研究主幹(PO)紹介
研究主幹(PO : Program Officer)
研究領域の責任者であって、研究課題の選定、研究計画の調整と承認、課題評価等の研究マネジメントを行います。
大阪大学 産業科学研究所 教授 八木 康史
- 1985年
- 大阪大学大学院基礎工学研究科修士課程修了後、三菱電機(株)応用機器研究所/産業システム研究所、大阪大学基礎工学部
- 2003年
- 大阪大学産業科学研究所教授
- 2012年
- 同研究所長
- 2015年~2019年
- 大阪大学理事・副学長(研究、産学共創、図書館担当)
JST創発的研究支援事業プログラムオフィサー、AMED臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究事業プログラムオフィサー
コンピュータビジョン、パターン認識、ロボットビジョンの研究、並びに、パーソナルデータのデータ流通に関する研究・社会実装に従事
- 情報処理学会フェロー
- 2014年科学技術分野の文部科学大臣表彰となる科学技術賞の研究部門で「歩容映像解析とその科学捜査利用に関する研究」受賞
ASPIREで担当する分野について
GAFAMの時価総額が東証一部上場企業の合計時価総額を抜きましたが、AI・情報分野において、日本がプレゼンスを上げていくことは容易なことではありません。ChatGPT、Stable Diffusionといった生成系AIの展開により、猛烈なスピードで研究が推進されています。生成系AIだけでなく、機械学習全般においてデータの価値が飛躍的に増大し、国家レベルでのデータ戦略がますます重視される時代となっています。
国際ネットワークを形成することで世界のデファクトとなり、研究分野を牽引するためには、多面的研究戦略を持つ必要があります。即ち、AI・情報分野では独創的アルゴリズムの創出だけでなく、世界の研究者が活用したくなるようなデータベース・プラットフォームなどの構築、国際普及を通じて国際的ネットワークを強化し、分野を牽引していただきたい。
ASPIREで研究者に期待すること
ASPIREの目的は我が国における科学技術力の維持・向上であり、その手段として、国際共同研究を通じた国際頭脳循環、国際ネットワーク構築、そして、世界をリードする人材の育成が求められています。前述のように、AI・情報分野ではデータベースやプラットフォームなどが世界から研究者を呼びこむ手段でもあるため、TOP研究者には、それらの手段を駆使して分野を牽引する国際ネットワークづくり、科学技術力の維持・向上への貢献を期待します。
早稲田大学 先進理工学部生命医科学科 教授 竹山 春子
- 1992年
- 東京農工大学大学院工学研究科生物工学科修了、博士(工学)号取得
マイアミ大学海洋研究所研究員、東京農工大学助教、准教授、教授 - 2007年
- 早稲田大学先進理工学部生命医科学科教授
- 2009年
- 早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構規範科学統合研究所所長
- 2016年
- 産業技術総合研究所・早稲田大学生体システムビッグデータ解析オープンイノベーションラボラトリラボ長を兼任
- 2019年~2022年
- 日本学術振興会学術システム研究センター農学・環境班主任研究員
- 2020年
- 内閣府ムーンショット目標5のプロジェクトマネージャー
- 2021年
- マリンバイオテクノロジー学会 学会賞受賞
- 2021年
- 日本生物工学会功績賞受賞
- 2023年
- 文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)受賞
ASPIREで担当する分野について
バイオは非常に広い分野です。最近では情報、AI技術を駆使したビックデータ解析によって新たな知見を得ることが可能になってきました。さまざまな生体情報と分子生物学的技術を駆使したEngineering Biologyが進展しているように、バイオ研究は大きく変わろうとしています。このような中において持続可能、循環型のバイオエコノミー社会を実現するには、融合分野で成り立つバイオの発展は必須です。そして、国際共同下での研究推進とその加速が求められており、推進するための優秀な人材の確保、育成が不可欠です。
募集は国際的トップ水準の研究者や研究チームだけでなく、まだ研究室の規模は小さいものの、今後、発展することが期待される次世代研究者の提案も受けつけています。ユニークな育成環境を提供し、研究を発展させることのできる提案を求めます。
ASPIREで研究者に期待すること
本事業の趣旨は若手の研究者、大学院生を国際環境の現場で育成し、科学技術の推進に貢献してもらうことです。特にトップクラスの研究者におけるネットワーク内で研鑽を積み、さらにはインクルーシブな研究環境で国際感覚を身につけ、日本における学術環境の向上に貢献してほしいと考えます。そのために、研究代表者にはトップクラスの研究ネットワーキングを構築するとともに次世代人材の育成に責任を持ち、その成果を見える化してほしいと思います。
また、カウンターパートの研究機関に人材を派遣するだけでなく、双方向での人材循環を通じて成果を積み上げることを期待します。ステレオタイプの人材育成から脱却した新たな次世代トップ研究者における育成のアイデアに期待します。
大阪大学大学院情報科学研究科バイオ情報工学専攻 教授 清水 浩
- 1989年
- 京都大学大学院工学研究科化学工学専攻博士後期課程単位取得退学
(1990年京都大学工学博士) - 1990年
- 大阪大学工学部助手
- 1995年
- 大阪大学大学院工学研究科助教授
- 1996年~1997年
- 米国 マサチューセッツ工科大学(MIT) 化学工学科 客員研究員
- 2003年
- 大阪大学大学院情報科学研究科教授
- 1997年
- 日本生物工学会 生物工学奨励賞(生物化学工学部門)
- 2002年
- バイオインダストリー協会 発酵と代謝奨励賞
- 2018年
- 日本生物工学会 生物工学功績賞
代謝工学、バイオテクノロジー、生物化学工学、生物情報工学の研究に従事
ASPIREで担当する分野について
生物機能の応用は、分子生物学技術などの革新に伴って大きく拡大してきています。エンジニアリングバイオロジーは、デザインに基づく細胞の改良、細胞解析、データサイエンスなどの情報技術が統合されることによって大きく発展することが期待されています。細胞や生命システムをエンジニアリングすることによって、持続可能な社会形成へのモノづくり、ヒトと人工物との調和、生体および環境と生命の関わりの理解に基づく新しい生命システムの再デザインなど、多くの分野において新たな視点で基盤が構築されると考えられます。
エンジニアリングバイオロジーの国際ネットワークを形成することで、生命の営みを理解し、細胞に望ましい形質を賦与することで持続可能な社会に貢献するテクノロジー創出が加速することを期待します。
ASPIREで研究者に期待すること
ASPIREバイオ分野で2024年度に実施する日英共同公募、及び米国等との共同公募では、エンジニアリングバイオロジーのトップコミュニティの研究者が国際ネットワークに参画し、最先端の共同研究を実施することで国際頭脳循環を加速することが望まれています。その中で、特に、若手研究者が中心となって国際ネットワークの中で共同研究を推進することで、若手研究者の実践的育成、ネットワークの持続的形成を期待しています。
地球規模の課題対応に向けてエンジニアリングバイオロジーは大きな期待が寄せられている分野であり、ASPIREを通じて次世代を担う若手研究者の育成を含めて、本分野の国際ネットワークの中での持続的な発展の土台が形成されていくことを期待します。
東京工業大学 科学技術創成研究院全固体電池研究センター センター長 特命教授 菅野 了次
- 大阪大学理学研究科修士課程を修了後、三重大学工学部、神戸大学理学部
- 2000年東京工業大学大学院総合理工学研究科教授 現在東京工業大学 科学技術創成研究院 全固体電池センター長 特命教授
- 固体電池センター長 特命教授
- フランス政府給費留学生やパリ大学招聘教授、文部省在外研究員として、フランスやアメリカ、イギリスでの研究を経験
- 専門は固体化学、電気化学、蓄電池やエネルギー変換材料の研究で、特に電解液の特性に匹敵する固体電解質の探索と、全固体電池の研究を進める
- 市村学術賞、電気化学会武井賞、文部科学大臣科学技術賞などを受賞
ASPIREで担当する分野について
エネルギー分野は、カーボンニュートラルに向けた社会的要請から、成果が期待される分野です。基礎研究から実用を目指した技術開発、さらに産業化への道筋は見えやすいのですが、競争が激しい分野でもあります。基礎研究に携わる研究者の方々は、研究の実務において競争領域と協調領域との棲み分けに悩みながらも、強力に研究を推進されていると思います。重要な研究は国内でできると考えて研究環境を整えてこられたトップ研究者の方々も、国内外のさまざまな研究機関での経験が現在の研究に生かされていると感じているのではないでしょうか。
個人の研究の個性はさまざまな国で繰り広げられる研究のお国柄の違いを肌で感じてこそ花開くものですし、さらには研究グループの特色となります。研究者の循環の場を、ぜひ形成していただきたくお願いいたします。
ASPIREで研究者に期待すること
優れた研究の実務は日本国内でもできます。これは先人たちの努力の賜物で、現在の日本の研究環境は世界中のどこにも負けないものです。しかし、個々の研究者がさまざまな国のさまざまな機関で大活躍している研究者と直接接触して、個性的な研究を生みだす背景を身に染みて感じ、学んで初めて、これが日本の研究であるという日本の研究者の個性を発揮することができると信じています。
このプログラムでは直接的に研究を推進する(ことは当然ですが)ことより、研究推進に関わる、その周辺の多くの事象を学ぶ機会として最大限に利用、活用していただきたいと願います。
理化学研究所 創発物性科学研究センター 副センター長 相田 卓三
- 1984年
- 東京大学大学院工学系研究科にて学位を取得後、同大学工学部助手、講師、助教授
- 1996年
- 教授に就任、JST PRESTO研究員、JST ERATO/ERATO-SORST研究総括、理化学研究所フロンティア研究システムディレクターを経て、
- 2013年
- 同所創発物性科学研究センター副センター長としてソフトマテリアルに関する研究を牽引
- 2022年
- 東京大学卓越教授に就任
- 米国化学会賞、学士院賞など多くの国内外の賞を受賞
- 米国芸術科学アカデミー会員、全米工学アカデミー会員、オランダ芸術科学アカデミー会員、花王エグゼクティブフェロー
ASPIREで担当する分野について
物質化学及びマテリアルサイエンス部門を担当します。日本の強みである物質化学・マテリアルサイエンスを一段と高いレベルにまで押し上げるべく、独創的で卓越した物性や機能を有し、「それらにしかできない著しい特徴」を有する革新的物質、材料に注目しています。
ASPIREで研究者に期待すること
世界の舞台に立ち、国際共同研究を通じて革新的研究を非線形に進歩させるとともに、若手頭脳循環のハブとして、志の高い博士課程学生やスタッフを共同研究先に中長期間滞在させ、世界の舞台で活躍する力量のある博士研究者を育成するための戦略を有する提案に注目しています。
社会実装に迎合した「1+2=3」的アイデア消費型提案ではなく、新学理を構築するアイデア創成型提案を歓迎したいと思います。
立命館大学 大学院 理工学研究科 客員教授 川上 則雄
- 1986年
- 大阪大学大学院工学研究科博士課程を中退後、同研究科応用物理学専攻助手、
京都大学基礎物理学研究所助教授、大阪大学工学研究科教授、京都大学理学研究科教授 - 2023年
- 定年退職(京都大学名誉教授/大阪大学名誉教授)
- 現在は立命館大学客員教授、大阪大学招聘教授として研究を継続中
- 専門は量子物質などを対象とする凝縮系の物理で、主に量子多体現象の理論研究
- 2015年~2019年科研費新学術領域研究「トポロジカル物質科学」の領域代表者
- 仁科記念賞、日本IBM科学賞などを受賞
ASPIREで担当する分野について
近年、量子に関わる研究の重要性が急速に増しています。一言に量子分野といっても、その内容は多岐にわたっており、超高速・超並列の処理を可能とする量子情報技術や既存の精度を凌駕する量子計測技術の開発、革新的な機能を有する量子物質の開拓などがあります。この分野での世界的競争も年とともに激しさを増しています。
私が主として得意とするのは量子物質ですが、近年携わっている量子開放系の研究は量子情報や量子計測の基礎に深く関わるものです。量子分野全体をうまくカバーできるように、それぞれの強みを持つ専門家にアドバイザーとして参加していただき、このプログラムの良さを最大限に引きだせるよう支援していきたいと思っています。
ASPIREで研究者に期待すること
科学技術に関わる最先端研究を加速することで国際競争力を強化し、さらに次世代を担う優秀な研究者を育成するためには、国際的な場で優れた研究者たちと交流し、共同研究を進めることが重要です。量子情報、量子計測、量子物質などに関する研究は、生産性革命の実現や国民の安全・安心の確保にとって大変重要となる分野です。特に、次世代を担う若手研究者の活躍がこの分野の未来の鍵を握っていると思います。
ASPIREは国際共同研究を通じて我が国と関連国のトップ研究者を結びつけ、頭脳循環を加速することを目指すものであるため、このプログラムをフルに活用することで、世界の研究を牽引できる優秀な研究者を育成していただけることを期待しています。
東京大学 特任研究員 天野 英晴
- 1986年
- 慶應義塾大学理工学部修了、工学博士
- 1985年
- 慶應義塾大学理工学部に勤務
- 2001年
- 教授(1989年Stanford大学に在籍)
- 2024年
- 東京大学 特任研究員
- 並列コンピュータアーキテクチャ、リコンフィギャラブルシステムの研究を深め、数多くのコンピュータ関連のチップとシステムを開発
- 情報処理学会論文賞、電子情報通信学会論文賞などを受賞
ASPIREで担当する分野について
現在、国は半導体ファブを強化すべく資金を投入していますが、ベースとなる新しい半導体チップ、新しいアーキテクチャ、設計技術、低消費電力技術、アナログ・ディジタル回路技術といった幅広いハードウェア技術、これを支えるソフトウェアを含めたシステム技術がなければ、せっかくのファブも製品に結びつけることができません。さらに半導体チップ設計、システム開発の魅力をアピールして若手人材を呼びこみ、育成するのが急務です。
最近の情勢を追い風にし、半導体関連技術を広く活性化していきましょう。
ASPIREで研究者に期待すること
若者に半導体チップ設計の人気がないのは、動かないと数千万円を失うリスクの中でチップを動かした際の歓喜を味わうために、テープアウト前の徹夜を繰りかえしてきた我々が悪いのです。いま深く反省しています。シリコンバレーに行って、さまざまな人種、出身、背景を持った技術者、研究者と共同で研究し、共同でシステムを開発すれば、半導体チップ設計者が素晴らしい待遇を受けており、創造的な時間を過ごしつつチップを開発し、しかし動いたときの喜びは変わらないことがわかるでしょう。GAFAが自らどんどんチップを開発する時代になっています。とにかく行って一緒に開発してみましょう。ASPIREはこれを可能にしてくれます。
慶應義塾大学 新川崎タウンキャンパス 特任教授 山中 直明
- 1983年
- 慶應義塾大学大学院修士課程
同年日本電信電話株式会社(現NTT)入社、以来、NTTネットワークサービスシステム研究所特別研究員として、将来の高速・広帯域ネットワークの研究開発に従事 - 2000年
- 米国電気学会IEEEにおいて、当時日本人最年少Fellow
- 2004年
- 慶應義塾大学理工学部情報工学専修教授
- 2018年~2022年
- 慶應義塾先端科学技術研究センター所長等を歴任、工学博士
- 2024年
- 慶應義塾大学 新川崎タウンキャンパス 特任教授
- 1990年、1994年、1998年IEEE ECTC Best Paper Award、1995年IEEE Trans. on CPMT Best Paper Award、2015年電子情報通信学会業績賞、2018年同功績賞、電子情報通信学会副会長、学術会議連携会員等を歴任
- 現在、電子情報通信学会次期会長、Photonic Internet Lab.代表、IEEEフェロー、IEICEフェロー、情報処理学会シニアメンバー、電気学会会員
ASPIREで担当する分野について
インターネット、ワイヤレス通信、光ネットワークからクラウド、IoT、デジタルツインといった通信分野は進化が激しいのみならず、基礎的研究からビジネスまでの時間が極めて短い、アクティブな分野です。また、デバイスからシステム、ネットワーク、サービスと縦に、アカデミックから企業、ビジネスと横に、強く連携を必要としています。
内閣府の定める日本の強化分野7項目にも入る、社会や経済に対するインパクトの極めて大きい分野で、過去5年間で情報通信のGDPは50%伸びたともいわれています。日本のみで使うようなかつてのガラパゴス技術ではなく、グローバルソリューションとして国際連携を強く求め、チームでグローバル研究を行い、論文発表のみではなく、標準化やコンソーシアムといったことが極めて重要な分野です。
ASPIREで研究者に期待すること
私がPO(プログラムオフィサー)となった際に、JSTの記者会見でお話しした内容を記します。わが師、福沢諭吉は“Society(社会)”を“人間交際(じんかんこうさい)”と日本語訳しました。これは、社会とは鉄道や道路といったインフラや経済(お金)のみではなく、人と人とがつながり、考え、協調して暮らすことであるという意味です。さらに、交際の拡大が知徳の発達をもたらし、交際を改良するプロセスを文明の発達であると考えています。
つまり、本プロジェクトはグローバルな「集団知」獲得へのチャレンジです。通信を研究している方は、「世界に広がること」が成功であることを十分お分かりだと思います。単に海外に行く機会を増やすだけでなく、ネットワークを作り、トップサークルに入る。いいえ、ある分野のトップサークルを作ることをお願いしたいと思います。