンプと新血液フィルターが揃ったところで、A-Step による製品化プログラムに応募する計画である。
期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に従来ポンプと比較して、目詰まりの観点における非劣性、小型可搬性についての実証は明確な結果で示された。また、中型の動物実験での確認も行っており、既存技術に対する優位性を明確に示した技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、、すでに医療機器承認の済んでいる既存ポンプを代替するためには、価格を含めたかなりのメリットがないと商品開発は困難である。連携企業と協議の上、今後の研究計画を綿密に行い実用化が望まれる。今後は、医療的にも産業的にもコスト面を含めて、本法でなければというシステムに向かった展開をされることが期待される。
体位センサーを搭載したアクチグラフ睡眠計・自由行動下血圧計の開発 奈良県立医科大学
佐伯圭吾
奈良県立医科大学
細川洋治
本研究開発の目標は、①体位センサーで推定した就寝・離床時刻の正確性の検討、②それに基づく自由行動下血圧計とアクチグラフの睡眠分析結果について、従来用いられている自記式生活記録に基づく分析結果と比較することで、妥当性を検証することである。視認就寝時刻とセンサーで特定した就寝時刻は、1分程度以内の誤差で一致した。就寝・離床時刻に体位センサー推定値を用いた場合と自記式生活記録を用いた場合の比較では、1週間の総睡眠時間、睡眠効率、中途覚醒時間はともにr>0.7の高い相関を示し、実生活下2日間の日中・夜間収縮期値血圧は、誤差1.0 mmHg以内で一致した。以上の結果から、体位センサーを搭載したアクチグラフおよび自由行動下血圧計は、被験者が生活記録を記載する負担を軽減し、ほぼ同等の正確性で睡眠指標および血圧指標を推定することができることが示され、本研究の目標が達成されたと考えられる。本研究開発から特許申請を行った。今後は製品化に向けて、体位センサーの装着性の向上と、自動計算ソフトウェアの整備を行う予定である。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に睡眠計や血圧計の使用時に、従来の自記式生活記録に代えて就寝・起床時刻などを体位センサにより自動記録可能とした点は、被験者の負担軽減や測定精度の向上において非常に有用で、民間企業と共同で特許出願が行われた技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、既に製品化を念頭においた企業との共同研究を実施しており実用化が望まれる。今後は、体位センサを血圧計等に搭載すれば、単に就寝・起床時刻の判定だけではなく、姿勢変化や行動シナリオに影響される血圧変化を記録することも可能であり、自由行動下血圧測定時の付帯情報として期待される。
石英ガラスを用いて接触観察を可能とした処置用消化管内視鏡の開発 浜松医科大学
大澤恵
浜松医科大学
小野寺雄一郎
本研究では、対象物と内視鏡のCCDカメラの間の空間を透明度の高いガラスで確保し、接触観察を可能とした新たな形状の消化管内視鏡の開発を試みた。開発の進行に伴い生体内での安全性やコストの軽減、装着性の良さなどを検討する必要性が生じ、透明度の高いシリコン素材を使用して対象物とCCDカメラの間を埋める手法を採用し、オリンパス社の上部および下部消化管内視鏡に適合し、かつ前方送水機能を確保した新たな先端キャップを設計し製作した。最終的には研究期間内の開発で、新たな形状のディスポーザブル先端キャップが完成し、上部消化管内視鏡用の製品を『コンタクトビューフード』として共同研究企業が製品化した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に 当初の予定では、石英ガラスを用いた消化管内視鏡の開発であったが、石英ガラスを用いることは断念せざるを得なかった。しかし、シリコン素材を用いた新製品が製品化できた点に関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、先端キャップを内視鏡構造に埋め込んだ製品開発は新たな産学共同につながると考えられ実用化が望まれる。今後は、先端キャップを内視鏡構造に埋め込んだ製品開発は、まだ長い道のりではあるが、可能性はあり期待できる。さらに、石英ガラスを用いた新製品もあきらめずに開発されることが期待される。
環状ペプチドによる肝細胞増殖因子-受容体の相互作用阻害剤の開発 金沢大学
酒井克也
金沢大学
佐々木隆太
HGF(肝細胞増殖因子)-Met 受容体の阻害は、がん転移・薬剤耐性の克服につながる。本課題ではHGF阻害ペプチド(HiP-8)の最適化・活性向上と、阻害機序の構造基盤解明を目的とした。配列最適化スクリーニングおよびPEG修飾により、、構造-活性相関情報の取得と、安定性・比活性の向上した類縁体の取得に成功した。また、HiP-8 が結合するHGF 分子内ドメインの特定と作用機序の解明に成功した。今後、動物モデルにおけるリードペプチドの薬物動態、薬効評価を行う。また、ペプチド-HGF複合体の共結晶構造を明らかにし、Structure based drug designによる活性の向上を試みる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、HGF阻害ペプチド(HiP-8)の安定性の向上、および作用機序の解明は評価できる。
一方、技術移転の観点からは、、HiP-8は、HGFに対するアロステリック阻害であることから、がん以外への影響(副作用)を検討することや、安全性、安定性・製剤化・投与経路等を考慮した研究開発計画を検討することが望まれる。
今後は、特に安全性試験と製薬企業との共同研究への展開が期待される。
含フッ素フタロシアニンのプロトン感応性を用いたプロトンセンサーの開発と癌診断薬への応用 名古屋工業大学
徳永恵津子
名古屋工業大学
沖原理沙
研究計画に従い,中心にケイ素を持つトリフルオロエトキシシリコンフタロシアニン類の合成を行った。フタロニトリルからジイミノイソインドリンを生成し,シリコンフタロシアニンの合成を検討したがうまくいかなかった。そこで予め無金属のフタロシアニンを合成し,その後,ケイ素の導入試みたところ,中心にケイ素,上下に水酸基を持つトリフルオロエトキシシリコンフタロシアニンの合成に成功した。さらに先の手法を基盤に,上下にフルクトースと結合させたトリフルオロエトキシフタロシアニンの合成にも成功した。それらの化合物分光学的性質を検討した。今後,公的な研究開発支援制度を活用して,産学共同に向けた研究開発へと継続する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、プロトンセンサーの開発とがん診断薬への応用にためのケイ素を中心にもつトリフルオロエトキシシリコンフタロシアニン類の合成と測定方法の確立に成功している点については評価できる。一方、目的化合物の合成と測定法の構築までは進んでいるものの、技術移転を目指した産学共同等の研究開発ステップに繋げるには、さらなる基礎実験の実施による成果の積み重ねが必要で、培養細胞やモデル動物での試験を踏まえて技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、社会的意義のある課題であり、現段階での問題点が明確となっているので、より基礎研究を進めて、技術移転されることが望まれる。
無血清・フィーダーフリー・ウイルスインテグレーションフリー培養系でのiPS細胞の樹立と治療への応用 広島大学
山崎佐知子
広島大学
堀豊司
ヒトES/iPS細胞はこれまでフィーダー細胞上で、血清添加培養条件にて培養されることが多く、不定要素や異種抗原、感染性因子等の混入により増殖分化制御因子の検討や医療応用は困難であった。本研究においてヒト幹細胞の未分化性と多分化能を維持可能なフィーダーレス完全無血清培地を開発し、センダイウイルスSeVdpを用い、ウイルスインテグレーションフリー培養系にてヒトiPS細胞の樹立・維持に成功した。本成果をもとに口腔顎顔面領域に異常をきたす各種遺伝子疾患特異的ヒトiPS細胞を樹立し、疾患モデルを作成した。なかでも、鎖骨頭蓋異形成症患者由来ヒトiPS細胞を用い、ゲノム編集技術にて得られた遺伝子変異の正常化株を用いて機能解析を行うことで、発症メカニズムの解明や医療分野への応用を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にフィーダーレス完全無血清培地を開発し、またウイルスインテグレーションフリー培養系でiPS細胞の樹立に成功した。また各種症候群患者からiPS細胞を作製し、かつゲノム編集等の実験も行った技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、再生医療、各種疾患の病因解明と治療等に必要な多くのプロジェクトが具体的に検討されている。産学共同研究での開発ステップへの可能性が高まり実用化が望まれる。今後は、早くiPS細胞からの分化培養系を樹立して、FDA承認済み特許切れ化合物ライブラリー等を用いて、疾患改善に用いることのできそうな薬剤のシードを発見されることが期待される。
骨基質タンパク質を用いたメタボリックシンドローム改善薬の開発 九州大学
溝上顕子
九州大学
平田徳宏
骨基質タンパク質であるオステオカルシン(OC)は全身の代謝を活性化することで注目を集めている。本研究の目的は、OCを豊富に含む豚骨(スープ等を抽出した後の廃棄物)を原料としてOCを抽出し、メタボリックシンドローム予防・改善におけるその有効性を証明し、ヒト向けサプリメントの開発の足がかりとすることである。豚骨抽出液の成分分析を行ったところ、確かに抽出液中にはOCが含まれているほか、コラーゲンも多く含まれていた。抽出液をメタボリックシンドロームモデルマウスに1ヶ月間継続投与したところ、顕著な糖代謝の改善や脂肪細胞の縮小が見られたが、副作用と思われる形態学的な変化は見られなかった。今後はヒトを対象とした臨床試験をはじめ、実用化に向けて詳細な検討を行う。 概ね期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、モデルマウスでブタ骨抽出オステオカルシンの有効性を示し、また本成果について、特許申請および論文発表を行っており、当初の目的を達成していることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、オステオカルシンの有効性の分子メカニズムを明らかにして欲しい。
今後は、創薬というよりは特定保健用食品として企業と共同開発を進めていくことが期待される。
ゲノム編集による遺伝子ノックインニワトリの樹立 産業技術総合研究所
大石勲
独立行政法人産業技術総合研究所
坪田年
有用蛋白質を鶏卵中に安価・大量生産する遺伝子組換えニワトリの開発を目指し、ゲノム編集による遺伝子ノックインニワトリの樹立を行った。将来精子分化が可能とされるニワトリ始原生殖細胞を用いて、卵白の主要蛋白質であるオボアルブミンの翻訳開始点にヒトサイトカイン遺伝子のノックインを行った。ゲノム編集技術の適用と条件の最適化により85%以上の高効率で遺伝子ノックインを達成した。さらにノックイン細胞をニワトリ初期胚(レシピエント胚)に移植した生殖巣キメラ個体を樹立し、性成熟後、キメラ由来精液においてゲノムDNAのPCR解析の結果、50%以上のドナー寄与率を達成した。このキメラの後代に7羽の雌ノックインニワトリ後代を得ており、世界初のノックインニワトリによる有用蛋白質生産が期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、酵母や大腸菌を使う従来手法とは異なる、新たな有用タンパク質の生産システムとしての実用化が期待できる、遺伝子ノックインニワトリを用いる基本技術を構築したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、得られるタンパク質の機能評価、生産効率やコストについても詳細に言及し、既存の組換えタンパク質生産技術と比較した優位性を示すなどでの実用化が望まれる。今後は、鶏卵をバイオリアクターとして活用した抗体の生産技術との比較も行い、より効果的で安価で安全な生産システムとしてブラッシュアップされることが期待される。
抗がん薬誘発末梢神経障害予防・治療における車前子活性成分の探索 富山大学
安東嗣修
富山大学
平川龍夫
抗がん薬誘発末梢神経障害の予防・治療のための車前子の活性成分の探索を行い、創薬シーズを見出すことを目標として研究を開始した。車前子の既知の主要成分である数種のイリドイド化合物の投与より,アウクビン投与群においてのみパクリタキセル誘発末梢神経障害性疼痛の発生が抑制された。また、車前子エキスの分画物においても、アウクビン含有画分においてのみ疼痛の発生が抑制された。これらの成果より、アウクビンが抗がん薬誘発末梢神経障害の予防・治療薬開発の創薬シーズとなりうることが見出された。今後,他の抗がん薬誘発末梢神経障害性疼痛に対して,アウクビンが有用であるか検討すると共に,薬効の機序の解明を行っていく。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、10種の生薬が配合される牛車腎気丸の中から車前子が活性生薬で、さらに進んでアウクビンが活性成分であると特定したことは高く評価できる。活性評価も的確に行われている。
一方、技術移転の観点からは、パクリタキセル以外の抗がん剤に対する活性スペクトルを検討する中で、車前子水エキスメタノール画分を用いるようになっているが、活性成分に特定されたアウクビンに的を絞る必要があると思われる。
今後は、機能性表示食品の具現化も視野に入れて、医薬品開発に進むことも期待される。
癌遠隔転移リスクの非侵襲的な超早期診断技術の開発 神戸大学
梶本武利
神戸大学
小高裕之
本研究課題では、ナノサイズのエクソソーム中の積荷含有量を定量化する「エクソソーム積荷定量法」を応用し、最終目標である癌遠隔転移の鍵となるエクソソームを指標とした、非侵襲的癌遠隔転移リスク超早期診断における「エクソソーム積荷定量法」の有効性を顕在化することを目的とした。転移性の異なる癌細胞由来のエクソソームに対して、「エクソソーム積荷定量法」による癌遠隔転移マーカーの定量的解析を試みた結果、癌細胞の転移悪性度の違いに応じたエクソソーム含有癌遠隔転移マーカー量の顕著な差異が認められた。今後はマウスレベルに加え実臨床レベルでの検証実験を進め、「エクソソーム積荷定量法」による癌遠隔転移リスク超早期診断の早期社会実装を目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも 細胞の転移性の程度による遠隔転移マーカーのエクソソーム内密度に一定の方向性を見出した点については評価できる。一方、癌転移の侵襲的早期診断・予想が可能となれば、臨床的、社会的波及効果は甚大であるが、 生体レベル、臨床レベルでの評価が遅れており技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、臨床展開を急がず、まず動物実験データを固めてられることが望まれる。
光学活性な医薬品の量産化に向けた溶媒変換技術の開発 埼玉大学
小玉康一
埼玉大学
笠谷昌史
本研究開発においては、溶媒を変えることによって、目的化合物の両エナンチオマーを得る方法である溶媒変換技術の開発を目指した。3種のキラルなヒドロキシカルボン酸に対して種々の溶媒を用いた検討を行い、うち2種については本技術が適用可能であることを発見した。得られた塩の結晶構造解析の結果より、いずれの場合においても結晶内部に取り込まれた溶媒が結晶の安定化に重要な役割を果たしていることを明らかにした。一方で、結晶内に溶媒が取り込まれていても、立体の逆転が起こらない場合もあった。当初の予定は概ね達成できたが、その効率は実用的にはまだ満足できるものではないため、今後は分割剤の探索などの条件の最適化を行い、溶媒変換技術の確立を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、予定した3種のヒドロキシカルボン酸の内の2種について、溶媒変換技術によりS体が高い分割効率で得られることを明らかにするとともに、ジアステレオマーの結晶化の際の溶媒包接現象に関して知見を得たことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、R体の分割効率が低いことや残る1種のヒドロキシカルボン酸には本溶媒変換技術が適用できなかったことなどの問題点を克服した、実用化に向けたステップアップが望まれる。今後は、解決すべき技術的課題とその解決方策を明示すると共に医薬品等の光学活性分子骨格の中から光学分割のターゲットを絞って検討されることが期待される。
ナノファイバー技術を用いた自己抗体の新規スクリーニングシステムの開発 金沢大学
吉川弘明
有限会社金沢大学ティ・エル・オー
中村尚人
自己免疫疾患の発症原因となる自己抗体を結合の場とした新規抗体アッセイシステムを開発することが目的であった。自己抗体の結合標的となる神経伝達物質受容体タンパクを人工的に発現させ、有機溶媒に溶かし込み、抗原決定基を充分露出させたタンパク含有ナノファイバー・シートの作製することを計画した。当初予定した神経伝達物質受容体をカイコ細胞膜に大量発現させることを試みでは、充分なタンパク量をえられず、発現系を大腸菌に変え、主要な神経伝達物質受容体タンパクを大腸菌に大量発現させることに成功した。有機溶媒の選択と溶かし込みの条件検討、ナノファイバー化、ヒト患者血清での検定は今後の課題となった。
今後の展開として、1)神経伝達物質受容体を組み込んだナノファイバーからELISAに用いることができる抗原シートの作成、2)同時に多数の神経伝達物質受容体に対する自己抗体をスクリーニングできる測定系の開発、3)その測定系を用いた神経疾患(自己免疫性脳炎、精神疾患、認知症、発達障害等)の患者血清スクリーニングの実施、4)測定系の改良による簡便なスクリーニングキットの開発、以上のステップを経て、原因不明の神経・精神疾患の一括スクリーニングメソッドの提供を実現したいと考えている。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、当初よりも安価での大腸菌発現系で疎水性膜タンパクの人工的大量発現のノウハウが得られたことについては評価できる。一方、ヒト患者血清での陽性データの確保し、この知見を基に知財権を確保に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、有機溶媒とナノファイバーを組み合わせた抗体アッセイシステムの開発は新規性、実用性の特許出願要件に適合するので早急に特許出願を検討されることが望まれる。
エクソソームをmiRNAデリバリーシステムに用いた関節リウマチ治療の研究 神戸大学
河野誠司
神戸大学
八浪公夫
本研究では、エクソソームを用いたmiRNA格納系を確立し、DDSに用いるための研究開発を行った。滑膜由来のエクソソームを破骨細胞分化系に取り込ませること、エクソソ-ム内にmiRNAを濃縮することに成功した。次にDDS系を確立するために、エクソソームの回収系の確立に取り組んだ。種々の細胞系列を用いてエクソソームの回収を試み、50mlの培養上清から3~13マイクログラムのエクソソームを回収することが出来た。しかし、in vivoに用いるには、エクソソームの大量回収系の確立、およびDDSシステムの開発が必須であり、これらに取り組みつつ、研究促進のためアカデミアやベンチャーに共同研究先を探索予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、論文化され、影響力の高い専門誌にすでに掲載された基礎データに基づき、miRの治療応用への実用化に向けて必要なDDSの開発へと着実に研究を進め、目的とする検討が適切に実施され、今後にむけての課題が明らかにされた点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、エクソソーム収量の改善という課題が明らかにされたものの、次のステップが具体的に示されていない点に改善の余地があると思われる。実用化が期待される技術であるので、今後は、DDS開発を専門とするアカデミア、企業との共同研究を進めることが望まれる。
生体内3次元振動分布の可視化へ向けた多波長光ホログラフィック・トモグラフィー装置の開発 新潟大学
崔森悦
新潟大学
小浦方格
本研究では、生体組織(特に、内耳蝸牛内の上皮帯)の内部構造の断層形状計測と振動計測が同時に可能な生体内3次元振動分布の可視化装置の開発を行った。多波長走査型光コヒーレンストモグラフィー(MS-OCT)と広視野ヘテロダイン法を開発し、0.5 mm四方の平面一括撮像による、OCT分解能 : 2.5 μm、測定深度: 0.5 mmの三次元断層可視化及び、振幅感度: 5 nm、測定可能周波数: 1~10 kHzの生体内部振動の可視化を達成した。今後は、生きたモルモットの蝸牛の上皮帯の直接計測を目標に、撮像光学系の最適化とMS-OCTの性能を向上させた新しい光コム・超短パルス撮像装置の開発を行う。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも計測装置を製作して基礎的な研究成果が得られている点は評価できる。一方、基礎研究の段階にあり,応用展開に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、各分野の専門家とのコラボレーションを試みることで研究の進展を図ることが望まれる。
多方向揺動レバー型操作入力装置の操作性向上を目的とした抵抗トルク呈示システムの開発 埼玉大学
楓和憲
埼玉大学
大久保俊彦
本研究開発では、2自由度の揺動機構をもつ操作入力機器に抵抗トルク呈示機能を実装し、操作の支援としての利用を検討した.レバースティックの前後方向への揺動によって、電動車いすの目標速度設定を行う実験により、抵抗トルクを用いた操作支援によって、レバースティック揺動角の微細な変動が抑制され、一定の操作入力を維持する操作が容易になることが確認された.本機構では、磁性粉体ブレーキの励磁電流を制御することによって、抵抗トルクを呈示する位置と大きさを自由に設計することが可能であり、力覚による操作支援技術を展開することが可能であると考えられる.また、介護付き有料老人ホームの理学療法士や各種展示会への出展を通して専門家との意見交換を行い、今後の展望を明確にすることができた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、抵抗トルクを用いた操作支援により、レバースティック振動角の微細な変動が抑制されることが確認されるに至っていること、また、老人ホームにおける専門家及び関連企業と意見交換を実施し、展望を明確にした点は評価できる。一方、技術移転につなげるために、特許化に加え、本技術のインタフェースとしての優位性を、ユーザの嗜好や感性の観点から多くの調査を重ね、定量的なデータとして提示することが望まれる。今後は、介護現場や企業との連携により技術開発を進め、社会に還元されることが期待される。
介護食用のきざみ食材をまとめるための天然物由来食品用接着剤の開発 大阪市立工業研究所
畠中芳郎
地方独立行政法人大阪市立工業研究所
内村英一郎
咀嚼、嚥下機能が低下した高齢者に対して、誤嚥予防のために食材を細かく刻んでとろみ剤などでまとめる処理が行われている。この処理では食材がペースト状の外観となり、元々の食材がイメージしにくいために食事意欲を低下させる問題がある。本研究では、刻み食材を食品用接着剤で元の食材がイメージしやすいように成形し、食欲の低下を緩和することを目的とした。接着のための素材検討を行った結果、特定のタンパク質をアルコール類に懸濁し、長時間攪拌することで、適切な粘着性を持つ接着素材ができるものがあることを見いだした。本素材は水分活性が低くて雑菌汚染に強いことや、加熱により接着が低下することが無いなどのメリットもあった。現在、市内企業と共同で特許取得や試作品作製など商品化の検討を進めている。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特においしく食べられるための重要な要素である「温かさ」の条件を解決できる方法を探求し、対応できる接着剤を開発されたことに関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、誤嚥を予防するためにペースト状の食品を使用するのは、摂食・嚥下のプロセスにおける口腔期の障害により咀嚼や舌での食物の送り込みを補う場合に使用される。商品化にあたっては、口腔内でスムーズに移送されるかについても検討が必要であり実用化が望まれる。今後は、摂食・嚥下障害の状況によって食事形態も異なるため、誤嚥予防のどこに焦点を当てるのか明確されることが期待される。
生活習慣病予防への緑豆タンパクの有用性の検討 金沢大学
井上啓
有限会社金沢大学ティ・エル・オー
木下邦則
研究責任者は、マウスを用いた検討から、緑豆タンパク(Mung bean protein isolate/ MPI)が、強力に肝中性脂肪含量を減少させることを見出した。肝臓脂肪合成酵素の発現をモニターできる肝脂肪合成レポーターマウスを用いた検討においても、20週間の高脂肪食飼育条件で、MPIは持続的に肝臓脂肪合成酵素の発現を抑制した。MPIが肝臓脂肪蓄積を抑制する食材として有望であることを見出した。脂肪肝は、脂肪肝炎・肝硬変へと増悪する非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)として、治療・予防が必要な疾患である。今後は、本研究開発の結果から、MPIを「NAFLDの発症を予防しうる食材」として研究開発していくことを計画している。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、緑豆タンパク質(MPI)が生活習慣病予防に資する食材であるか否かを検討した結果、MPIが肝臓脂肪蓄積を軽減することを明らかにした点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、機能性成分を同定することが望まれる。また、安全性については長期試験を実施してデータを取得しておく方がよいと思われる。
今後は、機能性食材としては非常に興味あるものなので、実用化に向けてさらに研究を重ねることが期待される。
病院内医療用画像規格を利用したIVR患者被曝線量管理システムの開発 産業医科大学
盛武敬
産業医科大学
橋本正浩
頭部(胸部)IVR実施患者の被ばく線量を測定し、その結果を電子カルテ上で閲覧することが可能な一連のシステム(RADIREC®)を完成した。まず、直接患者に触れる帽子の素材と形状にこだわり、柔らかな肌触りと圧迫感のないデザインとした。さらに、これまでの紙媒体によるレポートの寿命を改善するため、通常のPDF出力形式に加えて、DICOM(Digital Imaging and Communication in Medicine)形式を採用し、患者被ばく情報を病院内の画像保存通信システム(Picture Archiving and Communication System: PACS)を介して閲覧できるようにした。本システムを運用することで、患者被ばく線量に基づいたきめ細かな患者ケアを実践したい。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に単純X線検査と違って、IVRの被ばく線量の把握は容易ではない。開発システムはそれを実現可能とし、医療スタッフ間でその情報が容易に共有できる。さらに蓄積された被ばく情報は、個人レベルから医療界全体にまで二次利用が大いに期待され、これに関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、開発システムは、大学病院で既に稼働しており、具体的な検証段階にあり実用化が望まれる。今後は、頭部以外の部位を対象としたシステムの開発にも,早急に着手されることが期待される。
Toll様受容体を標的とする痒みの新規外用薬の開発 京都府立医科大学
峠岡理沙
京都府立医科大学
羽室淳爾
皮膚乾燥による痒みモデルマウスを用いて、Toll-like receptor (TLR)3アンタゴニスト外用による止痒効果を検討した。TLR3アンタゴニスト外用群と対照群では掻破回数に有意差はなかった。また皮膚組織中の痒みメディエーターであるTSLPとNGF発現も両群間では差はなかった。次にハプテン塗布によるアトピー性皮膚炎モデルマウスを用いて、TLR3アンタゴニスト外用による抗炎症効果を検討した。TLR3アンタゴニスト外用群では対照群に比べて、ハプテン塗布後の皮膚腫脹は低下傾向がみられ、抗炎症効果がある可能性が考えられた。今後は外用剤としての効果をさらに検証し、ヒトの炎症性皮膚疾患の新規治療法としての技術移転につなげていきたい。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、2種類のTLR3アンタゴニストは、トリニトロクロロベンゼン塗布マウスに対して、有意差は認められないものの若干の改善傾向を認めた点については評価できる。一方、TLR3がどのような炎症性皮膚疾患に密接に関与しているのか明らかにする必要がある。今後、 現在検討を行っているTLR3アンタゴニストの内、市販されている物質ではなく、連携研究者が見出した物質で効果が認められるか検討することが望まれる。
キトサンとシクロデキストリンを複合化した新規徐放性ゲルの創製 苫小牧工業高等専門学校
甲野裕之
苫小牧工業高等専門学校
土田義之
本研究開発ではシクロデキストリン(CD)とキトサンを原料として劇毒物を使用することなく複合化したゲル素材の低コスト化合成最適条件の決定と各種性能評価を検討した。詳細な検討結果から以下の三点が成果として得られた: 1) 配合比によって合成コストを1000円/100g程度まで圧縮できること、2) 水和ゲルは生体組織に近い動的粘弾性特性を発現できること、3) アスピリン等の医薬品を高効率で包摂し、擬似体液中で12時間以上の徐放性能を示す。よって生体安全性等の確認が課題として残っているが、本研究開発で得られた成果物は分子認識能を有する新規機能性ゲル担体として、薬物運搬システム、分離剤、抽出材料としての応用が期待できる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、天然素材キトサンを活用した分子認識能を持つ新たな機能性ゲル担体、包摂材料としての可能性を検証したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、キトサン原料のアセチル化度やゲル状態による機能改良と共に実用的なコスト評価と安全性評価も行なうなどでの実用化が望まれる。今後は、特許出願を前提に、産学連携で事業化に向けた共同開発をされることが期待される。
褥瘡治癒効果の高い創傷被覆材の開発への取組み 京都府立大学
宮崎孔志
京都府立大学
市原謙一
我々が開発した毒素産生抑制剤を創傷被覆材に適用し、褥瘡および感染創傷に対する治療法を確立するのが目的である。モデルマウスに感染創傷を作出し、市販創傷被覆材に抑制剤溶液を浸み込ませ検証したが、有意な創傷治癒効果は認められなかった。しかし、病理組織学的には市販銀配合被覆材と比較すると高い治癒作用が認められ、銀配合市販品に対する優位性が示された。また治癒の早いモデルラットを用いて再度検証した結果、市販被覆材よりも有意に治癒が早まり、感染創傷に対する治療法が確立できたと思われる。今後は、被覆材に抑制剤を直接配合した試作品を作製し、その効果を検証し実用化につなげていく。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にモデル動物を使用したことによって、大まかであるが、感染性細菌の毒素産生抑制剤の有効性が確認でき、今後の実用化に向け一定のデータ蓄積がなされたことに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、毒素産生を抑制することが創傷の早期治癒にどれだけ貢献できるかは本データのみでは十分でないため、より多角的に検討することができるデータを蓄積することで実用化が望まれる。今後は、被覆材で有効性が左右されるとすれば材料候補は様々あり、企業連携のみならず、工学系の大学間連携等も視野に入れ、早期に有用な抑制剤被覆材を試作されることが期待される
海洋系バイオマスからの高価有用化合物の抽出技術開発 熊本大学
キタインアルマンド
熊本大学
緒方智成
海藻から機能性あるいは薬用効果が期待できる成分としてフコイダン、フコキサンチンを高品質かつ高効率で抽出する検討を行った。実用化のため、ベンチスケール実験、試料の前処理工程の確立およびフコキサンチンの安定化技術開発を行った。ベンチスケール実験では、超臨界二酸化炭素のみ16.6%の回収率しか得られなかったが、ドライココナツを共存させた場合は、93%にまで増大した。前処理としてマイクロ波を照射することにより、細胞壁を破壊することができ、フコキサンチンを若干多く回収することが可能であった。同時に得られたフコイダンをエアロゲルにして、フコキサンチンを含浸させ、大気中でも長時間安定化できる手法を開発した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ココナツオイルの添加で回収率を大幅に向上させると共にフコキサンチンの安定化手法を見出したことに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、想定用途を設定し機能評価や他技術との差異化を行なうなどでの実用化が望まれる。今後は、フコイダン、フコキサンチンの機能性や薬用効果は必ずしも明確でないので、より高純度なものを取り出し共同研究等でその効能を明らかにされることも期待される。
延髄縫線核を標的とした新規敗血症性ショック治療薬(神経ペプチドオレキシン)の開発 筑波大学
林悠
筑波大学
山本信行
本プロジェクトでは、「オレキシンによる新規な敗血症の治療法」を前臨床研究開発へと繋げる上で不可欠な、作用機構の解明に取り組んできた。そのために、「末梢投与されたオレキシンは脳の延髄縫線核に直接作用することで敗血症を改善する」という作業仮説を検証した。まず、敗血症の際にオレキシンが直接中枢神経系へ作用することを、オレキシンの脳室内投与による敗血症時の治療効果により確認した。続いて、化学遺伝学技術であるDREADDを用いて、延髄縫線核のセロトニン作動性ニューロンの活動を操作する実験から、これらのニューロンがオレキシンによる敗血症の改善効果に必須であることを証明した。さらに、オレキシンが中枢神経系を介して抗炎症作用を発揮することも見出した。以上の結果について、国際特許に出願し、現在論文投稿中である。今後は、最近開始した霊長類を用いた試験についてさらに本格的に進めて、その後、企業と共同での臨床研究を展開する予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、オレキシンが敗血症性ショックの治療効果を持つということは予期しない現象であり、それを患者での応用を考慮し、延髄縫線核の活性化を介していることを示したことや、オレキシンが二次的に炎症性サイトカインの生成を抑制したことを示した点は評価できる。
一方、技術移転の観点からは、霊長類での敗血症性ショックの治療効果を、「発症後」の「末梢投与」でどの程度改善効果を認めるか確認することは、重要であると思われる。また、炎症性サイトカインの減少がどのような機序によって起こっているかを明らかにする必要がある。今後は、なるべく、早期に製薬会社等と相談を行い、共同研究を行って開発し、早期に臨床で応用されることが期待される。
食品,化粧品および医薬品素材としての機能性配糖体の実用的生産技術の開発 新潟大学
仁平高則
新潟大学
松原幸夫
本研究課題では,我々が発見した新規酵素2-O-α-グルコシルグリセロールホスホリラーゼが有する厳密な反応特異性を利用して,保湿性,難消化性,癌細胞増殖抑制作用などの機能性を有する配糖体2-O-α-グルコシルグリセロールを,安価な天然糖質から効率的に製造する技術開発を目標とした。二種のホスホリラーゼを組み合わせることにより,安価な麦芽糖から高収率で2-O-α-グルコシルグリセロールを生産できた。これにより,食品・医薬品分野に高純度の機能性配糖体2-O-α-グルコシルグリセロールを提供可能とした。今後工業生産に適した熱安定性を有する酵素の探索およびシステム変更により更なるシステム最適化を検討する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、特徴ある新規酵素と既存の酵素を組み合わせたOne-pot反応で安価に配糖体を合成する、具体的には麦芽糖を原料に2-O-α-グルコシルグリセロールを合成する、技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、ゲル化などから酵素反応には不適と思われるデンプンは別として、安価な材料であるショ糖の利用も再検討するなどでの実用化が望まれる。今後は、反応の効率化等の観点から耐熱性酵素についても検討されることが期待される。
眼瞼挙筋を用いたヒト骨格筋幹細胞の単離および増殖制御技術開発 京都府立医科大学
佐藤貴彦
京都府立医科大学
羽室淳爾
眼瞼下垂患者含めて眼科手術時に得られる余剰組織中に含まれる眼筋を利用して、マウス骨格筋組織採取時と同様の方法により細胞培養を行った。まずヒト眼筋組織を用いた細胞培養の場合、マウス筋組織を用いた場合と比較して増殖性が非常に悪いことが明らかとなった。この点を最後まで改善することが出来なかったが、若年齢患者眼筋組織を用いた場合に骨格筋細胞の増殖性が良いことが分かった。
得られた増殖骨格筋細胞集団の中で骨格筋幹細胞を選択する為に、マウス骨格筋細胞研究において既存の表面マーカーを検討すると、CD56による反応性が一番良好であった。しかし、CD56のみでの細胞単離ではPax7陽性を指標とする骨格筋幹細胞の特異的な選択とならず、さらに複数の表面抗体を用いて絞り込みをかけ骨格筋幹細胞画分の純化が可能となった。本研究で得られたヒト骨格筋幹細胞を用いて、その性質を維持可能な増殖拡大培養技術ならびに難治性筋疾患に対する幹細胞移植研究などへの展開が期待できる研究開発となった。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもヒト眼筋組織からの骨格筋幹細胞単離ならびに細胞培養の基礎条件の探索は貴重なデータとなると評価できる。 少なくともヒト眼筋組織に骨格筋幹細胞が存在することは証明できたし、その単離ならびに細胞培養の基礎条件を行い、技術的課題の一部を明らかにした点については評価できる。一方、 産学共同等の研究開発ステップへの基礎データの収集という意味で可能性は高まったと考えられるが、さらなるブレイクスルーに向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、今回の基礎データを受け、さらに検討を進め、ヒト筋幹細胞の単離そして培養の最適条件を明らかにされることが望まれる。
高精度温度モニタ機能付きレーザ照射光ファイバ温熱治療器 岡山大学
深野秀樹
岡山大学
薦田哲男
生体内で選択的に温熱処置を可能とする高精度かつ温度モニタ機能付き光熱変換光ファイバ構造の実現を目指して研究開発を行った。ファイバ先端に新規光干渉構造を考案し,温度により屈折率が変化する被覆材料をファイバ先端部に形成することで,温度を高精度に計測する仕組みを確立した。低侵襲温度測定に望まれる温度分解能は0.6 ℃であり,測定分解能としては,その1/6である0.1 ℃の目標値以下の優れた値を実現した。また,光照射による昇温として,ハイパーサーミアで主にターゲットとなる50 ℃の目標値を,ファイバ先端の工夫により,入射光パワー50 mW以下の低入力で余裕を持って達成できることを明らかにした。今後は,装置としての実用化を目指し,研究開発を進める。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、研究成果である高い分解能を持ち、小型化が可能な温度測定技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、温度測定技術をどのような分野に応用するのか、より広い工業的なアプリケーションを見つけることでの実用化が望まれる。今後は、従来の光ファイバ温度測定技術との具体的な性能比較されることが期待される。
マイクロカンチレバーを用いた超微量生体タンパク質の電子状態解析 神戸大学
大道英二
神戸大学
犬伏祥子
本研究ではカンチレバーを用いた高周波電子スピン共鳴(ESR)法を実際の生体金属タンパク質へと適用することを目的として研究を行った。その結果、金属タンパク質の信号検出には至らなかったが、金属タンパク質と類似した分子構造を持つヘミン分子と銅(II)ポルフィリンについてESR信号の検出に成功した。ヘミンでは1μg程度の微量試料に対し、80-130 GHzの周波数領域においてg=6付近に吸収ピークを持つESR信号を検出した。また、銅(II)ポルフィリンについても400 GHzまでの広い周波数範囲でg=2.1付近にESR信号を検出した。本研究の結果から、実際の金属タンパク質の信号検出にはあと1-2桁程度の感度改善が必要と考えられる。今後は、更なる高感度化を進めることで実際に金属タンパク質での測定を可能にし、十分な検出感度が達成できる目処がつき次第、製薬、食品、農業関連企業などを中心として企業連携の可能性を探っていく。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に新規な高感度ESR法を開発し、新たに磁化検出を組み合わせて感度向上させ、基本的な測定法の確立に成功している技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、研究開発は着実に進展しており、今後の計画も的確に検討されている。産学共同等の研究開発ステップを目指す上で重要と思われる特許出願や学術誌等への研究成果の公表等にも早急に取り組むなどでの実用化が望まれる。今後は、ESR測定自体、信号解析のみならず、検出系やカンチレバー構造、磁場設計など多岐にわたるシステムである。関連異分野の協力/共同研究を指向されることが期待される。
B型肝炎ウイルス全組み込みとエピゲノム変化の解析による肝発癌のリスク診断法開発 聖マリアンナ医科大学
山本博幸
MPO株式会社
井上正範
B型肝炎ウイルス(HBV)のヒトゲノム組み込み部位解析およびメチル化解析を行うことで、HBV感染に関連した癌のリスク診断が可能となることを明らかにすることを目標とした。達成度として、組み込みに関わるエピジェネティックな変化の分子病態解析、HBV関連肝細胞癌の遺伝子解析は十分達成できた。一方、HBV DNA組み込みの経時的解析の達成度は、検体不良などにより十分でなく、発癌リスク診断の指標となる遺伝子の同定には至らなかった。今後の展開として、パラフィン検体からのDNA抽出法の改良に基づく経時的解析を多数症例で行うことにより、リスク診断の指標となる遺伝子の同定、実用化を目指す。 当初目標とした成果が得られていない。中でもB型肝炎ウイルス全組み込みとエピゲノム変化の解析による肝発癌のリスク診断の為の臨床検体を用いたレトロスペクティブな技術開発研究を目指したが、提案された技術は独自なものであるが、実用化された場合の有用性、有効性を評価するレベルに到達しているかの点での技術的検討や評価が必要である。今後は、当該技術の有用性、精度、感度等を検証するために、適切な臨床検体について検討すると共に、ヒト肝細胞でのHBV感染のin vitroモデルを構築する等の基礎検討により、開発技術の有用性を検討されることが望まれる。
ガラスとフッ素樹脂-異種材料の超高強度接合界面の創出とその応用 大阪府立大学
大久保雅章
大阪府立大学
赤木与志郎
3電位電極間で形成される大気圧プラズマ形成装置によるプラズマ複合プロセスを用いて,ガラスとフッ素樹脂-異種材料の超高強度接合,接合界面における新規機能の創出とその応用に関して,処理効率と接着強度を飛躍的に向上させる研究開発を計画した。テーマ1:フッ素樹脂とガラスの高機能接合界面の実現,テーマ2:フッ素樹脂とガラスの高効率接合界面の機能性解明,に向けたフッ素樹脂ならびにガラスの表面処理を実施した。モノマー蒸発装置の改良,処理条件の統一,フッ素樹脂の表面状態の観察,及び機能性計測を実施し,当初計画を完遂した。結果として,サンプル1 mm幅あたり2 N(ニュートン)/mmを超える接着強度を安定的に実現することに成功している。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、フッ素樹脂フィルムとガラスの接着性が低いという課題を、独自に開発した大気圧プラズマ形成装置を用いたプラズマ複合表面処理により実用強度を満足する接着性が得られたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、プラズマ複合処理の高度化による一層の高強度接合界面の創出に向けた基礎的な実験や理論的検討を進めスマートフォンや太陽電池パネルなどの防汚シート、医療器具、自動車部品などでの実用化が望まれる。
今後は、実用化に向け企業との産学連携による研究開発が、加速されることを期待する。
冬虫夏草変異株を用いた生理活性物質コルジセピンの大量生産法の開発 福井大学
増田美奈
福井大学
青山文夫
冬虫夏草が生産するコルジセピンは、抗菌・抗腫瘍・免疫調節など多くの生理活性を持つことから、健康食品や化粧品、医薬品原料としての利用が期待されている。本研究では、冬虫夏草変異株を用いるコルジセピン生産技術の実用化を目的として、原材料費の削減と生産速度の向上を図った。まず、コルジセピン生産へのアミノ酸の影響を調べ、トリプトファンが特に効果的であることを見出した。また、安価な培地窒素源としてHIPOLYPEPTONを用いることで、窒素源コストは現状の1/4.3に削減された。さらに、回転円板型培養器を用いた反復回分培養の適用により、生産速度は4.2倍に向上し、いずれも当初の目標を達成した。今後は、本研究の結果を踏まえ、さらなる効率化を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、トリプトファンなどのアミノ酸の添加、及び、新たな培地窒素源と回転円盤型培養器の採用により、目標以上の原材料費削減と生産速度を達成したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、回転円盤型培養器の繰り返し使用に伴う菌体量の蓄積対策や食品・化粧品への応用上の法対応を確認すると共に、特許出願による知財権の保全も図るなどでの実用化が望まれる。今後は、薬理効果の明確化なども含め、早期の企業連携による企業ニーズに合った研究開発として取進めることが期待される。
フックス角膜内皮ジストロフィに対する薬物療法の開発 同志社大学
小泉範子
同志社大学
尾崎安彦
フックス角膜内皮ジストロフィ(FECD)は角膜内皮障害による角膜移植の主たる原因であるが病態の詳細は不明である。本研究ではFECDの病態におけるミトコンドリア障害および小胞体(ER)ストレス応答の関与を、患者角膜組織および疾患細胞モデルを用いて検討した。FECDではミトコンドリアおよび小胞体の形態および機能の異常が確認され、FECDの病態におけるミトコンドリア障害、および変性タンパク質による小胞体ストレスの関与が示唆された。さらにFECD角膜内皮細胞ではTGF-βシグナル刺激によって変性タンパク質の蓄積が増加した一方で、TGF-βシグナル阻害により細胞死が抑制され、ERストレス応答およびミトコンドリア障害の軽減が確認された。以上の結果より、TGF-βシグナル阻害がFECDの適切な創薬ターゲットであることが示された。本研究成果をもとに、製薬企業との共同研究によりTGF-β阻害剤によるFECDの点眼治療薬の開発を検討している。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、行ったすべての細胞モデル系で予測した効果が証明され、培養系での基礎データーが十分整った点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、点眼薬として開発するのなら最適な溶媒及び使用濃度を検討することが望まれる。
今後は、同疾患の動物でのモデル系があれば、点眼薬形態での投与時の検討を行い、それも含めて特許の請求事項を追加し、特許を強化されることが期待される。
生殖医療技術の高度化を実現する受精卵品質診断装置の開発 山形大学
阿部宏之
山形大学
小形真由美
精度の高い細胞呼吸測定技術は、細胞や受精卵の品質評価に極めて有効な技術となる。本研究では、電気化学計測技術を基盤とする医療対応型細胞呼吸測定技術の開発を目的とした。単一の細胞や受精卵の呼吸測定を可能とする超高感度マイクロ電極と非侵襲呼吸測定液の開発を行った結果、先端径2~5μmのディスク型マイクロ電極の安定した作製技術と非侵襲呼吸測定液を開発することができた。また、このマイクロ電極と測定液を用いた単一細胞呼吸活性測定技術の開発に成功した。本研究により、呼吸代謝活性を指標とする単一細胞品質診断の基盤技術を確立することができた。今後は、医療応用に向けた細胞品質診断技術の有効性と安全性の検証及び呼吸測定操作の自動化を進める。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に超高感度マイクロ電極の実用化に基づく細胞呼吸測定システムの実用化を目指し、ディスク型マイクロ電極の安定した作製技術と非侵襲呼吸測定液を開発し、このマイクロ電極と測定液を用いた単一細胞呼吸活性測定技術の開発に成功した技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、ノイズ除去のノウハウなどにかかる具体的なハードルが考えられ、計測装置としてのシステム設計、仕様設計検討などでの実用化が望まれる。今後は、動物実験などで安全性の確認が必要であるが、医療用途での実用化のため計測メーカーとの共同研究を加速されることが期待される。
路面状態と操作力を推定する手押し車などの高機能モーション制御と電動ユニットに関する研究 石川工業高等専門学校
嶋田直樹
石川工業高等専門学校
吉田博幸
本研究では、高齢者や育児世代を支援する電動手押し車の実現を目標として、電動ユニットと力センサが不要なアシスト制御アルゴリズムの研究開発を行った。まず、バッテリー駆動が可能なACサーボモータによって車輪を駆動させる電動ユニットを設計し、市販のベビーカーをベースとした試験車両を開発した。各種同定試験によって車輪と車体の間にフレームのしなりに起因する共振・反共振特性が確認され、二慣性共振モデルから設計した外乱オブザーバによって操作力の推定が可能となった。さらには、推定した操作力の大きさに応じた速度制御を行うことによって、平面、また斜面における力センサが不要な電動アシスト制御を実現した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、斜面の検知と押す力の推定アルゴリズムや斜面、段差でのアシスト制御アルゴリズムを開発、実験評価を実施し、ほぼ目標を達成されたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、段差、人間の操作力、アシスト力、斜面角度のパラメータを複数の条件で評価することや動作の種類や積載物による動特性の変化への対応方法など、実用化に向けた検討が望まれる。今後は、企業との共同研究開発により、実用化に向けた課題解決に取り組まれることが期待される。
生体反応を利用した腸管出血性大腸菌感染症の治療法の開発 産業医科大学
小林英幸
産業医科大学
橋本正浩
腸管出血性大腸菌感染症によって生じる急性脳症を抑制する薬物の開発を目的とした。ヒト脳微小血管の不死化培養内皮細胞に対して、単独では細胞の増殖を促進させる一方、ベロ毒素による細胞障害を増強する生理活性ペプチドを発見した。このペプチドの作用を抑制することによって腸管出血性大腸菌感染症による急性脳症が改善される可能性が示唆された。今後の展開として、初代脳微小血管内皮細胞を用いて、また、アストログリアの共培養系を用いて、より生体内の状態に近い培養系でペプチドの有効性を評価する。また、細胞の障害性、生存性を、異なった機序で検出する方法を用いて評価し、生理活性ペプチドの作用を明らかにする予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも腸管出血性大腸菌の急性脳症に対する有効な治療薬の開発という研究テーマは、健康長寿社会の実現に向けた取り組みとして評価できる。一方、細胞障害性の指標を細胞の生死以外に、機能性の変化を評価する方法も検討するなど技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、生理活性ペプチドの有効性と安全性の評価を再検討することが望まれる。
うがい液からの口腔癌発癌予測システムの開発 鹿児島大学
浜田倫史
鹿児島大学
平原彰子
うがい液は非侵襲的かつ簡便に採取でき、医学検査の理想的な試料である。われわれは既にうがい液中の剥離細胞から口腔癌に特異的なバイオマーカー群(DNAメチル化異常)を同定している。さらに本研究においては発癌前の状態(前癌病変)を示す複数のDNAメチル化異常を同定し、これらのバイオマーカーを標的としてうがい液を用いた感度・特異度の高い非侵襲的な口腔前癌病変の検出法を確立した(特願2015-172327)。この結果は非侵襲的な口腔癌発癌予測システムの開発につながるものであり、本法は被験者に自らの発癌リスクを認識させることで生活習慣改善を促し、個人の遺伝情報に基づいたオーダーメイド癌予防医療を可能にすると思われた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、うがい液からの口腔癌検出法として白板症を89.5%の感度と特異度で検出できエビデンスを構築すしたことに関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、簡易かつ安価に口腔癌の検診する当該技術をどのように市場でプロモーションしていくか、企業がどのように製品開発を行いマーケッティングを行うか、などでの実用化が望まれる。今後は、企業とのマッチングが成功されることが期待される。
膜型分子SIRPαを標的とした新たな自己免疫疾患治療薬の開発 神戸大学
的崎尚
神戸大学
八浪公夫
本研究では、自己免疫疾患の発症・重症化に重要な樹状細胞に強く発現する膜型分子SIRPαが樹状細胞の機能を制御するこれまでの研究成果をもとに、抗SIRPαモノクローナル抗体を自己免疫疾患に対する新たな治療薬として開発することを目指した。その結果、SIRPαとそのリガンドであるCD47との結合に対して強力な阻害効果を有する抗SIRPαモノクローナル抗体を同定し、さらに自己免疫疾患のマウスモデルの一つである実験的自己免疫性脳脊髄炎モデルマウスを用いた予備的な実験結果により、抗SIRPαモノクローナル抗体が自己免疫疾患の治療薬として潜在的な価値を示す可能性を見出した。今後は作用機序の解明ならびに抗SIRPαモノクローナル抗体の有用性をさらに明確に示し、特許取得に向けた開発を進める。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、抗CD47-SIRPα結合阻害作用を有する抗SIRPα抗体を見出し、これを多発性硬化症モデルマウスに投与して効果を確認した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、
CD47-SIRPαの結合を抑制することで、どのような自己免疫疾患をどの程度抑制できるのかを今回発見したモノクローナル抗体で速やかに解析し、POC取得に向けて推進することが望まれる。今後は、さらに有効性の高い抗体の開発および評価実験を進めることが期待される。
人工ユビキチンリガーゼによる血清中のユビキチン化の迅速な検出の検討 姫路獨協大学
宮本和英
生体内のユビキチン化は、白血病など様々な疾患との関係が深く、ユビキチン化の度合いを高感度に検出できれば将来的に疾患の診断・病態把握が可能である。我々は、ユビキチン化に関わる酵素であるユビキチンリガーゼを人工的に作製し、これを活用することでユビキチン化の度合いの検出を可能にしてきた。本研究では、簡易検出できる検出システムの構築に向けて、迅速なイムノクロマトグラフィーでユビキチン化の検出を検討した。当初の目標であるハーフストリップキットの作製に成功し、実用化に向けた技術移転に必要な一定の成果を創出できた。今後は、企業と連携し検出感度向上を目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもユビキチン鎖抗体によるイムノクロマト化の検討は抗体の選択を含め感度に問題を残しているものの検出できることは確認できたことについては評価できる。一方、現段階ではユビキチン化の迅速測定技術が確立できるかどうか実現可能性を測ることが難しいく技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、検討課題が明らかになってので、これを克服して是非検出法を確立されることが望まれる。
ヒトiPS細胞のドーパミン産生細胞分化誘導培地の開発 大阪大学
大政健史
iPS細胞を神経細胞からドーパミン産生神経細胞に分化する過程において、抗酸化ストレス能を持つ多機能性DJ-1によるより良い効果を期待している。iPS細胞由来の神経前駆細胞において、siRNAを用いて内在性のDJ-1の発現を抑制し、細胞増殖・分化ステージでの解析を行った。その結果、ノックダウンした細胞で増殖率・神経線維の伸長が低くドーパミン前駆細胞への分化が少ないようにみられた。神経細胞の分化過程においての細胞増殖に影響があることが考えられた。今後は、DJ-1遺伝子がどのシグナル経路に関与しているのか下流の遺伝子発現や阻害剤などにより解析をする必要がある。これらのことより、iPS細胞の神経分化過程での調節を制御する因子になる可能性がある。 当初目標とした成果が得られていない。中でも、iPS細胞を神経細胞からドーパミン産生神経細胞に分化する過程において、抗酸化ストレスを持つ多機能性DJ-1によるより良い効果を期待していたが、内在性のDJ-1が発現しており、それを抑制するための研究にかなりの日数を費やしている。そのため、当初の細胞株樹立の目標は達成されておらずさらなる技術的検討や評価が必要である。今後は、本研究は、ドーパミン産生神経細胞の分化・細胞の均質化そして大量培養において、発想は極めて良いが、研究戦略を練り直されることが望まれる。
LAT-1選択的蛍光ポリマープローブの創製とがん可視化への応用 慶應義塾大学
蛭田勇樹
慶應義塾大学
仁木保
本研究課題では、がん細胞に発現するL-アミノ酸トランスポーター(LAT1)をターゲットとし、がん細胞を選択的に蛍光染色可能なLAT1選択的蛍光ポリマープローブを開発した。LAT1の阻害実験および蛍光顕微鏡観察により、その有用性を検討した。LAT1経由で取り込まれるL-[3H]-ロイシンの阻害実験より、LAT1を介して細胞に取り込まれるL-フェニルアラニンの誘導体をポリマーに共重合させたポリマーよりも、ポリマー末端にL-フェニルアラニンを導入したポリマーの方が効率良く、LAT1と相互作用することがわかった。ポリマーの設計を最適化していくことで、LAT1を発現しているがん細胞の可視化が期待される。今後、温度やpHに応答するポリマーミセルの技術と組み合わせることで、蛍光イメージングとDDS技術を組み合わせたがんのセラノスティクスへの展開を考えている。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもL-フェニルアラニンのアクリロイルモノマーの精製法やL-フェニルアラニン導入比率の変更ならびにポリマー主鎖の変更を行い、検討すべきポリマープローブの選択肢を増やすことができたことについては評価できる。一方、現有のポリマーの検討よりは、より活性の強い新規LAT1阻害ポリマーの探索に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、より高活性な新規LAT-1選択的蛍光ポリマープローブの探索・創出をされることが望まれる。
新規なテアンデロース含有シロップの酵素生産システム 宮崎大学
林幸男
宮崎大学
福山華子
本研究課題ではテアンデロースを含有する新規な機能性オリゴ糖シロップの工業生産を最終目標として研究開発を行った。そのために、オーレオバシジウム属菌のグルコシルトランスフェラーゼ(GT)を固定化することにより、酵素の再利用や連続反応を可能にし、工業生産へ展開していく技術すなわちシステムを構築することを目標とした。固定化GTのほか、固定化菌体、静止菌体について検討を行い、機能性オリゴ糖の収率、回分反応の再利用の回数、オリゴ糖の生成量について、遊離酵素と比較して有利な効果が得られ、目標は達成された。今後は、固定化GT、固定化菌体、静止菌体について、調整法・連続反応条件の最適化と長期連続反応の検討を行い、実用用途を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、固定化菌体、静止菌体と共に、固定化したテアンデロース生産酵素についてオリゴ糖の収率、反応回数など、遊離酵素に対して優位であることを示したことに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、基礎データの取得段階と思われるので、実用化・知財権化を目指したデータを取得するなどでの実用化が望まれる。今後は、テアンデロースの機能性や安価製造の可能性など他のオリゴ糖に対する有用性を早期に提示されることが期待される。
長時間ハイコントラストイメージングを可能にする小分子蛍光色素の開発 山形大学
片桐洋史
山形大学
松崎辰夫
新規なpush-pull型蛍光色素の化学修飾により、蛍光特性の向上と生体分子への結合部位の導入によって、従来の蛍光材料の問題点を克服した高い安定性とコントラストを持つ蛍光色素の開発を目的とした。まず、材料合成では、電子求引性基としてフッ素の導入を検討し、新規な蛍光性基本骨格の合成に成功した。得られた化合物は極めて安定であり、また、今後の化学修飾によって蛍光特性の向上が期待できる。さらに、標的生体分子との結合部位としてスクシンイミジル基を導入することに成功した。アミノ基と選択的に反応することをすでに明らかにしており、今後は生体分子ラベル化キットの開発を目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、当初の狙いの化合物ではないが、蛍光性化合物の吸収・発光スペクトルの複数のフッ素原子の導入による長波長化を検証したことについては評価できる。一方、得られた化合物の合成収率や単離手法の最適化と、生体分子との結合部位の組込み手法の見直しに向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、具体的に医学関係者や製薬会社と組んで初めて明らかになる問題点も多いので、本結果を足がかりに各所との連携を検討されることが望まれる。
視覚障害者のための周囲の奥行き把握を可能とする低コスト視触覚変換装置の研究開発 電気通信大学
梶本裕之
株式会社キャンパスクリエイト
堺奈都
本研究開発は周囲奥行き情報を触覚提示するポータブル機器の実現を目標とした.このためにまず奥行きをセンシングし触覚提示するシステムのプロトタイプを作成した.外付け奥行きセンサの情報を触覚情報に変換,電気触覚提示装置で提示した.中途失明者による実験を行ったところ,感覚自体は安定的に提示できたものの,奥行きが直感的にわかるという期待していた反応は得られず,また市販の歩行補助装置とほぼ同程度の性能を示すにとどまった.この結果をふまえ,より市場性の高い用途としてタッチパネル画面を指でスキャンして触知する手法に移行した.本手法では例えばタブレットで周囲を撮影して触知すれば,リアルタイム性は損なわれるものの当初の目標に類似した状況を作ることが出来る.被験者実験により最適な指本数等を確定し,小型の光-触覚変換モジュールを開発し,高度な形状認識が可能となることを確認した. 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも当初計画からの一部修正はあるも、光ー触覚変換モジュールの開発と基礎的なデータを取得したことは評価できる。一方、現在開発中の光ー電気刺激変換装置が実用化されれば、視覚障害者にとっても点字利用などにの可能性があり、技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、視覚障害者にとって必要な装置について、あるいは現在使用中の装置(例えば白杖)の不満な点などのユーザニーズを調査、検討されることが望まれる。
脳傷害に伴う脳内循環Glymphatic systemの不全を画像化する技術の開発 神戸大学
森田光洋
神戸大学
八浪公夫
脳脊髄液と脳組織間液の流れ(脳内循環)は、アルツハイマー病の原因物質であるベータアミロイドの除去機構として注目を集めつつある。本研究開発では、独自に開発した閉鎖性脳傷害モデル「光傷害マウス」を用いて、既存の脳脊髄液診断用SPECTプローブであるインジウムDTPAが、脳傷害に伴うアルツハイマー病のリスク診断に有用であるかを検討した。その結果、光傷害マウスの損傷部位では、脳内循環の蛍光標識が減少するとともに、ベータアミロイドの集積が加速されることが実証された。その一方で、大槽から投与したインジウムDTPAは大脳皮質の傷害を画像化するのに十分な検出感度を有していないことが判明した。今後は、本研究開発により有用性が実証された、脳内循環を指標としたアルツハイマー病の画像診断を、PETまたはMRIの新規技術により実現することを目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも蛍光標識体やオートラジオグラフィーなどによる脳の光障害モデルの基礎的検討において、本モデルの有用性が証明されたことについては評価できる。一方、基礎的検討では、成果があったが、最終的に撮像できなかった。今回のSPECTによる脳内髄液循環の画像化の研究で得られた結果から、MRIやPETを用いて髄液の脳内循環を画像化するときの課題ついて技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、脳傷害における髄液の脳内循環の画像化の意義(その必要性)を明確にされることが望まれる。
アミノ酸配列の決定を高効率化する新しいエドマン試薬の開発 山口大学
村藤俊宏
山口大学
浜本俊一
タンパク質のアミノ酸配列の決定には、エドマン分解法が不可欠である。しかし、現行法では反応効率が悪く、アミノ酸残基を紫外吸収で検出する際の感度が低い。これを解決するため、本研究では新しいエドマン試薬を開発し、分析可能なアミノ酸残基数の向上を図るため、検出感度の大幅な改良を目的とした。まず、新規なエドマン試薬の開発を達成し、検出感度が従来に比べ2倍に向上することを見出した。さらに、短鎖ペプチドを用いたエドマン分解が円滑かつ高収率で進行することも明らかにした。以上より、研究は計画通りに進行し、当初の目標を達成した。今後は、実用化に向けて吸収強度のさらなる向上と長鎖ペプチドへの適用を検討したい。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、アズレンイソチオシアネートに着眼し,感度の優れたエドマン試薬を開発し、殆どのアミノ酸では良い成果が得られた技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、大手農薬メーカーとの間で、農薬としての可能性に関する共同研究が実施されていることから、進捗次第では研究開発ステップにつながる可能性があり実用化が望まれる。今後は、エドマン試薬の課題設定とその根拠、また解決できなかった場合の代替案を策定されることが期待される。
胆道・膵臓がんの診断・治療法開発ツールとしてのがん幹細胞モデルの確立 慶應義塾大学
齋藤義正
慶應義塾大学
仁木保
本研究では、難治性がんにおけるがん幹細胞を標的とした革新的な診断・治療法を開発するため、オルガノイド培養技術により、胆道・膵臓がん由来のがん幹細胞モデルの確立を試みた。研究倫理申請の承認に時間がかかり、平成27年11月より胆道・膵臓がんの検体採取を開始した。現在、安定的に培養・維持出来る胆道・膵臓がんオルガノイドを合計で3例樹立した。これらのオルガノイドにおいて、ドライバー遺伝子の変異やがん抑制マイクロRNAの発現低下およびゲノム全体のメチル化レベルの低下などを認めた。今回樹立した胆道・膵臓がんオルガノイドは、胆道・膵臓がん由来のがん幹細胞を標的とした革新的な治療薬を開発する上で、極めて強力な研究ツールとなると考えられる。今後、個々の患者より樹立された胆道・膵臓がんオルガノイドを用いて、薬剤感受性スクリーニングなどを行い、個別化治療の開発に展開したいと考えている。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に独自の方法論に基づいたがん幹細胞オルガノイド樹立に関わる研究を行い、その知見を蓄積するとともに知財の確保を行った点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、膵臓がん幹細胞オルガノイドの樹立効率の悪さの原因、さらにその臨床的意義が必ずしも明確ではない点が気がかりであるが、製薬企業との共同研究が計画されており実用化が望まれる。今後は、より多くの細胞株を樹立するとともに、樹立したがん幹細胞オルガノイドが真に臨床的背景を反映した系であるかの評価と、がんの治療薬開発のためのツールとして応用されることが期待される。
新規エピゲノム編集プラットフォームの構築 東京医科歯科大学
野村渉
東京医科歯科大学
網中裕一
本研究では人工DNA結合タンパク質を利用したDNA修飾酵素に関する開発状況において欧米諸国に大きく遅れを取っている特許取得の現状を鑑み、ゲノム編集技術の分野において、今後開発が拡がっていくと予測されるエピゲノム編集(DNAメチル化によるタンパク質発現制御)に関する技術開発を行った。配列特異的なDNAメチル化酵素に関して基礎的な技術確立を行い、特許出願に足るデータの取得を進めた。研究期間終了時点で高いDNAメチル化活性を得るための構造的な要因を明らかに出来ており、フォローアップ期間において当初の目的を達成できると考えている。今後は対象遺伝子を広げて当技術の有用性と汎用性を立証して特許出願につなげる予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、CRISPR/Cas システムの有用性は国際的にも評価が高いものであり、それに基づいた2つの編集unitシステムの構築の提案であり、また実用化へと差別化の問題点および課題項目を的確に捉えられた研究については評価できる。一方、組み込み型システムの方がより魅力的であるとしているが、完成度が高く汎用性のあるものとするにはハードルが高く、それに向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、研究用試薬として、さらにiPS細胞活用する遺伝子治療に向けた遺伝子高効率編集が行えるシステムの提供につなげられることが望まれる。
医療・バイオ技術への応用を目指すナノファイバーアクチュエータの創成 福井大学
坂元博昭
福井大学
奥野信男
従来のアクチュエータは、100~1000 Vの高電位が必要であるにも関わらず、駆動変位が小さいという駆動性能の低さが課題であった。そこで、ナノファイバーの形状に着目しアクチュエータ素子として用いることで、低電位での駆動およびその柔軟性から従来とは異なり、しなやかな動作が期待される。本研究は、アクチュエータ素子への応用を目的としたナノファイバーを作製し、駆動性能評価を行うことを目的としている。ナノファイバーはエレクトロスピニング法により作製した。導電性を有したナノファイバーを作製するために、伸縮性を有したポリウレタンへ塩化鉄(III)を添加することにより導電性ナノファイバーを作製した。さらに、物性の異なった高分子ナノファイバーも作製し、駆動に違いが見られるか検証した。本研究では、剛直な構造を有したPMMAナノファイバーを作製した。ポリウレタンが駆動に必要とする最低電位は25 Vであり、導電性を付与することよって最低電位は5Vを達成したことから、導電性を付与したナノファイバーの低エネルギーな駆動が期待される。今後は、引き続き基礎的な駆動評価を進めていくと同時に、センサ応用などの可能性も検討していく予定である。 当初目標とした成果が得られていない。中でも、導電性ファイバーの作成には成功したが最も重要なナノ化されたファイバーの作成は出来ず、変位量も目標に到達しなかった。素材としての機能性が目標を達成できていない点での技術的検討や評価が必要である。今後は、損失の少ない製品が完成すれば、社会に還元でき、活用の場も多いと思われるので、さらなる研究をされることが望まれる。
軽量型片手用パワーアシスト車椅子の開発 滋賀県東北部工業技術センター
酒井一昭
滋賀県東北部工業技術センター
阿部弘幸
介護なしで、自ら操作することで快適な走行を実現する軽量型片手用パワーアシスト車椅子の開発を目的に、車椅子用ハンドリムに装備する操作トルク検出機構の簡易化を検討した。また、ハンドリム軸部を改良することによって3本ハンドリム式操作部をユニット化し、車椅子本体部から操作部を容易に着脱できるようにした。さらに、車椅子の操作部、アシスト部や制御部の関連パーツを簡易化・小型化することで車椅子全体を軽量化し、可搬性と操作性が向上した軽量型片手用パワーアシスト車椅子を試作した。今後は、実用化に向けて軽量型片手用パワーアシスト車椅子の完成度を高めるとともに、その適用効果を実証していく予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもハンドリム式操作部のユニット化に成功し、可搬性の向上を実現した点については評価できる。一方、我が国の高齢化に伴い、パワーアシスト付車椅子の需要は大きく伸びてくると思われるが、本課題に関して言えば、現時点では未解決の課題が多く、応用展開への道筋をつけるための技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、トルクを介して車椅子を制御する方式が、操作性に観点で優れているのか、安全性の面で課題はないか、を含めて、実用化に向けて、車椅子のメーカーや車椅子のユーザーと連携した全体を見た研究開発が検討されることが望まれる。
ヘリカーゼを利用した高精度なDNA増幅技術 関西学院大学
藤原伸介
関西学院大学
勝又隆
PCR反応は生化学実験において必須の手法である。反応時の非特異的なDNA増幅は誤った解釈を生じる。本研究では、超好熱性アーキア特異的なDNA/RNAヘリカーゼ(TK0566)をPCR反応に加え、増幅への影響を検証した。TK0566はDNA二本鎖複合体で3’オーバーハング部分をもつ基質(3’突出型基質)に作用し、一本鎖へと遊離(アンワインド)した。TK0566をPCR反応液に添加することで、非特異的増幅が減少し、標的産物の濃縮がみられた。このノイズ低減効果はアーキアのファミリーB型DNAポリメラーゼに対してだけではなく、バクテリアのファミリーA型DNAポリメラーゼに対しても認められた。今後、他の種類の耐熱性ヘリカーゼについても添加効果を検証し、効果の差異を分析する。また、デジタルPCR、qPCRなどの定量PCRに有効かを検討する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に耐熱性ヘリカーゼがPCR反応におけるミスアニーリングがもたらす誤増幅断片の出現を消失させる効果が実証したことに関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、連携する企業も、商品化構想の観点からしっかりとした検討を行っている。耐熱性ヘリカーゼがPCR反応を阻害する本質的な問題があり、PCR反応高精度化をもたらす最適条件、効果発揮の普遍性について、確実に示すことで実用化が望まれる。今後は、PCR高精度化に寄与する耐熱性ヘリカーゼの機能性が明確とは言えないので、他の耐熱性ヘリカーゼについても調査を拡大し、本技術の汎用性、優位性を示されることが期待される。
早産・流産の早期診断におけるプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1(PAI-1)微量活性測定法の開発 浜松医科大学
岩城孝行
浜松医科大学
小野寺雄一郎
血中PAI-1抗原の上昇とそれに伴う易血栓性が脳梗塞や心筋梗塞といった血栓性疾患で認められるが、低下症や欠損症における出血傾向は特に考慮されていなかった。AlphaLISA法によりかなり高感度で抗原測定が可能となったが、PAI-1活性を鋭敏に検出する方法は存在しなかった。今回の研究ではPAI-1と反応するuPAをビオチン化してPAI-1抗原測定用のAlphaLISA法に流用することで鋭敏にPAI-1活性を測定することが可能となった。しかし、検出のための標準曲線を得るための活性化PAI-1の安定度が低いことと、ビオチン化時のuPAの力価の変動がアッセイの標準化の障害となっている。その部分を解決する目的で、今後uPAとPAI-1に対する特異的抗体を効率よく取得する目的で、nanobodyのライブラリーを構築し、スクリーニングで取得したクローンを生成し新たな反応系を構築している。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも活性型PAI-1の安定化が極めて低い状況を克服するために、種々の試みをされている点については評価できる。一方、目標であるPAI-1の微量活性測定法の確立は現時点では達成できていないが、活性型PAI-1のpg/mlレベルでの検出系が開発され確立すれば、早産・流産の早期診断に有用となることが期待されるので、社会還元に導かれると考える。活性型PAI-1の安定化に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、臨床ニーズを再確認して、企業との共同研究されることが望まれる。
腹部・骨盤部悪性腫瘍に対し粒子線治療を可能とするスペーサー技術に応用可能な新規素材の開発 神戸大学
福本巧
神戸大学
小高裕之
PGA縫合糸をマウス腹壁に貫通させるマウスモデルを考案し、細胞浸潤領域の面積(B)/縫合糸の断面積(A)を指標として炎症の強度を評価した。まず分子量の異なるヒアルロン酸を検討したが高分子量ヒアルロン酸処理縫合糸において炎症の減弱効果が認められた。またPGA不織布(粒子線治療用スペーサー)のラット腹腔内埋植モデルにおいても高分子ヒアルロン酸の炎症減弱効果が認められたことから、特許出願を行った。その後ヒアルロン酸を含む、混合物がヒアルロン酸を凌駕する炎症限弱効果を示したのでその作用機序を解明するために、X線解析、熱重量分析などの機器分析に着手した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に粒子線治療のスペーサーに関する新規素材の開発であるが、材料の適応性については一定の成果がみられたことに関する技術は評価できる。一方、技術移転の観点からは、技術的よりも得られた成果の作用機序の解明等が課題となるが、応用展開されれば、臨床的に放射線治療の面で社会還元が期待されるので実用化が望まれる。今後は、吸収縫合糸への新規素材の応用を産学でより一層推進されることが期待される。
糖尿病再生医療の新しいストラテジー 京都府立医科大学
松田修
京都府立医科大学
羽室淳爾
我々は、線維芽細胞に少数の既知因子の遺伝子を導入することで、機能的な褐色脂肪細胞に直接コンヴァートする技術を開発した。肥満マウスや2型糖尿病マウスに移植すると、耐糖能、インスリン抵抗性と脂質異常症等が著明に改善することから、本技術は代謝疾患に対する再生医療に応用が期待できる。しかし現時点ではレトロウイルス・ベクターを用いて遺伝子を導入しているので、非ウイルス的導入法でコンヴァートさせる技術の確立を目指した。その結果、ウイルス・ベクターを用いないヒト線維芽細胞から褐色脂肪細胞へのコンヴァージョンに成功し、その効率を向上することに成功した。今後の展開として、現在行っている産学連携を推進することにより、糖尿病等に対する新しい再生医療に結実させる予定である。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、より安全なベクターとしてエピゾーマル・ベクターが応用され繊維芽細胞から褐色脂肪細胞へのダイレクト・コンバージョンに成功している技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、当該研究者は糖尿病患者への褐色脂肪細胞移植治療にも強い意欲があり、遺伝子導入を伴わない小分子化合物を用いた褐色脂肪細胞への新規のコンバージョン法を確立している。新しい技術による産学共同研究開発に方向転換することでの実用化が望まれる。今後は、新規コンバージョン法を用いた誘導褐色脂肪細胞による新しい糖尿病治療の確立されることが期待される。
アトピー性皮膚炎の治療と予防を目的としたフィラグリン遺伝子変異迅速診断キットの開発 名古屋大学
秋山真志
名古屋大学
天野優子
他大学との共同研究として、小学生数百名のフィラグリン遺伝子(FLG)変異検索を行い、参加者からのアンケートおよび臨床検査データを用いて、アトピー性皮膚炎(AD)などアトピー性疾患とFLG変異の関連を調査した。現在、データを解析中である。
また、AD患者および尋常性魚鱗癬疑いの患者に対するFLG遺伝子変異解析を行った。家族性尋常性魚鱗癬症例では、新規変異検索を行った。
今後は、様々なアトピー性疾患とFLG変異との関連についてのデータを蓄積することでFLG変異検索の有用性を示しつつ、キットの開発を進める。尋常性魚鱗癬の家族例の変異検索により、日本人におけるFLGの全変異の把握に今後も努め、キットの完成度を高める。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、数百人の小学生のフィラグリン遺伝子を検討し、フィラグリン遺伝子異常と食物アレルギーとの関連を明らかにしたことは重要であり、評価に値する。また新たな遺伝子変異を発見した技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、フィラグリンの遺伝子が日本人では10+1個のみなのか、尋常性魚鱗癬との鑑別が遺伝子のみでできるのか、などの課題は残るが遺伝子キットの開発などでの実用化が望まれる。今後は、アトピー性皮膚炎を含むより大きな集団での、本遺伝子の特異性を検討されることが期待される。
臓器モデル材料用ハイドロゲルの開発 青森県産業技術センター
葛西裕
本研究開発では、臓器モデル材料としての利用を目的としてポリビニルアルコールとアルギン酸からなるハイドロゲルの検討を行った。本研究のハイドロゲルの作製方法によれば、ヒトの血管を模した様々な形状の血管モデルが作製可能であり、この血管モデルは手術の手技訓練にも利用可能なものであった。作製した血管モデルの力学特性を評価したところ、弾性率はヒトの血管と同様の範囲を示したが強度はやや低かった。今後は医師と連携することにより、生体の臓器により近い質感を有する臓器モデルの開発に向けてハイドロゲルの改良を行っていく予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ポリビニルアルコールとアルギン酸からなるハイドロゲルを用いた臓器モデルの製法を確立した技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、製法が広範囲なのはいいが、これらを整理すべきである。実用に供するためには、力学物性の向上や、また外科医の先生の評価にもあった血管の層状構造のモデル化などでの実用化が望まれる。今後は、ニーズと要求性能を明確にして、そのための製造条件の精査が必要である。血管モデルを目指すのであれば、生体模倣も念頭にいれ、層構造、複合構造も視野に入れることが期待される。
脳神経繊維の走行方向を可視化する新規偏光観察法の開発 慶應義塾大学
高田則雄
慶應義塾大学
笠間隆志
本研究開発の目標には「脳の神経線維の走行方向を可視化すること」を掲げた。この目的のために現在利用されている方法は核磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance Imaging; MRI)である。MRIを用いれば非侵襲的に神経線維連絡を把握できる利点がある一方で、空間解像度が低い(0.2~1 mm)ことや機器が高額で使用機会が限定されるなどの欠点がある。そこで本研究開発では、神経科学の研究室が通常所有している脳切片作成装置を活用し、新規の光学系と融合させることで、脳切片中の神経線維走行方向の取得実現を目指した。その結果、MRIの100倍程度の高い空間解像度(0.005 mm)で神経線維走行を示す画像を得ることに成功した。今後は企業と連携し、計測の自動化や製品化を目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも撮像画像の解像度も当初より細かいことが示されたことについては評価できる。一方、取り込んだ画像を画像解析装置に取り込んで解析を行っており、これにより三次元再構築が可能となっているが、報告書の写真を見る限りでは、実用化に向けては解像度などの改良に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、この顕微鏡で観察された構造が、組織内の何を見ているのかという検証が必ず必要である。観察した組織切片を、免疫組織などによりさらに観察して、この光学系でみた構造が何に相当するのかを明らかにされることが望まれる。
長寿遺伝子をターゲットとしたアンチエイジング食品探索システムの構築 九州大学
片倉喜範
九州大学
松園裕嗣
本研究において申請者は、全身をターゲットにした網羅的アンチエイジング食品探索システム構築のために、長寿遺伝子としてはSIRT1、SIRT3、SIRT6に着目し、それらを腸管上皮、皮膚、肝臓細胞、神経細胞において活性化する食品をスクリーニングするための系を構築することに成功した。当該システムを用いることで実際に、結腸がん抑制能、紫外線誘導型DNA傷害修復能、脂肪肝抑制、神経細胞活性化能を有する食品の探索とその同定に成功した。本研究で構築したシステムを基盤とし、各種民間企業との共同研究の可能性を模索するとともに、公的な研究開発支援制度を利用して産学共同研究開発を実施することを検討している。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、長寿遺伝子7種のうち、3種について、腸管上皮細胞(Caco-2)を用いた遺伝子増強検索システムの構築に成功している。また、SIRT1遺伝子については、皮膚由来細胞、前駆脂肪細胞を用いた探索システムを構築し、いくつかの食品成分による増強を認めている点に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、検討すべき長寿遺伝子の数を増やすことと、対象細胞の種類を増やすことで、全身系の網羅的アンチエイジング探索システムを構築することなどが望まれる。今後は、長寿遺伝子、対象細胞種の数を増やし、企業との連携を検討されることが期待される。
イノシトールリン脂質代謝酵素を標的とした心不全治療薬開発の基盤研究 金沢大学
吉岡和晃
金沢大学
安川直樹
超高齢化の進行により、心不全の有病率、死亡率が増加し、病態の解明とより有効な治療法の開発が期待されている。申請者は、クラスII α型PI3-キナーゼ 酵素(PI3KC2α)の心筋細胞特異的ノックアウト(KO)マウスが心肥大・心不全を自然発症することを見出した。本研究では、本KOマウスによる「心筋細胞障害型心不全モデルマウス」を確立し、PI3KC2αによるPI(3)Pレベル依存的な心筋細胞機能調節機構を明らかにすることを目的とした。その結果、有効な心筋細胞障害型「心不全」発症プロトコールの確立と評価法の開発に取り組んだ結果、生後24週齢における心エコー検査において、CKOマウスの左室壁厚・左室内径の上昇、及び左室内径短縮率の有意な低下が観察された。以上のことから、PI3KC2α欠損は、加齢に伴い心不全発症をひきおこすことが示され、心不全モデルマウスとして有効であると考えられた。この心筋PI3KC2α遺伝子欠損マウスはこれまでと全く発症機序の異なる新規な心不全モデルマウスとして、有用な心不全治療薬開発の開発基盤となることが期待できる。今後、AMED等の創薬開発関連外部資金の獲得や企業との共同研究のステージに進めていきたいと考えている。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に動物モデルの病態を緻密に解析し、試験管内での作用機序解析系も立ち上げた点は高く評価できる。
一方、技術移転の観点からは、実際に本モデルが心不全を起こすかどうかは明らかでなく、SHR-SPのように確実に疾患を発症するモデルに近づける必要があると思われる。今後、薬物スクリーニング系を含め、技術移転活動を活発化されることを期待したい。
骨疾患再生治療のためのフィージブルな骨芽細胞製剤の創生 京都府立医科大学
岸田綱郎
京都府立医科大学
羽室淳爾
骨粗鬆症性骨折後の癒合不全や歯槽骨吸収などの骨疾患は、高齢者を中心に多くの患者がおり、ADLとQOLを著しく損なう疾患である。これら疾患に対する新しい再生医療を開発する目的で、我々は最近、ヒト線維芽細胞から直接骨芽細胞を誘導する技術を開発したが、臨床応用に向けて、さらにすぐれた誘導技術の確立が必要とされる。本実験では、骨芽細胞誘導法にさらなる検討を加え、誘導条件の適正化と異種たんぱくを必要としない誘導法の開発、また得られた骨芽細胞の生体内での骨形成の評価を行った。その結果、骨形成能を有する骨芽細胞をゼノフリーに誘導できる条件を見出した。本研究開発の成果は、新しい骨再生医療に繋がる可能性がある。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に線維芽細胞から骨芽細胞に誘導する試薬について、培養条件を検討した研究であり、遺伝子導入を行わず、FBSフリーで骨再生を行える点に関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、患者の細胞から作製した骨芽細胞を自家移植して臨床応用を目指すのが最も現実的ではないか。遺伝子導入で誘導した骨芽細胞よりも骨再生能が低いようだが、再生能が臨床応用に耐えられるレベルなら臨床研究に進むことでの実用化が望まれる。今後は、薬機法や再生医療新法に強いコンサルタントを加えて研究開発されることが期待される。
プラチナ活性化による新規白金抗がん剤の開発 金沢大学
黄檗達人
金沢大学
渡辺奈津子
1,10-phenanthlorineの5位に置換基を導入したR1phen (R1 = H, OH, OMe, Cl)とN-1-Anthracen-9-ylmethylpropane-1,3-diamine (AtC3)を配位子としたPt(R1phen)(AtC3)およびbpyの4,4’位に置換基を導入したPt(R2bpy)Cl2 (R2 = H, NO2, Me2N)を合成し、これらの白金錯体の置換基の電子求引性・電子供与性が細胞毒性に及ぼす影響を検討した。結果、Pt(R1phen)(AtC3)においては置換基の電子求引性と細胞毒性に一定の相関が示され、また、Pt(R2bpy)Cl2において置換基の電子求引性とDNAとの反応速度に一定の相関が示された。以上の結果から、置換基の電子求引性を利用することで白金錯体の抗がん活性向上が可能であることが示された。今後は、動物実験により安全性に関するデータを取得し、技術移転を積極的に進めていく。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、錯体合成化学の技術を基本とした新しい抗がん剤の開発を目指した意欲的な研究であり、学術的にも興味深い点が含まれていることについては評価できる。一方、当初予定していた化合物の合成に難航し、PtNMRの測定に至らなかったので、 目的とする錯体の合成と同定に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、目的とする化合物の合成を完了し、構造や物性の詳細を明らかにした後、細胞毒性や抗がん作用における構造活性相関についてより詳細な考察が望まれる。
単一光子アバランシェダイオードを体内埋込撮像素子に応用した体内撮像式STS刺激方式人工視覚システムの開発 奈良先端科学技術大学院大学
徳田崇
わが国で開発が進む脈絡膜上経網膜刺激(STS)方式の人工視覚技術と組み合わせ可能な高感度光検出回路を、CMOS集積回路上の単一光子アバランシェフォトダイオード(SPAD)で実現した。STS配置ではデバイスを網膜の後ろ(強膜ポケット)に挿入するため、光を遮る脈絡膜を透過した弱い光を検出する必要がある。本研究ではSPAD搭載型のCMOS神経刺激チップを設計・試作し、実装開発を行った。STS配置におけるSPADの感度を評価し、設定した目標感度を1桁以上の余裕をもって達成できることを確認した。
高感度光検出機能の搭載に加えて、新しい材料を用いた網膜刺激電極の性能改善を行った。ナノコンポジットハイドロゲルによる電極コーティングを開発し、in vitro (生体外)およびin vivo (生体内)での性能評価を行った。その結果、性能改善効果と、機械的特性等での課題が判明した。その解決手段としてナノ白金構造との複合化を試み、電荷注入能力において目標達成レベルの性能を得た。
今後の研究展開として、SPADによって検出した光情報から眼球位置などの情報を得るシステム機能化に取り組む、また形成条件に敏感な電極高性能化ナノコーティングについて、再現性良く高い性能を発現し、長期間にわたって維持する形成プロセスおよび運用条件(プロトコール)を確立していく。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、脈絡膜を介した網膜刺激方式(STS方式)を基本とする撮像素子一体型の人工視覚システムの実現を目指した基礎研究で、感度評価では目標を超える成果を得たことに関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、果たして本研究で検討した方式が人工視覚システムの最終方式として残り得るものかどうかまだ不確定であるが、安全に眼球運動情報を取得できる特長を有していることから実用化が望まれる。今後は、STS方式の人工視覚技術と組み合わせ可能な高感度光検出回路について長期的な性能評価を中心に引き続き検討されることが期待される。
顔画像と手背の反射成分と形状に関する特徴量解析による簡易望診システムの開発 金沢大学
小川恵子
金沢大学
安川直樹
予防医学の観点から漢方医学的診断である望診が注目されている。申請者らは望診の概念を客観的に数値化するため研究を進めてきた。健常人における「お血」("お"はやまいだれに於)と舌の色との相関、動脈硬化と舌分光画像解析データとの相関を明らかにした。さらに皮膚や四肢末端の分光情報からお血スコアと四肢末梢ヘモグロビン値に相関がある事を示した。本研究では、以上のような実績を元に全顔と手背における色素濃度分布,表面反射成分,および顔形状の特徴点について特徴量を取得、解析するシステムを確立した。この技術を用いて得られたデータから、実際の望診やその他の診断法による結果との相関関係を検討する予定である。これにより、簡易望診システムの開発が可能になる 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも簡易望診システムにおける特徴量の取得・解析する技術を確立したことについては評価できる。一方、定量化診断の信頼性を高めるためにはまずはデータベースを充実することが必要で、全年齢データベースや健康度データベースの構築に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、データベースを早急に構築して,システムの性能評価をされることが望まれる。
画期的なX線造影検査時の術者被ばく線量低減保護具の開発 東北薬科大学
森島貴顕
東北大学
渡邉君子
寝台縦置きでも対応可能な追加の鉛防護具を開発した。新型追加鉛防護具を使用することで散乱線量を35%~60%除去することができたが、1/10まで低減したいという当初の目標は達成できなかった。その理由として、寝台横型の防護具に比べ、防護具全体で透視装置を覆うことができなかったことにより、覆われていない部分からの散乱線を防護できなかったことが挙げられる。今後はいかに覆われていない部分を少なくできるか検討していきたい。
また、付加フィルタを使用することで患者皮膚線量を最大55.1%低減することができた。低エネルギーX線領域が除去されたためであると思われる。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、新たな放射線防護具の開発と基本性能の評価がおこなわれ、35-60%の除去が可能であったが、1/10まで低減する当初の目標は達成できなかった。しかしながら、その原因は明確であり、次の展開は予想できるようになったことについては評価できる。一方、 覆われていない部分からの散乱線の防護に関する研究などが必要に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、放射線診断装置の機器メーカの設計段階での被爆低減のためのアドバイスや要望を受けることが望まれる。
Txnip誘導阻害化合物による糖代謝改善薬の開発 京都大学
増谷弘
京都大学
村田昭子
研究責任者は、糖尿病の悪化因子thioredoxin interacting protein (Txnip)/ thioredoxin binding protein-2 (TBP-2)の高血糖による発現誘導を阻害する低分子化合物のスクリーニング系を作成し、糖の取り込みを改善する11種類の新規の低分子化合物の候補を得た。これらの化合物について、シグナル経路の検討、2型糖尿病マウスモデルob/obにおけるin vivo評価を行い、一部の化合物は高血糖の改善効果を示すことを明らかにした。さらに、シグナル経路を明らかにし、化合物の構造機能相関に関する知見を得た。概ね当初の研究課題を達成できたと考えられる。今後、化合物の合成展開を行い、物質特許の取得を目指すとともに、そのターゲットを同定する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも研究者が独自で手がけている分子であるTxnipを標的としている点については評価できる。一方、in vivoにおいて、効果的で、副作用の少ない化合物取得に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、化合物が「in vivoにおけるインスリン感受性・分泌を正常化させる」ために、「in vitroでどの程度までTxnip発現を抑制する必要があるか」の情報を得て、in vivoでのスクリーニングを効率的に実施することが望まれる。
ピセアタンノールのアストロサイト増殖作用の検証 早稲田大学
新井大祐
経口投与したピセアタンノールが脳内のアストロサイトを増加させることを明らかにした。成体マウスにピセアタンノール(10 mg/kg BW)を14日間投与すると、海馬歯状回のアストロサイト細胞数が対照群と比較して有意に増加しており、我々が以前に得ていたin vitro実験の結果が裏付けられた。構造類縁体でありワインの有効成分として有名なレスベラトロールはin vitro、in vivoのいずれにおいても活性を示さず、ピセアタンノールの特徴的な機能であることが判明した。また、今回実施した細胞形態観察ならびに遺伝子発現解析からはピセアタンノールに誘導されたアストロサイトに異常は認められず、安全性を支持する間接的な知見を得た。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、マウスの動物実験でピセアタンノールが脳内のアストロサイトを有意に増加させることを確認したことに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、アストロサイト障害マウスでの実証試験や作用メカニズムの解析、食餌としての投与の効果の検証などでの実用化が望まれる。今後は、機能性食品としての実用化の観点から、知財の確保と共に、品質管理に関わる成分の安定性など基礎的なデータも積み重ねることが期待される。
人体内の電磁界高精度評価のための大規模シミュレーションに関する研究 宮崎大学
武居周
苫小牧工業高等専門学校
土田義之
本研究は、マイクロ波帯域の電磁界を用いた医療機器の治療品質向上に向けて、生体内の電磁界強度の高精度な予測に必要となる、スーパーコンピュータ利用を前提とした大規模電磁界数値解析手法の開発に関するものである。人体の解剖データに基づき構成された高精度な数値モデルを用いて、これまで研究責任者が検討を進めてきた並列有限要素法に基づくFull-wave 電磁界解析手法に対して、スーパーコンピュータ上において高性能化のための開発を実施する。本手法の実証問題として、数億要素規模の数値人体モデルによる解析を実施し、手法の性能評価を行う。本研究開発期間において、まず、東京大学情報基盤センターが所有するスーパーコンピュータ:Oakleaf-FX10 上で解析コードの調整、および動作検証を行い、Oakleaf-FX10 上での性能改善が確認された。また、メッシュスムージング機能の実現により、ボクセル階段形状に由来する電界の反射・回折によるノイズを低減することに成功し、より高精度な解析結果を得ることができた。本成果によって学術論文5 件(全て査読付きジャーナルペーパー)、学会発表14 件と受賞1 件の実績が得られた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にFull-wave電磁界解析手法に対してスーパーコンピュータによる高性能化を達成し、メッシュスムージング機能の実現により高精度化を図り、大規模電磁界数値解析手法を開発している点関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、シミュレーション時間が数時間あるいは数十時間程度に短縮されることが,ハイパーサミア治療機器や医療現場などでのニーズに寄与するものと予想される。今後は、高速化技術の進展と共にPCなどへの展開が期待される。
タンパク質性薬物のための活性保持型超分子 PEG 化キットの開発 熊本大学
東大志
熊本大学
槐島慎
申請者らはこれまで、タンパク質の活性を損なうことなくポリエチレングリコール (PEG) を修飾する方法を開発し、インスリンの血中滞留性を持続させることに成功した (SPRA 技術)。これは、シクロデキストリンとアダマンタンのホスト-ゲスト相互作用を介して、タンパク質に PEG を修飾する新規の技術である。本申請課題では、SPRA 技術をキット化することを目標とし、①活性化アダマンタンの保存方法の設定、②様々な PEG 分子量の PEG 化 β-シクロデキストリンの調製、③インスリン以外のタンパク質を用いた検討を行った。本研究期間において、上記内容は概ね達成できた。現在、本キットの上市を目指し、開発を遂行中である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、たんぱく薬剤へのPEG化による薬効(活性能)長期維持技術をもちいたSPRA技術の普及型キットの開発を目指し、特定薬剤のPEG化に成功し、活性低下を防止できた点に関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、実用可能な段階に達するならば、インスリンに限らず多くの薬効維持が可能になり、跳躍による薬害、副作用の軽減に繋がるDDSが可能になるなどでの実用化が望まれる。今後は、事業化を目指すためには基本技術に対する特許取得を優先されることが期待される。
新規ウイルス吸着材サクランを基剤としたエイズ予防技術の開発 熊本大学
岡田誠治
熊本大学
槐島慎
HIV-1の感染拡大防止には、予防法の確立が重要である。現在、開発途上国では、女性主体の感染予防法としてマイクロビサイドが使用されているが、他の性感染症を防げない、デリケートな粘膜への副作用など、多くの問題点がある。本研究では、スイゼンジノリ由来の新規高分子多糖類であるサクラン(Sacran)に強力な抗HIV-1作用を見いだした。サクランは、HIV-1を吸着・不活化すると共に、高い粘性と保湿作用、皮膚粘膜保護作用、抗炎症作用を有することから、コンドームの潤滑剤、マイクロビサイドの基剤等として、エイズ予防技術への応用の可能性が強く期待できる。現在、特許申請書類作成中であり、特許申請後に導出先企業を検討する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもサクランの抗HIV-1効果については充分に検討されており、製品化(例えば、性交渉用潤滑剤など)については明確で具体的である点については評価できる。一方、今回の結果を受けての研究計画は明確にされていない。本研究によりサクランの特性等が調べられたが、それらの応用展開や技術移転に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、本研究成果を具体的な特許として出願し、企業に移転する技術を明らかにすることにより、企業化への展開を図られることが望まれる。
化学合成糖鎖のガン診断への応用 群馬大学
松尾一郎
群馬大学
小暮広行
ガン化に伴い特異的に構造が変化する糖鎖を化学合成,得られた合成糖鎖を利用してガン特異的糖鎖認識タンパク質を検出・取得するためのプローブとすることを目的にLacdiNAc構造を有する3糖および,その硫酸化体を合成した。またLacdiNAc糖鎖の部分構造および複合型糖鎖も合わせて合成した(計7種類)。得られた3糖誘導体の還元末端部分のアミノプロピル基を介して糖鎖抗体を作製するためのLacdiNAc結合タンパク質(抗原)を計2種類調製した。一方,LacdiNAc認識タンパク質を選別するためにLacdiNAc糖鎖および関連糖鎖結合プレートの作製とLacdiNAc糖鎖をビーズに導入したアフィニティー担体を作製した。そしてLacdiNAc糖鎖結合アフィニティーカラムを用いることにより乳癌細胞からガン関連LacdiNAc認識タンパク質を同定した。本研究で得られた抗原を用いた抗体作製,また今回同定したタンパク質も利用して, LacdiNAc糖鎖検出に基づくガン診断研究へと展開する。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、がん診断に応用できるLacdiNAc糖鎖認識タンパク質の取得と高感度検出を目的とした糖鎖材料の開発を目標にし、前立腺や乳腺に特異的ながん診断に役立つ糖鎖を化学合成して、それを応用した種々の有用化合物の合成にも成功している技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、すでに他機関等との情報交換をおこなって、実用化に向けての研究開発を進めており、現実的な特許化の構想が組まれており実用化が望まれる。今後は、代表者が認識して記載していることではあるが、医療現場に近い研究グループとの共同研究を展開して、役立つ技術獲得を志向されることが期待される。
癒し効果を目的とする高機能電磁風鈴を用いた心理療法装置の開発 岩手大学
永田仁史
岩手大学
小川薫
電磁駆動の風鈴を用いた心理療法装置開発を目的とし、鈴虫の音色の南部風鈴を電気信号で鳴らすための電磁駆動発音部の構造と駆動信号生成処理の詳細検討を行った。この結果、発音部の構造については、駆動材料と要素部品の配置について効率的に動作させるための知見が得られた。また、駆動信号生成処理については、入力信号に忠実な発音のための包絡線抽出に基づく処理を開発し、また、包絡の強調による過渡区間の改良処理を提案、開発した。さらに、背景雑音に影響されない風鈴の共振周波数自動抽出処理法も提案、開発した。得られた知見をもとに、複数の電磁風鈴を並べた発音システムを試作した。鈴虫の音色の南部風鈴については、鈴虫様のスペクトルを発生できるものの、通常の製品と比較すると響き等に問題があり、音色に関して満足のゆく形状と材料を見出すことが課題である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、発音部の構造、駆動信号の生成について、重要な知見の獲得あるいは有用な方式を実現するに至った点は大いに評価できる。一方、本研究の目的である「心理療法装置」としては、効果の観点でのビジョンを示し、その科学的裏付けのための技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、技術移転につなげるために、特許化に加え、技術の社会的ニーズ及びデザインも含めた複合的な観点からの心理的効果を詳細に調査し、それを開示していくことが望まれる。
高濃度含有抗体製剤の新規DDS素材としての超分子ハイドロゲルの開発 熊本大学
有馬英俊
熊本大学
槐島慎
本課題では、α- および γ-シクロデキストリンがポリエチレングリコール (PEG) とポリ擬ロタキサン由来のハイドロゲル (PPRX-HG) を形成することを利用し、各種抗体医薬の安定化を行った。各種抗体を PPRX-HG に封入すると、熱や振とうに対する安定性が著しく改善され、活性も保持されていた。また、抗体医薬封入 PPRX-HG をラット皮下投与後の血漿中抗体レベルは、ゲル未封入系と同等であり、さらに、PPRX-HG は血液生化学検査値に変化を及ぼさなかった。目標は概ね達成できた。現在、パートナーとなる製薬企業を探しており、2016 年度中に技術転移を行う予定である。また、本研究内容にて、1 報の学術論文を発表予定している。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、抗体をハイドロゲルに封入し、各種安定性、ゲルからの抗体の放出並びに体内動態、安定性などの当初目標に達した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、長期間にわたり、抗体が放出されているので、in vivoでの初期バーストが起こっていないかを確認することが望まれる。また、知財権確保のために早期出願が望まれる。今後は、医薬品としての総合的な非臨床試験を実施して、臨床評価を実施されることが期待される。
超音波エコーロケーションによる視覚障害者用空間認識支援機の開発 呉工業高等専門学校
横沼実雄
公益財団法人くれ産業振興センター
山岡秀明
目標(1)について,反射波が対象物の厚みに対して依存性が低いことから,対象となる材質の内部伝達特性や板材全体の剛性に依存性が低いと考えられる知見を得た。また,この結果より各材質での表面波特性の把握が重要であると考えられ,今後は反射材の各材質での表面波特性,他特性値と超音波エコー波形変化との関係を導くため,解析・検討を進める。また,これを主目的としたテーマで,平成29年度科研費基盤C部門への応募を予定している。
目標(2)について検討するため,多種の波形発生が可能な超音波発信器を製作し,主にAM方式とFM方式による反射波波形分析や成分分析を行った。これにより,材質判別におけるAM方式の有利性が確認できた。しかし,今回の変調波である方形波変調では材質による波形変化が十分ではなく,より有効な超音波発振条件を検討中である。また,この検討を進める中で,超音波発振を連続して行うFM方式よりもAM方式の方が消費電力の点でも有利であることが判明した。これらの知見は,目標(1)を達成するために継続する基礎研究に応用していく。
目標(1),(2)に関する検討で課題が残るため,(3)被験者による試用の段階まで至っていない。ただし,上記課題は解決可能であると考えており,少なくとも(2)での課題が現状より解決されれば被験者試用とデータ取得を進めたいと考えている。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも視覚障害者の歩行支援杖などを開発する課題で、超音波エコー信号波形が対象物材質で異なることは興味深く重要な発見であると評価できる。一方、空間認識のための材質や形状の識別が可能なレベルにはまだ達しているとは言えず、材料の特性は単純ではないので多変数を考慮した分析に向け、技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、信号の特性を分析するだけでなく、視覚障害者等の感覚と反射部材の関係を明らかにして、そこから新しい信号検出基準を導き出すことも考えられ、検討されることが望まれる。
脳卒中患者の運動機能回復を促進するロボット療法の開発 ― 臨床エビデンスに基づく身体協調トレーニング ― 大阪大学
平井宏明
大阪大学
有馬健次
本課題では、「身体協調に基づく身体の剛性と平衡点の調整訓練が脳卒中患者の運動学習を促進し、運動機能回復に効果的であること」を臨床的に実験実証することを目的とする。ここでは、運動学習の過程において、所望の運動を実現するために筋群活動がどのように組織化され、協調関係が創発されていくのかを解析することで、身体協調の再獲得を促進する運動介入法を開発し、エビデンスの獲得に取り組んだ。得られた結果は、身体協調の概念が運動の評価や診断、さらには運動の支援や訓練に有用であることを指し示している。今後は被験者数を増やし、更なるエビデンスの強化に努める予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に本研究の成果により、脳卒中患者の運動の評価や診断、さらには支援や訓練に有用なロボット療法を開発できる可能性が極めて高められた技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、エビデンスをさらに取り、理学療法士によるリハビリテーションの代替も目指すのか,それとは別とするのか,または両方を兼ねるのかといった本研究の位置づけを明確にすることでの実用化が望まれる。今後は、本研究の成果の確実な技術移転へ向けて継続的かつ精力的に研究を推進していただきたい。さらに、外国特許出願も是非とも実現されることが期待される。
ピロリ菌関連胃がんの早期診断を目的とした腫瘍マーカーの探索 東京大学
三室仁美
本研究では、血液等を用いた低侵襲検査による悪性胃がん早期診断に使用可能なバイオマーカー開発のために、ピロリ菌感染により変動する宿主タンパク質の探索同定を目的としている。胃上皮細胞株での網羅的解析から見出した標的候補因子の測定系構築を実施し、胃がん患者血清中の候補因子濃度を測定した結果、既存の腫瘍マーカーよりも感度・特異度の高いシーズを見出した。 今後さらに残る因子の測定系を確立して患者血清測定を行い、腫瘍マーカーとなりうる因子を選定するとともに、特許出願を行う。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、腫瘍マーカー候補蛋白質としてピロリ関連胃癌の診断においてかなり有望なものを同定されたことに関する技術は評価できる。一方、技術移転の観点からは、産学連携に有望な蛋白が同定され、今後の研究の展開がとても期待されるので特許出願などでの実用化が望まれる。今後は、研究のスケールアップ、プラスαの方法や新たな展開などが加われば世界的に有用な腫瘍マーカーが得ることが期待される。
タンパク質結晶構造解析のための実用的な結晶化タグの開発 北海道大学
姚閔
北海道大学
須佐太樹
本事業では、私達が開発してきた構造解析のためのタンパク質結晶化を促進するタグを様々なタンパク質に適用し、実用的な製品とすることを目指した。そのため、当研究室にて結晶がまだ得られていないタンパク質7種類(膜タンパク質を含む)に結晶化タグを適用した。そのうち、発現した4サンプルの全ては、計画とおりに多量体化ができ、1サンプルの結晶化に成功した。また、モデルや新規タンパク質を用いてタグとタンパク質間のリンカーを検討し、ノウハウを蓄積した。今後、引き続き、タグを結晶化に困難なタンパク質に適用し、タグとリンカーを改良し、さらにヘテロタグへの展開も試みる。また、多量化による酵素反応の効率化の検証も行う。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、可溶性の新規5種類に2種類のタグをN末端とC末端に融合し発現させ、調製して結晶化試料とさせたところ、Rpf2-Rrs1複合体で2つの結晶化条件で結晶を得た点については評価できる。
一方、結晶化が困難なタンパク質(膜タンパク等)への適用だけではなく、タグ2RS1(2RS1R7L)、3RS1適用が有効となるタンパク群を見つけることも重要であると思われる。
多量体で会合させ、反応効率を上げる用途は市場性も高く、工業利用も考えられるので、今後は、産学連携可能な研究開発計画を立てて実施されることに期待したい。
ねじり延伸法を用いた「高強度骨固定プラスチックスクリュー」の開発 首都大学東京
小林訓史
首都大学東京
横手陽介
生体吸収性プラスチックを用いた骨折固定用高強度スクリューを成形する手法として,押出延伸とねじり延伸を組み合わせた手法を開発した.本手法では押出延伸により一軸に配向した繊維を切断することなく,らせん状に配向させることが可能である.このため,治療時に必要とされるせん断強度を損なうことなく,スクリュー挿入時に必要とされるねじり強度を向上させることが可能となった.ねじり強度は分子鎖を最大主応力方向に配向させることにより最大値を取ることが明らかとなった.生体吸収性プラスチックとしてポリ乳酸を用いた場合,目標値であるせん断強度70MPaを達成することが可能となり,安静時であれば全身へ適用することが可能となった.さらに配向を最適化することにより,日常生活程度の運動下での適用へと展開していく予定である. 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に計画通りに実験研究が行われ,ポリ乳酸により骨と同等の強度のプラスチックスクリューが作製できることを具体的に示した技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、本研究における構想が実現されれば,骨折治療が劇的に簡易化され,その成果の社会への還元効果は非常に大きいと思われるので実用化が望まれる。今後は、使用材料の変更による締め付け可能トルク値を確認し,次のステップへ進まれることが期待される。
大気圧プラズマを応用したTi合金の白色化処理の開発 兵庫県立大学
三浦永理
兵庫県立大学
福井啓介
溶体化熱処理を施した後鏡面研磨したTi-Nb-Ta-Zr板材に,大気圧プラズマ発生装置にて表面処理を施し,表面に白色被膜の被膜形成の有無の確認と,プラズマ照射条件の予備実験を行った結果,照射部の白色化の可能な照射条件を見出した.そこで前処理として,基板にショットピーニング(SP)処理を行い,表面に凹凸と加工層を導入した後,プラズマ照射を行った.その結果,SP処理を施すことで,プラズマジェット半径より広い領域で白色化が促進され,また白さを示す明度も上昇した.また,プラズマ処理で生成した白色被膜の剥離強度も,SP処理を照射前に施すことで著しく上昇した.歯科矯正ワイヤを想定したTNTZワイヤでは,高温酸化による白色化ワイヤでは著しい金属基板の脆化が起こるが,大気圧プラズマで白色化したワイヤは延性の維持が可能であった.更なる高明度化や,軟化抑制などの課題は未だ残るが,本技術により,高温酸化処理では困難であった矯正ワイヤ等,一定の加工性が求められる矯正デバイス等へも,酸化被膜による白色化処理適用の可能性が示された. 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に主に歯科用材料として、本処理により、目標とする広領域の高白色明度さらに皮膜の耐剥離性を得ることが出来たこと、さらに歯科矯正ワイヤに向けた延性向上も得たことの点で評価できる。一方、技術移転の観点からは、白色化、靭性、強度、密着性で要求される性能を達成した上での実用化が望まれる。今後は、基礎的な問題の解明を続けると共に、実用規模への進展のための手法を検討すること、白色化処理をすると破断伸びや破断強度がある程度低下するが、問題が無いのかの検討および歯学部や歯科医師等、実装できる組織との共同研究等を進めることが期待される。
CPCを必要としない閉鎖系培養器具を用いた再生医療技術の開発 東京大学
横尾誠一
東京大学
鈴木友人
再生医療等製品の製造工程における外部汚染リスクの完全排除により、求められる安全性を達成するための製造環境の緩和の可能性を探るべく、気密培養包装の開発と検証をPMDAとの対話を通じて行った。箱型容器を使用した気密性のある培養包装を開発し特許を出願した。また細胞投入口を備えた500mlの培地容量がある培養包装を開発した。PMDAとの対話により気密環境での製造が全く想定されていないことが判明した。個別化医療である自己由来組織・細胞を用いた再生医療等製品は追加の資材投入が不要であり、滅菌が保証される気密環境中での製造が可能である。PMDAからは、周囲の環境に対し堅牢かつ高度に気密性が確保され、製造毎にその完全性が保証されることで、気密環境での製造も可能と考えられる旨、回答を頂いたが、細胞注入時のゴム栓部の針刺しについて、清潔環境が求められ、今後の課題としてより安全な細胞注入法の開発が求められる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に予定通り、気密培養包材を開発し、袋状容器が極めて有効であることを明確に示した。試験的に用いた細胞の現実味も高く、結果は大いに信頼できるもので、技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、PMDAとの対話により、細胞注入時に清潔を保つ必要性が指摘されてはいるが、既に企業との協議を行っており、新たなベンチャー設立についても進められており実用化が望まれる。今後は、既存企業との協力で、動物実験等により、目的としている再生医療をリアルに模した試験を複数の側面から繰り返し、臨床への利用可能性を示されることが期待される。
移植臓器機能再生のための臓器灌流による機能評価技術の開発 首都大学東京
小原弘道
首都大学東京
横手陽介
本研究では肝臓ならびに腎臓を対象として,臓器の機能保全・回復および臓器機能評価が可能な臓器灌流技術の確立に重要となる臓器機能評価に着目し,特に,移植臓器機能再生のための臓器灌流による機能評価技術の開発をおこなった.臓器移植が必要な患者数に対して提供,移植される臓器数は非常に少ない.一つでも多くの命をつなぐためには臓器機能保存さらには再生,その臓器の機能を判定することが重要となる.そこで,本研究では臓器内の血管に関する流動に着目し,低侵襲に臓器機能を評価する方法を提案,大動物実験により当該技術を検証することで,臓器機能評価技術の可能性を示した.今後,前臨床としての臨床に近い大動物実験,ならびに臨床研究による成果をふまえ,当該技術を臓器灌流装置に実装することによって,臓器の移植適用可能性を拡大し,大幅な臓器移植件数の増加が期待され,多くの命をつなぐことが可能となる. 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に臓器機能評価技術として、心停止後の臓器の移植可否の評価指標を提示した事に関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、現段階では提示された評価指標の有用性の証明が十分とは言えず、臓器移植実験によって提示指標の有用性を証明するデータの蓄積が必要で、証明することで実用化が望まれる。今後は、臓器移植実験によって提示指標の有用性を証明するデータを蓄積されることが期待される。
糖尿病腎症に関連する新規尿蛋白質に基づいた診断法の開発 国立国際医療研究センター
久保田浩之(卯木浩之)
申請者らが先行研究にて見出した糖尿病腎症関連尿タンパク質と糖尿病腎症との関連について独立した横断研究集団にて検討した結果、9タンパク質の濃度差異が2型糖尿病患者群、糖尿病腎症3期患者群間で検証された。さらに糖尿病腎症2期患者群、健常人対照者群を含めた合計77名を対象として腎症関連タンパク質の尿中濃度を測定し尿アルブミン・クレアチニン比、およびeGFRとの相関解析を行ったところ、3タンパク質の尿中濃度が両指標と有意な相関を示した。これらは糖尿病腎症の発症・進展を反映する新たな指標となる可能性があり、糖尿病腎症患者を対象とした前向き観察研究集団にて実用可能性や病態における意義などの研究開発を現在進めている。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、いくつかの尿中タンパク質において、糖尿病腎症の病期や尿中微量アルブミン・GFRとの相関が認められることが確認されたことについては評価できる。一方、ELISAキットの開発を主目的として申請されていたが、すでに市販のキットが存在するものが多く、現時点で産業化・産学連携・特許化という本研究費の目的につながる成果が得られず、改善に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、病期との相関ではなく、広く使用されている尿中アルブミンなどとの優劣を中心に評価を進め、独自の高精度・安価な測定系を開発し、産業化につなげることが望まれる。
大規模ライブラリーの高速スクリーニングによる新規ペプチド抗がん剤の開発 産業技術総合研究所
川上隆史
独立行政法人産業技術総合研究所
三宅正人
本研究では、再構成型無細胞翻訳系(PUREシステム)と高速化改変mRNAディスプレイ法を用いた翻訳ペプチドライブラリーの高速スクリーニング法(Kawakami, ACS Chem Biol 2013)に対して、実用化に向けたスクリーニング系の最適化を行なった。その結果、煩雑な化学合成を必要とする10-ホルミルテトラヒドロ葉酸の非存在下でPUREシステムを用いた環状Nアルキルペプチドライブラリーの大規模合成法の確立に成功した。また、ヒトcDNAクローンと無細胞翻訳系を用いた固定化ヒトタンパク質のハイスループット調製法の確立にも成功した。更に最適化された本システムを用いて、がん関連ヒトタンパク質を標的とし、タンパク質・タンパク質間相互作用を阻害する新規環状Nアルキルペプチド化合物の同定にも成功した。今後ロボットを用いた自動化へと駒を進め、技術移転・実用化に向けて展開する。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に 当初目標として掲げた2つの課題について、達成できた点や、実用化や自動化を視野に入れた研究展開を行っている点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、特許出願等には至っていないが、得られた研究の基盤となる技術の自動化についての研究成果は技術移転につながるものであり、今後は実用化に向けた技術移転を行ってほしい。
細胞表面抗原に結合して蛍光応答を発する診断用核酸アプタマーの創製 東京大学
吉本敬太郎
本プロジェクトは、E-cadherinに結合する核酸アプタマーの獲得に成功した。これまでにE-cadherinに結合する報告例はなく、また、見出された核酸アプタマーは、三段のパラレル型Gカルテット構造を有し、且つ比較的長いループ構造を三つ有する非常にユニークな構造であることを明らかとした。複数の長いループ構造を有するにもかかわらず、熱力学的安定性が非常に高い点がきわめて興味深い。しかし、この高い熱力学安定性のため、結合前後における構造変化が期待できなかったため、同配列のシグナリングアプタマー化に関する研究開発は一旦中断・中止とすることとした。
今後は、核酸アプタマーをセレクションする段階で、標的分子と結合して構造が大きく変化する「構造変化型」の核酸アプタマーを獲得する新しい方法論を確立することを目指す。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、蛍光応答を発するアプタマーの創製は未了であるが、本研究で発見したE-cadherin結合のアプタマーの構造を明らかにし安定性が高い結果を得たことについては評価できる。一方、現状では問題解決の多難さがあり、診断用核酸アプタマーの創製こは申請で行われた手法では解決しない可能性が高い。別のアプローチに向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、基礎的な研究の蓄積により「再チャレンジ」されることが望まれる。
高効率リンケージフリー分子進化創薬を目指した超高速IVC液滴作成法の開発 北陸先端科学技術大学院大学
ビヤニマニッシュ
北陸先端科学技術大学院大学
松本健
A facile bulk method is developed to generate monodisperse sub-femtoliter water-in-oil droplets (volumes ranging from 0.2 to 6.4 fL) at mega-scale and ultra-high speed (0.5×106 droplets per second) using immersed super-fine electrostatic inkjet technology. These droplets were used as sub-femtoliter in vitro compartmentalization (IVC) for biomolecule encapsulation and successive in vitro gene expression for ‘digitizing’ and linkage-free directed molecular evolution methodologies. 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ペプチドアプタマ―は抗体に比べて作製が容易で、今後の発展が見込まれる技術である。計画通りに研究は進み、基本的な技術開発ができたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、製薬企業が簡単に使えるようなシステム開発が必要である。そのためにはペプチドライブラリーとの連携が不可欠と思われるので、関連技術を保有している企業との連携について検討を望みたい。今後は、超高速IVC液滴作成法とペプチドライブラリーが車の両輪として機能するように、連携企業と十分な検討が必要となろう。
情報教育用の持ち歩き可能な小型プログラマブルロボットの開発 情報・システム研究機構 国立情報学研究所
坂本一憲
国立情報学研究所
山本浩幾
中・高校生の初学者を対象に、プログラミング教育を実施するためのロボットと学習アプリケーション(以降、学習アプリ)を開発した。ダンボール製の大型ロボット、クマのぬいぐるみの大型ロボットおよび小型ロボットの開発に成功した。小型ロボットは、最長辺が19cm以下、重量が300g以下、制作費が1万円程度で、Androidスマートフォンやタブレット上で動作する学習アプリから操作できる。
予備実験では、ロボットが1.8倍程度の学習意欲の改善を実現したが、プログラミングの有用性に対する印象を悪化させる結果となった。それを受けて、スマートフォン上の通知に対して、ロボットの動作をプログラムで定義する機能を追加して、プログラミングが学習者の日常生活で役立つような学習アプリを開発した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、ぬいぐるみ小型ロボットの試作を行い、学習アプリで操作を可能にしたことは、評価できる。一方、技術移転の観点からは、学習システムの評価を進め、効果を確認することが望まれる。今後は、ヒト型ロボットに触れる機会が多くなっていることや、中・高校生のロボットプログラミングへの意識も上がっていることから、早急な実用化を期待する。
再生医療用の細胞移植マトリクスを目的とした3次元包埋コラーゲン線維ゲルの安全な強化法の開発 東京都立産業技術研究センター
畑山博哉
地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
田中実
架橋反応を用いない安全なコラーゲンゲルの強化法を確立し、再生医療用の細胞移植マトリクスとしての有用性を示した。開発当初の目的は達成された。ゼラチンの水溶性が高いため高濃度化が可能であるという性質、および特定の構造を有するゼラチンのコラーゲンらせん回復能が高いという性質の2つを組み合わせた技術である。これにより、従来では成しえなかった高密度コラーゲン線維ゲルを作製でき、従来のコラーゲン線維ゲルの課題が解決された。一方、これらの特性を有する新ゼラチンの製造技術はまだラボスケールであり、今後はスケールアップ可能な新ゼラチンの製造技術を開発する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、高純度化によりゲル弾性化が向上し安定な繊維化能を有することを確認したことについては評価できる。一方、高分子量成分の立体構造の解明、ゲルの構成成分である抽出物のキャラクタリゼーションやゲルを安定的に生成できる抽出物の確保に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。まだ課題は山積しているが、今後も、高分子化学・超分子化学の先端的課題として取り組まれることが望まれる。
革新的な悪性腫瘍治療デバイスの創製 九州大学
田中賢
癌治療消化器ステントの閉塞を防ぐためには、胆汁組織液中に存在するタンパク質の吸着・変性や細菌との反応による不溶化を制御する必要がある。本研究では独自に見出した中間水を含有する生体適合性高分子に着目し、Poly(2-ethoxyethyl acrylate)(PMEA)側鎖のエステル・エーテル間の炭素数を減少もしくは増加させた高分子の合成を行い、含水時の水和構造とタンパク質吸着量および吸着タンパク質の変性度を調べた。エステル・エーテル間の炭素数XのPMEAに比べ、炭素数Yの高分子は、フィブリノーゲンの吸着量と変性度が小さいことが分かった。これらの知見を基に、従来にない治療効果の高い世界初の消化器系ステント用コーティング材料の分子設計指針の創出を進めている。また、ステント内管に表面処理を行うことで長期開存を達成できる胆管ステントの開発へ向けた動物実験系の確立を行った。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、中間水に着目した材料設計手法はこれまでとは異なる新規なものであり、中間水の吸着とポリマー構造との相関を見出し、その知見に基づいて、胆泥抑制が可能なコーティング剤の候補高分子材料を見つけることができたことに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、動物を用いた検証実験も医学系研究者との密な連携により体制は整っているので、産学共同による研究開発ステップにつながげるなどでの実用化が望まれる。今後は、独創的な視点であるがゆえに、ステントのみでなく、他の医療材料への展開されることが期待される。

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