評価結果
 
評価結果

事後評価 : 【FS】探索タイプ 2021年12月公開 - グリーンイノベーション 評価結果一覧

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課題名称 研究責任者 コーディネーター 研究開発の概要 事後評価所見
培養により大量供給される特異なプロリン誘導体を基質とした革新的固体有機分子触媒の創製 熊本大学
石川勇人
培養により供給される化学合成では入手困難な光学活性アミノ酸を原料に利用し、近年、爆発的な進展を遂げている不斉有機触媒反応に利用出来る固体触媒を創製することを目指した。その結果、新規ポリスチレン担持有機触媒を開発し、独自に開発した有機触媒反応に適応することに成功した。これまでに報告されている類似の固体担持触媒に比べて、極めて高い不斉誘起能および反応性を有しており、さらに、カラム担体として利用したマイクロフローシステムに展開が可能である。再現性、再利用性ともに非常に優れている。今後はさまざまな不斉反応に応用し、その有用性を拡張するとともに、工業利用が期待できるカラム担体として商品化につなげる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、発酵で得られる光学活性アミノ酸を高分子に固定化し、フロー不斉合成の固体有機触媒としての有用性を実証した技術は評価できる。一方、技術移転の観点からは、原料アミノ酸の位置異性体、立体異性体との比較を行なうと共に、固体担持型有機触媒の開発なのか、担持カラム開発なのか、合成装置の開発なのか、など技術移転の方向性を明確にした上での実用化検討が望まれる。今後は、産業界でのニーズを見出すためにも、対象とする基質の例を増やし、本手法のフロー不斉合成としての一般性を示されることも期待される。
アルミニウム合金とマグネシウム合金の大気下における極短時間での高強度面接合技術の開発 富山県工業技術センター
山岸英樹
チタンインサート材を用いたアルミニウム合金とマグネシウム合金の鍛接法による大気中極短時間の高強度面接合について、種々のインサート材と比較及び透過型電子顕微鏡を用いたナノスケー ルの界面分析により、その優れた接合機構を明らかにした。また、強度との相関は検証できなかったが、実用化を促進するための本基盤技術の高度化についても、新たに小型プレス用実験金型を製作し検討、加工時間の大幅な短縮やその加工条件範囲を明らかにするなど一定程度達成した(高生産性化を実現)。本開発技術は、溶融溶接など従来法では実現が困難であった量産向けの高強度面接合技術であり、新規性及び優位を十分に有する。今後、輸送機器などマルチマテリアル化がますます進む分野での活用を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、高強度面接合の接合メカニズムを明らかにし、インサート材としてチタンが有用であることを明確にし、高生産性と接合材の引張強さについて目標にほぼ達していることは評価できる。一方、技術移転の観点からは、高強度面接合について、コスト低減の基盤技術が確立され、加工条件なども明確にしていることから、産学共同の可能性は高まったといえる。軽金属のマルチマテリアル化技術としての実用化が望まれる。今後は、接合面で安定した一様な接合界面強度が得られているか確認・検証実験が必要であり、企業等との共同研究を通して実用化・商品化に向けた研究開発の推進が期待される。
ラジカル含有リチウム酸化物水素吸蔵貯蔵材料を用いた常温水分解法による燃料電池用水素供給源の開発 名城大学
土屋文
名城大学
松吉恭裕
これまで、室温においてリチウム-ジルコニウム酸化物(Li2ZrO3)セラミックス材料に水蒸気を曝したところ、多量の水素が貯蔵されることを発見した。本研究では、重水素イオンスパッタリングおよびプラチナ触媒効果を組み合わせて、ラジカル生成による表面処理を行い、室温における水分解および水素透過能力を向上させ、上記成果の重量貯蔵容量より約7倍以上まで増加させることができた。また、反跳粒子検出法および熱脱離法を用いて、水素が室温で空気暴露されたLi2ZrO3中に貯蔵され、その水素が100℃以下で放出されることを確認し、水素吸蔵貯蔵材料の水素吸収、貯蔵および放出機構のメカニズムを明らかにした。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、研究者が見出した空気中の水蒸気の分解による水素生成、吸蔵、放出が可能なリチウム-ジルコニウム酸化物(Li2ZrO3)材料の水素貯蔵容量を大幅に高める手法を見出したことについては、評価できる。
一方、技術移転の観点からは、基礎となるラジカル種の解明、ラジカル形成プロセスと活性化メカニズムの解明いった基礎検討とともに、本水素吸蔵・放出システムの社会実装に向けコストや大容量化などの可能性を企業と実用化に向けた取組が望まれる。
本研究は温和な条件で水素の製造、分離、貯蔵、供給に関するもので、今後の進展による水素社会の実現への貢献が期待される。
液体燃料、潤滑剤の効率的利用のための非接触型液体濃度センサの開発 新潟大学
安部隆
新潟大学
尾田雅文
本研究では、機械システムを効率的かつ持続的に運用するための燃料や潤滑油などの濃度や劣化状態を非接触でモニタリングするセンサの開発を実施した。申請時の目標であるエネルギーキャリア(有機ハイドライド)の濃度測定、機械システムの自動化に必要な油の劣化状態、切削油の濃度変化を、非接触でかつ高感度で測定する技術を獲得するとともに、一般的な液体、粉体および固体状の測定対象の誘電性および導電性を複合的に解析するケミカルコンボセンサの手法も考案した。さらに、パイプラインやコンクリート構造体のような実用上で重要な大きなサイズの測定対象を高安定で非接触センシングを可能とする回路技術の考案と実証にも成功した。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、非接触・非破壊検査ができた点と、装置を低コストで作製できた点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、化学プラント、めっき、食品検査など液体が関わる分野での広く実用化が望まれる。今後は、具体的応用における制限や限界を明らかにし、それらを克服する開発に進むことを期待する。
パワーデバイスの高信頼化技術:故障予測に向けた複合型リアルタイム・モニタリング・システムの開発 九州工業大学
渡邉晃彦
九州工業大学
白石肇
開発したシステムは、パワーサイクル試験中に、動作中デバイスに対して内部・界面構造(超音波観察)、表面温度分布(赤外線カメラ)、変位・ひずみ(3次元画像相関)の同時計測を行う。デバイス面積50cm2以上、ストレス電流500A(15kW)までに対応し、各パラメータは高い空間分解能、時間分解能で自動取得され、故障を引き起こすミクロな現象を明らかにする。研究レベルでは故障解析に十分な機能を有するが、データの自動解析機能などユーザーインターフェースを充実することで、パワーデバイス用故障解析システムとして標準化・普及が見込まれる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、超音波診断、温度分布観察、形状変化測定、の三つを同時に2次元画像として解析し故障診断に応用する技術は評価できる。一方、技術移転の観点からは、個々の診断技術の開発仕様策定に留まっており、装置として、故障モードの物理的モデルを検討し、融合化された装置として検討することが望まれる。今後は、測定データを示して、IGBT およびインバータシステム内の故障メカニズムの考察と装置の有用性を示す必要がある。
多接合型太陽電池の汎用性向上に向けた高出力ゲルマニウム薄膜の開発 筑波大学
都甲薫
筑波大学
鳥取猛志
本研究では、Al誘起成長で形成した擬似単結晶Ge薄膜をシード層とし、ガラス基板上におけるGe光吸収層の形成を検討した。光吸収層を分子線エピタキシー成長した場合、シード層から光吸収層へAl原子が拡散し、光学特性を劣化させることが判明した。そこで、分子線エピタキシーに代わる手段として、化学気相成長を用いたGeナノワイヤ・アレイの高速成長を試行した。その結果、Al含有のないGeナノワイヤ・アレイをガラス上、さらにはプラスチック上に創出した。非晶質基板上に合成したナノワイヤとして、従来最高レベルの結晶性および均一性を有している。今後、ナノワイヤ太陽電池の試作と光学特性の向上を目指し、研究を推進する。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、Al含有のない超高品質Geナノワイヤ・アレイの化学気相成長に成功している点は評価できる。一方、評価データとして、成長Ge層の欠陥密度、ナノワイヤGeのAl含有量、光学特性などについて技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、提案されているSPE法の有用性を明確化することが望まれる。
圧縮型柔軟発電パネルを用いた波エネルギー・ハーベスティング技術 広島大学
陸田秀実
広島大学
野村武司
本研究は,波浪エネルギーを回収することを目的とした圧縮型柔軟発電装置(パネルタイプ)を開発したものである.本装置は,弾性材,圧電素材,凹凸材からなる薄型積層タイプの柔軟発電デバイスに,バネマス系ユニットを組み合わせることによって,最大9倍,平均3倍程度(ユニット無しとの比)の出力増大となった.また,この装置はパネル型ユニット方式を採用しているため,既往の構造物に装着することが可能である.本課題では,本装置の構造様式,材料,設計キーパラメータを明らかにした.さらに,発電装置の設計・試作を行うだけでなく,波浪エネルギー作用下において,従来以上の発電性能を発揮することを明らかにした. 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも圧縮型柔軟発電パネルの最適化を図り発電量を最大9倍、平均3倍の出力増大した成果については評価できる。一方、さらなるエネルギー変換効率の向上と、今後の実用化に向けた具体的な手順・方法や工程などを明確にした上で技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、実海域での長期性能の安定化と耐久性を低廉で実現可能とする産学連携に取組むことが望まれる。
太陽光発電機能を有する植物栽培ガラス温室屋根材の最適化 島根大学
谷野章
島根大学
北村寿宏
日射量が比較的豊富な地域における一般的な温室の電力負荷の運転を,全量賄うことができる発電性能を有し,なおかつ市場価値を損なわないレベルの収量・品質の作物生産を実現するような光透過性を有する,ガラス温室屋根材用半透過太陽電池の最適化について研究した.目標とする性能は遮光率20%以下,出力5 kWh m-2 year-1であった.プロトタイプ半透過太陽電池で性能を評価および解析したところ,実現できた性能は遮光率30%,出力5.5 kWh m-2 year-1(全日快晴条件)であった.したがって,遮光率のさらなる低減と,実際の天候条件でも5 kWh m-2 year-1を実現するための出力増大が課題として残った. 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも球状結晶シリコンに着眼して多角度からの照射による発電の効率化をねらったものであり、農業の場における電源の多様化に貢献するものと期待される。一方、植物自体が光合成のために太陽光を必要としており、太陽光発電とはトレードオフの関係であるため、対象とする植物にマッチして発電量と光透過率をバランスさせる形でパネルの敷き詰め方などの技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、冬季の日本海側における寡日照を補填した太陽パネルの設置方法など、多条件下でのシミュレーションを行われることが望まれる。
国内生産量ゼロの漢方薬「半夏」原料カラスビシャクの栽培植物化技術の開発 九州大学
江口壽彦
公益財団法人福岡県産業・科学技術振興財団
太田嘉孝
日本各地に自生するものの国内生産量がゼロの漢方薬「半夏」原料カラスビシャクを国内生産可能な作物とすることを目標に,品質評価法の確立,効率的栽培条件の探索,および優良系統の選抜を試み,1)漢方薬の製造過程を考慮した熱水抽出物での有用成分含量評価が可能な水溶性多糖ELISA法の改良,2)収穫対象である塊茎の肥大に適した固形培地式水耕による塊茎収量・有用成分含量への生育温度および日長の影響解明,3)国内自生群からの高収量系統の選抜,を行った.高収量系統は通常の半分の栽培期間で約2倍の収量を示した.今後,さらに高品質・高収量な塊茎を得る効率的な栽培法の確立,有用成分高含有系統の選抜,および優良系統育種法の開発を進める. 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、自生する国内の4地区で採取したカラスビャクシンについて、生育状況、収量、品質を明らかにして塊茎肥大率と収量比率の優良性の検討が行ったことについては評価できる。一方、塊茎の大きさと「半夏」有用成分の含量の相関や栽培条件・時期、形態・生態変異など、優良系統の選抜育種に向けた技術的検討や定量分析に基づくデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、農家が実用的に栽培できる優良系統の特性を決め、選抜育種をするためのタイムテーブルに基づく取進めをされることが望まれる。
水を燃料とする光燃料電池 千葉大学
泉康雄
公益財団法人千葉県産業振興センター
横山直也
燃料の追加が不要で自然光のみで動作する光燃料電池の光負極および光正極に用いてきた酸化チタン、銀含有酸化チタン、オキシ塩化ビスマスを803 Kで電極基板へのスプレー熱分解結晶化法により作成すると、電極基板上の光触媒層は3.3 g/cm-3に高密度化された。この光電極を用いて得た、光燃料電池出力および電流-電圧特性は52.4μWおよび1.43 Vとなった。また、光燃料電池を野外でスタンドアローンで使用するために、光負極の水溶液層の上に酸素の溶解度が高いヘキサン層を設け、光負極触媒で水より生成した酸素ガスを移行させたところ、出力が1.1倍に増加した。さらに、ヘキサンに移行した酸素ガスを電池内で光正極まで循環させた場合、発電試験初期には出力電流がガス外部供給の場合の1.5倍に増加したものの、試験開始7hで電流は初期の56%まで下がり、ガスの逆流の影響が避けられなかった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に光燃料電池の負極および正極をスプレー熱分解結晶化法で光触媒層を高密度で作成し,光燃料電池出力および電流ー電圧特性を求めている技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、大面積の光電極を装填した光燃料電池の野外試験および色素添加の試験などでの研究開発が望まれる。今後は、応用展開を図るため、異分野の研究者との連携(産学連携を含む)を図ることも期待される。
香気成分を制御したシイタケ濃縮だしの開発 徳島県立工業技術センター
山本澄人
本研究では、シイタケの生産現場において出荷時には切除され廃棄されているシイタケ軸の部分を原料として、シイタケ特有のうま味成分(グアニル酸、アミノ酸)を指標にだしを抽出する条件を最適化するとともに、シイタケ由来のうま味成分の濃縮と香気成分の分離による香気成分の制御技術の確立を試みた。超音波霧化分離法により濃縮した結果、うま味成分の残存量は、グアニル酸は76.5%、アミノ酸は89.5%であった。また、香気成分については、レンチオニン、テトラチアンは回収できなかったが、トリチオラン、テトラチエパン、1-オクテン-3-オールは一定量を分離・回収することができた。回収した香気成分を濃縮液に還元することで香気成分を制御した濃縮だしの製造が可能であることが示唆された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、超音波霧化技術をシイタケ軸からの旨味、香気成分の抽出分離操作に適用する際の挙動特性を明らかにしたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、シイタケ嫌いな人々が苦手とするレンチオニンなどの香気成分を制御する技術を確立するなどでの実用化が望まれる。今後は、シイタケの旨味/香気成分の濃度/バランスの異なる種々の調味料を試作し、シイタケ嗜好度の異なる人々による官能評価に基づき、開発すべき品質ターゲットを見直すことも期待される。
薬剤耐性菌が発生しにくい環境低負荷型の植物細菌病防除剤の開発研究 岡山県農林水産総合センター
鳴坂真理
作物の重要病害である細菌病は、病原菌特異的な感染装置が宿主植物への感染に重要な役割を担っていることを明らかにした。そこで、環境微生物へ影響せず植物病原細菌特異的に作用する新規病害防除剤の開発に資するため、感染装置をターゲットとする化合物選抜システムの構築を試みた。感染装置の発動条件の検討を行った結果、1週間に500種以上の化合物を選抜できるハイスループットスクリーニング系の構築に成功した。本系により、約1700化合物を選抜した結果、4種の生育阻害剤と1種の感染阻害剤の取得に成功した。生育阻害した1剤については、複数の病原細菌に対して病害抑制効果を有し、本系が細菌病防除剤の開発に有効であることが明らかとなった。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、植物病原細菌に特異的な分泌系をターゲットとし分泌機能を阻害する薬剤を探索する、新規農薬の独創的なハイスループットスクリーニング系を確立し、効率的な化合物選抜を可能にした成果が顕著である。一方、技術移転の観点からは、本スクリーニング系により選抜される化合物の病害抑制効果を確認し、本系の有効性を示すなどでの実用化が望まれる。今後は、既に検討している生物発光を利用した選抜系を含め、1次選抜系の確度を更に向上させることが期待される。
二重反転形小型ハイドロタービンの最高性能実現に向けた研究開発 徳島大学
重光亨
株式会社テクノネットワーク四国
山本裕子
ピコ水力などの小型ハイドロタービンは,新エネルギーとして注目されているが,大型の水車と比較し効率が低いことが課題である.そこで,本研究開発では,二重反転形小型ハイドロタービンの最高性能 (最高効率64%)の実現を目標に,非定常CFD解析を実施した.羽根車支持用スポークを含めた前後段羽根車の翼列間流れ場に着目し,スポーク形状の改善により目標値を超える64.2%の効率を得ることができた.また,小型ハイドロタービンの安定運転に関わるポテンシャル干渉に関する基礎データを取得することができ,本供試ハイドロタービンの実用化に向けた大きなステップを踏むことができた.今後は,更なる高性能化を実現する設計法や小型発電機の開発などを実施していく予定である. 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に新たな小水力発電方式として、二重反転形小型ハイドロタービンのスポーク形状改善により、目標値を超える64.2%の高率を達成しているる技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、実用化に向けた羽根車の低コスト生産、小型発電機・小型バッテリーに向けた研究開発などでの実用化が望まれる。今後は、企業との共同研究が不可欠であり、早急に企業連携を図られることが期待される。
リアルタイム・センシング可能な廃プラスチック遠心分離機の基礎開発 千葉大学
武居昌宏
公益財団法人千葉県産業振興センター
長島智
現在まで、廃プラスチックの分離技術が未熟で、遠心分離機の回転制御が顕著に難しく、高純度の再生樹脂の製造が困難であり、全廃棄量の50%の廃プラスチックしか再利用されていない。それを解決するために、本研究では、遠心分離機内のプラスチックの堆積層厚さのリアルタイム・センシングの確立を行った。具体的には、プロセス・トモグラフィー(PT)センサを無線化し、回転する模擬遠心分離機内において、回転数ω、初期粒子相厚さhp、測定断面位置zmの3つのパラメータを変化させて、交流測定周波数を用いて非接触計測し、堆積層厚さを求めることのできるリアルタイム・センシングを実現した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、無線化した小型プロセス・トモグラフィー(PT)センサを用いて多数の周波数で計測することにより、廃プラスチックを種類ごとに堆積層厚さと浮遊量をリアルタイム・センシングすることが可能な粒子体積分率測定装置(WERD)は評価できる。一方、技術移転の観点からは、関連する企業との共同研究を開始しており、また、地元の関連会社との共同研究を模索している。研究成果の民間企業への広い技術移転を進め、廃プラスチックの分離技術の高度化などが望まれる。今後は、公的な研究開発支援制度などを活用して、定性的な計測段階を定量的な計測までレベルアップすることで実機への応用が期待される。
無溶媒プリンテッド有機エレクトロニクス製造プロセスの開発 千葉大学
酒井正俊
千葉大学
竹内延夫
本研究は有機溶媒を用いないプリンテッドエレクトロニクスを実現するために、ゼログラフィ型の印刷によって有機半導体をパターニングし、熱ラミネートもしくは超音波溶融によって有機半導体を溶融・薄膜化し、有機薄膜トランジスタの作製を実証することを目標として実施された。有機半導体のトナー作りからとりくみ、フレキシブル基板上への静電転写が可能であることを実証した。また、局所的・瞬間的な加熱が可能な超音波溶融によって、耐熱温度が有機半導体の融点と同程度のフレキシブルフィルム上に有機薄膜トランジスタを作製し、その動作を実証した。今後の展開としては、本格的なゼログラフィ方式を取り入れ、高精細・多色刷り可能で環境性能に優れたプリンテッドエレクトロニクス技術として発展させていく。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に有機半導体トナーの作製から、ゼログラフィパターニングの方法、熱ラミネートの方法までを確立し、フレキシブル有機トランジスタを作製している点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、関連する技術を持つ企業と連携をすることで、無溶媒プリンテッド有機エレクトロニクスの開発が実用化に進展することが望まれる。今後は、材料の開発と併せて、プロセス開発も積極的に展開されることが期待される。
高分解能ハイパースペクトルカメラによる環境計測技術の開発 千葉大学
久世宏明
千葉大学
竹内延夫
PM2.5を含む浮遊粒子状物質や微量気体成分など、大気汚染の原因となる物質が注目を集めている。こうした物質の濃度や性質は時空間ともに変化が激しく、その監視が社会的な課題になっている。我が国では定点での大気サンプリング計測が継続的に実施されているが、広域の大気状況の直接的な把握は困難である。本事業では高波長分解能のハイパースペクトルカメラで取得した画像データを大気中の放射伝達に基づいて解析する手法を開発し、主要な大気汚染物質である二酸化窒素について、そのカラム濃度の空間変化を画像として可視化できることを実証した。今後、リアルタイムでの都市大気監視につなげるとともに、高濃度の排出源観測への応用も検討していく。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、大気汚染物質である二酸化窒素のイメージ解析のための,高分解ハイパースペクトルカメラの画像解析手法の開発がされている点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、(1)既存手法との比較によるデータの妥当性の検証、(2)空の状態が不均一な場合の評価などの課題を克服する必要がある。今後は、現状の課題を踏まえた進め方を再検討して,汎用性の高い装置の開発をめざすことが期待される。
龍涎香主成分アンブレインの大量酵素合成法の開発 新潟大学
佐藤努
新潟大学
坪川紀夫
スクアレンから酵素によりアンブレインを効率よく合成する手法の開発を行った。スクアレン→単環→アンブレインの経路を報告していたが、2段階目の酵素(BmeTC)反応効率が悪かった。まず、その改善のため、様々な酵素反応条件を検討したが、一番有効なのは時間を長くすることであった。BmeTCは5日目までアンブレインを継時的に生産した。当初3.4%の収率が約70%まで向上することができた。次に、様々なTCの変異酵素を作成したところ、その中の一つのBmeTC変異酵素がスクアレンを基質とすると、単環と二環を形成した後、さらに反応していずれもアンブレインを合成することが判明した。つまり、1種類の変異型酵素だけでスクアレンからアンブレインを一段階で合成できることを意味している。今後、酵素合成と生物合成を行う場合両者に極めて有利な系になることが期待される。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、スクアレンからアンブレインを酵素合成するための複数の方法を検討し、いずれの方法においてもアンブレインの生成を確認すると共に、1段階で合成する新しい手法も開発したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、スクアレンは水不溶性の物質なので有機溶媒中での反応も検討するなど、STYの概念も取り入れて生産性を向上させるなどでの実用化が望まれる。今後は、アンブレインや竜涎香の生理活性機能の解明が進み、本技術の有用性が高まることが期待される。
水溶液中アニオンの高速・高密度貯蔵技術の開発 筑波大学
守友浩
筑波大学
鳥取猛志
ナノポーラスな骨格を有するプルシャンブルー類似体へのアニオン導入の可能性を検討した。まず、(1)鉄欠損が多く(2)カチオンが少ないPBAの合成方法を最適化した。そして、SEM-EXDでの塩素の定性分析を行い、塩素が導入されていることを確認した。また、第三世代放射光施設(SPring-8)を利用して、塩素の導入により格子定数が増大することを確認した。さらに、PBA、導電剤、高分子バインダーを7:2:1で混合し、ITO電極に塗布し、電極を作成した。この電極の貯蔵量、サイクル特性、貯蔵速度を調べた。貯蔵量は6[μmol/cm2]に達した。サイクル特性は、5サイクルで容量90%、10サイクルで容量80%を維持した。貯蔵速度は、3C(20分で貯蔵)で60%を維持した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、プルシャンブルー類似体というユニークな材料に注目し好適なカチオンとの組合せで、目標を上回る塩素の貯蔵量を確認したこと、及び、ITO電極でサイクル特性を調べたことは評価できる。一方、酸化還元による塩素イオンの貯蔵と放出の定量分析と塩素サイトの決定など、基礎的な評価に基づくサイクル特性や貯蔵速度の向上に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、シアン化物の水道法や土壌汚染対策法での取扱いの確認と、性能及びコストの設計をされることが望まれる。
コンピュータによるエネルギーロスの無いスーパーキャパシタ制御技術 近畿大学
中田俊司
近畿大学
近村淳
本研究は、風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーの商用系統への接続を容易にするために、電力需給バランスに必要となる蓄電技術の確立を行うものである。その手法として、コンピュータを用い、電源電圧の制御を1%単位で行い、きめ細かい電力の制御を行うことにより、エネルギーロスの無いスーパーキャパシタ充放電技術の確立を進めることを目標とする。コンピュータを用いたスイッチングトランジスタのデジタル制御により、キャパシタへの充電電流を、インダクタを用いた回路により制御を行い、充電効率として95%という良好な結果を得た。提案手法はスマートグリッドの早期実現に有用である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、スーパーキャパシタの充放電にデューティー比を可変できるシステムを開発し充放電効率と損失の関係を明らかにすることで最適充電電流を求める方式に関する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、風力発電のような供給変動が激しい場合の有効性及び大規模な並列、直列配列での適用性の検討などでの実用化が望まれる。今後は、EVや様々なスマートグリッドケースに対応できるような応用展開技術の構築及び低コスト化が期待される。
ロボットパッキング法による自律水中ロボットの開発 近畿大学
柴田瑞穂
近畿大学
近村淳
本研究開発課題では,魚型水中ロボットの自律制御を実現するために,外殻として電波透過性のある樹脂フィルムを利用した.これにより,魚型水中ロボットに非接触給電回路を内蔵することが可能になった.また,自律制御を実現するために,赤外線センサを搭載した.本試作機では,樹脂フィルムの袋内にモータ,センサと共に絶縁流体を封入するため,特別な防水加工をすることなく機器をロボット内部に配置することができる.水中ではセンサの信号強度が減衰するものの,回遊水槽内で初期位置に戻る自律運動を実現するための制御アルゴリズムを実装し,その有用性を実験的に確認した.これらの結果は,当初目標をほぼ達成している. 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、水中ロボットの非接触給電システム、使用センサの最適配置およびそれらを用いたロボットの自律制御などの基本開発に加え、水中ロボットのシステム構成や軽量化技術などの周辺技術の蓄積もなされており評価できる。一方、技術移転の観点からは、具体的なアプリケーションとそこで実行するオペレーションを想定した技術開発が望まれる。今後は、応用分野の広い水中ロボットに対し、個別の技術課題を克服することにより、その技術が産業界にて応用されることを期待する。
デシカントモジュール用波形水蒸気吸脱着厚膜の開発 産業技術総合研究所
根岸秀之
独立行政法人産業技術総合研究所
粂正市
任意仕様のデシカントローター作製を可能とするメソポーラスシリカ(MPS)膜の開発として、2通りの作製法を検討した。波形アルミ基材用泳動電着(EPD)セルを用いた波形MPS膜作製においては、目標とする3.2 mg/cm2以上のMPS膜は得たものの、平滑な膜は得られなかった。一方、連続MPS膜作製用EPDセルを用いて作製条件を検討した結果、アルミ基板上へのMPS量が3.6 mg/cm2のMPS膜において、波形曲げ加工でも膜の欠損しないEPD条件を見出すとともに、100サイクル以上での水蒸気吸脱着サイクル運転において、MPS膜欠損量5wt%以下、水蒸気吸脱着変化量5%以下の目標を達成した。さらに小型のハニカムモジュールの作製に成功した。今後は、産学共同に向けた研究開発を継続する。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、デシカント空調実用化に向け、MPS膜欠損量、水の吸脱着能力低下の当初目標を達成しており評価できる。一方、MPS膜の質量に対する水の吸脱着量、吸脱着時間などについては目標を明確にし、実用化に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが望まれる。今後は、より積極的な研究成果発表や具体的な技術移転先を明確にした研究開発の推進が期待される。
小型電動車両のための商用電源周波数を用いたワイヤレス給電の実用化検討 岡山理科大学
石田弘樹
岡山理科大学
横溝精一
小型の電気自動車へ搭載可能な安価なワイヤレス給電システムの実用化を目的に研究を行った。安価なシステムを実現するため高周波用のインバーターを必要としない商用電源周波数を用いたワイヤレス給電システムを設計、製作し小型電気自動車に搭載させた。ワイヤレス給電システムの性能として伝送距離15cm、伝送効率70%、出力200Wを目標として設定した。最適設計のために開発したシミュレータ用いて設計した結果、伝送距離15cm、伝送効率70%、出力850Wの性能を達成することができた。特に出力電力に関しては、共鳴用のコンデンサ接続方法を変更するこ とで当初の目標4倍を超える大きな出力を得ることができた。更に、本システムを小型電気自動車に搭載しバッテリーへのワイヤレス充電が可能であることを確認した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に商用周波数によるワイヤレス給電をシミュレータによる最適設計,および試作機の製作、試験までを行っている技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、電動車椅子や電動カートのような福祉関係の電動車両のみならず、電気自動車等の大型機器,あるいは家庭内電気製品の充電技術としての実用化が望まれる。今後は、安全で低コストの商用周波数を使ったワイヤレス充電装置として重量の低減を含め,企業との連携が期待される。
相変化を用いた高効率エアリフトポンプの実証試験 神戸大学
細川茂雄
神戸大学
高山良一
海底資源の活用には、資源を海底からの高効率/低コストで輸送できるシステムの開発が不可避である。現在、マンガン団塊等をエアリフトポンプで輸送するシステムも検討されているが、高圧の圧縮空気を深海に送る必要が有り、高効率化、経済性向上が必須である。我々は、作動流体を液体として深海の揚水管底部へ輸送し、相変化させて気体とした後、揚水管に導入してポンプとして作動する相変化を利用したエアリフトポンプを発案した。本研究では、申請者らが発案した相変化を用いたエアリフトポンプの原理に基づきラボレベルでの実証試験を実施し、その実現性を確認するとともに、当該ポンプの基本特性を把握した。また、その性能を評価できる数値予測手法の基盤コードを構築した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、ラボレベル実験装置の作成と基本特性の調査、揚水特性に関する目標値の達成、数値計算コードの開発に関して評価できる。一方、技術移転の観点からは、スケールアップ時の揚水特性・揚水効率を推定し、本システムの高効率性を担保することが必要である。今後は、民間との共同研究に向けて、既存のエアリフトポンプ、他形式ポンプとの比較による効率やコストなどに関する競争優位性に関しての検討が望まれる。
白金族金属の選択的回収を可能とする含窒素膨潤性吸水ゲルの開発 名古屋市工業研究所
中野万敬
名古屋市工業研究所
秋田重人
常温で多成分金属含有溶液に浸すだけで白金族金属を選択的に回収可能な含窒素膨潤性吸水ゲルを開発した。1-ビニルイミダゾールと架橋剤から吸水率100~500 %の弾力性のあるゲルを合成した。このゲルは、鉄、銅、ニッケルをほとんど吸着せず、白金族金属であるロジウム、白金、パラジウムを選択的に吸着した。このゲルの吸着容量は、白金族金属に対し乾燥状態の吸水ゲル1 gあたり最大470 mgもあり、吸着率は95 %以上を示すことから、比較対象としたイオン交換樹脂より優れていることがわかった。また、金属吸着したゲルを焼却することにより白金族金属を回収できることから、新たなリサイクルシステムの構築が期待できる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、白金族金属に対する吸着性能が高い吸水ゲルを開発し、特許を出願したことに関しては評価できる。
一方、技術移転の観点からは、吸着時間の短縮などの性能改善やゲルの詳細な特性などについて研究を進めるとともに、金属回収企業や化学系企業と連携し実際の回収溶液での吸着性能の確認やゲル合成など実用化に向けた技術検討が望まれる。
自動車の排ガス用触媒、石油化学用触媒、電子材料として有用な白金族金属の効率的な資源リサイクルシステムが構築されることは社会的意義も大きく、今後の産学連携による実用化に向けた研究開発の進展が期待される。
抗菌活性を有する糖化細菌を利用した低コスト発酵技術および農業資材の開発 福井県立大学
木元久
特定非営利活動法人近畿アグリハイテク
北村實彬
本研究開発の目的は、抗菌活性を有する糖化細菌を利用した、低コスト発酵技術および農業資材の開発である。抗菌活性を有する糖化細菌は、発酵原料の加熱処理工程を削減し、さらに種子消毒や土壌改良材などの農業資材としての可能性が示唆された。今後の展開としては、申請者らが開発した「保湿性エタノール(特願2010-251218)」の製造への利用や農業資材の開発を行う予定である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、固有株を糖化微生物として用いた、アルコール濃度10%以上の発酵を実現すると共に、その培養液がトマト種子の殺菌およびサトイモの連作障害の回避に効果があることを見いだした技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、培養液を用いた種子滅菌、連作障害の回避についてフィールド試験で実証するなどでの実用化が望まれる。今後は、イネ、トマト、ナガイモといった食糧生産を進める場合は特に、発酵残渣の収量増加に係るメカニズムを解明することが期待される。
高性能低損失ボディ短絡型自己バイアスチャネルダイオードの開発研究 東北学院大学
菅原文彦
解析シミュレーションによりCr-SBDに比べて,低損失となるの最適デバイス構造を推定し,デバイスシミュレーションによりCr-SBDより高耐圧を確認した。また,パターンを作成し,ドーピング条件をシミュレーションして試作した。しかしながら,試作プロセスの一部を他企業に委託する必要が生じ,1次試作が終了したばかりで,評価と分析が不十分である。 試作デバイスの電気的特性をプローブで評価し,順方向の低電流領域でCr-SBDより低損失動作を確認した。しかし,耐圧と電力損失は目標には達していない。今後,構造分析とシミュレーションの合わせこみを十分に行って,試作研究を続行してデバイスを開発したい。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、解析シミュレーションとデバイス耐圧目標達成推定のための3次元デバイスシミュレーションを組み合わせてデバイス構造の最適化を行ったことについては評価できる。一方、デバイスの試作結果とシミュレーション結果との比較に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、試作により、デバイスの電気特性を評価して、目標未達の原因を解析することが望まれる。
国産海洋バイオマス巨大褐藻類の主要成分からのガソリン代替燃料イソブタノールの生産 京都大学
河井重幸
京都大学
佐藤祐一郎
モノウロン酸(アルギン酸の分解物)とマンニトールを利用できる出芽酵母(DEH+Mtl+株)の作出には成功したが(出芽酵母は当該モノウロン酸も利用できない)、エキソ型アルギン酸リアーゼの細胞外発現に問題があったため(細胞内発現には成功した)、アルギン酸を利用できる出芽酵母の作出には至らなかった。一方、イソブタノール生産系遺伝子のクローニングは完了し、これらをDEH+Mtl+株に導入したが、イソブタノールは生産されなかった。今後は、アルギン酸とマンニトールを強力に利用できる出芽酵母の作出と、本株を用いた褐藻類由来粗糖質液(アルギン酸とマンニトールを含む)からのイソブタノール並びに他の有用化合物の生産を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、実用可能なレベルの資化能を持つ出芽酵母株を取得しエキソ型アルギン酸リアーゼ遺伝子の細胞内発現に成功するなど、褐藻類由来の糖質を利用可能な出芽酵母株の作出する技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、今回の検討で見えてきたイソブタノール生産能付与に関する課題の解決に向けて、グルコース培養下とアルギン酸・マンニトール資化性株とのマッチングは分けて段階的に解析を進めるなどでの実用化が望まれる。今後は、各過程について最適化した菌株の混合複合培養系や、菌体外での基質の低分子化での酵素処理との組合せも検討されることが期待される。
燃焼ガス中水蒸気濃度の直接・迅速・連続測定を可能にする基準極を廃したガルバニック型ハイブリッドセンサーの開発 名古屋工業大学
栗田典明
名古屋工業大学
沖原理沙
プロトン伝導体であるストロンチウムジルコネートと安定化ジルコニアを貼り合わせた構造のセンサー素子を用いて雰囲気中の水蒸気活量のみに応答するハイブリッド型ガスセンサーの開発検討である。通常固体電解質を用いてガルバニック型センサーを構成した場合は必ず基準極およびその活物質を用意する必要がある。作製したセンサーは、構造を工夫することで基準極を廃し、かつ雰囲気中の水蒸気活量変化に対してその起電力は非常に良い応答を示した。一方、起電力の安定性は当初期待したよりやや劣ることが明らかとなったが、例えば、その応答性を生かしハザードセンサー等への応用への可能性がわかった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、固体電解質ハイブリッド水蒸気センサーの作動性能が確認され、センサーの測定精度は目標値±5%以内を達成している点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、異なる2種の固体電解質の接合の課題があり、応答性、安定性の長時間耐久試験が必要である。今後は、ハイブリッドセンサーの可能性が見えてきた段階なので、材料特性等、実用化への課題を抽出して、解決していくことが期待される。
水素キャリア(アンモニア)の低温常圧合成法の実用性評価 岐阜大学
神原信志
岐阜大学
安井秀夫
本研究は,排ガス中窒素酸化物から得た硝酸をアンモニア合成の原料とする斬新なアイデアのもと,硝酸イオンを常圧低温で還元して,水素キャリアとなり得るアンモニアを高効率に生成する実用的な反応法を確立することを目的としている。
還元剤にTiCl3を用いた時,60wt%硝酸水溶液から常温常圧でNH3収率72%を得た。また,波長306 nmのエキシマランプを照射すると光触媒効果が加わり,NH3収率は95%まで増加した。さらに,NH3生成コスト低減のために,還元剤を用いない新たな反応法を開発し,最大NH3収率59%を得た。この時のエネルギー効率は88.4%であり,当初の目標を達成した。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に窒素酸化物から水素キャリアとなり得るアンモニアを低温常圧で高効率に合成する方法として還元剤を用いない反応法を開発し、最大アンモニア収率59%を得ている技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは従来方法に対する比較優位性とともにコストパフォーマンスをどれだけ高められるかを企業との共同研究を進められるなどでの実用化推進が望まれる。今後は、環境汚染物質から水素キャリアーとしてのアンモニアを高効率に合成できるようにすることで、今後の水素社会の実現に必要不可欠な貯蔵・輸送・利用を容易にするキーテクノロジーとして期待される。
水溶液原料を用いたレアメタルフリー化合物薄膜のスプレー製膜 大阪大学
池田茂
大阪大学
山近洋
加熱基板に薄膜の原料を含む溶液を「吹き付ける」だけの簡単なプロセスであるスプレー製膜法を用い、レアメタルフリー太陽電池であるCu2ZnSnS4太陽電池の作製技術の開発を行った。基板加熱温度、アニーリング条件、溶液組成の制御など製膜条件の最適化により、太陽電池に適当な不定比組成となるCu2ZnSnS4薄膜が得られ、太陽光変換効率を1.6ポイント向上させることに成功した。また、硫黄サイトのセレン置換によるナロウギャップ化やスズサイトのゲルマニウム置換によるワイドギャップ化にも成功した。これらを組み合わせてバンドギャップ傾斜構造を作製することが、変換効率のさらなる向上のための今後の課題である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもレアメタルフリーの化合物型太陽電池の薄膜形成プロセス技術に進展がみられるとともに、太陽光変換効率を向上できたことについては評価できる。
一方、実用化に向けては、今回得られたSe置換やGe置換によってバンドギャップが制御された薄膜をスプレー製膜で実現した今回の成果を活かし、変換効率のさらなる向上に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
本研究は、太陽電池用材料合成と薄膜形成に関する挑戦的な非真空プロセスに関する研究であり、今後の研究の進展が望まれる。
水素応答スイッチング素子の開発 富山大学
赤丸悟士
富山大学
高橋修
本研究では、水素吸収により磁化が変化するPdCo合金を用いることで水素ガスによりOn/Offが可能なスイッチング素子を最適化し、様々な環境下での動作の影響を検証した。素子の端子にPdCo粉末を接着した銅板を用い、加えてPdCo粉末と素子に組み込んだ磁石との距離を調節することで、窒素雰囲気において水素添加1.5vol%以上の水素により可逆的にOn/Offが可能な素子を構築できた。また、この素子は空気雰囲気においても3.4vol%以上の水素添加により可逆的に動作可能であり、酸素存在下での動作が可能であることを示した。更には、水蒸気存在下でのPdCoの水素吸収への影響が大きいことが示唆されたことから、今後水蒸気に対する防御方法の検討を引き続き行い、より実条件下での動作が可能な素子の構築を目指す。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、新たなスイッチング素子の可能性を、数値的に示すことで実証できている点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、水蒸気雰囲気下では性能劣化が見られるため、改善が必要である。今後は、実用化に向けて、企業との協力により、プロトタイプの設計と実証がされることが期待される。
省エネ軸受の安全・安心な運転を保証する超音波マルチ潤滑診断技術 高知工科大学
竹内彰敏
高知工科大学
佐藤暢
転がり軸受のハウジングと外輪の界面と,外輪と玉の界面から反射する超音波エコーの関係から求まる,閉曲線の形状や面積の経時変化は,運転者が潤滑状況を容易に判断できる指標と成り得ること,また,後者エコーから推定した潤滑剤の音響的性質の推移を併せて考慮することにより,潤滑膜の形成状態や枯渇過程での潤滑油の性状変化等の評価ができることを明らかにした.さらに,ハウジングを持たない軸受系であっても,接触部入口と出口の2箇所の超音波観測により,それら診断が可能なことを示し,異なる長さの遅延材を設けた2つの縦波振動子を持つ同時観測用複合探触子を製作して,実用レベルでの,本潤滑診断技術の可能性を確認した. 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、複合超音波探触子を用いて得られる反射波の高さ(エコー高さ)をもとに、潤滑状態を推定する指標を提案し、潤滑油の枯渇過程を定量的に評価できるようにしたことに関して評価できる。一方、技術移転の観点からは、エコーと潤滑状態の対応関係等の理論的な背景を明らかにし、本技術をより確実なものすることが望まれる。今後は、本技術開発の成果を設備診断技術として応用展開できるシステムまで完成することが期待される。
酸化物半導体薄膜トランジスタを用いた低消費電力二酸化炭素センサの開発 山形県工業技術センター
岩松新之輔
公益財団法人山形県産業技術振興機構
深瀬敏
a-InGaZnO TFTを基本構造として用いた二酸化炭素センサの開発を行った。シリコン宙づり構造体上に、薄膜ヒータ及びTFTを集積したガスセンサプラットフォームを開発し、加熱到達温度350℃、200℃までのTFTスイッチング動作を実現した。二酸化炭素センサとしては、目標とした100mWでの駆動は実現できなかったが、500~5,000ppmの範囲における感受性、約30秒での応答を確認し、間欠駆動によるドリフト抑制手法を考案した。また、共存ガスとなる酸素、窒素に対しては感受性を持たないこと、センサ設置環境の風量変化に依存して出力電流が変動することを明らかにした。今後は、ガスセンサプラットフォームの改善として、外乱ノイズの低減、熱放散を抑制するため、パッケージと組み合わせたモジュール化を進め、他のガス種を対象としたセンサ開発に展開する予定である。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもa-InGaZnO TFTの基本構造とした、二酸化炭素を測定できるガスセンサーが組み上げられたことについては評価できる。一方、CO2ガスセンサとしては感度がまだ低いので、技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、市販センサとの性能やコストを含めた比較を行い、研究が進められることが望まれる。
パイクリートを用いた革新的中空部品成形プロセスの研究 国士舘大学
大橋隆弘
国士舘大学
本橋光一
新しい塑性加工用充填材として、鉛や低融点合金の引張強さ並みの圧縮強度20~30MPaを有する繊維強化氷(Fiber Reinforced Ice; FRI)を開発した。従来用いられてきた鉛・低融点合金の代わりにパルプ内に充填して塑性加工を行うことができる。繊維強化氷は安価で、環境に優しく、除去も容易である。繊維強化氷の変形抵抗、熱伝導率を調査し、また、アルミニウム合金パイプの拡管、鋼管の曲げに適用した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にロストコアとして使用する繊維強化氷の圧縮強度、熱伝導率などの基礎特性測定については計画通り実行されて、目標を達成し、材料を限定すれば技術移転につながる研究成果が得られたといえる点に関して評価できる。一方、技術移転の観点からは、すでに企業と技術移転の検討が進められており、研究の進行に伴って技術移転の領域が拡大することが望まれる。今後は、鋼管等の材料についても技術を確立するなど、明確になった技術課題の解決を進めるとともに、従来技術に対する優位性を示し、本成果のモデル化と条件の最適化により、さらに説得力のある技術として産業界にアピールされることが期待される。
天然ゼオライトを用いたSiCウエハの鏡面研削加工に関する研究 埼玉大学
池野順一
埼玉大学
笠谷昌史
本研究では天然物からヒントを得てSiCウエハを高い生産性で鏡面創成可能な研削砥石の開発を試みた.その結果,価格でシリカ粒子と比べ1/20に相当する安価な天然ゼオライトを用いることで,OH基との反応性の比較的高いC面で表面粗さ2nmRa,加工能率2.673mm3/hを得た.よって,SiCにおいて鏡面研削砥石としての可能性を見出すことができた.さらにSi面ではほとんど除去加工ができないこともわかり,メカノケミカル研削が行われていることを突き止めた.さらにゼオライトの特性を変化させる手法を見出し,加工能率を向上させることに成功した.最後に,鏡面創成可能なビトリファイドボンドゼオライト砥石を考案し,SiCの鏡面化に成功した.今後,砥石としての発展に期待できる. 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、次世代パワー半導体の基板材料として注目を集めているSiCの平坦化かつ平滑化加工に、ダイヤモンドやシリカ砥粒よりも安価で、しかも資源として我が国に豊富な天然ゼオライトを使用できる可能性が見出されたことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、SiCウエハを高能率に、かつ、高品位に仕上げるとともに、そのコスト低減を図ることができることから、現象のモデル化とこれに基づいた条件設定に対する指針を明らかにすることで、SiC半導体基板製造での実用化の促進が望まれる。今後は、実用化に向けた技術課題の解決に加えて、メカノケミカル反応など加工メカニズムの基礎的検討が期待される。
希薄な希土類元素の選択的吸着分離剤の開発 産業技術総合研究所
尾形剛志
独立行政法人産業技術総合研究所
小林悟
未利用資源からの希土類元素回収を目指し,高濃度のベースメタルを含有する水溶液から希薄な希土類元素を選択的に分離・回収するための実用的な吸着剤の開発を行なった.粒子の骨格となるスチレン,ジビニルベンゼンと反応性官能基のメタクリル酸グリシジルを懸濁重合法で共重合することにより,粒子径0.5 mm程度の球状高分子粒子を合成し,この粒子にエチレンジアミン,ジグリコール酸無水物を順次反応させることで,希土類元素に対して高い選択性が期待できるジグリコールアミド酸基を導入した高分子吸着剤を作製した.この吸着剤は希土類元素に対して高い選択性を有し,吸着量,吸着速度,繰り返しの使用に関しても良好な結果が得られた. 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、希薄な希土類元素の選択的吸着剤として研究者らが開発した吸着剤を実用化に向けて吸着剤の粒子径を大きくするために、新たに高分子担体と希土類元素に対して高い選択性を有するジグリコールアミド酸配位子を付与法する技術を開発したことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは、得られた研究成果の知的財産権の確保、吸着速度の改善や生産プロセスの検討について希土類元素の回収企業や吸着剤を製造する企業との産学連携による実用化に向けた技術検討が望まれる。
希土類元素は環境対応車、蓄電デバイスや省エネ機器などに必須の素材であり、社会的意義も大きく、本研究の今後の進展が期待される。
イオン液体を複合化したセルロース繊維担持型パラジウム触媒の開発 愛媛県産業技術研究所
大塚和弘
愛媛県産業技術研究所(紙産業技術センター)
青野洋一
TEMPO酸化したセルロース繊維上の-COOHと、イオン液体[BMIM]OH (1-Butyl-3-methylimidazolium hydroxide) との中和反応によって、イオン液体を複合化させたセルロース繊維を作製した。このセルロース繊維にパラジウム (Pd) を担持させた後、還元することによって作製したシート状触媒は、鈴木-宮浦クロスカップリング反応における繰り返し利用ができ、溝呂木-Heck反応用の触媒としても利用が可能であった。自然界において再生産可能なバイオマスであるセルロース繊維を活用した、再利用可能な新しい多機能紙を開発することができた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、イオン液体を複合化させたセルロース繊維にPdを担持させることによって、10回以上繰り返し利用可能なシート状触媒の開発に成功したことに関しては評価できる。
一方、技術移転の観点からは、くり返し性能の向上に関する要因の解明や反応収率のさらなる改善に関する技術検討を進めるともに、「シート状触媒」という新規のコンセプトの有用性を化学系企業とともに見出していくことが必要と思われる。
研究の着実な進展が見られており今後の進展に期待したい。
在来アリ種の体表物質を利用した侵害性アリ種「アルゼンチンアリ」防除 神戸大学
尾崎まみこ
神戸大学
浅田正博
侵略的外来種アルゼンチンアリは、繁殖力に対抗する駆除剤が市場にない難駆除害虫である。その被害防止には強力な侵入防止と持続的排除の実現が重要課題である。私達は、本種が、在来種がもつ仲間認識フェロモンである体表物質を濃縮したものに劇的な忌避行動を示すことを世界で初めて発見した。そこで、その体表物質成分を全て化学合成、最有効成分を特定し、学会発表を行った。この成分を基礎とする忌避製剤の実用を目的とし、活性評価、持続性や使い易さを追求したテスト製剤評価などを行った。また、本研究を通じ「新規忌避剤」を利用した生活環境、食品産業現場における安全な伴うアルゼンチンアリ防除について市民講座や勉強会で説明した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、アルゼンチンアリに忌避効果を有する物質を自然界の中から特定し、化学構造まで明らかにした技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、有機化学の研究者による安価な合成法の開発、もしくは入手方法の確立と、安全で忌避効果が持続可能な塗布方法の開発などを経た実用化が望まれる。今後は、構造同定済みの化合物をリードとする類縁体の忌避効果も検討されることが期待される。
鉄鋼スラグを触媒とした環境浄化プロセスの開発 九州大学
永長久寛
九州大学
松尾晃成
工場などから排出される低濃度の塩素系炭化水素を効率良く分解除去する技術の確立を目的として、オゾン酸化反応に有効な触媒材料の開発を行った。各種遷移金属酸化物のオゾン酸化分解触媒特性、マンガン酸化物の構造と触媒特性について比較検討した。鉄鋼スラグはオゾン酸化分解反応において有効な触媒であり、活性成分(マンガン)以外の成分はオゾン酸化触媒特性に悪影響を及ぼさず、オゾンが効率的にVOC分解反応に利用されることを見出した。さらに、マンガン系担持触媒によるジクロロメタン酸化分解挙動にについて追跡し、高い分解活性を示すための最適な条件や必要となる触媒特性について知見を得ることができた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、各種遷移金属酸化物の触媒特性やゼオライト担体での塩素系炭化水素分解挙動を解明したことにくわえ、鉄鋼スラグがオゾン酸化分解反応において有効な触媒であり、活性成分以外の成分はオゾン酸化触媒特性に悪影響を及ぼさず、オゾンが効率的に揮発性有機化合物(VOC)分解反応に利用されることを見出したことなどの基礎的な知見が得られたことについては評価できる。
一方、本来の目的である塩素系炭化水素のオゾン酸化分解に対する鉄鋼スラグ触媒の性能評価など、本研究の実現に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
塩素系炭化水素の浄化に対する社会ニーズは高く、本研究の進展が望まれる。
次世代リチウムイオン二次電池への応用を目指した金属酸化物メソ結晶電極の開発 神戸大学
立川貴士
神戸大学
浅田正博
本研究では、10 nm以下のTiO2ナノ粒子からなる多孔性TiO2メソ結晶をLiイオン二次電池の負極材料に応用することで、バルクTiO2の理論容量である約170 mA h/gを超える放電容量を達成することを主たる目標とした。TiO2の前駆体水溶液を基板上で焼結、後処理することで、10 nm以下のアナターゼ型TiO2ナノ結晶からなるTiO2メソ結晶を得た。このTiO2メソ結晶を活物質とする負極を作製し、電池特性を評価したところ、1.0~3.0 Vの電圧範囲において理論容量を超える可逆容量が得られ、Liイオンの挿入・脱離が可能であることがわかった。特に、充電1サイクル目で目標値を越える高い比容量が観測された。今後、メソ結晶の前処理や電池構造の最適化を行うことで、更なる性能向上が期待できる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、多孔性TiO2メソ結晶をLiイオン二次電池の負極材料に応用しバルクTiO2の理論容量を超える比容量を達成したことに関しては評価できる。
一方、技術移転の観点からは、充放電サイクル安定性などに対する基礎研究を進めるとともに、企業や電池研究者と連携し電池システムとしての完成度を高めるなど実用化に向けた取組が必要と思われる。
今後、さらなる研究の進展により電池性能の向上に繋がる可能性があり、企業ニーズを踏まえた研究成果や知的財産権の確保など実用化に向けた取組みに期待したい。
ソルボサーマル固化法による次世代MLCC用新規誘電体材料の開発 山梨大学
和田智志
山梨大学
服部康弘
ソルボサーマル固化法を用いてニオブ酸カリウム(KNbO3, KN)単結晶ナノ粒子をコアとしKN表面にチタン酸バリウム(BaTiO3, BT)をエピタキシャル成長させる最適条件の検討を行った。種々の溶媒を用いBT粒子が生成しない条件を明らかにし、その条件下でKNナノ粒子とBT原料である酸化チタン(TiO2) からなる圧粉体を基板粒子として導入し、ソルボサーマル反応を行うことで密度変化、結晶構造変化、微構造変化について検討を行った。その結果、エタノールと2-メトキシエタノールの混合溶媒に微量の水を添加した溶液を用いることで目的とするBTがKN表面をエピタキシャル被覆する構造を作製できた。しかしながら、作製したBT/KNナノ複合セラミックスにおいて、BTはKN表面をエピタキシャル被覆する以外に、多量のBTナノ粒子の生成が観察され、複雑な構造を有していることが明らかとなった。この結果、目標の比誘電率に達しなかった。今後微細構造の最適化をはかり比誘電率の向上をめざす。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、ニオブ酸カリウム(KN)粒子表面へのチタン酸バリウム(BT)のエピタキシャル成長がソルボサーマル法という、比較的安価な製法での実現の可能性が示されたことについては評価できる。
一方、、目標とする構造のBT被覆KN微粒子の合成に向けて、出発原料、溶媒及び生成条件(温度、時間、圧力等)を含めた反応条件の探索などの技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
コアシェル構造を有する複合ナノ粒子の合成手法として今後の本研究の進展が望まれる。
燃料電池正極用全酸化物触媒の実現に向けた高耐久導電性酸化物担体の開発 弘前大学
千坂光陽
弘前大学
上平好弘
固体高分子形燃料電池における正極用白金系触媒の希少性と、炭素担体の低耐久性に材料ベースで対応することが本研究の最終目標である。そのため炭素担体を一切用いない、チタン酸窒化物触媒を合成・評価した。可逆水素電極電位(pH=1)に対して0.8 Vで300 A/cm3の体積電流密度を得ることが、本研究課題の目的である。導電性酸化物担体としてTi4O7ナノファイバを水熱法経由で合成後、その表面にチタン酸窒化物を担持し、活性に対して表面組成を最適化した。最適化後に硫酸溶液中でPt-C触媒の8割を超える半波電位が得られ、これを用いて単セル発電実験を行った。その結果、初めて炭素担体を用いない全酸化物系触媒から白金系触媒と炭素担体からなる触媒と同等の限界電流密度が硫酸溶液中で得られており、十分な反応面積と導電性を有していることが示唆された。 今後実用化に向け、体積電流密度の算出など実用性の評価や特性向上に向け研究を進めていく。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、新たに見出した独自の手法によるチタン酸窒化物触媒が、炭素担体を用いない固体高分子形燃料電池正極用非白金触媒として最高の性能を達成したことについては、大いに評価できる。
一方、技術移転の観点からは、企業との共同研究により燃料電池システムとしての実用に向けた課題の明確化とその解決を産学が連携して進めることが望まれる。
水素社会の実現に向け、燃料電池は分散電源や自動車の動力源など広範な分野への普及が期待される次世代の発電システムであり、本研究が目指す経済性と寿命特性に優れた革新的な燃料電池の社会的意義は大きく、今後の本研究の進展が期待される。
正浸透膜法による新規省エネ型海水淡水化システムに適用する高分子イオン液体の創製 神戸大学
神尾英治
神戸大学
斉藤正男
省エネルギーな水処理技術として注目されている正浸透膜法に利用される高浸透圧溶液(DS)として、高浸透圧の発現と温度応答相分離による分離回収性を兼ね備えるDSを開発すべく、下限臨界溶液温度(LCST)型相転移を発現可能な種々イオン液体(ILs)を合成した。IL水溶液のLCSTおよび浸透圧とIL濃度の関係から、LCSTと浸透圧の間に関連性を見出した。特に、アミノ酸をアニオンとするイオン液体(AAIL)はカチオン設計による親・疎水性制御により優れた浸透圧特性とLCST型相転移を同時発現できることを見出した。AAIL水溶液を用いた正浸透膜透水試験により、海水相当の塩水から水をAAIL水溶液に透過可能であることを明らかにした。さらに、相分離後のAAIL希薄相は分画分子量1000の限外ろ過膜により濃縮、回収、再利用できる可能性が示された。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、イオン液体を体系的に合成し、高浸透圧溶液として相転移、浸透圧と濃度などを評価整理すると共にアミノ酸アニオン型のイオン液体の優れた特性を検証した成果が顕著である。一方、技術移転の観点からは、イオン液体が望まれる高分子ではないために稀薄相からの分離回収は困難が予想されるので、早急に工業的なプロセスイメージを作るなどでの実用化に向けた目標を明確にした研究開発の加速が期待される。今後は、イオン液体の繰り返し使用時の安定性や分離システムも検討することが期待される。
高効率インバータ用シリコンパワーダイオードの高速化 アジア成長研究所
附田正則
シリコンパワーダイオードのシリコンエッチングにより得られた新規基本構造をシミュレーションした結果、仕様を満足しつつチップの小型化と高速スイッチング化が可能であることが判明した。具体的にはチップサイズが2/3倍、スイッチングスピードが55ns(1.3V時)になり当初の目標をほぼ達成する。またSEM、AFM、TEMによる分析により、エッチング形状は3次元的に問題が無く、エッチング表面近傍に欠陥が無いことも明らかになった。シリコンエッチングプロセスは確立したので、今後は酸化膜形成プロセスと電極埋め込みプロセスの確立が今後の課題となる。本研究により、シリコンデバイスの膨大なインフラを活かした高速ダイオードの大量供給およびそれによるエネルギー利用高効率化に対し大きく前進した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、特殊な凹凸構造を絶縁体中に形成することにより従来に比べて高速化が図られた点はについては評価できる。一方、実デバイス試作して、評価をすることが必要である。今後は、試作に当たり、ボトルネックとなっている課題の解決策を検討することが望まれる。
微細インプリント両面加工を用いた燃料電池の高性能化 九州大学
津守不二夫
九州大学
古川勝彦
当初の計画に沿って開発を進め,燃料電池試験用のテストセルを完成するプロセスが完成した.中核部となる電解質薄層セラミックス部位として,波状のパターンを施した厚さ約50 μmの構造を有しつつ,この脆弱な部分を取り囲むように強固な支持構造をとりつけ,同時に焼成することができた.
開発中におきた問題としては,電解質層が完全に緻密とならなかったことである.これは,水素透過試験の結果判明し,現在は焼結条件の見直しが完了したところである.水素透過は問題であるが,この結果は発電実験時の酸素イオンの拡散量の見積りに利用できる.この見積りでは酸素イオンが従来の2倍以上の透過量となることが示された.今年度中に実際の発電試験結果が報告できる予定である.
本研究は、高効率の発電装置として普及が期待されている固体酸化物型燃料電池(SOFC)の高効率化を目指し、インプリント法を用い電解質と電極材の層界面を平坦な面からより大きな反応面積がえられるよな形状の付与法に関するものである。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、プレス加工プロセスの大幅見直しにより、厚さ50μmの電解質層の両面加工と焼成条件の検討により、加工プロセスに目途をつけたことについては評価できる。
一方、技術移転の観点からは、水素ガス透過の抑制とともに実際の燃料電池発電試験による発電性能の向上効果を確認するなど、技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
今後は、本研究の進展により固体酸化物型燃料電池の発電性能が大きく向上し実用化されるよう、中長期の具体的な研究計画を明確にし取組まれることが望まれる。
炭素安定同位体を利用した街路樹の大気汚染・乾燥ストレス耐性評価 京都工芸繊維大学
富田祐子(半場祐子)
京都工芸繊維大学
神谷靖雄
本研究では街路樹について夏期の大気汚染・乾燥の複合ストレスの影響を評価し、ストレスを緩和する管理用法や樹木種を見いだすことを目的としている。京都市内において大気汚染レベルが異なる調査地を設定し、街路樹として国内で最も多く植栽されているイチョウ(高木)およびヒラドツツジ(低木)を対象に、ガス交換法および葉の炭素安定同位体を用いて光合成機能を比較・評価した。イチョウは調査地間で光合成機能はほとんど変わらなかったが、ヒラドツツジは大気汚染のレベルが高い調査地で光合成機能が低下していた。また、炭素安定同位体の比率は光合成機能とよく相関しており、光合成機能の評価として有用であることが明らかになった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、ヒラドツツジが大気汚染レベルの高い地点で光合成機能を低下していることを見出したことと炭素同位体比と開孔度に関連を見出したことについては評価できる。一方、高木の場合の葉のサンプリング位置による影響の解析などに向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、植物種と測定回数を増やすことによりデータの信頼性を向上させると共に、多数の報告がある乾燥ストレスへの耐性遺伝子も勘案した遺伝子解析にも取組まれることが望まれる。
連続・大量処理が可能な電場を利用したケミカルフリー粒子凝集技術の開発 法政大学
森隆昌
法政大学
中江博之
太陽電池パネル等で使用されているシリコン微粒子を対象として,水系シリコン模擬廃液に様々な条件で直流電場を印可し,凝集・沈降分離できるかを検討した.連続処理装置を試作し,連続処理の実現可能性も検討した.その結果,シリコン微粒子は直流電場による凝集・沈降分離によって,上澄み液の濁度を100 ppm程度まで下げることができた.凝集粒子の沈降速度は未凝集の場合の8倍程度まで増加した.さらに特定の酸・アルカリを含む廃液であれば,電場による処理後のpH変化をわずか0.5程度に抑えることができた.連続処理実験では,濁度35ppm以下(目標値300 ppm以下)の清澄な上澄み液を連続で回収できた.沈降分離した凝集粒子の回収率をさらに上げることによって実用可能性が更に高まるものと考えられる. 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、直流電場を印加するだけで、凝集剤等の薬剤を一切添加せずに、模擬廃液中のシリコン微粒子を凝集・沈殿させて清澄液を得るという技術について、処理後の粒子径、未凝集粒子濃度、pH変動、処理量など目標を達成したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、実廃液の処理を視野に入れた連続処理装置を試作し、バッチ試験とほぼ同等の清澄液が得られており、回収率が低くなることの対策も示されているなど、その可能性は高い。今後は、適用分野での実態に合わせて、スケールアップしたときに問題となりそうな事項を整理して、実用化を目指して欲しい。
リチウムイオン二次電池の高容量化を実現する、メカノケミカル還元法によるSiO粉体の新規合成プロセスの確立とその応用 名古屋工業大学
白井孝
名古屋工業大学
土屋洋一
リチウムイオン二次電池の負極活物質としてSiO粉体に必要なSiOx比の検討、把握、最適化を行い、X比1.2の実用化の可能性のあるSiO粉体の合成条件の把握に成功した。また負極材への適用を鑑みた未分解有機物の除去方法について検討し、簡便かつ効率的に除去できる技術の開発に成功した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもリチウムイオン二次電池の高エネルギー化が期待される負極活物質である一酸化ケイ素(SiO)をメカノケミカル還元反応を利用し常圧・常温で合成し酸素含有量の制御手法の確立と最適化及び導電性確保のための未分解ポリマーの簡便な除去法を見出したことについては評価できる。
一方、実用化に向けては、SiOの酸素含有量の高精度制御や実電池の試作評価により既存のSiOに対する優位性の確認などの技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
今後は、本研究が進展し安価で簡便なSiO負極活物質の製造法が実用化されリチウムイオン電池の更なる性能向上と普及により社会還元に繋がることが期待される。
高効率・低環境負荷スポット型医療排水浄化装置の設計 北見工業大学
齋藤徹
北見工業大学
鞘師守
医療排水中の抗生物質による耐性菌発生のリスクが高まっている。本研究は、全抗生物質使用量の6割を占めるβ―ラクタム系抗生物質が、カチオン界面活性剤を収着させたベントナイト(オルガノクレー)に吸着し、温和な条件で分解する現象の発見に基づき、オルガノクレーを充填した層を作製し、そこに排水を通すことにより、β―ラクタム系抗生物質を選択的に捕捉し、分解させてから放出させる仕組み構築をした。透水性の高い素材粒子との混合層の作製により、遮水性の高いオルガノクレー層に適度の透水性を確保した。通水量の調整により、抗生物質の継続的な捕集・分解が可能となり、流出水中には検出された成分は抗菌活性を持たない分解生成物のみであることを確認し、医療排水処理システムにおける抗生物質の処理に関する設計要素を見出した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも研究者が見出したオルガノクレーにより、β-ラクタム系抗生物質が水中から迅速に捕集されるだけでなく、その場で抗菌活性を持たない物質に分解されるといったことを確認できたことは評価できる。
一方、本研究の医療排水処理システムとしての活性汚泥法などの従来法に対する優位性やその性能向上に向けたオルガノクレー層の透水性向上、界面活性剤の固定方法とともに抗生物質の分解反応機構の解明など、技術移転に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
医療排水や畜産排水中の抗生物質の除去は社会的にも重要な問題であり、本研究の今後の進展が望まれる。
酸化物界面ダイポールの繰り返し構造によるMOSFET閾電圧のシフト技術 東京大学
喜多浩之
東京大学
長谷川克也
次世代SiCパワートランジスタでは安定動作の観点から大きな閾電圧が求められる。しかし,そのためにチャネルのドープ濃度を高めるとチャネル抵抗が増大し,性能が低下するというジレンマがある。そこで絶縁性酸化物の界面に生じる“界面ダイポール効果”をゲート絶縁膜に持たせることで閾値をシフトさせる技術の実現性を検証した。ゲート絶縁膜にAl2O3とSiO2の積層構造を繰り返し導入し,それらの積層方法並びに積層後のアニール条件を検討したところ,積層構造を2回繰り返して挿入した場合に1Vを超えるフラットバンド電圧シフトを得ることに成功した。同構造の積層を繰り返せば,さらに大きな閾電圧の制御も可能である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、積層構造を2回繰り返して挿入した場合に1V以上のフラットバンド電圧シフトを得ることに成功した点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、界面ダイポール効果は原子の熱拡散などに大きく左右されるので、多段に積層した場合のアニ―ルなど熱処理効果の確認などでの研究が必要である。今後は、ターゲットであるSiC基板を対象とした場合の酸化物多層膜のプロセッシングの課題を抽出することが望まれる。
簡便な物理的手法による高透明・接着性を有する結晶性フッ素樹脂ブレンドフィルムの開発 岡山理科大学
大坂昇
岡山理科大学
横溝精一
非相溶であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)とポリビニルブチラール(PVB)との透明ブレンドフィルムの作製を目指して種々の検討を行った。酸性条件下において、アルコールと水との混合溶媒中で、グルタルアルデヒドを用いて架橋したPVBに、DMFに溶解させたPVDF溶液を含浸させると、約40wt%ものPVDFが架橋PVB内部に入り込むことを見出した。真空乾燥後に得られたブレンドフィルムは可視光領域で約70%の光透過率を示し、さらにPVDFを溶融後に氷水で急冷したフィルムは可視光領域で約80%の良好な光透過率を示した。本研究で実施した範囲では、架橋剤との反応によりPVBのヒドロキシ基が失われ、接着性を確認することができなかった。さらなる架橋条件の最適化を行い、接着性を付与する課題が明らかにされた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、結晶性ポリマーを含むポリマーブレンドで相溶性と透明性を両立させることはかなり困難な中、ポリビニルブチラール(PVB)のゲル化手法でフッ素樹脂との透明フィルムを作成したことについては評価できる。一方、当初の狙いである接着性発現に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、目標とするフィルムは溶融混練・成形といった「簡便な物理的手法」で実現されることが好ましいため、当初の前提を満たす代替材料や相溶化剤の可能性について更に考察されることが望まれる。
アパタイト酸化物イオン伝導体を用いた低温作動型酸素センサの開発 新居浜工業高等専門学校
中山享
香川高等専門学校
関丈夫
低温域でも高い酸化物イオン伝導性を示すアパタイト型ランタンシリケートを電解質材料に用いた酸素ガスセンサについて、この電解質材料に適した電極材料の探索及びランタンシリケートの酸化物イオン伝導の向上などに取り組むことで、低温作動酸素ガスセンサの実現を目標とした。100℃での伝導率が1×10-5 S・cm-1以上のランタンシリケートセラミックスを電解質材料に用いた電位検出型酸素ガスセンサでは、その起電力は100℃付近でも酸素分圧(対数)に直線的に変化し酸素ガスセンサ応答が確認できた。さらに、電解質材料の伝導率向上させることができれば、室温付近での酸素ガスセンサ応答の実現が可能であることもわかった。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも研究者が独自に見出したアパタイト型ランタンシリケート酸化物(LaSiOX)多結晶体および単結晶の酸素イオン伝導体に適切な電極を付与することにより、100℃の低温動作が可能な酸素センサの実現の可能性が示されたことについては評価できる。一方、技術移転の観点からは低温での酸素ガスセンサ応答性の確認や産学連携により応用分野を明確にし、伝導率のさらなる向上や単結晶と多結晶体の使い分けなど実用化に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。 
今後は、実用化に向け研究のさらなる進展が望まれる。
超臨界CO2利用・低環境負荷金属ナノ粒子コーティング装置の開発 静岡大学
佐古猛
静岡大学
鈴木俊充
本研究では超臨界CO2を用いて、低環境負荷で高効率の金属ナノ粒子のコーティング装置及び技術を開発した。ここでは金属ナノ粒子としてニッケル、コーティング材として銅アセチルアセトナートとクロムアセチルアセトナートを使用した。開発した装置はコーティング材を超臨界CO2に溶解する溶解槽、コーティング材を分解して金属ナノ粒子表面に析出させる熱分解槽から構成される。本装置を用いてコーティングを行ったところ、コーティング膜厚はコーティング材の熱分解槽への供給時間、超臨界CO2中へのコーティング材の溶解度等でコントロールできることが明らかになった。更にこの時、粒子の凝集を抑制しながらコーティングすることができた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、金属ニッケルナノ粒子表面に銅またはクロムの金属コーティングを超臨界CO2を用い低環境負荷で凝集なく行う装置及び技術を開発したことについては評価できる。
一方、技術移転の観点からは、他の金属コーティング材の検討、膜厚の制御範囲を広げるなどの基礎研究とともに、本技術の具体的な応用分野を明確にした技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。 
今後は、実用化に向け研究のさらなる進展が望まれる。
米副産物からの機能性タンパク質・リン化合物同時回収プロセスの開発 山形大学
渡辺昌規
山形大学
高橋政幸
本プロセスにより得られたタンパク質回収画分のタンパク質組成解析を行った結果、すべてのタンパク質回収画分において、米構成タンパク質の各サブユニットが認められるともに、アミノ酸スコアとして高値を示したことから、精白米より優れた栄養価を有することが明らかとなった。さらに、イノムブロットによる米アレルゲンタンパク質(14-16 kDa)の解析を行った結果、脱脂米糠、回収タンパク質画分では検出されず、未脱脂糠においてのみ検出された。これらの結果より、本タンパク質回収画分は安全性が高く、栄養価に優れる新規食品タンパク質源としての可能性が示された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、米糠の価値をできるだけ高めようとする本研究の中で、特に所期目標以上のアレルゲンフリーのタンパク含有物を得たことに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、分画したリン資源を例えばリン肥料として米作田に還元するなどの検討を加えたプロセス設計、コスト評価を行うなどでの実用化が望まれる。今後は、プロセス設計とコスト評価に基づき研究開発課題を整理し、公的資金を活用して本成果をパイロット試験で実証されることが期待される。
有機・無機界面電界利用高効率フレキシブル太陽電池の創製 神奈川大学
松木伸行
神奈川大学
田口澄也
本研究では、有機・無機界面電界利用高効率フレキシブル太陽電池の創製を目指し、フレキシブル基板上エピタキシャルSi膜に対するπ共役系高分子の接合による太陽電池作製の可能性を実証するため、まず研究に必要な設備を整備した。同設備を用いて結晶Siに対してπ共役系高分子を接合し素子を形成したところ、再現性良く良好な整流特性を発現することがわかった。また、界面容量測定の結果から、内蔵電位として約0.6Vの電界が形成されていることが確認され、太陽電池動作のために必要な条件を有していることが実証された。 当初期待していた成果までには得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも有機・無機フレキシブル太陽電池としての基本となる可能性を、単結晶Si上に共役系高分子を接合した素子を形成し、整流特性によりπ共役系高分子とSi基板との良好なヘテロ接合が確認できたことは評価できる。
一方、フレキシブル太陽電池としての実用化に向けては、Si単結晶さらにはフレキシブル基板上に堆積させたSi薄膜多結晶での光電変換機能の確認などの技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
今後、研究のさらなる進展による知的財産権の確保が望まれる。
多目的最適化によるターボチャージャー用ノンサージコンプレッサーの開発 長崎大学
坂口大作
長崎大学
竹下哲史
本研究は多目的最適化設計手法を用いてサージフリーコンプレッサーの開発を行う.自動車用ターボチャージャーの遠心コンプレッサーは,使用流量の低流量域で自励的脈動現象であるサージを生じてしまい効率が低下し,エンジンの排ガス特性が悪化する.本研究では多目的最適化という新しい設計手法により,サージを生じることのないサージフリーコンプレッサーを開発する.失速抑制対策として循環流型ケーシングトリートメントおよび小弦節比翼列ディフューザを採用し,遺伝的アルゴリズムを用いた多目的最適化を用いて形状探索することで自律的に剥離域を抑制する形状を見出す. 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、遠心圧縮機の低流量域の性能向上に関する設計に際し,ケーシングトリートメンを有効にする形状,ならびにディフューザの翼列形状の最適化手法を提案し、多目的最適化手法と実験によりケーシングトリートメントの最適化が実証されている点は優れており評価できる。一方、技術移転の観点からは、小節弦比ディフューザの最適形状においてCFDによる知見を得ているが、実用化に向けた実験による検証が望まれる。今後は、産学共同による研究開発の設計サイクルを繰り返すことにより、世界の市場で優位性を有する製品の提供が期待される。
グラフィティックカーボンナイトライド薄膜の光触媒特性の向上 理化学研究所
宮島大吾
独立行政法人理化学研究所
井門孝治
本研究課題は、研究責任者らが開発に成功したグラフィティックカーボンナイトライド(以下g-C3N4)薄膜の光触媒特性の向上を指向したものであった。均一な薄膜でありながら、高い光触媒特性を有していたため、表面積を稼ぐことによりその特性が破格に向上することを期待した。しかしながら、本研究で用いられた手法では薄膜のキャパシタを42倍、光触媒特性(光電流値)では4.2倍までの向上しか実現できず、当初の目標(100倍)には至らなかった。一方この原因を探求する上でこの薄膜材料の興味深い光学特性に気がついた。光触媒特性に注視したからこそ気づけたこの特異な物性は応用的にも極めて有望で、現在この光学物性を中心に用途特許の申請準備を行っている。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも独自の製法によるグラフィティックカーボンナイトライド(g-C3N4、GCN)薄膜に関して、薄膜のキャパシタならびに光触媒特性を明らかにするとともに、新たに薄膜の屈折率が極めて大きいことを見出したことについては評価できる。
一方、グラフィティックカーボンナイトライドは新規の物質であり、今回見出された大きな屈折率のような種々の優れた特徴を有することが期待され、更なる基礎的な検討が必要と思われる。
今後は、g-C3N4薄膜の大きな屈折率の特徴を活用した光学デバイスへの応用研究とともに、新たな物性の探索研究が進展することが望まれる。
高容量を発現するナノワイヤー型レドックスキャパシタ電極の開発 千葉大学
星野勝義
千葉大学
河野敬介
本研究開発の目標は、コバルトナノワイヤー電極を電解合成するに際して、(1)ナノワイヤー成長時に磁場を印加することによりワイヤー同士の重なりを低減させること、及び(2)高温水中でナノワイヤー合成を行い、表面の水酸化コバルト層の厚みを増加させること、の2点であり、その結果、比容量1000 F/gを超える高容量レドックスキャパシタ電極を開発することである。研究期間内に2つの目標をほぼ達成でき、技術移転を目指した産学共同等の研究開発ステップにつなげられる予定である。その達成の様子は、特許出願として結実した。今後は、産学共同による諸特性実用試験を実施し、製品化を進める予定である。 期待以上の成果が得られ、技術移転につながる可能性が大いに高まった。特に、レドックスキャパシタ電極として従来の容量を大きく超える電極の開発に成功し、小型大容量で高速充放電可能なレドックスキャパシタの実用化への道が開けたことに関しては評価できる。
一方、技術移転の観点からは、実用キャパシタセルでの初期性能、寿命特性の確認や実用化に向けた課題の解決を企業との産学連携により推進されることが望まれる。
今後は、本研究の進展により自動車や再生可能エネルギーの有効利用に不可欠な小型大容量の蓄電デバイスとして実用化され低炭素社会の実現に貢献することが期待される。
海藻・植物凝集剤の事業化に向けた調製・使用方法の実証試験 東京海洋大学
榎牧子
東京海洋大学
池田吉用
研究内容に相当な変更を加えたものの、大規模スケールによる凝集剤の調製方法の確立、長期間の性能保持条件、および種々の濁水を対象とした凝集処理条件の決定を行い、本質的には予定した目標を概ね到達できた。これに加えて、当該凝集剤の高機能化、および新たな原料を用いた凝集剤の開発にも成功し、予定した目標の枠を超えて成果を上げることができた。
新原料を用いた凝集剤については特許出願を行った。種々の濁水への応用方法、および凝集剤の高性能化についても、特許出願および技術移転への道筋が得られた。
本研究の成果を元に、今後も引き続き、技術移転と実用化へ向けて研究開発を継続する予定である。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特にニーズを反映させて一部、目標の修正、及びそれに伴い未達成の目標もあるが、技術移転に向けた研究としては素晴らしい成果が得られており、総合的には十分に目標を達成している点で評価できる。一方、技術移転の観点からは、製造に成功したものを凝集剤のプラットフォームと位置づけて、対象とする汚水に合わせて、作成した凝集剤の表面処理により汎用性を高めることなどが望まれる。今後は、まずは実用化を早期に目指し、同時にコスト面が重要な実用化課題になると思われるので、製造法の改良を産学連携をもとに引き続き行うことが期待される。
プラズマを用いた多電極全面一括型数値制御加工法の開発 大阪大学
佐野泰久
大阪大学
鍵谷圭
予め計測した被加工物表面各位置の形状誤差に基づいて単一のプラズマ発生用電極を送り速度制御しながら全面走査加工する超精密加工法に対し、複数のプラズマ発生用電極を被加工物表面に対向して敷き詰め個別にプラズマ発生時間を制御して数値制御加工を行う超精密加工法を考案・検討してきた。本研究では、プラズマの生成・消滅を制御するためにトランジスタを用いることを提案し、隣り合う電極間の距離を最適に設計することで、電極毎にON/OFFが可能な19個の電極を有する多電極モジュールの試作に成功した。多電極全面一括型数値加工の実証実験として、市販SOI基板の表面シリコン層の数値制御加工を行い、厚さ分布の改善に成功した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、多数の電極を一定間隔に配列することは極めて困難と思われたが、リソグラフィーによりメッキ膜を多数の電極に分割する製作法を確立したことについては評価できる。一方、目標平面度1nmを達成するためには、加工条件等の検討や個々の電極面積の低減の他に、全体の電極面の高精度化などについても検討が必要と思われる。今後は、応用先を調査するとともに実用展開のための装置、加工条件、精度、加工コストなどに関して基礎データの積み上げが望まれる。
新規システイン合成経路を利用したシステイン発酵生産法の開発 長浜バイオ大学
中村卓
長浜バイオ大学
堀伸明
本研究では、現状の加水分解抽出法よりも望まれているシステイン(Cys)類の発酵生産法を実用化できるように、新規のシステイン合成経路を構築した大腸菌を作製し、それを用いて従来の発酵法より多くのCysを生産することを目指して研究を行った。その結果、通常の経路でCysを合成できない大腸菌遺伝子欠損株を用いて、ランダム変異導入実験により作製した酵素の変異遺伝子ライブラリーをスクリーニングしたところ、Cys相補性を示す形質転換体を多数得ることに成功した。今後、スクリーニングの条件を厳しくして目的の機能を有する変異体酵素を選抜し、その酵素レベルでの特性評価や発酵生産用の大腸菌に導入してCys生産量を確認していきたい。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、本来の基質ではないがCys合成経路のある中間体に作用する酵素の変異体を見出したことについては評価できる。一方、見出した変異体の中より反応効率が高い酵素の変異体を効率よく選抜し発酵生産用大腸菌へ形質転換する候補を多く取得すると共に、得られた結果などから本提案プロセスの実用化可否の見直しに向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。宿主としてSer合成能力の欠損した大腸菌利用を考えているが、通常微生物のSer要求性が高く計画中の生産菌では高価なSer添加が必要となり、コスト高の要因となる。従って、現時点からアミノ酸発酵生産会社へ共同研究の申し入れを提案されることが望まれる。
高効率・薬品無使用・省エネルギー型の先駆的な重金属汚染土壌浄化技術の開発 山口大学
鈴木祐麻
山口大学
浜本俊一
本研究の目的は、土壌中に含まれる金属酸化物が鉛・ヒ素(V)の土壌中挙動に与える影響に関する理解を深め、得られた知見に基づいた新しい土壌浄化技術を提案することである。本研究により得られた結果を下記にまとめる。
・土壌中に含まれる金属酸化物は、カオリナイト[Al4 Si4O10(OH)8]と比較して高い鉛(II)収着能を示した。この結果から、金属酸化物は鉛(II)の土壌中挙動に大きな影響を与えていることが示唆された。
・土壌中に含まれる金属酸化物を磁力選別により除去することにより鉛・ヒ素(V)を土壌から除去する技術の開発を行った。有機物を含まない汚染土壌は最大27%(鉛)および42%(ヒ素(V))の除去率にとどまり、有機物含有汚染土壌では除去率がさらに低下した。
・実用化に向けては、土壌中の有機物の影響、鉛およびヒ素の粒子径、磁選機の磁力の大きさなどが重要であることが分かり、今後の研究開発の方向性が明確になった。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、鉛やヒ素による汚染土壌の中に含まれる金属酸化物への選択的な吸着と磁力選別除去により、土壌の浄化の可能性を見いだしたことは評価できる。
一方、技術移転の観点からは汚染土壌からの汚染物質除去率向上に向けた有機物の影響低減、汚染物質吸着土壌の分離に関する技術的な検討や多くの実際の汚染土壌での除去効果の確認などのデータの蓄積が必要と思われる。
本技術は社会的にも有用であり、技術移転先企業を探索し実用技術開発を進めるとともに、本技術の有用性が検証され、実用化されることが期待される。
新型農薬に特異的に応答する酵母バイオアッセイ法の開発 大阪府立大学
八木孝司
大阪府立大学
鈍寳宗彦
ショウジョウバエ脱皮ホルモン受容体、その複合体蛋白質および転写共役因子を発現し、さらにレポータープラスミドをもつ酵母を作製した。この酵母は内在リガンド、植物由来リガンド、脱皮ホルモン受容体を標的とする農薬によく応答し、アッセイ酵母が完成できた。ショウジョウバエ幼若ホルモン受容体および転写共役因子を発現し、レポータープラスミドをもつ酵母を作製した。この酵母は3種の内在リガンドおよび幼若ホルモンを標的とする農薬によく応答し、アッセイ酵母が完成できた。ニコチン性アセチルコリン受容体リガンドアッセイ酵母は計画通り作製したものの感度が低く、更なる改良を進めている。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、2種の昆虫ホルモン受容体を組み込んだ酵母レポーターアッセイを作成し、内1種では環境試料を用いて実証試験を行ったことに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、細胞壁通過性の高い酵母を用いて3種の受容体を同時に組み込んだアッセイシステムによって安定した高感度測定系を確立すると共に環境試料の前処理法の検討などを通した実用化が望まれる。今後は、企業関係者と積極的にコンタクトしてニーズや課題を摺り合せることが期待される。
接触燃焼式ディーゼルパティキュレート検知センサの開発 九州大学
西堀麻衣子
九州大学
猿渡映子
接触燃焼式粒子状物質(PM)センサを作製し、実用条件を模擬したガス流通条件下でのPM応答特性評価を実施した。その結果、燃焼熱を検出する本センサの検知原理では、触媒との接触性や熱伝導性など様々な要因が応答性能に寄与するため、PMの定量検知は困難であるとの結論を得た。そこで、本研究開発で得た触媒構造設計指針を取り入れ、PM燃焼反応によって生じるCO2の発生とそれに伴う局所的な酸素分圧の変化を、限界電流式酸素センサで検知する新規な原理に基づく検知法について検討した。その結果、触媒反応場で燃焼したPMに起因する変化のみを検知することに成功し、今後、本手法をPMセンサへ応用することを目指す。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、熱効率が高いディーゼルエンジンの普及拡大の課題の一つである排ガス中に含まれる粒子状物質(PM)低減の為の排ガス中のPMセンシングに対し、当初PMの接触燃焼方式にて燃焼熱を検知する手法の研究を進めていたが、困難であることが判明した。検討の過程で見出したPMの燃焼反応によって生じる局所的な酸素分圧の変化を、限界電流式酸素センサで検知できる可能性を見出したことについては評価できる。
一方、今回見出した検知方法は基礎検討段階であり他の検知方法に対する優位性や目標性能を定量的に評価・設定し、技術的検討やデータの積み上げなどが望まれる。
内燃機関の燃焼効率の向上と排ガス浄化は、センシング技術の進展によるところが大きく、今後の本研究の進展が期待される。
グリセリンの不斉リン酸エステル化 長崎大学
尾野村治
長崎大学
石橋由香
触媒的不斉非対称化によりグリセリンを光学活性グリセリンモノリン酸エステルに変換できる反応を見出した。この反応は常温常圧下、簡便な操作で進行したが、キラル触媒の使用量、収率、光学純度の点では目標値には未達であった。また、合成したモノリン酸エステルを有用なグリセロリン酸類へ変換することは難しく、申請段階でグリセロリン酸類の中間体に想定した化合物は取り扱い容易ではなかった。そこで、グリシドールを始めとする種々グリセリン誘導体のリン酸エステル化も検討の対象とした。光学分割の効率は不十分だが、高収率で反応が進行する反応条件を見出した。企業化レベルには改善が必要であるが、合成ルート構築に向けて有用な知見を得ることができた。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、目標は達成されなかったが当該化合物に関する種々の検討を通した技術蓄積と、それらに基づく代替案の検討がなされたことについては評価できる。一方、中性下での反応も含め、不斉リン酸エステル化反応に関してはルイス酸や配位子、反応条件等の抜本的な見直しに向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、市場のニーズに対する工程全体を視野に入れた目標設定を再考されることも望まれる。
新規な翻訳エンハンサーを利用した高効率有用タンパク質生産法の開発 東京理科大学
島田浩章
東京理科大学
近藤信雄
本申請課題では、イネ由来Mac翻訳エンハンサーの産業利用を目指し、翻訳エンハンサーの改良と汎用性を評価した。翻訳エンハンサーの改良では、Mac3の前半部分を削った配列(dMac3)において、従来の約3倍の活性を見いだすことができた。イネ以外の生物種(ベンサミアナタバコ、コムギ、ヒト培養細胞)において、dMac3の導入によって生産量が増加するかどうかの検定を行った。その結果、これらの細胞での増強効果が認められた。本研究課題により、dMac3は、生産物を増加させることができる汎用性の高い翻訳エンハンサーであることを示すことができた。今後、様々な生物種において同様の活性を見いだすことができれば、生産量増加の手段としての産業利用が大いに見込まれる。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、植物では汎用性が高く、既存配列よりも更に翻訳促進活性が高い配列を同定したことは高く評価できる。一方、技術移転の観点からは、下流遺伝子産物の細胞内局在と翻訳活性の関連が不明瞭なので下流遺伝子に対する普遍性を調べると共に、酵母や動物などでの活性効果を検証するなどでの実用化が望まれる。今後は、抗体医薬等の基盤技術の確立を目指している「次世代バイオ医薬品製造技術研究組合」との連携も検討されることが期待される。
金属電解回収用複合セラミックス電極材料の開発 長野県工業技術総合センター
畔上達紀
長野県工業技術総合センター
滝沢秀一
導電フィラーに炭素繊維(CF)と多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を併用した炭素―アルミナ複合焼結体を作製し、実用化に向けて諸特性を調査した。CFを用いることで、高電流密度条件でも複合焼結体表面からのフィラーの脱落が認められなくなった。さらにCF及びMWCNTの添加量、焼結圧力が緻密さ(開気孔率)と導電性(体積抵抗率)に与える影響を検討し、緻密かつ低体積抵抗率の複合焼結体を得るための作製条件を得た。複合焼結体をモザイク状に複数組み合わせ、大きな面積を有する実証試験サイズの複合セラミックス電極を作製した。これを用いたNiめっき液中からの電解回収実験を行って、電極表面に析出したNiの良好な剥離性を確認した。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、独自の焼結手法を用い炭素―アルミナ複合焼結体の炭素源を最適化し実用性の高い金属電解回収用電極を開発したことに加え、実用化に向け特許出願されるとともに今後の研究開発計画も適切であり評価できる。
一方、技術移転の観点からは、産学連携により本電極を用いた装置開発に向け電流効率や実際のメッキ廃液での回収金属の純度等の技術データの取得に努め実用化されることが望まれる。
今後は、本研究の実用化により表面処理廃液から貴重な金属資源の回収再利用といった循環型社会の構築への貢献が期待される。
高純度水素と機能性炭素を併産する新規なメタン直接分解プロセスの開発 旭川工業高等専門学校
宮越昭彦
苫小牧工業高等専門学校
鴨田秀一
水素製造技術に関しては、マイクロ波を加熱媒体とするメタン分解反応に関して触媒成分の役割を特定し、2種類の反応モード(反応温度を固定するモードとマイクロ波出力値を固定するモード)による触媒活性挙動の違いや、メタン分解時に生じる炭素体の役割について明らかにすることができた。特に第2成分の添加により低マイクロ波出力(200W)でも70mol%以上の水素収率を達成した。メタン分解炭素の応用技術に関しては、メタン分解炭素の精製手法として超音波と磁性を組み合わせた処理が有効であることを突き止めた。さらに電極材への応用として粉末体の粒径と電気応答性に関係性を見出した。以上により水素製造と機能性炭素製造の両面で実用化に向けた検証ができた。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、300W以下のレベルで水素収率70mol%以上の活性を持つ触媒と生成炭素の精製法に関する技術は評価できる。一方、技術移転の観点からは、限定環境下とはなるが計画中の連携先との共同での実用化などが望まれる。今後は、多目的な研究開発となっているので、それらの目的と研究開発課題に優先順位を付けると共に、定量的な開発目標を設定して、より体系的で具体的な成果を生む出すことが期待される。
湿式粉砕法を用いた青果物用機能性リサイクル緩衝材の開発 あいち産業科学技術総合センター
阿部祥忠
あいち産業科学技術総合センター
中莖秀夫
青果物包装においては、エチレンによる化学的損傷を抑制するための鮮度保持包材と物理的損傷を抑制するための緩衝材が同時に使用されていることが多い。本研究では、湿式ボールミルを用いてパルプの解繊と吸着剤(ゼオライト、活性炭)の粉砕を同時に行い成型することで、エチレン吸着剤を複合化したパルプモールドを作製した。エチレン吸着性能評価により、Si/Al比が高い疎水性ゼオライトや活性炭を用いることで、パルプモールドにエチレン吸着能を付与できることが明らかとなった。また、吸着剤を複合化したカップ状パルプモールドを作製し落錘試験機による動的圧縮特性評価を行うことで、本法により作製したパルプモールドは緩衝材としての機能を有することを確認した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、湿式ボールミルで調製・加工後に成型したモールドの緩衝材としての力学的特性について体系的・定量的データを得たことについては評価できる。一方、湿式工程を経た吸着材自体の特性とその変化、緩衝材への吸着材の担持量とエチレンの吸着能、吸着速度などの定量的データ取得に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、先行する競合資材に対して、古紙とモールドとエチレン除去の組合せをアピールできる製品を展開されることが望まれる。
イカ墨色素とカビ産生色素を用いた共増感型色素増感太陽電池の開発 函館工業高等専門学校
上野孝
国立高等専門学校機構 産学官連携コーディネータ(北海道地区担当),
鴨田秀一
イカ墨色素を用いて色素の吸着効率を改善するチタニア多孔質体の開発を行った。チタニアペーストと精製イカ墨懸濁液を様々な割合で混合し、イカ墨混練チタニアペーストを調製した。そのチタニア電極基板から作製した色素増感太陽電池による、I-V曲線と光電変換効率の測定を行った。その結果、チタニアペーストとイカ墨懸濁液の割合が8:2のとき、光電変換効率が最も高くなることが明らかになった。
チタニア電極への色素の吸着挙動を解明する研究を行った。水晶振動子マイクロバランス法(QCM)を用いて、液相でイカ墨色素粒子のチタニア多孔質体への吸着過程をリアルタイムで定量的に測定した。その結果、チタニア多孔質体の膜厚とイカ墨色素粒子の吸着量に相関があることが明らかとなった。
以上の研究成果は、異なるバイオマス色素を利用する色素増感太陽電池の開発に必要な知見を見いだし、今後のさらなる研究の展開に貢献できると思われる。
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもチタニアペーストと精製イカ墨懸濁液により光電変換効率の向上を行っている技術については評価できる。一方、当初目的であるイカ墨色素とカビ産生色素を用いての光電変換効率についての技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、多くの課題に同時に取り組まれているので課題の優先順位を決めて、段階的に研究を推進されることが望まれる。
渦電流式センサを利用する海水淡水化システム用水質検査装置の開発 信州大学
曽根原誠
海水淡水化プラント用の水質検査は様々あるが処理された水のイオン濃度(主はNa+、Cl-で塩分濃度)の測定が最重要である。現状では、液中にセンサ部を浸して液体の導電率を測定しているが、電極部の腐食で測定精度が悪くなり、また衛生面が問題である。そこで電磁気的手法を用いた非接触型塩分濃度計を提案し、開発した。本センサは、励磁用コイル内に8字型検出コイルを置き、励磁コイルに流れる高周波交流の電圧波形と8字型検出コイルで生じる誘導起電力の電圧波形を位相検波回路に接続された構成で、位相差を測定する。流速0.1 m/sの流水において、淡水目安の塩分濃度約0.05 %と0.1 %以上で位相差が0.2o、センサ出力で2 mVの差が得られ、当初目標を満足し、実用化の可能性が示された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、高周波電源と励磁コイルからなる電子回路で、インラインで流水中の塩分濃度が測定できる点は評価できる。一方、技術移転の観点からは、企業との共同研究により,本成果の製品化展開を促進することが望まれる。今後は、優位性の高い技術なので、国内外に広く応用展開されることが期待される。
(Ba,Sr)(Co,Fe)O3を基材とした高信頼性・高性能な固体酸化物形燃料電池用空気極の開発 東北大学
中村崇司
東北大学
柿崎慎也
本研究では、固体酸化物形燃料電池用空気極(Ba,Sr)(Co,Fe)O3系材料に対する高価数カチオンのドーピングによる化学的安定性向上効果を実電極設計に反映することを目的としている。Sb、NbおよびPをBサイドにドープし、化学的安定性の向上および電極性能との両立ついて検討した。(Ba,Sr)(Co,Fe)O3材料に対する化学的安定性向上についてはSbドープが最も効果的であることを見出した。また本研究で検討した高価数元素の中では、10 mol%のSbドープが(Ba,Sr)(Co,Fe)O3系材料の電極特性を維持しつつ、化学的安定性を向上に効果的であることを見出した。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも従来の一般的な固体酸化物形燃料電池用(La,Sr)(Co,Fe)O3系空気極の課題である熱的・化学的安定性に対し、(Ba,Sr)(Co,Fe)O3系材料への高価数元素の添加による改善の手法を見出したことについては評価できる。
一方、得られた高価数元素添加やその高価数元素種の違いによる熱的・化学的安定性改善効果の差異などに関する科学的な知見の構築が必要と思われる。このための基礎検討やデータの積み上げなどが望まれる。
今後は、本研究の進展により高効率な分散型エネルギー変換デバイスである固体酸化物形燃料電池の更なる性能や安定性の向上への貢献を期待したい。
品質が異なる一般廃棄物溶融スラグ細骨材を用いて製造されるコンクリート二次製品の実用化技術の開発 茨城大学
沼尾達弥
茨城大学
太田秀夫
一般廃棄物溶融スラグ(以下、SLとする)は、一般廃棄物処理施設により品質が異なるため、JISに準じたSL細骨材を用いてもコンクリートの性状に影響を及ぼす場合がある。そこで本研究では、6種類のSLスラグ細骨材を対象に、水酸化カルシウム飽和溶液およびコンクリートスラッジ水による改質処理を施し、改質処理によるSL細骨材およびコンクリートの特性の改善効果を検証した。その結果、改質処理前ではSL細骨材を用いた膨張率およびコンクリートの圧縮強度に大きな差違があったものの、改質処理後ではSL細骨材による発泡が抑制され、膨張率は減少するとともにコンクリートの密度および圧縮強度は増加し、SL細骨材の種類による差異は小さくなった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、一般廃棄物処理施設から発生する実際の溶融スラグを、コンクリート二次製品工場で発生する高アルカリ性排水の利用を想定した独自の前処理法により、コンクリート用細骨材としての利用の可能性を示したことに関しては評価できる。
一方、技術移転の観点からは、一般廃棄物溶融スラグを細骨材として用いた本コンクリートの長期にわたる強度等の性能の経時観察を行うととともに、コンクリート関連企業や行政との実用化に向けた産学官が連携した取組みが望まれる。
本研究は、一般廃棄物の溶融スラグの再資源化に取組むもので社会的意義も大きく、今後の進展による実用化が期待される。
スマートハウス向け太陽光発電&蓄電システム用双方向コンバータの開発 神戸市立工業高等専門学校
茂木進一
公益財団法人新産業創造研究機構
伊賀友樹
主回路パッシブ部品の最適化,半導体スイッチングデバイスの損失検討,交流電源電圧歪みの検討を計算機シミュレーション中心に行った.各検討・最適化における計算機シミュレーションの構築とコントローラへの実装に時間を要し,試作機の作製に至らなかったため,試作機による実機実験は行うことができなかったが,計算機シミュレーション結果から各パッシブ部品の最適値,スイッチング損失が最大で1/2にできるのに対してコンダクション損失は変化がないこと,交流電源電圧歪みによる問題は無いことを確認した.また,提案している双方向コンバータのパッシブ部品,制御・変調方法の最適化によって高効率な動作が可能であることが分かった. 当初目標とした成果が得られていない。中でも単相昇降圧形双方向PWMコンバータを提案し,シミュレーションによりその機能を示しているが、実機での検証に至っておらず継続して技術的検討や評価が必要である。今後は、研究開発の阻害要因として,最適化シミュレーション,制御プログラムの実装に時間を要したとあるが,実証機についても技術課題と対策を明確にされたうえでの進行が望まれる。
持続可能な化成品工業生産を目指す水溶性青色色素グリーン酸化製造触媒の開発 大阪府立大学
小川昭弥
大阪府立大学
上田卓司
本研究ではマラカイトグリーン(トリアリールメタン)系青色色素について、将来持続可能な有害金属を用いない環境にやさしい酸化的製造法を確立した。本研究の開始時点での問題は、目的物の生成収率が低いこと、および目的化合物が反応系中において過剰酸化により分解していくことに大きな課題があった。これら諸問題を改善するために、目的化合物、および同様の基本構造を有するアミン誘導体について、触媒、および酸化剤の組み合わせを中心に種々の実験を行うことにより、本反応系の酸化機構について詳細に検討した。その結果、適切な酸化反応条件下において、高収率、高純度で目的の青色色素を合成することが可能となった。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、狙いの酸素酸化ではないが、マラカイト系化合物(アリールアミン)の水系での酸化反応で、クロムなどの有害金属を用いることなく目標に近い収率の達成するなどの技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、複核錯体触媒の検討などによる触媒量低減や収率向上などでの実用化が望まれる。今後は、スケールを上げた検討を早い段階で行うことにより、工業化に向けた検討課題を具体的に把握されることが期待される。
コムギの超迅速育種法(コムギ版バイオトロンブリーディング法)の確立 横浜市立大学
木下哲
横浜市立大学
福島英明
これまでに確立したイネにおけるバイオトロンブリーディング法(特開 2012-187063, Ohnishi et al, Plant & Cell Physiology, 2011)などを活用して、コムギ稔実率向上のための栽培条件を決定するとともに、コムギにおける年4世代の超迅速育種法を確立した。イネでは人工気象器内での育成であったが、コムギではさらに様々なパラメーターを吟味し、屋内でのLED培養棚を用いた栽培系を構築した。実験系統ではBob Whiteが、栽培系統では春よ恋が室内栽培に適しており、適正条件では65-70日で開花する。人工交配後胚救済することにより年4世代の戻し交配が可能である。本研究開発で得られた迅速育種法ならびに、人工気象器を要しない屋内栽培系のノウハウにより、穀物工場への道筋が確立された。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、従来法よりも短期間である、年4世代のコムギ育種法を確立した技術に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、年6世代の目標が未達成に終わった理由の解明に基づく更なる改良検討と対象品種の拡大などでの実用化が望まれる。今後は、特許出願と併せて、企業が穀物工場の実現に前向きになるような具体的な栽培条件などの根拠データを学術論文などで提示されることが期待される。
CO2排出量ゼロ以下の環境再生材料の開発 広島大学
日比野忠史
CO2の固定を合理的に行う手法について検討し,固定量を数値化できた.さらに,CO2固定量を増加するための造粒法を開発した.
これらに加えて,本研究ではCO2の排出原因である有機物の循環を焦点にして沿岸域を汚染する有機物を浄化することで得られるCO2の固定の考え方についても検討した.
CO2の固定方法として直接固定と有機物の腐植化促進の2つの方法を検討している.本研究では主に有機物の腐植化を促進する環境修復材(石炭灰造粒物)自身が持つCO2固定能力を実験的に確認した.この結果,現造粒物に使用するセメントの製造に必要とするCO2と同程度のCO2固定があること,セメントをスラグに変えることにより0.1 CO2g/kgのCO2の固定が可能になることを明らかにした.スラグ混合石炭灰造粒物を環境材料として用いることで現造粒物を超える量のCO2固定が可能になる.
当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、環境修復材(石炭灰造粒物)へのCO2固定の方法と固定量を明らかにしたことや製造時に必要なセメント使用量を大幅に削減した結果、総合的にCO2排出量削減の可能性を示したことは評価できる。
一方、技術移転に関しては、関連する企業と連携し環境修復材としての性能確認やフライアッシュや鉄鋼スラグ等の原料ロット間変動の性能に及ぼす影響などの確認などの技術データの蓄積等が必要と思われる。また、本環境修復材のCO2低減効果や環境修復能などの有用性、経済的指標、競合技術に対する優位性などを、わかり易く利用者の自治体等の理解が得られるよう紹介する活動が望まれる。
今後は、本研究が進展し環境に貢献する技術として実用化されることが望まれる。
窒化物半導体ナノ構造中のホットキャリアを利用する新型太陽電池に関する研究 埼玉大学
八木修平
埼玉大学
北島恒之
窒化物半導体のホットキャリア太陽電池としての特性を評価することを目的に、MBE法による試料作製と時間分解分光測定によるキャリアダイナミクスの評価、InN/GaNナノ構造を用いた共鳴トンネル構造の作製技術の開発および電気特性評価を行った。InN中のキャリア熱緩和寿命の増大や、InNナノ結晶の共鳴トンネル構造における電流ピークを観測したことから、ホットキャリア型太陽電池を構成するホットキャリア発生層やエネルギー選択性コンタクトを実現できる材料としての可能性を示した。今後は更なる結晶成長技術の高度化を進めるとともに、発電動作させるための実用的な構造を検討していく。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でもホットキャリア太陽電池の構成要素であるホットキャリア発生層やエネルギー選択性コンタクトの可能性が示されたことについては評価できる。
一方、物性評価などの基礎研究を進めるとともに、ホットキャリア太陽電池としての具体的な構造検討と動作実証など技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
今後は、本研究の太陽電池構造の検討に際しては、企業との産学連携による効率的な研究開発が望まれる。
セルロース誘導制御因子の機能を利用したセルラーゼ高生産糸状菌の創製 大阪府立大学
谷修治
大阪府立大学
鈍寳宗彦
本研究開発では,セルロース系バイオマス分解酵素遺伝子の制御因子の高発現株および破壊株を作出することにより,エンドグルカナーゼおよびキシラナーゼ生産量を改善することを目指した.制御因子遺伝子の高発現あるいは破壊を組み合わせることにより,cbhI遺伝子, cmc2遺伝子,およびxynIb遺伝子の発現が,それぞれ10倍,22倍,12倍亢進することを見出した.一方で,作出した株におけるエンドグルカナーゼ生産量およびキシラナーゼ生産量はコントロール株と比べてそれぞれ2.4倍, 2.2倍の増加にとどまった.遺伝子発現の亢進が必ずしも酵素高生産に繋がっておらず,今後は培養条件の検討も含めて酵素生産技術の開発を行う必要がある. 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、セルロース分解のためのエンドグルカナーゼ、キシラナーゼの生産に関与していると考えられるclbR1とclbR2の二重破壊株などの解析により、それらの機能が必ずしも同一ではないことを明らかにしたことについては評価できる。一方、clbR1、 clbR2、 ManR以外に存在が明らかになった、セルロース分解酵素の生産誘導に関わる未知の因子の探索を行うなど、新たな酵素高生産系の構築に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。今後は、遺伝子の高発現が当該酵素の高生産につながる制御系の機能解明を進められることも望まれる。
紫外線を用いた格子投影法による大型構造物の3次元形状計測 摂南大学
岸本直子
摂南大学
鈴木茂夫
本研究は,構造物表面に紫外線 を反射あるい吸収す塗料使って描た格子パターンを,カメラを使って撮影し,その格子位相解析によって構造物の形状を高精度計測するための原理を検証する研究である.研究開発期間内の最大の目標は,紫外線カメラで十分なダイナミックレンジを有する格子画像が取得できるかであったが,市販の産業用紫外線カメラ(150万画素)を使ってこの目標が達成された.十分なダイナミックレンジを有する格子画像が撮影できば,大型構造物の3次元形状計測そのものの手法は,可視光領域の通常のデジタルカメラと全く同じであるので、可視光領域のカメラを使って,構造物に描いた格子パターンから変位分布とひずみを求める手法ならびに撮影領域を結合させて計測精度を維持したまま計測空間を拡張する手法の検証を実施した. 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、紫外線カメラを使って構造物表面に紫外線を反射あるいは吸収する塗料で描いた格子パターンを撮影し、従来と同程度のダイナミックレンジを有する画像を得ている点ついて評価できる。一方、従来に勝るダイナミックレンジの画像を実現や大型構造物への適用の可能性に向けた、技術的検討やデータの積み上げなどが望まれる。今後は、実用化に向けて適切な塗料と塗り方を含めた技術開発が期待される。
ゼオライト/カルシウム化合物を用いた代替フロン類の反応・分解剤の開発およびF資源の再利用技術の開発 関西大学
荒木貞夫
関西大学
石井裕
CF4等の代替フロン類のCaOを用いた反応・分解剤の開発と反応後に得られるCaF2からのF資源再生技術の開発を行った。分解・反応剤ではこれまで開発を行ってきたMOR型ゼオライト/CaOを上回る反応・分解剤の開発を目標に研究・開発を行った。当初予定したゼオライトの微細化,酸強度の高いFER型ゼオライトでは所期の性能は得られなかったが,アルミナを担体とした金属担持アルミナ/CaOは,従来の性能を上回る反応・分解剤を上回る性能が得られることを見出した。また,反応後のMOR/CaO分解・反応剤中のCaF2をフッ素基準で100%の転化率および80%の収率でフッ酸を回収できることを見出した。本申請によって,CF4の分解とF資源の再利用可能なHFの回収が可能であることが実証された。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、パーフルオロメタン(CF4)分解とその反応回収物のCaF2を活用したHF生成までのプロセスを確認するとともに、CF4分解CaF2生成の反応剤の要件を明らかにしたことについては評価できる。
一方、技術移転の観点からは、さらなるCF4分解の反応剤の反応率や寿命などの更なる性能の向上、新たに見出した金属担持アルミナの役割の明確化等の技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
今後は、温暖化ガスである代替フロン類の分解とリサイクル技術として本研究の進展が期待される。
大気汚染ガス分解のための多孔質・多層構造シェルからなるナノカプセル触媒微粒子 東京工業大学
北本仁孝
東京工業大学
林ゆう子
窒素酸化物を無害なN2ガスへと選択的に還元することが可能な光触媒粒子として、p型Fe3+ドープTiO2ナノ粒子、及びCu-Ptナノ粒子をそれぞれ酸化、還元反応助触媒として担持し、n型TiO2多孔質ナノカプセルを骨格とした、Fe3+ドープTiO2@TiO2@CuPtという三層構造ナノカプセルの作製を目的とした。酸化チタン層はチタンアルコキシドを用いたゾルゲル法によりアモルファスで形成した後に、熱処理によりアナターゼ相に結晶化させた。光触媒カプセルの骨格となる多孔質n型酸化チタン層は結晶化の後、エタノール中での300~400℃での超臨界流体熱処理により多孔質シェル構造の機械的強度を向上させた。その上に、窒素酸化物還元の助触媒となるCu-Ptナノ粒子をポリオール法により形成した。得られた三層構造ナノカプセルによるNO3-イオンに対する分解能の促進が確認されたことから、水による窒素の酸化抑制効果及び環境中でのNOxに対する選択的なN2への還元に対する効果を得たと考えている。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、予定とは異なる組成ではあるが、金属層/p型半導体層/n型半導体層からなる多孔質ナノカプセルを作製し、予備的ではあるが水系の反応に供したことは評価できる。一方、技術移転の観点からは、気相NOxの光還元分解での触媒性能をまず評価すると共に、形状選択性や吸着特性のユニークさを明らかにし、それらに基づく性能の優位性を示すことが望まれる。また、実用化ターゲットの一つとする自動車排ガス浄化用触媒については、光触媒反応に必要な紫外線源などを考慮し、ターゲットも再検討されることが期待される。
セルフクリーニング機能を備えた高性能ヨウ素吸着繊維の開発 山口大学
中山雅晴
山口大学
森健太郎
市販の導電性炭素繊維を活性化処理した後,ピリジニウム系界面活性剤の分子集積層と二酸化マンガン層からなる交互積層ナノハイブリッドを電析させることによって,水中のヨウ化物イオン(I-)を選択的に吸着できる新規機能性繊維を作製した。吸着後の繊維にアノード電位を印加するとI-は分子ヨウ素(I2)として放出され,層構造は初期状態に戻ることを見いだした(=セルフクリーニング)。この新規材料を海水や産業廃水からのヨウ素資源回収,あるいは放射性ヨウ素除去に役立てることを目ざし,実用化の推進に必要な基礎データを得た。具体的な課題として,①吸着過程の迅速化,②選択性の評価,③吸・脱着繰返し性の向上に取り組んだ。 当初期待していた成果までは得られなかったが、技術移転につながる可能性は一定程度高まった。中でも、界面活性剤の分子集積層と二酸化マンガン層を表面に形成した炭素繊維をが、海水成分を調整した水溶液でヨウ素の吸着が妨害されないことや電気化学的に再生できることを確認したことについては評価できる。
一方、吸着容量の増大と見かけの吸着速度のさらなる向上に向けた技術的検討やデータの積み上げなどが必要と思われる。
今後は、他の技術と比較し、再生可能な吸着分離材料としての本技術の優位性が活かせる分野にて実用化されることが望まれる。
ラグスクリューボルトの中・大規模木質構造建築への利用拡大を目指した、多様な木質材料を接合対象とした引抜き性能等の実験的評価 京都大学
小松幸平
京都大学
喜多山篤
本研究では、階高3.76m、梁間12.9m、桁行方向にスパン8mの集成材ラーメンが繰返し入る3階建て木造校舎を想定し、建物が建築基準法を満たすように接合システムを開発した。接合部は、鋼製連結金物を介してラグスクリューボルトで木質部材と連結され、通常の荷重レベルでは殆ど変形せず、大地震の際には連結金物が変形し、過剰な力が木質部材に流れない仕組みである。JMA-Kobe波を用いた応答計算の結果、建物の最大層間変形角は1/30rad以下に、木質部材の最大応力度も許容値以下に収まった。本接合システムは、スギ集成材、スギ直交積層材、カラマツ単板積層材、スギ製材の4種類の木質材料に対して安全に適用可能である。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、引き抜き試験で実施された木質繊維方向の「平行」への結果は、利用拡大が予想されるCLT材について、所要の引き抜き耐力等、美観向上を要求される大断面木造建築へ導入された場合の必要強度が見出せた点が評価できる。一方、技術移転の観点からは、LSB接合部の初期剛性・最大耐力を理論式で導出できることが確認されており、技術的にはほぼ確立していることから、地震被害による損傷を受けた建物の改修を容易とするなどでの実用化が望まれる。今後は、本成果を確かなものとするためにも未達成部分を網羅した解析によるフォローアップが期待される。
ハイブリッド垂直軸風車のブレード動作機構の研究 立命館大学
吉岡修哉
立命館大学
近藤光行
本研究開発は、我々が進めているハイブリッド垂直軸風車の研究開発の一部分である。我々はこれまでに、風車ブレードの断面形状に独自の「勾玉型」形状を採用することで、抗力型風車並みの起動性能と揚力型風車並みの回転性能を両立させるハイブリッド垂直軸風車が実現することを明らかにした。
ただし、本ハイブリッド垂直軸風車を実用化するには、回転数に応じて勾玉型ブレードのローターへの設置角度を変更する必要がある。本研究開発では、この設置角度を、風車回転数に応じて変更する動作機構を開発した。開発した動作機構は、回転数に応じて変化する遠心力を利用する。そのため、外部動力を利用せずに自律的に、ローター回転数の変化に応じて最適な角度に設置角度を変化させることができる。
概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に抗力型から揚力型への変換で、ブレードの回転数が上昇し、2モードの十分な変換効果得られていることや屋外実験で、15m/s程度の風速で3kwhの発電量を達成しているなどの技術的実績に関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、潮風の影響、弱風から強風までの耐久実験を屋外で実施した実績や、風速の時間的な変化が激しい場所にも適用できる利点を持っているなどでの構造上からも実用化が望まれる。今後は、引張バネの正確な制御が必要であり材質、形状、耐蝕等の処理を検討されることが期待される。
気泡駆動型水平両方向対応ヒートパイプBACHの無動力熱輸送技術の確立 福井大学
永井二郎
浅層地中熱の有効利用を念頭に、水平方向左右いずれにも熱輸送可能な気泡駆動型循環式ヒートパイプBACHの基本特性を把握することを目指した。従来のヒートパイプでは長距離の水平方向ではドライアウト等の課題があるが、BACHは傾斜角度10°以上であれば良好な熱輸送が期待できる。そこで、8の字型のループ形状によりBACHを構成し、ドライアウトを防ぐ工夫を施した「水平両方向対応BACH」装置を考案・製作した。ポリカーボネート製BACH配管接続部分の不具合により、期間中に内部流動可視化や熱輸送特性把握は出来なかった。今後装置の不具合を解消し、水平両方向対応BACHの基本特性を把握し事業展開を図る予定である。 当初目標とした成果が得られていない。中でも装置の完成までには至っておらず、当初目標とした作動状態の確認、熱輸送の確認、熱輸送量評価法把握は達成されていないので、これらのデータを取得した上での技術的検討や評価が必要である。今後は、まず装置の完成が必要であり、また、実験装置で発生したトラブルは今後の実用化段階でも同様に発生する可能性があり、企業とともに実機の構想図を作成し、それをもとに、実験装置を考えることが望まれる。
新原理による超高速電力用半導体ウェーハ品質評価技術の研究 九州工業大学
金田寛
九州工業大学
荻原康幸
我々が実証した新原理を用いて,全く新しいシリコンウェーハのバルクキャリア寿命評価技術の実用化を目指す.本技術では,定常赤外レーザ励起によってウェーハ内部に発生させた自由キャリアの濃度分布をもう一つの赤外レーザビームの屈折を通して計測する.本研究開発では,この技術開発の中で最も重要となる次の5個の目標を設定した.(1) 画像素子で検出されるレーザビーム屈折を観測量として明確に定義し,数値化する.(2) キャリア寿命のデータ1個を一秒以内の装置動作で取得可能にする.(3)屈折角分解能として1.3×10-5ラジアンを実現する.(4)フォトルミネッセンス強度分布観測機能を付加する.これらの目標は,研究実施期間終了までにほぼ完全にクリアされた.(5)知的財産権確保の目標については,元特許の外国出願によって達成された.実用化に向けた次の技術移転ステージに進むための目標を抽出し,明確化できた. 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、新原理による超高速電力用半導体ウェーハ品質評価をほぼ達成できたことに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、実用化のための技術課題を克服するために、さらなる産学連携による技術レベルの向上を図ることが望まれる。今後は、本研究で明らかになった、屈折角評価の高精度化などの技術的課題を、引き続いて解決されることを期待する。
リン酸化酵母によるレアメタル・レアアースの効率的な回収技術の開発 大阪市立大学
東雅之
大阪市立大学
渡辺敏郎
都市鉱山に眠る金属類の回収を目的に、酵母を用いて生物吸着材料の開発を進めた。先行研究では、トリメタリン酸Naを用いた細胞壁のリン酸化により、金属吸着能が高まることを見いだしてきた。本研究では、リン酸化酵母作製法の再検討やレアメタルに対する吸着能の評価などを進めた。レアメタル7種類全てにおいて、リン酸化修飾により顕著に吸着能が上昇した。また、塩酸濃度の調整によりコモンメタルとの混合溶液からレアメタルを選択的に吸着できた。さらに、リン酸化剤としてヘキサメタリン酸Naの使用も可能であった。パン酵母だけでなく種々の酵母で作製したリン酸化酵母においても、全て高い吸着能を有することが分かった。今後実用化に向け企業と連携し実廃液からの回収を進めたい。 概ね期待通りの成果が得られ、技術移転につながる可能性が高まった。特に、レアメタル7種の吸着・濃縮と回収において化学的にリン酸修飾した酵母の有用可能性を検証したことに関しては評価できる。一方、技術移転の観点からは、吸着した金属の脱離条件の最適化やレアメタル混合溶液からの選択性の向上については混合組成に基づいた酸濃度条件の最適化などでの実用化が望まれる。今後は、企業や業種を念頭に置き、対象とする廃液をより具体化し、それら廃液のモデル溶液について従来の吸着材料とも比較しながら検討を行うと共に、酵母表面の修飾機構や三次元空孔材料と言う観点から吸着挙動について考察されることが期待される。

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