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リウマチ関節炎・多発性硬化症治療薬開発につながる
人工RNA分子・RNAアプタマーの開発に成功

平成22年10月28日

科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報ポータル部)

東京大学
Tel:03-5449-5601(医科学研究所 総務課)

JST 課題解決型基礎研究の一環として、東京大学医科学研究所の中村 義一 教授と石黒 亮 特任助教らの研究グループはインターロイキン17(IL−17)と呼ばれるたんぱく質と結合し、その生理活性を抑える人工的なリボ核酸(RNA)分子の開発に成功しました。

IL−17は体内で造られるたんぱく質で白血球などから分泌されますが、過剰に分泌されると、本来外からの異物を排除する免疫システムが自分自身を攻撃し、リウマチ関節炎や多発性硬化症などの自己免疫疾患を引き起こすことがあります。

本研究グループは、長年標的たんぱく質と結合するRNA分子の研究に取り組み、病気の原因となっているさまざまなたんぱく質に結合するRNA分子を人工的に作る技術開発を進めていました。この分子は「RNAアプタマー」といい、特定の分子のみを標的とする新しい医薬(分子標的医薬)として近い将来、多くの治療薬に用いられると考えられています。

今回作製に成功したIL−17に対するアプタマーは、リウマチなどの自己免疫疾患に対する画期的なRNA新薬開発に貢献するものと期待されます。

本研究成果は、2010年10月21日(米国東部時間)に米国リウマチ学会誌「Arthritis & Rheumatism」のオンライン速報版で公開されました。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域 「生命現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術」
(研究総括:柳田 敏雄 大阪大学 大学院生命機能研究科 教授)
研究課題名 「多目的RNAナノセンサー・モジュレーターの開発」
研究代表者 中村 義一(東京大学医科学研究所 基礎医科学部門 遺伝子動態分野 教授)
研究期間 平成17年10月〜平成23年3月

JSTはこの領域で、生命系科学技術の発展の原動力である未解明の生命現象の解析に資する新たな計測・分析に関する基盤的な技術の創出を目指しています。

<研究の背景と経緯>

自己免疫疾患とは、自己が持つ生体成分を異物として認識し、自己の生体成分に反応するリンパ球や抗体が自己の身体を攻撃する病気です。自己免疫疾患には慢性関節リウマチ注1)や全身性エリテマトーデスなどの膠原病、I型糖尿病、多発性硬化症注2)などが知られていますが、発症メカニズムや病態悪化要因についてはいまだ不明な部分が多いとされています。それ故、これら自己免疫疾患に対する治療薬の開発競争は世界規模で行われているにも関わらず、いまだ決定的な治療薬は開発されていません。

近年、T細胞の一種であるTh17細胞が生産するIL−17と呼ばれるたんぱく質が炎症性疾患の発症や細菌感染防御において重要な働きをすることが明らかになってきました(図1)。IL−17は慢性関節リウマチ、多発性硬化症、気管支喘息、炎症性腸疾患などの発症に関与することが予想されており、IL−17の機能を阻害することができれば病態進行の抑制、もしくは治療薬になることが期待されています。

RNAアプタマーとは標的たんぱく質と特異的に結合するRNA分子を指し、人工的に作られます。RNAを材料にした医薬品としては1980年代より研究が開始された「アンチセンスRNA」や、今世紀に入って研究が開始されたRNA干渉を利用したRNA医薬「siRNA」が知られていますが、それらは細胞内に導入しないと効果を発揮できません。一方RNAアプタマーは、細胞の外側にあるたんぱく質やその受容体を標的にできるのでより医薬として利用しやすく(図2)、化学合成で大量生産可能、免疫排除が生じにくい、抗体を凌ぐ結合力と特異性などの利点があります。この分子標的医薬は、抗体に代わる次世代の医薬として期待されています。

<研究の内容>

本研究グループは初めに、精製されたIL−17と結合するRNA分子の候補を試験管内人工進化法で選抜しました。この手法はさまざまなバリエーションのRNA分子を標的のたんぱく質と何度も結合→解離→増幅→再結合を繰り返すことで、より強く結合するRNA分子のみをまさに“進化”させる技術です。この方法はSELEX法と呼ばれ、魚釣りに似た方法です(図3)。まず、AUGCの4種類の塩基がランダムに並んだRNA分子のプール(「釣り堀」)を作製します。この釣り堀には、さまざまな配列のRNAが含まれます。そして、この釣り堀に標的となるたんぱく質を「餌」にして、結合するRNAを釣り上げ、これを増幅して2回目のプールを作製、釣りを繰り返します。このサイクルを十数回行うことによって、最終的に標的たんぱく質に強く特異的に結合するアプタマーを選択することができるという仕掛けです。この技術は、「釣り」に、餌の選定から「ひき」のタイミングを熟知する魚釣り名人がいるごとく、高度な熟練・創意工夫・忍耐を必要とする職人芸に近いものです。中村教授らは、これまで多くの標的たんぱく質を「餌」にして「釣り」に励み、人・技・ノウハウを育成した、アプタマー「釣り名人」です。

今回の成果も、その1つで、多数の候補の中から、IL−17の生理活性をより強く抑え、同時に副作用の少ない候補を、結合実験や細胞試験(図4)で選抜して、医薬品としての候補を見いだしました。

今回、得られたRNAアプタマーは、体内でより機能しやすいように特殊な修飾を加えて加工され、モデルマウスを用いた実験に用いられました。ヒト多発性硬化症のモデルマウスを用いた実験では、開発したRNAアプタマーの投与で、病気の発症が強く抑えられ、発症した少数のマウスでも、極めて軽微な症状であることが分りました(図5)。また、リウマチ関節炎のモデルマウスでも、発症の抑制と軽微な症状が観察され(図6)、発症後に投与した場合には早期回復が確認されました(図7)。このことは今回開発したRNAアプタマーがIL−17の過剰な生理活性を抑制した結果、炎症を抑えたと考えられます。

<今後の展開>

自己免疫疾患は世界的にみても患者数が多く、重要な疾患となっています。今回開発したアプタマーは、マウスを用いた実験でその有効性が示唆されたことから、今後本格的な医薬開発が行われるものと期待されます。

<参考図>

図1

図1 抗インターロイキンRNAアプタマーの作用機序

過剰なIL−17の発現で、細胞表面の受容体にIL−17が結合すると、炎症性因子の発現を誘導するシグナル経路が活性化します。RNAアプタマーはIL−17に取り付き、受容体との結合を阻害するため、炎症は誘導されません。

図2

図2 核酸医薬品の作用機序

図3

図3 アプタマーを釣り上げるSELEX法の原理

図4

図4 細胞刺激試験

細胞をIL−17で刺激すると、炎症性のサイトカインであるインターロイキン6(IL−6)を産生しますが、RNAアプタマーを加えるとIL−6の産生量がRNAアプタマーの濃度に依存して抑えられます。10nM以上の濃度で加えた場合は、IL−6の産生はほとんど検出されませんでした。

図5

図5 ヒト多発性硬化症モデルマウスでみたRNAアプタマーの効能

マウスにミエリンオリゴ糖たんぱく質を免疫することで、ヒト多発性硬化症とよく似た症状を起こすことができます。RNAアプタマーは、この症状の発症を強く抑制することが分りました。写真の左は発症したマウスの脊髄組織の拡大写真です。多くの脱随(泡様に空洞ができた部分)が確認できますが、RNAアプタマーを投与したマウス(写真右)では見られません。

図6

図6 関節炎モデルマウスでみたRNAアプタマーの効能(1)

マウスにGPI(グルコース6リン酸異性化酵素というたんぱく質)を免疫することで、ヒトのリウマチ関節炎に似た症状を起こすことができます。免疫後からRNAアプタマーを投与すると、関節炎の発症および症状が抑えられることが分りました。

図7

図7 関節炎モデルマウスでみたRNAアプタマーの効能(2)

同じく、関節炎モデルマウスですが、関節炎の発症後(↓部分)からRNAアプタマーを投与した場合のグラフです。投与により、早い症状の回復が確認されました。これにより、開発したRNAアプタマーは治癒効果も高いことが明らかとなりました。

<用語解説>

注1) 関節リウマチ
関節痛や関節の変形をもたらす炎症性の自己免疫疾患。
注2) 多発性硬化症
有髄神経を取り巻く髄鞘という組織が失われる(脱随)疾患。脳や中枢神経が炎症により脱随し、しびれや運動障害がみられる。

<論文名>

“Therapeutic Potential of Anti-Interleukin-17A Aptamer: Suppression of IL-17A Signaling and Attenuation of Autoimmunity in Mouse Models.”
(インターロイキン17に対するアプタマー医薬の開発:IL-17シグナルの抑制と自己免疫疾患モデルマウスでの薬効)

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

中村 義一(ナカムラ ヨシカズ)
東京大学医科学研究所 基礎医科学部門 遺伝子動態分野 教授
〒108-8639 東京都港区白金台4−6−1
Tel:03-5449-5307 Fax:03-5449-5415
E-mail:

石黒 亨(イシグロ アキラ)
東京大学医科学研究所 基礎医科学部門 遺伝子動態分野 特任助教
〒108-8639 東京都港区白金台4−6−1
Tel:03-5449-5324 Fax:03-5449-5415
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

長田 直樹(ナガタ ナオキ)
科学技術振興機構 イノベーション推進本部 研究領域総合運営部
〒102-0075 東京都千代田区三番町5 三番町ビル
Tel:03-3512-3524 Fax:03-3222-2064
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