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量子ゆらぎ電流で1分子の識別に成功
―1分子解析技術の新原理―

平成22年12月16日

国立大学法人 大阪大学
Tel:06-6879-7017(広報・社学連携事務室)

独立行政法人 科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報ポータル部)

【ポイント】

国立大学法人 大阪大学(鷲田 清一 総長)は、電流計測から得られるノイズ解析の手法により、電極に接続されている1分子の識別に世界で初めて成功しました。これは、大阪大学産業科学研究所 川合最先端プロジェクトの筒井 真楠 研究員と川合 知二 特任教授、大阪大学産業科学研究所 ナノテクノロジーセンターの谷口 正輝 准教授の共同研究の成果です。

電気計測による1分子解析技術は、ウイルスやDNAなどの生体分子を超高速・超低コスト・超ハイスループットで検出・識別を実現する高いポテンシャルを持っており、安心・安全・健康社会を実現する新技術として期待されています。

一般的に、電流計測で得られるノイズは計測対象の特性を不明瞭にするため、電流ノイズは除去される邪魔者となります。しかし、共同グループは、ナノスケールの電極間距離を持つナノギャップ電極注1)に1分子が接合された1分子接合(図1)で得られる電流ノイズに、分子の種類を識別する情報が隠れていることを発見し、電流ノイズから1分子を識別する情報を取り出すことに成功しました(図2)。

本手法は、電気計測による新しい1分子解析技術の新原理となり、1分子センサーデバイスや1分子デバイスの診断技術への応用が期待されます。

研究成果は、2010年12月14日(英国時間、日本時間:2010年12月15日)に英国科学雑誌「Nature Communications」のオンライン速報版で公開されました。

<背景>

ゲノム診断に基づく創薬や個別化医療を実現するためには、シーケンスのロングリード、ハイスピード、低コスト、ハイスループットな第三世代DNAシーケンサーの開発が強く求められ、米国の国立衛生研究所の先導のもと、$1000ゲノムプロジェクト注2)が米国の総力を挙げて実施されています。第三世代DNAシーケンサーを実現するカギは、多分子から1分子、光計測から電気計測へのパラダイムシフトと考えられています。研究グループは、世界に先駆け、トンネル電流計測による1分子識別に成功し、第三世代DNAシーケンサーのコア技術を実証しています。現在、この量子力学に立脚した1分子識別技術の基礎科学の早期確立とともに、新原理に基づく1分子解析技術の開発が強く求められています。

<研究手法と成果>

本共同グループは、微細加工技術で作製した金属細線を3点曲げの要領で破断するナノ加工機械的破断接合法を開発し、単分子接合の電気伝導をはじめとする単分子物性研究を展開してきました。さらに、この破断接合法を用いて、DNAを構成する塩基分子の1分子識別に成功しています。特に、単分子物性研究では、非弾性トンネル分光による単分子接合の分子種の識別と、単分子接合が保持される時間から単分子接合の局所温度計測に成功し、単分子接合で発熱が生じることを明らかにしています。非弾性トンネル分光は、電子が分子振動と相互作用するときに電流が増加する現象を利用した電気計測による分子振動を調べる分光法です。この分光法は、「電流が増加する電圧=分子振動エネルギー」の関係から1分子の振動を調べることができます。

今回、電流が増加する電圧が、発熱が生じる電圧と同じであることを見出しました。1分子接合で発生した熱は、分子を通過する電子と分子振動にゆらぎを生じさせます。その結果、この電圧で、電子と分子振動相互作用を介した量子ゆらぎが生じ、電流にノイズが発生すると期待されます。そこで、1分子接合の外部からくる熱ノイズの影響を取り除くため、4.2Kの極低温で、1分子接合の電流−電圧特性を精密に計測し、電流ノイズ成分を解析しました。その結果、電流ノイズが生じる電圧が、発熱が生じる電圧と同じであり、「電流が増加する電圧=発熱が生じる電圧=電流ノイズが生じる電圧」であることを実証しました。この電圧関係の発見により、量子ゆらぎ電流注3)による1分子の識別に世界で初めて成功しました。

<社会に与える影響>

本研究成果は、直流の電流計測を行い、ノイズ解析をするだけで、電極に接続されている分子の種類を識別できることを実証しました。この新しい原理に基づく1分子解析技術は、1分子センサーの開発や分子デバイスをはじめとするナノデバイスの診断ツールへと展開することが期待されます。

<今後の展開>

新しい1分子解析技術へと発展させるため、低温から室温付近までの広い温度領域で、1分子識別の可能性を探っていきます。また、単分子接合に他の1分子が吸着すると、単分子接合の電子状態と振動状態が変化するため、大きな量子ゆらぎ電流ノイズの変化が期待されます。この原理の実証を行い、1分子センサーの実現を目指します。

本研究は、日本学術振興会の最先端研究開発支援プログラムにより、助成を受けたものです。

<参考図>

図1

図1 1分子接合の概念図

図2

図2 電流ノイズスペクトル

赤矢印は、1分子の分子振動エネルギーを表す。

<用語解説>

注1) ナノギャップ電極
電極間距離がnmオーダーの電極。
注2) $1000ゲノムプロジェクト
ヒトゲノムの全配列の解読を1000ドルで行うこと。ゲノム情報の創薬研究や個別化医療に応用されることが期待されている。
注3) 量子ゆらぎ電流
量子力学的な不確定性に由来して、ある一定値を示さない電流。

<掲載雑誌名、論文名および著者名>

Nature Communications
“Single-molecule identification via electric current noise”
(電流ノイズによる1分子識別)
Makusu Tsutsui, Masateru Taniguchi, and Tomoji Kawai

<お問い合わせ先>

<研究内容に関すること>

川合 知二(カワイ トモジ)
大阪大学産業科学研究所 川合最先端プロジェクト 特任教授
Tel:06-6879-8446 Fax:06-6875-2440
E-mail:
URL:http://www-kawai.sanken.osaka-u.ac.jp/

谷口 正輝(タニグチ マサテル)
大阪大学産業科学研究所 ナノテクノロジーセンター 准教授
Tel:06-6879-4289 Fax:06-6875-2440
E-mail:
URL:http://www-kawai.sanken.osaka-u.ac.jp/

<研究支援に関すること>

国立大学法人 大阪大学 研究推進部 大型教育研究プロジェクト支援事務室
Tel:06-6879-4741
E-mail:

<JSTの研究支援に関するお問い合わせ>

金子 博之(カネコ ヒロユキ)
独立行政法人 科学技術振興機構 イノベーション推進本部 研究プロジェクト推進部
Tel:03-3512-3528 Fax:03-3222-2068
E-mail: