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小学生の母語の発達的変化を脳波による追跡調査で解明
―基本単語の脳内処理は7才を過ぎてもスピードアップする―

平成23年1月31日

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首都大学東京 大学院人文科学研究科 萩原 裕子 教授の研究グループは、7才と9才の小学生の脳波を計測し、それぞれのグループを3年間追跡調査した結果から、母語における非常に基本的な単語でさえ、7才を過ぎても処理の速さに変化がみられることを明らかにしました。

単語の理解は、私たち、人間のコミュニケーションにおいて最も重要な行為の1つですが、その発達的変化についてはあまり知られていませんでした。従来の研究では、母語の基本的な単語の処理は7才頃にはすでに完成していると言われていましたが、今回、時間的な分析に優れた脳波で調べたところ、7才を過ぎても処理スピードが向上し、発達し続けていることが分かりました。この結果は、学童期における言語発達の基礎資料となるもので、小学校における国語教育や、言葉の発達・学習障害の支援への貢献が期待されます。

この研究は、JST 社会技術研究開発事業 「脳科学と社会」研究開発領域 研究開発プログラム「脳科学と教育」(タイプ II)の研究開発プロジェクト「言語の発達・脳の成長・言語教育に関する統合的研究」(平成16年12月〜平成21年11月)の一環として行われました。この研究成果は、2011年1月12日(英国 現地時間)に国際科学誌「Neuropsychologia(ニューロサイコロジア)」のオンライン版で公開されました。

<研究の背景>

母語の基本的な能力は、小学校入学前にすでに身につけていると言われています。入学した時点では3000語から6000語の単語を理解し、基本的な文法は使いこなせます。入学後は、より複雑な文法を習得するとともに、より高度な語彙を獲得していきます。そのような中で、基本的な単語の処理は7才位で完成していると考えられていました。しかし従来の研究では、質問紙への回答や課題に対するボタン押しでの回答といった間接的な方法で単語処理の反応時間を計っていたために、それに要する正確な時間が分かりませんでした。そこで今回、私たちは、ミリ秒毎にリアルタイムで直接的に脳の反応速度を測ることができる「事象関連電位(Event−related potentials,ERPs)」という手法により調べました。

<研究の内容>

7才と9才の日本人小学生それぞれ40人を3年間追跡調査し、未就学児でもよく知っている「いぬ」、「くるま」、「やま」などの基本的な単語を処理するときの脳波を分析しました。小学生にはモニターの前に座って絵が映し出される画面を見ながら、スピーカーから聞こえてくる単語を聴いてもらいました。絵と単語は一致している場合と一致していない場合がありました。

その結果、1年目で7才だったグループでは、2年後の9才になった時点では、脳の反応速度(不一致に気づき始めたタイミング)が70ミリ秒ほど早くなっていました。しかし同じ2年間でも、1年目に9才だったグループでは、2年後の11才になってもこのような時間的変化は見られませんでした。また、両グループともに9才以降で示した反応速度は、大人を対象に同じ課題で行った時のものとほぼ同じでした。このことから、基本的な単語の処理は7才を過ぎても発達し続け、9才頃に定着することが明らかになりました。

これにより、単語を習得していく過程で、脳の反応がスピードアップする時期があること、母語の基本的な単語でさえ定着するのにはある程度の年月が必要なことが分かりました。単語より難しい文章を理解する場合の脳反応は、さらに遅い年齢まで変化し続けることが予測されます。

<研究の社会的意義>

子どもたちは、小学校に入学する前は、家庭や幼稚園などの環境で主に話し言葉を身につけますが、公教育が始まると書き言葉である文字を学び、言語は学習の手段となります。今回の結果は、母語の脳内における発達的変化を同一グループの縦断的調査により捉えた初めての研究で、学童期における言語発達の基礎資料となるものです。このような研究は、小学校における国語教育や、言葉の発達・学習障害の支援への貢献が期待されます。

<参考図>

図1

図1 日本語の基本的な単語を小学生が聞いた時の脳波(事象関連脳電位)反応

モニター画面に写っている絵と聴こえる単語が一致している場合(一致条件)とそうでない場合(不一致条件)の波形が分岐し始めるタイミング(開始潜時)を単語処理の時間的な指標にした。7才グループの場合(図1左上)、脳波のP2と呼ばれる成分では2つの条件に差はなく、P2の後ろのN200から分かれているが、2年後に9才になった時には(図1左下)P2の時点ですでに違いが見られる。これは別の9才グループの1年目と同じ傾向である(図1右上)。9才グループの2年後である11才の時点では、9才から特に変化は見られなかった(図1右下)。

図2

図2 頭皮上の電極位置における開始潜時

頭皮上の代表的な電極の位置における開始潜時では、7才グループの1年目とそれ以外とで差が見られる。

<論文名および著者名>

“The acceleration of spoken-word processing in children's native-language acquisition: An ERP cohort study”
(子供の母語獲得における聴いた単語の処理の加速化:事象関連電位によるコホート研究)
Shiro Ojima, Hiroko Matsuba-Kurita, Naoko Nakamura, Hiroko Hagiwara

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

萩原 裕子(ハギワラ ヒロコ)
首都大学東京 大学院人文科学研究科 言語科学教室 教授
Tel:042-677-2217 Fax:042-677-2950
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

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